以下、本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、様々な形態で実施することができる。
本実施形態において、ポルフィセンとは、式(2)の構造(ポルフィセン骨格)を有する化合物を指す。
[ビシクロ構造を有するポルフィセン]
本実施形態で開示されるポルフィセンは、ビシクロ構造を更に有することを特徴とする。
ビシクロ構造に限定はないが、具体的には、4π電子系の環状化合物と2π電子系の化合物とを環化付加させた構造を持つことが好ましく、4π電子系の環状化合物と2π電子系の化合物とをディールス・アルダー(Diels−Alder)反応により環化させた構造であることがより好ましい。
より具体的には、本実施形態のビシクロ構造を有するポルフィセンは、下記一般式(3)で表される構造を1つ以上有するポルフィセンであることが好ましい。
式中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、R1及びR2は互いに環を形成しても良い。Xは二価の連結基を表す。環は環状構造を表し、C1、C2はポルフィセン骨格の炭素原子を示す。nは0〜3の整数を表す。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜16のものが好ましい。また、これらは単環基に何ら限定されず、縮合多環式炭化水素基であっても良い。具体例としてはフェニル基等の単環基、ビフェニル基、フェナントリル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基等の縮合多環式炭化水素基、及びビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。好ましくは、置換基を有しても良いフェニル基、ナフチル基である。
芳香族複素環基としては、炭素数5〜20のものが好ましく、具体例としてはピリジル基、チエニル基、オキサゾール基、チアゾール基、オキサジアゾール基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、イミダゾイル基、フェニルカルバゾイル基等が挙げられる。好ましくは、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基である。
アルキル基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、具体例としてはi−プロピル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはスチリル基、ジフェニルビニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはメチルエチニル基、フェニルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
これらの置換基は更に置換基を有していても良い。更に有しても良い置換基としては、アリール基、アリールアミノ基、アルキル基、パーフルオロアルキル基、ハロゲン基、カルボキシル基、シアノ基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボニル基、オキシカルボニル基、カルボン酸基、複素環基などが挙げられる。好ましくは、炭素数6〜16のアリール基、炭素数12〜30のアリールアミノ基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基、フルオロ基、炭素数1〜10のオキシカルボニル基、シアノ基、炭素数1〜10のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリールオキシ基、炭素数2〜16のカルボニル基、炭素数5〜20の芳香族複素環基である。更に有しても良い置換基のうち、炭素数6〜16のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基などが挙げられる。炭素数12〜30のアリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、カルバゾイル基、フェニルカルバゾイル基などが挙げられる。炭素数1〜12のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基などが挙げられる。炭素数1〜10のオキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。炭素数1〜10のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。炭素数6〜16のアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基などが挙げられる。炭素数2〜16のカルボニル基の例としては、アセチル基、フェニルカルボニル基などが挙げられる。炭素数5〜20の芳香族複素環基の例としては、ピリジル基、チエニル基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、イミダゾイル基などが挙げられる。
Xは二価の連結基を表す。二価の連結基であれば特に限定はないが、具体的には、炭素数1〜3の置換基を有しても良いアルキレン基、酸素原子、−N=N−(ジアゾ基)、−COO−−SONR−、−NR−、−CO−CO−等が挙げられる。好ましくは、置換基を有しても良いエチレン基である。
環は環状構造をあらわす。環状構造は特に限定されないが、具体的には、芳香族炭化水素環、又は芳香族複素環であれば良い。好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環、ピリジン環である。
nは0−3の整数を表す。好ましくは、nは0〜2の整数である。
R1及びR2は互いに環を形成しても良い。具体的な例としては式(4)に示される構造が挙げられるが、これらに限られる訳ではない。これらの環は置換基を有しても良い。
本実施形態のビシクロ構造を有するポルフィセンは、ビシクロ構造を1個以上4個以下含むことが好ましい。ビシクロ構造を2−4個含むことが、更に好ましい。しかし、含有するビシクロ構造の数はこれに限定されない。
ポルフィセン中のビシクロ構造の位置は特に限定されないが、好ましくは下記の式(5)で示されるようにビシクロ構造が存在する。
