ミクロトームは、広く知られており、典型的には、生医学実験において、顕微鏡検査の対象とすることができる組織の薄片を作成するために使用されている。切り出されるべき組織が、多くの場合、典型的にはミクロトームを使用することによって可能な限り薄く切り出すことができるよう、パラフィンに埋め込まれ、あるいは冷凍によって固められる。生きている組織および新鮮に固定された組織は、典型的には、この種の切断のためには柔らかすぎ、このような生きている組織および新鮮に固定された組織の薄片を得ることは困難である。試みられている1つの技術的解決策は、切断刃を切断刃のエッジの典型的な鉛直または垂直運動に対して、水平方向に振動させる振動刃ミクロトームを提供することである。そのような振動ミクロトームは、具体的には、組織の埋め込みまたは凍結を必要とせずに、軟組織の薄片を切り出すことを目的としている。刃の水平振動または切断エッジの長手軸におおむね平行な方向の振動が、軟組織試料の切断において従来の切断装置よりも効果的である高周波の振動としてもたらされる。振動ミクロトームによって切断されて得られた薄片は、直接的な刃での細断によって切り出された薄片に比べ、より良好な切断品質を有する。
すべての現行の振動ミクロトームにおいては、刃が、切断刃の長手軸に対しておおむね平行に振動する。これは、典型的には、刃がおおむね水平に、横から横の方向に、高い振動数で振動することを意味する。そのような振動行程の振幅は、少なくとも0.6mmでなければならない。行程の振幅がこの大きさ未満であると、刃が生きている組織を通過しない。代わりに、生きている組織または新鮮に固定された試料が、単に圧縮され、水平に振動している刃を押し戻してしまう。
最近では、振動ミクロトームは、Z軸方向、すなわちX軸である刃の振動方向およびY軸である切断方向の両者に垂直な方向に、切断刃の望ましくない振動を有するとして留意されたい。この切断刃のZ軸の運動をいわゆる「ゼロZ」技法を使用して低減する試みが、従来の振動ミクロトームにおいて行われている。刃の運動が、大抵は、刃が振動しているが組織の切り出しは行っていない試験条件にて試験および定量化される一方で、動作状態における切断刃のZ軸の運動または振動は、おおむね無視されている。
ダブルエッジのカミソリ刃が、組織の薄片を切り出すための振動ミクロトームにおいて広く使用されている。そのようなカミソリ刃は、使用に先立って長手軸に沿って切断または折ることによって、2つのシングルエッジの刃部品へと切断または分割される。今や半分となった刃が、ただ1つの切断エッジを有するが、おおむね中央において、自体の長手軸に沿って、現時点において入手可能な振動ミクロトームの刃ホルダに固定され、組織を切り出すために使用される。薄いカミソリ刃は、刃ホルダに対して、特に振動ミクロトームの刃ホルダによって支持されていない刃の部位において、曲がりまたはたわみを生じがちである。カミソリ刃は、典型的には、刃ホルダに取り付けられて、組織試料の表面に対して15から35度の角度に傾けられる。試料の切り出しの際に、試料自体が、刃を試料に向かって引っ張って、曲げようとする。このような刃の曲げが、試料の切り出しの際に、刃のZ軸方向の曲がりまたはチャタリングゆえに、切断または薄切りされた試料にチャタリングの痕跡を生じさせる。切断される組織試料の抵抗、および本来薄い刃の構造が、刃が多少なりとも柔軟な方法で取り付けられていることと相俟って、Z軸における刃のたわみに寄与し、切断された組織試料の表面の厄介なチャタリング痕によって、結果としての組織の損傷の形成に寄与する。
現行の振動機においては、切断刃のエッジが、水平な切断面において振動する。そのような振動運動は、切断刃が組織槽容器の中央に位置するように、長い振動アームを必要とする。この比較的長い振動アームは、重量が大きく、ぐらつくことなく所望の速度で振動できるように支持することが困難である。
