JP2008100993A - フッ素化芳香族化合物の製造方法並びにフッ素化ビシクロポルフィリン及びフッ素化テトラベンゾポルフィリン - Google Patents

フッ素化芳香族化合物の製造方法並びにフッ素化ビシクロポルフィリン及びフッ素化テトラベンゾポルフィリン Download PDF

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Abstract

【課題】ポルフィリンなどの芳香族化合物をフッ素化して従来よりも高い収率でフッ素化芳香族化合物を得る新たなフッ素化芳香族化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】環状エーテル、鎖状エーテル、及び脂肪族ケトンからなる群より選ばれる1種類以上の中で、4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物と芳香族化合物とを反応させる。
【選択図】なし

Description

本発明は、フッ素化芳香族化合物の製造方法並びにフッ素化ビシクロポルフィリン及びフッ素化テトラベンゾポルフィリンに関するものである。
ポルフィリンは紫外線(UV)から可視光領域に強い吸収を有する化合物で、生体内で特異的な機能を発揮することが知られている。また、ポルフィリンは、色素として利用できるのはもちろん、触媒機能、半導体機能等を利用した分野、光起電力、光励起により誘起される電子移動等を利用した分野、光セラピー、診断薬等の用途へ用いる分野など、色々な分野への応用が検討されてきている。
この中でも、テトラベンゾポルフィリンは、特許文献1において、高い半導体特性を示す事が報告されている。また、この特許文献1では、テトラベンゾポルフィリンは、その前駆体であるビシクロ環を有するポルフィリン化合物より、下記のような熱変換により誘導されることが開示されている。
Figure 2008100993
一方、半導体において、半導体特性は半導体分子の電子状態と密接な関係にあり、半導体分子をフッ素化することにより、その電子状態を制御することができる。例えば、共役に関与する炭素にフッ素原子が結合すると、その強い電子吸引性により、HOMO準位及びLUMO準位を下げ、半導体分子が酸化されにくい方向、及び還元されやすい方向に電子状態が変化する。また、フッ素原子の原子半径が小さいために、半導体分子をフッ素化しても、半導体分子の分子構造や結晶構造の大きな変化を生じることなく電子状態を変化させることができる。したがって、上記ビシクロ環を有するポルフィリン化合物のフッ素化は、フッ素化したテトラベンゾポルフィリンを得るために非常に有用であると考えられる。
これまでに、ポルフィリン化合物のメソ位をフッ素化する方法は、例えば特許文献2に示された方法が提案されていた。これは、N−フルオロピリジニウム塩を用いた例であり、具体的にはオクタエチルポルフィリンのフッ素化が記載されている。
一方、4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物によるフッ素化の方法も知られている(非特許文献1)。
特開2004−6750号公報 特開平5−59059号公報 Acc. Chem. Res. 2004, 37巻, p31-44
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、フッ素化の効率が必ずしも高くなく、オクタエチルポルフィリンでも10%前後から18%程度の収率でしかフッ素化ができなかった。また、上記ビシクロ環を有するポルフィリンのフッ素化は進行せず、フッ素化物を得ることができなかった。
一方、非特許文献1記載の方法では、反応溶媒としてアセトニトリルや1,2−ジクロロエタン等の限定した溶媒しか用いられておらず、フッ素化できる化合物の対象は限定されていた。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、ポルフィリンなどの芳香族化合物をフッ素化して従来よりも高い収率でフッ素化芳香族化合物を得る新たなフッ素化芳香族化合物の製造方法、並びに、新たなフッ素化ビシクロポルフィリン及びフッ素化テトラベンゾポルフィリンを提供することを目的とする。
本発明の発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、芳香族化合物のフッ素化に際し、環状或いは鎖状エーテル、若しくは脂肪族ケトン系溶媒と、4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物とを併用することにより、フッ素化反応の収率が従来よりも向上することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、環状エーテル、鎖状エーテル、及び脂肪族ケトンからなる群より選ばれる1種類以上の中で、4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物と芳香族化合物とを反応させることを特徴とする、フッ素化芳香族化合物の製造方法に存する(請求項1)。
このとき、前記芳香族化合物がポルフィリン化合物であることが好ましい(請求項2)。
また、前記ポルフィリン化合物が、下記式(I)で表わされる構造を有することが好ましい(請求項3)。
Figure 2008100993
(前記式(I)において、Mは金属原子又は2個の水素原子を表わし、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わし、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び、R7とR8の組み合わせのうち、少なくとも1組は互いに結合して環を形成している。)
さらに、本発明のフッ素化芳香族化合物の製造方法では、前記ポルフィリン化合物のメソ位をフッ素化することが好ましい(請求項4)。
本発明の別の要旨は、下記式(II)で表わされる構造を有することを特徴とする、フッ素化ビシクロポルフィリンに存する(請求項5)。
Figure 2008100993
(式(II)中、R17a〜R20aはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を表わし、R17a
〜R20aのうち1つ以上はフッ素原子であり、R1a〜R8aはそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表わし、R1aとR2a、R3aとR4a、R5aとR6a、及び、R7aとR8aの組み合わせのうち、少なくとも1組は一体となって下記式(III)で表わされる基を形成している。また、Maは金属原子を表わす。
Figure 2008100993
