(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による蒸着装置の第1の実施形態を説明する。本実施形態の蒸着装置では、チャンバー内において、蒸発源に対して凸になるようにシート状の基板を搬送し(V字型経路)、凸の頂点となる部分の両側の領域で蒸着を行う。
図1(a)は、本実施形態の蒸着装置を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、蒸着装置100の一部を示す斜視図である。
まず、図1(a)を参照する。蒸着装置100は、チャンバー1と、チャンバー1の外部に設けられ、チャンバー1を排気するための排気ポンプ2とを備える。
チャンバー1の内部には、蒸着原料9を蒸発させる蒸発源30と、シート状の基板4を搬送するための搬送部と、蒸発源30によって蒸発した蒸着原料が到達しない遮蔽領域を形成する遮蔽部と、チャンバー1の外部からチャンバー1にガスを導入するガス供給部とが設けられている。ガス供給部は、チャンバー1の外部からチャンバー1内に酸素ガスなどのガスを導入するガス導入管(図示せず)と、ガス導入管(図示せず)に接続され、基板4の表面にガスを供給するためのノズル部31a1、31b1とを有している。なお、本明細書では、「ノズル部」は、ガスを噴射する出射口を含む出射部のみを指す。ガス導入管の側面に、1つまたは複数の出射口が直接設けられていてもよく、その場合には、各出射口が「ノズル部」となる。
蒸発源30は、例えば蒸着原料9を収容する坩堝などの容器10と、蒸着原料9を蒸発させるための加熱装置32とを含み、蒸着原料9および容器10は適宜着脱可能に構成されている。加熱装置32としては、例えば抵抗加熱装置、誘導加熱装置、電子ビーム加熱装置などを用いることができる。蒸着を行う際には、坩堝10内に収容された蒸着原料9が上記加熱装置32によって加熱されて、その上面(蒸発源)9sから蒸発し、基板4の表面に供給される。
搬送部は、基板4を巻き付けて保持し得る第1および第2のロール3、8と、基板4を案内するガイド部とを含む。ガイド部は、第1のガイド部材(ここでは搬送ローラ)6aおよび他の搬送ローラ5a、5bを有し、これにより、基板4が、蒸発面9sから蒸発した蒸着原料が到達する領域(蒸着可能領域)を通過するように、基板4の搬送経路が規定される。
第1のガイド部材6aは、隣接する搬送ローラ5a、5bよりも下方に配置され、基板4のうち蒸着原料によって照射される面が、蒸発源30に対して凸になるように基板4を案内する。「蒸発源30に対して凸になるように基板4を案内する」とは、蒸発面9sに対して凸になるように基板4を案内することを意味し、この構成により、図示する断面図において、基板4の経路は第1のガイド部材6aで方向転換するV字型またはU字型となる。本明細書では、第1のガイド部材6aによって規定されるV字型またはU字型の経路を「V字型経路」と呼ぶ。
遮蔽部は、第1のガイド部材6aと蒸発源30(蒸発面9s)との間に配置された遮蔽部材20を含んでいる。遮蔽部材20によって、蒸発面9sから蒸発した蒸着材料が基板4の法線方向から入射することを防止するとともに、V字型経路の蒸着領域を2つに分離している。このような構成により、基板4の搬送経路において遮蔽部材20の両側に蒸着領域60aおよび60bがそれぞれ形成される。
遮蔽部は、また、壁部21a、21bを有する遮蔽板22を含んでいる。壁部21a、21bは、それぞれ、蒸着領域60a、60bを通過する基板4の蒸着面と対向する対向面を有している。本実施形態では、壁部21a、21bは、チャンバー1の側壁と平行に、蒸着領域60a、60bの上端部に向かって延びている。遮蔽板22は、基板4の搬送経路における蒸着領域60a、60b以外の蒸着可能領域を走行する基板4、第1および第2のロール3、8などを覆うように配置され、これらに蒸着原料が到達することを防止する。
次いで、図1(b)を参照する。搬送ローラ5aおよび第1のガイド部材6aは、例えば長さが600mmの円筒形を有しており、その長さ方向(すなわち搬送する基板4の幅方向)が互いに平行になるようにチャンバー1内に配置されている。また、本実施形態におけるガス導入管32a1、32a2は、搬送ローラ5aなどの軸と平行に延びており、その先端には、それぞれ、ノズル部31a1、31a2が接続されている。ノズル部31a1、31a2の出射口は互いに対向するように配置されている。ここでは、第1のガイド部材6の搬送ローラ5a側の構成のみを示しているが、搬送ローラ5b側も同様の構成を有している。
なお、図1(b)には示していないが、蒸発源30も、例えば蒸着原料の蒸発面9sが、上記搬送部によって搬送される基板4の幅方向に平行に十分な長さ(例えば600mm以上)を有するように構成されていてもよい。これによって、基板4の幅方向に略均一な蒸着を行うことができる。なお、蒸発源30は、搬送される基板4の幅方向に沿って配列された複数の坩堝から構成されていてもよい。
<ノズル部の配置>
続いて、図2および図3を参照しながら、本実施形態におけるノズル部の配置をより詳しく説明する。
図2(a)は、搬送経路を通過する基板の表面に垂直で、かつ、基板を搬送する方向に平行な面100pに投影した基板、ノズル部および蒸発源の位置を示す図である。
図示するように、蒸着領域60aにガスを供給するためのノズル部31a1、31a2は、面100pにおいて、ノズル部31a1、31a2から、蒸着領域60aを通過する基板4の任意の点P1を見たときの第1のガイド部材6a側からの角度Anが、蒸発源30から(具体的には、蒸発源30における蒸発面9sの中心から)任意の点P1を見たときの第1のガイド部材6a側からの角度Aeよりも大きくなるように配置されている。同様に、蒸着領域60bにガスを供給するためのノズル部31b1、31b2は、これらのノズル部31b1、31b2から、蒸着領域60bを通過する基板4の任意の点P2を見たときの第1のガイド部材6a側からの角度Anが、蒸発源30から任意の点P2を見たときの第1のガイド部材6a側からの角度Aeよりも大きくなるように配置されている。
従って、ノズル部31a1、31a2、31b1、b2は、蒸発面9sの中心と蒸着領域60aの上端部および下端部とを結ぶ線で挟まれた領域R60a、R60bの外側に配置される。この領域R60a、R60bは、蒸発源30から蒸着領域60a、60bを通過する基板4に向かって蒸着粒子が飛翔する領域である。領域R60a、R60b内にノズル部を配置すると、ノズル部から噴射したガスによって蒸着粒子の流れが乱されてその指向性が大きく低下する。この結果、均質な斜め蒸着膜を形成できないおそれがある。これに対し、本実施形態によると、領域R60a、R60bの外側にノズル部31a1、31a2、31b1、b2を配置するので、ガスによる蒸着粒子の飛翔方向の乱れを抑制できる。
また、本実施形態では、ノズル部31a1、31a2は、領域R60aを挟んで第1のガイド部材6aと反対側に位置し、ノズル部31b1、31b2は、領域R60bを挟んで第1のガイド部材6aと反対側に位置する。このような構成によると、領域R60a、R60bの第1のガイド部6a側にノズル部を配置する場合よりも、蒸着粒子の飛翔方向を乱し難く、蒸着粒子の入射角度がガスによって変わってしまうことを抑制できる。特に、蒸着方向を切り換えながらジグザグ状の活物質体を形成する場合には、蒸着方向をより正確に制御でき、活物質体間に十分な空間をより確実に確保できる。このように、蒸着粒子の基板4に対する入射角度などの蒸着条件を確保しつつ、蒸着粒子とガスとを効率よく反応させることができる。
さらに、領域R60a、R60bの第1のガイド部6aと反対側にノズル部を配置すると、蒸着領域60a、60b全体により均一にガスを供給できるという利点もある。
その上、領域R60a、R60bの第1のガイド部6a側にノズル部を配置すると、噴射したガスが蒸発源30近傍に流れて圧力が高くなり、異常放電が発生するなど安定した膜形成を行うことができない場合もある。これに対し、本実施形態の構成によると、噴射したガスが蒸着源30に流れにくいので異常放電を防止できる。
図2(b)は、上記面100pにさらに遮蔽板22を投影した図である。ノズル部31a1、31a2は、面100pにおいて、第1のガイド部材6aの最も蒸発源30側に位置する点Q1と壁部21aの最も蒸発源30側に位置する点Qwとを結ぶ線と、蒸着領域60aを通過する基板4の表面と、壁部21aとによって規定される領域QW内に位置するように配置される。図2(b)では、蒸着領域60aにガスを供給するノズル部31a1、31a2の配置のみを示しているが、ノズル部31b1、31b2も同様に配置されている。
このような構成により、ノズル部31a1、31a2から噴射したガスは、領域QW内に滞留しやすくなるので、基板4にガスを効率よく供給することが可能になる。従って、チャンバー1の真空圧力の悪化を抑えて、酸化度の高い蒸着膜(例えばSiOx、x≧0.6)を形成することが可能になる。
蒸着領域60a、60bを通過する基板4と、遮蔽板22の壁部21a、21bにおける基板4と対向する面(対向面)とのなす角度Yは、25°以上90°以下であることが好ましく、より好ましくは25°以上70°以下である。角度Yは25°より小さいと、蒸発源30からの蒸着粒子が蒸着面に達し難くなり、蒸着効率が低下するおそれがある。また、90°より大きくなると、領域QW内にガスを閉じ込め難くなり、チャンバー1に供給されたガスが蒸着粒子と反応する割合(反応率)が低下するおそれがある。
図3は、蒸着領域60aを通過する基板4の法線方向から見たときの、基板4に対するノズル部31a1、31a2の配置を説明する図である。なお、図示していないが、ノズル部31b1、b2も蒸着領域60bを通過する基板4に対して同様に配置されている。
図3からわかるように、ノズル部31a1、31a2は、基板(幅:W)4の両縁部4R、4Lよりも外側にそれぞれ配置されている。また、ここでは、各ノズル部31a1、a2の出射口は互いに対向している。このように、基板4の法線方向から見たときにノズル部31a1、a2が基板4と重ならないように配置されていると、蒸発面9sから蒸発した蒸着粒子の基板4に向かう流れを乱さないので好ましい。また、蒸着粒子の密度が比較的低い両縁部4R、4Lから、蒸着粒子の密度が比較的高い基板4の中央に向かってガスが噴射されるので、基板4の幅方向にガスを均質に供給できる。さらに、ノズル部31a1、31a2およびガス導入管32a1、32a2を、蒸発面9sからの蒸着粒子があまり飛来しない領域に配置できるので、ノズル部31a1、31a2およびガス導入管32a1、32a2の側面に蒸着粒子が堆積し難い。よって、ノズル部31a1、31a2およびガス導入管32a1、32a2と蒸発面9sとの間に、カバーなどの遮蔽板を設ける必要がない。また、ノズル部31a1、31a2およびガス導入管31a1、31a2の径を従来よりも大きく(例えば0.5mm以上)することが可能になる。
ノズル部31a1、31a2は、蒸着領域60aの中心よりも蒸発源30側に配置されていることが好ましい。すなわち、基板4の法線方向から見たとき、蒸着領域60aの下端部と上端部との間の距離をHとすると、ノズル部31a1、a2の出射口の中心と蒸着領域60aの下端部との距離hは0より大きくH/2未満となるように配置される。一般に、蒸着領域のうち蒸発源に近い部分では、蒸発源から遠い部分よりも蒸着材料の堆積量が多く、酸素効率が低下しやすい。従って、図示するように、ノズル部31a1、31a2が蒸着領域60aの中心よりも蒸発源30側に配置されていると、蒸着領域60a全体に亘ってより均一にガスを供給することができる。
なお、本実施形態のノズル部は、図3に示すように配置されていなくてもよい。図4(a)および(b)は、本実施形態における他のノズル部31a’の配置を説明するための図であり、図4(a)は蒸着領域60aを通過する基板4の法線方向から見た図、図4(b)は斜視図である。
図4に示す例では、ガス導入管32a’は基板4の幅全体に亘って延びており、ガス導入管32a’の側面には複数のノズル部31a’が設けられている。これらのノズル部31a’は基板(幅:W)4の両縁部4R、4Lの内側に配置されている。このような構成であっても、各ノズル部31a’によって基板4の幅方向にガスを均質に供給できる。また、図3に示す構成と同様に、ノズル部31a’は、蒸着領域60aの中心よりも蒸発源30側に配置されていることが好ましい。
