JP2010087434A - 導電性ペースト、並びにこの導電性ペーストを用いた乾燥膜及び積層セラミックコンデンサ - Google Patents

導電性ペースト、並びにこの導電性ペーストを用いた乾燥膜及び積層セラミックコンデンサ Download PDF

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Abstract

【課題】 静電容量のばらつきを抑制し、誘電損失を小さくできる導電性ペースト、及び、この導電性ペーストを用いた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】
本発明に係る積層セラミック電子部品用導電性ペーストは、少なくともセラミック粉末と導電性金属粉末からなる積層セラミック電子部品用導電性ペーストであって、
・前記セラミック粉末は、1)平均粒径が0.01〜0.1μm、2)結晶格子のc軸長とa軸長の格子定数比(c/a)が1.0020以上、3)バリウムとチタンのモル比(Ba/Ti)が0.995以上1.000以下、4)粒径の変動係数CVが35%以下、5)長軸と短軸の比(アスペクト比)が1.15以下のチタン酸バリウム粉末であり、
・前記導電性金属粉末は、1)前記セラミック粉末の平均粒径より大きく、且つ平均粒径0.4μm以下、2)炭素含有量0.06wt%以下のニッケル粉末である
ことを特徴とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、積層セラミック電子部品における静電容量のばらつきを抑制し、誘電損失を小さくする導電性ペースト、並びにこの導電性ペースを用いた乾燥膜及び積層セラミックコンデンサに関するものである。
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の軽薄短小化に伴い、チップ部品の積層セラミックコンデンサについても小型化、高容量化及び高性能化が望まれ、その最も効果的な手段として、内部電極層と誘電体層を薄くし、且つ多層化を図ることが知られている。
一般に積層セラミックコンデンサは、次のように製造されている。
先ず誘電体層を形成するために、チタン酸バリウム(BaTiO)とポリビニルブチラール等の有機バインダーからなる誘電体グリーンシート上に、導電性粉末を主成分とし、樹脂バインダー及び溶剤を含むビヒクルに分散させた導電性ペーストを、所定のパターンで印刷、乾燥させて溶剤を飛ばし、内部電極となる乾燥膜を形成する。
この乾燥膜が形成された誘電体グリーンシートを、多層に積み重ねた状態で加熱圧着して一体化し、次いで所定形状に切断した後、500℃以下の酸化性雰囲気又は不活性雰囲気中にて脱バインダー処理を行う。その後、内部電極が酸化しないように還元雰囲気中にて1300℃程度での加熱焼成を行い、この焼成チップに外部電極を設け、外部電極上にニッケルメッキなどを施して完成させる。
しかし、上記焼成工程において、誘電体セラミック粉末が焼結し始める温度は、1200℃程度であり、ニッケル等の導電性金属粉末との焼結・収縮が開始する温度とかなりのミスマッチが生じるため、デラミネーション(層間剥離)やクラック等の構造欠陥が発生しやすかった。特に小型・高容量化に伴い、積層数が多くなるほど、又はセラミック誘電層の厚みが薄くなるほど、構造欠陥の発生が顕著となっていた。
例えば、誘電体層の主成分の構成元素と電極用ペーストに含まれる誘電体粉末の構成元素とが大きく異なると誘電損失が増大するなどの電気特性に影響を及ぼすことから内部電極用ニッケルペーストには、少なくとも誘電体層の焼結・収縮を開始する温度付近まで内部電極用ニッケルペーストの焼結・収縮を制御するために、通常、誘電体層の組成に類似したチタン酸バリウム系あるいはジルコン酸ストロンチウム系などのペロブスカイト型酸化物を主成分とするセラミック粉末が添加される。その結果、ニッケル粉末の焼結挙動が制御され、内部電極層と誘電体層の焼結収縮挙動のミスマッチを制御することができるようになっている。
