本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本願発明者らが種々検討を行うことによって得た知見について説明する。
上述したように、本願発明者らは、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、窒化物半導体基板の成長主面とすることにより、EL発光パターンの輝点状化を抑制することが可能であることを見出した。
ここで、m面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて発光素子を形成する場合、通常、活性層は、井戸層と障壁層とを含む多層膜から構成される。この場合、従来では、光閉じ込めを有効に行うことや、活性層に発生する歪みを緩和することなどを目的として、InaGa1-aN(0<a≦1)の井戸層と、InbGa1-bN(0≦b<1:a>b)の障壁層とが一般的に用いられていた。
しかしながら、上記のような従来の活性層構造を用いた場合、活性層(井戸層)のIn組成比の増加に伴い、窒化物半導体発光素子のEL発光パターン中に、図28に示すようなダークラインが発生する場合があることを本願発明者らは突き止めた。
また、本願発明者らの検討によって、障壁層にInGaN層を用いた場合、ダークラインの発生が顕著になることが分かった。この場合、障壁層に含まれるIn組成比bが大きくなるにしたがい、ダークラインの発生が顕著となることも分かった。さらに、障壁層にGaN層を用いた場合においても、井戸層のIn組成比aが大きくなると、成長条件や構造の違いなどで、ダークラインが発生することが分かった。
また、上記したダークラインは、EL発光パターン中だけでなく、図29に示すように、PL発光(光励起にて、発光させたときの面内光分布)パターン中でも観測される。このようなダークラインの発生は、素子の発光効率を低下させるため好ましくない。また、この活性層のIn組成を増加させた際に発生するダークラインは、m面のc軸方向(〈0001〉方向)に発生する。ダークラインは基板などのGaNと活性層のInGaN層との格子定数や、熱膨張係数の違いから発生するミスフィット転位などの欠陥によって発生すると推測される。これまで一般的に用いられてきたc面(0001)などでは、Inの増加に伴いこのようなダークラインの発生は起こらなかった。このため、このようなダークラインの発生は、無極性面、特にm面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体発光素子特有の現象であると考えられる。
このように、m面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体発光素子では、c面を用いた窒化物半導体発光素子とは異なり、自発分極やピエゾ分極に起因する発光効率の低下は抑制されるものの、ダークラインの発生に起因して、発光効率の低下や、発光効率の経時劣化を引き起こすという問題があることも見出した。このようなダークラインの発生は、m面を用いた窒化物半導体発光素子において、発光波長の長波長化を図る際の妨げとなるため、非常に問題となる。特に、半導体レーザ素子においては、発光効率の低下はゲイン(利得)の低下を引き起こすため、問題が大きい。
また、輝点状発光は、EL発光パターンにおいて観測することができるが、PL発光パターンでは顕著に観測することが出来ない。このため、輝点状発光は、電流注入の不均一から引き起こされる現象が主な原因であると考えられる。特に、電流注入量が小さい、たとえば電流を徐々に増加させていき、発光しはじめから、p側電極の直径が220μm程度の場合、50mA程度の電流注入密度の範囲で非常に顕著に見られる。大電流領域においても、発光効率が抑制されるため好ましくない。このため、低電流密度で駆動する場合が多い発光ダイオード素子(LED)を作製した場合に問題となる。また、高電流密度で駆動する半導体レーザ素子(LD)を作製した場合にも問題となる。
これに対してダークラインは、PL発光パターンでも、EL発光パターンでも顕著に観察される。このことから、輝点状発光と、ダークラインの発生とは別原因であり、異なるメカニズムから発生していることが分かった。
そこで、上記知見をもとに、本願発明者らが鋭意検討した結果、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)から構成することにより、ダークラインの発生を抑制することが可能となることを初めて見出した。すなわち、Alを含む窒化物半導体から障壁層を形成することによって、図30に示すように、ほぼ完全にダークラインの発生を抑制できることが分かった。障壁層を構成する窒化物半導体層としては、最も好ましいのが、AlGaN層およびAlInGaN層であり、次に好ましいのがAlInNである。また、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)であれば、いずれであっても、上記効果は得られる。さらに、活性層の障壁層に、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を用いる場合、活性層の井戸層はInGaNから構成されているのが好ましい。障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いる場合、m面などの無極性面であればダークラインの発生抑制効果が得られる。
また、障壁層をAlInGaNから構成した場合、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、障壁層上に形成された井戸層に取り込まれるIn量が増加することが分かった。このため、障壁層をAlInGaNから構成することによって、成長条件の範囲を広くとることできるので好ましい。また、AlGaNにInを添加したAlInGaNは、より低温で成長させた場合でも、良好な結晶性を有する膜を形成し易い。そのため、600℃〜800℃程度の比較的低い成長温度で形成される場合が多い障壁層を、AlInGaNから構成することにより、上記のような比較的低温で障壁層を形成した場合でも、結晶性の良好な障壁層を得ることができるので好ましい。また、障壁層をAlInGaNとすることで、井戸層に対して障壁層が与える歪を低減することができるため、好ましい。井戸層にかかる歪が小さい方が、発光素子が駆動中に劣化する速度が遅くなるためより好ましい。
なお、上記した図28は、EL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、図28のEL発光パターンは、m面を成長主面とするGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて作製した発光ダイオード素子のEL発光パターンを示している。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.2Ga0.8Nから構成されており、障壁層がIn0.02Ga0.98から構成されている。
また、上記した図29は、PL発光パターン中に観察されたダークラインの顕微鏡写真であり、図29のPL発光パターンは、m面を成長主面とするGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて作製した発光ダイオード素子のPL発光パターンを示している。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.2Ga0.8Nから構成されており、障壁層がIn0.02Ga0.98から構成されている。
さらに、上記した図30は、障壁層をAlGaNから構成した発光ダイオード素子のPL発光パターンの顕微鏡写真である。この発光ダイオード素子は、井戸層がIn0.25Ga0.75Nから構成されており、障壁層がAl0.01Ga0.99Nから構成されている。また、窒化物半導体基板として、m面a軸オフ基板(a軸方向のオフ角度:1.7度、c軸方向のオフ角度:+0.1度)を用いている。
一方、本願発明者らが、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて、その成長主面上に、GaN層(故意にドーピングしないノンドープGaN層、または、n型不純物を故意にドーピングしたn型GaN層)を1μm程度の厚みで形成したところ、面内の層厚分布が非常に悪化することが分かった。このときの層厚分布は、a軸方向にオフ角度を有さないm面GaN基板上にGaN層を1μm程度の厚みで形成した場合の層厚分布と比べても、非常に悪いものであった。このように、基板と同じ組成のGaN層を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などのエピタキシャル成長法を用いて、基板上に形成した場合に、面内で大きな層厚分布を引き起こすという現象は、非常に特異な現象であると考えられる。
図31は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にGaN層を1μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図31は、成長主面上に、GaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。図31に示すように、半導体層の層表面には、a軸方向と平行方向に、非常に強い波状の凹凸が見られる。また、図31の窒化物半導体層には、200nm〜400nm程度の層厚の分布があり、このような層厚分布の均一性が損なわれた半導体層では、素子を形成することは非常に困難となる。
これまで、一般的には、基板と同じ組成の半導体層を、基板表面(成長主面)に接するように形成することで、層表面の平坦性および半導体層の結晶性を向上させ、その上に素子を形成することが行われている。たとえば、基板がGaN基板であれば、まず、GaN層が基板上に形成される。これにより、基板の組成と、基板表面(成長主面)に形成される半導体層(GaN層)の組成とが同じになるために、格子定数差や熱膨張係数差などがなく、歪みの発生が抑制される。そして、このようにすることによって、平坦性が高く、結晶性の良い半導体層を形成できることが知られている。実際に、c面を成長主面とする窒化物半導体基板(たとえば、c面GaN基板)を用いて、その成長主面上に結晶成長を行う場合には、通常、上記のようなことが行われている。そして、この場合(c面GaN基板上にGaN層を形成する場合)には、非常に綺麗な表面モフォロジーが得られる。これが通常の現象であると考えられる。
しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板に関しては、上述のように、上記構成を適用することによって、表面モフォロジーが悪化することが今回初めて分かった。
そこで、本願発明者らが鋭意検討を行った結果、表面モフォロジーの悪化には、GaN層の層厚が関与していることを見出した。すなわち、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板では、1μm程度の厚みを有するGaNの厚膜を成膜することで、著しく表面モフォロジーが悪化し、図31に示すような特異な表面モフォロジーになってしまうことが、本検討の結果、分かった。
また、本願発明者らは、成長主面上に形成されたGaN層のトータル層厚が大きくなればなるほど、表面モフォロジーが悪化することも見出した。なお、上記トータル層厚とは、GaN層が1層の場合は、そのGaN層の層厚を意味し、GaN層が複数層の場合には、複数のGaN層の層厚を累積した(合計した)層厚を意味する。そのため、活性層を形成するまでに層厚の大きいGaN層を形成すると、表面モフォロジーが悪化し、その悪化した層の表面上に活性層を形成すると、活性層が悪化した表面モフォロジーの影響を受けて、面内において、In組成の多い領域とIn組成の少ない領域とに分かれてしまう。これにより、組成の面内分布が発生することが分かった。また、活性層の組成の面内分布だけでなく、活性層の結晶性も劣化するためか、発光強度も低下することが分かった。
そして、上記知見をもとに、本願発明者らがさらに検討を重ねた結果、基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることで、表面モフォロジーを改善することが可能となることを見出した。基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚は、0.5μm以下であればより好ましく、0.3μm以下であればさらに好ましい。
また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて窒化物半導体素子を形成する場合には、活性層を形成するまでに、出来るだけGaN層を形成しないことが好ましいことも明らかとなった。
このように、GaN層のトータル層厚を0.7μm以下とする上記条件を満足するように、窒化物半導体層を形成することで、表面モフォロジーが改善され、層表面を平坦化することが可能となる。そして、その平坦化した層の表面上に、活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)を形成することによって、In組成の面内分布を抑制し、発光効率を改善することが可能となる。
なお、発光効率を改善するという観点からは、基板とInを含む窒化物半導体層である井戸層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とするのが好ましい。また、井戸層が複数層形成されている場合には、最も基板側の井戸層と窒化物半導体基板との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることもできるし、他の井戸層と窒化物半導体基板との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とすることもできる。
図32は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にGaN層を0.1μm程度の厚みで形成した後、GaN層上にAlGaN層を0.9μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図32は、成長主面上にGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。また、AlGaN層の組成は、Al0.05Ga0.95Nである。さらに、図32では、GaN層とAlGaN層との合計厚みを1μm程度とすることで、GaN層とAlGaN層との合計厚みが、図31のGaN層の層厚と同じになるように構成している。すなわち、図32では、層厚1μm程度のGaN層を形成する代わりに、層厚0.1μm程度のGaN層と層厚0.9μm程度のAlGaN層とを形成している。
図32に示すように、層厚0.1μm程度のGaN層を形成した場合の表面モフォロジーは非常に良好であり、図31に示した層厚1μm程度のGaN層を形成した場合に比べて、層表面の平坦性が著しく向上していることが分かる。このように、GaN層の層厚が厚くなるにともない、表面モフォロジーが悪化してくる。これに対し、GaN層の層厚を薄くすることで、表面モフォロジーの悪化が抑制される。また、GaNの厚膜を形成することにより、表面モフォロジーが悪化してしまうと、その後、AlGaN層を形成した場合でも、一度崩れた表面モフォロジーはあまり改善されず、積層される半導体層の層厚が増加するにしたがい、表面モフォロジーが悪化することも分かった。
また、今回の検討により、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いる場合には、成長主面と接する半導体層を、InyGa1-yN(0<y≦1)、AlxGa1-xN(0<x≦1)またはAlaInbGacN(a+b+c=1)から構成するのが好ましいことも分かった。
InyGa1-yN(0<y≦1)の場合には、表面モフォロジーをより良好に保つための条件として、0<y≦0.1がより好ましく、窒化物半導体基板の成長主面と接する層の層厚としては、0.7μm以下がより好ましい。成長主面と接する半導体をInGaNとした場合には、成長温度が700℃〜900℃程度の低温で成膜する。m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いる場合には、成膜前の基板温度の昇温で、1100℃程度を超えるような温度にあげた場合、炉内の雰囲気(ガス流量、圧力などの条件)により、成長前に基板表面からN(窒素)やGa(ガリウム)が蒸発して、基板の表面荒れを起こすことがある。この表面荒れは、900℃以下の基板温度では、起こらないことが分かった。このためInGaNは低温(700℃〜900℃程度)で成膜することができるため、基板表面の表面荒れを効果的に抑制することができるので好ましい。
また、AlaInbGacN(a+b+c=1、0<a≦1、0<b≦1、0≦c<1)の場合も、Inが含まれる場合は、低温成膜が可能となるため、InGaNの場合と同様の効果が得られる。また、この場合においても、基板の成長主面と接する層の層厚としては、0.7μm以下であるのがより好ましく、Al組成比aが0<a≦0.1で、かつ、In組成比bが0<b≦0.1であれば表面モフォロジーの観点でより好ましい。つまり、AlとInとを含む窒化物半導体層を成長主面に接する半導体層として用いた場合、低温の成長において、平坦性の高い膜を形成しやすいという観点でより好ましい。
なお、この場合においても、上述のように、基板と活性層(井戸層)との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とするのが好ましい。
図33は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にAlGaN層を0.2μm程度の厚みで形成した後、AlGaN層上にGaN層を0.9μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図33は、成長主面上にAlGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。また、AlGaN層の組成は、Al0.05Ga0.95Nである。
成長主面と接する半導体層をAlGaN層とすることにより、AlGaN層では、良好な表面モフォロジーが得られる。しかしながら、AlGaN層上に0.7μmを超える0.9μm程度の層厚のGaN層を形成することにより、図33に示すように、表面モフォロジーが悪化する。すなわち、基板とGaN層との間に、AlGaN層(Al0.05Ga0.95N層)を形成しても、GaN層の厚みが大きければ、表面モフォロジーが悪化することが分かった。
また、複数のGaN層の間に、AlGaN層などを形成した場合(たとえば、GaN層/AlGaN層/GaN層/AlGaN層の4層構造)でも、GaN層のトータル層厚が0.7μmより大きくなると表面モフォロジーが悪化することも分かった。たとえば、基板の成長主面上に、GaN層を1μm程度の層厚で形成し、その後、AlGaN層(たとえば、Al0.05Ga0.95N層)を1μm程度の層厚で形成した場合でも、GaN層を形成することによって悪化した表面モフォロジーは回復せず、図31と同様の表面モフォロジーとなった。
結果として、基板上に(基板と活性層(井戸層)との間に)形成されたGaN層のトータル層厚により、表面モフォロジーが決定されるため、活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)を形成するまでに、GaN層のトータル層厚が大きくなり過ぎるのを抑制する必要があることが本検討により分かった。
なお、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いる場合には、基板上に積層される層構造(発光素子の層構造)の中にできるだけGaN層を含まないように構成するのが好ましいが、光閉じ込めなどを行うために、光ガイド層としてGaN層を用いることも可能である。また、非常に薄いGaN層をAlGaNや、AlInGaN、InGaNとの超格子状(AlGaN/GaN/AlGaN/GaN・・・・、AlInGaN/GaN/AlInGaN/GaN・・・・、InGaN/GaN/InGaN/GaN・・・・など)に形成することで、表面モフォロジーの悪化を抑制しながら、GaNのトータル層厚を厚くすることができる。そして、上記超格子構造を、光ガイド層、光クラッド層として用いることができる。上記構造を用いることで、薄膜のGaN層を用いて、比較的良好な層を形成することもできる。この場合の超格子構造に用いられる薄膜のGaN層の層厚は、1nm以上50nm以下が特に好ましい。ただし、この場合でも、基板と活性層(井戸層)との間に形成されるGaN層のトータル層厚は、0.7μm以下に抑えることが必要である。