本実施形態におけるノズル部の配置は、図1に示す蒸着装置100の構成に限定されない。蒸着装置100では、2つの蒸着領域60a、60bに対応して設けられたノズル部31a1、31a2、31b1、31b2が何れも、図2に示すように、角度An>角度Aeを満足し、かつ、領域QW内に位置するように配置されているが、少なくとも1つのノズル部が上記のように配置されていれば、本発明の効果が得られる。また、本実施形態の蒸着装置は、3以上の蒸着領域を有していてもよく、その場合でも、何れか1つの蒸着領域に対応して設けられたノズル部が角度An>角度Aeを満足し、かつ、領域QW内に位置するように配置されていればよい。
<蒸着装置の動作>
再び図1(a)を参照する。本実施形態では、第1および第2のロール3、8の何れか一方が基板4を繰り出し、搬送ローラ5a、5bおよび第1のガイド部材6aは繰り出された基板4を搬送経路に沿って案内し、第1および第2のロール3、8の他方が基板4を巻き取る。巻き取られた基板4は、必要に応じて、上記他方のロールによってさらに繰り出され、搬送経路を逆方向に搬送される。このように、本実施形態における第1および第2のロール3、8は、搬送方向によって巻き出しロールとしても巻き取りロールとしても機能することができる。また、搬送方向の反転を繰り返すことによって、基板4が蒸着領域を通過する回数を調整できるので、所望の回数の蒸着工程を連続して実施できる。
搬送ローラ5a、第1のガイド部材6aおよび搬送ローラ5bは、上記基板4の搬送経路において第1のロール側からこの順に配置されている。本明細書では、「基板4の搬送経路において第1のロール側」とは、基板4の搬送方向や第1のロールの空間的な配置にかかわらず、第1および第2のロール3、8を両端とする搬送経路上の第1ロール側を意味する。本明細書では、蒸着領域の名称は、チャンバー1における第1および第2のロール3、8の設置位置や基板4の搬送方向にかかわらず、第1のガイド部材6aによって規定されるV字型経路において、第1のガイド部材6aの第1のロール側に位置していれば「蒸着領域60a」、第2のロール側に位置していれば「蒸着領域60b」と呼ぶ。従って、「蒸着領域60a」は、基板4の搬送経路において遮蔽部材20よりも第1のロール側に位置していればよく、例えば第1のロール3と第1の蒸着領域60aとの直線距離が、第1のロール3と第1のガイド部材6aとの直線距離よりも長くてもかまわない。
なお、本実施形態における搬送部および遮蔽部は、蒸発面9sから蒸発した蒸着材料が搬送経路を走行する基板4の法線方向から基板4に入射しないように、蒸発源30に対して配置されており、これによって、基板4の法線方向から傾斜した方向から蒸着を行う(斜め蒸着)ことが可能になる。図1に示す蒸着装置100では、遮蔽部材20によって、蒸着材料が基板4の法線方向から基板4に入射することを防止しているが、搬送部の構成によっては、他の遮蔽板も同様の機能を有する場合がある。
図示しないが、V字型経路の第1のロール側および第2のロール側にそれぞれ加熱部が配置されていてもよい。このような構成により、第1のロール3からV字型経路に基板4が搬送されるときには、加熱部によってV字型経路を通過する前の基板4を200℃〜400℃(例えば300℃)に加熱し、第2のロール8からV字型経路に基板4が搬送されるときには、加熱部によってV字型経路を通過する前の基板4を200℃〜400℃(例えば300℃)に加熱することができる。基板4を上記温度まで加熱すると、基板4の蒸着しようとする表面に付着した有機物を除去して、基板4と蒸着原料(例えばケイ素粒子)との密着力および蒸着原料(ケイ素粒子)同士の密着力を向上させることができる。
<蒸着装置100を用いた膜の製造方法>
次に、図1を参照しながら、蒸着装置100を用いて膜を製造する方法の一例を説明する。ここでは、蒸着材料9としてケイ素を用い、ガス供給部によってチャンバー1内に酸素を供給しながら蒸着を行うことにより、基板4の表面にケイ素酸化物からなる複数の活物質体を含む膜を形成する方法を説明する。
まず、第1および第2のロール3、8のうちの一方のロール(ここでは第1のロール3)に長尺の基板4を巻き付けておく。基板4として、銅箔、ニッケル箔などの金属箔を用いることができる。後で詳述するように、基板4の表面に複数の活物質体を所定の間隔を空けて配置するためには、斜め蒸着によるシャドウイング効果を利用する必要があり、そのためには、金属箔の表面に凹凸パターンが形成されていることが好ましい。本実施形態では、凹凸パターンとして、例えば上面が菱形(対角線:20μm×10μm)で高さが10μmの四角柱形状の突起が規則的に配列されたパターンを用いる。菱形の長い方の対角線に沿った間隔を20μm、短い方の対角線に沿った間隔を10μm、菱形の辺に平行な方向における間隔を10μmとする。また、各突起の上面の表面粗さRaを例えば2.0μmとする。
また、蒸発源30の坩堝内には蒸着材料(例えばケイ素)を収容し、ガス導入管32a1、32a2は蒸着装置100の外部に設置された酸素ガスボンベなどに接続しておく。この状態で、排気ポンプ2を用いてチャンバー1を排気する。
次いで、第1のロール3に巻き付けられた基板4を繰り出し、第2のロール8に向かって搬送する。基板4は、第1および第2の蒸着領域60a、60bを含むV字型経路を通過する。このとき、蒸発源30の坩堝内のケイ素を電子ビーム加熱装置などの加熱装置32によって蒸発させて、第1および第2の蒸着領域60a、60bを通過する基板4の表面に供給する。同時に、酸素ガスをノズル部31a1、31a2、31b1、31b2から基板4の表面に供給する。
これにより、基板4の表面に、反応性蒸着により、ケイ素と酸素とを含む化合物(ケイ素酸化物)を成長させることができる。
また、第1の蒸着領域において、基板の法線方向に対して傾斜した方向から蒸着原料を基板表面に入射させ、第2の蒸着領域において、基板の法線方向に対して第1の蒸着領域における傾斜方向と反対側に傾斜した方向から蒸着原料を基板表面に入射させることができる。従って、基板表面に、互いに成長方向の異なる2層からなる蒸着膜を形成できる。
この後、これらの蒸着領域60a、60bで表面にケイ素酸化物が蒸着された後の基板4は、第2のロール8によって巻き取られる。
このようにして、基板4上にケイ素酸化物からなる蒸着膜を得る。得られた蒸着膜は、複数の活物質体を有している。本実施形態では、第1の蒸着領域60aおよび第2の蒸着領域60bにおける蒸着原料の入射方向は、基板4の法線方向を挟んで互いに反対側に傾斜している。従って、基板4の搬送方向を切り換えながら、上記の蒸着を繰り返すと、基板4の法線方向に対して反対側に交互に傾斜した方向に活物質体を成長させることができる。この結果、前述したようなジグザグ状の活物質体が得られる。
本実施形態の蒸着装置100における第1および第2の蒸着領域60a、60bは、基板の蒸着原料によって照射される面(以下、「蒸着面」)が平面となるように基板を搬送する平面搬送領域を含んでいることが好ましい。これにより、例えばスキャン(ローラ)上でのみ蒸着が行われる構成を有する従来の蒸着装置よりも、蒸発源で蒸発させた蒸着材料が飛散する蒸着可能領域のうち蒸着を行う領域の占める割合を高くでき、蒸着材料の利用効率を向上できる。また、各蒸着領域60a、60bを通過する基板4に対するケイ素の入射角度を、搬送ローラ5a、5bおよび第1のガイド部材6aとの配置関係によって容易に制御できる。従って、高い自由度で蒸着角度を選択できるという利点もある。
本実施形態では、第1および第2の蒸着領域60a、60bのうち少なくとも一方の蒸着領域を通過する基板4の蒸着面は、壁部21a、21bの面(対向面)と対向して、ガスを滞留させる領域QWを形成しているが、後述する実施形態のように、他の領域を搬送する基板4によって対向面を形成してもよい。
また、蒸着材料9の利用効率をさらに高めるために、後述する実施形態のように、蒸着可能領域に複数のガイド部材を配置して複数のV字型経路を設けてもよい。特に、平面搬送領域で蒸着を行う場合には、蒸着源に対して多数のV字型経路を形成できるので、蒸着方向の異なる蒸着工程をより効率良く行うことができる。また、平面搬送領域で蒸着を行うだけでなく、ガイド部材6上(曲面搬送領域)でも蒸着を行ってもよい。
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による第2の実施形態の蒸着装置を説明する。本実施形態では、チャンバー内の蒸着可能領域内に、第1の実施形態で説明したV字型の基板経路(V字型経路)を2箇所設けて、全部で4つの蒸着領域を形成する。
図5は、本発明による第2の実施形態の蒸着装置を模式的に示す断面図である。簡単のため、図1に示す蒸着装置100と同様の構成要素には、同じ参照符号を付して説明を省略する。図5に示す蒸着装置200は、第1および第2のロール3、8と、搬送ローラ5a〜5cと、第1および第2のガイド部材(搬送ローラ)6a、6bとを含む搬送部を有しており、これによって、基板4の搬送経路が規定される。
搬送ローラ5a、6a、5b、6b、5cは、上記基板4の搬送経路において第1のロール側からこの順に配置されている。本実施形態では、第1のガイド部材6aと同様に、第2のガイド部材6bもV字型経路を形成する。第2のガイド部材6bと蒸発源30との間には、遮蔽部材20が配置されており、蒸発源30の蒸発面9sから蒸発した蒸着材料が基板4の法線方向から入射することを防止するとともに、V字型経路における蒸着領域を2つに分離している。このような構成により、このV字型経路において遮蔽部材20よりも第1のロール側に位置する蒸着領域60cと、遮蔽部材20よりも第2のロール側に位置する蒸着領域60dとが形成される。これらの蒸着領域60a〜60dにおける蒸着原料の入射方向は、基板4の法線方向に対して、例えば45°以上80°以下の角度だけ傾斜するように制御されている。なお、本実施形態のように、基板4の蒸着原料に照射される面が2つのV字型経路を連続してW字型に搬送される場合、この搬送経路を「W字型経路」と呼ぶこともある。
本実施形態では、蒸着領域60a、60bのうち1つの蒸着領域D1を通過する基板4の蒸着面と、蒸着領域60c、60dのうち1つの蒸着領域D2とを通過する基板4の蒸着面が互いに対向するように、第1および第2のガイド部材6a、6bが配置されている。図示する例では、蒸着領域60b、60cがそれぞれ蒸着領域D1、D2に相当する。また、蒸着領域60a、60dを通過する基板4の蒸着面は、それぞれ、遮蔽板22の壁部21a、21bの表面と対向している。
蒸着装置200には、蒸着領域60a〜60dにガスを供給するガス供給部が設けられている。蒸着領域60aおよび蒸着領域60dには、それぞれ、図1〜図3を参照しながら前述したようなガス導入管(図示せず)およびノズル部によってガスが供給される。図5では、蒸着領域60aに対応するノズル部のうち一方(ノズル部31a1)のみが示され、蒸着領域60dに対応するノズル部のうち一方(ノズル部31d1)のみが示されている。また、蒸着領域60b、60c(すなわち蒸着領域D1、D2)には、1組のノズル部によってガスが供給される。1組のノズル部は、図1(b)を参照しながら前述した構成と同様に、基板4の両縁部からガスを噴射する2つのノズル部から構成されており、図5では、これらのノズル部のうち一方(ノズル部31b1)のみが示されている。
次に、図6を参照しながら、ノズル部の配置を説明する。図6は、蒸着領域D1、D2にガスを供給するための1組のノズル部31b1、31b2を、基板4の表面に垂直で、かつ、基板4を搬送する方向に平行な面200pに投影した図である。
図示するように、面200pにおいて、ノズル部31b1から、蒸着領域D1を通過する基板4の任意の点PD1を見たときの第1のガイド部材6a側からの角度Anは、蒸発面9sの中心から任意の点PD1を見たときの第1のガイド部材6a側からの角度Aeよりも大きく、かつ、ノズル部31b1から、蒸着領域D2を通過する基板4の任意の点PD2を見たときの第1のガイド部材6b側からの角度Anは、蒸発面9sの中心から任意の点PD2を見たときの第2のガイド部材6b側からの角度Aeよりも大きい。これにより、図2(a)を参照しながら前述したように、蒸着粒子の流れを乱すことなく、基板4の表面にガスを供給できる。また、蒸着領域D1、D2の上端部から下端部に亘ってより均一にガスを供給できる。
