本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本願発明者らが種々検討を行うことによって得た知見について説明する。
上述したように、本願発明者らは、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、窒化物半導体基板の成長主面とすることにより、EL発光パターンの輝点状化を抑制することが可能であることを見出した。
一方、本願発明者らが、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて、その成長主面上に、GaN層を1μm程度の厚みで形成したところ、面内の層厚分布が非常に悪化することが分かった。このときの層厚分布は、a軸方向にオフ角度を有さないm面GaN基板上にGaN層を1μm程度の厚みで形成した場合の層厚分布と比べても、非常に悪いものであった。このように、基板と同じ組成のGaN層を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などのエピタキシャル成長法を用いて、基板上に形成した場合に、面内で大きな層厚分布を引き起こすという現象は、非常に特異な現象であると考えられる。
図24は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にGaN層を1μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図24は、成長主面上に、GaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。図24に示すように、半導体層の層表面には、a軸方向と平行方向に、非常に強い波状の凹凸が見られる。また、図24の窒化物半導体層には、200nm〜400nm程度の層厚の分布があり、このような層厚分布の均一性が損なわれた半導体層では、素子を形成することは非常に困難となる。
これまで、一般的には、基板と同じ組成の半導体層を、基板表面(成長主面)に接するように形成することで、層表面の平坦性および半導体層の結晶性を向上させ、その上に素子を形成することが行われている。たとえば、基板がGaN基板であれば、まず、GaN層が基板上に形成される。これにより、基板の組成と、基板表面(成長主面)に形成される半導体層(GaN層)の組成とが同じになるために、格子定数差や熱膨張係数差などがなく、歪みの発生が抑制される。そして、このようにすることによって、平坦性が高く、結晶性の良い半導体層を形成できることが知られている。実際に、c面を成長主面とする窒化物半導体基板(たとえば、c面GaN基板)を用いて、その成長主面上に結晶成長を行う場合には、通常、上記のようなことが行われている。そして、この場合(c面GaN基板上にGaN層を形成する場合)には、非常に綺麗な表面モフォロジーが得られる。これが通常の現象であると考えられる。
しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板に関しては、上述のように、上記構成を適用することによって、表面モフォロジーが悪化することが今回初めて分かった。
そこで、本願発明者らが鋭意検討を行った結果、表面モフォロジーの悪化には、GaN層の層厚が関与していることを見出した。すなわち、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板では、1μm程度の厚みを有するGaNの厚膜を成膜することで、著しく表面モフォロジーが悪化し、図24に示すような特異な表面モフォロジーになってしまうことが、本検討の結果、分かった。
また、本願発明者らは、成長主面上に形成されたGaN層のトータル層厚が大きくなればなるほど、表面モフォロジーが悪化することも見出した。なお、上記トータル層厚とは、GaN層が1層の場合は、そのGaN層の層厚を意味し、GaN層が複数層の場合には、複数のGaN層の層厚を累積した(合計した)層厚を意味する。そのため、活性層を形成するまでに層厚の大きいGaN層を形成すると、表面モフォロジーが悪化し、その悪化した層の表面上に活性層を形成すると、活性層が悪化した表面モフォロジーの影響を受けて、面内において、In組成の多い領域とIn組成の少ない領域とに分かれてしまう。これにより、組成の面内分布が発生することが分かった。また、活性層の組成の面内分布だけでなく、活性層の結晶性も劣化するためか、発光強度も低下することが分かった。
そして、上記知見をもとに、本願発明者らがさらに検討を重ねた結果、基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることで、表面モフォロジーを劇的に改善することが可能であることを見出した。また、基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚は、0.5μm以下であればより好ましく、0.3μm以下であればさらに好ましいことも見出した。
また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて窒化物半導体素子を形成する場合には、活性層を形成するまでに、出来るだけGaN層を形成しないことが好ましいことも明らかとなった。
このように、GaN層のトータル層厚を0.7μm以下とする上記条件を満足するように、窒化物半導体層を形成することで、表面モフォロジーが改善され、層表面を平坦化することが可能となる。そして、その平坦化した層の表面上に、活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)を形成することによって、In組成の面内分布を抑制し、発光効率を改善することが可能となる。
なお、発光効率を改善するという観点からは、基板とInを含む窒化物半導体層である井戸層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とするのが好ましい。たとえば、活性層の障壁層がGaN層の場合、井戸層よりも基板側に位置する障壁層を含めて、GaN層のトータル層厚を0.7μm以下とするのが好ましい。また、井戸層が複数層形成されている場合には、最も基板側の井戸層と窒化物半導体基板との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることもできるし、他の井戸層と窒化物半導体基板との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることもできる。
図25は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にGaN層を0.1μm程度の厚みで形成した後、GaN層上にAlGaN層を0.9μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図25は、成長主面上にGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。また、AlGaN層の組成は、Al0.05Ga0.95Nである。さらに、図25では、GaN層とAlGaN層との合計厚みを1μm程度とすることで、GaN層とAlGaN層との合計厚みが、図24のGaN層の層厚と同じになるように構成している。すなわち、図25では、層厚1μm程度のGaN層を形成する代わりに、層厚0.1μm程度のGaN層と層厚0.9μm程度のAlGaN層とを形成している。
図25に示すように、層厚0.1μm程度のGaN層を形成した場合の表面モフォロジーは非常に良好であり、図24に示した層厚1μm程度のGaN層を形成した場合に比べて、層表面の平坦性が著しく向上していることが分かる。このように、GaN層の層厚が厚くなるにともない、表面モフォロジーが悪化してくる。これに対し、GaN層の層厚を薄くすることで、表面モフォロジーの悪化が抑制される。また、GaNの厚膜を形成することにより、表面モフォロジーが悪化してしまうと、その後、AlGaN層を形成した場合でも、一度崩れた表面モフォロジーはあまり改善されず、積層される半導体層の層厚が増加するにしたがい、表面モフォロジーが悪化することも分かった。
また、今回の検討により、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いる場合には、成長主面と接する半導体層を、InyGa1-yN(0<y≦1)、AlxGa1-xN(0<x≦1)またはAlaInbGacN(a+b+c=1)から構成するのが好ましいことも分かった。
InyGa1-yN(0<y≦1)の場合には、表面モフォロジーをより良好に保つための条件として、0<y≦0.1がより好ましく、窒化物半導体基板の成長主面と接する層の層厚としては、0.7μm以下がより好ましい。成長主面と接する半導体をInGaNとした場合には、成長温度が700℃〜900℃程度の低温で成膜する。m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いる場合には、成膜前の基板温度の昇温で、1100℃程度を超えるような温度にあげた場合、炉内の雰囲気(ガス流量、圧力などの条件)により、成長前に基板表面からN(窒素)やGa(ガリウム)が蒸発して、基板の表面あれを起こすことがある。この表面あれは、900℃以下の基板温度では、起こらないことが分かった。このためInGaNは低温(700℃〜900℃程度)で成膜することができるため、基板表面の表面あれを効果的に抑制することができるので好ましい。
また、AlaInbGacN(a+b+c=1、0<a≦1、0<b≦1、0≦c<1)の場合も、Inが含まれる場合は、低温成膜が可能となるため、InGaNの場合と同様の効果が得られる。また、この場合においても、基板の成長主面と接する層の層厚としては、0.7μm以下であるのがより好ましく、Al組成比aが0<a≦0.1で、かつ、In組成比bが0<b≦0.1であれば表面モフォロジーの観点でより好ましい。つまり、AlとInを含む窒化物半導体層を成長主面に接する半導体層として用いた場合、低温の成長において、平坦性の高い膜を形成しやすいという観点でより好ましい。
なお、この場合においても、上述のように、基板と活性層(井戸層)との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とするのが好ましい。
図26は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にAlGaN層を0.2μm程度の厚みで形成した後、AlGaN層上にGaN層を0.9μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図26は、成長主面上にAlGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。また、AlGaN層の組成は、Al0.05Ga0.95Nである。
成長主面と接する半導体層をAlGaN層とすることにより、AlGaN層では、良好な表面モフォロジーが得られる。しかしながら、AlGaN層上に0.7μmを超える0.9μm程度の層厚のGaN層を形成することにより、図26に示すように、表面モフォロジーが悪化する。すなわち、基板とGaN層との間に、AlGaN層(Al0.05Ga0.95N層)を0.2μm程度の厚みで形成しても、GaN層の厚みが大きければ、表面モフォロジーが悪化することが分かった。
また、複数のGaN層の間に、AlGaN層などを形成した場合(たとえば、GaN層/AlGaN層/GaN層/AlGaN層の4層構造)でも、GaN層のトータル層厚が0.7μmより大きくなると表面モフォロジーが悪化することも分かった。たとえば、基板の成長主面上に、GaN層を1μm程度の層厚で形成し、その後、AlGaN層(たとえば、Al0.05Ga0.95N層)を1μm程度の層厚で形成した場合でも、GaN層を形成することによって悪化した表面モフォロジーは回復せず、図24と同様の表面モフォロジーとなった。
結果として、基板上に(基板と活性層(井戸層)との間に)形成されたGaN層のトータル層厚により、表面モフォロジーが決定されるため、活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)を形成するまでに、GaN層のトータル層厚が大きくなり過ぎるのを抑制する必要があることが本検討により分かった。
