実施形態で例示する制動制御装置は、モータ駆動されるハイブリッド(以下適宜HVと称する)自動車の制動制御装置であって、回生制動と油圧制動とを協調制御して制動する。回生制動は、油圧制動に比して俊敏な制御対応が可能であり、例えば回生制動が1ミリ秒の制御対応時間であるとすれば油圧制動は100ミリ秒程度の制御対応時間である。
このような回生制動と油圧制動との応答時間の相違は、主として油圧制動制御が電磁弁の開閉制御によるブレーキフルードを油圧媒体とした送圧及び油圧解除であることに起因すると考えられる。制動制御装置が、回生制動から油圧制動に切替える場合に、上述の応答特性の相違により運転者のブレーキフィーリングに悪影響を生じる場合がある。
そこで、本実施形態の制動制御装置は、回生制動から油圧制動に切替える場合に、油圧制動の制御目標値を、典型的には嵩上げ補正したより大きな補正制御目標値とする。これにより、制動制御装置は、油圧制動の応答性を向上させて所望の制御とし、ブレーキフィーリングを向上させる。典型的には、回生制動の低減度合いに対する油圧制動の増大度合い遅れが生じることを低減し、減速度が一時的に緩和されるいわゆるG抜け現象の発生を抑制する。また、制動状態に応じて適切な補正嵩上げ量にて補正し、制動フィーリングを向上する。
図1は、HVブレーキユニット20の概略を説明する液圧系統図である。そこで以下、図1を用いてHVブレーキユニット20の構成について詳述する。HVブレーキユニット20は、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキペダル24の運転者による踏込み操作量に応じて加圧されたブレーキフルード(液圧媒体)を、ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。
動力液圧源30は、動力の供給により加圧されたブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。
また、液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22と、不図示のブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR、23FL、23RR、23RLとを含む。
各ホイールシリンダ23FR、23FL、23RR、23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR、23FL、23RR、23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に、摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。
これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を具備する。また、液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。
動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。
一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
動力液圧源30は、アキュムレータ35とポンプ36とを具備する。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、その駆動源として車両が備える不図示のバッテリの電流により駆動されるモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。
また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開状態となり、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、HVブレーキユニット20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。
これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。すなわち、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35のそれぞれは、ホイールシリンダ23への液圧源として液圧アクチュエータ40に並列に接続されている。
本実施形態における作動液供給系統としての液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42、43および44と、主流路45とが含まれる。
また、個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RR、21RLのホイールシリンダ23FR、23FL、23RR、23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は、主流路45と独立して連通可能となる。
また、個別流路41、42、43および44の中途には、各々ABS保持弁51、52、53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁であるものとする。常閉型電磁制御弁である各ABS保持弁51〜54のON/OFF制御は、車両が備える不図示のバッテリの電流を用いて駆動制御される。
また、開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。典型的には、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを供給して液圧を供給することができる。