式(5)中、R’はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、隣接するR'は互いに環を形成しても良い。Mは2個の水素原子又は金属原子を表し、価数に応じて置換基若しくは配位子、又はその双方を有しても良い。4つのC3=C4結合部分のうち、少なくとも1つは下記の式(6)に示される構造をとり、他のC3=C4結合部分は、置換基を有しても良い−CH2=CH2−基である。
式(6)中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、R1及びR2は互いに環を形成しても良い。Xは二価の連結基を表す。環は環状構造を表し、C1、C2はポルフィセン骨格の炭素原子を示す。nは0〜3の整数を表す。
式(5)において、Mは2H又は金属原子を表し、価数に応じて置換基又は配位子、あるいはその双方を有しても良い。金属原子としては、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、アルミニウム、ケイ素、イリジウム、白金、銀、ランタン等が挙げられるが、これに限定されない。また、配位子としては式(7)に示されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のビシクロ構造を有するポルフィセンは、式(8)に示されるものであることが更に好ましい。
式(8)中、R’及びR’’はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、隣接するR'及びR’’は互いに環を形成しても良い。Mは2個の水素原子又は金属原子を表し、価数に応じて置換基若しくは配位子、又はその双方を有しても良い。Yは炭素原子若しくは窒素原子を表す。
本発明のビシクロ構造を有するポルフィセンの具体例を式(9)に示す。
本発明のビシクロ構造を有するポルフィセンを合成するための一般的な合成法を、反応式(I)を参照して以下で述べる。
反応式(I)において、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、隣接するRは互いに環を形成しても良い。
工程1:まず、出発原料であるビシクロ骨格を有するピロール誘導体(10)を、クロロホルムなどの有機溶剤中でヨウ素やN−ヨードスクシンイミドと反応させることにより、ヨウ素化したピロール誘導体(11)を得る。
工程2:ピロール誘導体(11)をN,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤中に溶かし、銅又はヨウ化銅等の触媒存在下、反応させることによりピロールダイマー(12)を得る。
工程3:ピロールダイマー(12)をN,N−ジメチルホルムアミド中、オキシ塩化リンと反応させることにより、ビスホルミル体(13)を得る。
工程4:ビスホルミル体(13)をテトラヒドロフラン等の有機溶剤に溶かし、ピリジンなどの塩基存在下、四塩化チタンと亜鉛を用いてマクマリーカップリング(McMurry Coupling)することにより、本実施形態のビシクロ構造を有するポルフィセン(14)を得る。
なお、ビスホルミル体(13)のアルデヒド部位をケトンへと変換とすることにより、R’に水素原子以外の置換基を有する、式(5)に示されるビシクロ構造を有するポルフィセンを得ることもできる。一例として、ビスホルミル体(13)のアルデヒド部位に対し、グリニャール試薬を含むがこれに限定されない求核剤を用いて付加反応を行った後に、ジョーンズ酸化を含むがこれに限定されない酸化反応を用いてケトンを得れば良い。
ビシクロ骨格を有するピロールのα位をヨウ素化し、Ullmannカップリング反応により2量化する。その後ピロールダイマーの2つのα位を ホルミル化し、McMurryカップリングによってポルフィセンへと縮環することが、工程1〜4の概略である。なお、ポルフィセンは、酢酸亜鉛で処理することにより、亜鉛錯体へと変換できる。
[共役拡張ポルフィセン]
本発明のビシクロ構造を有するポルフィセンは、変換して、共役拡張ポルフィセンとすることが出来る。
熱変換、光変換等の変換方法が使用可能であり、熱変換を用いることが好ましい。熱変換は、0℃〜400℃で行うことが好ましく、50℃〜300℃で行うことが更に好ましい。
本発明のビシクロ構造を有するポルフィセンは、熱変換等の反応条件下で脱離反応を起こし、ビシクロ構造の一部である、式(3)に示す連結基Xが脱離する。脱離反応には、逆ディールス・アルダー(Retro−Diels−Alder)反応が含まれるが、これには限定されない。具体的には、式(3)のビシクロ構造を有するポルフィセンを用いると、式(15)で示される構造を1つ以上有するポルフィセンが生成する。
式中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、R1及びR2は互いに環を形成しても良い。環は環状構造を表し、C1、C2はポルフィセン骨格の炭素原子を示す。nは0〜3の整数を表す。
式(5)に示されるビシクロ構造を有するポルフィセンを用いて脱離反応を行うことが好ましく、この場合、下記の式(16)に示されるポルフィセンが生成する。
式(16)中、R’はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、隣接するR'は互いに環を形成しても良い。Mは2個の水素原子又は金属原子を表し、価数に応じて置換基若しくは配位子、又はその双方を有しても良い。4つのC3=C4結合部分のうち、少なくとも1つは式(17)に示される構造をとり、他のC3=C4結合部分は、置換基を有しても良い−CH2=CH2−基である。
式(17)中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、R1及びR2は互いに環を形成しても良い。環は環状構造を表す。nは0〜3の整数を表す。
式(8)に示されるビシクロ構造を有するポルフィセンの脱離反応を起こし、下記の式(18)に示される共役拡張ポルフィセンを得ることが、更に好ましい。
式(18)中、R’及びR’’はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、隣接するR'及びR’’は互いに環を形成しても良い。Mは2個の水素原子又は金属原子を表し、価数に応じて置換基若しくは配位子、又はその双方を有しても良い。Yは炭素原子若しくは窒素原子を表す。
