JP2010249964A - ハードコート用樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】近赤外線吸収色素としてジイモニウム塩化合物を含む近赤外線吸収性ハードコート用樹脂組成物を提供することであり、活性エネルギー線硬化性および透明性を有し、近赤外線吸収能に優れたハードコート用樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】会合状態にあり特定の吸収波長を有するジイモニウム塩化合物を微粒子分散状態で活性エネルギー線硬化性樹脂中に含有させることで紫外線照射によるジイモニウム塩化合物の分解が起こらず、近赤外線吸収能に優れたハードコート用樹脂組成物を得ることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、近赤外光領域に吸収を有する近赤外線吸収色素を含むハードコート用樹脂組成物に関し、さらに詳細には、近赤外線吸収性に優れるとともに、耐熱性、耐湿性、耐光性に優れたハードコート用樹脂組成物および該ハードコート用樹脂組成物を用いたハードコート材、並びに該ハードコート材を用いてなる熱線遮断フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、薄型ディスプレー用光学フィルター等の近赤外線遮断フィルターに関する。
近年、ディスプレーの大型化、薄型化の要求が高まる中、プラズマディスプレーパネル(以下、「PDP」と略記する)が一般に広く普及している。PDPからは近赤外線が放出され、近赤外線リモコンを使用した電子機器が誤動作を起こしてしまうことから、近赤外線吸収剤を含むフィルターで近赤外線を遮断する必要がある。また、CCDカメラ等に使用される光半導体素子は近赤外線領域の感度が高いため、近赤外線の除去が必要である。更に近赤外線吸収剤は、太陽光の熱線吸収効果を示し、自動車用ガラス、建材用ガラス等の用途に熱線遮断フィルムとして利用されており、太陽電池モジュールにおける温度上昇による出力低下を防止するためにも熱線遮断が必要である。これらの用途に用いられる近赤外線遮断フィルターは、可視光領域を透過しつつ、効果的に近赤外光領域を吸収でき、更に、耐熱安定性、耐湿安定性及び耐光安定性が要求される。
近赤外線吸収剤としての近赤外線吸収色素としては、従来、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素、無機酸化物粒子等が使用されている。中でもジイモニウム系色素は近赤外線の吸収能が高く、可視光領域での透明性が高いことから多用されている(例えば、特許文献1参照)。この文献には、ジイモニウム塩化合物系の近赤外線吸収色素が各種例示されているが、比較的耐熱性、耐湿性に優れた近赤外線吸収色素として、例えばアニオン成分がビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)であるN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム塩が知られている。
しかし、この特許文献1に開示されているジイモニウム塩化合物は、耐熱性、耐湿性が不十分であり、使用中に色素が分解するため、近赤外線吸収能力が低下し、また分解により生成したアミニウム塩が可視光線領域に吸収を生じることから、可視光透過率が低下し、黄色に呈色して色調を損なってしまうという問題がある。
ところで、PDP等の薄型ディスプレーに用いられる光学フィルターには、通常近赤外線吸収層の他に、反射防止層、防眩層、ハードコート層等が設けられている。(例えば、特許文献2参照)
通常の光学フィルターの構成においては近赤外線吸収層とハードコート層とが、それぞれ別々に設けられている。例えば、特許文献3に開示された近赤外線吸収層は、ハードコート層ではないため、耐傷付き性の低い光学フィルターを得る場合においては、近赤外線吸収層とハードコート層とを別途準備する必要がある。
ハードコート層が近赤外線吸収能をも有する場合、使用するフィルムの削減や工程の省略が可能となるため、ハードコート層中に近赤外線吸収色素を含有させる試みがなされている。
特許文献4には、透明樹脂層の少なくとも一方の面に、塗工により設けられた近赤外線吸収剤を含有するハードコート層を有する樹脂成形品であって、近赤外線吸収剤が、イモニウム系化合物、ジイモニウム系化合物、アミニウム系化合物の少なくとも1種を含有する2種以上の近赤外線吸収剤であることを特徴とする近赤外線吸収性樹脂成形品が開示されている。
ここでハードコート層は、ハードコート樹脂に紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより形成される。よってハードコート層に近赤外線吸収剤を含有させた場合、近赤外線吸収剤にも活性エネルギー線が照射される。特許文献4に開示されている従来のジイモニウム塩化合物は紫外線により分解しやすく、この分解により近赤外線吸収能が大きく低下することが判明した。さらに、重合開始剤などの硬化促進剤とジイモニウム塩化合物との副反応により、樹脂の硬化阻害が発生するという問題点があった。
また、特許文献5にフタロシアニン系化合物またはナフタロシアニン系化合物を近赤外線吸収剤として用いたものが開示されている。しかし、フタロシアニン系化合物またはナフタロシアニン系化合物では近赤外線吸収領域が狭く、十分な近赤外線吸収能を得るには、吸収波長の異なる複数種の近赤外線吸収色素を用いなければならない。
特開平10−180922号公報 特開2006−201463号公報 特開2004−309655号公報 特許第3788652号公報 特開2008−268267号公報
本発明の目的は、近赤外線吸収色素としてジイモニウム塩化合物を含む近赤外線吸収性ハードコート用樹脂組成物を提供することであり、活性エネルギー線硬化性および透明性を有し、近赤外線吸収能に優れたハードコート用樹脂組成物を提供することである。
さらに、該ハードコート用樹脂組成物を用い、可視光透過率が高く、かつ耐久性に優れ、近赤外線遮断効果に優れたハードコート材を提供することである。そのようなハードコート材の提供は、より安価で高性能な熱線遮断フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、薄型ディスプレー用光学フィルター等の近赤外線遮断フィルター及び薄型ディスプレーの製造に資するものである。
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、会合状態にあり特定の吸収特性を有するジイモニウム塩化合物を微粒子分散状態で活性エネルギー線硬化性樹脂中に含有させることで紫外線照射によるジイモニウム塩化合物の分解が起こらず、さらに活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化阻害が発生しないことを見出し本発明の完成に至った。
すなわち本発明は、近赤外線吸収剤を含んでなり、透明性及び活性エネルギー線硬化性を有するハードコート用樹脂組成物であって、前記近赤外線吸収剤が、下記一般式(1)で示される化合物の会合体を含むものであることを特徴とするハードコート用樹脂組成物である。
ここで、上記特定の吸収特性とは後述する吸収特性を示す。
Figure 2010249964
上式中、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい有機基を表し、Xはアニオンを示す。
また本発明は、上記近赤外線吸収剤が、活性エネルギー線硬化性樹脂中に会合状態で分散してなることを特徴とする近赤外線吸収能に優れたハードコート用樹脂組成物である。
ここで、上記会合状態とは、後述する方法によって、直接的ないし間接的に確認することができる状態のことを示す。
また、本発明は上記ハードコート用樹脂組成物を硬化させてなるハードコート材である。このハードコート材は、優れた近赤外線吸収能を有している。好ましいハードコート材は、透明基材と上記ハードコート用樹脂組成物を含むハードコート層とを有しているものである。
上記透明基材としては、ガラス、PETフィルム、TACフィルム、ラクトン構造を有する樹脂フィルム又は電磁波シールドフィルムが好ましい。PETフィルムは、易接着層を有するものでもよい。
また、本発明は上記ハードコート用樹脂組成物を硬化させたハードコート材を用いてなる近赤外線遮断フィルターである。
上記近赤外線遮断フィルターには、熱線遮断フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、薄型ディスプレー用光学フィルター等が含まれる。
