以下に示す実施の形態は、電子写真装置及び電子写真プロセスにとって有用な材料組成物を提供する。材料組成物は、複数のグラフェン含有粒子がポリマーマトリックス中に分散又は分布されている。このような材料組成物は、電子写真部材及び電子写真装置、例えば、定着機構の部材、定着部材、加圧ローラ、及び/又は剥離ドナー部材に用いることができる。ある実施形態では、材料組成物分散体を電子写真における基材上に塗布して、機能部材層を形成し、熱的、機械的及び/又は電気的特性の少なくとも1つを制御又は改良することができる。
図1Aは、材料組成物100Aを示す図である。同図に示されるように、材料組成物100Aは、複数のグラフェン含有粒子120がポリマーマトリックス110中に分散又は分布されたものである。図1Aでは、複数のグラフェン含有粒子120は、同様の大きさ及び形状を有するように表されているが、当業者は、複数のグラフェン含有粒子120が、異なる大きさ及び/又は形状を有してもよいことを理解している。さらに、図1Aは概略図であって、他の粒子/充填剤/ポリマーを添加してもよく、又は存在する粒子/充填剤/ポリマーを取り除き又は改良してもよいことは、当業者には容易に理解される。
ここで、「グラフェン」という用語は、グラファイト構造内に配列された炭素の単一層を意味し、その炭素は六角形に配列して平面縮環体を形成する。グラファイト層の積層は、例えば、六角形又は菱面体である。例えば、グラフェンのグラファイト構造の大部分は、六角形の積層構造を有する。このようなグラファイト構造中の炭素原子は、一般的に、sp2混成で共有結合している。「グラファイト」という用語は、各原子が3つの隣接する原子と、3次元的に規則的な配列を有する蜂の巣状構造に結合した炭素原子の平坦なシートを意味するが、「グラファイト」という用語は、炭素が3次元結合することなく結合した炭素の単一層を通常含まない。
ここで使用される「グラフェン」という用語は、例えば、グラファイト構造を有する炭素の単一層(不純物を含む)だけでなく、炭素が複数の層で3次元結合したグラファイトをも含む。さらに、「グラフェン」は、フラーレン構造を有していてもよい。フラーレン構造は、一般的に、同数の炭素原子が5員環及び6員環でかご状に縮環した多環体を形成してなる化合物として認識されており、例示的には、C60、C70及びC80フラーレン又は3配位の炭素原子を有する他の閉じたかご状構造がある。
「グラファイト」と「グラフェン」という用語をより良く理解するために、図2A、Bを用いる。図2Aは、炭素210aの3次元原子結晶構造200Aを有する「グラファイト」の概略図を、図2Bは、炭素210bの2次元原子結晶構造200Bを有する「グラフェン」の概略図を、それぞれ示している。グラファイト及びグラフェンの原子結晶構造は、ジャーナルオブマテリアルズトゥデイ(Vol.10、2007年、「グラフェン−2次元の炭素」)でも見ることができ、これらは本教示の各種実施の形態に従う。
グラフェン含有粒子120は、種々の形態で使用することができる。例えば、グラフェン含有粒子120は、約100ナノメートル以下のサイズ(例えば、幅又は直径)であるナノ粒子構造を有する。グラフェン含有粒子120は、例えば、ナノチューブ、ナノファイバ、ナノシャフト、ナノピラー、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノニードル、及びその各種官能化及び誘導された繊維形態であってもよい。この繊維形態には、スレッド、ヤーン、ファブリック等の例示的形態を有するナノファイバがある。ある実施形態では、グラフェン含有粒子120は、マイクロスケールサイズであってもよく、例えば、ウィスカー、ロッド、フィラメント、かご状構造、バッキーボール(例えば、バックミンスターフラーレン)及びその混合形態であってもよい。
グラフェン含有粒子120は、例えば、そのグラファイト構造の化学変性に由来したシート又はナノチューブの形態を有するグラフェンの可溶性の小片であってもよい。グラフェン含有粒子120の合成方法としては、例えば、アーク放電、レーザアブレーション、高圧一酸化炭素(HiPCO)、及び化学蒸着(CVD)を用いる方法が挙げられる。
