本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、従来構造の開粒度アスファルト舗装や特許文献1記載の貝殻を骨材として混練したアスファルト舗装に比して、充分に大きな強度を確保しつつ、太陽光の表面反射率を大きくすることで、アスファルト舗装等の温度上昇を抑制し、しかも、従来構造の開粒度アスファルト舗装に比して保水性能が大幅に向上されて夏期の日射による温度上昇の抑制効果に優れた、新規な舗装構造を提供することにある。
また、本発明は、かかる新規な舗装構造を優れた作業性で施工することが出来る、新規な舗装施工方法を提供することも、目的とする。
さらに、混合グラウトに関する本発明は、高い太陽光反射特性、高度な吸水性、保水性を示し得て、上述の新規な舗装構造物や舗装施工方法に用いられ得る新規な混合グラウトを提供することも、目的とする。
舗装構造に関する本発明の特徴とするところは、内部に連続空隙を有する開粒度混合物層を表層として有する舗装構造物において、前記開粒度混合物層の表面から前記連続空隙に対して、貝殻粉末が混合された混合グラウトが注入されており、該開粒度混合物層における上層部分では該混合グラウトが該連続空隙に充填されている一方、該開粒度混合物層における下層部分では該混合グラウトが未充填で該連続空隙が残存されている舗装構造物にある。
本発明に従う舗装構造物においては、基本的構造体として開粒度混合物層を備えていることから、この開粒度混合物層によって基本的強度が確保される。その上で、かかる開粒度混合物層の連続空隙に対してグラウトが注入されていることにより、開粒度混合物層自体の強度が更に向上されている。特に、道路における車輪等が載荷されて外力が直接に及ぼされる上層部分では、開粒度混合物層の連続空隙がグラウト充填で実質的に消失されていることから、開粒度混合物層に対する補強効果と耐久性向上効果が、極めて有効に発揮されるのである。
要するに、本発明に従う舗装構造物では、従来の開粒度アスファルト舗装に比して、グラウト注入により強度及び耐久性が大幅に向上されるのであり、また、前述の特許文献1記載の貝殻を骨材として混練したアスファルト舗装に比して、貝殻を骨材として用いる必要がなく、強度や耐久性に優れたバインダーや砕石等の骨材を用いた高強度な開粒度混合物層を採用することで、一層優れた強度と耐久性を実現することが出来るのである。
さらに、本発明に従う舗装構造物では、開粒度混合物層の連続空隙に充填されるグラウトとして貝殻粉末の混合された混合グラウトが採用されていることから、貝殻自体の特性を利用して、かかる充填物ひいては舗装構造物に対して、適度な透水性および保水性を与えることが可能となる。
しかも、開粒度混合物層の下層部分では、混合グラウトが完全に充填されずに連続空隙が残存していることから、この下層部分で大きな保水効果乃至は貯水効果が発揮される。それ故、降雨や散水、注水等で舗装構造物に水が与えられると、開粒度混合物層の下層部分に対して充分な量の水が貯留されることとなり、この貯留された水が、混合グラウトが充填されて透水性や保水性が制限された上層部分を介して、舗装構造物の表面から蒸発することとなる。これにより、降雨等によって与えられた水を、効率的に且つ長時間に亘って活用して、放熱による温度上昇の抑制効果を得ることが出来るのである。
また、開粒度混合物層の下層部分に連続空隙が存在することにより、従来の密粒度アスファルト等に比して、高い断熱作用を発揮することができる。これにより、本発明に従う舗装構造物を路面等に用いた場合には、舗装面の下部を蓄熱し難くすることができる。さらに、下層部分に連続空隙が形成されていることにより、舗装構造物全体の熱容量が小さくされており、夜間の放熱量を小さく抑えることができる。
また、施工場所等によっては、下層部分に残存する開粒度混合物層の連続空隙と上層部分に存在する微小隙間とを利用して、本発明に係る舗装構造物において、騒音低減効果や排水効果を積極的に得ることも可能であり、或いは、断熱性や保温性等を調節することも可能となる。
さらに、グラウトに混合された貝殻は、それ自体が適度な透水性および保水性を有することに加えて、可視光線の表面反射率が大きい。それ故、舗装構造物の表面に貝殻を含むグラウトが露出されることにより、特に雨中や霧中、夜間等における道路の視認性を向上させる効果もある。