また、上記反射防止フィルムは、上記ハードコート用樹脂組成物を硬化させたハードコート材を用いた反射防止フィルムであり、本発明に係る反射防止フィルムは、上記ハードコート材と、このハードコート材における上記ハードコート層とは屈折率が異なる層とを有する。
また、上記防眩フィルムは、上記ハードコート用樹脂組成物を硬化させたハードコート材を用いた防眩フィルムである。
また、上記薄型ディスプレー用光学フィルターは、上記ハードコート材を用いてなるもので、上記反射防止フィルム又は上記防眩フィルムを用いたものであっても良い。
本発明に用いられる近赤外線吸収剤は、溶解ないし分散状態にある従来のジイモニウム塩とは異なる特徴的な吸収特性を有し、会合状態にて安定に存在しうることから、ハードコート用樹脂組成物中に微粒子分散状態で極めて安定に存在することができる。
さらに、ハードコート樹脂硬化の際の活性エネルギー線照射によっても分解劣化することが著しく抑制されているため、透明性及び活性エネルギー線硬化性を有するハードコート用樹脂組成物を提供することができる。
上記ハードコート用樹脂組成物を用いたハードコート材は、耐熱、耐湿、耐光性に極めて優れたものとなる。
その結果、本発明のハードコート用樹脂組成物を用いてなるハードコート材は、熱線遮断フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、薄型ディスプレー用光学フィルター等の近赤外線遮断フィルターの製造において、製造工程の削減及びコスト低減を可能とする。
試験例1において、製造例1〜3および製造比較例1〜2で得られたジイモニウム塩化合物の濃度100mg/Lの分散液または溶液の吸収スペクトルである。 試験例1において、製造例1で得られたジイモニウム塩化合物の各濃度の分散液または溶液のモル吸光係数である。 試験例1において、製造例2で得られたジイモニウム塩化合物の各濃度の分散液のモル吸光係数である。 試験例1において、製造例2で得られたジイモニウム塩化合物の塩化メチレンで濃度10mg/Lに希釈した溶液のモル吸光係数である。 試験例1において、製造例3で得られたジイモニウム塩化合物の各濃度の分散液または溶液のモル吸光係数である。 試験例1において、製造比較例1で得られたジイモニウム塩化合物の濃度5mg/Lの分散液のモル吸光係数である。 試験例1において、製造比較例1で得られたジイモニウム塩化合物の塩化メチレンで濃度10mg/Lに希釈した溶液のモル吸光係数である。 試験例1において、製造比較例2で得られたジイモニウム塩化合物の濃度100mg/Lの溶液のモル吸光係数である。 実施例1において、近赤外線遮断フィルター作製時における塗膜の紫外線照射前後の吸収スペクトルである。 実施例2において、近赤外線遮断フィルター作製時における塗膜の紫外線照射前後の吸収スペクトルである。 比較例1において、近赤外線遮断フィルター作製時における塗膜の紫外線照射前後の吸収スペクトルである。 比較例2において、近赤外線遮断フィルター作製時における塗膜の紫外線照射前後の吸収スペクトルである。
本発明は、耐傷付き性が低く、耐熱、耐湿、耐光環境下における近赤外線吸収能の持続性に優れたハードコート材を与える近赤外線吸収性ハードコート用樹脂組成物である。
そのようなハードコート用樹脂組成物より形成されたハードコート層を具備した近赤外線遮断フィルターは、可視光透過率が高く、近赤外線吸収能に優れたものとなる。
[近赤外線吸収剤]
本発明に係る近赤外線吸収性ハードコート用樹脂組成物に使用される近赤外線吸収剤はジイモニウム塩化合物を含む。なお、本明細書中において、近赤外線とは、波長750〜2000nmの範囲の光を意味する。
上記近赤外線吸収剤はジイモニウム塩化合物の微粒子を含み、上記微粒子はジイモニウム塩化合物の会合体である。会合体の詳細については後述されるが、会合体となるジイモニウム塩化合物は下記一般式(1)で表される。
Figure 2010249964
上記一般式(1)中の、R〜Rの有機基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、会合体を形成するものであれば特に限定されないが、好ましい有機基としては、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖または分岐状のC1−10アルキル基、C3−12のシクロアルキル基、シクロアルキル環が置換されていてもよいC3−12シクロアルキル−C1−10アルキル基等が例示できる。R〜Rのうち少なくとも一つがこれらの有機基であればよいが、R〜Rのすべてが同一であり、これらのうちの一つの有機基であることでカチオン構造が対称となり、会合体の形成に必要な分子配列が容易となるという点から好ましい。
1−10の直鎖または分岐状のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、iso−アミル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基等が例示できる。これらのうち、iso−プロピル基、iso−ブチル基、iso−アミル基等の分岐状のC3−6アルキル基が会合体形成に必要な分子配列を得るという点で好ましく、特にiso−ブチル基が好ましい。
またC3−12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
3-12シクロアルキル−C1-10アルキル基は、シクロアルキル環が置換されていても非置換であってもよく、置換され得る置換基としては、アルキル基、水酸基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、またはハロゲン原子等が例示できるが、好ましくは非置換であり、下記一般式(2)で表されるシクロアルキル−アルキル基が会合体形成に必要な分子配列を容易にするという理由から好ましい。
Figure 2010249964
式中、Aは炭素数1〜10の直鎖または分岐状のアルキル基を示し、mは3〜12の整数を示す。
上記一般式(2)中、Aの炭素数は1〜4であることが好ましく、mは5〜8が好ましく、特に5〜6であることが好ましい。このような範囲であると、会合に必要な分子間相互作用が増大する。具体的には、シクロペンチルメチル基、2−シクロペンチルエチル基、2−シクロペンチルプロピル基、3−シクロペンチルプロピル基、4−シクロペンチルブチル基、2−シクロヘキシルメチル基、2−シクロヘキシルエチル基、3−シクロヘキシルプロピル基、4−シクロヘキシルブチル基等が例示でき、これらの中でもシクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロヘキシルプロピル基、3−シクロヘキシルプロピル基、4−シクロヘキシルブチル基が好ましく、より好ましくはシクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基であり、特にシクロヘキシルメチル基が好ましい。
また、ハロゲン原子で置換された直鎖または分岐状のC1−10アルキル基としては、2−ハロゲノエチル基、2,2−ジハロゲノエチル基、2,2,2−トリハロゲノエチル基、3−ハロゲノプロピル基、3,3−ジハロゲノプロピル基、3,3,3−トリハロゲノプロピル基、4−ハロゲノブチル基、4,4−ジハロゲノブチル基、4,4,4−トリハロゲノブチル基、5−ハロゲノペンチル基、5,5−ジハロゲノペンチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基等のハロゲン化アルキル基が例示できる。中でも下記一般式(3)で表されるモノハロゲン化アルキル基が好ましい。
Figure 2010249964
上式中、nは1〜9の整数を示し、Yはハロゲン原子を示す。
一般式(3)において、nは1〜4であることが好ましく、Yがフッ素原子であることが特に好ましい。このような範囲であると、会合に必要な分子間相互作用が増大する。具体的には、2−フルオロエチル基、3−フルオロプロピル基、4−フルオロブチル基、5−フルオロペンチル基等のモノフルオロアルキル基が挙げられる。より好ましくは3−フルオロプロピル基、4−フルオロブチル基、5−フルオロペンチル基であり、特に3−フルオロプロピル基が好ましい。
上記有機基を有する化合物は、分子間相互作用が強く、分散状態で強い会合性を示すため、樹脂中にて極めて安定に存在することができる。
このような化合物を用いることで、ハードコート樹脂組成物を硬化させる際の活性エネルギー線照射の際にも、ジイモニウム骨格が劣化することないハードコート用樹脂組成物を提供することができる。