また、特性の優れた発光素子または電子デバイスを得るためには、上述したように、基板上に積層される層構造にGaN層を含まず、これらの層構造を、InGaN、AlGaN、InAlGaN、InAlNなどのGaNとは異なる組成の半導体層で構成するのが好ましい。
さらに、今回の検討により、AlまたはInを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)では、GaN層と異なり、1μmを超える層厚で形成した場合でも、表面モフォロジーの悪化が抑制されることが分かった。このため、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いて、LD構造を作製する場合、光クラッド層として、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層などの、Alを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。もしくはAlとInとを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。また、光ガイド層として、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層などのInを含む窒化物半導体層を用いることも好ましい。
無極性面の窒化物半導体基板を用いた場合、活性層の障壁層にAlを含む窒化物半導体層、もしくはAlとInとを含む窒化物半導体層を用いる場合は、活性層の歪を緩和する、ダークラインの発生を抑制するなどの目的から、光クラッド層として、AlInGaN層、AlInN層などの、AlとInとを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。また、光ガイド層として、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層などのInを含む窒化物半導体層、もしくはAlとInを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。もちろん、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた場合においても上記と同様のことが言える。
図34は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上に、Al組成比が5%のAlGaN層を2μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真である。なお、図34は、成長主面上にAlGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。図34に示すように、Alを含む窒化物半導体層を厚膜で形成した場合の表面モフォロジーは非常に良好であることが分かる。これより、AlまたはInを含む窒化物半導体層を厚膜で形成した場合でも、表面モフォロジーの悪化が抑制されることが分かった。基板表面(成長主面)に接する半導体層を、AlまたはInを含む窒化物半導体層とすることで、その成長モードが変わり、平坦性と結晶性とが向上するものと考えられる。
上記のように、基板表面(成長主面)に接する半導体層を、AlまたはInを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)にすることで、表面モフォロジーが顕著に向上する。このような現象は、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた場合の特徴的な現象であり、これまで全く報告がなく、今回の検討で初めて得られた知見である。
参考のために、m面に対してc軸方向に+0.5度のオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にAlGaN層を1μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真を図35に示す。また、m面に対してc軸方向に+0.5度のオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて、その成長主面上にGaN層を1μm程度の厚みで形成したときの表面モフォロジーを、光学顕微鏡を用いて観察した顕微鏡写真を図36に示す。図35は、成長主面上にAlGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示しており、図36は、成長主面上にGaN層始まりで窒化物半導体各層を積層した状態の表面モフォロジーを示している。
図35および図36に示すように、いずれも、表面モフォロジーは悪く、両者で大きな変化は見られない。通常は、このように、GaN層を形成した場合(GaN層始まりの場合)と、AlGaN層を形成した場合(AlGaN層始まりの場合)とで、その表面モフォロジーに大きな差はない。このため、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板は、上記のような特異な現象を示すことが分かった。
以上より、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板上に、GaN層を形成する場合には、基板表面(成長主面)から活性層(Inを含む窒化物半導体層である井戸層)までの間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。また、GaN層のトータル層厚が0.3μm以下であれば、さらに好ましい。GaN層のトータル層厚が0.5μm以下であれば、表面モフォロジーの大きな悪化は起こらないため、その後、AlGaN層を形成するなどして、基板上に複数のGaN層を形成することは可能である。ただし、基板表面(成長主面)から活性層(井戸層)の間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下という条件を満たす必要がある。
また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板は、平坦性および結晶性の良好な、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を成膜するのに非常に適した無極性基板であることが、本願発明者らの検討によって明らかとなった。そして、このような特徴を有する上記基板を用いて、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)で形成することにより、上記したダークラインの発生抑制効果に加えて、障壁層の平坦性および結晶性を向上させる効果も得られ、発光効率を大幅に向上させることが可能となることも見出した。
なお、m面の窒化物半導体基板のうち、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板では、上述したように、n型GaN層またはノンドープGaN層を、1μmを超える厚みで成膜すると表面モフォロジーが悪化する。しかしながら、p型化する不純物を故意にドーピングしたp型GaN層では、0.5μm程度の厚みで成膜した場合でも、表面モフォロジーの悪化が見られなかった(すなわち、n型GaN層およびノンドープGaN層のトータル層厚が0.7μm以下であれば、さらに、p型GaN層を0.5μm程度の厚みで成膜した場合でも、表面モフォロジーの悪化が見られなかった。)。このため、コンタクト層にp型GaN層を用いることも十分可能である。ただし、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を形成した場合には、表面モフォロジーが良化するため、コンタクト層を、Alを含む窒化物半導体を用いて形成するのが好ましい。これにより、表面モフォロジーが良化し、より層厚の面内分布が改善するため、電流注入の均一性が向上する。それにより、発光パターンの良化による発光効率の向上や電圧低減効果などが得られるため、好ましい。
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の第1〜第4実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子に本発明を適用した例について説明する。また、以下の第5実施形態では、窒化物半導体素子の一例である発光ダイオード素子に本発明を適用した例について説明する。また、以下の実施形態において、「窒化物半導体」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる半導体を意味する。
(第1実施形態)
図1は、窒化物半導体の結晶構造を説明するための模式図である。図2は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図3は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の全体斜視図である。図4〜図6は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の構造を説明するための図である。まず、図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の構造について説明する。
第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100を構成する窒化物半導体は、図1に示すように、六方晶系の結晶構造を有している。この結晶構造において、六角柱とみなせる六方晶のc軸[0001]を法線とする面(六角柱の上面)をc面(0001)と呼び、六角柱の側壁面の各々をm面{1−100}と呼ぶ。窒化物半導体では、c軸方向に対称面が存在しないため、分極方向がc軸方向に沿っている。このため、c面は、+c軸側と−c軸側とで異なる性質を示す。すなわち、+c面((0001)面)と−c面((000−1)面)とは等価な面ではなく、化学的な性質も異なる。一方、m面は、c面に対して直角な結晶面であるため、m面の法線は、分極方向に対して直交している。このため、m面は、極性のない無極性面である。なお、上述のように、六角柱の側壁面の各々がm面となるため、m面は、6種類の面方位((1−100)、(10−10)、(01−10)、(−1100)、(−1010)、(0−110))で示されるが、これらの面方位は、結晶幾何学的に等価な面方位であるため、これらを総称して{1−100}と示す。
また、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図2および図3に示すように、窒化物半導体基板としてのGaN基板10を備えている。このGaN基板10の成長主面10aは、m面に対してオフ角度を有する面からなる。具体的には、窒化物半導体レーザ素子100のGaN基板10は、m面に対して、a軸方向([11−20]方向)にオフ角度を有している。上記GaN基板10は、a軸方向のオフ角度に加えて、c軸方向([0001]方向)にもオフ角度を有していてもよい。
ここで、図4を参照して、GaN基板10のオフ角度についてより詳細に説明する。まず、m面に対して、a軸[11−20]方向およびc軸[0001]方向の2つの結晶軸方向を定義する。これらa軸およびc軸は、互いに垂直な関係となっているとともに、m軸に対しても互いに垂直な関係となっている。また、GaN基板10の結晶軸ベクトルが基板表面(成長主面)の法線ベクトルと一致する場合(全ての方向に対してオフ角度が0になった場合)に、a軸方向、c軸方向、m軸方向と平行となる方向をそれぞれX方向、Y方向、Z方向とする。次に、Y方向の法線を持つ第1面、および、X方向の法線を持つ第2面を考える。そして、結晶軸ベクトルを第1面および第2面に投影したときに現れる結晶軸ベクトルを、それぞれ、第1投影ベクトルおよび第2投影ベクトルとする。このときの第1投影ベクトルと法線ベクトルとのなす角θaがa軸方向のオフ角度であり、第2投影ベクトルと法線ベクトルとのなす角θcがc軸方向のオフ角度である。なお、a軸方向のオフ角度は、+方向と−方向とで、結晶的にみて同じ表面状態になるため、+方向と−方向とで同じ特性を有する。このため、絶対値で記載することができる。一方、c軸方向は、+方向と−方向とで、Ga極性面が強くなる場合と、N極性面が強くなる場合とがあり、方向により特性が異なるため、+方向と−方向とを区別して記載する。
このように、第1実施形態によるGaN基板10は、その成長主面10aが、m面{1−100}に対してa軸方向に傾斜した面となっている。
また、上記GaN基板10は、m面に対するa軸方向のオフ角度の絶対値が、それぞれ、0.1度より大きい角度に調整されている。ただし、a軸方向のオフ角度が大きくなるに従い、活性層(井戸層などのInGaN層)に取り込まれるInの量が減少する傾向があるため、原料効率などの点から、a軸方向のオフ角度の絶対値は、10度以下であるのが好ましい。なお、a軸方向のオフ角度が10度以上の角度であっても、成膜は可能である。また、c軸方向にもオフ角度を有している場合には、c軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度に調整されているのが好ましい。c軸方向のオフ角度は、a軸方向のオフ角度より小さい角度に調整されているのが好ましい。
また、上記の場合において、a軸方向のオフ角度は、1度より大きく、かつ、10度以下の角度に調整されているのが好ましい。a軸方向のオフ角度が、このような範囲となるように調整されていれば、駆動電圧の低減効果が大きくなることに加えて、表面モフォロジーの改善効果も得られるためより好ましい。
また、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、上記したGaN基板10の成長主面10a上に、複数の窒化物半導体層が積層されることによって形成されている。
具体的には、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図2および図3に示すように、GaN基板10の成長主面10a上に、約0.1μmの厚みを有するn型GaN層11が形成されている。n型GaN層11上には、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層12が形成されている。下部クラッド層12上には、約0.1μmの厚みを有するn型GaNからなる下部ガイド層13が形成されている。下部ガイド層13上には、活性層14が形成されている。なお、上記GaN基板10は、n型に構成されている。また、下部ガイド層13は、ノンドープであってもよい。
上記活性層14は、図5に示すように、井戸層14aと障壁層14bとが交互に積層された量子井戸構造を有している。
ここで、第1実施形態では、上記活性層14は、その障壁層14bがAlを含む窒化物半導体であるAlGaNから構成されている。具体的には、上記活性層14は、Inx1Ga1-x1Nからなる2つの井戸層14aと、Alx2Ga1-x2Nからなる3つの障壁層14bとが交互に積層された量子井戸(DQW;Double Quantum Well)構造を有している。より具体的には、活性層14は、下部ガイド層13側から、第1障壁層141b、第1井戸層141a、第2障壁層142b、第2井戸層142aおよび第3障壁層143bが順次積層されることによって形成されている。上記した2つの井戸層14a(第1井戸層141a、第2井戸層142a)は、それぞれ、約1.5nm〜約4nmの厚みに形成されている。また、第1障壁層141bは、約30nmの厚みに形成されており、第2障壁層142bは、約16nmの厚みに形成されており、第3障壁層143bは、約60nmの厚みに形成されている。すなわち、3つの障壁層14bは、それぞれ、異なる厚みに形成されている。このように構成することにより、ダークラインの発生を効果的に抑制することが可能となる。
上記第1障壁層141bは、8nm以上50nm以下の厚みに形成されているのが好ましく、10nm以上40nm以下の厚みに形成されていればより好ましい。このように、第1障壁層141bを、少なくとも8nm以上の厚みに形成すれば、下部ガイド層13の成長後に成膜される第1障壁層141bの平坦性を、容易に、より良好にすることが可能となる。また、第1障壁層141bを、50nm以下の厚みに形成すれば、キャリアを効率的に注入することが可能となる。また、上記第2障壁層142bは、8nm以上30nm以下の厚みに形成されているのが好ましく、10nm以上20nm以下の厚みに形成されていればより好ましい。このように、第2障壁層142bを、少なくとも8nm以上の厚みに形成すれば、高いIn組成比を有する第1井戸層141aの成長後に成膜される第2障壁層142bの平坦性を、容易に、より良好にすることが可能となる。また、第2障壁層142bを、30nm以下の厚みに形成すれば、キャリアを効率的に注入することが可能となる。さらに、上記第3障壁層143bは、8nm以上100nm以下の厚みに形成されているのが好ましく、10nm以上80nm以下の厚みに形成されていればより好ましい。このように、第3障壁層143bを、少なくとも8nm以上の厚みに形成すれば、高いIn組成比を有する第2井戸層142aの成長後であって、後述するキャリアブロック層15の成長前に成膜される第3障壁層143bの平坦性を、容易に、より良好にすることが可能となる。また、第3障壁層143bを、100nm以下の厚みに形成すれば、キャリアを効率的に注入することが可能となる。
なお、第1実施形態では、井戸層の層数は2層であるが、井戸層の層数が2層より多くなった場合(たとえば、3層または4層となった場合)、第1障壁層とは、基板に最も近い井戸層の下層側(基板側)に形成される初めの障壁層と定義することができる。また、第2障壁層とは、井戸層間に挟まれた障壁層と定義することができる。さらに、第3障壁層とは、基板から最も離れた井戸層(最終井戸層)上に形成される障壁層と定義することができる。第1障壁層、第2障壁層および第3障壁層を、このように定義することで、井戸層が2層以上形成されている場合でも、上記した障壁層の好ましい層厚条件を適用することが可能となる。そして、このような条件を満たしていれば、上記のような効果が得られるため、好ましい。
また、上記障壁層は、AlGaN以外にAlInGaNから構成されていてもよい。AlとInを含む障壁層の場合は、低温において平坦性の高い膜を形成しやすいという利点がある。また、井戸層の数が2層以上の場合、井戸層の間に挟まれた障壁層(第1実施形態では第2障壁層)にGaN層を用いなければ、障壁層をAlGaN/AlInGaNや、AlInGaN/AlGaNなどの2層構造、AlInGaN/AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/InGaN/AlInGaN、および、AlGaN/InGaN/AlGaNなどの多層構造としてもよい。さらに、井戸層が1層の場合には、井戸層に接する上部の層(基板と反対側、第二障壁層)がAlInGaN層であると好ましい。このように障壁層を形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することが可能となる。
また、第1実施形態では、活性層14を構成する井戸層14aのIn組成比x1は、0.15以上0.45以下(たとえば、0.2〜0.25)に構成されている。活性層14の障壁層14bは、AlGaN(Alx2Ga1-x2N)から構成されており、そのAl組成比x2が、たとえば、0<x2≦0.08とされている。このように、AlGaN(Alx2Ga1-x2N)からなる障壁層14bのAl組成比x2を0.08以下にすることで、光閉じ込めを効率よく行うことが可能となる。また、上記障壁層14bをAlGaNから構成することにより、従来のように、障壁層をGaNやInGaNから構成する場合に比べて、発光効率を向上させることが可能となる。特に、井戸層14aのIn組成比x1が0.15以上0.45以下の条件において、発光効率の改善傾向が高い。
