JP2010019898A - ポリエチレン−2,6−ナフタレートから形成されたレンズフィルムおよびその製造方法 - Google Patents

ポリエチレン−2,6−ナフタレートから形成されたレンズフィルムおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂製の透明性に優れ耐熱性を有するレンズフィルムを賦形性良く、製造する技術を提供する。
【解決手段】ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分量100モル%中、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が80〜100モル%であり、かつ全ジオール成分量100モル%中、エチレングリコールが80〜100モル%であり、さらにその固有粘度IVが0.56〜0.90dl/gであるポリエチレン−2,6−ナフタレートから形成されたレンズフィルムであって、賦形の形状の140℃、30分における残存率(賦形の残存率)が70%以上であり、200℃、3分間の加熱後白化しないことを特徴とした耐熱性を有するレンズフィルム。
【選択図】なし

Description

本発明は、液晶テレビ、コンピュターやワードプロッセサー等の液晶表示装置に関し、その輝度および視野角を向上することのできる部材ならびにその製造法に関する。詳しくは、特定のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂を成形した高複屈折で高透明な、耐熱性を有するレンズフィルム並びにそれを製造する技術に関するものである。
ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂(以下PEN樹脂と称する場合がある)は、耐熱性、ガスバリヤー性、低吸着性、および耐薬品性などに優れるため、包装容器材料として注目されている。また、PEN樹脂は、他の熱可塑性樹脂と比較し高い屈折率を有することから光学用フィルムに使用されている(特許文献1参照)。このような、光学向けレンズフィルムは、主に液晶表示装置の視野角調整、輝度向上などに用いられている。
近年、情報機器の高性能化や軽量化の要望に従って、OA機器、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー等の表示装置に多用されている液晶表示装置においても軽量化、薄型化、高精細化、省電力化及び広視野角化の要求が強くなっている。この要求に応えるために、各種の光学機能のあるレンズフィルムが多く用いられるようになってきている。
その一例として、表示装置の正面輝度向上のためにプリズムを利用する方法があり、同一面に微細な間隔で直線状頂稜を持つプリズムを頂稜がほぼ平行となる状態に多数有する透光性材料からなるフィルムを頂稜面が外側になるように出射面側に配置する方法(特許文献2〜4)が提案されている。そして、そのプリズムの頂角が70〜150度まで各種のものが提案されている。なお、これらを形成する原料はポリカーボネート、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレンや非晶質環状オレフィン共重合体などである。これらの樹脂を溶融し、フィルム状に押出して、該フィルム状物を賦形ロールとタッチロールとの間に挿入して成形することにより、プリズムフィルムを作成する。
また、特許文献5には、樹脂フィルムを金型A/金型B間で熱プレスすることによって賦形する方法が提案されている。これらの技術では用いる原料樹脂を非晶質のものを用いて製造する例が殆どである。これらの技術を結晶性または半結晶性の樹脂に適用する場合には樹脂の結晶化(によるフィルムの濁りの発生や白化を防いで)を抑制して作成することが必要である。
また、各種光学フィルムの積層化、集積化などによって、本発明のようなレンズ効果を有するフィルムを、更に加熱し延伸することによって分子配向を制御したり、フィルム状面にITO膜のような機能膜生成させるなど、レンズフィルム自体に高い耐熱性を要求されている。
耐熱性が高く、高屈折率を有する結晶性PEN樹脂を用いた、プリズム形状のレンズフィルムが特許文献6によって開示されている。結晶性の透明高分子樹脂を賦形ロール上に溶融押出しし、タッチロールで加圧して賦形する方法や、この樹脂を用いて、先ず溶融樹脂から透明均質なフィルムをつくり、それを再加熱して賦形ロールとタッチロール間で加圧し賦形する方法が提案されている。この提案は、極限粘度が0.55〜0.3のポリエチレン−2,6−ナフタレートからなるレンズフィルムであり、結晶化度が10以下のポリエチレン−2,6−ナフタレートからなるレンズフィルムである。
このポリマーを用いて、レンズフィルムを作成する場合、溶融樹脂の温度、賦形ロールの温度、タッチロールの押圧やその温度並びに樹脂がこれらのロールに接触する時間などを狭い条件の範囲で精密に制御しなければならない煩雑さがある。また、作成されたレンズフィルムが幾分結晶化しており、僅かに濁った状態を呈することもあるなど問題が残されている。そして、僅かに濁った状態のフィルムを再加熱して賦形しようとすると促進的に結晶化が進んでフィルムがより著しく結晶化して、白化するなどの問題を起こすことがある。ポリエチレン−2,6−ナフタレートのレンズフィルムを作成する時の制御の煩雑さは、さきに述べたようにこの高分子樹脂が結晶性(又は、半結晶性)であることに起因している。
押出機からフィルム状の溶融樹脂を押出し、彫刻ロールにて冷却時に同時に所定の構造に賦形する手法として、溶融エンボス法は公知であるが、生産性、賦形性を向上させる目的で弾性ロールを用いた手法は、特許文献5などに記載されている。しかし、これらの手法は、一般的にポリカーボネートのような非晶性樹脂に対しては有効であるが、結晶性樹脂を用いた場合、配向の発生による光学特性の不均一や結晶化による白化などによって、実用上では未だ問題が多い技術である。この特許文献6の賦形方法においては、溶融フィルムを金型に圧着させて賦形する方法と、溶融押出しフィルムを加熱した金型間で圧着させて賦形する方法が採られている。結果として得られるプリズムフィルムはどちらの方法であっても、幾分濁っているもの(結晶化度が6〜7%程度のレンズフィルム)が得られる。
