しかしながら、上記のようなヒータ電極(ヒータライン)を有するイオン発生素子の場合、次のような問題点がある。まず、図10(a−1)〜(c−1)に従来の構成のイオン発生素子60,61,62を示す。また、図10(a−2)〜(c−2)は、それぞれ図10(a−1)〜(c−1)のイオン発生素子60,61,62の矢視断面図である。イオン発生素子60,61,62では、それぞれヒータ電極26a,26b,26cを配置することで放電電極22近傍は加温され、イオン発生素子60,61,62表面に付着した水分が除去されて、放電を行う。
図10(a−1),(a−2)に示すイオン発生素子60は、絶縁基材21bの裏面にベタ状のヒータ電極26aを設けたものであり、給電によるジュール熱で放電電極と誘導電極が対峙する放電領域を加熱し、高湿環境下でも放電部分に水分が付着しないようにして、放電の安定化を行う。また、図10(b−1),(b−2)に示すイオン発生素子61は、絶縁基材21bの誘導電極23形成面と同じ面にライン状のヒータ電極26bを形成したものであり、これも放電領域部分を細くして所定の抵抗にし、必要な発熱が得られる構成となっている。さらに、図10(c−1),(c−2)に示すイオン発生素子62は、絶縁基材21bの誘導電極23形成面と同じ面に波線状にヒータ電極26cを配置した構成であり、これも同様の作用を担う。
しかしながら、このような構成の従来のイオン発生素子60,61,62では以下のような問題が発生する。各構成のイオン発生素子60,61,62では、放電領域は十分な加温がなされ、付着した水分が蒸発するが、放電領域外ではヒータによる加温が十分では無く、水分を多く含んだ温度の高い空気が冷やされ、結露する場合がある。図11(a)(b)は上記の現象の説明図である。また放電領域では、コロナ放電器よりは少ないが、オゾンの発生が生じ、これに伴ってNOxガスが生成する。これが前述の結露水分に溶け込むことで、以下のような反応によって硝酸(HNO3)が生成する。
例えば、NOxが一酸化窒素(NO)、二酸化窒素NO2の場合は、
2NO + O2 → 2NO2
3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO (NOは再び最初の反応に戻る)
といった現象が起こる。
この硝酸(HNO3)がイオン発生素子の電極端子部(接点部)に付着すると、端子部の腐食を引き起こし、導通不良やマイグレーションなどを引き起こす懸念がある。特に電極端子部を素子の端部付近に設けた場合、ヒータの加温の放熱も多く、温度が下がりやすい状態となるため、上記の結露や硝酸の問題はより深刻である。
また誘電体層の材質によっては絶縁特性の劣化も起こし、例えば低温焼成セラミック(LTCC)やガラスなどの場合は、硝酸成分がガラス成分を溶解し、絶縁性能低下を招く恐れがある。これらの現象は素子の性能低下だけでなく、リークによる異常発熱や発火に発展する可能性もある。特に電極端子部材料として高価なAuやPtの代わりに、比較的低コストなAgやCuやNiなどを用いた場合、硝酸による腐食を受けやすく、低コスト化の妨げになる。
このようなヒータ作用による弊害については、前述の特許文献では開示されておらず、使用環境条件の変動があっても、放電性能の安定化と、異常時に対する耐性向上が求められる。
そこで、本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、沿面放電に伴ってイオンを発生させるイオン発生素子において、低コストで、使用環境変動に対しても安定した動作を維持するだけでなく、安全面に配慮したイオン発生素子、帯電装置および画像形成装置を提供することである。
本発明に係るイオン発生素子は、上記課題を解決するために、誘電体層を挟んで設けられた放電電極と誘導電極とを備え、当該放電電極は絶縁基材に設けられており、前記放電電極と前記誘導電極との間に交番電圧が印加されることにより、沿面放電に伴ってイオンを発生するイオン発生素子であって、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極が前記絶縁基材に設けられ、前記ヒータ電極は、上記沿面放電が発生する沿面放電発生領域に加え、前記誘導電極の端子部、前記放電電極の端子部、および前記ヒータ電極の端子部の各端子部配置領域を加温するように配線されていることを特徴としている。
上記構成によると、ヒータ電極により、沿面放電発生領域に加え、前記誘導電極の端子部、前記放電電極の端子部、および前記ヒータ電極の端子部の各端子部配置領域が加温される。
ここで、イオン発生素子において、高湿環境での放電安定性を高めるために、沿面放電が発生する放電電極近傍を加熱すると好適である。つまり、イオン発生素子のヒータ電極を配置することで放電電極近傍は加温され、素子表面に付着した水分が除去されて安定した放電を行うことができる。しかしながら、沿面放電発生領域以外でヒータ電極による加温があまりなされないと、素子表面の温度差が生じ、加温が行われない領域では加温領域で生成した水分を多く含む比較的温度の高い空気が冷やされ、結露が起こりやすくなる状態となる場合がある。また沿面放電発生領域では、コロナ放電器よりは少ないがオゾンの発生が生じ、これに伴うNOxガスが生成する。これが前述の結露水分に溶け込むことで硝酸が生成する。この硝酸が電極端子部(接点部)に付着すると、端子部の腐食を引き起こし、導通不良やマイグレーションなどを引き起こす懸念がある。また誘電体層の材質によっては絶縁特性の劣化も起こし、例えば低温焼成セラミック(LTCC)やガラスなどの場合は、硝酸成分がガラス成分を溶解し、絶縁性能低下を招く恐れがある。これらの現象は素子の性能低下だけでなく、リークによる異常発熱や発火に発展する可能性も考えられる。特に電極端子部材料として高価なAuやPtの代わりに、比較的低コストなAgやCuやNiなどを用いた場合、硝酸による腐食を受けやすく、低コスト化の妨げになる。
そこで本発明の上記構成では、ヒータ電極により、前記誘導電極の端子部、前記放電電極の端子部、および前記ヒータ電極の端子部の各端子部配置領域も加温されることにより、前述のような結露を起こすことがなく、硝酸の発生や電極接点への悪影響を防止することが可能となる。よって高湿環境下で放電を安定に行うことができ、かつ結露に起因する接点不具合による動作不具合も起こらず、動作の信頼性を向上することが出来る。これにより、電極端子部に低コストなAgやCuやNi等の材料を用いることができ、素子自体の低コスト化にも貢献できる。
以上のように、本発明の上記構成によると、低コストで、使用環境変動に対しても安定した動作を維持するだけでなく、安全面に配慮したイオン発生素子を提供することができる。
また、本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記ヒータ電極は、当該ヒータ電極で加温する際、前記各端子部配置領域と前記沿面放電発生領域とで、その温度差が10℃以内になる様に構成されていると、なお好適である。
