JP2011032224A - 塩基性酢酸白金塩及び白金アセチリド化合物、製法及び導電性ペースト - Google Patents

塩基性酢酸白金塩及び白金アセチリド化合物、製法及び導電性ペースト Download PDF

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Abstract

【課題】硫黄、ハロゲン及び窒素から完全にフリーで、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない塩基性酢酸白金塩及びその塩基性酢酸白金塩を定量的且つ高収率に製造することのできる製法、更に塩基性酢酸白金塩を用いた金属アセチリド化合物とその製法、その応用物の導電性ペーストを提供することを目的とする。
【解決手段】活性化処理を施した白金酸8.00gを150mLの氷酢酸と混合し、浴温100℃で加熱攪拌すると、懸濁していた固体は徐々に溶解し、10時間以上経過すると固体は消滅して褐色のほぼ均一溶液となる。更に、室温に冷却した後、極微量の不溶分を濾別して、濾液から酢酸を減圧溜去すると、褐色の固体(塩基性酢酸白金塩)9.52gが得られる。この塩基性酢酸白金塩をアルコールに溶解して4倍モルのアセチレンを添加し、70℃、3時間反応させることにより定量的に白金アセチリドを合成することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は白金化合物や白金粉末(コロイドを含む)及び白金系触媒合成に対して有用な原料及び素材表面に白金電極や導体パターン等の金属膜を形成する金属組成物及びその応用法に関し、更に詳細には硫黄やハロゲン及び窒素を含まない塩基性酢酸白金塩及び金属アセチリド化合物とその製法、白金アセチリド化合物の応用物として、素材表面に電極や導体パターン等の白金膜を形成するために使用される導電性ペーストに関する。
遷移金属、特に白金化合物の合成原料として最もよく利用されるのは塩化白金酸などのハロゲン化合物である。それは、最も入手が容易であり、時には水を含む溶媒に可溶で反応の設計が容易であり且つ安価であることによる。しかし、目的物の製造過程及び利用過程中に熱分解などのプロセスが含まれる場合、その熱分解によって非常に腐食性の高いハロゲンやハロゲン化水素が発生するので、ハロゲン化物を原料として用いることが困難である場合が多い。そのとき、ハロゲン化物に代わる有用な原料として注目されるのは金属アルコキシドである。しかし、金属アルコキシドは非常に高価であり、一般的には工業原料としては適当ではないし、白金などの遷移金属アルコキシドは熱安定性が低く合成すら不可能である。一方、金属酢酸塩はアルコキシドと類似の構造をもち、ほとんど全ての金属が酢酸塩として入手可能で比較的安価である。従って、アルコキシドに代わるハロゲンフリーの原料として非常に有用であり、遷移金属化合物の合成の場合特に重要な出発物質となりうる。なかでも白金は燃料電池の触媒、センサー、装飾材料として幅広い用途があり、酢酸白金はそれらの材料合成の有用な出発物質となるものと期待できる。
一方、素材表面に電極や導体パターン等の白金膜を形成するために使用される導電性ペーストを、例えば電子部品の電極形成に用いる場合には、導電性ペーストをスクリーン印刷等の方法によりセラミック基板上に塗布して所定の回路パターンを形成し、加熱して有機成分を分解・蒸発させてこのパターン部分を金属膜として析出、形成している。従来、この様な用途に用いられてきた有機金属化合物としては、バルサム系化合物、例えば硫化テルピネオール金(C1018SAuCl)、硫化テルピネオール白金(C1018SPtCl)、硫化テルピネオールパラジウム(C1018SPdCl)等が知られている。これらの化合物は一般に金バルサム、白金バルサム、パラジウムバルサムとも略称されており、その他にもロジウムバルサム、ルテニウムバルサム等の貴金属バルサムが知られている。
これら従来のバルサム系化合物を、金属ペーストや金属液等の金属化合物の原料として利用すると、バルサム系化合物には硫黄や塩素が含まれているため、焼成工程でSOやClが副産物として必然的に発生するという問題が存在する。有害物質であるSOやClが発生すると、作業員の職場環境を悪くするだけでなく、自然環境一般に対しても悪い影響を与える。また、これらの有害物質を回収するには脱硫装置などの多大な設備が必要となり、そのうえ100%回収することは困難であった。
また、焼成時に発生するSOやClが素材や装置に悪影響を与える場合がある。素材を加熱して金属以外の成分を分解蒸発させるのであるが、SOやハロゲンが素材や装置を腐食したり、硫黄原子やハロゲン原子が素材中に不純物として拡散する場合がある。特に、素材が電子部品である場合にはその電子特性に悪影響を与える場合もある。
そのため、環境破壊防止への取り組み、地球環境に対する意識の高まり及び電子部品の性能向上への要望につれて、硫黄やハロゲンを含有しない導電性ペーストが要求されるようになった。この問題を解決するため、本願出願人は特許第3491021号(特許文献1)、特許第3674870号(特許文献2)により、硫黄やハロゲンを含有しない金属化合物として、金属アセチリド化合物を提案した。
特許第3491021号 特許第3674870号