なお、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いる場合には、基板上に積層される層構造(発光素子の層構造)の中にできるだけGaN層を含まないように構成するのが好ましいが、光閉じ込めなどを行うために、光ガイド層としてGaN層を用いることも可能である。また、非常に薄いGaN層をAlGaNや、AlInGaN、InGaNとの超格子状(AlGaN/GaN/AlGaN/GaN・・・・、AlInGaN/GaN/AlInGaN/GaN・・・・、InGaN/GaN/InGaN/GaN・・・・など)に形成することで、表面モフォロジーの悪化を抑制しながら、GaNのトータル層厚を厚くすることができる。そして、上記超格子構造を、光ガイド層、光クラッド層として用いることができる。上記構造を用いることで、薄膜のGaN層を用いて、比較的良好な層を形成することができる。この場合の超格子構造に用いられる薄膜のGaN層の層厚は、1nm以上50nm以下が特に好ましい。ただし、この場合でも、基板と活性層(井戸層)との間に形成されるGaN層のトータル層厚は、0.7μm以下に抑えることが必要である。
また、特性の優れた発光素子または電子デバイスを得るためには、上述したように、基板上に積層される層構造にGaN層を含まず、これらの層構造を、InGaN、AlGaN、InAlGaN、InAlNなどのGaNとは異なる組成の半導体層で構成するのが好ましい。
さらに、今回の検討により、AlまたはInを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)では、GaN層と異なり、1μmを超える層厚で形成した場合でも、表面モフォロジーの悪化が抑制されることが分かった。このため、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて、LD構造を作製する場合、光クラッド層として、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層などの、Alを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。もしくはAlとInとを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。また、光ガイド層として、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層などのInを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。
無極性面の窒化物半導体基板を用いた場合、活性層の障壁層にAlを含む窒化物半導体層、もしくはAlとInとを含む窒化物半導体層を用いる場合は、活性層の歪を緩和する、ダークラインの発生を抑制するなどの目的から、光クラッド層として、AlInGaN層、AlInN層などの、AlとInとを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。また、光ガイド層として、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層などのInを含む窒化物半導体層、もしくはAlとInを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。もちろん、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた場合においても上記と同様のことが言える。
図27は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上に、Al組成比が5%のAlGaN層を2μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図27は、成長主面上にAlGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。図27に示すように、Alを含む窒化物半導体層を厚膜で形成した場合の表面モフォロジーは非常に良好であることが分かる。これより、AlまたはInを含む窒化物半導体層を厚膜で形成した場合でも、表面モフォロジーの悪化が抑制されることが分かった。
参考のために、m面に対してc軸方向に+0.5度のオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にAlGaN層を1μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真を図28に示す。また、m面に対してc軸方向に+0.5度のオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にGaN層を1μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真を図29に示す。図28は、成長主面上にAlGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示しており、図29は、成長主面上にGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。
図28および図29に示すように、いずれも、表面モフォロジーは悪く、両者で大きな変化は見られない。通常は、このように、GaN層を形成した場合(GaN層始まりの場合)と、AlGaN層を形成した場合(AlGaN層始まりの場合)とで、その表面モフォロジーに大きな差はない。このため、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板は、上記のような特異な現象を示すことが分かった。
以上より、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板上に、GaN層を形成する場合には、基板表面(成長主面)から活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)までの間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。また、GaN層のトータル層厚が0.3μm以下であれば、さらに好ましい。GaN層のトータル層厚が0.5μm以下であれば、表面モフォロジーの大きな悪化は起こらないため、その後、AlGaN層を形成するなどして、基板上に複数のGaN層を形成することは可能である。ただし、基板表面(成長主面)から活性層(井戸層)の間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下という条件を満たす必要がある。
また、本願発明者らは、上記検討によって、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)から構成することにより、発光効率を向上させることが可能となることも見出した。
また、本願発明者らは、上記検討において、活性層のIn組成比の増加に伴い、窒化物半導体発光素子のEL発光パターン中に、図30に示すようなダークラインが発生する場合があることを突き止めた。
このダークラインは、EL発光パターン中だけでなく、図31に示すように、PL発光(光励起にて、発光させたときの面内光分布)パターンでも観測される。このようなダークラインの発生は、素子の発光効率を低下させるため好ましくない。この活性層のIn組成を増加させた際に発生するダークラインは、m面のc軸方向に平行方向に発生する。ダークラインは基板などのGaNと活性層のInGaN層との格子定数や、熱膨張係数の違いから発生するミスフィット転位などの欠陥であると考えられる。これまで一般的に用いられてきたc面(0001)などでは、Inの増加に伴いこのようなダークラインの発生は起こらなかった。このため、このようなダークラインの発生は、無極性面、特にm面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体発光素子特有の現象であると考えられる。
このように、m面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体発光素子では、c面を用いた窒化物半導体発光素子とは異なり、自発分極やピエゾ分極に起因する発光効率の低下は抑制されるものの、ダークラインの発生に起因して、発光効率の経時劣化を引き起こすという問題があることも見出した。このようなダークラインの発生は、m面を用いた窒化物半導体発光素子において、発光波長の長波長化を図る際の妨げとなるため、非常に問題となる。特に、半導体レーザ素子においては、発光効率の低下はゲインの低下を引き起こすため、問題が大きい。
輝点状発光は、EL発光パターンにおいて観測することができるが、PL発光パターンでは顕著に観測することが出来ない。このため、輝点状発光は、電流注入の不均一から引き起こされる現象が主な原因であると考えられる。特に、電流注入量が小さい、たとえば電流を徐々に増加させていき、発光しはじめから、p側電極の直径が220μm程度の場合、50mA程度の電流注入密度の範囲で非常に顕著に見られる。大電流領域においても、発光効率が抑制されるため好ましくない。
これに対してダークラインは、PL発光パターンでも、EL発光パターンでも顕著に観察される。このことから、輝点状発光と、ダークラインの発生は別原因であり、異なるメカニズムから発生していることが分かった。
そこで、上記知見をもとに、本願発明者らが鋭意検討した結果、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)から構成することにより、ダークラインの発生を抑制することも可能となることを見出した。すなわち、Alを含む窒化物半導体から障壁層を形成することによって、図32に示すように、ほぼ完全にダークラインの発生を抑制できることが分かった。
なお、上記した図30は、EL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、図30のEL発光パターンは、m面を成長主面とするGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて作製した発光ダイオード素子のEL発光パターンを示している。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.2Ga0.8Nから構成されており、障壁層がIn0.02Ga0.98から構成されている。
また、上記した図31は、PL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、図31のPL発光パターンは、m面を成長主面とするGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて作製した発光ダイオード素子のPL発光パターンを示している。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.2Ga0.8Nから構成されており、障壁層がIn0.02Ga0.98から構成されている。
さらに、上記した図32は、障壁層をAlGaNから構成した発光ダイオード素子のPL発光パターンの顕微鏡写真である。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.25Ga0.75Nから構成されており、障壁層がAl0.01Ga0.99Nから構成されている。また、窒化物半導体基板として、m面a軸オフ基板(a軸方向のオフ角度:1.7度、c軸方向のオフ角度:+0.1度)を用いている。
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子に本発明を適用した場合について説明する。また、以下の実施形態において、「窒化物半導体」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる半導体を意味する。
図1は、窒化物半導体の結晶構造を説明するための模式図である。図2は、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図3は、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子の全体斜視図である。図4〜図6は、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子の構造を説明するための図である。まず、図1〜図6を参照して、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の構造について説明する。
