JP2011043149A - 制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】入出力特性が刻々と変化するプラントに対して高い制御性能を維持することができるスライディングモード制御装置を実現する。
【解決手段】状態変数を参照して線形入力及び非線形入力を反復的に演算するスライディングモードコントローラ51と、所定条件に応じて前記非線形入力を規定する切換ゲイン及び平滑化係数のうち一方または両方を変更するとともに、その変更をした後の非線形入力がその変更をする前の非線形入力と同値となるような状態変数を逆算して状態変数を書き換える補正制御部52とを具備する制御装置5を構成した。
【選択図】図2
【解決手段】状態変数を参照して線形入力及び非線形入力を反復的に演算するスライディングモードコントローラ51と、所定条件に応じて前記非線形入力を規定する切換ゲイン及び平滑化係数のうち一方または両方を変更するとともに、その変更をした後の非線形入力がその変更をする前の非線形入力と同値となるような状態変数を逆算して状態変数を書き換える補正制御部52とを具備する制御装置5を構成した。
【選択図】図2
Description
本発明は、内燃機関またはそれに付帯する装置を制御する制御装置に関する。
下記特許文献1に開示されている排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)システムは、過給機を備えた内燃機関のEGR率(または、EGR量)を制御するものである。EGR率と過給圧との間には相互干渉が存在し、一入力一出力のコントローラでEGR率及び吸気管内圧力(または、吸気量)の両方を同時に制御することは難しい。しかも、内燃機関の運転領域によって応答性が異なる上、過給機にはターボラグ(むだ時間)がある。このような事情から、特許文献1に記載のシステムでは、非線形制御対象に対して有効な制御手法であるスライディングモード制御を採用し、相互作用を考慮した多入力多出力のコントローラを設計してEGR制御をしている。
コントローラを設計する際には、ノミナルモデルと呼称する特定の状態空間モデルから一つの切換超平面を導き、この超平面に状態を留めることを考える。ノミナルモデルは、例えば、特定の回転数及び燃料噴射量の下で運転している機関の入出力特性を同定することによって得られる。だが、現実の自動車では、運転領域即ちエンジン回転数及び燃料噴射量が刻々と変化する。そして、機関の入出力特性もまた、運転領域に応じて少なからず変動する。
スライディングモード制御はロバスト性の高い制御手法であり、コントローラ設計時に想定した入出力特性モデルと実際のプラントの入出力特性との誤差(摂動)をうまく吸収することができる。とは言え、アイドルのような低回転低負荷域や高速巡航のような高回転高負荷域等では摂動が大きくなり、オフラインで設計した単一のコントローラを全運転領域に適用することは必ずしも最善ではなかった。
上述の問題に着目してなされた本発明は、入出力特性が刻々と変化するプラントに対して高い制御性能を維持することができるスライディングモード制御装置を実現しようとするものである。
本発明では、内燃機関またはこれに付帯する装置をスライディングモード制御するものであって、状態変数を参照して線形入力及び非線形入力を反復的に演算するスライディングモードコントローラと、所定条件に応じて前記非線形入力を規定する切換ゲイン及び平滑化係数のうち一方または両方を変更するとともに、その変更をした後の非線形入力がその変更をする前の非線形入力と同値となるような状態変数を逆算して状態変数を書き換える補正制御部とを具備することを特徴とする制御装置を構成した。
つまり、スライディングモードコントローラの非線形入力項の要素である切換ゲイン及び/または平滑化係数を適宜変更することを通じて、プラントの入出力特性の変化に追随し、摂動の過大化を防止するようにしたのである。このようなものであれば、低回転低負荷域、高回転高負荷域等においても制御性能が劣化せず、一時的な排気ガスの悪化や出力トルクの低下を抑制ないし回避することができる。
