以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記の実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
ここで、下記の実施の形態では、本発明にかかるトロイダル式無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源として駆動力を発生する内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータトルクを発生するモータなどの電動機などを用いても良い。また、駆動源として内燃機関および電動機を併用しても良い。
[トロイダル式無段変速機]
図1は、この発明の実施の形態にかかるトロイダル式無段変速機の概略構成例を示す図である。図2は、トロイダル式無段変速機の詳細構成例を示す図である。図3は、制御装置のブロック図である。図4は、第1油圧室の油圧と第2油圧室の油圧との関係を示す図である。なお、図2は、トロイダル式無段変速機を構成する各パワーローラのうち任意のパワーローラと、このパワーローラに接触する入力ディスクとを示す図である。ここで、正回転とは図示しない車両が前進する際に、入力ディスク10が回転する方向であり、逆回転とは車両が後進する際に入力ディスク10が回転する方向である。
車両(以下、単に「車両CA」と称する)には、図1に示すように、内燃機関100と車輪160との間に、トルクコンバータ110と、前後進切換機構120と、トロイダル式無段変速機1と、動力伝達機構130と、ディファレンシャルギヤ140とにより構成されるトランスミッションが配置されている。なお、150は、車輪160とディファレンシャルギヤ140とを連結するドライブシャフトである。また、170は、内燃機関100の運転制御を行うエンジンECUである。また、180は、内燃機関100が搭載された車両の運転者に警報を発する警報装置である。また、190は、車両に制動力を作用させる制動装置である。200は、制動装置190と接続され、制動装置190により発生する制動力を制御することができるブレーキECUである。
内燃機関100は、駆動源であるとともに、接線力低減手段である。内燃機関100は、内燃機関100が搭載された車両CAを前進あるいは後進させるための駆動力を出力するものである。また、内燃機関100は、エンジンECU170と接続されており、エンジンECU170により運転制御されることで、出力する駆動力が制御される。内燃機関100からの駆動力は、クランクシャフト101を介してトルクコンバータ110に伝達される。
トルクコンバータ110は、発進機構であり、流体伝達装置である。トルクコンバータ110は、駆動源である内燃機関100からの駆動力を前後進切換機構120を介してトロイダル式無段変速機1に伝達するものである。トルクコンバータ110は、ポンプ111と、タービン112と、ロックアップクラッチ113とにより構成されている。トルクコンバータ110は、ポンプ111とタービン112との間に介在する作動流体である作動油を介して、クランクシャフト101を介してポンプ111に伝達された駆動力を前後進切換機構120に連結されたタービン112に伝達するものである。また、トルクコンバータ110は、タービン112に連結されたロックアップクラッチ113をポンプ111に係合することで、作動油を介さずに、ポンプ111に伝達された駆動力を直接タービン112に伝達するものでもある。つまり、トロイダル式無段変速機1の後述する入力ディスク10に伝達される内燃機関100からの駆動力は、作動流体を介さずに直接伝達するロックアップクラッチ113を有するトルクコンバータ110を介して伝達される。ここで、ロックアップクラッチ113の係合、係合の解除、すなわちON、OFFを行うON/OFF制御は、油圧制御装置60から供給される作動油により行われる。油圧制御装置60は、トランスミッションECU70と接続されている。従って、ロックアップクラッチ113のON/OFF制御は、トランスミッションECU70により行われる。なお、トルクコンバータ110と前後進切換機構120との間には、油圧制御装置60に加圧された作動油を供給するオイルポンプ62(図1では、図示省略)が設けられている。オイルポンプ62は、内燃機関100からの駆動力によりトルクコンバータ110が回転することで、駆動するものである。
前後進切換機構120は、トルクコンバータ110を介して伝達された内燃機関100からの駆動力をトロイダル式無段変速機1の入力ディスク10に伝達するものである。前後進切換機構120は、例えば遊星歯車機構であり、内燃機関100からの駆動力を直接あるいは反転して、駆動力入力軸11を介して、入力ディスク10に伝達するものである。つまり、入力ディスク10には、入力ディスク10を正回転させる方向に作用する正回転駆動力として、あるいは入力ディスク10を逆回転させる方向に作用する逆回転駆動力として伝達される。ここで、前後進切換機構120による駆動力の伝達方向の切換制御は、油圧制御装置60から供給される作動油により行われる。従って、前後進切換機構120の切換制御は、トランスミッションECU70により行われる。
トロイダル式無段変速機1は、図1および図2に示すように、入力ディスク10と、出力ディスク20と、パワーローラ30と、トラニオン40と、油圧サーボ機構50と、油圧制御装置60と、トランスミッションECU70とにより構成されている。ここで、トロイダル式無段変速機1は、実施の形態では、対向する1対の入力ディスク10と出力ディスク20との間に構成されるキャビティーを2つ備え、各キャビティーC1,C2に、2つのパワーローラ30がそれぞれ配置された構造である。つまり、トロイダル式無段変速機1は、2つの入力ディスク10と、1つの出力ディスク20と、4つのパワーローラ30と、4つのトラニオン40を備える。
なお、201は、入力回転数センサであり、トロイダル式無段変速機1の入力側の回転数である入力回転数Ninを検出するものである。実施形態では、入力回転数センサ201は、入力ディスク10の回転数を入力回転数Ninとして検出するものであり、トランスミッションECU70に接続されている。従って、入力回転数センサ201により検出された入力回転数Ninは、トランスミッションECU70に出力され、トランスミッションECU70により入力回転数Ninが取得される。つまり、トランスミッションECU70は、入力回転数取得手段として機能する。また、202は、出力回転数センサであり、トロイダル式無段変速機1の出力側の回転数である出力回転数Noutを検出するものである。実施形態では、出力回転数センサ202は、出力ディスク20の回転数を出力回転数Noutとして検出するものであり、トランスミッションECU70に接続されている。従って、出力回転数センサ202により検出された出力回転数Noutは、トランスミッションECU70に出力され、トランスミッションECU70により出力回転数Noutが取得される。つまり、トランスミッションECU70は、出力回転数取得手段として機能する。また、203は、傾転角センサであり、パワーローラ30の状態値を検出するものである。傾転角センサ203は、パワーローラ30の状態値であるパワーローラ30の傾転角θを検出するものであり、トランスミッションECU70に接続されている。従って、傾転角センサ203により検出された傾転角θは、トランスミッションECU70に出力され、トランスミッションECU70により傾転角θが取得される。つまり、トランスミッションECU70は、状態値取得手段として機能する。また、204は、ストロークセンサであり、パワーローラ30の状態値を検出するものである。ストロークセンサ204は、パワーローラ30の状態値であるパワーローラ30の中立位置からのストローク量であるストローク量Xを検出するものであり、トランスミッションECU70に接続されている。従って、ストロークセンサ204により検出されたストローク量Xは、トランスミッションECU70に出力され、トランスミッションECU70によりストローク量Xが取得される。つまり、トランスミッションECU70は、状態値取得手段として機能する。205は、シフトポジションセンサであり、運転者が操作する図示しないシフトレバーの現在位置からシフトポジションを検出するものであり、トランスミッションECU70に接続されている。また、入力回転数センサ201、出力回転数センサ202、傾転角センサ203、ストロークセンサ204は、それぞれ入力回転数Nin、出力回転数Nout、傾転角θ、ストローク量Xに影響を与える物理量を検出し、検出した物理量から、入力回転数Nin、出力回転数Nout、傾転角θ、ストローク量Xを推定することで、これらを検出しても良い。また、入力回転数センサ201は、実施の形態では、入力ディスク10の回転方向を検出することもでき、検出された入力ディスク10の回転方向がトランスミッションECU70に出力される。なお、入力回転数センサ201とは別に、入力ディスク10の回転方向を検出するセンサを設けても良い。
