しかしながら、上記のようなヒータ電極(ヒータライン)を有するイオン発生素子の場合、次のような問題点がある。
初めの問題点について説明する。絶縁基材上に誘導電極23とヒータ電極25とを有し、その上側に誘電体層21aを介して放電電極22を有する構造のイオン発生素子10を図10(a)に示す。放電電極22には、高圧の交番電圧が印加されるようになっており、ヒータ電極25の一端はヒータ電源34に接続され、ヒータ電極25の他端と誘導電極23とは共通接地端子部26により接地電位に接続されている。
通常の使用では、高圧の交番電圧が放電電極22に印加されると、誘導電極23には接地電位より誘導電流が誘起され、放電電極22への印加電圧変化に伴い、誘導電極23を通して誘起電流が流れる。例えば、図11の様にパルス状の印加電圧を放電電極に印加した場合、放電電極22および誘導電極23への流れ込み電流は、スパイク状の電流波形となる。これは、電圧が上昇する短時間の間に、放電電極22と誘導電極23とに挟まれた誘電体層21aにより構成されるコンデンサー成分を充電しようとするためである。一定電圧になると誘導電流は流れず、電圧が下がるときには上述と逆の挙動が起こって、逆向きのスパイク状の電流が発生する。なお、このスパイク状の電流成分の一部に放電による電流分が含まれるが、その量は放電を伴わない流れ込み電流に対して、極わずかである。また図示していないが、Sin波の場合ならば、印加電圧と90度の位相差を持って正弦波状の誘導電流が流れる。
ここで、誘導電極23は接地電位に接続されているので、その電位はほぼ0電位である。一方、ヒータ電極25には数Vないし数10V程度の比較的低い電圧が印加され、ヒータ電源34に接続される端子から接地電位端子へ流れる電流によるジュール熱で、イオン発生素子10を加熱する。
次に図10(b)を用いて、問題となる現象を説明する。図10(b)は、誘導電極23とヒータ電極25の共通接地端子部26が接触不良などのアクシデントでフローティングになってしまった場合を示している。このような場合、放電電極22への高圧印加が行われると、誘導電極電位が放電電極電位に引っ張られ、不安定な状態となる。また誘導電流もヒータ電極25を通じてヒータ電源34側へ流れ込んでしまう。このような場合、ヒータ電源34には不安定な電圧が作用し、ノイズの発生を誘発したり、ヒータ電源34の損傷、延いては発火などの事故につながる可能性がある。
上記の問題を解決するために、図10(c)のように、誘導電極23とヒータ電極25とを絶縁するといった方法が考えられる。このような構成とすることで、何らかのアクシデントで誘導電極23が接触不良となってフローティング状態となっても、ヒータ電極25を通じてヒータ電源34やマシン本体へダメージを与えることを防ぐことができる。よって発火などの事故を未然に防ぐことができる。
上述のような機能を満たすには、イオン発生素子に、放電電極22の端子、誘導電極23の端子、およびヒータ電極25の2つの端子、の計4つの端子部が必要である。ここで、誘導電極23とヒータ電極25とを絶縁したイオン素子の構成の一例を図4に示す。図4(a−1)は、放電電極22が形成された誘電体層21aの平面図、(a−2)は(a−1)の側面図、図4(b−1)は、誘導電極23およびヒータ電極25が形成された絶縁基材21bの平面図、(b−2)は(b−1)の側面図である。そして、図4(c−1)はイオン発生素子10、の平面図、(c−2)は(c−1)の側面図である。図4(a−1),(a−2)に示す誘電体層21aと、図4(b−1),(b−2)に示す絶縁基材21bを積層することで、表層に放電電極22が形成され、誘電体層21aを介して内部に誘導電極23およびヒータ電極25を内包する構造のイオン発生素子10が形成される。
イオン発生素子10への電気的な接続は、放電電極22は露出しているため、直接給電端子部を接触させることで実現できる。一方、内包されている誘導電極23やヒータ電極25については、それらの端子部を表面あるいは裏面に露出させる必要がある。例えば多層基板などで用いられるスルーホール技術を用いれば、誘電体層21aの放電電極22が形成されている面あるいは絶縁基材21bの電極が形成されていない面に、端子部を形成することは可能である。しかしながらスルーホール形成や、端子部のパターンを別途形成する必要があり、コストアップ要因となってしまう。また、絶縁基材に開口部を設ける場合、絶縁基材は、素子の強度向上の点である程度の厚みを持たせてあるが、それに開口を設けると、素子強度が大幅に低下する懸念がある。
これらを回避するための方法として、図4(a−1)に示すように、誘電体層21aの端部を短くしておき、絶縁基材21b上の誘導電極23およびヒータ電極25の端子部が覆われないようにすることで、簡易かつ低コストに内包電極への給電を可能とすることができる。
しかしながら、誘電体層21aの端部を短くする構成では、以下のような問題があることが判明した。図4(a−1)に示すように、誘導電極23やヒータ電極25の端子部が露出するように、上層の誘電体層21aを短くしているが、誘電体層21aの両端部分では段差構造になる。素子の組立時や素子の着脱などの際に、素子に何らかの外力が作用した場合、この段差部分には応力集中しやすく、段差部分周辺での割れが発生することがある。この問題は絶縁基材や誘電体層をセラミックやガラスで構成した場合には、より顕著に起こりやすい。
そこで、本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、沿面放電に伴ってイオンを発生させるイオン発生素子において、低コストで、不測のトラブル発生時の被害を防止し、安全面に配慮したイオン発生素子、帯電装置および画像形成装置を提供することである。
本発明に係るイオン発生素子は、上記課題を解決するために、誘電体層を挟んで設けられた放電電極と誘導電極との間に交番電圧が印加されることにより、沿面放電に伴ってイオンを発生するイオン発生素子であって、絶縁基材の同一面に前記誘導電極と、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極とが、互いに絶縁されるように離間して設けられており、前記絶縁基材の前記面に前記誘電体層が積層されており、前記誘電体層は、前記絶縁基材を覆い得る長さを有しており、かつ前記誘導電極の端子部上および前記ヒータ電極の端子部上に、これら端子部を露出させる開口部が設けられている、ことを特徴としている。
本発明の上記構成によると、誘導電極およびヒータ電極が誘電体層と絶縁基材とで囲まれる構造となる。よって、放電電極から誘導電極もしくはヒータ電極への沿面リークが起こりにくく、ヒータ電極への通電により発生するジュール熱によって放電電極近傍の吸着水分を除去して放電性能を安定化させることができる。また、上記構成は、シンプルな構成ゆえ、低コストに素子を提供することができる。
また、本発明の上記構成によると、誘導電極とヒータ電極とが互いに絶縁されるように離間して設けられている。