一方、本発明の加熱された賦型ロールにて挟圧することによって、シート表面に模様など意匠性を付与する方法は、従来塩化ビニールの化粧シートなどの製造に広く持ちいれられている。しかし、本発明に用いる、高い軟化温度(Tg)を有し更には結晶化を制御しながら賦型する工法については開示されていない。
特開2006−205729号公報 特開2004−287418号公報 特開2007−276463号公報 特開2007−90859号公報 特許第3607759号公報 特開平10−160913号公報
上述のように、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂から作成するレンズフィルムの技術ではレンズ形状の賦形性や透明性が必ずしも十分なものとはいえず、より高い透明性とレンズフィルムの光学特性が求められている。また、後加工での加熱処理にも耐える耐熱性を有するレンズフィルムが求められている。
本発明の目的は、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂製の透明性に優れ耐熱性を有するレンズフィルムを賦形性良く、製造する技術を開発することである。すなわち、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂を溶融押出しし、一度均一で透明なフィルムを作製し、それをさらに、加熱した賦形ロール上でニップロールで押付けて賦形する方法の改良技術を提供することにある。
本発明者はこれを実現するため、特にポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂の結晶化現象に注目した。高性能のレンズフィルムを経済的に提供するために適切な樹脂材料を用いることが必要であることを知見した。さらに樹脂フィルムの極表面に微細なレンズ形状を歪を残すことなく精密に形成することを課題としたものである。
本発明は、ポリエチレン−2,6−ナフタレートからなるレンズフィルムを得るための改善方法を鋭意検討の結果、(i)結晶化のしにくいポリマーを作成すること、(ii)無延伸フィルムを再加熱して賦形する際、結晶化を抑える条件を採って賦形すること、さらに(iii)賦形にあたっては、彫刻を施したロール(賦形ロール)に圧着させることが必要である。このとき、圧着させる条件を最適化する等により、透明均質なレンズフィルムを得ることができることを見出したものである。
本発明のレンズフィルムを作成するのに適したポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂は次の特性を満たすことが必要である。
すなわち、
(a)結晶性(結晶化速度)を制御したものであること。
賦形のプロセスにおいて樹脂が結晶化を起こさず、十分に透明な成形品を与えること。ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂の結晶化速度はその分子量(固有粘度)や共重合比を制御することによって変わることを知見した。
(b)樹脂の十分な賦形性。
賦形のための微細な溝等に樹脂が十分に流れ込み、賦形のパターンが忠実に転写されることが必要である(流動性)。
(c)賦形されたレンズフィルムが、賦形ロール表面からスムースに離れること(型離れ性)が必要である。
また、d)賦形操作においては、賦形する面の温度は賦形に好ましい温度まで上げなければならないが、非賦形表面から断面方向内部の温度は、例えば、Tg以下の温度に維持しなければならない。
本発明の目的は次の事項を満たすことによって達成される。
(1)ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分量100モル%中、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が80〜100モル%であり、かつ全ジオール成分量100モル%中、エチレングリコールが80〜100モル%であり、さらにその固有粘度IVが0.56〜0.90dl/gであるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂から形成されたレンズフィルムであって、賦形の形状の140℃、30分における残存率(賦形の残存率)が70%以上であり、200℃、3分間の加熱後白化しないことを特徴とした耐熱性を有するレンズフィルム。
(2)20℃/minの昇温速度でDSCにて測定した融解エネルギーが20J/g以下で、かつ密度が1.330〜1.340g/cmである前項(1)記載のレンズフィルム。
(3)実質的に非結晶、無配向および無延伸のポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを、ガラス転移温度(Tg)+50℃〜融点(Tm)−20℃の範囲に加熱され表面に賦形形状を施した賦型ロールと、Tg−20℃以下に調整されたゴム弾性を有するニップロールとで圧着させることにより賦形し、賦形後フィルムを速やかにガラス転移温度(Tg)以下まで冷却することを特徴とする前項(1)記載のレンズフィルムの製造方法。
この際、速やかにとはポリエチレン−2,6−ナフタレートを加熱または冷却する際に、最も結晶化しやすい温度範囲190〜205℃における滞留時間を60秒以下にすることを意味する。
(4)ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムと賦型ロールとの接触時間が0.1〜1秒である前項(3)記載のレンズフィルムの製造方法。
(5)レンズフィルムは、その表面に半円状の形状が連続するレンチキュラーレンズまたは三角状の形状が連続するプリズムの賦形を施した前項(1)記載のレンズフィルム。
本発明のレンズフィルムは優れた透明性、輝度を示すと共に、耐熱性、成形性も良好で、液晶表示装置等に有用である。
(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)