ところで、白金(Pt)は金属材料としては導体だけでなく、燃料電池の触媒、センサー、装飾材料として幅広い用途を有する。この材料を製造する際に上記の環境破壊問題や電子部品の性能への影響を考慮するうえで、硫黄やハロゲン及び窒素を含有しない出発物質が遷移金属化合物の合成に必要となる。かかる観点から有益と考えられる出発物質として、特に、金属酢酸塩はアルコキシドに代わる硫黄やハロゲン及び窒素フリーの原料として非常に有用であり、遷移金属化合物の合成における重要な出発物質となる。
二価白金Pt(II)の酢酸塩であるPt(OCOCHは有用であり、白金(IV)酸ナトリウムNaPt(OH)の硝酸溶液の酢酸中での還元や塩化白金(II)酸塩と酢酸銀との反応によって合成されることは既に知られているが、反応の再現性や収率が低く、工業原料としては利用しがたいという点で問題があった。また、酢酸白金(II)は一般有機溶媒への溶解度が低いため、導電性ぺースト等への利用ができないのは勿論のこと更に他の白金化合物の合成原料としても制約される欠点があった。
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、硫黄やハロゲン及び窒素フリーで、その応用において環境汚染への悪影響を与えず、溶解度が高くて応用範囲が広いPt(IV)を含む塩基性酢酸白金塩を提供することである。また、かかる塩基性酢酸白金塩を定量的あるいは高収率に製造することのできる製法を提供することを目的とする。更に、かかる塩基性酢酸白金塩を用いた金属アセチリド化合物とその製法を提供することを目的とする。更に加えて、かかる白金アセチリド化合物の応用物として、素材表面に電極や導体パターン等の白金膜を形成するために使用される導電性ペーストを提供することを目的とする。
本発明者は、白金アセチリド化合物の合成だけでなく、種々の白金化合物、金属粉末、触媒合成に好適な酢酸白金塩を高収率で再現性よく製造すべく鋭意研究した結果、以下の研究過程を経て定量的にPt(IV)を含む塩基性酢酸塩を合成することに成功した。
まず、ルテニウムRu、ロジウムRh、パラジウムPd、イリジウムIrの遷移元素については、対応する金属の水酸化物あるいは水和酸化物と酢酸との反応により、夫々の金属酢酸塩を合成できる点に着目した。また、白金の水酸化物としては、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸HPt(OH)(以下、単に白金酸という。)はよく知られており、これは硝酸、硫酸及び燐酸などの鉱酸に溶解して夫々の塩を生成することが分かっている。そこで、かかる白金酸を出発物質として酢酸との反応実験を試みたところ、Pt(IV)を含む酢酸塩が定量的に合成できることを発見した。高原子価の酢酸塩は少量の水の共存条件で部分的に加水分解して塩基性酢酸塩となることが多く、この場合も新規に合成された塩基性酢酸白金塩が生成物として得られたと考えている。
本発明は上記成功に基づきなされたものであり、本発明の第1の形態は、白金(Pt(IV))水酸化物を酢酸に混合して加熱処理することにより、高い溶解性を備えたPt(IV)を含む塩基性酢酸白金塩を製造する塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記白金水酸化物を活性化処理した後、酢酸に混合し前記加熱処理を行う塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記酢酸に無水酢酸を混合して前記加熱処理を行う塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第4の形態は、第1、第2又は第3の形態において、前記加熱処理を80〜130℃の温度下で行う塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第5の形態は、第1〜第4のいずれかの形態において、前記活性化処理は、前記白金水酸化物を水酸化テトラアルキルアンモニウム又はコリンの水溶液に溶解し、酢酸により再沈殿させた後、沈殿物を分離して室温乾燥する処理工程からなり、前記処理工程により活性化した前記白金水酸化物を用いて塩基性酢酸塩を製造する塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記白金水酸化物がヘキサヒドロキソ白金酸(HPt(OH))である塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第7の形態は、第1〜第6のいずれかの形態において、ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の水溶液を過剰のアルカリ水溶液と反応させた後、混合溶液を酢酸で中和して析出することにより生成する前記ヘキサヒドロキソ白金酸を用いて塩基性酢酸塩を製造する塩基性酢酸白金塩の製造方法である。
本発明の第8の形態は第1〜第7のいずれかの形態に係る製造方法により製造された塩基性酢酸白金塩である。
本発明の第9の形態は、第8の形態に係る塩基性酢酸白金塩と有機溶媒とアセチレン誘導体を混合して白金アセチリド化合物を製造する白金アセチリド化合物の製造方法である。
本発明の第10の形態は第9の形態に係る製造方法により製造された白金アセチリド化合物である。
本発明の第11の形態は、第10の形態に係る白金アセチリド化合物を導電材として含む導電性ペーストである。