ここで、誘導電極とヒータ電極の一端とが共通の端子部を有する構造で、端子部が接地電位などの任意の電位に接続されている場合に、共通の端子部が何らかの原因で電気的に接続されない状態で、放電電極に高圧が印加されると、ヒータ電源部の損傷が起こる場合がある。つまり誘導電極が任意の電位(接地電位など)に直接接続されていない状態で、放電電極に高圧が印加されると、誘導電極の電位が放電電極の高圧の影響を受けて変動し、その電位変動がヒータ電極を通じてヒータ電源部へノイズとして伝播してしまう。ヒータ電源の電圧は、放電電極への印加電圧に比べて、かなり低電圧であり、そのノイズの影響は大きい。さらにはヒータ電源として、イオン発生素子を搭載する機器の共通電源を流用することでコスト低減を図ることができるが、上記トラブルが発生した際は、機器全体へのダメージとなり、大きな損失を蒙るだけでなく、最悪の場合、発火などの安全上問題となる場合がある。
しかし、本発明では、誘導電極とヒータ電極とが互いに絶縁されるように離間して設けられているので、仮に誘導電極の接続が浮いた(例えば、接地されていない、あるいは所望の電位供給部に接続されていない)場合であっても、ヒータ電極を通しての機器全体へのダメージを回避することができる。ヒータ電極へのリークを防止できるため、ヒータ電源の破損を招くこともなく、イオン発生素子を備えたマシン本体の破壊や発火事故も防止することができる。よって、安全面を考慮したイオン発生素子を提供することができる。
さらに、本発明の上記構成によると、誘電体層は、前記絶縁基材を覆い得る長さを有しているため、素子の幅方向に亘っての段差が形成されることがないので、イオン発生素子に何らかの外力が作用した場合でも、素子に割れが発生することを防ぐことができる。さらに、誘電体層は、前記誘導電極の端子部上および前記ヒータ電極の端子部上に、これら端子部を露出させる開口部が設けられている。
ここで、誘電体層と絶縁基材とに挟まれた誘導電極とヒータ部への電気的接続を行うには、幾つかの構成が考えられる。例えば、スルーホールを形成して誘電体層の放電電極が形成される面側もしくは絶縁基材の電極が形成されない面側に端子部を形成する構成などがあるが、スルーホール形成には別途追加の工程が必要でありコストアップ要因となる。また、絶縁基材に開口部を設ける場合、素子強度が大幅に低下する懸念がある。誘電体層は放電特性の観点からその厚み設定に大きな自由度がなく、かつ放電の低電圧化にも薄化する方が望ましいが、絶縁基材側は厚み設定の制約が比較的緩いため、素子の強度向上の点である程度の厚みを持たせることがある。しかしながら、強度維持を担う絶縁基材側に開口部を設けてしまうと、素子全体としての強度低下に対する影響が大きくなってしまう。さらに、絶縁基材側に開口部を設ける場合、素子の製法にも大きく影響を与える。つまり絶縁基材に誘導電極やヒータ電極の配線パターンを形成後、誘電体層を積層するといった手段を用いることができないため、予め誘電体層の一方の面に放電電極パターンを形成し、他方の面に誘導電極とヒータ電極を形成後、絶縁基材を積層する必要がある。これは誘電体層にセラミックなどを用いる場合、比較的薄い誘電体層部の両面に電極パターンをスクリーン印刷などで形成しなければならず、印刷パターンの欠陥や表裏の位置あわせズレなどが起こりやすいというリスクが発生する。
このような他の構成に比べ、本発明では、誘電体層は、前記誘導電極の端子部および前記ヒータ電極の端子部上に開口部が設けられていることで、上記問題は発生せず、低コストかつ信頼性の高いイオン発生素子を提供することができる。さらに元々薄い誘電体層に開口部を設けるため、絶縁基材に開口を設ける場合に比べて、素子全体としての強度低下への影響も小さい。
以上のように、本発明の上記構成によると、低コストで、不測のトラブル発生時の被害を防止し、安全面に配慮したイオン発生素子を提供することができる。
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記誘電体層の開口部は、前記端子部毎に別々に設けられていてもよい。
誘導電極の端子部が浮いた場合、放電電極に高圧が印加された際には誘導電極の電位は大きく上昇する。このような場合、ヒータ電極の端子部と誘導電極とが近いと、沿面リークが発生する可能性がある。しかしながら、本発明の上記構成では、誘電体層に、端子部毎に別々の開口部を設けるため、端子部間は誘電体層が介在することになり、沿面リークの発生を防止することができる。さらには開口部を必要最小限の大きさにできるため、素子の強度確保の点でも好ましい。
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記誘導電極の端子部は、接地用として設けられ、前記ヒータ電極の端子部は、ヒータ電源への接続用と接地用とが設けられてもよい。
上記構成によると、前記誘導電極の端子部は、接地電位に接続させ、ヒータ電極の一方の端子部はヒータ電源に接続させ、他方の端子部は接地電位に接続させることができるため、端子部を含む電極をもっとも簡便に構成でき、イオン発生素子を簡便に低コストで製造することができる。
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記放電電極の導電物質の主成分は、金であってもよい。
上記構成を採ることで、長期に渡り安定した放電性能を得ることができる。これは放電に伴うオゾン発生による酸化作用に対する耐性が高く、放電電極としての電気特性変化が小さいためである。つまり電極自体の耐久性が高いため、放電電極の保護コート層を別途設ける必要がなく、シンプルな構成として製造することができる。さらにコート層の不均一性や長期使用でのコート層劣化による放電不均一性のリスクも回避でき、より好適である。
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、前記誘導電極およびヒータ電極の導電物質の主成分は、銀およびパラジウムの混合物または合金であってもよい。
誘導電極またはヒータ電極の材料としては、導電物質に主成分が金以外であってもよく、低コスト化の観点からすると、金以外の廉価な材料で構成するのが好ましい。
ヒータ電極に関しては、ヒータ電源を搭載機器の共用電圧である5,12,24V系を流用できれば、電源コストの抑制の点から好ましい。しかし、このような場合、所望の投入電力にするためには、ヒータ電極の抵抗を所定範囲に制御する必要がある。ここで金を主成分とする材料をヒータ電極に用いた場合、抵抗がかなり低く、所望の抵抗が高めの場合、ヒータ電極の配線長を長くし、かつ、その線幅を細くしなければならない。しかしながらこのような配線パターンでは製造工程の断線発生により、歩留まりが悪化し、金材料が高価なことも加え、コストアップの懸念がある。
この対策として、誘導電極およびヒータ電極の導電物質に、銀系の材料を用いると好適である。銀系の材料を用いることで、金材料よりも高抵抗化しやすく、配線パターンの過度の細線化による断線リスクを改善できる。また絶縁基材や誘電体層材料としてセラミックやガラスなどを用いる場合、高温で焼成する必要があるが、銀系の材料は耐熱性も高く、材料の組み合わせとして望ましい。その一方、銀系の材料の場合、イオンマイグレーションの発生による絶縁不良発生の懸念が考えられる。マイグレーションが発生し易い状況としては、高湿環境で、近接電極間に電界が作用し、かつ平面で銀イオンの進展や析出成長が阻害されにくい状態が挙げられる。よって、イオン発生素子が、高湿環境下で使用され、かつ、誘導電極が接続不良となり、放電電極電位に引っ張られて高電位になって隣接のヒータ電極との間の電界強度が高くなり、さらに誘導電極とヒータ電極の接点が同一平面に近接している場合には、マイグレーションが発生し易くなる。