近年、積層セラミックコンデンサは一層の小型・大容量化要求に従い、ニッケル粉末などを用いた内部電極層の更なる薄層化が求められている。そのため、少ない金属塗布量で高密度の内部電極を形成し、薄層化と目標容量値を同時に実現するためには、導電性ペーストに使用するニッケルなどの導電性金属粉末およびセラミック粉末の粒径を細かくすることが要求されている。
更に、このセラミック粉末が導電性ペースト中の導電性金属粉末の接触を防止できない場合、導電性ペーストの焼結開始温度をセラミック層の焼結開始温度に近づける効果が弱くなり、結果として、デラミネーションやクラックなどの問題が生じ、歩留まりの低下などの信頼性を悪化させる。そのため、導電性金属粉末の粒径を細かくする場合には、導電性金属粉末の接点間に介在し、焼結開始温度を遅延させるために、導電性金属粉末の粒径より小さい粒径を有するセラミック粉末を選択する必要がある。
又、大きな静電容量を得ることを可能とするために、セラミック粉末は出来るだけ少ない添加量に抑制することが望まれている。その理由は、第一に、誘電体層中のセラミック粒子との焼結を最小限に抑え、誘電損失、絶縁破壊電圧などの電気特性を悪化させない。第二に、電極単位面積当たりの導電性金属含有量を増加させることにより、電極膜の連続性を悪化させないことなどである。
このような技術背景の中、特許文献1では、緻密な構造の膜状導体をセラミック基材に形成し得る導電ペーストとして、導電性金属粉末の平均粒径より小さい平均粒径を有するセラミック粉末を用いた導電性ペーストが示されている。
また、特許文献2は誘電体層中の結晶粒子の粒成長を抑制して高い絶縁性、誘電損失および絶縁抵抗のバラツキを小さくする内部電極ペーストが示されている。この内部電極ペーストに用いられるセラミック粉末のチタン酸バリウム系粉末は、格子定数の比(c/a)が1より大きく、チタンとバリウムのモル比(Ba/Ti)が1より大きく、70nm以下の平均粒径の特性が必要とされている。
特開2002−245874号公報 特開2007−95382号公報
しかしながら、特許文献1に開示されるような導電性金属粉末の粒径より小さい粒径を有するセラミック粉末を選択するだけでは、焼結抑制剤としての十分な効果は得られず、この焼結抑制効果が得られないと、セラミック層と導電層間で収縮に差が生じ、クラックやデラミネーションなどの不良が生じやすいといった問題を残している。
更に、特許文献2におけるc/a比が1より大きく、モル比(Ba/Ti)が1より大きく、平均粒径が70nm以下のセラミック粉末を選択するだけでは、積層セラミックコンデンサの誘電損失は十分小さくできないといった問題も存在している。
この誘電損失を充分には小さくできないという問題は、導電性ペーストから形成される乾燥膜における膜の平滑性や粒子の充填性にも誘電損失が影響されるからである。膜の平滑性や粒子の充填性は、導電性金属粉末やセラミック粉末の粒度分布のばらつきにより変化するが、特許文献2の発明では、同じ粒径を持つ共材でも誘電損失のばらつきが大きく、粒度分布が0.15〜0.4μmの範囲では、導電性ペーストから形成される乾燥膜における膜の平滑性や粒子の充填性は向上できず、電極膜の薄層化に対応できないことに起因している。
そこで、本発明はこのような課題を解消すべく、静電容量のばらつきを抑制し、誘電損失を小さくできる導電性ペースト、及び、この導電性ペーストを用いた積層セラミックコンデンサの提供を目的とするものである。
即ち、本願の請求項1記載の発明は、少なくともセラミック粉末と導電性金属粉末からなる積層セラミック電子部品用導電性ペーストであって、
・前記セラミック粉末は、1)平均粒径が0.01〜0.1μm、2)結晶格子のc軸長とa軸長の格子定数比(c/a)が1.0020以上、3)バリウムとチタンのモル比(Ba/Ti)が0.995以上1.000以下、4)粒径の変動係数CVが35%以下、5)長軸と短軸の比(アスペクト比)が1.15以下のチタン酸バリウム粉末であり、
・前記導電性金属粉末は、1)前記セラミック粉末の平均粒径より大きく、且つ平均粒径0.4μm以下、2)炭素含有量0.06wt%以下のニッケル粉末である
ことを特徴とする積層セラミック電子部品用導電性ペーストである。
