JP2010194887A - 樹脂成形品の接合方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】2つの樹脂成形品を溶着させて得られる樹脂接合体のクリープ破壊寿命を安定させることを可能にする樹脂成形品の接合方法を提供する。
【解決手段】溶着可能な2つの樹脂成形品2、3の溶着予定部端面を加熱し、前記2つの樹脂成形品の溶着予定部に溶融層22、32を形成した状態で、前記2つの樹脂成形品2、3の前記溶融層22、32を互いに圧着することにより溶着する樹脂成形品の接合方法であって、圧着の際に印加する圧力が、0MPaを超えて10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下、であり、かつ、溶着後の接合部4の最小厚みが100μm以下であることを特徴とする樹脂成形品の接合方法で接合を行う。
【選択図】図2

Description

本発明は、溶融可能な2つの樹脂成形品を溶着させる樹脂成形品の接合方法に関する。
樹脂成形品は、金属や木材のような腐食がなく、安価で軽量である特徴を有するために、様々な分野で用いられている。また、リサイクルによって地球資源を節約するために、樹脂成形品の大部分は熱可塑性樹脂から形成されている。そして、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形など種々の成形方法が用いられ、成形機及び金型構造の進歩により、複雑な形状の樹脂成形品も容易に成形できるようになっている。
しかしながら、複雑な形状の成形品を一度の成形によって製造することは、困難な場合がある。また、成形品の一部を異種の樹脂から形成する必要がある場合も多い。このような場合には、複数の成形品をそれぞれ成形し、その後、溶着によって一体化することが行われている。
樹脂成形品の溶着は、溶着しようとする一対の成形品の溶着予定部端面を加熱し、少なくとも一方の溶着予定部端面を溶融させた状態で両者を圧着し、その状態で冷却することによって行われる。そして、溶着予定部端面を加熱する方法としては、加熱された熱板を用いる方法、一対の成形品どうしを圧接させた状態で振動させ摩擦熱により加熱する方法などが知られ、それぞれ、熱板溶着法、振動溶着法と称されている。また、超音波振動を用いて振動させる方法は、超音波溶着法とも称されている。
このうち熱板溶着法は、成形品の溶融状態となる温度以上に加熱された熱板の表面に溶着しようとする一対の成形品の溶着端面を接触させて溶融させ、熱板を待避させてから一対の成形品の溶着端面同士を圧着し、その状態で冷却する方法である。この熱板溶着法は設備が単純であり、また容易に溶着できるので、特に広く用いられている(特許文献1、2)。
上記のような熱板溶着法は、圧着の際に押しつけて樹脂成形品を結合させる方法や、2つの樹脂成形品の溶融層の厚みを予測し、一方の樹脂成形品の溶融層と他方の樹脂成形品の溶融層とが重なる位置を制御して圧着することにより結合させる方法で行われている。特に後者の方法では、接合部にボイドの存在しない溶融層を残すことによって、クリープ破壊を起こしにくい強い接合部が得られるとされている。「クリープ破壊」とは、樹脂成形品に負荷が与えられることで応力が生じ、時間が経過すると破壊する現象のことをいう。一般的に発生応力が高いほど短い時間で破壊に至る。
上記のような熱板溶着法は、簡便な方法であり広く利用されている。しかしながら、熱板溶着により接合させた樹脂製品のクリープ破壊寿命が安定しないという問題が生じている。
特開2000−198143号公報 特開2002−28977号公報