(式(III)中、R9a〜R16aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表わす。))
本発明の更に別の要旨は、下記式(IV)で表わされる構造を有することを特徴とする、フッ素化テトラベンゾポルフィリンに存する(請求項6)。
Figure 2008100993
(式(IV)中、R17b〜R20bはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を表わし、R17b
〜R20bのうち1つ以上はフッ素原子であり、R1b〜R8bはそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表わす。また、Mbは金属原子を表わす。)
本発明のフッ素化芳香族化合物の製造方法によれば、ポルフィリンなどの芳香族化合物をフッ素化して従来よりも高い収率でフッ素化芳香族化合物を得ることができる。また、本発明によれば、メソ位がフッ素化された、新たなフッ素化ビシクロポルフィリン及びフッ素化テトラベンゾポルフィリンを提供することができる。
以下、本発明について説明するが、本発明は以下に示す例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
本発明のフッ素化芳香族化合物の製造方法(以下適宜、「本発明の製造方法」という)では、環状エーテル、鎖状エーテル、及び脂肪族ケトンからなる群より選ばれる1種類以上の溶媒(以下適宜、「エーテル/ケトン溶媒」という)中で、4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物(以下適宜、「特定フッ素化剤」という)と芳香族化合物とを反応させて、フッ素化芳香族化合物を製造する。
〔1.芳香族化合物〕
フッ素化芳香族化合物の原料となる芳香族化合物は、本発明の製造方法によりフッ素化が可能であれば制限は無く任意のものを使用することができる。
芳香族化合物の炭素数に制限は無いが、通常2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、また、通常200以下、好ましくは150以下、より好ましくは100以下が望ましい。炭素数が大きすぎると溶媒への溶解性が悪くなる可能性がある。
芳香族化合物の分子量に制限は無いが、通常68以上、好ましくは80以上、より好ましくは150以上、また、通常2000以下、好ましくは1800以下、より好ましくは1500以下、更に好ましくは1000以下が望ましい。分子量が大きすぎると溶媒への溶解性が悪くなる可能性がある。
芳香族化合物の中でも好適なものの例を挙げると、多環芳香族炭化水素、複素環化合物、及び、これらを有する大環状化合物などが挙げられる。
多環芳香族単価水素としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等が挙げられる。複素環化合物としては、例えば、ピロール類、チオフェン類、フラン類などが挙げられる。これらを有する大環状化合物としては、例えば、ポルフィリン化合物などが挙げられる。
中でも、芳香族化合物としてはポルフィリン化合物が特に好ましい。フッ素化ポルフィリン化合物は、診断用途、触媒用途、半導体材料用途等の広い用途に利用できるからである。また、従来のフッ素化方法ではポルフィリン化合物をフッ素化することが困難であったが、本発明の製造方法ではポルフィリン化合物のフッ素化が可能であるという利点があり、この利点を活かす観点からも、芳香族化合物としてポルフィリン化合物を使用することが特に好ましい。
ポルフィリン化合物のうちでも、下記式(I)で表わされる構造を有するものが特に好ましい。
Figure 2008100993
前記式(I)において、Mは金属原子又は2個の水素原子を表わす。Mが金属原子である場合、その数は1個である。また、Mとなりうる金属原子の具体例としては、Cu、Zn、Ni、Pt、Pd、Mg、Cd、Mn、Fe、Co、Ti、Siなどが挙げられる。
また、前記式(I)において、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。R1〜R8が置換基である場合、その具体例としては、ハロゲン原子又は有機基が挙げられ、有機基の例としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基;炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を持つアルコキシ基;炭素数6〜30のアリール基;炭素数4〜30の複素環化合物基などが挙げられる。また、これらの置換基は、更に置換基を有していてもよい。
さらに、前記式(I)において、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び、R7とR8の組み合わせのうち、少なくとも1組、好ましくは2組以上、より好ましくは全ての組が、互いに結合して環を形成している。
前記式(I)で表わされるポルフィリン化合物の中でも、特に好ましいのは、R1とR2、R3とR4、R5とR6、R7とR8の組み合せのうちの少なくとも1組、好ましくは2組以上、より好ましくは全ての組が、結合して、下記式(V)で表わされるビシクロ構造を有するものである。このビシクロ構造が多い方が溶媒に対するポルフィリン化合物の溶解性が向上するため、半導体への利用に際して、ポルフィリン化合物を半導体特性の良好なベンゾポルフィリンの前駆体として好適に利用できる。
Figure 2008100993
式(V)、並びに、後述する式(III)において、
Figure 2008100993
は、π共役系に関与している結合を表わす。この結合は、化学式では単結合あるいは二重結合を表わし、その両端がsp2型の炭素となっているものである。
また、前記の式(V)において、R9〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表わす。
中でも、R9〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数10以下のアルキル基であることが好ましい。さらに、R9〜R12のいずれもが水素原子であるか、又は、(R9,R10)及び(R11,R12)のうち少なくとも一組がどちらも炭素数10以下のアルキル基であることがより好ましい。なお、前記の炭素数10以下のアルキル基の炭素数は、好ましくは6以下、より好ましくは3以下である。
一方、R13〜R16は、それぞれ独立して、水素原子;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;又は炭素数18以下のアルキル基であることが好ましい。さらに、R13〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又は塩素原子であることがより好ましい。