しかしながら、本発明の上記構成によると、誘導電極とヒータ電極の間には誘電体層が介在しており、端子部ではこの誘電体層による段差が形成されているため、マイグレーションを防止できる。よって、銀系の材料も使用可能である。より好適には銀にパラジウムを5%以上程度混合したものや、合金化したものを用いることで、よりマイグレーション発生を抑制できる。
本発明に係るイオン発生素子は、上記構成に加え、前記誘電体層および前記絶縁基材は、セラミックまたはガラスを主成分としてもよい。
放電電極と誘導電極の間に介在する誘電体層としては、その絶縁性能や電気特性の安定性の観点からセラミックまたはガラス系の材料が好ましい。また絶縁基材も誘電体層と同じセラミックまたはガラス系の材料を用い、一体焼成することで、誘導電極やヒータ電極部をセラミックまたはガラス系材料の内に埋抱して沿面リークに対する絶縁性能をより高めることができるので好ましい。ここで、セラミックまたはガラス系の材料では割れの懸念がある。しかし、本発明に係るイオン発生素子では素子強度の維持を考慮した構成となっているため、絶縁基材および誘電体層にセラミックまたはガラス系の材料を使用しても素子強度を維持でき、セラミックまたはガラス系の材料を使用することによる上記効果も加えられ、より高度な性能を発揮することができる。
本発明に係る帯電装置は、上記課題を解決するために、上記いずれか1つのイオン発生素子と、上記放電電極と上記誘導電極との間に交番電圧を印加する高圧電源部と、ヒータ電極に電圧を印加する電源部とを備えることを特徴としている。
上記構成によると、本発明に係るイオン発生素子を備えているために、ヒータ電源の破損を防ぐことができ、安全な、また、コンパクトな帯電装置を提供できる。
本発明に係る画像形成装置は、上記課題を解決するために、上記帯電装置を、担持体上に担持されたトナーに電荷を与える転写前帯電用の帯電装置として備えることを特徴としている。
転写前帯電用の帯電装置として本発明の帯電装置を用いることで、帯電装置のヒータ電源の破損を防ぐことができ、画像形成装置本体の破壊を防止することができる。よって、安全な画像形成装置を提供することができる。さらに本発明の帯電装置は、上記したようにコンパクトであるため、転写前トナーの帯電を限られたスペースで行うことができ、画像形成装置の縮小化を図ることができる。
本発明に係る画像形成装置は、上記帯電装置を、静電潜像担持体を帯電させる帯電装置として備えることを特徴としている。
静電潜像担持体を帯電させる帯電装置として本発明の帯電装置を用いることで、帯電装置のヒータ電源の破損を防ぐことができ、画像形成装置本体の破壊を防止することができる。よって、安全な画像形成装置を提供することができる。さらに本発明の帯電装置は、上記したようにコンパクトであるため、コンパクトな画像形成装置を提供できる。
本発明のイオン発生素子は、以上のように、絶縁基材の同一面に前記誘導電極と、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極とが、互いに絶縁されるように離間して設けられており、前記絶縁基材の前記面に前記誘電体層が積層されており、前記誘電体層は、前記絶縁基材を覆い得る長さを有しており、かつ、前記誘導電極の端子部上および前記ヒータ電極の端子部上に、これら端子部を露出させる開口部が設けられている。
本発明の上記構成によると、誘導電極およびヒータ電極が誘電体層と絶縁基材とで囲まれる構造となる。よって、放電電極から誘導電極もしくはヒータ電極への沿面リークが起こりにくく、ヒータ電極への通電により発生するジュール熱によって放電電極近傍の吸着水分を除去して放電性能を安定化させることができる。また、上記構成は、シンプルな構成ゆえ、低コストに素子を提供することができる。
また、本発明の上記構成によると、誘導電極とヒータ電極とが互いに絶縁されるように離間して設けられている。よって、仮に誘導電極の接続が浮いた(接地されない)場合であっても、ヒータ電極を通しての機器全体へのダメージを回避することができる。ヒータ電極へのリークを防止できるため、ヒータ電源の破損を招くこともなく、イオン発生素子を備えたマシン本体の破壊や発火事故も防止することができる。よって、安全面を考慮したイオン発生素子を提供することができる。さらに、本発明の上記構成によると、誘電体層は、前記絶縁基材を覆い得る長さを有しているため、素子の幅方向に亘っての段差が形成されることがないので、イオン発生素子に何らかの外力が作用した場合でも、素子に割れが発生することを防ぐことができる。さらに、誘電体層は、前記誘導電極の端子部上および前記ヒータ電極の端子部上に、これら端子部を露出させる開口部が設けられている。低コストかつ信頼性の高いイオン発生素子を提供することができる。さらに元々薄い誘電体層に開口部を設けるため、絶縁基材に開口を設ける場合に比べて、素子全体としての強度低下への影響も小さい。
以上のように、本発明の上記構成によると、低コストで、不測のトラブル発生時の被害を防止し、安全面に配慮したイオン発生素子を提供することができる。
〔実施の形態〕
以下、本発明に係るイオン発生素子、これを備えた本発明に係る帯電装置、およびこれを備えた画像形成装置についての一実施形態を、図1〜11に基づいて、具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
〔画像形成装置の全体構成〕
まず、本実施形態における画像形成装置の全体構成について説明する。図2は、本実施形態の転写前帯電装置を備えた画像形成装置100の概略構成を示す断面図である。この画像形成装置100は、いわゆるタンデム式で、かつ、中間転写方式のプリンタであり、フルカラー画像を形成できる。
図2に示すように、画像形成装置100は、4色(C・M・Y・K)分の可視像形成ユニット50a〜50d、転写ユニット40、および定着装置14を備えている。
転写ユニット40は、中間転写ベルト15(像担持体)と、この中間転写ベルト15の周囲に配置された4つの一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、および転写用クリーニング装置17を備えている。
中間転写ベルト15は、可視像形成ユニット50a〜50dによって可視化された各色のトナー像が重ね合わせて転写されるとともに、転写されたトナー像を記録紙Pに再転写するためのものである。具体的には、中間転写ベルト15は無端状のベルトであり、一対の駆動ローラおよびアイドリングローラによって張架されているとともに、画像形成の際には所定の周速度(本実施形態では167〜225mm/s)に制御されて搬送駆動される。