また、本願の請求項2記載の発明は、前記セラミック粉末が、前記導電性金属粉末重量を100重量部としたときに、3〜25重量部であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミック電子部品用導電性ペーストである。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の積層セラミック電子部品用導電性ペーストを印刷、乾燥して得られる膜密度が5.3g/cm以上、且つ最大突起高さが1.5μm以下の乾燥膜である。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の乾燥膜を用いた内部電極層の厚みが1.5μm以下の積層セラミックコンデンサである。
本発明に係る導電性ペーストは、小型・薄層化の積層セラミック電子部品、特に積層セラミックコンデンサに用いられるのに適したもので、その静電容量および絶縁破壊電圧のばらつきを抑制して誘電損失を小さくする効果を奏する。更に、特別な製造工程や設備を必要とせずに安価に積層セラミックコンデンサのような電子部品が得られるものである。
本発明の導電性ペーストを乾燥した乾燥膜は、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられることで、静電容量の欠損の恐れも無く、静電容量及び絶縁破壊電圧のばらつきを抑制し、その誘電損失を小さくするものである。
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、静電容量及び絶縁破壊電圧のばらつきも小さく、小型・薄層化が容易なものである。
本発明の導電性ペーストは、樹脂バインダーを有機溶剤に溶解したビヒクル中に導電性粉末のニッケル粉末およびセラミック粉末を分散させたものであり、以下にその構成の詳細を説明する。
[導電性粉末(ニッケル粉末)]
導電性粉末であるニッケル粉末は、その製造方法により炭素を含有することがあり、この炭素はニッケル粉末同士の焼結性を劣化させることから、その含有量を0.06wt%以下に抑えることが望ましい。
含有量が0.06wt%を超えると、その理由は明らかではないが導電性ペーストを乾燥させた乾燥膜の乾燥膜密度に影響を及ぼし、結果として所望の膜厚と有効電極面積を有する電極膜が得られないためである。
ニッケル粉末中の炭素含有量を0.06wt%以下にするには、一般に用いられるニッケル塩水溶液を還元剤により還元してニッケル粉末を析出させる液相還元法においては、得られる粉末の粒径制御、凝集防止の目的で反応溶液中に界面活性剤等の有機分散材を添加して合成するが、この場合添加された有機物が反応により生成したニッケル粉末内部の粒界に残留すると考えられることから、反応溶液中に界面活性剤等の有機分散剤を添加しない、又は、その添加量を抑えることにより、ニッケル粉末中の炭素含有量を低くする。
尚、ニッケル粉末に含まれる炭素量の分析は高周波燃焼赤外吸収波法で測定している。
次に、ニッケル粉末の平均粒径をセラミック粉末の平均粒径より大きく、且つ0.4μm以下とするのは、第一に、ニッケル粉末は凝集により粗大粒子が生じることがあり、平均粒径が0.4μmを超えると発生する粗大粒子(D100)の粒径が1.5μmを超えてしまい、その結果導電性ペーストを乾燥させて形成する乾燥膜(電極膜)の最大突起高さも1.5μmを越えることなり、誘電体層の薄層化を困難にするものである。
第二に、平均粒径0.4μmを超えたニッケル粉末で膜厚み1.5μm以下となるような乾燥膜(電極膜)を形成しようとすると、ニッケル粉末粒子の充填が不十分となり、所望の乾燥膜密度が確保できず、連続性に優れた乾燥膜(電極膜)を得られず、乾燥膜(電極膜)が途切れてしまい、積層セラミックコンデンサの静電容量を低下させてしまうからである。
第三に、セラミック粉末の平均粒子より小さい場合には、電極膜を形成した後の導電性を著しく低下させ、電極膜として機能しなくなるためである。
本発明において、ニッケル粉末の粒径は、特に断らない限り比表面積をBET法に基づいて算出した粒径で表し、その算出式を数1に示す。
