JP2010201092A - 部分義歯 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】人工歯と、人工歯が設けられる義歯床20と、鉤歯にあてがわれるように嵌め合わせる凹状嵌め合わせ部C1,C2,C3を備える部分義歯であって、凹状嵌め合わせ部を含めて、熱可塑性樹脂の一体射出成形加工によって形成され、凹状嵌め合わせ部は、鉤歯に対応する部分をC字状に囲んでおり、そのC字の内周に沿う内周面は、凹状嵌め合わせ部の裏面に対して交差するように立っていることを特徴とする。
【選択図】 図1
Description
これらの部分義歯150は、図14に示すように、人工歯以外はすべて熱可塑性樹脂で形成される。図14から分かるように、維持力を得るための鉤歯(生活歯)は、四周をほとんど囲まれた開口部161hに入れられ、大振りの義歯床120の延長部分のウィングWと、義歯床の舌側部分とで鉤歯の歯牙および歯茎が挟み付けられる。部分義歯150を装着したとき、四周をほとんど囲まれた開口部161hに鉤歯が入り、鉤歯の周囲は周長の90%程度もしくはそれ以上が、義歯床120に取り囲まれる。
1つは、半透明なために外側から識別できるのであるが、鉤歯の歯牙−歯茎の境目である凹状屈曲部に埋め込まれる、ノンクラスプデンチャーにおける突状ラインZが認められる。図15(a)では、破線Zとして表記されている。突状ラインZは、患者の鉤歯(生活歯)の歯牙と歯茎との境界をなす凹状屈曲部にはまり込む。ノンクラスプデンチャー150のウィングWにおける突状ラインZの位置から、ウィングWが鉤歯の歯牙だけでなく、その根本側の歯茎にも当接することは明らかである。
2つ目は、端部人工歯に関するものである。人工歯L5、L6は、熱可塑性樹脂製の義歯床120に埋め込まれて固定されている。端部人工歯に限らず、人工歯にはT字状の連続孔が設けられており、このT字状の孔を樹脂が充填することでT字状の樹脂ワイヤが形成され、この樹脂ワイヤにより、人工歯は義歯床に固定される。鉤歯に対面する人工歯を端部人工歯と呼ぶが、図15(a)の人工歯L5およびL6は、それぞれ鉤歯L4およびL7に対面しており、ともに端部人工歯である。ノンクラスプデンチャー150では、端部人工歯L5,L6の部分の義歯床120を大きくとるために、かつ鉤歯の歯茎を挟み付けるウィングWを大きくとるために、端部人工歯の義歯床の頬側の高さBeは、端部人工歯の義歯床から露出している歯牙部分Teよりも大きくとっている。
上記の2点は、ノンクラスプデンチャー150の左側(L側)部分だけでなく、図15(b)に示すように、右側(R側)部分についてもいえることである。すなわち図15(b)において、鉤歯R5の部分のウィングWには透けて見える突状ラインZがあり、そして鉤歯R5に対面する端部人工歯R6の義歯床120の頬側高さBeは、その義歯床120から露出した歯牙部の高さTeより大きくしてある。
(1)鉤歯は、四周をほとんど取り囲まれた開口部161hに入れられる。鉤歯の周囲は周長の90%程度が義歯床に取り囲まれる。
(2)鉤歯に接触するウィングWは、鉤歯の歯牙と歯茎とに当接する。ウィングWには、鉤歯の歯牙と歯茎との凹状境界部に対応して、突状ラインZが形成される。突状ラインZはウィングの中央付近に位置する。
(3)鉤歯に対面する人工歯である端部人工歯において、その部分の義歯床の高さBeはその義歯床から露出する歯牙部分の高さTeより大きい。
(4)鉤歯に接触するウィングWにおいて、歯牙当接面と歯茎当接面とは大きな交差角度がなく、突状ラインZを挟んで、ほとんど同一面のように連続する。
(5)ウィングWの厚みdは、そのウィングWの高さYの20%程度もしくはそれ以下である。厚みdはたとえば1mm程度以下であり、高さYは6.5mm程度である。