ノズル部31b1、31b2は、第1のガイド部材6aの最も蒸発源側に位置する点Q1と、第2のガイド部材6bの最も蒸発源側に位置する点Q2とを結ぶ線と、蒸着領域D1およびD2のそれぞれを通過する基板4とによって規定される領域QC内に位置している。これにより、領域QC内にガスを滞留させることができるので、基板4にガスを効率よく供給できる。
なお、図5では、各蒸着領域D1、D2とノズル部31b1との距離が略等しくなるようにノズル部31b1が配置されているが、ノズル部31b1の位置はこのような配置に限定されない。さらに、図5では、蒸着領域D1、D2は、蒸発源9sの法線に対して略対称となるように形成されているが、これらは非対称であってもよい。
本実施形態におけるノズル部31b1、31b2は、図3を参照しながら前述したように、蒸着領域D1、D2を通過する基板4の両縁部よりも外側にそれぞれ配置されていることが好ましい。また、蒸着領域D1、D2の中心よりも蒸発源30側に配置されていることが好ましい。なお、図4を参照しながら前述したように、蒸着領域D1、D2を通過する基板4の両縁部よりも内側に配置されていてもよい。
本実施形態では、蒸着領域D1、D2の両方にガスを供給するようにノズル部31b1、31b2が配置されているが、代わりに、各蒸着領域D1、D2にそれぞれノズル部が設けられていてもよい。この場合でも、図7に示すように、面200pにおいて、蒸着領域D1にガスを供給するノズル部31b1、31b2、および、蒸着領域D2にガスを供給するノズル部31c1、31c2の少なくとも一方は、領域QC内対応する蒸着領域D1、D2に対して角度An>角度Aeの関係を満足するように配置される。これにより、上記と同様の効果が得られる。なお、ノズル部31b1、b2、31c1、31c2が何れも上記のように配置されていると、蒸着粒子とガスとの反応効率をより効果的に改善できるので好ましい。
本実施形態の蒸着装置200によると、蒸着可能領域に4つの蒸着領域60a〜60dを形成するため、図1に示す蒸着装置100と比べて、より広い角度に出射する蒸着原料を蒸着に利用でき、蒸着材料の利用率をさらに高めることができる。また、基板4の表面に蒸着方向を切り換えながら4段の蒸着工程を連続して行った後、搬送方向を切り換えてさらに多段の蒸着を行うことができる。従って、任意の積層数n(例えばn=30〜40)の活物質体を基板4の表面に連続的に形成できる。
なお、基板4の搬送方向を切り換えながら蒸着を繰り返す場合、蒸着領域60a、60b、60c、60dにおける成膜量の比が1:2:2:1となることが好ましい。このように、基板4が2回連続して通過する可能性のある蒸着領域60a、60dにおける成膜量を、他の蒸着領域(蒸着領域60b、60c)における成膜量の1/2に設定すると、ジグザグ状の活物質体を構成する各部分の厚さを略均一にできるので、活物質体を全体として基板4の法線方向に成長させることができる。なお、「基板4が蒸着領域を2回連続して通過する」とは、その蒸着領域を通過して所定の方向から蒸着膜が形成された後、他の蒸着領域において当該蒸着膜上に他の方向から蒸着膜が形成されることなく、搬送方向の切り換えにより、再度その蒸着領域を通過して蒸着が行われることを意味する。また、成膜量を上記のように制御する場合には、各蒸着領域の成膜量に応じて、各ノズル部からのガス導入量を調整することが好ましい。上述したように、各ノズル部から対応する蒸着領域に噴射されたガスはその蒸着領域近傍で滞留するため、蒸着領域ごとに酸素密度を制御できる。従って、ガス導入量を調整することにより、各蒸着領域で成長させる活物質の組成(酸素比率)をより均一にできる。
本実施形態の蒸着装置200の構成は図5〜図7に示す構成に限定されない。本実施形態では、蒸着領域D1、D2の間に配置されたノズル部のうち少なくとも1つが、領域QC内に配置され、かつ、角度An>角度Aeの関係を満足していればよい。従って、他の蒸着領域60a、60dにガスを供給するノズル部31a1、31d1は、図5に示す位置ではなく、任意の位置に設けられていてもよい。また、蒸着装置200は、蒸着領域60a、60dを通過する基板4の蒸着面に対向する壁部21a、21bを有する遮蔽板22を備えていなくてもよい。ただし、図5に示すように、遮蔽板22およびノズル部31a1、31b1、31d1が、何れも、領域QWまたは領域QC内に角度An>Aeを満たすように配置されていることが好ましい。これにより、全ての蒸着領域60a〜60dに均一かつ効率よくガスを供給することができる。
さらに、図示していないが、搬送部は、第1のガイド部材6aによって形成されるV字型経路と、第2のガイド部材6bによって形成されるV字型経路との間に、基板4の蒸着面を裏返すための反転構造を含んでいてもよい。これにより、チャンバー1の真空を破ることなく、基板4の両面に蒸着膜を形成できる。なお、図5に示す蒸着装置200を用いて基板4の両面に蒸着を行うときには、基板4の片面に成膜した後、基板4をロール3、8に巻きなおして、裏面側に成膜を行ってもよい。
基板4の搬送経路に含まれる蒸着領域の数も特に限定されない。3以上のV字型経路を形成し、より多くの蒸着領域を形成してもよい。多数(例えば5つ以上)の蒸着領域を形成すると、基板4を正方向に1回搬送するだけ多くの層を形成できるので、積層数の多い活物質体を形成する場合には有利である。
本実施形態では、複数の蒸着領域のうち少なくとも2つが互いに対向し、対向する蒸着領域の間に、角度An>角度Aeを満たし、かつ、領域QC内に位置するようにノズル部が配置されていればよい。図5に示す構成では、各V字型経路は2つずつ蒸着領域を有しているが、一部のV字型経路が蒸着領域を1つしか有していなくてもよい。
図8は、本実施形態の他の蒸着装置を例示する模式的な断面図である。この例では、3つのガイド部材6a、6b、6cによって3つのV字型経路が形成されている。ガイド部材6bは、その両側に蒸着領域60a、60bを形成している。ガイド部材6a、6cは、それぞれ、蒸着領域60a’60b’を形成している。ガイド部材6aと搬送ローラ5aとの間、および、ガイド部材6cと搬送ローラ5dとの間には蒸着領域は形成されていない。蒸着領域60aと蒸着領域60a’とは、それぞれの蒸着領域60a、60a’を通過する基板4の蒸着面が対向するように配置されている。同様に、蒸着領域60bと蒸着領域60b’とは、それぞれの蒸着領域60b、60b’を通過する基板4の蒸着面が対向するように配置されている。この場合でも、互いに対向する基板4の蒸着面によって規定される領域QC内に、角度An>角度Aeを満足するようにノズル部31a1、31b1を設けることにより、上記と同様の効果が得られる。
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による第3の実施形態の蒸着装置を説明する。本実施形態の蒸着装置の搬送部は、図5を参照しながら第2の実施形態で説明したようなW字型の基板経路(W字型経路)を2箇所形成し、かつ、これらのW字型経路の間で、基板4の蒸着原料によって照射される面を裏返す反転構造を有するように構成されている。
図9は、本実施形態の蒸着装置を模式的に示す断面図である。簡単のため、前述の実施形態で説明した蒸着装置100、200と同様の構成要素には、同じ参照符号を付して説明を省略する。
図9に示す蒸着装置300は、第1および第2のロール3、8と、搬送ローラ5a〜5mと、第1〜第4のガイド部材6a〜6dとを含む搬送部を有しており、これによって、基板4の搬送経路が規定される。
搬送ローラ5a〜5mは、上記基板4の搬送経路において第1のロール側からこの順に配置されている。また、第1〜第4のガイド部材(搬送ローラ)6a〜6dは、上記基板4の搬送経路において第1のロール側からこの順に配置されている。前述の実施形態と同様に、各ガイド部材6a〜6dは、基板4のうち蒸着原料によって照射される面が蒸発源30に対して凸になるように基板4を案内し、V字型経路を形成する。各ガイド部材6a〜6dと蒸発面9sとの間、および、各搬送ローラ5c〜5e、5j〜5lと蒸発面9sとの間には、それぞれ、遮蔽部材20が配置されている。このような構成により、第1のガイド部材6aによって形成されたV字型経路において、第1のロール側に位置する蒸着領域60aと、第2のロール側に位置する蒸着領域60bとが形成される。同様に、第2のガイド部材6bによって形成されたV字型経路において、第1のロール側に位置する蒸着領域60cと、第2のロール側に位置する蒸着領域60dとが形成され、第3のガイド部材6cによって形成されたV字型経路において、第1ロール側に位置する蒸着領域60eと、第2のロール側に位置する蒸着領域60fとが形成され、第4のガイド部材6dによって形成されたV字型経路において、第1のロール側に位置する蒸着領域60gと、第2のロール側に位置する蒸着領域60hとが形成される。
本実施形態では、蒸着領域60aおよび蒸着領域60eは、それぞれ、遮蔽板22の壁部21a、21bの表面と対向している。蒸着領域60a、60eと壁部21a、21bとの間には、それぞれ、ノズル部31a1、ノズル部31e1が配置されている。これらのノズル部31a1、31e1は、図2(a)および(b)を参照しながら前述したように配置されている。また、図3を参照しながら前述したように、他のノズル部(図示せず)と対向して配置され、基板4の両縁部からガスを供給するように構成されている。
さらに、本実施形態では、蒸着領域60b、60cを通過する基板4の蒸着面が互いに対向している。これらの蒸着面の間には、蒸着領域60b、60cにガスを供給するノズル部31b1が設けられている。同様に、蒸着領域60d、60hを通過する基板4の蒸着面、および蒸着領域60g、60fを通過する基板4の蒸着面も、それぞれ、互いに対向している。互いに対向する蒸着面の間には、それぞれ、ノズル部31d1、31f1が設けられている。ノズル部31b1、31d1、31f1は、図6を参照しながら前述したように配置されている。また、図3を参照しながら前述したように、他のノズル部(図示せず)と対向して配置され、基板4の両縁部からガスを供給するように構成されている。
本実施形態における搬送ローラ5f〜5iは、基板4の搬送経路における蒸着領域60dと蒸着領域60eとの間に、第2のロール8を回り込むように配置されている(反転構造)。この構造により、蒸着領域60a〜60dを含むW字型経路を通過した後の基板4を裏返して、蒸着領域60e〜60hに案内できるので、チャンバー1の真空状態を保ったままで、基板4の両面に蒸着膜を連続的に形成することが可能になる。
本実施形態でも、各蒸着領域60a〜60hを通過する基板4の法線に対する蒸着粒子の入射角度ωは、搬送部および遮蔽部によって規定される。ここで、図10を参照しながら、本実施形態における遮蔽部材20の配置および入射角度ωをより具体的に説明する。
図10に示すように、本実施形態における遮蔽部材20は、各ガイド部材6a〜6dおよび搬送ローラ5c、5jの蒸発源30側にそれぞれ配置された遮蔽板35と、各蒸着領域の搬送ローラ5c〜5e側またはガイド部材6a、6b側に配置されたマスク33a〜33hと、蒸着領域60e〜60hの搬送ローラ5j〜5l側またはガイド部材6c、6d側に配置されたマスク34a〜34hとを含んでいる。
各蒸着領域60a〜60hの上端部および下端部は、マスク33a〜33h、34a〜34hによって規定されている。従って、各蒸着領域60a〜60dを通過する基板4に対する蒸着粒子の入射角度ωは、その蒸着領域を形成するガイド部材などの搬送部だけでなく、その蒸着領域に配置されるマスクの位置によっても調整され得る。また、図10からわかるように、各蒸着領域60a〜60hにおいて、上端部における蒸着粒子の入射角度ωは、下端部における蒸着粒子の入射角度ωよりも大きくなる。例えば、蒸着領域60aの上端部における入射角度ω21は、下端部における入射角度ω22よりも大きい。
本実施形態でも、前述の実施形態と同様に、基板4の搬送方向を切り換えて蒸着を繰り返す場合、蒸着領域60a〜60hにおける成膜量の比が1:2:2:2:2:2:2:1となるように搬送部や遮蔽部が構成されていることが好ましい。これにより、前述したように、基板4が2回連続して通過する可能性のある蒸着領域60a、60hにおける成膜量を、他の蒸着領域60b、60c、60d、60e、60f、60gにおける成膜量の1/2に設定されるので、活物質体を構成する各部分の厚さ(第1層と最上層となる部分とを除く)を略等しくすることができる。