本発明のポリエステルフィルムを構成する芳香族ポリエステルは、主たる繰返し単位がエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる。ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分量100モル%中、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が80〜100モル%であり、好ましくは90〜100モル%である。また、全ジオール成分量100モル%中、エチレングリコールが80〜100モル%であり、好ましくは90〜100モル%である。エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位は、全繰返し単位の少なくとも80モル%であるのが好ましく、より好ましくは90モル%である。エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位とは異なる繰返し単位は、2,6−ナフタレンジカルボン酸および/またはエチレングリコール以外の他のジカルボン酸および/またはエチレングリコール以外の他のジカルボン酸および/または他のグリコール等を共重合成分として用いることにより導入することができる。
かかる共重合成分としては2個のエステル形成官能基を有する化合物を用いることができる。この共重合成分としては、例えばシュウ酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、コハク酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸、テレフタル酸、2−カリウムスルホイソフタル酸、2、7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4、4‘−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸およびこれらの低級アルキルエステル、p−オキシエトキシ安息香酸等のごときオキシカルボン酸およびその低級アルキルエステル、プロピレングリコール、1、2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、1、5−シクロヘキサンジメタノール、1、3−シクロヘキサンジメタノール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシリレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加体、トリエチレングリコール,ポリエチレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ネオペンチルグリコール等を挙げることができる。
また、芳香族ポリエステルは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコール等の1官能性化合物により、末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってもよく、あるいは例えば極少量のグリセリン、ペンタエリスリトールなどのごとき3官能以上のエステル形成化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲で変性されたものであっても良い。
また、本発明における芳香族ポリエステルとしては、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰返し単位とする芳香族ポリエステルと、それ以外の他のポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート等を少量、例えば20モル%以下の量でブレンドしたものを使用することができる。
(重合触媒、添加剤、安定剤など)
(重合触媒)
本発明におけるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂は亜鉛化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物およびマンガン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を重縮合触媒として製造するのが好ましい。かかる重縮合触媒を用いることにより本発明における芳香族ポリエステルを透明性の優れたものとして容易に調整することができる。
(添加剤、安定剤)
また、本発明においてポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂は添加剤、例えば安定剤、染料、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤などを所望により含有していても良い。例えばフィルムに滑り性を付与するために、不活性粒子を少量割合を含有させても良い。
不活性粒子としては、球状シリカ粒子が好ましく、平均粒径が0.05〜1.6μmであり、かつ粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2の球状シリカ微粒子が特に好ましい。フィルムへの配合量は0.001〜0.1重量%が好ましい。この球状シリカ微粒子は個々の微粒子の形状が極めて真球に近い球状であって、粗大粒子が殆どなく、従来から滑剤として知られているシリカ微粒子(10nm程度の超微細な塊状粒子か、またはこれらが凝集して0.5μm程度の凝集物(凝集粒子)を形成しているもの)とは著しく異なる。
球状シリカ微粒子の平均粒径が1.6μmより大きくなると、球状シリカ微粒子による突起の周りの重合体フィルムにひび割れが生じやすく、ヘーズ値が増加しやすくなるため好ましくない。また、0.05μmより小さいと、滑り性が劣りハンドリングしにくいフィルムとなる。添加量が0.1重量%より多いと、滑り性は十分であるが、ひび割れの総数が増加して、ヘーズ値が増加する傾向が見られるようになる。0.001重量%より少ないと、滑り性が劣ってハンドリングしにくいフィルムとなる。また、添加剤を添加する場合、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの結晶化を促進させる物質を極力使用しないことが好ましい。
(ポリマーの固有粘度、IV)