当該ヒータ電極で加温する際、上記温度差を10℃とするには、各端子部配置領域のヒータ電極の発熱を高めたり、周辺のヒータ配線領域を広く採るなどすればよい。なお詳細な構成条件は、各端子部配置領域の誘電層や絶縁基材の厚みや熱伝導率や周辺の放熱状態により変化するが、ヒータ電極の抵抗や配線パターンを適宜設定することで上記温度差を10℃以内にするようにすればよい。上記構成によると、端子部配置領域と前記沿面放電発生領域との温度差を10℃以内程度にすることで、端子部近傍の結露現象を抑えることが可能である。理想的には温度差がゼロが究極であるが、実現するには様々な検知手段や制御手段が必要であり、またヒータの構成要件も複雑かつ設計尤度も小さくなるためコスト増になってしまう。そこで、上記課題を解決するには、温度差を10℃以内とすることで、結露の発生を簡便にかつ低コストに防止でき、好適である。
また、本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記ヒータ電極は、前記絶縁基材の前記誘導電極が形成される側の面に形成され、線状のパターンに構成されていてもよい。
上記構成によると、絶縁基材上にヒータ電極と誘導電極とを同時に形成できるため、イオン発生素子の層構成を簡便化して、低コストに提供することができる。
また、本発明に係るイオン発生素子は、上記構成に加え、前記誘導電極と、前記ヒータとは互いに電気的に絶縁されて形成されているのが好ましい。
誘導電極とヒータ電極とが絶縁されていない場合、例えば、誘導電極とヒータ電極とが共通の端子部を介して任意の電位(例えば接地電位)に接続される構成の場合、共通の端子部の接触不良などのアクシデントでフローティングになると、放電電極への高圧印加が行われると、誘導電極電位が放電電極電位に引っ張られ、不安定な状態となる。また放電電極への高圧印加時に発生する誘導電流もヒータ電極を通じてヒータ電源側へ流れ込んでしまう。このような場合、ヒータ電源には不安定な電圧が作用し、ノイズの発生を誘発したり、ヒータ電源の損傷、延いては発火などの事故につながる可能性がある。このような問題を解決するために、誘導電極とヒータ電極とを絶縁する構成が考えられる。このような構成とすることで、何らかのアクシデントで誘導電極が接触不良となってフローティング状態となっても、ヒータ電極を通じてヒータ電源やイオン発生素子が備えられるマシン本体へダメージを与えることを防ぐことができ、発火などの事故を未然に防ぐことができる。ただし、このような構成の場合、例えば誘導電極接点近傍はヒータによる加温作用が弱まり、前述の結露に伴う諸問題が発生する懸念がある。そこで本発明のヒータ電極の配線の構成を採用することで、誘導電極端子部分も加温されるように構成でき、結露に伴う諸課題を回避しつつ、前述の接点不良のリスクも防止できて好適である。
また、本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記放電電極の端子部の導電物質の主成分は、金または白金であるのが好ましい。
本発明に係るイオン発生素子における電極端子部(給電接点端子)のうち、放電電極の端子部へは高圧電圧が印加される。そのため、接点周囲の結露を防止するためにヒータ電極を放電電極の端子部近傍に配置すると、ヒータ電極へも誘導電流が誘起されたり、誘電体層の割れやピンホール発生時にはヒータラインへの高圧リークの懸念がある。しかしながら、本発明の上記構成のように放電電極の材料として金あるいは白金を用いれば、これらの材料は硝酸耐性が高いため、結露防止のヒータ構成要件を緩和できる。すなわち放電電極の端子部までヒータ電極をさほど近接させる必要がなく、前述のリーク発生等のリスクを軽減できる。
また、上記構成を採ることで、長期に渡り安定した放電性能を得ることができる。これは放電に伴うオゾン発生による酸化作用に対する耐性が高く、放電電極としての電気特性変化が小さいためである。つまり電極自体の耐久性が高いため、放電電極の保護コート層を別途設ける必要がなく、シンプルな構成として製造することができる。さらにコート層の不均一性や長期使用でのコート層劣化による放電不均一性のリスクも回避でき、より好適である。
また、本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記誘導電極の導電物質の主成分およびヒータ電極の導電物質の主成分は、銀、銅、ニッケルのいずれかであるのが好ましい。
誘導電極またはヒータ電極の材料としては、導電物質に主成分が金以外であってもよく、低コスト化の観点からすると、金以外の廉価な材料で構成するのが好ましい。ヒータ電極に関しては、ヒータ電源を搭載機器の共用電圧である5,12,24V系を流用できれば、電源コストの抑制の点から好ましい。しかし、このような場合、所望の投入電力にするためには、ヒータ電極の抵抗を所定範囲に制御する必要がある。ここで金を主成分とする材料をヒータ電極に用いた場合、抵抗がかなり低く、所望の抵抗が高めの場合、ヒータ電極の配線長を長くし、かつ、その線幅を細くしなければならない。しかしながらこのような配線パターンでは製造工程の断線発生により、歩留まりが悪化し、金材料が高価なことも加え、コストアップの懸念がある。
この対策として誘導電極およびヒータ電極の導電物質に、銀、銅、ニッケルのいずれかの材料を用いると好適である。これらの材料を用いることで、金材料よりも高抵抗化しやすく、配線パターンの過度の細線化による断線リスクを改善できる。また絶縁基材や誘電体層材料としてセラミックやガラスなどを用いる場合、高温で焼成する必要があるが、これらの材料は耐熱性も高く、材料の組み合わせとして望ましい。
しかしながら、これらの材料は硝酸による変質を起こしやすいが、本発明のヒータの構成を併用することで、信頼性が高くかつ低コストのイオン発生素子を提供することが可能となり、好適である。
本発明に係る帯電装置は、上記課題を解決するために、上記いずれか1つのイオン発生素子と、上記放電電極と上記誘導電極との間に交番電圧を印加する高圧電源部と、ヒータ電極に電圧を印加する電源部とを備えることを特徴としている。
上記構成によると、本発明に係るイオン発生素子を備えているために、低コストで、端子部の結露による不具合を未然に防いで安定した動作を行い、安全面に配慮した帯電装置を提供できる。
本発明に係る画像形成装置は、上記課題を解決するために、非転写体と、当該非転写体に転写されるトナー像を担持する担持体と、上記トナー像を帯電する転写前帯電装置とを備える画像形成装置であって、前記転写前帯電装置として前記帯電装置を備えたことを特徴としている。
転写前帯電装置として本発明の帯電装置を用いることで、電極端子部の結露による不具合を未然に防いで安定した動作を行う安全な帯電装置にて、画像形成装置本体の破壊を防止することができる。よって、安全な画像形成装置を提供することができる。さらに本発明の帯電装置は、上記したようにコンパクトであるため、転写前トナーの帯電を限られたスペースで行うことができ、画像形成装置の縮小化を図ることができる。