二価白金Pt(II)の酢酸塩の合成では、反応の再現性や収率という点で問題があり、しかも生成物の酢酸白金(II)は一般有機溶媒への溶解度が低く、導電性ぺースト等への利用は云うに及ばず、更に他の白金化合物や材料合成への応用が制約される難点を有していたが、本発明の第1の形態によれば、四価白金(Pt(IV))の水酸化物を出発物資として、酢酸と混合して加熱処理するといった比較的簡易な合成方法により、高い溶解性を備えたPt(IV)を含む塩基性酢酸白金塩を定量的あるいは高収率に製造することができる。したがって、本発明における製造工程では、出発物質や原料薬品は(化学式上)ナトリウムなどのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属元素を含まず、また還元剤も全く使用せず、生成物は硫黄は勿論のこと、ハロゲンや窒素フリーで、触媒合成や半導体工業への応用の際に害作用が全く無いという特長がある。
本発明における四価白金(Pt(IV))の水酸化物として、前記白金酸(ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸HPt(OH))を使用することができる。市販の白金酸にはその合成過程で微量のナトリウムNaが混入することが分かっている。そこで、本発明の第2の形態によれば、前記白金水酸化物を脱ナトリウム処理することにより、ナトリウム含有率の低減と共に、この操作が同時に白金酸の活性化を促し、その活性化処理により反応性を向上させることができるので、酢酸混合と加熱処理の比較的単純な操作と温和な条件下でハロゲンから完全にフリーである塩基性酢酸塩を高収率に製造することができる。
本発明の第3の形態によれば、前記酢酸に無水酢酸を混合して前記加熱処理を行うので、酢酸単独の混合の場合と比較して、前記無水酢酸の添加により酢酸塩の生成反応が加速され、塩基性酢酸白金塩の合成処理時間の短縮を図ることができる。
本発明の塩基性酢酸白金塩の製造においては、四価白金(Pt(IV))水酸化物を出発物質とする反応であるから、かかる水酸化物は合成直後のフレッシュな状態に近い状態で用いるのが望ましい。つまり、出発物質が完全に結晶化した状態にある場合、反応に際して結晶格子を壊すための余分のエネルギー(格子エネルギーと呼ばれている)が必要となるため、完全に結晶化すると反応速度が低下したり、時には反応が全く起こらなくなったりすることがあるからである。反応温度を上げることは反応速度を上げるためだけでいえば有効であるものの、熱的に不安定な生成物を合成する場合にはできるだけ低温での反応が望ましい。
本発明の第4の形態によれば、80〜130℃の温度下で前記加熱処理を行うことにより、塩基性酢酸白金塩を高収率に製造することができる。特に、100〜110℃の温度範囲がより好ましく、塩基性酢酸白金塩の合成を安定して行うことができる。
市販の白金酸を利用する場合、当然合成から長時間経ている場合が多い。また、その白金酸精製として高温乾燥されている場合がある。そのような場合、白金酸の結晶化が十分進行し、反応性が低下している可能性がある。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、市販品を水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム又はコリン(HOCHCHNMeOH)の水溶液に溶解した後に再び酢酸で再沈殿させることにより、メタノール洗浄や室温乾燥を行うことによって活性の高い白金酸に転換できる知見を得た。
本発明の第5の形態によれば、上記知見に係る再沈殿法に基づき、前記白金水酸化物を水酸化テトラアルキルアンモニウム又はコリンの水溶液に溶解し、酢酸により再沈殿させた後、沈殿物を分離して室温乾燥する活性化処理を行うことにより、Na不純物をより効率的に除去すると同時に活性化した前記白金水酸化物を用いて、より温和な条件下で且つより純粋な塩基性酢酸塩を製造することができる。
本発明の第6の形態によれば、前記白金水酸化物にヘキサヒドロキソ白金酸(HPt(OH))を用いることにより、酢酸又は酢酸と無水酢酸との混合物を添加して前記加熱処理だけで定量的且つ高収率にPt(IV)を含む塩基性酢酸白金塩を製造することができる。
本発明の第7の形態によれば、ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の水溶液を過剰のアルカリ水溶液と反応させた後、混合溶液を酢酸で中和して析出することにより生成する前記ヘキサヒドロキソ白金酸を出発物質として用いて、完全にハロゲンフリーな塩基性酢酸塩を製造することができる。
本発明の第8の形態によれば、第1〜第7のいずれかの形態に係る製造方法により製造された塩基性酢酸白金が硫黄やハロゲン及び窒素から完全にフリーであって、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない良好な特性を具備し、特に、触媒や金属粉末(コロイドを含む)、白金材料や導電性ペーストの原料となる金属アセチリド化合物の出発原料として好適である。
本発明の第9の形態によれば、第8の形態に係る塩基性酢酸白金塩と有機溶媒とアセチレン誘導体を混合して白金アセチリド化合物を製造するので、硫黄やハロゲン及び窒素から完全にフリーである塩基性酢酸白金を出発原料として、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない白金アセチリド化合物を高収率に得ることができる。