かかる方法によって得られた本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂はチップ化(ペレット化)し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において固相重合することもできる。固相重合処理が済んだペレットは蒸留水で洗浄する(固相重合後に水、水蒸気または水蒸気含有ガスと接触させて得られる)。この洗浄によって微細な粉状、ひげ状の樹脂を取り除く。一般にはこのような粉状、ひげ状の樹脂はフィルム化する場合の溶融押出し、溶融樹脂の濾過工程において、取除くことが難しいのでフィルム中に入って、内部異物として品質欠点となることがある。固相重合によれば、ポリエチレン−2、6−ナフタレート樹脂に含まれるオリゴマーも減少させることができるため、製膜したフィルム面に析出するオリゴマー起因の表面欠点をさらに減少させることができる。
本発明のポリエチレン−2、6−ナフタレート樹脂の固有粘度は0.56〜0.90dl/gである。好ましくは0.58〜0.80dl/g、特に好ましくは0.60〜0.80dl/gである。
固有粘度が下限に満たない場合、溶融押出し後のフィルムが脆くなり、フィルムに破断が生じ易くなるという問題がある。また、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂の固有粘度が上限を超えると、通常の合成手法では重合に長時間を要し、生産性が悪くなるとともにレンズ部の形成において歪みや賦形不足が生じやすくなり好ましくない。
ポリエチレン−2,6−ナフタレートの結晶化を抑える方法として、樹脂の分子量を上げる方法がある、また同じ分子量であっても、結晶化挙動は、微量の異性体からなる不純物や共重合成分の存在によって変わる。微量の異性体や共重合成分の存在量によって変わる特性は、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂を昇温加熱するときの軟化温度(樹脂中に針が陥入する時の温度、Tsp)で表すことができる。ポリエチレン−2,6−ナフタレートの(等温)結晶化挙動を、デラトメーターで観察した。半結晶化時間とTspとの関係は、IVが0.55dl/gでTspが275℃の場合、結晶化の速度が特に早い温度領域、190〜205℃では60秒弱であった。Tspが270℃の場合、7〜8分、268℃の場合、20分弱であった。この結果は静的なものであり、動的な実際の成形プロセスではそのまま適用できないがPEN樹脂の結晶化速度の参考のデータとなる。
すなわち、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの結晶化速度が最も早い190〜205℃の温度領域では、滞留時間が極力短い状態で冷却したり、加熱したりしなければ結晶化による樹脂の白化が起こり易くなる。
(ペレットの乾燥)
本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂は、ペレットを熱風乾燥してから溶融押出しするのが普通である。乾燥の条件は熱風の温度170〜175℃で3時間以上とするのが好ましい。ペレットの含有水分量を減らして溶融押出し時の加水分解による固有粘度の低下を防ぐことができる。
(溶融押出し並びに押出しダイ)
ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂は普通透明なペレットとして入手できる。また固相重合させたペレットは一般に結晶化していて白化している。溶融重合した樹脂、それをさらに固相重合した樹脂は、加工のため溶融押出しする場合には、予め樹脂を乾燥して水分を除き、加水分解を防ぐ工程が必要である。固相重合や乾燥によってポリエチレンー2,6−ナフタレート樹脂は結晶化しているのが普通である。PENの結晶融点は約270℃であるので、溶融温度は290℃以上まで上げる必要がある。また、樹脂の溶融温度は310℃以下とするのが好ましい。この温度を超えて溶融させたり空気中に樹脂を押出した場合、樹脂の熱や酸化劣化が促進されて、分子量の低下と樹脂の着色が起こりやすくなるので好ましくない。これを少しでも防ぐためには、溶融押出しダイのダイリップの周辺の水分や酸素をできるだけ遮断するような、雰囲気制御法を適用するのがよい。溶融温度は300℃以上307℃以下がより好ましい範囲である。
溶融したPEN樹脂をダイスリットより鏡面冷却ロール上に押出す。この際押出しダイのスリット間隙(スリット部幅)は、製造されるフィルムの厚さの2〜15倍の範囲とするのが好ましい。スリット部の幅が2倍未満であると溶融押出されたフィルムの表面に多数の筋状の欠点を生じることが多いため、均一で透明なフィルムを得ることが困難になる。また、スリット部の幅が15倍を超えるとスリット幅方向での均一な押出しが難しくなるという問題がある。より好ましいスリット部幅は3〜6倍である。
(賦形前フィルムの作成方法)
PEN樹脂の均一で透明なフィルムは、溶融樹脂を冷却ドラム上に押出して密着させて急冷することによって得られる。PEN樹脂の結晶化挙動は、残留核による結晶化と溶融樹脂中に偶発的に発生する結晶核による結晶化の二つの挙動が想定される。なお、両者の結晶化メカニズムのうち、その結晶化の速さは残留核によるものが圧倒的に大きい。本発明者らの観察によれば、残留核による結晶化の場合、ダイから押出されたPEN樹脂がフィルムに押出し直後に結晶化を起こし白化することが多かった。このフィルムの切断面をみると、溶融押出し直後に冷却ロールで急冷された側の断面はほぼ透明であったのに対して、この反対側の断面は濁るかまたは白化していた。
本発明においては、残留核の無い溶融フィルムを急冷する、急冷の条件は、結晶化の速度が特に早い温度領域、190〜205℃の温度範囲を60秒以下で通過することである。より好ましくは30秒以下である。この温度領域を短時間で通過するほどその効果(結晶化させない)が大きい。そして、僅かに白化したフィルムは再加熱して賦形する際、結晶化が促進されて極めて白化しやすくなっている場合が多い。
溶融PEN樹脂フィルム製造の際の密着の方法においては、公知の静電密着法や冷却ドラム面に液体の薄膜を付与する密着法などを用いることができる。また、これらの密着方法を溶融押出しされたフィルムの幅方向の両端部のみに付与する方法を適用することもできる。こうして、密度が小さな実質的に結晶化してない、無配向、無延伸の透明で均一なPEN樹脂フィルムを作成することができる。
(賦形前ロールの保管)