一次転写装置12a〜12dは、可視像形成ユニット50a〜50dごとに設けられており、感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、トナー像を中間転写ベルトへ転写する。それぞれの一次転写装置12a〜12dは、対応する可視像形成ユニット50a〜50dと中間転写ベルト15を挟んで反対側に配置されている。
二次転写前帯電装置3は、中間転写ベルト15に重ね合わせて転写されたトナー像を再帯電させるものであり、詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させる。
二次転写装置16は、中間転写ベルト15上に転写されたトナー像を、記録紙Pに対して再転写するためのものであり、中間転写ベルト15に接して設けられている。転写用クリーニング装置17は、トナー像の再転写が行われた後の中間転写ベルト15の表面をクリーニングするものである。
なお、転写ユニット40の中間転写ベルト15の周囲には、中間転写ベルト15の搬送方向上流から一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、転写用クリーニング装置17の順で各装置が配置されている。
二次転写装置16の記録紙P搬送方向下流側には、定着装置14が設けられている。定着装置14は、二次転写装置16によって記録紙P上に転写されたトナー像を記録紙Pに定着させるものである。
また、中間転写ベルト15には、4つの可視像形成ユニット50a〜50dがベルトの搬送方向に沿って接して設けられている。4つの可視像形成ユニット50a〜50dは、用いるトナーの色が異なっている点以外は同一構成であり、それぞれ、イエロー(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)・ブラック(K)のトナーが用いられる。以下では、可視像形成ユニット50aのみについて説明し、その他の可視像形成ユニット50b〜50dについては説明を省略する。これに伴い、図2では、可視像形成ユニット50aにおける部材しか図示していないが、他の可視像形成ユニット50b〜50dも可視像形成ユニット50aと同様の部材を有している。
可視像形成ユニット50aは、感光体ドラム(像担持体)7と、この感光体ドラム7の周りに配置された潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット(図示せず)、現像装置11、一次転写前帯電装置2、クリーニング装置13などを備えている。
潜像用帯電装置4は、感光体ドラム7の表面を所定の電位に帯電させるためのものである。潜像用帯電装置4の詳細については後述するが、本実施形態では、潜像用帯電装置4から放出するイオンによって感光体ドラムを帯電させるようになっている。
レーザ書き込みユニットは、外部装置から受信した画像データに基づいて、感光体ドラム7にレーザ光を照射(露光)し、均一に帯電された感光体ドラム7上に光像を走査して静電潜像を書き込むものである。
現像装置11は、感光体ドラム7の表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、静電潜像を顕像化してトナー像を形成するものである。
一次転写前帯電装置2は、感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像を転写前に再帯電させるためのものである。一次転写前帯電装置2の詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
クリーニング装置13は、中間転写ベルト15にトナー像を転写した後の感光体ドラム7上に残留したトナーを除去・回収して感光体ドラム7上に新たな静電潜像およびトナー像を記録することを可能にするものである。
なお、可視像形成ユニット50aの感光体ドラム7の周囲には、感光体ドラム7の回転方向上流から、潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット、現像装置11、一次転写前帯電装置2、一次転写装置12a、クリーニング装置13の順で各装置が配置されている。
次に、画像形成装置100の画像形成動作について説明する。可視像形成ユニットの動作については、上記した可視像形成ユニット50aの構成部材(参照符号がふられているもの)を用いて説明するが、可視像形成ユニット50b〜50dでも同様の動作が行われる。
まず、画像形成装置100は、図示しない外部装置から画像データを取得する。また、画像形成装置100の図示しない駆動ユニットが、感光体ドラム7を図2に示した矢印の方向に所定の速度(本実施形態では167〜225mm/s)で回転させるとともに、潜像用帯電装置4が感光体ドラム7の表面を所定の電位に帯電させる。
次に、取得した画像データに応じてレーザ書き込みユニットが感光体ドラム7の表面を露光し、感光体ドラム7の表面に上記画像データに応じた静電潜像の書き込みを行う。続いて、感光体ドラム7の表面に形成された静電潜像に対して、現像装置11がトナーを供給する。これにより、静電潜像にトナーを付着させてトナー像が形成される。
このようにして感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像を、一次転写前帯電装置2が再帯電させる。そして、一次転写装置12aに感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、一次転写前帯電装置2により再帯電させられたトナー像を中間転写ベルトへ転写する(一次転写)。
可視像形成ユニット50a〜50dが上記動作を順に行うことにより、中間転写ベルト15には、Y,M,C,Kの4色のトナー像が順に重ね合わされる。
重ね合わされたトナー像は、中間転写ベルト15によって二次転写前帯電装置3まで搬送され、搬送されたトナー像に対して、二次転写前帯電装置3が再帯電を行う。そして、再帯電が行われたトナー像を担持する中間転写ベルト15を、二次転写装置16が図示しない給紙ユニットから給紙された記録紙Pに対して圧接し、トナーの帯電とは逆極性の電圧が印加されることにより、記録紙Pにトナー像が転写される(二次転写)。
その後、定着装置14がトナー像を記録紙Pに定着させ、画像の記録された記録紙Pが図示しない排紙ユニットに排出される。なお、上記の転写後に感光体ドラム7上に残存したトナーは、クリーニング装置13によって、また、中間転写ベルト15上の残存したトナーは転写用クリーニング装置17によって除去・回収される。以上の動作により、画像形成装置100は、記録紙Pに適切な印刷を行うことができる。
〔転写前帯電装置構成例〕
次に、転写前帯電装置の構成について詳細に説明する。上述した一次転写前帯電装置2、潜像用帯電装置4、二次転写前帯電装置3は、設置される位置が異なっている点以外は同一であり、同じ構成の装置となっている。なお、潜像用帯電装置4では、帯電電位を制御するためのグリッド電極を以下で説明するイオン発生素子(沿面放電素子)1と感光体ドラム7との間に配置してもよい。このグリッド電極の位置は感光体ドラム7からは約1mm程度、イオン発生素子1からは2〜10mm程度隔てて配置するのがよい。以下では、二次転写前帯電装置3の詳細を説明し、一次転写前帯電装置2および潜像用帯電装置4については詳細な説明を省略する。
