JP2010267528A - 絶縁電線 - Google Patents

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憲一朗 藤本
Tomiya Abe
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健太郎 瀬川
Katsuhisa Shishido
克久 宍戸
Akira Suzuki
明 鈴木
Takuya Suzuki
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Abstract

【課題】耐熱性、難燃性、耐加水分解性を兼ね備え、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を絶縁材に適用した絶縁電線を提供する。
【解決手段】(A)ポリエステル樹脂100質量部に対して、(B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤1〜30質量部、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50質量部、(D)焼成クレー等の無機多孔質充填剤0.5〜10質量部および(E)耐加水分解性改良剤0.05〜10質量部を配合してなる樹脂組成物を、導体の外周に絶縁材として被覆してなるものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を絶縁材に適用した絶縁電線に係り、特に、優れた難燃性、耐熱性、耐加水分解性、更に伸び特性のばらつきを抑制した絶縁電線に関するものである。
従来、電気絶縁材料としては、通常ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)からなる絶縁材料を使用してきた。このPVC製の絶縁材料は高い実用特性を有し、かつ安価であるという面で優れているが、廃棄後焼却すると塩素を含んだガスを発生する等の廃棄物処理に伴う環境汚染の問題が生じることから、近年PVC以外の材料が要望されるようになってきた。
また自動車や電車などの輸送分野において、省エネに対する車体の軽量化及び配線の省スペース化に伴い、電線の軽量・薄肉化が求められている。
このような電線の軽量・薄肉化に対して、従来のPVC材料を適用した場合は、難燃性や耐摩耗特性の要求特性が満足できない等の問題があった。
一方、汎用エンジニアリングプラスチックポリマーであるポリエステル樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート(PBT)は、結晶性のポリマーであり、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性、成形性に優れ、また吸水性が小さく寸法安定性に優れており、難燃化が比較的容易である等の特徴を生かし、自動車、電気、電子、絶縁材、OA分野等幅広い分野で使用されている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
これらの汎用エンジニアリングプラスチックは、上記特徴を有していることから、難燃性や耐摩耗特性を維持しながら、電線の軽量・薄肉化が達成できる見通しがある。
特許第2968584号公報 特許第3590057号公報 特開2002−343141号公報 特許第3650474号公報 特開2006−111655号公報 特開2006−111873号公報 特開2005−213441号公報 特開2004−193117号公報 特許第3884661号公報
しかしながら、ポリエステル樹脂は結晶性ポリマーであり、製造工程や特定の環境下では結晶化度に変化が生じてしまうという問題があった。特に熱処理により結晶化が進行してしまい、電線の絶縁材として重要な特性である引張伸び特性の低下が懸念される。
特許文献5、6では、機械的強度、高速成形性および生産性を向上させるために熱処理や結晶化促進剤添加により結晶化度を向上させることが報告されている。
しかしながら、結晶化を促進させると伸び特性の低下が考えられる。また特許文献7では、ポリエステル樹脂の原料として屈曲性モノマーを導入することで結晶化の進行を抑制することができると述べられているが、伸び特性に関しては何ら記述されていない。更に特許文献8では、ポリエステル樹脂にポリエステル系樹脂と反応性を有する官能基を含む樹脂を添加させることで、クレージングの発生を抑制し絶縁破壊電圧の低下の抑制と高温絶縁特性に優れることを見出しているが、熱処理による電線絶縁材の伸び特性について何ら言及されていない。
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、耐熱性、難燃性、耐加水分解性を兼ね備え、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を絶縁材に適用した絶縁電線を提供することにある。
上記目的を達成するために請求項1の発明は、(A)ポリエステル樹脂100質量部に対して、(B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤1〜30質量部、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50質量部、(D)無機多孔質充填剤0.5〜10質量部および(E)耐加水分解性改良剤0.05〜10質量部を配合してなる樹脂組成物を、導体の外周に絶縁材として被覆してなることを特徴とする絶縁電線である。
請求項2の発明は、(A)ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である請求項1記載の絶縁電線である。
請求項3の発明は、(B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤が、リン系化合物である請求項1又は2記載の絶縁電線である。
請求項4の発明は、リン系化合物が次の化学式(1)
Figure 2010267528
(化学式(1)中、R1からR8は水素原子または炭素数6以下のアルキル基を有し、nは0〜10の整数を示し、R9は以下の化学式(2)から選ばれる構造を示す)
Figure 2010267528
に示されるリン酸エステル化合物である請求項3記載の絶縁電線である。
請求項5の発明は、(E)耐加水分解性改良剤が、カルボジイミド化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁電線である。