本実施形態の蒸着装置の構成は図9および図10に示す構成に限定されない。本実施形態では、複数のノズル部のうち少なくとも1つが、領域QCまたは領域QW内に配置され、かつ、角度An>角度Aeの関係を満足していればよい。ただし、各蒸着領域60a〜60hにガスを供給するノズル部のそれぞれが上記のように配置されていると、全ての蒸着領域60a〜60hに均一かつ効率よくガスを供給することができる。また、本実施形態におけるノズル部は、図4に示すように、各蒸着領域を通過する基板の法線方向から見たときに、基板の両縁部の内側に配置されていてもよい。
さらに、本実施形態の蒸着装置は反転構造を含んでいなくてもよい。図11に示す蒸着装置400は、前述の他の実施形態の蒸着装置と同様に、第1および第2のロール3、8の何れか一方から基板4を繰り出し、搬送ローラ5a〜5eおよび6a〜6dによって基板4を搬送し、各蒸着領域60a〜60hにおいて蒸着を行う。この後、第1および第2のロール3、8の他方が基板4を巻き取る。巻き取られた基板4は、必要に応じて、上記他方のロールによってさらに繰り出され、搬送経路を、上記とは逆の方向に搬送される。このように、本実施形態における第1および第2のロール3、8は、搬送方向によって巻き出しロールとしても巻き取りロールとしても機能することができる。また、正方向および逆方向の搬送を交互に繰り返すことによって、所望の回数の蒸着工程を連続して実施できる。
蒸着装置400によると、前述の実施形態と同様に、各蒸着領域60a〜60hを通過する基板4に対し、蒸発した蒸着粒子の流れを乱すことなく、ガスを均一に供給できる。また、各蒸着領域60a〜60hにおいて、基板4および基板4と対向する面(他の蒸着領域を走行する基板または遮蔽板)との間に、供給されたガスを保持させることができるので、蒸着粒子とガスとを効率よく反応させることができる。
さらに、蒸着領域60a〜60hに対応する複数のノズル部を設けるので、その蒸着領域における蒸着量やガスの滞留空間などを考慮して、蒸着領域ごとにガスの供給量を調整することも可能である。
<電極の製造方法>
次に、蒸着装置300を用いて、電気化学素子用電極(以下、単に「電極」という)を製造する方法の一例を説明する。
図12〜図22は、本実施形態の電極の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である。以下の説明では、図12〜図22および図9、図10を参照する。
まず、図12(a)に示すように、厚さが18μmのシート状の合金銅箔の両面に、機械加工により複数の凸部4A、4Bを形成し、基板(集電体)4を得る。図示する断面(基板4に垂直で、かつ、基板体4の搬送方向に平行な断面)において、各凸部4A、4Aの高さを6μm、幅を20μmとし、隣接する凸部4Aの間隔を20μmとする。
上記基板4を、蒸着装置300の第1のロール3に巻きつけて設置する。この後、第1のロール3から基板4を繰り出して蒸着領域60aに搬送する。このとき、蒸着装置300のチャンバー1の内部を、例えば圧力0.03Paの酸素雰囲気とする。
蒸着領域60aにおいて、蒸発源30における蒸着材料9の蒸発面9sに近づく方向に基板4を移動させる。このとき、蒸発源30から、例えばケイ素(スクラップシリコン:純度99.999%)や錫などの活物質を加熱装置(例えば電子ビーム)32で加熱して蒸発させる。
図12(b)に示すように、蒸着領域60aの上端部、すなわちマスク33a(図10)の近傍では、基板4の表面に蒸発粒子が入射角度ω21で入射する。入射角度ω21は例えば72°とする。蒸発粒子は、ノズル部31a1から供給される酸素と反応して、例えばSiOxの組成を有する活物質層101が基板4の凸部4Aの側面4As1および上面に成長する。ノズル部31a1およびノズル部31a1と対向して設けられたノズル部(図示せず)からの酸素ガス流量は、何れも、例えば4sccmとする。
この後、基板4の移動に伴って、蒸発粒子の入射角度ωがω21(72°)から小さくなる方向に変化しながら、活物質層101が成長する。蒸着領域60aの下端部(マスク33b近傍)では、図12(c)に示すように、蒸発粒子は入射角度ω22で入射する。入射角度ω22は例えば67°とする。このようにして、活物質体の第1層(厚さd1:例えば0.1μm)101aを得る。なお、第1層101aの厚さd1は、基板4の法線Hに沿った、凸部4Aの上面からの厚さを指すものとする。
この工程では、蒸発面9sからの蒸発粒子の飛来数およびノズル部31a1から供給される酸素量で活物質101の酸素比率が決まる。従って、蒸発面9sの法線から離れており、すなわち蒸着可能領域の端部に位置しており、また、蒸発面9sから遠くに位置している蒸着領域60aでは、蒸発面9sの上方に配置されている蒸着領域60dに比べて蒸発粒子の飛来数が少なく、蒸着レートは小さい。
また、上述したように、遮蔽板22の壁部21aと蒸着領域60aを通過する基板4との間に、2方向が間仕切りされた、酸素ガスの滞留しやすい空間を形成し、導入した酸素ガスを保持しておくことができる。このため、より少ない酸素導入量で酸素比率xの大きい層101aを形成することができる。このとき、図3を参照して前述したように、酸素ガスを基板4の両縁部から中心に向かって供給できるようにノズル部31a1を配置すると、蒸着粒子がノズル口に堆積してノズル口を塞ぐことを防止できる。
なお、第1層101aを形成するための第1層蒸着工程の初期の蒸着原料の入射角度ω21は、60°以上80°以下であることが好ましく、65°以上75°以下がより好ましい。入射角度ω21が80°を超えると、基板4の法線Hからの傾斜が大きすぎて、シャドウイング効果により凸部4A、4Bの側面を覆う活物質層が形成されにくい。その結果、基板4と第1層101aとの接触面積が小さく、両者の密着性が低下する。また、入射角度ω21が60°より小さいと、凸部4A、4Bの間の凹部にも活物質層101が成長して活物質体間に十分な空隙を確保できないおそれがあり、充電時の膨張により集電体に皺が入る可能性がある。
一方、第1層蒸着工程の終期の蒸着原料の入射角度ω22は、45°以上70°以下であることが好ましく、60°以上70°以下がより好ましい。入射角度ω22が45°より小さいと、各活物質層101aが幅方向に大きく(太く)成長するため活物質体間の空隙が減少する。さらに、活物質の酸素比率が厚さ方向で変化し、充電時の膨張応力により集電体表面または各活物質層の間で剥離する可能性がある。また、入射角度ω22が70°を超えると、蒸着可能領域が減少するため生産性が低下する。入射角度ω21、ω22は、各蒸着領域60aと蒸発面9sとの間に配置されたマスクの位置、蒸着領域60aの傾斜角度によって調整される。
次いで、基板4を、マスク33c、33dの間に設けられた蒸着領域60bにおいて、蒸発源30から離れる方向に移動させる。蒸着領域60bの下端部、すなわちマスク33c近傍では、図12(d)に示すように、基板4の表面に蒸発粒子が入射角度ω23で入射する。入射角度ω23は例えば65°とする。蒸着材料としてケイ素を用いた場合、蒸発粒子(Si粒子)は、ノズル31b1から供給される酸素と反応して、ケイ素酸化物(SiOx、例えばx=1.2)の組成を有する活物質層102が基板4の凸部4Aの側面4As2および第1層101aに接するように成長する。ノズル部31b1およびノズル部31b1と対向して設けられたノズル部(図示せず)からの酸素ガス流量は、何れも、例えば20sccmとする。
この後、基板4の移動に伴って、蒸発粒子の入射角度ωがω23(65°)から大きくなる方向に変化しながら、活物質層102が成長する。蒸着領域60bの上端部(マスク33d近傍)では、図12(e)に示すように、蒸発粒子は入射角度ω24で入射する。入射角度ω24は例えば75°とする。このようにして、活物質体の第2層(厚さd2:例えば0.2μm)102aを得る。なお、第2層102aの厚さd2は、その下にある層(ここでは第1層101a)の頂点部、すなわち基板4からの距離が最も大きい部分からの、基板4の法線Hに沿った厚さを指すものとする。
この工程でも、蒸着領域60aにおける蒸着工程と同様に、蒸発面9sからの距離により蒸発粒子の飛来数およびノズル部31b1から供給される酸素量で活物質の酸素比率が変化する。すなわち、蒸着領域60aに比べて蒸発面9sの法線から近く、かつ、蒸発面9sから近い位置に形成された蒸着領域60bでは、蒸着領域60aよりも蒸着レートが大きくなる。このため、ノズル部31b1からの酸素ガス導入量を、ノズル部31a1からの酸素ガス導入量よりも増加させることによって、第1層101aと同等の酸素比率を確保できる。
また、蒸着領域60bを通過する基板4の蒸着面は、蒸着領域60cを通過する基板4の蒸着面60cと対向して配置されている。このため、これらの蒸着面の間の空間に、ノズル部31b1から導入した酸素ガスを滞留させることができるので、酸素ガスを効率よく基板4の蒸着面に供給できる。さらに、図3を参照しながら前述したように、基板4の両縁部から中心に向かってガスを供給するようにノズル部31b1を含む2つのノズル部を配置することにより、蒸着粒子がノズル口に堆積してノズル口を塞いでしまうことを防止することができる。さらに、活物質の厚さは、蒸着レート、入射角度、およびマスク33c、33d間の距離で決まる。ここでは、第2層102aの厚さd2を、第1層101aの厚さd1の2倍となるように、蒸着レート、入射角度およびマスク33c、33d間の距離を設定した。
なお、上記の第1層101aと同様に、第2層102aを形成するための第2層蒸着工程の初期の蒸着原料の入射角度ω23は、45°以上75°以下であることが好ましく、60°以上70°以下がより好ましい。また、第2層蒸着工程の終期の蒸着原料の入射角度ω24は、60°以上80°以下であることが好ましく、65°以上75°以下がより好ましい。入射角度ω23、ω24は、蒸着領域60bと蒸発面9sとの間に配置されたマスクの位置、蒸着領域60bの傾斜角度によって調整される。
次いで、基板4を、マスク33e、33f間に設けられた蒸着領域60cにおいて、蒸発源30に近づく方向に移動させる。蒸着領域60cの上端部、すなわちマスク33e近傍では、図13(a)に示すように、基板4の表面に蒸発粒子が入射角度ω25で入射する。入射角度ω25は例えば72°とする。蒸発粒子は、ガスノズル31b1から供給される酸素と反応して、例えばSiOxの組成(例えばx=1.2)を有する活物質層103が第1層101aの上および第2層102aに接するように成長する。このとき、蒸着領域60bにおける蒸着工程と同一のノズル31b1から酸素ガスを導入する。従って、酸素ガス導入量は例えば20sccmである。
この後、基板4の移動に伴って、蒸発粒子の入射角度ωがω25(72°)から小さくなる方向に変化しながら、活物質層(例えばSiOx、x=1.2)103を成長させる。蒸着領域60cの下端部(マスク33f近傍)では、図13(b)に示すように、蒸発粒子は入射角度ω26で入射する。入射角度ω26は例えば64°とする。このようにして、活物質体の第3層(厚さd3:例えば0.2μm)103aを得る。なお、第3層103aの厚さd3は、その下にある層(ここでは第2層102a)の頂点部、すなわち基板4からの距離が最も大きい部分からの、基板4の法線Hに沿った厚さを指すものとする。
蒸着領域60cでは、蒸着領域60bと同様に蒸着レートが大きいので、酸素ガス導入量を蒸着領域60aよりも増加させることにより、活物質101aと同等の酸素比率を確保できる。また、第2層103aの厚さd3が、第2層102aの厚さd2と同等になるように、蒸着レート、入射角度およびマスク33e、33f間の距離を設定した。
本実施形態によると、蒸着領域60b、60cでは、同じノズル部31b1を用いて蒸着が行われる。この結果、第3層103aおよび第2層102aの酸素比率xを略同等にできるので、充電時の膨張による活物質の割れや剥離を防止することができる。また、第1層101aと第3層103aの粒子成長方向は、集電体の法線Hに対して同じ方向に傾斜している。
なお、第3層103aを形成するための第3層蒸着工程の初期の蒸着原料の入射角度ω25および、第3層蒸着工程の終期の蒸着原料の入射角度ω26は、上記の第2層102aと同等の厚さになるように構成されている。入射角度ω25、ω26は、各蒸着領域60cと蒸発面9sとの間に配置されたマスクの位置、蒸着領域60cの傾斜角度によって調整される。