図3(a)は、中間転写ベルト15近傍に配置されたイオン発生素子1を備えた二次転写前帯電装置3の構成図であり、図3(b)は、電源に繋がった状態のイオン発生素子1の側面図および平面図である。また、図1(a)は、イオン発生素子の平面図、図1(b)は、その短手方向の側面図、図1(c)は、その長手方向の側面図である。
図3(a)に示すように、二次転写前帯電装置3は、イオン発生素子1、対向電極31、高圧電源32、および電圧制御回路33を備えている。
イオン発生素子1は、図1(a)に示すように、誘電体層21a、放電電極22、絶縁基材21b、誘導電極23、およびヒータ電極25を有しており、放電電極22と誘導電極23との間の電位差に基づいて発生する放電(放電電極22付近で誘電体層21aの沿面方向に生じるコロナ放電)により、イオンを発生させる。
イオン発生素子1は、略長方形状の誘電体層21aと絶縁基材21bとを貼り合わせた平板状で構成されている。誘電体層21aおよび絶縁基材21bの材料としては、有機物であれば耐酸化性に優れた材料が好適である。例えばポリイミドまたはガラスエポキシ等の樹脂を使用することができる。また、無機物を選択するのであれば、マイカ集製材やアルミナ、結晶化ガラス、フォルステライト、ステアタイト等のセラミックを使用することができる。なお、耐食性の面を考えれば、誘電体層21aおよび絶縁基材21bの材料として無機系のもののほうが望ましく、さらに成形性や後述する電極形成の容易性、耐湿性の低さ等を考えれば、セラミックを用いて成形するのが好適である。また、放電電極22と誘導電極23との間の絶縁抵抗が均一であることが望ましいため、誘電体層21aおよび絶縁基材21bにおいて、それぞれ、材料内部の密度バラツキが少なく、絶縁率が均一であればあるほど好適である。誘電体層21aの厚みは、50〜250μmが好ましいが、この数値に限定はされない。
誘電体層21aは、絶縁基材21bを覆い得る長さを有しており、かつ下記で説明する誘導電極23の接地用端子部23a上およびヒータ電極25の接地用端子部25b,電源接続用端子部25a上に、これら端子部を露出させる開口部24、27が設けられている。本実施形態では、誘導電極の接地用端子部23a上、およびヒータ電極の接地用端子部25b上は、同一の開口部24として形成しているが、後述の実施例2のように、端子部毎に別々に開口部を設けてもよい。誘導電極23の接地用端子部23a、およびヒータ電極25の接地用端子部25b,電源接続用端子部25aは、絶縁基材21bの長手方向の端部に設けられ、誘電体層21aは、端子部の延伸方向において各端子部を覆い得る位置まで延びており、かつ各端子部上に、これら各端子部を露出させる開口部24,27を有している。
放電電極22は誘電体層21aの表面に誘電体層21aと一体的に形成されている。また、放電電極22には、高圧電源接続用端子部22aが設けられている。放電電極22の材料としては、例えばタングステンや銀、金、白金、ステンレスのように導電性を有するものを使用することができる。ただし、放電によって溶融や飛散する等の変形を起こさないものであることが条件となる。経時使用による放電電極22の変質・劣化を抑えるために、放電電極22を薄いセラミックやガラス等でコートしてもよい。ただし、均一なコートが得られない場合、コートが薄いあるいは未コート部では過剰な放電が発生し、逆に厚すぎるコート部分では放電が不足してしまい、画像ムラを引き起こす場合があるため、均一なコーティングが必要となる。
放電電極22は誘電体層21aの表面からの深さ(誘電体層21aの表面より誘導電極23側に放電電極22が押し込まれている場合)、あるいは厚み(誘電体層21aの表面より突出して放電電極22を設ける場合)が、均一であるほうが望ましい。また、放電電極22の形状は、中間転写ベルト15の移動方向と直交する方向に均一に伸びた形状であればいずれの形状であってもよい。ただし、誘導電極23との電界集中が起こりやすい形状とするほうが、放電電極22と誘導電極23との間に印加する電圧が低くても、上記両電極間で放電させることができるので、できればそのほうが望ましい。本実施形態では、図1(a)に示すように、放電電極22の形状は櫛歯状となっており、放電を起こしやすい形状となっている。なお、本実施形態では、放電電極22は櫛歯状とするが、図4〜9に示す構成のように、誘電体層21aの長手方向に伸びた長方形の電極となっていてもよい。
誘導電極23は、誘電体層21aと絶縁基材21bとの間に形成され、放電電極22に対向して配置される。これは、放電電極22と誘導電極23との間の絶縁抵抗は均一であることが望ましく、放電電極22と誘導電極23とは並行であることが望ましいからである。このような配置により、放電電極22と誘導電極23との距離(以下、電極間距離と称する)が一定となるので、放電電極22と誘導電極23との間の放電状態が安定し、イオンを好適に発生させることが可能となる。図1に示す構成では、誘導電極23は、2本の線状電極であり、誘電体層21aを挟んで、放電電極22を長手方向に沿って両側から挟むようにして対向配置されている。そして、2本の誘導電極23のそれぞれの一端に接地用端子部23aを有しており、接地用端子部23aは、接地電位(グランド)に接続される。なお、誘導電極23は、上記の形状に限定されることはなく、放電電極22と対向配置したベタ電極であってもよいし、放電電極22の片側に対抗する位置だけに設けられていてもよい。
また、誘導電極23は、誘電体層21aを1層として、誘電体層21aの裏面に設けることも可能であるが、この場合は、誘電体層21aの表面を伝って、放電電極22と誘導電極23とがリークしないよう、印加電圧に対し十分な沿面距離を確保するか、或いは放電電極22や誘導電極23を絶縁性のコート層(保護層)で被覆する必要がある。また誘電体層21aは放電を起こしやすくするために、前述のように薄い厚みとする必要があるので、誘電体層21aとコート層だけでは強度面に問題がある。そこで、本実施形態では、絶縁基材21bとして数100μmないし数mmのセラミック基材を用い、この上に誘導電極23およびヒータ電極25のパターンを形成し、放電電極22が形成された誘電体層21aと圧着・積層した状態で焼成を行い、イオン発生素子1を形成する。このような構成とすることで、強度面の問題も解消され、かつ誘導電極23やヒータ電極25は絶縁基材21bに内包されるため、表面の放電電極22から内部の誘導電極23やヒータ電極25への沿面リークも防止できる。さらにイオン発生素子1の構造は、電極パターンを形成した2層のセラミック基材を重ねて焼成したものであるため、簡易にかつ低コストにイオン発生素子1を製造することができる。
