JP2009215547A - 有機顔料前駆体及びそれを用いた有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びに新規な化合物 - Google Patents

有機顔料前駆体及びそれを用いた有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びに新規な化合物 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも熱分解しにくい有機顔料前駆体及びそれを用いた効率のよい有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びにそれらに使用できる新規な化合物を提供する。
【解決手段】熱分解しやすい二重結合を単結合に変えるとともに、当該単結合を構成する炭素原子に脱離基を付加することで、従来よりも熱分解しにくい有機顔料前駆体及びそれを用いた効率のよい有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びにそれらに使用できる新規な化合物を提供することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、有機顔料前駆体及びそれを用いた有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びに新規な化合物に存する。
有機顔料は、通常の溶媒に難溶性を示す高結晶性の有機色素である。有機顔料の製造方法としては、例えば非特許文献1及び非特許文献2に記載されている方法のように、溶媒に可溶性の有機顔料前駆体から有機顔料を得る方法が開示されている。
有機顔料は、例えば、塗装、カラーフィルター等の色素としての用途に利用されている。また、有機顔料の中でも半導体特性を有する有機顔料は、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、成膜することにより半導体膜としても利用されている。
中でも、フタロシアニン骨格を有する有機顔料(以下、適宜「フタロシアニン顔料」と言う。)は、可視領域に特徴的な強い吸収を示し、古くから有機顔料として利用されてきた。また、フタロシアニン顔料は、良好な半導体特性を示すことも知られており、エレクトロルミネッセンス素子、電界効果トランジスタ等の有機トランジスタ、有機太陽電池、光センサー等の光電変換素子、センサー等の有機電子素子への応用も検討されている。
フタロシアニン顔料の製造方法として、特許文献3には、フタロシアニン顔料前駆体を加熱することにより、フタロシアニン顔料を製造する方法が開示されている。特許文献3においては、下記式(A)で表わされるジシアノ化合物の4量環化を行うことで、フタロシアニン顔料前駆体を製造している。
Figure 2009215547
特開2004−6750号公報 特開2003−304014号公報 特開2003−327588号公報
Nature 388巻131頁(1999) 日本画像学会誌 44巻347頁(2005)
有機顔料を、例えば半導体として用いるために、有機顔料を均一の膜に成形(即ち、成膜)しようとする場合、有機顔料は通常の溶媒に対して難溶性を示すことから、通常は蒸着法を用いて成膜していた。しかし、蒸着法は製造コストが高く、大面積の製膜が困難であるという課題を有していた。
そこで、溶媒に可溶性を示す有機顔料前駆体を適切な溶媒に溶解して有機顔料前駆体溶液を用意し、当該有機顔料前駆体溶液を均一に塗布して成膜した後、有機顔料前駆体からなる当該膜を加熱等の方法により有機顔料に変換することで、低コストかつ容易に有機顔料を成膜する方法が提案されていた。
しかし、本発明者らが検討した結果、特許文献3に記載のジシアノ化合物において、当該ジシアノ化合物が4量環化する際、分子中の脱離基部分(具体的には、主に上記式(A)中の上側の橋架け及びアセタール基部分)が熱分解しやすく、当該ジシアノ化合物が4量環化する際にフタロシアニン顔料が生成してしまい、フタロシアニン顔料前駆体を製造することが困難であることがわかった。そのため、フタロシアニン顔料前駆体を製造するためにそのように非効率な合成法を用いなければならない場合があり、製造コスト高の要因になることがあるという課題があった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも熱分解しにくい有機顔料前駆体及びそれを用いた効率のよい有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びにそれに使用できる新規な化合物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、上記の熱分解しやすい二重結合を単結合に変えるとともに、当該単結合を構成する炭素原子に脱離基を付加することで、従来よりも熱分解しにくい有機顔料前駆体及びそれを用いた効率のよい有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びにそれらに使用できる新規な化合物を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表される有機顔料前駆体を変換することにより、下記式(2)で表される有機顔料を得ることを特徴とする、有機顔料の製造方法に存する(請求項1)。
Figure 2009215547
(ここで、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。ただし、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Zは、有機顔料構造の一部を表わす。また、式(1)及び式(2)における実線と破線とで表わされる結合は、単結合又は二重結合を表わす。)
この時、該脱離基が、水酸基、アルコキシ基、エステル基及びRとRとが環を形成してなるオルトエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基であることが好ましい(請求項2)。
さらに、この時、該有機顔料が、半導体であることが好ましい(請求項3)。
そして、該有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程と、該膜中の該有機顔料前駆体を該有機顔料に変換する工程とを有することが好ましい(請求項4)。
また、本発明の別の要旨は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料の製造方法により有機顔料を製造する工程を有することを特徴とする、有機電子素子の製造方法に存する(請求項5)。
この時、該有機電子素子が、電界効果トランジスタ、光電変換素子、又はエレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい(請求項6)。
さらに、本発明の別の要旨は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料の製造方法において用いられる有機顔料前駆体であって、下記式(1)で表わされることを特徴とする、有機顔料前駆体に存する(請求項7)。
Figure 2009215547
(ここで、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。ただし、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Zは、有機顔料構造の一部を表わす。また、式(1)における実線と破線とで表わされる結合は、単結合又は二重結合を表わす。)
さらに、本発明の別の要旨は、下記式(3)及び/又は(4)で表わされることを特徴とする、化合物に存する(請求項8)。
Figure 2009215547
Figure 2009215547
(ここで、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルコキシ基及びエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を表わす。ただし、それぞれ独立して、R11とR12とは環を形成していてもよく、R21とR22とは環を形成していてもよく、R31とR32とは環を形成していてもよく、R41とR42とは環を形成していてもよい。また、R13〜R18、R23〜R28、R33〜R38及びR43〜R48は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表わす。また、Q〜Qは、それぞれ独立して、CH又はNを表わす。nは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数を表わし、Mは2価の金属又は金属を含む2価の原子団を表わす。)
本発明によれば、従来よりも熱分解しにくい有機顔料前駆体及びそれを用いた効率のよい有機顔料の製造方法、有機顔料を用いた有機電子素子の製造方法、並びにそれらに使用できる新規な化合物を提供することができる。
化合物6のUV−VIS吸収スペクトルを示す図である。 化合物7のUV−VIS吸収スペクトルを示す図である。 化合物6のTOF−MSスペクトルを示す図である。 化合物7のTOF−MSスペクトルを示す図である。 化合物6のTG−DTAの測定結果を示すグラフである。 化合物10のTG測定結果を示すグラフである。 化合物10のTOF−MSスペクトルを示す図である。 化合物11のTOF−MSスペクトルを示す図である。 化合物10及び化合物11のUV−VIS吸収スペクトルを示す図である。 化合物6A及び化合物7AのUV−VIS吸収スペクトルを示す図である。 化合物6AのTG測定結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
はじめに、本明細書において、「有機顔料」は、近紫外〜可視〜近赤外領域に強い光の吸収を有する有機色素であり、溶媒への溶解度が小さい分子を表わす。
具体的には、本明細書における有機顔料は、波長が通常300nm以上、好ましくは350nm以上、より好ましくは380nm以上、また、その上限は、通常2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下の領域において、固体状態(具体的には、通常は膜)での吸収係数αが、通常10−1以上、好ましくは10−1以上、より好ましくは10−1以上の強度で光を吸収する有機色素を表わす。ここで、吸収係数αは、厚さd(m)の膜に強度Iの光が入射し、強度Iの光が透過する場合、以下の式を満たすものである。
Figure 2009215547
また、「溶媒への溶解度が小さい」とは、具体的に、25℃におけるトルエンへの溶解度が、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下であることを表わす。
また、本明細書において、「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義されるものである。キャリア移動度とは、電荷をどれだけ速く(又は多く)移動させることが出来るかという指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」とは、室温(通常は25℃)におけるキャリア移動度が、通常10−7cm/(V・s)以上、好ましくは10−6cm/(V・s)以上、より好ましくは10−5cm/(V・s)以上のものを表わす。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性、タイムオブフライト法等により測定できる。
ただし、キャリア移動度が上記の範囲を満たさなくても、固体状態における電気伝導度が、以下に記載の範囲を満たせば、本明細書における「半導体」に含まれるものとする。具体的には、室温(通常は25℃)における電気伝導度が、通常10−8S/cm以上、好ましくは10−7S/cm以上、より好ましくは10−6S/cm以上を示す事が可能な材料であれば、本明細書における「半導体」を表わすものとする。なお、電気伝導度は、例えば、4端子法等に従って測定することが出来る。