また、貝殻は、その多くが、粉砕しても積層状に広がる板状節理のような構造を有していることから、比較的大きなアスペクト比をもった粉体を効率的に得ることが出来る。そして、このような粉体を混合させた混合グラウトでは、アスペクト比の大きな貝殻粉末によって流動性を効率的にコントロールすることが可能となる。特に開粒度混合物層の連続空隙への注入に際しては、連続空隙を形成する面への引っ掛かり作用も期待できることに加えて、混合グラウトにおけるチクソトロピーの増大が図られる。それ故、例えば後述する本発明方法に従って開粒度混合物層の連続空隙に対して該開粒度混合物層の表面から混合グラウトを注入するだけで、かかる混合グラウトを、開粒度混合物層の上層部分には充分に密に充填させつつ、開粒度混合物層の下層部分への充填を回避することが出来て、下層部分への空隙残留が容易に実現可能となる。
なお、本発明における「開粒度混合物層」は、従来から公知の開粒度アスファルト舗装等が例示として挙げられる。開粒度アスファルト舗装は、一般に、粗骨材として砕石やスラグを用い、これをアスファルトモルタル等と混合した後、敷設・転圧・乾燥して構築され得るが、既設の開粒度アスファルト舗装を本発明に適用することも可能である。
また、本発明における「グラウト」としては、従来から公知の半たわみ性(半剛性)舗装の施工等に際して用いられるセメントミルクが好適に採用されるが、それに限定されるものでない。例えば、特許第3156151号公報に記載されたシルト系充填材など、硬化後に細隙状の空隙を有することで適当な保水性乃至は吸水性と透水性を発揮するものが好適に採用され得る。
さらに、本発明における「貝殻」は、特に限定されるものでないが、例えば産業廃棄物として処理される牡蠣ガラの他、ホタテ貝やアコヤ貝、蛤等の貝殻を採用することにより、貝殻を効率的に収集して利用することが可能であり、環境保全にも優れる。
特に本発明では、かかる貝殻粉末として、牡蠣の殻粉末を50%以上含むものが好適に採用される。牡蠣ガラは、産業廃棄物として処理が問題となっていることに加えて、板状節理のような構造が発達しており、アスペクト比が大きい粉体を安定して且つ効率的に得ることが可能となる。しかも、牡蠣ガラは、貝殻の中でも保水性に優れていることから、牡蠣ガラの混入量を抑えて大きな補強効果を確保しつつ、優れた保水性を得ることも可能となる。
また、上述のように混合グラウトが充填された上層部分と未充填で連続空隙が残存する下層部分とを有する本発明の舗装構造物は、締固土や安定処理土等の路床の上に施工されても良いし、路床上に砕石やスラグ等を敷きつめて転圧した路盤の上に施工されても良い。その他、例えば、コンクリート舗装やアスファルト舗装の如き密粒度混合物層等からなる不透水性の基盤層を敷設したり、既設のものを利用して、かかる基盤層の上に施工するようにしても良い。このような基盤層の採否や具体的構造は、施工場所や予想される載荷重等を考慮して、適宜に選択可能である。
なお、本発明の舗装構造物の総厚や、開粒度混合物層の総厚、上層部分及び下層部分の各層厚は、施工場所や載荷重等を考慮して、要求される強度や耐久性、保水性能や温度上昇抑制性能等が可能な限り実現されるように、開粒度混合物層の具体的構造や採用される混合グラウトの種類等と併せて設定されるものであって限定されるものでない。例えば、平均的な国道を考慮した場合には、開粒度混合物層の総厚を3〜7cmとし、且つ、混合グラウトを充填する上層部分の厚さを、開粒度混合物層の総厚の30〜50%の範囲で設定することが望ましい。蓋し、上層部分の厚さを総厚の30%以上とすることにより、例えばアスファルトモルタルとしてストレートアスファルトを用いて開粒度混合物層を形成する場合においても、混合グラウトの剛性を複合的に活用し得ることにより補強効果が充分に発揮され得て、充分な耐久性を備えつつ温度上昇抑制・耐流動性対策を為し得た舗装構造物が実現可能となる。また、上層部分の厚さを開粒度混合物層の総厚の50%以下とすることにより、例えばアスファルトモルタルとして高粘度アスファルトを用いて強度の高い開粒度混合物層を形成する場合においても、高度な耐久性を付与しつつ、下層部分に充分な連続空隙を形成し得て、保水効果や温度上昇抑制性効果を有効に機能させることができる。
また、本発明に従う舗装構造物においては、前記開粒度混合物層の下方に、不透水性の基盤層が設けられていることが、好ましい。
連続空隙が残存された開粒度混合物層の下方に基盤層を設けることにより、連続空隙内の空間において効率的に雨水などの水分を蓄えることが出来、舗装構造物による保水効果のより長期間に渡る維持が図られ得る。また、舗装構造物に及ぼされる荷重(例えば道路の場合は交通荷重など)が基盤層により効率的に支持されることから、舗装構造物の支持強度を充分に確保し得る。