(K1)頬側にウィングWを配置して、舌側の義歯床との間で鉤歯とその歯茎(歯肉)を挟み付け、その弾性力で維持力を確保しようとする。
(K2)大ぶりの義歯床(熱可塑性樹脂)120と顎堤粘膜との大きい密着面積によって、維持力を得ようとする。
(K3)義歯床は、人工歯の部分では、義歯床は、顎堤粘膜をほぼ完全に覆うように義歯床を配置する。このため、義歯床は薄くして、とくに頬側の義歯床の厚みは薄くして、かつ広くする。美容上、健康を暗示する桜色、またはピンクの義歯床にするのが通例である。
上記の部分義歯150によれば、従来の鉤状の金属クラスプによる拘束よりは維持歯の負担が軽減され、装着感も改善される。また、金属クラスプを使用しないため、熱可塑性樹脂の色を桜色などの健康食にすれば、審美性も向上する。また、金属製クラスプを用いないので、溶融状態の熱可塑性樹脂を人工歯を配置した型内に射出して、冷却して型外し、調整することで、簡単に部分義歯を製造することができる。すなわち工程数を節減して能率よく製造することができる。
凹状嵌め合わせ部の内周面は、底部側を裏面によって限界づけられ、歯茎側に野放図に延びないようにされる。凹状嵌め合わせ部が、歯牙部分にのみ嵌合力が及ぶように構成されると、食物を噛んだとき、歯肉側に押し付けられるが、反発しても歯牙の豊隆部で止められるので、がたつき等を生じて簡単に離脱することがない。
これに対して、凹状嵌め合わせ部が山状斜面をなす歯肉部に当接して圧力を及ぼすと、熱可塑性樹脂は弾力性に富むため、食物を噛んだときその斜面に押し当てられ、ずり下がりながら広げられ、その後、咬合圧が無くなると、歯肉斜面のすその義歯床部分の反発力により、斜面を容易にずり上がり離脱の状態に入る。このため、従来のノンクラスプデンチャーでは、維持力を増すことを目的に設けたウィング等の大振りの部分が歯肉斜面に当たるので、逆に離脱を促進する方向に作用する。
上記本発明の構成の結果、熱可塑性樹脂の一体射出成形による製造方法による工程数の節減による経済性向上などの利点を得ながら、装着状態からの離脱を確実に防止することができる。さらに、歯茎にあたるウィング等を用いないので、窮屈感等を除き、快適な装着感を得ることができる。
なお、上記の凹状嵌め合わせ部は、義歯床などと一体射出成形加工で熱可塑性樹脂により形成されるので、義歯床の延長部とみることができる。このため、凹状嵌め合わせ部の裏面は、義歯床の延長部の裏面、または義歯床に近接して凹状嵌め合わせ部が形成される場合は、義歯床の裏面といってもよい。また、上記の熱可塑性樹脂はどのような種類の熱可塑性樹脂であってもよい。
図1は、本発明の実施の形態1における部分義歯10を石膏模型Mに装着した状態を示す斜視図である。この部分義歯10は、上顎用であり、義歯床20と、樹脂製の人工歯31と、鉤歯(維持歯)への凹状嵌め合せ部C1,C2,C3とを備える。残存歯である鉤歯は、R5、R3およびL7の3本であり、それぞれの鉤歯に、次の凹状嵌め合わせ部が嵌め合わされている。
鉤歯L7:凹状嵌め合わせ部C1
鉤歯R5:凹状嵌め合わせ部C2
鉤歯R3:凹状嵌め合わせ部C3
図2は、図1の部分義歯10を表面側から見た斜視図である。凹状嵌め合わせ部C1における内周面Fが鉤歯の歯牙部分にのみ嵌め合わされる。内周面Fが鉤歯の歯牙当接面である。上記の凹状嵌め合わせ部C1と、凹状嵌め合わせ部C2,C3とは、図2に示すように、次の点で異なる形状を持つ。
(凹状嵌め合わせ部C1):
鉤歯の頬側に延び出る頬側延び出し部11と、鉤歯の舌側に延び出る舌側延び出し部21とで構成される。舌側部分については、延び出し部ではなく壁状部分で形成されたものであってもよい。頬側延び出し部11を持つタイプの凹状嵌め合わせ部を「延び出し構造の嵌め合わせ部」または単に「延び出し構造」と呼ぶ。