半導体の具体例としては、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、フラーレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン、ジアルキルセキシチオフェンに代表される、チオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環を合計4個以上連結したオリゴマー類;ナフタレンテトラカルボン酸無水物;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物及びそのイミド化物;フタロシアニン、ナフタロシアニン、テトラベンゾポルフィリン等の大環状化合物及びそれらのCu、Zn、Ni、Co等の金属錯体;C60、C70等のフラーレン誘導体;ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の共役高分子;等が挙げられる。
上記の半導体は、通常はπ電子の共役した平面性の高い構造であるので、可視領域に吸収帯を有し、溶媒への溶解性が小さい有機顔料の特徴を有するものである。従って、これらの材料に対応する溶解性の大きい有機顔料前駆体を用いることにより、容易に上記の材料を製造することができるようになる。
[1.有機顔料の製造方法]
本発明の有機顔料の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」と言う。)は、下記式(1)で表される有機顔料前駆体(以下、適宜「本発明の有機顔料前駆体」と言う。)を変換することにより、下記式(2)で表される有機顔料(以下、適宜「本発明の有機顔料」と言う。)を得るものである。
Figure 2009215547
(ここで、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。ただし、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Zは、有機顔料構造の一部を表わす。また、式(1)及び式(2)における実線と破線とで表わされる結合は、単結合又は二重結合を表わす。以下の構造式においても、特に断らない限り、同様の組み合わせで表わされる結合は、同様の結合を表わすものとする。また、炭素原子は、その記載を省略した。以下の構造式においても、特に断らない限り、炭素原子の記載を省略するものとする。)
[1−1.有機顔料前駆体]
[1−1−1.構造]
本発明の有機顔料前駆体は、本発明の製造方法において用いられる有機顔料前駆体であって、下記式(1)で表わされるものである。
Figure 2009215547
(ここで、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。ただし、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Zは、有機顔料構造の一部を表わす。)
(R及びR
上記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。脱離基としては、例えば、加熱;酸、アルカリ等の化学的な作用;等により脱離する限り、任意のものを用いることができる。ただし、脱離基は加熱することにより脱離するものが特に好ましい。また、脱離基は、1個以上の酸素原子を有するものが好ましく、さらには、脱離基が有する1個以上の酸素原子を介して有機顔料前駆体の炭素骨格と結合するものがより好ましい。なお、脱離基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
また、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。この場合においても、脱離基は、好ましくは1個以上、より好ましくは2個以上の酸素原子を有するものが好ましく、中でも、酸素原子を有する脱離基であって、当該脱離基が有する酸素原子のうち、有機顔料前駆体の炭素骨格と結合する2つの結合手において、それぞれ1個以上の酸素原子を介して結合するものが特に好ましい。
脱離基の分子量は、通常18g/モル以上、また、その上限は、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下、より好ましくは100g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、脱離基及び/又は脱離した脱離基に由来する副生成物を反応系外に除去することが困難になる可能性がある。
さらに、脱離基が有する炭素数の上限は、通常15個以下、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下である。炭素数が多すぎる場合、脱離基及び/又は脱離した脱離基に由来する副生成物を反応系外に除去することが困難になる可能性がある。
また、脱離基は、飽和結合のみを有していてもよく、飽和結合と二重結合及び/又は三重結合とを有していてもよい。さらに、脱離基は、直鎖でもよく、分岐を有していてもよい。また、脱離基は、鎖状でもよく、環を有していてもよい。
脱離基の具体例としては、水酸基;アルコキシ基;エステル基;塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;−SR10基(R10は有機基を表し、好ましくはアルキル基又はアシル基を表わす。);RとRとが環を形成してなるオルトエステル基;等が挙げられる。中でも、脱離基は、水酸基、アルコキシ基、エステル基及びRとRとが環を形成してなるオルトエステル基であることが好ましい。
ここで、オルトエステル基は、下記式(B)で表わされるものである。
Figure 2009215547
(上記式(B)中、Rは有機基を表わし、好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素数6以下のアルキル基を表わす。)
なお、本発明の製造方法において、RとRとが脱離する限り、RとRとの何れか一方が上記の脱離基であり、もう一方が水素原子であってもよい。この場合の脱離基としては、例えば、上記の脱離基と同様のものが挙げられる。
本発明の有機顔料前駆体における脱離基R及びRの組み合わせは、本発明の効果が得られる限り任意である。ただし、中でも、以下の表1に記載の組み合わせで脱離基を用いることが好ましい。
Figure 2009215547
上記脱離基の組み合わせは、R及びRが逆であってもよい。即ち、例えば、Rとして水素原子を用い、Rとしてエステル基を用いてもよい。また、ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を表わす。
上記の脱離基は、置換基で置換されていてもよい。例えば、アルキル基を含む脱離基の場合、脱離反応に影響しない位置に任意の置換基を導入することができ、置換基を導入することで、例えば溶解性の向上、脱離反応の効率向上、入手の容易な原料の利用等の利点が得られる。置換しうる置換基の具体例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環化合物基、カルボキシル基、アシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。ただし、脱離基が置換基で置換されている場合、その置換基も含めた脱離基全体の分子量及び炭素数が、上記の脱離基の分子量及び炭素数の範囲を満たすことが好ましい。なお、置換基は1種を単独で置換してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。
また、これらの置換基が、更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。置換しうる置換基としては、例えば、上記の脱離基に置換しうる置換基と同様のもの等が挙げられる。
(R〜R
〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表わす。R〜Rが有機基である場合、有機基は本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、有機基の分子量の上限は、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下、より好ましくは100g/モル以下であることが望ましい。分子量が大きすぎる場合、脱離基及び/又は脱離した脱離基に由来する副生成物を反応系外に除去することが困難になり、当該脱離基及び/又は副生成物が反応系内に残留する可能性がある。
また、上記の有機基が有する炭素数の上限は、通常20個以下、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下である。炭素数が多すぎる場合、脱離基及び/又は脱離した脱離基に由来する副生成物を反応系外に除去することが困難になり、当該脱離基及び/又は副生成物が反応系内に残留する可能性がある。
有機基は、直鎖でもよく、分岐を有していてもよい。また、有機基は、鎖状でもよく、環を有していてもよい。さらに、有機基は、飽和結合と二重結合及び/又は三重結合とを有していてもよいが、飽和結合のみを有することが好ましい。
有機基の具体例としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられ、中でも、アルキル基が好ましい。アルキル基の中でも、脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基が挙げられ、好ましくは、脂肪族アルキル基である。なお、有機基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい
脂肪族アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
また、有機基は、置換基で置換されていてもよい。置換しうる置換基の具体例としては、上記の脱離基に置換しうる置換基と同様のもの等が挙げられる。ただし、有機基が置換基で置換されている場合、その置換基も含めた有機基全体の分子量及び炭素数が、上記の有機基の分子量及び炭素数の範囲を満たすことが好ましい。なお、置換基は1種を単独で置換してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。
また、これらの置換基が、更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。置換しうる置換基としては、例えば、上記の有機基に置換しうる置換基と同様のもの等が挙げられる。
(有機顔料構造Z)
Zは、有機顔料が有する構造の一部である。有機顔料は、本発明の効果が得られる限り任意のものを用いることができる。ただし、有機顔料の分子量としては、通常100以上、好ましくは150以上、より好ましくは200以上、また、その上限は、通常5000以下、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下であることが望ましい。分子量が小さすぎる場合、有機顔料、及び/又は半導体としての特性が不十分となる可能性があり、大きすぎる場合、有機顔料前駆体及び/又は有機顔料の合成が困難となる可能性がある。