式(15)に示される共役拡張ポルフィセンのうち、下記の式(19)に示される構造を1つ以上有する共役拡張ポルフィセンは新規化合物であり、その共役構造から、特異な光学特性、電気化学特性を有する。
式(19)中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、R1及びR2は互いに環を形成しても良い。環は環状構造を表し、C1、C2はポルフィセン骨格の炭素原子を示す。nは、R1及びR2の双方が水素原子の場合は1〜3の整数を、R1とR2の少なくとも片方が水素原子ではない場合は0〜3の整数を表す。
また、式(18)に示される共役拡張ポルフィセンのうち、式(20)に示される構造を有する共役拡張ポルフィセンは新規化合物であり、その共役構造から、特異な光学特性、電気化学特性を有する。
式(20)中、R’及びR’’はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表し、隣接するR'及びR’’は互いに環を形成しても良い。Mは2個の水素原子又は金属原子を表し、価数に応じて置換基若しくは配位子、又はその双方を有しても良い。Yは、R’及びR’’の全てが水素原子である場合は窒素原子を、R’又はR’’の少なくとも1つが水素原子ではない場合は炭素原子若しくは窒素原子を表す。
[ビシクロ構造を有するポルフィセン及び共役拡張ポルフィセンの有用性]
本実施形態のビシクロ構造を有するポルフィセン及び共役拡張ポルフィセンは、様々な用途に応用することができる。その1例として、フィルムに加工する方法について述べる。
ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリマーを有機溶剤に溶かした溶液に、本実施形態のポルフィセンを均一に溶解させた後、用途に合わせた形に成形し、溶媒を飛ばすことにより、フィルムを得ることが出来る。
本実施形態のフィルムは、本実施形態のポルフィセンを、0.2〜20重量%含有することが好ましく、0.2〜10重量%含有することが更に好ましい。有機溶剤としては有機溶剤はトルエンやクロロホルム等を用いることができるが、これに限定されない。
また、本実施形態のポルフィセンは、蛍光色素(発光色素とも称される)として用いることができる。本実施形態のポルフィセンに、365〜420nmの波長範囲に発光極大を有する光源からの光を当てると、本実施形態のポルフィセンは蛍光を発する。この性質を用いて、例えば、有機溶剤に本化合物を溶解させ、紙幣などに印字すれば、偽造防止として利用することが可能となる。また、前述のフィルムを、イルミネーション等の光表示装置に利用することも出来る。
本発明のポルフィセンは、通常は近紫外〜可視〜近赤外領域に強い光の吸収を有する。これを利用して、本発明のポルフィセンは、光機能材料として用いることもできる。この場合、本発明の有機電子素子の具体例としては、吸収された光により電荷分離を引き起こし機能する素子等が挙げられる。このような素子としては、例えば、光により起電力を生じる太陽電池、光電流を生じるフォトダイオード等の光電変換素子、フォトトランジスタ等が挙げられる。ここで、太陽電池は、半導体と金属又は他の半導体との接合部分に生じる内部電界を利用して、光による電荷分離を引き起こし、これを外部に取り出すものである。また、このような素子は、例えば、光の吸収により生じた励起状態を利用して、ラジカル発生剤を増感したり、直接励起状態からラジカルを発生させたりすることにより、光ラジカル発生等にも応用できる。
本実施形態のポルフィセンは、また、電子デバイスなどに用いることができる。電子デバイスの構成の例を挙げると、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質等により制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置などが挙げられる。また、例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子などが挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。
現在シリコン等の無機半導体で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。また、光により起電力を生じる太陽電池や、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスター等の光素子も挙げることができる。本実施形態のポルフィセンは、これらの電子デバイスにおいて、有機半導体として用いることができる。中でも、本発明の電子デバイスは、電界効果トランジスタ、太陽電池、又はエレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。なお、本実施形態のポルフィセンを有機半導体として使用する場合、本実施形態のポルフィセン以外の有機半導体を併用しても良い。
本実施形態のポルフィセンを、電子デバイスにおいて有機半導体以外の用途で用いても良い。例えば、本実施形態のポルフィセンを用いて電子デバイスの所望の位置に膜を形成し、その膜の導電率を分子構造あるいはドーピング等で制御することにより、この膜を配線に用いたりコンデンサやFET中の絶縁層に用いたりすることもできる。
電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
本実施形態のポルフィセンを適用するのに好適な電子デバイスの例としては、電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。以下、このFETについて詳細に説明する。
図1は、FETの構造の例を模式的に示す図である。図1において、1が半導体層、2が絶縁体層、3及び4がソース電極及びドレイン電極、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ示す。
ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極の各電極には、例えば、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属の他、InO2、SnO2、ITO等の導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子、及び、それに塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウムカリウム等の金属原子等のドーパントを添加したもの、カーボンブラックや金属粒子を分散した導電性の複合材料等の、導電性を有する材料が用いられる。
また、絶縁体層に用いられる材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、窒化珪素等の窒化物、チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウム等の強誘電性酸化物、あるいは、上記酸化物や窒化物、強誘電性酸化物等の粒子を分散させたポリマー等が挙げられる。
一般に絶縁膜の静電容量が大きくなるほどゲート電圧を低電圧で駆動できることになるので、有利になる。これには、誘電率の大きな絶縁材料を用いるか、絶縁体層の厚さを薄くする事に対応することができる。絶縁体層は、塗布(スピンコーティングやブレードコーティング)、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、アルミ上のアルマイトの様に金属上に酸化膜を形成する方法等、材料特性に合わせた方法で作製することができる。
また、FETは、通常基板上に作製する。基板としては任意のものを用いることができ、例えば、ポリマーの板、フィルム、ガラス、あるいは金属をコーティングにより絶縁膜を形成したもの、ポリマーと無機材料の複合材等を用いることができる。さらに、基板には基板処理を施すことにより、FETの特性を向上させることができる。これは基板の親水性/疎水性を調整して、成膜の際に得られる膜質を向上させること、特に基板と半導体層の界面部分の特性を改良することによるものと推定される。このような基板処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等の疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理が挙げられる。
さらに、このFETにおいては、半導体層を、本実施形態のポルフィセンを含む有機半導体により形成する。半導体層は、基板上に直接又は他の層を介して有機半導体を膜状に形成したものである。ここで、半導体層には、本実施形態のポルフィセン以外にも、他の化合物(他の有機半導体など)を含有させても良い。また、半導体層は、特定化合物の層と、それ以外の半導体の層とを積層した積層構造で構成しても良い。
半導体層の膜厚に制限は無く、例えば横型の電界効果トランジスタの場合、素子の特性は必要な膜厚以上であれば膜厚には依存しない。ただし、膜厚が厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多いため、半導体層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは500nm以下である。また、半導体層の形状は基板上に形成された均一な膜の状態以外にも、例えば塗布液(有機半導体を適切な溶媒に溶解させた溶液)が液滴として付着した場合であっても、その付着物の厚さが上記範囲であるのが好ましい。
上記の半導体層は、例えば、本実施形態のビシクロ構造を有するポルフィセンを必要に応じて溶媒に溶解して溶液(塗布液)とし、当該塗布液を塗布対象(基板等)に塗布し、塗布されたビシクロ構造を有するポルフィセン層内のビシクロ構造を有するポルフィセンに脱エチレン誘導体反応(逆ディールスアルダー反応)を進行させることによって形成することができる。特に、逆ディールスアルダー反応により生成する共役拡張ポルフィセンが、塗布液の溶媒に難溶なものが、塗布法で膜形成するのに有用である。この際、ビシクロ化合物として本発明の化合物を用いると、溶媒の選択の幅を広げ、より好適な溶媒を使用することが可能である。
ビシクロ構造は立体的にかさ高いため、結晶性が悪く、この構造を有する分子は溶解性が良好で、かつ、溶液から塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定形の膜が得やすい性質を有することが多い。さらに、加熱により逆ディールスアルダー反応を生じてベンゼン環に変化すると平面性の良好な分子構造になるために、結晶性の良好な分子に変化する。したがって、ビシクロ構造を有するポルフィセンからの化学変化を利用することにより、塗布法という簡便な方法により結晶性の良好な有機半導体層を得ることが出来る。また、ビシクロ構造を有するポルフィセン中でも、加熱処理によりベンゾポルフィリン及びその金属錯体に変換するものが、有機半導体として高特性を有するので、特に望ましい。
塗布液の溶媒、即ち、ビシクロ構造を有するポルフィセンを溶解させる溶媒としては、例えば有機溶媒が挙げられる。中でも、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、及びハロゲン非含有芳香族系溶媒からなる群より選ばれるいずれかが好ましい。ケトン系溶媒の具体例を挙げると、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ショウノウ等が挙げられる。これらの中で、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンが更に好ましい。
また、エステル系溶媒の具体例を挙げると、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、イソ吉草酸エステル、ステアリン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エチル、アビエチン酸エステル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、γ−ブチロラクトン、シュウ酸エステル、マロン酸エステル、マレイン酸エステル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸エステル、フタル酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、二酢酸エチレン、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールモノアセタート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、モノブチリン、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、ホウ酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。これらの中で、安息香酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールモノアセタートが更に好ましく、安息香酸エステルが特に好ましく、安息香酸エチルが最も好ましい。
