(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る波長選択型赤外線検出器の概略構成を示す断面図である。図2は、図1を模式化した断面図である。図3は、ファブリペローフィルタ内での赤外線強度分布を示す図である。図4は、赤外線検出部のメンブレンにおける概略構成を示す模式的な平面図である。図4では、明確化のため、駆動電極にハッチングを施している。図5は、図2に対し、各駆動電極に電位を印加した状態を示す断面図である。
なお、以下においては、エアギャップAGにおける、相対する第1ミラー及び第2ミラー間の幅の方向、換言すれば、基板に対する第1ミラーなどの積層方向、を単に幅方向と示し、この幅方向に垂直な方向を単に垂直方向と示す。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る波長選択型赤外線検出器100は、基板1と、基板1上に設けられたファブリペローフィルタ2及び赤外線検出部3を備えている。
基板1は、ファブリペローフィルタ2及び赤外線検出部3の共通の基材であって、その一面上に配置される、ファブリペローフィルタ2の第1ミラー20との電気的な絶縁が確保される構成となっている。
本実施形態では、基板1が、単結晶シリコンなどの平板状の半導体基板10と、シリコン酸化膜などの絶縁膜11からなり、絶縁膜11は、半導体基板10の一面における一部位のみに配置されている。具体的には、半導体基板10としての平面矩形状の単結晶シリコン基板の一面において、ファブリペローフィルタ2の分光領域S1に対応する領域を含む中央領域に絶縁膜11が配置されず、中央領域を取り囲む周辺領域のみに絶縁膜11としてのシリコン酸化膜が配置されている。すなわち、基板1は、一面側に開口する空隙12を有している。そして、空隙12を架橋するように、絶縁膜11上に第1ミラー20が配置されている。なお、空隙12が、特許請求の範囲に記載の第2空隙に相当する。
ファブリペローフィルタ2は、基板1の一面上に配置された第1ミラー20と、該第1ミラー20と相対するように第1ミラー20上に支持体30を介して配置され、支持体30間のエアギャップAGを架橋する部位がメンブレンMEM2とされた第2ミラー40と、を備えている。そして、第1ミラー20の駆動電極24に印加する電位と、第2ミラー40の駆動電極44の間に印加する電位に基づいて生じる静電気力により、エアギャップAGの分光領域S1における相対する両ミラー20,40間の幅(以下、単にエアギャップAGの幅と示す)が変化するように構成されたものである。なお、エアギャップAGが、特許請求の範囲に記載の第1空隙に、駆動電極24が、特許請求の範囲に記載の第1ミラー20の電極に、駆動電極44が、特許請求の範囲に記載の第2ミラー40の電極に相当する。
このファブリペローフィルタ2では、共振器を規定する2つのミラー20,40におけるエアギャップAG側の面20a,40a(以下、単に内面20a,40aと示す)間の多重反射により、エアギャップAGの幅W1に応じた波長の光(赤外線)、具体的には、エアギャップAGの幅W1が波長の1/2の整数倍となる波長の光、のみが共振される。また、ファブリペローフィルタ2では、図3に示すように、第1ミラー20の内面20aと第2ミラー40の内面40aとが、共振される赤外線の強度分布の節位置となる。したがって、エアギャップAGの幅W1が波長の1/2となる波長の光においては、エアギャップAGの幅方向における中央AGCが、赤外線強度分布の腹位置となる。なお、図3に示す例では、第1ミラー20及び第2ミラー40の幅方向の厚みを、光学長で、光の波長の1/2とした例を示している。
本実施形態では、第2ミラー40だけでなく、第1ミラー20にもメンブレンMEM1が構成されている。第1ミラー20は、屈折率の高い材料、例えばポリシリコンやポリゲルマニウムからなり、空隙12を架橋するように、絶縁膜11上に積層された高屈折率下層21と、高屈折率下層21よりも屈折率の低い、例えば空気などの気体、液体、ゾル、ゲル、真空のいずれかからなり、高屈折率下層21上に積層された低屈折率層22と、上記高屈折率下層21に同じくポリシリコンなどの高屈折率材料からなり、低屈折率層22上に積層された高屈折率上層23とにより構成されている。そして、第1ミラー20のうち、空隙12上に位置する部位が、メンブレンMEM1となっている。なお、符号20bは、第1ミラー20のメンブレンMEM1における空隙12側の面を示している。本実施形態では、一例として、高屈折率層21,23がポリシリコンからなり、低屈折率層22がシリコン酸化膜からなっている。
メンブレンMEM1における図1に示す破線内の領域、すなわち実際にミラーとして機能する分光領域S1では、基板1側から、高屈折率下層21、低屈折率層22、高屈折率上層23の順に積層されて、光学多層膜構造のミラーが構成されている。なお、本実施形態では、分光領域S1が平面略円形状となっている(図4参照)。
また、垂直方向のうちの少なくとも一方向において、分光領域S1を間に挟む周辺領域では、高屈折率上層23に、静電気力を生じさせるための駆動電極24が形成されている。本実施形態では、周辺領域が分光領域S1を取り囲んでおり、不純物の拡散層よりなる駆動電極24が、周辺領域において、メンブレンMEM1の部位全体と、メンブレンMEM1を除く部位の一部に形成されている。そして、メンブレンMEM1を除く部位の高屈折率上層23上に、Au/Cr等からなるパッド(図示略)が形成されている。なお、メンブレンMEM1における周辺領域の一部には、エアギャップAGと空隙12とを連通する貫通孔25が複数形成されており、この貫通孔25を介してエッチングすることで、空隙12が構成されている。
この第1ミラー20における高屈折率上層23上には、メンブレンMEM1を除く周辺領域の一部に、支持体30が局所的に配置されている。この支持体30は、第1ミラー20上に第2ミラー40及び赤外線検出部3(後述する支持層50)を支持するとともに、第1ミラー20と第2ミラー40との間に、エアギャップAGを構成するためのスペーサとしての機能を果たすものである。
本実施形態では、支持体30が、2つの支持体31,32からなる。第1支持体31はシリコン酸化膜からなり、第1ミラー20と赤外線検出部3との間に介在されている。一方、第2支持体32もシリコン酸化膜からなり、赤外線検出部3と第2ミラー40との間に介在されている。すなわち、第1ミラー20上に、第1支持体31を介して赤外線検出部3が配置され、赤外線検出部3上に、第2支持体32を介して第2ミラー40が配置されている。また、第1支持体31と第2支持体32は、幅方向の厚みが互いに等しくなっており、ともに第2ミラー40のメンブレンMEM2に対応する中央部位がくり抜かれた構造となっている。さらに、図示しないが、支持体30(及び赤外線検出部3,第2ミラー40)には、メンブレンMEM2よりも外側の部位に、上記した第1ミラー20のパッドを形成するための開口部が形成されている。また、第2支持体32(及び第2ミラー40)には、図示しないが、メンブレンMEM2よりも外側の部位に、後述する赤外線検出部3の駆動用パッド及び検出用パッドを形成するための開口部も形成されている。
