はじめに、本実施形態の研磨パッドを図1を参照して説明する。
図1は本実施形態の研磨パッド10の模式断面図であり、図1中、1は平均繊度0.01〜0.8dtexの範囲の極細繊維を含有する極細繊維絡合体であり、2は高分子弾性体であり、3は連通孔である。高分子弾性体2は極細繊維絡合体1に含浸一体化されて研磨パッド10を構成している。
極細繊維絡合体1は、平均繊度が0.01〜0.8dtex、好ましくは、0.05〜0.5dtex、特に好ましくは0.07〜0.1dtexの範囲の極細繊維を含有する。極細繊維の平均繊度が0.01dtex未満の場合には、極細繊維を充分に分繊することが困難になるために毛細管現象による電解液の保持力が低下し、研磨均一性や研磨効率が低下する。一方、極細繊維の平均繊度が0.8dtexを超える場合には、研磨の際に応力が掛かりすぎてスクラッチが発生しやすくなる。
なお、極細繊維は、5〜70本程度、さらには10〜50本程度の極細繊維が集束してなる繊維束として研磨パッド中に存在することが好ましい。本実施形態の研磨パッドが、極細繊維を繊維束の状態で含有する場合には、一束の繊維束が、あたかも一本の繊維のような特性を発現することにより、高い強度や曲げ弾性率を維持することができる一方、実質的な繊度は低いために、応力により容易に分繊するためにスクラッチが発生しにくくなる。さらに、上記繊維束によれば、研磨パッドの単位体積あたりの繊維密度を高くすることができるために、繊維束が形成する隙間による毛細管現象により電解液を充分に保持することができる。繊維束1束当たりにおける、極細繊維の本数が多すぎる場合には、繊維密度が高くなりすぎて電解液の保持力が低下する傾向がある。また、繊維束1束当たりの、極細繊維の本数が少な過ぎる場合には、充分な曲げ弾性率が得られない傾向がある。
極細繊維を形成する繊維の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等から形成される芳香族ポリエステル繊維;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等から形成される脂肪族ポリエステル繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6−12等から形成されるポリアミド繊維;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン繊維;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等から形成される変性ポリビニルアルコール繊維;およびポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマー等から形成されるエラストマー繊維等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
繊維束の平均長さは、特に限定されないが、100mm以上、さらには、200mm以上であることが、極細繊維の繊維密度を充分に高めることができる点、研磨パッドの剛性を充分に高めることができる点、及び繊維の抜けを抑制できる点から好ましい。前記繊維束の長さが短すぎる場合には、極細繊維の高密度化が困難で、また、充分に高い剛性が得られず、さらに、研磨中に極細繊維が抜けやすくなる傾向がある。上限は、特に限定されず、例えば、後述するスパンボンド法により製造された不織布に由来する繊維絡合体を含有する場合には、物理的に切れていない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長が含まれてもよい。
次に、極細繊維絡合体1と含浸一体化される高分子弾性体2について、詳しく説明する。
本実施形態の研磨パッドにおいて用いられる高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−アクリロニトリル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−オレフィン系樹脂、(メタ)アクリル酸系エステル−(水添)イソプレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−水添イソプレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、エチレン−オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、および、ポリエステル系樹脂等からなる弾性体が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等のように、水素結合により結晶化あるいは凝集する高分子弾性体(水素結合性の高分子弾性体)が、極細繊維に対する結着性が高いために、繊維絡合体の形態保持性を向上させ、また、繊維の抜けを抑制する点から好ましい。とくには、ポリウレタン系樹脂が、極細繊維を集束したり、繊維束を拘束したり、繊維束同士を結着したりするための接着性に優れており、また、研磨パッドの硬度を高め、研磨での経時的安定性に優れている点から好ましい。さらには、カルボキシル基、スルホン酸基および炭素数3以下のポリアルキレングリコール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を有するポリウレタン系樹脂が、研磨パッドの剛性、濡れ性、および研磨の際の経時的安定性が高い点から好ましい。このような親水性基は高分子弾性体を製造する際のモノマー成分として、親水性基を有するモノマー成分を共重合することにより、高分子弾性体に導入することができる。このような親水性基を有するモノマー成分の共重合割合としては、0.1〜10質量%、更には、0.5〜5質量%であることが、吸水による膨潤軟化を最小限に抑えつつ、吸水率や濡れ性を適度に高めることができる点から好ましい。
なお、高分子弾性体としては、50℃で飽和吸水させたときの吸水率が0.2〜5質量%、さらには、0.5〜3質量%の高分子弾性体が特に好ましい。高分子弾性体の吸水率がこのような範囲である場合には、電解液の保液性が良好となり、これにより、高い研磨レートや、研磨均一性や研磨安定性を維持することができる。
このような吸水率を有する高分子弾性体は、高分子弾性体を構成する高分子の組成、架橋密度の調整や、親水性の官能基量の選択等により得ることができる。
また、高分子弾性体は、23℃および50℃における貯蔵弾性率が90〜900MPa、さらには200〜800MPaの範囲であることが、研磨パッドの曲げ弾性率を本発明の範囲に調整し易い点で好ましい。23℃および50℃の範囲における高分子弾性体の貯蔵弾性率を90MPa以上とすることにより、研磨中の剛性が充分なものとなり、平坦化性能が向上する傾向がある。また、高分子弾性体が研磨中に電解液によって膨潤し難くなり経時的安定性が向上する傾向がある。23℃および50℃の貯蔵弾性率を900MPa以下とすることにより、高分子弾性体が研磨中に脱落し難くなって、スクラッチが発生し難くなる傾向がある。また、極細繊維の収束力が高くなり、研磨中の経時的な安定性が向上する。
本実施形態の研磨パッドは、図1の模式断面図に示すように、極細繊維絡合体に高分子弾性体が含浸一体化されて複合化された構造を有する。
極細繊維絡合体を構成する極細繊維は、繊維束の状態で存在し、高分子弾性体が繊維束の内部に存在し、該繊維束を構成する極細繊維の一部或いは大部分が高分子弾性体の結着力により拘束されていることが研磨パッドの曲げ弾性率を調整し易い点から好ましい。繊維束が高分子弾性体によって拘束されて繊維束に剛性が付与されることにより、高い曲げ弾性率を有する研磨パッドが得られうる。また、繊維の抜けを防ぐことにより、抜けた繊維に砥粒が凝集することを防止することができる。それによりスクラッチの発生を抑制することができる。ここで、極細繊維が高分子弾性体によって拘束されているとは、繊維束内部に存在する極細繊維の大部分が、繊維束内部に存在する高分子弾性体により接着され結束されている状態を意味する。
また、複数の繊維束同士は、繊維束の外側に存在する高分子弾性体により結着されて、塊(バルク)状に存在していることが曲げ弾性率が高い研磨パッドが得られやすい点から好ましい。このように繊維束同士が結着されることにより、研磨パッドの形態安定性が向上して、研磨安定性が向上する。