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、2つの樹脂成形品を溶着させて得られる樹脂接合体のクリープ破壊寿命の低下を少なくすることを可能にする樹脂成形品の接合方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、接合させた成形品のクリープ破壊寿命が低下する原因を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、圧着の際に強い圧力をかける方法では、未溶融層まで過剰に圧縮されるため、接合部と樹脂成形品との界面に残留応力が生じて寿命が短くなることを見出した。また、2つの樹脂成形品の溶融層の厚みを予測し、一方の樹脂成形品の溶融層と他方の樹脂成形品の溶融層とが重なる位置を制御して圧着することにより接合させる方法では、溶融層の厚みが、毎回微妙に異なる結果、溶融層を多く見積もりすぎた場合には、接合部と樹脂成形品との界面に過剰な圧力がかかり、接合部と樹脂成形品との界面に残留応力が生じる。また、溶融層を少なく見積もりすぎたときは、ボイド等がバリとして排出されず接合部に残ってしまう場合があるため、クリープ破壊寿命が安定しないことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
(1) 溶着可能な2つの樹脂成形品の溶着予定部端面を加熱し、前記2つの樹脂成形品の溶着予定部に溶融層を形成した状態で、前記2つの樹脂成形品の前記溶融層を互いに圧着することにより溶着する樹脂成形品の接合方法であって、前記圧着の際に印加する圧力が、0MPaを超えて10MPa以下であり、かつ、溶着後の接合部の最小厚みが100μm以下であることを特徴とする樹脂成形品の接合方法。
(2) 前記圧着の際に印加する圧力が、0MPaを超えて5MPa以下である(1)に記載の樹脂成形品の接合方法。
(3) 前記2つの樹脂成形品の少なくとも一方が、結晶性熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の樹脂成形品の接合方法。
(4) 前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタールであることを特徴とする(3)に記載の樹脂成形品の接合方法。
本発明によれば、溶着可能な2つの樹脂成形品の圧着の際に印加する圧力を、0MPaを超えて10MPa以下の範囲に調整することで、冷却後の接合部と樹脂成形品との界面に発生する残留応力を抑えることができる。その結果、上記残留応力によるクリープ破壊寿命低下を抑制することができる。さらには、溶着可能な2つの樹脂成形品の圧着の際に印加する圧力を5MPa以下とすることで、接合部の残留応力による寿命低下が見られない。
上記のように、本発明は、圧力を印加する方法で樹脂成形品を接合するため、溶融層の厚み予測を誤ることによる寿命の変動が生じない。また、本発明は、圧力を制御して溶着を行うため、溶融層厚みを予測して、溶融層の重なり位置を制御する方法よりも容易に実施することができる。
また、樹脂成形品溶着後の接合部の最小厚みが、100μm以下の範囲になるように接合することで、溶着後の接合部にボイド等が残ることがない。このため、接合部にボイド等が残ることによるクリープ破壊寿命の低下を抑えることができる。
以上の通り、本発明の接合方法によれば、冷却後の接合部と樹脂成形品との界面に生じる残留応力によるクリープ破壊寿命の低下を防ぐことができる。また、圧力を印加する方法で樹脂成形品を接合するため、位置を制御して接合する場合と異なり、溶融層の厚み予測を誤ることによるクリープ破壊寿命の変動も防ぐことができる。さらに、溶着後の樹脂成形品の接合部にボイド等の欠陥が残り、クリープ破壊寿命が低下することも防ぐことができる。その結果、本発明の接合方法を用いることで、接合部は、いつでも安定した高いクリープ破壊寿命を持つ。