(凹状嵌め合わせ部C2,C3):
鉤歯の舌側および該鉤歯の近心側および遠心側の両側部に当接する義歯床の壁状部分33,34,35により構成される。このタイプの凹状嵌め合わせ部を「壁状構造の嵌め合わせ部」または単に「壁状構造」と呼ぶ。
また、本発明の部分義歯10には、レスト等は不要であり、上記の凹状嵌め合せ部C1,C2,C3により維持力を生じさせる。図1に示す、凹状嵌め合せ部C1,C2,C3に関する装着方法ならびにキーおよびロックなどの用語については、あとで、装着状態の安定性に関連して説明する。
図1において、凹状嵌め合せ部C1は、水平方向または横方向から嵌め合わされ、凹状嵌め合せ部C2,C3は、上下方向または縦方向から嵌め合わされる。ここで、注意すべき点は、嵌め合わせと脱離の方向は、単純な上下方向または縦方向ではなく、複雑な軌跡を描きながら嵌め合わされ、また脱離される。この点で、従来の部分義歯の装着および脱離の仕方とは大きく異なる。そして、一方の凹状嵌め合せ部C1の嵌め合わせ方向と、他方の凹状嵌め合せ部C2,C3の嵌め合わせ方向とが異なる点が重要である。一方をキー、他方をロックと呼ぶ場合がある。使用者の口腔内の状態によっては、両方とも水平方向を嵌め合わせ方向とするが、両者の方向は、水平面内において、あくまで異なる。なお、本発明の実施の形態における部分義歯では、説明の簡明さを重視して、脱着方向を縦方向、横方向などと記すが、実情は全ての部分義歯において上記のように複雑な軌跡を描く。
上記の内周面Fが義歯床裏面20bによって根本側の限界を決められるという点に、従来のノンクラスプデンチャーとは、構造において大きな相違が生じる。図17および図18に示したノンクラスプデンチャー150のウィングWのように、歯牙当接面Fとその根本側に連続する面(歯茎当接面Bv)とがなす角度は、ほとんど180°である。すなわち、歯牙部分にのみ当接する部分Fは、その根本側の限界を決められるということはなく、むしろ根本側に延長する。その延長する部分として、歯茎当接部Bvが設けられている。歯牙部分にのみ当接する部分Fから連続して、歯茎に当接する部分Bvに連続して延長するためには、鉤歯の歯牙部分と歯茎部との境目の凹状屈曲部に対応する突状ラインができるのは必然である。このため、従来のノンクラスプデンチャー150のウィングWには、図17および図18に示すように突状ラインZが設けられる。本発明の部分義歯10では、突状ラインZは勿論ない。本実施の形態の部分義歯10は、突状ラインより頂部側の部分のみで、維持力を生じさせることができるように、ノンクラスプデンチャー150とは構造が基本的に相違する。
これに対して、従来のノンクラスプデンチャー150では、図15(a),(b)に示すように、端部人工歯L5,L6,R6の義歯床の頬側の部分である頬側義歯床部の高さBeは、それぞれの端部人工歯の義歯床から露出する頬側の歯牙部分である頬側露出歯牙部の高さTe、よりも大きい。これは、ノンクラスプデンチャー150では、ウィングWを鉤歯の歯牙および歯茎の両方に当接するように大きくして、かつ義歯床120も大振りにすることの帰結である。本実施の形態における部分義歯10の考え方と、ノンクラスプデンチャー150の考え方との相違を表す構造上の特徴の一つといえる。
図4(b)は、図4(a)におけるIVb−IVb線に沿う断面図である。この断面位置は、頬側延び出し部11の中央付近である。この断面図によれば、厚みdが、その部分の高さ(幅)Yの30%以上あることは明白である。これによって、頬側延び出し部11は大きな剛性を持つことができ、嵌め合わされた状態を安定に維持することが可能になる。すなわち、薄い面状の当接部(ウィング)でなく、分厚い凹状嵌め合わせ部によって、鉤歯への嵌め合わせをより安定させることができる。長期間の使用に対する耐久性も向上させることができる。
