WO2021075501A1 - 弁ばね - Google Patents

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鈴木 章一
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Abstract

優れた疲労限度を有する弁ばねを提供する。本実施形態による弁ばねは、表層に形成されている窒化層と、窒化層よりも内部の芯部とを備える。芯部の化学組成は、質量%で、C:0.53~0.59%、Si:2.51~2.90%、Mn:0.70~0.85%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cr:1.40~1.70%、Mo:0.17~0.53%、V:0.23~0.33%、Ca:0.0001~0.0050%、Cu:0.050%以下、Ni:0.050%以下、Al:0.0050%以下、Ti:0.050%以下、N:0.0070%以下、及び、残部がFe及び不純物からなり、芯部において最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmであり、芯部において、酸化物系介在物及び前記硫化物系介在物の総個数に対する前記Ca硫化物の個数割合が0.20%以下である。

Description

弁ばね
 本開示は、ばねに関し、さらに詳しくは、内燃機関等に使用される弁の動きを調整するために利用される弁ばねに関する。
 自動車又は一般機械では、多くのばねが利用されている。自動車や一般機械に使用されるばねのうち、弁ばねは、自動車や一般機械の機器内の弁の開閉を調整する役割を有する。弁ばねはたとえば、自動車の内燃機関(エンジン)の給排気弁の開閉制御に使用される。
 弁の開閉を調整するために、弁ばねは、1分間に数千回もの伸縮を繰り返す。したがって、弁ばねには、高い疲労限度が求められる。そこで、弁ばねでは通常、窒化処理を実施することにより、疲労限度を高めている。弁ばねの製造方法の一例は次のとおりである。鋼線に対して調質処理(焼入れ処理及び焼戻し処理)を実施する。調質処理後の鋼線に対して冷間コイリングを実施して、コイル状の中間鋼材を形成する。中間鋼材に対して歪取り焼鈍処理を実施した後、窒化処理を実施する。窒化処理後、必要に応じてショットピーニングを実施して、表層に圧縮残留応力を付与する。以上の工程により、疲労限度を高めた弁ばねが製造される。
 最近では、弁ばねの疲労限度のさらなる向上が求められている。
 ばねの疲労限度の向上に関する技術が、特開平2-57637号公報(特許文献1)、特開2010-163689号公報(特許文献2)、特開2007-302950号公報(特許文献3)、及び、特開2006-183137号公報(特許文献4)に開示されている。
 特許文献1に開示された高疲労限度ばね用鋼線は、重量%で、C:0.3~1.3%、Si:0.8~2.5%、Mn:0.5~2.0%、Cr:0.5~2.0%を含有し、任意元素として、Mo:0.1~0.5%、V:0.05~0.5%、Ti:0.002~0.05%、Nb:0.005~0.2%、B:0.0003~0.01%、Cu:0.1~2.0%、Al:0.01~0.1%、及び、N:0.01~0.05%の1種又は2種以上を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなる鋼について、オーステナイト化処理後250~500℃に3秒~30分保定した後空冷又は急冷することにより製造され、降伏比を0.85以下とする。この文献では、ばねの疲労限度はばねの降伏強度に依存し、ばねの降伏強度が高いほど、ばねの疲労限度も高まるという知見に基づいて(特許文献1の第2ページ右上欄第1行~第5行参照)、上述の構成を有する高疲労限度ばね用鋼線を提案している。
 特許文献2に開示されたばねは、焼戻しマルテンサイト組織を有するオイルテンパー線を用いて製造されており、オイルテンパー線は、質量%でC:0.50~0.75%、Si:1.50~2.50%、Mn:0.20~1.00%、Cr:0.70~2.20%、V:0.05~0.50%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる。このオイルテンパー線に、450℃で2時間のガス軟窒化処理を行った場合、オイルテンパー線の線表面部に形成される窒化層の格子定数は2.881~2.890Åとなる。また、このオイルテンパー線に、450℃で2時間の加熱を行った場合、引張強度が1974MPa以上、降伏応力が1769MPa以上、絞り値が40%超、となる。この文献では、窒化処理されて製造されるばねの素材となるオイルテンパー線を規定している。窒化処理によりばねを製造する場合、窒化処理の時間が長くなるにしたがって、ばねの鋼材の降伏強度及び引張強度が低下する。この場合、鋼材内部の硬さが低下してしまい、疲労限度が低下する。そこで、特許文献2では、窒化処理の処理時間が長くなっても、鋼材の降伏強度が低下しないオイルテンパー線を用いることにより、疲労限度の高いばねを製造できる、と記載されている(特許文献2の段落[0025]及び[0026]参照)。
 特許文献3に開示された高強度ばね用鋼線は、C:0.5~0.7%、Si:1.5~2.5%、Mn:0.2~1.0%、Cr:1.0~3.0%、V:0.05~0.5%を含有し、Al:0.005%以下(0%を含まない)に抑制し、残部がFe及び不可避不純物である化学組成を有する。鋼線中において、円相当直径で10~100nmの球状セメンタイトが30個/μm以上であり、かつ、セメンタイト中におけるCr濃度が質量%で20%以上であり、V濃度が2%以上である。この文献では、疲労限度及び耐へたり性の向上には、鋼線の高強度化が有効であると記載されている(特許文献3の段落[0003]参照)。そして、円相当径が10~100nmの微細な球状セメンタイトの個数を30個/μm以上とし、かつ、セメンタイト中におけるCr濃度を質量%で20%以上とし、V濃度を2%以上とすることにより、製造工程中の歪取り焼鈍処理や窒化処理といった熱処理時においても、セメンタイトの分解及び消失を抑制でき、鋼線の強度を維持することができる、と記載されている(段落[0011])。
 特許文献4に開示された、ばねの素材となる鋼線は、質量%で、C:0.45~0.7%、Si:1.0~3.0%、Mn:0.1~2.0%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.0005~0.007%、t-O:0.0002~0.01%、及び、残部が鉄及び不可避不純物からなり、引張強度が2000MPa以上であり、検鏡面において、円相当径が0.2μm以上のセメンタイト系球状炭化物及び合金系炭化物の占有面積率が7%以下であり、円相当径0.2~3μmのセメンタイト系球状炭化物及び合金系炭化物の存在密度が1個/μm以下であり、円相当径3μm超のセメンタイト系球状炭化物及び合金系炭化物の存在密度が0.001個/μm以下であり、旧オーステナイト粒度番号が10番以上であり、残留オーステナイトが15mass%以下であり、円相当径が2μm以上のセメンタイト系球状炭化物の存在密度が小さい希薄域の面積率が3%以下である。この文献では、さらなる疲労、へたり等のばね性能向上のためにはさらなる高強度化が必要であると記載されている。この文献ではさらに、ミクロ組織の制御とセメンタイト系の微細炭化物の分布を制御することにより、ばねの高強度化が実現し、疲労やへたり等のばね性能が向上すると記載されている(特許文献4の段落[0009]及び[0021]参照)。
特開平2-57637号公報 特開2010-163689号公報 特開2007-302950号公報 特開2006-183137号公報
 上述の特許文献1~4に記載の技術では、いずれも、ばねの素材となる鋼材の強度(硬さ)を高めることにより、疲労限度やへたり等のばね特性を高める技術思想を採用する。しかしながら、他の技術思想により、ばねの疲労限度を高めてもよい。
 本開示の目的は、優れた疲労限度を有する弁ばねを提供することである。
 本開示による弁ばねは、
 表層に形成されている窒化層と、
 前記窒化層よりも内部の芯部とを備え、
 前記芯部の化学組成は、質量%で、
 C:0.53~0.59%、
 Si:2.51~2.90%、
 Mn:0.70~0.85%、
 P:0.020%以下、
 S:0.020%以下、
 Cr:1.40~1.70%、
 Mo:0.17~0.53%、
 V:0.23~0.33%、
 Ca:0.0001~0.0050%、
 Cu:0.050%以下、
 Ni:0.050%以下、
 Al:0.0050%以下、
 Ti:0.050%以下、
 N:0.0070%以下、
 Nb:0~0.020%、及び、
 残部がFe及び不純物からなり、
 前記芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmであり、
 前記芯部中の介在物のうち、
 質量%でO含有量が10.0%以上の介在物を酸化物系介在物と定義し、
 質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、前記O含有量が10.0%未満の介在物を硫化物系介在物と定義し、
 前記硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、前記S含有量が10.0%以上であり、かつ、前記O含有量が10.0%未満の介在物をCa硫化物と定義したとき、
 前記芯部において、前記酸化物系介在物及び前記硫化物系介在物の総個数に対する前記Ca硫化物の個数割合が0.20%以下である。
 本開示による弁ばねは、優れた疲労限度を有する。
図1Aは、薄膜試料のフェライトの(001)面でのTEM画像の一例である。 図1Bは、薄膜試料のフェライトの(001)面でのTEM画像の模式図である。 図2は、本実施形態の化学組成を有する弁ばねにおける、Ca硫化物個数割合Rcaと、10回の繰返し回数における疲労限度(高サイクル疲労限度)との関係を示す図である。 図3は、本実施形態の弁ばねの製造工程を示すフロー図である。
 本発明者らは、疲労限度に優れた弁ばねの検討を行った。本発明者らは初めに、上述の先行文献に開示されたばねを構成する鋼材と同様に、鋼材の強度及び硬さを高めることにより、弁ばねの疲労限度を高めることを考えた。具体的には、本発明者らは、セメンタイトを微細化することにより、鋼材の強度及び硬さを高めて、弁ばねの疲労限度を高めることを検討した。その結果、特許文献3又は特許文献4に記載のとおり、セメンタイトを微細化するほど、鋼材の強度及び硬さを高めることができた。したがって、セメンタイトを微細化することにより、弁ばねの疲労限度も高まると思われた。