一方、第2ミラー40は、屈折率の高い材料、例えばポリシリコンやポリゲルマニウムからなり、エアギャップAGを架橋するように、支持体30(第2支持体32)上に積層された高屈折率下層41と、高屈折率下層41よりも屈折率の低い、例えば空気などの気体、液体、ゾル、ゲル、真空のいずれかからなり、高屈折率下層41上に積層された低屈折率層42と、上記高屈折率下層41に同じくポリシリコンなどの高屈折率材料からなり、低屈折率層42上に積層された高屈折率上層43とにより構成されている。そして、第2ミラー40のうち、エアギャップAG上に位置する部位が、メンブレンMEM2となっている。
本実施形態では、一例として、第1ミラー20同様、高屈折率層41,43がポリシリコンからなり、低屈折率層42がシリコン酸化膜からなっている。また、低屈折率層42が、高屈折率下層41における分光領域S1内の部位内のみであって、該部位のほぼ全体に積層されており、高屈折率上層43は、低屈折率層42を被覆するように、高屈折率下層41上に積層されている。すなわち、低屈折率層42のない領域(主として周辺領域)では、高屈折率層41,43同士が接している。
メンブレンMEM2における図1に示す破線内の領域、すなわち分光領域S1では、基板1側から、高屈折率下層41、低屈折率層42、高屈折率上層43の順に積層されて、光学多層膜構造のミラーが構成されている。したがって、分光領域S1では、第1ミラー20の光学多層膜構造のミラーと、第2ミラー40の光学多層膜構造のミラーとが、対向している。
また、垂直方向のうちの少なくとも一方向において、分光領域S1を間に挟む周辺領域では、高屈折率層41,43に、静電気力を生じさせるための駆動電極44が形成されている。本実施形態では、第1ミラー20同様、周辺領域が分光領域S1を取り囲んでおり、不純物の拡散層よりなる駆動電極44が、周辺領域において、メンブレンMEM2の部位のほぼ全体と、メンブレンMEM2を除く部位の一部に形成されている。そして、メンブレンMEM2を除く部位の高屈折率上層43上に、Au/Cr等からなるパッド(図示略)が形成されている。なお、メンブレンMEM2における周辺領域の一部には、エアギャップAGと外部雰囲気とを連通する貫通孔45が複数形成されており、この貫通孔45(及び後述する貫通孔53)を介してエッチングすることで、エアギャップAGが構成されている。さらには、図示しないが、第2ミラー40には、メンブレンMEM2よりも外側の部位に、上記した第1ミラー20のパッド、後述する赤外線検出部3の駆動用パッド及び検出用パッド、を形成するための開口部が形成されている。
次に、赤外線検出部3は、赤外線検出素子51を有しており、赤外線検出素子51が分光領域S1内に位置するように、幅方向において、第1ミラー20と第2ミラー40との間に配置されている。赤外線検出素子51としては、熱型や量子型など特に限定されるものではない。
本実施形態では、赤外線検出部3が、例えばポリシリコンやポリゲルマニウムなどの、赤外線に対して半透過性(一部を吸収し、一部を透過する)を有する誘電材料からなり、エアギャップAGを跨ぐように第1支持体31と第2支持体32とに介在された支持層50を有している。そして、支持層50における、分光領域S1内の一部に、p導電型又はn導電型の不純物を注入(不純物を拡散)することで、図1、図2、及び図4に示すように、赤外線検出素子51としてのボロメータが、支持層50と同じ厚さを有して構成されている。また、赤外線検出部3のうち、エアギャップAG上に位置する部位が、メンブレンMEM3となっている。なお、本実施形態では、一例として、第1ミラー20や第2ミラー40の高屈折率層21,23,41,43同様、支持層50がポリシリコンからなっている。
また、垂直方向のうちの少なくとも一方向において、分光領域S1を間に挟む周辺領域では、図1及び図4に示すように、静電気力を生じさせるための駆動電極52が形成されている。本実施形態では、第1ミラー20同様、周辺領域が分光領域S1を取り囲んでおり、不純物の拡散層よりなる駆動電極52が、周辺領域において、メンブレンMEM3の部位のほぼ全体と、メンブレンMEM3を除く部位の一部に、支持層50と同じ厚さを有して形成されている。そして、メンブレンMEM3を除く部位の支持層50上に、Au/Cr等からなる駆動用のパッド(図示略)が形成されている。
また、周辺領域には、図4に示すように、駆動電極52とは離間されて、不純物の拡散によりなる配線部51a、及び、配線部51aを介して赤外線検出素子51と電気的に接続されたAu/Cr等からなる検出用のパッド(図示略)が形成されている。なお、メンブレンMEM3における周辺領域の一部には、エアギャップAGと外部雰囲気とを連通する貫通孔53が複数形成されている。さらには、図示しないが、メンブレンMEM3よりも外側の部位に、上記した第1ミラー20のパッドを形成するための開口部が形成されている。
また、上記したように、第1支持体31と第2支持体32の厚みが等しいため、本実施形態に係る赤外線検出部3(赤外線検出素子51)は、幅方向における厚みの中心が、エアギャップAGの中央AGCと一致するように設けられている。すなわち、赤外線検出部3は、各駆動電極24,44,52に電位の印加されない状態で、エアギャップAGを、第1ミラー20及び赤外線検出部3との対向距離と、赤外線検出部3及び第2ミラー40との対向距離とが等しい2つの空間に分けている。
以上のように構成される波長選択型赤外線検出器100では、赤外線検出部3の駆動電極52に対し、第1ミラー20の駆動電極24に印加する電位、及び、第2ミラー40の駆動電極44に印加する電位、とは異なる電位を印加すると、第1ミラー20と赤外線検出部3、及び、赤外線検出部3と第2ミラー40との間に、静電気力(静電引力)が生じる。これにより、エアギャップAGの幅を、各駆動電極24,44,52に電位を印加する前の幅W1とは異なる幅とすることができる。すなわち、エアギャップAGの幅を変化させることで、幅に応じた様々な波長の赤外線を選択的に共振させることができる。