極細繊維の集束・拘束状態および繊維束同士の結着状態は研磨パッドの断面の電子顕微鏡写真により容易に確認することができる。
高分子弾性体は非多孔質状であることが好ましい。なお、非多孔質状とは、多孔質状、または、スポンジ状(以下、単に、多孔質状とも言う)の高分子弾性体が有するような空隙(独立気泡)を実質的に有さない状態を意味する。具体的には、例えば、溶剤系ポリウレタンを凝固させて得られるような、微細な気泡を多数有する高分子弾性体ではないことを意味する。非多孔質状の高分子弾性体を用いることにより、極細繊維の拘束力が高まるとともに、高い曲げ弾性率を有する研磨パッドが得られやすい。さらに、極細繊維に対する接着強度が高くなるために、繊維の抜けに起因するスクラッチの発生を抑制することができる。さらに、より高い剛性が得られるために、平坦化性能に優れた研磨パッドが得られる。なお、気泡を多数有する高分子弾性体を用いた場合には、研磨安定性が低くなり、また、研磨の際に、気泡に金属研磨屑やパッド屑が堆積しやすくなって、研磨パッドが摩耗しやすくなることにより、高い研磨レートを長時間維持しにくくなる傾向がある。
本実施形態の研磨パッドは、曲げ弾性率が150〜650MPaの範囲であり、空隙率は25〜65体積%の範囲であり、連通孔を有する。
研磨パッドの曲げ弾性率は150〜650MPaの範囲、好ましくは250〜600の範囲である。曲げ弾性率が150MPa未満の場合には、研磨の進行に伴い、研磨パッドの剛性が著しく低下する。その結果、研磨レートや、平坦化性能が低下する。また、曲げ弾性率が650MPaを超える場合には、剛性が高すぎることにより被研磨面にスクラッチが発生やすくなり、また、被研磨物への追従性が悪くなって研磨斑が生じやすくなり、さらに、必然的に空隙率が低くなるために通電パスとなる連通孔が充分に確保できなくなり、それにより研磨レートが低下する。
また、本実施形態の研磨パッドの空隙率は25〜65体積%であり、好ましくは40〜60体積%である。研磨パッドの空隙率が25体積%未満の場合には、電解液の保持が不充分になることにより、研磨効率や研磨均一性が低下する。また、研磨パッドの空隙率が65体積%を超える場合には、平坦化性能が低下し、また、研磨効率が低下する。
本実施形態に用いられる研磨パッドは連通孔を有する。連通孔は電解液を充分に保持する作用をする。連通孔を有しない場合には、電解液を充分に保持できず、そのために、研磨均一性や研磨効率が低下する。ここで、連通孔とは、研磨パッドの表面から裏面へ連通している孔を意味する。このような連通孔の存在は、研磨パッドの表面に滴下した水が、研磨パッドの連通孔を通じて、研磨パッドの裏面に表出することにより確認できる。なお、独立気泡構造しか有さない研磨パッドの場合には、表面に存在する独立気泡のみにより電解液が保持されることになるために、電解液の保液量が少なくなる。
なお、本実施形態の研磨パッドは、空隙率が25〜65体積%の範囲であり、連通孔を有することにより、優れた吸水性を示す。吸水率としては、例えば、JIS L1907−1994に準拠したバイレック法吸水高さ試験において、60分後の水の吸水高さ(以下、単に吸水高さとも呼ぶ)が10mm以上、さらには20mm以上であることが好ましい。高い吸水性を有する研磨パッドによれば、電解液を充分に保持することができる。また、研磨パッドの研磨面の全面に渡って均一に電解液を保持させることができる。これにより、高い研磨レートや優れた研磨均一性及び研磨安定性が得られる。また、慣らし研磨を短くすることもできる。その上限は特に限定されないが、電解液の使用量の無駄を少なくする点からは500mm以下であることが好ましい。但し、定盤に貼り付けたパッドの縁に堰を設ければその限りではない。
また、吸水高さは研磨パッド中の極細繊維の繊維密度や高分子弾性体の種類にも影響される。吸水高さをより高めるためには、極細繊維を高密度に含有し、且つ、高分子弾性体がカルボキシル基、スルホン酸基および炭素数3以下のポリアルキレングリコール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を含有することがより好ましい。
本実施形態の研磨パッドの見掛け密度は、0.4〜0.9g/cm3、さらには、0.5〜0.8g/cm3の範囲であることが電解液保持性と剛性とのバランスに優れている点から好ましい。見掛け密度が高すぎる場合には吸水高さが充分に高くならない傾向がある。
研磨パッド中の極細繊維絡合体と高分子弾性体の合計量に対する、極細繊維絡合体の含有割合としては、55〜95質量%、さらには60〜90質量%であることが、150〜800MPaの範囲の曲げ弾性率、及び、空隙率20〜65体積%の範囲の研磨パッドが得られやすい点から好ましい。極細繊維絡合体の含有割合が低すぎる場合には、研磨中の経時的安定性が低下したり、研磨効率が低下したりする傾向がある。また、極細繊維絡合体の含有割合が高すぎる場合には、繊維束の内部における高分子弾性体の拘束力が低下して、平坦化性能及び研磨パッドの耐磨耗性が低下することによる経時的安定性が低下しやすくなる傾向がある。
また、本実施形態の研磨パッドは、50℃の温水で飽和膨潤させたときの吸水率が20〜100質量%、さらには30〜80質量%であることが好ましい。前記吸水率が低すぎる場合には、電解液を保持しにくくなり、平坦化性能が低下する傾向がある。
本実施形態の研磨パッドは、バフィング等によるパッド平坦化処理や、ダイヤモンド等のパッドドレッシングを用いた研磨前のコンディショニング処理や、研磨時にコンディショニング処理を施すことにより、表面近傍に存在する繊維束を分繊、又はフィブリル化させることにより研磨パッドの表面に極細繊維を形成させることができる。研磨パッドの表面の極細繊維の繊維密度としては、600本/mm2以上、さらには、1000本/mm2以上、特には、2000本/mm2以上であることが好ましい。前記繊維密度が低すぎる場合には、電解液の保持性が不充分になる傾向がある。前記繊維密度の上限は特に限定されないが、生産性の点から、1000000本/mm2程度である。また、研磨パッド表面の極細繊維は立毛されていても、立毛されていなくても良い。極細繊維が立毛されている場合には、研磨パッドの表面がよりソフトになるためにスクラッチの低減効果がより高くなる。一方、極細繊維の立毛の程度が低い場合には、ミクロ平坦性を重視する用途に有利となる。このように用途に応じて表面状態を適宜選択することが好ましい。
次に、本実施形態の研磨パッドの製造方法の一例について詳しく説明する。
本実施形態の研磨パッドは、例えば、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸して得られる海島型複合繊維からなる長繊維ウェブを製造するウェブ製造工程と、長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程と、ウェブ絡合シートを湿熱収縮させる湿熱収縮処理工程と、ウェブ絡合シート中の水溶性熱可塑性樹脂を熱水中で溶解することにより、極細繊維からなる繊維絡合体を形成する繊維絡合体形成工程と、繊維絡合体に高分子弾性体の水性液を含浸および乾燥凝固させる高分子弾性体充填工程、とを備えるような研磨パッドの製造方法により得られうる。
前記製造方法においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させる工程を経ることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができ、そのために、極細繊維の繊維密度が緻密になる。そして、ウェブ絡合シートの水溶性熱可塑性樹脂を溶解抽出することにより、繊維束からなる繊維絡合体が形成される。このとき、水溶性熱可塑性樹脂が溶解抽出された部分に空隙が形成される。そして、この空隙に高分子弾性体の水性液を含浸および乾燥凝固させることにより、繊維束を構成する極細繊維が集束されるとともに、繊維束同士も集束される。このようにして、繊維密度が高く、極細繊維が収束された剛性の高い研磨パッドが得られる。
以下に各工程について、詳しく説明する。
(1)ウェブ製造工程
本工程においては、はじめに、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸して得られる海島型複合繊維からなる長繊維ウェブを製造する。
