以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1
図2はこの発明の実施の形態1に係る電磁誘導加熱体を用いた定着装置が適用された画像形成装置としてのカラー画像形成装置を示すものである。このカラー画像形成装置1は、パーソナルコンピュータ(PC)2から送られてくる画像データをプリントするプリンターとしての機能以外に、画像読取装置3によって読み取られた図示しない原稿の画像を複写する複写機や、画像情報を送受信するファクシミリとしても機能するように構成されている。
カラー画像形成装置1の内部には、図2に示すように、パーソナルコンピュータ(PC)2や画像読取装置3から送られてくる画像データに対して、必要に応じて、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消し、色/移動編集等の予め定められた画像処理を施す画像処理部4が配設されているとともに、カラー画像形成装置1全体の動作を制御する制御部5が配設されている。
そして、上記の如く画像処理部4で予め定められた画像処理が施された画像データは、同じく画像処理部4によって、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の4色の画像データに変換され、次に述べるように、カラー画像形成装置1の内部に設けられた画像出力部6によってフルカラー画像やモノクロ画像として出力される。
上記画像処理部4によってイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の4色の画像データに変換された画像データは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kの画像露光装置8に送られ、これらの画像露光装置8では、対応する色の画像データに応じてLED発光素子アレイから出射される光によって画像露光が行われる。
上記カラー画像形成装置1の内部には、図2に示すように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の4つの画像形成ユニット(画像形成部)7Y、7M、7C、7Kが、第1色目のイエロー(Y)の画像形成ユニット7Yが相対的に高く、最終色の黒(K)の画像形成ユニット7Kが相対的に低くなるように、水平方向に対して予め定められた角度だけ傾斜した状態で一定の間隔を隔てて並列的に配置されている。
このように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の4つの画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kを、予め定められた角度だけ傾斜した状態で配置することにより、これら4つの画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kを水平に配置した場合に比較して、画像形成ユニット7Y、7M、7C、7K間の距離を短く設定することができ、カラー画像形成装置1の幅を小さくして小型化が可能となる。
これらの4つの画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kは、基本的に、形成する画像の色以外は同様に構成されており、図2に示すように、大別して、図示しない駆動手段により矢印A方向に沿って予め定められた速度で回転駆動される像担持体としての感光体ドラム10と、この感光体ドラム10の表面を一様に帯電する一次帯電用の帯電ロール11と、当該感光体ドラム10の表面に予め定められた色に対応した画像を露光して静電潜像を形成するLEDプリントヘッドからなる画像露光装置8と、感光体ドラム10上に形成された静電潜像を予め定められた色のトナーで現像する現像装置12と、感光体ドラム10の表面を清掃するクリーニング装置13とから構成されている。
上記感光体ドラム10としては、例えば、直径30mmのドラム状に形成され、表面に有機光導電体(OPC)を被覆したものが用いられ、図示しない駆動モータにより矢印A方向に沿って予め定められた速度で回転駆動される。
また、上記帯電ロール11としては、例えば、芯金の表面に合成樹脂やゴムからなり電気抵抗を調整した導電層を被覆したロール状の帯電器が用いられ、この帯電ロール11の芯金には、予め定められた帯電バイアスが印加される。
上記画像露光装置8は、図2に示すように、4つの画像形成ユニット7Y、7M、7C、7K毎にそれぞれ個別に配置されており、各画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kに設けられた画像露光装置8としては、LED発光素子を予め定められたピッチ(例えば、600dpi〜2400dpi)で感光体ドラム10の軸方向に沿って直線状に配置したLED発光素子アレイと、当該LED発光素子アレイの各LED発光素子から出射された光を感光体ドラム10上にスポット状に結像するセルフォックレンズ(商品名)アレイとを備えたものが用いられる。また、上記画像露光装置8は、図2に示すように、下方から感光体ドラム10上に画像を走査露光するように構成されている。
なお、上記画像露光装置8としては、LED発光素子アレイからなるものに限らず、レーザービームを各感光体ドラム10の軸方向に沿って偏向走査するものなどを用いても勿論良い。この場合には、4つの画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kに対して1つの画像露光装置8を配設するように構成しても良い。
上記画像処理部4からは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kに個別に設けられた画像露光装置8Y、8M、8C、8Kに、対応する色の画像データが順次出力され、これらの画像露光装置8Y、8M、8C、8Kから画像データに応じて出射された光束は、対応する感光体ドラム10の表面に走査露光され、画像データに応じた静電潜像が形成される。上記感光体ドラム10上に形成された静電潜像は、現像装置12Y、12M、12C、12Kによって、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像として現像される。
上記各画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kの感光体ドラム10上に、順次形成されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像は、各画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kの上方にわたって傾斜した状態で配置された無端ベルト状の中間転写体としての中間転写ベルト14上に、4つの一次転写ロール15Y、15M、15C、15Kによって順次多重に一次転写される。