また、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)には厚さがあり、第1ミラー20及び第2ミラー40の内面20a,40aの位置が、共振される赤外線の強度分布の節位置となる。したがって、各駆動電極24,44,52に電位が印加されない状態で、両ミラー20,40と離れた位置となるように、赤外線検出部3が支持体30に保持された上記構成では、赤外線検出部3が少なからず節以外の位置にも配置されている。したがって、一方のミラー(例えば第1ミラー20)で反射された赤外線は、他方のミラー(例えば第2ミラー40)に到達するまでに、その一部が赤外線検出部3に吸収され、この吸収は、ミラー20,40で反射されるごと(多重反射のそれぞれの反射ごと)に起こる。これにより、従来に比べて、赤外線検出部3での吸収が高まり、エアギャップAGに応じた波長の赤外線を、赤外線検出素子51にて高効率で選択的に検出することができる。
以上から、上記した波長選択型赤外線検出器100によれば、様々な波長の赤外線を高効率で検出することができる。なお、本実施形態では、赤外線検出素子51としてのボロメータに所定の検出電圧を印加しておくことで、赤外線吸収の温度変化による赤外線検出素子51の抵抗変化に基づき、赤外線を検出することができる。
また、本実施形態では、同一の基板1上に、ファブリペローフィルタ2と赤外線検出部3を一体的に設けている。したがって、ファブリペローフィルタ2と赤外線検出部3との光軸が精度良く合った波長選択型赤外線検出器100となっている。
また、本実施形態では、両ミラー20,40が、メンブレンMEM1,MEM2を有し、駆動可能に構成されているので、第2ミラー40のみが駆動可能とされる構成に比べて、同じ電位を印加するのであれば、幅の変化量を大きくすることも可能である。
また、本実施形態では、上記したように、赤外線検出部3の駆動電極52に対し、第1ミラー20の駆動電極24に印加する電位、及び、第2ミラー40の駆動電極44に印加する電位、とは異なる電位を印加することで、エアギャップAGの幅を、各駆動電極24,44,52に電位を印加する前の幅W1とは異なる幅とすることができる。したがって、駆動電極24と駆動電極52の電位差と、駆動電極44と駆動電極52の電位差をそれぞれ任意に設定することで、エアギャップAGの幅を初期状態W1から変化させた状態における赤外線検出部3(赤外線検出素子51)の位置を、自由に設定することができる。
特に本実施形態では、上記したように、両ミラー20,40が、メンブレンMEM1,MEM2を有しており、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)の厚みの中心が、各駆動電極24,44,52に電位が印加されない状態で、エアギャップAGの幅W1の中央AGCと一致している。このような構成では、駆動電極24と駆動電極52の電位差と、駆動電極44と駆動電極52の電位差とが互いに等しくなるように、各駆動電極24,44,52に電位を印加することが好ましい。これによれば、第1ミラー20と赤外線検出部3との間に生じる静電気力と、赤外線検出部3と第2ミラー40との間に生じる静電気力とが釣り合うため、図5に示すように、赤外線検出部3を、エアギャップAGの中央AGCを含む位置に保持した状態で、第1ミラー20及び第2ミラー40を、赤外線検出部3に近づく方向に駆動させて、エアギャップの幅をW2とすることができる。上記したように、エアギャップAGの幅が波長の1/2となる光(赤外線)においては、エアギャップAGの幅方向における中央AGCが、赤外線強度分布の腹位置となる。したがって、上記構成によれば、各駆動電極24,44,52に電位を印加した状態のエアギャップAGの幅W2に応じた波長の赤外線を、赤外線検出素子51にて、より効率よく検出することができる。
この効果は、本発明者によるシミュレーション結果からも明らかとなっている。図6は、赤外線検出部による吸収率向上を示す図であり、実線が本実施形態によるもの、破線が比較例としての従来構成によるものである。
なお、シミュレーションに当たっては、上記した構造の波長選択型赤外線検出器100において、シリコンからなる高屈折率層21,23,41,43を、屈折率3.42、消衰係数0.00、厚さ320nmとし、空気からなる低屈折率層22,42を、屈折率1.00、消衰係数0.00、厚さ850nmとし、エアギャップAGの幅を2.4μm、シリコン酸化膜からなる絶縁膜11の厚さを800nmとした。また、赤外線検出部3を、屈折率2.75、消衰係数0.30、厚み10nmとした。さらに、ファブルペローフィルタの下部に赤外線検出器が配置された従来の構成を比較例とし、このときの赤外線検出器の厚みを320nmとした。
図6に破線で示すように、従来構成では赤外線吸収率が15%程度であるのに対し、実線で示すように、本実施形態の構成では赤外線吸収率が65%程度と大幅に向上している。すなわち、赤外線吸収率が4倍強となっている。この結果からも、本実施形態に示した波長選択型赤外線検出器100によれば、赤外線を効率よく検出することができることが明らかである。
なお、本発明者は、エアギャップAGの幅による効果についても、シミュレーションにより確認した。その際のパラメータは、上記と同じとし、エアギャップAGの幅が2.2μmについても確認を行った。図7は、エアギャップ幅による効果を示す図であり、実線が2.4μm、破線が2.2μmの場合を示している。
図7に示すように、エアギャップAGの幅が、2.2μmと2.4μmとで、赤外線吸収率の差異、及び、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)の差異、は殆ど見られなかった。この結果からも、本実施形態に示した波長選択型赤外線検出器100によれば、エアギャップAGの幅に応じた様々な波長の赤外線について、それぞれ効率よく検出することができることが明らかである。
また、本発明者は、赤外線検出部3の光学長(屈折率×幅方向の厚み)と、赤外線吸収率との関係についても、シミュレーションを行った。その際のパラメータは、上記と同じとし、共振波長としては、4600nmと、9200nmについて確認を行った。図8は、赤外線検出部の光学長と、赤外線吸収率との関係を示す図である。なお、図8は、共振波長4600nmの場合を示したものである。共振波長4600nmは、エアギャップAGの幅2.4μmに対応している。また、上記共振波長とは、両ミラー20,40間に赤外線検出部3が配置されない状態での、ファブリペローフィルタ2における共振波長である。
図8では、460nmが検出対象波長(共振波長)の1/10に相当しており、460nmが吸収率の変曲点となっている。すなわち、460nmより大きい範囲では、吸収率に変化が殆ど見られず、460nm以下では、赤外線検出部3の厚みが薄くなるほど、吸収率が上昇している。なお、検出対象波長が9200nmの場合も、検出対象波長(共振波長)の1/10に相当する920nmを変曲点とし、920nm以下では、赤外線検出部3の厚みが薄くなるほど、吸収率が上昇した。