しかしながら、単純に切換ゲイン及び/または平滑化係数を変更すると、当然のことながら、その変更前と変更後とでスライディングモードコントローラが算出する非線形入力がステップ的に変動する。これにより、操作部たる各バルブの開度が跳躍するように変わってしまうため、制御入出力のハンチングを引き起こしかねない。従って、本発明では、切換ゲイン及び/または平滑化係数を変更する際、スライディングモードコントローラが参照する状態変数の書き換えを行い、以て変更前の非線形入力と変更後の非線形入力との乖離の鎮圧を図る。
前記補正制御部が、内燃機関またはそれに付帯する装置の現在状況に関する指標値と、前記切換ゲインまたは前記平滑化係数との関係を定めたマップを予め記憶しており、前記指標値をキーとして当該マップを検索することを通じて変更後の切換ゲインまたは平滑化係数を知得するものであれば、切換ゲイン及び/または平滑化係数を変更する際にECU(Electronic Control Unit)に余計な演算負荷をかけずに済む。
本発明によれば、入出力特性が刻々と変化するプラントに対して高い制御性能を維持することのできるスライディングモード制御装置を実現し得る。
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すものは、本発明の適用対象の一であるEGRシステムである。内燃機関2に付帯するこのEGRシステムは、吸排気系3、4における複数の流体圧または流量に関する値を検出するための計測器11、12と、それらの値に目標値を設定し、各値を目標値に追従させるべく複数の操作部45、42、33を操作する制御装置たるECU5とを具備してなる。
内燃機関2は、例えば過給機を備えたディーゼルエンジンである。内燃機関2の吸気系3には、可変ターボのコンプレッサ31を配設するとともに、その下流に吸気冷却用のインタークーラ32、及び新気量を調節するDスロットルバルブ33を設ける。また、新気量を計測する流量計11、吸気管内圧力を計測する圧力計12をそれぞれ設置する。
内燃機関2の排気系4には、コンプレッサ31を駆動するタービン41を配設し、タービン41の入口には過給機のA/R比を増減させるためのノズルベーン42を設ける。タービン41の下流には、DPF(Diesel Particulate Filter)(図示せず)を設置する。そして、内燃機関2の燃焼室より排出される排気ガスの一部を吸気系3に還流させるEGR通路43を形成する。EGR通路43は、吸気系3におけるスロットルバルブ33よりも下流に接続する。EGR通路43には、排気冷却用のEGRクーラ44と、通過する排気ガス(EGRガス)量を調節する外部EGRバルブ45とを設ける。
本実施形態では、EGR率(または、EGR量)と、吸気管内圧力(または、吸気量)とについて各々目標値を設定し、双方の制御量を一括に目標値に向かわせるべく複数の操作部、即ちEGRバルブ45、可変ターボのノズル42及びスロットルバルブ33を操作する制御を実施する。
EGRバルブ45、ノズルベーン42、スロットルバルブ33は、ECU5により統御されてその開度をリニアに変化させる。各操作部45、42、33は、駆動信号のデューティ比を増減させることで開度を変える電気式のバルブや、あるいはバキュームコントロールバルブ等と組み合わされ弁体のリフト量を制御して開度を変える機械式のバルブ等を用いてなる。
ECU5は、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)またはフラッシュメモリ、A/D変換回路、D/A変換回路等を包有するマイクロコンピュータである。ECU5は、EGR率及び吸気管内圧力を検出するための計測器11、12の他、エンジン回転数、アクセルペダルの踏込量、冷却水温、吸気温、外部の気温、大気圧、DPFの前後差圧(DPFの上流側排気圧と下流側排気圧との差)等を検出する各種計測器(図示せず)と電気的に接続し、これら計測器から出力される信号を受け取って各値を知得することができる。