Kongらの米国特許第7,146,895号明細書において、本出願人は、スライド刃ミクロトームを開示している。この特許明細書の開示が、参照により明示的に本明細書に組み込まれるが、この特許明細書に記載されているように、斜めにスライドする切断刃を、ゲルに埋め込まれ試料保持用シリンジの開放端から突き出された生きている組織または死んだ組織の薄い試料を、スライド刃ミクロトーム機を使用することによって切り出すために使用することができる。この先行のKong特許明細書に開示されているスライド刃ミクロトーム機は、大脳などの軟組織を薄片へと切り出すために使用可能である。しかしながら、この従来の装置は、依然としていくつかの限界を抱えている。その第1は、脳幹または小脳などといった繊維を多く含有していて切断が難しい傾向にある組織に関して、直接的なスライドでは丈夫な組織を切断することができず、結果として組織の切り出しの質が低くなる点にある。また、上述のKongの従来特許明細書に記載のスライド刃装置において切り出すことができる最も薄い薄片は、約70から80μmの厚さである。このような切断厚さでは、スライド刃装置を、典型的には10から40μmの間の厚さの薄片を必要とする組織学的検査に使用することが不可能である。
したがって、新鮮な組織の薄片を切り出すための装置およびそのような装置の使用方法であって、現時点において存在する手順および装置の限界を克服する装置および方法について、ニーズが存在するように見受けられる。新鮮な組織の薄片を切り出すための本発明による方法および装置は、そのような装置および方法を提供し、技術分野における大きな進歩である。
本発明の目的は、新鮮な組織の薄片の切り出しに使用するための装置を提供することにある。
本発明の別の目的は、振動刃ミクロトームを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、振動スライド刃ミクロトームを提供することにある。
本発明のまた別の目的は、振動スライド刃ミクロトームを使用して組織の損傷を軽減するための方法を提供することにある。
本発明のまたさらなる目的は、Z軸方向のチャタリングをなくす振動スライド刃ミクロトームを提供することにある。
本発明のまたさらに別の目的は、組織の薄片の機械的な傷を軽減する振動スライド刃ミクロトームを提供することにある。
新鮮な組織の薄片を切り出すための本発明による方法および装置は、切断刃がおおむね水平方向に振動する振動ミクロトームであって、刃を斜めのX−Y軸方向にも移動させるスライド刃機構を備える振動ミクロトームを使用する。さらに、本発明による振動スライド刃ミクロトームは、Z軸方向の刃の曲がりを大幅に少なくし、結果としてZ軸方向の刃のチャタリングを大幅に少なくする手順において、切断刃を刃ホルダの1つの表面へと貼り付ける。本発明による方法および装置は、硬くなく、あるいは剛でない生きている組織または固定された組織の薄片の切り出しにおける使用を特に意図している。そのような試料は、パラフィンに埋め込まれるわけではなく、凍結させられるわけでもない。本発明による振動スライド刃ミクロトームは、従来技術の装置によって得ることができるよりも大幅に生細胞/死細胞の比の数が大きい試料の薄片を切り出す。そのような生細胞/死細胞の比の大きな数は、薄片の生存可能性の目安である。
本発明による振動スライド刃ミクロトームは、横または前後のおおむね水平な振動運動を、斜め下方へのスライド運動に組み合わせる。得られる複合の切断刃の運動が、本発明の振動スライド刃ミクロトームの切断効率にかなりの効果を有する。従来技術の装置においては、刃の振動の振幅が少なくとも0.6mmでなければならないのに対し、本件装置においては、振幅が0.1mmという少なさでよい。切断対象の試料が、刃の振動運動によって圧縮されることがなく、したがって刃の切断の効率が向上し、試料へと加わる機械的応力が軽減される。
従来技術の装置と対照的に、カミソリ刃(より典型的には、ダブルエッジのカミソリ刃を割った半分)が、ワンピースの刃ホルダへと貼り付けられる。これにより、刃を、刃の全長に沿って、刃ホルダの片側において、刃ホルダへとしっかりと取り付けることが可能になる。接着剤を、刃ホルダの縁まで広げることができ、したがってカミソリ刃の切断エッジの0.5mmの範囲まで広げることができる。これにより、薄いカミソリ刃についてきわめて剛かつ一様な支持が形成され、刃のエッジのぐらつきが基本的になくなる。締め付け式の刃においては、典型的には、1つ以上の締め付けねじなどが存在する。刃に非一様な応力が加わり、刃のエッジがぐらつくことになる。本発明の接着剤の使用による刃の取り付けを使用して刃のエッジのぐらつきをなくすことが、刃の振動しながらスライドする運動との組み合わせにおいて、従来技術においてまん延しているZ軸のチャタリングを基本的になくす。