各入力ディスク10は、前後進切換機構120の出力軸である駆動力入力軸11と連結されている。つまり、各入力ディスク10には、内燃機関100の駆動力として伝達される。各入力ディスク10は、駆動力入力軸11により回転自在に支持されている。従って、各入力ディスク10は、駆動力入力軸11の軸線X1を中心として回転可能(図2に示す矢印A)である。ここで、前後進切換機構120により各入力ディスク10には、回転方向Aのうち正回転方向A1の駆動力である正回転駆動力あるいは逆回転方向A2の駆動力である逆回転駆動力が伝達される。各入力ディスク10は、円板形状態であり、出力ディスク20を挟んで軸方向において対向して配置されている。各入力ディスク10の出力ディスク20と対向する面には、各キャビティーC1,C2の各パワーローラ30にそれぞれ接触する接触面12が形成されている。
出力ディスク20は、動力伝達機構130と連結されている。出力ディスク20は、パワーローラ30を介して入力ディスク10に伝達された内燃機関100からの駆動力が伝達される。従って、出力ディスク20は、動力伝達機構130、ディファレンシャルギヤ140、ドライブシャフト150を介して車輪160に内燃機関100からの駆動力を伝達するものである。また、出力ディスク20には、動力伝達機構130、ディファレンシャルギヤ140、ドライブシャフト150を介して車輪160からの被駆動力が伝達される。つまり、被駆動力は、パワーローラ30を介して入力ディスク10に伝達される。出力ディスク20は、円板形状態であり、駆動力入力軸11と同軸上に駆動力入力軸11に対して回転自在に支持され、各入力ディスク10の間に配置されている。従って、出力ディスク20は、駆動力入力軸11の軸線X1を中心として回転可能(図2に示す矢印A)である。出力ディスク20の各入力ディスク10と対向する面、すなわち出力ディスク20の軸方向において対向する面には、各キャビティーC1,C2の各パワーローラ30にそれぞれ接触する接触面21が形成されている。
パワーローラ30は、油圧制御装置60のディスク押圧機構65により各入力ディスク10と出力ディスク20との間で挟持される。パワーローラ30は、各入力ディスク10および出力ディスク20に接触し、転動することで、各入力ディスク10から出力ディスク20に駆動力を、あるいは出力ディスク20から各入力ディスク10に被駆動力を伝達するものである。パワーローラ30は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルによりパワーローラ30と入力ディスク10の接触面12および出力ディスク20の接触面21との間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力あるいは被駆動力を伝達するものである。パワーローラ30は、パワーローラ本体31と、外輪32とにより構成されている。なお、パワーローラ30は、トラニオン40の後述する本体部41に形成された空間部41aに配置されている。なお、ディスク押圧機構65は、油圧により各入力ディスク10を出力ディスク20に向かって押圧するものである。
パワーローラ本体31は、外周面に入力ディスク10および出力ディスク20が接触するものである。パワーローラ本体31は、外輪32に形成された図示しない回転軸に対して回転自在に支持されている。また、パワーローラ30は、外輪32のパワーローラ30と対向する面に対してスラストベアリングSBを介して回転自在に支持されている。従って、パワーローラ30は、図示しない回転軸の軸線X2を中心として回転可能(図2に示す矢印B)である。
外輪32は、図示しない回転軸および偏心軸が形成されている。偏心軸は、軸線X3が回転軸の軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸は、トラニオン40に対してラジアルベアリングを介して回転自在に支持されている。従って、外輪32は、偏心軸の軸線X3を中心として回転可能(図2に示す矢印C)である。つまり、パワーローラ30は、トラニオン40に対して、軸線X2および軸線X3を中心として回転可能となる。これにより、パワーローラ30は、公転可能でかつ自転可能となる。
トラニオン40は、入力ディスク10および出力ディスク20に対してパワーローラ30を支持するものである。トラニオン40は、軸線X2および軸線X3が入力ディスク10および出力ディスク20の軸線X1と垂直な平面と平行となるように配置される。つまり、トラニオン40は、パワーローラ本体31の回転中心を入力ディスク10および出力ディスク20の回転中心に対して移動させるものである。ここで、各キャビティーC1,C2にそれぞれ2つのパワーローラ30が配置される場合は、入力ディスク10および出力ディスク20を挟んで、2つのパワーローラ30が向かい合うように、各パワーローラ30をそれぞれ支持する2つのトラニオン40が対向して配置されている。つまり、各キャビティーC1、C2には、それぞれ2つのトラニオン40が配置される。トラニオン40は、本体部41と、揺動軸42,43とにより構成されている。
本体部41は、パワーローラ30が配置される空間部41aが形成されている。また、本体部41は、パワーローラ30の移動方向における両端部に揺動軸42,43がそれぞれ形成されている。
揺動軸42は、本体部41の両端部のうち、パワーローラ30の移動方向のうち一方向、すなわち第1方向Eの端部から第1方向Eに向かって突出して形成されている。揺動軸42は、支持部材81に対して、ラジアルベアリングRBにより、回転自在に支持されている。従って、揺動軸42は、支持部材81に対して、軸線X4を中心に回転可能(図2に示す矢印D)である。また、揺動軸42は、支持部材81に対して、ラジアルベアリングRBにより、パワーローラ30の移動方向である第1方向Eおよび第1方向Eと反対方向である第2方向Fに移動自在に支持されている。なお、支持部材81は、トロイダル式無段変速機1の図示しないハウジングに対して、揺動自在に支持されており、各キャビティーC1,C2にそれぞれ配置される2つのトラニオン40の揺動軸42が両端部に回転自在およびパワーローラ30の移動方向に移動自在にそれぞれ支持されている。ここで、第1方向Eとは、後述する第1油圧室OP1の油圧Paにより、ピストン51の移動する方向、すなわちパワーローラ30がストロークする方向である。また、第2方向Fとは、後述する第2油圧室OP2の油圧Pbにより、ピストン51が移動する方向、すなわちパワーローラ30がストロークする方向である。
揺動軸43は、本体部41の両端部のうち、パワーローラ30の移動方向のうち他方向、すなわち第2方向Fの端部から第2方向Fに向かって突出して形成されている。揺動軸43は、揺動軸42と同一軸線X4上に形成されている。揺動軸43は、支持部材82に対して、ラジアルベアリングRBにより回転自在に支持されている。従って、揺動軸43は、支持部材82に対して、軸線X4を中心に回転可能(図2に示す矢印D)である。また、揺動軸43は、支持部材82に対して、ラジアルベアリングRBにより、第1方向Eおよび第2方向Fに移動自在に支持されている。なお、支持部材82は、トロイダル式無段変速機1の図示しないハウジングに対して、揺動自在に支持されており、各キャビティーC1,C2にそれぞれ配置される2つのトラニオン40の揺動軸43が両端部に回転自在およびパワーローラ30の移動方向に移動自在に支持されている。