これは、井戸層のIn組成比が高い場合、障壁層にAlを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層やAlInGaN層など)を用いることで、m面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いた発光素子で特異に観察されるダークラインを抑制することが可能となり、発光効率が向上したものと考えられる。
ここで、通常、井戸層としては、In組成比が大きな領域(x1≧0.15)では、3nm程度の厚みに設定されることが多い。しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有するGaN基板上に、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaNなど)からなる障壁層を形成した場合、井戸層の厚みを4.0nm以上に設定することも可能である。この理由としては、ダークラインの発生抑制効果や活性層を保護する効果などが得られるためであると考えられる。さらに、上記GaN基板10を用いることによって、層表面の平坦性が向上し、面内においてIn組成が非常に均一になる。このため、井戸層の厚みが大きい場合でも、In組成の高い局所領域が形成され難くなる。そのため、これによっても、井戸層の厚膜化が可能になると考えられる。
また、井戸層の厚みが、8nmより大きくなるとミスフィット転位が多数発生する場合がある。このため、井戸層の厚みは、8nm以下であるのが好ましい。さらには、2.5nm程度〜4.0nm程度の範囲に設定されているのが好ましい。
また、同様の理由により、井戸層の厚みを1.5nm程度〜4.0nm程度の範囲に設定した場合、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaNなど)から障壁層を構成することで、井戸層の層数を増やすことができる。たとえば、窒化物半導体レーザ素子において、従来の活性層構造を採用した場合、3層以上の井戸層を形成することによって、発光効率が大幅に劣化する。その一方、Alを含む窒化物半導体から障壁層を構成することによって、井戸層を5層形成した場合でも、発光効率の劣化が抑制される。また、発光ダイオード素子(LED)では、Alを含む窒化物半導体から障壁層を構成することによって、井戸層を8層形成した場合でも、発光効率の劣化が抑制される。発光ダイオード素子は、半導体レーザ素子に比べて、p型半導体層の層厚が薄いことや、p型半導体層の成膜時に活性層に与える熱ダメージが小さいことなどの理由により、半導体レーザ素子よりも活性層(井戸層)の多層化が容易である。
なお、活性層の井戸層は、量子井戸を意図して作製されるものであり、結果として、層厚が数nm以下の範囲で揺らいでいる場合や、局所的に、ドット化している場合も含む。
また、上記障壁層14bをAlGaNやAlInGaNなどのAlを含む窒化物半導体から構成した場合に発光効率が向上する理由としては、以下のように考えられる。すなわち、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする窒化物半導体基板では、上述したように、その成長主面上にGaN層を、1μmを超える層厚で形成すると表面モフォロジーが悪化する傾向が見られる。これに対し、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を形成すると、表面モフォロジーが良化する。このため、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板は、平坦性および結晶性の良好な、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を成膜するのに非常に適した無極性基板であるといえる。そのため、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成することによって、障壁層の平坦性が向上し、高い平坦性を有する障壁層上に井戸層を形成することで、井戸層の結晶性が向上するためであると考えられる。また、このように障壁層を形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することが可能となる。
活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成する場合、上記のように、井戸層はInGaNから構成されているのが好ましい。
また、第1実施形態では、上記のように、GaN基板10の成長主面10aと活性層14(井戸層14a)との間に形成されるGaN層のトータル層厚が、0.7μm以下となるように構成されている。具体的には、GaN基板10の成長主面10aと活性層14(井戸層14a)との間には、上記のように、2層のGaN層(n型GaN層11、下部ガイド層13)が形成されている。そして、そのトータル層厚は約0.2μm(=約0.1μm+約0.1μm)となっている。なお、上記GaN層のトータル層厚は、0.5μm以下に構成されていればより好ましく、0.3μm以下に構成されていればさらに好ましい。さらに、基板表面からInを含む窒化物半導体層である井戸層(井戸層が複数形成されている場合には、好ましくは、最も基板側の井戸層)までの間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。0.3μm以下であればさらに好ましい。
また、第1実施形態では、GaN基板10の成長主面10aと接する半導体層は、GaN層となっている。
上記活性層14上には、図2および図3に示すように、40nm以下(たとえば、約12nm)の厚みを有するp型AlyGa1-yN(0<y<1)からなるキャリアブロック層15が形成されている。このキャリアブロック層15は、そのAl組成比yが0.08以上0.35以下(たとえば、約0.15)となるように構成されている。また、キャリアブロック層15上には、凸部と、凸部以外の平坦部とを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなる上部ガイド層16が形成されている。この上部ガイド層16は、クラッド層よりもAl組成比が小さくなるように構成されている。また、上部ガイド層16の凸部上には、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.06Ga0.94Nからなる上部クラッド層17が形成されている。上部クラッド層17上には、約0.1μmの厚みを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなるコンタクト層18が形成されている。そして、コンタクト層18と上部クラッド層17と上部ガイド層16の凸部とによって、約1μm〜約10μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するストライプ状(細長状)のリッジ部19が構成されている。このリッジ部19は、図6に示すように、Y方向(略c軸[0001]方向)に延びるように形成されている。なお、p型半導体層(キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18)には、p型不純物としてMgがドープされている。
ここで、上記コンタクト層は、GaNから構成することも十分可能であるが、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInN)から構成することで、表面モフォロジーが良化し、層厚の面内分布が改善する。このため、上記のように、コンタクト層は、Alを含む窒化物半導体層から構成されているのが好ましい。
また、図5に示すように、キャリアブロック層15と井戸層14a(最もキャリアブロック層15側の井戸層14a(142a))との間の距離hは、キャリアの井戸層14aへの注入効率を向上させるために、約60nmに設定されている。第1実施形態では、上記距離hは、第3障壁層143bの厚みと同じになっている。
なお、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを200nm以上とすれば、キャリアブロック層15から活性層14までキャリアが拡散していくときに電流が広がるため、輝点状発光が若干抑制される。その一方、m面に対してa軸方向にオフ角度が設けられた成長主面10aを有する上記GaN基板10を用いれば、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを、200nm以上としなくても、輝点状発光を効果的に抑制することができる。たとえば、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを、120nmよりも短くした場合でも、輝点状発光を効果的に抑制することができる。キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hは、短い方がキャリアの井戸層14aへの注入効率が向上するため好ましい。このため、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の距離hを、120nmより短くすることにより、キャリアの井戸層14aへの注入効率を向上させることができる。
また、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100では、図2および図3に示すように、リッジ部19の両脇に、電流狭窄を行うための絶縁層20が形成されている。具体的には、上部ガイド層16上、上部クラッド層17の側面上およびコンタクト層18の側面上に、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる絶縁層20が形成されている。
絶縁層20およびコンタクト層18の上面上には、コンタクト層18の一部を覆うように、p側電極21が形成されている。このp側電極21は、コンタクト層18を覆っている部分において、コンタクト層18と直接接触している。また、p側電極21は、絶縁層20(コンタクト層18)側から約15nmの厚みを有するPd層(図示せず)、約15nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなる。
また、GaN基板10の裏面上には、GaN基板10の裏面側から順に、約5nmの厚みを有するHf層(図示せず)および約150nmの厚みを有するAl層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるn側電極22が形成されている。また、n側電極22上には、n側電極22側から順に、約36nmの厚みを有するMo層(図示せず)、約18nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるメタライズ層23が形成されている。
さらに、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図3および図6に示すように、レーザ光が出射される光出射面30aと、光出射面30aと対向する光反射面30bとを含む一対の共振器面30を有している。上記光出射面30aには、たとえば、反射率5%〜80%の出射側コーティング膜(図示せず)が形成されている。一方、上記光反射面30bには、たとえば、反射率95%の反射側コーティング膜(図示せず)が形成されている。なお、出射側コーティング膜の反射率は、発振出力により所望の値に調整されている。また、出射側コーティング膜は、たとえば、半導体の出射端面から順に、アルミニウムの酸窒化膜または窒化膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1):膜厚30nm/Al2O3(膜厚:215nm)で構成されており、反射側コーティング膜は、たとえば、SiO2、TiO2などの多層膜から構成されている。上記以外の材料として、たとえば、SiN、ZrO2、Ta2O5、MgF2などの誘電体膜を用いてもよい。また、光出射面側の膜構成として、AlOxN1-x(0≦x≦1):膜厚12nm/シリコンの窒化膜であるSiN(膜厚:100nm)を用いても良い。
上記のように、m面の窒化物半導体基板の劈開端面(第1実施形態ではc面)、もしくは気相エッチング、液相エッチングによりエッチングされたエッチング端面に、アルミニウムの酸窒化膜または窒化膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1)を形成することで、半導体、出射側コーティング膜の界面での非発光再結合の割合を大幅に低減でき、COD(Catastrophic Optical Damage)レベルを格段に向上させることができる。さらにアルミニウムの酸窒化膜または窒化膜であるAlOxN1-x(0≦x≦1)は、窒化物半導体と同じ六方晶の結晶であると、より好ましい。さらには、窒化物半導体と結晶軸が揃った状態で結晶化していると、非発光再結合の割合がさらに低減し、CODレベルがさらに向上するため、より好ましい。また、光出射面側の反射率を大きくするために、上記コーティング膜の上にシリコンの酸化膜、アルミニウムの酸化膜、チタニウムの酸化膜、タンタルの酸化膜、ジルコニウムの酸化膜、シリコン窒化膜、などを積層した積層膜を形成してもよい。
また、第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図6に示すように、共振器面30と直交する方向(Y方向(略c軸[0001]方向))に、約300μm〜約1800μm(たとえば、約600μm)の長さL(チップ長L(共振器長L))を有するとともに、共振器面30に沿った方向(X方向(略a軸[11−20]方向))に、約150μm〜約600μm(たとえば、約400μm)の幅W(チップ幅W)を有している。
第1実施形態では、上記のように、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板10の成長主面10aとすることによって、EL発光パターンの輝点状化、面内の波長ムラを抑制することができる。すなわち、このように構成することによって、EL発光パターンを改善することができる。これにより、窒化物半導体レーザ素子の発光効率を向上させることができる。また、発光効率を向上させることによって、輝度の高い窒化物半導体レーザ素子を得ることができる。なお、上記のような輝点状発光の抑制効果が得られる理由として、GaN基板10の成長主面10aがm面に対してa軸方向のオフ角度を持つことで、成長主面10a上に活性層14(井戸層14a)を成長させる際に、In原子のマイグレーションの方向が変化し、In組成比の高い(In供給量が多い)条件でもInの凝集が抑制されたためであると考えられる。また、活性層14上に形成されるp型半導体層の成長モードも変化するため、p型不純物であるMgの活性化率も向上し、p型半導体層が低抵抗化することも理由の一つと考えられる。なお、p型半導体層が低抵抗化することにより、電流を均一に注入し易くなるので、これによりEL発光パターンが均一化する。
また、第1実施形態では、EL発光パターンの輝点状化を抑制することによって、EL発光パターンを均一化することができるので、駆動電圧を低減することもできる。なお、輝点状発光を抑制することによって、均一発光のEL発光パターンを得ることができるので、窒化物半導体レーザ素子の形成において、ゲインを高めることができる。
また、第1実施形態では、障壁層14bに、Alを含む窒化物半導体層を用いることによって、ほぼ完全にダークラインの発生を抑制することができる。これにより、ダークラインの発生に起因する発光効率の低下を抑制することができる。
さらに、第1実施形態では、障壁層14bを、Alを含む窒化物半導体から構成することによって、障壁層14bの平坦性を向上させることができる。このため、平坦性の高い障壁層14bの上に井戸層14aを形成することによって、井戸層14aにおけるIn組成の面内分布が不均一になるのを抑制することができる。加えて、活性層14の結晶性を向上させることもできる。これにより、発光効率をより向上させることができる。
なお、井戸層14aの下側(GaN基板10側)に形成される障壁層14bを、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、Alx2Ga1-x2N)から構成するとともに、そのAl組成比x2を0<x2≦0.08とすることで、ダークラインの発生抑制効果や活性層14を保護する効果に加え、障壁層14bの平坦性向上の効果を得ることもできる。これにより、井戸層14aの発光効率を向上させることができるので、素子特性および信頼性の高い半導体レーザ素子を得ることができる。
このように、第1実施形態では、上記のように構成することによって、発光効率を大幅に向上させることができる。また、発光効率を向上させることによって、素子特性および信頼性を向上させることができるので、素子特定の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子100を得ることができる。
また、第1実施形態では、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10上に、その成長主面10aから活性層14(井戸層14a)までの間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下(約0.2μm)となるように構成することによって、表面モフォロジーを大きく改善し、良好な表面モフォロジーを得ることができる。これにより、GaN層(n型GaN層11、下部ガイド層13)における層厚の面内分布を均一化することができるとともに、これらGaN層上に形成される半導体層においても、層厚の面内分布を均一化することができる。すなわち、GaN基板10上に形成される窒化物半導体各層における層厚の面内分布を均一化することができる。また、表面モフォロジーを改善にすることによって、素子特性(たとえば、I−L特性、I−V特性、ファーフィールドパターン、波長など)のバラツキを低減することができるので、製造歩留まりを向上させることができる。これにより、規格の範囲内の特性を有する素子を容易に得ることができる。また、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性および信頼性をさらに向上させることもできる。
また、第1実施形態では、a軸方向のオフ角度の絶対値を0.1度より大きくすることによって、EL発光パターンの輝点状化を容易に抑制することができる。
なお、GaN基板10の成長主面10aが、m面に対してc軸方向にもオフ角度を有する場合には、a軸方向のオフ角度をc軸方向のオフ角度より大きくすることによって、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。すなわち、このように構成することによって、c軸方向のオフ角度が大きくなり過ぎることに起因して、輝点状発光の抑制効果が低減されるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、容易に、発光効率を向上させることができる。
また、第1実施形態では、窒化物半導体レーザ素子100の活性層14を、DQW構造に構成することによって、駆動電圧を容易に低減することができる。このため、これによっても、素子特性および信頼性を向上させることができる。なお、活性層14をDQW構造に構成した場合でも、EL発光パターンの輝点状発光を抑制することができる。
また、第1実施形態では、p型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層15のAl組成比yを0.08以上0.35以下に構成することによって、キャリア(電子)に対して十分に高いエネルギー障壁を形成することができるので、活性層14に注入されたキャリアがp型半導体層へ流入するのをより効果的に防ぐことができる。これにより、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。また、キャリアブロック層15のAl組成比yを0.35以下とすることによって、Al組成比yが大きくなり過ぎることに起因するキャリアブロック層15の高抵抗化を抑制することができる。なお、井戸層14aのIn組成比x1が大きな領域(x1≧0.15)では、活性層14上に形成されるキャリアブロック層15のAl組成比yが0.08以上になると、キャリアブロック層15を良好に成長させることが非常に難しくなる。それは、井戸層14aのIn濃度が増大するにしたがい、活性層14の表面の平坦性が悪化し、Al組成比yの高い層を結晶性よく成膜するのが困難になるためである。しかしながら、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を用いれば、活性層14(井戸層14a)のIn組成比x1が0.15以上0.45以下の場合でも、その活性層14上に、Al組成比yが0.08以上0.35以下であるキャリアブロック層15を結晶性よく形成することができる。これにより、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制して、EL発光パターンを均一化することができる。