熱板溶着法を用いた本発明の接合方法を示す図である。 (a)溶着前の成形品を示す図である。(b)溶着後の樹脂溶着品を示す図である。 圧着の際に樹脂成形品と接合部との界面にかかる圧力と時間との関係を模式的に表す図である。 (a)実施例の樹脂試験片を示す図である。(b)実施例の樹脂溶着品を示す図である。 実施例で用いた熱板溶着装置の概略図である。 引張応力とクリープ破壊寿命との関係を示す図である。 圧着の際の圧力とクリープ破壊寿命線の屈折点との関係を示す図である。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本発明の樹脂成形品の接合方法は、溶着可能な2つの樹脂成形品の溶着予定部端面を加熱し、この2つの樹脂成形品の溶着予定部に溶融層を形成した状態で、2つの樹脂成形品の溶融層を互いに圧着することにより溶着する樹脂成形品の接合方法であって、圧着の際に印加する圧力が、0MPaを超えて10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下であり、溶着後の樹脂成形品の接合部の最小厚みが100μm以下になるような樹脂成形品の接合方法であれば特に限定されない。
また、樹脂成形品の溶着予定部端面を加熱し、溶着予定部に溶融層を形成した状態で、2つの樹脂成形品の溶融層を互いに圧着することにより溶着する樹脂成形品の接合方法として、例えば、熱板溶着法が挙げられる。以下、2つの溶着可能な同種の樹脂成形品を接合する場合における熱板溶着法による本発明の樹脂成形品の接合を例に本発明の接合方法を説明する。
熱板溶着を用いた本発明の樹脂成形品の接合方法としては、例えば、接合準備工程と、加熱工程と、圧着工程と、冷却工程と、を備える接合方法が挙げられる。
<接合準備工程>
「接合準備工程」は、所定の樹脂材料からなる樹脂成形品を作製し、溶着のための熱板溶着装置等に、上記樹脂成形品を取り付ける工程である。
[樹脂材料]
樹脂成形品に含まれる樹脂は、特に限定されず、従来公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。
本発明の接合方法の特徴の一つとして、溶着後の冷却後の樹脂成形品と接合部との界面に残留応力を残さないことが挙げられる。したがって、本発明の接合方法を用いれば、応力の残りやすい結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成形品であっても、接合部のクリープ破壊寿命を安定させることができる。
結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも特にポリアセタール樹脂が好ましい。樹脂成形品は単独の結晶性熱可塑性樹脂からなるものであってもよく、二種以上の結晶性熱可塑性樹脂組成物からなるものであってもよいし、結晶性熱可塑性樹脂に非晶性の熱可塑性樹脂を含むものであってもよい。
2つの樹脂成形品は、互いに溶着可能であれば、同じ樹脂材料からなる樹脂成形品であっても、異なる樹脂材料からなる樹脂成形品であってもよい。
[成形工程]
先ず、上記の樹脂材料を所望の形状に成形する。成形方法は特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形など種々の成形方法を挙げることができる。また、成形工程で得られる樹脂成形品は、溶着予定部を備えることが必要である。溶着予定部は、2つの樹脂成形品の溶着予定部を突き当てて溶着可能なように設けられる。例えば、図1に示す樹脂成形品2、3に設けられている溶着予定部21、31のような溶着予定部である。溶着予定部を備える樹脂成形品を成形しやすい成形方法としては、射出成形が挙げられる。
[取り付け工程]
2つの樹脂成形品を溶着させるために、熱板溶着装置等に取り付ける工程である。樹脂成形品を取り付ける熱板溶着装置等は従来公知のものを使用することができる。例えば、図1に示すような、上治具11と下治具12とを備えた熱板溶着装置1を挙げることができる。図1(a)に示すように一方の樹脂成形品2を上治具11に取り付け、他方の樹脂成形品3を下治具12に取り付ける。上治具11及び下治具12にそれぞれ樹脂成形品2、3が保持されていれば取り付ける方法は特に限定されない。