好ましいポルフィリン化合物の例としては、以下のものが挙げられる。
Figure 2008100993
また、芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ピレン、ペリレン等の縮合多環式炭化水素系芳香族化合物;ビフェニル、オリゴチオフェン等の多環式芳香族化合物なども挙げられる。
なお、反応に際しては、芳香族化合物は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
〔2.特定フッ素化剤〕
4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物(即ち、特定フッ素化剤)は、芳香族化合物と反応することにより芳香族化合物をフッ素化させるフッ素化剤である。
本発明において、特定フッ素化剤は、下記式(VI)で表わされるものである。
Figure 2008100993
前記式(VI)において、Rはアルキル基を表わす。このアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。また、このアルキル基の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常20以下、好ましくは12以下、より好ましくは6以下、また、通常1以上である。さらに、このアルキル基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、ハロゲン基等の置換基で置換されていても良い。
Rのうち好適なものの具体例を挙げると、メチル基、エチル基、ブチル基等の無置換のアルキル基;クロロメチル基等の置換されたアルキル基が挙げられる。
前記式(VI)において、X-は、ブレンステッド酸の共役塩基である。本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることが可能である。好適なものの例を挙げると、BF4 -、CF3SO3 -、PF6 -、ClO4 -、SbF6 -、SO3-、CF3COO-、C49SO3 -等が挙げられる。
なお、特定フッ素化剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
芳香族化合物に対する特定フッ素化剤の使用比率は、フッ素化が進行する限り任意である。ただし、特定フッ素化剤は、芳香族化合物をフッ素化するために理論的に必要なモル数に対して、通常1倍以上、好ましくは1.1倍以上、また、通常10倍以下、好ましくは5倍以下だけ用いる。特定フッ素化剤が少なすぎると充分に反応が進行しない可能性があり、多すぎると副反応が進行したり、過剰なフッ素化剤の除去処理が難しくなる可能性がある。
〔3.エーテル/ケトン溶媒〕
エーテル/ケトン溶媒は、本発明の製造方法において反応媒質として機能するものである。
本発明に係るエーテル/ケトン溶媒は、環状及び/又は鎖状のいずれのエーテル、あるいは脂肪族ケトンでもよく、また、鎖状である場合には直鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよい。
エーテル/ケトン溶媒の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限は無いが、通常46以上、好ましくは70以上、また、通常300以下、好ましくは200以下が望ましい。エーテル/ケトン溶媒の分子量が小さすぎると沸点が低すぎ反応中に減少してしまう可能性があり、大きすぎると沸点が高すぎ除去が困難であったり、粘度が高すぎて反応効率が低下したりする可能性がある。
エーテル/ケトン溶媒は、通常、アセトニトリル等のフッ素化に頻繁に用いられる溶媒に比較して、芳香族化合物の溶解度が高いので、より広い範囲の芳香族化合物のフッ素化が可能である。フッ素化の対象である芳香族化合物のエーテル/ケトン溶媒に対する溶解度の好適な範囲を挙げると、通常0.1%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上である。
ただし、エーテル/ケトン溶媒の中でも、沸点の低すぎるものは反応温度が沸点で制限されるために好ましくない。この観点から、エーテル/ケトン溶媒の沸点は、通常50℃以上、好ましくは70℃以上であることが望ましい。
エーテル/ケトン溶媒のうち好適なものの例を挙げると、環状エーテルとしてはテトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられ、鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどが挙げられる。また、脂肪族ケトンのうち、環状ケトンとしては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、鎖状ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等の、炭素数が6以下のケトンなどが挙げられる。
なお、エーテル/ケトン溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
芳香族化合物に対するエーテル/ケトン溶媒の使用量は、フッ素化が進行する限り任意である。
エーテル/ケトン溶媒の具体的な使用量の範囲は、エーテル/ケトン溶媒に対する芳香族化合物の溶解度にもよるが、「(芳香族化合物の重量)/{(芳香族化合物の重量)+(特定フッ素化剤の重量)+(エーテル/ケトン溶媒の重量)}」で表わされる芳香族化合物の濃度が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下となる量だけ、エーテル/ケトン溶媒を用いる。前記の濃度が小さすぎると反応効率が悪くなる可能性があり、大きすぎると反応の制御が難しくなる可能性がある。
〔4.その他の成分〕
なお、本発明の製造方法において、本発明の効果を著しく損なわない限り、エーテル/ケトン溶媒中に、上述した芳香族化合物及び特定フッ素化剤以外の成分が含有されていてもよい。
その他の成分の例を挙げると、例えば、特定フッ素化剤以外のフッ素化剤、特定フッ素化剤以外のフッ素系溶媒、エーテル/ケトン溶媒以外の溶媒などが挙げられる。なお、これらのその他の成分は、1種のみが含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
その他の成分の種類及び使用量、並びに、2種以上含有されている場合はその組み合わせは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の効果を顕著に奏せしめる観点からは、フッ素化剤としては、特定フッ素化剤を多く使用することが好ましく、特定フッ素化剤のみを用いることがより好ましい。また、同様の観点から、溶媒としては、エーテル/ケトン溶媒をより多く使用することが好ましく、エーテル/ケトン溶媒のみを用いることがより好ましい。