一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100を構成する窒化物半導体は、図1に示すように、六方晶系の結晶構造を有している。この結晶構造において、六角柱とみなせる六方晶のc軸[0001]を法線とする面(六角柱の上面)をc面(0001)と呼び、六角柱の側壁面の各々をm面{1−100}と呼ぶ。窒化物半導体では、c軸方向に対称面が存在しないため、分極方向がc軸方向に沿っている。このため、c面は、+c軸側と−c軸側とで異なる性質を示す。すなわち、+c面((0001)面)と−c面((000−1)面)とは等価な面ではなく、化学的な性質も異なる。一方、m面は、c面に対して直角な結晶面であるため、m面の法線は、分極方向に対して直交している。このため、m面は、極性のない無極性面である。なお、上述のように、六角柱の側壁面の各々がm面となるため、m面は、6種類の面方位((1−100)、(10−10)、(01−10)、(−1100)、(−1010)、(0−110))で示されるが、これらの面方位は、結晶幾何学的に等価な面方位であるため、これらを総称して{1−100}と示す。
また、一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図2および図3に示すように、窒化物半導体基板としてのGaN基板10を備えている。このGaN基板10の成長主面10aは、m面に対してオフ角度を有する面からなる。具体的には、窒化物半導体レーザ素子100のGaN基板10は、m面に対して、a軸方向([11−20]方向)にオフ角度を有している。なお、上記GaN基板10は、a軸方向のオフ角度に加えて、c軸方向([0001]方向)にもオフ角度を有していてもよい。
ここで、図4を参照して、GaN基板10のオフ角度についてより詳細に説明する。まず、m面に対して、a軸[11−20]方向およびc軸[0001]方向の2つの結晶軸方向を定義する。これらa軸およびc軸は、互いに垂直な関係となっているとともに、m軸に対しても互いに垂直な関係となっている。また、GaN基板10の結晶軸ベクトルが基板表面(成長主面10a)の法線ベクトルと一致する場合(全ての方向に対してオフ角度が0になった場合)に、a軸方向、c軸方向、m軸方向と平行となる方向をそれぞれX方向、Y方向、Z方向とする。次に、Y方向の法線を持つ第1面、および、X方向の法線を持つ第2面を考える。そして、結晶軸ベクトルを第1面および第2面に投影したときに現れる結晶軸ベクトルを、それぞれ、第1投影ベクトルおよび第2投影ベクトルとする。このときの第1投影ベクトルと法線ベクトルとのなす角θaがa軸方向のオフ角度であり、第2投影ベクトルと法線ベクトルとのなす角θcがc軸方向のオフ角度である。なお、a軸方向のオフ角度は、+方向と−方向とで、結晶的にみて同じ表面状態になるため、+方向と−方向とで同じ特性を有する。このため、絶対値で記載することができる。一方、c軸方向は、+方向と−方向とで、Ga極性面が強くなる場合と、N極性面が強くなる場合とがあり、方向により特性が異なるため、+方向と−方向とを区別して記載する。
このように、本実施形態によるGaN基板10は、その成長主面10aが、m面{1−100}に対してa軸方向に傾斜した面となっている。
また、上記GaN基板10は、m面に対するa軸方向のオフ角度の絶対値が、それぞれ、0.1度より大きい角度に調整されている。ただし、a軸方向のオフ角度が大きくなるに従い、活性層(井戸層などのInGaN層)に取り込まれるInの量が減少する傾向があるため、原料効率などの点から、a軸方向のオフ角度の絶対値は、10度以下であるのが好ましい。なお、a軸方向のオフ角度が10度以上の角度であっても、成膜は可能である。また、c軸方向にもオフ角度を有している場合には、c軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度に調整されているのが好ましい。c軸方向のオフ角度は、a軸方向のオフ角度より小さい角度に調整されているのが好ましい。
また、上記の場合において、a軸方向のオフ角度は、1度より大きく、かつ、10度以下の角度に調整されているのが好ましい。a軸方向のオフ角度が、このような範囲となるように調整されていれば、駆動電圧の低減効果が大きくなることに加えて、表面モフォロジーの改善効果も得られるためより好ましい。
また、一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、上記したGaN基板10の成長主面10a上に、複数の窒化物半導体層が積層されることによって形成されている。
具体的には、一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図2および図3に示すように、GaN基板10の成長主面10a上に、約0.1μmの厚みを有するn型GaN層11が形成されている。n型GaN層11上には、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層12が形成されている。下部クラッド層12上には、約0.1μmの厚みを有するn型GaNからなる下部ガイド層13が形成されている。下部ガイド層13上には、活性層14が形成されている。なお、上記GaN基板10は、n型に構成されている。
上記活性層14は、図5に示すように、Inx1Ga1-x1Nからなる2つの井戸層14aと、Alx2Ga1-x2Nからなる3つの障壁層14bとが交互に積層された量子井戸(DQW;Double Quantum Well)構造を有している。具体的には、活性層14は、下部ガイド層13側から、第1障壁層141b、第1井戸層141a、第2障壁層142b、第2井戸層142aおよび第3障壁層143bが順次積層されることによって形成されている。なお、2つの井戸層14a(第1井戸層141a、第2井戸層142a)は、それぞれ、約3nm〜約4nmの厚みに形成されている。また、第1障壁層141bは、約30nmの厚みに形成されており、第2障壁層142bは、約16nmの厚みに形成されており、第3障壁層143bは、約60nmの厚みに形成されている。すなわち、3つの障壁層14bは、それぞれ、異なる厚みに形成されている。なお、n型GaN層11、下部クラッド層12、下部ガイド層13および活性層14は、それぞれ、本発明の「窒化物半導体層」の一例である。
また、上記障壁層は、AlGaN以外にAlInGaNから構成されていてもよい。AlとInを含む障壁層の場合は、低温において平坦性の高い膜を形成しやすいという利点がある。また、井戸層の数が2層以上の場合、井戸層の間に挟まれた障壁層(本実施形態では第2障壁層)にGaN層を用いなければ、障壁層をAlGaN/AlInGaNや、AlInGaN/AlGaNなどの2層構造、AlInGaN/AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/InGaN/AlInGaN、および、AlGaN/InGaN/AlGaNなどの多層構造としてもよい。また井戸層が1層の場合には、井戸層に接する上部の層(基板と反対側、第二障壁層)がAlInGaN層であると好ましい。このように障壁層を形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することが可能となる。
ここで、本実施形態では、上記のように、GaN基板10の成長主面10aと活性層14(井戸層14a)との間に形成されるGaN層のトータル層厚が、0.7μm以下となるように構成されている。具体的には、GaN基板10の成長主面10aと活性層14(井戸層14a)との間には、上記のように、2層のGaN層(n型GaN層11、下部ガイド層13)が形成されている。そして、そのトータル層厚は約0.2μm(=約0.1μm+約0.1μm)となっている。なお、上記GaN層のトータル層厚は、0.5μm以下に構成されていればより好ましく、0.3μm以下に構成されていればさらに好ましい。また、本実施形態では、GaN基板10の成長主面10aと接する半導体層は、GaN層となっている。
また、本実施形態では、活性層14を構成する井戸層14a(活性層14)のIn組成比x1は、0.15以上0.45以下(たとえば、0.2〜0.25)に構成されている。また、活性層14の障壁層14bは、AlGaN(Alx2Ga1-x2N)から構成されており、そのAl組成比x2が、たとえば、0<x2≦0.08とされている。このように、AlGaN(Alx2Ga1-x2N)からなる障壁層14bのAl組成比x2を0.08以下にすることで、光閉じ込めを効率よく行うことが可能となる。また、上記障壁層14bをAlGaNから構成することにより、発光効率を向上させることが可能となる。
なお、上記障壁層14bをAlGaNやAlInGaNなどから構成した場合に発光効率が向上する理由としては、以下のように考えられる。すなわち、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板では、上述したように、その成長主面上にGaN層を、1μmを超える層厚で形成すると表面モフォロジーが悪化する傾向が見られる一方、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を形成すると、表面モフォロジーが良化する。このため、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成することによって、障壁層の平坦性が向上し、高い平坦性を有する障壁層上に井戸層を形成することで、井戸層の結晶性が向上するためであると考えられる。また、このように障壁層を形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することが可能となる。また、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成する場合、上記のように、井戸層はInGaNから構成されているのが好ましい。
また、上記活性層14上には、図2および図3に示すように、40nm以下(たとえば、約12nm)の厚みを有するp型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層15が形成されている。このキャリアブロック層15は、そのAl組成比yが0.08以上0.35以下(たとえば、約0.15)となるように構成されている。また、キャリアブロック層15上には、凸部と、凸部以外の平坦部とを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなる上部ガイド層16が形成されている。この上部ガイド層16は、クラッド層よりもAl組成比が小さくなるように構成されている。また、上部ガイド層16の凸部上には、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.06Ga0.94Nからなる上部クラッド層17が形成されている。上部クラッド層17上には、約0.1μmの厚みを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなるコンタクト層18が形成されている。そして、コンタクト層18と上部クラッド層17と上部ガイド層16の凸部とによって、約1μm〜約10μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するストライプ状(細長状)のリッジ部19が構成されている。このリッジ部19は、図6に示すように、Y方向(略c軸[0001]方向)に延びるように形成されている。なお、p型半導体層(キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18)には、p型不純物としてMgがドープされている。また、キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18は、それぞれ、本発明の「窒化物半導体層」の一例である。
また、コンタクト層を、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInN)から構成することで、表面モフォロジーが良化し、層厚の面内分布が改善するため好ましい。
また、一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100では、図2および図3に示すように、リッジ部19の両脇に、電流狭窄を行うための絶縁層20が形成されている。具体的には、上部ガイド層16上、上部クラッド層17の側面上およびコンタクト層18の側面上に、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる絶縁層20が形成されている。