以上から、両ミラー20,40が駆動可能とされ、赤外線検出部3がエアギャップAGの中央AGCを含む位置に保持される構成では、幅方向において、赤外線検出部3の厚みが、光学長で、検出対象波長(共振波長)の1/10以下とされた構成とすると、様々な波長の赤外線を検出できながらも、特定波長(検出対象波長)の赤外線をより効率良く検出することができることが明らかである。
次に、上記した波長選択型赤外線検出器100の製造方法の一例について説明する。図9は、波長選択型赤外線検出器の製造方法を示す断面図であり、(a),(b),(c),(d),(e)の順に移行する。また、図10は、波長選択型赤外線検出器の製造方法を示す断面図であり、図9(e)に続いて、(a),(b),(c),(d)の順に移行する。
先ず、図9(a)に示すように、基板1として、一面全面に、シリコン酸化膜などからなる絶縁膜11が設けられた、単結晶シリコンからなる半導体基板10を準備する。そして、絶縁膜11上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層21、シリコン酸化膜などからなる低屈折率層22の順に、堆積形成する。次いで、低屈折率層22の表面にレジストなどからなるマスクを形成し、該マスクを介して低屈折率層22及び高屈折率下層21をエッチング(例えばRIEなどの異方性のドライエッチング)し、図9(b)に示すように、絶縁膜11に達する貫通孔25aを形成する。
次に、マスクを除去し、低屈折率層22を覆うように、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層23を堆積形成する。このとき、例えばポリシリコンは、貫通孔25aの底面及び側面にも堆積され、貫通孔25aは、径が小さい溝25bとして残る。また、マスクを除去した後、高屈折率上層23の表面に新たなマスクを形成し、該マスクを介して、高屈折率上層23に不純物をイオン注入する。このイオン注入では、分光領域S1となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなるため、周辺領域にのみに選択的に不純物をイオン注入する。このイオン注入により、駆動電極24が形成される。
そして、マスクを除去した後、高屈折率上層23の表面に新たなマスクを形成し、溝25bの底面に位置するポリシリコンを、エッチングにより選択的に除去する。これにより、高屈折率層21,23及び低屈折率層22を貫通する貫通孔25が形成される。以上が、図9(d)に示す工程である。これら工程は、主として、第1ミラー20を形成するための工程である。
なお、第1ミラー20の形成においては、絶縁膜11上に、高屈折率下層21、低屈折率層22、高屈折率上層23の順に堆積形成した後、高屈折率下層21、低屈折率層22、及び高屈折率上層23をエッチングして、貫通孔25を形成しても良い。
また、低屈折率層22を、後述する第2ミラー40の低屈折率層42同様に、分光領域S1に対応する部位のみに配置された構成とすること可能であるが、上部構造をできるだけ平坦とするために、本実施形態では、高屈折率下層21の全面に、低屈折率層22を設けている。
次に、マスクを除去し、図9(e)に示すように、高屈折率膜上層23の表面全面に、シリコン酸化膜などの絶縁層31aを堆積形成する。この絶縁層31aは、主として、後にエアギャップAGが形成されて第1支持体31となる部位である。したがって、絶縁層31aの膜厚は、駆動電圧が印加されない状態の、第1ミラー20と赤外線検出部3との対向距離と等しい厚さとする。絶縁層31aの構成材料としては、電気絶縁材料であれば特に限定されるものではないが、好ましくは絶縁膜11と同一材料とすると良い。この工程は、主として、支持体30を構成する第1支持体31を形成するための工程である。
絶縁層31aの形成後、図9(e)に示すように、絶縁層31aの表面全面に、ポリシリコンなどからなる支持層50を堆積形成する。そして、支持層50の表面にマスクを形成し、該マスクを介して、支持層50における分光領域S1内に不純物をイオン注入する。このイオン注入により、図10(a)に示すように、赤外線検出素子51(ボロメータ)が形成される。なお、赤外線検出素子51とともに、図示しない配線部51aも同時に形成される。また、マスクの除去後、新たなマスクを支持層50の表面に形成し、該マスクを介して、支持層50における周辺領域であって配線部51aとは異なる部位に、不純物をイオン注入する。このイオン注入により、駆動電極52が形成される。
さらに、マスクの除去後、新たなマスクを支持層50の表面に形成し、該マスクを介して、支持層50をエッチング(例えばRIEなどの異方性のドライエッチング)し、図10(a)に示すように、絶縁層31aに達する貫通孔53を形成する。これら工程は、主として、赤外線検出部3を形成するための工程である。
次に、マスクを除去し、図10(b)に示すように、シリコン酸化膜などの絶縁層32aを、支持層50上に堆積形成する。この絶縁層32aにより、貫通孔53も埋められる。絶縁層32aは、主として、後にエアギャップAGが形成されて第2支持体32となる部位である。したがって、絶縁層32aの膜厚は、駆動電圧が印加されない状態の、第2ミラー40と赤外線検出部3との対向距離と等しい厚さとする。本実施形態では、絶縁層31aの厚さと等しくする。なお、絶縁層32aの構成材料としては、電気絶縁材料であれば特に限定されるものではないが、好ましくは絶縁膜11と同一材料とすると良い。この工程は、主として、支持体30を構成する第2支持体32を形成するための工程である。
次いで、図10(b)に示すように、絶縁層32aの表面全面に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層41を堆積形成し、次いで、シリコン酸化膜などからなる低屈折率層42を堆積形成する。
次に、低屈折率層42の表面に、レジストなどからなるマスクを形成し、該マスクを介して、図10(c)に示すように、低屈折率層42をエッチングし、分光領域S1に対応する部位のみを選択的に残す。そして、マスクを除去後、パターニングされた低屈折率層42を覆うように、高屈折率下層41上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層43を堆積形成する。
次に、高屈折率上層43の表面に新たなマスクを形成し、該マスクを介して、高屈折率上層43及び高屈折率下層41に不純物をイオン注入する。このイオン注入では、分光領域S1となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなるため、周辺領域にのみに選択的に不純物をイオン注入する。このイオン注入により、駆動電極44が形成される。また、マスクを除去した後、高屈折率上層43の表面に新たなマスクを形成し、高屈折率層41,43を、エッチングにより選択的に除去する。これにより、高屈折率層41,43を貫通する貫通孔45が形成される。以上が、図10(d)に示す工程である。これら工程は、主として、第2ミラー40を形成するための工程である。