海島型複合繊維は、水溶性熱可塑性樹脂と、水溶性熱可塑性樹脂と相溶性が低い非水溶性熱可塑性樹脂とをそれぞれ溶融紡糸した後、複合化させることにより得られる。そして、このような海島型複合繊維から水溶性熱可塑性樹脂を溶解除去または分解除去することにより、極細繊維が形成される。海島型複合繊維の太さは、工業性の観点から、0.5〜3dtexであることが好ましい。
なお、本実施形態においては、極細繊維を形成するための複合繊維として海島型複合繊維について詳しく説明するが、海島型繊維の代わりに多層積層型断面繊維等の公知の極細繊維発生型繊維を用いてもよい。
水溶性熱可塑性樹脂としては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等により、溶解除去または分解除去できる熱可塑性樹脂であって、溶融紡糸が可能な樹脂が好ましく用いられる。このような、水溶性熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂);ポリエチレングリコール及び/又はスルホン酸アルカリ金属塩を共重合成分として含有する変性ポリエステル;ポリエチレンオキシド等が挙げられる。これらの中では、特に、PVA系樹脂が以下の理由により、好ましく用いられる。
PVA系樹脂を水溶性熱可塑性樹脂成分とする海島型複合繊維を用いた場合、PVA系樹脂を溶解することにより形成される極細繊維が大きく捲縮する。このことにより繊維密度が高い繊維絡合体が得られる。また、PVA系樹脂を水溶性熱可塑性樹脂成分とする海島型複合繊維を用いた場合、PVA系樹脂を溶解させるときに、形成される極細繊維や高分子弾性体は実質的に分解または溶解されないので、極細繊維や高分子弾性体の物性低下が起こりにくい。さらに、環境負荷も小さい。また、微量残存しても、研磨性能への悪影響は小さく、逆に、研磨パッドの濡れ性を高める傾向となることから、研磨パッドに残留するPVA系樹脂量としては、研磨パッド全量に対して0.01〜0.2質量%程度、好ましくは、0.02〜0.1質量%程度である。
PVA系樹脂は、ビニルエステル単位を主体とする共重合体をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル単量体の具体例としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、酢酸ビニルが工業性の点から好ましい。
PVA系樹脂は、ビニルエステル単位のみからなるホモPVAであっても、ビニルエステル単位以外の共重合単量体単位を構成単位として含有する変性PVAであってもよい。溶融紡糸性、水溶性、繊維物性を制御できる点から、変性PVAがより好ましい。ビニルエステル単位以外の共重合単量体単位の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどの炭素数4以下のα−オレフィン類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類等が挙げられる。ビニルエステル単位以外の共重合単量体単位の含有割合としては、1〜20モル%、さらには、4〜15モル%とくには、6〜13モル%の範囲であることが好ましい。これらの中ではエチレン単位を4〜15モル%、さらには、6〜13モル%含有するエチレン変性PVAが海島型複合繊維の物性が高くなる点から好ましい。
PVA系樹脂の粘度平均重合度は、200〜500、さらには、230〜470、とくには、250〜450の範囲であることが、安定な海島構造が形成される点、溶融紡糸性に優れた溶融粘度を示す点および溶解時の溶解速度が速い点から好ましい。なお、前記重合度は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVA樹脂を再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
粘度平均重合度P=([η]×103/8.29)(1/0.62)
PVA系樹脂のケン化度としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%、とくには、94〜99.97モル%、殊には、96〜99.96モル%の範囲であることが好ましい。前記ケン化度がこのような範囲である場合には、水溶性に優れ、熱安定性が良好で、溶融紡糸性に優れ、また、生分解性にも優れたPVA系樹脂が得られる。
前記PVA系樹脂の融点としては、160〜250℃、さらには170〜227℃、特には175〜224℃、殊には180〜220℃の範囲であることが、機械的特性および熱安定性に優れる点ならびに溶融紡糸性に優れる点から好ましい。なお、前記PVA系樹脂の融点が高すぎる場合には、融点と分解温度が近づくために、溶融紡糸の際に分解を生じることにより、溶融紡糸性が低下する傾向がある。
また、前記PVA系樹脂の融点が、前記非水溶性熱可塑性樹脂の融点に比べて低すぎる場合には、溶融紡糸性が低下する点から好ましくない。このような観点から、PVA系樹脂の融点は、前記非水溶性熱可塑性樹脂の融点に比べて60℃以上、さらには、30℃以上低すぎないことが好ましい。
非水溶性熱可塑性樹脂としては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等により、溶解除去または分解除去されない熱可塑性樹脂であって、溶融紡糸が可能な樹脂が好ましく用いられる。
非水溶性熱可塑性樹脂の具体例としては、上述した、研磨パッドを構成する極細繊維を形成するために用いられる、各種熱可塑性樹脂が用いられうる。
非水溶性熱可塑性樹脂は各種添加剤を含有してもよい。添加材の具体例としては、例えば、触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、滑剤、防汚剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤、光沢改良剤、制電剤、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤、無機微粒子、導電剤等が挙げられる。
次に、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸して海島型複合繊維を形成し、得られた海島型複合繊維から長繊維ウェブを形成する方法について、詳しく説明する。
長繊維ウェブは、例えば、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸することにより複合化した後、スパンボンド法により、延伸後、堆積させることにより得られる。このように、スパンボンド法によりウェブを形成することにより、繊維の抜けが少なく、繊維密度が高く、形態安定性が良好な海島型複合繊維からなる長繊維ウェブが得られる。なお、長繊維とは、短繊維を製造するときのような切断工程を経ずに製造された繊維である。
海島型複合繊維の製造においては、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とがそれぞれ溶融紡糸され、複合化される。水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂との質量比としては、5/95〜50/50、さらには、10/90〜40/60の範囲であることが好ましい。水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂との質量比がこのような範囲である場合には、高密度の繊維絡合体が得られ、また、極細繊維の形成性にも優れる。
水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸により複合化した後、スパンボンド法により、長繊維ウェブを形成する方法について、以下に詳しく説明する。
はじめに、水溶性熱可塑性樹脂および非水溶性熱可塑性樹脂をそれぞれ別々の押出機により溶融混練し、それぞれ異なる紡糸口金から溶融樹脂のストランドを同時に吐出させる。そして、吐出されたストランドを複合ノズルで複合させた後、紡糸ヘッドのノズル孔から吐出させることにより海島型複合繊維を形成する。溶融複合紡糸においては、海島型複合繊維における島数は4〜4000島/繊維、さらには10〜1000島/繊維にすることが、単繊維繊度が小さく、繊維密度の高い繊維束が得られる点から好ましい。