〔5.反応方法〕
フッ素化反応を行なうには、フッ素化させたい芳香族化合物と特定フッ素化剤とをエーテル/ケトン溶媒に溶解又は分散させて反応液を用意し、エーテル/ケトン溶媒中で芳香族化合物と特定フッ素化剤とを反応させる。この際、必要に応じて、反応液にその他の成分を含有させる。
芳香族化合物と特定フッ素化剤とをエーテル/ケトン溶媒に溶解させる際、芳香族化合物、特定フッ素化剤及びエーテル/ケトン溶媒を混合する順番に制限は無く任意である。また、これらは、全量を一回で混合する以外に、フッ素化反応の進行中などにおいて2回以上に分けて断続的に混合するようにしてもよい。
フッ素化反応を進行させるには、反応液を所定の反応温度にすることが好ましい。反応温度はフッ素化反応が進行する限り任意であるが、通常室温(25℃)以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなることがあり、高すぎると副反応が生じやすくなることがある。なお、反応液は連続的に前記反応温度にしてもよく、断続的に前記反応温度にしてもよい。
反応時の圧力条件はフッ素化が進行する限り制限は無いが、通常は大気圧において行なう。また、加圧下で行なうようにしてもよい。
反応時間は、フッ素化反応が十分に進行するまでであり、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間以上、また、通常96時間以下、好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下である。なお、反応の進行度合いは、例えばクロマトグラフィーやNMR等でモニターすることにより確認できる。
また、反応雰囲気は、例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
本発明の製造方法により、芳香族化合物をフッ素化し、フッ素化芳香族化合物を得ることができる。
この際、収率は芳香族化合物の種類に応じて様々であるが、芳香族化合物としてポルフ
ィリン化合物をフッ素化する場合には、通常1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上、更に好ましくは20%以上である。このように、本発明の製造方法では、高い収率でフッ素化を行なうことを利点の一つとしている。なお、上限は理想的には100%であるが、現実的には80%以下である。
本発明の製造方法は、特に、ポルフィリン化合物のフッ素化に用いて好適である。ポルフィリン化合物は、従来はフッ素化が困難であったが、本発明の製造方法を用いれば、このポルフィリン化合物のフッ素化が可能だからである。
さらに、芳香族化合物としてポルフィリン化合物を使用した場合、通常は、本発明の製造方法によってポルフィリン化合物のメソ位が選択的にフッ素化される。したがって、本発明の製造方法は、このようなメソ位を選択的にフッ素化したい場合に特に好適である。特に、メソ位がフッ素化されたフッ素化ビシクロポルフィリン、及び、メソ位がフッ素化されたフッ素化テトラベンゾポルフィリンは、本発明の製造方法により初めて得られるものである。
特定フッ素化剤とエーテル/ケトン溶媒とを組み合わせて用いることで前記のような優れた利点が得られる理由は定かでないが、本発明者らの検討によれば、以下の理由によるものと考えられる。即ち、特定フッ素化剤はイオン反応により芳香族化合物のフッ素化を行なうところ、エーテル/ケトン溶媒が前記のイオン化反応を効果的に促進し、これにより、従来はフッ素化が困難であった種類の芳香族化合物のフッ素化が可能になり、また、フッ素化の収率も向上したものと考えられる。
なお、エーテル/ケトン溶媒に注目すれば、エーテル/ケトン溶媒は芳香族化合物を高濃度に溶解させる良溶媒であるため、このことが本発明の利点を奏する理由の一つとも考えられる。例えば、芳香族化合物としてポルフィリン化合物を用いた場合、アセトニトリルのように芳香族化合物をあまり溶解させない貧溶媒を溶媒に用いて、特定フッ素化剤でポルフィリン化合物をフッ素化しても、フッ素化は進行しない。
ただし、本発明者らの検討によれば、エーテル/ケトン溶媒が良溶媒であることだけでは本発明の利点は得られないと思料する。なぜならば、例えば、1,2−ジクロロエタンはポルフィリン化合物を良好に溶解させるが、これを溶媒に用いて特定フッ素化剤でポルフィリン化合物をフッ素化しても、その収率はエーテル/ケトン溶媒を用いた場合ほど高くはない。したがって、本発明の効果は、単に良溶媒であるエーテル/ケトン溶媒を使用したことによって得られたものではなく、エーテル/ケトン溶媒と特定フッ素化剤とを組み合わせて使用したことによって得られたものと思料される。
また、本発明のフッ素化方法においては、弱塩基を混合することにより、反応を効率よく進行させることができる。弱塩基としては、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の炭酸水素塩、または炭酸塩、たとえば炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウム等が用いられ、フッ素化剤とともに、反応溶媒中で縣濁させて用いる。またはピリジンなどの有機塩基でも良い。混合量は、フッ素化させたい芳香族化合物の通常1当量以上、好ましくは5当量以上であり、通常100当量以下、好ましくは30当量以下である。
〔6.フッ素化ビシクロポルフィリン〕
本発明の製造方法によれば、下記式(II)で表わされる構造を有するフッ素化ビシクロポルフィリン(以下適宜、「本発明のフッ素化ビシクロポルフィリン」という)を得ることができる。
Figure 2008100993
式(II)中、Maは金属原子を表わす。このMaは、式(I)のMが、金属原子である場合と同様である。
また、式(II)中、R17a〜R20aは、それぞれ独立に、水素原子又はフッ素原子を表わす。ただし、R17a〜R20aのうち、1つ以上はフッ素原子である。また、R17a〜R20aのうち、フッ素原子の数は4以下であるが、好ましくは2以下であり、より好ましくは1である。
また、式(II)中、R1a〜R8aは、R1aとR2a、R3aとR4a、R5aとR6a、及び、R7aとR8aの組み合わせのうち、少なくとも1組が一体となって下記式(III)で表わされる基を形成している以外は、上述した式(I)のR1〜R8と同様である。即ち、前記式(II)において、R1a〜R8aは、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。R1a〜R8aが置換基である場合、その具体例としては、ハロゲン原子又は有機基が挙げられ、有機基の例としては、式(I)R1〜R8の例として挙げたのと同様の有機基が挙げられる。更に、これらの置換基は、更に置換基を有していてもよい。