なお、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層(たとえば第1実施形態では第3障壁層)はAlとInとを含む窒化物半導体層であればより好ましい。キャリアブロック層は、障壁層より大きなAl組成比で形成されるため、キャリアブロック層からの応力が井戸層にかかる。このため、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層を、Inを含むように構成することで、応力を緩和することができる。また、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層は、AlInGaNを一部に含むように構成することもできる。さらに、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層は、AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/AlGaN、AlInGaN/InGaNの2層構造、AlInGaN/AlGaN/AlInGaN、AlInGaN/InGaN/AlInGaN、AlGaN/InGaN/AlGaNなどの多層構造としてもよい。また、キャリアブロック層15と井戸層14aとの間の障壁層は、上記応力緩和の観点から、InGaNであってもよい。このように障壁層を形成することで、ダークラインの発生を効果的に抑制することができる。
また、m面に対してa軸方向にオフ角度が設けられた成長主面10aを有する上記GaN基板10を用いることによって、輝点状のEL発光パターンが顕著に現れる条件である井戸層14aのIn組成比x1が0.15以上の場合でも、EL発光パターンの輝点状化を効果的に抑制することができる。このため、活性層14の井戸層14aのIn組成比x1を0.15以上とすることによって、輝点状発光の抑制効果を顕著に得ることができる。また、井戸層14aのIn組成比x1を0.45以下とすることによって、井戸層14aのIn組成比x1が0.45より大きくなることに起因して、格子不整合などの歪みにより活性層14に転位が多数入るという不都合が生じるのを抑制することができる。
さらに、障壁層14bにAlInGaNを用いた場合には、障壁層14bにAlGaNを用いた場合と同様、発光効率を向上させることが可能である。加えて、半導体レーザ素子の観点からは、光閉じ込めが向上するという利点が得られる。また、AlInGaNからなる障壁層14b上に井戸層14aを形成することによって、井戸層14aに取り込まれるInの効率を非常に良好にすることができる。このため、Inのガス流量を少なくした場合でも、高いIn組成比を維持することができる。これにより、Inの取り込み効率を向上させることができる。その結果、より有効に長波長化を図ることができる。また、原料ガス(たとえば、TMI)の消費量を削減することができるため、コスト的にもメリットがある。
なお、障壁層14bに、AlInGaN(AlsIntGauN(s+t+u=1))を用いる場合、Al組成比sは、0<s≦0.08の範囲で設定されるのが好ましい。この場合、In組成比tは、0<t≦0.10の範囲で設定されるのが好ましく、0<t≦0.03の範囲で設定されていればより好ましい。このような範囲に設定する事で、AlInGaN障壁層をより平坦に形成することが可能となる。平坦な障壁層上に、高いIn組成比x1(たとえば、x1が0.15以上0.45以下)を有する、Inx1Ga1-x1Nからなる井戸層14aを形成した場合でも、より効果的に、図28および図29に示すようなダークラインの発生を抑制することが可能となる。また、障壁層14bをAlInGaNから構成した場合の好適な厚みは、障壁層14bをAlGaNから構成した場合の好適な厚みと同様である。
ここで、障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することによって得られるダークライン発生抑制効果と、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けた面を成長主面とする窒化物半導体基板を用いることで得られる輝点状発光抑制効果とは、まったく異なる効果である。すなわち、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いる場合、m面などの無極性面であれば効果がある。一方、InGaNからなる障壁層を用いた場合でも、オフ角度をa軸方向に設けることで、発光パターンの輝点状化を抑制することが可能となる。
しかしながら、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板上にAlを含む窒化物半導体層を成膜すると結晶性などが向上するという効果が得られるため、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用い、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いた場合、障壁層の結晶性が向上する。このように、両方を組み合わせれば、相乗効果が得られるため、より好ましい。もちろん、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用い、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いれば、ダークラインの発生を抑制することができることに加えて、輝点状発光の抑制も可能となる。
図7〜図19は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。次に、図2、図3および図5〜図19を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の製造方法について説明する。
まず、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を準備する。このGaN基板10は、たとえば、c面(0001)を主面とするGaNバルク結晶から切り出した基板を種基板とし、この種基板上にGaN結晶を成長させることによって作製される。具体的には、図7に示すように、下地基板300上にSiO2からなる保護膜(図示せず)を部分的に形成した後、MOCVD法などのエピタキシャル成長法を用いて、下地基板300上に保護膜の上からGaNバルク結晶を成長させる。これにより、保護膜が形成されていない部分から成長が開始し、保護膜上部でGaN結晶の横方向の成長が生じる。そして、横方向に成長したGaN結晶同士が保護膜上で接合して成長を続け、下地基板300上にGaN結晶層400aが形成される。このGaN結晶層400aは、下地基板300を除去した後にも自立して取り扱いが可能なように、十分に厚く形成する。次に、形成されたGaN結晶層400aから、たとえば、エッチングなどによって、下地基板300を除去する。これにより、図8に示すように、c面(0001)を主面とするGaNバルク結晶400が得られる。なお、下地基板300としては、たとえば、GaAs基板、サファイア基板、ZnO基板、SiC基板、GaN基板などを用いることが可能である。また、GaNバルク結晶400の厚みSは、たとえば、約3mmとすることができる。
次に、得られたGaNバルク結晶400の両主面である(0001)面および(000−1)面を、研削および研磨加工することにより、両主面の平均粗さRaを5nmとする。この平均粗さRaは、JIS B 0601に規定する算術平均粗さRaであり、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定することができる。
次に、GaNバルク結晶400を、[1−100]方向と垂直な複数の面でスライスすることにより、m面{1−100}を主面とする複数のGaN結晶基板410を厚みT(たとえば、1mm)(幅S:3mm)で切り出す。そして、切り出したGaN結晶基板410の研削および研磨加工が施されていない4面を研削および研磨加工することにより、これら4面の平均粗さRaを5nmとする。その後、図9および図10に示すように、複数のGaN結晶基板410において、その主面が互いに平行となるようにするとともに、それらGaN結晶基板410の[0001]方向が同一となるようして、互いに隣接させて配置する。
続いて、図11に示すように、互いに隣接させて配置した複数のGaN結晶基板410を種基板として、これらGaN結晶基板410のm面{1−100}上に、HVPE法などのエピタキシャル成長法を用いて、GaN結晶を成長させる。これにより、m面を成長主面とするGaN基板1が得られる。次に、得られたGaN基板1の主面を化学的機械的研磨処理によって研磨することにより、a軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度を独立して制御し、m面に対するa軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度を所望のオフ角度とする。このオフ角度は、X線回折法により測定することができる。これにより、m面に対してa軸方向およびc軸方向の各方向にオフ角度を有する面を成長主面とするGaN基板10が得られる。
なお、上記GaN基板10の作製において、オフ角度が大きい基板を作製する場合には、GaNバルク結晶400から複数のGaN結晶基板410を切り出す際に、GaN結晶基板410の主面がm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有するように、[1−100]方向に対して所定の切り出し角度で切り出してもよい。このようにすれば、GaN結晶基板410の主面がm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有する面となるため、その主面上に形成されるGaN基板1(10)の主面(成長主面)もm面{1−100}面に対して所望のオフ角度を有する面となる。
また、GaNバルク結晶400(図8参照)から切り出したGaN結晶基板410の主面を化学的機械的研磨処理によって研磨することにより、このGaN結晶基板410を、GaN基板10として用いることもできる。この場合、GaN結晶基板410の幅Sは、3mm以上とすることもできる。
ここで、第1実施形態では、上記GaN基板10におけるa軸方向のオフ角度を、0.1度より大きい角度となるように調整する。なお、c軸方向にもオフ角度を設ける場合には、c軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度に調整するのが好ましい。また、c軸方向のオフ角度は、a軸方向のオフ角度より小さい角度に調整するのが好ましい。
続いて、図12に示すように、得られたGaN基板10の成長主面10a上に、MOCVD法を用いて、窒化物半導体各層を成長させる。このとき、GaN基板10と活性層14(井戸層14a)との間に形成されるGaN層のトータル層厚が0.7μm以下となるように窒化物半導体各層を成長させる。
具体的には、GaN基板10の成長主面10a上に、約0.1μmの厚みを有するn型GaN層11、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層12、約0.1μmの厚みを有するn型GaNからなる下部ガイド層13、および活性層14を順次成長させる。なお、活性層14を成長させる際には、図5に示したように、Inx1Ga1-x1Nからなる2つの井戸層14aと、Alx2Ga1-x2Nからなる3つの障壁層14bとを交互に成長させる。具体的には、たとえば、下部ガイド層13上に、下層から上層に向かって、約30nmの厚みを有する第1障壁層141b、約1.5nm〜約4nmの厚みを有する第1井戸層141a、約16nmの厚みを有する第2障壁層142b、約1.5nm〜約4nmの厚みを有する第2井戸層142aおよび約60nmの厚みを有する第3障壁層143bを順次成長させる。これにより、下部ガイド層13上に、2つの井戸層14aと3つの障壁層14bとからなるDQW構造を有する活性層14が形成される。このとき、井戸層14aは、そのIn組成比x1が0.15以上0.45以下(たとえば、0.2〜0.25)となるように形成する。一方、障壁層14bは、そのAl組成比x2が、たとえば、0<x2≦0.08となるように形成する。
次に、図12に示すように、活性層14上に、p型AlyGa1-yNからなるキャリアブロック層15、約0.05μmの厚みを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなる上部ガイド層16、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.06Ga0.94Nからなる上部クラッド層17および約0.1μmの厚みを有するp型Al0.01Ga0.99Nからなるコンタクト層18を順次成長させる。この際、キャリアブロック層15は、その厚みが40nm以下(たとえば、約12nm)となるように形成するのが好ましい。また、キャリアブロック層15は、そのAl組成比yが0.08以上0.35以下(たとえば、約0.15)となるように形成する。なお、n型半導体層(n型GaN層11、下部クラッド層12および下部ガイド層13)には、n型不純物として、たとえば、Siをドープし、p型半導体層(キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18)には、p型不純物として、Mgをドープする。
また、第1実施形態では、n型半導体層は、900℃以上であって、1300℃より低い成長温度(たとえば、1075℃)で形成する。また、活性層14の井戸層14aは、600℃以上800℃以下の成長温度(たとえば、700℃)で形成する。井戸層14aに接する障壁層14bは、井戸層14aと同じ成長温度(たとえば、700℃)で形成する。さらに、p型半導体層は、700℃以上であって、900℃より低い成長温度(たとえば、880℃)で形成する。なお、n型半導体層の成長温度は、900℃以上1300℃未満が好ましく、1000℃以上1300℃未満であればより好ましい。また、活性層14の井戸層14aの成長温度は、600℃以上830℃以下が好ましく、井戸層14aのIn組成比x1が0.15以上の場合には、600℃以上770℃以下が好ましい。630℃以上740℃以下であればより好ましい。また、活性層14の障壁層14bの成長温度は、井戸層14aと同じ温度か、井戸層14aより高い温度が好ましい。さらに、p型半導体層の成長温度は、700℃以上900℃未満が好ましく、700℃以上880℃以下であればより好ましい。もちろん、900℃以上の温度でp型半導体層を形成してもp型伝導が得られるため、p型半導体層を900℃以上の温度で形成してもよい。
また、井戸層のIn組成比が高い場合には、井戸層成長後に井戸層の成長温度よりも高い温度で半導体層を成膜すると、井戸層への熱ダメージがみられ、非発光である黒色斑点が発生する。この黒色斑点は、In原子の凝集により発生するものと考えられる。このため、In原子の凝集を抑制することが、熱ダメージからの活性層の保護につながる。井戸層を成長させた後に、井戸層成長温度よりも高い成長温度でp型半導体層を積層する必要がある発光素子(たとえば、半導体レーザ素子など)では、活性層の熱耐性が求められる。本願発明者らによるこれまでの検討よると、m面基板を用いた場合、従来のc面基板を用いた場合に比べて、低温度で、p型伝導を示すp型窒化物半導体層(たとえば、p型AlGaN層やp型GaN層など)の成膜が可能である。この知見を用いると、障壁層にGaNやInGaNを用いることも可能であるものの、障壁層にAlを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層など)を用いることによって、熱の影響をより抑制できるとともに、ダークラインの発生を抑制することもできる。したがって、上記のように、障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することにより、発光効率をより向上させることが可能となる。また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板では、a軸オフ基板特有の平坦性向上の効果もある。このため、このような窒化物半導体基板(m面a軸オフ基板)を用いて、その成長主面上に、Alを含む窒化物半導体からなる障壁層を形成することで、発光効率がさらに改善される。
なお、これらの窒化物半導体の成長原料としては、III族の原料ガスとして、たとえば、トリメチルガリウム((CH3)3Ga;TMG)、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al;TMA)、および、トリメチルインジウム((CH3)3In;TMI)を用いることができる。また、V族の原料ガスとして、たとえば、アンモニアガス(NH3)を用いることができる。ドーパントについては、n型ドーパント(n型不純物)として、たとえば、モノシラン(SiH4)を用いることができ、p型ドーパント(p型不純物)として、たとえば、シクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いることができる。
また、井戸層を、600℃以上770℃以下の低成長温度で成長させる場合(特に、650℃以上740℃以下の低成長温度で成長させる場合)、井戸層の成長速度は、0.05Å/秒以上0.7Å/秒以下であるのが好ましく、0.05Å/秒以上0.2Å/秒以下であればより好ましい。上記のように、井戸層の成長速度を低く設定した場合、原子のマイグレーションが抑制される一方、成長速度を上記のように遅くすることによって、マイグレーションの抑制が緩和され、適切な原子の動きが確保される。これにより、結晶性が改善し、発光効率が向上する。なお、井戸層の成長速度が0.05Å/秒より遅くなると、結晶表面に供給される原子数よりも、結晶表面から離脱する原子数の方が多くなる。このため、エッチング効果によって結晶表面に荒れが生じ易くなるので、平坦性が悪化し易くなる。そのため、井戸層の成長速度は、上記のように、0.05Å/秒以上であるのが好ましい。もちろん、井戸層の成長方法(成長条件)は、上記に限定されることはないが、上記のように形成することで、より発光効率が向上する。
さらに、井戸層の成長温度が600℃以上720℃以下の場合、井戸層の成長時に、キャリアガスとして水素(H2)を導入してもよい。
キャリアガスとして水素を導入する場合、そのガス流量は、0.005L/分以上0.100L/分以下であるのが好ましく、0.010L/分以上0.050L/分以下であればより好ましい。ガス流量が0.005L/分未満の場合、井戸層の成長時に水素を導入する効果が得難くなる。また、キャリアガスとしての水素を、0.100L/分より大きいガス流量で導入すると、井戸層の成長温度が600℃以上720℃以下の場合であっても、In原子の取り込みが低減し易くなり、長波長化を図り難くなる。
上記のように、井戸層の成長時に水素を導入した場合、X線回折像のサテライトピークが明瞭になる。また、電流注入時の発光パターンが良化するなどの改善効果が得られ、発光効率の向上につながる場合もある。なお、井戸層のいずれかの層または全ての層にSiまたはMgを添加することもできる。井戸層は、InGaNに限らず、AlInGaNから構成されていてもよい。その際の形成方法は、InGaN井戸層と同じである。
また、井戸層と障壁層とは、成長を中断せずに連続的に成長を行ってもよいし、成長中断を施してもよい。