本発明においては、切断面が典型的には水平方向である従来技術の装置と対照的に、切断面がおおむね鉛直である。これは、従来の装置において一般的である長い振動アームが不要であることを意味する。振動アームを、基本的に、切断行程と同じまで短くすることができ、したがって切断アームがきわめて軽量である。振動ユニットが、プレロードされた直線ベアリングへと取り付けられるため、振動ユニットが、それ自体はYまたはZ軸方向の運動の成分を有することなく、振動の水平またはX方向に自由に動くことができる。振動要素を動かすために必要とされるワット数が、従来の振動ミクロトームが必要とする高い電力のレベルと比べて、きわめて低い。
本発明の振動スライド刃ミクロトームによって切り出される試料は、従来のKongらの米国特許第7,146,895号明細書に詳しく開示されているような試料ホルダに保持される。従来のKongらの特許明細書に記載されているような試料支持構造およびプロセスの組み合わせが、本発明の振動スライド刃ミクロトームの使用と相俟って、きわめて薄く、鋭く、かつ正確に切断された組織試料、特に生きている組織試料の作成をもたらす。新鮮な生きている組織の薄片の評価における重要な因子である薄片の生存可能性が、従来技術の装置を使用して達成できるよりもはるかに高い。薄片の生存可能性の指標である生細胞/死細胞の比が、本発明の装置においては、伝統的な振動ミクロトームを使用した場合よりもはるかに大きい。
新鮮な組織の薄片を切り出すための本発明による方法および装置は、従来技術の装置のいくつかの大きな限界を克服する。それは、技術分野における大きな前進である。
新鮮な組織の薄片を切り出すための本発明による方法および装置の充分かつ完全な理解が、以下に記載されて添付の図面に示されるとおりの好ましい実施形態の詳細な説明を参照することによって、得られる。
最初に図1を参照すると、本発明による振動スライド刃ミクロトームの好ましい実施形態(全体が10で指し示されている)を見て取ることができる。おおむね平坦なベース12が、ミクロトームアセンブリ(全体が14で指し示されている)および試料保持アセンブリ(全体が16で指し示されている)を支持している。すぐに詳述されるとおり、試料保持アセンブリ(全体が16で指し示されている)が、さらなる分析のために試料から組織の薄片を切り出すことができるよう、組織試料を支持および保持するために利用される。試料保持アセンブリ(全体が16で指し示されている)の全体的な構造および動作は、本出願人の名義である従来の米国特許第7,146,895号明細書に記載および図示されている試料保持アセンブリと同様である。上述のとおり、この特許明細書の開示の全体が、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
図2を図1とともに参照することによって見て取ることができるとおり、試料保持アセンブリ(全体が16で指し示されている)は、槽前壁22、槽後壁24、左および右の槽横壁26および28(図1を参照)、ならびに槽底部30を含む試料収容槽(全体が20で指し示されている)を含む。したがって、試料収容槽20は、流体を漏らすことがない容器であり、次に説明されるとおりのミクロトームアセンブリ(全体が14で指し示されている)の動作によって槽20へと入れられる試料の薄片の生存能力を維持することを目的とすることができる適切な食塩水32または他の任意の流体を配置することができる。
再び図2を参照すると、シリンジ筒34を、試料収容槽(全体が20で指し示されている)の後壁24の開口36へと挿入することができる。弾性Oリング38が、槽の開口36を囲み、シリンジ筒34が開口36を通って挿入されるときに食塩水32または他の液体が試料収容槽20から漏れ出すことがないようにする。食塩水または他の溶液32を、シリンジ筒34が所定の位置に配置された後でのみ槽へと追加されること、ならびに食塩水または他の溶液32が、シリンジ筒34を取り除く前に排水されることを、理解できる。シリンジ支持ベース40が、試料収容槽の後壁24の後方に離間して、後壁24に平行に位置している。このベースに、槽の後壁の開口36に整列したベース開口42が設けられている。さらに図2に見て取ることができるとおり、弾性Oリング38は、試料収容槽20の後壁24とシリンジ支持ベース40の前壁44との間に挟まれている。