Figure 2008100993
式(III)中、R9a〜R16aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表わす。これらのR9a〜R16aは、上述した式(V)のR9〜R16と同様である。
本発明のフッ素化ビシクロポルフィリンは、例えば、式(V)で表わされるビシクロ構造を有する、式(I)のポルフィリン化合物を芳香族化合物として用いて、本発明の製造方法により、エーテル/ケトン溶媒中で特定フッ素化剤と反応させることにより製造することができる。反応温度、反応時間、反応時の圧力条件及び反応雰囲気は、それぞれ上述したとおりである。
〔7.フッ素化テトラベンゾポルフィリン〕
本発明の製造方法によれば、下記式(IV)で表わされる構造を有するフッ素化テトラベンゾポルフィリン(以下適宜、「本発明のフッ素化テトラベンゾポルフィリン」という)を得ることができる。
Figure 2008100993
式(IV)中、Mbは金属原子を表わす。このMbは、式(I)のMが、金属原子である場合と同様である。
また、式(IV)中、R17b〜R20bは、それぞれ独立に、水素原子又はフッ素原子を表わす。ただし、R17b〜R20bのうち、1つ以上はフッ素原子である。これらのR17b〜R20bは、式(II)のR17a〜R20aと同様である。
また、式(IV)中、R1b〜R8bはそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表わす。これらのR1b〜R8bは、R1bとR2b、R3bとR4b、R5bとR6b、及び、R7bとR8bの組み合わせのうち、全ての組が環を形成していても形成していなくても良い以外は、式(I)のR1〜R8と同様である。
本発明のフッ素化テトラベンゾポルフィリンは、例えば、R17b〜R20bがいずれも水素原子である以外は式(IV)と同様の構造を有するポルフィリン化合物を芳香族化合物として用い、本発明の製造方法により、エーテル/ケトン溶媒中で特定フッ素化剤と反応させることにより製造することができる。反応温度、反応時間、反応時の圧力条件及び反応雰囲気は、それぞれ上述したとおりである。
また、本発明のフッ素化テトラベンゾポルフィリンは、例えば、R1aとR2a、R3aとR4a、R5aとR6a、及び、R7aとR8aの組み合わせのいずれもが式(III)で表わされる基を形成している本発明のフッ素化ビシクロポルフィリンを原料とし、この原料に対して、逆ディールスアルダー反応を行なうことにより製造することもできる。また、式(III)のR13a及びR14aと、式(IV)のR1b〜R8bとが対応していることから、原料として、R13a及びR14aがそれぞれ目的物のR1b〜R8bと同様の基となっている以外は、式(II)と同様の構造を有するフッ素ビシクロポルフィリンを用い、この原料に対して逆ディールスアルダー反応を行なうことによっても、本発明のテトラベンゾポルフィリンを製造することができる。ただし、原料のR15a及びR16aは、水素原子にしておく。
前記の逆ディールスアルダー反応の反応条件は、逆ディールスアルダー反応が進行する限り任意であるが、通常は、以下の通りである。
即ち、温度条件は、通常100℃以上、好ましくは130℃以上、また、通常400℃以下、好ましくは300℃以下である。高温ほど反応時間は短く、低温ほど反応時間を長く要することが多い。
さらに、反応雰囲気は、真空中、或いは、窒素、希ガス等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
また、逆ディールスアルダー反応による変換率は、通常100%である。なお、変換率は、例えば、加熱による重量変化を測定することにより反応進行現象を調べて測定することができる(TG法)。
なお、逆ディールスアルダー反応については、例えば、Chem.Commun., 1998, P1661−P1662、HETEROCYCLES, vol52,No.1,2000,P399−P411などを参照することができる。
通常は、本発明のフッ素化テトラベンゾポルフィリンを製造する場合には、逆ディールスアルダー反応を利用した方法で製造するほうが好ましい。テトラベンゾポルフィリンはエーテル/ケトン溶媒にあまり大量には溶解しないため、逆ディールスアルダー反応を利用した方法で製造するほうが、本発明のフッ素化テトラベンゾポルフィリンを効率よく製造できるからである。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。なお、実施例の説明においてTHFとはテトラヒドロフランを表わし、Phはフェニル基を表わす。
〔実施例1:モノフルオロテトラビシクロポルフィリンの製造〕
以下に説明する操作により、下記反応式で表わす反応を行ない、モノフルオロテトラビシクロポルフィリンを合成した。
Figure 2008100993
反応容器にテトラビシクロポルフィリン750mg(1.20mmol)とAldrich社製Selectfluor(1−(chloromethyl)−4−fluoro−1,4−diazabicyclo[2.2.2]octanebis(tetrafluoroborate))2.84g(8.02mmol)とを入れ、これをdry−THF(Aldrich社製)300mlに溶かした後、遮光、アルゴン下で90℃にて15時間乾留した。反応終了後、塩をろ別してから反応混合物を濃縮した。これをクロロホルム(関東化学社製)100mlに溶解させた後、飽和重曹水、水、飽和食塩水でそれぞれ1回ずつ洗浄した。次いで無水硫酸ナトリウム(関東化学社製)で乾燥後濃縮した。
この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=3:7)で精製し、次いでメタノールで再沈殿することにより、モノフルオロテトラビシクロポルフィリンとして5−フルオロテトラビシクロポルフィリン187.1mg(収率24.8%)が紫色粉末として得られた。
生成物がモノフルオロテトラビシクロポルフィリンを含むことは、融点測定、1H NMR測定、19F NMR測定、質量分析、及び、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。融点測定には柳本製作所社製 BY−1型を用い、NMR測定には日本電子社製 AL−400を用い、質量分析にはApplied Biosystems社製 Voyager−DePROを用い、紫外吸収スペクトル測定には日本分光社製 V−570を用いた。なお、紫外線吸収スペクトルの測定に際しては、溶媒としてクロロホルムを用い、試料濃度は1×10-5Mとして測定を行なった。結果を以下に示す。また、紫外線吸収スペクトル測定により測定されたスペクトルを、図1に示す。
〔モノフルオロテトラビシクロポルフィリンの測定結果〕
[融点測定結果]
mp > 200 ℃ (decomp.)