ある実施形態では、グラフェン含有粒子120は、1以上のグラフェン層(例えば、平坦な層)から形成されたチューブ又はシリンダからなるカーボンナノチューブの形態であってもよい。なお、これは、公知の1次元グラフェン非含有ナノチューブとは異なる。例えば、グラフェン含有カーボンナノチューブは、1つのグラフェンシートを含む単一壁のカーボンナノチューブ片(SWNT)であってもよく、又は多層グラフェンシートを含む多壁のカーボンナノチューブ片(MWNT)であってもよく、これらは互いに同心状に配列されても、入れ子状でもよい。単一壁ナノチューブ(SWNT)は、平坦なシートを無端シリンダへと巻き上げたものと類似し、一方、多壁ナノチューブ(MWNT)は、積層したシートを無端シリンダへと巻き上げたものと類似してもよい。
別の実施形態では、グラフェン含有粒子120は、筒状フィラメントのカーボンウィスカーの形態であってもよい。ここで、グラフェン層は、3次元的に規則的に積層するのではなく、スクロール方式で配列させる。
複数のグラフェン含有粒子120は、グラフェン含有材料組成物100に多くの利点を提供する。例えば、グラフェン構造の平坦な形状によって、かつシリコン技術と統合することによって、グラフェン含有材料は、電子デバイスから放熱を促進することができる。グラフェンは、その原子振動が、他の材料に比べてその平坦な構造を通じて容易に伝搬するので、高い熱伝導性を有している。さらに、グラフェンは、フォトンのように事実上質量ゼロで、等速で固体内を移動する(例えば、電子について及び/又はホールについての)電荷キャリアとして利用することができる。さらに、グラフェンは、欠陥からの散乱率が本質的に低く、これは、電子の挙動が粒子というよりむしろ波であることに基づくエレクトロニクスを示している。
例えば、純粋な形態のグラフェンは、約4×103Wm-1K-1以上(例えば、約4×103Wm-1K-1〜約6×103Wm-1K-1の範囲)の熱伝導性を提供することができる。この熱伝導性は、グラフェン非含有材料、例えば、グラフェン非含有カーボンナノチューブ、グラフェン非含有グラファイト、金属(例えば、銅及びアルミニウム)に比べて非常に高い。さらに、グラフェンは、機械的強健性(例えば、高い強度及び剛性)を提供することができる。例えば、グラフェンは、約1N/m以上のレベル、例えば、バルクのグラファイトとは異なり、約1〜5N/mのバネ定数を提供することができ、約0.5TPaの模範的ヤング率を提供することができる。
図1に戻って言及すると、グラフェン含有粒子120は、ポリマーマトリックス110内に分布する充填剤材料として使用され、例えば、得られるポリマー材料の熱伝導性や機械的強健性のような物理特性を実質的に制御する(向上させる)ことができる。得られる材料は、各種定着サブシステムや実施形態において、例えば、定着機構材料として使用してもよい。
ポリマーマトリックス110には、各種ポリマーを使用することができ、特定用途に応じた所望の特性を提供することができる。ポリマーマトリックス110に使用されるポリマーとしては、これに限定されないが、シリコンエラストマー、フルオロエラストマー、フルオロプラスチック、サーモエラストマー、フルオロ樹脂が挙げられる。例えば、ポリマーマトリックス110には、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン(VDF又はVF2)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びその混合物からなる群から選択されるモノマー繰り返しユニットを有するフルオロエラストマーを用いることができる。
市販入手可能なフルオロエラストマーとしては、例えば、ビトンA(ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とフッ化ビニリデン(VDF又はVF2)のコポリマー)、ビトンB(テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)のターポリマー)、及びビトンGF(TFE、VF2、HFPを含むテトラポリマー)、さらには、ビトンE、ビトンE60C、ビトンE430、ビトン910、ビトンGH及びビトンGFが挙げられる。ビトンとは、E.I.デュポン・デ・ネモース社の商品名(登録商標)である。また、別の市販入手可能なフルオロエラストマーとしては、例えば、3M社のダイネオンTMが挙げられる。