次いで、基板4を、マスク33g、33h間に設けられた蒸着領域60dにおいて、蒸発源30から離れる方向に移動させる。蒸着領域60dの下端部、すなわちマスク33g近傍では、図13(c)に示すように、基板4の表面に蒸発粒子が入射角度ω27で入射する。入射角度ω27は例えば65°とする。蒸発粒子は、ガスノズル31d1から供給される酸素と反応して、例えばSiOxの組成(例えばx=1.2)を有する活物質層104が第2層102aの上および第3層103aに接するように成長する。このとき酸素ガス流量は、例えば20sccmとする。
この後、基板4の移動に伴って、蒸発粒子の入射角度ωがω27(65°)から大きくなる方向に変化しながら、活物質層104が成長する。蒸着領域60dの上端部(マスク33h近傍)では、図13(c)に示すように、蒸発粒子は入射角度ω28で入射する。入射角度ω28は例えば69°とする。このようにして、活物質体の第4層(厚さd4:例えば0.1μm)104aを得る。なお、第4層104aの厚さd4は、その下にある層(ここでは第3層103a)の頂点部、すなわち基板4からの距離が最も大きい部分からの、基板4の法線Hに沿った厚さを指すものとする。ここでは、第4層104aの厚さd4が第1層101aの厚さd1と同等になるように、蒸着レート、入射角度、およびマスク33g、33h間の距離を設定した。また、蒸着領域60dは、蒸発面9sの上方(法線近傍)に配置されており、蒸着レートが大きいため、ノズル部31d1およびノズル部31d1と対向して配置された他のノズル部(図示せず)からの酸素ガス導入量を何れも20sccmとした。これにより、第1層〜第4層の酸素比率xを略同等にすることができた。
このようにして、集電体の凸部4Aの表面に、第1層101a〜第4層104aからなる酸素比率の大きい活物質層110uが得られる。
続いて、基板4を蒸着領域60eに搬送する。このとき、反転構造により、基板4の活物質層110uが形成された面と反対側の面(凸部4Bが形成された面)が外側になるように、基板4が裏返される。
蒸着領域60eでは、図14(a)および(b)に示すように、基板4の裏面の凸部4B上に、活物質体の第1層(厚さ:例えば0.1μm)101bが形成される。第1層101bの形成工程は、図12(a)および(b)を参照して説明した工程と同様である。また、酸素ガス導入量、入射角度ω11およびω12も、第1層101bの形成工程と同様に、それぞれ、8sccm、72°および67°とする。なお、入射角度ω11、ω21の好ましい範囲も、それぞれ、第1層101bの形成工程における入射角度ω21、ω22の好ましい範囲と同じである。
次に、基板4を蒸着領域60fに搬送する。蒸着領域60fでは、図14(c)および図15(a)に示すように、基板4の凸部4B上に第2層(厚さ:例えば0.2μm)102bが形成される。第2層102bの形成工程は、図12(c)および(d)を参照して説明した第2層102aの形成工程と同様である。酸素ガス導入量、入射角度ω13およびω14も、第2層102aの形成工程と同様に、それぞれ、20sccm、65°および75°とする。なお、入射角度ω13、ω14の好ましい範囲も、それぞれ、第2層102aの形成工程における入射角度ω23、ω24の好ましい範囲と同じである。
続いて、基板4を蒸着領域60gに搬送する。蒸着領域60gでは、図15(b)および(c)に示すように、基板4の裏面に形成された第1層101b上に第3層(厚さ:例えば0.2μm)103bが形成される。第3層103bの形成工程は、図13(a)および(b)を参照しながら説明した第3層103aの形成工程と同様である。酸素ガス導入量、入射角度ω15およびω16も、第3層103aの形成工程と同様に、それぞれ、20sccm、72°および64°とする。なお、入射角度ω15、ω16の好ましい範囲も、それぞれ、第3層103aの形成工程における入射角度ω25、ω26の好ましい範囲と同じである。
この後、基板4を蒸着領域60hに搬送する、蒸着領域60hでは、図16(a)および(b)に示すように、基板4の裏面に形成された第2層102b上に第4層(厚さ:例えば0.1μm)104bが形成される。第4層104bの形成工程は、図13(c)および図13(d)を参照しながら説明した第4層104aの形成工程と同様である。酸素ガス導入量、入射角度ω17およびω18も、第4層104aの形成工程と同様に、それぞれ、20sccm、65°および69°とする。なお、入射角度ω17、ω18の好ましい範囲も、それぞれ、第4層104bの形成工程における入射角度ω27、ω28の好ましい範囲と同じである。
このようにして、集電体の各凸部4Bの表面に、第1層101b〜第4層104bからなる酸素比率の大きい活物質層120uが得られる。
この後、活物質層110u、120uが形成された基板4は、一旦第2ロール8に巻き取られる。このように、1回の正方向の搬送において、基板4の各表面に、基板4の法線Hに対して成長方向が交互に反対側に傾斜した複数層(ここでは4層)からなる活物質体110、120を形成できる。
基板4の表面および裏面に形成された活物質層110u、120uの厚さ(基板4の法線Hに沿った厚さ)tuは、0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。活物質層110u、120uの厚さtが0.1μm以上であれば、活物質層110u、120uの上に堆積される層と基板4との密着性をより効果的に確保することができる。また、活物質層110u、120uの厚さtuが3μm以下であれば、活物質体の幅が厚さ方向に増大することを抑制できる。また、活物質110u、120uの酸素比率xは、0.3以上1.8以下であることが好ましく、0.6以上1.4以下がより好ましい。活物質110u、120uの酸素比率xが0.3より小さいと、充電時の膨張により活物質が集電体表面から剥がれる可能性がある。また、活物質110u、120uの酸素比率xが1.8を超えると、酸素ガス導入量の増加によりチャンバー内の圧力が上昇し、安定した膜形成を行うことができなくなる。
また、活物質層110u、120uを形成するための蒸着レートは、10nm/sec以上3μm/sec以下であることが好ましく、30nm/sec以上2μm/sec以下がより好ましい。蒸着レートが3μm/secを超えると、活物質層厚さによっては集電体の走行速度が速くなり、集電体のロスが発生する。また、10nm/secより小さいと、成膜時間が長くなり生産性が低下する。一方、活物質層の酸素比率xは、蒸着レートと酸素導入量で調整される。例えばSiOxの組成(例えばx=1.8)を有する活物質層を形成するとき、チャンバー内に導入される酸素ガス流量の合計は、10SLM以下が好ましい。酸素ガス流量が10SLMを超えると、チャンバー内圧が上昇して異常放電が発生し、安定した活物質層を形成することができない。
活物質層110u、120uを形成した後、第2ロール8に巻き取られた基板4を、必要に応じて、第1ロール3に向かって逆方向に搬送させることができる。
逆方向に搬送する際には、基板4は、蒸着領域60h、60g、60f、60eをこの順で通過する。これにより、図17(a)〜図19(b)に示すように、基板4の裏面に形成された活物質層120u上に第5層105b〜第8層108bが形成される。これらの層105b〜108bの形成工程および条件は、それぞれ、第4層104b〜第1層101bの形成工程および条件と同様である。
この後、基板4は裏返されて、蒸着領域60d、60c、60b、60aをこの順で通過する。この後、再び第1ロール3に巻き取られる。これにより、図20(a)〜図22(b)に示すように、基板4の表面に形成された活物質層110u上に第5層105a〜第8層108aが形成される。これらの層105a〜108aの形成工程および条件は、それぞれ、第4層104a〜第1層101aの形成工程および条件と同様である。
このようにして、第1および第2ロール3、8の間で、基板4を方向を切り換えながら複数回の搬送を行えば、所望の積層数の活物質体を得ることができる。
上述した方法では、各ノズル部からの酸素ガス導入量を個々に制御することにより、領域QW(図2)、領域QC(図6)などの閉塞空間に滞留させる酸素ガスの量を制御することができる。これにより、各層101a〜104a、101b〜104bの酸素比率xを均一にすることができる。よって、活物質体110、120は厚さ方向に酸素比率xの組成が大きく変化することを抑制できるので、充放電時の膨張収縮によって、各界面から活物質が剥離してしまうことを抑制でき、信頼性を向上できる。なお、酸素ガス導入量をノズル部毎に制御することにより、厚さ方向に所定の酸素濃度分布を有する活物質体110、120を形成してもよい。
また、搬送回ごとに酸素ガス導入量を変化させてもよい。ここでいう「搬送回」は、例えば第1ロール3から第2ロール8までの最初の搬送(往路)を1回目、1回目の搬送後に第2ロール8に巻き取られた基板4を第1ロール3まで送る搬送(復路)を2回目とする。これにより、厚さ方向に酸素比率xの異なる活物質体を形成することが可能になる。例えば、1回目の搬送時の酸素ガス導入量を多くし、2回目以降の搬送時の酸素ガス導入量を徐々に減少させる。これにより、活物質体の酸素比率xを基板4側で大きく、基板4から離れるにつれて小さくすることができる。酸素比率xが小さいほどリチウムの吸蔵量が大きく、リチウム吸蔵による体積膨張率も大きくなることから、活物質体の基板4側では体積膨張を抑えて密着性の低下を防止し、活物質体の上面側ではリチウムの吸蔵量を確保することが可能となる。よって、充放電容量を高く維持しつつ、活物質体の剥離を抑制できる。
本実施形態における基板4の構成材料は特に限定されないが、銅、ニッケル、チタンから選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属が好ましく、これらを主成分とした合金材料を用いることもできる。特に、屈曲性および延伸性に優れ、かつ、リチウムと反応しない銅または銅合金を用いることが好ましい。例えば、電解銅箔、電解銅合金箔、さらにあらかじめ粗化処理を施した電解銅箔、粗化処理を施した圧延銅箔などの金属箔を用いることができる。これらの金属箔は、算術平均粗さRaが0.3〜5.0μm程度の凹凸箔であることが好ましい。算術平均粗さRaは、日本工業規格(JISB 0601−1994)に定められており、例えば表面粗さ計等により測定することができる。このような凹凸箔に凸部4A、4Bを形成することによって基板4を作製すると、凸部4A、4Bの表面の表面粗さが大きくなるので、基板4と活物質体110、120との付着強度をさらに高めることができる。
基板4に形成される凸部4A、4Bの高さは3.0μm以上10μm以下であることが好ましく、これにより、活物質体110、120の間に十分な空隙をより確実に形成することができる。凸部4A、4Bは、レジスト法、メッキ法または機械加工によって金属箔の表面に規則的な凹凸パターンを形成することによって形成できる。基板4の凸部4A、4Bが形成されていない部分の厚さは特に限定されないが、例えば6μm以上50μm以下である。
蒸発源30の蒸発面9sの中心から蒸発した蒸着粒子の基板4の表面に対する入射角度ωは、45°以上80°以下であることが好ましい。入射角度ωが45°未満であれば、集電体凹部(溝)上に活物質体が堆積し、基板4の表面上に隣接する活物質体110、120間に隙間を設けた蒸着膜(活物質層)を形成することが困難になる。充放電による活物質体110、120の膨張時に基板4に皺が生じるなどの課題がある。また、入射角度ωが80°以上であれば、活物質体110、120の成長方向が基板4の法線Hに対して大きく傾斜するので、基板4の表面に対する活物質体110、120の付着力が弱くなる。そのため、基板4との密着性の低い蒸着膜が形成されてしまい、充放電によって基板4の表面から活物質が剥がれてしまうなどの課題が生じる。なお、蒸着領域60a〜60dにおいて、基板4を平面で搬送する場合には、入射角度ωを45°以上80°以下に設定すると、角度Aeは10°以上45°以下となる。
また、活物質体110、120は、基板4の凸部4A、4B上から、基板4と離れる方向に重なるように成長していればよく、その形状は円柱、角柱に限定されない。