本発明の第10の形態によれば、第9の形態に係る製造方法により製造された白金アセチリド化合物が硫黄やハロゲン及び窒素から完全にフリーであって、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない良好な特性を具備し、特に、導電性ペーストの導電材として好適である。
前記白金アセチリド化合物は、溶剤と混合したとき、その混合溶液(白金レジネートという。)は、燃焼、分解時に腐食性のガスを発生させるハロゲンや硫黄及び窒素を含まず、合成、精製処理が容易であり、また、化学的安定性があり、保存、取扱いが容易であり、更に、有機溶媒に対して高い溶解度を有し、しかも金属含有率が高いといった特質を具備する。従って、本発明の第11の形態によれば、前記白金アセチリド化合物の溶液からなる白金レジネートをベース原料として用いられるので、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない良好な電気的特性を具備した良質の導電性ペーストを得ることができる。
例えば、本形態に係る導電性ペーストをセラミック電子部品等の電極形成などに使用した場合には、前記白金レジネートにより白金含有分子分散状態で形成されるので、膜面の平滑化が可能となり、極薄膜の電極を形成してセラミック電子部品の小型化・高密度化・大容量化に寄与することができる。勿論、導体用ペーストの金属成分として白金を含有するため、ニッケルや銅の金属元素と比べ、酸化しにくく導体形成に好適である。
各種白金酸(水酸化白金)に対し、酢酸及び無水酢酸の混合物により反応させた検証実験における白金アセチリド収率を示す表である。
以下に、本発明に係る実施形態の塩基性酢酸白金塩及びその製造方法を詳細に説明する。
本発明に係る塩基性酢酸白金塩の製造原料に用いるヘキサヒドロキソ白金酸(HPt(OH))の合成手順を説明する。
白金酸(HPt(OH))は、ヘキサクロロ白金(IV)酸(HPtCl)水溶液を過剰のアルカリ、例えば水酸化ナトリウムの水溶液と反応させて白金(IV)酸ナトリウム(NaPt(OH))の水溶液とし、これを酢酸で中和することにより微結晶として析出させ、これを分離、乾燥することより合成することができる。こうして得られた白金酸は化学式の上ではナトリウムを含んでいないので、酢酸白金の原料とすることにより、生成物である酢酸白金もナトリウムを含まず、ナトリウム・フリーのプロセスでナトリウム・フリーの酢酸白金を得ることができる。
白金酸の合成の実施例を以下に説明する。
まず、塩化白金(IV)酸HPtClの水溶液36.0g(Pt12.07g、0.0619mol)と90gのNaOHを含む10%水溶液(白金に対して約36倍モル)とを混合し、約80℃で8時間、加熱攪拌する。このときの反応式(1)を以下に示す。
2PtCl6+8NaOH→Na2Pt(OH)6+6NaCl+2H2O…(1)
この混合水溶液を室温に冷却した後、140mLの酢酸(CHCOOH:AcOH)で中和する。中和反応式を下記に示す。
Na2Pt(OH)6+2AcOH→H2Pt(OH)6+2NaOAc…(2)
このとき生じた淡黄色の微細沈殿を遠心分離した後、純水300mLで洗浄、遠心分離の操作を数回実行し、更にメタノール300mLで洗浄、遠心分離の操作を3回繰り返した後、室温で一夜風干することにより白金酸18.0gが得られた。
この白金酸の合成に際しては、反応式(1)から分かるように、塩化ナトリウムが副成される。塩化ナトリウムは数回水洗により除去したのち、メタノールで洗浄する。この手法によれば、最後の操作がメタノール洗浄となるので、分離した固体を室温で風干することによりメタノールを除去して乾燥粉体を得ることができる。
一般的に、水酸化物あるいは水和酸化物を原料とする酢酸塩の合成反応では、これらがアモルファスあるいはそれに近い状態にあることが望ましいとされている。既に述べたように、完全に結晶した状態にある場合、反応に際して結晶格子を壊すための余分の格子エネルギーが必要となり、そのため結晶化すると反応速度が低下し、場合によっては反応が全く起こらなくなる。反応温度を上げることは反応速度を上げるためには有効であるが、熱的に不安定な生成物を合成する際にはできるだけ低温での反応が望ましい。これらの理由から原料の水酸化物は合成直後のフレッシュな状態で用いるのが好ましく、より好ましくはアモルファスあるいはそれに近い状態(微結晶)で用いるのが望ましい。かかる反応速度の観点からも、上記の室温乾燥で得られた白金酸は高温乾燥品に比べて高い反応性を有するので、後述するように、100〜110℃、15時間以内の加熱攪拌によっても100%酢酸塩に転化、合成することが可能となる。
市販の白金酸を使用する場合には、これを水酸化テトラメチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウムやコリン(HOCHCHNMeOH)などの水溶液に溶解した後に再び酢酸で再沈殿させ、上記室温乾燥処理の場合と同様に、メタノール洗浄、室温乾燥という手続きをとることによって活性の高い白金酸に変換することができる。この再沈殿法によれば、白金酸に混入しているナトリウムの更なる除去にも効果がある。
市販白金酸に対して実施した活性化処理の一例を以下に説明する。