因みに、本実施形態では、EGR率を直接計測していない。内燃機関2のシリンダに入る空気量は、可変ターボのノズル開度を基に予測することが可能である。その空気量の予測値をgcylとおき、流量計11で計測される新気量をgaとおくと、推定EGR率eegrについて、eegr=1−ga/gcylなる関係が成立する。ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、可変ターボのノズル開度とシリンダに入る空気量との関係を定めたマップデータが記憶されている。ECU5は、可変ターボのノズル開度をキーとしてマップを検索し、シリンダに入る空気量の予測値を得、これと新気量とを上記式に代入してEGR率を算出する。
並びに、ECU5は、EGRバルブ45、可変ターボのノズル42、スロットルバルブ33や、燃料噴射を司るインジェクタ及び燃料ポンプ等(図示せず)と電気的に接続しており、これらを駆動するための信号を入力することができる。
ECU5で実行するべきプログラムはROMまたはフラッシュメモリに予め記憶されており、その実行の際にRAMへ読み込まれ、プロセッサによって解読される。ECU5は、プログラムに従い内燃機関2を制御する。例えば、エンジン回転数、アクセルペダルの踏込量、冷却水温等の諸条件に基づき要求される燃料噴射量(いわば、要求されるエンジン負荷)を決定し、その要求噴射量に対応する駆動信号をインジェクタ等に入力して燃料噴射を制御する。その上で、ECU5は、プログラムに従い、図2、図3に示すサーボコントローラ51及び補正制御部52としての機能を発揮する。
サーボコントローラ51は、スライディングモードコントローラであって、EGR率及び吸気管内圧力のスライディングモード制御を担う。フィードバック制御時、ECU5は、各種計測器(図示せず)が出力する信号を受け取ってエンジン回転数、アクセル踏込量、冷却水温、吸気温、外部の気温及び気圧等を知得し、要求噴射量を決定する。続いて、少なくともエンジン回転数及び要求噴射量に基づき、目標EGR率及び目標吸気管内圧力を設定する。ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、エンジン回転数及び要求噴射量に応じて設定するべき各目標値を示すマップデータが記憶されている。ECU5は、エンジン回転数及び要求噴射量をキーとしてマップを検索し、EGR率及び吸気管内圧力の目標値を得る。さらに、マップを参照して得た目標値を基本値とし、これを冷却水温、吸気温、外部の気温や気圧等に応じて補正して最終的な目標値とする。
そして、ECU5は、計測器11、12が出力する信号を受け取ってEGR率及び吸気管内圧力の現在値を知得し、各制御量の現在値と目標値との偏差からEGRバルブ45の開度、可変ターボのノズル42の開度及びスロットルバルブ33の開度を演算して、各々の操作量に対応する駆動信号をそれら操作部45、42、33に入力、開度を操作する。
EGR率の適応スライディングモード制御に関して補記する。状態方程式及び出力方程式は、下式(数1)の通りである。
本実施形態では、状態量ベクトルXを出力ベクトルYから直接知得できる構造とする、換言すれば計測器11、12を介して検出可能な値を直接の制御対象とすることにより、状態推定オブザーバを排して推定誤差に伴う制御性能の低下を予防している。出力行列Cは既知、本実施形態では単位行列とする。
プラントのモデル化、即ち状態方程式(数1)における係数行列A及び入力行列Bの同定にあたっては、各操作部45、42、33に様々な周波数からなるM系列信号を入力して開度を操作し、EGR率及び吸気管内圧力の値を観測して、その入出力データから行列A、Bを同定する。各操作部45、42、33に入力するM系列信号は、互いに無相関なものとする。これにより、各値の相互干渉を考慮したモデルを作成することができる。
図3に、本実施形態の適応スライディングモード制御系のブロック線図を示す。スライディングモードコントローラ51の設計手順には、切換超平面の設計と、状態量を切換超平面に拘束するための非線形切換入力の設計とが含まれる。1形のサーボ系を構成するべく、当初の状態量ベクトルXに、目標値ベクトルRと出力ベクトルYとの偏差の積分値ベクトルZを付加した新たな状態量ベクトルXeを定義すると、下式(数2)に示す拡大系の状態方程式を得る。