一方、舗装施工方法に関する本発明の特徴とするところは、(a)内部に連続空隙を有する開粒度混合物層を舗装構造物の表層として敷設する敷設工程と、(b)貝殻粉末が混合された混合グラウトを準備するグラウト準備工程と、(c)該貝殻粉末が混合された混合グラウトを前記開粒度混合物層の表面から注入して、該開粒度混合物層における上層部分では該混合グラウトを前記連続空隙に充填すると共に、該開粒度混合物層における下層部分では該混合グラウトを未充填で該連続空隙を残存させるグラウト注入工程とを、含む舗装施工方法にある。
このような本発明方法に従えば、前述の如き、混合グラウトが充填された上層部分と未充填で連続空隙が残存する下層部分とを有する本発明の舗装構造物を、優れた作業効率で施工することが出来る。特に、開粒度混合物層の上層部分において連続空隙に充填される混合グラウトを、開粒度混合物層の施工後にその表面から注入するだけで、混合グラウトの流下が至らない開粒度混合物層の下層部分に空隙が残存して、目的とする上層部分と下層部分の略二層構造が完成されることとなる。
特に、前述のように本発明方法では、比較的アスペクト比が大きい貝殻粉末を混合したことで、混合グラウトにおけるチクソトロピー性が大きく確保され得る。これにより、混合グラウトを開粒度混合物層の表面から注入する際には、混練力や注入圧、流動等の外力が混合グラウトに作用することで、比較的大きな流動性が発現される一方、開粒度混合物層の連続空隙に進入した混合グラウトは、連続空隙を形成する開粒度混合物層で流動が拘束されて流動速度も抑えられることにより、粘度が回復して流動性が低下する。その結果、開粒度混合物層の上層部分では、混合グラウトが比較的速やかに且つ隅部まで効率的に充填される一方、開粒度混合物層の下層部分では、混合グラウトの流下が抑えられて連続空隙が効果的に維持され得ることとなるのである。
そして、このような混合グラウトにおける大きなチクソトロピー性を利用することで、開粒度混合物層の上層部分の連続空隙に対する混合グラウトの注入作業を、特別に大きな圧力を必要とすることもなく、例えば塗工等の簡易な施工で重力を利用して注入施工することも可能となり、それによって、本発明方法の施工の作業が更に容易となる。
ところで、本発明方法では、例えばそのグラウト準備工程において、グラウトとしてセメントミルクを採用すると共に、該セメントミルクにおける貝殻粉末とセメントの重量比を1〜5とすることが、好ましい。
蓋し、貝殻粉末とセメントの重量比が1より小さくなると、上述のチクソトロピーの特性が充分に発揮されなくなるおそれがあると共に、貝殻粉末によって実現される保水性や温度低減効果、路面視認性等の前述の本発明に従う舗装構造物が目的とする技術的効果を充分に達成することが難しくなる。一方、貝殻粉末とセメントの重量比が5より大きくなる程に貝殻粉末の混合割合を大きくすると、混合グラウトの硬化後の強度が小さくなり、混合グラウトを注入することによる開粒度混合物層の補強効果、ひいては前述の本発明に従う舗装構造物が目的とする強度や耐久性を充分に達成することが難しくなる。なお、貝殻粉末とセメントの重量比とは、セメントに対する貝殻粉末の比率であって、例えば、貝殻粉末:セメント=2:1であれば、貝殻粉末とセメントの重量比は2となる。
また、本発明方法では、例えばそのグラウト準備工程において、グラウトとしてセメントミルクを採用すると共に、該セメントミルクにおける水セメント比を0.5〜3.0とすることが、好ましい。
蓋し、水セメント比(w/c)が0.5より小さくなると、混合グラウトの流動性が低下して開粒度混合物層の連続空隙への注入作業が難しくなって施工に支障が生じるおそれがあると共に、硬化後に充分な保水性を得難くなるおそれがある。一方、水セメント比が3.0を超えると、混合グラウトの流動性が大きくなり過ぎて開粒度混合物層の下層部分で連続空隙を残存させることが難しくなるおそれがあると共に、水相が分離しはじめて硬化後に充分な強度(補強硬化)を得難くなるおそれもある。
なお、混合グラウトの流動性や硬化後の含水性、強度を調節する等の目的で、混合グラウトに減水剤を添加しても良い。また、セメントミルクを採用するに際して、高炉スラグ微粉末を混合することでセメント使用量を抑えることも出来る。セメントとしては、普通ポルトランドセメント等の従来公知のものが何れも採用可能である。更に、セメントミルクには、減水剤やAE剤、硬化調節剤等の混和剤が適宜に添加される。また、上述の高炉スラグ微粉末の他、シリカやフライアッシュ等の微粉末、膨張材等の混和材も、流動性や硬化後の含水性、強度等を考慮して採用することが可能である。