また、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すこともできる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断され、典型的には液圧の供給が遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46、47、48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46、47、48および49の中途には、各々ABS減圧弁56、57、58および59が設けられている。
また、各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、ABS減圧弁56,57は、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。また、ABS減圧弁58,59は、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、ソレノイドに通電または非通電とされて各ABS減圧弁56〜59が開状態とされると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。これにより、典型的にはホイールシリンダ23の液圧が増圧状態から低減されて減圧状態となる。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する(分離弁は連通弁とも称する)。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。
第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開状態とされると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。
開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断され、典型的にはマスタシリンダ32から第1流路45aの液圧供給が遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。
また、シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開状態とされると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、好ましくは多段のバネ特性を有するものが採用され、本実施形態のストロークシミュレータ69は多段のバネ特性を有するものとする。
また、レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。
開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断され、典型的にはレギュレータ33から第2流路45bへの液圧供給が遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、車両が備える不図示のバッテリの電流を用いて、その弁の開き度合いが駆動制御される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。すなわち、増圧リニア制御弁66の開き具合を電流調節により適宜制御することで、各ホイールシリンダ23を要求制動力に応じた目標制御圧にまで増圧できることとなる。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。
すなわち、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を、各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。例えば増圧リニア制御弁66を開とすれば、アキュムレータ35からの液圧を第2流路45bに供給することができ、減圧リニア制御弁67を開とすれば、第2流路45bのブレーキフルードを排出して液圧を低減することができる。
なお、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と、主流路45におけるブレーキフルードの圧力と、の差圧に対応する。また、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力と、リザーバ34におけるブレーキフルードの圧力と、の差圧に対応する。
また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。
従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
HVブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU(Electrical Control Unit:ブレーキ電子制御部)70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
また、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU(回生ECUとも称する)1310などと通信可能である。また、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU1310からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54、56〜59、60、64〜68を制御して、液圧制動力を制御可能である。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に出力する。