本発明に係る画像形成装置は、静電潜像担持体と、当該静電潜像担持体を帯電させる帯電装置とを備える画像形成装置であって、前記帯電装置として、前記帯電装置を備えることを特徴としている。
静電潜像担持体を帯電させる帯電装置として、本発明に係る帯電装置を用いることで、電極端子部の結露による不具合を未然に防いで安定した動作を行う安全な帯電装置にて、画像形成装置本体の破壊を防止することができ、安全な画像形成装置を提供することができる。さらに本発明の帯電装置は、上記したようにコンパクトであるため、コンパクトな画像形成装置を提供できる。
本発明のイオン発生素子は、以上のように、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極が前記絶縁基材に設けられ、前記ヒータ電極は、上記沿面放電が発生する沿面放電発生領域に加え、前記誘導電極の端子部、前記放電電極の端子部、および前記ヒータ電極の端子部の各端子部配置領域を加温するように配線されている。
上記構成によると、ヒータ電極により、沿面放電発生領域に加え、前記誘導電極の端子部、前記放電電極の端子部、および前記ヒータ電極の端子部の各端子部配置領域が加温される。ヒータ電極により、前記誘導電極の端子部、前記放電電極の端子部、および前記ヒータ電極の端子部の配置領域も加温されることにより、前述のような結露を起こすことがなく、硝酸の発生や電極接点への悪影響を防止することが可能となる。よって高湿環境下で放電を安定に行うことができ、かつ結露に起因する接点不具合による動作不具合も起こらず、動作の信頼性を向上することが出来る。これにより、電極端子部に低コストなAgやCuやNi等の材料を用いることができ、素子自体の低コスト化にも貢献できる。
以上のように、本発明の上記構成によると、低コストで、使用環境変動に対しても安定した動作を維持するだけでなく、安全面に配慮したイオン発生素子を提供することができる。
〔実施の形態〕
以下、本発明に係るイオン発生素子、これを備えた本発明に係る帯電装置、およびこれを備えた画像形成装置についての一実施形態を、図1〜9に基づいて、具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
(画像形成装置の全体構成)
まず、本実施形態における画像形成装置の全体構成について説明する。図2は、本実施形態の転写前帯電装置を備えた画像形成装置100の概略構成を示す断面図である。この画像形成装置100は、いわゆるタンデム式で、かつ、中間転写方式のプリンタであり、フルカラー画像を形成できる。
図2に示すように、画像形成装置100は、4色(C・M・Y・K)分の可視像形成ユニット50a〜50d、転写ユニット40、および定着装置14を備えている。
転写ユニット40は、中間転写ベルト15(像担持体)と、この中間転写ベルト15の周囲に配置された4つの一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、および転写用クリーニング装置17を備えている。
中間転写ベルト15は、可視像形成ユニット50a〜50dによって可視化された各色のトナー像が重ね合わせて転写されるとともに、転写されたトナー像を記録紙Pに再転写するためのものである。具体的には、中間転写ベルト15は無端状のベルトであり、一対の駆動ローラおよびアイドリングローラによって張架されているとともに、画像形成の際には所定の周速度(本実施形態では167〜225mm/s)に制御されて搬送駆動される。
一次転写装置12a〜12dは、可視像形成ユニット50a〜50dごとに設けられており、感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、トナー像を中間転写ベルトへ転写する。それぞれの一次転写装置12a〜12dは、対応する可視像形成ユニット50a〜50dと中間転写ベルト15を挟んで反対側に配置されている。
二次転写前帯電装置3は、中間転写ベルト15に重ね合わせて転写されたトナー像を再帯電させるものであり、詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させる。
二次転写装置16は、中間転写ベルト15上に転写されたトナー像を、記録紙Pに対して再転写するためのものであり、中間転写ベルト15に接して設けられている。転写用クリーニング装置17は、トナー像の再転写が行われた後の中間転写ベルト15の表面をクリーニングするものである。
なお、転写ユニット40の中間転写ベルト15の周囲には、中間転写ベルト15の搬送方向上流から一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、転写用クリーニング装置17の順で各装置が配置されている。
二次転写装置16の記録紙P搬送方向下流側には、定着装置14が設けられている。定着装置14は、二次転写装置16によって記録紙P上に転写されたトナー像を記録紙Pに定着させるものである。
また、中間転写ベルト15には、4つの可視像形成ユニット50a〜50dがベルトの搬送方向に沿って接して設けられている。4つの可視像形成ユニット50a〜50dは、用いるトナーの色が異なっている点以外は同一構成であり、それぞれ、イエロー(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)・ブラック(K)のトナーが用いられる。以下では、可視像形成ユニット50aのみについて説明し、その他の可視像形成ユニット50b〜50dについては説明を省略する。これに伴い、図2では、可視像形成ユニット50aにおける部材しか図示していないが、他の可視像形成ユニット50b〜50dも可視像形成ユニット50aと同様の部材を有している。
可視像形成ユニット50aは、感光体ドラム(像担持体)7と、この感光体ドラム7の周りに配置された潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット(図示せず)、現像装置11、一次転写前帯電装置2、クリーニング装置13などを備えている。
潜像用帯電装置4は、感光体ドラム7の表面を所定の電位に帯電させるためのものである。潜像用帯電装置4の詳細については後述するが、本実施形態では、潜像用帯電装置4から放出するイオンによって感光体ドラムを帯電させるようになっている。
レーザ書き込みユニットは、外部装置から受信した画像データに基づいて、感光体ドラム7にレーザ光を照射(露光)し、均一に帯電された感光体ドラム7上に光像を走査して静電潜像を書き込むものである。
現像装置11は、感光体ドラム7の表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、静電潜像を顕像化してトナー像を形成するものである。