以上の構成により、トラニオン40に回転自在に支持されたパワーローラ30は、接触した入力ディスク10および出力ディスク20に対して回転可能であり、入力ディスク10および出力ディスク20に対して第1方向Eおよび第2方向Fに移動可能であり、入力ディスク10および出力ディスク20に対して軸線X4を中心として揺動、すなわち傾転可能に支持されている。ここで、パワーローラ30の入力ディスク10および出力ディスク20に対する相対位置は、傾転角θおよびストローク量Xにより決定される。傾転角θは、パワーローラ30の回転中心である軸線X2が入力ディスク10および出力ディスク20の回転中心である軸線X1と直交する基準位置を0として基準位置から入力ディスク10および出力ディスク20に対する傾転角度である。ストローク量Xは、パワーローラ30の回転中心である軸線X2が入力ディスク10および出力ディスク20の回転中心である軸線X1と一致する中立位置を0として中立位置から軸線X4と平行な方向である第1方向Eあるいは第2方向Fへの移動量である。
油圧サーボ機構50は、作動油が供給される2つの油圧室である第1油圧室OP1と第2油圧室OP2との圧力差によりパワーローラ30を移動させるものである。実施の形態では、油圧サーボ機構50は、油圧制御装置60の後述する第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64により供給された第1油圧室OP1内の作動油の圧力である油圧Paと第2油圧室OP2に供給された作動油の圧力である油圧Pbとの差圧Pb−Paにより、パワーローラ30を中立位置から第1方向Eあるいは第2方向Fにストロークさせるものである。油圧サーボ機構50は、回転する各入力ディスク10あるいは回転する出力ディスク20に接触する状態のパワーローラ30を中立位置からストロークさせることで、パワーローラ30に傾転力を作用させ、傾転させる。油圧サーボ機構50は、ピストン51と、シリンダボディ52とにより構成されている。
ピストン51は、油圧制御装置60から供給される作動油の圧力、すなわち第1油圧室OP1の油圧Paおよび第2油圧室OP2の油圧Pbを受けることで、トラニオン40を軸線X4と平行、すなわち第1方向Eあるいは第2方向Fのいずれかに移動させるものである。ピストン51は、ピストンベース51aと、フランジ部51bとにより構成されている。
ピストンベース51aは、揺動軸42に固定されている。ピストンベース51aは、円筒形状態であり、揺動軸42の先端部に挿入され固定されている。つまり、ピストン51は、トラニオン40と一体回転する。これにより、ピストン51は、パワーローラ30と連結されていることとなる。従って、ピストン51は、パワーローラ30の傾転に伴い、揺動軸42,43の軸線X4を中心として回転する。また、ピストンベース51aは、シリンダボディ52の摺動孔52aにシール部材S1を介して摺動自在に支持されている。従って、ピストン51は、シリンダボディ52内に摺動自在に支持されている。なお、シリンダボディ52は、トロイダル式無段変速機1の図示しないハウジングなどに固定されている。
フランジ部51bは、シリンダボディ52の油圧室空間部52bを2つの油圧室である第1油圧室OP1(図2に示す上側)と第2油圧室OP2(図2に示す下側)に区画するものである。フランジ部51bは、円板形状態であり、ピストンベース51aの略中央部からピストンベース51aの径方向外側に突出して形成されている。ここで、フランジ部51bの径方向外側の端部には、シール部材S2が設けられている。従って、フランジ部51bにより区画された第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とは、それぞれシール部材S2により互いに作動油が漏れないようにシールされている。
ここで、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2は、実施の形態では、キャビティーC1,C2ごとにそれぞれ2つ形成されることとなる。このとき、同一キャビティーC1,C2における2つのトラニオン40では、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2の位置がトラニオン40ごとに入れ替わっている。つまり、一方のトラニオン40の第1油圧室OP1とした油圧室が他方のトラニオン40の第2油圧室OP2となり、一方のトラニオン40の第2油圧室OP2とした油圧室が他方のトラニオン40の第1油圧室OP1となる。従って、同一キャビティーC1,C2における2つのパワーローラ30は、第1油圧室OP1の油圧により第1方向E(同一キャビティーC1,C2のトラニオン40ごとに向きが反対)に移動し、第2油圧室OP2の油圧により第2方向F(同一キャビティーC1,C2のトラニオン40ごとに向きが反対)に移動する。
油圧制御装置60は、油圧制御手段であり、第1油圧室OP1の油圧Paおよび第2油圧室OP2の油圧Pbを制御するものである。また、油圧制御装置60は、図示しないトランスミッションの各部に作動油を供給するものでもある。油圧制御装置60は、オイルタンク61と、オイルポンプ62と、第1流量制御弁63と、第2流量制御弁64とにより構成されている。
オイルタンク61は、作動油、すなわちトランスミッションの各部に供給する作動油を貯留する。
オイルポンプ62は、油圧源であり、オイルタンク61に貯留されている作動油を加圧するものである。オイルポンプ62は、上述のように、内燃機関100の運転、例えばクランクシャフト101の回転に連動して作動するものであり、オイルタンク61に貯留されている作動油を吸引、加圧し、吐出するものである。この加圧されて吐出された作動油は、図示しないプレッシャーレギュレータを介して、第3油路L3に接続されている。ここで、第3油路L3は、第1流量制御弁63の後述する供給ポート63c、第2流量制御弁64の後述する供給ポート64c、他の流量制御弁などに接続されている。従って、加圧されて吐出された作動油は、第1流量制御弁63および第2流量制御弁64に供給される。なお、プレッシャーレギュレータは、プレッシャーレギュレータよりも下流側における油圧が所定油圧以上となった際に、下流側にある作動油の一部をオイルタンク61に戻すものである。
第1流量制御弁63は、トランスミッションECU70により設定された制御量である目標駆動電流Idoに基づいて2つの油圧室のうち一方の油圧室である第1油圧室OP1に油圧を供給することで、パワーローラ30を入力ディスク10および出力ディスク20に対して第1方向Eに移動させるものである。第1流量制御弁63は、実施の形態では、第1油圧室OP1に作動油を供給し、第2油圧室OP2から作動油を排出するものである。第1流量制御弁63は、油路構成本体部63aと、スプール弁子63bと、供給ポート63cと、排出ポート63dと、第1接続ポート63eと、第2接続ポート63fと、第1弾性部材63gと、第1ソレノイド63hとにより構成されている。
油路構成本体部63aは、油路を構成するものであり、構成された油路と連通する供給ポート63c、排出ポート63d、第1接続ポート63eおよび第2接続ポート63fが形成されるものである。また、油路構成本体部63aに構成された油路は、スプール弁子63bが移動可能に挿入されている。
スプール弁子63bは、各ポートの連通状態を切り替えるものである。スプール弁子63bは、供給ポート63cと第1接続ポート63eとの連通状態を連通あるいは略遮断とに切り替えるものである。また、スプール弁子63bは、排出ポート63dと第2接続ポート63fとの連通状態を連通あるいは略遮断とに切り替えるものである。