この中間転写ベルト14は、複数のロールによって張架された無端ベルト状部材であって、当該ベルト状部材の下辺走行領域が、その走行方向に沿った下流側が相対的に低く、且つ上流側が相対的に高くなるように、水平方向に対して傾斜した状態で配置されている。
即ち、上記中間転写ベルト14は、図2に示すように、駆動ロール16と、背面支持ロール17と、張力付与ロール18と、従動ロール19との間に一定の張力で掛け回されており、図示しない定速性に優れた駆動モータによって回転駆動される駆動ロール16により、矢印B方向に沿って予め定められた速度で循環移動される。上記中間転写ベルト14としては、例えば、可撓性を有するポリイミドやポリアミドイミド等の合成樹脂フィルムを帯状に形成し、この帯状に形成された合成樹脂フィルムの両端を溶着等の手段によって接続することにより無端ベルト状に形成したものや、あるいは最初から無端ベルト状に形成したものが用いられる。上記中間転写ベルト14は、その下辺走行領域において、各画像形成ユニット7Y、7M、7C、7Kの感光体ドラム10Y、10M、10C、10Kに接触するように配置されている。
また、上記中間転写ベルト14には、図2に示すように、当該中間転写ベルト14の上部走行領域の一端部に配置され、中間転写ベルト14上に一次転写されたトナー像を記録媒体21上に二次転写する二次転写手段としての二次転写ロール20が、背面支持ロール17によって張架された中間転写ベルト14の表面に当接するように配置されている。
上記中間転写ベルト14上に多重に転写されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像は、図2に示すように、背面支持ロール17に中間転写ベルト14を介して圧接する二次転写ロール20によって、記録媒体としての記録用紙21上に静電気力で二次転写され、これらの各色のトナー像が転写された記録用紙21は、鉛直方向の上方に位置する本実施の形態に係る定着装置30へと搬送される。上記二次転写ロール20は、背面支持ロール17の側方に中間転写ベルト14を介して圧接しており、鉛直方向の下方から上方に搬送される記録用紙21上に、各色のトナー像を一括して二次転写するようになっている。
上記二次転写ロール20としては、例えば、ステンレス等の金属からなる芯金の外周に、導電剤を添加したゴム材料等の導電性弾性体からなる弾性体層を予め定められた厚さに被覆したものが用いられる。
そして、上記各色のトナー像が転写された記録用紙21は、この実施の形態に係る定着装置30によって熱及び圧力で定着処理を受けた後、排出ロール22によって装置1の上端部に設けられた排出トレイ23上に画像面を下にした状態で排出される。
上記記録用紙21は、図2に示すように、装置1内の底部に配置された給紙トレイ24から予め定められたサイズ及び材質のものが、給紙ロール25及び用紙分離搬送用のロール26により一枚ずつ分離された状態で給紙され、レジストロール27まで一旦搬送されて停止される。そして、上記給紙トレイ24から供給された記録用紙21は、予め定められたタイミングで回転するレジストロール27によって中間転写ベルト14上のトナー像と同期した状態で二次転写位置へ送出される。上記記録用紙21としては、普通紙以外にも、表面又は表裏両面にコーティング処理が施されたコート紙等の厚紙なども供給可能となっており、コート紙からなる記録用紙21には、写真画像なども出力される。
トナー像の二次転写工程が終了した中間転写ベルト14の表面は、駆動ロール16の位置に設けられたベルトクリーニング装置28によって残留トナー等が除去されて、次の画像形成工程に備える。尚、図2中、29は、カラー画像形成装置1の各部に電力を供給する電力供給部を示している。
図3はこの発明の実施の形態1に係るカラー画像形成装置に適用される電磁誘導加熱装置を用いた定着装置を示す構成図である。
この定着装置30は、図3に示すように、矢印C方向に沿って回転する電磁誘導加熱体を用いた本実施例において加熱回転体(第1の回転体)として使用した無端状の定着ベルト31と、当該定着ベルト31の外周面に圧接され、矢印D方向に沿って回転する加圧回転体(第2の回転体)としての加圧ロール32と、定着ベルト31の加圧ロール32との圧接部(ニップ部N)の反対側の外周面に予め定められた間隙を介して離間した状態で対向配置される本実施例において磁界発生手段として使用した交番磁界発生装置33とを備えている。
さらに、上記定着装置30は、定着ベルト31の内部に当該定着ベルト31を介して交番磁界発生装置33と対向するように非接触状態で配置され、定着ベルト31の発熱を制御する発熱制御部材34と、予め定められた条件下で発熱制御部材34を通過する磁束を誘導する非磁性金属誘導部材35と、定着ベルト31に加圧ロール32を圧接させるための押圧部材36と、これらの発熱制御部材34、非磁性金属誘導部材35及び押圧部材36を支持する支持部材37と、定着ベルト31から記録用紙21の剥離を補助する剥離補助部材38を備えている。
上記定着ベルト31は、加熱ロール32に圧接されて変形する前の断面形状が、外径20〜50mm程度の薄肉円筒形状に形成されており、この実施の形態では、定着ベルト31の外径が30mmに設定されている。この定着ベルト31は、図1に示すように、例えば、基層311と、その外周面に順次積層された発熱層312と保護層313と弾性層314と表面離型層315とから構成されており、基層311と発熱層312と保護層313は、一体的に積層されたクラッド材316から形成されている。ここで、クラッド材とは二種以上の異なる金属を張り合わせた材料で、メッキよりも金属境界面での結合力が強く、耐久性に優れているものである。また、基層311と発熱層312と保護層313は、後述するように、一体的に積層されたクラッド材316として塑性加工が施されるため、表裏の面を構成する基層311と保護層313が同様の材質からなり、加工性に優れている。さらに、基層311と保護層313は、同様の材質からなり、定着ベルト31の使用時にひずみの掛かり方がほぼ同一となるので耐久性がよい。なお、上記定着ベルト31の層構成は、これに限定されないことは勿論である。また、保護層313と弾性層314との間及び弾性層314と表面離型層315との間には、必要に応じて図示しないプライマー層(接着層)を介在させるように構成しても良い。
上記基層311は、保護層313と共に発熱層312を中間層として上下に挟んだ状態一体的にクラッド材316として積層されるものであり、これらの基層311と発熱層312と保護層313は、一体で、定着ベルト31はこれらの層により機械的強度を持っている。また、上記基層311及び保護層313は、交番磁界発生装置33によって発生される交番磁界の磁路を形成している。これらの基層311及び保護層313としては、例えば、透磁率が温度によって変化する感温磁性材料からなるものが用いられる。また、基材層311及び保護層313は、例えば、透磁率が変化する透磁率変化開始温度が、各色トナー像が溶融する温度である定着ベルト31の加熱設定温度以上であって、弾性層313や表面離型層314の耐熱温度よりも低い予め定められた温度範囲内に設定された感温磁性を有する強磁性体の材料から構成される。