有機顔料の具体例としては、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、フラーレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン、ジアルキルセキシチオフェンに代表される、チオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環を合計4個以上連結したオリゴマー類;ナフタレンテトラカルボン酸無水物;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物及びそのイミド化物;フタロシアニン、ナフタロシアニン、テトラベンゾポルフィリン等の大環状化合物及びそれらのCu、Zn、Ni、Co等の金属錯体;C60、C70等のフラーレン誘導体等が挙げられる。中でも、有機顔料は、フタロシアニン、ポルフィリンが好ましい。即ち、有機顔料構造Zとしては、フタロシアニンが有する構造の一部(通常はフタロシアニン環を含む部分構造)、又はポルフィリンが有する構造の一部(通常はポルフィリン環を含む部分構造)であることが好ましい。有機顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
(異性体)
本発明の有機顔料前駆体において、特に指定しない限り、その立体異性体は区別しないものとする。具体的には、例えば、上記式(1)において、R及びRが水素原子であっても、R及びRが水素原子であり、R及びRの少なくとも1つが上記の脱離基である化合物である場合、当該化合物を本発明の有機顔料前駆体として用いても、本発明と同様の効果が得られる。従って、本発明の有機顔料前駆体には、本発明と同様の効果が得られる、このような立体異性の関係にある有機顔料前駆体も含まれるものとする。
また、上記式(1)において、例えば、R及びRが水素原子であり、R及びRのうちの少なくとも一方が脱離基であり、また、R及びRの少なくとも一方が脱離基である化合物である場合、当該化合物を例えば加熱等しても、脱離基の脱離のしやすさの違いにより、R及びRが脱離し、R及びRが脱離しない可能性もある。しかしながら、このような化合物を本発明の有機顔料前駆体として用いても、本発明と同様の効果が得られる。従って、上記の化合物と同様、本発明と同様の効果が得られるのであれば、脱離基が結合する位置が異なる立体異性体であっても、本発明の有機顔料前駆体に含まれるものとする。
[1−1−2.物性]
本発明の有機顔料前駆体は、室温(通常は25℃)において、クロロホルム、トルエン、水、シクロヘキサン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる1種以上の溶媒に対して、通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上の割合で溶解することが望ましい。溶解量が低すぎる場合、本発明の有機顔料前駆体の有用性が得られない可能性がある。
(本発明の有機顔料前駆体の好ましい構造)
本発明の有機顔料前駆体は、上記式(1)で表わされるものであるが、中でも、本発明の有機顔料前駆体としては、以下の式(3)及び/又は(4)で表わされる化合物が好ましい。
Figure 2009215547
Figure 2009215547
(ここで、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルコキシ基及びエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を表わす。ただし、それぞれ独立して、R11とR12とは環を形成していてもよく、R21とR22とは環を形成していてもよく、R31とR32とは環を形成していてもよく、R41とR42とは環を形成していてもよい。また、R13〜R18、R23〜R28、R33〜R38及びR43〜R48は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表わす。また、Q〜Qは、それぞれ独立して、CH又はNを表わす。nは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数を表わし、Mは2価の金属又は金属を含む2価の原子団を表わす。)
11、R12、R21、R22、R31、R32、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルコキシ基及びエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を表わす。中でも、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41及びR42が、水酸基、アルコキシ基及びエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基である場合、その分子量、含まれる炭素数等の構造は、上記の脱離基の構造と同様であることが好ましい。
また、それぞれ独立して、R11とR12とは環を形成していてもよく、R21とR22とは環を形成していてもよく、R31とR32とは環を形成していてもよく、R41とR42とは環を形成していてもよい。それぞれの官能基が環を形成する場合、環の種類としては、上記の脱離基として形成される環と同様のものであることが好ましい。
さらに、R13〜R18、R23〜R28、R33〜R38及びR43〜R48は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表わす。ここで、R13〜R18は、それぞれ、上記のR〜Rと同一のものを表わす。即ち、具体的には、例えば、R13はRと同一である。また、R23〜R28、R33〜R38及びR43〜R48の種類としては、それぞれ独立して、水素原子又は有機基である限り任意であるが、中でも、上記のR〜Rと同様の構造を有することが好ましい。
また、Q〜Qは、それぞれ独立して、CH又はNを表わす。ここで、「CH」は、1個の水素原子が結合した炭素原子を表わす。
そして、nは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数を表わし、特に好ましくはn=0である。nが大きすぎる場合、分子間相互作用が大きくなり、有機顔料前駆体の合成、変換等が困難となる可能性がある。なお、それぞれのnは全て同一でもよいし、一部又は全部のnが異なっていてもよい。
なお、式(3)及び(4)において、例えばQ〜Qの全てが窒素原子であってもn=0である場合、当該式で表わされる化合物はフタロシアニン骨格を有さないが、当該化合物を変換することにより、フタロシアニン骨格を有する化合物になる。従って、本明細書においては、フタロシアニン骨格を有する化合物に加えて、このような変換前にはフタロシアニン骨格を有さなくても、変換することによりフタロシアニン骨格を有することになる化合物を総称して、「フタロシアニン類化合物」と呼称するものとする。
また、Mは、2価の金属又は金属を含む2価の原子団を表わす。
2価の金属の具体例としては、Cu、Zn、Mg、Ni、Co(II)、Fe(II)、Pt等が挙げられる。中でも、2価の金属は、Cu及びZnが好ましい。その理由は、本発明の有機顔料前駆体を用いて有機顔料を製造し、当該有機顔料を半導体として用いたときに、良好な半導体特性が得られるからである。
さらに、Mは、2価の金属でなくても、3価、4価等の2価より大きい金属と原子又は原子団とが結合して全体として2価であるもの(即ち、金属を含む2価の原子団)であってもよい。金属を含む2価の原子団の具体例としては、AlX、TiX、Sn(IV)X、TiO、SiX、Fe(III)X(Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表わす。)等が挙げられる。
なお、有機顔料前駆体が有する4つのビシクロ環部分(即ち、上記の式(1)で表わされる構造部分)は、その立体構造及び結合の方向は、上記の構造を満たす限り任意である。
この理由は、有機顔料前駆体の製造の際に生じうる立体異性体が含まれる場合があったり、複数種類のビシクロ環を有する原料(即ち、有機顔料前駆体を製造するための原料)を用いたりする場合があるからである。いずれの場合においても、得られる有機顔料前駆体を用いることで本発明の効果を得ることが出来、異なるビシクロ環に結合している基が異なっている化合物であったとしても、当該化合物は本発明の趣旨に沿ったものであるということが出来る。
例えば、以下の式(C)で表わされる化合物は、以下の式(D)群に記載の化合物等のいずれであってもよい。
Figure 2009215547
Figure 2009215547
[1−1−3.有機顔料前駆体の製造方法]
本発明の有機顔料前駆体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で製造することが出来る。以下、本発明の有機顔料前駆体の製造方法を、本発明の有機顔料前駆体におけるR〜Rが全て水素原子である場合を例に説明する。ただし、以下に記載する内容は本発明の有機顔料前駆体の製造方法の一例であって、本発明の有機顔料前駆体の製造方法は、以下の内容に限定されるものではない。
(従来の反応機構)
従来、原料である化合物Aから、有機顔料前駆体である化合物Bを製造しようとする場合、以下のような要領で、反応を行っていた。
Figure 2009215547
(ただし、上記式において、Zは上記のZを表わし、T及びTは後述するT及びTを表わす。)
しかし、化合物Bは、以下に記載の逆ディールスアルダー反応により、容易かつ速やかにπ共役化合物Cに変換されることが多かった。
Figure 2009215547
π共役化合物Cは、通常は化合物Bよりも安定である。従って、逆ディールスアルダー反応は熱力学的に安定な方向に進行するため、化合物Bを製造するためには、このような逆ディールスアルダー反応が進行しないような反応温度等の条件を設定しなければならないことがあった。
特に、例えば、上記のフタロシアニン類化合物は高温条件下で合成されることが多く、また、有機顔料前駆体よりも、逆ディールスアルダー反応による生成物であるフタロシアニン類化合物が非常に安定であるために逆ディールスアルダー反応が進み易く、従来は、有機顔料前駆体である上記化合物Bを製造することが難しかった。
(本発明の反応機構)
一方、本発明の有機顔料前駆体(以下の反応式における化合物E)は、例えば、以下のような要領で、製造することが出来る(以下、以下に記載の一連の反応をまとめて、適宜「本発明の反応」と言う。)。
Figure 2009215547
(上記式中、R、R及びZは、それぞれ、上記のR、R及びZを表わす。)
上記反応式において、T及びTは、本発明の有機顔料前駆体が製造できる限り任意であるが、通常は上記の有機顔料構造Zを誘導する官能基である。ただし、化合物Aを製造する際、ディールスアルダー反応を効率よく行うためには、T及びTは、それぞれ独立して、電子供与性の官能基であることが好ましい。T及びTの具体例としては、シアノ基(−CN)、カルボン酸エステル基(−COOR;Rは任意の有機基を表す。)、ニトロ基、フェニルスルホニル基、等が挙げられる。電子供与性の官能基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
中でも、例えば、本発明の有機顔料前駆体がフタロシアニン類化合物である場合、T、Tとして、それぞれシアノ基が通常用いられる。即ち、化合物Aとしては、通常、ジシアノアセチレンとシクロヘキサジエンとのディールスアルダー付加体が用いられる。
また、上記の例以外にも、例えば、特開2004−6750号公報等に、Tとしてフェニルスルホニル基、Tとしてフェニルスルホニル基又はニトロ基が結合したエチレン誘導体を用いてポルフィリンを製造する例が記載されている。
そして、上記の化合物Aが有する二重結合(より具体的には、T及びTが結合してない炭素原子間に形成される二重結合)に対して、脱離基R及びRを結合させて単結合とすることで化合物Dを製造し、この化合物D同士を反応させることで、通常は製造しにくい有機顔料前駆体(化合物E)を容易に製造することができる。
本発明の反応において、生成する化合物E(即ち、本発明の有機顔料前駆体)は、上記の熱分解し易い二重結合を有さず、RとRとが化合物Eを構成する炭素骨格に直接結合しているため熱力学的に安定であるので、化合物Eを起点とする逆ディールスアルダー反応が起こりにくい。このため、化合物Eを容易に製造できる。