安定余裕を考慮し、切換超平面の設計にはシステムの零点を用いた設計手法を用いる。即ち、上式(数2)の拡大系がスライディングモードを生じているときの等価制御系が安定となるように超平面を設計する。切換関数σを式(数3)で定義すると、状態が超平面に拘束されている場合にσ=0かつ式(数4)が成立する。
故に、スライディングモードが生じているときの線形入力(等価制御入力)は、下式(数5)となる。
上式(数5)の線形入力を拡大系の状態方程式(数2)に代入すると、下式(数6)の等価制御系となる。
この等価制御系が安定になるように超平面を設計することと、目標値Rを無視した系に対して設計することとは等価であるので、下式(数7)が成立する。
上式(数7)の系に対して安定度εを考慮し、最適制御理論を用いてフィードバックゲインを求め、それを超平面とすると、下式(数8)となる。
行列Psは、リカッチ方程式(数9)の正定解である。
リカッチ方程式(数9)におけるQsは制御目的の重み行列で、非負定な対称行列である。q1、q2は偏差の積分Zに対する重みであり、制御系の周波数応答の速さの違いにより決定する。q3、q4は出力Yに対する重みであり、ゲインの大きさの違いにより決定する。また、リカッチ方程式(数9)におけるRsは制御入力の重み行列で、正定対称行列である。εは安定余裕係数で、ε≧0となるように指定する。
なお、上記式(数8)、(数9)に替えて、以下に示す離散系の超平面構築式(数10)及び代数リカッチ方程式(数11)を用いてもよい。
超平面に拘束するための入力の設計には、最終スライディングモード法を用いる。ここでは、制御入力Uを、線形入力Ueqと新たな入力即ち非線形入力(非線形制御入力)Unlとの和として、下式(数12)で表す。
切換関数σを安定させたいので、σについてのリアプノフ関数を下式(数13)のように選び、これを微分すると式(数14)となる。
式(数12)を式(数14)に代入すると、下式(数15)となる。
非線形入力Unlを下式(数16)とすると、リアプノフ関数の微分は式(数17)となる。
従って、切換ゲインkを正とすれば、リアプノフ関数の微分値を負とすることができ、スライディングモードの安定性が保証される。このときの制御入力Uは、下式(数18)である。
ηはチャタリング低減のために導入した平滑化係数であって、η>0である。
スライディングモード制御では、状態量を超平面に拘束するために非線形ゲインを大きくする必要がある。だが、非線形ゲインを大きくすると、制御入力にチャタリングが発生する。そこで、モデルの不確かさを、構造が既知でパラメータが未知な確定部分と、構造が未知だがその上界値が既知な不確定部分とに分ける。状態方程式(数1)に不確かさ(f+Δf)を加え、下式(数19)で表す。
不確かさの確定部分fは、未知パラメータθを同定することで補償される。さすれば、切換ゲインは不確かさの不確定部分Δfのみにかかることとなり、切換ゲインが不確実成分全体(f+Δf)にかかる場合と比べて制御入力のチャタリングを大幅に低減できる。
制御入力Uは、式(数18)に適応項Uadを追加した下式(数20)となる。
制御入力(数20)におけるΓ1は、適応ゲイン行列である。関数hは、一般には状態量x及び/または未知パラメータθの関数とするが、本実施形態ではhをx及びθに無関係な単純式、定数とすることにより、xを速やかに収束させ、θの適応速度を高めるようにしている。特に、h=1とした場合、推定パラメータを下式(数21)に則って同定することができる。
本実施形態では、EGR率y1及び吸気管内圧力y2を制御出力変数とし、EGRバルブ45の開度u1、可変ターボのノズル42の開度u2及びスロットルバルブ33の開度u3を制御入力変数とした3入力2出力のフィードバック制御を行う。状態変数の個数(システムの次数)は、当初の系(数1)では出力変数の個数と同じく2、拡大系(数2)では4となる。制御出力及び状態量をこのように特定することで、排気ガスに直接触れる箇所に流量計等の計測器を設置する必要がなくなる。