更に説明すると、上記基層311及び保護層313は、定着ベルト31の加熱設定温度以上の予め定められた温度範囲内、例えば加熱設定温度と当該加熱設定温度よりも100℃程度高い温度の範囲内において、比透磁率が数百以上である強磁性と比透磁率がほぼ1である常磁性(非磁性)との間を可逆的に変化する“感温磁性”を有する材料で構成される。そして、上記基層311及び保護層313は、透磁率変化開始温度以下の温度範囲では強磁性を呈し、交番磁界発生装置33によって発生された交番磁界の磁束を誘導して、基層311及び保護層313の内部に当該基層311及び保護層313の表面に沿った方向に磁路を形成する磁路形成部材として機能する。また、上記基層311及び保護層313は、透磁率変化開始温度を超える温度範囲では常磁性を呈し、交番磁界発生装置33によって発生された磁束を当該基層311及び保護層313の層厚方向に横切るように透過させる。
上記基層311及び保護層313としては、具体的には、透磁率変化開始温度が例えば定着ベルト31の加熱設定温度以上で耐熱温度以下の温度範囲である140℃〜240℃の範囲内に設定された例えばFe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系感温磁性合金やFe−Ni−Cr合金等の三元系感温磁性合金等が用いられる。このようなパーマロイや感温磁性合金などの金属合金は、薄肉成型性や塑性加工性に優れ、熱伝導率も高く安価であり、さらには機械的強度が高い等の理由から、定着ベルト31の基層311及び保護層313に適している。基層311及び保護層313のその他の材料としては、Fe、Ni、Si、B、Nb、Cu、Zr、Co、Cr、V、Mn、Mo等からなる金属の合金が用いられる。例えば、Fe−Niの二元系感温磁性合金やFe−Ni−Crの三元系感温磁性合金においては、図4に示すように、おおよそFe64%、Ni36%(原子数比)、Fe64.5%、Ni35.5%(原子数比)、Fe65%、Ni35%(原子数比)というように、FeとNiの配合比(原子数比)や、FeとNiとCrの配合比(原子数比)を変化させることで、透磁率変化開始温度を例えば210℃〜230℃程度の温度に約±5℃の精度で設定することができる。また、これらの合金は、すべて60×10-8Ωm以上の高い固有抵抗値を有するため、200μmの厚さ以下では誘導加熱しにくいので、本実施例では別途、誘導加熱しやすい発熱層312が必要となる。
この実施の形態では、基層311と保護層313では合金の配合比を若干変えており、それにより基層311の透磁率変化開始温度と、保護層313の透磁率変化開始温度とが異なる温度に設定されており、例えば、基層311の透磁率変化開始温度が230℃、保護層313の透磁率変化開始温度が基層311の透磁率変化開始温度よりも低い210℃に設定されている。ただし、このように基層311と保護層313との透磁率変化開始温度を変えるに十分なくらい合金の配合比を異ならせても、それぞれの加工性はほぼ同じとなり、例えば応力−ひずみ線図にはほとんど変化がない。
上記基層311及び保護層313の感温磁性について更に説明すると、これらの基層311及び保護層313は、図5に示すように、強磁性体として機能する強磁性体機能領域(1)と非磁性体(常磁性体)となる非磁性領域(4)との間に、比透磁率μrが小さな勾配で増加して最大値となった後に減少する遷移領域(2)と、比透磁率が略直線的に急激に減少して非磁性(常磁性)体へと変化する非磁性変態化領域(3)とを有している。通常、強磁性体が非磁性体(常磁性体)へと変化するキュリー点(CP:Curie Point)とは、比透磁率が1となる温度を指すが、この実施の形態では、図5において、強磁性体機能領域(1)を近似する直線L1と、非磁性変態化領域(3)を近似する直線L2との交点であり、透磁率が変化を開始する温度と見なせる透磁率変化開始温度をも含めてキュリー点と称することがある。
上記基層311及び保護層313は、両者が透磁率変化開始温度(キュリー点)以下の温度では、比透磁率μrが数百と高い強磁性体として機能し、図6(a)に示すように、交番磁界発生装置33によって発生された交番磁界の磁束を誘導して、基層311及び保護層313の内部に当該基層311及び保護層313の表面に沿った方向に磁路を形成する磁路形成部材となる。そのため、上記基層311と保護層313とによって挟まれた発熱層312を通過する磁束の磁束密度が高くなり、発熱層312の発熱量が多くなる。
次に、上記基層311及び保護層313のうち、相対的に透磁率変化開始温度が低い保護層313のみが透磁率変化開始温度を超えると、保護層313の比透磁率μrが1となって非磁性体として機能し、図6(b)に示すように、交番磁界発生装置33によって発生された交番磁界の磁束が保護層313を透過し、基層311のみがその内部に当該基層311の表面に沿った方向に磁路を形成する磁路形成部材となる。そのため、上記基層311と保護層313とによって挟まれた発熱層312を通過する磁束の磁束密度が中程度となり、発熱層312の発熱量がやや減少する。
さらに、上記基層311及び保護層313が共に透磁率変化開始温度を超えると、基層311及び保護層313の比透磁率μrが1となって非磁性体として機能し、図6(c)に示すように、交番磁界発生装置33によって発生された交番磁界の磁束が基層311及び保護層313を透過し、これらの基層311及び保護層313の表面に沿った方向に磁路が形成されなくなる。そのため、上記基層311と保護層313によって挟まれた発熱層312を通過する磁束の磁束密度が大幅に低下し、発熱層312の発熱量が大幅に減少する。
また、上記基層311及び保護層313は、次に述べるように、例えば、交番磁界発生装置33により生成された交番磁界(磁力線)に対する表皮深さよりも何れも薄い予め定められた厚さに形成される。具体的には、基層311及び保護層313の材料としてFe−Ni合金を用いた場合には、20〜80μm程度の厚さ、例えばいずれも同じ21μmに設定される。
ある材料に交番磁界が入射すると、交番磁界が1/e(≒1/2.718)に減衰する距離として表皮深さ(δ)というパラメータが知られている。この表皮深さ(δ)は、次の(1)式によって表される。この(1)式において、fは交番磁界の周波数(例えば20kHz)、ρは固有抵抗値(Ωm)、μrは比透磁率である。