さらに、ハロゲン非含有芳香族系溶媒の具体例を挙げると、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、p−シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、メトキシトルエン、アニリン、ベラトロール、ニトロベンゼン等が挙げられる。これらの中で、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソールが更に好ましい。なお、溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、塗布液を塗布する方法としては、溶媒をたらすだけのキャスティング、スピンコーティング、ディップティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。さらに、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入する方法等も挙げられる。
さらに、ビシクロ構造を有するポルフィセンは、真空プロセスにより基板上に成膜してFETを作製することもできる。この場合には、ビシクロ化合物をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、基板に付着させる真空蒸着法を用いることが出来る。この際、真空度としては、通常1×10−3Torr以下、好ましくは1×10−5Torr以下が望ましい。なお、1Torr=1.33322×102Paである。
また、真空度と蒸着源であるビシクロ化合物の加熱温度の条件を調節することにより、種々の方法を採用できる。例えば、ビシクロ化合物を蒸着源でまず脱エチレンさせた後に蒸着する事もできるし、この反応温度より低温でビシクロ化合物のまま蒸着した後に、基板上に成膜された膜の加熱処理を行ない、脱エチレン反応により有機半導体層に変換することもできる。このような方法を採用することにより、共役拡張ポルフィセンを高純度で含む半導体層を得ることができる。
また、基板温度でデバイスの特性が変化するので、最適な基板温度を選択することが好ましい。具体的には、蒸着時の温度は0℃から200℃の範囲が好ましい。また、蒸着速度は通常0.01Å/秒以上、好ましくは0.1Å/秒以上、また、通常100Å/秒以下、好ましくは10Å/秒以下である。材料を蒸発させる方法としては、加熱の他、加速したアルゴン等のイオンを衝突させるスパッタ法も用いることが出来る。なお、1Å=10-10mである。
さらに、ビシクロ化合物の脱エチレン反応は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上加熱処理により引き起こされる。また、上限は400℃以下、好ましくは300℃以下であり、高温ほど反応時間は短く、低温ほど反応時間を長く取ることが多い。また、FETの用途によっては、成膜したビシクロ化合物の膜を部分的に変換して特性を調整することも可能である。この際には、例えば、低温あるいは短時間での処理で行われる。また、加熱には、ヒーターを用いて伝熱による加熱の他、炭酸ガスレーザーや赤外線ランプ、あるいはこのビシクロ化合物の吸収する波長の光を照射する事も利用できる。この際、ビシクロ化合物の近傍に光を吸収する層を設け、光をこの層で吸収させることにより、加熱することも可能である。
さらに、作製された半導体層は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上や安定化を図ることができる。さらに、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
また、ドーピングと呼ばれる微量の原子や原子団、分子、高分子を加えることにより、特性を変化させて望ましいものにすることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等をドーピングする事が挙げられる。これは、これらのガスに接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは膜の形成後でなくても、材料合成時に添加したり、溶液からの作製プロセスでは、その溶液に添加したり、前駆体膜の段階で添加することができる。また蒸着時に添加する材料を共蒸着したり、膜形成時の雰囲気に混合したり、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられ、半導体デバイスでは良く利用されているものである。ドーピング処理は同様にFET以外の他の電子デバイスでも利用することができる。
また、FETをはじめとした電子デバイス作製の為の電極や配線には、金、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、等の金属、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、等の導電性高分子及びそのドーピングされた材料、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、等の半導体及びそのドーピングされた材料、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、を用いることができる。これらを形成する方法も、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等を用いることができる。また、そのパターニング方法も、フォトレジストのパターニングとエッチング液や反応性のプラズマでのエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法及びこれらの手法の複数の組み合わせた手法を利用することができる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり材料の導電性を変化させる事により、直接パターンを作製することも利用できる。