市販白金酸10.0gを75gの10%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に再溶解し、室温あるいは高温(例えば70℃)で数時間放置した後、室温で酢酸7.0mLを用いて中和した(中和後のpH値は5〜6であった。)。この中和により生じた沈殿を遠心分離し、更にメタノールで十分洗浄した後、一夜室温で風干した。その結果、白金酸の回収率は99.2%であった。この活性化処理によって、白金酸のナトリウム残留量はさらに2/3以下に減少させることができた。
こうして得られた白金酸と酢酸を混合して加熱すれば塩基性酢酸白金が合成できる。そのときの加熱温度条件は非常に重要で、80〜130℃の温度範囲、さらに云えば90〜110℃であることが好ましい。これより低温ではその反応速度は非常に遅いため、完全に反応を起こさせることが難しい。反応が未完であれば、原料の白金酸の結晶は非常に微小であるために通常の濾紙による完全濾過分離は難しく、未反応原料が残存して純粋な生成物を単離するのも難しくなる。また、後述するように生成物である酢酸白金の熱安定性が低く、反応温度を上げると生成物の分解が併発することにより生成物の収率が低下する傾向が認められるので、高温側でも上記の温度限界に留めるのが望ましい。
上記活性化処理を施した白金酸を出発物質とした塩基性酢酸白金塩の製造例を以下に説明する。
上記活性化処理を施した白金酸8.00gを150mLの氷酢酸と混合し、油浴上、浴温100℃で加熱攪拌すると、懸濁していた固体は徐々に溶解し、10時間以上経過すると固体は消滅して褐色のほぼ均一溶液となった。ついで、室温に冷却した後、極微量の不溶分を濾別して、濾液から酢酸をロータリーエバポレーターを用いて減圧溜去すると、褐色の固体(塩基性酢酸白金塩)9.52g(収量から計算される白金含量54.6%、実測値53.9%)が得られた。この化合物は水、メタノール、酢酸などの極性溶媒によく溶け、アセトンへの溶解度は低くてトルエンには難溶であるので、イオン性の構造を具備すると推察される。この生成物は通常のPt(IV)の酢酸塩と予想されるPt(OAc)の白金含有率(45.2%)より高い白金含有率をもっているので、塩基性の酢酸塩として存在していると推定される。これを加熱すると200℃付近で激しく分解することが分かった。
上記生成化合物のIR(赤外吸収スペクトル)分析では3400cm-1を中心とする幅広い吸収と1650〜1730cm-1付近の水酸基あるいは溶媒和した酢酸に相当する吸収の他に、1630、1540〜1560、1380〜1420cm-1に(ターミナル及び橋掛け)アセタート配位子及びアセタートイオンに典型的な強い吸収が認められる。
1H−NMRスペクトル(プロトンNMR;CDOD溶媒使用)では、1.99ppmに鋭い一重線と2.05ppmから2.60ppmにかけて幅広い二本のピーク(それぞれの中心は約2.15及び2.42ppmでほぼ同じ強度)が認められた(前者と後者の面積強度比は約1:4であった)。
これらの結果は、上記反応生成物が酢酸イリジウム(III)や酢酸ルテニウム(III)と同様のクラスターカチオンと酢酸アニオンからなるイオン性の化合物であり、例えばPt(IV)の3量体である塩基性酢酸塩[PtIV O(μ−OAc)(OH)(OAc)3−n]OAc(n=0〜3に対応して、白金含量率49.11〜54.92%)あるいはPt(IV)とPt(II)の混合4量体である塩基性酢酸塩[PtIV PtIIO(μ−OAc)(OH)(OAc)3−n]OAc(n=0〜3に対応して、白金含量率51.85〜56.60%)に相当する構造をもつことを示唆している。特に、主たる反応生成物は、Pt(IV)の3量体である塩基性酢酸塩[PtIV O(μ−OAc)(OH)]OAc・1/2AcOH(元素含有率:C、16.44;H、2.39;Pt、53.42%)あるいはPt(IV)とPt(II)の混合4量体である[PtIV PtIIO(μ−OAC)(OH)]OAc・AcOH(元素含有率:C、16.70;H、2.38;Pt、54.23%)並びにそれらの混合物が含有されていると推定される。
NMRスペクトルの一重線は、195Ptの核スピン(I=1/2)とのカップリング見られないので、解離している酢酸イオン及び溶媒和酢酸から生じる酢酸分子のメチル基によるものと思われる。幅広い二本のピークは橋掛けアセタート配位子のメチル基によると帰属できる。これが幅広い吸収をもつのは分子が立体的に固定せず、ゆらいだ構造をもつ(つまりフラキショナルである)か、それぞれの磁気的に異なった環境にあるメチル基及び195Pt(I=1/2)によるカップリングによる分裂などで生じる多重線が分離しなかったことによると思われるが、この配位子には少なくとも二つの磁気的に大きく異なる環境が存在することを示唆しているものと推認される。通常の炭素水素分析では、本反応化合物の激しい熱分解特性のために燃焼条件が一定しないことによると思われるが、結果は大きく変動する(例えばC、12.57〜16.42%;H、1.80〜2.32%)。しかし、バラツキがあるものの、白金含量が約54%であることを踏まえると、この分析結果は上記の推定構造とほぼ一致するものであると考えられる。
なお、上記反応生成物の水溶液を塩酸で処理した後、塩化カリウムを加えるとPt(IV)の難溶化合物である黄色のKPtClが沈殿として生成することからも、生成された酢酸塩は白金(IV)を含有していることが視認できる。なお、この酢酸白金は非常に特異である。というのはこの化合物は、アルカリ金属元素やハロゲン、更に窒素並びにリンなどの異種元素を含まず、炭素、水素及び酸素のみからなる配位子だけを含み、水やアルコールによく溶解するという性質をもつが、このような白金化合物は極めてめずらしいからである。
