しかし、ポータブル式の便器は、使用時にトイレのような隠蔽性が保障されないこと、居住空間に排泄物の臭いが漏れること、介護者がポータブルトイレ内の排泄物の廃棄を行わなければならないことなどの問題があって、ポータブル式の便器の使用には、特に精神的な苦痛が伴いやすく、生活の品質を大きく低下させる要因となりやすい。
また、立位を保持できない車椅子使用者が座位で車椅子から浴槽や浴室用椅子などに移乗することは困難である。
そこでこの発明は、狭い一般家庭のトイレや浴室に設置することにより、車椅子とトイレ内の便器や浴室内の浴槽ないし浴室用椅子との間の座位による移乗を可能にし、かつ排泄時や入浴時の隠蔽性が確保でき、移乗に介護が必要な場合でも介護者の負担が小さく、かつ車椅子使用者と健常者とが同一のトイレや浴室を支障なく使用することができる移動台を提供することを課題としている。
上記課題を解決したこの出願の請求項1の発明に係るトイレないし浴室の滑り移動台は、トイレないし浴室の入口境界4に直交する壁面2aに沿って設置された座幅方向に長い矩形の座板7を備えいる。当該座板7及び展開時に座板7を支持するステイ5(5a、5b)や脚8(8a、8b)は、滑り移動台10を設置した壁面2に添設された状態に折畳まれる。この折畳み状態では、座板7の入口境界4側の端部7aが入口境界4のすぐ内側に位置する。座板7を水平に展開したときには、当該端部7aが入口境界4の外に進出する。
車椅子使用者は、入口境界4の外に進出した座板の端部7aとの間で、車椅子と滑り移動台との間の移乗を行う。移動台10に移乗した車椅子使用者は、座板7上を座幅方向に滑り移動して、便座20や浴槽39に隣接する位置まで移動する。
上記課題を解決したこの出願の請求項2の発明に係るトイレないし浴室の滑り移動台は、トイレないし浴室の入口境界4に直交する壁面2aに沿って設置された、座幅方向に長い矩形の入口境界4側の端部7aに後方に延びる後縁突出部7cを備えた幅広L形の、座板7を備えている。座板7及び展開時に座板7を支持するステイ5ないし脚8は、座板7の座面を室内に向けて、従って後縁突出部7cを上方にして、滑り移動台10を設置した壁面2aに添設された状態に折畳まれる。この折畳み状態で、座板7の端部7a及び後縁突出部7cは、入口境界4のすぐ内側に位置する。座板7を水平に展開したときには、前記端部7a及び後縁突出部7cが入口境界4の外に進出する。
請求項2の発明に係る滑り移動台は、外開き式のドアを備えたトイレに設置するのに特に適している。入口境界4の外に進出した後縁突出部7cがドアの開閉軌跡3aから離隔する方向に進出する。車椅子使用者は、進出した後縁突出部7cとの間で、車椅子と滑り移動台との間の移乗を行う。この構造の場合、乗り捨てた車椅子と干渉させないで、外開きドアを開閉できる。
上記課題を解決したこの出願の請求項3の発明に係るトイレないし浴室の滑り移動台は、トイレないし浴室の入口境界4の延長上に位置する壁面2bに沿って設置された、座幅方向に長い矩形の入口境界4側の端部7aに後方に延びる後縁突出部7cを備えた幅広L形の、座板7を備えている。座板7及び展開時に座板7を支持するステイ5や脚8は、座板7の座面を室内に向けて、すなわち後縁突出部7cを上方にして、滑り移動台10を設置した壁面2bに添設された状態に折畳まれる。この折畳み状態では、座板7の前記端部7a及び後縁突出部7cは、入口境界4の内側から壁面2bの入口境界4に隣接した位置に移動する。座板7を水平に展開したときには、前記端部7aが入口境界4の内側に進出すると共に、後縁突出部7cが入口境界4の外に進出する。
請求項3の発明に係る滑り移動台は、入口境界4の延長上に位置する壁面2bを備え、ドアの当該壁面2b側が開き側となる構造のトイレや浴室に設置されるもので、内開き式のドアが室の中央に向かって開口するのが一般的な、浴室に特に適している。この構造では、入口境界4の外に進出した後縁突出部7cとの間で、車椅子と滑り移動台との間の移乗を行う。