尤も、本実施形態のような3入力2出力のシステムでは、det(SBe)=0が成立し、行列(SBe)は正則とはならない。そこで、逆行列(SBe)-1を、一般化逆行列として算定する。一般化逆行列には、例えばムーア・ペンローズ型の逆行列(SBe)†を用いる。
しかして、補正制御部52は、内燃機関2の現況に応じた制御の切り換えを司る。本実施形態では、内燃機関2の運転領域の区分として、少なくとも下記の四種を想定している。
(i)NA域(負圧域、無過給域);アイドル運転のような低負荷領域、即ちエンジン回転数もトルクも低い領域である。NA域では、吸気管内圧力はおおよそ大気圧に近い大きさとなる。このとき、ノズルベーン42の開度を幾ら変えても排気ターボ過給機が仕事をしてくれない状態になる。そして、吸気管内圧力の目標値が吸気管内圧力の実測値より少しでも高いと、ノズル開度が絞られ、ついには飽和(極小化)してそれ以上ノズル開度が変化しなくなる。となれば、排気ガス浄化能率の維持に重要なEGR率の制御に支障を来たしてしまいかねない。
(ii)EGRカット域;EGR通路43を経由したEGRガスの還流を停止する領域である。高い出力トルクが必要とされる高回転高負荷領域や、燃焼不安定ないし失火のおそれのある高地(大気圧が低い状況)にてある程度以上の負荷運転を行うとき、暖気運転を要するとき等が、EGRカット域に該当する。
(iii)EGRカットNA域;やはり、EGR通路43を経由したEGRガスの還流を停止する領域である。EGRカット域との相異は、EGRカット域ではノズルベーン42の開閉操作を通じて吸気管内圧力を増減させ得るのに対し、EGRカットNA域ではそうではない点にある。例えば、DPFの再生を行うときや、高地にて低負荷低回転運転を行うとき等が、EGRカットNA域に該当する。前者においては、(DPFに捕集しているPM(Particulate Matter)を酸化させて除去する目的で)ポスト噴射等を伴いつつ高温の排気ガスをどんどんDPFに送り込みDPFの温度を高めなければならないので、吸気管内圧力制御の目的でノズルベーン42の開度を絞りたくない。また、後者においては、燃焼不安定ないし失火を予防するべくEGRをカットするが、元々排気ガス量が少なく排気圧も低いために、NA域と同様に排気ターボ過給機が仕事をしてくれないという事情がある。
(iv)ノーマル域;上記の何れにも該当せず、内燃機関2の制御をスライディングモードコントローラ51に完全に委ねてよい領域である。
補正制御部52は、エンジン回転数及び要求燃料噴射量(要求負荷)、冷却水温、大気圧、DPFの前後差圧等に基づいて、現在の内燃機関2の運転領域区分を判断する。
図4に、エンジン回転数及び燃料噴射量と運転領域との関係を示す。原則として、エンジン回転数及び燃料噴射量がそれぞれ閾値L1よりも低い低回転低負荷の領域をNA域、エンジン回転数及び燃料噴射量がそれぞれ閾値L2よりも高い高回転高負荷の領域をEGRカット域とし、それ以外の領域をノーマル域とする。
但し、大気圧が閾値よりも低く、自動車が高地に所在していると考えられる状況下では、低回転低負荷の領域をEGRカットNA域とし、中回転以上または中負荷以上の領域をEGRカット域とする。
また、冷却水温が所定値(典型的には、40℃)を下回っているときには、暖機運転のためにEGRカット域とする。並びに、DPFの前後差圧が所定値を越えているときには、DPF再生のためにEGRカットNA域とする。
次いで、補正制御部52は、判断した運転領域区分に応じて、非線形入力項Unlを規定する切換ゲインk及び/または平滑化係数ηを変更する。
既に述べた通り、スライディングモードコントローラ51を設計する際には、特定の運転領域、即ちあるエンジン回転数及び要求燃料噴射量の下における内燃機関2のノミナルモデル(行列A、B)を同定し、状態方程式(数2)を得て切換超平面Sを導出している。このノミナルモデルと実プラントとの間のモデル化誤差(摂動)は、ノーマル域では比較的小さいが、それ以外の領域では拡大する。そこで、本実施形態では、NA域、EGRカット域、EGRカットNA域及びノーマル域という各領域区分毎に、相異なる切換ゲインk及び/または平滑化係数ηを設定することとして、摂動の抑制を図っている。