シリンジ筒34は、協働するシリンジプランジャ50を受け入れるように寸法付けられたおおむね円筒形の筒である。シリンジプランジャ50の前面52は、組織試料54を適切な瞬間接着剤などによって取り付けることができるように構成されている。組織試料54は、典型的には、低ゲル点のアガロース56に包まれ、あるいは低ゲル点のアガロース56へと埋め込まれる。図2に見て取ることができるとおり、シリンジ筒34は、直径が減じられた出口リップ60を備える出口端58を有し、出口リップ60の目的は、シリンジ筒34の出口端58を通過して出ようとする組織試料54および周囲のアガロース56に対して、或る程度の克服可能な抵抗をもたらすことにある。当然ながら、直径が減じられた出口リップ60は、シリンジ筒の出口端58を通過して出ようとする組織試料54および周囲のアガロース56に対して完全な妨げをもたらすことはない。
さらに、シリンジ筒34は、本発明においてはシリンジプランジャ50をスライド可能に受け入れるように寸法付けられた入り口端62を備えるように構造付けられている。ストッパ64が、シリンジ筒の両端58および62の途中においてシリンジ筒34へと取り付けられている。ストッパ64は、シリンジ支持ベース40の後壁66に当接するように配置されている。したがって、ストッパ64は、シリンジ34が試料収容槽20の食塩水32または他の液体へと所定の再現可能な深さまたは位置まで延びるように保証すべく機能する。これは、振動スライド刃ミクロトームをシリンジ筒34の出口端58に整列させるうえで助けとなる。
図2および図3に見て取ることができるとおり、マイクロメータ駆動部(全体が70で指し示されている)が、マイクロメータ駆動部ハウジング(全体が72で指し示されている)に位置している。次いで、マイクロメータ駆動部ハウジング72が、マイクロメータ駆動部ハウジング保持プレート74の上に固定されている。マイクロメータ駆動部ハウジング保持プレート74は、任意の適切な手段によってベース12へと固定されたマイクロメータ駆動部ハウジング直線スライド76に沿って、図3の矢印Aによって示されている方向にスライドできる。マイクロメータ80が、マイクロメータ駆動部ハウジング72の支持台82の上に位置しており、マイクロメータ本体84を有する。マイクロメータ本体84によって保持されたマイクロメータプランジャ86が、マイクロメータ駆動部ハウジング72およびマイクロメータ駆動部ハウジング72へと取り付けられた取り付け板88を通過している。マイクロメータプランジャ86の自由端90が、シリンジプランジャの外面92に係合できる。
マイクロメータ駆動モータ96が、マイクロメータ駆動部ハウジング72に位置しており、好ましくは適切な電動ステッピングモータとして設けられている。マイクロメータ駆動モータ96は、マイクロメータモータ駆動歯車98を有し、マイクロメータモータ駆動歯車98は、マイクロメータモータ駆動歯車98からマイクロメータ駆動歯車102へと延びるマイクロメータ駆動ベルト100を支持している。これらの駆動歯車98および102はどちらも、外側に歯を有し、駆動ベルト100の内側の歯またはコグと係合する。マイクロメータ駆動モータ96は、マイクロメータモータ制御部104によってきわめて精密に制御される。マイクロメータプランジャ86(具体的には、マイクロメータプランジャ86の自由端90)がシリンジプランジャ50に係合して、シリンジプランジャ50をシリンジ筒34内で所定の量だけ前進させることができるよう、有限の量だけマイクロメータ駆動ステッピングモータ96を回転させるべく、この制御部を動作させることができる。このようなシリンジプランジャ50の所定の量の前方移動によって、所定の長さの試料54および周囲のアガロース56が、シリンジ筒34の減じられた直径の出口リップ60から押し出され、したがって所定の長さの試料54および周囲のアガロース56を、振動スライド刃ミクロトームによって切り出して、試料収容槽20の食塩水32または他の適切な溶液へと預けることができ、さらなる処理のために取り出すことが可能である。シリンジプランジャ50をシリンジ筒34の後方の入り口端62から取り出す必要がある場合には、マイクロメータプランジャ86およびマイクロメータプランジャ86の自由端90を、マイクロメータ駆動モータ96を逆転させることによってマイクロメータ駆動部ハウジング72に向かって引き込むことができる。ひとたびマイクロメータプランジャ86がそのように引き込まれると、マイクロメータ駆動部ハウジング72を、マイクロメータ駆動部ハウジングスライド76上で側方にスライドさせることができる。所望であれば、特に図示されていないが、マイクロメータ駆動部ハウジング72を動作時の位置に保持するために適切な締め具を使用することができ、マイクロメータ駆動部ハウジング72を非使用位置へと側方にスライドさせることができるように適切な締め具を緩めることができる。