次いで、貫通孔45を通じて、絶縁層32aにおけるエアギャップAGを形成すべき部位をエッチングするとともに、貫通孔53を通じて、絶縁層31aにおけるエアギャップAGを形成すべき部位をエッチングする。さらには、貫通孔25を通じて、絶縁層11における空隙12を形成すべき部位をエッチングする。本実施形態では、これらエッチングが同一工程で実施される。このエッチングにより、エアギャップAGが形成されるとともに支持体30(第1支持体31及び第2支持体32)も形成され、さらには空隙12も形成される。
以上に示した工程により、図1に示した波長選択型赤外線検出器100を得ることができる。
なお、本実施形態では、光学多層膜構造の第1ミラー20及び第2ミラー40を構成する各膜の厚さについて特に言及しなかった。しかしながら、上記した光学多層膜構造のミラー20,40において、高屈折率層21,23,41,43と低屈折率層22,42の厚みを、光学長で、所定の検出対象波長に対して全て1/4程度とすると、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくし、ひいては検出精度を向上することができる。
また、本実施形態では、基板1が空隙12を有し、第1ミラー20が、メンブレンMEM1を有する例を示した。しかしながら、各駆動電極24,44,52に電位が印加されない状態で、両ミラー20,40と離れた位置となるように、赤外線検出部3が支持体30に保持された構成としては、基板1が空隙12を有しておらず、第1ミラー20を、メンブレンMEM1を有さない固定ミラーとしても良い。この場合も、第1ミラー20と第2ミラー40との間に、赤外線検出部3が配置されているので、多重反射を利用して、効率よく赤外線を検出することができる。
また、本実施形態では、第1支持体31と第2支持体32の厚みを等しくすることで、赤外線検出部3の厚みの中心を、駆動電極24,44,52に電位が印加されない状態におけるエアギャップAGの中央AGCと一致させる例を示した。しかしながら、第1支持体31と第2支持体32の厚みを、互いに異なる厚みとしても良い。すなわち、赤外線検出部3の厚みの中心が、駆動電極24,44,52に電位が印加されない状態で、エアギャップAGの中央AGCと一致しない構成としても良い。このような構成としても、赤外線検出部3には厚さがあるため、少なからず赤外線強度分布の節以外の位置にも赤外線検出部3が配置される。したがって、多重反射を利用して、エアギャップAGに応じた波長の赤外線を、高効率で選択的に検出することができる。
また、本実施形態では、絶縁膜11を一部除去することで、基板1に空隙12を持たせる例を示した。しかしながら、絶縁膜11とともに、半導体基板10も一部除去することで、一面側に開口する空隙12としても良い。さらには、半導体基板10における一面の裏面側から、半導体基板10及び絶縁膜11をエッチングし、一面側に開口する空隙12としても良い。すなわち、基板1の一面側から加工されてなる表面加工型の空隙12、及び、基板1の裏面側から加工されてなる裏面加工型の空隙12、のいずれも採用することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、図11及び図12に基づいて説明する。図11は、第2実施形態に係る波長選択型赤外線検出器の概略構成を示す断面図であり、第1実施形態の図1に対応している。図12は、各駆動電極に電位を印加した状態を示す模式的な断面図であり、第1実施形態の図5に対応している。
第2実施形態に係る波長選択型赤外線検出器は、第1実施形態に示した波長選択型赤外線検出器と共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。なお、第1実施形態に示した要素と同一の要素には、同一の符号を付与するものとする。
第1実施形態では、両ミラー20,40の駆動電極24,44に電位が印加されない状態で、両ミラー20,40と離れた位置となるように、赤外線検出部3が支持体30に保持された構成において、赤外線検出部3にも駆動電極52を設け、第1ミラー20と赤外線検出部3との間に生じる静電気力と、赤外線検出部3と第2ミラー40との間に生じる静電気力により、エアギャップAGの幅を、各駆動電極24,44,52に電位を印加する前の幅W1とは異なる幅とする例を示した。
これに対し、本実施形態では、図11に示すように、赤外線検出部3には駆動電極52を設けずに、両ミラー20,40の駆動電極24,44に、互いに異なる電位を印加する点を特徴とする。すなわち、赤外線検出部3を、駆動させるための電位を印加しない浮遊電位の状態(フローティング状態)とし、駆動電極24,44に、互いに異なる電位を印加する点を特徴とする。なお、図11に示す波長選択型赤外線検出器100は、駆動電極52の有無を除けば、第1実施形態に示した波長選択型赤外線検出器100(図1参照)と同じである。赤外線検出部3の構成は、第1実施形態の図4に示した構成に対し、周辺領域の駆動電極52をなくした構成となっている。
すなわち、本実施形態においても、第1支持体31と第2支持体32の厚みが互いに等しくされ、赤外線検出部3の厚みの中心が、駆動電極24,44に電位が印加されない状態で、エアギャップAGの幅W1の中央AGCと一致している。また、赤外線検出部3の支持層50には、赤外線検出素子51としてのボロメータが形成され、該素子51に所定の電圧が印加された状態で、赤外線が検出される。
このような構成の波長選択型赤外線検出器100では、両ミラー20,40の駆動電極24,44に、互いに異なる電位を印加すると、浮遊電位とされた赤外線検出部3の部位、詳しくは誘電材料からなる支持層50のうち、配線部51aを含む赤外線検出素子51の形成部位を除く部位、の各ミラー20,40との対向面に電荷がそれぞれ誘起される。したがって、第1ミラー20と赤外線検出部3との間に生じる静電気力と、赤外線検出部3と第2ミラー40との間に生じる静電気力により、エアギャップAGの幅を、各駆動電極24,44に電位を印加する前の幅とは異なる幅とすることができる。すなわち、エアギャップAGの幅を変化させることで、幅に応じた様々な波長の赤外線を選択的に共振、すなわちエアギャップAG内に入射、させることができる。したがって、本実施形態に示す構成においても、第1実施形態に示した種々の効果を期待することができる。
また、本実施形態では、赤外線検出部3に駆動電極52を設けないため、第1実施形態に示した構成に比べ、赤外線検出部3、ひいては波長選択型赤外線検出器100の構成を簡素化することができる。すなわち、製造工程も短縮することが可能である。