2つの樹脂成形品の溶融層を互いに圧着させやすいように、樹脂成形品2の溶着予定部端面21と樹脂成形品3の溶着予定部端面31とが対向するように取り付ける。また、樹脂成形品2の溶着予定部端面21と樹脂成形品3の溶着予定部端面31との間に熱板を挿入可能なように、樹脂成形品の溶着予定部端面間には所定の空間がある。
また、樹脂成形品2の溶着予定部端面21が、樹脂成形品2の中でY方向に最も低い位置になり、溶着予定部端面21がX方向に水平になるように取り付ける。そして、樹脂成形品3の溶着予定部端面31が、樹脂成形品3の中でY方向に最も高い位置になり、溶着予定部端面31がX方向に水平になるように取り付ける。樹脂成形品2と樹脂成形品3とは、横ずれなく正対した状態で保持されていないと溶着予定部が均一に溶着されず、良質な接合品が得られない。
<加熱工程>
加熱工程は、樹脂成形品2、3の溶着予定部端面21、31を加熱し、2つの樹脂成形品2、3の溶着予定部に溶融層22、32を形成する工程である。先ず、図1を用いて加熱工程について説明する。
図1(b)に示すように、予め所定の温度まで加熱された熱板13が、上治具11に保持された樹脂成形品2と、下治具12に保持された樹脂成形品3との間に位置するようにX方向に水平移動する。
次いで、樹脂成形品2、3を保持したまま上治具11及び下治具12を±Y方向に移動させることが可能な昇降手段(図示せず)により、樹脂成形品2を保持した上治具11を−Y方向に移動させ、樹脂成形品3を保持した下治具12を+Y方向に移動させる。そして、熱板13に溶着予定部端面21、溶着予定部端面31を接触させ、溶着予定部に溶融層22、32を形成させる。
[加熱条件]
溶着予定部端面21、31の加熱条件は特に限定されず、熱板13の温度、熱板13と溶着予定部端面21、31との接触時間は、溶着させる樹脂成形品の融点等の物性に基づいて適宜変更して実施する。例えば、以下のようにして加熱条件を設定することで、本発明の効果を高めることができる。
熱板13に溶着予定部端面21、31を接触させると上記の通り溶融層22、32が形成される。溶融層22、32においては、熱板13に接している部分が最も高温になり、熱板13から離れるにつれて低温になる。したがって、溶融層には、温度分布が生じ、高温になるほど低粘度、低温になるほど高粘度となる。ここでは大きく、低粘度の高温部分、高粘度の低温部分に分ける。
熱板13に溶着予定部端面21、31を接触させると、溶着予定部端面21、31が溶融し始め、溶融層には、先ず低温部分が形成される。さらに溶着予定部端面21、31の加熱を続けると、溶着予定部端面付近の温度が上昇し、溶融層22、32の中で熱板13から離れた部分が低温部分になる。さらに溶着予定部21、31の加熱を続けると、溶着予定部端面付近が高温部分になり、溶融層22、32の中で熱板13から離れた部分が低温部分になる。
後述する通り、本発明の樹脂成形品の接合方法は、溶融層22と溶融層32とを互いに圧着するようにして溶着する。このとき、溶着させる溶融部端面21、31の状態として、低温部分の状態、高温部分の状態の大きく二つに分けた場合、本発明の接合方法においては、低温状態の溶融層を互いに適度な圧力で圧着するようにして溶着することが好ましい。ボイドが発生しやすい高温状態の溶融層をバリとして排出すること、且つ未溶融層に過度に荷重を加えないことで、安定してクリープ破壊寿命が低下しない製品が得られる。
<圧着工程>
圧着工程は、2つの樹脂成形品の溶融層22、32を互いに圧着することにより溶着する工程である。図1を用いて圧着工程について説明する。
図1(c)に示すように、溶着予定部端面21、31が、熱板13により充分加熱され所望の溶融層22、32が形成されたところで、昇降手段(図示せず)により、樹脂成形品2を保持した上治具11を+Y方向に移動させ、樹脂成形品3を保持した下治具12を−Y方向に移動させ、溶着予定部端面21、31と熱板13とを引き離す。そして、熱板13が溶着予定部端面21と31との間から外れるように移動する。