また、本発明方法では、その貝殻粉末として、例えば2.0mm(呼び寸法)の網目のふるいを通過するものが好適に採用される。蓋し、貝殻粉末が大きすぎると、開粒度混合物層の連続空隙への注入作業が難しくなったり、硬化後の含水性や強度にばらつきが発生し易くなる傾向がある。
さらに、本発明方法では、グラウト注入工程によって開粒度混合物層の連続空隙に注入された混合グラウトが固化した後、該混合グラウトが注入された該開粒度混合物層の表面を研ぎ出す研削工程を実施しても良い。
このような研削工程を実施することにより、開粒度混合物層の粗骨材を表面に露出させることが出来る。それにより、舗装構造物の表面における太陽光反射率を向上させたり、耐磨耗性や摩擦抵抗等を向上させたり、表面部分の保水性を調節することも可能であり、更に、開粒度混合物層の粗骨材の表面への露出量を調節することによって、舗装構造物の表面における色を調節することも可能となる。
本発明に従う構造とされた舗装構造物においては、従来構造の開粒度アスファルト舗装や特許文献1記載の貝殻を骨材として混練したアスファルト舗装に比して、充分に大きな強度を確保することが可能であり、しかも、従来構造の開粒度アスファルト舗装に比して太陽光反射性能と保水性能が大幅に向上されて、夏期の日射による温度上昇の抑制効果にも優れる。
また、本発明の舗装施工方法に従えば、上述の如き優れた強度と太陽光反射性能及び保水性能による温度上昇抑制効果とが達成される本発明に従う構造とされた舗装構造物を、良好な作業性をもって容易に施工することが出来る。
さらに、混合グラウトに関する本発明の特徴とするところは、グラウトとして水とセメントとを含んでなるセメントミルクが採用されると共に、該グラウトに貝殻粉末が混合されていることにある。
このような貝殻粉末を含んだ混合グラウトを用いれば、通常のセメントミルクからなるグラウトに比べて吸水性、保水性が大きく向上され得ることとなる。また、貝殻粉末の一部がセメント表面等に露出することにより、光線や熱線に対して高い反射作用を示し得る。その結果、例えば、このような混合グラウトを路面やコンクリートスラブ等の表面に用いることにより、高い断熱性や高温化抑制効果が発揮され得、また、夜間等における視認性も向上され得る。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明の一実施形態としての舗装構造物10の断面説明図が示されていると共に、図2には、この舗装構造物10を施工する一工程を説明するための断面説明図が示されている。以下、かかる舗装構造物10について、施工の工程を追って説明する。
先ず、適当な基盤層としての路床12を設ける。この路床12は、舗装構造物10に及ぼされる荷重(例えば道路の場合に交通荷重)を支持する基盤であり、充分な支持強度をもったものが確保される。具体的には、例えば盛土では良質土を締め固めたり、切土では良質な現地盤を確保することによって路床12とされ得る。その他、土層に対して適当な安定化処理を施したものも路床12として採用可能であるし、例えば砕石やスラグを敷設及び転圧した路盤構造物等も路床12として採用できる。
また、既設の舗装構造物として、例えば密粒度アスファルト混合物層等のアスファルト舗装やコンクリート舗装等がある場合には、それをそのまま或いは表面を切削して、路床12として採用することも可能である。このような既設の舗装構造物を採用すれば、路床12への雨水等の浸透が防止乃至は抑制されて、本発明の舗装構造物10による保水効果のより長期間に渡る維持が図られ得る。従って、このような路床12は、不透水性とされていることが望ましい。
そして、かかる路床12の上に、本発明の舗装構造物10が構築されることとなるが、それには、先ず、図2に示されているように、路床12の上に、開粒度混合物層としての開粒度アスファルト混合物層14が施工される。なお、既存の密粒度混合物層を路床12として採用する場合には、当該路床12の表面に対して礫床材料やセメント等を用いたタックコート(乳剤)を散布等して施工することが望ましい。路床12の状況に応じて、プライムコート等も採用され得る。このようにして、開粒度アスファルト混合物層14を舗装構造物10の表層として敷設することにより、敷設工程が実施される。