また、本実施形態では、両ミラー20,40が、メンブレンMEM1,MEM2を有しており、赤外線検出部3の厚みの中心が、各駆動電極24,44に電位が印加されない状態で、エアギャップAGの幅W1の中央AGCと一致している。したがって、各駆動電極24,44に電位を印加すると、第1ミラー20と赤外線検出部3との間に生じる静電気力と、赤外線検出部3と第2ミラー40との間に生じる静電気力とが釣り合うため、図12に示すように、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)を、エアギャップAGの中央AGCを含む位置に保持した状態で、第1ミラー20及び第2ミラー40を、赤外線検出部3に近づく方向に駆動させて、エアギャップの幅をW2とすることができる。上記したように、エアギャップAGの幅が波長の1/2となる光(赤外線)においては、エアギャップAGの幅方向における中央AGCが、赤外線強度分布の腹位置となる。したがって、各駆動電極24,44に電位を印加した状態のエアギャップAGの幅W2に応じた波長の赤外線を、赤外線検出素子51にて、より効率よく検出することができる。
また、本実施形態においても、両ミラー20,40が駆動可能とされ、赤外線検出部3がエアギャップAGの中央AGCを含む位置に保持される構成となっている。したがって、第1実施形態同様、幅方向において、赤外線検出部3の厚みを、光学長で、検出対象波長(共振波長)の1/10以下とされた構成とすると、様々な波長の赤外線を検出できながらも、特定波長(検出対象波長)の赤外線をより効率良く検出することができる。
また、本実施形態においても、光学多層膜構造のミラー20,40を構成する、高屈折率層21,23,41,43と低屈折率層22,42の厚みを、光学長で、所定の検出対象波長に対して全て1/4程度とすると良い。これによれば、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくし、ひいては検出精度を向上することができる。
また、本実施形態においても、各駆動電極24,44に電位が印加されない状態で、両ミラー20,40と離れた位置となるように、赤外線検出部3が支持体30に保持された構成として、基板1が空隙12を有しておらず、第1ミラー20を、メンブレンMEM1を有さない固定ミラーとしても良い。この場合も、第1ミラー20と第2ミラー40との間に、赤外線検出部3が配置されているので、多重反射を利用して、効率よく赤外線を検出することができる。
また、本実施形態においても、第1支持体31と第2支持体32の厚みを等しくすることで、赤外線検出部3の厚みの中心を、駆動電極24,44に電位が印加されない状態におけるエアギャップAGの中央AGCと一致させる例を示した。しかしながら、第1支持体31と第2支持体32の厚みを、互いに異なる厚みとしても良い。すなわち、赤外線検出部3の厚みの中心が、駆動電極24,44に電位が印加されない状態で、エアギャップAGの中央AGCと一致しない構成としても良い。このような構成としても、赤外線検出部3には厚さがあるため、少なからず節以外の位置にも赤外線検出部3が配置される。したがって、多重反射を利用して、エアギャップAGに応じた波長の赤外線を、高効率で選択的に検出することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を、図13及び図14に基づいて説明する。図13は、第3実施形態に係る波長選択型赤外線検出器の概略構成を示す断面図であり、第1実施形態の図1に対応している。図14は、図13を模式化した断面図である。
第3実施形態に係る波長選択型赤外線検出器は、上記した各実施形態の波長選択型赤外線検出器と共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。なお、上記実施形態に示した要素と同一の要素には、同一の符号を付与するものとする。
上記した各実施形態では、少なくとも駆動電極24,44に電位が印加されない状態で、第1ミラー20及び第2ミラー40と離れた位置となるように、赤外線検出部3が支持体30に保持され、赤外線検出部3におけるエアギャップAG上の部位がメンブレンMEM3とされて、該メンブレンMEM3に赤外線検出素子51が設けられる例を示した。
これに対し、本実施形態では、赤外線検出部3が、第1ミラー20及び第2ミラー40のいずれかの、内面20a,40aから幅方向における一部に、一体的に設けられている点を特徴とする。一例として、図13及び図14に示す例では、メンブレンMEM2を有する第2ミラー40のうち、分光領域S1内において、内面40aから幅方向における一部に、赤外線検出素子51が一体的に設けられている。
より詳しくは、図13に示すように、光学多層膜構造の第2ミラー40においてポリシリコンなどからなる高屈折率下層41が、赤外線検出部3の支持層50を兼ねている。そして、高屈折率下層41のうち、分光領域S1には、その一部のみに、p導電型又はn導電型の不純物を注入(不純物を拡散)することで、赤外線検出素子51としてのボロメータが、高屈折率下層41と同じ厚さを有して構成されている。なお、赤外線検出素子51は、上記したように分光領域S1の一部のみを占めており、その形成範囲は、図13に例示するように、低屈折率層42よりも小さい範囲となっている。
また、第2ミラー40には、垂直方向のうちの少なくとも一方向において、分光領域S1を間に挟む周辺領域に、静電気力を生じさせるための駆動電極44が形成されている。本実施形態でも、周辺領域が分光領域S1を取り囲んでおり、不純物の拡散層よりなる駆動電極44が、高屈折率層41,43の周辺領域において、メンブレンMEM2の部位のほぼ全体と、メンブレンMEM2を除く部位の一部に形成されている。そして、メンブレンMEM2を除く部位の高屈折率上層43上に、Au/Cr等からなるパッド(図示略)が形成されている。
また、第2ミラー40の周辺領域には、駆動電極44とは離間されて、不純物の拡散によりなる配線部51a(図示略)と、配線部51aを介して赤外線検出素子51と電気的に接続された検出用のパッド(図示略)が形成されている。
このように、本実施形態に係る波長選択型赤外線検出器100では、第1ミラー20の駆動電極24と第2ミラー40の駆動電極44とに異なる電位を印加すると、第1ミラー20と第2ミラー40との間に、静電気力(静電引力)が生じる。これにより、エアギャップAGの幅を、各駆動電極24,44に電位を印加する前の幅W1とは異なる幅とすることができる。すなわち、エアギャップAGの幅を変化させることで、幅に応じた様々な波長の赤外線を選択的に共振、すなわちエアギャップAG内に入射、させることができる。