Figure 2010087434
数1において、SNiはニッケル粉末の比表面積(m/g)、ρはニッケルの真密度で、8.9である。
尚、ニッケル粉末の粒度分布は、公知の粒度解析装置を用いて測定することができる。
本発明において、用いるニッケル粉末の製造方法については特に限定しないが、炭素含有量及び平均粒径を制御して製造する。
例えば、ニッケル塩水溶液を還元剤により還元し、ニッケル粉末を析出させる液相還元法、塩化物蒸気を水素ガス中で気相から直接析出させる気相還元法、ニッケル水溶液を高温中、例えば、600℃以上で噴霧し、熱分解させる噴霧熱分解法など適宜選択して、炭素含有量が0.06wt%以下、平均粒径がセラミック粉末の平均粒径より大きく、且つ0.4μm以下のニッケル粉末を製造する。
[セラミック粉末(チタン酸バリウム粉末)]
本発明の導電性ペーストに添加されるセラミック粉末は、通常ペロブスカイト型酸化物であるBaTiOや、これに種々の添加物を添加したものから選択することができ、又、積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成するグリーンシートの主成分として使用されるセラミック粉末と同組成、あるいは類似の組成も好ましい。
セラミック粉末の製造方法については、固相法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など種々あるが、特に水熱合成法は、微細でシャープな粒度分布が得られるため、本発明に使用するセラミック粉末としては好ましい。
本発明におけるセラミック粉末の平均粒径は、0.01μm〜0.1μmの範囲が望ましい。その平均粒径が0.1μmを超えると、乾燥膜では略球状ニッケル粉末の粒子が積み重なって形成される隙間にセラミック粉末が充填されているために、略球状ニッケル粉末の粒子の接触点間に入り込みにくくなり、第一に、所望の乾燥膜密度が得られない、即ち乾燥膜密度が低下してしまう。第二に、導電性ペーストの焼結開始温度をセラミック層の焼結開始温度まで遅延する効果が弱くなる。
一方、セラミック粉末の粒径が0.01μmを下回ると、導電性ペーストの焼結遅延効果が得られなくなってきて、デラミネーションやクラックなどの構造欠陥が生じ易くなる。更に、乾燥膜密度の低下やセラミック粉末の凝集粉末を起因に最大突起高さが1.5μm以上となり、誘電体層の薄層化も困難となり、積層セラミックコンデンサにおける絶縁抵抗の低下やショート率の上昇などの信頼性に係る問題が発生する。
尚、本発明において、セラミック粉末の粒径は、特に断らない限り比表面積をBET法に基づいて算出した粒径で表す。セラミック粉末にチタン酸バリウム粉末を用いた場合の算出式を数2に示す。
Figure 2010087434
数2において、SBTはチタン酸バリウム粉末の比表面積(m/g)、ρBTはチタン酸バリウム粉末の真密度で6.1である。
セラミック粉末の結晶格子のc軸長とa軸長の格子定数比(c/a)は、1.0020以上、望ましくは1.0040以上、1.0100以下が良い。
正方晶系のチタン酸バリウム粉末では、そのc/a比が、1.0020よりも小さくなると強誘電性が得られない。又、チタン酸バリウム粉末は、温度変化に伴う相転移により、そのc/aが1.0000〜1.0100の範囲で変動し、c/aが大きいほど焼結温度が高くなるが、チタン酸バリウム粉末のc/aが1.0020を下回ると、焼成時に内部電極層中の共材が誘電体層成形体中に放出され、添加した微粒の共材が誘電体層の焼結に関与し、誘電損失を大きくしてしまうが、そのc/aが1.0020より大きければ、セラミック粉末層及び内部電極層中の共材の粒成長を抑制して積層セラミックコンデンサの誘電損失を小さくし、かつ絶縁抵抗を高めることができる。
格子定数(c/a)の測定は、粉末X線回折装置(例えば、理学電機社製RAD−IIA)を用いて行ない、リートベルト解析用のXRDプロファイルデータを、2θが10〜120°の範囲で測定し、リートベルト解析を用いて格子定数比(c/a)を算出する。