一次転写前帯電装置2は、感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像を転写前に再帯電させるためのものである。一次転写前帯電装置2の詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
クリーニング装置13は、中間転写ベルト15にトナー像を転写した後の感光体ドラム7上に残留したトナーを除去・回収して感光体ドラム7上に新たな静電潜像およびトナー像を記録することを可能にするものである。
なお、可視像形成ユニット50aの感光体ドラム7の周囲には、感光体ドラム7の回転方向上流から、潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット、現像装置11、一次転写前帯電装置2、一次転写装置12a、クリーニング装置13の順で各装置が配置されている。
次に、画像形成装置100の画像形成動作について説明する。可視像形成ユニットの動作については、上記した可視像形成ユニット50aの構成部材(参照符号がふられているもの)を用いて説明するが、可視像形成ユニット50b〜50dでも同様の動作が行われる。
まず、画像形成装置100は、図示しない外部装置から画像データを取得する。また、画像形成装置100の図示しない駆動ユニットが、感光体ドラム7を図2に示した矢印の方向に所定の速度(本実施形態では167〜225mm/s)で回転させるとともに、潜像用帯電装置4が感光体ドラム7の表面を所定の電位に帯電させる。
次に、取得した画像データに応じてレーザ書き込みユニットが感光体ドラム7の表面を露光し、感光体ドラム7の表面に上記画像データに応じた静電潜像の書き込みを行う。続いて、感光体ドラム7の表面に形成された静電潜像に対して、現像装置11がトナーを供給する。これにより、静電潜像にトナーを付着させてトナー像が形成される。
このようにして感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像を、一次転写前帯電装置2が再帯電させる。そして、一次転写装置12aに感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、一次転写前帯電装置2により再帯電させられたトナー像を中間転写ベルトへ転写する(一次転写)。
可視像形成ユニット50a〜50dが上記動作を順に行うことにより、中間転写ベルト15には、Y,M,C,Kの4色のトナー像が順に重ね合わされる。
重ね合わされたトナー像は、中間転写ベルト15によって二次転写前帯電装置3まで搬送され、搬送されたトナー像に対して、二次転写前帯電装置3が再帯電を行う。そして、再帯電が行われたトナー像を担持する中間転写ベルト15を、二次転写装置16が図示しない給紙ユニットから給紙された記録紙Pに対して圧接し、トナーの帯電とは逆極性の電圧が印加されることにより、記録紙Pにトナー像が転写される(二次転写)。
その後、定着装置14がトナー像を記録紙Pに定着させ、画像の記録された記録紙Pが図示しない排紙ユニットに排出される。なお、上記の転写後に感光体ドラム7上に残存したトナーは、クリーニング装置13によって、また、中間転写ベルト15上の残存したトナーは転写用クリーニング装置17によって除去・回収される。以上の動作により、画像形成装置100は、記録紙Pに適切な印刷を行うことができる。
(転写前帯電装置の構成)
次に、転写前帯電装置の構成について詳細に説明する。上述した一次転写前帯電装置2、潜像用帯電装置4、二次転写前帯電装置3は、設置される位置が異なっている点以外は同一であり、同じ構成の装置となっている。なお、潜像用帯電装置4では、帯電電位を制御するためのグリッド電極を以下で説明するイオン発生素子(沿面放電素子)1と感光体ドラム7との間に配置してもよい。このグリッド電極の位置は感光体ドラム7からは約1mm程度、イオン発生素子1からは2〜10mm程度隔てて配置するのがよい。以下では、二次転写前帯電装置3の詳細を説明し、一次転写前帯電装置2および潜像用帯電装置4については詳細な説明を省略する。
図3(a)は、中間転写ベルト15近傍に配置されたイオン発生素子1を備えた二次転写前帯電装置3の構成図であり、図3(b)および(c)は、電源に繋がった状態のイオン発生素子1の側面図および平面図である。
図3(a)に示すように、二次転写前帯電装置3は、イオン発生素子1、対向電極31、高圧電源32、および電圧制御回路33を備えている。
イオン発生素子1は、図3(b)、(c)に示すように、誘電体層21a、放電電極22、絶縁基材21b、誘導電極23、およびヒータ電極25を有しており、放電電極22と誘導電極23との間の電位差に基づいて発生する放電(放電電極22付近で誘電体層21aの沿面方向に生じるコロナ放電)により、イオンを発生させる。
イオン発生素子1は、略長方形状の誘電体層21aと絶縁基材21bとを貼り合わせた平板状で構成されている。誘電体層21aおよび絶縁基材21bの材料としては、有機物であれば耐酸化性に優れた材料が好適である。例えばポリイミドまたはガラスエポキシ等の樹脂を使用することができる。また、無機物を選択するのであれば、マイカ集製材やアルミナ、結晶化ガラス、フォルステライト、ステアタイト等のセラミックを使用することができる。なお、耐食性の面を考えれば、誘電体層21aおよび絶縁基材21bの材料として無機系のもののほうが望ましく、さらに成形性や後述する電極形成の容易性、耐湿性の低さ等を考えれば、セラミックを用いて成形するのが好適である。また、放電電極22と誘導電極23との間の絶縁抵抗が均一であることが望ましいため、誘電体層21aおよび絶縁基材21bにおいて、それぞれ、材料内部の密度バラツキが少なく、絶縁率が均一であればあるほど好適である。誘電体層21aの厚みは、50〜250μmが好ましいが、この数値に限定はされない。
誘電体層21aは、絶縁基材21bを覆い得る長さを有しており、かつ下記で説明する誘導電極23の接地用端子部23a上およびヒータ電極25の接地用端子部25b,電源接続用端子部25a上に、これら端子部を露出させる開口部24、27が設けられている。本実施形態では、誘導電極の接地用端子部23a上、およびヒータ電極の接地用端子部25b上は、同一の開口部24として形成しているが、後述の実施例2のように、端子部毎に別々に開口部を設けてもよい。誘導電極23の接地用端子部23a、およびヒータ電極25の接地用端子部25b,電源接続用端子部25aは、絶縁基材21bの長手方向の端部に設けられ、誘電体層21aは、端子部の延伸方向において各端子部を覆い得る位置まで延びており、かつ各端子部上に、これら各端子部を露出させる開口部24,27を有している。