供給ポート63cは、第3油路L3を介して、オイルポンプ62と接続されている。
排出ポート63dは、第4油路L4を介して、オイルタンク61と接続されている。
第1接続ポート63eは、第1通路L1を介して第1油圧室OP1と接続されている。また、第1接続ポート63eは、第1油路L1を介して、第2流量制御弁64の後述する第1接続ポート64fと接続されている。なお、第1通路L1は、同一キャビティー(例えば、キャビティーC1)や、他のキャビティー(例えば、キャビティーC2)に配置される他のトラニオン40に形成された他の第1油圧室とも接続されている。
第2接続ポート63fは、第2通路L2を介して第2油圧室OP2と接続されている。なお、第2接続ポート63fは、第2通路L2を介して、第2流量制御弁64の後述する第2接続ポート64eと接続されている。なお、第2通路L2は、同一キャビティー(例えば、キャビティーC1)や、他のキャビティー(例えば、キャビティーC2)に配置される他のトラニオン40に形成された他の第2油圧室とも接続されている。
第1弾性部材63gは、スプール弁子63bをOFF側(図2に示す左側)に移動させる付勢力を発生するものである。第1弾性部材63gは、スプール弁子63bの両端部のうち、ON側(図2に示す右側)端部と、油路構成本体部63aのON側油路端部との間に付勢された状態で配置されている。従って、スプール弁子63bには、第1弾性部材63gにより、スプール弁子63bをOFF側に移動させる付勢力が作用する。
第1ソレノイド63hは、スプール弁子63bをON側に移動させる押圧力を発生する。第1ソレノイド63hは、供給される駆動電流Idに応じて発生する電磁力により、スプール弁子63bと同軸上に配置された駆動軸63iをON側に移動させるものである。第1ソレノイド63hは、油路構成本体部63aのOFF側油路端部に設けられている。第1ソレノイド63hには、トランスミッションECU70と接続されており、トランスミッションECU70により設定された制御量である駆動電流Idに基づいて駆動電流Idが供給される。従って、スプール弁子63bには、第1ソレノイド63hにより、スプール弁子63bをON側に移動させる押圧力が供給される駆動電流Idに応じて作用する。
ここで、第1流量制御弁63の開閉について説明する。トランスミッションECU70により目標駆動電流Idoが設定されず、第1ソレノイド63hに駆動電流Idが供給されないと、スプール弁子63bには、第1ソレノイド63hにより押圧力が発生しないため、第1弾性部材63gにより発生する付勢力のみが作用する。従って、スプール弁子63bは、OFF側に移動し、OFF位置(図2に示すOFFの部分)に位置する。このとき、供給ポート63cと第1接続ポート63eとの連通状態が略遮断となり、排出ポート63dと第2接続ポート63fとの連通状態が略遮断となる。これにより、第1流量制御弁63がOFF状態(図2に示すOFFの部分)、すなわち閉弁状態となり、第1油圧室OP1にオイルポンプ62により加圧された作動油がほぼ供給されず、第2油圧室OP2から作動油がほぼ排出されなくなる。
一方、トランスミッションECU70により目標駆動電流Idoが設定され、第1ソレノイド63hに駆動電流Idが供給されると、スプール弁子63bには、第1ソレノイド63hにより発生する押圧力と、第1弾性部材63gにより発生する付勢力とが作用する。駆動電流Idを増加することで、第1ソレノイド63hにより発生する押圧力が第1弾性部材63gにより発生する付勢力よりも大きくなると、スプール弁子63bは、ON側に移動し、OFF位置以外であるON位置(最大ON位置は、図2に示すONの部分)に位置する。このとき、供給ポート63cと第1接続ポート63eとの連通状態が略遮断から連通となり、排出ポート63dと第2接続ポート63fと連通状態が略遮断から連通となる。これにより、第1流量制御弁63がON状態(図2に示すONの部分)、すなわち開弁状態となり、第1油圧室OP1にオイルポンプ62により加圧された作動油が供給され、第2油圧室OP2から作動油が排出される。これにより、図4に示すように、第1油圧室OP1の油圧Paが第1油圧室OP1にオイルポンプ62の加圧された作動油が供給されることで、Psまで上昇することができ、第2油圧室OP2の油圧Pbが第2油圧室OP2からオイルタンク61に作動油が排出されることで、0(ほぼ0も含む)まで減少する。従って、トランスミッションECU70により制御量である駆動電流Idがプラスの値に設定され、第1流量制御弁63をON状態とすることで、第1油圧室OP1の油圧Paが上昇し、また第2油圧室OP2の油圧Pbが減少することで、差圧Pb−Paがマイナスの値、すなわち第1油圧室OP1の油圧Paが第2油圧室OP2の油圧Pbよりも大きくなり、図2に示すように、ピストン51が第1方向Eに押圧され、トラニオン40に回転自在に支持されたパワーローラ30が第1方向Eに移動する。このとき、スプール弁子63bのON側への移動量により、パワーローラ30の第1方向Eへの移動速度が調整される。また、トランスミッションECU70は、トロイダル式無段変速機1の目標変速比γoや変速速度などに基づいて制御量である目標駆動電流Idoを設定する。なお、トランスミッションECU70は、制御量である目標駆動電流Idoを設定する場合、後述する目標駆動電流Iuoを設定しない。つまり、トランスミッションECU70は、第1流量制御弁63をON状態とする場合、第2流量制御弁64をOFF状態に維持する。従って、第1流量制御弁63を作動させる場合に、トランスミッションECU70により設定される制御量は、目標駆動電流Idoとなる。
第2流量制御弁64は、トランスミッションECU70により設定された制御量である目標駆動電流Iuoに基づいて2つの油圧室のうち他方の油圧室である第2油圧室OP2に油圧を供給することで、パワーローラ30を入力ディスク10および出力ディスク20に対して第2方向Fに移動させるものである。第2流量制御弁64は、実施の形態では、第2油圧室OP2に作動油を供給し、第1油圧室OP1から作動油を排出するものである。第2流量制御弁64は、油路構成本体部64aと、スプール弁子64bと、供給ポート64cと、排出ポート64dと、第2接続ポート64eと、第1接続ポート64fと、第2弾性部材64gと、第2ソレノイド64hとにより構成されている。
油路構成本体部64aは、油路を構成するものであり、構成された油路と連通する供給ポート64c、排出ポート64d、第2接続ポート64eおよび第1接続ポート64fが形成されるものである。また、油路構成本体部64aに構成された油路は、スプール弁子64bが移動可能に挿入されている。
スプール弁子64bは、各ポートの連通状態を切り替えるものである。スプール弁子64bは、供給ポート64cと第2接続ポート64eとの連通状態を変更するものである。また、スプール弁子64bは、排出ポート64dと第1接続ポート64fとの連通状態を変更するものである。
供給ポート64cは、第3油路L3を介して、オイルポンプ62と接続されている。
排出ポート64dは、第4油路L4を介して、オイルタンク61と接続されている。
第2接続ポート64eは、第2通路L2を介して第2油圧室OP2と接続されている。
第1接続ポート64fは、第1通路L1を介して第1油圧室OP1と接続されている。
第2弾性部材64gは、スプール弁子64bをOFF側(図2に示す左側)に移動させる付勢力を発生するものである。第2弾性部材64gは、スプール弁子64bの両端部のうち、ON側(図2に示す右側)端部と、油路構成本体部64aのON側油路端部との間に付勢された状態で配置されている。従って、スプール弁子64bには、第2弾性部材64gにより、スプール弁子64bをOFF側に移動させる付勢力が作用する。
