以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。
ブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。ブレーキ制御装置20は、例えば走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40と、それらをつなぐ液圧回路とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動液としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギとして、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。以下の説明においては適宜、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を総称して単に「リニア制御弁」ということがある。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は目標制動力を演算し、目標制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧である目標ホイールシリンダ圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
具体的には、ブレーキECU70は、ABS保持弁51〜54の上流圧(「保持弁上流圧」ともいう)の目標値である目標液圧と、その実際の液圧である実圧との偏差に応じ、増圧モード、減圧モード、及び保持モードのいずれかを選択し、その保持弁上流圧を制御する。ブレーキECU70は増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を制御することにより保持弁上流圧を制御する。ブレーキECU70は、偏差が増圧必要閾値を超える場合に増圧モードを選択し、偏差が減圧必要閾値を超える場合に減圧モードを選択し、偏差が増圧必要閾値にも減圧必要閾値にも満たない場合すなわち設定範囲内にある場合には保持モードを選択する。なおここで偏差は例えば目標液圧から実液圧を差し引いて求められる。実液圧として例えば制御圧センサ73の測定値が用いられる。目標液圧としては保持弁上流圧、すなわち主流路45における液圧の目標値が用いられる。
本実施形態において増圧モードが選択されている場合、ブレーキECU70は偏差に応じたフィードバック電流を増圧リニア制御弁66に供給する。減圧モードが選択されている場合、ブレーキECU70は偏差に応じたフィードバック電流を減圧リニア制御弁67に供給する。保持モードが選択されている場合には、ブレーキECU70は増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に電流を供給しない。すなわち、増圧モードにおいては増圧リニア制御弁66を介してホイールシリンダ圧が増圧され、減圧モードにおいては減圧リニア制御弁67を介してホイールシリンダ圧が減圧される。保持モードにおいてはホイールシリンダ圧が保持される。
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。また、このように液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合には、マスタシリンダ圧またはレギュレータ圧をホイールシリンダにそのまま導入してもよい。例えば、レギュレータカット弁65及び分離弁60を開弁し、マスタカット弁64,増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を閉弁してレギュレータ圧によって各車輪に制動力を付与するようにしてもよい。レギュレータ33には動力液圧源30が高圧側として接続されているので、動力液圧源30における蓄圧を有効に活用して制動力を発生させることができる。また、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の動作頻度を低減させて、その耐用期間を向上させることができる。
また、ホイールシリンダ圧制御系統による制御中に、ホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定された場合には、マニュアル液圧源を用いて機械的に制動力を付与するフェイルセーフ処理が行われる。ブレーキECU70は、このとき全ての電磁制御弁への制御電流の供給を停止する。その結果、ブレーキフルードの供給経路はマスタシリンダ側とレギュレータ側との2系統に分離される。マスタシリンダ圧が前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLへと伝達され、レギュレータ圧が後輪用のホイールシリンダ23RR及び23RLへと伝達される。