一方、一般式(1)中のXはジイモニウムカチオンの電荷を中和させるのに必要なアニオンであり、有機酸アニオン、無機アニオン等が使用できるが、無機アニオンがジイモニウム塩の溶解度を低下させるという点で好ましい。無機アニオンとして具体的には、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン、過塩素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン等が挙げられる。特に会合体形成に必要な分子配列を容易にするという点でヘキサフルオロリン酸イオンが好ましい。
上記アニオンを選択することで、ジイモニウム塩が安定な微粒子分散状態を呈しやすくなる。これは、当該アニオンが、ジイモニウム塩の結晶中における会合体形成に好ましい分子サイズであるものと考えられる。さらに、上記したR〜Rの置換基を有するジイモニウムカチオンと上記アニオンとの塩は特に好適に、安定的な会合体の分子配列を容易に形成するものと考えられる。
本発明のハードコート用樹脂組成物に含有する好ましい近赤外線吸収剤は、かくして得られるジイモニウム塩化合物(1)の会合体である。このジイモニウム塩化合物の会合体は750nm〜1300nmの波長領域に吸収を示し、かつ1110nm〜1250nmに極大吸収波長を示すことを特徴とする。またジイモニウム塩化合物の会合体は極大吸収波長が、そのジイモニウム塩化合物の溶解状態の極大吸収波長から15〜200nm長波長側へシフトしたものである。
すなわち、色素化合物は会合状態(会合体として分散した状態)で、いわゆる会合体バンドを形成して、溶解状態とは異なる吸収スペクトルを示すことが知られており(例えば、Photographic Science and Engineering,Vol.18,No.323−335(1974))、一般に会合状態の吸収バンドは、溶解状態よりも長波長側に移動する。従来公知のジイモニウム塩化合物は、一般的に溶解状態において1050nm〜1095nmの間に極大吸収波長を示すが、本発明に用いる近赤外線吸収剤は、会合体の形成により15nm〜200nm長波長側にシフトし、1110nm〜1250nmに吸収極大を示す。シフトによる変化量が大きすぎると、900nm〜1100nm付近の近赤外線吸収が不足してしまう場合があるため、その変化量は15nm〜100nmであることが好ましい。
上記会合体の吸収波長領域および極大吸収波長は、ジイモニウム塩化合物を、分散媒中に少なくとも50mg/L以上の濃度で0.001μm以上10μm以下(10−9m〜10−5m)の粒子として、浮遊あるいは懸濁している状態(以下、「分散状態」ということがある)において測定した吸収スペクトルから求められる。この粒子径は、マイクロトラック粒度分析計によって測定される。より具体的には、ジイモニウム塩化合物0.5部、トルエン9.5部、及び粒径0.3mmのジルコニアビーズ70部を50mlのガラス容器に添加し、ペイントシェーカーで2時間振とうした後に、ジルコニアビーズを濾別して得られた液を、ジイモニウム塩化合物の濃度が100mg/Lとなるようトルエンで希釈したジイモニウム塩化合物分散液について、分光光度計により測定した吸収スペクトルから求められる。一方、溶解状態の極大吸収波長は、このように調製したジイモニウム塩化合物分散液を、トルエンによって希釈していき溶解状態となった濃度の溶液について、分光光度計で測定した吸収スペクトルから求められる。
さらに、ジイモニウム塩化合物は、会合体ではなく、結晶として上記分散状態にある場合もあるが、会合状態では、結晶分散状態よりも半値幅(吸収極大での吸光度の半分の吸光度を示す波長領域の幅)が小さい急峻な吸収バンドを示す。結晶分散状態では、溶解状態に対する極大吸収波長の変化量が大きく、1250nmよりも長波長側へシフトし、また、極大吸収波長におけるモル吸光係数が、会合状態では70,000mol−1・L・cm−1以上(Lはセル長を意味する)であるのに対し、結晶分散状態では40,000mol−1・L・cm−1未満と低くなるため、会合状態と比較して近赤外線吸収能力が著しく劣るものとなる。
このように、ジイモニウム塩化合物が会合状態であるか溶解状態であるかは、分散状態にて測定した吸収スペクトルと、溶解状態で測定した吸収スペクトルとを比較し、それぞれの極大吸収波長およびその変化量から判別することができる。一方、ジイモニウム塩化合物が、会合状態であるか結晶分散状態であるかは、分散状態において測定した吸収スペクトルの極大吸収波長およびそのモル吸光係数を比較することによって判別することが可能である。
したがって、本発明のハードコート用樹脂組成物において、近赤外線吸収剤が、樹脂中に会合状態で分散していることは、本発明のハードコート用樹脂組成物を硬化させてなるハードコート層の吸収スペクトルを測定し、上記した吸収特性を有することによって確認することができる。
上記本発明に用いるジイモニウム塩化合物(1)は、以下の方法によって製造することができる。
すなわち、ウルマン反応及び還元反応で得られる、下記式(4)で表されるアミノ体を、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記する)、ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略記する)等の極性溶剤中、R〜Rに対応するヨウ化物と、脱ヨウ素化剤としてアルキル金属の炭酸塩を加え、30℃〜150℃、好ましくは70〜120℃で反応させ、下記式(5)で表されるアルキル置換体を得る。例えば、R〜Rがすべてシクロヘキシルメチル基の場合は、対応するヨウ化物としてヨウ化シクロヘキシルアルカンを反応させ、R〜Rがすべて3−フルオロプロピル基の場合はヨウ化フルオロアルカンを反応させる。一方、R〜Rが、2種以上の異なる有機基である場合は、それぞれの有機基の数に対応するモル数のヨウ化物を上記と同様にして順次反応させるか、またはこれらを同時に添加して反応させることにより得られる。例えば、R〜Rがシクロヘキシルメチル基とその他の有機基である場合には、置換基の数に対応するモル数のヨウ化シクロヘキシルアルカンを添加し、反応後、順次対応するモル数のヨウ化物(例えば、ヨウ化フルオロアルカン;ヨードアルカン;アルコキシヨード;ヨウ化ベンゼン;ヨウ化ベンジル、ヨウ化フェネチル等のフェニル−1−ヨードアルカン等)を加え反応させるか、あるいは、これらの異種のヨウ化物を同時に加えて反応させることによって得ることができる。
Figure 2010249964
Figure 2010249964
上式中、R〜Rは、前記した意味を有する。
次いで、上記式(5)で示されるアルキル置換体及び対応するアニオンXの銀塩を、NMP、DMF、アセトニトリル等の有機溶媒中、温度30〜150℃、好ましくは40〜80℃で反応させ、析出した銀を濾別した後、水、酢酸エチル、ヘキサン等の溶媒を加え生じた沈殿を濾過して、ジイモニウム塩化合物(1)を得ることができる。
ジイモニウム塩化合物の会合体は、上記のようにして得られたジイモニウム塩化合物(1)を公知の分散機を用いて固体微粒子分散物として得ることができる。分散機としては、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、サンドミル、コロイドミル、ジェットミル及びローラミル等が例示でき、特開昭52−92716号公報及び国際公開88/074794号パンフレットに記載の分散機を用いることもできる。これらの中でも縦型または横型の媒体分散機が好ましい。ジイモニウム塩化合物(1)を分散させるにあたっては、分散媒を用いなくてもよいが、分散媒の存在下で行うことが好ましい。分散媒としては、水、有機溶媒を用いることができるが、ハードコート用樹脂との混合という理由から、好ましくは有機溶媒であり、特に好ましくはトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン等のコーティング用樹脂の親溶剤である。さらに、界面活性剤を用いてもよく、従来公知のアニオン界面活性剤、アニオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤を使用することができる。このようにして、ジイモニウム塩化合物(1)を分散媒中に会合状態で含有した近赤外線吸収剤が得られる。