第2ソレノイド64hは、スプール弁子64bをON側に移動させる押圧力を発生する。第2ソレノイド64hは、供給される駆動電流Iuに応じて発生する電磁力により、スプール弁子64bと同軸上に配置された駆動軸64iをON側に移動させるものである。第2ソレノイド64hは、油路構成本体部64aのOFF側油路端部に設けられている。第2ソレノイド64hには、トランスミッションECU70と接続されており、トランスミッションECU70により設定された制御量である駆動電流Iuに基づいて駆動電流Iuが供給される。従って、スプール弁子64bには、第2ソレノイド64hにより、スプール弁子64bをON側に移動させる押圧力が供給される駆動電流Iuに応じて作用する。
ここで、第2流量制御弁64の開閉について説明する。トランスミッションECU70により目標駆動電流Iuoが設定されず、第2ソレノイド64hに駆動電流Iuが供給されないと、スプール弁子64bには、第2ソレノイド64hにより押圧力が発生しないため、第2弾性部材64gにより発生する付勢力のみが作用する。従って、スプール弁子64bは、OFF側に移動し、OFF位置(図2に示すOFFの部分)に位置する。このとき、供給ポート64cと第2接続ポート64eとの連通状態が略遮断となり、排出ポート64dと第1接続ポート64fとの連通状態が略遮断となる。これにより、第2流量制御弁64がOFF状態(図2に示すOFFの部分)、すなわち閉弁状態となり、第2油圧室OP2にオイルポンプ62により加圧された作動油がほぼ供給されず、第1油圧室OP1から作動油がほぼ排出されなくなる。
一方、トランスミッションECU70により目標駆動電流Iuoが設定され、第2ソレノイド64hに駆動電流Iuが供給されると、スプール弁子64bには、第2ソレノイド64hにより発生する押圧力と、第2弾性部材64gにより発生する付勢力とが作用する。駆動電流Iuを増加することで、第2ソレノイド64hにより発生する押圧力が第2弾性部材64gにより発生する付勢力よりも大きくなると、スプール弁子64bは、ON側に移動し、OFF位置以外であるON位置(最大ON位置は、図2に示すONの部分)に位置する。このとき、供給ポート64cと第2接続ポート64eとの連通状態が略遮断から連通となり、排出ポート64dと第1接続ポート64fと連通状態が略遮断から連通となる。これにより、第2流量制御弁64がON状態(図2に示すONの部分)、すなわち開弁状態となり、第2油圧室OP2にオイルポンプ62により加圧された作動油が供給され、第1油圧室OP1から作動油が排出される。これにより、図4に示すように、第2油圧室OP2の油圧Pbが第2油圧室OP2にオイルポンプ62の加圧された作動油が供給されることで、Psまで上昇することができ、第1油圧室OP1の油圧Paが第1油圧室OP1からオイルタンク61に作動油が排出されることで、0(ほぼ0も含む)まで減少する。従って、トランスミッションECU70により制御量である駆動電流Iuがプラスの値に設定され、第2流量制御弁64をON状態とすることで、第2油圧室OP2の油圧Pbが上昇し、また第1油圧室OP1の油圧Paが減少することで、差圧Pb−Paがプラスの値、すなわち第2油圧室OP2の油圧Pbが第1油圧室OP1の油圧Paよりも大きくなり、図2に示すように、ピストン51が第2方向Fに押圧され、トラニオン40に回転自在に支持されたパワーローラ30が第2方向Fに移動する。このとき、スプール弁子64bのON側への移動量により、パワーローラ30の第2方向Fへの移動速度が調整される。また、トランスミッションECU70は、トロイダル式無段変速機1の目標変速比γoや変速速度などに基づいて目標駆動電流Iuoを設定する。なお、トランスミッションECU70は、制御量である目標駆動電流Iuoを設定する場合、上記目標駆動電流Idoを設定しない。つまり、トランスミッションECU70は、第2流量制御弁64をON状態とする場合、第1流量制御弁63をOFF状態に維持する。従って、第2流量制御弁64を作動させる場合に、トランスミッションECU70により設定される制御量は、目標駆動電流Iuoとなる。
ここで、第1流量制御弁63および第2流量制御弁64がOFF状態においては、供給ポート63cと第1接続ポート63eとの連通状態、排出ポート63dと第2接続ポート63fとの連通状態、供給ポート64cと第2接続ポート64eとの連通状態、排出ポート64dと第1接続ポート64fとの連通状態が完全に遮断されていないため、図4に示すように、第1油圧室OP1の油圧Paが第1所定圧、第2油圧室OP2の油圧Pbが第2所定圧を維持する。第1所定圧は、第1流量制御弁63および第2流量制御弁64がOFF状態において、第1流量制御弁63により第1油圧室OP1に若干供給される作動油の流量と第2流量制御弁64により第1油圧室OP1から若干排出される作動油の流量との関係で決定される。第2所定圧は、第1流量制御弁63および第2流量制御弁64がOFF状態において、第2流量制御弁64により第2油圧室OP2に若干供給される作動油の流量と第1流量制御弁63により第2油圧室OP2から若干排出される作動油の流量との関係で決定される。なお、第1所定圧は、第2所定圧よりも低く設定されている。従って、第1流量制御弁63および第2流量制御弁64がOFF状態においては、差圧Pb−Paがプラスの値となる。
トランスミッションECU70は、トランスミッション、特にトロイダル式無段変速機1の変速比γの変速制御を行うものである。トランスミッションECU70は、第1流量制御弁63に供給される駆動電流Idを制御することで第1流量制御弁63の開閉を行うと共に、第2流量制御弁64に供給される駆動電流Iuを制御することで第2流量制御弁64の開閉を行うものである。つまり、トランスミッションECU70は、設定された目標変速比γoに基づいて第1流量制御弁63および第2流量制御弁64のフィードバック制御を行うことで、トロイダル式無段変速機1の変速比γを目標変速比γoに収束させるものである。トランスミッションECU70は、実施の形態では、フィードバック制御(変速比F/B制御)のうちカスケード制御を行うものである。トランスミッションECU70は、目標変速比設定手段、目標入力回転数設定手段と、目標入力値設定手段と、制御量設定手段と、異常検出手段として機能するものである。また、トランスミッションECU70は、変速比γの応答性を向上するために上記フィードバック制御とともに、フィードフォワード制御(変速比F/F制御)を行うものでもある。ここで、F/F制御は、既に公知技術であるため、詳細な説明は省略する。トランスミッションECU70は、図3に示すように、目標傾転角設定部71と、傾転角偏差設定部72と、目標ストローク量設定部73と、ストローク量偏差設定部74と、目標駆動電流設定部75とにより構成されている。
目標傾転角設定部71は、第1の目標入力値設定手段である。目標傾転角設定部71は、トランスミッションECU70により設定された目標変速比γoに基づいてパワーローラ30の状態値である傾転角θに対応する目標入力値である目標傾転角θoを設定する。まず、トランスミッションECU70は、実施の形態では、車両CAの走行状態(車速V、エンジン回転数Neなど)や、運転者の加減速操作(アクセル開度Acc)に基づいて目標変速比γoを設定する。次に、トランスミッションECU70は、設定された目標変速比γoと出力回転数センサ202により検出されトランスミッションECU70に出力されることでトランスミッションECU70に取得された出力回転数Noutとに基づいて目標入力回転数Ninoを設定する。目標傾転角設定部71は、上記設定された目標入力回転数Ninoに基づいてパワーローラ30の状態値である傾転角θに対応する目標入力値である目標傾転角θoを設定する。
傾転角偏差設定部72は、設定された目標入力値と取得されたパワーローラ30の状態値との偏差である入力値偏差を算出するものである。傾転角偏差設定部72は、目標傾転角設定部71により設定された目標入力値である目標傾転角θoと、傾転角センサ203により検出されトランスミッションECU70に出力されることでトランスミッションECU70に取得された状態値である傾転角θとの傾転角偏差Δθを設定する(Δθ=θo−θ)。