また、赤外線検出部3には厚さがあり、第1ミラー20及び第2ミラー40の内面20a,40aの位置が、共振される赤外線の強度分布の節位置となるため、上記構成では、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)が少なからず節以外の位置にも配置されている。したがって、一方のミラー(例えば第1ミラー20)で反射された赤外線は、他方のミラー(例えば第2ミラー40)に到達するまでに、その一部が赤外線検出部3に吸収され、この吸収は、ミラー20,40で反射されるごと(多重反射のそれぞれの反射ごと)に起こる。これにより、従来に比べて、赤外線検出部3での赤外線の吸収率が高まり、エアギャップAGに応じた波長の赤外線を、赤外線検出素子51にて高効率で検出することができる。
以上から、上記した波長選択型赤外線検出器100によれば、様々な波長の赤外線を高効率で検出することができる。なお、本実施形態では、赤外線検出素子51としてのボロメータに所定の検出電圧を印加しておくことで、赤外線吸収の温度変化による赤外線検出素子51の抵抗変化に基づいて、赤外線を検出することができる。
この点について、本発明者は、シミュレーションにより確認した。シミュレーションに当たっては、上記した構造の波長選択型赤外線検出器100において、シリコンからなる高屈折率層21,23,41,43を、屈折率3.42、消衰係数0.00、厚さ320nmとし、空気からなる低屈折率層22,42を、屈折率1.00、消衰係数0.00、厚さ850nmとし、シリコン酸化膜からなる絶縁膜11の厚さを800nmとした。また、赤外線検出部3を、屈折率2.75、消衰係数0.30、厚み320nmとした。そして、エアギャップAGの幅が、2.4μmと2.2μmの場合を比較した。図15は、エアギャップ幅による効果を示す図であり、実線が2.4μm、破線が2.2μmの場合を示している。
図15に示すように、エアギャップAGの幅が、2.2μmと2.4μmとで、赤外線吸収率の差異、及び、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)の差異、は殆ど見られなかった。また、いずれの吸収率も、第1実施形態の図6に比較例として破線で示した従来構成の吸収率よりも、高い値を示した。この結果から、本実施形態に示した波長選択型赤外線検出器100によれば、エアギャップAGの幅に応じた様々な波長の赤外線について、それぞれ効率よく検出することができることが明らかである。
また、本実施形態でも、同一の基板1上に、ファブリペローフィルタ2と赤外線検出部3を一体的に設けている。したがって、ファブリペローフィルタ2と赤外線検出部3との光軸が精度良く合った波長選択型赤外線検出器100となっている。
また、本実施形態では、図13及び図14に示すように、基板1が空隙12を有しておらず、第1ミラー20が、空隙12を架橋するメンブレンMEM1を有さない固定ミラーとなっている。したがって、第1実施形態及び第2実施形態にて例示した構成に比べて、構成が簡素であり、製造工程を簡素化することができる。
また、本実施形態では、第2ミラー40を構成する高屈折率下層41の一部に、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)が形成されており、駆動電極24,44への電位印加により、第2ミラー40と一体的に、赤外線検出部3が駆動される。したがって、第1実施形態及び第2実施形態に示した構成に比べて、エアギャップAGの幅を所定幅に制御しやすい構成となっている。また、赤外線検出部3の剛性を高めることができる。
また、本実施形態では、光学多層膜構造の第1ミラー20及び第2ミラー40を構成する高屈折率層21,23,41,43及び低屈折率層22,42の、幅方向における厚みが、光学長で、特定波長(検出対象波長)の1/4となっており、これにより、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)の厚みも、その光学長が特定波長の1/4となっている。上記したように、第1ミラー20及び第2ミラー40の内面20a,40aの位置は、共振される赤外線の強度分布の節位置となる。したがって、上記構成によれば、高屈折率下層41における低屈折率層42側の面の位置、すなわち図16に示すように、赤外線検出部3におけるエアギャップAGとは反対側の面の位置、が検出対象波長の腹位置となる。これにより、特に検出対象波長の赤外線を、赤外線検出素子51にてより効率よく検出することができる。また、上記構成のミラー20,40によれば、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくし、ひいては検出精度を向上することも可能である。なお、図16は、赤外線検出素子の好ましい配置を説明するための模式的な図である。図16では、明確化のために、赤外線検出素子にハッチングを施している。
次に、上記した波長選択型赤外線検出器100の製造方法の一例について説明する。図17は、波長選択型赤外線検出器の製造方法を示す断面図であり、(a),(b),(c),(d)の順に移行する。また、図18は、波長選択型赤外線検出器の製造方法を示す断面図であり、図17(d)に続いて、(a),(b),(c)の順に移行する。
先ず、図17(a)に示すように、基板1として、一面全面に、シリコン酸化膜などからなる絶縁膜11が設けられた、単結晶シリコンからなる半導体基板10を準備する。そして、絶縁膜11上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層21、シリコン酸化膜などからなる低屈折率層22、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層23の順に、堆積形成する。次いで、高屈折率上層23上にマスクを形成し、該マスクを介して、高屈折率上層23に不純物をイオン注入する。このイオン注入では、分光領域S1となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなるため、周辺領域にのみに選択的に不純物をイオン注入する。このイオン注入により、駆動電極24が形成される。以上が、図17(a)に示す工程である。これら工程は、主として、第1ミラー20を形成するための工程である。
次に、マスクを除去し、図17(b)に示すように、高屈折率膜上層23の表面全面に、シリコン酸化膜などの絶縁層30aを堆積形成する。この絶縁層30aは、主として、後にエアギャップAGが形成されて支持体30となる部位である。したがって、絶縁層30aの膜厚は、駆動電圧が印加されない状態のエアギャップAGの幅と等しい厚さとする。