例えば、定着ベルト31の基層311及び保護層313として固有抵抗値ρが70×10-8Ωm、比透磁率μrが400である材料の場合、交番磁界の周波数を20kHzとすると、(1)式より、基層311及び保護層313の表皮深さ(δ)は149μmとなる。そのため、定着ベルト31の機械的強度を確保するとともに、定着ベルト31の柔軟性・フレキシブル性を高める観点から、定着ベルト31の基層311及び保護層313の厚さを共に21μmの薄層に形成すると、基層311及び保護層313の層厚は、表皮深さ(δ)である149μmよりも薄くなる。そのため、交番磁界発生装置33により生成された交番磁界(磁力線H)は、図7に示すように、領域R1、R2や領域R3において、交番磁界の一部が保護層313を透過して発熱層312に至るのは勿論のこと、当該交番磁界の一部が定着ベルト31の基層311及び保護層313の内部に誘導されて磁路を形成するが、残りはこれらの基層311及び保護層313を透過することになる。
それに対して、定着ベルト31の内周面側に発熱制御部材34を配置することにより、定着ベルト31の温度が透磁率変化開始温度以下の温度である定着温度にある場合には、図7に示したように、基層311及び保護層313を透過した残りの磁力線Hは発熱制御部材34の内部を通過し、主な磁束が領域R3を通過して励磁コイル56に戻るような閉ループを構成する。このように、磁路を形成することによって領域R1、R2や領域R3において発熱制御部材34を設けない場合と比較して磁気結合度が高まり、磁束密度が高められ、定着ベルト31の発熱層312に大きな渦電流Iを発生させ、定着ベルト31に大きなジュール熱Wを生じさせることができる。
なお、この実施の形態の発熱制御部材34は、定着装置30の立ち上げ時に、誘導加熱される定着ベルト31から熱が直接流入するのを抑え、定着ベルト31を定着可能温度に到達させるまでの時間を短縮するために、定着ベルト31の内周面とは非接触状態に配置されているが、定着ベルト31の内周面に接触させて配置しても良い。
非接触状態で配置する場合には発熱制御部材の自己発熱は小さくすることが望ましく、磁路形成部材でのエネルギーロスを小さくしたい。エネルギーロスは本来定着ベルト31を高い効率で誘導加熱できれば望ましく、励磁コイル56が発生させる電磁エネルギーすべてを定着ベルト31で熱エネルギーに変換できることが最も望ましいが、発熱制御部材でのエネルギーロスが大きければ、定着ベルト31で発生できる熱エネルギー分は少なくなる。
接触させる場合には、自己発熱によるエネルギーロス分は定着ベルト31側への伝熱で使うことができるため、非接触時と比較すると発熱制御部材での自己発熱は大きくてもよい。この場合には定着ベルト31へ熱伝導させることで定着装置を高速化した場合の定着ベルト31の温度低下を抑制される。
このように発熱制御部材を接触させる場合には、発熱制御部材を磁路形成だけでなく発熱体として使ってもよく、その場合には発熱制御部材を発熱しやすい厚さに設定すればよい。本実施例の二元系Fe−Ni合金または三元系Fe−Ni−Cr合金の場合には厚さを200μm以上にすればよく、望ましくは300μm以上であると自己発熱を大きくできる。
また、上記基層311と保護層313との間に積層される発熱層312は、交番磁界発生装置33にて生成される交番磁界によって電磁誘導加熱される電磁誘導発熱体層として機能するものであり、例えばAg、Cu、Alといった固有抵抗値が相対的に小さい非磁性金属が、厚さ2〜30μm程度に薄膜化できるので適している。因みに、銀の固有抵抗値は、1.59×10-8Ωm、銅の固有抵抗値は、1.67×10-8Ωm、アルミニウムの固有抵抗値は、2.7×10-8Ωmである。
この実施の形態に係る定着装置30では、例えば、厚さ21μmのFe−Ni合金からなる基層311と、同じく厚さ21μmのFe−Ni合金からなる保護層313との間に、厚さ13μmの導電率の高いCuからなる発熱層312が積層されている。このように、基層311、発熱層312及び保護層313を薄層に形成することで、定着ベルト30全体としての柔軟性・フレキシブル性を高めるとともに、機械的強度を確保している。
なお、この実施の形態で用いた基層311及び保護層313は、上述したように発熱層312に対して10倍以上高い固有抵抗値を有する材料であるため、発熱層312に比べて渦電流Iが流れにくく、発熱層312の発熱量に対しては、発熱量が十分に無視することができる非発熱性の層となっている。また、基層311及び保護層313は、たとえ微少に発熱したとしても、発熱層312を含む定着ベルト31に吸収されることとなる。
上記の如く構成される基層311、発熱層312及び保護層313は、例えば、次のようにして製造される。
まず、図8に示すように、Fe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系感温磁性合金やFe−Ni−Cr合金等の三元系の感温磁性合金等からなる基層311と、Cuからなる発熱層312と、基層311と同じFe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系感温磁性合金やFe−Ni−Cr合金等の三元系の感温磁性合金等からなる保護層313とが一体的に順次積層された厚さ0.4〜1mm程度、縦120mm×横120mm四方のクラッド母材320を製造する。その際、上記基層311、発熱層312及び保護層313の3層からなるクラッド母材320は、これら基層311、発熱層312及び保護層313の3層の層厚が、最終的な定着ベルト31の層厚である21μm、13μm、21μmの層厚比と等しい割合になるように設定される。
次に、上記の如く製造された基層311、発熱層312及び保護層313の3層からなるクラッド母材320を、図9に示すように、プレス加工等によって有底円筒形状の円筒体321に成形し、このクラッド母材320からなる円筒体321を、図10に示すように、回転軸323に嵌め込んだ状態でヘラ状の加工治具324によって絞り加工を行うヘラ絞り加工、スピニング加工、冷間深絞りしごき加工等の塑性加工を必要に応じて組み合わせて複数回施すことによって、基層311、発熱層312及び保護層313の各層が、予め定められた層厚である21μm、13μm、21μmと等しい層厚を有する薄肉円筒体322を製造する。
そして、この薄肉円筒体322を定着ベルト31の長さに対応した形状に切断することで、基層311、発熱層312及び保護層313からなる電磁誘導加熱体323が製造される。
さらに、上記の如く製造された電磁誘導加熱体323の表面に積層される弾性層313は、シリコーンゴム等の弾性体で構成されている。被定着部材である記録用紙21に保持されるトナー像は、粉体からなる複数色のトナーが積層して形成されており、特にフルカラー画像の場合にはトナーの総量が多い。そのため、定着装置30のニップ部N内でトナー像を均一に加熱して溶融するには、記録用紙21上のトナー像の凹凸に倣って定着ベルト31の表面が弾性変形することが望ましい。この実施の形態では、弾性層313として、厚さが100〜600μm、例えば200μmの厚さで、JIS−A硬度が10°〜30°のシリコーンゴムを用いている。