近赤外線吸収剤のハードコート用樹脂組成物への配合割合は特に制限されない。この配合割合は、所望の性質、特に効率のよい近赤外線吸収能、可視光領域における優れた透明性、耐熱性及び耐湿熱性が達成できるように調整されればよい。例えばハードコート用樹脂組成物の乾燥膜厚が1〜20μmに設定される場合、好ましいジイモニウム塩化合物の配合割合は、ハードコート樹脂成分の固形分100質量部に対して、0.1〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部、最も好ましくは1〜15質量部である。この配合割合が0.1質量部未満であると優れた近赤外線吸収能が得られにくく、逆に、配合割合が30質量部を超えた場合、添加量に見合う上記性能の向上が認められず経済的でなく、更に可視領域の透明性が失われる可能性がある。なお、ジイモニウム塩化合物の配合割合は、目的とするハードコート材等における可視および近赤外域の透過率の設定やハードコート用樹脂組成物層の厚みによって変えることができる。
[ハードコート樹脂成分]
本発明に係るハードコート用樹脂組成物は、透明性及び活性エネルギー線硬化性を有する。更にこのハードコート用樹脂組成物は、近赤外線吸収剤及び基材となる樹脂を含む。
ハードコート用樹脂組成物の基材樹脂(ハードコート樹脂成分)は、透明性及び活性エネルギー線硬化性を有する限り特に限定されない。このハードコート樹脂成分は、活性エネルギー硬化性を有する。即ちこのハードコート樹脂成分は、活性エネルギー線の照射によって硬化しうる。なお、活性エネルギー線は特に限定されず、電子線、紫外線、可視光線、赤外線等が例示される。エネルギー量が高く樹脂を硬化させやすい観点から、好ましい活性エネルギー線は紫外線又は電子線であり、より好ましくは紫外線である。
活性エネルギー線硬化性の観点から、好ましいハードコート樹脂成分は、ラジカル重合性樹脂である。このラジカル重合性樹脂は特に限定されず、分子中に2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル重合性樹脂が好ましい。このようなラジカル重合性樹脂の一例として、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等があげられる。
本発明におけるハードコート樹脂成分は、分子中に2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル重合性樹脂を含むのが好ましいが、本発明の目的を逸脱しない範囲内で、所望により、反応性希釈剤などとして、上記以外のエネルギー線硬化性ラジカル重合性樹脂を配合することができる。
[重合開始剤]
本発明のハードコート用樹脂組成物は、重合開始剤を含むのが好ましい。この重合開始剤としては、エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤が好ましく、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などのケトン系化合物が好適なものとして例示される。
上記アセトフェノン系化合物としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4'−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシメチル−2−メチルプロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ターシャリブチルジクロロアセトフェノン、p−ターシャリブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
上記ベンジル系化合物としては、ベンジル、アニシル等が挙げられる。
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラーケトン、4,4'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルスルフィドなどが挙げられる。
チオキサントン系化合物としては、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種あるいは2種以上のものを所望の性能に応じて配合して使用することができる。また、重合開始剤の配合量としては、ハードコート樹脂成分全量に対して、0.05〜20質量%、好ましくは0.1〜20質量%とするのがよい。重合開始剤の配合量が0.05質量%未満の場合、組成物が十分に硬化しないことがある。逆に、重合開始剤の配合量が20質量%を越えると、硬化物の物性がさらに向上することはなく、むしろ悪影響を及ぼす上、経済性を損なうことがある。
[溶媒]
本発明のハードコート用樹脂組成物は、溶媒を含んでいてもよい。塗工性を高める観点から、ハードコート用樹脂組成物が塗布される際には、溶媒が用いられるのが好ましい。この溶媒は特に限定されず、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,ブタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール,プロピレングリコール,ブチレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等のグリコール系溶剤;前記グリコール系溶剤のモノメチルエーテル,モノエチルエーテル,モノプロピルエーテル,モノイソプロピルエーテル,モノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;前記グリコール系溶剤のジメチルエーテル,ジエチルエーテル,ジプロピルエーテル,ジイソプロピルエーテル,ジブチルエーテル,メチルエチルエーテル,メチルプロピルエーテル,メチルイソプロピルエーテル,メチルブチルエーテル,エチルプロピルエーテル,エチルイソプロピルエーテル,エチルブチルエーテル等のポリエーテル系溶剤;メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル等のエステル系溶剤等;ヘキサン,ヘプタン,オクタン,シクロペンタン,シクロヘキサン,トルエン,キシレン等の炭化水素系溶剤等が例示される。これらの溶媒は1種で使用されてもよく、2種以上の混合溶媒として使用されてもよい。好ましくは沸点200℃以下の有機溶媒がよい。溶媒の水分含有量は5質量%以下であることが望ましい。
[単官能重合性化合物]
本発明のハードコート用樹脂組成物は、目的に応じて、適切な単官能重合性化合物をさらに含有しうる。単官能重合性化合物の具体例としては、アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、イソブトキシメチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルジエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、テトラクロロフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、テトラブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−トリクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドンフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ブロキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、メチルトリエチレンジグリコール(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
本発明のハードコート用樹脂組成物は、目的に応じて、(メタ)アクリル系樹脂を含有していてもよい。(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルを単量体として用いて重合された(メタ)アクリル系重合体をいう。(メタ)アクリル系重合体は、1種の(メタ)アクリル酸エステルを単量体として用いて重合されてもよく、2種以上の(メタ)アクリル酸エステルを単量体として用いて重合されてもよく、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステルに共重合可能な化合物(以下、「共重合可能な化合物とも記載する)とを単量体として用いて重合されてもよい。単量体として用いられる(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート及びその置換体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド(EO)付加物(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキサイド(PO)付加物(メタ)アクリレート等の、アルコールのオキシアルキレン付加物の(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、シクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ただし、これらの化合物以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。上記(メタ)アクリル酸エステルは、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。必要に応じて単量体として用いられる共重合可能な化合物としては、例えば、エチレン性不飽和結合を有する化合物が挙げられる。ここで、エチレン性不飽和結合を有する化合物とは、エチレン(CH2=CH2)の水素原子が置換された化合物を意味する。(メタ)アクリル酸エステルに共重合可能であり、本発明の効果を妨げないのであれば、他の化合物が単量体として用いられてもよい。共重合可能な化合物の他の例としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアミド基含有ビニル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;ビニルエーテル系単量体等が挙げられる。