請求項6の発明は、上記絶縁材の厚みが0.1〜0.5mmである請求項1〜5いずれかに記載の絶縁電線である。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂からなる絶縁電線は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性の点で非常に優れており、更に伸び特性のばらつきを抑制することができる。従って、自動車や電車などの車両用電線に好適に使用することが可能である。
IEC燃焼試験方法を説明する図である。
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
本発明は、(A)ポリエステル樹脂100質量部に対して、(B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤1〜30質量部、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50質量部、(D)無機多孔質充填剤0.5〜10質量部および(E)耐加水分解性改良剤0.05〜10質量部を配合してなる樹脂組成物を、導体の外周に絶縁材として、厚みが0.1〜0.5mmで被覆してなる絶縁電線である。
(A)ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
本発明で使用する(A)ポリエステル樹脂としてのポリブチレンテレフタレート樹脂とは、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を主成分とするポリエステルであって、多価アルコール成分として1,4−ブタンジオール、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を用いて得られるブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。主たる繰り返し単位とは、ブチレンテレフタレート単位が、全多価カルボン酸−多価アルコール単位中の70モル%以上であることを意味する。更にブチレンテレフタレート単位は、好ましくは80モル%以上、更には90モル%、特には95モル%以上である。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に用いられるテレフタル酸以外の多価カルボン酸成分の一例としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、或いは上記多価カルボン酸のエステル形成性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル等の多価カルボン酸の低級アルキルエステル類)等が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は単独でも良いし複数を混合して用いても良い。
一方、1,4−ブタンジオール以外の多価アルコール成分の一例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族多価アルコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ等の芳香族多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。これら多価アルコール成分は単独で用いても良いし、複数で用いても良い。
本発明で使用する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐加水分解性の観点から末端カルボキシル基当量が50(eq/T)以下であり、好ましくは40(eq/T)以下であり、より好ましくは30(eq/T)以下である。末端カルボキシル基当量が50(eq/T)を超えると加水分解性の観点で好ましくない。
本発明の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、本発明の要件を満たせば、単独であってもよいし、或いは末端カルボキシル基濃度、融点、触媒量等の異なる複数の混合物であってもよい。
(B)難燃剤
本発明において使用される(B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤は、既知の難燃剤を使用でき、例えばリン化合物(リン酸エステル、ホスホニトリル化合物、ポリリン酸塩、赤燐など)、含水無機化合物などの非臭素系難燃剤を挙げることができるが、リン酸エステル化合物が環境保全の観点から好ましく使用される。
本発明に使用されるリン酸エステル化合物の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等が挙げられるが、中でも下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物が好ましい。
Figure 2010267528
(化学式(1)中、R1〜R8は水素原子または炭素数6以下のアルキル基を示す。耐加水分解性を向上させるためには炭素数6以下のアルキル基が好ましく、中でもメチル基が好ましい。nは0〜10の整数であり、好ましくは1〜3、特に好ましくは1である。R9は2価以上の有機基を表す。この場合2価以上の有機基とは有機基からアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等から炭素に結合している水素原子の1個以上を除いてできる2価以上の基を意味する。具体的には下記化学式(2)に示される構造が好ましく挙げられる。nは0または1以上4以下の整数であり好ましくは1〜3、中でも1が好ましい。)
Figure 2010267528
また本発明において難燃剤として使用されるリン化合物としては下記化学式(3)で表される基を有するホスホニトリル化合物(B−2)も好適に用いられる。R10、R11は、炭素数1〜20のアリール基、アルキル基、シクロアルキル基であり、具体例としては、メチル、エチル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキジル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられる。n、pは1〜12の整数であり、一般に3〜10が、特に3または4が好ましい。また該ホスホニトリル化合物は線状重合体であっても環状重合体であっても構わないが、中でも環状重合体が好適に用いられる。下記化学式(3)においてXはO、S、N−Hを表すが、中でもO、N−Hがより好ましく、特にはOが好ましい。
