以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(光導波路フィルムの構造)
図2は、本発明に係る一実施形態の光導波路フィルム10の上面を示す概略図である。この光導波路フィルム10は、複数の光導波路領域11A,11B,11Cと、これら光導波路領域11A,11B,11Cに沿って形成されたアライメントパターン12A,12B,12Cとを含む。これら光導波路領域11A〜11Cの各々は、同一層内にX方向に沿って並列に配設された複数のコア部と、これらコア部の各々の側面を覆い、かつコア部よりも低い光屈折率を有する樹脂からなるクラッド部とを備えている。
各光導波路領域において、X方向と直交するY方向に隣り合うコア部間の間隔は、当該光導波路領域全体の中の少なくとも一部の領域でX方向に沿って変化するように設計されている。各光導波路領域がN本(Nは3以上の整数)のコア部を含む場合、これらN本のコア部のうちX方向と直交するY方向に隣り合うコア部間の間隔はN−1個存在する。これらN−1個の間隔の比率は各光導波路領域全体で一定であり、かつ、当該間隔が各光導波路領域全体の中の少なくとも一部の領域でX方向に沿って変化するように導波路領域11A〜11Cが設計される。たとえば、後述するように、光導波路領域11A,11B,11Cの各々において、これらコア部は、いずれも、X方向と直交するY方向に等間隔で配設することができる。各間隔は、たとえば、X方向の座標位置に関する連続関数の値となるように設計することができる。連続関数としては、たとえば、三角関数、多項式またはスプライン関数が挙げられる。
アライメントパターン12A,12B,12Cは、光導波路領域11A,11B,11Cを区画するとともに、切断により光導波路領域11A,11B,11Cを分離する際の基準線として使用される。ユーザは、この光導波路フィルム10をアライメントパターン12A,12B,12Cに沿って切断することにより光導波路領域11A,11B,11Cを分断し、分断された光導波路領域11A〜11Cの各々を、多心光コネクタ(図示せず)に接続すべき光導波路フィルムとして使用することができる。
また、アライメントパターン12A,12B,12Cは、それぞれ、アライメントマーク13A,13B,13Cを有する。これらアライメントマーク13A〜13Cは、多心光コネクタの光ファイバコア(図示せず)の間隔に合わせて光導波路領域11A,11B,11CをY方向に切断する際の基準マークとして使用される。
図3は、光導波路領域11Aに形成された光導波路パターンの一例を示す上面図である。図3に示されるように、光導波路領域11Aは、X方向に沿って並列に配設された複数のコア部94A,94B,94C,94D,94E,94F,94G,94Hを含む。これらコア部94A〜94Hの各々の側面は、当該コア部94A〜94Hよりも低い光屈折率を有する樹脂からなるクラッド部95で覆われている。
コア部94A〜94Hは、X方向に対して垂直なY方向に数十μm〜数百μmの等間隔で配設されている。また、これらコア部94A〜94Hのうち任意の隣り合うコア部間のY方向間隔(以下、「導波路間隔」と呼ぶ。)は、X方向に沿って周期CLで周期的に変化するように設計されている。
また、光導波路領域11Aの全体に亘って、X方向に対するコア部94A〜94Hの光路の傾斜角度は、X方向に沿って連続的に変化するように設計されている。すなわち、当該傾斜角度がX方向に沿って連続的に変化することにより、コア部94A〜94Hは鋭い曲率の屈曲部位を持たないので、コア部94A〜94Hの光伝搬損失を抑制することができる。
アライメントパターン12Aは、X方向に沿って配列する複数のアライメントマーク13Aを含む。また、各アライメントマーク13Aは、当該各アライメントマーク13Aの位置におけるコア部間の間隔を把握するためのマークである。当該間隔とアライメントマーク13Aの位置とを正確に対応させるために、アライメントマーク13Aは、コア部94A〜94Hと同じ層内に形成され、かつ同じ樹脂材料で構成されることが望ましい。
図4は、光導波路領域11Aに形成され得る光導波路パターンの他の例を示す図である。図4に示す光導波路フィルム10は、X方向に沿って並列に配設された複数のコア部94A,94B,94C,94D,94E,94F,94G,94Hを含む。これらコア部94A〜94Hの各々の側面は、当該コア部94A〜94Hよりも低い光屈折率を有する樹脂からなるクラッド部95で覆われている。
図4に示すコア部94A〜94Hは、X方向に対して垂直なY方向に数十μm〜数百μmの等間隔で配設されている。また、これらコア部94A〜94Hのうち任意の隣り合うコア部間のY方向間隔(導波路間隔)は、X方向中心部付近では一定である。これに対して、X方向両端部付近においては、導波路間隔は、両端部に向かうにつれて拡大するように設計されている。また、X方向両端部付近では、X方向に対するコア部94A〜94Hの光路の傾斜角度が、X方向に沿って連続的に変化するように設計されている。これにより、コア部94A〜94Hの光伝搬損失が最小限となるように抑制される。