[添加剤]
本発明のハードコート用樹脂組成物は、目的に応じて、適切な添加剤を含有してもよい。添加剤の具体例としては、レベリング剤、顔料、顔料分散剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、耐光安定剤、金属不活性化剤、過酸化物分解剤、充填剤、補強材、可塑剤、潤滑剤、防食剤、防錆剤、乳化剤、鋳型脱型剤、蛍光性増白剤、有機防炎剤、無機防炎剤、滴下防止剤、溶融流改質剤、静電防止剤、すべり付与剤、密着性付与剤、防汚剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤、光増感剤、表面改良剤、シランカップリング剤等が挙げられる。なお、紫外線吸収剤を用いる場合、この紫外線吸収剤は、複合微粒子および多官能重合性化合物の重合(硬化)反応を阻害しない程度の量で用いられることはいうまでもない。
本発明のハードコート用樹脂組成物は、任意の適切な有機微粒子又は無機微粒子を含有してもよい。典型的には、これらの有機微粒子又は無機微粒子は、目的に応じた機能(例えば、屈折率調整、導電性、防眩性)を付与するために用いられる。ハードコート用樹脂組成物よりなる層の高屈折率化や導電性付与に有用な微粒子の具体例として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。ハードコート用樹脂組成物よりなる層の低屈折率化に有用な微粒子の具体例として、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ等が挙げられる。防眩性付与に有用な微粒子の具体例としては、上記の微粒子に加え、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等の無機粒子;シリコン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びこれらの共重合樹脂等の有機微粒子が挙げられる。これらの微粒子は、単独で用いられても良く、2種以上が組み合わされても良い。
[近赤外線吸収性ハードコート材]
本発明に係る近赤外線吸収性ハードコート材は、上記ハードコート用樹脂組成物を含み、近赤外線吸収能を有する。このハードコート材は、ハードコート用樹脂組成物のみからなるものであってもよいし、ハードコート用樹脂組成物と基材とを有するものであってもよい。ハードコート材は、例えば、プラスティック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスティック成形体等に用いられうる。ハードコート材に含まれる上記基材として、透明基材が例示される。
このハードコート材では、ハードコート層自体が近赤外線吸収能をも有するため、ハードコート層と近赤外線吸収層とを別個に設ける必要がない。またハードコート層と近赤外線吸収層とを別個に設ける場合、近赤外線吸収層とハードコート層との間にPETフィルム等の基材フィルムが必要となるが、本発明ではこの基材フィルムが不要とされうる。
[透明基材]
本発明に係る好ましいハードコート材は、透明基材を有する。より好ましくは、このハードコート材は、透明基材とハードコート層とを有する。上記透明基材は、限定されない。透明基材として、シート状、フィルム状又は板状の透明基材が用いられうる。透明基材の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;トリアセチルセルロース(TAC);メチルメタクリレート系共重合物などのアクリル樹脂;スチレン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリメタクリルイミド樹脂;ガラス等が挙げられる。
透明基材には、易接着処理がされていてもよい。例えばPETフィルムは、易接着処理が施されたフィルム(易接着PETフィルム)であってもよい。易接着処理は、少なくともハードコート層が設けられる側の表面に施されるのが好ましい。易接着処理としては、易接着層を設ける処理、基材表面にコロナ処理を施す処理等が挙げられる。易接着層としては、易接着用樹脂層等が挙げられる。
特に好ましい透明基材は、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム又は電磁波シールドフィルムである。
電磁波シールドフィルムは、電磁波を遮蔽しうるフィルムである。電磁波シールドフィルムは、例えば、ディスプレー装置から発生する電磁波による生体や電子機器への悪影響を抑制しうる。電磁波シールドフィルムは、例えば電磁波を遮蔽しうる金属を含む。より好ましい電磁波シールドフィルムは、樹脂フィルムの表面に、電磁波を遮蔽しうる電磁波遮蔽層を有する。この電磁波遮蔽層として、薄膜、金属メッシュ層等が例示される。この薄膜として、銀、銅、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ等のような金属又は金属酸化物の薄膜が例示される。これらの薄膜は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、プラズマ化学蒸着法等の公知の方法により作製されうる。金属メッシュ層は、メッシュ状の穴が設けられた金属層である。この金属メッシュ層としては、銅や銀等よりなる金属メッシュ層が例示される。最も典型的な電磁波遮蔽層として、酸化インジウムスズ(ITOと略記されることもある)の薄膜が挙げられる。他の電磁波遮蔽層として、誘電体層と金属層とを基材上に交互に積層させた積層体、等も好適である。この誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物等が好適であり、上記金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的である。積層体は、通常、誘電体層よりはじまり3〜13層程度の間で奇数層となるように積層される。
電磁波シールドフィルムの具体例として、金属又は金属酸化物を蒸着してなる薄膜導電層が透明性基材上に形成された電磁波シールド材(特開平1−278800号公報又は特開平5−323101号公報参照)、良導電性繊維を透明基材に埋め込んだ電磁波シールド材(特開平5−327274号公報又は特開平5−269912号公報参照)、金属粉末等を含む導電性樹脂を透明基材上に直接印刷してなる電磁波シールド材(特開昭62−57297号公報又は特開平2−52499号公報参照)、透明基材上に透明樹脂層を形成し、その上に無電解めっき法により銅のメッシュパターンを形成してなる電磁波シールド材(特開平5−283889号公報参照)等が挙げられる。
[熱線遮断フィルム]
本発明に係る近赤外線遮断フィルターの一例である熱線遮断フィルムは、上記透明基材上に本発明のハードコート樹脂組成物をキャスト法等の公知の製造方法で作製することができる。
熱線遮断フィルムの作製にあたっては、近赤外線吸収剤のみを1種又は2種以上用いることも可能であるが、波長850nm付近の近赤外線遮断性能が若干不足する場合には、更に、フタロシアニン系色素類、ジチオール系金属錯体等の公知色素類を添加してもよい。また耐光性を向上させるために、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収色素を、更に添加してもよい。また必要に応じて、可視光領域に吸収を持つ公知色素を添加させて色調を調えてもよい。
[反射防止フィルム]