絶縁層20およびコンタクト層18の上面上には、コンタクト層18の一部を覆うように、p側電極21が形成されている。このp側電極21は、コンタクト層18を覆っている部分において、コンタクト層18と直接接触している。また、p側電極21は、絶縁層20(コンタクト層18)側から約15nmの厚みを有するPd層(図示せず)、約15nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなる。
また、GaN基板10の裏面上には、GaN基板10の裏面側から順に、約5nmの厚みを有するHf層(図示せず)および約150nmの厚みを有するAl層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるn側電極22が形成されている。また、n側電極22上には、n側電極22側から順に、約36nmの厚みを有するMo層(図示せず)、約18nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるメタライズ層23が形成されている。
一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図3および図6に示すように、レーザ光が出射される光出射面30aと、光出射面30aと対向する光反射面30bとを含む一対の共振器面30を有している。また、光出射面30aには、たとえば、反射率5%〜80%の出射側コーティング膜(図示せず)が形成されている。一方、光反射面30bには、たとえば、反射率95%の反射側コーティング膜(図示せず)が形成されている。なお、出射側コーティング膜の反射率は、発振出力により所望の値に調整されている。また、出射側コーティング膜は、たとえば、半導体の出射端面から順に、アルミニウムの酸窒化膜または窒化膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1):膜厚30nm/Al2O3(膜厚:215nm)で構成されており、反射側コーティング膜は、たとえば、SiO2、TiO2などの多層膜から構成されている。上記以外の材料として、たとえば、SiN、ZrO2、Ta2O5、MgF2などの誘電体膜を用いてもよい。また、光出射面側の膜構成として、AlOxN1-x(0≦x≦1):膜厚12nm/シリコンの窒化膜であるSiN(膜厚:100nm)を用いても良い。
上記のように、m面の窒化物半導体基板の劈開端面(本実施形態ではc面)、もしくは気相エッチング、液相エッチングによりエッチングされたエッチング端面に、アルミニウムの酸窒化膜または窒化膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1)を形成することで、半導体、出射側コーティング膜の界面での非発光再結合の割合を大幅に低減でき、COD(Catastrophic Optical Damage)レベルを格段に向上させることができる。さらにアルミニウムの酸窒化膜または窒化膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1)は、窒化物半導体と同じ六方晶の結晶であると、より好ましい。さらには、窒化物半導体と結晶軸が揃った状態で結晶化していると、非発光再結合の割合がさらに低減し、CODレベルがさらに向上するため、より好ましい。また、光出射面側の反射率を大きくするために、上記コーティング膜の上にシリコンの酸化膜、アルミニウムの酸化膜、チタニウムの酸化膜、タンタルの酸化膜、ジルコニウムの酸化膜、シリコン窒化膜、などを積層した積層膜を形成してもよい。
また、一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図6に示すように、共振器面30と直交する方向(Y方向(略c軸[0001]方向))に、約300μm〜約1800μm(たとえば、約600μm)の長さL(チップ長L(共振器長L))を有するとともに、共振器面30に沿った方向(X方向(略a軸[11−20]方向))に、約150μm〜約600μm(たとえば、約400μm)の幅W(チップ幅W)を有している。
本実施形態では、上記のように、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板10の成長主面10aとすることによって、EL発光パターンの輝点状化、面内の波長ムラを抑制することができる。すなわち、このように構成することによって、EL発光パターンを改善することができる。これにより、窒化物半導体レーザ素子の発光効率を向上させることができる。また、発光効率を向上させることによって、輝度の高い窒化物半導体レーザ素子を得ることができる。なお、上記のような輝点状発光の抑制効果が得られる理由として、GaN基板10の成長主面10aがm面に対してa軸方向のオフ角度を持つことで、成長主面10a上に活性層14(井戸層14a)を成長させる際に、In原子のマイグレーションの方向が変化し、In組成比の高い(In供給量が多い)条件でもInの凝集が抑制されたためであると考えられる。また、活性層14上に形成されるp型半導体層の成長モードも変化するため、p型不純物であるMgの活性化率も向上し、p型半導体層が低抵抗化することも理由の一つと考えられる。なお、p型半導体層が低抵抗化することにより、電流を均一に注入し易くなるので、これによりEL発光パターンが均一化する。
また、本実施形態では、EL発光パターンの輝点状化を抑制することによって、EL発光パターンを均一化することができるので、駆動電圧を低減することもできる。なお、輝点状発光を抑制することによって、均一発光のEL発光パターンを得ることができるので、窒化物半導体レーザ素子の形成において、ゲインを高めることができる。
また、本実施形態では、上記のように構成することによって、EL発光パターンの輝点状化を抑制することができるので、発光効率を向上させることができ、これによって、素子特性および信頼性を向上させることができる。すなわち、素子特定の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子を得ることができる。
さらに、本実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10上に、その成長主面10aから活性層14(井戸層14a)までの間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下(0.2μm)となるように構成することによって、表面モフォロジーを大きく改善し、良好な表面モフォロジーを得ることができる。これにより、GaN層(n型GaN層11、下部ガイド層13)における層厚の面内分布を均一化することができるとともに、これらGaN層上に形成される半導体層においても、層厚の面内分布を均一化することができる。すなわち、GaN基板10上に形成される窒化物半導体各層における層厚の面内分布を均一化することができる。また、表面モフォロジーを改善にすることによって、素子特性(たとえば、I−L特性、I−V特性、ファーフィールドパターン、波長など)のバラツキを低減することができるので、製造歩留まりを向上させることができる。これにより、規格の範囲内の特性を有する素子を容易に得ることができる。また、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性および信頼性をさらに向上させることもできる。
また、本実施形態では、a軸方向のオフ角度の絶対値を0.1度より大きくすることによって、EL発光パターンの輝点状化を容易に抑制することができる。
なお、GaN基板10の成長主面10aが、m面に対してc軸方向にもオフ角度を有する場合には、a軸方向のオフ角度をc軸方向のオフ角度より大きくすることによって、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。すなわち、このように構成することによって、c軸方向のオフ角度が大きくなり過ぎることに起因して、輝点状発光の抑制効果が低減されるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、容易に、発光効率を向上させることができる。
また、本実施形態では、活性層14の障壁層14bをAlGaNから構成することによって、障壁層14bの平坦性を向上させることができるので、平坦性の高い障壁層14b上に井戸層14aを形成することによって、井戸層14aの結晶性を向上させることができるとともに、井戸層におけるInの層分離などを抑制することができる。これにより、発光効率をより向上させることができる。
また、本実施形態では、窒化物半導体レーザ素子100の活性層14を、DQW構造に構成することによって、駆動電圧を容易に低減することができる。このため、これによっても、素子特性および信頼性を向上させることができる。なお、活性層14をDQW構造に構成した場合でも、EL発光パターンの輝点状発光を抑制することができる。また、m面に対してオフ角度が設けられた成長主面10aを有する上記GaN基板10を用いた場合において、GaN基板10上に形成される活性層14をDQW構造に構成することにより、活性層14を多重量子井戸(MQW;Multiple Quantum Well)構造に構成した場合に比べて、発光効率を向上させることができる。これにより、輝度の高い窒化物半導体レーザ素子を容易に得ることができる。
また、本実施形態では、p型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層15のAl組成比yを0.08以上0.35以下に構成することによって、キャリア(電子)に対して十分に高いエネルギー障壁を形成することができるので、活性層14に注入されたキャリアがp型半導体層へ流入するのをより効果的に防ぐことができる。これにより、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。また、キャリアブロック層15のAl組成比yを0.35以下とすることによって、Al組成比yが大きくなり過ぎることに起因するキャリアブロック層15の高抵抗化を抑制することができる。なお、井戸層14aのIn組成比x1が大きな領域(x1≧0.15)では、活性層14上に形成されるキャリアブロック層15のAl組成比yが0.08以上になると、キャリアブロック層15を良好に成長させることが非常に難しくなる。それは、井戸層14aのIn濃度が増大するにしたがい、活性層14の表面の平坦性が悪化し、Al組成比yの高い層を結晶性よく成膜するのが困難になるためである。しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を用いれば、活性層14(井戸層14a)のIn組成比x1が0.15以上0.45以下の場合でも、その活性層14上に、Al組成比yが0.08以上0.35以下であるキャリアブロック層15を結晶性よく形成することができる。これにより、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制して、EL発光パターンを均一化することができる。
また、m面に対してa軸方向にオフ角度が設けられた成長主面10aを有する上記GaN基板10を用いることによって、輝点状のEL発光パターンが顕著に現れる条件である井戸層14aのIn組成比x1が0.15以上の場合でも、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。このため、活性層14の井戸層14aのIn組成比x1を0.15以上とすることによって、輝点状発光の抑制効果を顕著に得ることができる。また、井戸層14aのIn組成比x1を0.45以下とすることによって、井戸層14aのIn組成比x1が0.45より大きくなることに起因して、格子不整合などの歪みにより活性層14に転位が多数入るという不都合が生じるのを抑制することができる。
また、本実施形態では、井戸層14aの下側(GaN基板10側)に形成される障壁層14bを、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、Alx2Ga1-x2N)から構成するとともに、そのAl組成比x2を0<x2≦0.08とすることで、障壁層14bの平坦性向上やダークラインの発生抑制などの効果を得ることができる。これにより、井戸層14aの発光効率を向上させることができるので、素子特性および信頼性の高い半導体レーザ素子を得ることができる。