マスキングフィルムと共に巻き上げる、またはナーリングを付与して巻き上げて保管するなどの方法をとることによってフィルム面の傷つきや芥の付着を防ぐようにするのが好ましい。
(賦形の方法)
次いで、得られたPENフィルムを賦形処理する。賦形は無延伸フィルムを作成した工程に引き続いて行ってもよいし別途準備した工程で行っても良い。一般には室温にある無延伸フィルムの極表面のみをガラス転移温度以上に上げ、賦形される。すなわち、PENの結晶化を防止すること並びに賦形されるフィルム面の極表面のみがガラス転移温度Tgを超えるが、フィルム全断面がTgを超えないように維持することが必要である。賦形処理中にフィルム全体がTgを超えないように維持するのはフィルム全体が変形するのを防ぐためである。
フィルムを加熱して賦形する場合次の二つの温度領域を選択することができる。
(1)賦形を、ガラス転移温度(Tg)以上、結晶化温度(Tcc)以下、すなわち、フィルムがその加熱温度において滞留しても結晶化を起こすことの無い温度の範囲で賦形する方法、及び、(2)結晶化温度(Tcc)よりも高い温度での賦形する方法である。本発明に用いるポリエチレン−2,6−ナフタレートでは、結晶化温度(Tcc)が190〜205℃の範囲となる。この場合、短い滞留時間(結晶化が実質的に起こらない時間)で通過させることが必要である。
上記の(1)の場合、賦形する時の好ましいフィルム温度条件はガラス転移温度(Tg)〜190℃、より好ましくは140℃〜185℃である。この賦形方法の場合、ポリマーの結晶化の早い温度領域まで加熱されたにため、結晶化による白化、後加工加熱での再結晶化などの問題は発生しないが、賦型部に残留ひずみが残存し、その結果、後工程での加熱によって残留歪が開放されることにより、賦型形状の変形が発生する。
また、上記の(2)の場合、更に形状の転写が忠実に行われ易い比較的高い温度で190℃〜230℃の温度範囲で賦形される。このTcc以上の高い温度にて賦型することにより、賦型部に歪が残留することなく、本発明の効果の一つである、形状の残存率が優れたレンズフィルムを得ることが可能となる。
しかし、一方で、結晶化温度以上に加熱されるため、フィルムが結晶化し白化する現象、後述するが結晶核が生成し後加工での加熱工程で結晶化してしまう易結晶性化する現象が発生する。
結晶化の早い温度領域(190〜205℃)は次の3回通過する。先ず溶融樹脂から賦形前の均一透明なフィルムを成形するとき、賦形時に加熱して190℃〜205℃間の温度を通過するとき、さらに、賦形を終了してフィルムを室温まで戻す時の計3回である。
この結晶化の早い温度領域(190℃〜205℃)はフィルムが極力短時間で通過する必要がある。この短滞留時間をとることによってポリエチレンー2,6−ナフタレートフィルムが実質的に結晶化しないため、均一透明なものを得ることができる。以上は結晶化をさせない方法である。
この賦形実験において本発明者らは、上記のような速結晶化温度領域を急速に冷却したとしても、賦形後のPENフィルムが幾分白化または酷く白化する場合があることを知見した。すなわち、比較的高温でかつ高賦形線圧の場合に、フィルム断面方向のプリズム底面の下近くでせん断によるズリ変形が発生し、それが引き金となって結晶化し白化するという現象である。
賦形する際の賦形ロール接触時間について、一般的に、エンボス法での賦形の因子としては、(A)フィルムの予備加熱温度、(B)賦形ロール表面温度、(C)押付圧力、(D)押付時間が考えられる。
(A)フィルムの予備温度については、温度が高い方が賦形し易く、また、賦形による歪も少ないため好ましいが、フィルム全体がTg以上となると、急激に軟化し張力に対し延びが発生する為、シワ・変形などの問題があり好ましくない。よってフィルム予備加熱温度は、常温からTg−20℃程度が好ましい。
(B)彫刻ロール(賦形ロール)の表面温度については、高温のほうが賦形性及び賦形時の歪は少なくなる。しかし、上記のように、Tcc以下では賦型による残留歪が発生することから、賦型部の耐熱性を低下させる要因となる。またTm以上では賦型部が著しく軟化し、離型時に賦型形状の変形などが発生する。本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレートにおいては、Tccは190℃〜205℃、Tmは260℃のため、賦型ロールの表面温度は好ましくは190℃〜260℃、より好ましくは200℃〜240℃に調整される。また、賦形ロールの表面温度は、フィルムのガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)を基準とすると、ガラス転移温度(Tg)+50℃〜融点(Tm)−20℃の範囲が好ましく、ガラス転移温度(Tg)+60℃〜融点(Tm)−30℃の範囲がより好ましい。
賦形ロールからフィルムを剥離する際の賦形フィルムの温度は、ガラス転移温度Tg(本発明で用いたPEN樹脂のTgは約120〜125℃である)以上の高温であると、フィルムに粘着性が発現し、ロールからの剥離性が悪化する。その為、賦形ロールから剥離させるためフィルムの引張張力を僅かに上げる必要がある。剥離性対策として、成形ロール表面に離型処理などの表面処理を行うことも有効である。
(C)押付圧力および(D)押付時間に関しては、本発明で用いる弾性ロールの表面硬度とロールニップ圧、およびライン速度に依存する。本発明において,十分に賦形し、また歪が残留していないレンズフィルムを得るためには、具体的には、好ましくは線圧20Kg/cm以上、さらに好ましくは線圧30Kg/cm以上必要である。上限は特に限定されないが300Kg/cm以下で充分である。線圧は、押付圧力および弾性ロールの撓み量によって調整される。硬度が低い弾性ロールを用いた場合、撓み量が増加し線圧が低下する。低下した線圧を補う目的でニップ圧力を上げると、弾性ロールの撓み接触面が過大になりその結果、接触面での圧力分布に不均一が発生し、フィルムにしわなどが発生する。一方高硬度の弾性ロールを用いた場合、撓み量が少なくなり接触面積が減少し、その結果面圧が増加するが、面積低下により押付時間が短くなると共に、溶融樹脂フィルムの僅かな厚み斑などにより接触面での圧力分布の不均一が発生する。
また、押付圧力を高くすると、形状の賦形性(賦形率)は向上するが、賦形部に残留する歪量が増大し、加熱時の賦形形状の変化(賦形残存率)が悪化する。