本発明に係る近赤外線遮断フィルターの一例である反射防止フィルムは、反射防止層を有する。反射防止層は、通常、最外層である。反射防止層は、反射防止フィルムの表面を構成する。
反射防止層として、(1)高屈折率材料からなる層と低屈折率材料からなる層を交互に積層されてなる層、(2)前記低屈折率材料と高屈折率材料の中間の屈折率を有する中屈折率材料からなる層と高屈折率材料からなる層と低屈折率材料からなる層を順次積層された層、(3)低屈折率材料からなる層単層、等が用いられうる。複数の層よりなる反射防止層の場合、上記「高屈折率」、「中屈折率」及び「低屈折率」は、それぞれ反射防止層中の層同士間での屈折率の大小関係を示す。具体的な反射防止層として、例えば、低屈折率層単層、高屈折率層/低屈折率層の順で積層された2層構造の層、高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の順で積層された4層構造の層、中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の順で積層された3層構造の層などが挙げられる。光学設計により、平均反射率が低く、反射防止性能、視認性の優れたものとなるものであれば、いかなる反射防止層も採用されうる。
反射防止層は、上記ハードコート層を含んでなるのが好ましい。この場合、ハードコート層が、反射防止層としても機能しうる。好ましい反射防止層は、ハードコート層と、このハードコート層とは屈折率の異なる層(以下、屈折率相違層ともいう)とを含む。屈折率相違層は、反射防止層の少なくとも1層を構成しうる。より好ましい反射防止フィルムは、ハードコート層と、ハードコート層の外側に積層され且つハードコート層よりも屈折率が低い低屈折率層とを含む。この場合、ハードコート層からなる高屈折率層と、その外側に積層された低屈折率層とにより、反射防止層が形成される。反射防止層は、ハードコート層とは別に設けられてもよい。
反射率を低減する観点から、好ましくは、低屈折率層の屈折率は1.5以下とされる。
上記低屈折率層としては、MgF(屈折率;約1.4)、SiO(屈折率;約1.2〜1.5)、LiF(屈折率;約1.4)、3NaF・AlF(屈折率;約1.4)、NaAlF(屈折率;約1.33)などを用いることができる。また、低屈折率層として、これらMgF、SiO等の微粒子を紫外線および電子線硬化型樹脂や珪素アルコキシド系のマトリックスに分散させたものが用いられうるが、これに限定されるものではない。
低屈折率層の形成方法としては、前記低屈折微粒子を含むマトリックスにより形成する場合、低屈折微粒子を含むマトリックスを、膜厚が、0.01〜1μmになるように塗工し、必要に応じて、乾燥処理、紫外線照射処理、電子線照射処理を行う方法が採用されうる。
低屈折率層の塗工方法としては公知の方法を用いることができ、例えばロッド、ワイヤーバーを用いた方法や、マイクログラビア、グラビア、ダイ、カーテン、リップ、スロットなどの各種コーティング方法を用いることができる。
また、低屈折率層は、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーディング法、電気めっき法等の方法により形成されてもよい。
また、高屈折率層には、TiO(屈折率;2.3〜2.7)、Y(屈折率;1.9)、La(屈折率;2.0)、ZrO(屈折率;2.1)、Al(屈折率;1.6)、Nb(屈折率;1.9〜2.1)、In(屈折率;1.9〜2.1)、Sn(屈折率;1.9〜2.1)、In−Sn複合酸化物(ITO屈折率;1.9〜2.1)などが用いられうる。高屈折率層として、これらTiO、Y、La、ZrO、Al、Nb、In、Sn、In−Sn複合酸化物等からなる微粒子をマトリックスに分散させたものが例示される。このマトリックスとしては、上記ハードコート樹脂成分の他、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、珪素アルコキシド系化合物等が挙げられる。これらの微粒子を含有させてなる上記ハードコート用樹脂組成物は、高屈折率層とされうる。
前記高屈折微粒子を含むマトリックスにより形成する場合、高屈折率層は、高屈折微粒
子を含むマトリックスを、膜厚が0.01〜1μmになるように塗工し、必要に応じて、
乾燥処理、紫外線照射処理、電子線照射処理を行うことにより形成できる。なお、塗工方
法としては前記低屈折率層と同様の方法が用いられうる。
高屈折率層は、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーディング法、電気めっき法等の方法により形成されてもよい。
中屈折率層として、用いられる低屈折率材料と高屈折率材料との中間の屈折率を有する物質が用いられうる。中屈折率層の形成方法は、前記低屈折率層又は高屈折率層の形成法方法と同様である。
また、上記反射防止フィルムでは、さらに他の機能層が設けられても良い。機能層としては例えば、汚染防止層、帯電防止層、電磁波シールド層、ネオン光補正層などが設けられうる。これらの機能層は公知の材料を用い、公知の方法で形成することができる。また、一つの層で複数の機能を有していても良い。これらの機能層は、本発明に係る防眩フィルムや薄型ディスプレー用光学フィルムにも用いられうる。特にディスプレー用途に用いた場合、汚染防止層は、反射防止層よりも表面側に設けることが好ましい。
また、上記反射防止フィルムがプラズマディスプレー用途に用いられる場合、反射防止フィルムには、電磁波シールド層、ネオン光補正層のいずれか一つ以上または全部を設けることが好ましい。これらの層の配置は限定されないが、視認性などを考慮すると、基材に対して反射防止層を設けた側とは反対側に設けることが好ましい。これらの電磁波シールド層又はネオン光補正層は、上記防眩フィルムや薄型ディスプレー用光学フィルムにも用いられうる。
[防眩フィルム]
本発明の近赤外線遮断フィルターの一例である防眩フィルムは、上記ハードコート材を用いてなる。この防眩フィルムは、例えば、微粒子を有する上記ハードコート用樹脂組成物と、透明基材とを有する。微粒子が添加されることにより、ハードコート用樹脂組成物よりなる層(ハードコート層)に防眩性が付与されうる。微粒子が添加されることにより、ハードコート層が防眩層としても機能しうる。ハードコート層とは別に防眩層が設けられてもよい。
防眩性を付与するための微粒子は特に限定されない。好ましくは、この微粒子は透明性を有する。この微粒子として、有機微粒子又は無機微粒子が用いられうる。好ましい微粒子は、有機微粒子である。有機微粒子は特に限定されず、プラスチックビーズ等が挙げられる。プラスチックビーズの具体例としては、スチレンビーズ(屈折率1.59)、メラミンビーズ(屈折率1.57)、アクリルビーズ(屈折率1.49)アクリル−スチレンビーズ(屈折率1.54)、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ等が挙げられる。無機微粒子としては、シリカビーズが例示される。また、特開平10−330409号や特開2004−307644号公報に開示されている有機無機複合微粒子が用いられてもよい。防眩層の屈折率をより高める観点から、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫及びアンチモンよりなる群から選択される少なくとも一種の金属の酸化物が用いられるのが好ましい。この場合、平均粒径が0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下の無機フィラーが用いられてもよい。
防眩層には、レベリング剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、指紋付着防止剤等が使用されうる。このレベリング剤として、塗料などの塗膜形成用組成物に一般的に使用されるレベリング剤が用いられうる。
[薄型ディスプレー用光学フィルター]
本発明の近赤外線遮断フィルターの一例である薄型ディスプレー用光学フィルターは、上記ハードコート材、上記反射防止フィルム又は上記防眩フィルムを用いてなる。
本発明のハードコート用樹脂組成物は、光学フィルターに好適である。上記ジイモニウム塩化合物の会合体に起因して、この光学フィルターは、近赤外線を効果的に吸収しうる。この光学フィルターでは、可視領域の全光線透過率が40%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上である。この光学フィルターでは、波長800〜1100nmの近赤外線の透過率は30%以下が好ましく、より好ましくは15%以下である。