さらに、電子デバイスは、半導体特性を改良したり、外気の影響を最小限にするために、保護膜を形成することができる。これには、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート樹脂等のポリマー膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜等が挙げられる。ポリマー膜は、溶液の塗布乾燥する方法、モノマーを塗布あるいは蒸着して重合する方法が挙げられ、さらに架橋処理や多層膜を形成することも可能である。無機物の膜の形成には、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。半導体に接するポリマー膜は、半導体特性の改良にはポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリベンジルメタクリレート、ポリアセナフチレン、ポリカーボネート樹脂等の芳香環を含むものが好ましく、その上にガスバリア性を有する膜、例えば窒化珪素や酸化ケイ素等の無機膜、アルミニウムやクロム等の金属膜を積層するのが好ましい。また、用途などに応じて、電子デバイスには上述した以外の層や部材を設けても良い。
以下、本発明の実施例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1] ビシクロ構造を有する、ベンゾポルフィセン前駆体の合成
反応容器に1,1’−ビス(4,7−エタノ−3−エトキシカルボニル−4,7−ジヒドロイソインドール)(21)(2.16g、 5.0mmol)、水酸化ナトリウム(1.8g、 45mmol)を入れアルゴン置換した。ここにエチレングリコール(50ml)を加え、170℃で1時間撹拌した。反応終了後室温まで冷却し、水を加え(50ml)、酢酸エチル(50ml×3)で抽出した。得られた有機層を水(50ml×3)と飽和食塩水(50ml×1)で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)、再結晶(ジクロロエタン/ヘキサン)で精製し、1,1’−ビス(4,7−エタノ−4,7−ジヒドロイソインドール)(22)を無色結晶として得た(1.02g、 3.5mmol)。収率は71%であった。なお、化合物(21)は、N. Ono, K. Kuroki, E. Watanabe, N. Ochi, H. Uno, Heterocycles 2004, 62, 365-373に記載の方法で合成した。
反応容器に化合物(22)(1.01g, 3.5mmol)を入れアルゴン置換した。ここに塩化メチレン(30ml)、N,N−ジメチルホルムアミド(10ml)を加えて溶解させた。ついでオキシ塩化リン(1.5ml)を5分間かけて加え、1時間還流させた。室温まで冷却し、酢酸ナトリウム水溶液(0.85M、 30ml)を10分間かけて加えさらに1時間還流させた。反応終了後、有機層と水層を分離し、水層を塩化メチレン(10ml×3)で抽出した。有機層と塩化メチレン抽出液とを合わせ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20ml×2)、水(20ml×3)、飽和食塩水(20ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:酢酸エチル=4:1)、再結晶(ジクロロメン/ヘキサン)で精製し、1,1’−ビス(4,7−エタノ−3−ホルミル−4,7−ジヒドロイソインドール)を黄色結晶として得た(1.12g、 3.3mmol)。収率は93%であった。
三つ口反応容器に亜鉛(粉末)(3.27g)、塩化銅(I)(0.2g, 2.0mmol)を入れアルゴン置換した。ここにテトラヒドロフラン(170ml)を加え、四塩化チタン(2.74ml, 25mmol)を氷浴下で15分間かけて加えてから2時間還流した。ついで化合物(23)(0.34g, 1.0mmol)のテトラヒドロフラン(170ml)溶液を1時間以上かけて加えた。更に1時間還流した後、0℃まで冷却した。ここに6%アンモニア水(100ml)を1時間かけて加え、さらに30分間撹拌した。生じた固体をセライトで濾過して除去し、有機層と水層を分離して、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)、再結晶(ジクロロメタン/メタノール)で精製し、ビシクロ構造を有する、ベンゾポルフィセン前駆体(24)を青色結晶として得た(69mg、 0.11mmol)。収率は22%であった。
NMRにより、化合物(24)の純度と構造の同定を行った。また、TOF−MSにより、得られた化合物の質量を測定し、生成物の同定を行った。化合物(24)の分子量の計算値622に対し、623及びその値から28ずつ減少した4本のピークが見られ、目的生成物が得られるとともに、MSの測定条件で4つのエチレン分子が脱離したことも確認した。また熱分析により、加熱による逆Diels−Alder反応の際に4分子のエチレン分子が脱離する温度とその質量減少の割合を求め、計算値と比較することで、分子内の脱離基の数の確認と、純度(含溶媒量)を見積もった。4分子のエチレン脱離に伴う質量減少の計算値は18%であり、実測値19%とほぼ一致した。
化合物(24)の1H−NMRスペクトルは、次の通りであった。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) 9.79-9.76 (m, 4H, meso), 7.27-7.02 (m, 8H, -HC=CH-), 6.03 (m, 4H, bridge head), 5.29 (m, 4H, bridge head), 2.22-1.67 (m, 16H, bridge), 0.78 (m, 2H, -NH)。化合物(24)の1H−NMRスペクトル(測定機器:JEOL AL−400、400MHz、重クロロホルム溶液)を、図2に示す。また、化合物(24)の熱分析データ(測定機器:SII Exstar 600 TG/DTA 6200)を、図3に示す。また、化合物(24)のTOF−MSスペクトル(測定機器:Applied Biosystems Voyager de Pro)を、図4に示す。