海島型複合繊維は冷却装置で冷却された後、エアジェット・ノズルなどの吸引装置を用いて目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引き取り速度に相当する速度の高速気流により延伸される。その後、延伸された複合繊維を移動式の捕集面の上に堆積することにより長繊維ウェブが形成される。なお、このとき、必要に応じて堆積された長繊維ウェブを、部分的に圧着してもよい。繊維ウェブの目付量は、20〜500g/m2の範囲であることが均一な繊維絡合体が得られ、また、工業性の点から好ましい。
(2)ウェブ絡合工程
次に、得られた長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程について説明する。
ウェブ絡合シートは、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いて長繊維ウェブに絡合処理を行うことにより形成される。以下に、代表例として、ニードルパンチによる絡合処理について詳しく説明する。
はじめに、長繊維ウェブに針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与する。なお、目付ムラを低減させるために、2枚以上の繊維ウェブを、クロスラッパーにより重ね合わせ、油剤を付与してもよい。
その後、例えば、ニードルパンチにより三次元的に繊維を絡合させる絡合処理を行う。ニードルパンチ処理を行うことにより、繊維密度が高く、繊維の抜けを起こしにくいウェブ絡合シートが得られる。なお、ウェブ絡合シートの目付量は、目的とする研磨パッドの厚さ等に応じて適宜選択されるが、具体的には、例えば、100〜1500g/m2の範囲であることが取扱い性に優れる点から好ましい。
油剤の種類や量およびニードルパンチにおけるニードル形状、ニードル深度、パンチ数などのニードル条件は、ウェブ絡合シートの層間剥離力が高くなるような条件が適宜選択される。バーブ数は針折れが生じない範囲で多いほうが好ましく、具体的には、例えば、1〜9バーブの中から選ばれる。ニードル深度は重ね合わせたウェブ表面までバーブが貫通するような条件、かつ、ウェブ表面にニードルパンチ後の模様が強く出ない範囲で設定することが好ましい。また、ニードルパンチ数はニードル形状、油剤の種類と使用量等により調整されるが、具体的には、500〜5000パンチ/cm2が好ましい。また、絡合処理後の目付量が、絡合処理前の目付量の質量比で1.2倍以上、さらには、1.5倍以上となるように絡合処理することが、繊維密度が高い繊維絡合体が得られ、また、繊維の抜けを低減できる点から好ましい。上限は特に限定されないが、処理速度の低下による製造コストの増大を避ける点で4倍以下であることが好ましい。
ウェブ絡合シートの層間剥離力は、2kg/2.5cm以上、さらには、4kg/2.5cm以上であることが、形態保持性が良好で、且つ、繊維の抜けが少なく、繊維密度が高い繊維絡合体が得られる点から好ましい。なお、層間剥離力は、三次元絡合の度合いの目安になる。層間剥離力が小さすぎる場合には、繊維絡合体の繊維密度が充分に高くない。また、絡合不織布の層間剥離力の上限は特に限定されないが、絡合処理効率の点から30kg/2.5cm以下であることが好ましい。
また、研磨パッドの硬さを調節する目的で、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記のようにして得られた不織布であるウェブ絡合シートに、さらに極細繊維からなる編物または織物(編織物)を重ねて、ニードルパンチング処理および/または高圧水流処理により絡合処理を行うことにより、編織物が絡合一体化された絡合不織布、例えば、編織物/絡合不織布、絡合不織布/編織物/絡合不織布などの積層構造体をウェブ絡合シートとして用いてもよい。
編織物を構成する極細繊維は、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステルエラストマー等から形成されるポリエステル系繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー等から形成されるポリアミド系繊維;ウレタン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー等からなる繊維が好ましく用いられる。これらの中では、PET、PBT、ポリアミド6、ポリアミド66等から形成される繊維が、工業性の点から好ましい。
また、編織物を形成するための海島型複合繊維の除去成分の具体例としては、例えば、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、PVA系樹脂、共重合ポリエステル、共重合ポリアミド等が挙げられる。これらの中では、溶解除去する際に大きな収縮を生じる点からPVA系樹脂が好ましく用いられる。
(3)湿熱収縮処理工程
次に、ウェブ絡合シートを湿熱収縮させることにより、ウェブ絡合シートの繊維密度および絡合度合を高めるための湿熱収縮処理工程について説明する。なお、本工程においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができ、そのために、極細繊維の繊維密度が特に高くなる。
湿熱収縮処理は、スチーム加熱により行うことが好ましい。スチーム加熱条件としては、雰囲気温度が60〜130℃の範囲で、相対湿度40%以上、さらには相対湿度50%以上で、60〜600秒間加熱処理することが好ましい。このような加熱条件の場合には、ウェブ絡合シートを高収縮率で収縮させることができるので好ましい。なお、相対湿度が低すぎる場合には、繊維に接触した水分が速やかに乾燥することにより、収縮が不充分になる傾向がある。
湿熱収縮処理は、ウェブ絡合シートを面積収縮率が35%以上、さらには、40%以上になるように収縮させることが好ましい。このように高い収縮率で収縮させることにより、高い繊維密度が得られ、曲げ弾性率や空隙率を所望の範囲としやすくなる。面積収縮率の上限は特に限定されないが、収縮の限度や処理効率の点から80%以下程度であることが好ましい。
なお、面積収縮率(%)は、下記式(1):
(収縮処理前のシート面の面積−収縮処理後のシート面の面積)/収縮処理前のシート面の面積×100・・・(1)、により計算される。面積は、シートの表面の面積と裏面の面積の平均面積を意味する。
このように湿熱収縮処理されたウェブ絡合シートは、海島型複合繊維の熱変形温度以上の温度で加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度が高められてもよい。
また、湿熱収縮処理前後におけるウェブ絡合シートの目付量の変化としては、収縮処理後の目付量が、収縮処理前の目付量に比べて、1.2倍(質量比)以上、さらには、1.5倍以上で、4倍以下、さらには3倍以下であることが好ましい。
(4)繊維束結着工程
ウェブ絡合シートの極細繊維化処理を行う前に、ウェブ絡合シートの形態安定性を高める目的や、得られる研磨パッドの空隙率を低減させることを目的として、必要に応じて、収縮処理されたウェブ絡合シートに高分子弾性体の水性液を含浸および乾燥凝固させることにより、予め、繊維束を結着させておいてもよい。
本工程においては、収縮処理されたウェブ絡合シートに高分子弾性体の水性液を含浸させ、乾燥凝固させることにより、ウェブ絡合シートに高分子弾性体を充填する。水性液の状態で高分子弾性体を含浸させ、乾燥凝固させることにより、高分子弾性体を形成することができる。高分子弾性体の水性液は、高濃度で粘度が低く、含浸浸透性にも優れているために、高充填しやすい。また、繊維に対する接着性にも優れている。従って、本工程により充填された高分子弾性体は、長繊維の海島型複合繊維を強固に拘束する。なお、高分子弾性体の水性液とは、高分子弾性体を形成する成分を水系媒体に溶解した水性溶液、又は、高分子弾性体を形成する成分を水系媒体に分散させた水性分散液である。なお、水性分散液には、懸濁分散液及び乳化分散液が含まれる。特に、耐水性に優れている点から、水性分散液を用いることがより好ましい。
高分子弾性体の水性液としては、電解液または砥粒を含有する電解液の濡れ性に優れる点から、水性ポリウレタン系樹脂が好ましい。
ポリウレタン系樹脂を水性溶液または水性分散液にする方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基などの親水性基を有するモノマー単位を含有させることにより、水性媒体に対する分散性をポリウレタン樹脂に付与する方法、または、ポリウレタン樹脂に界面活性剤を添加して、乳化又は懸濁させる方法が挙げられる。また、このような水性の高分子弾性体は水に対する濡れ性に優れていることにより、電解液を均一且つ多量に保持する特性に優れている。