この発明の滑り移動台10は、座幅方向、すなわち、座った状態での左右方向に長い矩形ないし矩形の長手一端の後縁側を後方に突出させた幅広L形の座板7を備えている。この座板7は、展開・折畳み動作に伴って前記一端側へと座幅方向(前記矩形の長手方向)に移動する。
座板7を折り畳んで、座板7及びこれを支持するステイ5及び脚8をトイレや浴室の壁面2に添設したとき、展開時に入口境界4の外に突出していた座板の端部7a、7cは、入口境界4から壁面2側へと退避する。従って、車椅子使用者が便座20や浴槽39に移動した後、移動台10を折り畳むことにより、トイレや浴室のドア3を閉めることができる。
好ましい滑り移動台は、鉛直な折畳み位置と傾斜した展開位置との間で下端回りに前後方向に揺動するステイ5aと、このステイの先端に人が着座可能な前後寸法に相当するストロークで座幅方向に相対移動自在かつ上方に揺動自在に前縁を連結された座板7と、座板7の展開時にその後縁側を支持する後縁支持部材12aとを備えている。この構造は、ステイ5aを斜め前方に倒し、座板7の後縁側を壁面側に設けた後縁支持部材12aに上方から係止することによって、座板7が展開される。
上記構造の滑り移動台において、座板7の前縁側の長手両端と展開したときに進出する側の端部7aの後縁側とに脚8(8a、8b)を前方に揺動可能に設け、これらの脚8の鉛直姿勢を保持する平行リンク機構9(9a、9b。プーリとベルトで形成されるものを含む。)を設けることにより、座板7に着座した人の荷重を脚8を介してトイレや浴室の床面1で支持することができる。
更に好ましいこの発明の滑り移動台は、基端を上下方向の旋回軸回りに90ないし135度、好ましくは90ないし120度旋回して展開・折畳みされる水平方向に伸びるステイ5bと、当該ステイの先端に前記旋回軸と平行な軸回りに少なくとも90度回動可能にかつ少なくとも90度上方に揺動可能に前縁を連結された座板7とを備えている。
この構造の場合は、座板7の後縁側を持ち上げて奥側に押すことにより、ステイ5bを旋回軸(実施例の縦棒51)回りに壁面2に沿う方向に旋回させることにより、座板7及びステイ5bが壁面2に添設され、座板7を入口側に引くことにより、ステイ5bが壁面2から手間側に伸びる方向に旋回し、座板7を当該ステイの上に載せることによって展開される。
この第2例の構造の場合、ステイの横棒52を壁面2に沿う方向に付勢するばね31を設けることにより、ステイ5bの折畳み状態を保持することができ、また、ステイ5bの先端での座板7の上方への揺動角を90度に規定すること、あるいは座板7の背面と壁面2とをマグネットキャッチなどで吸着ないし係止することにより、座板7の折畳み状態を保持できる。
座板7の展開状態は、展開位置でのステイ5bとその上に載せた座板7の下面とを座幅方向に相対移動不能に係止する係止部材(実施例の後縁部材17b)を設けることによって保持できる。
上下方向の旋回軸回りに旋回するステイ5bで座板7を折畳み可能に支持する構造において、座板7に作用する荷重を支持する脚8を設けるときは、ステイ5bと座板7との間に前縁支持部材13bを介在させ、当該前縁支持部材13bとステイ5bの先端とを前記旋回軸と平行な軸回りに回動可能に連結すると共に、当該前縁支持部材と座板7の前縁とを上下揺動可能に連結する。そして、前縁支持部材13bの後方の位置で座板7の長手両端に前脚8aを前方に揺動可能に設け、展開時に進出する側の座板の一端7aの後縁側に後脚8bを前方に揺動可能に設け、これらの前脚及び後脚と前縁支持部材13bとを平行リンク機構9で連結して当該前脚及び後脚の鉛直姿勢を保持する。