また、上記弾性層313の表面に積層される表面離型層314は、記録用紙21上に保持された未定着トナー像と直接接触する層であるため、離型性の高い材質が使用される。この表面離型層314は、例えば、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコーン共重合体、またはこれらの複合層等が用いられる。この表面離型層314の厚さとしては、薄すぎると、耐摩耗性の点で不十分であり、定着ベルト31の寿命を短くする。その反面、表面離型層314は厚すぎると、定着ベルト31の熱容量が大きくなりすぎ、ウォームアップタイムが長くなる。そこで、この実施の形態では、表面離型層314の厚さとして、耐摩耗性と熱容量とのバランスを考慮して1〜50μm、例えば30μmに設定している。その結果、上記定着ベルト31は、例えば、総厚が285μmとなる。
上記の如く構成される定着ベルト31は、図11(a)に示すように、その長手方向(軸方向)に沿った両端部に、当該定着ベルト31を回転駆動するために駆動力を伝達する駆動力伝達部材としてのフランジ部材39が圧入や接着等の手段によって固定した状態で装着されている。このフランジ部材39は、定着ベルト31の端部に挿入される円筒形状の円筒部39aと、定着ベルト31の軸方向外側に円筒部39aよりも厚肉の円筒形状に突出した状態で設けられ、外周面にハスバギア等の歯面が一体的に形成された駆動部39bと、円筒部39aと駆動部39bとの間に半径方向の外向きの円環状に突出するように設けられたフランジ部39cとを備えるように構成されている。また、上記フランジ部材39は、図11(b)に示すように、その円筒部39aから駆動部39bにわたる内周面に配設された軸受部材40を介して固定部材41に回転自在に支持されている。この固定部材軸41は、図11(b)に示すように、支持部材37の長手方向に沿った両端部に、外側に向けて突出するように形成された断面矩形状の支持部42の外周に装着されている。
上記フランジ部材39を構成する材質としては、機械的強度や耐熱性の高い、例えば、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PEEK樹脂、PES樹脂、PPS樹脂、LCP樹脂等の所謂エンジニアリングプラスチックスが適している。
また、上記定着装置30は、図12に示すように、細長い矩形状に形成された枠体43を備えている。この枠体43には、定着ベルト31を回転駆動する駆動軸44の両端部が軸受部材45を介して回転自在に支持されている。上記駆動軸44には、枠体43の内側に位置する両端部に、定着ベルト31の両端部に位置するフランジ部材39の駆動部39bと噛み合う駆動ギア46がそれぞれ取り付けられている。また、上記駆動軸44には、枠体43の外側に位置する一端部に、当該駆動軸44に駆動力を伝達する伝達ギア47が取り付けられており、この伝達ギア47には、駆動モータ48の回転軸49に固着された伝達ギア50が噛み合わされている。また、上記駆動モータ48の回転軸49は、その一端部が定着装置30の枠体43に回転自在に取り付けられている。そして、上記定着装置30は、駆動モータ48を回転駆動することにより、当該駆動モータ48の回転駆動力を伝達ギア50及び伝達ギア47を介して駆動軸44に伝達し、駆動軸44に取り付けられた駆動ギア46、46を回転させ、これらの駆動ギア46、46と噛み合う定着ベルト31の両端部に設けられたフランジ部材39の駆動部39b、39bによって、定着ベルト31が予め定められた回転速度(例えば、周速140mm/sec)で回転駆動される。
なお、上記定着ベルト31は、上述したように、金属材料や合成樹脂材料などからなる基層311、発熱層312、保護層313、弾性層314及び表面離型層315を積層して構成されているため、柔軟性・フレキシブル性を有しているとともに、機械的強度をも有しており、フランジ部材39の駆動部39b、39bから回転駆動トルクを受けた場合であっても、座屈等が生じることはなく、滑らかに回転駆動される。
なお、上述した支持部材37の支持部42は、図12に示すように、軸受部材45の図中奥側の位置において枠体43に貫通された状態で固定されている。
一方、上記定着ベルト31に圧接する加圧ロール32としては、図3に示すように、例えば、直径18mmの中実の円柱形状に形成された金属製芯材321と、該金属製芯材321の外周に例えば5mmの厚さに被覆されたシリコーンゴムやフッ素ゴム等からなる耐熱弾性体層322と、当該耐熱弾性体層322の表面に例えば50μmの厚さに被覆されたPFA等からなる表面離型層323とから構成されたものが用いられる。
上記加圧ロール32は、図12に示すように、その金属製芯材321の両端部が定着装置30の枠体43に軸受部材51を介して回転自在に支持されているとともに、付勢手段としてのコイルバネ52により定着ベルト31に対して予め定められた圧力(例えば、20kgfの荷重)で圧接するように付勢されている。なお、上記加圧ロール32を回転自在に支持する軸受部材51は、定着装置30の枠体43に対して、定着ベルト31に接離する方向に移動自在に図示しない長孔によって保持されている。
なお、上記加圧ロール32は、図示しない接離機構によって、定着ベルト31と圧接又は離間する方向に移動可能に構成しても良い。この場合、上記加圧ロール32は、定着可能状態になるまでの加熱時である予備加熱時には、接離機構によって定着ベルト31と離間した状態に移動される。
また、上記定着ベルト31と加圧ロール32とが圧接するニップ部Nの記録用紙21の搬送方向(矢印方向)に沿った下流側には、図3に示すように、剥離補助部材38が設けられている。この剥離補助部材38は、一端が固定支持された支持部53と、この支持部53に支持された剥離シート54とからなり、剥離シート54の先端が定着ベルト31に近接又は接触するように配置されている。そして、この剥離補助部材38は、記録用紙21自身の剛性によって定着ベルト21から剥離されなかった記録用紙21を、剥離シート54の先端部によって強制的に剥離するものである。
さらに、上記定着ベルト31の加圧ロール32と反対側に配設される交番磁界発生装置33は、図13に示すように、例えば、耐熱性樹脂等の非磁性体から構成される支持体55と、交番磁界を発生させる励磁コイル56と、励磁コイル56を支持体55上に固定する弾性体で構成された弾性支持部材57と、励磁コイル56にて生成された交番磁界の磁路のうち、定着ベルト31の外周側の磁路を形成する磁心58と、磁界が外部に漏れるのを防止するために磁界を遮蔽する遮蔽部材59と、磁心58を支持体55側に加圧する加圧部材60と、励磁コイル56に交流電流を供給して励磁する励磁回路61とを備えている。