水酸化物と酢酸との反応による酢酸塩の合成において反応を加速するために無水酢酸(AcO)を混合添加する手法が用いられることが多い。本発明の酢酸塩合成反応においても酢酸に無水酢酸(AcO)を併用すると反応が加速される傾向は認められるが、その量比が小さい場合(白金に対して10倍モル程度)には生成物は緑色(固体生成物も副成)となり、赤外吸収スペクトルでは金属カルボニルに特有のCO伸縮振動に基づく弱い吸収が2100〜2110cm−1に認められる。更に無水酢酸の量比を上げる(17倍モル)と生成物は再び褐色となるが、赤外吸収スペクトルではCO伸縮振動の吸収が強くなり、無水酢酸の存在により反応様式が変化することが認められた。無水酢酸添加によって得られた酢酸白金も固体状態で加熱すると、180℃付近で急速に分解する。この分解温度は酢酸のみとの反応で生成した酢酸白金と比べて、約20℃低く、無水酢酸添加による生成物は熱的に不安定であることがわかった。
市販の白金酸を活性化せずに同条件で酢酸のみで100℃において反応させたとき、反応15時間では原料が大量に残存して酢酸塩への完全な転化はできなかったが、このとき生成された生成物はCOを含まない酢酸塩であることが分かった。この酢酸塩は上記のCOを含む酢酸塩より熱的に安定であるので、より高温での反応の可能性を有している。そこで、より高温の110℃と120℃での反応を試みた結果、特に110℃、15時間の加熱条件では、酢酸塩にほぼ完全に転化できることが分かった。しかし、この加熱条件で生成された酢酸塩は、より低温の加熱条件による生成物と比べて、水やアルコールへの溶解度が低いといった性質を有することもわかった。
次に、本発明に係る塩基性酢酸白金塩を用いた白金アセチリド化合物の合成例を説明する。
金属アセチリド化合物は、最も単純には一般式M(−C≡C−R)n(式中のMは金属原子、nは金属原子Mの価数、Rは酸素原子を含有する又はしない炭素数1から8の炭化水素基)で表される有機金属錯体であるが、更にこれにアセチレンが挿入反応して環状構造などの複雑な構造をとる場合が多い。ここで、Mは貴金属原子であり、Rは酸素を含有する場合には水酸基などとして含有する炭化水素基である。更に、Mは貴金属原子であり
金属塩とH−C≡C−R(Rは酸素原子を含有する又はしない炭素数1から8の炭化水素基)で表されるアセチレン誘導体とを反応させ、金属塩の金属原子をアセチレン誘導体の水素原子と置換させて金属アセチリド化合物を生成することができる。このアセチリド生成方法に基づき、上記の反応プロセスにより白金酸から得られた酢酸白金塩から白金アセチリド化合物を生成する反応例を以下に説明する。
0.75gの白金酸から得られた酢酸白金を、30mLのアルコールと混合する。この混合物に白金に対して4倍モルの3.5-ジメチル−1−ヘキシン−3−オールを加え、この混合物を浴温70℃で3時間加熱する。加熱後、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧除去することにより、褐色飴状の生成物を得た。これを室温でトルエンに溶解し、不溶物を濾去する操作(この場合は不溶固形物はなかった)を行った後、濾液からトルエンをロータタリーエバポレーターによって減圧除去して褐色飴状の白金アセチリド化合物1.79g(白金含量27.2%)が得られた。白金含量からの計算上、白金酸からのアセチリド収率は100%となる。
上記合成により得られたアセチリドはアルコールなどの有機溶媒に可溶であり、赤外吸収スペクトルでは2060〜2070cm−1に金属アセチリド特有のC≡C伸縮振動に相当する中程度の吸収が認められる。また、これを元素分析した結果、C、H、Ptは夫々、53.45、6.86、26.6%含有されていることがわかった。従って、このアセチリドの組成はC32.650.05.97Ptと表され、アセチレン及びそのオリゴマーさらに酢酸根が配位していると推定される。
上記合成に係る白金アセチリド化合物はハロゲンや硫黄は無論のこと、窒素フリーに相当するものであるので、白金ペースト用原料や触媒合成の原料として有用である。原料の白金酸中に存在するナトリウムを完全除去されていないとき、得られたアセチリドはトルエン溶液として水洗して更に厳密に脱ナトリウム精製することは可能である。
金属塩の金属原子をアセチレン誘導体の水素原子と置換させてM(−C≡C−R)n(Mは金属原子、nはその価数)で表される金属アセチリド化合物を生成するアセチリド生成方法における、配位子−C≡C−Rは、3.5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールの他に、H−C≡C−Rの形を有する2−プロピン−1−オール、1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、1−ヘキシン、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、1−オクチンを適用することができる。なお、本発明におけるアセチリド合成においては、原料の白金酸の種類、塩基性酢酸白金塩の合成条件(活性化処理の有無、加熱条件、無水酢酸の併用有無)にかかわらず、上記合成例と同様の条件、方法により、組成が実質的に同じアセチリドを高収率で製造することができる。