ブレーキ制御装置20は、運転者からの要求制動力を発生させる以外に例えば、各車輪の路面に対する滑りを抑制して車両の挙動を安定化させるためのABS制御、TRC制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御などを実行することができる。ABS制御は、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こるタイヤのロックを抑制するための制御である。VSC制御は、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。TRC制御は、車両の発進時や加速時に駆動輪の空転を抑制するための制御である。また、緊急ブレーキ時に運転者によるペダル踏力を補完して制動力を高めるブレーキアシスト制御もリニア制御モードにおいて実行される場合がある。
次に、本実施形態におけるブレーキ制御方法について詳細に説明する。
ブレーキ制御装置20は、ブレーキペダル24の踏み込み操作に基づいて算出される要求制動力を目標制動力とし、その目標制動力から回生制動力を減算して得られる液圧制動力に基づき、各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ABS保持弁51〜54やABS減圧弁56〜59が4輪について同様の動作を行うように制御される通常のブレーキモードにおいては、ABS保持弁51〜54の上流圧(保持弁上流圧)が各輪のホイールシリンダ圧に対応する。このため、各目標ホイールシリンダ圧は、実質的に保持弁上流圧の目標液圧になる。このため、ブレーキ制御装置20は、保持弁上流圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
本実施形態では、運転者によりブレーキペダル24が既に踏み込まれた状態からさらに踏み込まれる踏み増しが行われたときに、その制動要求に速やかに対応できるよう、目標液圧に対して所定の嵩上げ処理が実行される。図2は、嵩上げ処理の主要部の具体例を表すタイミングチャートである。同図においては、上段から目標液圧Pset、目標液圧偏差ΔPset、第1カウンタのカウント値T1、第2カウンタのカウント値T2、嵩上げフラグの状態がそれぞれ示されている。同図の横軸は時間の経過を表している。
ブレーキECU70は、リニア制御モードの実行中に数ms(本実施形態では6ms)の周期で上述のフィードバック制御を繰り返し実行し、その演算処理過程で算出された目標液圧Psetを逐次サンプリングしてRAM上の所定領域に格納していく。そして、今回の目標液圧Psetとその前回値との偏差(目標液圧偏差ΔPset)を算出し、その目標液圧偏差ΔPsetが予め設定した踏み増し判定範囲に含まれる場合に踏み増しがあったと判定し、演算された目標液圧Psetに対して嵩上げ処理を実行する。
具体的には、その踏み増し判定範囲について、下限閾値Th1(例えば4Mpa/s)および上限閾値Th2(例えば20Mpa/s)が設定されている。すなわち、目標液圧Psetの昇圧勾配が大きくなってその目標液圧偏差ΔPsetが踏み増し判定範囲に達すると(Th1≦ΔPset≦Th2)、その状態が予め設定した判定時間Δt1(第1の判定時間:例えば24ms)継続したときに嵩上げフラグがオンにされる。この嵩上げフラグがオンであることを条件に嵩上げ処理が開始される。この嵩上げ処理は、例えばその開始から目標液圧を所定値づつ上乗せし、所定の昇圧期間(例えば30ms)で予め定める嵩上げ量(例えば0.1Mpa)を嵩上げした目標液圧とする。その後、これを予め定める保持期間(例えば100ms)保持し、所定の戻し期間(例えば30ms)をかけて本来の目標液圧、つまり演算処理によって算出された目標液圧に戻すようにする。
なお、判定時間Δt1は、演算上のノイズを除去できるよう目標液圧偏差を複数回算出できるとともに、運転者のブレーキフィーリングを悪化させることのない程度の応答性が得られるよう適度な長さが設定されている。本実施形態では目標液圧のサンプリング間隔が6msであるため、目標液圧偏差を複数回算出するためには、少なくともそのサンプリング間隔の複数倍の時間が必要となる。それを前提に車両の走行試験により運転者がストレスを感じない時間として24msを設定しているが、この判定時間Δt1については適宜設定変更可能であることはいうまでもない。
一方、嵩上げ処理が開始されても、目標液圧偏差ΔPsetが上限閾値Th2を超え(ΔPset≧Th2)、その状態が予め設定した判定時間Δt2(第2の判定時間:例えば24ms)継続したときに嵩上げフラグがオンからオフに切り替えられる。これは、目標液圧Psetがかなり大きい場合は、運転者の踏み増しよりも制動開始直後の踏み込みによる可能性が高くなるため、その誤判定を防止するものである。
また逆に、嵩上げ処理が開始された後に、目標液圧偏差ΔPsetが小さくなって下限閾値Th1よりも小さいオフ閾値Th3以下となったとき(ΔPset≦Th3)、その状態が予め設定した判定時間Δt2(第2の判定時間:例えば24ms)継続したときに嵩上げフラグがオンからオフに切り替えられる。このように、嵩上げフラグをオンにする下限閾値Th1よりもオフにするオフ閾値Th3を小さく設定することにより、一旦オンになった嵩上げフラグが簡単にオフになるなど、オン・オフの切り替わりが頻繁に生じて制御を不安定化させることを防止している。