なお、化合物Eを例えば加熱等すると、下記反応式に示すように、RとRとが脱離して化合物Bが生成する。そして、化合物Bを起点とした逆ディールスアルダー反応が進行し、化合物C(即ち、本発明の有機顔料)と副生成物であるエチレンとが生成する。また、本発明の反応において、先に逆ディールアルダー反応が起き、次にRとRとが脱離する反応も、上記の反応に加えて起きている可能性もある。従って、本発明の有機顔料前駆体を用いて有機顔料を製造すれば、効率よく有機顔料を製造することができる。
Figure 2009215547
ここで、化合物Aに脱離基R及びRを結合させ、二重結合を単結合に変換する方法としては、本発明の有機顔料前駆体が得られる限り公知の任意の方法を用いることが出来るが、例えば、Comprehensive Orgaic Transformations(R.C.Larock、Wiley−VCH 1999、以下、適宜「COT」と言う。)等に記載の方法を用いることが出来る。
なお、上記の化合物Eは、必ずしも化合物Aを原料にする必要はなく、本発明の有機顔料前駆体が得られる限り、化合物A以外の任意の原料からも製造できる。
また、化合物Bは、通常不安定であるため製造することが非常に困難である。しかし、例えば、R及びRとして上記の脱離基を用いて逆ディールスアルダー反応が起きにくい温和な条件で反応させて、通常は製造しにくい化合物Bも製造することが出来る。ここで、温和な条件というのは、例えば、酸、塩基等の化学的な手法を用いて、低温で化合物Eから化合物Bを製造すれば、熱的に進行する化合物Bを基点とする化合物Cの合成反応が抑制でき、化合物Bを製造することが出来る。
[1−1−4.有機顔料前駆体のより具体的な製造方法]
以下、本発明の有機顔料前駆体が、マグネシウム(即ち、Mg)が配位したフタロシアニン類化合物(以下、適宜「Mgフタロシアニン類化合物」と言う。)である場合を例に、本発明の有機顔料前駆体の製造方法をより具体的に説明する。ただし、以下に記載する内容は、本発明の有機顔料前駆体の製造方法の一例であり、本発明の有機顔料前駆体の製造方法としては、以下の内容に限定されるものではない。また、本発明の有機顔料前駆体が、Mgフタロシアニン類化合物に限定されるものでもない。
本発明の有機顔料前駆体としてのMgフタロシアニン類化合物は、例えば、以下に記載の要領で、製造することができる。ただし、以下の記載においては、上記式(1)において、脱離基はRとRとが環を形成してなるオルトエステル基であり、R〜Rは水素原子であり、かつ、上記の化合物AにおいてTとTとはシアノ基(−CN)であるものとする。ただし、R〜R並びにT及びTを適宜変更することにより、通常は以下に記載の要領が適用される。
Figure 2009215547
(上記反応式中、Rは、メチル基又はブチル基を表わす。)
化合物3の製造方法(即ち、反応(i)及び反応(ii))は、例えば、特開2006−131574号公報に記載されている方法及び条件を用いることができる。化合物3を化合物4に変換する反応(iii)は、例えばCOTの996頁〜1001頁等に記載されており、当該文献に記載の方法及び条件を用いることができる。中でも、反応(iii)は、酸化オスミウムとN−メチルモルホリンオキシド(NMO)とをアセトン/水の混合溶媒中で作用させる方法により行うことが好ましい。
さらに、この化合物4に、パラトルエンスルホン酸等の酸の存在下、オルトギ酸メチルを反応させて、化合物5が得られる(反応(iv))。この際、反応温度としては、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、また、その上限は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下であることが望ましい。また、オルトギ酸メチルの使用量としては、化合物4の量に対して、通常4倍モル以上、好ましくは4.5倍モル以上、より好ましくは5倍モル以上、また、その上限は、通常20倍モル以下、好ましくは15倍モル以下、より好ましくは10倍モル以下であることが望ましい。
また、反応時間としては、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、また、その上限は、通常48時間以下、好ましくは36時間以下、より好ましくは24時間以下であることが望ましい。さらに、反応に用いられる溶媒としては、塩素原子を含む溶媒が好ましく、塩化メチレンが特に好ましい。
そして、化合物5を、ジブトキシマグネシウム等の金属を含有する触媒とともにブタノール等の溶媒中で加熱することにより、化合物6(即ち、本発明の有機顔料前駆体としてのMgフタロシアニン類化合物)が得られる(反応(v))。この際、加熱温度としては、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、その上限は、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下であることが望ましい。
また、反応時間としては、通常3時間以上、好ましくは6時間以上、より好ましくは12時間以上、また、その上限は、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下であることが望ましい。
なお、化合物6を例えば加熱等することにより、Mg含有化合物7(即ち、本発明の有機顔料)が得られる(反応(vi))。この際、加熱は、化合物6が液体又は固体のどちらの状態であっても可能である。
また、以下に記載する要領で、化合物6から、Mg等の金属を含まない化合物6−2、又は、Mgの代わりに別の金属M’を導入した化合物6−3を有機顔料前駆体として製造することも可能である。
Figure 2009215547
(上記反応式において、M’は、銅、ニッケル等のマグネシウム以外の金属を表わす。)
より詳細に説明すると、化合物6の中心金属であるMgをトリフルオロ酢酸等の酸と反応させることにより、金属を含まない化合物6−2を得ることが出来る。この際、酸と反応させる場合の反応温度としては、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、その上限は、通常150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下であることが望ましい。また、酸の使用量は、化合物6の量に対して、通常1倍モル以上、好ましくは2倍モル以上、また、その上限は、通常100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下、より好ましくは30倍モル以下であることが望ましい。
また、反応時間としては、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、また、その上限は、通常48時間以下、好ましくは24時間以下であることが望ましい。さらに、反応に用いられる溶媒としては、塩素原子を含む溶媒が好ましく、クロロホルムが特に好ましい。
また、化合物6−2は、化合物5を4量化させる過程において、リチウムアルコキサイドを用いたりすることにより、製造することも可能である。Liの使用量としては、上記の酸の使用量と同様の量を用いることが好ましい。
また、化合物6−2に、酢酸銅、塩化ニッケル等の金属塩を反応させることにより、銅、ニッケル等の金属M’を中心金属として導入した化合物6−3を得ることが出来る。この際、反応温度としては、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、また、その上限は、通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下であることが望ましい。また、金属塩の使用量は、化合物6−2の量に対して、通常1倍モル以上、好ましくは1.5倍モル以上、また、その上限は、通常20倍モル以下、好ましくは10倍モル以下、より好ましくは5倍モル以下であることが望ましい。
また、反応時間としては、通常3時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上、また、その上限は、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下であることが望ましい。さらに、反応に用いられる溶媒としては、無金属体と金属塩とを溶解しうるものであればよく、中でも、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒が特に好ましい。
また、化合物6−3は、以下に示す要領で、塩酸、硫酸等の酸触媒の存在下加水分解され、化合物8となる。
Figure 2009215547
この際、反応温度としては、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、また、その上限は、通常150℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下であることが望ましい。
また、反応時間としては、通常3時間以上、好ましくは6時間以上、また、その上限は、通常72時間以下、好ましくは48時間以下であることが望ましい。さらに、反応に用いられる溶媒としては、化合物6−3を溶解させられるものが好ましい。
さらに、化合物8は、例えば、COT297頁〜299頁に記載の方法により、以下のような反応で化合物9に変換することができる。
Figure 2009215547
従って、上記の方法によって、本発明の有機顔料前駆体を用いて、従来は製造することが困難であった有機顔料前駆体(即ち、上記の化合物B)を容易に製造することもできる。このようにして得られる化合物8(即ち、本発明の有機顔料前駆体)は、水及びアルコールへの溶解性の向上が期待できる。さらに、化合物9は例えば加熱等することにより容易に反応が進むとともに、化合物9から一段階の反応によってフタロシアニン顔料に変換することができるため、化合物9を用いることにより、変換温度を低くすることが出来るという利点が得られる。
また、化合物6の中でも、好ましいものは以下の式で表わされるものである。
Figure 2009215547
化合物6−2の中でも、好ましいものは以下の式で表わされるものである。
Figure 2009215547
さらに、化合物6−3の中でも、好ましいものは以下の式で表わされるものである。
Figure 2009215547
さらに、化合物8の中でも、好ましいものは以下の式で表わされるものである。
Figure 2009215547
[1−2.変換]
本発明の製造方法において、本発明の有機顔料前駆体を変換することにより、本発明の有機顔料を得ることが出来る。変換の方法としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、加熱;酸、アルカリ等の化学的な作用;等が挙げられる。中でも、本発明の製造方法における変換は、加熱することにより行うことが好ましく、中でも、酸又はアルカリ等の存在下、加熱することにより行うことが特に好ましい。以下、本発明の有機顔料を、有機顔料前駆体を加熱することにより製造することを例に説明するが、本発明の製造方法における変換方法は、加熱に限定されるものではない。
本発明の製造方法において、加熱のための手段、温度、時間等の各種条件は、本発明の有機顔料が得られる限り、任意に決定できる。
(加熱手段)
加熱手段は、本発明の有機顔料が得られる限り、任意である。加熱手段の具体例としては、ホットプレート;オーブン;熱ローラー;レーザー光、赤外光等の光;マイクロ波、加熱した気体、液体、固体から選ばれる1種以上のものとの接触;等が挙げられる。加熱手段は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
(加熱温度)