上記光学フィルターには、上記ハードコート層の他、色調整層、ガラス等の支持体などが設けられていてもよい。
光学フィルターの各層の構成は任意に選択されうる。好ましい光学フィルターは、反射防止層又は防眩層が最表層(人側)とされる。各層を張り合わせる際にはコロナ処理、プラズマ処理等の物理的な処理がなされてもよいし、ポリエチレンイミン、オキサゾリン系ポリマー、ポリエステル、セルロース等の公知の高極性ポリマーがアンカーコート剤として用いられてもよい。
ハードコート層とは別個に電磁波遮蔽層が設けられてもよい。電磁波遮蔽層として、薄膜、金属メッシュ層等が例示される。この薄膜として、銀、銅、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ等のような金属又は金属酸化物の薄膜が例示される。これらの薄膜は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、プラズマ化学蒸着法等の公知の方法により作製されうる。金属メッシュ層は、メッシュ状の穴が設けられた金属層である。この金属メッシュ層としては、銅や銀等よりなる金属メッシュ層が例示される。最も典型的な電磁波遮蔽層として、酸化インジウムスズ(ITOと略記されることもある)の薄膜が挙げられる。他の電磁波遮蔽層として、誘電体層と金属層とを基材上に交互に積層させた積層体、等も好適である。この誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物等が好適であり、上記金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的である。積層体は、通常、誘電体層よりはじまり3〜13層程度の間で奇数層となるように積層される。
上記薄型ディスプレー用光学フィルターは、表示装置から離して設置してもよいし、表示装置に直接貼り付けてもよい。表示装置から離して設置する場合、支持体としてガラスが用いられるのが好ましい。表示装置に直接張り合わせる場合にはガラスを使用しない光学フィルターが好ましい。
上記したハードコート材、反射防止フィルム、防眩フィルム、薄型ディスプレー用光学フィルター等の近赤外線遮断フィルターは、近赤外線の遮断が必要とされる種々の用途に用いることができる。具体的には、例えば、PDP用近赤外線吸収フィルター、自動車用ガラス用ないし建材ガラス用近赤外線遮断フィルター等に用いることでき、特にPDP用近赤外線遮断フィルターとして好適に用いることができる。
従来、ジイモニウム塩化合物を含む近赤外線吸収剤を、PDP用等の近赤外線遮断フィルターとして用いる際、ジイモニウム塩化合物を溶解状態にて使用するように置換基が工夫されていることが多いが、このような近赤外線吸収剤は耐久性が劣るものが多く、実用化の障害となっている。また、ジイモニウム塩化合物を結晶分散状態として使用する例もあるが、分散安定性が悪いため結晶が粗大となり、その吸収バンドは、半値幅が大きく吸収極大の吸光係数が低い。このため近赤外線遮断フィルターとして用いる際、十分な近赤外線吸収効果を得ることができず、かつ結晶が粗大なため光が散乱してフィルターの白濁の原因となる。
これに対し、本発明に用いる上記近赤外線吸収剤は会合体を形成しているため。いわゆる会合体バンドを形成して吸収バンドの半値幅が小さい急峻な吸収バンドを示し、吸収極大の吸光係数が高い優れた近赤外線吸収能力を持つ。また、本発明に用いる近赤外線吸収剤は、分子数が数〜数十個単位で形成される分子集合体であると考えられ、近赤外線遮断フィルターとして用いた際、光の散乱が小さく、透明性に優れた近赤外線遮断フィルターを得ることができる。さらに、ジイモニウム塩化合物が分解すると可視光線領域(480nm付近)に吸収を有し、黄色に呈色させてしまうアミニウム塩化合物が生成するが、会合体は分子集合体であることから、単分子分散状態、つまり溶解状態よりも、分子間の相互作用により安定化されるため、このアミニウム塩化合物が生成しにくく、耐熱性、耐湿性および耐光性に優れるものと考えられる。
この会合体はまたハードコート剤硬化の際に照射される活性エネルギー線照射によっても、上記した理由により劣化が生じにくいため、近赤外線吸収性ハードコート樹脂組成物に含有させる近赤外線吸収剤として最適である。
以下、本発明について実施例を挙げ、より詳細に説明する。なお、本発明は本実施例により何ら限定されるものでない。
製造例1
ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムの製造:
DMF100部にN,N,N’,N’−テトラキス(p−アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン10部、シクロヘキシルメチルヨーダイド63部及び炭酸カリウム30部を加え、120℃で10時間反応させた。次いで、上記反応液を水500部中に加え、生じた沈殿を濾過し、メチルアルコール500部で洗浄後、100℃で乾燥し、N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン24.1部を得た。
得られたN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン24.1部に、DMF200部とヘキサフルオロリン酸銀7.9部を加えて、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、該濾液に水200部を添加し、生成させた沈殿を濾過後、乾燥させて、ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム27.0部を得た。
製造例2
ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(3−フルオロプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムの製造:
シクロヘキシルメチルヨーダイド63部に代えて、同じモル数の1−ヨード−3−フルオロプロパンを用いた以外は製造例1と同様にして、ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(3−フルオロプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム18部を得た。
製造例3
ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムの製造:
シクロヘキシルメチルヨーダイド63部に代えて、同じモル数のイソブチルヨーダイドを用いた以外は製造例1と同様にして、ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム18部を得た。
製造比較例1
ヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムの製造:
シクロヘキシルメチルヨーダイド63部に代えて、同じモル数の1−ヨードプロパンを用いた以外は製造例1と同様にして、N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン24.1部を得た。
得られたN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン24.1部に、DMF200部とヘキサフルオロアンチモン酸銀12.9部を加えて、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、該濾液に水200部を添加し、生成させた沈殿を濾過後、乾燥させて、ヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム28.0部を得た。
製造比較例2
テトラフルオロホウ酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムの製造:
製造比較例1と同様にして得られたN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンをアセトン250部とテトラフルオロホウ酸銀14.5部を加えて、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、該濾液に水200部を添加し、生成させた沈殿を濾過後、乾燥させて、テトラフルオロホウ酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムの近赤外線吸収色素29.9部を得た。
試験例1