また、アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に出力する。
また、制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に出力する。また、分離弁60が開となって第1流路と第2流路とが連通している場合には、制御圧センサ73は主流路45内のブレーキフルードの圧力を検知する。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次出力され、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
従って、分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示す。従って、制御圧センサ73のこの出力値を、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。
また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通し、かつ各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合には、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
例えば、車両の運転者または自動制動制御装置から制動力要求があった場合には、要求された制動力を生じる為に必要な目標液圧が算出され、制御圧センサ73の検出圧力が目標液圧となるように、不図示のバッテリからの電流により増圧リニア制御弁66の開度が調整される。目標液圧は、例えばブレーキペダル24の踏込み深さ等車両状況に応じて、経過時間と共に随時増大され得る。制御圧センサ73と目標液圧との差圧が、制御猶予値を超えた場合に、増圧リニア制御弁66に通電されて開状態とされる。
また、分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合にレギュレータカット弁65を開状態とすれば、制御圧センサ73の出力値は、通常はレギュレータ圧センサ71の出力値と等しくなる。
典型的には、車両が停止状態にあるときに、ブレーキペダル24の踏力がホイールシリンダ23へ伝達されるように、増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とを共に閉状態とし、分離弁60が開状態とされて、かつレギュレータカット弁65が開状態とされる。また、ABS保持弁51〜54の各ソレノイドに通電されて、開弁状態とされる。
さらに、ブレーキECU70に入力されるセンサ出力には、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次出力され、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、検出値をブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチ、ペダル踏込み速度検出センサなどがある。また、ブレーキECU70には、図示されない車輪速度センサ等も接続され、検知された信号が所定時間おきに与えられ、所定の記憶領域に格納保持される。
ブレーキ操作入力手段は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24に限定されることはなく、例えば押圧ボタンによるブレーキ操作入力手段とすることもできる。押圧ボタンによるブレーキ操作入力手段とした場合においても、押圧ボタンのストローク検知に加え、押圧ボタンの押し込み速度や押圧力を検出する検出センサや、押圧ボタンが押し込まれたことを検出する押圧ボタンスイッチなどがある。
HVブレーキユニット20は、走行中に急制動をかけた場合に、アキュムレータ配管39を介した油圧供給に、レギュレータ配管38を介した油圧供給も加えて制動するリニアレギュレータアシストモードをとる場合もある。なお、走行中からの通常の制動は、アキュムレータ配管39を介した油圧供給によるリニア制御モードとなる。リニア制御モードにおいては、各ホイールシリンダ23は、マスタシリンダユニット27から遮断される。すなわち、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードが主流路45へ供給されないようにする。
ブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。またブレーキECU70は、分離弁60を開状態とする。
リニア制御モードにおいては、ブレーキECU70は、要求制動力から回生制動力を減じることにより、HVブレーキユニット20により発生させるべき液圧制動力を算出する。ここで、回生制動力の値は、ハイブリッドECU1310からブレーキECU70に供給される。
ブレーキECU70は、要求された制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ23の液圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に対する供給電流の値を決定する。
その結果、HVブレーキユニット20においては、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給されて車輪に所定目標の制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が適宜調整される。このようにして、リニア制御モードにおいては、液圧制動と回生制動とを併用して、要求制動力を発生させるブレーキ回生協調制御が実行される。
オートクルーズコントロールや車両安定性制御装置(VSC)による車両挙動安定化の種々の自動制動制御においても、上述したリニア制御モードと同様の油圧制御により制動動作が実行される。