ヒータ電極25は、誘電体層21aと絶縁基材21bとの間に、誘導電極23とは別に設けられており、ライン状となっている。ヒータ電極25のパターンは、これ以外に、ループ状や波線状にしてもよく、また、その幅や厚みを適宜調整して、使用する電極材料の抵抗率に応じて、最適な条件とすればよい。ヒータ電源34のコストを抑えるには、装置本体側で用いる共用電圧(例えば、5、12、24Vなど)で駆動できるようにすると好適である。その際、所望の投入電力得るために抵抗を上げなければならない場合には、極端に線幅を細くすると製造時の断線など懸念があるため、太目の線幅としてループ状に配線して線長を大きく採るといった方法などを適宜採用すればよい。
ヒータ電極25の一端には、接地用端子部25bを有しており、接地用端子部25bは、接地電位(グランド)に接続される。また、他端には、電源接続用端子部25aを有しており、電源接続用端子部25aは、ヒータ電源34に接続される。なお図1(a)では、ヒータ電極の接地用端子部25bが誘導電極の接地用端子部23aの近くに設けられているが、この形状に限定されず、ヒータ電極の電源接続用端子部25aが誘導電極の接地用端子部23aの近くに設けられていてもよい。
そして、ヒータ電源34によりヒータ電極25に所定の電圧(本実施形態では12V)が印加されることで、ヒータ電極25がジュール熱により発熱するよう構成されている。電圧印加方法は、連続的に直流電圧を与えても、レギュレーターなどでマシン内の共用直流電圧を変化させても、トランジスタなどのスイッチング素子でパルス状の電圧にして給電してもよい。上述のヒータ電極25の抵抗と、電圧印加の方法との組み合わせで、立上げ時や定常状態時、経時変化、周囲環境の状態などによって適切な制御を行うことが可能である。このように、ヒータ電極25を発熱させることで、イオン発生素子1が昇温(本実施形態では約60℃)し、イオン発生素子21の吸湿を抑制することができる。よって、高湿環境下でも安定してイオンを発生させることができる。誘電体層21aがセラミックの場合、誘電体層21a自体は吸湿しないものの、誘電体層21aの表面が結露すると、放電特性が低下することから、ヒータの発熱により結露を防止、或いは結露を解消することは有効である。
誘導電極23およびヒータ電極25の材料としては、例えばタングステンや銀、銀パラジウム、金、白金、ステンレスのように導電性を有するものを使用することができる。また各端子部はニッケルを下引き層にした金メッキ(NiAuメッキ)処理などを行ってもよい。
ここで、本実施形態のイオン発生素子1の製造方法について図5を用いて説明するが、本発明の係るイオン発生素子1の製造方法は以下の方法、数値に限定されることはない。まず、図5(a)に示すように、誘電体層21aとして厚さ0.2mmのアルミナとガラスとを主成分とするグリーンシートを用い、その上に放電電極22をスクリーン印刷で所定のパターンに形成する。電極材料として、前述の様々ものを利用できるが、ここでは例えば金(Au)を導電材の主成分とし、セラミックとの密着を担うガラス成分を含む導電ペーストなどを用いる。なお、本実施形態のイオン発生素子1が適用される画像形成装置100では、イオン発生素子1は比較的長い寸法が要求される。そのためセラミック材料としてはアルミナとガラスがほぼ半分ずつ程度の低温焼成セラミック(LTCC)材が好ましい。その理由としては、純アルミナの高温焼成セラミック(HTCC)などでは焼成温度が高く、温度分布を均一に保つ焼成条件を実現するには、非常に高価かつ大型の焼成炉が必要であり、素子のコストアップに繋がるといったことが挙げられる。LTCCの場合は、焼成温度が低いという点で優位であり、比較的長い寸法(大型)のイオン発生素子を低コストに安定して製造できる点で好ましい。
次に図5(b)にように、絶縁基材21bとして、厚さ0.8mmの上記と同様のグリーンシートを用い、その上に誘導電極23およびヒータ電極25を上記と同様の方法で形成する。また図5(a)に示すように,誘電体層21aにて、絶縁基材上の、誘導電極の接地用端子部23aおよびヒータ電極の接地用端子部25b,ヒータ電極の電源接続用端子部25aに対応する箇所に、予め、開口部24、27を設けておく。本実施形態では、誘導電極の接地用端子部23a上、およびヒータ電極の接地用端子部25b上は、同一の開口部24として形成しているが、後述の実施例2のように、端子部毎に別々に開口部を設けてもよい。
次に図5(c)に示すように誘電体層21aと絶縁基材21bとを積層・圧接する。この際、両者の位置合わせと、層間に気泡や異物が混入しないように気をつける。次に積層状態で所定の大きさ(例えば、幅6mm×長さ320mm)に切断し、電気炉中で、900〜1000℃で焼成を行うことで、セラミック材で構成されたイオン発生素子1を得ることができる。
対向電極31は、本実施形態ではステンレス製のシャフト形状となっており、中間転写ベルト15を介してイオン発生素子1と対向する位置に、中間転写ベルト15の裏面側(トナー像が形成されない側)に密着するよう配置される。そして、対向電極電源35を介してグランドに接続されている。対向電極電源35は、対向電極31に所定の電圧を印加する構となっている。このような対向電極電源35は、放電電極22からの放電を生じ易くするために配されるものであり、必ず必要なものではなく、省略することもできる。
高圧電源(電圧印加回路)32は、電圧制御回路33の制御により、イオン発生素子1の放電電極22と誘導電極23との間に電圧を供給する構成となっている。図11に示すような波形で、印加電圧はVpp:2〜4kV、オフセットバイアスは−1〜−2kV、周波数は500〜2kHzのパルス波が用いられる。パルス波のDutyは高圧側時間が10〜50%となるようにしている。なお、波形は正弦波でも構わないが、放電の効率、特に高湿条件での放電性能を考慮すると、パルス波の方が良好である。図11に示した波形のように、立ち上がりおよび立下り時のオーバーシュートは、あえて抑える必要はなく、むしろ積極的に利用することで電源コストを軽減可能となる場合もある。
上記の構成の高圧電源32を動作させ、放電電極22と誘導電極23との間に交流高電圧を印加すると、放電電極22と誘導電極23との間の電位差に基づいて、放電電極22近傍で沿面放電(コロナ放電)が起こる。これにより、放電電極22の周囲の空気をイオン化することでマイナスイオンを発生させ、中間転写ベルト15上のトナー像を所定の帯電量(ここでは約−30μC/g)に帯電させる。
また、高圧電源32は電圧制御回路33に接続されている。電圧制御回路33は、高圧電源の印加電圧の大きさを制御するものである。具体的には、電圧制御回路33は、対向電極電源35を流れる電流の値を計測し、この計測した電流の値が目標値になるように、高圧電源32の印加電圧をフィードバック制御する。対向電極31を流れる電流の大きさは、トナー像の帯電量と相関する。従って、対向電極31を流れる電流を一定の目標値に保つことによって、トナー像の帯電量も一定の値となる。このように、高圧電源32の印加電圧の大きさを、対向電極31を流れる電流の大きさに基づいてフィードバック制御することにより、放電電極22の先端部への異物の付着や、環境条件の変化、また画像形成装置100内における風の流れの変化等によって、イオンの発生量や発生したイオンがトナー像に到達する割合が変動しても、常に最適な量のイオンをトナー像に供給できる。ただし、対向電極電流による制御部分は必ずしも必要でなく、事前に検討で用意した制御テーブルなどを用いて、周囲環境や経時使用度合いや印字モードの情報より、制御を行っても構わない。