チタン酸バリウム粉末のバリウムとチタンのモル比(Ba/Ti)は、0.995〜1.000が好ましい。チタン酸バリウム粉末のモル比(Ba/Ti)が上記範囲内に制御されることで、粒度分布のばらつきが小さく、凝集体の形成が少ない粉末が製造できる。
一方、モル比(Ba/Ti)が前記範囲外の場合、粒度分布のばらつきが大きくなり、モル比(Ba/Ti)が1.000を超えると、チタン酸バリウム粉末の結晶格子内に存在するヒドロキシル基が増加するため、強熱減量が大きくなるのでc/a比が低くなり、絶縁抵抗や誘電損失などの誘電特性を悪化させ、更には静電容量の低下やばらつきの原因となる。
モル比(Ba/Ti)は、蛍光X線分析装置(例えば、理学電機社製サイマルティックス12)などを用いて測定する。
なお、水熱合成などの湿式法で合成されたチタン酸バリウム粉末のモル比(Ba/Ti)が1.000を超えるとc/a比が低くなるため、これを改善するために結晶格子内に取り込まれたヒドロキシル基を大気中で再熱処理する方法により、残存ヒドロキシル基が除去でき、c/a比を高めることがきる。しかしながら、この方法では粒子内のヒドロキシル基が存在していた部分に空孔ができるため誘電率に寄与しない体積割合が増加し、誘電率が低下するという問題が生じるため、モル比(Ba/Ti)は1.000以下であることが望ましい。
次に、セラミック粉末の粒度の広がりを示す変動係数CV値は、35%以下が望ましい。より望ましくは25%以下である。
セラミック粉末の変動係数CV値が35%を超えると、粒度分布の広がりが大きくなりシャープな粒度分布とは言えず、そのため、平均粒径が小さい場合には、略球状ニッケル粉末粒子間の空隙に一様には入り込みにくくなり、乾燥膜密度の低下を起こし、平均粒径がそれより大きいものでは、略球状ニッケル粉末粒子の接触点間に一様には入り込みにくくなり、導電性ペーストの焼結開始温度をセラミック層の焼結開始温度まで遅延する効果を弱めるという問題を生じる。
一方、セラミック粉末の変動係数CV値を35%以下にすると、略球状ニッケル粉末粒子の接触点間に入り込みやすくなり、高い乾燥膜密度が得られ、さらに導電性ペーストの焼結開始温度をセラミック層の焼結開始温度まで遅延する効果が強くなる。そのため、内部電極の連続性が向上し、静電容量のばらつきを抑制することができる。
尚、変動係数CV値は、公知の粒度解析装置(例えば日機装社製「マイクロトラック」など)を用いて粒度分布の測定を行ない、標準偏差は、測定した粒度分布の分布幅の目安として定義し、数3に示す計算式から算出する。
Figure 2010087434
ここで、d86%は、累積カーブが86%となる点の粒子径(μm)で、d16%は、累計カーブが16%となる点の粒子径(μm)である。
セラミック粉末の長軸径と短軸径の比であるアスペクト比は、1.15以下が望ましい。
アスペクト比が1.15より大きいと、平均粒径の小さなものでは、略球状ニッケル粉末粒子間の空隙に入り込みにくくなるため、導電性ペーストの乾燥膜の乾燥膜密度を上げる事が難しく、またセラミック粉末の添加量を必要最低限に抑えることができず、結果として、焼成時におけるニッケル粉末の焼結を遅延させることができなくなり、内部電極層の薄層化が困難となる。
アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(日立社製、SEM S−4800)を用いて観察した写真(倍率;5万倍)について、100個の粒子から粒子径を測定して求める。
セラミック粉末の含有率は、導電性金属粉末100重量部に対して3〜25重量部が望ましい。より望ましくは5〜15重量部である。
セラミック粉末の含有率が3重量部未満では、例えば、ニッケル粉末の焼結が制御できず、内部電極層と誘電体層の焼結収縮挙動のミスマッチが顕著になり、更に内部電極の焼結が低温から始まってしまい、内部電極層と誘電体層との焼結温度の差が大きくなるため、焼成クラックが発生するようになる。
一方、セラミック粉末の含有率が25重量部を超えると、例えば、内部電極層から誘電体層中のセラミック粒子との焼結により誘電体層の厚みが膨張し、組成のずれが生じるため、誘電率の低下等の電気特性に悪影響を及ぼすものである。