ここで、図4(b)に示すように、凹状嵌め合わせ部C1の頬側延び出し部11には裏面といえるほどの面状部分が形成されず、側面へと湾曲している。頬側延び出し部では、このような裏面がないといってよい形態の凹状嵌め合わせ部の構造になりやすい。この場合、頬側延び出し部11に近接する義歯床の裏面20bをマクロ的に見て、上記の裏面とみなすことができる(図3(a)参照)。このマクロ的に見て義歯床裏面20bと、頬側延び出し部11の内周面Fとのなす角度が、60°〜150°の範囲内にあればよく、図3(a)より、上記角度は、あきらかにこの角度範囲内にある。
(1)壁状構造タイプの凹状嵌め合わせ部C2,C3は、鉤歯の舌側部33と、近心側部34と、遠心側部35とで形成される。この構造は、延び出し構造タイプの凹状嵌め合わせ部C1とは異なる。
(2)壁状構造の凹状嵌め合わせ部C2,C3の内周面Fは、その根本側を義歯床裏面20bに画され(限界づけられ)、義歯床裏面20bに対して交差するように立っている。見方を変えて、義歯床20を曲面状板状体とみなすと、内周面Fは、その板状体を凹状にえぐることで形成された側端面とみることができる。そして、内周面Fと、凹状嵌め合わせ部の裏面または義歯床裏面20bとのなす角度は、直角に近く、明らかに(直角−30°)〜(直角+60°)の範囲にある。これは、延び出し構造の凹状嵌め合わせ部C1でも同様であった。
(3)内周面Fは、幅(高さ方向)は短く切り上がっていて、鉤歯の歯牙と歯茎との境界の凹状屈曲部に対応する突状ラインはない。これも、延び出し構造の凹状嵌め合わせ部C1と同様である。
(4)図7に示すように、凹状嵌め合わせ部C2,C3は、それぞれ、鉤歯R3およびR5の周囲の周長の65%以下に嵌め合わされている。この周長の制限も、延び出し構造の凹状嵌め合わせ部C1と同じである。
(5)端部人工歯R2,R6について、その端部人工歯の頬側露出部の高さTeは、その根本側の頬側義歯床部の高さBeよりも大きい。すなわち、Te>Be、が満たされている。この構造も、延び出し構造の凹状嵌め合わせ部C1と同じである。
上記(1)のように、壁状構造の凹状嵌め合わせ部C2,C3は、形状は、延び出し構造の凹状嵌め合わせ部C1と異なるが、その構造上の特徴である上記(2)〜(5)は同じである。上記(2)〜(5)の構造についての作用効果も、当然、同じである。
(本実施の形態の部分義歯10):
(1)図8は、本実施の形態における部分義歯10を患者に装着したときの、装着状態などを示す図であり、(a)は凹状嵌め合わせ部C1、また(b)は凹状嵌め合わせ部C2,C3を示す。図8(a)において、頬側延び出し部11および舌側延び出し部21は、共に、鉤歯L7の歯牙部分にのみ嵌め合わされ、歯肉または歯茎に嵌め合わされることはない。患者の口腔内状態がよほど特殊な例外を除いて、本実施の形態の部分義歯10は、歯軸に交差する方向(横方向または水平方向)に沿って装着される。食物を咬合するときにかかる咬合圧は、基本的には人工歯が位置する部分の義歯床を介して顎堤粘膜によって負担される。凹状嵌め合わせ部C1,C2,C3は、咬合圧が部分義歯10にかかっても、ほとんど位置を変えない。そして、咬合圧とは逆向きの力(離脱力)に対しては、嵌め合わせは、鉤歯の豊隆部から根本側にかけて行われるので、鉤歯の頂部側に断面が広がるテーパがあるため、離脱は防止される。