放電電極22は誘電体層21aの表面に誘電体層21aと一体的に形成されている。また、放電電極22には、高圧電源接続用端子部22aが設けられている。放電電極22の材料としては、例えばタングステンや銀、金、白金、ステンレスのように導電性を有するものを使用することができる。ただし、放電によって溶融や飛散する等の変形を起こさないものであることが条件となる。経時使用による放電電極22の変質・劣化を抑えるために、放電電極22を薄いセラミックやガラス等でコートしてもよい。ただし、均一なコートが得られない場合、コートが薄いあるいは未コート部では過剰な放電が発生し、逆に厚すぎるコート部分では放電が不足してしまい、画像ムラを引き起こす場合があるため、均一なコーティングが必要となる。このような観点で見た場合、放電電極22の材料としては、金(Au)や白金(Pt)を主成分とするものが最も好適である。これらの材料は、放電による放電電極22自身の酸化などによる変質も少なく、コート層を設けなくとも、安定した性能を長期渡り維持できる。よってコート層の不具合による放電不均一や、製造工程もシンプルになり、低コスト化や品質向上に寄与できる。
放電電極22は誘電体層21aの表面からの深さ(誘電体層21aの表面より誘導電極23側に放電電極22が押し込まれている場合)、あるいは厚み(誘電体層21aの表面より突出して放電電極22を設ける場合)が、均一であるほうが望ましい。また、放電電極22の形状は、中間転写ベルト15の移動方向と直交する方向に均一に伸びた形状であればいずれの形状であってもよい。ただし、誘導電極23との電界集中が起こりやすい形状とするほうが、放電電極22と誘導電極23との間に印加する電圧が低くても、上記両電極間で放電させることができるので、できればそのほうが望ましい。本実施形態では、図3(c)に示すように、放電電極22の形状は櫛歯状となっており、放電を起こしやすい形状となっている。なお、ここでは、放電電極22は櫛歯状とするが、図1,4〜5,7,8に示す構成のように、誘電体層21aの長手方向に伸びた長方形の電極となっていてもよい。
誘導電極23は、誘電体層21aと絶縁基材21bとの間に形成され、放電電極22に対向して配置される。これは、放電電極22と誘導電極23との間の絶縁抵抗は均一であることが望ましく、放電電極22と誘導電極23とは並行であることが望ましいからである。このような配置により、放電電極22と誘導電極23との距離(以下、電極間距離と称する)が一定となるので、放電電極22と誘導電極23との間の放電状態が安定し、イオンを好適に発生させることが可能となる。図3に示す構成では、誘導電極23は、2本の線状電極であり、誘電体層21aを挟んで、放電電極22を長手方向に沿って両側から挟むようにして対向配置されている。そして、2本の誘導電極23のそれぞれの一端に接地用端子部23aを有しており、接地用端子部23aは、接地電位(グランド)に接続される。なお、誘導電極23は、上記の形状に限定されることはなく、放電電極22と対向配置したベタ電極であってもよいし、放電電極22の片側に対抗する位置だけに設けられていてもよい。
また、誘導電極23は、誘電体層21aを1層として、誘電体層21aの裏面に設けることも可能であるが、この場合は、誘電体層21aの表面を伝って、放電電極22と誘導電極23とがリークしないよう、印加電圧に対し十分な沿面距離を確保するか、或いは放電電極22や誘導電極23を絶縁性のコート層(保護層)で被覆する必要がある。また誘電体層21aは放電を起こしやすくするために、前述のように薄い厚みとする必要があるので、誘電体層21aとコート層だけでは強度面に問題がある。そこで、本実施形態では、絶縁基材21bとして数100μmないし数mmのセラミック基材を用い、この上に誘導電極23およびヒータ電極25のパターンを形成し、放電電極22が形成された誘電体層21aと圧着・積層した状態で焼成を行い、イオン発生素子1を形成する。このような構成とすることで、強度面の問題も解消され、かつ誘導電極23やヒータ電極25は絶縁基材21bに内包されるため、表面の放電電極22から内部の誘導電極23やヒータ電極25への沿面リークも防止できる。さらにイオン発生素子1の構造は、電極パターンを形成した2層のセラミック基材を重ねて焼成したものであるため、簡易にかつ低コストにイオン発生素子1を製造することができる。
ヒータ電極25は、誘電体層21aと絶縁基材21bとの間に、誘導電極23とは別に設けられており、ライン状となっている。ここで、本実施の形態のイオン発生素子1では、ライン状のヒータ電極25は、各端子部配置領域と沿面放電発生領域とで、単位長さ当たりの抵抗が一定、すなわちヒータ電極の断面積が一定になるように形成されている。このヒータ電極25により、沿面放電発生領域に加え、誘導電極23の端子部、放電電極22の端子部、およびヒータ電極23の端子部の配置領域が加温されるようになっている。つまり、本実施の形態のイオン発生素子1では、ヒータ電極25の配線の太さを調整し、接点近傍も十分に加温されるようになっている。よってこのような構成を適用することで、図1(a),(b)に示すように、誘導電極23の端子部、放電電極22の端子部、およびヒータ電極23の端子部の各端子部が存在する各端子部(接点部)領域での温度低下が小さく、課題に記載したような結露や硝酸生成が抑制され、端子部のダメージを未然に防ぐことができる。
ヒータ電極25のパターンは、これ以外に、ループ状や波線状にしてもよく、また、その幅や厚みを適宜調整して、使用する電極材料の抵抗率に応じて、最適な条件とすればよい。ヒータ電源34のコストを抑えるには、装置本体側で用いる共用電圧(例えば、5、12、24Vなど)で駆動できるようにすると好適である。その際、所望の投入電力得るために抵抗を上げなければならない場合には、極端に線幅を細くすると製造時の断線など懸念があるため、太目の線幅としてループ状に配線して線長を大きく採るといった方法などを適宜採用すればよい。
ヒータ電極25の一端には、接地用端子部25bを有しており、接地用端子部25bは、接地電位(グランド)に接続される。また、他端には、電源接続用端子部25aを有しており、電源接続用端子部25aは、ヒータ電源34に接続される。なお図3(c)では、ヒータ電極の接地用端子部25bが誘導電極の接地用端子部23aの近くに設けられているが、この形状に限定されず、ヒータ電極の電源接続用端子部25aが誘導電極の接地用端子部23aの近くに設けられていてもよい。
そして、ヒータ電源34によりヒータ電極25に所定の電圧(本実施形態では12V)が印加されることで、ヒータ電極25がジュール熱により発熱するよう構成されている。電圧印加方法は、連続的に直流電圧を与えても、レギュレーターなどでマシン内の共用直流電圧を変化させても、トランジスタなどのスイッチング素子でパルス状の電圧にして給電してもよい。上述のヒータ電極25の抵抗と、電圧印加の方法との組み合わせで、立上げ時や定常状態時、経時変化、周囲環境の状態などによって適切な制御を行うことが可能である。このように、ヒータ電極25を発熱させることで、イオン発生素子1が昇温(本実施形態ではイオン発生素子1の周囲温度に対してプラス約20℃)し、イオン発生素子1の吸湿を抑制することができる。よって、高湿環境下でも安定してイオンを発生させることができる。