Figure 2010267528
(化学式(3)中、XはO、S、N−H原子を表し、R10、R11は炭素数1〜20のアリール基、アルキル基、シクロアルキル基であり、−X−R10、−X−R11は同一でも異なっても良い。n、pは1以上12以下の整数である。)
難燃剤としては、上記群からいずれか少なくとも1種類が選定されればよく、2種類以上の併用系であっても良い。特に、リン酸エステル化合物が、極めて優れた難燃効果を示す。
難燃剤の添加量は、成分(A)100質量部に対して1.0〜30質量部であり、好ましくは3.0〜25質量部が好ましい。難燃剤の添加量が2.0質量部より少ないと組成物の難燃性が不十分になり、30質量部より多いと機械的物性、耐加水分解性、成形性が著しく低下する。
(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体
本発明で用いるポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、例えば、特許文献9(特許第3884661号、特開2003−238639号公報)に開示された製造方法によって製造可能である。
即ち、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、(X)ポリオルガノシロキサン粒子40〜90質量部の存在下で、(Y)第1のビニル系単量体0.5〜10質量部を重合し、さらに、(Z)第2のビニル系単量体5〜50質量部を重合して得られるものである。
(X)ポリオルガノシロキサン粒子は、トルエン不溶分量(該(X)ポリオルガノシロキサン粒子0.5gをトルエン80mlに室温で24時間浸漬した場合のトルエン不溶分量)が95質量%以下、さらには50質量%以下、特には20質量%以下であるものが難燃性、耐衝撃性の点から好ましい。
(X)ポリオルガノシロキサン粒子の具体例としては、ポリジメチルシロキサン粒子、ポリメチルフェニルシロキサン粒子、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体粒子などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(Y)第1のビニル系単量体は、(y−1)多官能性単量体、すなわち、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体100〜50質量%および(y−2)その他の共重合可能な単量体0〜50質量%からなるビニル系単量体である。(Y)第1のビニル系単量体は、難燃化効果および耐衝撃性改良効果を向上させるために使用するものである。
(Y)第1のビニル系単量体は、(y−1)多官能性単量体を、好ましくは100〜80質量%、さらに好ましくは100〜90質量%含み、(y−2)その他の共重合可能な単量体を、好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%含む。(y−1)多官能性単量体を50質量%以上の割合で含めることにより、また、(y−2)その他の共重合可能な単量体を50質量%以下の割合で含めることにより、最終的に得られるポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体の耐衝撃性改良効果がより向上する傾向にあり好ましい。
(y−1)多官能性単量体は、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む化合物であり、その具体例としては、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、経済性および効果の点で特にメタクリル酸アリルの使用が好ましい。
(y−2)その他の共重合可能な単量体の具体例としては、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体などがあげられる。これらは2種以上を併用してもよい。
(Z)第2のビニル系単量体は、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体を構成する成分であって、該(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体を熱可塑性樹脂に配合して難燃性および耐衝撃性を改良する場合に、グラフト共重合体と熱可塑性樹脂との相溶性を確保して熱可塑性樹脂にグラフト共重合体を均一に分散させるために使用される成分でもある。
(Z)第2のビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリル等の、上記(Y)第2のビニル系単量体における(y−2)その他の共重合可能な単量体と同じものを使用することができ、2種以上併用してもよい。
(Z)第2のビニル系単量体は、該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメーターが9.15〜10.15[(cal/cm31/2]であることが好ましく、9.17〜10.10[(cal/cm31/2]であることがより好ましく、9.20〜10.05[(cal/cm31/2]であることがさらに好ましい。溶解度パラメーターを上記範囲とすることにより、難燃性がより向上する傾向にあり好ましい。
本発明に使用するポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、(X)ポリオルガノシロキサン粒子を40〜90質量部、好ましくは60〜80質量部、より好ましくは60〜75質量部の存在下で、(Y)第1のビニル系単量体を0.5〜10質量部、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは2〜4質量部を重合し、さらに、(Z)第2のビニル系単量体を5〜50質量部、好ましくは15〜39質量部、より好ましくは21〜38質量部を重合して得られる。
(X)ポリオルガノシロキサン粒子の割合が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも難燃化効果が低くなる。
また、(Y)第1のビニル系単量体が少なすぎる場合、難燃化効果および耐衝撃性改良効果が低くなり、多すぎる場合、耐衝撃性改良効果が低くなる。
さらに、(Z)第2のビニル系単量体が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも難燃化効果が低くなる。