活物質体110、120の材料は特に限定されず、例えばシリコン、スズ、シリコン酸化物、シリコン窒化物、スズ酸化物およびスズ窒化物からなる群から選択される1以上の活物質を含んでいてもよい。電極の高容量化という観点からは、ケイ素元素を含むことが好ましい。より好ましくは、活物質体110、120は、例えばケイ素単体、ケイ素合金、ケイ素と酸素とを含む化合物、および、ケイ素と窒素とを含む化合物よりなる群から選択される少なくとも1種からなる。これらは単独で活物質層を構成してもよく、複数種が同時に活物質層を構成してもよい。なお、ケイ素と窒素とを含む化合物は、更に酸素を含んでいても構わない。複数種が同時に活物質層を構成する例として、ケイ素と酸素と窒素を含む化合物からなる活物質層が挙げられる。また、ケイ素と酸素との比率が異なる複数の酸化ケイ素の複合物からなる活物質層が挙げられる。ケイ素と酸素とを含む化合物は、一般式:SiOX(ただし、0<x<2)で表される組成を有することが望ましい。ここで、酸素元素の含有量を示すx値は、0.05≦x≦1.8であることがさらに好ましい。
上記方法により活物質体110、120が形成された基板4は、必要に応じて所定のサイズに切断されて、円筒型、扁平型、コイン型、角形等の様々な形状のリチウムイオン二次電池の電極として用いられる。リチウムイオン二次電池は、公知の方法により製造できる。具体的には、上記方法を用いて得られた電極を所定の電極幅にスリットし、セパレータを介して正極板と対向して捲回、または積層される。セパレータとしてポリプロピレン製のセパレータ(セルガード社製、厚さ20μm)等を用いることができる。正極板は、例えば厚さ15μmの圧延Al箔の集電体上に、活物質としてLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などの粉体とアセチレンブラック(AB)とを、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機バインダとともに混練したものを塗布・乾燥後、圧延することによって形成できる。この後、電解液の注液を行うことにより、捲回電池、積層電池などを製造することができる。
あるいは、図23に示すようなコイン型の電池に適用してもよい。コイン型の電池の負極64は、集電体61の片面のみに、本実施形態の蒸着方法を用いて複数の活物質体からなる活物質層62を形成することによって得られる。得られた負極64を、正極活物質65が形成された正極板66と、微多孔性フィルムなどからなるセパレータ69を介して対向させて極板群を形成し、この極板群とリチウムイオン伝導性を有する電解液(図示せず)と共にケース70内に収容する。これにより、コイン型の電池を製造できる。正極活物質や電解液としては、リチウムイオン二次電池に一般的に使用される材料を用いることができる。例えば、正極活物質としてLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などを用い、電解液として、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類に6フッ化リン酸リチウムなどを溶解することによって得られる電解液を用いてもよい。また、電池の封止形態も特に限定されない。
(実施例1)
実施例1の負極およびそれを用いた試験電池を作製し、特性の評価を行ったので、以下に説明する。
<負極1C、試験電池C>
まず、本発明による電極の実施例1を説明する。
1.基板(集電体)の作製
厚さが18μmの合金銅箔(日立電線(株)製、Zr添加量:0.02重量%)に、略菱形の底面を有する複数の凹部が形成されたローラを用いて、線圧1トン/cmでロールプレスを行った。これにより、表面に複数の凸部を有する基板を形成した。
図24(a)および(b)は、それぞれ、実施例1における基板(集電体)の模式的な断面図および上面図である。図示するように、各凸部4Aは、上面が菱形(対角線の長さ:10μm×20μm)の四角柱状(平均高さ:6μm)であった。また、菱形の短い方の対角線に沿ったX方向における凸部4AのピッチPXは30μmであった。また、X方向に沿った凸部4Aの列と、この列をピッチPXの1/2だけX方向に平行移動させた列とを、X方向と直交するY方向に沿って25μmのピッチPYで交互に配列した。
2.活物質層の形成
図9および図10に示す蒸着装置300を用い、基板4を移動させずに固定した状態で、基板4の片面のみに活物質層を形成した。ここでは、蒸着領域60a〜60dにおいて、基板4の一部分に活物質層を形成する同時に、蒸着領域60e〜60hにおいて、基板4の他の部分に活物質層を形成した。以下、図9、図10および図25を参照しながら、本実施例における活物質層の形成方法をより具体的に説明する。
まず、蒸着装置300のチャンバー1内において、第1ロール3と第2ロール8との間に基板4を配置した(図25(a))。このとき、基板4のうち蒸着領域60a〜60dに位置する部分では、基板4の凸部4Aが形成された面4aが蒸着面となり、蒸着領域60e〜60hに位置する部分では、凸部4Bが形成された面(面4aと反対側の面)4bが蒸着面となった。
蒸着領域60a〜60hの下方に配置されたカーボン製の坩堝10に、蒸着材料として、純度99.9999%のケイ素を収容した。蒸着の際には、電子銃32より、加速電圧を−10kV、エミッション電流を450mAに設定した電子ビームを照射して蒸着材料の加熱を行った。
続いて、ノズル部31a1から2sccm、ノズル部31b1から14sccm、ノズル部31d1から14sccm、ノズル部31f1から14sccm、ノズル部31e1から4sccmの流量で酸素ガスをチャンバー1内に供給した。なお、上述したように、蒸着装置300は、各ノズル部31a1、31b1、31d1、31f1、31e1に対向するように配置された他のノズル部を備えている。本実施例では、他のノズル部からの酸素ガス導入量は、そのノズル部と対向するノズル部の酸素ガス導入量と等しくなるように制御した。
上記流量で酸素ガスを供給しつつ、基板4を固定したままの状態で、蒸発源30上に配置したシャッター(図示せず)を開いた。これにより、図25(b)および(c)に示すように、蒸発源30から飛来する蒸着粒子の一部が蒸着領域60a〜60dに入射した。この結果、基板4のうち蒸着領域60a〜60dに位置する部分における面4a上にSiOx(ケイ素酸化物)からなる活物質層201が選択的に堆積した。同時に、蒸着粒子の他の一部は蒸着領域60e〜60hに入射し、基板4のうち蒸着領域60e〜60hに位置する部分における面4b上にも、SiOxからなる活物質層が堆積した(図示せず)。蒸着の際には、排気ポンプ2によってチャンバー1内を真空度0.02Paまで排気した。蒸着時間は、基板4は固定した状態で20分間とした。
この後、シャッターを閉じて、基板4を第2ロール8に向かって移動させた後、チャンバー1から取り出した。このようにして、活物質層201が面4aに形成された部分と、活物質層201が反対側の面4bに形成された部分とを有する負極1Cを得た。
3.試験電池用負極の作製
上記で得られた負極1Cのうち、各蒸着領域60a〜60hで蒸着された部分をそれぞれ31mm×31mmのサイズに裁断し、負極表面に真空蒸着法によって15μmのLi金属を蒸着して、8個の電池用負極を得た。具体的には、蒸着領域60a〜60hで形成された活物質層を含む電池用負極を、それぞれ、電池用負極1C−a〜2C−hとした。
各電池用負極の内周側には、正極と対向しない部分に集電体(Cu箔)を露出する露出部を設け、Cu製の負極リードを溶接した。
4.試験電池用正極の作製
正極活物質である平均粒径10μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末を10gと、導電剤であるアセチレンブラック0.3gと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)の粉末0.8gと、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液(呉羽化学工業(株)製の品番♯1320)を充分に混合して、正極合剤用ペーストを調製した。得られた正極合剤用ペーストを厚さが20μmのアルミニウム(Al)箔からなる正極集電体(厚さ15μm)の片面にドクターブレード法を用いて塗布した。次いで、正極合剤用ペーストを、厚さが70μmとなるように圧延し、85℃で充分に乾燥させて正極活物質層を形成した。この後、正極活物質層が形成された正極集電体を30mm×30mmのサイズに裁断して電池用正極を得た。電池用正極の内周側であって、負極と対向しない部分に集電体(Al箔)を露出する露出部を設け、Al製の正極リードを溶接した。
5.試験電池の作製
上記各電池用負極および正極を用いて、コイン型電池を作製し、8個の試験電池を作製した。電池用負極1C−a〜2C−hを用いた試験電池を、それぞれ、試験電池C−a〜C−hとした。
再び図23を参照しながら試験電池の具体的な作製方法を説明する。まず、旭化成(株)製の厚さが20μmのポリエチレン微多孔膜からなるセパレータ69を介して、正極活物質層65と負極活物質層62とが対向するように試験電池用正極68および試験電池用負極64を配置し、薄い極板群を構成した。この極板群を、電解質とともに、アルミニウムラミネートシールからなる外装ケース70に挿入した。電解質には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1で混合し、これにLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解した非水電解液を用いた。非水電解液は、正極活物質層65、負極活物質層62およびセパレータ69にそれぞれ含浸させた。その後、正極リードおよび負極リード(図示せず)を外部に導出させた状態で、真空減圧しながら外装ケース70の端部を溶着して、試験電池を得た。
<負極1D〜1G、試験電池D〜G>
各ノズル部からの酸素ガスの導入条件を変化させて、負極1Cと同様の方法で基板4の面4aおよび面4bに活物質層を形成し、負極1D〜2Gを作製した。各負極を作製する際の酸素ガスの導入条件を次に説明する。
負極1Dの作製の際には、ノズル部31b1から16sccm、ノズル部31d1から16sccm、ノズル部31f1から16sccmの流量でチャンバー1内に酸素ガスを供給し、ノズル部31a1、31e1からは酸素ガスを導入しなかった。
負極1Eの作製の際には、ノズル部31e1から16sccmの流量でチャンバー1内に酸素ガスを供給し、他のノズル部31a1、31b1、31d1、31f1から酸素ガスを導入しなかった。
負極1Fの作製の際には、ノズル部31a1から16sccmの流量でチャンバー1内に酸素ガスを供給し、他のノズル部31b1、31d1、31f1、31e1から酸素ガスを導入しなかった。
負極1Gの作製の際には、ノズル部31b1から30sccm、ノズル部31d1から30sccm、ノズル部31f1から30sccm、ノズル部31e1から9sccmの流量でチャンバー1内に酸素ガスを供給し、ノズル部31a1から酸素ガスを導入しなかった。
得られた負極1Dから、上記と同様の方法で8個の電池用負極1D−a〜1D−hを作製した。続いて、上記と同様の方法で、各電池用負極を用いたコイン型電池を作製し、8個の試験電池D−a〜D−hを得た。同様にして、負極1E、1F,1Gからそれぞれ8個の電池用負極1E−a〜1E−h、1F−a〜1F−h、1G−a〜1G−hを作製し、これらを用いて試験電池E−a〜E−h、F−a〜F−h、G−a〜G−hを得た。
実施例1における負極1C〜1Gの酸素導入条件およびチャンバー内の真空度を表1に示す。
<実施例1の電池の評価>
(i)充放電特性
負極1C〜1Gを用いた各試験電池に対し、以下の方法で充放電特性の評価を行った。
まず、試験電池を、それぞれ、20℃の恒温槽に収納し、定電流定電圧方式で充電を行った。ここでは、電池電圧が4.2Vになるまで1Cレート(1Cとは1時間で全電池容量を使い切ることができる電流値)の定電流で充電し、4.2Vに達した後は電流値が0.05Cになるまで定電圧で充電した。
充電後、20分間休止し、1Cレートのハイレートの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。ハイレートでの放電後、さらに0.2Cの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで再放電を行った。再放電後、20分間休止した。上記の充放電の1サイクル後の充電容量と放電容量から不可逆容量(リテンション率)を求めた。