また、走行中Reg増モードにおいては、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66への制御電流の供給を停止して増圧リニア制御弁66を閉状態とし、各ホイールシリンダ23から動力液圧源30を遮断する。更にブレーキECU70は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64を開状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。またブレーキECU70は、分離弁60を開状態とする。
停止中Reg増モードにおいては、レギュレータカット弁65が開状態とされてもよい。この場合、停止中Reg増モードにおいては、レギュレータ圧がそのままホイールシリンダ23に伝達されるので、運転者によるブレーキペダル24の操作量に応じた液圧制動力を発生させることができる。
ブレーキECU70は、これらのリニア制御モード、走行中Reg増モード、及び停止中Reg増モード等のいずれかを、車両の走行速度、あるいは回生制動力の値などの車両の状態、またはオペレータからの指示に応じて適宜選択してもよい。
また、回生システム1300は、ハイブリッドECU1310と駆動回生装置1320と回生用のバッテリ1330とを備える。ハイブリッドECU1310は、駆動回生装置1320を制御することによって、例えば車両の駆動輪である左右前輪に作用する回生制動力を制御する電子制御ユニットである。
ハイブリッドECU1310は、ブレーキECU70と接続され、ハイブリッドECU1310とブレーキECU70との間で常時通信を行う。また、ハイブリッドECU1310よりブレーキECU70の方が上位の制御ユニットであり、ハイブリッドECU1310はブレーキECU70に制御されるものとする。
駆動回生装置1320は、駆動モータ1321を備えている。また、駆動モータ1321が左右前輪の回転を電気に変換して発電し、回生制動力を発生する。なお、図1及びその説明においては説明を簡略にするため、駆動輪である左右前輪のみについて説明することとし、従属する車輪である左右後輪については説明を割愛する。
駆動モータ1321のロータには、左右前輪が、夫々不図示のドライブシャフト並びに不図示のギア機構を介して連結されている。従って、不図示の左右前輪には、不図示のドライブシャフトを夫々介して駆動モータ1321の発する駆動力が伝達される。駆動モータ1321には更に、バッテリ1330が接続されている。駆動モータ1321は、バッテリ1330から供給される電力に応じた駆動トルクを発生すると共に、左右前輪から入力されるトルクを動力源として回生エネルギーを発生する機能を備えている。
駆動モータ1321の内部には、所定強度の磁場を発生させる不図示の磁場発生機構及びその磁場を横切って回転する不図示のコイルが内蔵されている。磁場発生機構によって発生される磁場は、ハイブリッドECU1310から供給される指令信号に応じて変化する。また、磁場とコイルとは車輪が回転する際に相対的に回転する。駆動モータ1321の発生する回生エネルギーの大きさは、磁場発生機構により発生される磁場の強さ及び磁場とコイルとの相対的な回転速度、即ち、左右前輪の車輪速に応じた値となる。従って、回生エネルギーの大きさは、ハイブリッドECU1310から供給される指令信号の値に応じて変化する。
駆動モータ1321が回生エネルギーを発生させる場合、左右前輪には、その回転を制動しようとする回生トルクが作用する。即ち、駆動モータ1321が発生する回生トルクは、左右前輪に対して制動力として作用する。以下の説明においては、回生トルクにより発生される制動力を、適宜回生制動力Fgと称することとする。
なお、駆動モータ1321が発生する回生エネルギーは、バッテリ1330に対して充電電流として供給される。従って、大きな回生トルクが発生される程、バッテリ1330は大きな充電電流で充電される。
バッテリ1330が受け入れることが可能な回生エネルギーの上限は、バッテリ1330の充電状態及び温度によって制限され、その制限値は「RebtVwGuard」として回生システム1300が保持する。また、駆動モータ1321が発生し得る回生エネルギーの上限は、左右前輪の車輪速によって制限される。従って、回生制動力Fgの上限は、バッテリ1330の充電状態と温度とによる制限値(「RebtVwGuard」に対応)と、及び左右前輪車輪速(典型的には車速)とによって制限される。
HVブレーキユニット20は、油圧制動と回生制動とを切替える場合に、油圧目標値を例えば0.3メガパスカル等で一律に嵩上げするのではなく、目標油圧と実油圧との関係に応じて初期の補正嵩上げ量を可変とする。また、HVブレーキユニット20は、油圧の応答性が悪いいわゆる不感帯を考慮した補正嵩上げ量とする。これにより、初期の嵩上げ量を過不足なく適切に補正することが可能となり、安定した効果が得られる。
また、HVブレーキユニット20は、回生切替え勾配(目標油圧勾配に対応する)に応じて、補正嵩上げ量と補正嵩上げ勾配とを適宜変更する。これにより、目標油圧に応じて効果的な制御が可能となる。
また、HVブレーキユニット20は、補正嵩上げを適切な時期に解除する。HVブレーキユニット20は、例えば車両が停止する直前に運転者がペダル踏込みを解除した場合に、補正嵩上げの残圧が存在しないように補正嵩上げを解除する。これにより、HVブレーキユニット20は、油圧解除をスムースに制御することができる。
図2は、油圧制動と回生制動とを切替える場合の車両状況を説明する概念図である。図2(a)は、油圧制動と回生制動とを切替える場合の目標油圧に対する実油圧220aの応答遅れに起因する制動力(減速Gともいう)抜け210現象を説明する図である。また、図2(b)は、油圧制動と回生制動とを切替える場合に、補正嵩上げ量と目標油圧とを加算した補正目標油圧で油圧制御する車両状況を説明する概念図である。回生協調制動においては、車速の低下と共に、HVブレーキユニット20が回生制動を低減させるとともに油圧制動を増大させて、いわば制動のすり替え処理をする。