なお、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを200nm以上とすれば、キャリアブロック層15から活性層14までキャリアが拡散していくときに電流が広がるため、輝点状発光が若干抑制される。その一方、m面に対してオフ角度が設けられた成長主面10aを有する上記GaN基板10を用いれば、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを、200nm以上としなくても、輝点状発光を効果的に抑制することができる。たとえば、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを、120nmよりも短くした場合でも、輝点状発光を効果的に抑制することができる。キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hは、短い方がキャリアの井戸層14aへの注入効率が向上するため好ましい。このため、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを、120nmより短くすることにより、キャリアの井戸層14aへの注入効率を向上させることができる。
また、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層(たとえば本実施形態では第3障壁層)はAlとInを含む窒化物半導体層であればより好ましい。キャリアブロック層は、障壁層より大きなAl組成比で形成されるため、キャリアブロック層からの応力が井戸層にかかる。このため、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層を、Inを含むように構成することで、応力を緩和することができるため好ましい。また、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層は、AlInGaNを一部に含むことが好ましい。さらに、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層は、AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/AlGaN、AlInGaN/InGaNの2層構造、AlInGaN/AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/InGaN/AlInGaN、AlGaN/InGaN/AlGaNなどの多層構造としてもよい。なお、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層は、上記応力緩和の観点から、InGaNであってもよい。このように障壁層を形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することができる。
なお、障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することによって得られるダークライン発生抑制効果と、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けた面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いることで得られる輝点状発光抑制効果とは、まったく異なる効果である。すなわち、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いる場合、m面などの無極性面であれば効果がある。一方、InGaNからなる障壁層を用いた場合でも、オフ角度をa軸方向に設けることで、発光パターンの輝点状発光の抑制が可能となる。しかしながら、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板上にAlを含む窒化物半導体層を成膜すると結晶性などが向上するという効果が得られるため、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用い、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いた場合、障壁層の結晶性が向上する。このように、両方を組み合わせれば、相乗効果が得られるため、より好ましい。もちろん、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用い、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いれば、ダークラインの発生を抑制することができることに加えて、輝点状発光の抑制も可能となる。
図7〜図19は、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。次に、図2、図3および図5〜図19を参照して、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の製造方法について説明する。
まず、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を準備する。このGaN基板10は、たとえば、c面(0001)を主面とするGaNバルク結晶から切り出した基板を種基板とし、この種基板上にGaN結晶を成長させることによって作製される。具体的には、図7に示すように、下地基板300上にSiO2からなる保護膜(図示せず)を部分的に形成した後、MOCVD法などのエピタキシャル成長法を用いて、下地基板300上に保護膜の上からGaNバルク結晶を成長させる。これにより、保護膜が形成されていない部分から成長が開始し、保護膜上部でGaN結晶の横方向の成長が生じる。そして、横方向に成長したGaN結晶同士が保護膜上で接合して成長を続け、下地基板300上にGaN結晶層400aが形成される。このGaN結晶層400aは、下地基板300を除去した後にも自立して取り扱いが可能なように、十分に厚く形成する。次に、形成されたGaN結晶層400aから、たとえば、エッチングなどによって、下地基板300を除去する。これにより、図8に示すように、c面(0001)を主面とするGaNバルク結晶400が得られる。なお、下地基板300としては、たとえば、GaAs基板、サファイア基板、ZnO基板、SiC基板、GaN基板などを用いることが可能である。また、GaNバルク結晶400の厚みSは、たとえば、約3mmとすることができる。
次に、得られたGaNバルク結晶400の両主面である(0001)面および(000−1)面を、研削および研磨加工することにより、両主面の平均粗さRaを5nmとする。この平均粗さRaは、JIS B 0601に規定する算術平均粗さRaであり、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定することができる。
次に、GaNバルク結晶400を、[1−100]方向と垂直な複数の面でスライスすることにより、m面{1−100}を主面とする複数のGaN結晶基板410を厚みT(たとえば、1mm)(幅S:3mm)で切り出す。そして、切り出したGaN結晶基板410の研削および研磨加工が施されていない4面を研削および研磨加工することにより、これら4面の平均粗さRaを5nmとする。その後、図9および図10に示すように、複数のGaN結晶基板410において、その主面が互いに平行となるようにするとともに、それらGaN結晶基板410の[0001]方向が同一となるようして、互いに隣接させて配置する。
続いて、図11に示すように、互いに隣接させて配置した複数のGaN結晶基板410を種基板として、これらGaN結晶基板410のm面{1−100}上に、HVPE法などのエピタキシャル成長法を用いて、GaN結晶を成長させる。これにより、m面を成長主面とするGaN基板1が得られる。次に、得られたGaN基板1の主面を化学的機械的研磨処理によって研磨することにより、a軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度を独立して制御し、m面に対するa軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度を所望のオフ角度とする。このオフ角度は、X線回折法により測定することができる。これにより、m面に対してa軸方向およびc軸方向の各方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板10が得られる。
なお、上記GaN基板10の作製において、オフ角度が大きい基板を作製する場合には、GaNバルク結晶400から複数のGaN結晶基板410を切り出す際に、GaN結晶基板410の主面がm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有するように、[1−100]方向に対して所定の切り出し角度で切り出してもよい。このようにすれば、GaN結晶基板410の主面がm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有する面となるため、その主面上に形成されるGaN基板1(10)の主面(成長主面)もm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有する面となる。
また、GaNバルク結晶400(図8参照)から切り出したGaN結晶基板410の主面を化学的機械的研磨処理によって研磨することにより、このGaN結晶基板410を、GaN基板10として用いることもできる。この場合、GaN結晶基板410の幅Sは、3mm以上とすることもできる。
ここで、本実施形態では、上記GaN基板10におけるa軸方向のオフ角度を、0.1度より大きい角度となるように調整する。なお、c軸方向にもオフ角度を設ける場合には、c軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度に調整するのが好ましい。また、c軸方向のオフ角度は、a軸方向のオフ角度より小さい角度に調整するのが好ましい。
続いて、図12に示すように、得られたGaN基板10の成長主面10a上に、MOCVD法を用いて、窒化物半導体各層を成長させる。このとき、GaN基板10と活性層14(井戸層14a)との間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下となるように窒化物半導体各層を成長させる。
具体的には、GaN基板10の成長主面10a上に、約0.1μmの厚みを有するn型GaN層11、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層12、約0.1μmの厚みを有するn型GaNからなる下部ガイド層13、および活性層14を順次成長させる。なお、活性層14を成長させる際には、図5に示したように、Inx1Ga1-x1Nからなる2つの井戸層14aと、Alx2Ga1-x2Nからなる3つの障壁層14bとを交互に成長させる。具体的には、下部ガイド層13上に、下層から上層に向かって、約30nmの厚みを有する第1障壁層141b、約3nm〜約4nmの厚みを有する第1井戸層141a、約16nmの厚みを有する第2障壁層142b、約3nm〜約4nmの厚みを有する第2井戸層142aおよび約60nmの厚みを有する第3障壁層143bを順次成長させる。これにより、下部ガイド層13上に、2つの井戸層14aと3つの障壁層14bとからなるDQW構造を有する活性層14が形成される。このとき、井戸層14aは、そのIn組成比x1が0.15以上0.45以下(たとえば、0.2〜0.25)となるように構成する。一方、障壁層14bは、そのAl組成比x2が、たとえば、0<x2≦0.08となるように構成する。
次に、図12に示すように、活性層14上に、p型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層15、約0.05μmの厚みを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなる上部ガイド層16、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.06Ga0.94Nからなる上部クラッド層17および約0.1μmの厚みを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなるコンタクト層18を順次成長させる。この際、キャリアブロック層15は、その厚みが40nm以下(たとえば、約12nm)となるように形成するのが好ましい。また、キャリアブロック層15は、そのAl組成比yが0.08以上0.35以下(たとえば、約0.15)となるように構成する。なお、n型半導体層(n型GaN層11、下部クラッド層12および下部ガイド層13)には、n型不純物として、たとえば、Siをドープし、p型半導体層(キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18)には、p型不純物として、Mgをドープする。