加熱温度は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、また、その上限は、通常400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下であることが望ましい。反応温度が低すぎる場合、本発明の有機顔料を得るまでの時間がかかりすぎる可能性があり、高すぎる場合、本発明の有機顔料の製造の際に用いられる各種材料が、熱により影響を受ける可能性がある。
なお、加熱温度は、本発明の有機顔料が得られる限り、一定であってもよいし、異なる温度で複数回加熱してもよい。また、加熱した後冷却し、さらに所望の温度で加熱してもよい。
(加熱時間)
加熱時間は、加熱温度、加熱装置等によるため一概には言えないが、通常1ナノ秒以上、また、通常1日以下とする。より具体的には、例えば、レーザー光により加熱する場合、通常1ナノ秒以上、好ましくは10ナノ秒以上、より好ましくは100ナノ秒以上、また、その上限は、通常1秒以下、好ましくは0.5秒以下、より好ましくは0.1秒以下であることが望ましい。
また、例えば、加熱手段としてホットプレート、オーブン等を用いる場合、通常0.1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、その上限は、通常10時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下であることが望ましい。
さらに、例えば、加熱した気体、液体、固体から選ばれる1種以上のものと接触することにより有機顔料前駆体を加熱する場合、通常1ミリ秒以上、好ましくは10ミリ秒以上、より好ましくは100ミリ秒以上、また、その上限は、通常1日以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下であることが望ましい。
加熱時間が短すぎる場合、本発明の有機顔料前駆体を膜とした時に、製造される有機顔料の膜が良好な結晶性を有さない可能性があり、長すぎる場合、膜の生産性が悪くなる可能性がある。
ただし、有機顔料の生産性の観点からは加熱時間は短いことが好ましいが、十分に反応を進行させたり、有機顔料の半導体特性、色調の発現のための結晶成長等を所望のものとさせたりする場合には、加熱時間は、通常1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、その上限は、通常3時間以内、好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内とすることが望ましい。加熱時間が短すぎる場合、結晶化が十分進行せず、有機顔料及び/又は半導体としての特性が十分に発現しない可能性があり、長すぎる場合、生産性が悪化したり、組み合わせるほかの材料の劣化を引き起こしたりする可能性がある。
(加熱時の雰囲気)
加熱時の雰囲気は、本発明の有機顔料が得られる限り、任意である。ただし、酸素、水等が、本発明の有機顔料製造の際の障害となる可能性があるので、窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。不活性ガスは、1種を単独で用いもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
また、本発明の有機顔料が有する特性を向上させる観点から、形成される有機顔料の結晶が成長することが好ましい。具体的には、非晶質部分が少なく、欠陥の少ない結晶であることが好ましい。有機顔料の結晶を成長させる方法としては、例えば、一度生成した結晶をさらに適当な温度と時間とで加熱処理をしたり、溶媒に接触、溶媒蒸気に晒す等の溶媒処理をしたりする事が挙げられる。
さらに、本発明の有機顔料への変換の度合いをモニターしながら、本発明の有機顔料前駆体を加熱することが好ましい。この操作により、最適な変換条件を定めて所望の物性を有する有機顔料を得ることが出来る。モニターの方法としては、公知の任意のものを用いることが出来るが、例えば、顕微鏡等による外見の変化の観察、色(即ち、吸収スペクトル)の変化の観察、赤外分光法、紫外分光法、マススペクトル、ラマンスペクトル等の振動スペクトルの測定、X線回折の測定、H−NMR及び13C−NMRの測定、熱重量示差熱同時分析(TG−DTA)の測定等が挙げられる。
(その他の条件)
本発明の有機顔料前駆体を加熱する際、本発明の有機顔料前駆体の状態は、本発明の有機顔料が得られる限り、特に制限されない。本発明の有機顔料前駆体は、例えば、液状であってもよいし、ゲル状であってもよい。また、例えば、本発明の有機顔料前駆体を塗布して得られた膜状の有機顔料前駆体を加熱してもよいし、有機顔料前駆体を直接加熱してもよい。中でも、本発明の製造方法においては、本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜し、膜状の本発明の有機顔料前駆体を加熱することが好ましい。
また、本発明の製造方法においては、本発明の有機顔料が得られる限り、加熱以外の任意の処理を行うことができる。処理の具体例としては、乾燥、洗浄等が挙げられる。例えば、本発明の有機顔料前駆体を加熱する前に水等の溶媒で洗浄した後、乾燥してから有機顔料前駆体を加熱したり、有機顔料前駆体を加熱後に水等の溶媒で洗浄して乾燥させたりすることもできる。任意の処理は、1種のみ行ってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行ってもよい。
本発明の製造方法においては、酸又はアルカリの存在下、加熱することにより本発明の有機顔料を製造することが好ましい。酸及び/又はアルカリの種類、使用量等の条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に決定できる。酸又はアルカリの存在下加熱することが好ましい理由は、その作用機構は明らかではないものの、本発明者らの検討によると、酸又はアルカリにより有機顔料を生成する反応が促進されるためである。
[1−3.本発明の製造方法における好ましい工程の態様]
本発明の製造方法において、本発明の有機顔料前駆体を変換し、本発明の有機顔料が得られる限り、その他の工程、条件等は任意に決定できる。中でも、本発明の製造方法は、本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程と、当該膜中の本発明の有機顔料前駆体を本発明の有機顔料に変換する工程とを有することが好ましい。
以下、本発明の製造方法が、本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程と、当該膜中の本発明の有機顔料前駆体を本発明の有機顔料に変換する工程とを有するものとして、本発明の製造方法をより具体的に説明する。ただし、本発明の製造方法は以下の内容に限定されず、上記のように、本発明の有機顔料前駆体を変換し、本発明の有機顔料を得る限り、その他の工程、条件等は任意である。
(本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程)
本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程において、本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する限り、成膜方法、条件等は任意である。
(溶媒)
本発明の有機顔料前駆体を溶解させる溶媒は、本発明の有機顔料が得られる限り任意であるが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル;ピリジン、キノリン等の含窒素有機溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;等が挙げられる。これらは、製造する有機顔料の目的に応じて、適したものを選択できる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
(溶液中の濃度)
本発明の有機顔料前駆体を溶解した溶液(以下、適宜「有機顔料前駆体溶液」と言う。)における、本発明の有機顔料前駆体の濃度は、本発明の有機顔料が得られる限り任意であるが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、その上限は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。濃度が低すぎる場合、成膜した際の膜厚が薄すぎる可能性があり、高すぎる場合、溶質が析出したり、薄膜の作製が困難になったりする可能性がある。
(溶液の使用量)
有機顔料前駆体溶液の使用量は、本発明の有機顔料が得られる限り任意であるが、所望の膜厚となるように決定すればよい。
(その他の成分)
有機顔料前駆体溶液は、上記の溶媒及び本発明の有機顔料前駆体以外の成分(以下、適宜「その他の成分」と言う。)を含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明の有機顔料が得られる限り、任意のものを用いることが出来る。なお、その他の成分は、1種を単独で含んでもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでもよい。
例えば、本発明の有機顔料を半導体として用いる場合、その他の成分としては、本発明の有機顔料と同種の半導体材料及び/又は異種の半導体材料;これら半導体材料の前駆体;半導体特性を制御する電子受容体及び/又は供与体等のドーパント;成膜性を制御するための添加剤;酸化防止剤;等が挙げられる。特に、有機顔料が正孔と電子とが反応に関与する太陽電池等の光電変換素子として用いられる場合、有機顔料前駆体溶液中にp型を示す半導体成分と、n型を示す半導体成分とが共存させて用いることもできる。
p型を示す半導体成分としては、例えば、チオフェン環が連結したポリチオフェン等の共役分子、ペンタセン、フタロシアニン、ベンゾポルフィリン及びその前駆体等が挙げられる。
また、n型を示す半導体成分としては、例えば、PCBM([6,6]−phenyl C61−butyric acid methyl ester)等の溶媒に可溶性のn型半導体、無機若しくは有機半導体微粒子、n型半導体の前駆体等が挙げられる。
ドーパントの具体例としては、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF、AsF、FeCl、SbF等のルイス酸、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ICl、ICl、IBr、IF、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム等のアルカリ金属原子、バリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられる。
成膜性を制御するための添加剤としては、例えば、界面活性剤等が挙げられる。
酸化防止剤の具体例としては、ヒンダードフェノール等が挙げられる。
また、例えば、本発明の有機顔料を顔料として用いる場合、その他の成分としては、バインダー等を用いることが出来る。バインダーが有機顔料前駆体溶液に含まれることにより、膜の機械強度の向上、撥水性、耐光性、耐候性等の耐環境性の付与、反射率等の光学的な特性の改良等の利点を、本発明の有機顔料からなる膜に付与することが出来る。
バインダーの具体例としては、通常は塗料等に用いられるポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
(基板)
基板としては、任意のものを用いることが出来る。基板の具体例としては、ガラス、サファイア等のガラス基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、シロキサン樹脂、ポリノルボルネン等のプラスチック基板、紙、合成紙、アルミ、ステンレス、鉄等の金属等が挙げられる。基板は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