また、障壁層を形成する際は、キャリアガスは窒素のみでもよいが、水素が含まれている状態がより好ましい。キャリアガスに水素を用いる場合、水素の流量は、1.0L/分未満であるのが好ましく、0.500L/分以下であればより好ましい。水素の流量が0L/分の場合、キャリアガスが窒素のみであるのと同意であるが、水素を上記の流量で導入することで、界面の急峻性が改善される。これにより、X線回折像のサテライトピークが明瞭になる。なお、水素の流量が1.0L/分以上の場合、エッチング効果によって結晶表面に荒れが生じ易くなるので、平坦性が悪化し易くなる。また、障壁層がInを含む窒化物半導体から構成される場合、In原子が取り込まれ難くなる。
さらに、障壁層を成膜する際の成長速度は、0.05Å/秒以上1.2Å/秒以下であるのが好ましく、0.05Å/秒以上0.8Å/秒以下であればより好ましい。障壁層の成長速度が0.05Å/秒より遅くなると、結晶表面に供給される原子数よりも、結晶表面から離脱する原子数の方が多くなる。このため、エッチング効果によって結晶表面に荒れが生じ易くなるので、平坦性が悪化する場合がある。また、成長速度が1.2Å/秒より速くなると、結晶性および平坦性が劣化する場合がある。このため、障壁層の成長速度は、上記範囲が好ましい。もちろん、障壁層の成長方法(成長条件)は、上記に限定されることはないが、上記のように形成することで、より発光効率が向上する。
このような傾向は、障壁層が、GaN、InGaN、AlGaNのいずれの場合でも適合するが、障壁層が、Alを含む窒化物半導体から構成される場合、より効果的である。最も好ましいのは、障壁層が、AlGaN層またはAlInGaN層から構成される場合である。
なお、障壁層をAlInGaNとする場合、III族の原料ガスとして、たとえば、TMG、TMIおよびTMAを同時に供給し、V族原料ガスとして、たとえば、アンモニアガスを同時供給して形成する方法がある。
また、別の方法として、障壁層を形成する際は、III族の原料ガスとして、TMIを供給せずに、TMGとTMAとを同時に供給し(すなわち、障壁層としてまずAlGaN層を形成する)、井戸層成長時の残留TMIガスや、Inの拡散、偏析効果を利用して、自動的にInの取り込みを行うことでAlInGaN障壁層を形成する方法がある。具体的は、井戸層の成長温度を700℃とし、所望の波長を得るための気相比を実現するためのTMG、TMIおよびアンモニアガスを供給する。その後、TMG、TMIの供給を止め、数秒の成長中断の後、成長温度を700℃に保持した状態で、TMG、TMAおよびアンモニアガスを供給し、障壁層を形成する。この方法を用いて、障壁層の組成比をAES(オージェ分析)測定により解析したところ、障壁層には、Al組成比1.0%、In組成比2.0%が検出された。すなわち、上記の方法では、Inが自動的に取り込まれたことになる。このような方法を用いてAlInGaNからなる障壁層を形成してもよい。なお、成長中断を施さずに、原料の切り替えのみでも同様の効果が得られる。また、この方法を用いた場合、In原子の取り込みを制御する方法として、障壁層の成長温度を、井戸層の成長温度よりも30℃以上高い成長温度(たとえば、井戸層の成長温度が700℃の場合、障壁層の成長温度は730℃)で成膜することで、Inが蒸発するために、AlGaN成膜が可能となる。また、障壁層を形成する際の水素キャリアガスの流量を増量することで、In取り込みを抑制することが可能となり、AlGaN成膜が可能となる。いずれの場合も、AES測定により、障壁層からIn原子が検出されなかった。
続いて、図13に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、コンタクト層18上に、約1μm〜約10μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するとともに、Y方向(略c軸[0001]方向)に平行に延びるストライプ状(細長状)のレジスト450を形成する。そして、図14に示すように、SiCl4、Cl2などの塩素系ガスや、ArガスなどによるRIE(反応性イオンエッチング)法を用いて、レジスト450をマスクとして上部ガイド層16の途中の深さまでエッチングを行う。これにより、上部ガイド層16の凸部と上部クラッド層17とコンタクト層18とによって構成されるとともに、Y方向(略c軸[0001]方向)に互いに平行に延びるストライプ状(細長状)のリッジ部19(図3および図6参照)が形成される。
次に、図15に示すように、リッジ部19上にレジスト450を残した状態で、スパッタ法などにより、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる絶縁層20を形成し、リッジ部19を埋め込む。そして、リフトオフによりレジスト450を除去することによって、リッジ部19の上部のコンタクト層18を露出させる。これにより、リッジ部19の両脇に、図16に示すような絶縁層20が形成される。
次に、図17に示すように、真空蒸着法などを用いて、基板側(絶縁層20側)から、約15μmの厚みを有するPd層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)を順次形成することにより、絶縁層20(コンタクト層18)上に、多層構造からなるp側電極21を形成する。
その後、基板を分割し易くするために、GaN基板10の裏面を研削または研磨することにより、GaN基板10を100μm程度の厚みまで薄くする。その後、図2に示したように、GaN基板10の裏面上に、真空蒸着法などを用いて、GaN基板10の裏面側から約5nmの厚みを有するHf層(図示せず)および約150nmの厚みを有するAl層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側電極22を形成する。そして、n側電極22上に、n側電極22側から約36nmの厚みを有するMo層(図示せず)、約18nmの厚みを有するPt層(図示せず)および約200nmの厚みを有するAu層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるメタライズ層23を形成する。なお、n側電極22の形成前に、n側の電気特性の調整などの目的でドライエッチングやウェットエッチングを行ってもよい。
続いて、図18に示すように、スクライブ/ブレーク法やレーザスクライブなどの手法を用いて、基板をバー状に分割する。これにより、その端面を共振器面30とするバー状の素子が得られる。次に、蒸着法やスパッタ法などの手法を用いて、バー状の素子の端面(共振器面30)にコーティングを施す。具体的には、光出射面となる片側の端面に、たとえば、アルミニウムの酸窒化膜などからなる出射側コーティング膜(図示せず)を形成する。また、光反射面となるその反対側の端面に、たとえば、SiO2、TiO2などの多層膜からなる反射側コーティング膜(図示せず)を形成する。
最後に、Y方向(略c軸[0001]方向)に沿った分割予定線Pに沿ってバー状の素子を分割することにより、図19に示すように、個々の窒化物半導体レーザ素子に個片化する。このようにして、本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100が製造される。
このようにして製造された第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100は、図20に示すように、サブマウント110を介してステム120上にマウントされ、ワイヤ130によってリードピンと電気的に接続される。そして、キャップ135がステム120上に溶接されることにより、キャンパッケージ型の半導体レーザ装置(半導体装置)150に組み立てられる。
第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の製造方法では、上記のように、GaN基板10と活性層14(井戸層14a)との間に形成されるGaN層(n型GaN層11、下部ガイド層13)を、そのトータル層厚が0.7μm以下(約0.2μm)となるように形成することによって、良好な表面モフォロジーを得ることができる。これにより、窒化物半導体各層における層厚の面内分布を均一化することができるので、窒化物半導体各層の平坦性を向上させることができる。また、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性のバラツキを低減することができるので、規格の範囲内の特性を有する素子を増加させることができる。これにより、製造歩留まりを向上させることができる。なお、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性および信頼性をさらに向上させることもできる。
また、第1実施形態では、n型半導体層を、900℃以上の高温で形成することによって、n型半導体層の層表面を平坦化することができる。このため、平坦化されたn型半導体層上に活性層14およびp型半導体層を形成することにより、活性層14およびp型半導体層における結晶性の低下を抑制することができる。そのため、これによっても、高品質な結晶を形成することができる。また、n型半導体層を、1300℃より低い成長温度で形成することによって、1300℃以上の成長温度で形成されることに起因して、昇温時にGaN基板10の表面が再蒸発し、表面荒れが引き起こされるという不都合が生じるのを抑制することができる。したがって、このように構成することにより、素子特性の優れた、信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子100を容易に製造することができる。
また、第1実施形態では、活性層14の井戸層14aを、600℃以上の成長温度で形成することによって、600℃より低い成長温度で形成することに起因して、原子の拡散長が短くなり結晶性が悪化するという不都合が生じるのを抑制することもできる。また、活性層14の井戸層14aを、800℃以下の成長温度で形成することによって、800℃より高い成長温度(たとえば、830℃以上)で活性層14の井戸層14aが形成されることに起因して、熱ダメージによって活性層14が黒色化されるという不都合が生じるのを抑制することができる。なお、井戸層14aに接する障壁層14bの成長温度は、井戸層14aと同じ温度か、井戸層14aより高い温度が好ましい。
また、第1実施形態では、p型半導体層を、700℃以上の成長温度で形成することによって、p型半導体層の成長温度が低すぎることに起因して、p型半導体層が高抵抗化されるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、p型半導体層を、1100℃より低い成長温度で形成することによって、活性層14の熱ダメージを低減することができる。なお、障壁層をAlGaNや、AlInGaNなどのAlを含む窒化物半導体層から構成することによって、p型半導体層を形成する際に発生する熱ダメージに対して活性層が強くなる。すなわち、p型半導体層を1000℃以上の成長温度で形成した場合でも、熱ダメージによる活性層の黒色化を抑制することができる。
ここで、c面を成長主面とするGaN基板を用いた場合、p型半導体層を900℃より低い成長温度で形成すると、p型半導体層が非常に高抵抗となってしまい、デバイス(たとえば、半導体発光素子)としての使用が難しくなる。その一方、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面とする上記GaN基板10を用いることによって、900℃より低い成長温度であっても、p型不純物としてMgをドープすることにより、p型伝導を得ることができる。特に、活性層14の井戸層14aのIn組成比x1が、0.15以上0.45以下の場合には、Inの偏析などにより、面内でIn組成のバラツキが生じやすくなる。このため、p型半導体層の成長温度は低い方が好ましい。また、活性層14の井戸層14aの成長温度とp型半導体層の成長温度との差は、200℃未満が活性層14の熱ダメージ回避の意味で好ましく、150℃以下であればより好ましい。
次に、上記第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子100の効果を確認するために行った実験について説明する。この実験では、まず、確認用素子として、図21に示すような発光ダイオード素子200を作製し、EL発光パターンの観察を行った。なお、EL発光パターンの観察に発光ダイオード素子を用いたのは、窒化物半導体レーザ素子では、リッジ部の形成によって電流注入される領域が狭められているため、EL発光パターンの観察が困難になるからである。
この確認用素子(発光ダイオード素子200)は、上記第1実施形態と同様のGaN基板10上に、同様の窒化物半導体層を形成することによって作製した。窒化物半導体層の形成は、上記第1実施形態と同様の方法を用いて行った。具体的には、図21に示すように、m面に対してオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を用いて、その成長主面10a上に、n型GaN層11、下部クラッド層12、下部ガイド層13、活性層14、キャリアブロック層15、上部ガイド層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18を順次形成した。次に、コンタクト層18上に、p側電極221を形成した。このp側電極221は、EL発光パターンを確認するために透明電極とした。また、GaN基板10の裏面上には、n側電極22およびメタライズ層23を形成した。確認用素子におけるGaN基板10のオフ角度は、a軸方向のオフ角が1.7度、c軸方向のオフ角度が+0.1度であった。また、確認用素子における井戸層のIn組成比は、0.25であり、障壁層のAl組成比は、2%であった。なお、確認用素子の障壁層は、AlGaNである。このようにして作製した確認用素子(発光ダイオード素子200)に電流注入を行うことによって、確認用素子(発光ダイオード素子200)を発光させ、面内光分布を観察した。図22に、確認用素子において観察されたEL発光パターンの顕微鏡写真を示す。
また、m面を成長主面とするGaN基板(ほぼm面ジャスト基板:a軸方向のオフ角度が0度、c軸方向のオフ角度が+0.05度)を用いた発光ダイオード素子を比較用素子として作製した。この比較用素子は、上記確認用素子と同一方法で作製した。Inガス流量は、確認用素子と同一としたが、比較用素子における井戸層のIn組成比は、0.2であった。また、比較用素子の障壁層はIn0.02Ga0.98Nとした。そして、確認用素子と同様に、面内光分布の観察を行った。比較用素子は、GaN基板にm面ジャスト基板を用いている点、井戸層のIn組成比が0.2である点および障壁層をInGaNから構成した点を除き、確認用素子(発光ダイオード素子200)と同様の構成とした。なお、図37に示したEL発光パターンが、比較用素子において観察されたEL発光パターン(顕微鏡写真)である。
図37に示したように、比較用素子では、EL発光パターンが輝点状化しているのに対し、図22に示すように、確認用素子では、井戸層のIn組成比が高いにもかかわらず、EL発光パターンの輝点状化が抑制され、均一発光のEL発光パターンとなっているのがわかる。これより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を成長主面10aとするGaN基板10を用いることによって、EL発光パターンの輝点状化が抑制されることが確認された。
障壁層をInGaNから構成した比較用素子では、上記した図29と同様、PL発光パターンにダークラインが発生していた。障壁層をGaNから構成した素子でも、上記比較用素子と同様、ダークラインの発生が確認された。これに対し、障壁層を、Alを含む窒化物半導体層(AlGaN層)から構成した確認用素子では、上記した図30と同様、ダークラインの発生は見られなかった。
また、確認用素子および比較用素子の発光効率を測定したところ、確認用素子の発光効率は、比較用素子の発光効率に対して2倍程度向上していることが確認された。これは、ダークラインの発生抑制効果や、活性層の保護効果、さらには、平坦性の改善効果などによるものと考えられる。なお、確認用素子の発光波長は、530nmであり、比較用素子の発光波長は、490nmであった。このことより、オフ角度を制御した確認用素子では、m面ジャスト基板を用いた比較用素子に比べて、Inの取り込みに関しても効率がよいことが確認された。以上より、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けることにより、緑色の波長領域において、輝点状発光の抑制効果が得られ、発光効率が増加することが確認された。
さらに、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することにより、530nmと非常に長波長の発光波長領域においても、均一で発光強度の高い素子が得られることが確認された。また、活性層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することにより得られる効果である、長波長領域での発光強度の増加は、m面、もしくはa面などの成長主面を持つ無極性基板を用いた場合に好ましく得られることが確認された。この場合、Alを含む窒化物半導体層を平坦性よく、結晶性よく成膜することができる、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する基板を用いることにより、EL発光パターンの均一性まで非常に良好になるため、より好ましいことが分かった。
また、上記確認用素子の構成において、Alx2Ga1-x2Nからなる障壁層のAl組成比x2が0<x2≦0.08の範囲で、ほぼ同じ効果が得られた。
続いて、a軸方向のオフ角度およびc軸方向のオフ角度が異なる複数のGaN基板を用いて、図21に示した発光ダイオード素子200と同様の素子を複数作製し、EL発光パターンの観察等の実験を行った。
その結果、m面に対してa軸方向にオフ角度を設けることによって、EL発光パターンの輝点状化の抑制効果が得られることが明らかとなった。また、a軸方向のオフ角度が0.1度以下の範囲では、輝点状発光の抑制効果が小さく、a軸方向のオフ角度が0.1度以上になると、EL発光パターンの輝点状化の抑制効果が顕著に現れることが判明した。これより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板の成長主面とすることにより、EL発光パターンの輝点状化を抑制可能であることが確認された。また、a軸方向のオフ角度をc軸方向のオフ角度より大きくすることにより、EL発光パターンの輝点状化がより効果的に抑制されることが確認された。
実施例1による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が1.7度、c軸方向のオフ角度が+0.1度であるGaN基板を用いて、上記第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子と同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。また、井戸層のIn組成比は、0.25とし、障壁層のAl組成比は、2%とした。この実施例1のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。なお、オフ角度を有さないGaN基板(m面ジャスト基板)を用いて、上記台1実施形態による窒化物半導体レーザ素子と同様に作製した窒化物半導体レーザ素子を比較例1とした。比較例1による窒化物半導体レーザ素子のその他の構成は、実施例1と同様である。