 しかしながら、鋼材の強度及び硬さを高めれば、冷間コイリングが困難になり、弁ばねを製造するのが困難となる。したがって、セメンタイトの微細化により鋼材の強度及び硬さを高め、ばねの疲労限度を高めるアプローチには限界があると考えた。
 そこで、本発明者らは、鋼材の強度及び硬さを高めることにより弁ばねの疲労限度を高める技術思想とは異なる技術思想で、弁ばねの疲労限度を高めることを考えた。特許文献1~4にも記載されているとおり、従前のばねの技術では、鋼材の強度及び硬さがばねの疲労限度と正の相関を有すると考えられてきた。このように、鋼材の強度及び硬さと疲労限度とが正の相関を有することがばね技術での技術常識であった。そのため、従前では、非常に時間の掛かる疲労試験に代替して、短時間で完了する引張試験により得られる鋼材の強度、又は、短時間で完了する硬さ試験により得られた鋼材の硬さにより、疲労限度を予測していた。つまり、時間の掛かる疲労試験を実施せずに、時間の掛からない引張試験又は硬さ試験の結果により、弁ばねの疲労限度を予測していた。
 しかしながら、本発明者らは鋼材の強度及び硬さと、疲労限度とは、必ずしも相関しないと考えた。そこで、鋼材の強度及び硬さを高めることにより弁ばねの疲労限度を高めるのではなく、他の技術思想により弁ばねの疲労限度を高めることを検討した。
 ここで、本発明者らは、V炭化物、V炭窒化物に代表される、V系析出物に注目した。本明細書においてV系析出物とは、Vを含有し、又は、V及びCrを含有する析出物を意味する。本発明者らは、鋼材の強度を高めることにより弁ばねの疲労限度を高めるという従来の技術思想ではなく、ナノサイズの微細なV系析出物を多数生成することにより弁ばねの疲労限度を高めることを考えた。そこで、ナノサイズのV系析出物を活用して疲労限度を高めるための弁ばねの化学組成として、本発明者らは、質量%で、C:0.53~0.59%、Si:2.51~2.90%、Mn:0.70~0.85%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cr:1.40~1.70%、Mo:0.17~0.53%、V:0.23~0.33%、Cu:0.050%以下、Ni:0.050%以下、Al:0.0050%以下、Ti:0.050%以下、N:0.0070%以下、Nb:0~0.020%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成が適切と考えた。そして、上述の化学組成を有する鋼材に対して、焼入れ処理後に種々の熱処理温度での熱処理を実施して弁ばねを製造した。そして、弁ばねの疲労限度と、弁ばねの芯部硬さに対する疲労限度の比である疲労限度比とを調査した。
 調査の結果、上記化学組成を有する弁ばねにおいて、本発明者らは次の新たな知見を得た。従前の弁ばねの製造工程では、調質処理工程後の熱処理(歪取り焼鈍処理工程等)では、窒化処理の窒化温度よりも低い温度で熱処理を実施している。これは、従前の弁ばねの製造工程が、鋼材の強度及び硬さを高く維持することにより疲労限度を高める、という技術思想に基づくためである。窒化処理を実施する場合、窒化温度までの加熱は必要となる。そのため、従来の製造工程では、窒化処理以外の他の熱処理工程の熱処理温度は、なるべく、窒化温度未満として、弁ばねの強度の低下を抑えていた。
 しかしながら、本実施形態の弁ばねでは、弁ばねを構成する鋼材の強度を高めることにより疲労限度を高めるという技術思想ではなく、ナノサイズの微細なV系析出物を多数生成することにより疲労限度を高める技術思想を採用する。そのため、製造工程中において、540~650℃の熱処理温度で熱処理を実施してナノサイズの微細なV系析出物を多数析出させれば、たとえV系析出物を析出させるための熱処理温度が窒化温度よりも高く、その結果、弁ばねの芯部の強度が低下しても(つまり、弁ばねの芯部硬さが低くても)、優れた疲労限度が得られ、弁ばねの芯部硬さに対する疲労限度の比である疲労限度比も高くなることが、本発明者らの調査及び検討で判明した。より具体的には、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が500個/μm以上であれば、弁ばねにおいて十分な疲労限度が得られることが、本発明者らの調査及び検討で判明した。
 ところで、弁ばねは、1分間に数千回もの圧縮を繰り返し、その圧縮頻度は、ダンパーばねよりも遥かに多い。そのため、弁ばねは、ダンパーばねと比較して、さらに高い疲労限度が求められる。具体的には、ダンパーばねでは、10回の繰返し回数において、高い疲労限度が求められるのに対して、弁ばねでは、10回の繰返し回数において、高い疲労限度が求められる。以下、10回の繰返し回数における疲労限度を高サイクル疲労限度という。
 発明者らは、弁ばねの高サイクル疲労限度を高めるために、上述のV系析出物の数密度だけでなく、介在物にも注目した。そして、介在物と高サイクル疲労限度との関係について調査及び検討した。その結果、介在物のうち特に、Ca硫化物が高サイクル疲労限度に影響することが判明した。
 弁ばねの芯部の介在物のうち、質量%でO含有量が10.0%以上の介在物を酸化物系介在物と定義する。質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物を硫化物系介在物と定義する。硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、S含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物をCa硫化物と定義する。Ca硫化物は、硫化物系介在物の一種である。弁ばねの芯部において、酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数に対するCa硫化物の個数割合が低い場合、特に、高サイクル(10サイクル)での疲労限度が高まる。
 この理由としては、次の事項が考えられる。弁ばねの芯部において、酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数に対するCa硫化物の個数割合が低い場合、Caが酸化物系介在物、及び、Ca硫化物以外の硫化物系介在物に十分固溶している。この場合、酸化物系介在物及び硫化物系介在物が十分に軟質化しており、かつ、微細化されている。そのため、酸化物系介在物や硫化物系介在物を起点とした割れが発生しにくくなり、高サイクル(10サイクル)での疲労限度が高まると考えられる。
 そこで、本発明者らは、介在物のうち、酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数に対するCa硫化物の個数割合に着目して、Ca硫化物の個数割合と、高サイクル疲労限度との関係について調査を行った。その結果、酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数に対する、Ca硫化物の個数割合が0.20%以下であれば、優れた高サイクル疲労限度が得られることが判明した。
 以上のとおり、本実施形態の弁ばねは、従来のような、強度及び硬さと疲労限度とが正の相関を有することに基づく技術思想ではなく、従来とは全く異なる技術思想により導き出されたものであり、次の構成を有する。
 [1]
 表層に形成されている窒化層と、
 前記窒化層よりも内部の芯部とを備え、
 前記芯部の化学組成は、質量%で、
 C:0.53~0.59%、
 Si:2.51~2.90%、
 Mn:0.70~0.85%、
 P:0.020%以下、
 S:0.020%以下、
 Cr:1.40~1.70%、
 Mo:0.17~0.53%、
 V:0.23~0.33%、
 Ca:0.0001~0.0050%、
 Cu:0.050%以下、
 Ni:0.050%以下、
 Al:0.0050%以下、
 Ti:0.050%以下、
 N:0.0070%以下、
 Nb:0~0.020%、及び、
 残部がFe及び不純物からなり、
 前記芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmであり、
 前記芯部中の介在物のうち、
 質量%でO含有量が10.0%以上の介在物を酸化物系介在物と定義し、
 質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、前記O含有量が10.0%未満の介在物を硫化物系介在物と定義し、
 前記硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、前記S含有量が10.0%以上であり、かつ、前記O含有量が10.0%未満の介在物をCa硫化物と定義したとき、
 前記芯部において、前記酸化物系介在物及び前記硫化物系介在物の総個数に対する前記Ca硫化物の個数割合が0.20%以下である、
 弁ばね。
 ここで、V系析出物とは、上述のとおり、Vを含有する炭化物又は炭窒化物、又は、V及びCrを含有する炭化物又は炭窒化物である。V系析出物は、上述の炭化物又は炭窒化物と他の1種以上の元素とを含有する複合析出物であってもよい。V系析出物はフェライトの{001}面上に沿って板状に析出する。そのため、V系析出物は、フェライトの(001)面のTEM画像において、[100]方位又は[010]方位に平行に直線状に延びた線分(エッジ部分)として観察される。そのため、フェライトの(001)面のTEM画像を観察することにより、V系析出物をFe系炭化物(セメンタイト)等の他の析出物と容易に区別でき、V系析出物を特定できる。つまり、本明細書において、フェライトの(001)面のTEM画像内において、[100]方位又は[010]方位に延びる線分を、V系析出物と定義する。
 [2]
 [1]に記載の弁ばねであって、
 前記芯部の前記化学組成において、
 Nb含有量は0.005~0.020%である、
 弁ばね。
 以下、本実施形態の弁ばねについて詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
 [本実施形態の弁ばねの構成]
 本実施形態の弁ばねは、コイル状である。弁ばねの線径、コイル平均径、コイル内径、コイル外径、自由高さ、有効巻数、総巻数、巻方向、ピッチは特に限定されない。弁ばねは、窒化層と、芯部とを備える。窒化層は弁ばねの表層に形成されている。窒化層は、化合物層と、化合物層よりも内部に形成される拡散層とを含む。窒化層は、化合物層を含まなくてもよい。なお、窒化処理された鋼材において表層に窒化層が形成されることは周知の技術事項である。