なお、判定時間Δt2についても、演算上のノイズを除去できるよう目標液圧偏差を複数回算出できるとともに、運転者のブレーキフィーリングを悪化させることのない程度の応答性が得られるよう適度な長さが設定されている。本実施形態では24msを設定しているが、この判定時間Δt2についても適宜設定変更可能であることはいうまでもない。また、目標液圧偏差ΔPsetが上限閾値Th2を超えたとき、オフ閾値Th3以下となったときの双方の判定時間を同じΔt2としているが、変形例においては、これらを異なる時間に設定してもよい。
図示の例では、ブレーキペダル24が既に踏み込まれた状態から時刻t1にてその踏み込みが一旦緩められ、時刻t2から再度踏み込まれる踏み増しが行われている。そして、時刻t7でその踏み込み状態が再び保持されている。その間、時刻t3から踏み込み速度が増加して目標液圧偏差ΔPsetが踏み増し判定範囲に達したため、RAM上の所定領域に設定された第1カウンタのカウント値T1がアップカウントされている。時刻t4において、そのカウント値T1が判定時間Δt1に達したため、嵩上げフラグがオンにされ、嵩上げ処理が開始されている。その後、時刻t5において目標液圧偏差ΔPsetが踏み増し判定範囲を超えたため、RAM上の所定領域に設定された第2カウンタのカウント値T2がアップカウントされている。時刻t6において、そのカウント値T2が判定時間Δt2に達したため、嵩上げフラグがオンからオフにされている。その後、時刻t7において目標液圧偏差ΔPsetが踏み増し判定範囲を下回ったため、RAM上の所定領域に設定された第2カウンタのカウント値T2が一旦クリアされた後、再度カウントアップが開始されている。時刻t8において、そのカウント値T2が判定時間Δt2に達したが、嵩上げフラグが既にオフであるため、その状態が保持されている。なお、本実施形態では、目標液圧偏差ΔPsetが踏み増し判定範囲を超えた時間と、下回った時間とを同じ第2カウンタにてカウントする例を示したが、別々のカウンタを設定してもよい。
図3は、ブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートである。
ブレーキECU70は、同図に示される処理をリニア制御モードの実行中に数ms(本実施形態では6ms)の周期で繰り返し実行する。
ブレーキECU70は、まず、ブレーキペダル24の踏み込み操作に基づき、目標制動力を演算する(S10)。そして、この目標制動力から回生制動力を減算して得られる液圧制動力に基づいて保持弁上流圧の目標液圧Psetを演算する(S12)。このとき算出された目標液圧PsetはRAM上の所定の領域にサンプリングされる。そして、増圧モードであれば(S14のY)、後述する嵩上げ設定処理を実行する(S16)。減圧モードまたは保持モードであれば(S14のN)、S16の処理をスキップする。
ブレーキECU70は、続いて、制御圧センサ73(「液圧検出部」に該当する)により検出された保持弁上流圧の実液圧Prefをフィードバックし(S18)、目標液圧Psetとの偏差ΔP(=Pset−Pref)を算出するとともに(S20)、制御状態に応じたフィードバックゲイン(制御ゲイン)Gを所定の制御マップを参照して設定する(S22)。そして、これらフィードバックゲインGおよび偏差ΔPを用いて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に供給する電流出力値をそれぞれ演算し、制御電流を供給する(S24)。
具体的には、増圧モードにおいては、増圧リニア制御弁66への制御電流は、制御弁出入口間の差圧(つまりアキュムレータ圧と保持弁上流圧との差圧)に応じて定まる開弁電流Ia0と偏差ΔPに応じて定まるフィードバック電流との和である。開弁電流は差圧を変数とする1次関数で表され、通常フィードフォワード電流として与えられる。フィードバック電流は、フィードバックゲインGと偏差ΔPとの積により与えられる。すなわちブレーキECU70は、増圧モードにおいて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67にそれぞれ次式の制御電流Ia及びIrを供給する。
Ia=Ia0+G・ΔP
Ir=0
なお、増圧モードにおいては減圧リニア制御弁67の制御電流Irがゼロとされるので、直前の制御周期において減圧リニア制御弁67に通電されていたとしても確実に電流が遮断され、減圧リニア制御弁67を閉弁することができる。よって、減圧リニア制御弁67の閉弁が保証された状態で増圧リニア制御弁66による増圧を行うことができる。
一方、減圧モードにおいては、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66には制御電流を供給せずに減圧リニア制御弁67に制御電流を供給する。よって、増圧リニア制御弁66は閉弁され、減圧リニア制御弁67は開弁されて保持弁上流圧が減圧される。減圧リニア制御弁67への制御電流は、制御弁出入口間の差圧(つまり保持弁上流圧)に応じて定まる開弁電流Ir0と偏差ΔPに応じて定まるフィードバック電流との和である。開弁電流は差圧を変数とする1次関数で表され、通常フィードフォワード電流として与えられる。フィードバック電流は、フィードバックゲインGと偏差ΔPとの積により与えられる。すなわちブレーキECU70は、減圧モードにおいて増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67にそれぞれ次式の制御電流Ia及びIrを供給する。