実施例1および比較例1について、閾値電流を測定したところ、比較例1による窒化物半導体レーザ素子では閾値電流の値が120mA程度であったのに対し、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では閾値電流の値が55mAであり、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では、比較例1に比べて、閾値電流が非常に小さくなることが確認された。これは、輝点状発光が抑制されて、面内で均一に発光することでゲインが大きくなったためとも考えられる。さらに、駆動電圧に関しても、実施例1による窒化物半導体レーザ素子では、比較例1に比べて、50mA電流注入時の駆動電圧が、0.4V程度小さくなることが確認された。このような結果が得られた理由として、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する面を、GaN基板の成長主面とすることによって、p型半導体層におけるMgの取り込まれが変化し、活性化率が向上したためとも考えられる。また、実施例1による窒化物半導体レーザ素子の発光波長は、505nmであった。このように、500nm以上の長波長の発振においても、比較的低い閾値電流密度で発振できたのは、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板と活性層(井戸層)との間に、トータル層厚が0.7μm以下となるようにGaN層を形成することで、表面モフォロジーが改善し、膜の平坦性が改善されたためであると考えられる。さらに、障壁層にAlを含む窒化物半導体層を用いることで、ダークラインの発生の抑制などの効果があったものと考えられる。
実施例2による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が4度、c軸方向のオフ角度が+1度であるGaN基板を用いて、障壁層がAlsIntGauN(s+t+u=1)からなる窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例2では、障壁層を、AlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成した。すなわち、実施例2では、障壁層をAlInGaNから構成した。実施例2の障壁層以外の構成は、上記第1実施形態(実施例1)と同様である。また、実施例2においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。
さらに、上記実施例2の構成において、AlsIntGauN(s+t+u=1)からなる障壁層のAl組成比sを、0<s≦0.08の範囲、In組成比tを、0<t≦0.10の範囲とした場合でも、ほぼ同じ効果が得られた。
なお、障壁層をAlsIntGauN(s+t+u=1)から構成する場合は、In組成よりAl組成が小さいほうが好ましい。長波長領域の発光波長を実現するために、活性層を900℃以下、通常700℃〜800℃程度の低温で成膜しなければならないため、Inを入れることで、低温成長において結晶性が向上するのではと考えている。また、障壁層を、Inを含むAlInGaN層にすることで、屈折率をAlGaN層に比べ大きくすることができるので、光閉じ込めを効率的に行うことができる。
実施例3による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が6度、c軸方向のオフ角度が−1.1度であるGaN基板を用いて、障壁層がAlsIntGauN(s+t+u=1)からなる窒化物半導体レーザ素子を作製した。この実施例3では、第1障壁層をAlsIntGauN(s=0.02,t=0,u=0.98)から構成し、第2障壁層および第3障壁層を、AlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成した。すなわち、実施例3では、第1障壁層をAlGaNから構成し、第2および第3障壁層を、第1障壁層とは異なるAlInGaNからそれぞれ構成した。実施例3の障壁層以外の構成は、上記第1実施形態(実施例1)と同様である。また、実施例3においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、実施例3のように、第1障壁層と第2および第3障壁層との組成が異なっていてもよいし、全ての障壁層のAl組成が異なっていてもよい。
また、上記実施例3の構成において、AlsIntGauNからなる障壁層のAl組成比sを、0<s≦0.08の範囲、In組成比tを、0<t≦0.10の範囲とした場合でも、ほぼ同じ効果が得られた。
実施例4による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が6度、c軸方向のオフ角度が+2度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。すなわち、実施例4では、障壁層をAlGaNから構成した。ただし、実施例1では、3つの障壁層(第1障壁層、第2障壁層および第3障壁層)のAl組成比を同じに構成しているのに対し、この実施例4では、異なるAl組成比とした。具体的には、第1障壁層のAl組成比を2%、第2および第3障壁層のAl組成比を0.08%とした。この実施例4においても、上記実施例1と同様の効果が得られた。なお、実施例4のように、第1障壁層のAl組成比が、他の障壁層のAl組成比より高い場合においても、同様の効果が得られた。
(第2実施形態)
図23は、本発明の第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。次に、図2および図23を参照して、本発明の第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子250について説明する。なお、第2実施形態において、上記第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付すことにより、その説明は省略する。
この第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子250では、図23に示すように、GaN基板10の成長主面10aと接する半導体層が、Alを含む窒化物半導体層から構成されている。また、下部クラッド層12上に形成される下部ガイド層13が、AlGaNから構成されている。具体的には、第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子250では、GaN基板10の成長主面10a上に、この成長主面10aと接するように、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層12が形成されている。下部クラッド層12上には、約0.1μmの厚みを有するn型Al0.005Ga0.995Nからなる下部ガイド層13が形成されている。すなわち、第2実施形態では、n型GaN層11(図2参照)が形成されていない構成となっている。また、第2実施形態では、下部クラッド層12上に形成される下部ガイド層13が、GaN層に代えて、AlGaN層から構成されている。このため、第2実施形態では、GaN基板10上に積層される窒化物半導体各層に、GaN層を含まない構成となっている。
なお、下部ガイド層13をAlGaNから構成した場合、そのAl組成比は、0よりも大きく、0.03以下の範囲で設定されているのが好ましい。Al組成比が0でGaN層とした場合、平坦性が劣化する可能性がある。一方、Al組成比が0.03より大きくなると、光閉じ込めが不十分になる。
また、AlGaNからなる下部ガイド層13は、0.05μm以上0.4μm以下の厚みに形成されているのが好ましく、0.08μm以上0.25μm以下の厚みに形成されていればより好ましい。下部ガイド層13の厚みが0.05μmより小さくなると、平坦性向上の効果が不十分になり易い。一方、下部ガイド層13の厚みが0.4μmより大きくなると、光の電界強度分布が層方向で広がるため、光閉じ込め係数が低減する。
なお、上記のように、ガイド層をAlGaNから構成した場合、クラッド層のAl組成比を上げることで、光閉じ込めをさらに向上させることが可能となる。
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第2実施形態では、上記のように、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する成長主面10a上に、この成長主面10aと接するように、AlGaNからなる下部クラッド層12を形成することによって、表面モフォロジーを大きく改善し、層表面の平坦性を向上させることができる。これにより、GaN基板10上に形成される窒化物半導体各層の面内層厚分布を均一化することができる。また、表面モフォロジーを改善にすることによって、素子特性(たとえば、I−L特性、I−V特性、ファーフィールドパターン、波長など)のバラツキを低減することができるので、製造歩留まりを向上させることができる。これにより、規格の範囲内の特性を有する素子を容易に得ることができる。また、表面モフォロジーを良好にすることによって、素子特性および信頼性をさらに向上させることもできる。
また、第2実施形態では、下部クラッド層12上に、AlGaNからなる下部ガイド層213を形成することにより、これによっても、層表面の平坦性を向上させることができる。
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
なお、上記第2実施形態において、上記下部ガイド層13は、AlGaN以外に、AlInGaNやInGaNから構成することもできる。また、AlGaN、AlInGaNおよびInGaNを適宜組み合わせた超格子構造にすることもできる。また、上記下部ガイド層13は、光閉じ込めの観点から、Inを含む窒化物半導体から構成されていればより好ましい。さらに、下部ガイド層13に、InGaN、AlGaNおよびAlInGaNを用いる場合には、故意に不純物をドープしないノンドープにしてもよいし、n型不純物として、たとえば、Siをドープしてもよい。
下部ガイド層13にInGaN層を用いる場合、そのIn組成比は、井戸層のIn組成比よりも小さい範囲で設定される。好ましくは、In組成比は0よりも大きく、0.05以下である。In組成比が0で、GaN層になると、平坦性が劣化する可能性が生じる。一方、In組成比が0.05より大きくなると、高い歪みが発生するため、結晶品質の劣化が危惧される。また、InGaNからなる下部ガイド層13は、0.05μm以上0.5μm以下の厚みに形成されているのが好ましく、0.08μm以上0.3μm以下の厚みに形成されていればより好ましい。下部ガイド層13の厚みが0.05μmより小さくなると、光閉じ込めの効果が不十分になり易くなる。一方、下部ガイド層13の厚みが0.4μmより大きくなると、光の電界強度分布が層方向で広がるため、光閉じ込め係数が低減する。
また、下部ガイド層13にAlInGaN層を用いる場合、そのIn組成比は、0より大きく、0.10以下に設定されているのが好ましい。また、Al組成比は、0より大きく、0.08以下に設定されているのが好ましい。さらに、AlInGaNからなる下部ガイド層13は、0.05μm以上0.5μm以下の厚みに形成されているのが好ましく、0.07μm以上0.3μm以下の厚みに形成されていればより好ましい。下部ガイド層13をAlInGaNから構成した場合に、上記の範囲(組成および厚みの少なくとも一方の上限値)を超えると、結晶品質の劣化を招く可能性がある。一方、上記した組成比の範囲以下の場合および上記した厚みの範囲の下限値より小さい場合の少なくとも一方の場合には、光閉じ込めの効果や平坦性向上の効果が不十分となる。
また、第2実施形態の変形例として、上記第2実施形態の構成において、GaN基板10と下部クラッド層12との間に、GaN基板10の成長主面10aと接するようにInを含む窒化物半導体層(たとえば、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)を形成してもよい。この場合、Inを含む窒化物半導体層の格子定数がGaNより大きく設定されていれば、クラックの発生を抑制する効果も得られる。なお、成長主面10aと接するInを含む窒化物半導体層としては、InGaN層やAlInGaN層がより好ましい。
実施例5による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が8度、c軸方向のオフ角度が+4度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、実施例5では、基板の成長主面と接する半導体層は、n型GaN層ではなく、下部クラッド層となっている。すなわち、実施例5では、n型GaN層が形成されておらず、基板の成長主面上に、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.06Ga0.94Nからなる下部クラッド層から窒化物半導体層が積層されている。なお、この場合も同様の効果が得られた。また、表面モフォロジーが良化し、駆動電圧が0.2V程度低減した。
さらに、上記実施例5の構成において、下部クラッド層を、AlsIntGauN(s+t+u=1)から構成した場合でも同様の効果が得られた。ここで、Al組成比sを、0<s≦0.15の範囲、In組成比tを、0<t≦0.10の範囲とすることによって、ほぼ同じ効果が得られた。
実施例6による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が3度、c軸方向のオフ角度が+1度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、基板の成長主面と接する半導体層は、n型GaN層に代えて、約0.1μmの厚みを有するIn0.02Ga0.98NからなるInGaN層となっている。すなわち、実施例6では、InGaN層始まりで、窒化物半導体各層が形成されている。この場合も同様の効果が得られた。
実施例7による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が4度、c軸方向のオフ角度が+1度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、実施例7では、基板の成長主面と接する半導体層は、n型GaN層ではなく、約0.1μmの厚みを有するn型In0.02Ga0.98Nとなっている。すなわち、実施例7では、n型GaN層が形成されておらず、基板の成長主面上に、約0.1μmの厚みを有するn型In0.02Ga0.98Nからなる窒化物半導体層が積層されている。その上に、約1.5μmの厚みを有するn型Al0.12Ga0.88N(層厚:4nm)/GaN(層厚:2nm)の1周期の構造を持つ250周期の超格子構造からなる下部クラッド層が形成されている。なお、この場合も同様の効果が得られた。
実施例8による窒化物半導体レーザ素子として、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が3度、c軸方向のオフ角度が−0.5度であるGaN基板を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。ただし、実施例8では、下部ガイド層を、実施例1のGaNに代えて、AlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成した。また、実施例8として、下部ガイド層を、InGaN(In組成比:1.5%)から構成した素子も作製した。このように構成した場合でも、同様の効果が得られた。
また、下部ガイド層を、GaNから構成した場合と、In0.015Ga0.985NおよびAl0.02In0.01Ga0.97Nから構成した場合とで比較した所、下部ガイド層を、InGaNやAlInGaNから構成することで、GaNから構成した場合に比べて、発光効率が1.5倍程度増加した。また、半導体レーザ素子として、光閉じ込め効果が増大し、閾値電流が20mA程度低減した。このような効果は、下部ガイド層をInGaNから構成した素子では、Iny2Ga1-y2NのIn組成比y2が、0<y2≦0.05の範囲で、ほぼ同様の効果が得られた。また、下部ガイド層をAlsIntGauNから構成した素子では、Al組成比sが、0<s≦0.08の範囲、In組成比tが、0<t≦0.10の範囲で、同様の効果が得られた。
なお、下部ガイド層をInGaNから構成した場合、In組成比は、0.0%より大きく、5.0%以下で同様の傾向が見られた。In組成比yが5.0%より大きい素子では、非発光の黒色斑点が見られ、発光効率が低減する傾向がある。また、下部ガイド層をAlInGaNから構成した場合、Al組成比は、0.0%より大きく、8.0%以下の範囲で同様の効果が見られた。Alを添加することで、AlInGaNの場合は、In組成比が10%まで、黒色斑点が抑制された。
(第3実施形態)
図24および図25は、本発明の第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子の構造を説明するための図である。なお、図24は、第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子の製造に用いられる窒化物半導体基板(半導体ウェハ)の平面図を示しており、図25は、窒化物半導体基板(半導体ウェハ)の一部を拡大して示した断面図を示している。次に、図24および図25を参照して、本発明の第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子について説明する。
この第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子では、上記第1および第2実施形態の構成において、GaN基板10の成長主面10aに掘り込み領域が形成されている。具体的には、図24に示すように、GaN基板10は、成長主面10aから厚み方向に掘り込まれることによって形成された複数の凹部2を有している。これらの凹部2は、平面的に見て、それぞれ、c軸[0001]方向と平行方向に延びるように形成されている。また、上記凹部2は、c軸[0001]方向と直交するa軸[11−20]方向に約150μm〜約600μm(たとえば、約400μm)の周期Rで等間隔に配列されている。すなわち、上記複数の凹部2は、GaN基板10の成長主面10aにストライプ状に形成されている。また、上記GaN基板10において、凹部2が形成されている領域(掘り込まれている領域)が掘り込み領域3となっている。一方、成長主面10aにおける凹部2が形成されていない領域(掘り込まれていない領域)が非掘り込み領域4となっている。
また、図25に示すように、上記複数の凹部2は、それぞれ、底面部2aと一対の側面部2bとを含んで構成されている。一対の側面部2bは、その傾斜角γが90度より大きい所定の角度となるように設定されている。このため、凹部2の側面部2bは、傾斜面となっている。これにより、開口幅が上方に向かって徐々に大きくなるように、凹部2が形成されている。さらに、上記凹部2は、[11−20]方向に約5μmの開口幅g(開口端の幅)を有しているとともに、n型GaN基板10の厚み方向に約5μmの深さfを有している。
また、a軸方向にオフ角度を有するGaN基板10を用いることによって、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層に、凹部2(掘り込み領域3)に近づくにしたがって層厚が傾斜的に(徐々に)減少する層厚傾斜領域(図示せず)が形成される。この層厚傾斜領域は、凹部2(掘り込み領域3)の片側(たとえば、右側)の近傍領域に、凹部2(掘り込み領域3)と平行方向に延びる略帯状に形成される。そして、この層厚傾斜領域によっても、GaN基板10との格子不整合などに起因して生じる窒化物半導体層の歪みが緩和される。
また、非掘り込み領域4上の窒化物半導体層には、層厚傾斜領域に比べて層厚変動が非常に小さい、リッジ部の形成に適した発光部形成領域(図示せず)が形成されている。そして、この発光部形成領域にリッジ部が形成されている。
なお、第3実施形態のGaN基板10以外の構成は、上記第1および第2実施形態と同様である。また、第3実施形態による窒化物半導体レーザ素子は、上記凹部2の少なくとも一部を含むように、個々の素子に分割されていてもよいし、上記凹部2を含まないように、個々の素子に分割されていてもよい。
また、上記凹部2は、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いて形成することができる。
第3実施形態では、上記のように、GaN基板10の成長主面10a側に凹部2(掘り込み領域3)を形成することによって、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層(窒化物半導体層の凹部2上の部分)の表面に窪みを形成することができる。このため、GaN基板10とその成長主面10a上に形成される窒化物半導体層との間の格子定数差や熱膨張係数差などが大きくなり、窒化物半導体層に歪みが生じた場合でも、非掘り込み領域4上に形成される窒化物半導体層の歪みを、凹部2(掘り込み領域3)上の窒化物半導体層の表面に形成された上記窪み部分で緩和することができる。これにより、窒化物半導体層にクラックが発生するのを効果的に抑制することができる。