誘導電極23およびヒータ電極25の材料としては、例えばタングステンや銀、パラジウム、銅、ニッケル、金、白金、ステンレス、あるいはこれらの合金など、導電性を有するものを使用することができる。この中でも、銀、銅、ニッケルを主成分とするものが特に好適である。これらの材料はステンレスなどに比べ、電気伝導度も高く、誘導電荷をスムーズに供給するための誘導電極材料として好ましい特性を示す。また誘電層21としてセラミックやガラスを用いた場合、これらの電極はペースト状の導電材料を印刷して焼成することで形成されるが、タングステンや金、白金のペーストに比べ、銀や銅やニッケルを主成分とする導電ペーストは比較的安価である。前述の放電電極22としては金や白金はその耐性強さから好ましいが、直接放電プラズマが作用しない誘導電極23やヒータ電極25への用途ならば、金や白金を用いる必要性は小さく、低コスト化の点で上述の材料が好ましい。また各端子部は電極材料をそのまま用いれば、作業工程が増えず低コストに出来るが、場合によってはメッキ処理などを行ってもよい。
ヒータ電極25の形状を変更した本実施形態の別の構成のイオン発生素子を図4に示す。図4(a)に示すイオン発生素子101では、べた状のヒータ電極25が、沿面放電領域に加え、放電電極の高圧電源接続用端子部22a、および、誘導電極の接地用端子部23aの配置領域まで加温するように設けられている。
図4(b)に示すイオン発生素子102では、線状のヒータ電極25が、沿面放電領域に加え、放電電極の高圧電源接続用端子部22a、誘導電極の接地用端子部23a、および、ヒータ電極の両端の端子部25a,25bの配置領域を加温するように、各端子部配置領域と沿面放電発生領域とで、単位長さ辺りの抵抗が一定、すなわちヒータ電極の断面積が一定になるように形成されている。
また、図4(c)に示すイオン発生素子103では、波線状のヒータ電極25が、沿面放電領域に加え、放電電極の高圧電源接続用端子部22a、誘導電極の接地用端子部23a、および、ヒータ電極の両端の端子部25a,25bの配置領域を加温するように、各端子部配置領域と沿面放電発生領域とで、単位長さ辺りの抵抗が一定、すなわちヒータ電極の断面積が一定になるように形成されている。
また、図4(d)に示すイオン発生素子104は、誘導電極23の端子部がイオン発生素子の端部ではなく、素子内側に配置されている場合を示している。イオン発生素子104は、線状のヒータ電極25が、沿面放電領域に加え、放電電極の高圧電源接続用端子部22a、上記した素子内側の誘導電極の接地用端子部23a、および、ヒータ電極の両端の端子部25a,25bの配置領域を、加温するように、ヒータ電極が配線されている。接点周囲のヒータ電極の抵抗は、放電領域部分と同じである必要は無く、適宜選択が可能であり、抵抗値の高低に応じて、配線パターンを適宜調整すればよい。また、放電電極の高圧電源接続用端子部22a、および上記した素子内側の誘導電極の接地用端子部23aに、ヒータ電極を近づけるよう引き回して配線している。
図4(a)〜(d)に示すイオン発生素子のいずれの場合もで、沿面放電発生領域に加え、誘導電極23の端子部、放電電極22の端子部、およびヒータ電極25の端子部の各端子部配置領域が加温される。
次に、本実施形態のイオン発生素子1の製造方法について図5を用いて説明するが、本発明の係るイオン発生素子1の製造方法は以下の方法、数値に限定されることはない。なお、図5(a−2)、(b−2)、(c−2)は、それぞれ、図5(a−1)、(b−1)、(c−1)の矢視断面図である。また、図5(c−3)は、図5(c−1)の側面図である。
まず、図5(a−1)、(a−2)に示すように、誘電体層21aとして厚さ0.2mmのアルミナとガラスとを主成分とするグリーンシートを用い、その上に放電電極22をスクリーン印刷で所定のパターンに形成する。放電電極材料として、前述の様々ものを利用できるが、ここでは例えば金(Au)を導電材の主成分とし、セラミックとの密着を担うセラミックおよびガラス成分(1〜2%)を含む導電ペーストなどを用いる。なお、本実施形態のイオン発生素子1が適用される画像形成装置100では、イオン発生素子1は比較的長い寸法が要求される。そのためセラミック材料としてはアルミナとガラスがほぼ半分ずつ程度の低温焼成セラミック(LTCC)材が好ましい。その理由としては、純アルミナの高温焼成セラミック(HTCC)などでは焼成温度が高く、温度分布を均一に保つ焼成条件を実現するには、非常に高価かつ大型の焼成炉が必要であり、素子のコストアップに繋がるといったことが挙げられる。LTCCの場合は、焼成温度が低いという点で優位であり、比較的長い寸法(大型)のイオン発生素子を低コストに安定して製造できる点で好ましい。
次に図5(b−1),(b−2)にように、絶縁基材21bとして、厚さ0.8mmの上記と同様のグリーンシートを用い、その上に誘導電極23およびヒータ電極25を上記と同様の方法で形成する。誘導電極およびヒータ電極材料として、前述の様々ものを利用できるが、ここでは例えば銀(Ag)に5%程度のパラジウムを混合した導電材の主成分とし、セラミックとの密着を担うセラミックおよびガラス成分(1〜2%)を含む導電ペーストなどを用いる。また図5(a−1)に示すように、誘電体層21aにて、絶縁基材上の、誘導電極の接地用端子部23aおよびヒータ電極の接地用端子部25bに対応する箇所、ヒータ電極の電源接続用端子部25aに対応する箇所に、予め、それぞれ開口部24、開口部27を設けておく。本実施形態では、誘導電極の接地用端子部23a上、およびヒータ電極の接地用端子部25b上は、同一の開口部24として形成しているが、後述の図4(d)及び図8を用いて説明する実施例2のように、端子部毎に別々に開口部を設けてもよい。
次に図5(c−1),(c−2),(c−3)に示すように誘電体層21aと絶縁基材21bとを積層・圧接する。この際、両者の位置合わせと、層間に気泡や異物が混入しないように気をつける。次に積層状態で所定の大きさ(例えば、幅6mm×長さ320mm)に切断し、電気炉中で、900〜1000℃で焼成を行うことで、セラミック材で構成されたイオン発生素子1を得ることができる。
図3(a)に戻って説明を続けると、対向電極31は、本実施形態ではステンレス製のシャフト形状となっており、中間転写ベルト15を介してイオン発生素子1と対向する位置に、中間転写ベルト15の裏面側(トナー像が形成されない側)に密着するよう配置される。そして、対向電極電源35を介してグランドに接続されている。対向電極電源35は、対向電極31に所定の電圧を印加する構となっている。このような対向電極電源35は、放電電極22からの放電を生じ易くするために配されるものであり、必ず必要なものではなく、省略することもできる。