1H NMR測定結果]
1H NMR (400 MHz, CDCl3): -4.49 (NH, brs, 2H), 1.85-2.35 (m, 16H), 5.71 (m, 6H), 5.93 (m, 2H), 7.24 (m 8H), 10.18 (m, 1H), 10.28 (m, 1H)
19F NMR測定結果]
19F NMR (375 MMHz, CDCl3): -136.0
[質量分析測定結果]
m/z (MALDI TOF-MS):642 (M+1)
[紫外線吸収スペクトル測定結果]
UV/nm (CHCl3): 393 [1.000], 495[0.115], 526 [0.029], 566 [0.038], 619 [0.006]
[分析により確認された元素組成]
Found for C44H37N4F+ 0.5 CH3OH+ 0.5 CH2Cl2 (calcd.); C: 77.35 (77.29), H: 5.43 (5.77), N: 7.96 (8.01).
〔実施例2:フルオロテトラベンゾポルフィリンの製造〕
実施例1で製造した5−フルオロテトラビシクロポルフィリン5mgを、粉末のまま真空中、200℃で10分加熱して、以下の反応式に示すように、フルオロテトラベンゾポルフィリンを得た。
Figure 2008100993
また、生成物がフルオロテトラベンゾポルフィリンであることは、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。なお、紫外線吸収スペクトルの測定は、実施例1と同様にして行なった。測定された紫外吸収スペクトルを、図2に示す。
〔実施例3:5−フルオロテトラビシクロポルフィリン亜鉛錯体の製造〕
実施例1で製造した5−フルオロテトラビシクロポルフィリン 20mg(0.03mmol)と酢酸亜鉛二水和物(和光純薬社製)100mg(0.55mmol)とをクロロホルム:メタノール混合溶媒(体積混合比 クロロホルム:メタノール=9:1)35mlに溶かし、室温で30分撹拌した。反応終了後、反応溶液を、飽和重曹水で1回、水で3回、飽和食塩水で1回洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して濃縮した。残った固体をメタノール:水=7:3(体積混合比)の溶媒で再沈殿することにより、目的の5−フルオロテトラビシクロポルフィリン亜鉛錯体21mg(収率98%)が赤紫色粉末として得られた。
生成物が5−フルオロテトラビシクロポルフィリン亜鉛錯体を含むことは、実施例1と同様に、融点測定、1H NMR測定、19F NMR測定、質量分析、及び、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。結果を以下に示す。また、紫外線吸収スペクトル測定により測定されたスペクトルを、図3に示す。
〔5−フルオロテトラビシクロポルフィリン亜鉛錯体の測定結果〕
[融点測定結果]
mp > 200 ℃ (decomp.)
1H NMR測定結果]
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.8-2.3 (m, 16H), 5.7 (m, 6H), 5.9 (m, 2H), 7.2 (m 8H),
10.0 (s, 1H), 10.3 (s, 2H)
19F NMR測定結果]
19F NMR (375 MMHz, CDCl3): -136.7
[質量分析測定結果]
m/z (MALDI TOF-MS):703 (M+)
[紫外線吸収スペクトル測定結果]
UV/nm (CHCl3): 405 [1.000], 529 [0.055], 561 [0.023]
[分析により確認された元素組成]
Found for C44H35N4FZn+ CH3OH+ 0.5 H2O (calcd.); C: 72.53 (72.54), H: 5.41 (5.04), N: 7.52 (7.54).