目標ストローク量設定部73は、第1の制御量設定手段であり、第2の目標入力値設定手段でもある。目標ストローク量設定部73は、設定された目標入力値および取得されたパワーローラ30の状態値に基づいて比例積分制御、すなわちPI制御を行い制御量を設定するものである。目標ストローク量設定部73は、設定された目標入力値である目標傾転角θoおよび傾転角センサ203により検出されトランスミッションECU70に出力されることでトランスミッションECU70に取得された状態値である傾転角θを入力することで、PI制御により制御量である目標ストローク量Xoを設定するものである。つまり、目標ストローク量設定部73は、トランスミッションECU70により設定された目標変速比γoに基づいてパワーローラ30の状態値であるストロークXに対応する目標入力値である目標ストローク量Xoを設定する。ここで、目標ストローク量設定部73における比例制御、すなわちP制御は、傾転角偏差Δθを基づいて目標ストローク量Xoを設定するものである。また、目標ストローク量設定部73における比例制御、すなわちP制御は、傾転角偏差Δθを累積した値に基づいて目標ストローク量Xoを設定するものである。目標ストローク量設定部73では、例えば、P制御として傾転角偏差Δθに比例傾転角ゲインを乗算した値と、I制御として傾転角偏差Δθを累積した値に積分傾転角ゲインを乗算した値との合計値を目標ストローク量Xoとして設定する。なお、P制御およびI制御は、既に公知技術であるため、P制御方法およびI制御方法などの詳細な説明は省略する。また、目標ストローク量設定部73は、少なくとも比例制御および積分制御を行えば良いので、例えば今回算出された傾転角偏差Δθnと前回算出された傾転角偏差Δθn−1との差分に基づいて目標ストローク量Xoを設定する微分制御、すなわちD制御を追加しても良い。
ここで、比例傾転角ゲインおよび積分傾転角ゲインは、入力回転数Ninと、傾転角θと、ディスク押圧機構65による押圧力Frとに基づいて設定される。比例傾転角ゲインおよび積分傾転角ゲインは、例えばトランスミッションECU70に取得された入力回転数Ninと、取得された傾転角θと、トランスミッションECU70により設定された押圧力Frと、比例傾転角ゲイン、積分傾転角ゲイン設定マップとに基づいて設定される。比例傾転角ゲイン、積分傾転角ゲイン設定マップは、図示は省略するが入力回転数Ninと、傾転角θと、押圧力Frとの関係から比例傾転角ゲインおよび積分傾転角ゲインを設定するものである。なお、比例傾転角ゲイン、積分傾転角ゲイン設定マップは、既に公知技術であるため、比例傾転角ゲイン、積分傾転角ゲイン設定マップの設定方法などの詳細な説明は省略する。
ストローク量偏差設定部74は、設定された目標入力値と取得されたパワーローラ30の状態値との偏差である入力値偏差を算出するものである。ストローク量偏差設定部74は、目標ストローク量設定部73により設定された目標入力値である目標ストローク量Xoと、ストロークセンサ204により検出されトランスミッションECU70に出力されることでトランスミッションECU70に取得された状態値であるストローク量Xとのストローク量偏差ΔXを算出する(ΔX=Xo−X)。
目標駆動電流設定部75は、第2の制御量設定手段である。目標駆動電流設定部75は、設定された目標入力値および取得されたパワーローラ30の状態値に基づいて比例積分制御、すなわちPI制御を行い制御量を設定するものである。目標駆動電流設定部75は、設定された目標入力値である目標ストローク量Xoおよびストロークセンサ204により検出されトランスミッションECU70に出力されることでトランスミッションECU70に取得された状態値であるストローク量Xを入力することで、PI制御により制御量である目標ストローク量Xoを設定するものである。ここで、目標駆動電流設定部75における比例制御、すなわちP制御は、ストローク量偏差ΔXを基づいて目標駆動電流Ido,Iuoを設定するものである。また、目標駆動電流設定部75における比例制御、すなわちP制御は、ストローク量偏差ΔXを累積した値に基づいて目標駆動電流Ido,Iuoを設定するものである。目標駆動電流設定部75では、例えば、P制御としてストローク量偏差ΔXに比例ストローク量ゲインを乗算した値と、I制御としてストローク量偏差ΔXを累積した値に積分ストローク量ゲインを乗算した値との合計値を目標駆動電流Ido,Iuoとして設定する。第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64のいずれかには、目標駆動電流設定部75により設定された目標駆動電流Ido,Iuoに基づいて駆動電流Idあるいは駆動電流Iuが供給される。なお、P制御およびI制御は、既に公知技術であるため、P制御方法およびI制御方法などの詳細な説明は省略する。また、目標駆動電流設定部75は、少なくとも比例制御および積分制御を行えば良いので、例えば今回算出されたストローク量偏差ΔXnと前回算出されたストローク量偏差ΔXn−1との差分に基づいて目標駆動電流Ido,Iuoを設定する微分制御、すなわちD制御を追加しても良い。
ここで、比例ストローク量ゲインおよび積分ストローク量ゲインは、入力回転数Ninと、傾転角θと、ディスク押圧機構65による押圧力Frとに基づいて設定される。比例ストローク量ゲインおよび積分ストローク量ゲインは、例えばトランスミッションECU70に取得された入力回転数Ninと、取得された傾転角θと、トランスミッションECU70により設定された押圧力Frと、比例ストローク量ゲイン、積分ストローク量ゲイン設定マップとに基づいて設定される。比例ストローク量ゲイン、積分ストローク量ゲイン設定マップは、図示は省略するが入力回転数Ninと、傾転角θと、押圧力Frとの関係から比例ストローク量ゲインおよび積分ストローク量ゲインを設定するものである。なお、比例ストローク量ゲイン、積分ストローク量ゲイン設定マップは、既に公知技術であるため、比例ストローク量ゲイン、積分ストローク量ゲイン設定マップの設定方法などの詳細な説明は省略する。
また、トランスミッションECU70は、第1流量制御弁63および第2流量制御弁64のいずれか一方の流量制御弁が油圧を供給し続ける状態に固着した際に異常を検出するものである。トランスミッションECU70は、例えば目標傾転角θo、取得された傾転角θ、目標ストローク量Xo、取得されたストローク量Xなどに基づいて第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64のいずれか一方の流量制御弁の異常、すなわち第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64のいずれかON状態のままとなるショートを検出する。
トランスミッションECU70は、変速比γを設定した目標変速比γoに変更する場合において変速比γを増加あるいは減少、すなわちダウンシフトあるいはアップシフトする場合は、入力ディスク10の回転方向に基づいて、第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64のいずれかに駆動電流Id,Iuを供給し、第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64をON状態とすることで、パワーローラ30が設定した目標変速比γoに応じた傾転角θとなるまで、中立位置から第1方向Eあるいは第2方向Fにトラニオン40を移動させる。例えば、入力ディスク10が正回転している状態でダウンシフトする場合は、第1流量制御弁63のみに駆動電流Idを供給し、第2流量制御弁64に駆動電流Iuを供給しない。これにより、第1流量制御弁63をON状態、第2流量制御弁64をOFF状態とし、図4に示すように、駆動電流Idが所定値以上となると第1流量制御弁63を介して、第1油圧室OP1とオイルポンプ62との連通状態が連通となるとともに第2油圧室OP2とオイルタンク61との連通状態が連通となり、第1油圧室OP1の油圧Paが上昇するとともに第2油圧室OP2の油圧Pbが減少する。