高圧電源(電圧印加回路)32は、電圧制御回路33の制御により、イオン発生素子1の放電電極22と誘導電極23との間に電圧を供給する構成となっている。図6に示すような波形で、印加電圧はVpp:2〜4kV、オフセットバイアスは−1〜−2kV、周波数は500〜2kHzのパルス波が用いられる。パルス波のDutyは高圧側時間が10〜50%となるようにしている。なお、波形は正弦波でも構わないが、放電の効率、特に高湿条件での放電性能を考慮すると、パルス波の方が良好である。図6に示した波形のように、立ち上がりおよび立下り時のオーバーシュートは、あえて抑える必要はなく、むしろ積極的に利用することで電源コストを軽減可能となる場合もある。
上記の構成の高圧電源32を動作させ、放電電極22と誘導電極23との間に交流高電圧を印加すると、放電電極22と誘導電極23との間の電位差に基づいて、放電電極22近傍で沿面放電(コロナ放電)が起こる。これにより、放電電極22の周囲の空気をイオン化することでマイナスイオンを発生させ、中間転写ベルト15上のトナー像を所定の帯電量(ここでは約−30μC/g)に帯電させる。
また、高圧電源32は電圧制御回路33に接続されている。電圧制御回路33は、高圧電源の印加電圧の大きさを制御するものである。具体的には、電圧制御回路33は、対向電極電源35を流れる電流の値を計測し、この計測した電流の値が目標値になるように、高圧電源32の印加電圧をフィードバック制御する。対向電極31を流れる電流の大きさは、トナー像の帯電量と相関する。従って、対向電極31を流れる電流を一定の目標値に保つことによって、トナー像の帯電量も一定の値となる。このように、高圧電源32の印加電圧の大きさを、対向電極31を流れる電流の大きさに基づいてフィードバック制御することにより、放電電極22の先端部への異物の付着や、環境条件の変化、また画像形成装置100内における風の流れの変化等によって、イオンの発生量や発生したイオンがトナー像に到達する割合が変動しても、常に最適な量のイオンをトナー像に供給できる。ただし、対向電極電流による制御部分は必ずしも必要でなく、事前に検討で用意した制御テーブルなどを用いて、周囲環境や経時使用度合いや印字モードの情報より、制御を行っても構わない。
以上で説明したように、本実施形態のイオン発生素子1は、誘導電極23およびヒータ電極25が誘電体層21aと絶縁基材21bとで囲まれる構造となっている。よって、放電電極22から誘導電極23もしくはヒータ電極25への沿面リークが起こりにくく、ヒータ電極25への通電により発生するジュール熱によって放電電極近傍の吸着水分を除去して放電性能を安定化させることができる。また、上記構成は、シンプルな構成ゆえ、低コストに素子を提供することができる。
また、イオン発生素子1では、誘導電極23とヒータ電極25とが互いに絶縁されるように離間して設けられている。この構成による利点について図7を用いて説明する。図7(a)は、ヒータ電極25の一端はヒータ電源34に接続され、ヒータ電極25の他端と誘導電極23とは共通接地端子部26により接地電位に接続されている場合、図7(b)は、共通接地端子部26が浮いた(接地されない)場合のイオン発生素子の図である。図7(c)は、誘導電極23とヒータ電極25とが絶縁されている場合のイオン発生素子の図である。
図7(a)のように誘導電極23とヒータ電極25とが共通接地端子部26で電気的に接続されている場合、通常の使用ではさほど問題は無いが、図7(b)のように、共通接地端子部26が浮いた(接地されない)場合、放電電極22への高圧印加が行われると、誘導電極電位が放電電極電位に引っ張られ、不安定な状態となる。また誘導電流もヒータ電極25を通じてヒータ電源34側へ流れ込んでしまう。このような場合、ヒータ電源34には不安定な電圧が作用し、ノイズの発生を誘発したり、ヒータ電源34の損傷、延いてはマシン本体の破損や発火などの事故につながる可能性がある。
他方、図7(c)のように誘導電極23とヒータ電極25とを互いに絶縁した場合、仮に誘導電極23の接続が浮いた場合であっても、ヒータ電極25を通してのマシン本体へのダメージを回避することができる。このように、本実施形態ではヒータ電極25へのリークを防止できるため、ヒータ電源34の破損を招くこともなく、イオン発生素子1を備えたマシン本体の破壊や発火事故も防止することができる。よって、安全面を考慮したイオン発生素子を提供することができる。なお、このような場合、更に安全を期すには図8に示すように、誘導電極接点とヒータ接点の距離を大きくしておく方が好ましい。これは誘導電極接点が浮いた場合、接点部の電位は放電電極に印加される高圧電位に引っ張られ、高電位になり、ヒータ接点が近いと沿面リークを引き起こす可能性があるが、両接点間の距離を大きく取ることでこのような現象も防止することができる。
更に図8(c−1)の構成では、誘電層の切り欠きを楕円状や円弧にしており、応力集中による誘電層の割れや破損を防止できる点でも好ましい。なお、図8は、図4に示すイオン発生素子の変形例であり、素子の幅を狭くするなどで、素子の幅方向(短手方向)に、2つの端子部を配列できない場合に、端子部を長手方向にずらした場合に対応するものである。また、図8に示すイオン発生素子は、内側の誘導電極の接地用端子部23aおよびヒータ電極の接地用端子部25bに対向する開口部24a’および開口部24b’は、楕円状に形成している。ここで、図8(a−1)および(a−2)は、上記別々の開口部24a,24bを楕円形に設け、また放電電極22を設けた誘電体層21aを示す正面図およびその側面図である。図8(b−1)および(b−2)は、誘導電極23およびヒータ電極25を設けた絶縁基材の正面図およびその側面図である。図8(c−1),(c−2),(c−3)は、図8(a−1),(a−2)に示す誘電体層21aと、図8(b−1),(b−2)に示す絶縁基材21bとを積層した、本実施例の変形例のイオン発生素子の正面図、短手方向の側面図、長手方向の側面図、である。
(実施例1)
次に、本発明のイオン発生素子を用いた実施例について説明する。ここでは、本発明に係る実施例のイオン発生素子と比較例のイオン発生素子とについて、図1、4、10および11を用いて説明する。
図4(a)に示す実施例のイオン発生素子は、図10(a−1)に示す比較例のイオン発生素子と同様の構成であり、絶縁基材の裏面にベタ状のヒータ電極を設けたものである。ただし、図4(a)に示す実施例のイオン発生素子は、誘導電極接点や放電電極接点付近も加温効率も高くなるように構成されている。
また、図4(b)に示す実施例のイオン発生素子は、図10(b−1)に示す比較例のイオン発生素子と同様の構成である。しかし、図4(b)に示す実施例のイオン発生素子は、ライン状のヒータ電極の太さを調整し、接点近傍も十分に加温されるようになっている。