絶縁層30aの形成後、図17(b)に示すように、絶縁層30aの表面全面に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層41を堆積形成する。そして、高屈折率下層41の表面にマスクを形成し、該マスクを介して、高屈折率下層41における分光領域S1内に不純物をイオン注入する。このイオン注入により、図17(c)に示すように、赤外線検出素子51(ボロメータ)が形成される。なお、図示しない配線部51aも同時に形成する。
次に、マスクの除去後、図17(d)に示すように、シリコン酸化膜などからなる低屈折率層42を堆積形成する。そして、低屈折率層42の表面に、レジストなどからなるマスクを形成し、該マスクを介して、図18(a)に示すように、低屈折率層42をエッチングし、分光領域S1に対応する部位のみを選択的に残す。
そして、マスクを除去後、図18(b)に示すように、高屈折率下層41上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層43を堆積形成する。これにより、パターニングされた低屈折率層42も、高屈折率上層43によって被覆される。
次に、高屈折率上層43の表面に新たなマスクを形成し、該マスクを介して、高屈折率上層43及び高屈折率下層41に不純物をイオン注入する。このイオン注入では、分光領域S1となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなるため、周辺領域にのみに選択的に不純物をイオン注入する。このイオン注入により、駆動電極44が形成される。また、マスクを除去した後、高屈折率上層43の表面に新たなマスクを形成し、高屈折率層41,43を、エッチングにより選択的に除去する。これにより、高屈折率層41,43を貫通する貫通孔45が形成される。以上が、図18(c)に示す工程である。これら工程は、主として、第2ミラー40を形成するための工程である。
次いで、貫通孔45を通じて、絶縁層30aにおけるエアギャップAGを形成すべき部位をエッチングし、エアギャップAGを形成する。以上に示した工程により、図13に示した波長選択型赤外線検出器100を得ることができる。
なお、本実施形態では、第2ミラー40を構成する高屈折率下層41に、赤外線検出素子51を備える赤外線検出部3が、一体的に設けられる例を示した。しかしながら、図19に示すように、第1ミラー20(高屈折率上層23)に、赤外線検出素子51を備える赤外線検出部3が、一体的に設けられた構成としても良い。図19は、変形例を示す模式的な断面図であり、図14に対応している。
また、本実施形態では、第1ミラー20及び第2ミラー40として、光学多層膜構造の例を示したが、第1ミラー20及び第2ミラー40の構成は、上記例に限定されるものではない。例えば、単層構造の第1ミラー20及び第2ミラー40のいずれかにおいて、内面20a,40a側から一部の範囲に、赤外線検出素子51を備える赤外線検出部3が、一体的に設けられた構成としても良い。
また、本実施形態では、第1ミラー20が固定ミラーとされる例を示した。しかしながら、第1実施形態などで示したように、第1ミラー20が、メンブレンMEM1を有する構成としても良い。この場合、第2ミラー40とともに第1ミラー20も駆動することができるので、同じ電位を印加するのであれば、第2ミラー40のみが駆動可能とされた構成に比べて、幅の変化量を大きくすることも可能である。
また、本実施形態では、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)の厚みが、光学長で、特定波長(検出対象波長)の1/4とすると、特定波長での検出効率をより高めることができる点を示した。しかしながら、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)の光学長としては、特定波長の1/4に限定されるものではなく、検出対象波長の1/4以上とすれば良い。光学長を検出対象波長の1/4以上とすれば、赤外線検出部3が、検出対象波長の腹位置を含んで配置されるため、検出対象波長の赤外線を、赤外線検出部3にてより効率よく検出することができる。
また、本実施形態では、赤外線検出素子51を備える赤外線検出部3が、第1ミラー20及び第2ミラー40のいずれかと一体的に設けられる例を示した。しかしながら、例えば図20に示すように、赤外線検出部3が、駆動電極24,44への電位印加有無に関わらず、第2ミラー40の内面40aに接して設けられた構成としても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。図20に示す構成においても、上記した理由から、赤外線検出部3(赤外線検出素子51)の光学長を、特定波長(検出対象波長)の1/4以上とすることで、特定波長での検出効率をより高めることができる。また、赤外線検出部3が、メンブレンを有するミラーに接して設けられた構成とすると、ミラーにおける分光領域S1の剛性が増すので、製造時のハンドリング性が向上する。図20は、その他変形例を示す模式的な断面図である。図20では、便宜上、赤外線検出素子51のみを図示しているが、実際には、第1実施形態で示した支持層50が、支持体30と第2ミラー40との間に介在された構成となる。
なお、図20においては、赤外線検出部3が、第2ミラー40の内面40aに接して設けられる例を示したが、図21に示すように、赤外線検出部3が、第1ミラー40の内面20aに接して設けられた構成としても、同様の効果を期待することができる。図21は、その他変形例を示す模式的な断面図である。図21でも、便宜上、赤外線検出素子51のみを図示しているが、実際には、第1実施形態で示した支持層50が、支持体30と第1ミラー20との間に介在された構成となる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
本実施形態では、基板1として、一面上に絶縁膜11を備えた半導体基板10の例を示した。しかしながら、基板1としては上記例に限定されるものではなく、ガラスなどの絶縁基板を採用することも可能である。その場合、絶縁膜11は不要である。
本実施形態では、第1ミラー20及び第2ミラー40として、高屈折率層間に低屈折率層を介在させてなる光学多層膜構造の例を示した。しかしながら、ミラーの構成は上記例に限定されるものではない。
また、光学多層膜構造の一例として、低屈折率層22,42がシリコン酸化膜からなる例を示した。しかしながら、低屈折率層22,42としては、シリコン酸化膜などの固体の他に、液体、空気などの気体、ゾル、ゲル、真空などを採用することができる。
本実施形態では、赤外線検出素子51としてボロメータの例を示した。しかしながら、赤外線検出素子51としては、熱電堆(サーモパイル)や焦電型などの他の熱型素子や、量子型素子などを採用することもできる。