これにより、差圧Pb−Paがマイナスの値となり、油圧サーボ機構50によりパワーローラ30が第1方向Eに移動し、パワーローラ30が中立位置から第1方向Eにストロークするので、入力ディスク10の回転方向およびパワーローラ30の移動方向が一致することとなり、パワーローラ30に入力ディスク10の中心へ向かわせる方向の力が作用し、変速比γが増加してダウンシフトが行われる。また、入力ディスク10が正回転している状態でアップシフトする場合は、第2流量制御弁64のみに駆動電流Iuを供給し、第1流量制御弁63に駆動電流Idを供給しない。これにより、第2流量制御弁64をON状態、第1流量制御弁63をOFF状態とし、同図に示すように、駆動電流Iuが所定値以上となると第2流量制御弁64を介して、第2油圧室OP2とオイルポンプ62との連通状態が連通となるとともに第1油圧室OP1とオイルタンク61との連通状態が連通となり、第2油圧室OP2の油圧Pbが上昇するとともに第1油圧室OP1の油圧Paが減少する。これにより、差圧Pb−Paがプラスの値となり、油圧サーボ機構50によりパワーローラ30が第2方向Fに移動し、パワーローラ30が中立位置から第2方向Fにストロークするので、入力ディスク10の回転方向およびパワーローラ30の移動方向が一致しないこととなり、パワーローラ30に入力ディスク10の中心から遠ざける方向の力が作用し、変速比γが減少してアップシフトが行われる。なお、トランスミッションECU70は、変速比γを設定された目標変速比γoに固定する場合は、第1流量制御弁63に駆動電流Idあるいは第2流量制御弁64に駆動電流Iuを供給し、第1流量制御弁63あるいは第2流量制御弁64をON状態とすることで、パワーローラ30を油圧サーボ機構50により中立位置となるまで、第1方向Eあるいは第2方向Fに移動させる。
ここで、車両が正回転駆動力により前進している場合に、ダウンシフトを行う場合には、正回転駆動力をTinとした場合、Pa,Pb,Tinが下記の式(1)の関係を満たすように、第1流量制御弁63を制御する。なお、Nはキャビティーの数、Mは1つのキャビティーに配置されるパワーローラ30の数、Apは第1油圧室OP1および第2油圧室PO2の受圧面積、r1は入力ディスク10とパワーローラ30との接触半径(軸線X1からの距離)である。
(Pb−Pa)×Ap×N×M×r1/2<Tin …(1)
一方、車両が正回転駆動力により前進している場合に、アップシフトを行う場合には、上記Pa,Pb,Tinが下記の式(2)の関係を満たすように、第2流量制御弁64を制御する。
(Pb−Pa)×Ap×N×M×r1/2>Tin …(2)
動力伝達機構130は、トロイダル式無段変速機1とディファレンシャルギヤ140との間で、駆動力あるいは被駆動力の伝達を行うものである。動力伝達機構130は、出力ディスク20とディファレンシャルギヤ140との間に配置されている。
ディファレンシャルギヤ140は、動力伝達機構130と車輪160との間で、駆動力あるいは被駆動力の伝達を行うものである。ディファレンシャルギヤ140は、動力伝達機構130と車輪160との間に配置されている。ディファレンシャルギヤ140には、ドライブシャフト150が連結されている。ドライブシャフト150には、車輪160が取り付けられている。
エンジンECU170は、内燃機関100の運転を制御するものである。つまり、エンジンECU170は、エンジントルクである駆動力を制御するものである。例えば、エンジンECU170は、図示しない車両の運転者の意志あるいは運転者の意志に拘わらず自動的に駆動力を制御する。なお、エンジンECU170は、トランスミッションECU70と電気的に接続されている。
警報装置180は、図示しない車両の運転者に警報を発するものである。警報装置180は、例えば、コントロールパネルに設けられたインジケータや、車室に設けられたスピーカーや、シートに設けられた振動装置などである。警報装置180は、トランスミッションECU70と接続されており、トランスミッションECU70により作動される。
制動装置190は、接線力低減手段であり、図示しない車両に制動力を作用させ、車両を手動あるいは自動的に減速および停止することができるものである。制動装置190は、ブレーキECU200と接続されている。制動装置190は、例えば運転者によるブレーキペダルの操作量、あるいはブレーキECU200により設定された要求制動力に応じた制動力を車輪160に作用させるブレーキ装置などである。
ブレーキECU200は、制動装置190を制御するものである。ブレーキECU200は、例えば制動装置190により図示しない車両を自動的に停止させるために必要な要求制動力を設定し、要求制動力に基づいて制動装置190を制御し、車両を停止させることができる。ブレーキECU200は、トランスミッションECU70と接続されており、トランスミッションECU70からの指令に基づいて制動装置190を制御することができる。
なお、上記の構成では、車両の前進時と後進時と(車輪の前転時と後転時と)でディスク押圧機構65(変速制御弁)の駆動方向が反転する場合がある。
[シフトレバー操作時の押圧力増量制御]
ここで、上記のように、パワーローラ30の押圧力が油圧制御により制御される構成(図1および図2参照)では、シフトレバー操作による変速比制御時にて、パワーローラの回転方向の誤判定やイナーシャルトルクの発生により、パワーローラのグロススリップが発生するおそれがある(図11および図12参照)。
例えば、(1)ガレージシフト時(例えば、ニュートラルレンジから車両走行レンジへのシフトレバー操作時)には、ディスクの回転方向のガタや係合時のショックにより、パワーローラの回転方向の誤判定が生じ得る(図11(a)および(e)参照)。すると、ディスク押圧機構(変速制御弁)への作動油の変速必要流量(油圧供給量)が増加し、パワーローラの実押圧力(ライン圧)が低下して、パワーローラにグロススリップが発生する(図11(f)、(g)および(d)参照)。
また、例えば、(2)車両走行時にて、車両の進行方向に対して逆方向へのシフトレバー操作(例えば、車両後進時における「R」ポジションから「D」ポジションへのシフト操作)が行われると、回転方向の反転によりイナーシャルトルクが発生する(図12(a)および(d)参照)。すると、ディスク押圧機構への作動油の変速必要流量が増加し、パワーローラの実押圧力が低下して、パワーローラのグロススリップが発生するおそれがある(図12(g)、(h)および(e)参照)。
そこで、このトロイダル式無段変速機1は、ニュートラルレンジから車両走行レンジへのシフトレバー操作(ガレージシフト)あるいは車両進行方向に対して逆方向へのシフト操作による変速比制御時にて、パワーローラ30の押圧力を増量させる制御が行われる(シフトレバー操作時の押圧力増量制御)。これにより、パワーローラ30の押圧力が適正に確保されて、パワーローラ30のグロススリップが抑制される。例えば、この実施例では、シフトレバー操作時の押圧力増量制御が以下のように行われている(図5参照)。
ステップST01では、駆動力入力軸(出力軸)11の回転方向と、現在のシフトレバー位置(シフトポジション)とが取得される。パワーローラ30の回転方向は、車両の前進方向および後進方向のいずれか一方として取得される。このパワーローラ30の回転方向は、出力回転数センサ202の出力信号に基づいて判定される。ただし、出力回転数センサ202のフェール時には、パワーローラ30の回転方向が入力回転数センサ201の出力信号に基づいて判定される。シフトレバー位置による進行方向は、シフトレバー位置(「D」ポジション、「B」ポジション、「N」ポジション、「R」ポジションなど)が示す車両の進行方向であり、前進レンジ(「D」ポジション、「B」ポジションなど)、ニュートラルレンジ(「N」ポジション)および後進レンジ(「R」ポジション)のいずれか一つとして取得される。なお、シフトレバー位置は、シフトポジションセンサ205の出力信号に基づいて判定される。このステップST01の後に、ステップST02に進む。