図2(a)に示すように、油圧制動と回生制動とを切替える場合には、回生制動出力は1ミリ秒程度の迅速な応答性で制御されるのに対し、油圧制動は目標油圧に対して実油圧の応答が(T2a−T1a)程度遅延する。目標油圧に対する実油圧の応答遅れ((T2a−T1a)に対応)は、大凡100ミリ秒程度である。
HVブレーキユニット20は、目標油圧に対する実油圧の応答遅れ(T2a−T1a)の間も、油圧制動と回生制動とを切替える制御動作処理をする。このため、目標油圧に対する実油圧の応答遅れ(T2a−T1a)の間も、回生制動力は低減され続ける。従って、図2(a)のような制御動作処理をすれば、車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生することとなり、運転者がブレーキ操作するブレーキフィーリングにスムースさを損なうこととなる。
HVブレーキユニット20が、図2(b)に示す嵩上げ補正された補正目標油圧を用いて油圧制御動作処理をすれば、実油圧220bは回生制動出力の低減に追随した増大となるので上述の懸念は解消される。目標油圧を補正する嵩上げ量は、油圧制動と回生制動との切替え処理の開始時間T1bと共に所望の値をとるものとし、油圧制動と回生制動との切替え動作処理の間に、時間T2bにかけて時間経過と共に増大させる。
また、目標油圧を補正する嵩上げ量は、時間T2bから時間T3bにかけて一定値となり、油圧制動と回生制動との切替え処理の終了時間T4bにかけて時間の経過と共に減少させる。図2(b)における実油圧220bは、図2(a)に示す目標油圧と同一の増大状態であり、すなわち実油圧220bは、目標油圧に遅滞なく追随する油圧制御であるものとする。換言すれば、図2(b)における実油圧220bの油圧上昇勾配は、図2(a)に示す目標油圧勾配と同一の勾配である。
図3は、油圧制動と回生制動とを切替える場合に、目標油圧に加算する補正嵩上げ量を説明する概念図である。図3に示すようにHVブレーキユニット20は、補正嵩上げ量を、T1b−T2b期間、T2b−T3b期間、T3b−T4b期間の3つの期間に区分けして補正する。HVブレーキユニット20は、油圧制動と回生制動との切替え処理の開始時間T1bにおいては、補正する嵩上げ量を初期嵩上げ量P31として目標油圧に加算する。
また、HVブレーキユニット20は、T1b−T2b期間においては、補正する嵩上げ量を初期嵩上げ量P31から定常嵩上げ量P32に経時的に増大させて目標油圧に加算する。また、HVブレーキユニット20は、T2b−T3b期間においては、補正する嵩上げ量を定常嵩上げ量P32に一定とし目標油圧に加算する。また、HVブレーキユニット20は、T3b−T4b期間においては、補正する嵩上げ量を定常嵩上げ量P32から終了嵩上げ量P33に経時的に低減させて目標油圧に加算する。
次に、上述した補正嵩上げ量の特性、換言すれば各値T1b乃至T4b、と初期嵩上げ量P31と定常嵩上げ量P32と終了嵩上げ量P33との決め方、について下記に説明する。図4は、初期嵩上げ量P31について説明する概念図である。図4(a)は、目標油圧より実油圧のほうが高い場合を説明する図である。目標油圧より実油圧のほうが高い状態は、典型的には運転者のブレーキ解除に伴う油圧低減時等に生じ得る状態である。
図4(a)において、初期嵩上げ量P31は、増圧閾値油圧P31aと、実油圧と目標油圧との差異P31bと、の加算値とする。この場合に、実油圧から目標油圧を減算すると正の値となる。従って、初期嵩上げ量P31は、増圧閾値油圧P31aより大きな値となる。増圧閾値油圧P31aは、この油圧だけ油圧を上昇させようとしても実油圧が応答しないいわゆる不感帯相当の油圧であり一定値であるものとする。一方、実油圧と目標油圧との差異P31bは、HVブレーキユニット20の油圧制御状態によって様々に変化する値である。
また、図4(b)は、実油圧より目標油圧のほうが高い場合を説明する図である。実油圧より目標油圧のほうが高い状態は、典型的には運転者のブレーキ踏込みに伴う油圧増大時及び一定油圧保持時等に生じ得る状態である。
図4(b)において、初期嵩上げ量P31は、増圧閾値油圧P31aと、実油圧と目標油圧との差異P31bと、の加算値とする。この場合に、実油圧から目標油圧を減算すると、差異P31bは負の値となる。従って、初期嵩上げ量P31は、増圧閾値油圧P31aより小さな値となる。増圧閾値油圧P31aは、この油圧だけ油圧を上昇させようとしても実油圧が応答しないいわゆる不感帯相当の油圧であり一定値であるものとする。一方、実油圧と目標油圧との差異P31bは、HVブレーキユニット20の油圧制御状態によって様々に変化する値である。
上述のように制動状態によって可変となる初期嵩上げ量P31とし、初期嵩上げ量P31を目標油圧に加算した補正目標油圧にて、油圧制動と回生制動とを切替え開始時の油圧制御を開始すれば、油圧応答遅れを生じることなく、回生制動の低減と良好に対応した油圧制動の増大とすることができるので好ましい。また、初期嵩上げ量P31を、実油圧と目標油圧との関係が一定になるように、典型的には実油圧が目標油圧に一致するように忠実に追随するような値とする。また、初期嵩上げ量P31を、増圧リニア制御弁66が増圧モードとなる臨界的な値(典型的には不感帯相当値)とすることが好ましい。これにより、油圧応答の遅れを100ミリ秒よりも短縮することが可能となる。
次に、T1b−T2b期間において、補正する嵩上げ量を初期嵩上げ量P31から定常嵩上げ量P32に経時的に増大させる制御について説明する。図5は、目標油圧勾配と嵩上げ勾配との関係を説明する概念図である。