次いで、上治具11に設けた圧力測定手段Pで、樹脂成形品の接合部分にかかる圧力の測定を行いながら、上治具11に対して図示しない加圧手段により所定の圧力を印加し、樹脂成形品2を保持した上治具11を−Y方向に移動させる。また、樹脂成形品3を保持した下治具12は固定しておく。この移動により、図2(a)の状態から溶融層22が溶融層32に接近していき、溶着予定部端面21と31とが接する。その後、溶融層22と32とが重なり、最後に、図2(b)に示すように、溶融層22、32のほとんどがバリ5として排出され、樹脂成形品2と樹脂成形品3との間に厚さ100μm以下の接合部4が成形される。
[圧着の際の条件]
本発明の接合方法は、圧着の際に接合部分にかかる圧力が、0MPaを超えて10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下であることが特徴である。上記範囲の圧力を印加して圧着することで、冷却後に樹脂成形品と接合部との界面に生じる残留応力を抑えることができる。その結果、クリープ破壊寿命の低下を抑えることができる。また、冷却後の接合部の最小厚さが100μm以下であることが本発明の接合方法の特徴である。接合部の最小厚さが100μm以下となるまで、溶融層のほとんどをバリとして排出することで、溶融層に生じるボイド等が接合部に残ることを防ぐことができるので、接合部のボイド等の欠陥によるクリープ破壊寿命低下を防ぐことができる。このように、接合部の欠陥によるクリープ破壊寿命の低下を抑えることができるので、本発明の接合方法によれば、接合部を持つ製品の品質が安定しクリープ破壊寿命が高く安定する。
したがって、圧着の際に印加する圧力が上記範囲にあり、冷却後の接合部の厚みが上記範囲になるように圧着する条件であれば特に限定されず、樹脂材料の種類によって、圧着の条件は適宜変更することができる。
また、本発明の接合方法は、圧力のみを制御して樹脂成形品同士を溶着するため、従来の2つの樹脂成形品の溶融層の厚みを予測し、一方の樹脂成形品の溶融層と他方の樹脂成形品の溶融層とが重なる位置を制御して結合させる方法よりも容易である。そして、本発明の接合方法は、上記従来の方法と比較しても同等の耐クリープ破壊性を有する。さらに、本発明の接合方法では上記従来の方法と比較して溶融層を接合部に残さないため、ボイド等の欠陥が接合部に残りクリープ破壊寿命を低下させるという問題も生じない結果、本発明の接合方法であれば、クリープ破壊寿命が高く安定する。
図3は、圧力測定手段Pで樹脂成形品2と樹脂成形品3との間の接合部分にかかる圧力を測定しながら、接合部に印加する印加圧力Pで樹脂成形品2と樹脂成形品3とを溶着させる場合の接合部にかかる圧力の経時変化を模式的に示す図である。図3中の一点鎖線は、接合部に印加する印加圧力がPの場合を示す。図3のtからtは、溶融層22を溶融層32に近づける段階であり、tで溶融層22は溶融層32に接する。溶融層22と溶融層32とが接するまでは、接合する部分にかかる圧力は0である。
図3のtから溶融層22と溶融層32とが重なり始め、接合部分にも徐々に圧力がかかり、低粘度の溶融層は、速やかに排出される。この重なり始めにかかる圧力がPである。tからtでは、高粘度の溶融層同士の重なりが大きくなっていき、溶融層同士が潰されながら溶融層が薄くなっていく。潰された樹脂はバリとなって樹脂成形品と樹脂成形品との間から排出される。接合部分にかかる圧力は、tからtにかけて少しずつ上昇する。これは、上記の通り、溶融層の先端は低粘度の高温部分であり、溶融層の重なりが大きくなり未溶融部分に近づくにしたがって、高粘度の低温部分になるからである。tは、潰れる溶融層が無くなり、バリの排出がほぼ止まる点である。この点での、接合部分にかかる圧力がPである。
以降は、潰れる溶融層が無くなるため、接合部分にかかる圧力は急激に上昇する。そして、設定した上記印加圧力Pに達した時点で接合部分にこれ以上の圧力がかからないように制御する。