上記支持体55は、その定着ベルト31側に位置する端面の断面形状が、定着ベルト31の表面形状に沿って湾曲した同心円の円弧形状に形成されており、励磁コイル56を支持する上端面(支持面)55aが定着ベルト31との距離が予め定められた値(例えば0.5〜2mm)となるように円弧形状に形成されている。また、この支持体55を構成する材質としては、例えば、耐熱ガラス、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂、又はこれらにガラス繊維を混合した繊維強化の耐熱性樹脂等の耐熱性を有する非磁性材料が用いられる。
上記励磁コイル56は、相互に絶縁された例えば直径0.17mmの銅線材を例えば90本束ねたリッツ線が長円形状や楕円形状、長方形状等の中空の閉ループ状に巻かれて構成されている。そして、この励磁コイル56には、励磁回路61から所定の周波数の交流電流が供給され、励磁コイル56の周囲には、閉ループ状に巻かれたリッツ線を中心とする交番磁界が生成される。励磁回路61から励磁コイル56に供給される交流電流の周波数は、例えば、20〜100kHzに設定される。
また、上記磁心58は、例えば、ソフトフェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)やパーマロイ、感温磁性合金等の高透磁率の酸化物や合金材料で構成される強磁性体が用いられ、定着ベルト31の外側に位置する磁路形成部材として機能する。この磁心58は、励磁コイル56によって発生された交番磁界による磁力線(磁束)が、図7に示すように、励磁コイル56から定着ベルト31を横切って発熱制御部材34の方向に向かい、発熱制御部材34の中を通過して励磁コイル56に戻るといった磁力線の通路(磁路)を形成する。このように、磁心58によって磁路を形成することにより、励磁コイル56によって発生された交番磁界(磁力線)が定着ベルト31の磁心58と対向する領域に集中される。この磁心58としては、磁路形成による損失が小さい材料が望ましく、具体的には渦電流損を小さくする形態(凹所等による電流経路遮断や分断化、薄板束ね等)で使用するのが望ましく、しかもヒステリシス損の小さい材料からなるものが望ましい。
また、定着ベルト31と加圧ロール32を圧接させる押圧部材36は、図3に示すように、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の弾性体で構成され、支持部材37の加圧ロール32と対向する位置に固定した状態で取り付けられている。そして、この押圧部材36は、定着ベルト31を介して加圧ロール32と圧接されることにより、加圧ロール32との間でニップ部Nを形成する。
さらに、上記押圧部材36は、図3に示すように、記録用紙21の搬送方向上流側に位置するニップ部Nの入口側であるプレニップ領域36aと、記録用紙21の搬送方向下流側に位置するニップ部Nの出口側である剥離ニップ領域36bとでニップ圧が異なるように設定されている。更に説明すると、押圧部材36のプレニップ領域36aは、加圧ロール32側の面が加圧ロール32の外周面に略倣う円弧形状に形成され、均一で幅の広いニップ部Nを形成する。一方、押圧部材36の剥離ニップ領域36bでは、当該剥離ニップ領域36bを通過する定着ベルト31の曲率半径が小さくなるように、加圧ロール32の表面を加圧ロール32側に向けて凸形状となるよう局所的に大きなニップ圧で押圧するように形成される。かかる構成により、剥離ニップ領域36bを通過する記録用紙21に定着ベルト31表面から離れる方向のカール(ダウンカール)を形成して、記録用紙21に対する定着ベルト31表面からの剥離を促進させている。その結果、上記記録用紙21は、ニッップ部Nを通過した後、ダウンカールを形成するように変形して、自らの剛性によって定着ベルト31の表面から剥離される。
また、押圧部材36を支持する支持部材37は、図3に示すように、押圧部材36が加圧ロール32からの押圧力を受けた状態での撓み量が一定量以下となるように、剛性の高い材料で構成される。それにより、ニップ部Nにおける長手方向の圧力(ニップ圧)の均一性を維持している。さらに、この支持部材37は、誘導磁界に影響を与えないか、又は与え難い材料であり、かつ、誘導磁界から影響を受けないか、又は受け難い材料で構成される。上記支持部材37としては、例えば、ガラス繊維が混入したPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂や、例えばAl、Cu、Ag等の非磁性金属材料等が用いられる。
また、上記定着ベルト31の内部には、図3に示すように、発熱制御部材34が配設されている。この発熱制御部材34は、定着ベルト31を介して交番磁界発生装置33と対向するように配置され、当該交番磁界発生装置33が発生する交番磁界の内側の磁路を形成する部材であって、しかも透磁率が温度によって変化する感温磁性材料からなり、定着ベルト31の発熱層312の発熱を制御するものである。この発熱制御部材34は、図3に示すように、定着ベルト31の内周面に倣った円弧形状に形成されており、その定着ベルト31の内周面に沿った円弧状部分の中心角は、例えば、160度程度に設定される。また、上記発熱制御部材34は、定着ベルト31の内周面と予め定められた約1〜3mm程度の一定の間隙を有するように、非接触状態であるが定着ベルト31からの熱を受け易いように近接して配置されている。さらに、この発熱制御部材34は、定着ベルト31の基層311と同様に、透磁率変化開始温度が各色トナー像が溶融する定着ベルト31の加熱設定温度以上であって、定着ベルト31の弾性層313や表面離型層314の耐熱温度よりも低い所定の温度範囲内に設定された材質で構成される。
即ち、上記発熱制御部材34は、定着ベルト31の加熱設定温度以上の予め定められた温度範囲内、例えば加熱設定温度よりも100℃程度高い温度範囲内において、比透磁率が数百以上である強磁性と比透磁率がほぼ1である常磁性(非磁性)との間を可逆的に変化する“感温磁性”を有する材料で構成される。そして、上記発熱制御部材34は、透磁率変化開始温度以下の温度範囲では強磁性を呈し、交番磁界発生装置33によって発生された交番磁界の磁束を誘導して、発熱制御部材34の内部に当該発熱制御部材34の表面に沿った方向に磁路を形成する内側の磁路形成部材として機能する。また、上記発熱制御部材34は、透磁率変化開始温度を超える温度範囲では常磁性を呈し、交番磁界発生装置33によって発生された磁束を発熱制御部材34の層厚方向に横切るように透過させる。
そして、上記発熱制御部材34は、強磁性を呈する透磁率変化開始温度(キュリー点)以下の温度範囲においては、図7に示すように、交番磁界発生装置33にて生成され定着ベルト31を透過した磁束を誘導して、発熱制御部材34の内部に発熱制御部材34の表面に沿った方向に磁路を形成する磁路形成手段として機能する。また、この発熱制御部材34は、透磁率変化開始温度を超える温度範囲においては、図14に示すように、非磁性(常磁性)体へと変化し、交番磁界発生装置33にて生成され定着ベルト31を透過した磁束を、発熱制御部材34の層厚方向に横切るように透過させる。その結果、上記の如く定着ベルト31を透過し、しかも発熱制御部材34を層厚方向に横切るように透過した磁束は、その下方に位置する非磁性金属誘導部材35との間の空間や、非磁性金属誘導部材35の内部を通過する。