[有機溶剤]
本発明の導電性ペーストで使用される有機溶剤は、樹脂成分を溶解するとともに、導電性金属粉末などの無機成分をペースト中で安定に分散させる機能をもつ成分であるが、電子部品のグリーンシートや回路基板などへ塗布(印刷)したとき、これら粉末を均一に展延させ、焼成時までには大気中に逸散する働きを有している。
このような有機溶剤としては、ターピネオール(α、β、γおよびこれらの混合物)、ジヒドロターピネオール、オクタノール、デカノール、トリデカノール、フタル酸ジブチル、酢酸ブチル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどを用いることができる。
[バインダー]
導電性ペーストのバインダー樹脂としては、エチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル、ポリビニルブチラールなどの有機樹脂の中から1種以上を選択して使用する。
その分子量は、用いる有機溶剤に溶解するものであることが前提であるが、好ましくは20000〜200000の分子量の樹脂を用いる。なお、ペースト中の樹脂量は、1.0〜5.0wt%が望ましく、特に2.0〜4.0wt%がより好ましい。1.0wt%未満ではスクリーン印刷に適した粘度を得ることが困難であり、5.0wt%を超えると脱バインダー時に残留炭素量が増え、積層チップのデラミネ−ションを引き起こすので好ましくない。
更に粘度を調整するために、芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素が希釈剤として使用される。例えばデカン、ノナン、へプタンなどの脂肪族炭化水素、融点が190〜350℃で、好ましくは炭素数8〜20の脂肪族系高級アルコール、例えばデカノール、オクタノールなど、又は芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエンなどを単独で又は併用することができ、導電性ペースト印刷後の乾燥速度を調節したり、導電性ペーストに適度の粘度特性を付与したりする働きをする。
又、導電性ペーストには、必要に応じて消泡剤、分散剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤など導電性ペーストで公知の添加物を加えても良い。
導電性ペーストの製造には、3本ロールミル、ボールミルなど公知の方法を用いることができ、導電性ペーストの印刷(塗布)は、公知のスクリーン印刷で行なわれる。
[乾燥膜]
通常、導電性ペーストをスクリーン印刷によりグリーンシート等に塗布し、加熱乾燥して有機溶剤及びバインダーを除去し、所定のパターンの内部電極用乾燥膜を形成する。乾燥膜厚みは、スクリーンパターンの厚みを制御することで行なわれる。更に、電極膜中の過剰に残る炭素、即ち有機溶剤やバインダーに由来する残留炭素は、焼成後の電気特性、例えば静電容量、誘電損失、及び絶縁破壊電圧などを悪化させてしまうことから乾燥膜中の残留炭素量も制御される。
本発明において、導電性ペーストの乾燥膜密度は、5.3g/cm以上が望ましく、より望ましくは、5.5g/cm以上である。
尚、乾燥膜密度は高いことが望ましいが、金属ニッケルの真密度を超えることはできない。乾燥膜密度が、5.3g/cmより低いと、焼成時に緻密な電極膜が得られず、容量欠損などの問題が生じる。
乾燥膜密度の測定方法は、ニッケル粉末ペーストをPETフィルム上に5×10cmの面積で膜厚30μmとなるように印刷後、120℃で40分間、空気中で乾燥させる。乾燥したニッケル粉末ペースト乾燥膜を1×1cmに切断し、厚みと重量を測定して、数4に示す算出式で乾燥膜密度を算出する。
測定数は30箇所で行ない、得られた膜密度の平均値をその導電性ペーストの膜密度とした。
Figure 2010087434
乾燥膜密度の測定は、PETフィルム上に導電性ペーストを印刷して行うが、本発明の導電性ペーストを誘電体層グリーンシートに印刷しても同様の特性が発揮されるのはもちろんである。