脚8を設ける他の構造として、ステイ5bの旋回軸を上方が入口側に近くなる方向に20〜45度傾斜させ、このステイ5bの先端と座板7の前縁とを前記前縁支持部材13bを介して連結し、前脚8aを前縁支持部材13bに上端を固定して設け、座板7の入口側の一端7aの後縁側に後脚8bを前方に揺動可能に設け、当該前脚又は前縁保持部材と後脚とを平行リンク機構9bで連結する構造が採用可能である。ここで、ステイ5bの旋回軸を傾斜させるのは、座板7が展開位置から折畳み位置へと移動を開始したときに、前脚8aの下端を床面1から離隔させるためである。
座板7の上面は、摩擦係数の小さい材料であって、座幅方向に条痕を設けた面とすることにより、座幅方向には滑りやすく、かつ前後方向には滑りにくい座面とするのがよい。脱衣状態で移乗するときは、座板7上にスライディングシート21を設けるのが良い。介護者が滑り移動の補助をするときは、被介護者の横に座って体全体で押して移動させることもできる。
この発明の滑り移動台は、トイレないし浴室の壁面2に座板7及び当該座板を支持するステイ5が添設された状態に折畳まれ、この折畳み状態で座板の座幅方向の一方の端部7aが当該トイレないし浴室の入口境界4に隣接して位置し、座板7を水平に展開したときに、当該端部全体ないし当該端部の後方に延在させた部分7cが入口境界4の外に突出するようにして設置される。座板7は、座面を壁面2に向けて折畳んでも良いが、座面を室内に向けて折畳む構造が好ましい。
トイレに設けるときは、座板7を水平に展開したときに、座板7の奥縁7eが便座20に近接した位置となるように座板7の座幅方向の寸法を設定する。外開きや内開きのスイング式のドアを備えたトイレや浴室に設けるこの発明の滑り移動台は、座板7を展開時に進出する側の端部7aに後縁側に突出する後縁突出部7cを設けた形状とする。この構造の滑り移動台10を、入口境界4と直交する壁面2aに沿って設置したときは、展開時に端部7aと後縁突出部7cとが共に入口境界4の外へと進出し、後縁突出部7cが外開きドアの開閉軌跡から外れて位置する。また、入口境界4の延長上に位置する壁面2bに沿って設置したときは、展開時に後縁突出部7cが入口境界4の外へと進出する。
この発明の滑り移動台10は、折り畳んだとき当該移動台を設置したトイレや浴室の壁面2に添設された状態となり、かつトイレや浴室の入口境界4より内側に折り畳まれる。一方、座板7を展開したときは、その入口側の端部7a、7cがトイレや浴室の入口境界4より外側に進出する。滑り移動台10と車椅子間での移乗は、この進出した部分で行うことができ、従って車椅子をトイレや浴室内に乗り入れることなく行うことができる。移動台10に移乗すれば、その座板7の座幅方向に滑り移動することにより、便器や浴室内の所望の位置へ座位を保持したまま移動して行くことができる。
この発明の滑り移動台10は、一般家庭の狭いトイレにも簡単に設置することができ、便座20や浴室内の浴槽39や浴室用椅子38に移動した後、移動台10を折り畳むと入口境界4を閉鎖することができ、遮蔽性を確保できる。
以下、図面を参照して、この発明の実施形態を説明する。図1ないし図4は、この発明の滑り移動台をトイレに設置した第1実施例を示した図で、図1は座板の展開(座れるようにした)状態を、図2は折畳み状態を示した斜視図である。図には、トイレの床面1と一方の(滑り移動台を設置した側の)壁面2aを実線で示し、天井面と対向する壁面を想像線で示してある。3aはスライド式のドアであり、4がトイレの入口境界となる。
入口境界4と直交する一方の壁面2aに沿って、パイプ材からなる2本の支持柱45が突っ張り構造で立設されている。支持柱45の一本は、入口境界4のすぐ内側に立設される。他の一本は、展開した座板7のトイレ奥側の端部近くを支持する位置に立設するのが好ましい。各支持柱45の上部には、突っ張り構造の交叉桁46が連結されている。