以上で説明したように、本実施形態のイオン発生素子1は、誘導電極23およびヒータ電極25が誘電体層21aと絶縁基材21bとで囲まれる構造となっている。よって、放電電極22から誘導電極23もしくはヒータ電極25への沿面リークが起こりにくく、ヒータ電極25への通電により発生するジュール熱によって放電電極近傍の吸着水分を除去して放電性能を安定化させることができる。また、上記構成は、シンプルな構成ゆえ、低コストに素子を提供することができる。
また、イオン発生素子1では、誘導電極23とヒータ電極25とが互いに絶縁されるように離間して設けられている。よって、仮に誘導電極23の接続が浮いた(接地されない)場合であっても、ヒータ電極25を通しての機器全体へのダメージを回避することができる。ヒータ電極25へのリークを防止できるため、ヒータ電源34の破損を招くこともなく、イオン発生素子1を備えたマシン本体の破壊や発火事故も防止することができる。よって、安全面を考慮したイオン発生素子を提供することができる。さらに、イオン発生素子1の構成によると、誘電体層21aは、絶縁基材21bを覆い得る長さを有しているため、イオン発生素子1に何らかの外力が作用した場合でも、素子に割れが発生することを防ぐことができる。
ここで、絶縁基材21bに開口部を設ける場合、素子強度が大幅に低下する懸念がある。この理由を、図6を用いて説明する。誘電体層21aは放電特性の観点からその厚み設定に大きな自由度がなく、かつ放電の低電圧化にも薄化する方が望ましいが、絶縁基材21bは厚み設定の制約が比較的緩いため、素子の強度向上の点である程度の厚みを持たせる場合がある。しかしながら、図6(b−1),(b−2)のように強度維持を担う絶縁基材21bに開口部28を設けてしまうと、素子全体としての強度低下に対する影響が大きくなる。なお、図6(b−1)は、開口部を開けた絶縁基材21bの平面図、(b−2)は、その側面図である。さらに絶縁基材21bに開口部を設ける場合、素子の製法にも大きく影響を与える。つまり、絶縁基材上に誘導電極やヒータ電極の配線パターンを形成後、誘電体層を積層するといった手段を用いることができない。そのため、図6(a−1)に示すように、予め誘電体層21aの一方の面に放電電極22を形成し、他方の面に誘導電極23とヒータ電極25とを形成後、絶縁基材21bに積層する必要がある。なお、図6(a−1)は、各電極を形成した誘電体層21aの平面図、(b−2)は、その側面図である。上記のように形成する場合、誘電体層21aにセラミック基板などを用いると、比較的薄い誘電体層21aの両面に電極パターン(放電電極22,誘導電極23,ヒータ電極25)をスクリーン印刷などで形成しなければならず、印刷パターンの欠陥や表裏の位置あわせズレなどが起こりやすい。絶縁基材21bに開口部を設ける場合、上記のようなリスクが発生する。
しかしながら、本実施形態にイオン発生素子1では、誘電体層21aに開口部24を設けることで、低コストかつ信頼性の高い製法を提供することができる。さらに元々薄い誘電体層に開口部を設けるため、絶縁基材に開口を設ける場合に比べて、素子全体としての強度低下への影響も小さい。
(実施例1)
次に、本発明のイオン発生素子を用いた実施例について説明する。ここでは、比較例のイオン発生素子と本発明に係る実施例のイオン発生素子について、図4および5を用いて説明する。
図4は、比較例のイオン発生素子を示す図である。図4(a−1),(a−2)に示すように,誘電体層21aとして、厚さ0.2mmのセラミックシートを用い、その上に放電電極をスクリーン印刷で所定のパターンに形成する。電極材料として、金を導電材の主成分するペーストを用いた。このように金を用いるのは、長期使用でも劣化が少なく、コート層を設ける必要がなく、シンプルな構成とすることができるからである。次に図4(b−1),(b−2)に示すように、絶縁基材21bとして、厚さ0.8mmの上記と同じセラミックシートを用い、その上に誘導電極23およびヒータ電極25を、同様の方法で形成する。誘導電極23とヒータ電極25とは互いに絶縁されたパターンでとして形成する。また図4(a−1)に示すように誘電体層の両端部は、絶縁基材21b上の誘導電極23およびヒータ電極25の給電接点が露出するように幅方向全域をカットしておく。このようにすることで、複数の給電接点があるにもかかわらず、簡易な構造で、低コストに給電を行うことができる。次に図4(c−1),(c−2)に示すように、誘電体層21aと絶縁基材21bとを積層・圧接し、焼成を行って比較例のイオン発生素子を得た。
ここで、誘導電極23は、幅250μmの直線状で、放電電極22を挟むように2本配列した。またヒータ電極25は、幅100μmで、その抵抗値は約20Ωとした。放電電極は図1(a)に示すような櫛歯状のパターンで,中央の線状部分幅は250μm、突起部分の高さを100μm、幅200μm、突起ピッチは1mmとした。また、誘導電極の接地用端子部23aと、ヒータ電極の接地用端子部25bとは、各々別々に形成されており、接地電位に接続させる。ヒータ電極25の電源接続用端子部25aは、スイッチング素子を介して装置本体の12Vのヒータ電源と接続させる。このように、最もシンプルで低コストな構成となっている。
上記比較例のイオン発生素子においては、誘電体層にセラミック材を使用し、かつ放電電極に金を用いることで、長期に渡って安定な放電特性を示し、かつ内部の誘導電極やヒータ電極へのリーク発生も抑えることが可能であった。さらにヒータ機能も良好に作用し、高湿環境下でも安定した放電性能を得ることができた。また誘導電極の接地状態を接触不良状態としても、ヒータ電極を通じての装置本体への影響を未然に防ぐ作用を確認できた。
しかしながら、上記比較例のイオン発生素子の構成では以下の問題が発生した。誘電体層21aと絶縁基材21bとの長さの異なる部分で、素子の幅方向(短手方向)に亘っての段差が生じる。そのため、素子を装置本体に対して着脱する際や、焼成時に発生するセラミックの反りを抑えて組み込む際に、段差部分に荷重が集中して、素子が割れる場合がある。
そこで、図5に示すような、本実施(実施例1)のイオン発生素子の構成を検討した。図4で示した比較例のイオン発生素子との差は、誘電体層21aの開口部(切り欠き部)の形状である。ここで、図5(a−1)および(a−2)は、放電電極22が形成された誘電体層21aの正面図およびその側面図である。図5(b−1)および(b−2)は、誘導電極23およびヒータ電極25を設けた絶縁基材21bの正面図およびその側面図である。図5(c−1),(c−2),(c−3)は、図5(a−1),(a−2)に示す誘電体層21aと、図5(b−1),(b−2)に示す絶縁基材21bとを積層した、本実施例のイオン発生素子の正面図、短手方向の側面図、長手方向の側面図、である。誘電体層21aは、図5(a−1)に示すように、絶縁基材21bを覆い得る長さを有しており、かつ、誘導電極の接地用端子部23a上、およびヒータ電極の接地用端子部25b,電源接続用端子部25a上に、各端子部23a,25b,25aが露出するよう、開口部24,27が形成されている。本実施例では、誘導電極の接地用端子部23a上、およびヒータ電極の接地用端子部25b上は、同一の開口部24となっている。