この開粒度アスファルト混合物層14は、例えば透水性舗装等として従来から公知のものであり、粗骨材16とアスファルトモルタル18によって構成されている。そして、多数の粗骨材16が所定厚さで敷設された状態で転圧されていることで、開粒度アスファルト混合物層14の骨格を形成している。また、アスファルトモルタル18としては、アスファルトバインダと砂やフィラー等の細骨材とを混合した公知のものが採用可能であり、例えばこれを粗骨材16と混練して粗骨材16の全表面に付着させて用いられる。そして、上述の如く敷設・転圧された多数の粗骨材16が、硬化したアスファルトモルタル18で相互に結合固着されることで、それら多数の粗骨材16が相互に部分的に当接して噛み合った状態で固定的に保持されている。これにより、開粒度アスファルト混合物層14の内部には、相互に噛み合って結合された多数の粗骨材16間において、全体として連続した空隙20が形成されている。
なお、粗骨材16の粒径や材質は、目的とする舗装構造物10に要求される強度や耐荷重性能、耐久性、透水性等を考慮して適宜に設定される。例えば一般道路舗装用途の場合には、最大粒径が5mmや10mm、20mm等のものが採用されることとなり、特に好適には6号砕石(最大粒径13mm)等が採用される。また、アスファルトモルタル18としても、施工場所や要求条件等を考慮して、例えば剥離防止剤等が添加された改質アスファルトバインダ等が適宜に採用され得る。なお、例えば本実施形態に従う舗装構造物10を平均的な国道の舗装に適応する場合において、開粒度アスファルト混合物層14として最大粒径13mmの開粒度アスファルト混合物を使用する場合には、開粒度アスファルト混合物層14の総厚は3〜7cmとされることが望ましい。
次に、このようにして路床12上に構築された開粒度アスファルト混合物層14に対して、その連続空隙20への混合グラウト22の注入を行う(図1参照)。
かかる混合グラウト22は、施工後に硬化して、連続空隙20を埋めるようにして開粒度アスファルト混合物層14の粗骨材16及びアスファルトモルタル18と一体化されるものである。例えば、セメントと水を混練したセメントミルクをグラウトとして採用し、これに貝殻粉末24を添加して混合したものが、混合グラウト22として採用される。なお、更に必要に応じて、カルボン酸系やメラニン系等の公知の減水剤や、SBR系やアクリル系、酢酸ビニル系等の公知の凝固・硬化遅延剤、流動化剤等の混和剤が添加され得る。また、セメントと併せてシルト系粉末を採用することで、セメント配合量を抑えることも可能である。更に、セメントも、施工条件や要求特性等を考慮して、普通ポルトランドセメントの他、超速硬性セメントや、超早強セメント、早強セメント、高炉セメント等が何れも選択され得る。
ここにおいて、貝殻粉末24としては、各種の貝殻の粉末が用いられ得るが、特に好適には牡蠣ガラの粉末が採用される。公知の破砕装置や粉砕装置を用いて、適当な大きさに処理されたものが用いられるが、安定した効果を得るために、粒度調整したものが望ましい。具体的には、3mm(呼び寸法)の網目のふるいを通過する貝殻粉末24を採用することが望ましく、より好適には2mm(呼び寸法)の網目のふるいを通過する貝殻粉末24を採用する。このように貝殻粉末24の大きさを調整することにより、混合グラウト22の流動性だけでなく、硬化後の含水性や強度等を安定して調節することが可能となる。
そして、かかる貝殻粉末24を、グラウトとしてのセメントミルクに対して混合することによって、混合グラウト22を準備する準備工程が行われる。この混合作業は、例えば攪拌翼を備えたミキサ装置等で行うことが出来る。その際、投入する各混合物の割合は、目的とする舗装構造物10において要求される特性を考慮して設定される。具体的に例示すると、セメントミルクにおける水セメント比を0.5〜3.0(重量比)とすることが望ましく、より好適には水セメント比が1.0〜2.0に設定される。また、貝殻粉末24とセメントの重量比を1〜5とすることが望ましく、より好適には貝殻粉末24とセメントの重量比が2〜4に設定される。これらの配合比を採用することにより、一般的な道路に要求される強度や保水性、透水率と、それらに基づいて発揮される温度上昇抑制効果が、効果的に発揮され得ると共に、開粒度アスファルト混合物層14の連続空隙20に対する混合グラウト22の注入作業性も良好に維持され得る。
上述の如くしてグラウトに貝殻粉末24を混合することによって混合グラウト22を準備した後、かかる混合グラウト22を、開粒度アスファルト混合物層14の連続空隙20に注入するグラウト注入工程を実施する。かかる注入作業は、例えば開粒度アスファルト混合物層14の表面に対して混合グラウト22を塗工することによって実施することが可能である。具体的には、例えば走行輪を備えた移動式のホッパー等に混合グラウト22を貯留させて、かかるホッパーから開粒度アスファルト混合物層14の表面に対して混合グラウト22を流下させつつホッパーを走行させると共に、流下した混合グラウト22を開粒度アスファルト混合物層14の表面上でレーキ等で拡げるだけで、重力を利用して、混合グラウト22を開粒度アスファルト混合物層14の表面に開口する連続空隙20に注入することも可能である。