上記発熱制御部材34に適する材質は、定着ベルト31の基層311と同様、透磁率変化開始温度が例えば定着ベルト31の加熱設定温度である140℃〜240℃の範囲内に設定された例えばFe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系感温磁性合金やFe−Ni−Cr合金等の三元系の感温磁性合金等が用いられる。このようなパーマロイや感温磁性合金などの金属合金等は、薄肉成型性や加工性に優れ、熱伝導性も高く安価である等の理由から、発熱制御部材34としても適している。発熱制御部材34のその他の材質としては、Fe、Ni、Si、B、Nb、Cu、Zr、Co、Cr、V、Mn、Mo等からなる金属の合金が用いられる。例えば、Fe−Niの二元系感温磁性合金においては、図4に示すように、おおよそFe64%、Ni36%(原子数比)とすることで230℃前後に透磁率変化開始温度を設定することができる。
また、発熱制御部材34は、交番磁界発生装置33により生成された交流磁界(磁力線)に対する表皮深さよりも薄いか又はそれよりも厚い予め定められた厚さに形成される。具体的には、Fe−Ni合金を用いた場合、定着ベルトの基層311の厚さ(例えば、50μm)よりも大幅に厚い100〜300μm程度の厚さに設定される。
上記発熱制御部材34としては、例えば、定着ベルト31の基層311と同じFe−Ni合金を用い、強磁性を呈する状態でのFe−Ni合金の室温の固有抵抗値ρが70×10-8Ωm、比透磁率μrが400の材料で、交番磁界の周波数を20kHzとした場合に、上述した(1)式より、強磁性を呈する状態での表皮深さ(δ)は149μmとなる。また、常磁性を呈する状態でのFe−Ni合金の固有抵抗値ρは、温度係数分だけ微増するが室温時とほぼ変わらないとすると、比透磁率μrは1に変化するので、(1)式より、完全に常磁性を呈する状態での表皮深さ(δ)は2978μmとなる。この場合は、少なくとも定着ベルト31の基層311の厚さと発熱制御部材34の厚さの合計値が、強磁性を呈する状態での表皮深さ(δ)の149μmよりも厚く形成すると、交番磁界発生装置33により生成された交番磁界の磁力線Hは、強磁性を呈する状態において、(1−1/e)×100%以上の磁路を形成することができる。
交番磁界の磁力線Hが発熱制御部材34に作用すると、発熱制御部材34には渦電流Iが発生する。例えば、発熱制御部材34の厚さを薄く形成した場合には、発熱制御部材34の電気抵抗Rが大きくなるため、発熱制御部材34に流れる渦電流Iは減少し、発熱制御部材34での発熱量は少なくなる傾向を示す。
上記発熱制御部材34の内部で発生する渦電流Iの渦電流損によるジュール熱Wは、W=I2Rで表され、ジュール熱Wに対して渦電流Iは二乗で作用する。そのため、発熱制御部材34の電気抵抗Rを大きくするか、渦電流Iが少なくなるようにすれば、発熱制御部材34での発熱量Wを少なくすることができる。
発熱制御部材34の電気抵抗Rは、次の(2)式により導かれる。(2)式において、ρは発熱制御部材34の固有抵抗値(Ωm)、Sは発熱制御部材34の断面積、Lは発熱制御部材34中を流れる渦電流Iの経路長を示している。(2)式から明らかなように、発熱制御部材34の厚さを薄く形成した場合には、発熱制御部材34の断面積Sが小さくなり、発熱制御部材34の電気抵抗Rは大きくなる。
R=ρ(L/S) ・・・(2)
発熱制御部材34の厚さをt0とし、強磁性を呈する状態での主な磁束が侵入している深さをt1とし、常磁性を呈する状態での表皮深さをt2とすると、t0>t1の場合には、(t0−t1)の部分に流れる渦電流Iは少ない。しかし、発熱制御部材34が常磁性を呈する状態に変化した場合、発熱制御部材34の表皮深さ(δ)が2978μmとなり、渦電流Iは、発熱制御部材34の厚さであるt0の全領域を流れるため、渦電流Iが流れる厚さ方向の領域が増加する。よって、発熱制御部材34が常磁性を呈する状態では、(2)式から、発熱制御部材34の断面積Sが大きくなり、高固有抵抗である発熱制御部材34の電気抵抗Rは小さくなるため発熱し易くなる。そこで、望ましくは、発熱制御部材34では、強磁性を呈する状態での磁束の侵入深さt1をできるだけ小さくして渦電流Iが流れる領域の厚さを小さくして電気抵抗Rを高くするとともに、常磁性を呈する状態での電気抵抗Rを大きくするのが好ましい。
次に、発熱制御部材34の厚さがt0<t1の場合には、厚さt0すべてに渦電流Iが流れる場合が、発熱制御部材34の断面積Sが最も大きくなって電気抵抗Rが最も小さくなるケースに当たる。この場合は、強磁性を呈する状態での渦電流Iが流れる厚さ領域と常磁性を呈する状態に変化した状態での渦電流Iが流れる厚さ方向の領域は、共にt0と同じ領域となる。したがって、発熱制御部材34の厚さがt0<t1の場合は、発熱制御部材34の厚さが表皮深さ(δ)より薄い分だけ発熱量を小さく設定することができる。
すなわち、発熱制御部材34の厚さを例えば100μmと強磁性を呈する状態での主な磁束が侵入している深さt1よりも薄くt0<t1とした場合には、発熱制御部材34内で発生するジュール熱W(W=I2R)において、発熱制御部材34の電気抵抗Rを小さくしながら、渦電流Iも同時に小さくなる。それにより、発熱制御部材34での発熱量Wが最少化される。ただし、この実施の形態では、基層311及び保護層313の磁路から漏れた磁束分の殆どが発熱制御部材34により磁路を形成することが前提となる。
磁束の侵入深さt1をできるだけ小さくして電気抵抗Rを大きくすれば、強磁性を呈する状態でのジュール発熱Wを抑制することができる。また、常磁性を呈する状態(表皮深さt2)での電気抵抗Rを大きくすれば、発熱制御部材34の渦電流Iによる自己発熱が抑制できる。磁束の侵入深さt1を小さくして電気抵抗Rを大きくするためには、発熱制御部材34の比透磁率を高くすればよい。比透磁率が高いと磁気結合度や磁束密度も高くなり磁路形成手段としても望ましい。比透磁率を高くするためには、発熱制御部材34を熱処理してフルアニール(焼鈍)すれば良い。
また、発熱制御部材34の自己発熱を抑制する手段として、発熱制御部材34に流れる渦電流の主回路を遮断する手段を適用してもよい。具体的例としては、例えば発熱制御部材34に励磁コイル56に流れる電流の方向に対して垂直方向に複数のスリットを入れて渦電流が流れにくくし、見掛けの電気抵抗Rを小さくすることができる。
さらに、上記発熱制御部材34の内側に配設された非磁性金属誘導部材35は、例えばAg、Cu、Alといった固有抵抗値が比較的小さい非磁性金属で構成される。そして、この非磁性金属誘導部材35は、図14に示すように、定着ベルト31の基層311及び保護層313や発熱制御部材34が透磁率変化開始温度以上の温度に上昇した際に、交番磁界発生装置33により生成された交番磁界(磁力線)を誘導して、定着ベルト31の導電層312や発熱制御部材34よりも渦電流Iが発生し易い状態を形成する。それにより、非磁性金属誘導部材34の厚さは、渦電流Iが流れ易いように、表皮深さよりも充分に厚い所定の厚さ(例えば1mm)で形成される。