このような構成とすることで、図5(c−1)に示すように、上述の素子の幅方向(短手方向)に亘っての段差がなくなり、素子取り扱い時の割れ発生を抑える効果を確認することができた。なお、図5に示す本実施例のイオン発生素子では、開口部24,27の形状を、矩形状にしているが、角部分を円弧状にするとさらに応力集中を防ぐことができ、素子の強度や信頼性向上に対してより好適である。
(実施例2)
次に、本発明に係るイオン発生素子の別の実施例について、図7−9を用いて説明する。
本実施例(実施例2)のイオン発生素子は、図7に示すように、実施例1のイオン発生素子の構成に加え、誘電体層21aの開口部を、誘導電極の接地用端子部23aおよびヒータ電極の接地用端子部25b毎に分離して形成している。つまり、誘導電極の接地用端子部23a上と、ヒータ電極の接地用端子部25b上とに、別々の開口部(開口部24aおよび開口部24b)を形成している。ここで、図7(a−1)および(a−1)は、上記別々の開口部を設け、また放電電極22を設けた誘電体層を示す正面図およびその側面図である。図7(b−1)および(b−2)は、誘導電極23およびヒータ電極25を設けた絶縁基材21bの正面図およびその側面図である。図7(c−1),(c−2),(c−3)は、図7(a−1),(a−2)に示す誘電体層21aと、図7(b−1),(b−2)に示す絶縁基材21bとを積層した、本実施例のイオン発生素子の正面図、短手方向の側面図、長手方向の側面図、である。
また、図8は、図7に示すイオン発生素子の変形例であり、素子の幅を狭くするなどで、素子の幅方向(短手方向)に、2つの端子部を配列できない場合に、端子部を長手方向にずらした場合に対応するものである。また、図8に示すイオン発生素子は、内側の誘導電極の接地用端子部23aおよびヒータ電極の接地用端子部25bに対向する開口部24a’および開口部24b’は、楕円状に形成している。ここで、図8(a−1)および(a−1)は、上記別々の開口部24a,24bを楕円形に設け、また放電電極22を設けた誘電体層21aを示す正面図およびその側面図である。図8(b−1)および(b−2)は、誘導電極23およびヒータ電極25を設けた絶縁基材の正面図およびその側面図である。図8(c−1),(c−2),(c−3)は、図8(a−1),(a−2)に示す誘電体層21aと、図8(b−1),(b−2)に示す絶縁基材21bとを積層した、本実施例の変形例のイオン発生素子の正面図、短手方向の側面図、長手方向の側面図、である。以下、本実施例およびその変形例の構成による作用と効果について説明する。
イオン発生量が多く必要な場合や、強度向上の観点で誘電体層の厚みを大きくする場合、あるいは経時劣化した場合でも放電特性を安定させる場合などに、放電電極22への印加電圧を高くする必要が生じる。また素子の小型化や、製造時の取数増によるコストダウン狙いで、素子幅を狭くした場合、誘導電極23の接地用端子部23aとヒータ電極の接地用端子部25bとの間隔が狭くなってしまう場合が発生する。このようなケースで、誘導電極の接地用端子部25bが接地電位から浮いてしまうと、放電電極電位に引っ張られて、誘導電極電位が上昇し、上昇度合いによっては誘導電極の接地用端子部23aから隣接するヒータ電極の接地用端子部25bへリークしてしまう危険性がある。
ここで、前述の図4で示した比較例のイオン発生素子や図5で示した実施例1のイオン発生素子の構成の場合、図9(b−1),(b−2)に示すように、両電極間は平坦な状態であるため、端子部間に水分などが存在すると、その沿面抵抗が低くなり、沿面リークを起こし易い。
しかし、本実施例およびその変形例のイオン発生素子では、図9(a−1),(a−2)に示すように、誘電体層21aの開口部24a,24b間に誘電体層があり、端子間が誘電体層で絶縁された状態となるため、沿面リークが起こりにくい。よって、本実施例およびその変形例のイオン発生素子により、より安全性を高めた素子を提供できる。さらに、誘電体層21aの開口部24の面積も小さくなり、素子強度が向上する点でもより好適である。
(実施例3)
本発明に係るイオン発生素子のさらに別の実施例について説明する。本実施例のイオン発生素子は、図6または図7で説明した構造のイオン発生素子において、誘導電極およびヒータ電極を全て銀パラジウムで形成した。以下で、銀パラジウムで形成する際の作用および効果について説明する。
まず、誘導電極23およびヒータ電極25を金ペーストで構成するメリットとして、接点部分も金であるため、メッキ等の必要もなく安定した接点を得ることができる。しかしながら、デメリットとて、コストが高い点が挙げられる。また抵抗が非常に低いため、ヒータ電極の抵抗を所定の値、特に高めの値としたい場合、線幅を非常に細くするか、複数回のループパターンにして長さを大きくする必要がある。このようなパターンとした場合、製造過程の不備で断線となるリスクが高まり、歩留まりが低下し、さらにコストアップを招いてしまう。
上記のコストアップを解消するための、銀系のペーストを用いることができる。金に比べ、材料費自身も低コストであり、抵抗値も高めであるため、ヒータ電極の設計幅が広くなり、不良発生を抑えることができて好適である。しかしながら、銀系の材料の場合、イオンマイグレーションによる絶縁不良を考慮する必要がある。イオンマイグレーションとは、高湿環境下で複数の電極間に電界が存在する場合、銀がイオン化して電極間を移動し、析出した銀が電極間を短絡してしまう現象である。また平坦な部位のほうが、イオンマイグレーションが進みやすい。よって、図4で示した比較例のイオン発生素子や図5で示した第1の実施例のイオン発生素子の構成で、ヒータ電極25に銀系の材料用いた場合、高湿環境下で、誘導電極が浮いて、ヒータ電極との間に電界が発生すると、両電極間は平坦な状態であり、図9(b−1),(b−2)に示すように、イオンマイグレーションが進み易い。以上のことから、絶縁基材21bと誘電体層21aとに内包される部分となる誘導電極23およびヒータ電極25は、銀系材料でも使用可能であるが、接点部分は金メッキするといった方策を採る必要がある。この場合、コストアップの要因となる。
一方、図6や7の構成では、図9(a−1),(a−2)に示すように、誘電体層21aの開口部24a,24b間の誘電体層が段差を作り、イオンマイグレーション進展の障壁となり、短絡を防止することができる。よって、本実施例のイオン発生素子は、低コストで、高品質に製造することができる。
さらに銀単独でなく、パラジウムを含むペーストとすることでイオンマイグレーションをさらに抑制できる。パラジウムの配合に関しては、混合粉末でよいが、合金系にするとさらに好適である。パラジウム含有量は3%ないし5%以上が好ましく、コストと抵抗特性に応じて適宜選定すればよい。
本発明は上述した実施形態および各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることは言うまでもない。