ここにおいて、貝殻粉末24を混合した混合グラウト22を採用すると共に、その水セメント比や貝殻粉末24の混合量を適当に調節して、混合グラウト22の流動性を設定することで、開粒度アスファルト混合物層14の連続空隙20に対する混合グラウト22の注入深さを設定する。即ち、連続空隙20への混合グラウト22の注入が、開粒度アスファルト混合物層14の底部までは至らない厚さ方向の中間位置で止まるように、設定される。具体的には、混合グラウト22の注入深さは、開粒度アスファルト混合物層14の全体の厚さの30〜50%とされることが望ましい。
これにより、図1に示されているように、開粒度アスファルト混合物層14が、混合グラウト22が充填されて実質的に連続空隙20が消失した上層部分26と、混合グラウト22が未充填で連続空隙20が残存した下層部分28との、二層構造として構築されている。なお、これら上層部分26と下層部分28は、開粒度アスファルト混合物層14の全体に亘って明確な境界層をもって形成されている必要はない。
尤も、上述の混合グラウト22は、そこに混合された貝殻粉末24が、貝殻の板状節理のような特徴的な構造(図3参照)に基づいて、図4に示されているように大きなアスペクト比をもった長細状の特徴的な形状を備えている。それ故、かかる混合グラウト22は、開粒度アスファルト混合物層14の表面から連続空隙20に注入されるに際して、表面に近い上層部分26では、大きな流動性をもって連続空隙20に対して速やかに且つ全体に充填され得る一方、表面から離れた下層部分28では、流動性が低下して連続空隙20に対して充填され難くなり、連続空隙20の残存が効率的に実現可能とされる。これは、前述のとおり、貝殻粉末24の特徴的な形状に由来する、連続空隙20の周囲壁面に対する引掛り作用や、大きなチクソトロピー性に基づくものとして説明できる。また、大きなチクソトロピー性をより効果的に利用するために、混合グラウト22を開粒度アスファルト混合物層14の表面から連続空隙20に注入する際、振動ローラ等の振動機を用いて開粒度アスファルト混合物層14の表面上で混合グラウト22に加振力を及ぼすことも有効であり、それにより、加振力が及ぼされた表面近くの混合グラウト22の流動性を更に向上させて作業効率をあげることが出来る。
なお、例えば、本実施形態に従う混合グラウト22を、最大粒径20mm、厚さ5cmの開粒度アスファルト混合物層14に対して注入して施工した試験舗装においては、振動ローラ等によって加振力を及ぼさずにレーキによる敷きならしのみを行って混合グラウト22を充填した場合には、開粒度アスファルト混合物層14の上部1.5cm(総厚の30%)が混合グラウト22で充填された状態となる。一方、同じ混合グラウト22を注入して、振動ローラによる転圧を行い施工した場合には、上部2cm(総厚の40%)が混合グラウト22で充填された状態となる。なお、使用した混合グラウト22の貝殻粉末とセメントの重量比は2、水セメント比は1.14である。
上述の如くして、上層部分26と下層部分28の実質的に二層構造をもって舗装構造物10が構築されるが、必要に応じて、連続空隙20に充填された混合グラウト22が固化した後に、開粒度アスファルト混合物層14の表面に対して切削又は研削を施す研削工程が実施されて、舗装構造物10が完成される。スクレーパ等により表面を研削等することで、開粒度アスファルト混合物層14を表面に露呈させることが出来、粗骨材16による耐久性や耐磨耗性の向上等が図られる他、表面の色調をコントロールすることも可能となる。
このようにして施工されて完成した舗装構造物10においては、特に、路面等として外力が直接に及ぼされる上層部分26で開粒度アスファルト混合物層14の空隙20が混合グラウト22で充填されていることから、混合グラウト22による補強効果と耐久性向上効果が発揮され得て、舗装構造物10の強度が充分に確保されるようになっている。
加えて、本発明に従う舗装構造物10では、開粒度アスファルト混合物層14の上層部分26に充填される混合グラウト22に貝殻粉末24が混合されており、しかも、開粒度アスファルト混合物層14の下層部分28では混合グラウト22が充填されずに空隙20が残存していることから、貝殻粉末24自体の特性と空隙20とを利用して、舗装構造物10に適度な透水性および保水性が付与されている。しかも、開粒度アスファルト混合物層14の下層部分28の空隙20に貯留された水が、混合グラウト22が充填された上層部分26を介して舗装構造物10の表面から徐々に蒸発されることにより、気化熱による効率的な表面温度の抑制効果を長時間に亘って発揮し得るのである。