この印加圧力Pが図7に示すように10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下であれば、接合部分に残る残留応力は小さくなり、クリープ破壊寿命の低下を少なくすることができる。従来の方法で溶融層の厚みを少なく見積もり接合部分に大きな圧力が加わる場合の変化を破線で示した。また、印加圧力を少なく設定しすぎた場合を点Xで示した。少なく設定しすぎた場合、溶融層が重なりながらバリを排出している途中で突き当てが止まる。充分に溶融層が排出されないと、溶融層に残るボイド等の欠陥によりクリープ破壊寿命が短くなるおそれがある。
図3の場合には印加圧力をP以上にする必要がある。溶融層がバリとして充分排出されず、接合部分に溶融層にボイド等の欠陥が残ってしまうからである。樹脂の種類等によって、Pの値は異なる。したがって、印加圧力が0MPaを超えれば、P以上の圧力が接合部分にかかる可能性がある。
以上より、設定する印加圧力はPから10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下に設定する必要がある。
圧着の際に印加する圧力は小さければ小さいほど、残留応力が小さくなるため好ましいが、あまり小さすぎると溶着予定部の溶融層を充分にバリとして排出することができなくなる。溶融層が接合部に残ることで、接合部にボイド等の欠陥が残る可能性があり、クリープ破壊寿命を安定化させる観点からは好ましくない。したがって、本発明の接合方法においては、溶融層が接合部に実質的に残らないような条件で圧着することが好ましい。
なお、「溶融層が接合部に実質的に残らない」とは、後述する接合部の最小厚みが100μm以下の範囲にあることをいう。
<冷却工程>
冷却工程は、接合部を冷却して接合した樹脂成形品を取り出す工程である。図1に基づいて冷却工程を説明する。
樹脂成形品2、3を接合後、接合部の溶融層が固まるまで放置する。上治具11をY方向、下治具12を−Y方向に移動させ、下治具12に残された互いに結合した樹脂成形品2、3を取り出す。
[接合部]
本発明の接合方法では、冷却後の接合部の最小厚さが100μm以下であるため、溶融層のほとんどをバリとして排出することで、ボイド等の欠陥が接合部に残ることを防ぐことができ、クリープ破壊寿命の不安定を抑えることができる。
溶融されて固まった部分と未溶融層とは、結晶構造が異なるため、境目に境界線が現れる。この境界線間の距離を測定することで上記接合部厚さを測定する。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1〜4>
[接合準備工程]
樹脂材料としてポリアセタール(ポリプラスチックス社製「ジュラコンM90−44」)を用い、下記の成形条件で射出成形を行うことにより、図4(a)に示すような樹脂試験片を作製した。
(成形条件)
成形機:ROBOSHOT α−50C(FUNUC社製)
シリンダー温度:(ノズル)200℃−200℃−180℃−160℃(ホッパー)
射出速度:10mm/s
保圧力:60MPa
射出時間+保圧時間:15秒
冷却時間:10秒
スクリュー回転数:100rpm
スクリュー背圧:4MPa
金型温度:80℃
上記2つの樹脂試験片を熱板溶着装置(中森工業社製「PW−1」)に取り付けた。熱板溶着装置の概要を図5に示した。なお、図5は、下記加熱工程の溶融層形成中の熱板溶着装置を表す図である。
[加熱工程]
上記熱板溶着装置を用いて、あらかじめ260℃に加熱しておいた熱板に溶着予定部端面を20秒間接触させ、樹脂試験片6、7に溶融層を形成した。図5は加熱工程を示す図である。溶融層の厚みを確保するためにストッパー8を用いている。そして、樹脂試験片を熱板から引き離す際に樹脂が糸状に引き伸ばされる糸曳き現象を防ぐために厚さ0.1mmのフッ素樹脂シート9を樹脂試験片と熱版との間に挟む。また、溶融層の厚みを、溶融後一旦冷却した樹脂試験片の断面の球晶観察により測定したところ0.8mmであった。
[圧着・冷却工程]