別の市販入手可能なフルオロポリマーとしては、例えば、フルオレル2170R、フルオレル2174、フルオレル2176、フルオレル2177及びフルオレルLVS76が挙げられる。フルオレル(後述のアフラスも)は、3M社の商品名(登録商標)である。さらなる市販入手可能な材料としては、アフラス(ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン))及びフルオレルII(Lll900)(ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレンビニリデンフルオリド))、さらには、For−60KIR、For−LHF、NM、For−THF、For−TFS、TH及びTN505のように識別されるテクノフロン(ソルベイ・ソレキシーズから入手可能)が挙げられる。
ある実施形態では、ポリマーマトリックス110には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)のコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(エチルビニルエーテル)のコポリマー、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)のコポリマーからなる群から選択されるフルオロ樹脂が含まれてもよい。
ある実施形態では、ポリマーマトリックス110には、フルオロプラスチック、例えば、PFA(ポリフルオロアルコキシポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、又はFEP(フッ化エチレンプロピレンコポリマー)が含まれてもよい。これらのフルオロポリマーは、例えば、テフロンPFA、テフロンPTFE、テフロンFEPとして市販入手可能である。(テフロンは登録商標である。)
ある実施形態では、ポリマーマトリックス110には、有効な架橋薬剤(架橋剤或いは硬化剤とも称する)を用いて架橋されたポリマーが含まれてもよい。例えば、ポリマーマトリックスにフッ化ビニリデン含有フルオロエラストマーが含まれる場合には、硬化剤としては、ビスフェノール化合物、ジアミノ化合物、アミノフェノール化合物、アミノ−シロキサン化合物、アミノ−シラン、又はフェノール−シラン化合物が挙げられる。ビスフェノール架橋剤の一例としては、E.I.デュポン・デ・ネモース社から入手可能なビトンキュラティブNO.50(VC−50)である。VC−50は、溶媒懸濁液に可溶であり、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びフッ化ビニリデン(VF2)を含むビトンGFが有する架橋用反応部位で有効に作用する。
図1Bに示されるように、種々の充填剤、例えば、常套的な充填剤材料を使用することもできる。図1Bの材料組成物110Bでは、複数の非グラフェン充填剤130が、グラフェン含有粒子120と共に、ポリマーマトリックス110内に分散/分布されている。
ある実施形態では、非グラフェン充填剤130は、ミクロン又はナノスケールのサイズである。非グラフェン充填剤130は、有機化合物、無機化合物又は金属でもよい。例えば、非グラフェン充填剤130としては、銅粒子、銅フレーク、銅ニードル、酸化アルミニウム、ナノアルミナ、酸化チタン、銀フレーク、窒化アルミニウム、ニッケル粒子、炭化シリコン、窒化シリコン等のようなコンポジット材料用の充填剤が挙げられる。なお、グラフェン含有粒子120と非グラフェン充填剤130のいずれの多くの組み合わせをも、これらの少なくとも1つがグラフェン含有粒子を含む限り、本開示は考慮するものである。
ある実施形態では、材料組成物100は、好適な電子写真部材及び電子写真装置に用いることができる。例えば、図3は、例示的な電子写真部材300を示す。図3に示される電子写真部材300において、他の粒子/層/基材を加え、又は存在する粒子/層/基材を取り除き又は改良してもよいことは、当業者に明白である。
電子写真部材300は、例えば、電子写真装置に有用な定着部材、加圧部材、ドナー部材であってもよい。電子写真部材300は、例えば、ロール、ベルト、プレート又はシートの形態であってもよい。図3に示されるように、電子写真部材300は、基材305と、基材305上に形成された少なくとも1つの部材層315と、を備える。