[実施例2]ベンゾポルフィセン前駆体亜鉛錯体の合成
化合物(24)(10mg, 0.016mmol)のクロロホルム(10ml)溶液に酢酸亜鉛飽和メタノール溶液(5ml)を加えて24時間還流させた。反応終了後室温まで冷却して濃縮した。アルミナカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)、再結晶(クロロホルム/ヘキサン)で精製し、ベンゾポルフィセン前駆体亜鉛錯体(25)を紫色結晶として得た(7.1mg、 0.010mmol)。収率は66%であった。
NMRにより、化合物(25)の純度と構造の同定を行った。また、化合物(25)の分子量の計算値684に対し、684及びその値から28ずつ減少した4本のピークが見られ、目的生成物が得られるとともに、MSの測定条件で4つのエチレン分子が脱離したことも確認した。
化合物(25)の1H−NMRスペクトルは、次の通りであった。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) 9.98-9.96 (m, 4H, meso), 7.26-7.14 (m, 8H,-HC=CH-), 6.10 (m, 4H, bridge head), 5.67 (m, 4H, bridge head), 2.25-1.91 (m, 16H, bridge)。化合物(25)の1H−NMRスペクトル(測定機器:JEOL AL−400、400MHz、重クロロホルム溶液)を、図5に示す。また、化合物(24)のTOF−MSスペクトル(測定機器:Applied Biosystems Voyager de Pro)を、図6に示す。これらのデータにより、化合物(25)の構造が確認された。
[実施例3]ベンゾポルフィセン前駆体からテトラベンゾポルフィセンへの変換
ミクロチューブに化合物(24)を入れグラスチューブオーブンを用いて真空下、30分間、200℃で加熱した。収率はquant.であった。
化合物(24)及び化合物(26)の、それぞれのクロロホルム溶液の吸収スペクトルを、図7に示す。図7において、実線は化合物(24)を、点線は化合物(26)を示す。吸収スペクトルにより、化合物(24)から化合物(26)に変換すると、Soret帯及びQ帯のピークが長波長シフトしていることから、逆Diels−Alder反応が起こってπ共役が拡張していることが示唆された。
[実施例4]ベンゾポルフィセン前駆体亜鉛錯体からテトラベンゾポルフィセン亜鉛錯体への変換
ミクロチューブに化合物(25)を入れ、真空下グラスチューブオーブンを用いて30分間、200℃で加熱した。収率はquant.であった。
[実施例5]ナフトポルフィセン前駆体の合成
反応容器に4,9−エタノ−1−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロベンゾ[f]イソインドール(27)(1.1g, 4.2mmol)、ベンジルトリメチルアンモニウムジクロロヨウ素酸塩(BTMA・ICl2)(1.5g, 4.3mmol)、炭酸カルシウム(0.85g, 8.5mmol)を入れ、テトラヒドロフラン(40ml)とメタノール(20ml)とを加えて溶解させ、4時間還流した。反応終了後、水(100ml)を加え、反応液をクロロホルム(50ml×3)で抽出した。有機層を飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液(50ml)、水(50ml×3)、飽和食塩水(50ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。生じた固体をメタノール(30ml)で洗浄し、4,9−エタノ−1−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロ−1−ヨードベンゾ[f]イソインドール(28)の白色固体として得た(1.57g、 4.0mmol)。収率は94%であった。なお、化合物(27)は、S. Uto, N. Ochi, H. Uno, T. Murashima, N. Ono Chem Commun. 2000, 893-894に記載の方法で合成した。
三つ口反応容器に4,9−エタノ−1−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロ−1−ヨードベンゾ[f]イソインドール(28)(1.38g, 3.5mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(24mg, 0.2mmol)を入れアルゴン置換した。ここにテトラヒドロフラン(15ml)、トリエチルアミン(0.5ml, 3.6mmol)、二炭酸ジ−tert−ブチル(0.96ml, 4.2mmol)の順番で加え、2時間還流させた。反応終了後、溶媒を除去した後、クロロホルム(30ml)で希釈した。クロロホルム希釈液を水(15ml×3)、飽和食塩水(15ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し4,9−エタノ−1−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロ−1−ヨード−2N−tert−ブトキシカルボニルベンゾ[f]イソインドール(29)を得た(1.75g、 3.5mmol)。収率はquant.であった。
反応容器に4,9−エタノ−1−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロ−1−ヨードベンゾ−2N−tert−ブトキシカルボニルベンゾ[f]イソインドール(29)(1.68g, 3.4mmol)、銅粉末(2.0g)を入れアルゴン置換した。ここにN,N−ジメチルホルムアミド(15ml)を加え、110度で5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、銅をセライトで濾過し、ジクロロメタン(50ml)で濾紙上の銅を洗浄し、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドを減圧下除いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製し、1,1’−ビス(4,9−エタノ−10−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロ−2N−tert−ブトキシカルボニルベンゾ[f]イソインドール)(30)の粗生成物を得た。化合物(30)はこれ以上精製せずに次の反応に使用した。