支持柱45及び交叉桁46の両端には、それらの間隔を規定すると共に壁面の保護を兼ねた当板48、49が設けられている。各当板48、49には、支持柱45又は交叉桁46の立設間隔に対応する間隔で2個のソケットが固定されており、支持柱45及び交叉桁46の端部をこのソケットに挿入することにより、2本の支持柱45及び交叉桁46の両端相互がこれらの当板48、49で連結されている。
各支持柱45及び交叉桁46には、ターンバックルが設けられ、このターンバックルのねじ作用により、支持柱45は、その当板48を床面1と天井面に押し付け、また交叉桁46は、その当板49を両側の壁面に押し付けて、固定されている。
支持柱45の座板7の高さとなる位置に、壁面2aと平行な水平方向の後縁支持パイプ12aが、2本の支持柱45を繋ぐように設けられている。各支持柱45の下端には、壁面2aと平行な水平方向の支点ピン14aが植設され、ステイ5aがその下端をこの支点ピン14aで枢支されて前後方向に揺動自在に設けられている。折畳み状態をコンパクトにするには、支持柱45を直径方向に貫通して当該支持柱の内側に突出するように支点ピン14aを立設し、折畳んだときにステイ5aが支持柱45の内側に収まるようにするのがよい。
2本のステイ5aの上端は、水平な前縁支持パイプ13aで連結され、この前縁支持パイプ13aに座板7の前縁に固定した前縁パイプ16aが回動自在に挿通されている。
前縁パイプ16aの長さは、座板7の前後寸法に壁2aの厚さを加えた程度、前縁支持パイプ13aの長さより短く、その寸法差だけ座板7が前縁支持パイプ13aの軸方向である座幅方向に移動可能である。座板7をトイレの奥側に移動したとき、座板7の入口側の端部7aは、入口境界4の内側に位置し、トイレの入口側に移動したときは、当該端部7aが入口境界4の外側に突出する。
座板7の後縁には、2本の支持柱45の間に収まる長さの下向きU字断面の後縁フック17aが固定されている。この後縁フック17aは、座板7をトイレの入口側に移動した状態で2本の支持柱45の間で後縁支持パイプ12aに上から嵌合する位置に設けられている。後縁フック17aが2本の支持柱45の間に挿入されているときは、座板7の幅方向移動は阻止される。
トイレ奥側の支持柱45には、入口側に移動した座板7の奥縁7eの位置より僅かにトイレ奥側に位置させて、折り畳んだ状態の座板7の奥端部7bを挿入する縦方向に細長い挿入隙間35を形成する受具18が取付けられている。座板7の奥縁7eの後端には、座板7をトイレの入口側に引出した状態で挿入隙間35に遊動可能に留まるガイドピン36が座幅方向に突出している。
図1の座板の展開状態では、座板7の奥端部7bが受具18から入口側に引出され、ガイドピン36が受具の挿入隙間35に案内されて、座板7の後縁が下方に移動し、後縁フック17aが後縁支持パイプ12aに上から嵌り込み、座板7が後縁フック17aと前縁パイプ16aで水平に支持された状態となっている。この展開状態で座板7の入口側の端部7aは、トイレの入口境界4より外側に突出している。
トイレのドア3が開いた状態でなければ座板7は展開できず、座板7が展開しているときは、ドア3を閉じることができない。車椅子使用者は、トイレの外の座板7が入口境界4から突出している端部7aで、車椅子と移動台10との間の移乗を行う。
座板7を折り畳むときは、座板7の後縁を持ち上げて前縁を壁面2a側に移動させて、座板7が垂直になったところで座板7を奥側に押してその奥端部7bを受具の挿入隙間35に挿入する。座板の入口側端部7aは、トイレの入口境界4の内側に引き込まれる。この状態でドア3を閉めることができる。定常状態は、座板7を折り畳んだ状態であり、健常者は、この状態でトイレを通常通り使用することができる。