HVブレーキユニット20は、T1b−T2b期間において、油圧制動と回生制動とを切替える場合の、切替え期間における実質的な嵩上げ処理をすることになる。HVブレーキユニット20は、T1b−T2b期間において、初期嵩上げ量P31から定常嵩上げ量P32に経時的に嵩上げ量を増大させる場合の嵩上げ勾配を、図5に示すように目標油圧勾配に対応させて変化させる。
図5において、HVブレーキユニット20は、原則として目標油圧勾配が比較的大きいほど嵩上げ勾配を大きくする。HVブレーキユニット20は、原則として目標油圧勾配が比較的小さいほど嵩上げ勾配を小さくする。また、HVブレーキユニット20は、目標油圧勾配が極めて小さい場合、典型的には増圧リニア制御弁66が増圧モードとならずいわば油圧応答が生じない程度の小ささである場合には、油圧応答を生じさせる程度に嵩上げ勾配を大きくする。
油圧制動と回生制動とを切替える場合に目標油圧勾配が比較的大きい場合には、回生制動の時間的な低減度合いが比較的大きい場合であると考えられ、より車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生し易い状態である。従って、HVブレーキユニット20は、油圧制動の追随性をさらに向上させるべく、嵩上げ勾配をより大きな値とする。
一方、油圧制動と回生制動とを切替える場合に目標油圧勾配が比較的小さい場合には、回生制動の時間的な低減度合いが比較的小さい場合であると考えられ、車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生し難い状態であるとも考えられる。従って、HVブレーキユニット20は、油圧制動の追随性を向上させる必要性が低減されるので、嵩上げ勾配をより小さな値とする。
また、油圧制動と回生制動とを切替える場合に目標油圧勾配が極めて小さい場合には、回生制動の時間的な低減度合いが極めて小さい場合であると考えられ、より車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生し易い状態であるとも考えられる。この場合には、目標油圧勾配の極めて小さな増大に起因して、HVブレーキユニット20の実油圧が増大されない場合が想定される。典型的には、いわゆる油圧ブレーキが反応しないような程度の極めて小さな目標油圧勾配である。従って、HVブレーキユニット20は、油圧制動の追随性をさらに向上させるべく、嵩上げ勾配をより大きな値とする。
また、同様にHVブレーキユニット20は、T1bからT2b期間において、初期嵩上げ量P31から定常嵩上げ量P32へと実質的な嵩上げ処理をすることになる。HVブレーキユニット20は、初期嵩上げ量P31から定常嵩上げ量P32に経時的に嵩上げ量を増大させる場合の嵩上げ量(P32−P31)を、目標油圧勾配または車速に対応させて変化させる。
上述したように目標油圧勾配が比較的大きい場合には、車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生し易い状態であるので、嵩上げ量(P32−P31)を比較的大きくする。また、目標油圧勾配が比較的小さい場合には、車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生し難い状態であるので、嵩上げ量(P32−P31)を比較的小さくする。
また、車速が比較的小さい場合、典型的には車速が4km/時程度より小さい場合には、いわゆる車両の駆動輪に対して加速方向のクリープトルクが駆動モータ1321から加えられる。すなわち、典型的には車速が4km/時程度より小さい場合には、回生制動力により減速方向の制動トルクを駆動輪に付与していた駆動モータ1321が、加速方向の前進トルクを駆動輪に付与することとなる。
このため、加速方向のクリープトルクにより、車両に生じる制動力に制動力抜け210が発生し易い状態となるので、嵩上げ量(P32−P31)を比較的大きくする。典型的には、車速が4km/時程度より小さい場合(極低車速領域とも称する)には、嵩上げ量(P32−P31)を比較的大きくする。
これにより、例えば、油圧制動と回生制動とを切替える場合に、切替え開始に起因して車両に生じる制動力抜け210が、さらに増大する懸念を低減できる。すなわち、切替え開始に起因して車両に生じる制動力抜け210が、その後の実油圧が目標油圧に追随しないままの状態においてクリープトルクが加わりさらに増大するという懸念を低減できることとなる。
HVブレーキユニット20は、T2bからT3b期間において、油圧制動と回生制動とを切替える場合の、切替え期間における実質的な嵩上げ処理を継続することになる。HVブレーキユニット20は、T2bからT3b期間において、定常嵩上げ量P32を目標油圧に対して加えた補正目標油圧で油圧制御する。
HVブレーキユニット20が定常嵩上げ量P32を目標油圧に対して加えた補正目標油圧で油圧制御する期間(T3b−T2b)は、油圧制動と回生制動とを切替え開始時の回生制動値230の大きさに対応し期間とする。
すなわち、油圧制動と回生制動との切替え開始時の回生制動値230が比較的大きい場合には、切替えに要する期間自体が長くなるので、比較的長い期間とする。また、油圧制動と回生制動との切替え開始時の回生制動値230が比較的小さい場合には、切替えに要する期間自体が短くなるので、比較的短い期間とする。
なお、HVブレーキユニット20は、油圧制動と回生制動との切替え開始時の車速V1bが比較的大きい場合には、切替えに要する期間自体が長くなるので、比較的長い期間としてもよい。また、油圧制動と回生制動とを切替え開始時の車速V1bが比較的小さい場合には、切替えに要する期間自体が短くなるので、比較的短い期間としてもよい。