上記白金アセチリド化合物は原料の白金酸に由来し、硫黄やハロゲン及び窒素から完全にフリーであって、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない良好な特性を具備し、特に、触媒合成や導電性ペーストの導電材として好適である。
白金アセチリド化合物を用いた白金ペーストの作製実施例を以下に説明する。上記のアセチリド生成方法により作製した白金アセチリド化合物を有機溶剤で溶解して白金レジネートを作製し、更に樹脂を混合して白金ペーストを製造することができる。ペースト成分の配合量は、白金アセチリド化合物が60重量部〜10重量部、有機溶剤が30重量部〜85重量部及び樹脂が3重量部〜30重量部であることが望ましい。これに必要ならば、添加剤を1重量部〜10重量部配合してもよい。
具体的には、白金アセチリド25部、ニトロセルロース20部、ブチルカルビトール55部を混練することによりペースト状物質(白金ペースト)を調製することができる。この白金ペーストを例えば、半導体製造用のセラミックス基板上にスクリーン印刷してパターニングした後、焼成することにより電気伝導性に優れ、且つ平滑度のよい白金電極パターンを作製することができる。従って、例えば、本形態に係る導電性ペーストをセラミック電子部品等の電極形成などに使用した場合には、前記白金レジネートにより白金含有分子として単分散状態で形成されるので、膜面の平滑化が可能となり、極薄膜の電極を形成してセラミック電子部品の小型化・高密度化・大容量化に寄与することができる。勿論、導体用ペーストの金属成分として白金を含有するため、ニッケルや銅の金属元素と比べ、酸化しにくく導体形成に好適である。
市販白金酸に対する、本発明の活性化処理による効果の検証実験を以下に説明する。
この検証実験においては、白金酸(HPt(OH))の試料として4種類A〜Dを用いた。前掲の反応式(1)に示されるように、白金酸の精製段階では塩化ナトリウムの副生にNaOH/Pt比が影響すると考えられるので、塩素フリーの酢酸白金塩を得るために、NaOH/Ptモル比が36で加水分解して白金酸を生成し、更に純水洗浄3回、80℃乾燥処理により試料Aを作製した。
試料Bは市販の白金酸であり、塩素及びナトリウムの含量は夫々、0.05%、0.1%である。
試料C、Dは市販品に対して本発明の活性化処理(脱Na処理)を施した場合の比較用試料である。試料Cは白金酸(市販品)を2倍モル以上の10%水酸化テトラメチルアンモニウム(MeNOH)水溶液に溶解し、室温で2時間保持した試料である。試料Dは白金酸(市販品)を2倍モル以上の10%水酸化テトラメチルアンモニウム(MeNOH)水溶液に溶解し、70℃で7時間保持した試料である。MeNOH水溶液による溶解反応は下式(3)で表される。
2Pt(OH)6+2Me4NOH→(MeN)2Pt(OH)6+2HO…(3)
試料C、Dに対して、酢酸を混合して中和処理した。溶液のpHは5〜6とした。この中和反応は下式(4)で表される。
(MeN)2Pt(OH)6+2AcOH→H2Pt(OH)6+2Me4NOAc…(4)
更に、前記中和反応で生じた沈殿を遠心分離し、メタノール洗浄、室温乾燥した。このときの回収率は99%以上であった。
活性化処理した試料C、Dとその原料である市販品(試料B)のNa含量を比較すると、試料C、Dの場合、それぞれ、730ppm、570ppmであり、原料の0.1%と比べてNaをさらに低減できたことが分かる。
次に、試料A〜Dを用いて、白金酸の製造履歴や酢酸―無水酢酸混合系の混合比が生成する酢酸塩の性質や収率に与える影響をについて比較検証を行い、その結果を図1に示した。酢酸塩合成の条件は、加熱温度100℃、反応時間15時間である。図1では酢酸塩の合成反応操作終了後の反応性生物の色調及びその酢酸塩と3.5-ジメチル−1−ヘキシン−3−オールとの反応で得られるアセチリド(トルエン可溶部)の収率を示している。ここではそのアセチレンと酢酸塩はほぼ定量的に反応することを利用している。なお、図1には各試料につきIRスペクトル測定結果に基づくカルボニル配位子の有無を併記している。
図1に示すように、試料A、Dの白金酸を用いて酢酸白金塩を作製したとき、その色調は夫々、褐色で、前者は懸濁状態となり、後者は均一溶液状態となった。試料Bの白金酸を用いて酢酸白金塩を作製したときは、緑色で懸濁状態となった。試料Cの白金酸を用いて酢酸白金塩を作製したときは、AcO/Ptモル比が10の場合、緑色で懸濁状態となり、無水酢酸を添加しない場合には褐色溶液状態となった。ここで顕著なことは、白金酸の製造履歴がその反応性やそれを原料として合成した酢酸白金の色調や反応溶媒に対する溶解度に明らかな影響をもっていることである。試料A及びBは活性化処理をしていない白金酸であるが、その反応性は低く、また生成物は反応溶媒に完全溶解せず、緑色から褐色の不溶物を複製する。酢酸塩の合成反応後の反応混合物の色調なども一定せず、褐色から緑色の間で変化し、再現性に乏しい。一方、試料C及びDは試料Bを活性化処理した白金酸であるが、無水酢酸の有無にかかわらず純酢酸中でも速やかに均一な褐色溶液、可溶性の酢酸塩に転化することが分かる。またその反応の様子にも再現性が認められる。無水酢酸を併用すると白金酸の反応を加速する効果があるが、得られた酢酸白金の溶解度は低く、生成物のIRスペクトルではカルボニル配位子が存在する。また、試料Cは純酢酸中では褐色の均一溶液となるのに対して無水酢酸共存下では緑色の不溶物を生じる。従って、純粋な酢酸白金を得るためには無水酢酸の併用を避けるのが適当であると思われる。