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、公知のシード乳化重合が適用でき、例えば、(X)ポリオルガノシロキサン粒子のラテックス中で(Y)第1のビニル系単量体のラジカル重合を行い、さらに、(Z)第2のビニル系単量体のラジカル重合を行うことにより得られる。また、(Y)第1のビニル系単量体および(Z)第2のビニル系単量体は、いずれも1段階で重合させてもよく2段階以上で重合させてもよい。
上記方法によって得られたポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、ラテックスからポリマーを分離して使用してもよく、ラテックスのまま使用してもよい。ポリマーを分離する方法としては、通常の方法、例えば、ラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法が挙げられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体の配合量は、1〜50質量部であり、好ましくは2〜40質量部であり、より好ましくは3〜30質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体が50質量部を超えると剛性が低下し、1質量部未満では耐熱性が低下する。
(D)無機多孔質充填剤
本発明において使用される無機多孔質充填剤は、焼成クレーでありその充填剤の比表面積は5m2/g以上であることが好ましい。
添加量は、難燃ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に対して好ましくは0.1〜50質量部で、より好ましくは0.5〜10質量部である。含有量が少なすぎるとイオンを十分にトラップできず、本発明の効果を発揮しにくく、多すぎると分散性や引張特性が低下し好ましくない。
無機多孔質充填剤は、焼成クレーのみならず、ゼオライト、メサライト、アンスラサイト、パーライト発泡体、活性炭であっても良い。
(E)耐加水分解性改良剤
本発明において使用される耐加水分解性改良剤は、PBTが水蒸気等により加水分解を受け、分子量低下を起こすと同時に機械的強度等が低下をすることを抑制するための化合物で、既知のものが使用可能であり、カルボジイミド化合物やエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物がよく知られているが、中でもカルボジイミド化合物が被覆加工性を悪化させず好ましく使用される。
本発明に使用される(E)耐加水分解性改良剤であるカルボジイミド化合物とは、1分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を少なくとも2個有する化合物であって、例えば、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個有する多価イソシアネート化合物を、カルボジイミド化触媒の存在下、脱二酸化炭素縮合反応(カルボジイミド化反応)を行わせることによって製造することが出来る。カルボジイミド化反応は、公知の方法により行うことが出来、具体的には、イソシアネートを不活性な溶媒に溶解するか、或いは無溶剤で窒素等の不活性気体の気流下又はパブリング下でフォスフォレンオキシド類に代表される有機リン系化合物等のカルボジイミド化触媒を加え、150〜200℃の温度範囲で加熱及び撹拌することにより、脱二酸化炭素を伴う縮合反応(カルボジイミド化反応)を進めることが出来る。
好ましい多価イソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を2個有する2官能イソシアネートが特に好適であるが、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物をジイソシアネートと併用して用いることも出来る。又、多価イソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート及び芳香族イソシアネートの何れであっても構わない。
多価イソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明に使用されるカルボジイミド化合物として、好適に用いられるのは、HMDI或いはMDIから得られるカルボジイミド化合物であり、或いは市販の「カルボジライト」(商品名;日清紡(株)製)、「スタバクゾールP」(商品名;ライン・ケミー社製)を用いても良い。
耐加水分解性改良剤(E)の配合量は、成分(A)100質量部に対して、0.05〜10質量部であり、更に好ましくは0.1〜5質量部である。0.05質量部未満であると、耐加水分解性の改良効果が期待されない、10質量部より多いと流動性の低下を起こし、成形加工性が低下する。
その他;
ポリブチレンテレフタレート樹脂に上記難燃剤との各種成分を配合する方法としては、被覆製造の直前までの任意の段階で周知の手段によって行うことができる。最も簡便な方法としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体、耐加水分解性改良剤、ならびに難燃剤、焼成クレーなどを溶融混合押出にてペレットにする方法が採用される。また本発明の樹脂組成物に顔料、染料、充填剤、核剤、離型剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、その他の周知の添加剤を配合し、混練することもできる。
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる電線被覆材料は、難燃性を更に向上させるため、被覆電線表面に難燃剤を塗布、含浸しても構わない。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲において配合することができる。その一例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、PP樹脂、PE樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。
本発明を以下の実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ制限されるものではない。
実施例1および比較例1〜3を表1に示す。
Figure 2010267528
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造]