車椅子使用者がトイレを使用するときは、車椅子でトイレの入口近くまで移動し、トイレのドア3を開け、移動台の座板7を引出して、その奥端部7bが受具18から外れた位置で、すなわち入口側端部7aが入口境界4の外に引出された状態で、後縁を下ろして座板7を展開する。この状態で後縁フック17aが後縁支持パイプ12aに嵌合し、座板7は座幅方向に移動不能に展開される。そこで車椅子使用者は、車椅子から移動台の座板7に移乗し、座板7を座幅方向に滑り移動して座板7の奥端部7bから便座20へと移乗する。便座20へ移乗した後、座板7を折畳んでドア3を閉めれば、トイレの遮蔽性が確保される。退出するときは、逆の動作で移動台を経て車椅子に移乗し、移動台10を折り畳んでトイレのドア3を閉める。
図5ないし7は、この発明の第2実施例を示した図で、図5は座板の展開状態を、図6は座板の折畳み状態を示している。この第2実施例の構造では、移動台の座板7が、鉛直方向の軸回りに90度旋回する逆L形の2本のステイ5bによって、折畳み自在に支持されている。
図の例では、トイレの壁面2の下端に固定した支持板47に、移動台の座板7の高さに略相当する長さの2本の鉛直方向の軸受パイプ14bが固定され、各軸受パイプ14bに、逆L形のステイ5bの縦棒51が回動自在に挿通されている。ステイ5b、従って軸受パイプ14bの一本は、トイレの入口境界4のすぐ内側となる位置に設けられ、奥側の一本は、展開したときの座板の奥縁7eの近傍を支持する位置に設けられている。
ステイの横棒52の先端には、縦棒51と平行な連結ピン(図には表れていない。)が上向に植立されている。2本のステイの横棒52の先端相互は、2本の軸受パイプ14bの間隔と等しい間隔を隔ててピン孔を設けた座幅方向に細長い前縁支持板13bの当該ピン孔に前記連結ピンを回動自在に挿通することにより、鉛直軸回りに回動自在に連結されている。
前縁支持板13bの前縁は、座板7の前縁と平行な軸回りの蝶番16bで、座板7の前縁に連結されている。この蝶番16bは、座板7が鉛直方向となる上方に90度揺動した位置で、それ以上の揺動を阻止するストッパを備えたものとするのがよい。
座板7の裏面には、座板7の展開状態、すなわちステイの横棒52が壁面2aに直角になった位置で、ステイの横棒52に上から嵌合する下向きU字形の後縁部材17bが固定されている。ステイ5bには、その横棒52をトイレの奥側に向けて旋回させる方向に付勢する巻ばね31が設けられ、更に、ステイの横棒52が壁面2aに直角となる位置より入口側に旋回するのを阻止するストッパ32が設けられている。
入口側のステイの横棒52の先端は、展開したときの座板7のトイレの外への突出長さLに相当する長さだけ、座板7の入口側の端縁7dから内側の位置で、前縁支持板13bに連結されている。展開時の座板7のトイレ外への突出長さを長くしたければ、ステイの横棒52を長くするか、ステイの横棒52が壁面2aに垂直な位置より更に入口側に旋回した位置を座板7の展開位置としてやればよい。座板7の展開位置は、後縁部材17bがステイの横棒52と係合する位置を調整することにより設定できる。
座板7の展開状態で座板7の後縁を持ち上げ、後縁部材17bとステイの横棒52との係合を外すと、巻ばね31の付勢力によって横棒52がトイレの壁面2aに沿うようにトイレ奥側に旋回する。横棒52が壁面2aと略平行になった状態で、座板7は垂直方向の折畳み位置となり、座板7と前縁支持板13bとを連結している蝶番16bが備えているストッパと壁面2aとに挟まれた状態で、座板7の折畳み位置が保持される。
折畳み状態から座板7を壁面2aから離す方向に引くと、ステイ5bが旋回し、座板7がステイの横棒52に向けて倒れてくる。そして、ステイの横棒52が壁面2aに対して90度の方向を向いた状態で、後縁部材17bがステイの横棒52に嵌合し、この嵌合によってステイ5bの軸受パイプ14b回りの旋回が阻止されることにより、座板7の展開状態が保持される。
座板7の展開状態において、座板の入口側の端部7aは、入口境界4を越えてトイレの外へと突出する。座板7の長さは、このとき、座板の奥縁7eが便座20に近接して位置する長さのものとする。