ポリウレタン系樹脂としては、平均分子量200〜6000の高分子ポリオールと有機ポリイソシアネ−トと、鎖伸長剤とを、所定のモル比で反応させることにより得られる各種のポリウレタン系樹脂が挙げられる。
高分子ポリオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオールおよびその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール、イソフタル酸共重合ポリオール、テレフタル酸共重合ポリオール、シクロヘキサノール共重合ポリオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオールおよびその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ(メチル−1.8−オクタメチレンカーボネート)ジオール、ポリノナンメチレンカーボネートジオール、ポリシクロヘキサンカーボネートなどのポリカーボネート系ポリオールおよびその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオール等が挙げられる。また、必要に応じて、トリメチロールプロパン等の3官能アルコールやペンタエリスリトール等の4官能アルコールなどの多官能アルコール、又は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の短鎖アルコールを併用してもよい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート等の無黄変型ジイソシアネート;2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートポリウレタン等の芳香族ジイソシアネート、等が挙げられる。また、必要に応じて、3官能イソシアネートや4官能イソシアネートなどの多官能イソシアネートを併用してもよい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが、繊維に対する接着性が高く、また、硬度が高い研磨パッドが得られる点から好ましい。
前記鎖伸長剤の具体例としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;トリエチレンテトラミンなどのテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパンなどのトリオール類;ペンタエリスリトールなどのペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2種以上組み合わせて用いることが、繊維への接着性が高く、また、硬度が高い研磨パッドが得られる点から好ましい。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
また、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸などのカルボキシル基含有ジオール等を併用して、ポリウレタン系弾性体の骨格にカルボキシル基などのイオン性基を導入することにより、水に対する濡れ性をさらに向上させることができる。
また、ポリウレタン系弾性体の吸水率や貯蔵弾性率を制御するために、ポリウレタンを形成するモノマー単位が有する官能基と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する架橋剤や、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物等の自己架橋性の化合物を添加することのより、架橋構造を形成することが好ましい。
前記モノマー単位が有する官能基と架橋剤の官能基との組み合わせとしては、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とシクロカーボネート基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボニル基とヒドラジン誘導体又はヒドラジド誘導体などが挙げられる。これらの中では、カルボキシル基を有するモノマー単位とオキサゾリン基、カルボジイミド基またはエポキシ基を有する架橋剤との組み合わせ、水酸基またはアミノ基を有するモノマー単位とブロックイソシアネート基を有する架橋剤との組み合わせ、およびカルボニル基を有するモノマー単位とヒドラジン誘導体またはヒドラジド誘導体との組み合わせが、架橋形成が容易であり、得られる研磨パッドの剛性や耐磨耗性が優れる点から、特に好ましい。なお、架橋構造は、繊維絡合体にポリウレタン樹脂を付与した後の熱処理工程において形成することが、高分子弾性体の水性液の安定性を維持する点から好ましい。これらの中でも、架橋性能や水性液のポットライフ性が優れ、また安全面でも問題のないカルボジイミド基および/またはオキサゾリン基が特に好ましい。カルボジイミド基を有する架橋剤としては、例えば日清紡績株式会社製「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−02」、「カルボジライトV−02」などの水分散カルボジイミド系化合物を挙げることができる。また、オキサゾリン基を有する架橋剤としては、例えば日本触媒株式会社製「エポクロスK−2010E」、「エポクロスK−2020E」、「エポクロスWS−500」などの水分散オキサゾリン系化合物を挙げることができる。架橋剤の配合量としては、ポリウレタン樹脂に対して、架橋剤の有効成分が1〜20質量%であることが好ましく、1.5〜1質量%であることがより好ましく、2〜10質量%であることがさらに好ましい。
ポリウレタン系樹脂中の高分子ポリオールの成分の含有率としては、65質量%以下、さらには、60質量%以下であり、40質量%以上、さらには、45質量%以上であることが適度な弾性を付与することによりスクラッチの発生を抑制することができる点から好ましい。
また、ポリウレタン系樹脂は、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
ウェブ絡合シートに高分子弾性体の水性液を含浸させる方法としては、例えば、ナイフコーター、バーコーター、又はロールコーターを用いる方法、または、ディッピングする方法等が挙げられる。
そして、高分子弾性体の水性液が含浸されたウェブ絡合シートを乾燥することにより、高分子弾性体を凝固させることができる。乾燥方法としては、50〜200℃の乾燥装置中で熱処理する方法や、赤外線加熱の後に乾燥機中で熱処理する方法等が挙げられる。
なお、ウェブ絡合シートに高分子弾性体の水性液を含浸させた後、乾燥する場合、水性液がウェブ絡合シートの表層に移行(マイグレーション)することにより、均一な充填状態が得られないことがある。このような場合には、水性液の高分子弾性体の粒径を調整すること;高分子弾性体のイオン性基の種類や量を調整すること、あるいは、pH等によってその安定性を調整すること;1価または2価のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、ノニオン系乳化剤、会合型水溶性増粘剤、水溶性シリコーン系化合物などの会合型感熱ゲル化剤、水溶性ポリウレタン系化合物、または熱によってpHを変化させる有機物や無機物などを併用すること等により、40〜100℃程度における水分散安定性を低下させること;等によりマイグレーションを抑制することができる。なお、必要に応じて、高分子弾性体が表面に偏在するようにマイグレーションさせてもよい。
(5)極細繊維形成工程
次に、水溶性熱可塑性樹脂を熱水中で溶解することにより、極細繊維を形成する工程である、極細繊維形成工程について説明する。
本工程は、水溶性熱可塑性樹脂を除去することにより極細繊維を形成する工程である。このとき、前記ウェブ絡合シートの水溶性熱可塑性樹脂が溶解抽出された部分に空隙が形成される。そして、この空隙に、後の高分子弾性体充填工程において、高分子弾性体を充填することにより、極細繊維が拘束される。