表1に示される比率にて各成分をブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機TE×3OHCT)を使用して、シリンダー温度設定260℃、スクリュ回転数250rpm、吐出量15kg/hrs.において溶融混練してストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを得た。得られたペレットを熱風式乾燥機120℃にて6時間乾燥した。
[電線製造]
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を120℃、10時間熱風恒温槽で乾燥し、直径1.3mmの錫めっき軟銅線の周囲に0.4mmの被覆厚で押出成形した。押出成形には、直径がそれぞれ4.2mm、2.0mmのダイス、ニップルを使用し、押出温度はシリンダ部を230℃〜260℃、ヘッド部を260℃とした。引取速度は5m/分とした。
[熱老化試験]
作製した電線の芯線を抜いた試料を、150℃の恒温槽で100時間加熱し、室温で12時間程度放置し、引張試験を実施した。熱処理は、JIS C 3005 WL1 に従うものとする。
[耐加水分解性試験]
作製した電線の芯線を抜いた試料を、85℃/85%RHの恒温恒湿槽で30日間放置した。その後引張試験を実施し、引張伸びが200%以上のものを○(合格)とし、実用レベルであるが引張伸びが100%以上200%未満のものを△、引張伸びが100%未満を×(不合格)とした。
[引張試験]
上記熱老化試験で作製した試料を、引張速度200mm/minにて測定した。引張試験はJIS C 3005に従うものとする。引張伸度が200%以上のものを○(合格)とし、引張伸度が200%未満を×(不合格)とした。更に熱老化試験後の伸びばらつきの指標としてN数を10本とした時の標準偏差(σ)を算出し、そのσをN=10の平均値で除した値が0.2未満を○(合格)、0.2以上を×(不合格)とした。
[燃焼試験]
作製した電線をIEC燃焼試験方法(IEC60332−1)に準拠して試験した。
図1に示すように、作製した実施例1〜3の絶縁電線1と比較例1〜6の電線10を上部支持具11と下部支持具12で支持し、45度に傾斜させたバーナ13を用いて燃焼させたとき、上部支持具11の下部から炭化部14の上部までの距離(α)で50mm以上かつ、上部支持具11の下部から炭化部14の下部(β)で540mm以下のものを合格(○)、上記範囲以外のものを不合格(×)とした。
[絶縁抵抗測定]
作製した電線を90℃の水中に浸し、絶縁体の温度が一定になった後、JIS C3005に従って絶縁抵抗測定を実施した。絶縁抵抗が1.0MΩ・km以上を合格とした。
以上において、実施例1〜3は、何れの特性も十分に発現されており、電線用絶縁材として好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
これに対して、比較例1では、(B)非臭素系難燃剤、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体、(D)焼成クレー、(E)耐加水分解性改良剤の各成分が含まれていない(A)ポリブチレンテレフタレートのみのために耐加水分解性、難燃性、熱処理後の伸び特性、絶縁抵抗共に低くなっている。
また比較例2、3、5では、(B)非臭素系難燃剤及び(C)成分としてエチレン系エラストマーの成分を添加することで、熱老化後の伸び特性は改良したが、(C)成分がポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体でないために、難燃性が十分に改善されず下部への延焼が進んでいる。また耐加水分解性及び絶縁抵抗も改善されていない。更に比較例4では、(B)非臭素系難燃剤及び(C)成分としてアクリル系エラストマー、(E)耐加水分解性改良剤を添加することで、熱老化後の伸び特性、耐加水分解性は改善されたが、(C)成分がポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体でないために、難燃性、絶縁抵抗が改善されていない。また比較例6では、(B)耐加水分解性改良剤、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体、(D)焼成クレー、(E)耐加水分解性改良剤を添加しているため、加水分解性、難燃性、熱老化後の伸び特性、絶縁抵抗は改善された。しかしながら、(B)成分として、リン酸エステルの他に、トリアジン環を有する窒素化合物のシアヌル酸メラミンを含有しているために熱老化後の伸びばらつきが大きく、量産安定性に欠く樹脂組成物である。
よって、実施例1、2、3のように、トリアジン環を有する窒素化合物を除く(B)非臭素系難燃剤を添加することで、何れの特性も十分に発現されており、電線用絶縁材として好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物とすることができる。
1 電線
13 バーナ
14 炭化部

Claims (6)

  1. (A)ポリエステル樹脂100質量部に対して、(B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤1〜30質量部、(C)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50質量部、(D)無機多孔質充填剤0.5〜10質量部および(E)耐加水分解性改良剤0.05〜10質量部を配合してなる樹脂組成物を、導体の外周に絶縁材として被覆してなることを特徴とする絶縁電線。
  2. (A)ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である請求項1記載の絶縁電線。
  3. (B)トリアジン環を有する窒素化合物を除く非臭素系難燃剤が、リン系化合物である請求項1又は2記載の絶縁電線。
  4. リン系化合物が次の化学式(1)
    Figure 2010267528
    (化学式(1)中、R1からR8は水素原子または炭素数6以下のアルキル基を有し、nは0〜10の整数を示し、R9は以下の化学式(2)から選ばれる構造を示す)
    Figure 2010267528
    に示されるリン酸エステル化合物である請求項3記載の絶縁電線。
  5. (E)耐加水分解性改良剤が、カルボジイミド化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁電線。
  6. 上記絶縁材の厚みが0.1〜0.5mmである請求項1〜5いずれかに記載の絶縁電線。
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