次に第2実施例の動作を説明する。前述した折畳み状態では、座板の入口側の端部7aは、トイレの入口境界4の内側に位置しており、トイレのドアは閉じている。車椅子使用者は、トイレの入口まで車椅子で移動し、トイレのドアを開け、座板7を引出して展開する。座板7は、その入口側の端部7aがトイレの入口境界4から外へ突出した状態で展開されるから、車椅子使用者は、車椅子から座板7上へ移譲し、座板7上を滑り移動して便座20に移乗する。この状態で移動台の座板7の後縁を持ち上げると、座板7は、トイレの壁面2aに沿った状態で折り畳まれ、トイレ外に突出していた座板の入口側端部7aが入口境界4の内側に引き込まれるから、トイレのドア3を閉める。
トイレから出るときは、まずドア3を開き、折り畳まれている座板7を壁面2aから離す方向に引出し、座板7の後縁を押し下げるように動かすと、座板7が展開され、後縁部材17bとステイの横棒52との嵌合により、その展開状態が保持される。そこで、移乗者は、便座20から座板7に移乗し、座板7上を滑ってトイレの外に突出している座板の端部7aに移動し、トイレの外で待機している車椅子に移乗する。そして、座板7の後縁を持ち上げて座板7を折畳み、トイレのドアを閉める。
移動台を浴室に設置する場合のように、車椅子から移動台に移乗するときに既に脱衣していると考えられるときは、座板7にスライディングシート21を装着するのが便利である。すなわち、図8に示すように、座板7には、その長手方向にエンドレスのスライディングシート21を巻回する。これにより、移乗者は、座板7とスライディングシート21との間の滑りにより、座板7上を座幅方向に移動できる。
浴室のドアは通常内開きで、図11に示すように、室の中心に向けて開かれる。従って、入口境界4と直交する壁面2aに、この発明の移動台を設置することはできない。そこで入口境界4の延長上にある壁面2bに移動台10を設置することとなる。この場合には、図9〜11に示すように、座板7の入口側端部7a、すなわち入口側のステイ5bより外側に延在している部分7aの後縁を後方に延在させて、座板7の展開時に入口境界4の外へ突出する後縁突出部7cを設ける。座板7は、平面視で幅広L形となる。
座板7を上記の形状にすると、ドア3を内側に向けて開き、入口境界4の延長上にある壁面2bに折り畳まれた状態となっている座板7を入口境界4の方に向けて引出すと、座板の入口側の端部7aが入口境界4の内側へ移動して来ることとなる。この状態で座板7をその前縁回りに水平に倒して展開すると、座板の入口側端部7aの後方に延在させた後縁突出部7cは、入口境界4を越えて外へと突出する。
そこで車椅子使用者は、浴室の入口境界4の外に置いた車椅子からこの後縁突出部7cに移乗し、座板の入口側の端部7aの前方部を経て座板7を座幅方向に滑り移動し、浴室用椅子38又は浴槽39に移乗する。移乗後、座板7の後縁を持ち上げると、座板7の前縁回りの揺動により、入口境界4の外に突出していた後縁突出部7cは、浴室内へと引き込まれるから、その状態でステイ5bを奥側に旋回して座板7を壁面2bに沿わせた状態で折り畳む。この状態で座板の入口側端部7a及び後縁突出部7cは、入口境界4の内側から退避するから、ドア3を閉鎖することができる。
浴室から退出するときは、前記と逆の動作、すなわち浴室のドア3を開き、移動台10を展開して浴室用椅子38又は浴槽39から移動台の座板7上に移乗し、入口境界4の外へ突出している後縁突出部7cまで移動してから、浴室の外で待機している車椅子に移乗する。そして、座板7の後縁を持ち上げて壁面2b側に向けて押し込むと、座板7が折り畳まれるから、その状態でドア3を閉める。