また、本実施形態では、n型半導体層は、900℃以上であって、1300℃より低い成長温度(たとえば、1075℃)で形成する。また、活性層14の井戸層14aは、600℃以上800℃以下の成長温度(たとえば、700℃)で形成する。井戸層14aに接する障壁層14bは、井戸層14aと同じ成長温度(たとえば、700℃)で形成する。さらに、p型半導体層は、700℃以上であって、900℃より低い成長温度(たとえば、880℃)で形成する。なお、n型半導体層の成長温度は、900℃以上1300未満が好ましく、1000℃以上1300未満であればより好ましい。また、活性層14の井戸層14aの成長温度は、600℃以上830℃以下が好ましく、井戸層14aのIn組成比x1が0.15以上の場合には、600℃以上770℃以下が好ましい。630℃以上740℃以下であればより好ましい。また、活性層14の障壁層14bの成長温度は、井戸層14aと同じ温度か、井戸層14aより高い温度が好ましい。さらに、p型半導体層の成長温度は、700℃以上900℃未満が好ましく、700℃以上880℃以下であればより好ましい。もちろん、900℃以上の温度でp型半導体層を形成してもp型伝導が得られるため、p型半導体層を900℃以上の温度で形成してもよい。
なお、これらの窒化物半導体の成長原料としては、たとえば、Gaの原料としてトリメチルガリウム((CH3)3Ga:TMGa)を、Alの原料としてトリメチルアルミニウム((CH3)3Al:TMAl)を、Inの原料としてトリメチルインジウム((CH3)3In:TMIn)を、Nの原料としてNH3を用いることができる。また、キャリアガスとしては、たとえば、H2を用いることができる。ドーパントについては、n型ドーパント(n型不純物)としては、たとえば、モノシラン(SiH4)を用いることができ、p型ドーパント(p型不純物)としては、たとえば、シクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いることができる。
次に、図13に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、コンタクト層18上に、約1μm〜約10μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するとともに、Y方向(略c軸[0001]方向)に平行に延びるストライプ状(細長状)のレジスト450を形成する。そして、図14に示すように、SiCl4、Cl2などの塩素系ガスや、ArガスなどによるRIE(反応性イオンエッチング)法を用いて、レジスト450をマスクとして上部ガイド層16の途中の深さまでエッチングを行う。これにより、上部ガイド層16の凸部と上部クラッド層17とコンタクト層18とによって構成されるとともに、Y方向(略c軸[0001]方向)に互いに平行に延びるストライプ状(細長状)のリッジ部19(図3および図6参照)が形成される。
続いて、図15に示すように、リッジ部19上にレジスト450を残した状態で、スパッタ法などにより、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる絶縁層20を形成し、リッジ部19を埋め込む。そして、リフトオフによりレジスト450を除去することによって、リッジ部19の上部のコンタクト層18を露出させる。これにより、リッジ部19の両脇に、図16に示すような絶縁層20が形成される。
次に、図17に示すように、真空蒸着法などを用いて、基板側(絶縁層20側)から、約15μmの厚みを有するPd層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)を順次形成することにより、絶縁層20(コンタクト層18)上に、多層構造からなるp側電極21を形成する。
次に、基板を分割し易くするために、GaN基板10の裏面を研削または研磨することにより、GaN基板10を100μm程度の厚みまで薄くする。その後、図2に示したように、GaN基板10の裏面上に、真空蒸着法などを用いて、GaN基板10の裏面側から約5nmの厚みを有するHf層(図示せず)および約150nmの厚みを有するAl層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側電極22を形成する。そして、n側電極22上に、n側電極22側から約36nmの厚みを有するMo層(図示せず)、約18nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるメタライズ層23を形成する。なお、n側電極22の形成前に、n側の電気特性の調整などの目的でドライエッチングやウェットエッチングを行ってもよい。
続いて、図18に示すように、スクライブ/ブレーク法やレーザスクライブなどの手法を用いて、基板をバー状に分割する。これにより、その端面を共振器面30とするバー状の素子が得られる。次に、蒸着法やスパッタ法などの手法を用いて、バー状の素子の端面(共振器面30)にコーティングを施す。具体的には、光出射面となる片側の端面に、たとえば、アルミニウムの酸窒化膜などからなる出射側コーティング膜(図示せず)を形成する。また、光反射面となるその反対側の端面に、たとえば、SiO2、TiO2などの多層膜からなる反射側コーティング膜(図示せず)を形成する。
最後に、Y方向(略c軸[0001]方向)に沿った分割予定線Pに沿ってバー状の素子を分割することにより、図19に示すように、個々の窒化物半導体レーザ素子に個片化する。このようにして、本発明の一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100が製造される。
このようにして製造された一実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図20に示すように、サブマウント110を介してステム120上にマウントされ、ワイヤ130によってリードピンと電気的に接続される。そして、キャップ135がステム120上に溶接されることにより、キャンパッケージ型の半導体レーザ装置(半導体装置)150に組み立てられる。
本実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の製造方法では、上記のように、GaN基板10と活性層14(井戸層14a)との間に形成されるGaN層(n型GaN層11、下部ガイド層13)を、そのトータル層厚が0.7μm以下(0.2μm)となるように形成することによって、良好な表面モフォロジーを得ることができる。これにより、窒化物半導体各層における層厚の面内分布を均一化することができるので、窒化物半導体各層の平坦性を向上させることができる。また、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性のバラツキを低減することができるので、規格の範囲内の特性を有する素子を増加させることができる。これにより、製造歩留まりを向上させることができる。なお、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性および信頼性をさらに向上させることもできる。
また、本実施形態では、n型半導体層を、900℃以上の高温で形成することによって、n型半導体層の層表面を平坦化することができる。このため、平坦化されたn型半導体層上に活性層14およびp型半導体層を形成することにより、活性層14およびp型半導体層における結晶性の低下を抑制することができる。そのため、これによっても、高品質な結晶を形成することができる。また、n型半導体層を、1300℃より低い成長温度で形成することによって、1300℃以上の成長温度で形成されることに起因して、昇温時にGaN基板10の表面が再蒸発し、表面荒れが引き起こされるという不都合が生じるのを抑制することができる。したがって、このように構成することにより、素子特性の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子100を容易に製造することができる。
また、本実施形態では、活性層14の井戸層14aを、600℃以上の成長温度で形成することによって、600℃より低い成長温度で形成することに起因して、原子の拡散長が短くなり結晶性が悪化するという不都合が生じるのを抑制することもできる。また、活性層14の井戸層14aを、800℃以下の成長温度で形成することによって、800℃より高い成長温度(たとえば、830℃以上)で活性層14の井戸層14aが形成されることに起因して、熱ダメージによって活性層14が黒色化されるという不都合が生じるのを抑制することができる。なお、井戸層14aに接する障壁層14bの成長温度は、井戸層14aと同じ温度か、井戸層14aより高い温度が好ましい。
また、本実施形態では、p型半導体層を、700℃以上の成長温度で形成することによって、p型半導体層の成長温度が低すぎることに起因して、p型半導体層が高抵抗化されるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、p型半導体層を、1100℃より低い成長温度で形成することによって、活性層14の熱ダメージを低減することができる。なお、障壁層をAlGaNや、AlInGaNなどのAlを含む窒化物半導体層から構成することによって、p型半導体層を形成する際に発生する熱ダメージに対して活性層が強くなる。すなわち、p型半導体層を1000℃以上の成長温度で形成した場合でも、熱ダメージによる活性層の黒色化を抑制することができる。
次に、上記実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の効果を確認するために行った実験について説明する。この実験では、まず、確認用素子として、図21に示すような発光ダイオード素子200を作製し、EL発光パターンの観察を行った。なお、EL発光パターンの観察に発光ダイオード素子を用いたのは、窒化物半導体レーザ素子では、リッジ部の形成によって電流注入される領域が狭められているため、EL発光パターンの観察が困難になるからである。
この確認用素子(発光ダイオード素子200)は、上記実施形態と同様のGaN基板10上に、同様の窒化物半導体層を形成することによって作製した。窒化物半導体層の形成は、上記実施形態と同様の方法を用いて行った。具体的には、図21に示すように、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を用いて、その成長主面10a上に、n型GaN層11、下部クラッド層12、下部ガイド層13、活性層14、キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18を順次形成した。次に、コンタクト層18上に、p側電極221を形成した。このp側電極221は、EL発光パターンを確認するために透明電極とした。また、GaN基板10の裏面上には、n側電極22およびメタライズ層23を形成した。確認用素子におけるGaN基板10のオフ角度は、a軸方向のオフ角が1.7度、c軸方向のオフ角度が+0.1度であった。また、確認用素子における井戸層のIn組成比は、0.25であり、障壁層のAl組成比は、2%であった。このようにして作製した確認用素子(発光ダイオード素子200)に電流注入を行うことによって、確認用素子(発光ダイオード素子200)を発光させ、面内光分布を観察した。図22に、確認用素子において観察されたEL発光パターンの顕微鏡写真を示す。
また、m面を成長主面とするGaN基板(ほぼm面ジャスト基板:a軸方向のオフ角度が0度、c軸方向のオフ角度が+0.05度)を用いた発光ダイオード素子を比較用素子として作製した。この比較用素子は、上記確認用素子と同一方法で作製した。Inガス流量は、確認用素子と同一としたが、比較用素子における井戸層のIn組成比は、0.2であった。また、比較用素子の障壁層はIn0.02Ga0.98Nとした。そして、確認用素子と同様に、面内光分布の観察を行った。比較用素子は、GaN基板にm面ジャスト基板を用いている点、井戸層のIn組成比が0.2である点および障壁層をInGaNから構成した点を除き、確認用素子(発光ダイオード素子200)と同様の構成とした。なお、図33に示したEL発光パターンが、比較用素子において観察されたEL発光パターン(顕微鏡写真)である。