なお、歯牙と歯茎との境目に凹状屈曲部Kが位置するが、この凹状屈曲部Kより上の歯牙にのみ、凹状嵌め合わせ部C1,C2,C3は嵌め合わされる。
(2)上記の凹状嵌め合わせ構造では、装着は水平方向から鉤歯の根本に行われる。装着および脱着が、離脱方向と異なる方向(横方向または水平方向)に沿ってなされることは、離脱防止に有効に作用する。しかも、凹状嵌め合わせ部C1と、凹状嵌め合わせ部C2,C3とは、同じ水平面でも異なる方向から装着される構造になっている。
図1に、凹状嵌め合わせ部C1と凹状嵌め合わせ部C2,C3の装着方向などを示してある。部分義歯10を装着するとき、まず凹状嵌め合わせ部C1(第1の凹状嵌め合わせ部)を鉤歯L7に、水平方向または横方向(第1の方向)に移動させて、ゆるく嵌め合わせる。次いで、この凹状嵌め合わせ部C1を支点にして、部分義歯10全体を、上下方向また縦方向(第2の方向)に沿わせて、凹状嵌め合わせ部C2,C3(第2の凹状嵌め合わせ部)を鉤歯R3,R5に嵌め合わせる。第1の方向と第2の方向とは異なる。上述のように、第1の凹状嵌め合わせ部C1をキーと呼び、第2の凹状嵌め合わせ部C2,C3をロックと呼ぶ。第2の凹状嵌め合わせ部は1つあれば十分である。ロックが外れない限り、キーは外すことはできない。ロックの離脱方向は、第2の装着方向(横方向または水平方向)を逆にたどる方向であるから、図8に示す縦方向の離脱力に対しては、まったく離脱しない。なお、キー、ロックという名称は、一般的なものではない。このように、凹状嵌め合わせ部が2つ以上あり、装着方向が異なるものが2つ以上あるという点は、このあと説明する従来のノンクラスプデンチャー150の装着方向が鉤歯頂部側から根本側への、一方向の移動によって装着するのと大きな相違である。
なお、使用者の口腔内の状態によっては、C1の嵌め合わせ方向を上下方向として、C2,C3の嵌め合わせ方向を水平方向とすることもある。先にC2,C3を嵌め合わせて、その後でC1を嵌め合わせる場合は、C2,C3がキーで、C1がロックとなる。
(ノンクラスプデンチャー150):
図9は、従来のノンクラスプデンチャー150を患者に装着したときの、装着状態、装着方向などを示す図である。ノンクラスプデンチャー150では、鉤歯を開口部161hに入れるようにして、鉤歯の頂部側から歯軸に沿って上から下に、縦方向に装着する。この装着によって、鉤歯の歯牙および歯茎を、舌側と頬側から挟み付ける。この挟み付けることで装着状態を安定に維持しようとする。しかし、ノンクラスプデンチャーの義歯床120およびウィングWが、凸状に湾曲する斜面をなす歯肉部に当接して圧力を及ぼすと、熱可塑性樹脂は弾力性に富むため、食物を噛んだときその斜面に押し当てられ、ずり下がりながら広げられ、その後、咬合圧が無くなると、歯肉斜面のすその義歯床部分の反発力により、斜面を容易にずり上がり離脱の状態に入る。この繰り返しにより使用につれてゆるみを生じ、がたつきが発生して、離脱しやすくなると考えられる。従来のノンクラスプデンチャーでは、維持力を増すことを目的に設けたウィング等の大振りの部分が歯肉の斜面に当たるので、逆に離脱を促進する方向に作用すると考えられる。また、歯牙と歯茎との境目の凹状屈曲部Kに、突状ラインZが嵌め入れられるが、歯牙側が後退し、歯肉側が出っ張る台地状であるので、歯牙頂部側へと離脱させる離脱力に対しては、アンカー効果はほとんど期待できない。
石膏模型→ろう義歯製作(金属補強線などの金属部分、人工歯等を老義歯に配置)→ろう義歯の一次埋没(下フラスコ内)→二次埋没(上フラスコ内)→流ろう→上下フラスコ分離→型整備→熱可塑性樹脂を型内に高圧高温注入→自然冷却(1時間程度)→取り出し