ECU5のROMまたはフラッシュメモリには予め、図4に示しているような、各領域区分と、切換ゲインk及び/または平滑化係数ηとの関係を定めたマップが記憶されている。補正制御部52は、このマップデータを参照して、k及び/またはηを決定する。即ち、内燃機関2またはそれに付帯する装置の現在状況に関する指標値(エンジン回転数及び燃焼噴射量、冷却水温、大気圧、DPFの前後差圧等)をキーとしてマップを検索し、設定するべきk及び/またはηを知得する。
さらに、補助制御部52は、NA域、EGRカット域、EGRカットNA域、ノーマル域の間で領域区分の遷移が発生した場合において、スライディングモードコントローラ51が算出する非線形入力Unlがステップ的に急変動しないよう、k及び/またはηを変更した後の非線形入力Unlとその変更をする前の非線形入力Unlとが同値となるような状態変数Xeを逆算し、状態変数Xeを書き換える。
因数JΣを下式(数22)とおくと、非線形入力Unlは一般化逆行列(−(SBe)†)にこの因数JΣを乗じたものとなる。
図5に、切換関数σと因数JΣとの関係を模式的に例示する。本実施形態において、σ及びJΣはともに3次元ベクトルであるので、図5は数学的に正確ではない。が、敢えてこの図5に則して述べる(あるいは、σ及びJΣをともにスカラ値と考える)と、JΣはσが増大するにつれて切換ゲインkに漸近する。また、JΣが漸近線kへと近づく変化は、平滑化係数ηが小さいほど急速になり、ηが小さいほど緩慢になる。
k及び/またはηの変更後と変更前とで非線形入力Unlが変動しないようにするためには、その変更後と変更前とでJΣが同値にならなければいけない。従って、下式(数23)が成立する必要がある。
JΣn-1、σn-1、kn-1、ηn-1はそれぞれ、運転領域の区分が遷移する直前の時点における因数、切換関数、切換ゲイン、平滑化係数である。同様に、JΣn、σn、kn、ηnはそれぞれ、運転領域の区分が遷移した直後の時点における因数、切換関数、切換ゲイン、平滑化係数である。図6に、NA域からノーマル域に遷移する場合を例示している。
式(数23)を変形すると、式(数24)となる。
因数ベクトルJΣn-1=[jσ1 jσ2 jσ3]T、切換関数ベクトルσn=[σn1 σn2 σn3]Tとすると、因数ベクトルJΣn-1の各成分jσi(i=1,2,3)について、jσi>0であれば式(数25)が、jσi≦0であれば式(数26)が成立する。
式(数25)を変形すれば式(数27)となり、式(数26)を変形すれば式(数28)となる。
式(数27)ないし(数28)により、因数JΣひいては非線形入力Unlの変動を招かないような切換関数σnが明らかとなる。この切換関数σnから、状態量Xeを逆算することを試みる。
状態量ベクトルXe=[xe1 xe2 xe3 xe4]Tは、その成分に、制御出力Yとその目標値Rとの偏差の時間積分xe1、xe2と、それ以外のものxe3、xe4とを含んでいる。xe1及びxe3は第一の制御出力たるEGR率y1に係り、xe2及びxe4は第二の制御出力たる吸気管内圧力y2に係り、これら状態変数xe1及びxe3、xe2及びxe4は各制御出力y1、y2毎に個別のものとなっている。また、xe3、xe4は出力方程式(数1)を介して各制御出力y1、y2とそれぞれ結びついている。
式(数3)より、切換関数σnと状態量xeとの間には下式(数29)の関係が成立する。
Sj(j=1,2,3,4)は,切換超平面を構成する行列Sの成分のうち,状態変数xejに乗ずる列ベクトルである。
上式(数29)から、切換関数σnを実現する状態変数xe1、xe2、xe3、xe4を逆算することができる。但し、本実施形態では、xe3はEGR率そのものであり、xe4は吸気管内圧力そのものである。また、状態変数xe1及びxe2は、非線形入力Unlに影響を及ぼすが、線形入力Ueqには影響を及ぼさない(行列Aeの定義に留意)。それ故、状態変数xe3及びxe4を書き換えることはせず、状態変数xe1及びxe2を書き換えることによって式(数27)ないし(数28)に示している切換関数σnを実現、非線形入力Unlの変動を阻止する。そのために必要となるxe1及びxe2は、下式(数30)となる。