基板の厚さも、基板としての強度が保たれる限り、任意である。ただし、基板の厚さは、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、その上限は、通常1cm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下である。基板の厚さが薄すぎる場合、基板としての強度が保たれない可能性がある。また、基板の厚さが厚すぎる場合、本発明の有機顔料の製造コストが高くなる可能性がある。
なお、本発明の有機顔料前駆体を、窓ガラス、瓦、自動車の車体等、他の構造物の上に直接成膜する場合、基板を用いないことも可能である。
(成膜方法)
成膜方法としては、本発明の有機顔料が得られる限り任意の方法を用いることが出来る。例えば、成膜方法としては、本発明の有機顔料前駆体を溶媒に溶解させた溶液を、基板上に任意の塗布方法により塗布することにより成膜する塗布法、任意の印刷方法を用いて基板上に有機顔料前駆体の膜をパターニングすることにより成膜する印刷法等が挙げられる。中でも、本発明の有機顔料前駆体は溶媒に通常可溶であるという観点から、成膜は、塗布法、及び/又は印刷法により行うことが好ましい。なお、成膜方法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
塗布法としては、公知の任意の方法を用いることが出来る。塗布法の具体例としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法等が挙げられる。
また、印刷法としては、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられる。
(膜厚)
得られた膜の膜厚に制限は無く、その膜の目的に応じて適宜決定すればよい。例えば、有機顔料に変換後の膜を横型の電界効果トランジスタ(FET)に用いる場合、膜厚が一定以上であれば、通常有機電子素子の各種特性に影響は無い。ただし、膜厚が厚すぎると漏れ電流が増加する可能性があるという観点から、膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、その上限は、通常10μm以下、好ましくは500nm以下であることが望ましい。
また、膜を有機顔料の光学特性を利用した塗装膜に用いる場合、色調を十分に発現する、及び/又は、塗装による、塗装される面の保護効果を得ることができるという観点から、膜厚は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、また、その上限は、通常1mm以下であることが望ましい。
膜の形状としては、膜厚が均一である膜が好ましい。ただし、膜厚が一定でなくても、膜の全ての部分において膜厚が上記の範囲に収まることが好ましい。例えば、有機顔料前駆体溶液が液滴として膜表面に付着した場合、その付着した部分の厚さが、上記範囲に収まることが好ましい。
(膜中の本発明の有機顔料前駆体を本発明の有機顔料に変換する工程)
本工程において、上記膜中の本発明の有機顔料前駆体を本発明の有機顔料に変換できる限り、変換方法、条件等は任意である。ただし、[1−2.変換]において説明した内容を、本工程においても適用することが好ましい。
なお、上記のように、本発明の製造方法は、本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程と、当該膜中の本発明の有機顔料前駆体を本発明の有機顔料に変換する工程とを有することが好ましい。この場合、これらの2つの工程は、それぞれ1回のみ行ってもよく、それぞれ2回以上行ってもよい。例えば、成膜した後に当該膜中の有機顔料前駆体を有機顔料に変換した後、さらに、当該膜上に本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜し、新たに生成した膜中の有機顔料前駆体を有機顔料に変換してもよい。また、後述するその他の工程と任意に組み合わせて行ってもよい。
(その他の工程)
本発明の製造方法は、本発明の有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程と、当該膜中の本発明の有機顔料前駆体を本発明の有機顔料に変換する工程とを有することが好ましいが、本発明の有機顔料が得られる限り、これら以外のその他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、例えば、[1−2.変換]に記載した変換以外の任意の処理等が挙げられる。
また、その他の工程は、1種を単独で行ってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行ってもよい。例えば、2回洗浄を行った後、1回乾燥させてもよい。
[1−4.有機顔料]
本発明の製造方法により製造される有機顔料(即ち、本発明の有機顔料)は、下記式(2)で表わされるものである。
Figure 2009215547
(ここで、R、R及びZは、上記のR、R及びZを表わす。)
[1−4−1.物性]
本発明の有機顔料の分子量は、通常100以上、好ましくは150以上、より好ましくは200以上、また、その上限は、通常5000以下、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下であることが望ましい。分子量が小さすぎる場合、有機顔料、及び/又は半導体としての特性が不十分となる可能性があり、大きすぎる場合、有機顔料前駆体及び有機顔料の合成が困難となる可能性がある。
また、本発明の有機顔料の融点は、通常150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、融点が低すぎる場合、耐熱性が不十分となる可能性がある。
また、本発明の有機顔料は、溶媒に対して、通常は難溶性を示す。具体的には、本発明の有機顔料は、室温(通常は25℃)において、クロロホルムに対して、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下の割合で溶解する。また、トルエンに対しても、25℃において、本発明の有機顔料は同様の割合で溶解する。
また、本発明の有機顔料において、室温(通常は25℃)、固体状態におけるキャリア移動度が、通常10−7cm/(V・s)以上、好ましくは10−6cm/(V・s)以上、より好ましくは10−5cm/(V・s)以上である。キャリア移動度が小さすぎる場合、本発明の有機顔料を半導体素子へ用いた場合に、性能が劣る可能性がある。
さらに、本発明の有機顔料において、キャリア移動度が上記条件を満たさなくても、電気伝導度が高ければ半導体として用いることが可能な場合がある。その場合、室温(通常は25℃)における電気伝導度が、通常10−8S/cm以上、好ましくは10−7S/cm以上、より好ましくは10−6S/cm以上である。電気伝導度が小さすぎる場合、本発明の有機顔料が有する電気的な機能を利用することが困難になる可能性がある。
[1−4−2.用途]
本発明の有機顔料は、可視領域に強い光の吸収を有することから、色素としての塗装用途等に好適に用いられる。さらに、本発明の有機顔料は半導体特性を有することが好ましい。即ち、本発明の有機顔料は、半導体であることが好ましい。これにより、本発明の有機顔料を、電界効果トランジスタ、太陽電池等の光電変換素子、エレクトロルミネッセンス素子等の有機電子素子等の半導体部材の材料として、好適に用いることが出来る。
半導体は、その材料中で電荷を運搬できるものであり、不純物のドーピング、印加する電場、光の照射等の各種条件によりキャリア密度を制御することで、整流素子としての機能、トランジスタ機能、光による電流発生機能、光による起電力発生機能等の各種の機能を発現させることができる。
[1−5.本発明の有機顔料前駆体により得られる利点]
有機顔料は、通常多くの溶媒に対して難溶性を示すので、例えば、溶媒に可溶である有機顔料前駆体を用いることで、カラムクロマトグラフィー、再結晶法等、溶液状態で用いることができる精製方法を利用して有機顔料前駆体を精製することにより、純度の高い有機顔料を製造することが出来たり、有機顔料前駆体を塗布して成膜し、当該膜を加熱することにより、難溶性の有機顔料の膜を製造したりすることが出来る。
[2.有機電子素子]
上記のように、本発明の有機顔料は、半導体として用いることが好ましく、中でも、有機電子素子として用いることが好ましい。以下、本発明の有機顔料を用いた有機電子素子のことを、「本発明の有機電子素子」と言う。
有機電子素子は、2個以上の電極を有するものである。有機電子素子としては、例えば、電極間に流れる電流、生じる電圧等を、電気、光、磁気、化学物質等により制御する素子;印加した電圧又は電流により、光、電場、磁場等を発生させる素子;電圧又は電流の印加により電流又は電圧を制御する素子;磁場の印加により電圧又は電流を制御する素子;化学物質を作用させて電圧又は電流を制御する素子等が挙げられる。これらの制御の方法としては、例えば、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。
有機電子素子の具体例としては、抵抗器;ダイオード等の整流器;スイッチング素子トランジスタ、サイリスタ等のスイッチング素子;トランジスタ等の増幅素子;メモリー素子;化学センサー;又はこれらの素子の組み合わせ、集積化したデバイス等が挙げられる。
また、本発明の有機顔料は、通常は近紫外〜可視〜近赤外領域に強い光の吸収を有する。これを利用して、本発明の有機顔料は、光機能材料として用いることもできる。この場合、本発明の有機電子素子の具体例としては、吸収された光により電荷分離を引き起こし機能する素子等が挙げられる。
このような素子としては、例えば、光により起電力を生じる太陽電池、光電流を生じるフォトダイオード等の光電変換素子、フォトトランジスタ等が挙げられる。ここで、太陽電池は、半導体と金属又は他の半導体との接合部分に生じる内部電界を利用して、光による電荷分離を引き起こし、これを外部に取り出すものである。また、このような素子は、例えば、光の吸収により生じた励起状態を利用して、ラジカル発生剤を増感したり、直接励起状態からラジカルを発生させたりすることにより、光ラジカル発生等にも応用できる。
中でも、本発明の有機電子素子は、電界効果トランジスタ、太陽電池等の光電変換素子、又はエレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。
本発明の有機電子素子の製造方法としては、上記の有機顔料の製造方法により、有機顔料を製造する工程を有するものである。従って、上記の有機顔料の製造方法により本発明の有機顔料を製造する限り、他の工程、方法、条件等は、任意である。
他の電子素子としては、例えば、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley−Interscience 1981)等に記載されているものを用いることができる。
中でも、例えば、本発明の有機電子素子が電界効果トランジスタの場合、特開2004−6750号公報、また、太陽電池の場合、特開2007−324587号公報、さらに、有機EL等のエレクトロルミネッセンス素子の場合、特開2004−327166号公報等に記載されている方法も用いることもできる。
以下、本発明について、実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
次の合成経路により、化合物6(本発明の有機顔料前駆体)を製造した。さらに、化合物6を加熱することにより、化合物7(本発明の有機顔料)を得た。この化合物6及び化合物7の紫外可視吸収スペクトル(UV−VIS吸収スペクトル)と飛行時間型質量分析法によるマススペクトル(TOF−MSスペクトル)とを測定した。さらに、化合物6のTG−DTA測定も行い、それらの結果を図1〜5に示した。