 芯部は、窒化層よりも内部の母材部分であって、後述の窒化処理による窒素の拡散の影響を実質的に受けていない部分である。弁ばねにおける窒化層及び芯部は、ミクロ組織観察により区別可能である。
 [芯部の化学組成]
 本実施形態の弁ばねの化学組成は、次の元素を含有する。
 C:0.53~0.59%
 炭素(C)は弁ばねの疲労限度を高める。C含有量が0.53%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、十分な疲労限度が得られない。一方、C含有量が0.59%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なセメンタイトが生成する。この場合、弁ばねの素材となる鋼材の延性が低下する。さらに、弁ばねの疲労限度が低下する。したがって、C含有量は0.53~0.59%である。C含有量の好ましい下限は0.54%であり、さらに好ましくは0.55%である。C含有量の好ましい上限は0.58%であり、さらに好ましくは0.57%である。
 Si:2.51~2.90%
 シリコン(Si)は弁ばねの疲労限度を高め、さらに、弁ばねの耐へたり性を高める。Siはさらに、鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼材の焼戻し軟化抵抗を高める。そのため、弁ばねの製造工程において調質処理(焼入れ処理及び焼戻し処理)を実施した後であっても、弁ばねの強度を高く維持できる。Si含有量が2.51%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が2.90%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、弁ばねの素材となる鋼材の延性が低下する。さらに、弁ばねの疲労限度が低下する。したがって、Si含有量は2.51~2.90%である。Si含有量の好ましい下限は2.53%であり、さらに好ましくは2.55%であり、さらに好ましくは2.60%である。Si含有量の好ましい上限は2.85%であり、さらに好ましくは2.82%であり、さらに好ましくは2.80%であり、さらに好ましくは2.78%である。
 Mn:0.70~0.85%
 マンガン(Mn)は鋼の焼入れ性を高め、弁ばねの疲労限度を高める。Mn含有量が0.70%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が0.85%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、弁ばねの製造工程中において、弁ばねの素材となる鋼材の強度が過剰に高くなり、鋼材の加工性が低下する。したがって、Mn含有量は0.70~0.85%である。Mn含有量の好ましい下限は0.72%であり、さらに好ましくは0.73%であり、さらに好ましくは0.74%である。Mn含有量の好ましい上限は0.83%であり、さらに好ましくは0.81%であり、さらに好ましくは0.80%である。
 P:0.020%以下
 リン(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは粒界に偏析して弁ばねの疲労限度を低下する。したがって、P含有量は0.020%以下である。P含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
 S:0.020%以下
 硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。SはPと同様に粒界に偏析したり、Mn硫化物及び/又はCa硫化物等の硫化物系介在物を形成したりして、弁ばねの疲労限度を低下する。したがって、S含有量は0.020%以下である。S含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.014%であり、さらに好ましくは0.012%であり、さらに好ましくは0.010%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
 Cr:1.40~1.70%
 クロム(Cr)は鋼材の焼入れ性を高める。Crはさらに、V及びMoと複合して含有されることにより、V系析出物の生成を促進する。そのため、Crは、弁ばねの疲労限度を高める。Cr含有量が1.40%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が1.70%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なCr炭化物が過剰に生成して、弁ばねの疲労限度を低下する。したがって、Cr含有量は1.40~1.70%である。Cr含有量の好ましい下限は1.45%であり、さらに好ましくは1.48%であり、さらに好ましくは1.50%である。Cr含有量の好ましい上限は1.65%であり、さらに好ましくは1.63%であり、さらに好ましくは1.60%である。
 Mo:0.17~0.53%
 モリブデン(Mo)は、鋼材の焼入れ性を高める。Moはさらに、V及びCrと複合して含有されることにより、V系析出物の生成を促進する。そのため、Moは、弁ばねの疲労限度を高める。Moはさらに、鋼材の焼戻し軟化抵抗を高める。そのため、Moは、弁ばねの製造工程において調質処理(焼入れ処理及び焼戻し処理)を実施した後であっても、弁ばねの強度を高く維持できる。Mo含有量が0.17%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が0.53%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、弁ばねの製造工程中において、弁ばねの素材となる鋼材の強度が過剰に高くなり、鋼材の加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0.17~0.53%である。Mo含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.23%であり、さらに好ましくは0.25%である。Mo含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.47%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
 V:0.23~0.33%
 バナジウム(V)は、C及び/又はNと結合して微細なV系析出物を形成し、弁ばねの疲労限度を高める。V含有量が0.23%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、V含有量が0.33%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、V系析出物が粗大化して、最大径が10nmを超えるV系析出物が多数生成する。この場合、弁ばねの疲労限度がかえって低下する。したがって、V含有量は0.23~0.33%である。V含有量の好ましい下限は0.24%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.26%である。V含有量の好ましい上限は0.32%であり、さらに好ましくは0.31%であり、さらに好ましくは0.30%である。
 Ca:0.0001~0.0050%
 カルシウム(Ca)は、酸化物系介在物及び硫化物系介在物に含有されて、これらの介在物を軟質化する。軟質化された酸化物系介在物及び硫化物系介在物は、熱間圧延時に伸長して分断され、微細化される。そのため、弁ばねの疲労限度が高まり、特に、高サイクル疲労限度が高まる。Ca含有量が0.0001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、これらの効果が得られない。一方、Ca含有量が0.0050%を超えれば、粗大なCa硫化物及び粗大な酸化物系介在物(Ca酸化物)が形成される。この場合、弁ばねの疲労限度が低下する。したがって、Ca含有量は0.0001~0.0050%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0004%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0048%であり、さらに好ましくは0.0046%であり、さらに好ましくは0.0044%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
 Cu:0.050%以下
 銅(Cu)は不純物である。Cuは弁ばねの製造工程中において、弁ばね用鋼材の加工性を低下する。したがって、Cu含有量は0.050%以下である。Cu含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.043%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.035%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。Cu含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Cu含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、更に好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
 Ni:0.050%以下
 ニッケル(Ni)は不純物である。Niは弁ばねの製造工程中において、弁ばねの素材となる鋼材の加工性を低下する。したがって、Ni含有量は0.050%以下である。Ni含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.043%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.035%である。Ni含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Ni含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