図33に示したように、比較用素子では、EL発光パターンが輝点状化しているのに対し、図22に示すように、確認用素子では、井戸層のIn組成比が高いにもかかわらず、EL発光パターンの輝点状化が抑制され、均一発光のEL発光パターンとなっているのがわかる。これより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を用いることによって、EL発光パターンの輝点状化が抑制されることが確認された。さらに、障壁層をInGaNから構成した比較用素子では、上記した図31と同様、PL発光パターンにダークラインが発生していたのに対し、障壁層を、Alを含む窒化物半導体層(AlGaN)から構成した確認用素子では、上記した図32と同様、ダークラインの発生は見られなかった。
また、確認用素子および比較用素子の発光効率を測定したところ、確認用素子の発光効率は、比較用素子の発光効率に対して2.2倍に増加していることが確認された。なお、確認用素子の発光波長は、530nmであり、比較用素子の発光波長は、490nmであった。このことより、オフ角度を制御した確認用素子では、m面ジャスト基板を用いた比較用素子に比べて、Inの取り込みに関しても効率がよいことが確認された。以上より、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けることにより、緑色の波長領域において、輝点状発光の抑制効果が得られ、発光効率が増加することが確認された。
さらに、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することにより、530nmと非常に長波長の発光波長領域においても、均一で発光強度の高い素子が得られることが確認された。また、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することにより得られる効果である、長波長領域での発光強度の増加は、m面、もしくはa面などの成長主面を持つ無極性基板を用いた場合に好ましく得られることが確認された。この場合、Alを含む窒化物半導体層を平坦性よく、結晶性よく成膜することができる、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する基板を用いることにより、EL発光パターンの均一性まで非常に良好になるため、より好ましいことが分かった。
続いて、a軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度が異なる複数のGaN基板を用いて、図21に示した発光ダイオード素子200と同様の素子を複数作製し、EL発光パターンの観察等の実験を行った。
その結果、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けることによって、EL発光パターンの輝点状化の抑制効果が得られることが明らかとなった。また、a軸方向のオフ角度が0.1度以下の範囲では、輝点状発光の抑制効果が小さく、a軸方向のオフ角度が0.1度以上になると、EL発光パターンの輝点状化の抑制効果が顕著に現れることが判明した。これより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板の成長主面とすることにより、EL発光パターンの輝点状化を抑制可能であることが確認された。また、a軸方向のオフ角度をc軸方向のオフ角度より大きくすることにより、EL発光パターンの輝点状化がより効果的に抑制されることが確認された。
実施例1による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が1.7度、c軸方向のオフ角度が+0.1度であるGaN基板を用いて、上記実施形態による窒化物半導体レーザ素子と同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。また、井戸層のIn組成比は、0.25とし、障壁層のAl組成比は、2%とした。この実施例1のその他の構成は、上記実施形態と同様である。なお、オフ角度を有さないGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて、上記実施形態による窒化物半導体レーザ素子と同様に作製した窒化物半導体レーザ素子を比較例とした。比較例による窒化物半導体レーザ素子のその他の構成は、実施例1と同様である。
実施例1および比較例について、閾値電流を測定したところ、比較例による窒化物半導体レーザ素子では閾値電流の値が120mA程度であったのに対し、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では閾値電流の値が55mAであり、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では、比較例に比べて、閾値電流が非常に小さくなることが確認された。これは、輝点状発光が抑制されて、面内で均一に発光することでゲインが大きくなったためとも考えられる。さらに、駆動電圧に関しても、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では、比較例に比べて、50mA電流注入時の駆動電圧が、0.4V程度小さくなることが確認された。このような結果が得られた理由として、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板の成長主面とすることによって、p型半導体層におけるMgの取り込まれが変化し、活性化率が向上したためとも考えられる。また、実施例1による窒化物半導体レーザ素子の発光波長は、505nmであった。このように、500nm以上の長波長の発振においても、比較的低い閾値電流密度で発振できたのは、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板と活性層(井戸層)との間に、トータル層厚が0.7μm以下となるようにGaN層を形成することで、表面モフォロジーが改善し、膜の平坦性が改善されたためであると考えられる。さらに、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いることで、ダークラインの発生の抑制などの効果があったものと考えられる。
実施例2による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が4度、c軸方向のオフ角度が+1度であるGaN基板を用いて、障壁層がAlsIntGauN(s+t+u=1)からなる窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例2では、障壁層を、AlsIntGauN(s=0.01,t=0.03,u=0.96)から構成した。すなわち、実施例2では、障壁層をAlInGaNから構成した。実施例2の障壁層以外の構成は、上記実施形態(実施例1)と同様である。また、実施例2においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、障壁層をAlsIntGauN(s+t+u=1)から構成する場合は、上記実施形態のようにIn組成よりAl組成が小さいほうが好ましい。長波長領域の発光波長を実現するために、活性層を900℃以下、通常700℃〜800℃程度の低温で成膜しなければならないため、Inを入れることで、低温成長において結晶性が向上するのではと考えている。また、障壁層を、Inを含むAlInGaN層にすることで、屈折率をAlGaN層に比べ大きくすることができるので、光閉じ込めを効率的に行うことができる。
実施例3による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が6度、c軸方向のオフ角度が−1.1度であるGaN基板を用いて、障壁層がAlsIntGauN(s+t+u=1)からなる窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例3では、第1障壁層をAlsIntGauN(s=0.01,t=0,u=0.99)から構成し、第2障壁層および第3障壁層を、AlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成した。すなわち、実施例3では、第1障壁層をAlGaNから構成し、第2および第3障壁層をそれぞれAlInGaNから構成した。実施例3の障壁層以外の構成は、上記実施形態(実施例1)と同様である。また、実施例3においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、実施例3のように、第1障壁層と第2および第3障壁層との組成が異なっていてもよいし、全ての障壁層のAl組成が異なっていてもよい。
実施例4による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が6度、c軸方向のオフ角度が+2度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。すなわち、実施例4では、障壁層をAlGaNから構成した。ただし、実施例1では、3つの障壁層(第1障壁層、第2障壁層および第3障壁層)のAl組成比を同じに構成しているのに対し、この実施例4では、異なるAl組成比とした。具体的には、第1障壁層のAl組成比を2%、第2および第3障壁層のAl組成比を0.08%とした。この実施例4においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、実施例4のように、第1障壁層のAl組成比が、他の障壁層のAl組成比より高い場合においても、同様の効果が得られた。
実施例5による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が8度、c軸方向のオフ角度が+4度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、実施例5では、基板の成長主面と接する半導体層は、n型GaN層ではなく、下部クラッド層となっている。すなわち、実施例5では、n型GaN層が形成されておらず、基板の成長主面上に、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層から窒化物半導体層が積層されている。なお、この場合も同様の効果が得られた。
実施例6による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が3度、c軸方向のオフ角度が+1度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、基板の成長主面と接する半導体層は、n型GaN層に代えて、約0.1μmの厚みを有するIn0.02Ga0.98NからなるInGaN層となっている。すなわち、実施例6では、InGaN層始まりで、窒化物半導体各層が形成されている。この場合も同様の効果が得られた。
実施例7による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が4度、c軸方向のオフ角度が+1度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、実施例7では、基板の成長主面と接する半導体層は、n型GaN層ではなく、約0.1μmの厚みを有するn型In0.02Ga0.98Nとなっている。すなわち、実施例7では、n型GaN層が形成されておらず、基板の成長主面上に、約0.1μmの厚みを有するn型In0.02Ga0.98Nからなる窒化物半導体層が積層されている。その上に、約1.5μmの厚みを有するn型Al0.10Ga0.94N(層厚:4nm)/GaN(層厚:2nm)の1周期の構造を持つ超格子構造からなる下部クラッド層が形成されている。なお、この場合も同様の効果が得られた。
この実施例8では、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が3度、c軸方向のオフ角度が+0.5度であるGaN基板を用いて、LEDを作製した。この実施例8では、基板の成長主面上に、n型Al0.01Ga0.99N層を約1μmの層厚で成膜した後、Al0.01Ga0.99N(層厚:約15nm)/In0.25Ga0.75N(層厚:約3nm)の4QW活性層を成膜した。次に、4QW活性層上に、p型Al0.1Ga0.8Nキャリアブロック層を約20nmの層厚で成膜した。そして、p型Al0.1Ga0.8Nキャリアブロック層上に、約0.2μmの層厚でp型GaNコンタクト層を成膜した。その後、p型GaNコンタクト層上に、酸化物系透明導電膜であるITO(Indium Tin Oxide)をEB(Electron Beam)蒸着機により約50nmの層厚で成膜することにより、ITOからなるp側電極を形成した。このように構成された実施例8においても、ダークラインの発生抑制効果、発光効率の改善効果および輝点状発光の抑制効果が得られた。