Figure 2009215547
※Rは、それぞれ独立して、メチル基(以下、適宜「Me」と表わす。)又はブチル基(以下、適宜「Bu」と表わす。)を表わす。
以下、上記の反応について、より詳細に説明する。
[1.ステップ(i)]
Figure 2009215547
乳鉢で細かくすり潰したアセチレンジカルボン酸アミド(即ち、化合物1)1.5608g(13.9ミリモル)と撹拌子とを30mL滴下漏斗に入れ、五酸化二リン(P)5.586g(39.35ミリモル)と撹拌子とを入れた200mL三つ口フラスコに滴下漏斗を取り付けた。次に、滴下漏斗を備えた三つ口フラスコを真空蒸留装置に装着し、三つ口フラスコの内部をアルゴンに置換した。
次に、スルホラン(Sulfolane)を三つ口フラスコに30mL入れ、滴下漏斗に15mL加えた。ホースで連結されている撹拌子の入った100mL三つ口フラスコを−78℃以下に保ち、真空ポンプを用いて圧力を11〜12torrに調節し、温度を110℃にして40分かけて滴下した。滴下後、温度を120℃に上げ、1時間撹拌し続け化合物2を得た。その間、目的物をトラップするために隣に連結して備え付けた100mL三つ口フラスコを−78℃以下に保ち続けた。化合物2は空気に触れると分解するため、アルゴン置換の後、すぐに後述する次の反応に用いた。この際、得られた化合物2の量は0.593g(7.80ミリモル)、収率は56.1%であった。また、13C−NMR(CDCl)を測定した結果、δ=55.1、103.1にピークが確認された。なお、13C−NMR測定は、JEOL GSX−270を用いて行った。
[2.ステップ(ii)]
Figure 2009215547
化合物2の0.511g(6.72ミリモル)を入れた三つ口フラスコ内部をアルゴンで満たし、次に、シリンジを用いて無水ジクロロメタン(dry−CHCl)を15mL加え、化合物2を完全に溶解させた。その後、シリンジを用いてゆっくりと1,3−シクロヘキサジエン(1,3−Cyclohexadiene)を0.5mL(5.2ミリモル)加え、一晩撹拌した。溶液を減圧下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物3を得た。この際、得られた化合物3の量は0.77g(4.93ミリモル)、収率は73.4%であった。また、H−NMR及び13C−NMRを測定した結果、以下のピークが確認された。なお、H−NMR測定は、JEOL AL−400を用いて行った。また、13C−NMR測定は、化合物2の場合と同様の測定装置を用いた。
H−NMR(CDCl,270MHz)
:δ=1.52〜1.55(4H,m),4.02〜4.04(2H,m),6.38〜6.41(2H,dd)
13C−NMR(CDCl
:δ=24.06,41.13,73.94,131.86,132.31
また、化合物3の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)及びマススペクトル(MSスペクトル)を測定した。この時、IRスペクトル測定装置はJASCO V−570を、MSスペクトル測定装置はJEOL JMS−700を用いた。
IR(KBr)(cm−1
686,736,1342,1585,2221(CN)
MS(DI−EI)(m/z)
57(13),69(14),101(10),128(100),156(M+,8)
また、化合物3の成分分析を行った結果、化合物3が含有する炭素原子、水素原子及び窒素原子の比率は、以下のようであった。なお、成分分析は、ヤナコ製 CHNコーダーMT−5を用いて行った。
Anal.(calcd):
C,76.85(76.90);H,5.16(5.16);N,17.61(17.94)
また、化合物3の融点は、101℃〜102℃であった。なお、融点は、ヤナコ製 MP−500でガラスプレート上に化合物を置いて測定した。
さらに、化合物3は、以下に示す合成経路によっても製造した。
Figure 2009215547
アセチレンジカルボン酸ジメチル5g(東京化成製;35ミリモル)とシクロヘキサジエン8.4g(アルドリッチ製;105ミリモル)とを、内温75〜85℃で2時間反応させた後、未反応のシクロヘキサジエンを減圧除去することにより、定量的に化合物1Aを得た。得られた化合物1Aについて、H−NMR測定を行った。なお、測定装置は、化合物2の場合と同様のものを用いた。
H−NMR(CDCl,400MHz)
:δ=6.3〜6.4(2H,m),4.03〜4.05(2H,m),3.77(6H,s),1.39〜1.56(4H,m)
Figure 2009215547
化合物1Aの31g(139ミリモル)を60mLの28重量%アンモニア水(WAKO製)に加え、内温45℃で3日間攪拌した。得られた沈殿物をろ過し、水で洗浄することにより、16gの化合物2A(83ミリモル)を得た。この際の収率は60%であった。得られた化合物2Aについて、H−NMR測定を行った。なお、測定装置は、化合物2の場合と同様のものを用いた。
H−NMR(DMSO−d6,400MHz)
:δ=7.75(2H,br),7.31(2H,br),6.35(2H,dd),3.95〜4.05(2H,m),1.2〜1.5(4H,m)
Figure 2009215547
次に、化合物2Aの5.8g(30ミリモル)をジメチルホルムアミド(DMF)100mLに溶解し、0℃に冷却した後、塩化チオニル10.8mL(WAKO製;150ミリモル)を少しずつ滴下した。滴下終了後、室温まで昇温し、8時間攪拌した。攪拌後の反応液を氷水100mLに入れ、1規定の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、エーテルで抽出を行った。その後、エーテル層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後ろ過し、濃縮をおこなった。得られた沈殿物をメタノール及びヘキサンでけん洗することにより化合物3を得た。
[3.ステップ(iii)]
Figure 2009215547
200mLナスフラスコに化合物3の0.5330g(3.41ミリモル)とN−メチルモルホリンオキシド(NMO)の0.4942g(4.21ミリモル)とを入れ、5重量%水/アセトンを30mL加えて完全に溶かした後、撹拌しながら酸化オスミウム(OsO)をシリンジで2.0mL(0.04ミリモル)ゆっくりと加えた。その後、ガラス栓及びパラフィルムを用いて密閉し、一晩撹拌した。撹拌後、温度20℃における飽和亜ジチオン酸ナトリウム(Na)水45mLを加え、さらに30分撹拌した。次に、溶液をセライトろ過、酢酸エチル抽出し、減圧下で濃縮して化合物4の粗結晶を得た。粗結晶は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物4の精製品を得た。この際、得られた化合物4の量は0.600g(3.15ミリモル)、収率は92.4%であった。また、H−NMR、13C−NMR、IRスペクトル、MSスペクトルを測定し、成分分析を行った結果、以下のスペクトル及び組成が確認された。なお、それぞれ測定装置は、化合物3の場合と同様のものを用いた。
H−NMR(ACETN,270MHz)
:δ=1.45〜1.50(2H,m),1.72〜1.75(2H,m),3.21(2H,m),4.10(2H,m),4.65(2H,m)
13C−NMR(ACETN)
:δ=21.00,43.99,69.98,115.83,130.89
IR(KBr)(cm−1
1002,1060,1087,1390(OH),2217(CN),2227(CN),3438(OH)
MS(EI+)(m/z)
60(100),77(23),104(72),131(100),190(M+,23)
Anal.(calcd):
(+1/8HO calcd):
C,62.62(62.41);H,5.25(5.37);N,14.57(14.56)
また、化合物4の分解温度は、183℃〜185℃であった。なお、分解温度は、化合物3の場合と同様に測定した。
[4.ステップ(iv)]
Figure 2009215547
50mL三つ口フラスコに化合物4の0.2522g(1.33ミリモル)と、ピリジニウムパラトルエンスルホナート(pyridinium p−toluenesulfonate)の0.1690g(0.67ミリモル)とを入れ、トリメトキシメタン(CH(OMe))の0.735g(6.93ミリモル)をパスツールピペットで加えた。
その後、三つ口フラスコ内部をアルゴン置換し、シリンジで無水ジクロロメタン(dry−CHCl)を2.6mL加えて溶解させ、18時間還流させた。次に、減圧下で濃縮して化合物5の粗結晶を得た。粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物5の精製品を得た。この際、得られた化合物5の量は0.292g(1.26ミリモル)、収率は94.5%であった。また、また、H−NMRを測定した結果、以下のスペクトルが確認された。なお、測定装置は、化合物3の場合と同様のものを用いた。
H−NMR(CDCl,400MHz)
:δ=1.54〜1.58(4H,m),3.27(3H,s),3.37〜3.42(2H,m),4.40〜4.42(2H,m),5.60(1H,s)
[5.ステップ(v)及びステップ(iv)]
Figure 2009215547
Figure 2009215547
50mL三つ口フラスコにマグネシウム(Mg)の0.0804g(3.31ミリモル)と、ヨウ素(I)の0.0167g(0.13ミリモル)とを入れ、三つ口フラスコ内部をアルゴンで置換した後、シリンジで無水1−ブタノール(dry−1−BuOH)を25mL加えて24時間還流した。Mgが溶解した後、引き続き約1時間還流を続けた。その後、溶液を室温に戻し、化合物5の0.3344g(1.44ミリモル)を加え、再び還流した。約24時間還流し、溶液が紫色に変化したことを確認した後、室温に戻し水を加えて分液した。有機層を減圧下で濃縮して化合物6の粗結晶を得た。化合物6の粗結晶をアルミナカラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、バイオビーズ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で精製し、減圧下で濃縮した後、化合物6の精製品を得た。この際、得られた化合物6の量は、0.072gであった。また、MSスペクトル及びUV−VIS吸収スペクトルを測定した結果、以下のスペクトルが確認された。なお、MSスペクトル測定装置は、Applied Biosystems Voyager de Pro.を用いて、UV−VIS吸収スペクトルは、クロロホルムに溶解した溶液をJASCO V−570に供することにより測定した。
MS(TOF−MS)(m/z)
829(40),953(30),995(60),1037(98),1080(100),1121(90)
UV: λmax(nm)
=346,542,589,591,658,680
また、化合物6(即ち、本発明の有機顔料前駆体)を280℃に加熱すると、その中心にMgを有する化合物7(即ち、本発明の有機顔料)が得られた。化合物6及び化合物7のUV−VIS吸収スペクトル及びTOF−MSスペクトルを図1〜図4に示した。
MSの結果、ステップ(v)において、化合物6が本来有するメトキシ基の一部又は全部がブトキシ基に置換され、メトキシ基とブトキシ基とを任意の比率及び組み合わせで有する化合物6の混合物になっていることがわかった。この現象は、ステップ(v)において、1−ブタノールを用いたことに起因すると推察される。本来の化合物6(即ち、[実施例1]に記載の反応式中の化合物6において、Rが全てMeの場合)の分子量は952であるが、メトキシ基がブトキシ基に置換された化合物6の分子量は、1個のメトキシ基が置換された場合994、2個のメトキシ基が置換された場合1036、3個のメトキシ基が置換された場合1078、4個のメトキシ基が置換された場合1120となる。