また、図4(c)に示す実施例のイオン発生素子は、図10(c−1)に示す比較例のイオン発生素子と同様の構成である。しかし、図4(c)に示す実施例のイオン発生素子は、波線状のヒータ電極パターンを延設し、端子部近傍傍も十分に加温されるようになっている。
よって実施例である図4(a)〜(c)に示すような構成を適用することで、図1(a),(b)に示すように、各端子部領域での温度低下が小さく、結露や硝酸生成が抑制され、端子部のダメージを未然に防ぐことができる。
図9(a)は2つの比較例1,2のイオン発生素子および本実施例のイオン発生素子における温度測定結果である。ここで、温度測定した比較例1,2のイオン発生素子の構成を図9(b)に、温度測定した本実施例のイオン発生素子の構成を図9(c)に示す。
比較例1,2のイオン発生素子では、図9(b)に示すように、ヒータ電極は、端子部配置領域である(1)領域および(6)領域での幅が、沿面放電発生領域である(2)〜(5)領域より太い構成となっている。また、本実施例のイオン発生素子では、図9(c)に示すように、ヒータ電極は、(1)〜(6)領域で、つまり、端子部配置領域と沿面放電発生領域とで、幅が同じ構成となっている。また、比較例1、比較例2、および本実施例では、(1)および(6)領域のヒータ電極幅の大小関係は、
比較例2>比較例1>本実施例=沿面放電発生領域((2)〜(5)領域)のヒータ電極幅
となっている。
具体的なヒータ電極の幅は次の通りである。本実施例および比較例1,2の沿面放電発生領域である(2)〜(5)領域、および、本実施例の端子部配置領域である(1)および(6)領域では、0.15mmとした。また、比較例1の端子部配置領域である(1)および(6)領域では、0.5mm、比較例2の端子部配置領域である(1)および(6)領域では、1.0mmとした。
なお、ヒータ電極の線幅の数値は、この本実施例および比較例1,2に用いたものであり、単なる例である。また、例えば、ヒータ電極を線状に形成する場合、線幅は電極材料や使用条件で変化するが、沿面放電発生領域で0.1〜0.2mm程度が好ましい。
イオン発生素子の各領域(1)〜(6)における温度測定は、比較例1,2および本実施例のいずれにおいても、投入電力は約3W、室温は約25度にて行った。測定位置は、図9(b)、(c)に示すように、両端の端子部配置領域(接点端子近傍)2箇所と、沿面放電発生領域(放電領域)4箇所であり、放射温度計で測定した。なお、図9(a)の長手方向測定位置の1〜6は、ぞれぞれ、図9(b)または(c)の(1)〜(6)領域を示している。
図9(a)から、(1)領域および(6)領域においてヒータ電極の幅が太い、つまり発熱量が小さい比較例2が比較例1より、また、比較例1が本実施例より、温度の落ち込みが大きくなっていることがわかる。
またヒータ電極および誘導電極とその端子部の材料としては、本実施例および比較例1,2では、銀とパラジウム(5%)の混合粉末ペーストを焼成したものを用いた。
図9(a)からわかるように、比較例1,2では、温度差が約15℃近くある。この比較例1,2のイオン発生素子を用いて、高湿環境下で放電エージング試験を行ったところ、数10時間で素子表面の硝酸液滴の付着および電極接点の変色や汚れが認められた。他方、本実施例では、温度差は5ないし10℃以内に収まっている。この本実施例のイオン発生素子を用いて、比較例1,2と同様の高湿条件下での放電エージング試験を行ったところ、硝酸付着や電極変質が抑制されていた。
なお、比較例1において、端子部配置領域である(1)領域と沿面放電発生領域((2)〜(5)領域の平均)の温度差が、10℃を越えていた。この場合、(1)側の端子近傍で結露現象に起因する不具合現象が起こった。他方、端子部配置領域である(6)領域では、10℃よりやや温度低下が少なく、不具合症状が発生しなかった。
このような作用により、電極材料として銀や銅、ニッケルなど耐硝酸性はさほど強くないが安価な材料を使用でき、低コストに安定した性能を維持し、安全な放電素子を提供できる。
(実施例2)
次に、本発明に係るイオン発生素子の別の実施例について、図4(d)および図8を用いて説明する。本実施例では、端子部近傍を加熱するためのヒータ電極パターンとして、図4(d)のようなヒータ構成とする。前述したようにヒータ電極と誘導電極を分離した場合、両者の接点間距離を大きく取ることは望ましいが、このような場合、本構成はなお好適である。
本実施例(実施例2)のイオン発生素子は、図4(d)に示すように、実施の形態で説明したイオン発生素子1の構成に加え、誘電体層21aの開口部を、誘導電極の接地用端子部23aおよびヒータ電極の接地用端子部25b毎に分離して形成している。つまり、誘導電極の接地用端子部23a上と、ヒータ電極の接地用端子部25b上とに、別々の開口部(開口部24aおよび開口部24b)を形成している。ここで、図8(a−1)および(a−2)は、上記別々の開口部を設け、また放電電極22を設けた誘電体層を示す正面図およびその側面図である。図8(b−1)および(b−2)は、誘導電極23およびヒータ電極25を設けた絶縁基材21bの正面図およびその側面図である。図8(c−1),(c−2),(c−3)は、図8(a−1),(a−2)に示す誘電体層21aと、図8(b−1),(b−2)に示す絶縁基材21bとを積層した、本実施例のイオン発生素子の正面図、短手方向の側面図、長手方向の側面図、である。
(実施例3)
本発明に係るイオン発生素子のさらに別の実施例について説明する。本実施では、放電電極22の材料として金や白金を使用する。これ以外のイオン発生素子の構成は、上記の構成と同様である。放電電極22の材料として金や白金を使用するのが望ましい理由について以下に説明する。
高圧が印加される放電電極端子部(接点部)に関しても結露および硝酸発生防止の観点で、端子部近傍の加温が望ましいが、この高圧端子部近傍にヒータ電極25を延設すると、高圧電圧によるヒータラインへのノイズ付与や、万一の誘電層破損時にはヒータラインへのリーク発生も考えられ、高圧接点近傍の加温が困難な場合がある。しかしながら、本実施例のように、放電電極22の材料として金や白金系の材料を使用することで、これらの材料は硝酸ダメージに対する耐性が高いため、高圧端子部近傍の結露防止のヒータ電極での加温を弱めることが可能となる。よって高圧端子部近傍までヒータ電極25を近接させる必要が無く、前述の課題を解消することができる。
さらには、前述の通り、これらの材料は放電により発生したオゾンによる酸化作用に対する耐性も高く、長期にわたり安定した放電特性を示す。酸化耐性が劣る材料でも放電電極22表面を薄いセラミックやガラスでコートすることで耐久性は高められるが、コート層の不均一性や使用途上でのコート層破損により放電不均一が発生したり、製造上もコート層形成の追加工程が入り、コストアップ要因となるため、本構成の適用は好適である。
本発明は上述した実施形態および各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることは言うまでもない。