極細繊維化処理は、ウェブ絡合シート又は、ウェブ絡合シートと高分子弾性体との複合体を、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等で熱水加熱処理することにより、水溶性熱可塑性樹脂を溶解除去、または、分解除去する処理である。
熱水加熱処理条件の具体例としては、例えば、第1段階として、65〜90℃の熱水中に5〜300秒間浸漬した後、さらに、第2段階として、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することが好ましい。また、溶解効率を高めるために、必要に応じて、ロールでのニップ処理、高圧水流処理、超音波処理、シャワー処理、攪拌処理、揉み処理等を行ってもよい。
本工程においては、海島型複合繊維から水溶性熱可塑性樹脂を溶解して極細繊維を形成する際に、極細繊維が大きく捲縮される。この捲縮により繊維密度が緻密になるために、高密度の繊維絡合体が得ら易く、曲げ弾性率を150〜650MPaの範囲にし易い。
(6)高分子弾性体充填工程
次に、極細繊維から形成される繊維束内部に高分子弾性体を充填することにより、前記極細繊維を拘束するとともに、繊維束を拘束し、かつ繊維束同士を結着する工程について説明する。
極細繊維形成工程(5)において、海島型複合繊維に極細繊維化処理を施すことにより、水溶性熱可塑性樹脂が除去されて繊維束の内部に空隙が形成される。本工程においては、このような空隙に高分子弾性体を充填することにより、極細繊維を集束するとともに、繊維束を拘束し、かつ繊維束同士を結着することで、研磨パッドの空隙率を低下させ、所望の曲げ弾性率とし易い。なお、極細繊維が繊維束を形成している場合には、毛細管現象により高分子弾性体の水性液が含浸されやすいので極細繊維はより集束されて拘束されやすい。
本工程に用いられる高分子弾性体の水性液は、繊維束結着工程(4)で説明した高分子弾性体の水性液と同様のものが用いられうる。
本工程において極細繊維から形成される繊維束内部に高分子弾性体を充填する方法は、繊維束結着工程(4)で用いられる方法と同様の方法が適用できる。このようにして、研磨パッドが形成される。
(7)研磨パッドの後加工
得られた研磨パッドは、必要に応じて、成形処理、平坦化処理、起毛処理、積層処理、表面処理、洗浄処理等の後加工処理が施されてもよい。
前記成形処理、および平坦化処理は、得られた研磨パッドを研削により所定の厚みに熱プレス成形したり、所定の外形に切断したりする加工である。研磨パッドとしては、厚み0.5〜3mm程度に研削加工されたものであることが好ましい。
前記起毛処理とは、サンドペーパー、針布、ダイヤモンド等により研磨パッド表面に機械的な摩擦力や研磨力を与えて、集束された極細繊維を分繊する処理である。このような起毛処理により、研磨パッド表層部に存在する繊維束がフィブリル化され、表面に多数の極細繊維が形成される。
前記積層処理とは、得られた研磨パッドを基材に張り合わせて積層化することにより剛性を調整する処理である。例えば、研磨パッドを硬度の低い弾性体シートと積層することにより、被研磨面のグローバル平坦性(非研磨基材全体の平坦性)をさらに向上させることができる。なお、積層の際の接着は、溶融接着でも、接着剤や粘着剤を介した接着であってもよい。前記基材の具体例としては、例えば、ポリウレタン等からなる弾性スポンジ体;ポリウレタンを含浸した不織布(例えば、ニッタ・ハース(株)製の商品名Suba400);天然ゴム、ニトリルゴム、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴムなどのゴムやポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーからなる弾性樹脂フィルム;発泡プラスチック;編物、織物等のシート状基材が挙げられる。
また、前記表面処理は、電解液または砥粒を含有する電解液の保持性や排出性を調整するために研磨パッド表面に、格子状、同心円状、渦巻き状等の溝や孔を形成する処理である。
前記洗浄処理は、得られた研磨パッドに付着しているパーティクルや金属イオン等の不純物を、冷水或いは温水で洗浄したり、或いは、界面活性剤等の洗浄作用を有する添加剤を含んだ水溶液或いは溶剤で洗浄処理したりする加工である。
次に、本発明に係る電解CMP法の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に用いられる研磨装置100の一例を説明するための模式図である。図2中、10は研磨パッド、12は定盤、13は研磨ヘッド、14は電圧印加手段、15は電解液供給管である。定盤12は、駆動手段M1により自転する。研磨パッド10は、定盤12の上面に、導電性の両面テープ16により貼着されている。研磨ヘッド13は、研磨加工されるウエハWを保持しており、駆動手段M2によって回転されながら、ウエハWの表面を研磨パッド10に押圧する。ウエハWの表面には、金属配線膜Lが形成されている。金属配線膜Lは、ウエハWの側面まで伸びており、その側面で導電性の両面テープ17と導通されている。
そして、電圧印加手段14により、ウエハWの金属配線膜Lには両面テープ17を介してプラスの電位が印加され、研磨パッド10には定盤12から両面テープ16を介してマイナス電位が印加される。
また、電解液供給管15は、研磨パッド10の上面に電解液18を供給する。なお、電解液18には、必要に応じて砥粒が分散されていてもよい。
電解液の具体例としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、過水素酸、蟻酸、酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、スルホン酸、スルファミン酸、または、それらの電解質塩等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。電解質の濃度は特に限定されないが、電解研磨効率に優れている点から、0.1N以上、さらには1N以上であり、経時的な電解液の安定性の点から10N以下であることが好ましい。
また、砥粒としては、シリカ、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、ダイヤモンド等の研磨剤が用いられ電解液を含む分散媒中に分散される。
なお、電解液には、必要に応じて、塩基、酸、界面活性剤などの成分をさらに配合してもよい。さらに、ディッシングの抑制を目的として、金属と錯体を形成することができるベンゾトリアゾール等の添加剤を添加することが好ましい。また、CMPを行うに際しては、必要に応じ、電解液と共に、潤滑油、冷却剤などを供給してもよい。
次に、このように構成された研磨装置100の作用について説明する。先ず、ウエハWを導電性の両面テープ17を介して研磨ヘッド13に保持させる。この際、ウエハWは、研磨加工される金属配線膜Lの反対面で両面テープ17により張り合わされる。そして、電圧印加手段14により、ウエハWの金属配線膜Lには両面テープ17を介してプラスの電位が印加され、研磨パッド10には定盤12から両面テープ16を介してマイナス電位が印加される。
この状態で定盤12が回転されるとともに、電解液供給管15から研磨パッド10の上面に電解液18が供給される。そして、研磨パッド10は、その空隙に電解液18を保持する。このように保持された電解液により、研磨パッド10の表面と裏面とを導通させる。
一方、研磨ヘッド13に保持されたウエハWは、回転されながら研磨パッド10に押圧される。押圧されたウエハWの表面に形成された金属配線膜Lと研磨パッド10の上面とは、電解液18が介在するのみの極めて狭い間隔となっている。この狭い電極間ギャップの中で電解作用が働き、金属配線膜が電解溶出する。
なお、研磨の前、或いは研磨処理の間に、ダイヤモンドやブラシ等で研磨パッドの表面のコンディショニング処理を行うのも好適である。前記コンディショニング処理の番手は#50〜#1000が好ましく、#100〜#1000の範囲がより好ましく、#150〜#1000の範囲が、コンディショニング時の研磨パッド表面の厚さ方向の磨耗減量を少なくしつつ、表面の繊維が分繊して電解質液を均一に保液できることから好ましい。なお、コンディショニングはウエハWを研磨する前に行っても、研磨中に行ってもよい。また、ウエハWの研磨と研磨パッドのコンディショニングとを交互に行ってもよい。