 Al:0.0050%以下
 アルミニウム(Al)は不純物である。Alは粗大な酸化物系介在物を形成して、弁ばねの疲労限度を低下する。したがって、Al含有量は0.0050%以下である。Al含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0043%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0015%である。Al含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Al含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、Al含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
 Ti:0.050%以下
 チタン(Ti)は不純物である。Tiは粗大なTiNを形成する。TiNは破壊の起点となりやすく、弁ばねの疲労限度を低下する。したがって、Ti含有量は0.050%以下である。Ti含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.043%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.035%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Ti含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%である。
 N:0.0070%以下
 窒素(N)は不純物である。Nは、AlやTiと結合してAlNやTiNを形成し、弁ばねの疲労限度を低下する。したがって、N含有量は0.0070%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0060%であり、さらに好ましくは0.0055%であり、さらに好ましくは0.0050%である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。したがって、N含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
 本実施形態による弁ばねの芯部の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、弁ばねの素材となる鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の弁ばねに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
 [任意元素(optional element)について]
 本実施形態による弁ばねの芯部の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Nbを含有してもよい。
 Nb:0~0.020%
 ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nbは0%であってもよい。含有される場合、NbはC及び/又はNと結合して炭化物、窒化物、又は炭窒化物(以下、Nb炭窒化物等という)を生成する。Nb炭窒化物等は、オーステナイト結晶粒を微細化し、弁ばねの疲労限度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が0.020%を超えれば、粗大なNb炭窒化物等が生成して弁ばねの疲労限度が低下する。したがって、Nb含有量は0~0.020%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Nb含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.017%であり、さらに好ましくは0.016%である。
 [弁ばね中のV系析出物の数密度]
 本実施形態の弁ばねでは、芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmである。本明細書において、V系析出物の数密度とは、弁ばねの芯部から採取した厚さ100nmの薄膜試料を透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した場合における、観察面における、単位面積(1μm)あたりのV系析出物の個数を意味する。
 本明細書において、V系析出物とは、V、又は、V及びCrを含有する析出物である。V又はV及びCrを含有する炭化物をV炭化物と定義し、V又はV及びCrを含有する炭窒化物をV炭窒化物と定義する。V系析出物はたとえば、V炭化物又はV炭窒化物である。V系析出物は、V炭化物、及び、V炭窒化物のいずれかと他の1種以上の元素とを含有する複合析出物であってもよい。上述のとおり、V系析出物は、Crを含有しなくてもよい。V系析出物はフェライトの{001}面上に沿って板状に析出する。そのため、V系析出物は、フェライトの(001)面のTEM画像において、[100]方位又は[010]方位に平行に直線状に延びた線分(エッジ部分)として観察される。そのため、フェライトの(001)面のTEM画像を観察することにより、V系析出物をFe系炭化物(セメンタイト等)等の他の析出物と容易に区別でき、V系析出物を特定できる。
 本実施形態の弁ばねでは、最大径が2~10nmのナノサイズのV系析出物を多数析出することにより、疲労限度を高める。最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が500個/μm未満であれば、弁ばねにおいて十分な疲労限度が得られない。最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が500個/μm以上であれば、弁ばねにおいて疲労限度及び疲労限度比が顕著に高まる。最大径が2~10nmのV系析出物の数密度の好ましい下限は600個/μmであり、さらに好ましくは700個/μmであり、さらに好ましくは800個/μmである。最大径が2~10nmのV系析出物の数密度の上限は7500個/μmであってもよいし、7000個/μmであってもよい。
 なお、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度の上限は特に限定されない。しかしながら、上述の化学組成の場合、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度の上限は8000個/μmである。
 本実施形態による弁ばねにおける、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度は次の方法で求めることができる。本実施形態による弁ばねの線径方向に切断して、線径方向の表面(断面)を有し、厚さが0.5mmの円板を採取する。エメリー紙を用いて円板の両側から研削研磨を行い、円板の厚さを50μmとする。その後、円板の弁ばねの芯部に相当する部分(たとえば、円板中央部分)から、直径3mmのサンプルを採取する。サンプルを10%過塩素酸-氷酢酸溶液中に浸漬して、電解研磨を実施して、厚さ100nmの薄膜試料を作製する。
 作製された薄膜試料を、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察する。具体的には、初めに、薄膜試料に対して菊池線を解析して、薄膜試料の結晶方位を特定する。次に、特定した結晶方位に基づいて薄膜試料を傾斜させて、フェライト(体心立方格子)の(001)面を観察できるように、薄膜試料を設定する。具体的には、TEMに薄膜試料を挿入し、菊池線を観察する。菊池線のフェライトの[001]方向が電子線の入射方向と一致するように、薄膜試料の傾斜を調整する。調整後、実像を観察すると、フェライトの(001)面の垂直方向からの観察となる。設定後、薄膜試料の任意の4箇所の観察視野を特定し、観察倍率を200000倍とし、加速電圧を200kVとして各観察視野を観察する。観察視野は0.09μm×0.09μmとする。
 図1Aは、薄膜試料のフェライトの(001)面でのTEM画像の一例であり、図1Bは、薄膜試料のフェライトの(001)面でのTEM画像の模式図である。図中の[100]αと示された軸は、母相であるフェライトにおける[100]方位を意味する。図中の[010]αと示された軸は、母相であるフェライトにおける[010]方位を意味する。V系析出物はフェライトの{001}面上に沿って板状に析出する。(001)面のフェライト粒内において、V系析出物は、[100]方位、又は、[010]方位に直線状に延びた線分(エッジ部分)として観察される。TEM画像において、析出物は、母相と比較して、明度の低い黒色のコントラストで示される。したがって、フェライトの(001)面のTEM画像内において、[100]方位又は[010]方位に延びる黒色の線分を、V系析出物とみなす。観察視野において特定されたV系析出物の線分の長さを測定し、測定された長さを、そのV系析出物の最大径(nm)と定義する。たとえば、図1A及び図1B中の符号10(黒色の線分)がV系析出物である。
 上記測定により、4つの観察視野における、最大径が2~10nmのV系析出物の総個数を求める。求めたV系析出物の総個数と、4つの観察視野の総面積(0.0324μm)と基づいて、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度(個/μm)を求める。
 [弁ばねの芯部のミクロ組織]
 弁ばねの芯部のミクロ組織は、マルテンサイト主体の組織である。ここで、ミクロ組織がマルテンサイト主体の組織である、とは、ミクロ組織において、マルテンサイトの面積率が90.0%以上であることを意味する。なお、本明細書にいうマルテンサイトは、焼戻しマルテンサイトを意味する。弁ばねの芯部のミクロ組織において、マルテンサイト以外の相は、析出物、介在物、及び、残留オーステナイトである。
 マルテンサイトの面積率は、次の方法により求めることができる。本実施形態による弁ばねを線径方向に切断して、試験片を採取する。採取した試験片の表面のうち、線径方向の断面に相当する表面を観察面とする。観察面を鏡面研磨した後、2%硝酸アルコール(ナイタール腐食液)を用いて観察面をエッチングする。エッチングされた観察面のうち、弁ばねの表面から中心までの線分(つまり半径R)の中央位置を、R/2位置と定義する。観察面のR/2位置を、500倍の光学顕微鏡を用いて観察し、任意の5視野の写真画像を生成する。各視野のサイズは、100μm×100μmとする。