〔実施例4:モノフルオロテトラベンゾポルフィリン亜鉛錯体の製造〕
実施例3で製造した5−フルオロテトラビシクロポルフィリン亜鉛錯体5mgを、粉末のまま真空中200℃に加熱して、以下の反応式に示すように、モノフルオロテトラベンゾポルフィリン亜鉛錯体を得た。
Figure 2008100993
また、生成物がモノフルオロテトラベンゾポルフィリン亜鉛錯体であることは、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。なお、紫外線吸収スペクトルの測定は、溶媒としてクロロホルムとピリジンとの混合溶媒(クロロホルム:ピリジン=50:1)を用いた以外は実施例1と同様にして行なった。測定された紫外線吸収スペクトルを、図4に示す。
〔実施例5:5−フルオロテトラビシクロポルフィリン銅錯体の製造〕
実施例4と同様に、フルオロテトラビシクロポルフィリン銅錯体5mgを、粉末のまま真空中200℃で加熱することにより、下記反応式に示すように、5−フルオロテトラベンゾポルフィリン銅錯体を合成した。
また、実施例4と同様にして、紫外線吸収スペクトルの測定により、生成物が5−フルオロテトラベンゾポルフィリン銅錯体を含むことを確認した。測定された紫外線吸収スペクトルを、図5に示す。
Figure 2008100993
〔実施例6:ジフルオロテトラビシクロポルフィリン(5,15−体)の製造〕
以下に説明する操作により、下記反応式で表わす反応を行ない、ジフルオロテトラビシクロポルフィリン(5,15−体)を合成した。
Figure 2008100993
反応容器にテトラビシクロポルフィリン250mg(0.40mmol)とSelectfluor 1.42g(4.01mmol)とを入れ、これをdry−THF100mlに溶かした後、遮光、アルゴン下で90℃にて89時間乾留した。反応終了後、塩をろ別してから反応混合物を濃縮した。これをクロロホルム100mlに溶解させた後、飽和重曹水、水、飽和食塩水それぞれ1回ずつで洗浄した。次いで無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮した。
この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=3:7)で精製し、次いでメタノールで再沈殿することにより、ジフルオロテトラビシクロポルフィリン15.9mg(収率6%)、モノフルオロテトラビシクロポルフィリン26.6mg(収率10%)が、それぞれ紫色粉末として得られた。
生成物がジフルオロテトラビシクロポルフィリン(5,15−体)を含むことは、実施例1と同様に、融点測定、1H NMR測定、19F NMR測定、質量分析、及び、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。結果を以下に示す。また、紫外線吸収スペクトル測定により測定されたスペクトルを、図6に示す。
〔ジフルオロテトラビシクロポルフィリン(5,15−体)の測定結果〕
[融点測定結果]
mp > 200 ℃ (decomp.)
1H NMR測定結果]
1H NMR (400 MHz, CDCl3): -4.26 (NH, brs, 2H), 1.80-2.25 (m, 16H), 5.66 (m, 4H), 5.91 (m, 4H), 7.11 (m 8H), 10.06 (m, 2H)
19F NMR測定結果]
19F NMR (375 MHz, CDCl3): -135.0
[質量分析測定結果]
m/z (MALDI TOF-MS):660 (M+)
[紫外線吸収スペクトル測定結果]
UV/nm (CHCl3): 400 [1.000], 496 [0.110], 5.29 [0.016], 571 [0.030], 626 [0.009]
[分析により確認された元素組成]
Found for C44H36N4F2+0.5 C2H5OH+ 0.5 CHCl3 (calcd.); C: 73.72 (73.70), H: 5.02 (5.37), N: 7.39 (7.56).
〔実施例7:5−フルオロ、5,10−ジフルオロ及び5,15−ジフルオロオクタエチルポルフィリンの製造〕
以下に説明する操作により、下記反応式で表わす反応を行ない、5−フルオロ、5,10−ジフルオロ及び5,15−ジフルオロオクタエチルポルフィリンを合成した。
Figure 2008100993
反応容器にオクタエチルポルフィリン100mg(0.19mmol)とSelectfluor 1.42g(4.01mmol)を入れ、これをdry−THF 50mlに溶かした後、遮光、アルゴン下で90℃にて93時間乾留した。反応終了後、塩をろ別してから反応混合物を濃縮した。これをクロロホルム100mlに溶解させた後、飽和重曹水、水、飽和食塩水でそれぞれ1回ずつ洗浄した。次いで無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮した。
この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=3:7)で精製し、次いでメタノールで再沈殿することにより、ジフルオロオクタエチルポルフィリン(5,15−体と5,10−体の混合物)35.9mg(収率33%)、5−フルオロオクタエチルポルフィリン16.9mg(収率16%)が、それぞれ紫色粉末として得られた。
生成物が5−フルオロ、5,10−ジフルオロ及び5,15−ジフルオロオクタエチルポルフィリンを含むことは、実施例1と同様に、融点測定、1H NMR測定、19F NMR測定、質量分析、及び、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。結果を以下に示す。また、紫外線吸収スペクトル測定により測定されたスペクトルを、図7に示す。
〔5−フルオロオクタエチルポルフィリン〕
[融点測定結果]
mp > 200 ℃
1H NMR測定結果]
1H NMR (400 MHz, CDCl3): -3.58 (NH, brs, 2H), 1.85-1.91 (m, 24H), 4.01-4.10 (m, 8H), 9.89 (s, 1H), 10.03 (s, 2H)
19F NMR測定結果]
19F NMR (375 MHz, CDCl3): -136.2
[質量分析測定結果]
m/z (MALDI TOF-MS):553 (M+1)
[紫外線吸収スペクトル測定結果]
UV/nm (CHCl3): 400 [1.000], 498 [0.088], 531 [0.034], 569 [0.034], 622 [0.009]
[分析により確認された元素組成]
Found for C36H45N4F+1.5 H2O (calcd.); C: 74.58 (74.58), H: 7.69 (8.34), N: 9.73 (9.66).