再び図1を参照し、本発明による振動スライド刃ミクロトームアセンブリ(全体が14で指し示されている)を詳しく説明する。ミクロトームの目的が、低ゲル点のアガロース56に埋め込まれ、シリンジの出口端58から押し出され、減じられた直径の出口リップ60によって制限される組織試料54から薄くて一様な生存能力のある組織試料を切り出すことにあることは、当業者にとってきわめて明白である。組織試料54の段階的な前進を、マイクロメータモータ制御部104の制御のもとで、マイクロメータステッピング駆動モータ96の動作によって達成することができる。組織試料54を低ゲル点のアガロース56に適切に埋め込むこと、ならびにシリンジ筒34と、減じられた直径の出口リップ60と、マイクロメータステッピング駆動モータ96の具備および制御とを協働させることで、組織が切り出しのために準備される。しかしながら、ミクロトームの刃が有効な切断を実行できないならば、組織試料を正確に準備および配置しても、まったく意味がない。従来の装置においては、上述したように、ミクロトームの刃が、チャタリングならびに曲がりまたはたわみを生じやすく、組織を切断するのではなく、組織を圧縮しがちであり、生きている組織または軟組織について、きわめて薄くかつ再現性のある組織試料の薄片をもたらすことが通常はできていない。本発明の振動スライド刃ミクロトームは、これらの限界を克服する。
図1に最もはっきりと見て取ることができるとおり、振動スライド刃ミクロトーム(全体が14で指し示されている)は、基本的には、別個であるが相互作用する2つの構成要素で構成されている。その第1は、斜めスライド構成要素(全体が110で指し示されている)である。第2は、水平振動構成要素(全体が112で指し示されている)である。2つの構成要素は、別個の特徴を有するが、組織試料54をはるかに効率的に切り出すように協働する。
支持柱114が、振動スライド刃ミクロトーム(全体が10で指し示されている)のベース12から上方へと延びている。この柱114は、おおむね矩形であるものとして図1に示されているが、協働する2つの構成要素110および112を支持するために充分な構造的剛性を有する限りにおいて、特定の形状をとる必要はない。斜めスライド台116が、図1に概略的に示されている固定ボルト120など適切な固定具によって支持柱114へと固定された斜めスライドレール118に沿って斜めに運動できるように支持されている。斜めスライド台116および斜めスライドレール118が、台116をスライドレール118に沿って容易に滑らせることができるよう、好ましくは直線ベアリングまたは低摩擦摺動面などといった摩擦低減部品を有することを、理解できる。また、水平線に対する斜めスライドレール118の傾きの角度を、例えば支持柱114に弓形の溝を設け、そのような弓形の溝に固定ボルト120を収容するなどによって、変化させることができることを、理解できる。この傾きの角度は、好ましくは20°から80°の間である。他の角度調節手段も、本発明の想定の範囲内である。
歯車ラック122が、斜めスライド台116の下縁へと取り付けられ、協働する駆動ピニオン124に噛合している。この駆動ピニオンは、斜めスライド台駆動モータ126によって駆動され、斜めスライド台駆動モータ126は、好ましくは回転をスライド台駆動モータコントローラ128によって正確に制御することができるステッピングモータである。1対のホール効果センサ130、132が、斜めスライドレール118の第1および第2の端部の付近に位置している。適切な磁石134が、斜めスライド台116に取り付けられている。動作時、2つのホール効果センサ130、132からの読み取りが、斜めスライド台駆動モータコントローラ128へと送られ、斜めスライド台116をきわめて正確に位置させるために使用することができる。斜めスライドレール118に沿った斜めスライド台116の位置を正確に割り出して制御するために、他の同様の制御の仕組みを使用してもよいことを、理解できる。台116が、図1に矢印Bによって示されているようにXおよびY軸に関して斜めの方向にスライドできること、ならびに台116の位置およびスライド移動の大きさを正確に制御できることが、重要である。