このように、第3実施形態では、GaN基板10に凹部2を形成することによって、非常に高い歪み緩和効果およびクラック抑制効果を得ることができるので、障壁層を、Alを含む窒化物半導体から構成した場合でも、障壁層の歪みを緩和して、クラックの発生を抑制することができる。また、光閉じ込めを良好にするために、クラッド層のAl組成比を上げた場合でも、クラックの発生を抑制することができる。
第3実施形態のその他の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
実施例9による窒化物半導体レーザ素子として、掘り込み領域が形成された基板(m面a軸オフ基板)を用いて、実施例1とほぼ同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。また、実施例9では、上記第1実施形態と異なり、Al組成比が8.0%のクラッド層(上部クラッド層および下部クラッド層)を形成した。この場合も実施例1と同様の効果が得られた。
ここで、障壁層を、Alを含む窒化物半導体から構成した場合には、GaNに対する引張歪みが大きくなるため、クラックが発生する場合がある。また、障壁層を、Alを含む窒化物半導体から構成することによって、活性層にかかる歪みが大きくなる傾向があるため、できるだけ歪み(応力)を緩和しておくのが好ましい。さらに、光閉じ込めを良好にするために、クラッド層のAl組成比を上げる場合があり、この場合にも、クラックが発生し易くなる。
しかしながら、基板に掘り込み領域(凹部)を形成することによって、このような場合でも、クラックの発生を防止することができた。
また、掘り込み領域(凹部)が形成されていない基板(m面a軸オフ基板)を用いて、上記実施例9と同様の窒化物半導体レーザ素子を作製し、この窒化物半導体レーザ素子を比較例2とした。
実施例9では、クラッド層のAl組成比を8.0%(0.08)と高くしたにもかかわらず、クラックの発生は認められなかった。一方、比較例2では、クラックが多発した。このように、実施例9では、非常に高いクラック抑制効果が確認され、素子の歩留まり向上効果が得られた。また、これにより、素子特性および信頼性を向上させることができた。
(第4実施形態)
この第4実施形態による窒化物半導体レーザ素子では、m面に対してc軸方向にオフ角度(たとえば、−0.5度)を有する面を成長主面とするGaN基板を用いて形成されている。また、活性層の障壁層は、AlInGaNから構成されている。第4実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第4実施形態では、上記のように、障壁層をAlInGaNから構成することによって、ダークラインの発生を抑制することができる。また、障壁層をGaNやInGaNから構成した場合に比べて、界面の急峻性を向上させることができるので、X線回折測定によるサテライトピークを明瞭化することができる。これは、障壁層にAlとInとを含むことで、Inの凝集や拡散が抑制されたり、活性層の熱ダメージが抑制されたりしたためであると考えられる。
なお、m面に対してc軸方向にオフ角度を有するGaN基板を用いた場合には、m面に対してa軸方向にオフ角度を有するGaN基板を用いた場合に比べて、層表面の平坦性は劣るものの、十分に使用可能な発光効率を得ることができる。また、障壁層に、AlInGaNを用いることによって、井戸層に取り込まれるInの効率を非常の良好にすることができる。このため、Inのガス流量を少なくした場合でも、高いIn組成比を維持することができる。これにより、取り込み効率を向上させることができるので、有効に長波長化を図ることができる。
(第5実施形態)
図26は、本発明の第5実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図2、図23および図26を参照して、本発明の第5実施形態による発光ダイオード素子(LED;Light Emitting Diode)について説明する。
この第5実施形態による発光ダイオード素子では、上記第1および第2実施形態と同様のGaN基板10上に、同様の窒化物半導体各層が形成されることによって構成されている。ただし、第5実施形態では、上記第1および第2実施形態とは異なり、下部ガイド層13(図2および図23参照)および上部ガイド層16(図2および図23参照)が形成されない構成となっている。
具体的には、図26に示すように、GaN基板10の成長主面10a上に、下部クラッド層12、活性層14、キャリアブロック層16、上部クラッド層17およびコンタクト層18が順次形成されている。コンタクト層18上には、ITO(Indium Tin Oxide)などの酸化物系透明導電膜からなるp側電極221が形成されている。また、GaN基板10の裏面上には、n側電極22およびメタライズ層23が形成されている。
また、第5実施形態では、活性層14の障壁層は、上記第1〜第4実施形態と同様、Alを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN、AlInGaN、AlInNなど)から構成されている。
第5実施形態では、上記のように、障壁層を、Alを含む窒化物半導体から構成することによって、ダークラインの発生を抑制することができる。これにより、発光効率を向上させることができる。
また、第5実施形態では、上記のように構成することによって、層表面の平坦性および結晶性を向上させることができるので、これによっても、発光効率を向上させることができる。
なお、第5実施形態では、障壁層を、Alを含む窒化物半導体から構成することによって、井戸層の層数を増やした場合でも、発光効率の低下を抑制することができる。このため、井戸層の層数を増やすことによって、容易に発光効率を向上させることができる。
また、障壁層をAlInGaNから構成した場合には、上述したように、井戸層に取り込まれるInの効率を非常に良好にすることができる。このため、Inのガス流量を少なくした場合でも、高いIn組成比を維持することができるので、取り込み効率を向上させることができる。これにより、より有効に長波長化を図ることができる。また、この場合には、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、より容易に、井戸層の多層化を図ることができる。
さらに、障壁層をAlInGaNから構成することによって、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、結晶歪を小さくすることができる。すなわち、InGaNからなる井戸層とAlInGaNからなる障壁層とを交互に積層することによって、InGaNからなる井戸層とAlGaNからなる障壁層とを交互に積層した場合に比べて、格子定数差から生じる結晶歪みを小さくすることができる。一般的に、発光ダイオード素子では、活性層を、2層以上の比較的井戸層の層数が多い量子井戸構造に構成する場合がある。このため、結晶歪の観点から考えた場合、障壁層をAlGaNから構成するよりも、障壁層をAlInGaNから構成する方が、利点がある。
第5実施形態のその他の効果は、上記した第1および第2実施形態の構成を発光ダイオード素子に適用した場合の効果と同様である。
この実施例10では、m面{1−100}に対するa軸方向のオフ角度が3度、c軸方向のオフ角度が+0.5度であるGaN基板を用いて、LEDを作製した。この実施例10では、基板の成長主面上に、n型Al0.01Ga0.99N層を約1μmの層厚で成膜した後、Al0.01Ga0.99N(層厚:約15nm)/In0.25Ga0.75N(層厚:約3nm)の4QW活性層を成膜した。次に、4QW活性層上に、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層を約20nmの層厚で成膜した。そして、p型Al0.2Ga0.8Nキャリアブロック層上に、約0.2μmの層厚でp型GaNコンタクト層を成膜した。その後、p型GaNコンタクト層上に、酸化物系透明導電膜であるITOをEB(Electron Beam)蒸着機により約50nmの層厚で成膜することにより、ITOからなるp側電極を形成した。このように構成された実施例10においても、ダークラインの発生抑制効果、発光効率の改善効果および輝点状発光の抑制効果が得られた。
なお、上記酸化物系透明導電膜として、酸化インジウム系のITO透明導電膜以外に、In2O3−ZnO系透明導電膜、酸化亜鉛が主原料のZnO系透明導電膜、酸化スズ系のSnO2系透明導電膜などを用いてもよい。これらの透明導電膜を用いることで、光取り出し効率を格段に向上させることができる。また、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する基板を用いることで、表面モフォロジーの改善したp型層上に形成することができるので、低いコンタクト抵抗を得ることが出来、また、輝点状発光が抑制されて均一発光、均一注入できることで、発光効率の向上が可能となり、上記基板上に形成した窒化物半導体層のコンタクト電極に用いることは、非常にメリットが大きく好ましい。電極アニール温度が低温で可能な、ITO電極は、活性層に熱ダメージを与えにくいという観点で特に好ましい。実施例10では、アニール処理を600℃で行っている。
酸化物系透明導電膜は、EB蒸着装置や、スパッタ装置などにより、非晶質(アモルファス)状態でコンタクト層18上に形成し、その後、400℃〜700℃程度の熱アニールによって結晶化させることで膜の抵抗を低下させることにより、さらなる低電圧化を行うことがより好ましい。このとき、a軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用いることにより、非常に平坦性の高いコンタクト層を形成できるため、酸化物系透明導電膜とコンタクト層18との間のコンタクト抵抗を下げることができるため、より好ましい。
この実施例11では、実施例10と同様の基板を用いて、実施例10とほぼ同じ構造のLEDを作製した。ただし、実施例11では、AlsIntGauN(s=0.01,t=0.03,u=0.96)障壁層を用いている。この場合も上記と同様の効果が得られた。また、障壁層がAlを含み、更にInを含むことで、低温での成長が可能となるため、好ましい。
この実施例12では、実施例10と同様の基板を用いて、上記第5実施形態と同様のLEDを作製した。ただし、この実施例12では、障壁層をAlGaN(Al組成比:1.5%)から構成した素子および障壁層をAlsIntGauN(s=0.02,t=0.01,u=0.97)から構成した素子の2種類の素子を作製した。実施例12のいずれのLEDも、520nmの発光波長で発光し、その発光パターンにはダークラインは観察されなかった。
また、障壁層をAlx2Ga1-x2Nから構成した場合、そのAl組成比x2が0<x2≦0.08の範囲で、ほぼ同様の効果が得られた。また、障壁層をAlsIntGauNから構成した場合、Al組成比sが0<s≦0.08の範囲、In組成比tが0<t≦0.10の範囲で、ほぼ同様の効果が得られた。
さらに、井戸層の層数を、2層から8層まで1層ずつ増やした複数の素子を作製し、その発光効率を測定したところ、障壁層がGaNやInGaNから構成されている素子では、井戸層の層数が増加するのにともない、発光効率が大幅に低減した。これに対し、障壁層がAlを含む窒化物半導体(たとえば、AlGaN)から構成されている素子では、発光効率の低減は見られなかった。また、井戸層の層数が3層以上では、障壁層をAlGaNから構成した場合に比べて、障壁層をAlInGaNから構成することで、発光効率が約1.2倍向上した。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1〜第5実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子および発光ダイオード素子などの発光素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、電子デバイスなどの窒化物半導体を用いたデバイス(たとえば、パワートランジスタやIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)など)全般に本発明を適用することもできる。また、上記第1〜第4実施形態では、窒化物半導体素子の一例である窒化物半導体レーザ素子に本発明を適用した例を示したが、発光ダイオード素子全般に本発明を適用することも可能である。
また、上記第1〜第3実施形態および第5実施形態では、a軸方向のオフ角度を0.1度より大きい角度に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、a軸方向のオフ角度は0.1度以下の角度であってもよい。ただし、輝点状発光の抑制効果や表面モフォロジーなどを考慮すると、a軸方向のオフ角度は、±0.1度より大きい角度であることが好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態では、活性層の量子井戸構造を、DQW構造に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、DQW構造以外の量子井戸構造に活性層を構成してもよい。たとえば、活性層の量子井戸構造を、SQW(Single Quantum Well)構造に構成してもよい。具体的には、たとえば、図27に示すように、下部ガイド層13(第5実施形態では、下部クラッド層)上に、InGaNからなる1つの井戸層54aと、Al0.005Ga0.995Nからなる2つの障壁層54bとが交互に積層されたSQW構造を有する活性層54を形成することができる。なお、井戸層54aの厚みは、約3nm〜約4nm、障壁層54bの厚みは、約70nmに構成することができる。また、上記第1〜第5実施形態の構成において、活性層をSQW構造に構成することにより、活性層をDQW構造に構成した場合に比べて、駆動電圧を低減することが可能となる。具体的には、SQW構造の活性層では、DQW構造の活性層に比べて、50mA電流注入時の駆動電圧が0.1V〜0.25V程度低減する。これは、DQW構造の場合、二つの井戸層に挟まれた障壁層のキャリアが空乏化するために、障壁層で大きな電界がかかってしまうために引き起こされているのではないかと考えられる。また、上記活性層は、SQW構造以外に、MQW構造に構成してもよい。活性層をSQW構造またはMQW構造にした場合でも、輝点状発光の抑制効果を得ることができる。なお、井戸層が3層以上の多重量子井戸構造の場合には、光閉じ込めを有効に行うことができるため、ゲインを高めることができる。さらに、LEDなどで用いられる、井戸層の層数が比較的多いMQW構造では、障壁層をAlのみならず、Inをも含む窒化物半導体から構成することで、井戸層との格子歪みを低減できるため、より好ましい。
また、活性層を多重量子井戸構造に構成した場合には、第1量子井戸、第2量子井戸・・・それぞれの層厚や組成が全く同一のものである必要はなく、それぞれが異なっていてもよい。その場合、それぞれの量子井戸からの発光波長が異なるが、第1量子井戸と第2量子井戸との関係において、基板に最も近い第1量子井戸の発光波長が最も短く、第2量子井戸の発光波長は、第1量子井戸の発光波長よりも長くなるように構成されているのが好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態では、窒化物半導体基板としてGaN基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、GaN基板以外の窒化物半導体基板を用いてもよい。たとえば、InGaN、AlGaN、および、AlGaInNなどからなる窒化物半導体基板を用いてもよい。また、基板上に結晶成長される窒化物半導体各層については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。また、導電型を一部の半導体層について変更してもよい。すなわち、窒化物半導体レーザ素子および発光ダイオード素子としての基本特性が得られる限り自由に変更可能である。
また、上記第1〜第5実施形態では、井戸層のIn組成比を、0.2〜0.25に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、井戸層のIn組成比は、0.15以上0.45以下の範囲内で適宜変更することができる。また、井戸層のIn組成比は、0.15より小さい値にしてもよい。また、井戸層には、5%以内であればAlが含まれていてもよい。また、キャリアブロック層には、7%以内程度であればInが含まれていても良い。Inを含むことで、低温にて結晶性の良い膜を形成しやすくなるため好ましく、さらに、Alを含む、または、AlとInとを含む窒化物半導体層で形成された障壁層を含んで構成される活性層への歪を軽減することができるため、好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態において、障壁層のAl組成比x2は、0<x2≦0.08の範囲内で適宜変更することができる。なお、障壁層をAlGaNから構成することによって、井戸層のIn組成比を増加したときに活性層に発生する、c軸方向に対して平行方向に入る転位(EL発光パターンを見るとダークラインのように見える)を抑制することができる。また、上記第1〜第4実施形態において、障壁層をAlGaNから構成した場合には、光閉じ込めをより有効にするために、ガイド層などの窒化物半導体層のIn組成比を増加するなどすればよい。
また、上記第1〜第5実施形態では、活性層の障壁層をAlGaNから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、AlGaN以外の、たとえば、AlInGaN層、AlInN層などから障壁層を構成することもできる。そして、このように構成することによっても、発光効率および信頼性を向上させることができる。
また、上記第1〜第5実施形態では、キャリアブロック層と井戸層との間の距離を第3障壁層の厚みと同じにしたが、キャリアブロック層と井戸層(最もキャリアブロック層側の井戸層)との間に組成の異なる複数の窒化物半導体層を形成してもよい。また、キャリアブロック層と井戸層(最もキャリアブロック層側の井戸層)の間の一部にMgなどのp型不純物をドーピングし、p型化することも好ましい。なお、上記第1〜第5実施形態では、ノンドープとしている。
また、上記第1〜第5実施形態では、活性層上にキャリアブロック層を形成した構成について説明したが、本発明はこれに限らず、キャリアブロック層が形成されていない構成にしてもよい。ただし、キャリアブロック層が形成されていることで、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層やAlInGaN層など)から構成された障壁層が、活性層の保護機能があるのと同様に、活性層成長後の活性層劣化を保護する効果が得られる。このため、井戸層のIn組成比が大きな領域(x1≧0.15)では、キャリアブロック層が形成されている方が好ましい。ここで、オフ角度を有さないm面を成長主面とする窒化物半導体基板(m面ジャスト基板)を用いた窒化物半導体発光素子では、上述したように、そのEL発光パターンが輝点状発光となる。これは、比較的高いAl組成比を有するキャリアブロック層が悪影響をおよぼしている可能性がある。その一方、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用いた場合には、上述のように、発光パターンの均一化が可能である。これより、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板は、Alを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層など)を結晶性よく成膜するのに非常に適した無極性基板であるといえる。このため、m面に対してa軸方向にオフ角度を有する窒化物半導体基板を用いることによって、キャリアブロック層をよりよい状態で機能させることができる。