取り出しまでの工程において、本実施の形態の部分義歯では、金属クラスプを製造する必要がないので、その分、製造工程を省略することができる。また、熱可塑性樹脂は型内に高圧高温注入した後、自然冷却すれば自ずと硬化して製品状態になる。これに比べて、従来のレジン製の義歯床の部分義歯の場合、高温に保持してから徐冷却し取り出すまで、変形をより少なくするため1日程度かかる。したがってレジン製義歯床を用いる場合に比べて、工程短縮をはかることができる。
熱可塑性樹脂の一体射出成形で製造された部分義歯の場合、凹状嵌め合わせ部に金属クラスプを含まないので、咬合紙の色剤が濃く転写された部分を容易に削合することができ、調整の能率を非常に向上させることができる。削合は、歯科用の電動ドリルの先に、差し替え可能な削合用工具(カーボランダムポイントなど)を取り付けて行うもので、常用されている。咬合紙としては、どのようなものでもよいが、ドイツHANEL社のOkklusions-Foile(厚み:12μm、色:赤)REF480032を用いるのがよい。色は赤がよいが青でもよい。部分義歯に色剤が転写され、石膏模型には色剤が転写されないほうがよいので、片面にのみ色剤が塗布された咬合紙を用いるのがよい。この色剤片面塗布の咬合紙の場合は、当然、色剤が部分義歯10に直接当たるように配置する。
図12は、本発明の実施の形態2における部分義歯10を示す斜視図である。この部分義歯10は、下顎用であり、鉤歯への凹状嵌め合せ部C1,C2を備える。患者は、下顎左5〜7番、右6〜7番を欠損しており、部分義歯10は上記欠損部を補うものである。右側の人工歯を固定する樹脂部と、左側の人工歯を固定する樹脂部とをつなぐ連結部は、通常、金属製の大連結子で構成されるが、図12に示すように、本発明では、この部分も熱可塑性樹脂で形成される。ただし、金属補強線は埋設されている。図面の構造を見やすくするために金属補強線は省略している。凹状嵌め合せ部C1,C2は、ともに次の形状を有する。
(凹状嵌め合せ部C1,C2):
鉤歯の頬側に延び出る頬側延び出し部11と、鉤歯の舌側に形成される壁状部分21とで構成される。上述のように、頬側に延び出し部があるので、凹状嵌め合せ部C1,C2は、延び出し構造タイプである。2つの凹状嵌め合せ部C1,C2は、左右の相違はあるがほとんど同じ構造を有する。
(1)内周面Fは、その根本側を義歯床裏面20bに画され(限界づけられ)、義歯床裏面20bに対して交差するように立っている。内周面Fと、凹状嵌め合わせ部の裏面または義歯床裏面20bとのなす角度は、直角に近く、明らかに(直角−30°)〜(直角+60°)の範囲にある。
(2)内周面Fは、幅(高さ方向)は短く切り上がっていて、鉤歯の歯牙と歯茎との境界の凹状屈曲部に対応する突状ラインはない。
(3)凹状嵌め合わせ部C1,C2は、それぞれ、明らかに鉤歯の周囲の周長の65%以下に嵌め合わされている。
(4)端部人工歯L5について、その端部人工歯の頬側露出部の高さTeは、その根本側の義歯床の頬側部高さBeよりも大きい。すなわち、Te>Be、が満たされている。
(5)凹状嵌め合せ部C1,C2の一方(第1の凹状嵌め合わせ部)を水平方向に鉤歯に緩く嵌め合わせ、そこを支点にして水平方向に回転させて、他方(第2の凹状嵌め合わせ部)を鉤歯に嵌め合わせる。第1の嵌め合わせ部がキーとすると、第2の嵌め合わせ部はロックとなる。ロックが外されない限り、キーは外れない。鉤歯の歯軸方向に沿う離脱力に対しては外れない。
Claims (12)
- 人工歯と、前記人工歯が設けられる義歯床と、鉤歯にあてがわれるように嵌め合わせる凹状嵌め合わせ部を備える部分義歯であって、
前記部分義歯は、前記凹状嵌め合わせ部を含めて、熱可塑性樹脂の一体射出成形加工によって形成され、