本実施形態の研磨パッドを半導体ウエハの研磨に用いる場合には、研磨パッドの表面を厚さ方向の磨耗減量0.3μm/min以下の範囲のように緩やかにコンディショニングすることにより、研磨パッドの研磨性能を長時間にわたって安定状態に維持できる点から好ましい。磨耗減量を上記範囲とするには、砥粒の番手を調整する以外に、水流を用いたコンディショニングを採用することが可能である。水流を用いたコンディショニング方法としては、例えば、高圧ジェット水洗浄、高圧マイクロジェット水洗浄、高圧バブルジェット水洗浄などの高圧水洗浄、および、水スプレー洗浄、超音波水洗浄、ナイロンブラシ等を用いたブラシ洗浄等が採用可能である。また、ブロッキータイプのダイヤモンドドレッサーを採用する方法、コンディショニング圧力を低い圧力で行う方法、コンディショニングの時間を短くする方法、ダイヤモンドドレッシング処理に比べて一般的に緩やかなコンディショニング処理である高圧ジェット洗浄、高圧マイクロジェット洗浄、高圧バブルジェット洗浄などの高圧水洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄、ブラシ洗浄なども、採用することができる。これらの中では、洗浄効率の点から、高圧水洗浄が好ましい。なお、研磨パッド表面の厚さ方向の磨耗減量については、コンディショニング前後のパッド厚さの差を200倍に拡大した10点の断面写真の平均から測定し、単位時間(分)で除した値から求める。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
はじめに、研磨パッドの特性の評価方法を以下にまとめて説明する。
[評価方法]
(極細繊維の平均繊維径、及び極細繊維の集束状態の確認)
研磨パッドをカッター刃で厚み方向に切断することにより、厚み方向の切断面を形成した。そして、得られた切断面を酸化オスミウムで染色した。そして、染色された切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で500〜1000倍で観察し、その画像を撮影した。そして、得られた画像から切断面に存在する極細繊維の平均断面積を求めた。なお、平均断面積は、画像中からランダムに選択した100個の断面積を平均した値とした。そして、得られた平均断面積と繊維を形成する樹脂の密度から繊度を算出した。また、得られた画像を観察し、繊維束の外周を構成する極細繊維のみならず、内部の極細繊維同士が高分子弾性体によって接着一体化されて集束されている場合を「集束有り」、繊維束の内部に高分子弾性体が存在していないか、あるいは、わずかしか存在しておらず、極細繊維同士が殆ど接着一体化されていない状態を「集束無し」と判断した。
(曲げ弾性率)
万能試験機(AG-5000B、(株)島津製作所社製)を用いて、研磨パッドの曲げ弾性率を5回測定し、その平均値を曲げ弾性率とした。なお、各測定値は、研磨縦方向と横方向とを各々測定したときの平均値を用いた。なお、測定するサンプルは、表面を溝加工する場合には、溝加工前の研磨パッド前駆体について測定した。なお、測定条件は、次の通りである。(試験モード:シングル、試験種類:3点曲げ、コントロール:ストローク、ヘッドスピード:0.6mm/min、ロードセル:500kg、チャック間:2.2cm、試験個数:5個)
(研磨パッドの見掛け密度及び研磨パッドの空隙率)
JIS K 7112に準じて、得られた研磨パッドの見掛け密度を測定した。また、研磨パッドを構成する各構成成分の構成比率と各構成成分の密度とから、空隙が存在しない場合の繊維絡合体と高分子弾性体との複合体の理論密度を算出した。そして、前記理論密度に対する前記見掛け密度の割合を、研磨パッド充填率(研磨パッドの空隙を除いた部分の体積割合)とした。そして、「研磨パッドの空隙率(%)=100%−研磨パッド充填率(%)」の式から、「研磨パッドの空隙率(%)」を求めた。なお、各成分の密度は、例えば、変性PET(1.38g/cm3)、ポリウレタン弾性体(組成によって異なるが凡そ1.03〜1.15g/cm3)、PVA系樹脂(1.25g/cm3)を用いた。
(連通孔の確認)
研磨パッドの両面を光学顕微鏡(200倍)で観察して孔が存在することを確認し、孔を確認した研磨パッドの表面に染料で着色し、必要に応じて界面活性剤を添加した水滴を滴下して裏面まで達することを確認した。
(吸水高さ)
JIS L1907−1994に準拠したバイレック法吸水高さ試験において、60分後の水の吸水高さを測定した。測定サンプルは4回測定し、その平均値を吸水高さとした。
(高分子弾性体のガラス転移温度、23℃及び50℃における貯蔵弾性率)
研磨パッドを構成する高分子弾性体を用いて、縦4cm×横0.5cm×厚み400μm±100μmのフィルムサンプルを作成した。そして、動的粘弾性測定装置(DVEレオスペクトラー、(株)レオロジー社製)を用いて、周波数11Hz、昇温速度3℃/分の条件で23℃および50℃における動的粘弾性率を測定し、貯蔵弾性率を算出した。また、23℃における損失弾性率の主分散ピーク温度をガラス転移温度とした。なお、2種の高分子弾性体を用いる場合は、それぞれ別々にサンプルを作成し測定し、それぞれの測定値に質量比率を乗じた値の和を求めた。
(ポリウレタン弾性体の吸水率)
ポリウレタン弾性体を50℃で乾燥して得られた厚さ200μmのフィルムを、130℃で30分間熱処理した後、20℃、65%RHの条件下に3日間放置したものを乾燥サンプルとし、50℃の水に乾燥サンプルを2日間浸漬した。その後、50℃の水から取り出した直後のフィルムの最表面の余分な水滴等をJKワイパー150−S(株式会社クレシア製)にて拭き取った後のものを水膨潤サンプルとした。乾燥サンプルと水膨潤サンプルの質量を測定し、下記式に従って吸水率を求めた。なお、2種のポリウレタン弾性体を用いる場合は、それぞれ別々にサンプルを作成し測定し、質量比率に乗じた和を、ポリウレタン弾性体の吸水率の値とした。
吸水率(%)=[(水膨潤サンプルの質量−乾燥サンプルの質量)/乾燥サンプルの質量]×100
(水性ポリウレタンの平均粒径)
大塚化学株式会社製「ELS−800」を使用して動的光散乱法により測定し、キュムラント法(東京化学同人社発行「コロイド化学第IV巻コロイド化学実験法に記載」により解析して、高分子弾性体の水性分散液の平均粒子径を測定した。
[実施例1]
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂という)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(50℃で吸水飽和させたときの吸水率1質量%、ガラス転移温度77℃)(以下、変性PETという)とを20:80(質量比)の割合で溶融複合紡糸用口金から吐出することにより、海島型複合繊維を形成した。なお、溶融複合紡糸用口金は、島数が36島/繊維で、口金温度は260℃であった。そして、エジェクター圧力を紡糸速度3700m/minとなるように調整して、平均繊度2.4dtexの長繊維をネット上に捕集することにより、目付量40g/m2のスパンボンドシート(長繊維ウェブ)が得られた。
得られたスパンボンドシートをクロスラッピングにより12枚重ねて、総目付が480g/m2の重ね合わせウェブを作製した。そして、得られたウェブに、針折れ防止油剤をスプレーした。次に、バーブ数1個でニードル番手42番のニードル針およびバーブ数6個でニードル番手42番のニードル針を用いて、重ね合わせウェブを2000パンチ/cm2でニードルパンチ処理して絡合させた。このときシートの目付量は770g/m2であった。
次に、得られたシートを110℃、50%RHの条件で90秒間スチーム処理した。そして、120℃のオーブン中で乾燥させた後、120℃で熱プレスすることにより、目付量1300g/m2、見掛け密度0.56g/cm3、厚み2.3mmのウェブ絡合シートを得た。
次に、熱プレスされたウェブ絡合シートに、第1のポリウレタン弾性体として、ポリウレタン弾性体Aの水性分散液(固形分濃度12質量%)を含浸させた。なお、ポリウレタン弾性体Aは、非晶性ポリカーボネート系ポリオールと、炭素数2〜3のポリアルキレングリコールを、99.7:0.3(モル比)の割合で含有し、さらに、カルボキシル基含有モノマーを重量比で1.5wt%含有した非晶性ポリカーボネート系無黄変型ポリウレタン樹脂である。ポリウレタン弾性体Aの吸水率は3質量%、23℃における貯蔵弾性率は300MPa、50℃における貯蔵弾性率は150MPa、ガラス転移温度は−20℃、水分散液の平均粒径は0.03μmである。そして、水性分散液が含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で乾燥凝固処理し、さらに、160℃で乾燥処理することにより、目付量1400g/m2、見掛け密度0.80g/cm3、厚み1.8mmのシートを得た。