支持アーム140が、第1の固定端142において、ボルト144などの適切な固定具によって斜めスライド台116へと固定されている。ボルト144が、支持アーム140を斜めスライド台116へと取り付けるために使用することができる任意の適切な固定手段を概念的に代表していることを、理解できる。支持アーム140がおおむね水平に保たれることが好ましいため、固定手段144は、斜めスライドレール118のさまざまな傾きにおいて支持アーム140が水平に保たれるよう、調節式であってもよい。支持アーム140の第2の自由端146は、片持ち梁の様相で、試料保持アセンブリ(全体が16で指し示されている)の上方へと延びている。支持アーム140が、図1の本発明のいくぶん概念的な図にて、おおむね矩形の部材として示されていることを理解できる。実際には、支持アーム140は、以下で述べるとおりに支持アーム140に意図される役割を達成するために充分な構造的剛性を有する限りにおいて、いくつかある任意の形状をとることができる。
振動刃支持部150が、1対の離間した刃支持キャリア152、154によって保持されており、刃支持キャリア152、154は、刃支持レール156に沿って水平方向にスライド可能である。次いで、刃支持レール156は、ボルト158によって概念的に示されているように、支持アーム140の両端142および146の途中で支持アーム140へとボルトまたは他の方法で固定されている。斜めスライド台116および斜めスライドレール118に関して上述したように、刃支持キャリア152および154(一体化された刃支持キャリッジであってもよい)ならびに刃支持レール156に、直線ベアリング、低摩擦スライド部品、または他の摩擦低減部品などといった摩擦低減要素を設けることができる。結果として、振動刃支持部150は、図1に矢印Cによって示されているとおり、水平方向またはX軸方向にきわめて自由かつ容易に運動または往復するように支持されている。振動刃駆動モータ160が、おおむね支持アーム140の自由な非支持の第2の端部146の付近において、支持アーム140の上に位置している。振動刃駆動モータ160も、典型的には電動モータであって、斜めスライド台駆動モータ126を制御する同じモータ制御部128によって制御される。したがって、2つのモータ126および160のとの間の協調が、共通のコントローラ128を設けることによって保証される。駆動輪162が、このモータ160によって駆動されるが、偏心して位置する駆動ピン164を備える。この駆動ピンが、弾性またはばね鋼接続リンク168の第1の端部166に収容されている。この接続リンク168の第2の端部170は、刃支持部駆動ピン172によって保持されている。図1に概念的に示されているとおり、弾性またはばね鋼接続リンク168の両端166および170に、接続リンク168の支持および接続を助ける適切なベアリングアセンブリ(全体が174で指し示されている)を備えることができる。
振動刃駆動モータ160を動作させることで、駆動輪162が比較的高い速度で回転する。駆動ピン164が偏心して位置しているため、接続リンク168に往復運動が生じる。この接続リンク168の往復運動が、図1に矢印Cで示した方向の振動刃支持部150の水平振動へと変換される。
図1に見て取ることができ、図2にさらに詳しく見て取ることができるとおり、切断刃(全体が180で指し示されている)が、刃ホルダ(全体が182で指し示されている)へと取り付けられている。切断刃180は、細長い刃エッジ184および刃本体186を有する。典型的には、切断刃180は、ダブルエッジのカミソリ刃の半分である。刃本体186が、上縁188および刃側部190を有する。刃ホルダ182は、図1に見られるようにおおむね逆T字の形状であり、おおむね中間点において刃ホルダレッグ194へと取り付けられた刃ホルダバー192を含む。図2に見られるとおり、刃ホルダバー192は、刃本体186の上縁188が係合する当接部として機能する水平方向の畝196を有する。刃の切断エッジ184が、刃ホルダバー192の下縁198の下方を延びている。使用時、切断刃180を、適切な接着剤を畝196の下方の刃ホルダバー192の全長および切断刃側部190へと塗布して使用することによって、刃ホルダバー192へと取り付けることができる。切断エッジ184が約1mmの距離だけ刃ホルダバーの下縁198の下方へと突き出すように、切断刃180が刃ホルダバー192へと接着剤によって取り付けられる。切断刃ホルダ182による切断刃180のこの支持が、刃が離間したいくつかの位置においてのみホルダへと取り付けられる場合に典型的に生じるような切断刃180の曲がりまたはたわみを防止する。
