JP2010222604A - ばね鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ばね鋼は、C:0.2〜0.9%、Si:0.8〜3%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.1%以下を含有し、さらにNi:1.0%以下、V:0.7%以下、及びMo:0.8%以下を一種以上含有する。このばね鋼の酸化物系介在物は下記式(1)〜(3)を満足する。鋼の縦断面における表面から深さ0.3mmまでの表層域に存在する厚み2〜15μmの酸化物系介在物の面積率が、300×10-8〜700×10-8である。またマルテンサイト及びベイナイトの合計面積率が10%以下である。
18≦[Al2O3]/S×100≦38…(1)
37≦[SiO2]/S×100≦60…(2)
2≦[CaO]/S×100≦40…(3)
(Sは、[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、[MnO]の合計)
【選択図】なし
Description
本発明の他の目的は、ばねにしたときの疲労特性を損なうことなく、皮削り(SV)工程におけるチッパーの損傷や線材の断線をより高度に防止できる技術を確立することにある。
37≦[SiO2]/S×100≦60 …(2)
2≦[CaO]/S×100≦40 …(3)
(式中、Sは、[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、[MnO]の合計を示す。[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、[MnO]は、全酸化物系介在物に含まれる各元素(Al、Si、Ca、Mg、Mn)の合計含有量を、その酸化物としての質量で示した値である)
Cは、鋼の焼入れ性を高め、ばねの引張強度を確保するのに有効な元素である。よってC量は、0.2%以上、好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.4%以上とする。ただしC量が過剰になると、焼入性が増大しすぎて、熱間圧延後の冷却過程で過冷組織が発生し、皮削り(SV)工程やその後の伸線工程で断線し易くなる。よってC量は、0.9%以下、好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.75%以下とする。
Siは、固溶強化元素として強度向上に寄与し、疲労特性の改善に貢献する。また、ばね加工工程では、コイリング後の歪み取りのため400℃以上で熱処理(焼鈍)されるが、Siはその際の軟化抵抗を高める作用も有している。よってSi量は、0.8%以上、好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.3%以上とする。しかし、Si量が過剰になると表面脱炭を増進して疲労特性を劣化させる。よってSi量は、3%以下、好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
Mnは、鋼の焼入性を向上させ、ばねの引張強度を確保するのに有効な元素である。よってMn量は、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.4%以上とする。しかし、Mn量が過剰になると、熱間圧延後の冷却で過冷組織が発生して、皮削り(SV)工程やその後の伸線工程で断線し易くなる。よってMn量は、2.0%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下とする。
Crは、パーライトのラメラ間隔を狭くし、伸線前熱処理として行われるパテンティング後の強度を高め、疲労強度を高める作用を有する。よってCr量は、0.01%以上、好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上とする。しかしCrが多過ぎると焼入れ性が高まり、熱間圧延後の冷却で過冷組織が発生して、皮削り(SV)工程やその後の伸線工程で断線し易くなる。よってCr量は、3.0%以下、好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.2%以下とする。
Pは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、疲労特性を低下させる元素である。P量は、低いほど好ましく、0.1%以下、好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.015%以下に制御する。
Sも旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、疲労特性を低下させる元素である。S量も、低いほど好ましく、0.1%以下、好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.015%以下に制御する。