Ia=0
Ir=Ir0+G・ΔP
図4は、図3におけるS16の嵩上げ設定処理の詳細を示すフローチャートである。
嵩上げ設定処理において、ブレーキECU70は、まず、今回演算された目標液圧Psetと前回の処理タイミングで演算された目標液圧との差分である目標液圧偏差ΔPsetを算出する(S32)。そして、その目標液圧偏差ΔPsetが上述した踏み増し判定範囲に達すると(Th1≦ΔPset≦Th2)(S34のY)、第1カウンタによるカウントを開始する。既にそのカウントが開始されており、判定時間Δt1を経過した場合には(S36のY)、制動開始から所定時間t0を経過していれば(S37のY)、嵩上げフラグをオンにする(S38)。
このように、本実施形態では所定時間t0を「不感範囲」として判定時間Δt1,Δt2よりも長い100msに設定し、その経過を嵩上げフラグをオンにする条件のひとつとしている。すなわち、ここではブレーキペダル24の踏み増し時における嵩上げ処理を行うため、制動制御開始直後の踏み込みをその踏み増しと誤判定することを確実に防止すべく、制動開始直後の所定期間には踏み増し判定を行わないようにしている。制動制御開始直後の踏み込みと、踏み込み状態からの踏み増しとでは、往々にして要求制動力が異なることを想定したものである。したがって、本実施形態では特に言及しないが、制動制御開始直後においては本実施形態とは異なるレベルの嵩上げ処理を別途行うようにしてもよい。なお、判定時間Δt1を経過していない場合には(S36のN)、S37およびS38の処理をスキップする。制動開始から所定時間t0を経過していない場合には(S37のN)、S38の処理をスキップする。
S34において目標液圧偏差ΔPsetが踏み増し判定範囲になく(S34のN)、踏み増し判定範囲の上限閾値Th2を超えている場合(S40のY)、第2カウンタによるアップカウントを開始する。既にそのカウントが継続されており、判定時間Δt2を経過した場合には(S42のY)、嵩上げフラグをオンからオフに切り替える(S44)。判定時間Δt2を経過していない場合には(S42のN)、S44の処理をスキップする。一方、ブレーキペダル24の踏み込みが緩められて目標液圧偏差ΔPsetがオフ閾値Th3以下となった場合(S40のN,S46のY)、第2カウンタによるアップカウントを開始する。既にそのカウントが継続されており、判定時間Δt2を経過した場合には(S48のY)、嵩上げフラグをオンからオフに切り替える(S50)。判定時間Δt2を経過していない場合には(S48のN)、S50の処理をスキップする。S46も否定判定された場合、つまり目標液圧偏差ΔPsetが未だ踏み増し判定範囲に到達していない場合には(S46のN)、S48およびS50の処理をスキップする。
続いて、ブレーキECU70は、嵩上げフラグがオフからオンに切り替わったと判定すると(S52のY)、目標液圧Psetの嵩上げ設定を開始する(S54)。すなわち、上述のように、演算された目標液圧Psetに対して徐々に上乗せを行う嵩上げ処理を開始する。嵩上げフラグがオフからオンに切り替わったと判定されなければ(S52のN)、目標液圧Psetのそれまでの設定状態を保持する(S56)。すなわち、嵩上げフラグがオフの場合、オンからオフに切り替わった場合には、基本的に演算後の通常の目標液圧Psetが設定された状態となる。嵩上げフラグが前回に引き続きオンの場合、前回までに嵩上げ処理が開始されて継続していれば、それが完了するまで嵩上げ処理が実行される。
以上に説明したように、本実施形態においては、ブレーキペダル24の踏み増しが行われたときに目標液圧の嵩上げが実行されるため、保持弁上流圧ひいてはホイールシリンダ圧が速やかに上昇して目標制動力を得ることができ、制動制御の応答性が高められる。本実施形態ではその応答性の向上に際してフィードバックゲインを大きくするなどの変更を特に行わずに目標液圧の嵩上げするので、制御ハンチングを防止することができる。その結果、運転者によるブレーキペダルの不要な踏み増し行為も抑制され、その踏み増し行為に伴う後追いの制動力の急変動も抑制される。その結果、運転者のブレーキフィーリングを良好に維持することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、嵩上げフラグの設定条件が異なる以外は第1実施形態とほぼ同様である。このため、第1実施形態と同様の構成部分については必要に応じて同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。
図5は、第2実施形態にかかる嵩上げ処理の主要部の具体例を表すタイミングチャートである。同図の縦軸は目標制動力を表し、横軸は時間の経過を表している。