尤も、行列[S1 S2]は正方行列ではない。そこで、逆行列[S1 S2]-1を、一般化逆行列として算定する。一般化逆行列には、例えばムーア・ペンローズ型の逆行列[S1 S2]†を用いる。
加えて、補正制御部52は、現在の運転領域がNA域、EGRカット域またはEGRカットNA域にあると判断した場合に、それぞれの領域毎に所要の補正を施す。
NA域においては、ノズルベーン42の開度をスライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u2によらない所定値に固定する。それとともに、吸気管内圧力の実測値y2及びxe4として、吸気管内圧力の目標値r2をスライディングモードコントローラ51に与える。スライディングモードコントローラ51内では、吸気管内圧力の偏差が0であると見なされる。
EGRカット域においては、EGRバルブ45の開度をスライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u1を無視して全閉し、なおかつ、Dスロットルバルブの開度をスライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u3を無視して全開する。それとともに、EGR率の実測値y1及びxe3として、EGR率の目標値r1をスライディングモードコントローラ51に与える。スライディングモードコントローラ51内では、EGR率の偏差が0であると見なされる。
EGRカットNA域においては、EGRバルブ45の開度をスライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u1を無視して全閉する。それとともに、EGR率の実測値y1及びxe3として、EGR率の目標値r1をスライディングモードコントローラ51に与える。スライディングモードコントローラ51内では、EGR率の偏差が0であると見なされる。なお、ノズルベーン42については、スライディングモードコントローラ51が算出する制御入力値u2をそのまま与えて操作してもよいし、その開度を制御入力値u2によらない所定値に固定してもよい。
ノーマル域においては、これらの如き補正を行わない。
図7に、ECU5が実行する処理の手順例を示す。ECU5は、エンジン回転数及び要求燃料噴射量、冷却水温、大気圧、DPFの前後差圧等を参照して、NA域/EGRカット域/EGRカットNA域/ノーマル域の間で領域の遷移が発生したか否かを判断する(ステップS1)。領域の遷移が発生したと判断したならば、エンジン回転数及び要求燃料噴射量等に基づいて設定するべき切換ゲインk及び/または平滑化係数ηを知得し(ステップS2)、そのk及び/またはηの設定変更後の切換関数σnがその設定変更直前のσn-1に等しくなるような状態変数xe1、xe2を逆算する(ステップS3)。そして、ECU5のメモリに記憶保持しているk及び/またはη、xe1、xe2の書き換えを行う(ステップS4)。領域の遷移が発生しなければ、ステップS2ないしS4を実施しないことは言うまでもない。
その上で、スライディングモード制御の手法に則り、制御入力Uを算出する(ステップS5)。しかる後、算出した制御入力Uを操作部45、42、33に与えてこれらを操作する(ステップS6)。但し、現在の運転領域がNA域、EGRカット域またはEGRカットNA域にある場合には、ステップS5にて本来のEGR率または吸気管内圧力とは異なる値をスライディングモードコントローラ51に与えるとともに、ステップS6にてスライディングモードコントローラ51の演算結果を無視してEGRバルブ45、ノズルベーン42またはDスロットルバルブ33を操作する。
ECU5は、上記のステップS1ないしS6を、反復的に実施する。