 各視野において、マルテンサイト、残留オーステナイト、析出物、介在物等の各相は、相ごとにコントラストが異なる。したがって、コントラストに基づいて、マルテンサイトを特定する。各視野でのマルテンサイトの総面積(μm)を求める。全ての視野の総面積(10000μm×5)に対する、全ての視野におけるマルテンサイトの総面積の割合を、マルテンサイトの面積率(%)と定義する。
 [Ca硫化物個数割合]
 本実施形態において、酸化物系介在物、硫化物系介在物、及びCa硫化物を次のとおり定義する。
 酸化物系介在物:質量%でO含有量が10.0%以上の介在物
 硫化物系介在物:質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物
 Ca硫化物:硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、S含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物
 酸化物系介在物はたとえば、SiO、MnO、Al、MgOからなる群から選択される1種又は2種以上である。酸化物系介在物は、SiO、MnO、Al、MgOからなる群から選択される1種又は2種以上と、他の合金元素とを含有する複合介在物であってもよい。硫化物系介在物はたとえば、MnS、CaSからなる群から選択される1種以上であり、さらに、MnS及びCaSからなる群から選択される1種以上と、他の合金元素とを含有する複合介在物であってもよい。Ca硫化物はたとえば、CaSであり、CaSに他の合金元素を含有する複合介在物であってもよい。
 弁ばねの芯部において、酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数に対するCa硫化物の個数割合をCa硫化物個数割合Rca(%)と定義する。つまり、Rcaは次の式で示される。
 Rca=Ca硫化物の個数/酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数×100 (1)
 本実施形態では、弁ばねの芯部において、Ca硫化物個数割合Rcaは0.20%以下である。ここで、弁ばねの芯部におけるCa硫化物個数割合Rcaとは、弁ばねを線径方向で切断したときの断面(つまり、線径方向に平行な断面)の半径をRmmとした場合、弁ばねの線径方向に平行な断面において、R/2位置でのCa硫化物個数割合Rcaを意味する。ここで、R/2位置とは、半径Rの中央位置に相当する位置である。
 図2は、本実施形態の化学組成を有する弁ばねにおける、Ca硫化物個数割合Rcaと、10回の繰返し回数における疲労限度(高サイクル疲労限度)との関係を示す図である。図2を参照して、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%超の場合、Ca硫化物個数割合Rcaが小さくなるにしたがって、高サイクル疲労限度は顕著に高まる。一方、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%以下の場合、Ca硫化物個数割合Rcaを小さくしても、高サイクル疲労限度はそれほど大きくならず、ほぼ一定になる。つまり、図2において、Ca硫化物個数割合Rca=0.20%において変曲点が存在する。
 以上のとおり、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%を超えれば、10回の繰返し回数における疲労限度(高サイクル疲労限度)が急速に低下する。Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%以下であれば、優れた高サイクル疲労限度が維持される。したがって、本実施形態の弁ばねにおいて、Ca硫化物個数割合Rcaは0.20%以下である。Ca硫化物個数割合Rcaの好ましい上限は0.19%であり、さらに好ましくは0.18%である。なお、Ca硫化物個数割合の下限は特に限定されないが、上述の化学組成の場合、Ca硫化物個数割合の下限はたとえば0%であり、たとえば0.01%である。
 Ca硫化物個数割合Rcaは次の方法で測定する。本実施形態による弁ばねの線径方向に切断して、試験片を採取する。採取した試験片の表面のうち、弁ばねの線径方向の断面に相当する表面を、観察面とする。観察面を鏡面研磨する。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で、鏡面研磨した観察面のうち、R/2位置の任意の10箇所の観察視野(各観察視野:100μm×100μm)を観察する。
 各観察視野でのコントラストに基づいて、各観察視野中の介在物を特定する。特定した各介在物に対して、エネルギー分散型X線分析(EDS)を用いて、酸化物系介在物、硫化物系介在物、及び、Ca硫化物を特定する。具体的には、介在物のEDSによる元素分析結果に基づいて、介在物のうち、質量%でO含有量が10.0%以上の介在物を「酸化物系介在物」と特定する。介在物のうち、質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物を「硫化物系介在物」と特定する。さらに、特定された硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、S含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物を「Ca硫化物」と特定する。
 上記特定の対象とする介在物は、円相当径が0.5μm以上の介在物とする。ここで、円相当径とは、各介在物の面積を、同じ面積を有する円に換算した場合の円の直径を意味する。円相当径がEDSのビーム径の2倍以上の介在物であれば、元素分析の精度が高まる。本実施形態において、介在物の特定に使用するEDSのビーム径は0.2μmとする。この場合、円相当径が0.5μm未満の介在物は、EDSでの元素分析の精度を高めることができない。円相当径0.5μm未満の介在物はさらに、弁ばねの疲労限度への影響が極めて小さい。したがって、本実施形態において、円相当径が0.5μm以上の介在物を、特定対象とする。酸化物系介在物、硫化物系介在物、及び、Ca硫化物の円相当径の上限は特に限定されないが、たとえば、100μmである。
 上記10箇所の観察視野で特定された酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数と、上記10箇所の観察視野で特定されたCa硫化物の総個数とに基づいて、式(1)を用いて、Ca硫化物個数割合Rca(%)を求める。
 Rca=Ca硫化物の個数/酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数×100 (1)
 以上のとおり、本実施形態の弁ばねは、芯部の化学組成中の各元素含有量が上述の本実施形態の範囲内であり、芯部において最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmであり、かつ、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%以下である。そのため、本実施形態の弁ばねは、優れた疲労限度を有する。
 [製造方法]
 以下、本実施形態の弁ばねの製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態の弁ばねは、上記構成を有すれば、製造方法は以下の製造方法に限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態の弁ばねを製造する好適な一例である。
 図3は、本実施形態の弁ばねの製造工程の一例を示すフロー図である。図3を参照して、本実施形態の弁ばねの製造方法は、線材準備工程(S10)と、鋼線準備工程(S20)と、弁ばね製造工程(S30)とを備える。以下、各工程について説明する。
 [線材準備工程(S10)]
 線材準備工程(S10)は、素材準備工程(S1)と、熱間加工工程(S2)とを含む。線材準備工程(S10)では、鋼線の素材となる線材を製造する。
 [素材準備工程(S1)]
 素材準備工程(S1)では、上述の化学組成を有する素材を製造する。ここでいう素材はブルーム、インゴットである。素材準備工程(S1)は、精錬工程と、鋳造工程とを含む。
 [精錬工程]
 精錬工程では、溶鋼の精錬及び溶鋼の成分調整を行う。精錬工程は一次精錬と二次精錬とを含む。一次精錬は転炉を用いた精錬であり周知の精錬である。二次精錬は取鍋を用いた精錬であり、周知の精錬である。二次精錬では、溶鋼に各種の合金鉄及び副原料(造滓剤)を添加する。一般に合金鉄及び副原料は、Caを種々の形態で含んでいる。そのため、弁ばね中のCa含有量及びCa硫化物個数割合Rcaを制御するためには、(A)合金鉄に含まれるCa含有量の管理、及び、(B)副原料の添加のタイミング、が重要である。
 [(A)について]
 上記(A)に関して、合金鉄中のCa含有量は高い。そして、Si脱酸した溶鋼の場合、溶鋼中でのCa歩留りが高い。そのため、二次精錬において、Ca含有量が高い合金鉄を添加すれば、溶鋼中にCa硫化物が過剰に生成し、Ca硫化物個数割合Rcaが増加する。具体的には、二次精錬において、溶鋼に添加する合金鉄中のCa含有量が質量%で1.0%を超えれば、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%を超えてしまう。したがって、二次精錬で溶鋼に添加する合金鉄中のCa含有量を1.0%以下とする。
 [(B)について]
 さらに、上記(B)に関して、副原料(造滓剤)を溶鋼に添加する。造滓剤は生石灰、ドロマイト、Ca酸化物を含有するリサイクルスラグ等である。精錬工程の二次精錬で溶鋼に添加された造滓剤中のCaは、Ca酸化物として造滓剤中に含まれている。そのため、造滓剤中のCaは、二次精錬中にスラグ中に取り込まれる。しかしながら、二次精錬末期に造滓剤を溶鋼に添加した場合、Caが十分に浮上せず、スラグに取り込まれることなく溶鋼中に残存する。この場合、Ca硫化物個数割合Rcaが増加する。したがって、造滓剤は二次精錬の末期よりも前に溶鋼に添加する。ここで、「二次精錬の末期よりも前」とは、二次精錬の精錬時間をt(分)と定義した場合、少なくとも二次精錬を開始したときから4t/5分経過するまでの時間を意味する。つまり、造滓剤は精錬工程における二次精錬の開始から0.80t分よりも前に溶鋼に添加する。