ここで、乾燥膜密度とは、導電性ペーストを乾燥させた後の密度のことである。
本発明における平均表面粗さおよび最大突起高さの測定法は、アプリケーター(ギャップ厚5μm)を用いてガラス基板上にニッケルペーストを塗布後、120℃で5分間、空気中で乾燥させ、膜厚約3μmの乾燥膜を得る。次いで、乾燥膜について、光学的な方法、つまり位相シフト干渉方式により表面の突起を測定する。
具体的には、特定波長領域に限定された光源から光を、試料およびリファレンス鏡に照射し、試料およびリファレンス鏡に照射した光の干渉縞により表面状態を観察する。より詳細には、試料を1/4波長ごとに光が照射される方向に移動させて光の干渉縞から表面状態を観察する。たとえば、光干渉式表面形状測定装置(WYCO製NT−1100)を用いて、乾燥膜の最大突起高さを測定する。
最大突起高さの測定は、ガラス基板に本発明の導電性ペーストを塗布して行うが、誘電体層グリーンシートに本発明の導電性ペーストを印刷しても同様の特性が発揮されるのはもちろんである。
本発明の最大突起高さとは、任意の測定面積における輪郭曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値の和、すなわちRmax値ではなく、任意の測定面積における輪郭曲線の山高さの最大値を示す値としている。
[実施例および比較例]
以下、本発明を実施例および比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本発明の範囲は実施例によって何ら限定されるものではない。
導電性ペーストを3本ロールにより製造し、このペーストの乾燥膜評価として、乾燥膜密度及び最大突起高さ、電気特性評価として積層セラミックコンデンサの静電容量のばらつき(CV値;静電容量の標準偏差/静電容量の平均値)及び誘電損失を測定した。
(1)導電性ペーストの製造
導電性ペーストの成分組成は、ニッケル粉末(平均粒径0.4μmと0.2μm)を45wt%、表1に示すセラミック粉末(平均粒径0.12μm、0.07μm、0.05μm、0.04μm、0.02μm)を9.0wt%或いは4.5wt%、ビヒクルが2.8wt%、有機溶剤が43.2wt%或いは47.7wt%とした。
ビヒクルは、樹脂成分としてエチルセルロース(分子量70000):13wt%、有機溶剤としてターピネオール:87wt%からなり60℃に加熱して作製した。
ニッケル粉末の炭素含有率は、いずれも0.04%であった。
(2)積層セラミックコンデンサの製造
(1)で製造した導電性ペーストを用いて積層セラミックコンデンサを作製し、静電容量及び誘電損失の電気特性を評価して、表2に記した。
厚さ3μmの生の誘電体グリーンシート上に導電性ペーストを印刷、乾燥後に、20層積み重ねて圧着、切断し、3.2×1.6mmサイズのチップを作製した。このチップを脱バインダー後に、弱還元雰囲気下にて1260℃で焼成し、焼成後チップに端子電極を塗布した積層セラミックコンデンサを50個作製した。
作製した積層セラミックコンデンサを用いて静電容量C及び誘電損失tanδの電気特性評価を行った。その測定結果を表2に合わせて示した。
尚、チップ焼成後の内部電極厚は1.3μmで、誘電体層厚は2μmであった。
静電容量C(単位はμF)は、25℃でデジタルLCRメータ(YHP社製4278A)にて、周波数1kHz、測定電圧1Vrmsを印加した条件下で測定した。静電容量Cのばらつき(CV値)が2.5%以下の場合を良好とした。
誘電損失tanδ(単位は%)は、25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4278A)にて、周波数1kHz、測定電圧1Vrmsを印加した条件下で測定した。誘電損失tanδが3.5%以下の場合を良好とした。
Figure 2010087434
表1は、平均粒径、格子定数比(正方晶性)(c/a)、モル比(Ba/Ti)、変動係数CV値、アスペクト比が異なる種々のセラミック粉末の特性を示している。