また、負極1Cを用いた8個の電池用負極のうち、蒸着領域60eで蒸着した活物質層を有する試験電池C−eの不可逆容量を基準として、他の電池用負極1C−a〜d、2C−f、2C−g、2C−hを用いた試験電池C−a〜d、C−f、C−g、C−hの不可逆容量比率を求めた。同様にして、負極1D〜1Gを用いた試験電池についても、それぞれ、蒸着領域60eで蒸着した活物質層を有する試験電池D−e、E−e、F−e、G−eの不可逆容量を基準として、不可逆容量比率を求めた。
測定結果を、表2および図26に示す。
不可逆容量(リテンション)の原因として、初充電で活性なLiがケイ素酸化物層(活物質層)と合金反応を起こす以外に、ケイ素酸化物層表面の皮膜およびケイ素酸化物層中の酸素と反応する結果、不活性なLiが形成され、次に放電する時には反応しないことが考えられている。また、充電時に極板の剥がれが生じた場合にも放電できなくなり、不可逆容量が発生する。従って、ケイ素酸化物層の酸素含有量が多いほど、抵抗が高く不活性なLiが増加し、その結果、放電容量が低下する。不可逆容量は、酸素導入量、および銅箔界面とケイ素酸化物層との間の密着力によって変化する。
表2および図26より、負極1Fを用いた試料電池では、蒸着領域60aで形成した活物質層を有する試験電池F−aの不可逆容量比率は他の試験電池よりも約2倍高い。また、負極1Eを用いた試料電池では、蒸着領域60eで形成した活物質層を有する試験電池E−eの不可逆容量比率が他の試験電池よりも約2倍高い。これは、遮蔽板と上記蒸着領域60a、60eとによって間仕切りされた空間(図2に示す領域QW)に酸素ガスが滞留して、酸素ガスと蒸発源から蒸発したケイ素粒子とが効率よく反応し、活物質層の酸素比率が高くなったからと考えられる。
負極1Dを用いた試験電池では、蒸着領域60aおよび蒸着領域60eで形成した活物質層を有する試験電池D−a、D−eの不可逆容量比率が低い。これは、蒸着領域60a、60eに活物質と反応する酸素ガスが少なく、活物質層の酸素比率が低くなったことが原因と考えられる。また、負極1Gを用いた試料電池では、負極1Dと同様の原因によって、蒸着領域60aで形成された活物質層を有する試験電池の不可逆容量比率が低いことがわかった。このことから、他の蒸着領域60b〜d、60f〜hからの蒸着領域60a、60eへの酸素ガスの回りこみが抑制されていることが確認できた。
さらに、負極1Cにように、各蒸着領域60a〜60hのうち、遮蔽板と対向する蒸着領域60a、60eに導入する酸素ガス流量を他の蒸着領域よりも少なくなるように設定すると、各蒸着領域60a〜60hで形成された活物質層の不可逆容量比率を略均一に制御できることがわかった。
上記評価の結果から、各蒸着領域60a〜60hで形成される活物質の酸素比率は、その蒸着領域に対応して配置されるノズル部からの酸素ガス流量を制御することにより調整できることを確認した。また、酸素ガスを滞留させる空間を設けることにより、酸素ガス流量が少なくても酸素比率の大きい活物質を形成でき、チャンバー内圧の上昇も抑制できることがわかった。その結果、異常放電を防止し、安定した電子ビームを照射することが可能となり、生産性を向上できることを確認できた。
(実施例2)
<負極2Hおよび試験電池H>
1.集電体(基板)の作製
実施例1と同様の方法で、実施例2で使用する基板を作製した。
2.活物質層の形成
図9および図10に示す蒸着装置300を用いて、図12〜図22を参照しながら前述した方法と同様の方法で、シート状の基板の両面に活物質層を形成した。再び図9、図10および図12〜22を参照しながら、本実施例における活物質層の形成方法を説明する。また、本実施例の活物質体の蒸着条件を表3にまとめて示す。
本実施例では、蒸着装置300のチャンバー1内において、第1ロール3と第2ロール8との間を走行させる基板4の速度を30cm/分の速度とした。また、蒸発源30として、蒸着領域60a〜60hの下方に配置されたカーボン製の坩堝10に、純度99.9999%のケイ素を保持したものを用いた。また、蒸着の際には、電子銃32より、加速電圧を−10kV、エミッション電流を450mAに設定した電子ビームを照射して蒸発材料の加熱を行った。また、ノズル部31a〜31eをそれぞれガス導入管(図示せず)に接続し、各ガス導入管は、マスフローコントローラを経由して酸素ボンベと接続した。
まず、図12(a)〜図16(c)を参照しながら前述したように、基板4の両面に、それぞれ、第1層101a、101b〜第4層104a、104bを形成した(1回目の搬送)。この後、基板4を第2ロール8に巻き取った。
1回目の搬送では、蒸着領域60aにガスを供給するノズル部31a1から4sccm、蒸着領域60bおよび60cにガスを供給するノズル部31b1から20sccm、蒸着領域60d、60hにガスを供給するノズル部31d1から20sccm、蒸着領域60g、60fにガスを供給するノズル部31f1から20sccm、蒸着領域60eにガスを供給するノズル部31e1から8sccmの流量でチャンバー1内に供給した。なお、上述したように、蒸着装置300は、各ノズル部31a1、31b1、31d1、31f1、31e1に対向するように配置された他のノズル部を備えている。本実施例では、他のノズル部からの酸素ガス導入量は、そのノズル部と対向するノズル部の酸素ガス導入量と等しくなるように制御した。また、排気ポンプ2によってチャンバー1内を真空度0.034Paまで排気した。
第1層101a、101bの厚さは、何れも0.05μm以上0.1μm以下とした。また、第2層102a、102bの厚さは、何れも0.1μm以上0.2μm以下、第3層103a、103bの厚さは、何れも0.1μm以上0.2μm以下、第4層104a、104bの厚さは、何れも0.05μm以上0.1μm以下とした。
本実施例では、第2層102a、102bおよび第4層104aおよび104bは、基板4の法線Hに対して、第1層101a、101bの成長方向と反対側に傾斜して成長し、第3層103a、103bは、第1層101a、101bの成長方向と同方向に傾斜して成長した。また、基板4の表面および裏面に形成された第1層101a、101bの成長方向(傾斜方向)は、基板4の法線Hに対して略対称となり、第2層102a、102bの成長方向(傾斜方向)は、基板4の法線Hに対して略対称となり、第3層103a、103bの成長方向(傾斜方向)は、基板4の法線Hに対して略対称となり、第4層104a、104bの成長方向(傾斜方向)は、基板4の法線Hに対して略対称となった。さらに、本実施例では、第1層101a、101bの厚さと第4層104a、104bの厚さとが略等しく、第2層102a、102bの厚さと第3層103a、103bの厚さとが略等しくなるように、ケイ素の入射角度およびマスク間隔を調整した。また、基板4の凸部4A上に形成した第1層101aから第4層104aの厚さと、基板4の凸部4B上に形成した第1層101bから第4層104bの厚さとが略等しくなるように、電子銃32の照射位置およびパワーを調整した。
次に、第2ロール8に巻き取られた基板4を第1ロール3に向かって逆方向に搬送させた(2回目の搬送)。この搬送経路において、図17(a)〜図22(b)を参照しながら前述したように、基板4の両面に、それぞれ、第5層105a、105b〜第8層108a、108bを形成した。この後、基板4を第2ロール8に巻き取った。
2回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31a1から3sccm、ノズル部31b1から20sccm、ノズル部31d1から20sccm、ノズル部31f1から20sccm、ノズル部31e1から7sccmに切り替えた。また、排気ポンプ2によってチャンバー1内を真空度0.031Paまで排気した。
第5層105b、105aの傾斜方向(成長方向)は第4層104b、104aの傾斜方向(成長方向)と同じであり、第5および第4層で1つの柱状の部分(4段目)を構成した。第6層106b、106aおよび第8層108b、108aの傾斜方向は、基板4の法線Hに対して、第1および第3層101b、103b、101a、103aと同じ方向に傾斜した。また、第7層107b、107aの傾斜方向(成長方向)は、第2および第4、第5層102b、104b、105b、102a、104a、105aと同じ方向に傾斜した。活物質体の第1層〜第8層101a〜108a、101b〜108bは7段で構成されている。
この後の工程は図示していないが、次に、酸素ガス流量を、ノズル部31a1から3sccm、ノズル部31b1から19sccm、ノズル部31d1から19sccm、ノズル部31f1から19sccm、ノズル部31e1から7sccmに切り替えた。また、排気ポンプ2によってチャンバー1内を真空度0.029Paまで排気した。この状態で、基板4の搬送方向を切り替えて、正方向(1回目の搬送と同じ方向)に移動させながら、活物質体の第9層〜第12層を形成した(3回目の搬送)。第9層の成長方向は第8層の成長方向と同じであり、第8および第9層で1つの柱状の部分(7段目)を構成した。第10層と第12層は、基板4の法線Hに対して、第9および第11層の成長方向と反対側に傾斜した方向に成長し、活物質体の第1層〜第12層は10段で構成されている。
さらに、酸素ガスをノズル部31a1から3sccm、ノズル部31b1から18sccm、ノズル部31d1から18sccm、ノズル部31f1から18sccm、ノズル部31e1から6sccmの流量に切り替え、チャンバー1内を真空度0.025Paまで排気した。この状態で、基板4の搬送方向を切り替えて、逆方向(2回目の搬送と同じ方向)に移動させながら、活物質体の第13層〜第16層を形成した(4回目の搬送)。第13層の成長方向は第12層の成長方向と同じであり、第12および第13層で1つの柱状の部分(10段目)を構成した。第14層と第16層は、基板4の法線Hに対して、第13および第15層の成長方向と反対側に傾斜した方向に成長し、活物質体の第1層〜第16層は13段で構成されている。
この後も、同様にして、搬送方向を切り替えながら、蒸着を行った。5回目の搬送では、ノズル部31a1から2sccm、ノズル部31b1から16sccm、ノズル部31d1から16sccm、ノズル部31f1から16sccm、ノズル部31e1から6sccmに切り替え、チャンバー1内の真空度を0.021Paとした。この状態で、第17層〜第20層を形成した。6回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31a1から2sccm、ノズル部31b1から13sccm、ノズル部31d1から13sccm、ノズル部31f1から13sccm、ノズル部31e1から5sccmに切り替え、チャンバー1内の真空度を0.017Paとした。この状態で、第21層〜第24層を形成した。7回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31a1から2sccm、ノズル部31b1から9sccm、ノズル部31d1から9sccm、ノズル部31f1から9sccm、ノズル部31e1から4sccmに切り替え、チャンバー1内の真空度を0.012Paとした。この状態で、第25層〜第28層を形成した。
7回目の搬送を行った後、基板4の速度を10cm/分に切り替えた。また、蒸着の際のエミッション電流を600mAにして電子ビームを坩堝10内の蒸発材料に照射し、加熱を行った。この状態で、第29層〜第32層を形成した(8回目の搬送)。8回目の搬送では、酸素ガスをチャンバー1内に導入しなかった。続いて、酸素ガスをチャンバー1内に導入せずに、基板4を正方向および逆方向に交互にさらに9回の搬送を繰り返し、第33層〜第68層まで形成した(9〜17回目の搬送)。このようにして、多層構造の活物質体を得た。
各活物質体の成長方向は、基板4の表面から離れる方向に向かってジグザグ状に延びている。また、各活物質体は、基板4の法線Hに対して成長方向が交互に反対側に傾斜した51の部分が積み重ねられた構造を有する。
なお、本実施例では、シート状の基板4の一端には一方の表面にのみ活物質体が形成され、他端には反対側の表面(裏面)にのみ活物質体が形成され、両端部を除く中央部分には両面に活物質体が形成された。これは、以下に詳しく説明するように、シート状の基板4の表面および裏面に対する蒸着が、基板4の端部からずれた位置から開始・終了されるからである。