部材300は、コアとなる基材305上に少なくとも1つの部材層315が形成された定着機構ローラである。ある実施形態では、コア基材は、筒状チューブ又は固体の筒状シャフトの形態であってもよい。当業者は、他の基材形態、例えば、ベルト基材を用いて、部材300の剛性、構造的完全性を維持できることを理解している。
部材層315は、例えば、図1A、Bに示されるような材料組成物100(100A、B)を備える。したがって、部材層315は、ポリマーマトリックス中に分散される複数のグラフェン含有粒子と、金属又は金属酸化物のような任意の非グラフェン充填剤とを含む。図3に示されるように、部材層315は、基材305上に直接形成される。ある実施形態では、部材用途に応じて1以上のさらなる機能層が部材層315上に及び/又は部材層315と基材305の間に形成されてもよい。
部材300は、例えば、シリコンゴム層を部材層315と基材305の間に配置して2層構造とすることができる。別の実施形態では、部材300は、弾性層又は基材305上に形成された部材層315の上に、例えば、フルオロポリマーを含む表面層を備えることができる。
図4は、定着部材を形成する方法の一例を示す。図4の方法400では、一連の作業又は事象を下向きに示しているが、本発明は、このような例示の順序に限定されないことは明らかである。例えば、いくつかの作業は、異なる順序で、或いは別のその他の作業又は事象と並行して行ってもよい。さらに、ここで示される1以上の作業は、1以上の別個の作業及び/又は段階で行ってもよい。
図4の410では、例えば、目的のポリマー(例えば、ビトンGF)とグラフェン含有粒子とを、ポリマーに応じて好適な溶媒中に含有した組成物分散体を調製する。溶媒としては、例えば、水、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBB)、メチル−n−アミルケトン(MAK)、テトラヒドロフラン(THF)、アルカリ、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、又はいずれかの他の低分子量カルボニル、極性溶媒、不燃性油圧油、Wittig反応溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。これらの溶媒を用いて組成物分散体を調製することができる。
例えば、組成物分散体は、まず、好適な溶媒中にポリマーを溶解させ、次いで、複数のグラフェン含有粒子をこの溶媒中に、所望の特性、例えば、所望の熱伝導性又は機械強度を提供するための量だけ添加することにより作製される。ある実施形態では、組成物分散体は、熱伝導性を向上させるために、ポリマーマトリックスの約1重量%〜約60重量%のグラフェンを含有する。
ある実施形態では、組成物分散体を調製する場合に、機械的プロセス、例えば、攪拌、超音波処理又は磨砕機ボールミル粉砕/研磨を用いて、分散体の混合を促進することができる。例えば、攪拌ロッドとテフロンブレードを取り付けた攪拌器具を用いて、溶媒中でグラフェン含有粒子をポリマーと全体的に混合し、その後、硬化剤のような化学薬剤や金属酸化物のような任意の非グラフェン充填剤を混合された分散体に添加することができる。
420において、定着機構の部材のような電子写真部材は、所定量の組成物分散体(例えば、所望のポリマー、その硬化剤、複数のグラフェン含有粒子及び任意の無機充填剤を溶媒中に含む)を、例えば、基材305(図3)に塗布することで形成することができる。組成物分散体の基材への塗布は、例えば、デポジッション、コーティング、成形又は押出しにより行なわれる。ある実施形態では、組成物分散体、即ち、反応混合物を、基材上にスプレイコート、フローコート、射出成形することができる。
430において、塗布された組成物分散体は、固化(例えば、硬化)されて、部材層(例えば、部材層315)を、基材(例えば、図3の基材305)上に形成することができる。硬化プロセスには、例えば、乾燥プロセス及び/又は温度傾斜を含む段階的プロセスが含まれてもよい。組成物分散体によっては、種々の硬化法を使用することができる。ある実施形態では、硬化プロセスに次いで、硬化した部材を水浴中或いは室温で冷却してもよい。
形成された定着機構の部材は、所望の特性、例えば、熱伝導性、機械強度と、他の物理特性、例えば、磨耗性能又は剥離性能を有することができる。ある実施形態では、電子写真装置及び電子写真プロセスに依存して、基材上に部材層を形成する前に又は形成した後に、さらなる機能層を形成してもよい。