また、上層部に充填される貝殻粉末24を含む混合グラウト22は、可視光線の表面反射率が大きいことから、日射による温度上昇を防ぎ、また、特に雨中や霧中、夜間等における視認性が向上されており、道路等の舗装に有効に利用され得る。
因みに、上述の如き混合グラウトの注入によって実質的に二層構造とされる舗装構造物における補強効果と、保水性や高反射性に基づく温度上昇抑制効果とを、それぞれ確認するために実験を行った。その結果を、以下に記載しておくが、これらの実験結果からも、本発明における優れた技術的効果が理解されるところである。
先ず、本発明の舗装構造物における混合グラウトによる補強効果を確認するために、本発明に従う舗装構造物において使用される混合グラウトの圧縮強度試験及び曲げ強度試験を行った。即ち、本試験においては、グラウトとしてセメントミルクを採用すると共に、貝殻粉末としての牡蠣ガラ粉を混合し、これらセメントと牡蠣ガラ粉との重量比率等を様々に変えた混合グラウトを用意した。各混合グラウトの配合等は表1に実施例1〜9として示すとおりであり、牡蠣ガラ粉とセメントの配合比を1:1、2:1、3:1、4:1、5:1としたもの、減水剤や混和材を加えたもの等である。なお、セメントは普通ポルトランドセメントを使用しており、貝殻粉末として使用する牡蠣ガラ粉は、実施例1〜8では2.0mmの網目ふるいを通過したものを、実施例9では1.2mmの網目ふるいを通過したものを用いている。また、減水剤としては、ポリカルボン酸系の減水剤SP8Nを使用し、混和材としては、高炉スラグ微粉末を使用した。なお、これらの混合グラウトは、何れもフロー値が180mmとなるように水セメント比(w/c)が調整されている。そして、これらの混合グラウトを用いて供試体を作成して、圧縮強度及び曲げ強度の測定に用いた。
上記表1に示すとおりの配合の混合グラウトにより、φ5×10cmの円柱供試体を作成して、土木学会基準JSCE−F505モルタルの圧縮強度試験方法に従う圧縮試験を行った。即ち、各円柱供試体を、それぞれ室温20℃に置き、材齢3日、7日、28日における圧縮強度を測定した。なお、圧縮強度の測定には、(株)マルイ製の万能試験機を使用した。
図5に、表1における実施例1〜9の圧縮強度測定結果を比較して示す。この試験結果によれば、牡蠣ガラ粉とセメントとの配合比を1:1〜5:1とした供試体は、何れも良好な圧縮強度を示している。よって、本発明に従い、貝殻粉末とセメントとの配合比を1〜5とした混合グラウトを用いて、開粒度アスファルト混合物層14の上層部分を充填すれば、舗装構造物に対して充分な補強効果が期待できることが分かる。
また、図5に示す測定結果から、牡蠣ガラ粉とセメントの配合比が同一であれば、1.2mmの網目のふるいにかけた牡蠣ガラ粉を用いた場合よりも、2.0mmのふるいにかけた牡蠣ガラ粉を用いた場合の方が、優れた圧縮強度を示すことがわかる。
次に、上述の圧縮強度試験に用いたものと同じ混合グラウトを用いて4×4×16cmの角柱供試体を作成し、JIS R5201のセメントの強さ試験に従う曲げ強度試験を行った。即ち、各角柱供試体をそれぞれ室温20℃に置き、材齢3日、7日、28日における曲げ強度を測定した。なお、曲げ強度の測定には、(株)マルイ製の曲げ試験装置及びミハエリス折り曲げ試験装置を使用した。
図6に、表1における実施例1〜9の曲げ強度測定結果を比較して示す。なお、試験結果によれば、牡蠣ガラ粉とセメントとの配合比を1:1〜5:1とした供試体において、何れも良好な曲げ強度が示されている。本試験からも、本発明に従って貝殻粉末とセメントとの配合比を1〜5とした混合グラウトを用いて、開粒度アスファルト混合物層14の上層部分を充填すれば、舗装構造物に対して充分な補強効果が期待できることが分かる。また、本試験においても、牡蠣ガラ粉とセメントの配合比が同一であれば、1.2mmの網目のふるいにかけた牡蠣ガラ粉を用いた場合よりも、2.0mmのふるいにかけた牡蠣ガラ粉を用いた場合の方が、優れた曲げ強度を示すことがわかる。
次に、本発明に従う確認舗装構造物における保水性を確認するために、上述の曲げ強度試験において用いた材齢28日の角柱供試体の折片を用いて、吸水試験を行った。即ち、各折片を一定質量になるまで乾燥させ、その後、折片を4cm深さまで水に漬けて、吸水による質量変化を測定した。吸水による質量の増加率を、経過時間ごとに図7のグラフに示す。