蒸着装置300では、蒸着領域60a〜60hは、第1ローラ3および第2ローラ8の間の搬送経路の一部に設けられている。このため、一方のローラから他方のローラへ基板4の巻き取りを開始する際および停止する際、シート状の基板4の先頭部分および後尾部分は、蒸着領域60a〜60dまたは蒸着領域60e〜60hを通過せずに基板4の巻き取りが完了する。従って、蒸着工程を繰り返しても、基板4の一端は常に蒸着領域60a〜60dを通過せず、他端は常に蒸着領域60e〜60hを通過しない。その結果、上述したように、両端部では片面にのみ活物質体が形成され、中央部分では両面に活物質体が形成された基板4が得られる。
この後、得られた基板4のうち片面(表面または裏面)にのみ活物質体が形成された部分を切り出して、負極2Hを作製した。
3.活物質体の組成
負極2Hにおける活物質体の酸素比率(SiOxにおけるx値)を、EPMAを用いて、活物質体の断面方向の線分析測定により求めた。ここでは、基板4の表面に垂直であり、かつ、活物質の成長方向を含む断面における活物質体の線分析測定を行った。
測定結果を表3に示す。表3からわかるように、第1層〜第4層(1回目の搬送)のx値は1.2であった。また、第1層(1回目の搬送)から第28層(7回目の搬送)に向かって、活物質体の酸素比率(x値)は連続的に減少し、第28層以降のx値は0.15であった。測定結果から、搬送回ごとに各ノズル部からの酸素ガス流量を変化させることにより、活物質層の厚さ方向において、酸素元素の含有比率を制御できることを確認した。
さらに、複数の活物質体からなる活物質層全体の酸素比率(x値)を燃焼法により定量すると、0.28であった。
4.活物質体の断面観察
負極2Hの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で様々な角度から観察した。図27(a)は、負極1における活物質体の、基板4の表面に垂直であり、かつ、活物質体の成長方向を含む断面を観察した図であり、図27(b)は、基板4の法線方向から見た活物質層の上面図である。図27(a)は、図27(b)のII−II’線に沿った断面図である。
観察の結果、各活物質体80は、それぞれ、基板4の凸部4A上を覆うように堆積していることを確認できた。さらに、活物質体80は、基板4の凸部4A上に、紙面に向かって左方向から堆積した部分と、右方向から堆積した部分とが交互に積み重ねられた構造を有することがわかった。負極2Hにおける各活物質体の平均厚さtは14μmであった。
5.活物質層の密着力の測定
タッキング試験機(株式会社レスカ製 TAC−II)を用い、基板4に対する活物質の密着強度を測定した。
まず、タッキング試験機の測定子(先端直径2mm)の先端に両面テープ(日東電工製 No.515)を取り付けた。また、負極2Hを2cm×3cmのサイズに切り出し、密着強度測定用サンプルを作製した。このサンプルの活物質層のうち、測定子に対向する位置に上記両面テープを貼り付け、固定した。測定は、押し込み速度:30mm/min、押し込み時間:10秒、荷重:400gf、引き上げ速度:600mm/minの条件で行った。その結果、活物質の密着強度が30kgf/cm2以上(剥離が確認されなかったために測定限界以上)であることを確認した。
6.試験電池用負極の作製
負極2Hを31mm×31mmのサイズに裁断し、負極表面に真空蒸着法によって15μmのLi金属を蒸着し、電池用負極を得た。さらに、電池用負極の内周側であって、正極と対向しない部分に集電体(Cu箔)を露出する露出部を設け、Cu製の負極リードを溶接した。
7.試験電池用正極の作製
実施例1で前述した方法と同様の方法で、電池用正極を作製し、電池用正極にAl製の正極リードを溶接した。
8.試験電池の作製
上記試験電池用負極および正極を用いて、図23に示すようなコイン型電池を作製し、試験電池Hとした。試験電池Hの作製方法は、実施例1で前述した試験電池C〜Gの作製方法と同様とした。
<負極2Jおよび試験電池J>
続いて、負極2Hとは異なる酸素ガス導入条件で活物質体を形成し、負極2Jを作製した。
負極2Jは、負極2Hと同様の集電体を用いた。活物質層の形成は、図9および図10に示す蒸着装置300を用いた。第1層〜第28層の酸素ガス導入条件以外は、集電体の走行速度、蒸発材料の加熱条件、集電体の搬送方向および蒸着工程を負極2Hと同じ条件で行った。各工程の蒸着条件を表4にまとめて示す。
表4に示すように、1回目の搬送では、ノズル部31b1から23sccm、ノズル部31d1から23sccm、ノズル部31f1から23sccm、ノズル部31e1から8sccmの流量でチャンバー1内に酸素ガスを供給し、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。また、排気ポンプ2によってチャンバー1内を真空度0.045Paまで排気した。この状態で、第1層〜第4層を形成した。
2回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31b1から23sccm、ノズル部31d1から23sccm、ノズル部31f1から23sccm、ノズル部31e1から7sccmに切り替え、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。チャンバー1内の真空度を0.044Paとし、この状態で第5層〜第8層を形成した。
3回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31b1から22sccm、ノズル部31d1から22sccm、ノズル部31f1から22sccm、ノズル部31e1から7sccmに切り替え、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。チャンバー1内の真空度を0.042Paとし、この状態で、第9層〜第12層を形成した。
4回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31b1から21sccm、ノズル部31d1から21sccm、ノズル部31f1から21sccm、ノズル部31e1から6sccmに切り替え、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。チャンバー1内の真空度を0.039Paとし、この状態で、第13層〜第16層を形成した。
5回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31b1から19sccm、ノズル部31d1から19sccm、ノズル部31f1から19sccm、ノズル部31e1から6sccmに切り替え、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。チャンバー1内の真空度を0.034Paとし、この状態で、第17層〜第20層を形成した。
6回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31b1から15sccm、ノズル部31d1から15sccm、ノズル部31f1から15sccm、ノズル部31e1から4sccmに切り替え、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。チャンバー1内の真空度を0.025Paとし、この状態で、第21層〜第24層を形成した。
7回目の搬送では、酸素ガス流量を、ノズル部31b1から9sccm、ノズル部31d1から9sccm、ノズル部31f1から9sccm、ノズル部31e1から4sccmに切り替え、ノズル部31a1から酸素を導入しなかった。チャンバー1内の真空度を0.016Paとし、この状態で、第25層〜第28層を形成した。
この後、実施例1と同様に、基板4の速度および蒸着の際のエミッション電流を切り替え、酸素ガスをチャンバー1内に導入せずに、第29層〜第68層を形成した(第8〜第17回目の搬送)。このようにして、活物質体が形成された基板4を得た。基板4のうち片面(表面または裏面)にのみ活物質体が形成された部分を切り出して、負極2Jを作製した。
続いて、負極2Hと同様の方法で、負極2Jにおける活物質体(ケイ素酸化物)の酸素比率(SiOxにおけるx値)を求めた。結果を表4に示す。
表4に示すように、第1層〜第4層(1回目の搬送)のx値は0.9であった。負極2Jでは、ノズル部31a1から酸素ガスを導入しないが、その分の酸素ガスをノズル部31b1、31d1、31f1から噴射している。従って、酸素ガスの導入量は、負極2Hの72sccmより多い76sccmであり、チャンバー圧力(真空度)も0.045Paと高かった。しかしながら、負極2Jのx値は負極2Hよりも低くなった。
このことから、ノズル部31a1から噴射されたガスのように、蒸着領域と遮蔽板との間の空間(図2に示す領域QW)に噴射された酸素ガスは、蒸着領域同士の間に形成される空間(図6に示す領域QC)に噴射された酸素ガスを滞留しやすく、活物質と反応する効率が高くなると考えられる。
また、負極2Jでも、負極2Hと同様に、酸素ガス流量に応じて、第1層(1回目の搬送)から第28層(7回目の搬送)に向かって、活物質体の酸素比率(x値)が連続的に減少し、第28層以降のx値は0.15であった。得られた負極2Jの活物質層の酸素比率(x値)を燃焼法により定量したところ、0.22であった。
次に、負極2Jの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察の結果、負極2Hと同様に基板4の凸部上に厚さ方向に交互に積み重ねられた構造を有していることがわかった。また、負極2Jにおける各活物質体の平均厚さtは16μmであった。
また、実施例1と同様の方法でタッキング試験を行ったところ、負極2Jの密着強度は26kgf/cm2であり、負極2Hと比較して低い値を示した。これは、活物質体における基板側の層の酸素比率が、負極2Hと比べて小さいからと考えられる。
さらに、負極2Jを用いてコイン型電池を作製し、試験電池Jとした。試験電池Jの作製方法は、試験電池Hの作製方法と同様とした。
<試験電池H、Jの評価>
(i)充放電特性
試験電池HおよびBに対し、以下の方法で充放電特性の評価を行った。
まず、試験電池H、Jを、それぞれ、20℃の恒温槽に収納し、定電流定電圧方式で充電を行った。ここでは、電池電圧が4.2Vになるまで1Cレート(1Cとは1時間で全電池容量を使い切ることができる電流値)の定電流で充電し、4.2Vに達した後は電流値が0.05Cになるまで定電圧で充電した。
充電後、20分間休止し、1Cレートのハイレートの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。ハイレートでの放電後、さらに0.2Cの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで再放電を行った。再放電後、20分間休止した。
上記の充放電を300サイクル繰り返した。
サイクル初期において、充放電効率として、充電容量に対する全放電容量(ハイレート放電と再放電との合計)の割合を百分率値で求めた。また、サイクル初期において、ハイレート比率として、全放電容量に対するハイレート放電での放電容量の割合を百分率値で求めた。さらに、容量維持率として、サイクル初期の全放電容量に対する300サイクル目の全放電容量の割合を百分率値で求めた。
これらの測定結果を表5に示す。
表5より、試験電池H、Jでは、サイクル初期の充放電効率およびハイレート比率が略等しく、高い値を示すことがわかった。これは、これらの試験電池における各活物質体が集電体に対して傾斜した領域を有するので、活物質体の表面のうち電解質と接する部分の面積が従来よりも大きくなるからと考えられる。また、負極活物質と正極活物質との対向部分が増加し、充放電反応が均一化されるので、リチウム析出反応や、正極の局所的な過充電や過放電が抑制されたためと考えられる。
しかし、300サイクル目では、試験電池Hの容量維持率は80%程度であったのに対して、試験電池Jの容量維持率は63%程度まで低下していた。これは、試験電池Hにおいて集電体の凸部上に形成した活物質層の酸化比率を高くできたことにより、充電時に活物質体が膨張して集電体表面から剥離するのを抑制できるからと考えられる。また、活物質体の厚さ方向に高い酸素比率から低い酸素比率まで連続的に変化させたことにより、活物質体の厚さを低減でき、これにより、活物質体間の空隙は大きくなる。その結果、充放電時に隣接する活物質体同士の接触が低減され、集電体に皺、歪などが発生することを抑えることができるからと考えられる。さらに、各段間での膨張収縮による活物質層の割れや剥がれを防止できるなど、充放電サイクル特性を向上できることが確認された。