再び図1を参照すると、刃ホルダレッグ194の上端200が、刃ホルダ支持ロッド202によって枢動可能に支持されている。この刃ホルダ支持ロッド202は、振動刃支持部150の下端204の付近に位置している。薄切りされる試料の端部に対する切断刃180の傾きの角度を、図2に示されているように円弧Dにわたって変化させることができるよう、刃ホルダレッグ194およびロッド202の接合点あるいはロッド202および振動刃支持部150の下端204の接合点に、締め付けねじまたはセットねじなどといった適切な固定アセンブリが設けられる。
本発明による振動スライド刃ミクロトームの動作においては、組織試料54がシリンジの前面52へと固定され、適切な低ゲル点アガロース56に埋め込まれる。シリンジプランジャ50が、入り口端62からシリンジ胴またはシリンジ筒34へと挿入される。このようにして組み立てられたシリンジが、槽の後壁24およびシリンジ支持ベース40の整列した開口へと挿入される。ひとたびこれが行われると、試料収容槽20を、適切な食塩水32または他の同様な試料受容媒体で満たすことができる。整列した開口36および42を妨げないように滑らされており、あるいは開口36および42との整列から外されているマイクロメータ駆動部70が、今やマイクロメータプランジャ86(特に、マイクロメータプランジャ86の自由端90)がシリンジプランジャの外面92に整列するまで、マイクロメータ駆動部ハウジング直線スライド76に沿って滑らされる。この時点で、マイクロメータ駆動モータ96が、組織試料54をシリンジ筒34の減じられた直径の出口リップ60を通って外へと前進させるべくコントローラ104によって作動させられるが、コントローラ104は、斜めスライド台駆動モータ126および振動刃駆動モータ160のコントローラ128に接続されている。
斜めスライド台116が、図1に示されているとおり、矢印Bの方向に下方かつ右方に動かされる。同時に、切断刃180が、矢印Cの方向に水平に振動させられる。切断刃180のスライドおよび振動の複合運動が、組織試料54から第1の組織の薄片を切り出すために有効である。この第1の薄片は、外表面が刃180によって新しく形成された表面でなく、おそらくは一様でないため、典型的には廃棄される。シリンジプランジャ50を前進させる工程ならびに切断刃180の振動および斜めのスライド移動によって得られる次の薄片が、厚さにおいてはるかに一様であり、さらなる処理のために食塩水32から取り出すことができる。
本発明による振動スライド刃ミクロトームにおいては、サイクル時間が、振動刃ミクロトームのみを使用して可能なサイクル時間から大幅に短縮される。さらに、切り出し厚さが、従来の装置において可能であるよりもはるかに一様である。ホール効果センサ130および132が、台の不必要な移動が存在しないように、斜めスライド台116の行程を制限する。振動刃支持部150へと付与される短い振動行程は、きわめて効率的であり、やはり試料の切断または薄切りする時間を短縮する。切断刃180の切断エッジ184が、シリンジ筒34の減じられた直径のリップ60の平面に平行な平面(図2に破線で示されている)にて運動し、したがって試料の薄片が、明白かつ迅速に、正確に制御することができる厚さにて切り出される。
試料の薄片の生存能力の1つの有効な指標は、生きている細胞の死んでいる細胞に対する比である。比がより大きいこと、すなわち死細胞1つ当たりに存在する生細胞の数がより多いことが、薄片の生存能力の優秀な指標である。図4に見られるように、本発明による振動スライド刃ミクロトームを使用して作成された薄片の生細胞/死細胞の比としての生存能力206は、従来の振動ミクロトームを使用して得られる比208よりもはるかに良好である。このように、本発明による振動スライド刃ミクロトームは、明らかに現在入手可能な製品よりもはるかに優れている。
新鮮な組織の薄片を切り出すための本発明による方法および装置について、好ましい実施形態を充分かつ完全に上述したが、例えば試料の薄片収容槽の性質、いくつかの駆動モータおよびそれらのコントローラの仕様、切断刃を刃ホルダへと固定するために使用される具体的な接着剤、などについて、本発明の真の精神および範囲から離れることなくさまざまな変更が可能であることは、当業者にとって明らかである。したがって、本発明の真の精神および技術的範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。