溶着予定部端面21、31から熱板13を離した後、15秒間、2つの樹脂試験片同士を突き当てにより圧着した。圧力負荷手段にはバネを用い、バネ定数を考慮しストッパー8にて目的の圧力(実施例1では1.2MPa、実施例2では4.4MPa、実施例3では6.6MPa、実施例4では9.0MPa)がかかる位置で停止するように設定した。最後に上記熱板溶着装置1から溶着させた樹脂溶着品を取り出した。いずれも接合部の最小厚みは100μm以下であった。得られた樹脂溶着品を図4(b)に示した。
上記のように圧力のみを制御することで熱溶着させる本発明の接合方法は、溶融層の厚みを予測して溶融層の重なる位置を制御して圧着を行う従来の熱溶着方法よりも容易であった。
<比較例1>
圧着・冷却工程の際に、未溶融層位置に突き当て位置を設定し、圧力による制御を一切行わなかった以外は実施例1と同様の方法で、樹脂溶着品を作製した。なお、圧着の際の試験片間にかかる圧力は33MPaであった。
<比較例2>
目的の圧力を16.3MPaに変更した以外は、実施例1から4と同様の方法で樹脂溶着品を作製した。
<比較例3>
接合部にボイドが残らず、且つ過剰突き当てにならない溶着品を得るため、接合部の溶融層厚みが約50μmとなるように見当をつけて溶着代を、バネを用いずに位置制御した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂溶着品を作製した。本条件では、適正突き当て位置を見つけるために突き当て位置を変化させて何度も溶着を行い、クリープ破壊寿命を実測して確認を行ったところ、見当どおりの設定では適正溶着品が得られておらず、突き当て位置を変化させた事で適正溶着品が得られた。
<評価1>
実施例1から4の樹脂溶着品、比較例1から3の樹脂溶着品について、軸力/軸と垂直方向の最小断面積で算出した引張応力とクリープ破壊寿命との関係を図6に示した。
実施例1から4の樹脂溶着品は、位置制御で過剰に圧力が印加された比較例1の樹脂溶着品、及び圧力制御で過剰に圧力を印加した比較例2の樹脂溶着品と比べて、クリープ破壊寿命が高く安定していた。実施例1、2の樹脂溶着品は、クリープ破壊寿命が特に高く安定しており、比較例3の樹脂溶着品と同程度にクリープ破壊寿命が高く安定していた。比較例3の樹脂溶着品は、樹脂溶着品の作製を何度も繰り返して得られる高い品質の樹脂溶着品である。上記の通り実施例1、2のようにして溶着させることにより、極めて容易に非常に優れた樹脂溶着品を得ることができる。
図7には、圧着の際に印加する圧力とクリープ破壊寿命線の屈折点との関係を示した。圧着の際に印加する圧力を10MPa以下にすることで本発明の効果が現れ、5MPa以下にすることで非常に優れた樹脂溶着品になることが確認された。
1 熱板溶着装置
11 上治具
12 下治具
13 熱板
2、3 樹脂成形品
21、31 溶着予定部端面
22、32 溶融層
4 接合部
5 バリ
6、7 樹脂試験片
8 ストッパー
9 フッ素樹脂シート

Claims (4)

  1. 溶着可能な2つの樹脂成形品の溶着予定部端面を加熱し、前記2つの樹脂成形品の溶着予定部に溶融層を形成した状態で、前記2つの樹脂成形品の前記溶融層を互いに圧着することにより溶着する樹脂成形品の接合方法であって、
    前記圧着の際に印加する圧力が、0MPaを超えて10MPa以下であり、かつ、
    溶着後の接合部の最小厚みが100μm以下であることを特徴とする樹脂成形品の接合方法。
  2. 前記圧着の際に印加する圧力が、0MPaを超えて5MPa以下である請求項1に記載の樹脂成形品の接合方法。
  3. 前記2つの樹脂成形品の少なくとも一方が、結晶性熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形品の接合方法。
  4. 前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタールであることを特徴とする請求項3に記載の樹脂成形品の接合方法。
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