Niは、セメンタイトの延性を向上させて伸線性を高める作用を有する他、鋼線自体の伸線性向上にも寄与する。また、熱間圧延時やパテンティング処理時における表層部の脱炭を抑制する作用も有している。Niを添加する場合には、例えば、0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.15%以上にすることが推奨される。しかしNiが多過ぎると焼入れ性が高まり、熱間圧延後の冷却で過冷組織が発生して、皮削り(SV)工程やその後の伸線工程で断線し易くなる。よってNi量は、1.0%以下、好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.3%以下とする。
Vは、パーライトノジュールサイズを微細化して伸線加工性を高め、更には、ばねの靱性や耐へたり性の向上にも寄与する有用な元素である。Vを添加する場合には、例えば、0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上にすることが推奨される。しかし、Vが多過ぎると、パーライト変態の終了が遅延し、過冷組織が発生して、皮削り(SV)工程やその後の伸線工程で断線し易くなる。よってV量は、0.7%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下とする。
Moは、焼入れ性を高めると共に、軟化抵抗を高めて耐へたり性を向上させるうえで有用な元素である。Moを添加する場合には、例えば、0.01%以上、好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上にすることが推奨される。しかしMoが多すぎると、パーライト変態の終了が遅延し、過冷組織が発生して、皮削り(SV)工程やその後の伸線工程で断線し易くなる。よってMo量は、0.8%以下、好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.5%以下にする。
18≦[Al2O3]/S×100≦38 …(1)
37≦[SiO2]/S×100≦60 …(2)
2≦[CaO]/S×100≦40 …(3)
(式中、Sは、[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、及び[MnO]の合計を示す。[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、[MnO]は、全酸化物系介在物に含まれる各元素(Al、Si、Ca、Mg、Mn)の合計含有量を、その酸化物としての質量で示した値である)
熱間圧延前の加熱温度は、例えば、800〜1000℃程度、好ましくは850〜950℃程度の範囲で設定してもよい。熱間圧延後の巻き取り温度は、例えば、700〜900℃程度、好ましくは750〜850℃程度の範囲で設定してもよい。熱間圧延後の冷却速度は、例えば、0.5〜9.5℃/秒程度、好ましくは1.0〜9.0℃/秒程度の範囲で設定してもよい。
焼鈍は実施してもよく、実施しなくてもよい。焼鈍を実施する場合には、加熱温度は、例えば、600〜680℃程度の範囲で設定してもよい。
またばね鋼を伸線する際にシェブロンクラックが発生して断線する場合には、その原因として、1)熱間圧延の冷却速度が遅すぎて、粗大なパーライトが生成していること、2)焼鈍温度が高すぎて、セメンタイトが球状化していることなどが考えられる。従ってシェブロンクラックによる断線が発生する場合には、これらの原因を取り除くべく、製造条件を調節すればよい。
容量90トンの転炉で溶製した鋼材を精錬工程で成分調整し、鋳型上部に鋳型内電磁撹拌装置(M−EMS)を備えた連続鋳造機で当業者常用の製造方法に基づき連続鋳造することによって表1〜2に示す化学組成の鋳片(300mm×430mm)を製造した。なお精錬工程では酸化鉄を投入しており、その投入量及びスラグ組成は表3〜4に示した通りである。得られた鋳片を温度1200℃で5時間均熱処理した後、分塊圧延して鋼片(155mm×155mm)を製造した。この鋼片を表3〜4に示す条件で熱間圧延した後、焼鈍することによって直径8mmの線材を得た。
得られた圧延線材の諸特性を以下の様にして調べた。
面積率:
得られた線材の縦断面を光学顕微鏡で観察した(倍率400倍。10視野)。観察部位を画像処理し、表面から深さ0.3mmまでの表層域に存在する厚み2〜15μmの介在物の面積を、全測定面積1に対する比率(面積率)として求めた。なお全測定面積は、0.3mm(深さ)×200mm(長さ)×10(視野数)×2(1視野当たりの表層域の数)で求まる。
介在物の平均組成:
得られた線材の縦断面に存在する全介在物について定量分析EPMA(日本電子株式会社、型式「JXA−8621MX」、加速電圧:20kV、操作電流:5A)を行った。Mg、Al、Si、Ca、Mn、Zr、Ti、S、Crについて定量し、Mg、Al、Si、Ca、Mnの5元素が主要元素であることを確認した後、これら5元素が酸化物として存在すると仮定し、各5元素の酸化物の量を、5元素の酸化物の総量100質量%に対する割合として算出した。