 以上の精錬工程を実施することにより、弁ばねの芯部でのCa硫化物個数割合Rcaが0.20%以下になる。
 [鋳造工程]
 上記精錬工程により製造された溶鋼を用いて、素材(ブルーム又はインゴット)を製造する。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造する。又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。このブルーム片又はインゴット(素材)を用いて、次工程の熱間加工工程(S2)を実施する。
 [熱間加工工程(S2)]
 熱間加工工程(S2)では、素材準備工程(S1)で準備された素材(ブルーム又はインゴット)に対して、熱間加工を実施して、弁ばね用の鋼材(線材)を製造する。
 熱間加工工程(S2)は、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程では、初めに、素材を加熱する。素材の加熱には、加熱炉又は均熱炉を用いる。加熱炉又は均熱炉により、素材を1200~1300℃に加熱する。たとえば、1200~1300℃の炉温で、1.5~10.0時間、素材を保持する。加熱後の素材を加熱炉又は均熱炉から抽出して、熱間圧延を実施する。粗圧延工程での熱間圧延ではたとえば、分塊圧延機を用いる。分塊圧延機により素材に対して分塊圧延を実施して、ビレットを製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が設置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。以上の工程により、粗圧延工程では、素材をビレットに製造する。
 仕上げ圧延工程では、粗圧延工程後のビレットに対して熱間圧延を実施して、線材を製造する。具体的には、ビレットを加熱炉に装入して、900~1250℃で加熱する。900~1250℃での炉温での加熱時間はたとえば、0.5~5.0時間である。加熱後のビレットを加熱炉から抽出する。抽出されたビレットに対して、連続圧延機を用いた熱間圧延を実施して、線材を製造する。線材の直径は特に限定されない。最終製品である弁ばねの線径に基づいて、線材の直径が決定される。以上の製造工程により、線材を製造する。
 [鋼線準備工程(S20)]
 鋼線準備工程(S20)では、弁ばねの素材となる鋼線を準備する。ここで、鋼線とは、熱間加工材(熱間圧延材)である線材に対して1回以上の伸線加工を実施した鋼材を意味する。鋼線準備工程(S20)は、必要に応じて実施されるパテンティング処理工程(S3)と、伸線加工工程(S4)と、調質処理工程(S5)とを含む。
 [パテンティング処理工程(S3)]
 パテンティング処理工程(S3)では、線材準備工程(S10)により製造された線材に対してパテンティング処理を実施して、線材のミクロ組織をフェライト及びパーライト組織とし、軟化する。パテンティング処理は周知の方法で実施すれば足りる。パテンティング処理での熱処理温度はたとえば、550℃以上であり、さらに好ましくは580℃以上である。パテンティングでの熱処理温度の上限は750℃である。なお、パテンティング処理工程(S3)は必須の工程ではなく、任意の工程である。つまり、パテンティング処理工程(S3)は実施しなくてもよい。
 [伸線加工工程(S4)]
 パテンティング処理工程(S3)を実施する場合、伸線加工工程(S4)では、パテンティング処理工程(S3)後の線材に対して、伸線加工を実施する。パテンティング処理工程(S3)を実施しない場合、伸線加工工程(S4)では、熱間加工工程(S2)後の線材に対して、伸線加工を実施する。伸線加工を実施することにより、所望の外径を有する鋼線を製造する。伸線加工工程(S4)は周知の方法で実施すればよい。具体的には、線材に対して潤滑処理を実施して、リン酸塩被膜や金属石鹸層に代表される潤滑被膜を線材の表面に形成する。潤滑処理後の線材に対して、常温で伸線加工を実施する。伸線加工では、周知の伸線機を用いればよい。伸線機は、線材を伸線加工するためのダイスを備える。
 [調質処理工程(S5)]
 調質処理工程(S5)では、伸線加工工程(S4)後の鋼線に対して、調質処理を実施する。調質処理工程(S5)は、焼入れ処理工程と、焼戻し処理工程とを含む。焼入れ処理工程では始めに、鋼線をAc3変態点以上に加熱する。加熱にはたとえば、高周波誘導加熱装置を用いる。加熱された鋼線を急冷する。急冷方法は水冷であってもよいし、油冷であってもよい。焼入れ処理工程により、鋼線のミクロ組織をマルテンサイト主体の組織とする。
 焼入れ処理工程後の鋼線に対して、焼戻し処理工程を実施する。焼戻し処理工程での焼戻し温度はAc1変態点以下である。焼戻し温度はたとえば、250~500℃である。焼戻し処理工程を実施することにより、鋼線のミクロ組織を焼戻しマルテンサイト主体の組織とする。以上の製造工程により、弁ばね用の鋼線を製造する。
 [弁ばね製造工程(S30)]
 弁ばね製造工程(S30)では、鋼線準備工程(S20)により製造された鋼線を用いて、弁ばねを製造する。弁ばね製造工程(S30)は、冷間コイリング工程(S6)と、歪取り焼鈍処理工程(S7)と、窒化処理工程(S8)と、V系析出物生成熱処理工程(S100)と、ショットピーニング工程(S9)とを備える。
 [冷間コイリング工程(S6)]
 冷間コイリング工程(S6)では、鋼線準備工程(S20)により製造された鋼線に対して、冷間でコイリングを実施して、弁ばねの中間鋼材を製造する。冷間コイリングは周知のコイリング装置を用いて製造する。コイリング装置はたとえば、複数の搬送ローラーセットと、ワイヤーガイドと、複数のコイル成型治具(コイリングピン)と、横断面が半円状の芯金とを備える。搬送ローラーセットは、互いに対向する一対のローラーを含む。複数の搬送ローラーセットは、一列に配列される。各搬送ローラーセットは、一対のローラー間に線材を挟み、鋼線をワイヤーガイド方向に搬送する。鋼線はワイヤーガイドを通る。ワイヤーガイドから出た鋼線は、複数のコイリングピン及び芯金により円弧状に曲げられ、コイル状の中間鋼材に成型される。
 [歪取り焼鈍処理工程(S7)]
 歪取り焼鈍処理工程(S7)は必須の工程である。歪取り焼鈍処理工程(S7)では、冷間コイリング工程(S6)により中間鋼材に生じる残留応力を除去するために、焼鈍処理を実施する。焼鈍処理における処理温度(焼鈍温度)はたとえば、400~500℃とする。焼鈍温度での保持時間は特に限定されないが、たとえば10~50分である。保持時間経過後、中間鋼材を常温まで放冷又は徐冷する。
 [窒化処理工程(S8)]
 窒化処理工程(S8)では、歪取り焼鈍処理工程(S7)後の中間鋼材に対して、窒化処理を実施する。窒化処理では、中間鋼材の表層に窒素を侵入させて、固溶窒素による固溶強化や、窒化物生成による析出強化により、中間鋼材の表層に窒化層(硬化層)を形成する。
 窒化処理は周知の条件で実施すれば足りる。窒化処理では、Ac1変態点以下の処理温度(窒化温度)で実施する。窒化温度はたとえば、400~530℃である。窒化温度での保持時間は1.0時間~5.0時間である。窒化処理を実施する炉内雰囲気は、十分に窒素の化学ポテンシャルが高くなるような雰囲気であれば特に限定されない。窒化処理の炉内雰囲気はたとえば、軟窒化処理のように浸炭性のガス(RXガス等)を混合した雰囲気としてもよい。
 [V系析出物生成熱処理工程(S100)]
 V系析出物生成熱処理工程(S100)では、窒化処理工程(S8)後の中間鋼材に対して、熱処理(V系析出物生成熱処理)を実施して、中間鋼材中に微細なV系析出物を生成する。V系析出物生成熱処理工程(S100)を実施することにより、弁ばねの芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度を500~8000個/μmとする。
 V系析出物生成熱処理では、熱処理温度T(℃)を540~650℃とする。熱処理温度T(℃)での保持時間t(分)は特に限定されないが、たとえば、5/60(つまり、5秒)~50分である。
 V系析出物生成熱処理での熱処理温度Tは、窒化処理での窒化温度よりも高くてもよい。従前の弁ばねの製造工程では、調質処理工程後の熱処理(歪取り焼鈍処理工程等)では、窒化処理の窒化温度よりも低い温度で熱処理を実施している。これは、従前の弁ばねの製造工程が、鋼材の強度及び硬さを高く維持することにより疲労限度を高める、という技術思想に基づいているためである。窒化処理を実施する場合、窒化温度までの加熱は必要となる。そのため、従来の製造工程では、窒化処理工程以外の他の熱処理工程ではなるべく、窒化温度未満の熱処理温度として、鋼材の強度の低下を抑えていた。一方、本実施形態の弁ばねでは、鋼材の強度を高めることにより疲労限度を高めるという技術思想ではなく、ナノサイズの微細なV系析出物を多数生成することにより疲労限度を高める技術思想を採用する。そのため、V系析出物生成熱処理では、熱処理温度TをV系析出物が生成しやすい温度域の540~650℃に設定する。熱処理温度Tの好ましい下限は、550℃であり、さらに好ましくは560℃であり、さらに好ましくは565℃であり、さらに好ましくは570℃である。
 V析出物生成熱処理ではさらに、次の式(2)で定義されるFnが27.0~40.0となるようにする。
 Fn=T×{t1/8+(2Cr+Mo+4V)}/100 (2)
 式(2)中のTは、V系析出物生成熱処理での熱処理温度(℃)であり、tは熱処理温度Tでの保持時間(分)である。式(2)中の各元素記号には、弁ばねの芯部の化学組成(つまり、鋼線の化学組成)のうちの対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
 V系析出物の析出量は、熱処理温度T(℃)及び保持時間t(分)だけでなく、V系析出物の生成に寄与する元素である、Cr、Mo及びVの含有量の影響を受ける。
 具体的には、V系析出物の生成は、Cr及びMoにより促進される。その理由は定かではないが、次の理由が考えられる。CrはV系析出物が生成する温度域よりも低い温度域においてセメンタイト等のFe系炭化物又はCr炭化物を生成する。Moも同様に、V系析出物が生成する温度域よりも低い温度域において、Mo炭化物(MoC)を生成する。温度の上昇に伴い、Fe系炭化物、Cr炭化物、及び、Mo炭化物が固溶して、V系析出物の析出核生成サイトとなる。その結果、熱処理温度Tにおいて、V析出物の生成が促進される。