〔5,10−ジフルオロ及び5,15−ジフルオロオクタエチルポルフィリン〕
[融点測定結果]
mp ≧ 200 ℃
1H NMR測定結果]
1H NMR (400 MHz, CDCl3): -3.78 (NH, brs, 2H, 5,15-体), -3.45 (NH, brs, 2H, 5,10-体), 1.80-1.92 (m, 24H), 3.99-4.08 (m, 8H), 9.80 (s, 2H, 5,10-体), 10.06 (s, 2H,
5,15体)
19F NMR測定結果]
19F NMR (375 MHz, CDCl3): -134.3 (5,10-体), -139.8 (5,15-体)
[質量分析測定結果]
m/z (MALDI TOF-MS):571 (M+)
[紫外線吸収スペクトル測定結果]
UV/nm (CHCl3): 401 [1.000], 498 [0.083], 531 [0.021], 573 [0.024], 629 [0.009]
[分析により確認された元素組成]
Found for C36H44N4F2+0.5 H2O (calcd.); C: 74.46 (74.58), H: 7.63 (7.82), N: 9.63 (9.66).
〔実施例8〕
反応容器にオクタエチルポルフィリン100mg(0.19mmol)とSelectfluor 1.42g(4.01mmol)を入れ、これをdry−アセトン 50mlに溶かした後、遮光、アルゴン下で48時間乾留した。その他は、実施例7と同様の条件で反応を行なったところ、5−フルオロオクタエチルポルフィリンが5%の収率で得られた。
生成物が5−フルオロオクタエチルポルフィリンを含むことは、実施例7と同様に、融点測定、1H NMR測定、19F NMR測定、質量分析、及び、紫外線吸収スペクトル測定により確認した。
〔比較例1〕
フッ素化剤としてSelectfluorに代えて下記の構造を有するフッ素化剤を用いた他は、実施例1と同様の操作を行なったが、フッ素化反応は生じなかった。
Figure 2008100993
〔比較例2〕
フッ素化剤としてSelectfluorに代えて下記の構造を有するフッ素化剤を用いた他は、実施例1と同様の操作を行なったが、フッ素化反応は生じなかった。
Figure 2008100993
〔比較例3〕
溶媒として、dry−THFに代えて1,2−ジクロロエタンを用いた他は、実施例1と同様に操作を行なったが、フッ素化反応はほとんど生じなかった。
〔まとめ〕
実施例及び比較例から、芳香族化合物であるポルフィリンのフッ素化は、エーテル/ケトン溶媒中で特定フッ素化剤以外のフッ素化剤を使用した場合、エーテル/ケトン溶媒以外の溶媒中で特定フッ素化剤を使用した場合のいずれの場合にも反応が進行せず、エーテル/ケトン溶媒と特定フッ素化剤とを組み合わせて使用することによりはじめて反応が進行することが確認された。
本発明は、芳香族化合物のフッ素化に広く用いることができ、特に、電子材料や色素材料に応用できる、ポルフィリンをフッ素化してフルオロポルフィリンを製造する方法に用いて好適である。
また、フッ素化されたポルフィリン化合物の用途としては、色素として利用できるのはもちろん、例えば、触媒、半導体などとして用いることができる。さらに、例えば、光起電力、光励起により誘起される電子移動等を利用した用途、光セラピー、診断薬等の用途など、色々な分野への応用が可能である。
本発明の実施例1で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。 本発明の実施例2で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。 本発明の実施例3で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。 本発明の実施例4で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。 本発明の実施例5で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。 本発明の実施例6で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。 本発明の実施例7で測定した紫外線吸収スペクトルを表わす図である。

Claims (6)

  1. 環状エーテル、鎖状エーテル、及び脂肪族ケトンからなる群より選ばれる1種類以上の中で、4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン化合物と芳香族化合物とを反応させる
    ことを特徴とする、フッ素化芳香族化合物の製造方法。
  2. 前記芳香族化合物がポルフィリン化合物である
    ことを特徴とする、請求項1記載のフッ素化芳香族化合物の製造方法。
  3. 前記ポルフィリン化合物が、下記式(I)で表わされる構造を有する
    ことを特徴とする、請求項2記載のフッ素化芳香族化合物の製造方法。
    Figure 2008100993
    (前記式(I)において、Mは金属原子又は2個の水素原子を表わし、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わし、R1とR2、R3とR4、R5とR6、及び、R7とR8の組み合わせのうち、少なくとも1組は互いに結合して環を形成している。)
  4. 前記ポルフィリン化合物のメソ位をフッ素化する
    ことを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載のフッ素化芳香族化合物の製造方法。
  5. 下記式(II)で表わされる構造を有する
    ことを特徴とする、フッ素化ビシクロポルフィリン。
    Figure 2008100993
    (式(II)中、R17a〜R20aはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を表わし、R17a〜R20aのうち1つ以上はフッ素原子であり、R1a〜R8aはそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表わし、R1aとR2a、R3aとR4a、R5aとR6a、及び、R7aとR8aの組み合わせのうち、少なくとも1組は一体となって下記式(III)で表わされる基を形成している。また、Maは金属原子を表わす。
    Figure 2008100993
    (式(III)中、R9a〜R16aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基を表わす。))
  6. 下記式(IV)で表わされる構造を有する
    ことを特徴とする、フッ素化テトラベンゾポルフィリン。
    Figure 2008100993
    (式(IV)中、R17b〜R20bはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を表わし、R17b〜R20bのうち1つ以上はフッ素原子であり、R1b〜R8bはそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表わす。また、Mbは金属原子を表わす。)
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