次に、HVブレーキユニット20は、T3bからT4b期間において、実質的な嵩上げ処理の終了に向けて、定常嵩上げ量P32から終了嵩上げ量P33へと嵩上げ量の低減処理をする。HVブレーキユニット20は、嵩上げ量をどの程度低減させるかにかかる嵩上げ低減量(定常嵩上げ量P32−終了嵩上げ量P33)を、例えば定常嵩上げ量P32としてもよい。嵩上げ低減量(定常嵩上げ量P32−終了嵩上げ量P33)を定常嵩上げ量P32と同一とすれば、油圧制動と回生制動との切替え終了時(T4b)において、嵩上げ処理は無くなることとなる。
また、HVブレーキユニット20は、嵩上げ低減量(定常嵩上げ量P32−終了嵩上げ量P33)を、嵩上げ量(P32−P31)よりも大きくしかつP32より小さくしてもよい。すなわち、HVブレーキユニット20は、終了嵩上げ量P33がゼロより大きくP31より小さくなるように、嵩上げ低減量(定常嵩上げ量P32−終了嵩上げ量P33)を調整してもよい。
さらに好ましくは、HVブレーキユニット20は、終了嵩上げ量P33が不感帯相当領域に入るように調整する。これにより、仮にT3bからT4b期間等において、ブレーキペダル24が踏増しされたとしても、油圧応答遅れがなく迅速かつスムースな油圧制動動作となるので好ましい。また、仮にT3bからT4b期間等において車両が停止した場合には車両の制動動作及び制動処理は不要となることから、HVブレーキユニット20は、典型的には増圧リニア制御弁66が作動して不要な電流を消費しない程度の嵩上げ処理をした補正目標油圧とできるので好ましい。
また、同様にHVブレーキユニット20は、T3bからT4b期間において、定常嵩上げ量P32から終了嵩上げ量P33へと実質的な嵩上げ低減処理をする。HVブレーキユニット20は、定常嵩上げ量P32から終了嵩上げ量P33に経時的に嵩上げ量を低減させる場合の嵩上げ低減勾配を、目標油圧240または目標油圧勾配に対応させて変化させる。
図6は、油圧と油圧制御に必要なフルード量との関係(油圧フルード曲線)を概念的に示す模式図である。HVブレーキユニット20は、油圧が大きな領域であれば、比較的少ないフルード量で油圧制御が可能となる。図6において、低油圧領域においては油圧P61からP62まで増大させるのにフルード量(F62−F61)が必要である。一方、高油圧領域においては、フルード量(F62−F61)と同一のフルード量(F64−F63)で、油圧P63からP64まで増大させることができる。
図6から明らかなように、同一フルード量を用いるにも拘わらず、増大させることができる増大油圧量は、高油圧領域の増大油圧量(P64−P63)のほうが低油圧領域の増大油圧量(P62−P61)よりも大きい。なお、高油圧領域と低油圧領域とは、例えば傾き(微分値)が1となる特定点600により区分けしてもよい。図6に示すグラフの傾きが1となる特定点600より油圧が高い領域を高油圧領域とし、特定点600より油圧が低い領域を低油圧領域としてもよい。
従って、HVブレーキユニット20は、目標油圧240が高油圧領域である場合には、フルードを徐徐に抜くことが好ましいので、嵩上げ低減勾配の絶対値を比較的小さくする。また、HVブレーキユニット20は、目標油圧240が低油圧領域である場合には、フルードを徐徐に抜かなくても油圧変動は小さいので、嵩上げ低減勾配の絶対値を比較的大きくする。低油圧領域においては、フルード変動量に対する油圧変動量が小さいので、いわば大胆にフルード量を変動させた場合においてもブレーキフィーリングに与える悪影響は小さいものとなる。
また、図2に示す目標油圧勾配が大きな場合には、典型的にはブレーキペダル24がどんどん踏増しされた状態であることから、HVブレーキユニット20は、油圧制動と回生制動との切替えのT3bからT4b期間において、嵩上げ低減勾配の絶対値を極めて小さくする。換言すれば、HVブレーキユニット20は、徐徐に嵩上げ量を低減させ、徐徐にフルード量を低減させる処理をする。ブレーキペダル24がどんどん踏増しされた状態においては、典型的には車両運転者等による増圧意志すなわち速やかな制動意志があることから、嵩上げ量を急激に減らすことは回避することが好ましい。
なお、油圧制動と回生制動との切替え期間T1bからT4bにおいて、目標油圧勾配が変動しない場合にも、嵩上げ低減勾配の絶対値を比較的小さくして、フルードを徐々に減少させてもよい。
また、図2に示す目標油圧勾配が小さな場合には、典型的にはブレーキペダル24の踏込み低減された状態であることから、HVブレーキユニット20は、油圧制動と回生制動との切替えのT3bからT4b期間において、嵩上げ低減勾配の絶対値を比較的大きくする。換言すれば、HVブレーキユニット20は、比較的急激に嵩上げ量を低減させ、比較的急激にフルード量を低減させる処理をする。ブレーキペダル24の踏込み低減された状態においては、典型的には車両運転者等による減圧意志すなわち緩やかな制動意志があることから、嵩上げ量を急激に減らすこととできる。
また、HVブレーキユニット20は、高油圧領域においては、上述した嵩上げ処理を実施しないこととしてもよい。高油圧領域においては、比較的油圧応答の遅延は小さいものと考えられる。図7は、制動力に対する制動力抜け210の割合を斜線で概念的に示す模式図である。
図7(a)は、低油圧領域の場合の回生制動と制動力抜け210との関係を示す典型例である。図7(a)に示すように、回生制動の減速度(G)が0.1G程度である場合に、制動力抜け210が0.01G程度であるとすれば、制動力抜け210の割合は10%程度である。
また、図7(b)は、高油圧領域の場合の回生制動と制動力抜け210との関係を示す典型例である。図7(b)に示すように、比較的高油圧領域では上述の回生制動0.1Gに加えて油圧制動が0.2Gであるもとすれば、合計の制動0.3Gに対する制動力抜け210の割合は3%程度である。従って、比較的高油圧領域においては、制動力抜け210が比較的少なくすなわち油圧応答遅れが比較的小さいので、HVブレーキユニット20が嵩上げ処理をしなくてもよい。これにより、嵩上げ処理の要不要がさらに適切に判断されることとなり、HVブレーキユニット20が的確な嵩上げ処理をできるので好ましい。