図7の測定結果から、貝殻粉末としての牡蠣ガラ粉を含む混合グラウトは、セメントのみからなるグラウトに比べて、何れも高い吸水性を示すことがわかる。特に、セメントに対する牡蠣ガラ粉の割合が高いほど、良好な吸水性を示している。よって、本発明に従えば、貝殻粉末を含む混合グラウトを用いることで、舗装構造物の吸水性、保水性が有利に向上されることがわかる。
更に、本発明に従う確認舗装構造物における温度上昇抑制効果を確認するために、室内照射試験を行った。すなわち、30×30×5cmの供試体として、表2に示すとおり、4種類の供試体をそれぞれ用意した。即ち、密粒度アスファルトからなる供試体と、セメントのみのグラウト、又は、セメントと牡蠣ガラ粉とからなる混合グラウトを、開粒度アスファルトに対して充填した充填供試体である。なお、混合グラウトとしては、牡蠣ガラ粉とセメントとの比を2:1及び3:1にした2種類を用いた。また、密粒度アスファルトからなる供試体は、密粒度アスコンTop13mmを使用して30×30×5cmの型枠に敷きならして成形した後、振動コンバクタにより締め固めることにより作成した。一方、開粒度アスファルトに対して各グラウトを充填した供試体は、先ず、開粒度アスコンTop20mmを使用して30×30×5cmの型枠に敷きならして成形した後、振動コンバクタにより締め固めることにより、開粒度アスファルト混合物層を作成した。そして、この開粒度アスファルト混合物層に各グラウトを注入して表面をならし、各供試体を振動台に載せて振動を与えてグラウトを空隙に充填させた後、供試体の上面中央に熱電対(T−G−0.65)を取り付けて、28日間経過後に表面を研磨して、グラウト充填供試体を完成させた。
これら密粒度アスファルトからなる供試体とグラウト充填供試体とを、それぞれ厚さ5cmの発泡スチロールで底面と側面を覆い、室内で照射実験を行った。即ち、室温26℃とした恒温室内に供試体を置き、その上方にランプ(ビームランプ散光型、110V150W)を設置して、3時間照射を行い、供試体の表面温度を測定した。なお、ランプは、供試体表面からランプの付け根までの高さが66cmとなるよう設置した。各供試体の表面温度の測定結果を、図8のグラフ及び以下の表2に示す。
図8のグラフ及び表2から明らかなように、貝殻粉末としての牡蠣ガラ粉を含む混合グラウトを充填した供試体では、密粒度アスファルトの供試体に比べて、最高表面温度が最大で約13度低くなっている。この結果から、本発明に従う貝殻粉末を含む混合グラウトを用いて上層部分を充填して施工される舗装構造物は、太陽光の表面反射特性に優れ、従来の密粒度アスファルトに比して、有効な温度上昇抑制効果を発揮し得ることが分かる。しかも、本発明に従う舗装構造物は、貝殻粉末を含む混合グラウトを用いることにより、貝殻粉末を含まない単なるセメントを充填した開粒度アスファルトよりも、優れた温度上昇抑制効果を発揮し得ることがわかる。
また、本発明に従う舗装構造物の温度上昇抑制効果をさらに明らかにするために、分光反射率の測定試験を行った。即ち、上述の表面温度測定試験において用いた供試体と同様にして、密粒度アスファルトと、開粒度アスファルトに牡蠣ガラ粉とセメントの質量比を2:1とした混合グラウトを充填した試料を作成し、これらを30×30cm、厚さ20mmに切り出して試験体とした。これら密粒度アスファルトからなる試験体30と、開粒度アスファルトに牡蠣ガラ粉を含む混合グラウトを充填した試験体32の写真を図9に示す。なお、図9の写真から明らかなように、牡蠣ガラ粉を含む混合グラウトを充填した試験体32は、白色に近い視認性の高い色をしており、このような牡蠣ガラ粉を含む混合グラウトを使用した舗装構造物を用いて路面等を舗装すれば、夏期の日射を効果的に反射させることで路面の温度上昇を抑制し、更に、夜間や雨天時などにおいても高い視認性を発揮し得ることが分かる。
そして、これらの試験体の分光反射率を、(株)島津製作所製の分光光度計(MPC−3100)を用いてそれぞれ測定した。その測定結果を、図10のグラフに示す。なお、グラフの値は、同種の2個の試験体の測定値による平均値である。
図9に示す結果から明らかなように、牡蠣ガラ粉を含む混合グラウトを充填した試験体では、従来の密粒度アスファルトに比べて近赤外線領域(780−2500nm)の分光反射率が高く、遮熱効果が高いことがわかる。従って、本発明に従い牡蠣ガラ粉等の貝殻粉末を含む混合グラウトを用いて舗装構造物を作成すれば、表面付近が貝殻粉末を含む混合グラウトで充填されることにより、遮熱効果が有利に発揮されて、舗装構造物の表面温度の上昇を効率的に抑制できることがわかる。