ブレーキECU70は、リニア制御モードの実行中に数ms(本実施形態では6ms)の周期で第1実施形態と同様にフィードバック制御を繰り返し実行し、その演算処理過程で算出された目標制動力を逐次サンプリングしてRAM上の所定領域に格納していく。そして、今回算出された目標制動力と微少時間前に算出された特定の目標制動力との差分が予め定める踏み増し判定基準値よりも大きい場合に、踏み増しがなされたと判定して嵩上げフラグを設定する。ここでいう目標制動力には、回生制動力および液圧制動力の双方が含まれる。本実施形態では、今回の処理タイミング以前のサンプリング10回分の期間を設定し、その設定期間に算出された複数の目標制動力のうち、2番目に小さい目標制動力を「特定の目標制動力」として抽出する。そして、今回の目標制動力f(n)とその特定の目標制動力との差分Δfが踏み増し判定基準値f0よりも大きい場合に、踏み増しがなされたと判定して嵩上げフラグをオンにする。
図示の例では、運転者がブレーキペダル24を所定量踏み込んで保持した状態から一旦その踏み込みを緩めた後に大きく踏み込むような踏み増しが行われており、その結果、目標制動力が一定に保持された状態から減少した後、増加する様子が示されている。この場合、今回の演算以前のサンプリング10回分の期間における目標制動力が判定対象となっている。図示の例では、その設定期間において2番目に小さい目標制動力f(n−4)が抽出され、今回演算された目標制動力f(n)との差分Δf(=f(n)−f(n−4))が演算される。この目標制動力差Δfが踏み増し判定基準値f0よりも大きい場合に嵩上げフラグが設定され、踏み増し判定基準値f0以下の場合には嵩上げフラグはオフにされる。嵩上げフラグがオンにされると上述した嵩上げ処理の実行が開始される。
図6は、第2実施形態にかかる嵩上げ設定処理の詳細を示すフローチャートである。この処理は、第1実施形態の図4の処理に置き換えて実行される。
この嵩上げ設定処理に際しては、演算された目標制動力FsetがRAM上の所定の領域に逐次サンプリングされる。ブレーキECU70は、まず、今回の演算以前の上記設定期間にある複数の目標制動力のなかから2番目に小さい特定目標制動力f1を抽出し(S60)、今回演算された目標制動力fsetとの偏差Δf(=fset−f1)を演算する(S62)。そして、その偏差Δfが踏み増し判定基準値f0よりも大きい場合(S64のY)、制動開始から所定時間を経過していれば(S66のY)、嵩上げフラグをオンにする(S68)。この所定時間は「不感範囲」として位置づけられるため、本実施形態においても第1実施形態と同様に所定時間t0を設定しているが、これと異なる時間を設定してよいことはいうまでもない。制動開始から所定時間t0を経過していない場合には(S66のN)、S68の処理をスキップする。偏差Δfが踏み増し判定基準値f0以下の場合には(S64のN)、嵩上げフラグをオフにする(S70)。
続いて、ブレーキECU70は、嵩上げフラグがオンであれば(S72のY)、目標液圧Psetの嵩上げ設定を開始する(S74)。すなわち、上述のように、演算された目標液圧Psetに対して徐々に上乗せを行う嵩上げ処理を開始する。嵩上げフラグがオフであれば(S72のN)、目標液圧Psetのそれまでの設定状態を保持する(S76)。すなわち、既に嵩上げ処理が継続中であれば、それが完了するまで嵩上げ処理が実行される。嵩上げ処理が実行中でなければ、基本的に演算後の通常の目標液圧Psetが設定された状態となる。
以上に説明したように、本実施形態においてもブレーキペダル24の踏み増しが行われたときに目標液圧の嵩上げが実行され、制動制御の応答性が高められる。またフィードバックゲインではなく目標液圧の嵩上げするので、制御ハンチングを防止することができ、運転者のブレーキフィーリングを良好に維持することができる。
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
上記実施形態では、嵩上げ処理の具体例として、演算された目標液圧に対して徐々に上乗せをして嵩上げし、その後、徐々に元の目標液圧に戻す例を示した。変形例においては、目標液圧を徐変させることなく、特定量の嵩上げ設定した目標値をそのまま設定してもよい。
上記実施形態では、4つのホイールシリンダ23の上流側の保持弁上流圧を共通に制御するリニア制御弁(増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67)を設け、その保持弁上流圧についてフィードバック制御を行う例を示した。変形例においては、各ホイールシリンダ23ごとにその上流圧を制御するような装置構成とし、各上流圧(つまり各ホイールシリンダ圧)についてフィードバック制御を実行するようにしてもよい。具体的には、上記実施形態の増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を省略し、ABS保持弁51〜54およびABS減圧弁56〜59をリニア制御弁として構成し、その増圧用のリニア制御弁の通電制御に対して上述の嵩上げ処理を実行するようにしてもよい。
20 ブレーキ制御装置、 22 ブレーキディスク、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 25 ストロークセンサ、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 35 アキュムレータ、 40 液圧アクチュエータ、 45 主流路、 51 ABS保持弁、 56 ABS減圧弁、 60 分離弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 73 制御圧センサ。