製造例1で得られたヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムを0.5部、トルエン9.5部、及び粒径0.3mmのジルコニアビーズ70部を50mlのガラス容器に添加し、ペイントシェーカーで2時間振とうした後に、ジルコニアビーズを濾別し、ジイモニウム塩化合物分散液を調製した。この分散液をトルエンで希釈し、濃度が5、20、50および100mg/Lとなるよう調製して分光光度計U−4100(日立ハイテク社製)にて吸光度を測定した。製造例2〜3および製造比較例1〜2で得られたジイモニウム塩化合物についても同様にして吸光度を測定した。ジイモニウム塩化合物濃度100mg/Lにおける各ジイモニウム塩化合物の吸光度を図1に示す。製造例2および製造比較例1のジイモニウム塩化合物については、5mg/Lまで希釈しても溶解状態にはならず、トルエンに対してほとんど不溶であったため、希釈溶剤として塩化メチレンを用い、ジイモニウム塩化合物濃度10mg/Lとなるように調製した。それぞれのジイモニウム塩化合物の各濃度の分散液または溶液のモル吸光係数を図2〜8に示す。また、各ジイモニウム塩化合物の溶解状態と会合状態における極大吸収波長と、その長波長移動の変化量、分散状態の極大吸収波長におけるモル吸光係数および半値幅を表1に示す。
Figure 2010249964
※結晶分散状態
表1から、製造例1〜3のジイモニウム塩化合物は会合体を形成し、その極大吸収波長は溶解状態よりも約20nm〜150nm長波長側に移動することが示された。これに対し、製造比較例1のジイモニウム塩化合物は結晶分散状態にあり、その極大吸収波長は1356nmとなって、溶解状態と比較して284nm長波長側に移動していた。この変化量が大きいため近赤外線吸収効果が著しく悪いものとなった。製造比較例2のジイモニウム塩化合物は、濃度100mg/Lでも極大吸収波長は1070nmであり溶解状態であった。さらに濃度を高くしても極大吸収波長の長波長側への移動は示さなかった。
また図1から分かるように、製造例1、製造例2および製造例3のジイモニウム塩化合物の分散液は、製造比較例1の分散液と比較して、半値幅が小さく急峻な吸収バンドを示しており、近赤外線吸収効果に優れたものであることが示された。
実施例1
赤外線遮断フィルターの作製:
製造例1で得られたヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムを1部、トルエン9部、及び粒径0.3mmのジルコニアビーズ70部を50mlのガラス容器に添加し、ペイントシェーカーで2時間振とうした後に、ジルコニアビーズを濾別してジイモニウム塩化合物分散液を得た。このジイモニウム塩化合物分散液14部を、ウレタンアクリレート樹脂を主成分とする紫外線硬化型ハードコート剤UN−3320HC(根上工業株式会社製)28部、メチルイソブチルケトン28部、およびトルエン28部の溶液中に加え、さらに光重合性開始剤であるイルガキュア184(チバ・スペシャリティ社製)加えてインキを得た。これを透明基材である50μm厚のPETフィルム(A4300、東洋紡績株式会社製)にバーコーターNo.12を用いて塗工し、100℃で1分間乾燥させた。この後、60mJ/cmとなるよう紫外線を照射して塗膜を重合硬化させ、近赤外線遮断フィルターを得た。
実施例2
ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムに代えて製造例2で得られたヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(3−フルオロプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムを用いた以外は実施例1と同様にして近赤外線遮断フィルターを作製した。
比較例1
ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムに代えて製造比較例1で得られたヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムを用いた以外は実施例1と同様にして近赤外線遮断フィルターを作製した。
比較例2
ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムに代えて製造比較例2で得られたテトラフルオロホウ酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムを用いた以外は実施例1と同様にして近赤外線遮断フィルターを作製したが、重合阻害が生じ成膜することが不可能であった。
試験例2
近赤外線遮断フィルターの性能評価:
実施例1〜2および比較例1〜2で得られた近赤外線遮断フィルターのヘイズ(濁度)を濁度計NDH5000(日本電色工業社)にて測定した。また、JIS−K5400に準拠して鉛筆引っかき試験を行い、擦り傷による評価を行った。これらの近赤外線遮断フィルターは、温度80℃の雰囲気下で保存して耐熱性試験を行い、所定時間経過後の波長1000nm、および480nmの透過率を分光光度計にて測定した。更に、温度60℃、湿度95%の雰囲気下に保存して耐湿熱性試験を行い、耐熱性試験と同様に、波長1000nm、および480nmにおける透過率を測定した。ヘイズ測定、鉛筆引っかき試験結果を表2に、耐熱性試験結果を表3に、耐湿熱性試験結果を表4にそれぞれ示す。
Figure 2010249964
Figure 2010249964
*80℃耐熱性試験結果
Figure 2010249964
*60℃/95%耐湿熱性試験結果
表2から明らかなように、ジイモニウム塩化合物が会合体として含有される実施例1および2の近赤外線遮断フィルターは、結晶分散状態で含まれる比較例1のフィルターよりも透明性が優れており、溶解状態である比較例2では樹脂の硬化阻害が発生して成膜することは不可能であった。
これは図9〜12の結果から、実施例1および2の近赤外線遮断フィルターは、成膜する際の紫外線照射による色素の分解は見られないが、比較例1および2では紫外線照射のよって色素が一部分解してしまい、近赤外線吸収能が劣化していることが示唆される。
表3および表4に示すように、実施例1および2の近赤外線遮断フィルターは、比較例1と比べて近赤外線吸収能力が高く、耐熱性および耐湿熱性に優れることが明らかとなった。
本発明の近赤外線吸収性ハードコート樹脂組成物は、耐熱性、耐湿性に優れ、可視光透過性が高く、かつ、長期間にわたって近赤外線吸能が低下しないものであり、この近赤外線吸収性ハードコート樹脂組成物を具備した近赤外線遮断フィルターは、PDP用、自動車ガラス用、建材ガラス用等種々の用途に用いることが可能であり、特にPDP用近赤外線遮断フィルターとして好適である。

Claims (7)

  1. 下記一般式(1)で示される化合物の会合体を含む近赤外線吸収剤が活性エネルギー線硬化性樹脂中に分散されてなることを特徴とするハードコート用樹脂組成物。
    Figure 2010249964
    (式中、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい有機基を表し、Xはアニオンを示す。)
  2. 一般式(1)中のR〜Rが全て、シクロへキシルメチル基、3−フルオロプロピル基およびiso−ブチル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機基であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート用樹脂組成物。
  3. 前記活性エネルギー線硬化性樹脂が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂からなる群から選択された少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコート用樹脂組成物。
  4. 請求項1ないし3に記載のハードコート用樹脂組成物を活性エネルギー線照射によって硬化させてなるハードコート層を具備した近赤外線吸収性ハードコート材。
  5. 上記ハードコート層が、透明基材の少なくとも一方の面に形成されてなる請求項4に記載の近赤外線吸収性ハードコート材。
  6. 上記透明基材が、ガラス、PETフィルム、TACフィルム及び電磁波シールドフィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの透明基材であることを特徴とする請求項5に記載の近赤外線吸収性ハードコート材。
  7. 請求項4〜6のいずれかに記載の近赤外線吸収性ハードコート材を用いてなる近赤外線遮断フィルター。
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