さらに、セイコー製EXSTAR6000 TG/DTA6200を用いた、化合物6のTG−DTA測定の結果、図5のグラフを得た。図5中、DTAは試料と標準試料との温度差[μV]、TGは重量変化[%]を表わす。図5のグラフにおいて、250℃付近で1段階の重量変化が観測された。従って、本反応においては、粉末状態で、化合物6から化合物7に250℃前後の温度で定量的に変換することが分かった。なお、通常の分解反応においては、より複雑な反応が進行しており、その結果、重量変化のグラフもより複雑なものとなる。
以上より、化合物6を加熱することにより、定量的に化合物7が得られることが確認された。
[実施例2]
実施例1と同様に化合物5を合成し、得られた化合物5を用いて、以下に示すような反応経路により化合物10及び化合物11を得た。
Figure 2009215547
具体的には、まず、反応容器にLi(9.0ミリモル)を入れた後に還流管を備え付け、反応容器内をアルゴン置換した。10.0mLの乾燥n−ブタノールを入れ、Liが溶解するまで加熱還流を行った。Liが溶解したことを確認し、室温に戻した。実施例1と同様に合成した化合物5を1.3ミリモル加え、24時間加熱還流を行った。反応容器を室温に戻し、水、飽和食塩水で分液操作を行い、得られた溶液を減圧下濃縮した。
濃縮した溶液を、アルミナカラムクロマトグラフィー(溶媒として5体積%テトラヒドロフラン(THF)/ジクロロメタン(CHCl)を用いた。)、フラッシュカラム(担体としてシリカゲルを、また、溶媒として10体積%THF/CHClを用いた。)、バイオビーズ(BIO−RAD製Bio−Beads S−X3 Beadsを用い、溶媒としてクロロホルムを用いた。)、GPC(溶媒としてクロロホルムを用いた。)に供して精製し、化合物10を得た。この際、化合物10の収率は2%であった。
そして、化合物10を窒素雰囲気下250℃で10分間加熱して、化合物11(即ち、無金属フタロシアニン)を得た。
上記の方法により得られた化合物10について、TG測定を行った。また、化合物10及び化合物11について、それぞれ、TOF−MSスペクトル及びUV−VIS吸収スペクトル測定を行った。この時、測定装置は、実施例1と同様のものを用いた。ただし、UV−VIS吸収スペクトルは、化合物10をクロロホルムと接触させて着色させたもの、及び化合物11を5体積%トリフルオロ酢酸/クロロホルムに接触させて着色させたものをそれぞれ測定装置に供することにより、測定した。それらの結果を図6〜図9に示す。
図7において、質量電荷比が931付近に観測されるピークが化合物10に対応するものである。また、質量電荷比が900付近に観測されるピークは化合物10が有する4つのMeのうちの1つが脱離したもの(以下に記載の化合物10’)、872付近に観測されるピークは4つのMeのうちの2つが脱離したもの(以下に記載の化合物10”)に対応するピークであり、質量分析中に生成したものと考えられる。これにより、化合物10の脱離メカニズムが推定される。
Figure 2009215547
Figure 2009215547
さらに、図9においては、化合物10のスペクトル及び化合物11のスペクトルのうち、それらのスペクトルの最大値が一致するように記載した。
これらの結果から、化合物10を加熱することにより、200〜250℃の間で定量的に化合物11に変換されることが確認された。即ち、化合物10は、良好な有機顔料前駆体であることが示された。
[実施例3]
実施例1と同様に化合物5を合成し、得られた化合物5を用いて、以下に示すような反応経路により、亜鉛フタロシアニン前駆体(化合物6A’)を得た。
Figure 2009215547
具体的な反応方法としては、まず、反応容器に化合物5の348mg(1.5ミリモル)及び塩化亜鉛51mgを入れ、反応容器内をアルゴンに置換した。アルゴン置換した反応容器にジアザビシクロウンデセン(DBU)の685mg(4.5ミリモル)及び無水n−ブタノール1mLを入れ、2日間還流させた。還流後、クロロホルムで抽出し、水で洗浄、及び無水硫酸ナトリウムで乾燥して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することにより、化合物6A’35mgを得た。この際、収率は、4%であった。
[実施例4]
実施例1と同様に化合物4を合成し、得られた化合物4を用いて、以下に示すような反応経路により、化合物5Aを経由して、化合物6A及び化合物7Aを得た。なお、下記構造式中、「Et」はエチル基を表す。
Figure 2009215547
まず、反応容器に化合物4の380mg(2ミリモル)及び塩化メチレン12mLを入れ、さらにオルトギ酸トリエチルの1.48g(10ミリモル)及びp−トルエンスルホン酸一水和物40mgを加え、22時間撹拌した。攪拌終了後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、再結晶(クロロホルム/ヘキサン)することにより、白色の化合物5Aの475mgを得た。この際、収率は、97%であった。また、得られた化合物5Aについて、質量分析、H−NMR測定、13C−NMR測定及び成分分析を行った。結果を以下に示す。なお、各測定は、上記の測定装置と同様のものを用いて行った。
Mol. Form.:C1314(Exact Mass:246.1004,Mol. Wt.:246.2619).
H−NMR(CDCl,400MHz)
:δ=5.69(1H,s),4.42(2H,m),3.37(2H,m),3.52(2H,q),1.47〜1.63(4H,m),1.20(3H,t)
13C−NMR(CDCl,100MHz)
:δ=128.77,114.71,114.11,76.04,61.01,39.06,19.18,14.94
Anal. Calcd for C1314
C,63.40;H,5.73;N,11.38;O,11.71.
Found:C,63.38;H,5.59;N,11.34.
Figure 2009215547
次に、反応容器に化合物5Aの123mg(0.5ミリモル)及び塩化亜鉛18mgを入れ、反応容器内をアルゴンに置換した。アルゴン置換した反応容器にジアザビシクロウンデセン(DBU)の0.22mL(1.5ミリモル)、無水エタノール1mLを入れ、2日間還流させた。還流後、クロロホルムで抽出し、水で洗浄、及び無水硫酸ナトリウムで乾燥して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル)で精製し、再結晶(クロロホルム/メタノール)することにより、紫色の亜鉛フタロシアニン前駆体(化合物6A)の41mgを得た。この際、収率は、31%であった。また、得られた化合物6Aについて、質量分析、FAB−MS測定及びH−NMR測定を行った。結果を以下に示す。なお、FAB−MS測定はJEOL JMS−700を用いて行い、それ以外の測定は、上記の測定装置と同様のものを用いて行った。
Mol. Form.: C525612Zn (Exact Mass: 1048.3309, Mol. Wt.: 1050.4374).
MS(FAB)(m/z)
1049 (M+1)
H−NMR(CDCl,400MHz)
:δ=5.48〜5.51(20H,m),3.23〜3.34(8H,m),1.79〜2.18(16H,m),1.00〜1.14(12H,m)
また、化合物6Aを300℃に加熱すると、その中心に亜鉛原子(Zn)を有する化合物7Aが得られた。
Figure 2009215547
化合物6A及び化合物7AのUV−VIS吸収スペクトルを図10に示す。さらに、化合物6AのTG測定結果を図11に示す。
本発明の有機顔料前駆体は、従来よりも熱分解しにくいものである。従って、有機顔料前駆体を加熱することにより、容易に有機顔料を製造することができる。さらに、本発明の有機顔料は、半導体特性を有するため、電界効果トランジスタ、太陽電池等の光電変換素子、エレクトロルミネッセンス素子等の有機電子素子をはじめとした、各種半導体用途に好適に用いることが出来る。

Claims (8)

  1. 下記式(1)で表される有機顔料前駆体を変換することにより、下記式(2)で表される有機顔料を得る
    ことを特徴とする、有機顔料の製造方法。
    Figure 2009215547
    (ここで、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。ただし、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Zは、有機顔料構造の一部を表わす。また、式(1)及び(2)における実線と破線とで表わされる結合は、単結合又は二重結合を表わす。)
  2. 該脱離基が、水酸基、アルコキシ基、エステル基及びRとRとが環を形成してなるオルトエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基である
    ことを特徴とする、請求項1に記載の有機顔料の製造方法。
  3. 該有機顔料が、半導体である
    ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機顔料の製造方法。
  4. 該有機顔料前駆体を塗布して成膜する工程と、該膜中の該有機顔料前駆体を該有機顔料に変換する工程とを有する
    ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機顔料の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料の製造方法により有機顔料を製造する工程を有する
    ことを特徴とする、有機電子素子の製造方法。
  6. 該有機電子素子が、電界効果トランジスタ、光電変換素子、又はエレクトロルミネッセンス素子である
    ことを特徴とする、請求項5に記載の有機電子素子の製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料の製造方法において用いられる有機顔料前駆体であって、
    下記式(1)で表わされる
    ことを特徴とする、有機顔料前駆体。
    Figure 2009215547
    (ここで、R及びRは、それぞれ独立して、一価の脱離基を表わす。ただし、脱離基は、RとRとが環を形成してなる基であってもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Zは、有機顔料構造の一部を表わす。また、式(1)における実線と破線とで表わされる結合は、単結合又は二重結合を表わす。)
  8. 下記式(3)及び/又は(4)で表わされる
    ことを特徴とする、化合物。
    Figure 2009215547
    Figure 2009215547
    (ここで、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルコキシ基及びエステル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を表わす。ただし、それぞれ独立して、R11とR12とは環を形成していてもよく、R21とR22とは環を形成していてもよく、R31とR32とは環を形成していてもよく、R41とR42とは環を形成していてもよい。また、R13〜R18、R23〜R28、R33〜R38及びR43〜R48は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表わす。また、Q〜Qは、それぞれ独立して、CH又はNを表わす。nは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数を表わし、Mは2価の金属又は金属を含む2価の原子団を表わす。)
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