第2、3実施例の折畳み構造を備えた滑り移動台を第1実施例に示したような突っ張り構造の支持柱45を用いて設置するときは、2本の支持柱45の下端部に軸受パイプ14bを固着してやればよい。また、、第2及び第3実施例に示した座板の折畳み構造は、構成部材が少なく、コンパクトであり、座板の長さの変更に伴う構成部材の変更も少なくて済むので、特に狭いトイレや浴室に設置するのに適している。
入口境界4と直交する壁面2aにこの発明の滑り移動台10を設けた第1実施例及び第2実施例の構造において、座板7として第3実施例で示した入口境界側の端部7aに後縁突出部7cを備えた座板を用いれば、図12に示すように、外開きドア3と入口境界4の外に乗り捨てた車椅子30とが干渉しない位置で、車椅子30と移動台10との間の移乗を行うことができる。
座板展開時に入口境界4を越えて突出する座板の端部7aに設けた後縁突出部7cは、座板展開時には、入口境界4の外でドア3の開閉軌跡3aから離れる方向に延在することとなる。そして、座板7をその前縁回りに上方に折り畳む構造では、後縁突出部7cの突出長さを必要なだけ長くすることができるから、車椅子30と座板の後縁突出部7cとの間の移乗位置を外開きドア3の開閉軌跡3aから離れた位置とすることができ、当該位置に留められる車椅子30と外開きドア3との干渉を避けることができるのである。
前述した第1〜第3各実施例の構造では、座板7に作用する荷重を支持柱45や壁面2の横方向の強度で受けることとなり、壁や天井の強度が充分でないときは、このような支持構造を採用することは困難である。
図13〜19に示す第4及び第5実施例は、そのような場合の移動台の例を示した図で、展開したときの座板7に作用する荷重を受ける脚8(8a、8b)を設けた構造である。図の例では、座板7の前縁両端と入口側端部の後縁とに脚8a、8bを設けている。座板7は、その後縁回りに上方に折り畳む構造で、脚8は平行リンク機構9(9a、9b)により、常に下向きの姿勢を保持する構造である。
図13〜15に示す第4実施例において、移動台を設置する壁面2aには、その座面高さの位置に水平方向の角軸22がブラケット23で固定されている。角軸22には、軸方向の角孔を有する後縁支持パイプ12bが軸方向移動可能かつ回動不能に挿通されている。座板7は、水平方向の丸孔を備えた揺動ブラケット24で、その後縁を後縁支持パイプ12bに軸方向移動不能かつ上下揺動可能に枢着されている。
座板7の前縁下面には、後縁支持パイプ12bと平行な脚取付軸25がブラケット26で回動自在に軸支されており、2本の前脚8aの上端は、この脚取付軸25に固着されている。座板の入口側端部7aの後縁側に設けた後脚8bは、その上端を後縁支持パイプ12bと平行な軸回りに揺動可能にして、後縁支持パイプ12bの手間側の位置で、すなわち座板7を後縁支持パイプ12b回りに上方に揺動したときに脚8bの下端が床面から離れる位置で、座板7の下面に枢着されている。すなわち、前脚8a及び後脚8bは、座板7の前後方向に折畳み可能に取付けられている。
後縁支持パイプ12bと脚取付軸25とは、これらに固設した平行なアーム53、54と当該両アームの先端を繋ぐ連結棒55aとを含んで形成された平行リンク機構9aで連結されている。また、入口境界側の前脚8aと後脚8bとは、両脚の根元部分相互を繋ぐ連結棒55bを含む平行リンク機構9bで連結されている。後縁支持パイプ12bは、角軸22に揺動不能に挿通されており、従って座板7の展開折畳み状態に関わらず軸回りの方向は一定であり、この後縁支持パイプ12bに平行リンク機構9a及び9bで連結された前脚8a及び後脚8bは、常に下向きの姿勢を保持する。そして、座板7を展開したとき、脚8a、8bの下端は、床面に当接し、座板7に作用する荷重を支持する。
なお、脚8は、自重で下向きに垂れ下がるので、平行リンク機構9は、脚8の下向きの姿勢を保持する機能よりもむしろ床に着いたときの脚8の前後方向の揺れを防止する機能に重点を置いて、アーム53、54の角度や連結棒55の取付位置を決定するのが良い。