次に1,1’−ビス(4,9−エタノ−10−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロ−2N−tert−ブトキシカルボニルベンゾ[f]イソインドール)(30)を酢酸エチル(30ml)に溶解させた。ここに12規定塩酸(10ml)を加えて室温で17時間撹拌した。反応終了後、水を加え、酢酸エチル(20ml×3)で抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20ml×2)、水(20ml×3)、飽和食塩水(20ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ジクロロメタン=5:95)で精製し1,1’−ビス(4,9−エタノ−10−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロベンゾ[f]イソインドール)(31)を白色固体として得た(0.55g、 1.0mmol)。収率は59%(2ステップ)であった。
反応容器に1,1’−ビス(4,9−エタノ−10−エトキシカルボニル−4,9−ジヒドロベンゾ[f]イソインドール)(31)(0.52g, 1.0mmol)、水酸化ナトリウム(1.0g)、及びエチレングリコール(30ml)を入れアルゴン置換し、170度で1時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却したあと水(30ml)を加え、酢酸エチル(20ml×3)で抽出した。有機層を水(20ml×3)、飽和食塩水(20ml)の順番で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製し1,1’−ビス(4,9−エタノ−4,9−ジヒドロベンゾ[f]イソインドール)(32)を白色固体として得た(0.24g、 0.693mmol)。収率は63%であった。
反応容器に1,1’−ビス(4,9−エタノ−4,9−ジヒドロベンゾ[f]イソインドール)(32)(0.194g, 0.5mmol)を入れアルゴン置換した。ここにジクロロメタン(10ml)、N,N−ジメチルホルムアミド(5ml)を加えた。次いでオキシ塩化リン(0.5ml, 5.3mmol)を5分間かけてゆっくり加え、1時間還流した。室温まで冷却した後、酢酸ナトリウム水溶液(0.16M)を30ml加えさらに30分間還流した。反応終了後室温まで冷却し、有機層と水層を分離し、水層を塩化メチレン(10ml×3)で抽出した。有機層と塩化メチレン抽出層を合わせ、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10ml×2)、水(10ml×3)、飽和食塩水(10ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ジクロロメタン=1:4)、再結晶(クロロホルム/ヘキサン)で精製し、1,1’−ビス(4,9−エタノ−4,9−ジヒドロ−10−ホルミルベンゾ[f]イソインドール)(33)を黄色結晶として得た(0.21g、 0.46mmol)。収率は92%であった。
三つ口反応容器に亜鉛(粉末)(0.98g)、塩化銅(I)(48mg, 0.48mmol)を入れアルゴン置換した。ここにテトラヒドロフラン(50ml)を加えてから、四塩化チタン(0.83ml, 7.6mmol)を氷浴下でゆっくり5分間かけて加えてから2時間還流した。ついで化合物(33)(0.13g, 0.3mmol)のテトラヒドロフラン(50ml)溶液を1時間以上かけて加えた。さらに1時間還流した後、0℃まで冷却した。ここに6%アンモニア水(30ml)を30分間かけてゆっくり加え、さらに30分間撹拌した。生じた固体をセライトで除去し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)、再結晶(クロロホルム/メタノール)で精製し、ナフトポルフィセン前駆体(34)を青色結晶として得た(12mg、 0.015mmol)。収率は10%であった。NMRにより、化合物(34)の純度と構造の同定を行った。
化合物(34)の1H−NMRスペクトルは、次の通りであった。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) 9.98-9.96 (m, 4H, meso), 7.26-7.14 (m, 8H,-HC=CH-), 6.10 (m, 4H, bridge head), 5.67 (m, 4H, bridge head), 2.25-1.91 (m, 16H, bridge)。 化合物(34)の重クロロホルム中の1H−NMRスペクトルを図8に示す。また、化合物(34)のクロロホルム中の吸収スペクトルを図9に示す。
化合物(24)、(25)、(26)、及び(35)について、吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを図10及び図11に示す。吸収スペクトルにより、化合物(24)から(26)、及び化合物(25)から(35)に変換すると、Soret帯及びQ帯のピークが長波長シフトしていることから、逆Diels−Alder反応が起こってπ共役が拡張していることが示唆された。
化合物(24)、(25)、(26)、及び(35)の絶対蛍光量子収率は、次の通りである。BCODPc2H(化合物(24)):0.27%。BCODPcZn(化合物(25)):27.8%。BenzoPc2H(化合物(26)):26.5%。BenzoPcZn(化合物(35)):34.6%。絶対蛍光量子収率は、浜松ホトニクス Absolute PL Quantum Yield Measurement System C9920−02で測定した。