上記の如く構成される定着装置では、次のようにして記録用紙へのトナー像の定着処理が行われる。
すなわち、上記定着装置30では、図3に示すように、記録用紙21上に多重に転写されたフルカラー等のトナー像を定着するにあたり、図12に示すように、駆動モータ48を起動することにより定着ベルト31を予め定められた回転速度で回転駆動するとともに、交番磁界発生装置33の励磁回路61により励磁コイル56に予め定められた周波数の交流電流を通電する。
こうすることによって、上記定着装置30では、図7に示すように、交番磁界発生装置33の励磁コイル56にて交番磁界が生成され、交番磁界の磁束が形成され、主に定着ベルト31の発熱層311が電磁誘導作用によって発熱し、図15に示すように、定着ベルト31が予め定められた定着温度まで加熱される。
このとき、上記定着ベルト31の温度が予め定められた定着温度まで上昇する際に、定着ベルト31は薄層に形成されているためにそれ自体の熱容量は小さく、しかも定着ベルト31の非通紙部は熱を奪う記録用紙21は供給されていないため、当該定着ベルト31の温度が保護層313の透磁率変化開始温度を超えると、保護層313が強磁性体から非磁性体へ変化するため、発熱層312の領域R1、R2、R3を透過する磁束の磁束密度が低下し、発熱層312の発熱量が減少する。その後、上記定着ベルト31の温度が基層311の透磁率変化開始温度を超えると、保護層313に加えて基層311が強磁性体から非磁性体へ変化するため、図14に示すように、発熱層312の領域R1、R2、R3を透過する磁束の磁束密度が大幅に低下し、発熱層312の発熱量が大幅に減少する。
そのため、上記定着ベルト31の温度が予め定められた定着温度まで上昇するにあたり、当該定着ベルト31の温度が予め定められた定着温度を大きく超えようとすると、発熱層312の発熱が抑制され、図15に示すように、オーバーシュートが発生するのを抑制できる。
そして、この定着装置30では、定着ベルト31が予め定められた定着温度Tsに加熱されると、図3に示すように、未定着トナー像が転写された記録用紙21が、定着ベルト31と加熱ロール32との間のニップ部Nに搬送され、定着ベルト31及び加熱ロール32による加熱・加圧作用によって、未定着トナー像が加熱溶融されて記録用紙21上に定着された後、定着ベルト31から剥離され、図2に示すように、排出ロール22によってカラー画像形成装置1の上部に設けられた排出トレイ23上に排出される。
その際、上記カラー画像形成装置1では、A3サイズやA4サイズ、あるいはB4サイズやB5サイズ、レターサイズ等の種々のサイズの記録用紙21に画像を形成することが可能となっている。また、このカラー画像形成装置1では、図16に示すように、記録用紙21の搬送方向と交差する方向の中央部を基準(所謂センターレジ)にて、記録用紙21を搬送するように構成されている。
このとき、上記定着装置30において、図16に示すように、例えば、A4サイズの記録用紙21を長さが相対的に短い短辺21aを先頭にした縦送り(SEF)にて連続的に通紙した場合には、記録用紙21が通過する定着ベルト31の通紙領域Fsの温度は、定着ベルト31の発熱層312の発熱量が定着に必要な熱量とバランスするように設定することで、定着ベルト31の熱が記録用紙21によって奪われるため、予め定められた定着温度Tf近傍に維持される。一方、記録用紙21が通過しない定着ベルト31の非通紙領域Fbは、定着ベルト31の熱が記録用紙21によって奪われることがないため、予め定められた定着温度Tf以上の上限値Tlim近傍まで上昇する。
このように、上記定着ベルト31の非通紙領域Fbの温度が上限値Tlim近傍まで上昇すると、感温磁性材料からなる定着ベルト31の基層311及び保護層313は、透磁率変化開始温度を超えるため、強磁性体から常磁性体へと変化する。そのため、定着ベルト31の基層311及び保護層313が強磁性体から常磁性体へと変化すると、当該基層311及び保護層313が発揮していた磁束の集束作用が消滅し、交番磁界発生装置33の励磁コイル56にて生成された交番磁界の磁束が、図14に示すように、基層311、保護層313及び発熱層312を透過して、発熱層312を電磁誘導加熱する磁束密度が低下する。
これと同時に、定着ベルト31の内周に非接触状態で配設された温度制御部材34も、定着ベルト31の基層311及び保護層313と同様に感温磁性材料からなり、定着ベルト31からの輻射熱によって加熱されるとともに、当該温度制御部材34は、交番磁界発生装置33にて生成される交番磁界によって発熱し、透磁率変化開始温度を超えるため、やはり強磁性体から常磁性体へと変化する。
そのため、上記の如く定着ベルト31の基層311、保護層313及び発熱制御部材34が常磁性体へと変化すると、交番磁界発生装置33にて生成された交番磁界は、図14に示すように、定着ベルト31の基層311、保護層313及び発熱制御部材34を透過して、発熱制御部材34と非磁性金属誘導部材35との間の空間及び非磁性金属誘導部材35の内部を通過した後に励磁コイル56へと戻り、定着ベルト31の発熱層312及び発熱制御部材34を通過する磁束の磁束密度が低下するため、定着ベルト31の発熱層312及び発熱制御部材34における発熱量が減少し、図16に示すように、定着ベルト31の非通紙領域Fbの温度が低下することになる。そのため、記録用紙21の連続通紙時においては、上記定着ベルト31の非通紙領域Fbの温度上昇が抑制されつつ、定着処理が継続される。
また、上記実施の形態では、温度によって透磁率が変化する感温磁性材料からなる基層311と、基層311表面に積層され、電磁誘導によって発熱する発熱層312と、発熱層312の表面に積層され、温度によって透磁率が変化する感温磁性材料からなる保護層313とを備え、基層311と発熱層312と保護層313を一体的に積層したクラッド材を塑性加工することにより薄くしたので、耐久性が良い。
さらに、上記実施の形態では、電磁誘導によって発熱する発熱層312の裏面側に、温度によって透磁率が変化する感温磁性材料からなる基層311を積層するとともに、発熱層312の表面側に温度によって透磁率が変化する感温磁性材料からなる保護層313を一体的に積層したクラッド材を、塑性加工することにより薄くした電磁誘導加熱体を有し、他の部材を加熱しつつ回転する定着ベルト31と、定着ベルト31に圧接され、定着ベルト31との間に形成される圧接部を通過する未定着トナー像を担持した記録媒体を加圧しつつ回転する加圧ロール32と、定着ベルト31の外部に対向配置され、定着ベルト31を電磁誘導によって発熱させる磁界を発生させる交番磁界発生装置33とを備えているので、定着ベルト31の耐久性がよい。