表1のセラミック粉末A、B、C、Dは本願発明の範囲を全て満たすものであるが、セラミック粉末E、F、G、H、Iは何某かの特性が本発明の範囲外のものである。
Figure 2010087434
表2から明らかように、本願発明の範囲を全て満たしている本発明例1から本発明例4では、乾燥膜評価も積層セラミックコンデンサ電気特性も優れていることがわかる。
対して、比較例1では、炭素の含有量が乾燥膜密度に及ぼす影響は不明であるが、使用するニッケル粉末の炭素含有量が0.09wt%と本発明の範囲0.06%を大きく超えているため、同じセラミック粉末Dを用いた実施例4と比較して、乾燥膜密度が大きく低下しており、更に、焼成後の電極膜中に残留する残留炭素が原因となり静電容量のばらつきも大きく、誘電損失も悪化していることがわかる。
比較例2では、使用するセラミック粉末の平均粒径が0.12μmと大きいため、略球状のニッケル粉末粒子の接触点間に入り込みにくくなり、乾燥膜密度が4.8g/cmと大きく低下してしまっている。又、乾燥膜密度の低下やセラミック粉末の凝集粉末を起因として、最大突起高さが2.0μmとなり、その結果静電容量のばらつきや誘電損失を悪化させている。
比較例3では、使用するセラミック粉末の格子定数比(c/a)が1.0018と小さいいために、焼成時に内部電極層中の共材が誘電体層成形体中に放出され、添加した微粒の共材が誘電体層の焼結に関与し、誘電損失が大きくなっている。
比較例4では、使用するセラミック粉末のモル比Ba/Tiが1.042と大きく、粒度分布のばらつき(CV値)を大きくし、更にチタン酸バリウムの結晶格子内に存在するヒドロキシル基が増加するため、強熱減量が大きくなるので格子定数比(c/a)が低くなり、誘電損失や静電容量のばらつきを悪化させている。
比較例5では、使用するセラミック粉末の変動係数CV値が40%と大きいために、略球状のニッケル粉末粒子間の空隙に入り込みにくくなり、乾燥膜密度の低下を起こす他、導電性ペーストの焼結開始温度をセラミック層の焼結開始温度まで遅延する効果を弱めてしまい誘電損失及び静電容量のばらつきを悪化させている。
比較例6では、使用するセラミック粉末のアスペクト比が1.21と1.15より大きいため、略球状のニッケル粉末粒子間の空隙にセラミック粉末が入り込みにくくなり、導電性ペーストの乾燥膜の乾燥膜密度を高めることが困難となり、又焼成時におけるニッケル粉末の焼結を遅延させる働きが弱くなり、誘電損失や静電容量のばらつきを悪化させている。
表2より、使用するセラミック粉末の粒径、格子定数比(c/a)、モル比Ba/Ti、変動係数CV値、アスペクト比のどの因子が欠けても静電容量のばらつき(CV値)および誘電損失が本発明規格範囲内に制御できないことがわかる。

Claims (4)

  1. 少なくともセラミック粉末と導電性金属粉末からなる積層セラミック電子部品用導電性ペーストであって、
    ・前記セラミック粉末は、1)平均粒径が0.01〜0.1μm、2)結晶格子のc軸長とa軸長の格子定数比(c/a)が1.0020以上、3)バリウムとチタンのモル比(Ba/Ti)が0.995以上1.000以下、4)粒径の変動係数CVが35%以下、5)長軸と短軸の比(アスペクト比)が1.15以下のチタン酸バリウム粉末であり、
    ・前記導電性金属粉末は、1)前記セラミック粉末の平均粒径より大きく、且つ平均粒径0.4μm以下、2)炭素含有量0.06wt%以下のニッケル粉末である
    ことを特徴とする積層セラミック電子部品用導電性ペースト。
  2. 前記セラミック粉末が、前記導電性金属粉末重量を100重量部としたときに、3〜25重量部であることを特徴とする請求項1に記載の積層セラミック電子部品用導電性ペースト。
  3. 請求項1又は2記載の積層セラミック電子部品用導電性ペーストを印刷、乾燥して得られる膜密度が5.3g/cm以上、且つ最大突起高さが1.5μm以下の乾燥膜。
  4. 請求項3記載の前記乾燥膜を用いた内部電極層の厚みが1.5μm以下の積層セラミックコンデンサ。
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