また、上記第1〜第5実施形態では、障壁層を、Alを含む窒化物半導体層単層から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、障壁層は、Alを含む窒化物半導体層を少なくとも1層含む多層構造(たとえば、InGaNとAlGaNとの超格子構造)であってもよい。その場合、井戸層と隣接する層がAlを含む窒化物半導体から構成されているのが好ましい。また、多層構造の場合、井戸層に隣接する、Alを含む窒化物半導体により構成される層は、1.0nm以上の厚みに形成されているのが好ましく、3.0nm以上の厚みに形成されていればより好ましい。このような構成は、ダークラインの発生抑制効果や、活性層の熱耐性を向上させるなどの効果、平坦性を向上させる効果をより機能させるために有効である。また、窒化物半導体レーザ素子においては、障壁層に、Alを含む窒化物半導体層であるAlGaNなどを用いても、ガイド層にInGaNを用いる手法や、クラッド層のAl組成比を上げる手法などを用いることにより、十分光閉じ込めが可能である。なお、Al組成比を上げた場合、引っ張り歪みによるクラックの発生が危惧されるが、上記第3実施形態で示したように、GaN基板に溝加工(凹部を形成)することで、クラックの発生を抑制することは可能である。
また、上記第1〜第5実施形態では、3層の障壁層の全てをAlGaN層とした例を示したが、本発明はこれに限らず、3層の障壁層の一部の層を、AlGaN層としてもよい。複数の障壁層のうち、井戸層と接する少なくとも1層がAlを含む窒化物半導体層(たとえば、AlGaN層、AlInGaN層、AlInN層など)から構成されていれば、発光効率向上の効果は得られる。なお、活性層の井戸層の層数が異なると障壁層の層数も異なるが、この場合でも、少なくとも1層の障壁層を、Alを含む窒化物半導体層から構成することで、上記効果が得られる。上記第1実施形態を例にすると、たとえば、井戸層を形成する前の下地の平坦性を向上させるためには、井戸層を形成する前の下地層である第1障壁層と第2障壁層とをAlを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。また、AlGaN層は、InGaN層の蒸発防止層としての役割(活性層を保護する役割)も果たすため、蒸発防止の観点(活性層保護の観点)から、井戸層上に形成される第2障壁層と第3障壁層とをAlを含む窒化物半導体層とすることもできる。さらに、第2障壁層を、第1井戸層と接する側と、第2井戸層と接する側との2層構造として、第2障壁層の第1井戸層と接する側を下部第2障壁層、第2障壁層の第2井戸層と接する側と上部第2障壁層としてもよい。下地の平坦性を向上させるためには、上部第2障壁層を、Alを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。一方、蒸発防止の観点から、下部第2障壁層を、Alを含む窒化物半導体層とするのが好ましい。また、全ての障壁層を、Alを含む窒化物半導体層としてもよい。
なお、上記第1〜第5実施形態において、窒化物半導体基板(GaN基板)と接して形成される半導体層は、n型の導電型であってもよいし、p型の導電型であってもよい。また、アンドープであってもよい。
また、上記第1〜第5実施形態において、活性層より下部で、基板との間に形成される層をn側半導体層とし、活性層よりも上部に形成される層をp側半導体層とした場合、n側半導体層、活性層およびp側半導体層は、以下に示す成長温度で形成されるのが好ましい。
n側半導体層がAlを含む窒化物半導体から構成される場合は、そのn側半導体層は、900℃以上であって、1300℃より低い成長温度(たとえば、1075℃)で形成するのが好ましい。1000℃以上1300℃未満であればより好ましい。このように、n側半導体層がAlを含む窒化物半導体から構成される場合には、900℃以上の高温で形成することによって、n側半導体層の層表面を平坦化することができる。このため、平坦化されたn側半導体層上に活性層およびp側半導体層を形成することにより、活性層およびp側半導体層における結晶性の低下を抑制することができる。そのため、これによっても、高品質な結晶を形成することができる。また、n側半導体層を、1300℃より低い成長温度で形成することによって、1300℃以上の成長温度で形成されることに起因して、昇温時にGaN基板の表面が再蒸発し、表面荒れが引き起こされるという不都合が生じるのを抑制することができる。したがって、このように構成することにより、素子特性の優れた、信頼性の高い窒化物半導体発光素子を容易に製造することができる。
また、n側半導体層がInを含む窒化物半導体から構成される場合は、そのn側半導体層は、600℃以上であって、1100℃より低い成長温度(たとえば、1000℃)で形成するのが好ましい。700℃以上950℃未満であればより好ましい。このように、n側半導体層がInを含む窒化物半導体層から構成される場合には、600℃以上の成長温度で形成することによって、層表面を平坦化することができる。このため、平坦化されたn側半導体層上に活性層およびp側半導体層を形成することにより、活性層およびp側半導体層における結晶性の低下を抑制することができる。そのため、これによっても、高品質な結晶を形成することができる。また、n側半導体層を1100℃より低い成長温度で形成することによって、1100℃以上の成長温度で形成されることに起因して、Inの取り込みが悪くなり、原料効率が悪くという不都合が生じるのを抑制することができる。また、In組成比が高い場合、平坦性が劣化するなどの不都合が生じるのを抑制することもできる。したがって、このように構成することにより、素子特定の優れた、信頼性の高い窒化物半導体発光素子を容易に製造することができる。
さらに、n側半導体層が、AlとInとを含む窒化物半導体から構成される場合は、そのn側半導体層は、700℃以上であって、1000℃より低い成長温度で形成するのが好ましい。800℃以上900℃以下であればより好ましい。
活性層の井戸層の成長温度は、600℃以上830℃以下が好ましく、井戸層のIn組成比が0.15以上の場合には、600℃以上770℃以下が好ましい。630℃以上740℃以下であればより好ましい。また、活性層の障壁層の成長温度は、井戸層と同じ温度か井戸層より高い温度が好ましい。
p側半導体層の成長温度は、Alを含む窒化物半導体から構成される場合は、700℃以上900℃未満が好ましく、700℃以上880℃以下であればより好ましい。Inを含む窒化物半導体から構成される場合は、600℃以上850℃未満が好ましく、700℃以上800℃以下であればより好ましい。また、p側半導体層が、AlとInとを含む窒化物半導体から構成される場合は、600℃以上であって、1000℃より低い成長温度で形成するのが好ましい。700℃以上850℃以下であればより好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態では、複数の障壁層を異なる厚みに形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、複数の障壁層を同じ厚みに形成してもよい。
また、上記第1〜第5実施形態では、キャリアブロック層を40nm以下の厚みに形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、キャリアブロック層の厚みは40nmより大きくてもよい。また、キャリアブロック層に、3%程度のInが含まれていても、本発明の効果は得られる。また、キャリアブロック層のAl組成比は、駆動電圧低減の目的から、上部クラッド層のAl組成比より高いことが好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態では、n型半導体層のn型不純物としてSiを用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、n型不純物として、Si以外に、たとえば、O、S、Cを用いてもよい。なお、n型不純物としては、Si、Oが特に好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態では、絶縁層をSiO2から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO2以外の絶縁性材料から構成してもよい。たとえば、SiN、Al2O3やZrO2などから絶縁層を構成してもよい。
また、上記第1〜第5実施形態において、結晶軸方向([1−100]方向、[11−20]方向および[0001]方向)は、結晶学的に等価な方向であればよい。
また、上記第1〜第5実施形態では、MOCVD法を用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、MOCVD法以外のエピタキシャル成長法を用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させてもよい。MOCVD法以外の方法としては、たとえば、HVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy)、および、MBE法(Molecular Beam Epitaxy)などが考えられる。
また、上記第1〜第4実施形態では、上部ガイド層を、p型Al0.01Ga0.99Nから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上部ガイド層を、GaN、AlGaNまたはAlInGaNから構成してもよいし、これらを組み合わせた超格子構造に構成してもよい。また、光閉じ込めや、遠視野像の観点から、問題がない場合は、p側のガイド層(上部ガイド層)を形成せずに、キャリアブロック層上に直接p型クラッド層を積層する構成も可能である。
上部ガイド層を形成する場合、上部ガイド層が、不純物をドーピングしない、ノンドープのGaN層であって、p型不純物ドーピングを施したp型GaN層がさらに形成されている場合には、発光素子が有する層厚のうち、p型GaN層の層厚(トータル層厚)Lpganとp型不純物ドーピングが施されていないGaN層(故意にn型不純物ドーピングを施したn型GaN層、故意に不純物ドーピングが施されていないノンドープGaN層)の層厚(トータル層厚)Lganとの関係が、Lgan<Lpganを満たす構成が好ましい。さらには、p型GaN層の層厚は、0.3μm以下であるのが好ましい。0.3μmよりも大きくなると、光分布が広がり、光閉じ込め効率が減少する可能性がある。また、平坦性の劣化を招く可能性もある。
一方、上部ガイド層が、p型不純物ドーピングが施されたp型GaN層の場合、平坦性は劣化しないため、光閉じ込めの観点から設計すればよく、0.3μm程度以下の厚みに設定すればよい。
上部ガイド層に、InGaN、AlGaNまたはAlInGaNを用いる場合には、故意に不純物をドーピングしないノンドープにしてもよいし、p型不純物として、たとえば、Mgをドープしてもよい。上部ガイド層をAlGaNから構成する場合、ノンドープAlGaN層の場合には、そのAl組成比が0.0より大きく、0.03以下の範囲で設定されるのが好ましい。p型不純物ドーピングを施したp型AlGaN層の場合には、そのAl組成比が、0.0より大きく、0.03以下の範囲で設定されるのが好ましい。上部ガイド層をAlGaNから構成した場合、平坦性向上の効果が得られる。なお、ノンドープAlGaN層の場合、Al組成比が0のGaN層では、十分な平坦性向上の効果が得にくくなる。一方、Al組成比が0.03より大きくなると、光閉じ込めが不十分になる。AlGaNからなる上部ガイド層は、0.05μm以上0.4μm以下の厚みに形成されているのが好ましく、0.08μm以上0.25μm以下の厚みに形成されていればより好ましい。AlGaNからなる上部ガイド層の厚みが0.05μmより小さくなると、平坦性向上の効果が不十分になり易い。一方、0.4μmより大きくなると、光の電界強度分布が層方向で広がるため、光閉じ込め係数が低減する。上部ガイド層をAlGaNから構成した場合は、クラッド層のAl組成比を上げることで、光閉じ込めを向上させることは可能である。また、上部ガイド層は、光閉じ込めの観点から、Inを含む窒化物半導体から構成されていればより好ましい。
上部ガイド層をInGaNから構成する場合、In組成比は井戸層のIn組成比よりも小さい範囲で設定される。また、上部ガイド層がノンドープInGaN層の場合、In組成比は0よりも大きく、0.05以下に設定されているのが好ましい。上部ガイド層がp型不純物ドーピングを施したp型層の場合、MgをドープすることでGaNでも平坦性が確保されるため、InGaN層のIn組成比が、0.0以上0.05以下の範囲に設定することが可能である。上部ガイド層がノンドープInGaN層の場合は、In組成比が0のGaN層の場合、十分な平坦性向上の効果が得にくくなる。一方、In組成比が0.05より大きくなると、高い歪みを有するために、結晶品質の低下が危惧される。InGaNからなる上部ガイド層は、0.05μm以上0.5μm以下の厚みに形成されているのが好ましく、0.08μm以上0.3μm以下の厚みに形成されていればより好ましい。InGaNからなる上部ガイド層の厚みが0.05μmより小さくなると、光閉じ込めの効果が不十分となる。一方、0.5μmより大きくなると、光の電界強度分布が層方向で広がるため、光閉じ込め係数が低減する。
上部ガイド層をAlInGaNから構成する場合、ノンドープAlInGaN層の場合には、In組成比は0.002より大きく、0.05以下の範囲で設定されているのが好ましい。また、Al組成比は、0.005より大きく、0.05以下の範囲で設定されているのが好ましい。p型不純物ドーピングを施したp型AlInGaN層の場合には、In組成比は、0.0より大きく、0.05以下の範囲で設定されているのが好ましい。また、Al組成比は、0.0より大きく、0.05以下の範囲で設定されているのが好ましい。また、AlInGaNからなる上部ガイド層は、0.05μm以上0.5μm以下の厚みに形成されているのが好ましく、0.07μm以上0.3μm以下の厚みに形成されていればより好ましい。上記の範囲(組成および厚みの少なくとも一方の上限値)を超えると、結晶品質の劣化を招く可能性がある。一方、上記した組成比の範囲以下の場合および上記した厚みの範囲の下限値より小さい場合の少なくとも一方の場合には、光閉じ込めの効果や平坦性向上の効果が不十分となる。
なお、上記第1〜第4実施形態で示した構成を適宜組み合わせることも可能である。
また、上記第1実施形態では、基板と活性層との間に、n型GaN層および下部ガイド層の2つのGaN層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、トータル層厚が0.7μm以下であれば、上記以外のGaN層が形成されていてもよい。また、基板と活性層との間に、GaN層が形成されない構成にしてもよい。この場合、基板上に積層される層構造にGaN層を含まず、これらの層構造を、InGaN、AlGaN、InAlGaN、InAlNなどのGaNとは異なる組成の半導体層で構成するのが好ましい。
また、上記第1実施形態では、GaN基板の成長主面と接する半導体層をGaN層とした例を示したが、本発明はこれに限らず、GaN基板の成長主面と接する半導体層は、AlGaN、AlInGaN層、AlInN層、InGaN層、または、InN層などであってもよい。
また、上記第1実施形態では、GaN基板上に形成される窒化物半導体各層において、活性層上に形成される窒化物半導体層に、GaN層を含まないように構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、活性層上に形成される窒化物半導体層に、GaN層を含むように構成してもよい。たとえば、コンタクト層をGaN層から構成してもよい。p型不純物ドーピングを施したp型GaN層が形成されている場合、p型GaN層の層厚(トータル層厚)Lpganと、p型不純物ドーピングが施されていないGaN層(故意にn型不純物ドーピングを施したn型GaN層、故意に不純物ドーピングが施されていないノンドープGaN層)の層厚(トータル層厚)Lganとの関係が、Lgan<Lpganを満たす構成が好ましい。
また、上記第1実施形態では、GaN基板上に、基板と活性層との間に形成されるGaN層のトータル層厚を0.7μm以下とした状態で、活性層の障壁層をAlGaNから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記GaN層のトータル層厚が0.7μmより大きい場合であっても、障壁層をAlGaNから構成することで、発光効率向上の効果を得ることができる。
また、上記第3実施形態において、基板に形成される凹部の開口幅および凹部の深さは、適宜変更することができる。なお、凹部の開口幅は、1μm以上50μm以下であるのが好ましい。また、凹部の断面形状は、適宜変更することができる。凹部の断面形状は、△状や台形形状であってもよく、凹凸の段差を生じさせるものであればよい。なお、凹部の開口幅と凹部の深さとの関係については、開口幅が深さより大きく形成されているのが好ましい。開口幅が深さ以下の大きさに形成されていた場合、成長抑制膜を形成する際に、凹部の底面部に成膜される膜厚が薄くなることがある。その一方、開口幅を深さより大きく形成することにより、安定した膜厚で成長抑制膜を成膜することができる。
また、上記第3実施形態では、c軸方向に延びるように掘り込み領域を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、c軸方向と交差する方向に延びるように掘り込み領域を形成してもよい。また、ストライプ状以外に、たとえば、格子状に掘り込み領域を形成してもよい。
また、上記第3実施形態では、凹部の周期を約400μmに設定した例を示したが、凹部の周期は、窒化物半導体レーザ素子のチップ幅(素子幅)によって決めることができ、チップ幅(素子幅)を、たとえば、約200μmとする場合には、凹部の周期は、約200μmとすることができる。なお、凹部(掘り込み領域)の周期(間隔)は、1mm以下が好ましく、400μm以下であればより好ましい。このように構成すれば、ウェハ(基板)の一部に異常箇所があって、それが原因となり層厚変動が生じたとしても、凹部上の半導体素子層表面の窪みによって横方向の成長が分断され、異常箇所に起因する層厚変動の拡散が抑制される。また、凹部(掘り込み領域)の周期(間隔)が5μm以下となると、リッジ部の形成が困難になるため、凹部(掘り込み領域)の周期(間隔)は、5μmより大きくするのが好ましい。
また、上記第3実施形態では、一定の開口幅を有する凹部を直線状に形成することによって、基板に掘り込み領域を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記以外の形状に凹部を形成することによって基板に掘り込み領域を形成してもよい。たとえば、ジグザグ状の凹部や、波状の凹部を形成することによって、基板に掘り込み領域を形成してもよいし、開口幅が変動している凹部を形成することによって、基板に掘り込み領域3を形成してもよい。また、一つの基板に異なる形状の掘り込み領域、および、深さや幅が異なる掘り込み領域が存在していてもよい。このような掘り込み領域を形成した場合でも、本発明の効果を得ることができる。
また、上記第4実施形態では、m面に対してc軸方向にオフ角度を有するGaN基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、オフ角度を有さないm面GaN基板を用いてもよい。また、m面に対してa軸方向およびc軸方向のそれぞれにオフ角度を有するGaN基板を用いてもよい。すなわち、無極性面を成長主面とする窒化物半導体基板であれば、いずれの基板を用いても、第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記第5実施形態では、基板の成長主面と接する層をAlGaN層(下部クラッド層)とした例を示したが、本発明はこれに限らず、基板の成長主面と接する層はAlGaN層以外の層であってもよい。たとえば、上記第1実施形態のように、基板と下部クラッド層との間に、n型GaN層を形成することによって、成長主面と接する層を、n型GaN層としてもよい。また、上記第2実施形態で示したように、基板と下部クラッド層との間に、成長主面と接するように、InGaN層、AlInGaN層、AlInN層などの層を形成してもよい。
また、上記第5実施形態において、GaN基板に、上記第3実施形態と同様の掘り込み領域(凹部)を形成してもよい。また、上記第4実施形態と同様の基板(m面に対してc軸方向にオフ角度を有さない窒化物半導体基板)や無極性基板を用いてもよい。