座板7は、後縁支持パイプ12b回りに90度上方へ揺動することによって折り畳まれ、角軸22に沿って後縁支持パイプ12bを奥側に摺動させることにより、入口境界4から壁面2a側へと退避する。座板7の折畳み状態の保持と、展開時の座板7の入口側への移動は、図1、2に示したような受具18を設けることによって実現できる。
座板7に作用する荷重を支持する脚8は、第1実施例に示す折畳み構造を採用した場合にも設けることができる。すなわち、座板7の前縁両端と後縁の入口側端部(後縁突出部7cを設けたときは、その突出した後縁の位置)とに、前脚8aと後脚8bとを第4実施例と同様な構造で設け、ステイ5aとこれに平行な連結棒を含む平行リンク機構及び前脚と後脚とを繋ぐ平行リンク機構により、脚の下向き姿勢を保持する。
上下方向の旋回軸回りに旋回する水平方向のステイ5bの先端に座板7の前縁を上下揺動自在に連結した第2及び第3実施例の移動台に脚8を設けるときは、前脚8a及び後脚8bの上端を座板7の下面に前縁支持板13bと平行な軸回りに折畳み可能に枢着し、当該前脚8a及び後脚8bと前縁支持板13bとを平行リンク機構で連結する構造が採用可能である。この場合の前脚8aは、座板7と前縁支持板13bとの枢着位置より後側に設け、座板7を前縁回りに上方に揺動したときに、前脚の下端が床面から離れるようにする。
第2及び第3実施例の構造においては、水平方向のステイ5bの旋回軸を斜めにすることによって、前脚8aを前縁支持板13bに固着して設ける構造が可能である。図16〜19に示す第5実施例は、その場合の構造の一例を示した図である。図16〜19において、逆L字形のステイ5bの縦棒51を軸支している軸受パイプ14bは、上端が下端より入口境界側に変位する方向に傾斜している。その傾斜角は鉛直軸に対して20〜45度、好ましくは20〜30度程度である。ステイの横棒52の先端は、縦棒51と平行な方向に屈曲され、この屈曲部57が前縁支持板13bに固着した連結パイプ58に回動自在に挿通されている。連結パイプ58は、軸受パイプ14bと同じ角度斜めにして前縁支持板13bに固着されている。座板7は、その前縁を前縁支持板13bの上縁に蝶番16bで上方に揺動可能に枢着されている。2本の前脚8aは、その上端を前縁支持板13bに固着して設けられている。
この実施例の座板7は、入口側の端部7aに後縁突出部7cを備えた構造で、その後縁突出部の後縁に近い座板の下面に、後脚8bの上端が前縁支持板13bと平行な軸回りに揺動可能に枢着されている。そして、後脚8bと入口境界側の前脚8aとが連結棒55bを含む平行リンク機構9bで連結されている。
上記構造において、展開状態の座板7の後縁を持ち上げ、座板7を奥側へと押動すると、ステイ5bの斜めになった縦軸51回りの旋回により、前縁支持板13b及び座板7は、上昇しながら奥側へと移動する。そして、この上昇を伴う移動により、前縁支持板13bに固着した前脚8aの下端が床面から離隔して壁面側へと移動して折り畳まれる。
水平方向に伸びて旋回するステイ5bの先端に座板7の前縁を上下揺動自在に連結する折畳み構造の場合は、旋回軸を傾斜させた場合であっても、座板展開時にステイの横棒52が壁面2に垂直である必要はない。第2実施例に示したストッパ32と後縁部材17bの位置を調整することにより、壁面に垂直な位置より更に入口境界側にステイ5bが旋回した位置を、座板7の展開位置に設定することができる。そのようにすれば、入口境界4から突出する端部7aの突出量を大きくすることができ、後縁突出部7cの座面の奥行き寸法(座板7の長手方向)の大きくできるという利点がある。
ステイ5bの旋回軸を上記の方向に傾斜させると、折畳み時に座板7の前縁が上昇するから、折畳み移動時に座板の奥側と便座20等との干渉を避けるのに有利である。