賦形ロール温度と線圧との関係は、賦形ロール温度が低いときには線圧を高くし、賦形ロール温度が高いときには線圧を低くすることが好ましい。具体的には、賦形ロール温度が180〜200℃のとき線圧120〜200Kg/cmが好ましく、賦形ロール温度が200℃を超え220℃未満のとき線圧80〜120Kg/cmが好ましく、賦形ロール温度が220〜260℃のとき線圧20〜80Kg/cmが好ましい。
また、押付時間は、好ましくは0.1〜1秒、より好ましくは0.3〜1秒とする。0.1秒未満では,賦形率の低下が発生する。また1秒を超えると、結晶化による白化が発生、または後述する結晶核が生成する場合がある。
本発明においては、この押付時間は次のようにして求めたものである。すなわち、所定の温度に加熱した賦形ロールに、室温下にあった200μm厚みのフィルムを賦形ロールと反対側から弾性ロールで押付けて賦形テストをした。この際、賦形ロールを停止した状態で所定の線圧力をかけて圧挟し、弾性ロールのフィルム面への接触長を測定した。その接触長と、ロールの回転数(周速度)から実際の接触時間を見積もった。
本発明における、賦型方法としては、基材フィルムを熱で軟化させ、微細形状を施したロールを押し付けることより賦型せしめているが、上記の通り、Tcc以上の温度で短時間で加熱し賦型する必要がある。このとき、上記の通り、賦型時の加熱によって結晶化が進み白化し光学特性が著しく低下する現象のほかに、結晶核の生成が課題としてある。結晶核の生成は直接的に観察できるものではないが、一般的には結晶化誘導時間の短縮、結晶化速度の増加、結晶化温度の低下などの現象から、間接的にその存在を簡易的に確認することが出来る。
特に本発明のレンズフィルムにおいては、後加工時の高温処理に耐えうる特性が必要となる。しかし上記結晶核が存在すると、後加工時の高温処理で急激に結晶化が進行し光学特性が低下してしまう。本発明での耐熱性とは、Tg以上具体的には140℃程度の雰囲気下で長時間曝されても結晶化が進行せず、また一方で200℃程度の雰囲気下で数分の短時間曝されても結晶化が進行しないことを示している。一般的には、このような熱履歴による特性変化を嫌う用途においては、非結晶性の樹脂を用いることが一般的だが、本発明の効果である、高屈折率であり耐薬品性などに優れたレンズフィルムを得るには、本発明で用いたポリエチレン−2,6−ナフタレートなどの結晶性樹脂を、非晶状態で製品化する必要がある。
上記の結晶核の存在を確認するには、DSCによって結晶溶融熱量を測定することが有効である。具体的には、後加工時の加熱でも結晶化を発生させない為には、昇温速度20℃/minで測定されたDSCでの結晶溶融熱量が好ましくは20J/g以下、より好ましくは15J/g以下である。20J/gを超えると、140℃の加熱でも結晶化が進み白濁してしまう。
フィルムとロールとの接触時間は、ロールの回転速度、ロール径、およびニップロールに用いる弾性ロールの撓み量によって調整することが可能である。本発明においては、予備実験によりこれらの関係を求めた。
ニップロールの押付圧力は重要である。一例としては、好ましくは20Kg/cm以上、より好ましくは30Kg/cm以上、さらに好ましくは100kg/cm〜300kg/cmである。圧力が低すぎると賦形率が低下し、逆に高すぎると賦形部に残留する歪が増大し、残存率が低下する。
本発明に用いる弾性ロールとしては、代表例としては、芯材に冷却配管を施した鋼管、鋼管の周囲に硬質ゴムを巻き、更に最外周に金属製の肉薄のスリーブを配置したロールが一般的である。最外周の金属スリーブと硬質ゴム層との間に温調用の熱媒を流すことも有効である。一般的な表面がゴムからなるロールでは,鏡面が転写されずフィルムのヘーズが増加するため、本発明の光学用途には適さない。
図1の装置の概略図によって、より具体的に本発明の例を説明する。
図1において、本発明の賦形装置の概略図を示した。賦形前PENフィルム1を賦形ロール(彫刻成形ロール)3とニップロール4にて圧着し賦形する。賦形後のPENフィルム2を巻取りロール5によって巻き取る。
賦形ロール3の表面は、微細なパターンを切削加工して、NiやCrメッキが施してあるものである。必要の場合上記メッキ表面に離型処理を施しても良い。賦形ロール3は高温まで上げることが必要なため、ロール中心部に設置した電熱ヒーターによる加熱を実施したり、ロールの表面近傍に誘導コイルを埋設した、誘電発熱加熱ロールとするのも好ましい方法である。ニップロール4は、D硬度80以上の表面とする。このニップロールの表面は各種ゴム素材の他に、圧縮パルプ、硬質プラスチック類や薄板の金属ジャケットで被覆しても良い。
ニップロール4の芯材部または表面金属ジャケット/ゴム層間に冷媒を導入し、好ましくは(Tg−20)℃以下、より好ましくは(Tg−120)〜(Tg−30)℃に冷却することが望ましい。
本発明において、賦形ロール3を加熱し、ニップロール4をPENフィルムのガラス転移温度(Tg)−20℃以下に冷却しながら賦形処理する。これは、PENフィルムの断面全体がTg以上まで加熱されるの防ぐためである。こうすることによって極表面が加熱賦形され、非賦形面が冷却されるため、フィルム断面全体の軟化を防ぎその後の取り扱いの煩雑さや操作を容易にするためである。
本発明のレンズフィルムの密度は、好ましくは1.330〜1.340g/cmである。密度が上記範囲であると結晶化による白化を防ぐ点で好ましい。1.340g/cmを超えると、後の加熱処理により結晶化が発生し白化する。
また、本発明のレンズフィルムは、その賦形の形状の140℃、30分における残存率(賦形の残存率)が75%以上であり、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
さらに、本発明のレンズフィルムは、200℃、3分間の加熱後白化しない耐熱性に優れたレンズフィルムである。
本発明のレンズフィルムとしては、フィルムの表面にレンチキュラーレンズ形状やプリズム形状の賦形を施したレンチキュラーレンズフィルムやプリズムフィルムが挙げられる。これらは、液晶バックライト用輝度向上フィルムとして好適に用いられる。
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載した種々の特性値は、次に示す方法により測定したものである。
(固有粘度 IV)
テトラクロロエタン:フェノール=4:6の混合溶媒を用いて、35℃で測定した。