樹脂に圧延線材の横断面を埋め込み、研磨した後、5%ピクリン酸アルコール液に15〜30秒間浸漬して腐食させた後、光学顕微鏡によってD/4(Dは直径)部を組織観察した。そして、400倍で10視野撮影し、パーライト組織部分を確定した後、画像処理によってマルテンサイト組織とベイナイト組織の面積率を求め、これらの合計を過冷組織分率とした。なお画像処理では、撮影した写真の電子データ(本例ではJPEG方式で圧縮された電子データ)をアドビシステムズ社製のソフトウェア「Adobe(登録商標)Photoshop(登録商標)」に取り込み、2値化した後、過冷組織(マルテンサイト組織及びベイナイト組織)の面積率を求めた。
線材コイルをローラ矯正して直線形状にした後、チャック間距離200mmで10本の引張試験を行い、引張強さ及び絞りを測定し、平均値を求めた。
圧延線材をライン速度100m/分でスキンパス(直径:7.7mm)して真円性を高め、超硬工具(W−Co−Ti)からなるチッパー(内径7.4mm)で皮削り(SV)した。
圧延線材8トン(=2トン×4束)を処理した後のチッパーを走査型電子顕微鏡で10視野(倍率200倍)観察し、「Adobe(登録商標)Photoshop(登録商標)」を用いて画像処理し、チッパーの刃先に沿って形成された付着物の面積率を求めた。面積率が95%を超える視野の数を工具付着率の点数とした。1つの視野でのみ付着物の面積率が95%を超えていれば1点になり、全ての視野(10視野)で付着物の面積率が95%を超えていれば10点になる。
前記(4)工具付着性と同様にして、スキンパス圧延と皮削り(SV)を行った。圧延線材を8トン(=2トン×4束)処理し、その間に生じた断線の回数、及びチッパー欠けの回数をカウントし、以下の基準で点数化した。
9点:断線0回、チッパー欠け1回
8点:断線0回、チッパー欠け2回
7点:断線0回、チッパー欠け3回
6点:断線0回、チッパー欠け4回
5点:断線1回、チッパー欠け0回
4点:断線1回、チッパー欠け1回
3点:断線1回、チッパー欠け2回
2点:断線1回、チッパー欠け3回
1点:断線1回、チッパー欠け4回
0点:断線2回以上
前記(4)工具付着性と同様にして、スキンパス圧延と皮削り(SV)を行った後、直径4mmにまで伸線加工し、オイルテンパー処理(OT)した。疲労強度が最高になるように、オイルテンパーの焼入れ温度及び焼戻し温度を適宜調節した。このOTワイヤーに、ばね作製時の歪取り焼鈍に相当する熱処理(400℃×20分)を施し、ショットピーニング処理(スチールボール、φ=0.6mm、45m/秒、10分)した後、低温歪取り焼鈍(220℃×20分)を施した。
歪取り焼鈍後のワイヤーを用い、試験応力を850〜1300MPaの範囲で変化させながら中村式回転曲げ疲労試験を行った。2000万回まで折損しなかった応力を疲労強度とした。
結果を表5〜8に示す。
図2から明らかな様に、介在物面積率が約300×10-8以上になると、工具付着性が急激に上昇し、皮削り特性が急激に改善する。そして図1から明らかな様に、介在物面積率300×10-8以上程度では、疲労強度は殆ど低下していない。なお介在物面積率が約700×10-8を超え始めると、疲労強度が低下し始める。
Claims (2)
- C :0.2〜0.9%(質量%の意味。以下、同じ)、
Si:0.8〜3%、
Mn:0.1〜2.0%、
Cr:0.01〜3.0%、
P :0.1%以下(0%を含まない)、及び
S :0.1%以下(0%を含まない)を含有し、さらにNi:1.0%以下(0%を含まない)、V:0.7%以下(0%を含まない)、及びMo:0.8%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種を含有し、残部は鉄及び不可避不純物である鋼であって、
この鋼に含まれる酸化物系介在物は、下記式(1)〜(3)を満足しており、
鋼の縦断面における表面から深さ0.3mmまでの表層域に存在する厚み2〜15μmの酸化物系介在物の面積率が、300×10-8〜700×10-8であり、
マルテンサイト及びベイナイトの合計面積率が10%以下であるばね鋼。
18≦[Al2O3]/S×100≦38 …(1)
37≦[SiO2]/S×100≦60 …(2)
2≦[CaO]/S×100≦40 …(3)
(式中、Sは、[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、[MnO]の合計を示す。[Al2O3]、[SiO2]、[CaO]、[MgO]、[MnO]は、全酸化物系介在物に含まれる各元素(Al、Si、Ca、Mg、Mn)の合計含有量を、その酸化物としての質量で示した値である) - 引張強さが900〜1300MPa、絞りが35%以上である請求項1に記載のばね鋼。
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