また、HVブレーキユニット20は、切替え車速域における回生トルク最大値(RebtVwGuard)が回生要求トルク(”Rebtb”とも称する)よりも小さい場合に、上述した嵩上げ処理を開始してもよい。図8は、回生トルク最大値と回生要求トルクとの関係を説明する概念図である。図8において、図1と同一の部位には同一の符号を付して、説明の重複を避けるためここではその説明を省略する。
図8に示すように、ブレーキECU70は、指示された要求制動力を油圧制動分と回生制動分とに適宜配分する油圧/回生要求制動力配分部790と、液圧アクチュエータ40を制御する液圧アクチュエータ制御部780とを備える。油圧/回生要求制動力配分部790は、ブレーキペダル24等から制動指示が入力されると、指示された全制動力を、油圧制動分と回生要求トルク(回生制動分に相当)とに配分する。また、油圧/回生要求制動力配分部790は、配分した回生要求トルクを、ハイブリッドECU1310が備える回生要求制動力比較部1315に出力する。
回生要求制動力比較部1315は、バッテリ1330の充電量を含めた車両状況等に基づいて決定された回生トルク最大値(RebtVwGuard)と、油圧/回生要求制動力配分部790から入力された回生要求トルクと、を比較する。また、ハイブリッドECU1310は、回生要求制動力比較部1315が比較した結果、回生トルク最大値の範囲内の回生要求トルク値で回生制動する。
また、ハイブリッドECU1310は、回生要求制動力比較部1315の比較結果に基づく現実に回生制動するトルク値をブレーキECU70へとフィードバックする。液圧アクチュエータ制御部780は、油圧/回生要求制動力配分部790が配分した油圧制動分と、フィードバックされた現実に回生制動する値と油圧/回生要求制動力配分部790が配分した回生要求トルク(回生制動分に相当)との差に相当するトルク値と、を加算した制動力となるように、液圧アクチュエータ40を制御する。
ここで、HVブレーキユニット20は、回生要求トルクのほうが回生トルク最大値よりも大きい場合に、回生制動から油圧制動へと切替え処理を実行する。例えば、ハイブリッドECU1310は、回生要求制動力比較部1315の比較結果に基づいて、回生要求トルクのほうが回生トルク最大値よりも大きいか否かの比較結果を、ブレーキECU70へとフィードバックしてもよい。
上述の処理により、HVブレーキユニット20は、回生要求トルクが比較的小さい場合には、比較的小さい車速状態において回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始することとなる。また、HVブレーキユニット20は、回生要求トルクが比較的大きい場合には、比較的大きい車速状態において回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始することとなる。
すなわち、回生要求トルクと回生トルク最大値との関係に依存して、回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始する車両の速度が異なることとなる。従って、HVブレーキユニット20は、例えば13km/時等の一定の車速になった場合に、回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始することはないので、切替えの勾配すなわち図2に示す目標油圧勾配を常に一定値に保持することが可能となる。
典型的には、HVブレーキユニット20は、車速V1b(例えば13km/時)から車速V3b(例えば6km/時)にかけて、図2(a)に示す目標油圧勾配を常に一定値に保持し、回生要求トルクのほうが回生トルク最大値よりも大きくなった場合(例えば10km/時)に、回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始する。また、この場合の目標油圧勾配は、ブレーキフィーリングが極めて悪くなる勾配と、所望の回生充電量が得られる勾配と、のバランスに基づいて決定してもよい。目標油圧勾配の設定に依存して回生充電量は異なるものとなる。また、極端に大きな目標油圧勾配とするとブレーキフィーリングに与える悪影響が大きくなる。
また、HVブレーキユニット20は、ニュートラルレンジへのシフトチェンジ時または回生協調制動が禁止された場合に、回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始してもよい。回生協調制動が禁止される場合には、ニュートラルレンジへのシフトチェンジ時の他、回生システム1300の状態に基づく場合やABS作動直近、すなわちABS保持弁51〜54が開状態等とされる直前を検出してもよい。ABS機能が働く場合は、概ね緊急かつ強力な制動力が車両に必要とされている場合であり、このような車両状況を検出して回生協調を禁止し、回生制動から油圧制動へと切替え処理を開始してもよい。また、HVブレーキユニット20は、回生協調が禁止されて回生制動から油圧制動へと切替え処理する場合に、上述した嵩上げ処理を実行することとできる。
HVブレーキユニット20は、上述の動作及び処理により、ブレーキフィーリングをさらに向上させることができる。また、HVブレーキユニット20は、制動力の意図せぬ変動を低減するので、安定して的確な制動動作をすることが可能となる。
実施形態で説明したHVブレーキユニット20の構成と動作及び処理とは、典型的な例示であってこれに限定されるものではない。また、上述した全ての構成を備えなくてもよく、HVブレーキユニット20に必要とされる機能となるように、個々に詳述した構成と動作とを適宜組み合わせて用いることができる。また、HVブレーキユニット20は、構成を自明な範囲で適宜変更してもよく、その動作と処理とを自明な範囲で適宜異なるものとしてもよい。