前記凹状嵌め合わせ部は、前記鉤歯に対応する部分をC字状に囲んでおり、前記C字の内周に沿う内周面は、前記凹状嵌め合わせ部の裏面に対して交差するように立っていることを特徴とする、部分義歯。 - 前記開口部に面する内周面と、その内周面と前記裏面とのなす角度は、(直角−30°)〜(直角+60°)の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
- 前記開口部に面する内周面には、前記鉤歯の歯牙部分と歯茎部との境目の凹状屈曲部に対応する突状ラインがないことを特徴とする、請求項1または2に記載の部分義歯。
- 前記人工歯のうちの前記鉤歯に対面する端部人工歯において、その端部人工歯の前記義歯床の頬側の部分である頬側義歯床部の高さが、その端部人工歯の前記義歯床から露出する頬側の歯牙部分である頬側露出歯牙部の高さ、よりも小さいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の部分義歯。
- 全長さの50%以上に金属補強線が埋設されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の部分義歯。
- 前記凹状嵌め合わせ部は、前記鉤歯の周囲の65%を超えて当接しないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の部分義歯。
- 前記凹状嵌め合わせ部は、前記鉤歯の頬側に延び出る頬側延び出し部を備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の部分義歯。
- 前記凹状嵌め合わせ部は、前記頬側延び出し部の中央において、その中央部の厚みがその部分の高さの30%以上あることを特徴とする、請求項7に記載の部分義歯。
- 前記頬側延び出し部は、前記鉤歯の周囲の半分である頬側周囲の50%を超えて当接しないことを特徴とする、請求項7または8に記載の部分義歯。
- 前記凹状嵌め合わせ部は、前記義歯床の壁状部分に凹状に形成され、前記壁状部分が、前記鉤歯の舌側に当接する舌側部、近心側に当接する近心側部、および遠心側に当接する遠心側部により構成されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の部分義歯。
- 前記凹状嵌め合わせ部を少なくとも2つ備え、第1の凹状嵌め合わせ部は、第1の鉤歯に、第1の方向から嵌め合わされ、第2の凹状嵌め合わせ部は、第2の鉤歯に、前記第1の方向と異なる第2の方向から嵌め合わされることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の部分義歯。
- 人工歯と、前記人工歯が設けられる義歯床と、鉤歯にあてがわれるように嵌め合わせる凹状嵌め合わせ部を備える部分義歯の製造方法であって、
使用者の口腔の歯牙の石膏模型を作製する工程と、
前記石膏模型を用いて、前記部分義歯を、前記凹状嵌め合わせ部を含めて、熱可塑性樹脂の一体射出成形加工によって形成する工程と、
前記石膏模型に咬合紙をかぶせた後、その上に前記部分義歯を装着して、前記石膏模型に転写された前記咬合紙の色剤の濃度に応じて、前記部分義歯を削合して、調整することを特徴とする、部分義歯の製造方法。
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- 2009-03-05 JP JP2009052633A patent/JP5442279B2/ja not_active Expired - Fee Related
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