本実施形態によれば、内燃機関2またはこれに付帯する装置をスライディングモード制御するものであって、状態変数Xeを参照して線形入力Ueq及び非線形入力Unlを反復的に演算するスライディングモードコントローラ51と、所定条件に応じて前記非線形入力Unlを規定する切換ゲインk及び平滑化係数ηのうち一方または両方を変更するとともに、その変更をした後の非線形入力Unlがその変更をする前の非線形入力Unlと同値となるような状態変数Xeを逆算して状態変数Xeを書き換える補正制御部52とを具備する制御装置5を構成したため、切換ゲインk及び/または平滑化係数ηの適宜変更を通じてプラントの入出力特性の変化に追随し、摂動の過大化を防止することができる。従って、低回転低負荷域、高回転高負荷域等においても制御性能が劣化せず、一時的な排気ガスの悪化や出力トルクの低下を抑制ないし回避することが可能となる。
前記補正制御部52が、内燃機関2またはそれに付帯する装置の現在状況に関する指標値と、前記切換ゲインkまたは前記平滑化係数ηとの関係を定めたマップを予め記憶しており、前記指標値をキーとして当該マップを検索することを通じて変更後の切換ゲインkまたは平滑化係数ηを知得するものであるため、切換ゲインk及び/または平滑化係数ηを変更する際にECU5に余計な演算負荷をかけずに済む。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。特に、ある領域から他の領域へと遷移するときに、どうしてもJΣを一定に保つことができないケースが発生し得る。例えば、各領域毎に切換ゲインkの大きさが異なっている場合、kが比較的大きい領域からkが比較的小さい領域へと遷移する際に一致するJΣが存在しないことがある。このような問題への対処法としては、下記の二通りが考えられる。
(I)各領域毎のkを統一する;図8に示すように、全ての領域のkを同一値とすれば、どの領域においても必ず同じJΣが存在する。領域の遷移が発生したときには、平滑化係数ηのみを変更する。
(II)切換関数σの上下限を設定する;図9に示すように、全ての領域でJΣが存在するようなσの上限σmax、下限σminを定めておく。σがこれら閾値σmaxまたはσminを超越してしまう暁には、σをσmaxまたはσminにクリップする。
また、EGR制御における制御入力変数は、EGRバルブ開度、可変ノズルターボ開度及びスロットルバルブ開度には限定されない。制御出力変数も、EGR率(または、EGR量)及び吸気管内圧力(または、吸気量)には限定されない。新たな入力変数、出力変数を付加して、4入力3出力の3次システムを構築するようなことも可能である。例えば、吸気系に過給機(のコンプレッサ)をバイパスする通路が存在している場合、その通路上に設けられたバルブをも操作することがある。このとき、当該バイパス通路内の圧力または流量等を制御出力変数に含め、当該バイパス通路上のバルブの開度を制御入力変数に含めることができる。
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
本発明は、例えば、過給機及びEGR装置が付帯した内燃機関のEGR率を制御するための制御コントローラとして利用することができる。
5…ECU(制御装置)
51…適応スライディングモードコントローラ
52…補正制御部
51…適応スライディングモードコントローラ
52…補正制御部
Claims (2)
- 内燃機関またはこれに付帯する装置をスライディングモード制御するものであって、
状態変数を参照して線形入力及び非線形入力を反復的に演算するスライディングモードコントローラと、
所定条件に応じて前記非線形入力を規定する切換ゲイン及び平滑化係数のうち一方または両方を変更するとともに、その変更をした後の非線形入力がその変更をする前の非線形入力と同値となるような状態変数を逆算して状態変数を書き換える補正制御部と
を具備することを特徴とする制御装置。 - 前記補正制御部は、内燃機関またはそれに付帯する装置の現在状況に関する指標値と、前記切換ゲインまたは前記平滑化係数との関係を定めたマップを予め記憶しており、前記指標値をキーとして当該マップを検索することを通じて変更後の切換ゲインまたは平滑化係数を知得する請求項1記載の制御装置。
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