なお、上記酸化物系透明導電膜として、酸化インジウム系のITO透明導電膜以外に、酸化亜鉛が主原料のZnO系透明導電膜、酸化スズ系のSnO2系透明導電膜などを用いてもよい。これらの透明導電膜を用いることで、光取り出し効率を格段に向上させることができる。また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する基板を用いることで、表面モフォロジーの改善したp型層上に形成することができるので、低いコンタクト抵抗を得ることが出来、また、輝点状発光が抑制されて均一発光、均一注入できることで、発光効率の向上が可能となり、上記基板上に形成した窒化物半導体層のコンタクト電極に用いることは、非常にメリットが大きく好ましい。電極アニール温度が低温で可能な、ITO電極は、活性層に熱ダメージを与えにくいという観点で特に好ましい。実施例8では、アニール処理を400度で行っている。
この実施例9では、実施例8と同様の基板を用いて、実施例8とほぼ同じ構造のLEDを作製した。ただし、実施例9では、AlsIntGauN(s=0.01,t=0.03,u=0.96)障壁層を用いている。この場合も上記と同様の効果が得られた。また、障壁層がAlを含み、更にInを含むことで、低温での成長が可能となるため、好ましい。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、実施例8および9で示したように、窒化物半導体発光ダイオード素子に本発明を適用することもできる。また、窒化物半導体レーザ素子や窒化物半導体発光ダイオード素子などの窒化物半導体発光素子以外の半導体素子に本発明を適用してもよい。たとえば、パワートランジスタやIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)などの電子デバイスに本発明を適用してもよい。
また、上記実施形態では、a軸方向のオフ角度を0.1度より大きい角度に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、a軸方向のオフ角度は0.1度以下の角度であってもよい。ただし、輝点状発光の抑制効果や表面モフォロジーなどを考慮すると、a軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度であることが好ましい。
また、上記実施形態では、活性層の量子井戸構造を、DQW構造に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、DQW構造以外の量子井戸構造に活性層を構成してもよい。たとえば、活性層の量子井戸構造を、SQW(Single Quantum Well)構造に構成してもよい。具体的には、たとえば、図23に示すように、下部ガイド層13上に、InGaNからなる1つの井戸層54aと、Al0.005Ga0.995Nからなる2つの障壁層54bとが交互に積層されたSQW構造を有する活性層54を形成することができる。なお、井戸層54aの厚みは、約3nm〜約4nm、障壁層54bの厚みは、約70nmに構成することができる。また、上記実施形態の構成において、活性層をSQW構造に構成することにより、活性層をDQW構造に構成した場合に比べて、駆動電圧を低減することが可能となる。具体的には、SQW構造の活性層では、DQW構造の活性層に比べて、50mA電流注入時の駆動電圧が0.1V〜0.25V程度低減する。これは、DQW構造の場合、二つの井戸層に挟まれた障壁層のキャリアが空乏化するために、障壁層で大きな電界がかかってしまうために引き起こされているのではないかと考えられる。また、上記活性層は、SQW構造以外に、MQW構造に構成してもよい。活性層をSQW構造またはMQW構造にした場合でも、輝点状発光の抑制効果を得ることができる。なお、井戸層が3層以上の多重量子井戸構造の場合には、光閉じ込めを有効に行うことができるため、ゲインを高めることができる。
また、上記実施形態では、窒化物半導体基板としてGaN基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、GaN基板以外の窒化物半導体基板を用いてもよい。たとえば、InGaN、AlGaN、および、AlGaInNなどからなる窒化物半導体基板を用いてもよい。また、基板上に結晶成長される窒化物半導体各層については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。また、導電型を一部の半導体層について変更してもよい。すなわち、窒化物半導体レーザ素子としての基本特性が得られる限り自由に変更可能である。
また、上記実施形態では、井戸層のIn組成比を、0.2〜0.25に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、井戸層のIn組成比は、0.15以上0.45以下の範囲内で適宜変更することができる。また、井戸層のIn組成比は、0.15より小さい値にしてもよい。また、井戸層には、5%以内であればAlが含まれていてもよい。また、キャリアブロック層には、7%以内程度であればInが含まれていても良い。Inを含むことで、低温にて結晶性の良い膜を形成しやすくなるため好ましく、さらに、Alを含む、または、AlとInとを含む窒化物半導体半導体層で形成された障壁層を含んで構成される活性層への歪を軽減することができるため、好ましい。
また、上記実施形態において、障壁層のAl組成比x2は、0<x2≦0.08の範囲内で適宜変更することができる。なお、障壁層をAlGaNから構成することによって、井戸層のIn組成比を増加したときに活性層に発生する、c軸方向に対して平行方向に入る転位(EL発光パターンを見るとダークラインのように見える)を抑制することができる。
また、上記実施形態では、活性層の障壁層をAlGaNから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、AlGaN以外の、たとえば、AlInGaN層、AlInN層などから障壁層を構成することもできる。そして、このように構成することによっても、発光効率および信頼性を向上させることができる。
また、上記実施形態では、キャリアブロック層と井戸層との間の距離を第3障壁層の厚みと同じにしたが、キャリアブロック層と井戸層(最もキャリアブロック層側の井戸層)との間に組成の異なる複数の窒化物半導体層を形成してもよい。また、キャリアブロック層と井戸層(最もキャリアブロック層側の井戸層)の間の一部にMgなどのp型不純物をドーピングし、p型化することも好ましい。なお、上記実施形態では、ノンドープとしている。
また、上記実施形態では、基板と活性層との間に、n型GaN層および下部ガイド層の2つのGaN層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、トータル層厚が0.7μm以下であれば、上記以外のGaN層が形成されていてもよい。また、基板と活性層との間に、GaN層が形成されない構成にしてもよい。この場合、基板上に積層される層構造にGaN層を含まず、これらの層構造を、InGaN、AlGaN、InAlGaN、InAlNなどのGaNとは異なる組成の半導体層で構成するのが好ましい。
また、上記実施形態では、GaN基板の成長主面と接する半導体層をGaN層とした例を示したが、本発明はこれに限らず、GaN基板の成長主面と接する半導体層は、AlGaN、AlInGaN層、AlInN層、InGaN層、または、InN層などであってもよい。
なお、窒化物半導体基板と接して形成される半導体層は、n型の導電型であってもよいし、p型の導電型であってもよい。また、アンドープであってもよい。
また、上記実施形態では、3層の障壁層の全てをAlGaN層とした例を示したが、本発明はこれに限らず、3層の障壁層の一部の層を、AlGaN層としてもよい。複数の障壁層のうち、井戸層と接する少なくとも1層がAlを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成されていれば、発光効率向上の効果は得られる。なお、活性層の井戸層の層数が異なると障壁層の層数も異なるが、この場合でも、少なくとも1層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することで、上記効果が得られる。上記実施形態を例にすると、たとえば、井戸層を形成する前の下地の平坦性を向上させるためには、井戸層を形成する前の下地層である第1障壁層と第2障壁層とをAlを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。また、AlGaN層は、InGaN層の蒸発防止層としての役割も果たすため、蒸発防止の観点から、井戸層上に形成される第2障壁層と第3障壁層とをAlを含む窒化物半導体層とすることもできる。さらに、第2障壁層を、第1井戸層と接する側と、第2井戸層と接する側との2層構造として、第2障壁層の第1井戸層と接する側を下部第2障壁層、第2障壁層の第2井戸層と接する側と上部第2障壁層としてもよい。下地の平坦性を向上させるためには、上部第2障壁層を、Alを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。一方、蒸発防止の観点から、下部第2障壁層を、Alを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。また、全ての障壁層を、Alを含む窒化物半導体層としてもよい。
また、上記実施形態では、複数の障壁層を異なる厚みに形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、複数の障壁層を同じ厚みに形成してもよい。
また、上記実施形態では、GaN基板上に、基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とした状態で、活性層の障壁層をAlGaNから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記GaN層のトータル層厚が0.7μmより大きい場合であっても、障壁層をAlGaNから構成することで、発光効率向上の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、キャリアブロック層を40nm以下の厚みに形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、キャリアブロック層の厚みは40nmより大きくてもよい。また、キャリアブロック層に、3%程度のInが含まれていても、本発明の効果は得られる。また、キャリアブロック層のAl組成比は、駆動電圧低減の目的から、上部クラッド層のAl組成比より高いことが好ましい。
また、上記実施形態では、n型半導体層のn型不純物としてSiを用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、n型不純物として、Si以外に、たとえば、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgまたはBeを用いてもよい。なお、n型不純物としては、Si、OおよびClが特に好ましい。
また、上記実施形態では、絶縁層をSiO2から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO2以外の絶縁性材料から構成してもよい。たとえば、SiN、Al2O3やZrO2などから絶縁層を構成してもよい。
また、上記実施形態において、結晶軸方向([1−100]方向、[11−20]方向および[0001]方向)は、結晶学的に等価な方向であればよい。
また、上記実施形態では、MOCVD法を用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、MOCVD法以外のエピタキシャル成長法を用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させてもよい。MOCVD法以外の方法としては、たとえば、HVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy)、および、MBE法(Molecular Beam Epitaxy)などが考えられる。