 弁ばねの芯部の化学組成(つまり、鋼線の化学組成)中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、Fnが27.0未満である場合、V系析出物生成熱処理において、V系析出物の生成が不十分となる。この場合、製造された弁ばねの芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500個/μm未満となる。一方、弁ばねの芯部の化学組成(鋼線の化学組成)中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、Fnが40.0を超える場合、生成したV系析出物が粗大化してしまう。この場合、製造された弁ばねの芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500個/μm未満となる。
 弁ばねの化学組成(鋼線の化学組成)中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、Fnが27.0~40.0である場合、製造された弁ばねの芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmとなる。
 Fnの好ましい下限は27.5であり、さらに好ましくは28.0であり、さらに好ましくは28.5であり、さらに好ましくは29.0である。Fnの好ましい上限は39.5であり、さらに好ましくは39.0であり、さらに好ましくは38.5であり、さらに好ましくは38.0である。
 [ショットピーニング工程(S9)]
 ショットピーニング工程(S9)は必須の工程である。ショットピーニング工程(S9)では、中間鋼材の表面に対してショットピーニングを実施する。これにより、弁ばねの表層に圧縮残留応力が付与され、疲労限度をさらに高めることができる。ショットピーニングは周知の方法で実施すればよい。ショットピーニングにはたとえば、直径が0.01~1.5mmの投射材を用いる。投射材はたとえば、スチールショット、スチールビーズ等であり、周知のものを利用すればよい。投射材の直径、投射速度、投射時間、及び、単位時間当たりの単位面積への投射量に応じて、弁ばねに付与する圧縮残留応力を調整する。
 以上の製造工程により、本実施形態の弁ばねを製造できる。本実施形態の弁ばねでは、芯部の化学組成における各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmである。さらに、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%以下である。そのため、高サイクルでの優れた疲労限度が得られる。
 なお、上述の製造フロー(図3)では、V系析出物生成熱処理工程(S100)は窒化処理工程(S8)後としている。しかしながら、V系析出物生成熱処理工程(S100)は、調質処理工程(S5)の焼入れ処理工程後であれば、どの段階で実施してもよい。たとえば、窒化処理工程(S8)後であって、ショットピーニング工程(S9)前にV系析出物生成熱処理工程(S100)を実施せずに、ショットピーニング工程(S9)後にV系析出物生成熱処理工程(S100)を実施してもよい。また、窒化処理工程(S8)後であって、ショットピーニング工程(S9)前にV系析出物生成熱処理工程(S100)を実施せずに、調質処理工程(S5)後であって、冷間コイリング工程(S6)前にV系析出物生成熱処理工程(S100)を実施してもよい。さらに、調質処理工程(S5)の焼戻し処理工程に代えて、焼入れ処理工程後に、V系析出物生成熱処理工程(S100)を実施してもよい。この場合、V系析出物生成熱処理工程(S100)は、焼戻し処理工程を兼ねる。焼戻し処理工程に代えて、焼入れ処理工程後に、V系析出物生成熱処理工程(S100)を実施した場合、窒化処理工程(S8)後にV系析出物生成熱処理工程(S100)を実施しなくてよい。
 なお、本実施形態の弁ばねの製造者は、第三者から線材の供給を受けて、準備された線材を用いて鋼線準備工程(S20)及び弁ばね製造工程(S30)を実施してもよい。弁ばねの製造者は、第三者から鋼線の供給を受けて、準備された鋼線を用いて弁ばね製造工程(S30)を実施してもよい。
 実施例により本実施形態の弁ばねの効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の弁ばねの実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の弁ばねはこの一条件例に限定されない。
 表1の化学組成を有する溶鋼を製造した。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 表1中の「-」部分は、対応する元素含有量が検出限界未満であったことを意味する。つまり、対応する元素が含有されていなかったことを意味する。たとえば、鋼種番号AのNb含有量は、小数第四位で四捨五入した場合に「0」%であったことを意味する。表1に記載の鋼種番号の化学組成では、表1に記載の元素以外の残部はFe及び不純物であった。溶鋼を製造するときの精錬条件(二次精錬で溶鋼に添加する合金鉄中のCa含有量(質量%)、及び、二次精錬での精錬時間をt(分)とした場合の、二次精錬開始から造滓剤を添加するまでの時間)は、表2に示すとおりであった。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 精錬後の溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造した。この鋳片を加熱した後、粗圧延工程である分塊圧延及びその後の連続圧延機による圧延を実施して、長手方向に垂直な断面が162mm×162mmのビレットを製造した。分塊圧延での加熱温度は1200~1250℃であり、加熱温度での保持時間は2.0時間であった。
 製造されたビレットを用いて、仕上げ圧延工程を実施して、直径5.5mmの線材を製造した。仕上げ圧延工程における各試験番号の加熱炉での加熱温度は1150~1200℃であり、加熱温度での保持時間は1.5時間であった。
 製造された線材に対して、パテンティング処理を実施した。パテンティング処理での熱処理温度は650~700℃であり、熱処理温度での保持時間は20分であった。パテンティング処理後の線材に対して、伸線加工を実施し、直径4.0mmの鋼線を製造した。製造された鋼線に対して、焼入れ処理を実施した。焼入れ温度は950~1000℃であった。保持時間経過後の鋼線に対して水冷を実施した。焼入れ後の鋼線に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は480℃であった。以上の工程により、各試験番号の鋼線を製造した。
 製造された鋼線に対して、弁ばね製造工程を実施した。具体的には、各試験番号の鋼線に対して同じ条件で冷間コイリングを実施して、コイル状の中間鋼材を製造した。中間鋼材に対して、歪取り焼鈍処理を実施した。歪取り焼鈍処理での焼鈍温度は450℃であり、焼鈍温度での保持時間は20分であった。保持時間経過後、中間鋼材を放冷した。
 歪取り焼鈍処理後の中間鋼材に対して、窒化処理を実施した。窒化温度を450℃とし、窒化温度での保持時間を5.0時間とした。窒化処理後の中間鋼材に対して、V系析出物生成熱処理を実施した。
 V系析出物生成熱処理での熱処理温度T、熱処理温度T(℃)での保持時間t(分)、及びFn値は表2に示すとおりであった。V系析出物生成熱処理を実施した後、周知の条件でショットピーニングを実施した。初めに、投射材として直径が0.8mmのカットワイヤーを用いてショットピーニングを実施した。次に、投射材として直径が0.2mmのスチールショットを用いてショットピーニングを実施した。一段目及び二段目のショットピーニングでの投射速度、投射時間、及び、単位時間当たりの単位面積への投射量については、各試験番号で同じとした。なお、試験番号10については、V系析出物生成熱処理を実施せず、窒化処理後の中間鋼材に対して、上述のショットピーニングを実施した。
 以上の製造工程により、弁ばねを製造した。製造された各試験番号の弁ばねに対して、次の評価試験を実施した。
 [ミクロ組織観察試験]
 各試験番号の弁ばねを線径方向に切断して、試験片を採取した。採取した試験片の表面のうち、線径方向の断面に相当する表面を観察面とした。観察面を鏡面研磨した後、2%硝酸アルコール(ナイタール腐食液)を用いて観察面をエッチングした。エッチングされた観察面のR/2位置を、500倍の光学顕微鏡を用いて観察し、任意の5視野の写真画像を生成した。各視野のサイズは、100μm×100μmとした。各視野において、マルテンサイト、残留オーステナイト、析出物、介在物等の各相は、相ごとにコントラストが異なる。そこで、コントラストに基づいて、マルテンサイトを特定した。各視野で特定されたマルテンサイトの総面積(μm)を求めた。全ての視野の総面積(10000μm×5)に対する、全ての視野におけるマルテンサイトの総面積の割合を、マルテンサイトの面積率(%)と定義した。求めたマルテンサイトの面積率を表2に示す。いずれの試験番号においても、マルテンサイト面積率は90.0%以上であった。
 [V系析出物の数密度測定試験]
 各試験番号の弁ばねの線径方向に切断して、線径方向の表面(断面)を有し、厚さが0.5mmの円板を採取した。エメリー紙を用いて円板の両側から研削研磨を行い、円板の厚さを50μmとした。その後、円板の中央部分(弁ばねの芯部に相当する部分)から直径3mmのサンプルを採取した。サンプルを10%過塩素酸-氷酢酸溶液中に浸漬して、電解研磨を実施して、厚さ100nmの薄膜試料を作製した。
 作製された薄膜試料を、透過電子顕微鏡で観察した。初めに、薄膜試料に対して菊池線を解析して、薄膜試料の結晶方位を特定した。次に、特定した結晶方位に基づいて薄膜試料を傾斜させて、フェライト(体心立方格子)の(001)面を観察できるように、薄膜試料を設定した。具体的には、TEMに薄膜試料を挿入し、菊池線を観察した。菊池線のフェライトの[001]方向が電子線の入射方向と一致するように、薄膜試料の傾斜を調整した。調整後、実像を観察すると、フェライトの(001)面の垂直方向からの観察となった。設定後、薄膜試料の任意の4箇所の観察視野を特定し、観察倍率を200000倍とし、加速電圧を200kVとして各観察視野を観察した。観察視野は0.09μm×0.09μmとした。