試料A〜Dによって得られた酢酸白金塩を用いて、前記白金アセチリド化合物の合成例と同様に、アルコールと混合し、更に白金に対して4倍モルの3.5-ジメチル−1−ヘキシン−3−オールを加え、この混合物を浴温70℃で3時間加熱処理して白金アセチリド化合物を合成し、トルエン可溶分として抽出・分析した。図1に掲載したアセチリドの収率は分析により得られた白金含量の原料中の白金含量に対する比率から求めた値である。
各試料のアセチリド収率は試料Aにつき65.7%、試料Bにつき80.5%であった。試料Cのうち、無水酢酸を併用したときは96.7%、併用しないときは100.0%であり、試料Dでも95%以上であった。これらの収率結果から、無水酢酸併用の有無にかかわらず、活性化処理した白金酸の試料C及びDは高い収率でアセチリドを生成すること、つまり酢酸白金を高収率で生成することが可能であることが分かる。
以上の検証結果をまとめると、次のようになる。
1)白金酸を活性化することにより反応性が上昇し、純酢酸溶媒中で比較的短時間に定量的に酢酸白金に転化する。その酢酸白金は水、酢酸、アルコール等の極性溶媒中への高い溶解性をもっている。
2)活性化プロセスによって原料の白金酸に含まれるナトリウム含量を低減できる。
3)活性化のためには、水酸化テトラアルキルアンモニウムやコリンなどの水溶液への再溶解、酢酸による再沈殿、メタノール洗浄、室温乾燥のプロセスが有効である。
4)本発明により合成された酢酸白金はアセチレンと容易に反応して、定量的にアセチリドに変化する。なお、アセチリド中の ナトリウムの低減にはトルエン溶液として水洗するのが効果的である。
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
本発明に係る塩基性酢酸白金塩の製法によれば、硫黄は勿論のこと、完全にハロゲンフリーで、窒素も含有せず、工業への応用に対して害作用が全く無い塩基性酢酸白金塩を高収率に製造でき、更にこれを用いて環境汚染や電子特性への悪影響を生じない白金アセチリド化合物を生成することができる。かかる塩基性酢酸白金塩は多くの白金化合物や触媒合成等に利用することができる。また、本発明の白金アセチリド化合物を用いて、環境汚染や電子特性への悪影響を生じない良好な電気的特性を具備した良質の導電性ペーストを提供することができる。従って、本発明は広く電子機器分野、窯業分野、触媒合成、無機合成化学工業、医薬分野等の種々の分野に多岐にわたって利用可能な塩基性酢酸白金塩を提供することができる。

Claims (11)

  1. 白金(Pt(IV))水酸化物を酢酸に混合して加熱処理することにより、高い溶解性を備えたPt(IV)を含む塩基性酢酸白金塩を製造することを特徴とする塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  2. 前記白金水酸化物を活性化処理した後、酢酸に混合し前記加熱処理を行う請求項1に記載の塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  3. 前記酢酸に無水酢酸を混合して前記加熱処理を行う請求項1又は2に記載の塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  4. 前記加熱処理を80〜130℃の温度下で行う請求項1、2又は3に記載の塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  5. 前記活性化処理は、前記白金水酸化物を水酸化テトラアルキルアンモニウム又はコリンの水溶液に溶解し、酢酸により再沈殿させた後、沈殿物を分離して室温乾燥する処理工程からなり、前記処理工程により活性化した前記白金水酸化物を用いて塩基性酢酸塩を製造する請求項1〜4のいずれかに記載の塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  6. 前記白金水酸化物がヘキサヒドロキソ白金酸(HPt(OH))である請求項1〜5のいずれかに記載の塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  7. ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の水溶液を過剰のアルカリ水溶液と反応させた後、混合溶液を酢酸で中和して析出することにより生成する前記ヘキサヒドロキソ白金酸を用いて塩基性酢酸塩を製造する請求項1〜6のいずれかに記載の塩基性酢酸白金塩の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする塩基性酢酸白金塩。
  9. 請求項8に記載の塩基性酢酸白金塩と有機溶媒とアセチレン誘導体を混合して白金アセチリド化合物を製造することを特徴とする白金アセチリド化合物の製造方法。
  10. 請求項9に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする白金アセチリド化合物。
  11. 請求項10に記載の白金アセチリド化合物を導電材として含むことを特徴とする導電性ペースト。
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