次に、ポリウレタン弾性体Aが充填されたウェブ絡合シートを95℃の熱水中に浸漬しながらニップ処理を10分間連続的に行うことによりPVA系樹脂を溶解除去し、さらに、乾燥することにより、極細繊維の平均繊度が0.08dtex、目付量1000g/m2、見掛け密度0.54g/cm3、厚み1.89mmである、ポリウレタン弾性体Aと繊維絡合体との複合体を得た。
そして、前記複合体に、第2のポリウレタン弾性体として、ポリウレタン弾性体B(固形分濃度15質量%)の水性分散液をさらに含浸させた。なお、ポリウレタン弾性体Bは非晶性ポリカーボネート系ポリオールをポリオール成分とし、カルボキシル基含有モノマーを1.7質量%含有する組成物から得られた無黄変型ポリウレタン樹脂100質量部にカルボジイミド系架橋剤3質量部を添加して、熱処理することにより架橋構造を形成させたポリウレタン樹脂である。ポリウレタン弾性体Bの吸水率は2質量%、23℃における貯蔵弾性率は450MPa、50℃における貯蔵弾性率は250MPa、ガラス転移温度は−25℃、水分散液の平均粒径は0.04μmであった。次に、水性分散液が含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で凝固処理し、さらに、150℃で乾燥処理した。そして、それを160℃で熱プレスすることにより、研磨パッド前駆体が得られた。得られた研磨パッド前駆体は、目付量1000g/m2、見掛け密度0.55g/cm3、厚さ1.8mm、空隙率58%、曲げ弾性率420MPa、吸水高さ200mmであった。また、繊維束は集束されており、連通孔が存在することも確認された。
得られた研磨パッド前駆体を、表面平坦化のための研削加工を行って、目付量750g/m2、見掛け密度0.55g/cm3、厚さ1.4mmとした。さらに、直径40cmの円形状に切断し、表面に幅2.0mm、深さ1.0mmの溝を格子状に15.0mm間隔で形成することにより、円形状の研磨パッドが得られた。研磨パッド中の繊維絡合体とポリウレタン弾性体との質量比率は84/16であり、ポリウレタン弾性体Aとポリウレタン弾性体Bとの比率は50:50であった。そして、以下の方法により研磨パッドの研磨性能評価を行った。
(研磨パッドの研磨性能評価方法)
図2に示したような研磨装置100を用いて研磨パッドの研磨性能を次のようにして評価した。円形状の研磨パッド10の裏面に導電性粘着テープ16を貼り付けた後、定盤12に装着した。そして、番手#200(ブロッキータイプ)のダイヤモンドドレッサーを用いて、蒸留水を50mL/分の速度で流しながら研磨パッド10の表面を18分間研削することによりコンディショニングを行った。
次に、定盤12の回転数(プラテン回転数)90rpmまたは60rpm、研磨圧力45g/cm3(0.6psi)の条件下で、研磨パッド10の表面に、クエン酸5質量%、ベンゾトリアゾール0.3質量%の水溶液を30ml/分の速度で供給し、研磨ヘッド13と定盤12の間に10Vの電圧を印加しながら、15mm×15mmのCuプレート4枚を10分間研磨した。このとき研磨装置100が具備する研磨ヘッド13を、定盤12の回転数に応じて自転させた。研磨レート[μm/min]は、研磨前後のCuプレートの重量差を計量し、その重量差から研磨された厚みを換算し、その研磨厚みを研磨時間で除することにより求めた。研磨レートの判定は、5V印加時の研磨レートが30(nm/min.)以上で、かつ、10V印加時での研磨レートが60[nm/min]を超えた場合に○とし、それ以外を×とした。結果を表1に示す。
[実施例2]
ウェブ絡合シートの作製までは実施例1と同様に行った。
次に、熱プレスされたウェブ絡合シートをポリウレタン弾性体Aの水性分散液に含浸させずに、95℃の熱水中に10分間浸漬してPVA系樹脂を溶解除去することにより、極細繊維の繊維束からなる繊維絡合体を得た。そして、得られた繊維絡合体にポリウレタン弾性体Bの水性分散液(固形分濃度30質量%)を含浸させた。次に、水分散液が含浸された繊維絡合体を150℃で乾燥処理した後、さらに、160℃で熱プレスすることにより研磨パッド前駆体が得られた。そして、得られた研磨パッド前駆体は、実施例1と同様にして後加工され、目付量1170g/m2、見掛け密度0.72g/cm3、厚さ1.68mm、空隙率45%、曲げ弾性率550MPa、吸水高さ140mmの研磨パッドが得られた。また、繊維束は集束されており、連通孔が存在することも確認された。さらに、直径40cmの円形状に切断され、表面に幅2.0mm、深さ1.0mmの溝を格子状に15.0mm間隔で形成することにより、円形状の研磨パッドを得た。そして、実施例1と同様にして研磨パッドの研磨性能評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
ウェブ絡合シートの作成までは実施例1と同様に行った。
次に、熱プレスされたウェブ絡合シートに、ポリウレタン弾性体Aの水性分散液(固形分濃度40質量%)を含浸させた。そして、水性分散液が含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で乾燥凝固処理し、さらに、160℃で乾燥処理することにより、目付量1690g/m2、見掛け密度0.94g/cm3、厚み1.8mmのシートを得た。
次に、ポリウレタン弾性体Aが充填されたウェブ絡合シートを95℃の熱水中に浸漬しながらニップ処理を10分間連続的に行うことによりPVA系樹脂を溶解除去し、さらに、乾燥することにより、極細繊維の平均繊度が0.08dtex、目付量1300g/m2、見掛け密度0.75g/cm3、厚み1.8mmである、ポリウレタン弾性体Aと繊維絡合体との複合体を得た。
そして、前記複合体に、ポリウレタン弾性体Bの水性分散液(固形分濃度15質量%)を含浸させた。次に、水性分散液が含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で凝固処理し、さらに、150℃で乾燥処理した。そして、それを160℃で熱プレスすることにより、研磨パッド前駆体が得られた。得られた研磨パッド前駆体は、目付量1500g/m2、見掛け密度0.88g/cm3、厚さ1.7mm、空隙率33%、曲げ弾性率700MPa、吸水高さ18mmであった。また、連通孔の存在は確認された。
得られた研磨パッド前駆体を、表面平坦化のための研削加工を行って、表面に幅2.0mm、深さ1.0mmの溝を格子状に15.0mm間隔で形成することにより、円形状の研磨パッドを得た。研磨パッド中の繊維絡合体とポリウレタン弾性体との質量比率は74/26であり、ポリウレタン弾性体Aとポリウレタン弾性体Bの比率は55:45であった。そして、実施例1と同様にして研磨パッドの研磨性能評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
繊度2dtexのポリエチレンテレフタレート繊維に溶剤系ポリウレタン樹脂を含浸させて製造されている不織布系研磨パッド(R&H社製SUBA400)を用いて実施例1と同様に研磨パッドの研磨性能評価を行った。なお、上記不織布系研磨パッドの見掛け密度は0.3g/cm3であり、吸水高さは2mm、曲げ弾性率は50MPaであった。また、連通孔の存在が確認できた。結果を表1に示す。表1に示すように低電圧下での研磨レートが著しく低かった。
[比較例3]
研磨パッドとして、独立孔を有するポリウレタン系研磨パッド(R&H社製IC−1000)を用いた以外は、実施例1と同様に研磨パッドの研磨性能評価を行った。なお、上記ポリウレタン系研磨パッドは、連通孔を有さず、目付量960g/m2、見掛け密度0.77g/cm3、厚さ1.25mm、空隙率33%、曲げ弾性率430MPa、吸水高さ0mmであった。結果を表1に示す。表1に示すように全く研磨できなかった。
[比較例4]
電圧を印加せずに研磨する以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
[比較例5]
電圧を印加せずに研磨する以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。