 TEM画像において、析出物は、母相と比較して、明度の低い黒色のコントラストで示される。したがって、フェライトの(001)面のTEM画像内において、[100]方位又は[010]方位に延びる黒色の線分を、V系析出物とみなした。観察視野において特定されたV系析出物の線分の長さを測定し、測定された長さを、そのV系析出物の最大径と定義した。
 上記測定により、4つの観察視野における、最大径が2~10nmのV系析出物の総個数を求めた。求めたV系析出物の総個数と、4つの観察視野の総面積(0.0324μm)とに基づいて、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度(個/μm)を求めた。求めたV系析出物の数密度を表2中の「V系析出物数密度(個/μm)」欄に示す。「V系析出物数密度(個/μm)」欄中の「-」は、数密度が0個/μmであったことを意味する。
 [Ca硫化物個数割合Rca測定試験]
 各試験番号の弁ばねの線径方向に切断して、試験片を採取した。採取した試験片の表面のうち、弁ばねの線径方向の断面に相当する表面を、観察面とした。観察面を鏡面研磨した。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で、鏡面研磨した観察面のうち、R/2位置の任意の10箇所の観察視野(各観察視野:100μm×100μm)を観察した。
 各観察視野でのコントラストに基づいて、各観察視野中の介在物を特定した。特定した各介在物に対して、EDSを用いて、酸化物系介在物、硫化物系介在物、及び、Ca硫化物を特定した。具体的には、介在物のEDSによる元素分析結果に基づいて、介在物のうち、質量%でO含有量が10.0%以上の介在物を「酸化物系介在物」と特定した。介在物のうち、質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物を「硫化物系介在物」と特定した。さらに、特定された硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、S含有量が10.0%以上であり、かつ、O含有量が10.0%未満の介在物を「Ca硫化物」と特定した。
 上記特定の対象とする介在物は、円相当径が0.5μm以上の介在物とした。介在物の特定に使用するEDSのビーム径は0.2μmとした。上記10箇所の観察視野で特定された酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数と、上記10箇所の観察視野で特定されたCa硫化物の総個数とに基づいて、式(1)を用いて、Ca硫化物個数割合Rca(%)を求めた。
 Rca=Ca硫化物の個数/酸化物系介在物及び硫化物系介在物の総個数×100 (1)
 [ビッカース硬さ測定試験]
 各試験番号の弁ばねの芯部の硬さをビッカース硬さ試験により求めた。具体的には、各試験番号の弁ばねの線径方向の断面の任意のR/2位置(Rは半径)の3箇所で、JIS Z 2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は0.49Nとした。得られた3箇所のビッカース硬さの算術平均値を、その試験番号の弁ばねの芯部のビッカース硬さとした。
 [疲労試験]
 各試験番号の弁ばねを使用して、次に示す疲労試験を実施した。疲労試験では、コイル状の弁ばねの中心軸方向に、繰返し負荷を与える圧縮疲労試験を実施した。試験機として、電気油圧サーボ型疲労試験機(荷重容量500kN)を用いた。
 試験条件は、応力比0.2を負荷とし、周波数は1~3Hzとした。繰返し回数は10回を上限として、弁ばねが破断するまで実施した。10回まで弁ばねが破断しない場合、そこで試験を打ち切り、未破断と判断した。ここで、10回で未破断の試験応力の最大値をFとして、F以上で10回に到達する前に破断した試験応力の最小値とFとした。FとFとの算術平均値をFとし、(F-F)/F≦0.10となった場合のFを、疲労限度(MPa)と定義した。一方、試験の結果、全て破断した場合、すなわち、Fが得られなかった場合、破断寿命と試験応力との関係から10回の寿命に相当する試験応力を外挿し、得られた試験応力を疲労限度(MPa)と定義した。ここで、試験応力は、破断位置の表面応力振幅に相当した。各試験番号の弁ばねについて、上述の定義と評価試験に基づき、高サイクルでの疲労限度(MPa)を求めた。さらに、得られた疲労限度及び芯部のビッカース硬さを用いて、疲労限度比(=疲労限度/芯部のビッカース硬さ)を求めた。
 [試験結果]
 表2に試験結果を示す。表2を参照して、試験番号1~13は、化学組成が適切であり、かつ、製造工程も適切であった。そのため、弁ばねの芯部のミクロ組織では、マルテンサイト面積率が90.0%以上であった。さらに、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度はいずれも500~8000個/μmであった。さらに、Ca硫化物個数割合Rcaが0.20%以下であった。そのため、高サイクルでの弁ばねの疲労限度は1450MPa以上であった。さらに、弁ばねの疲労限度比(=疲労限度/芯部のビッカース硬さ)は2.50以上であった。
 一方、試験番号14では、Si含有量が低すぎた。そのため、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満と低かった。
 試験番号15では、V含有量が低すぎた。そのため、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が少なすぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満となった。
 試験番号16では、Caが含有されなかった。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比も2.50未満となった。
 試験番号17では、Ca含有量が高すぎた。そのため、Ca硫化物個数割合が高すぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満となった。
 試験番号18及び19では、化学組成は適切であるものの、V系析出物生成熱処理を実施しなかった。そのため、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が少なすぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満となった。
 試験番号20及び21では、化学組成は適切であるものの、V系析出物生成熱処理での熱処理温度が低すぎた。そのため、V系析出物は析出していなかった。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満となった。
 試験番号22では、化学組成は適切であるものの、V系析出物生成熱処理での熱処理温度が高すぎた。そのため、V系析出物が粗大化し、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が少なすぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満と低かった。
 試験番号23では、精錬工程において、二次精錬で溶鋼に添加する合金鉄中のCa含有量が1.0%を超えた。そのため、Ca硫化物個数割合が高すぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満となった。
 試験番号24では、精錬工程の二次精錬において、造滓剤の溶鋼への添加タイミングが、二次精錬を開始したときから4/5t(つまり、0.80t)を経過した後であった。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満となった。
 試験番号25では、化学組成は適切であり、かつ、V系析出物生成熱処理での熱処理温度が適切であったものの、Fnが27.0未満であった。そのため、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が少なすぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満であった。
 試験番号26では、化学組成は適切であり、かつ、V系析出物生成熱処理での熱処理温度が適切であったものの、Fnが40.0を超えた。そのため、最大径が2~10nmのV系析出物の数密度が少なすぎた。その結果、高サイクルでの疲労限度が低く、疲労限度比が2.50未満であった。
 以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (2)

  1.  表層に形成されている窒化層と、
     前記窒化層よりも内部の芯部とを備え、
     前記芯部の化学組成は、質量%で、
     C:0.53~0.59%、
     Si:2.51~2.90%、
     Mn:0.70~0.85%、
     P:0.020%以下、
     S:0.020%以下、
     Cr:1.40~1.70%、
     Mo:0.17~0.53%、
     V:0.23~0.33%、
     Ca:0.0001~0.0050%、
     Cu:0.050%以下、
     Ni:0.050%以下、
     Al:0.0050%以下、
     Ti:0.050%以下、
     N:0.0070%以下、
     Nb:0~0.020%、及び、
     残部がFe及び不純物からなり、
     前記芯部において、最大径が2~10nmであるV系析出物の数密度が500~8000個/μmであり、
     前記芯部中の介在物のうち、
     質量%でO含有量が10.0%以上の介在物を酸化物系介在物と定義し、
     質量%でS含有量が10.0%以上であり、かつ、前記O含有量が10.0%未満の介在物を硫化物系介在物と定義し、
     前記硫化物系介在物のうち、質量%でCa含有量が10.0%以上であり、かつ、前記S含有量が10.0%以上であり、かつ、前記O含有量が10.0%未満の介在物をCa硫化物と定義したとき、
     前記芯部において、前記酸化物系介在物及び前記硫化物系介在物の総個数に対する前記Ca硫化物の個数割合が0.20%以下である、
     弁ばね。
  2.  請求項1に記載の弁ばねであって、
     前記芯部の前記化学組成において、
     Nb含有量は0.005~0.020%である、
     弁ばね。
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