ステップST02では、ステップST01の取得結果に基づいて、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向との一致度LVLが判定される(図6参照)。この一致度LVLは、LVL=0、LVL=1およびLVL=2のいずれか一つとして判定される。LVL=0では、シフトレバー位置による進行方向がニュートラルレンジにある。LVL=1では、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とが一致する。例えば、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とがいずれも前進レンジにあるとき、あるいは、これらがいずれも後進レンジにあるときに、一致度LVLがLVL=1となる。LVL=2では、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とが不一致(反対)となる。例えば、パワーローラ30の回転方向が前進レンジ(後進レンジ)にあり、且つ、シフトレバー位置による進行方向が後進レンジ(前進レンジ)にあるときに、一致度LVLがLVL=2となる。このステップST02の後に、ステップST03に進む。
ステップST03では、ガレージシフト制御中か否かが判定される。この判定では、ガレージシフト実行フラグがONのときに、肯定判定が行われる。このステップST03にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST05に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST04に進む。
ステップST04では、ガレージシフト判定フラグがOFFに設定される。具体的には、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とが一致するときのガレージシフト判定フラグ、ならびに、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とが不一致であるときのガレージシフト判定フラグが、それぞれOFFに設定される(リセットされる)。このステップST04の後に、ステップST01に戻り、処理が繰り返される。
ステップST05では、ガレージシフトの開始判定が行われる。このステップST05にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST06に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST10に進む。
ステップST06では、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向との一致度LVLがLVL=1であるか否かが判定される。この判定では、ステップST02にて取得された一致度LVLが用いられる。このステップST06にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST07に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST08に進む。
ステップST07では、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とが一致するときのガレージシフト判定フラグがONに設定される。このステップST07の後に、ステップST10に進む。
ステップST08では、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向との一致度LVLがLVL=2であるか否かが判定される。この判定では、ステップST02にて取得された一致度LVLが用いられる。このステップST08にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST09に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST01に戻り、処理が繰り返される。
ステップST09では、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による進行方向とが不一致であるときのガレージシフト判定フラグがONに設定される。このステップST09の後に、ステップST10に進む。
ステップST10では、パワーローラ30の押圧力増量制御が行われる。この押圧力増量制御では、トランスミッションECU70がパワーローラ30の押圧力指示値を設定し、この押圧力指示値に基づいて油圧制御装置60がディスク押圧機構65の油圧制御を行うことにより、入力ディスク10が駆動されてパワーローラ30の押圧力Frが制御される(図1参照)。このとき、シフトレバー操作前の状況とシフトレバー操作時の状況との比較判定結果(ガレージシフトの判定フラグ)に基づいて、パワーローラ30の押圧力増量レベル(押圧力指示値)が設定される(図7参照)。これにより、パワーローラ30の押圧力が適正に確保されて、パワーローラ30のグロススリップが効果的に抑制される。このステップST10の後に、ステップST01に戻り、処理が繰り返される。
なお、図7では、例えば、「前進D、Nレンジ」の表示は、パワーローラ30の回転方向が前進方向にあり且つシフトレバー位置が「D」ポジションあるいは「N」ポジションにあることを示している。
例えば、シフトレバー操作前の状況が「前進Nレンジ」であり、シフトレバー操作時の状況が「前進Dレンジ」であるとき(ガレージシフト時)には、パワーローラ30の回転方向の誤判定により、ディスク押圧機構65への変速必要流量が増加する(図8(a)、(e)および(g)参照)。このとき、パワーローラ30の押圧力増量制御(ステップST10)が行われて、押圧力指示値が増量される(図8(h)および(i)参照)。したがって、回転方向の誤判定によるパワーローラ30の実押圧力の低下が抑制されて、パワーローラ30のグロススリップが防止される(図8(i)および(d)参照)。
また、例えば、シフトレバー操作前の状況が「後進Rレンジ」であり、シフトレバー操作時の状況が「前進Dレンジ」であるとき(進行方向と異なる方向へのシフトレバー操作時)には、イナーシャルトルクにより、ディスク押圧機構65への作動油の変速必要流量が増加する(図9(a)、(d)および(g)参照)。このとき、パワーローラ30の押圧力増量制御(ステップST10)が行われて、押圧力指示値が増量される(図9(i)および(j)参照)。したがって、イナーシャルトルクによるパワーローラ30の実押圧力の低下が抑制されて、パワーローラ30のグロススリップが防止される(図9(j)および(e)参照)。
なお、例えば、シフトレバー操作前の状況が「後進」であり、シフトレバー操作時の状況が「前進Rレンジ」であるとき(進行方向と同一方向へのシフトレバー操作時)には、上記したパワーローラ30の回転方向の誤判定やイナーシャルトルクが発生しない(図10(e)および(g)参照)。したがって、パワーローラ30のグロススリップが発生せず、変速比制御が適正に行われる(図10(f)参照)。
また、進行方向と異なる方向へのシフトレバー操作時には、ガレージシフト時よりも、パワーローラ30の押圧力指示値が大きく設定される(図7参照)。これにより、パワーローラ30の押圧力が適正に確保されて、パワーローラ30のグロススリップが効果的に抑制される。
[効果]
以上説明したように、このトロイダル式無段変速機1では、ニュートラルレンジから車両走行レンジへのシフトレバー操作(ガレージシフト)あるいは車両進行方向に対して逆方向へのシフトレバー操作による変速比制御時にて、パワーローラ30の回転方向とシフトレバー位置による車両の進行方向との比較判定結果(一致度LVL)に基づいて、油圧制御装置60がパワーローラ30の押圧力を増量させる制御を行う(図5参照)。かかる構成では、変速制御時にてパワーローラの回転方向の誤判定やイナーシャルトルクが発生したときに、パワーローラ30の押圧力が適正に確保される。これにより、パワーローラ30のグロススリップが効果的に抑制される利点がある。