(密度)
硝酸カルシューム水溶液を用いた密度勾配管を用いて、25℃で浮沈法により測定した。
(ガラス転移温度 Tg)
セイコー電子工業(株)製DSC(示差走査熱量計)220を用いて測定した。DSCの測定条件は次の通りである。試料フィルム10mgをDSC装置にセットし、昇温速度20℃/分で加熱し、300℃の温度で溶融した後、液体窒素中に急冷する。この急冷試料を10℃/分で昇温し、ガラス転移点を検知する。
(屈折率)
アッベ式屈折計を用いて、フィルム面内の一方向の屈折率nx(例えばフィルム縦方向の屈折率nMD)と、それに直交する方向の屈折率ny(例えばフィルム横方向の屈折率nTD)をナトリウムD線(589nm)を用い、マウント液にはヨウ化メチレンもしくはヨウ化メチレンと硫黄の混合体を用いて、23℃、65%RHにて測定した。
(結晶化度)
ポリマーの密度を測定することにより求めた。
(融解エネルギーの測定)
セイコー電子工業(株)製DSC(示差走査熱量計)220を用いて測定した。融解熱の測定条件は次の通りである。試料フィルム10mgをDSC装置にセットし、昇温速度20℃/分で加熱し、融解ピークを求めその面積から融解熱を計算した。
(レンズ形状の測定)
レンズフィルムの断面を切ってレーザー顕微鏡で観察した。また、レーザー顕微鏡でレンズの形状を測定した。
(レンズ形状賦形率)
賦形に使用したロール表面に形成したレンズ形状の山の高さを100として、賦形によりレンズフィルムの表面に形成されたレンズ形状の山の高さを%で表した。
(レンズ形状残存率)
作成したレンズフィルムを140℃で30分間熱処理した後の形状残存率を求めた。
賦形ロールによりフィルム上に形成された山の高さを100%とし、このフィルムを140℃で30分間熱処理した後の山の高さを%で表示した。例えば、残存率が0%の場合、賦形後熱処理したときにレンズの山の高さが0になったことを意味する。
(レンズフィルムの目視観察)
作成されたレンズフィルムを目視して、その白化の程度を観察した。
全く白化しなかった場合を○で、かすかに白化した場合を△で、ひどく白化した場合を×で示した。
(レンズフィルムの耐熱性)
得られたレンズフィルムを200℃、3分間温風式オーブン内で熱処理を行い、取り出した後のフィルムの白化状態を目視にて確認した。
(PENポリマーの作成)
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100重量部とエチレングリコール51重量部を酢酸コバルト四水和物0.010重量部(10ミリモル%)、酢酸マンガン0.030重量部(30ミリモル%)の存在下、定法によりエステル交換反応を行いメタノール溜出20分後に三酸化アンチモン0.012重量部(10ミリモル%)を添加し、エステル交換反応終了前に正リン酸0.020重量部(50ミリモル%)を添加した。次いで295℃、1.3×10Pa以下の高真空下で重縮合反応を行い固有粘度0.47dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレートプレポリマーを得た。さらにこのプレポリマーを用いて定法により固相重合を行い、固有粘度0.68dl/g、結晶化度が38%のポリマーを得た。
(フィルムの作成)
このポリマーペレットを170℃で5時間乾燥させた後、押出し機に供給し、溶融温度305℃で溶融し、口金部1.2mmのダイスリットより押出して、表面の温度を80℃に設定した回転冷却ドラムにて急冷し厚さ約200μmの無延伸フィルムを作成した。この無延伸フィルムの特性は、下記の通りであった。
固有粘度IVが0.65dl/g、Tgが125℃、屈折率が1.645(フィルム縦方向、横方向並びに厚み方向の平均値)、密度1.330g/cmであった。透明性や均一性に優れ、表面欠点等が無いものが得られた。得られたフィルムの幅は1050mmであった。
本発明の賦形処理においては、このフィルムから幅300mmのロールにスリットし、用いた。
(賦型形状)
本発明で実施した、賦型形状は、特に限定されるものではないが、代表例として下記の2形状で行なった。
形状(1)高さ25μm、底辺50μm、頂角90°の二等辺三角形の頂部が互いに平行に成るように直線状のレンズ部が多数連なる形状でとなるV溝加工を円周方向に加工されたエンボスロールを用いた。
形状(2)高さ100μm、底辺200μmの半円状の頂部が互いに平行に成るように直線状のレンズ部が多数連なる形状でとなるカマボコ状加工を円周方向に加工されたエンボスロールを用いた。
(賦形処理)
図1に示した賦型ロールとゴム弾性を有するゴムニップロールにて挟圧して賦型を行なった。フィルムが所定の温度に加熱された賦形ロール3に接触を開始する点で、弾性体からなるニップロール4にて圧着させた。ニップロールは20℃に水冷し、フィルムの冷却を行なった。フィルムの冷却は温度範囲190〜205℃における滞留時間が30秒以下になるようにした。加熱賦形ロール3とフィルム1との接触時間は、ロールを停止した状態で加圧ニップを行い、賦形ロールと弾性ニップロール4との接触面積と、実際のフィルムの移動速度から算出した。このとき、ロール面長は300mmである。
[実施例1〜5、比較例1]
形状(1)の彫刻を施した賦形ロールの温度並びに賦形ロールの線圧を変えて賦形処理したPENレンズフィルムの特性を表1に示した。フィルムのプリズム形状の賦形率、その残存率(耐熱性)並びに目視による白化は、下表のとおり実施例1〜5の条件で優れたものが得られた。実施例のフィルムの融解エネルギーは最大約15J/gであった。また、密度は約1.330g/cmで未賦形のフィルムの密度と殆ど変わらなかった。
賦形ロールの温度を下げて140℃とし、賦形線圧を高くし、賦形ロール接触時間を長くした場合(比較例1)、賦形率、賦形残存率とも極めて低いレベルであり、好ましい条件ではなかった。
表1から、賦形ロール温度190〜230℃の範囲で見ると、賦形率、残存率が大きく、かつ白化を起こさない賦形条件では、賦形ロールの温度と線圧との関係は逆相関の関係にあるように見える。すなわち、賦形ロール温度が低いほど高い線圧を要し、ロール温度が高いほど低い線圧で賦形が行われる。
Figure 2010019898
[実施例6〜8、比較例2]
上記(PENポリマーの作成)の項で述べた溶融重合プレポリマー(固有粘度IV=0.47dl/g)をさらに固相重合して(固相重合の条件を変えて)、IVが0.60dl/g、0.70dl/g、0.83dl/g(いずれも溶融押出しフィルムのIV)のものを作成した。
賦形ロール温度と賦形線圧並びに賦形ロール接触時間を一定にして、賦形処理を実施した結果を表2に示した。
賦形前のPENフィルム固有粘度0.60dl/g、0.70dl/gおよび0.83dl/gについて賦形率、賦形残存率並びに目視白化の問題のないものが得られた。比較例2では、IVが0.47dl/gのPENフィルムを用いたが、賦形残存率と白化に優れたものは得られなかった。
Figure 2010019898
[比較例3〜8]
上記(PENポリマーの作成)の項で述べた溶融重合プレポリマー(固有粘度IV=0.47dl/g)をさらに固相重合して、IVが0.65dl/g(溶融押出しフィルムのIV)のものを作成した。
賦形ロール温度、賦形線圧並びに賦形ロール接触時間を変えて、賦形処理を実施した結果を表3に示した。賦形ロール温度を180〜200℃の間で変えた場合、賦形ロール線圧が33〜100kg/cmであると(比較的低線圧)、賦形率並びに賦形残存率とも極めて小さいものしか得られなかった。これらの場合賦形後フィルムが結晶化することはなかった。
これらの賦形フィルムの融解エネルギーは低いレベルであり、密度も1.330g/cm近くであり、未賦形のフィルムと殆ど変わらなかった。
すなわち、賦形ロールの温度を180〜200℃とし、賦形ロールの線圧を33〜100Kg/cmのように低くした場合は賦形が殆ど行われず、賦形処理後のフィルムはその密度も融解エネルギーも小さく、処理前のフィルムと殆ど変わらなかった。
Figure 2010019898
[比較例9〜比較例15]
上記(PENポリマーの作成)の項で述べた溶融重合プレポリマー(固有粘度IV=0.47dl/g)をさらに固相重合して、IVが0.65dl/g(溶融押出しフィルムのIV)のものを作成した。
このフィルムを210℃〜230℃の比較的高温下、賦形線圧100〜167Kg/cmの比較的高線圧下で賦形を行った。その結果を表4に示した。
高温下・高線圧賦形の条件では賦形率、賦形残存率とも優れていたが、表4のいずれの条件でも熱処理後に白化、レンズフィルムとしては不適なものしか得られなかった。
比較例9〜11の賦形フィルムの融解エネルギーは19〜26J/g、密度は1.335g/cm程度で賦形前のフィルムよりもいずれも高くなっていた。
また、比較例12〜15の賦形フィルムでは、融解エネルギーが24〜27J/g、密度が1.340g/cmであった。
Figure 2010019898
[実施例9]
形状(2)の賦型ロールを用いて、実施例4と同様の条件にて、賦型を行なった。その結果を、下表5に示す。形状(2)は形状(1)と比較して、形状が大きい為、賦型率、残存率ともにほぼ100%に近かった。
Figure 2010019898
以上の表1〜表5の結果をまとめると、PENの透明均一なフィルムを賦形処理する際、賦形率及び賦形残存率が高くて優れ、(目視)白化を起こさない賦形の処理条件は、賦形ロール温度180〜230℃、賦形ロール線圧33〜167kg/cm、賦形ロール接触時間0.1〜1秒である。そして、賦形ロール温度が高い場合の方が、より低い賦形線圧で好ましい賦形をすることができる。しかし、上記のような賦形ロールの温度範囲であっても、特に低温で賦形線圧が33〜100Kg/cmのように低い場合は賦形率及び賦形残存率が低下する。また、特に高温で賦形線圧が100〜167Kg/cmのように高い場合は賦形により結晶化を起こし、PENフィルムが不透明化を起こし易い(プリズムの底面とその下の断面が賦形中にズリ変形を起こし、結晶化が促進され、不透明層が生成されるためと考えられる)。
さらに、賦形ロール接触時間は0.1〜1秒が好ましい、1秒を越えるとフィルム断面が賦形中にズリ変形を起こして、結晶化が促進され不透明層が生成されるため賦形時に白化を起こしやすい。
図1は、本発明による無延伸フィルムの賦形の状況を模式的に示す概略図である。
符号の説明
1:賦形前PENフィルム
2:賦形後PENフィルム
3:賦形ロール(彫刻成形ロール、エンボスロール)
4:ニップロール(ゴムロール)
5:巻取りフィルム

Claims (5)

  1. ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分量100モル%中、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が80〜100モル%であり、かつ全ジオール成分量100モル%中、エチレングリコールが80〜100モル%であり、さらにその固有粘度IVが0.56〜0.90dl/gであるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂から形成されたレンズフィルムであって、賦形の形状の140℃、30分における残存率(賦形の残存率)が75%以上であり、200℃、3分間の加熱後白化しないことを特徴とした耐熱性を有するレンズフィルム。
  2. 20℃/minの昇温速度でDSCにて測定した融解エネルギーが20J/g以下で、かつ密度が1.330〜1.340g/cmである請求項1記載のレンズフィルム。
  3. 実質的に非結晶、無配向および無延伸のポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを、ガラス転移温度(Tg)+50℃〜融点(Tm)−20℃の範囲に加熱され表面に賦形形状を施した賦型ロールと、Tg−20℃以下に調整されたゴム弾性を有するニップロールとで圧着させることにより賦形し、賦形後フィルムを速やかにガラス転移温度(Tg)以下まで冷却することを特徴とする請求項1記載のレンズフィルムの製造方法。
  4. ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムと賦型ロールとの接触時間が0.1〜1秒である請求項3記載のレンズフィルムの製造方法。
  5. レンズフィルムは、その表面に半円状の形状が連続するレンチキュラーレンズまたは三角状の形状が連続するプリズムの賦形を施した請求項1記載のレンズフィルム。
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