図3に示したアライメントパターン12Aと同様に、図4に示すアライメントパターン12Aは、X方向に沿って配列する複数のアライメントマーク13Aを含む。また、図4の各アライメントマーク13Aは、当該各アライメントマーク13Aに対応する位置におけるコア部間の間隔を把握するためのマークである。ユーザは、アライメントマーク13Aの位置を基準にして光導波路領域11AをY方向に切断することで、所望の導波路間隔を持つ光入射端面または光出射端面を形成することができる。
このように形成された光入射端面または光出射端面と多心光コネクタとの間の光接続損失を低い量に抑える観点からは、X方向に対するコア部94A〜94Hの光路の傾斜角度を1°以下の範囲内にすることが好ましく、特に0.01°以上0.5°以下の範囲内にすることが望ましい。図3に示したコア部94A〜94Hの光路のX方向に対する傾斜角度についても同様である。
図5(A)〜(C)は、光導波路とアラインメントマーク13A,13Bとの間の関係を示す図である。図5(C)は、光導波路フィルムのコア層93の一部上面を示し、図5(A)は、図5(C)のA1−A2線に沿った光導波路フィルム10の断面を示し、図5(B)は、図5(C)のB1−B2線に沿った光導波路フィルム10の断面を示している。
図5(A)に示されるように、光導波路フィルム10は、下部クラッド層91と上部クラッド層92とで挟まれたコア層93を有する。コア層93は、複数のチャンネルをそれぞれ構成するコア部94A〜94Hを有する。これらコア部94A〜94Hの各々は、クラッド部95,95によって水平方向に閉じ込まれている。更に、このコア層93には、X方向に伸長する一対のダイシングライン(ライン状パターン)121A,122Aが形成され、アライメントパターン12Aを構成している。また、このコア層93には、X方向に伸長する一対のダイシングライン(ライン状パターン)121B,122Bも形成され、アライメントパターン12Bを構成している。これらダイシングライン121A,122A,121B,122Bは、コア部94A〜94Hと同じ樹脂材料で構成され、コア部94A〜94Hと同じ製造工程で形成される。
一対のダイシングライン121A,122Aの間には、Y方向に配列された複数のアライメントマーク13Aが形成されている。一対のダイシングライン121B,122Bの間にも、Y方向に配列された複数のアライメントマーク13Bが形成されている。これらアライメントマーク13A,13Bは、コア部94A〜94Hと同じ樹脂材料で構成され、コア部94A〜94Hと同じ製造工程で形成される。なお、図5に示したように、アライメントマーク13Aは、ダイシングライン121A,122Aと分離し、アライメントマーク13Bは、ダイシングライン121B,122Bと分離しているが、これに限定されるものではない。アライメントマーク13Aがダイシングライン121A,122Aの一方または双方と連続し、アライメントマーク13Bがダイシングライン121B,122Bの一方または双方と連続する形態もあり得る。
ユーザは、アライメントマーク13A,13B,13Cの位置を基準にして、多心光コネクタの光ファイバコアの間隔とほぼ一致する導波路間隔に対応する位置を目測で見つけ、この位置で光導波路領域11A,11B,11CをY方向に切断することで、所望の導波路間隔(隣り合うコア部の中心間隔)を持つ光入射端面または光出射端面を形成することができる。
ここで、必ずしも、3系列のアライメントマーク13A,13B,13Cの位置を基準にして光導波路フィルム10を切断する必要は無い。アライメントマーク13A,13B,13Cのうちの1系列または2系列のアライメントマークの位置を基準にして光導波路フィルム10を切断してもよい。
あるいは、図2に示したアライメントパターン12A,12B,12Cの位置を目視で測定または装置で自動的に測定し、この測定結果に基づいて光導波路フィルム10のY方向の収縮率を算出することができる。この収縮率を光導波路フィルム10のX方向の収縮率とみなしてもよい。光導波路フィルム10のX方向の収縮率を正確に算出したい場合には、アライメントマーク13A,13B,13Cの位置の測定結果に基づいてX方向の収縮率を算出することができる。ユーザまたはダイシング装置は、算出された収縮率に基づいて、多心光コネクタの光ファイバコアの間隔と適合するアライメントマーク13A,13B,13Cの位置を決定し、この位置で光導波路領域11A,11B,11CをY方向に切断することができる。
上記の通り、本実施形態の光導波路フィルム10のコア部の光導波路パターンは、多心光コネクタの光ファイバコアの間隔に適合するように、所望の位置で光導波路領域11A〜11CをY方向に切断して所望の導波路間隔を持つ光入射端面および光出射端面を形成し得る構造を有する。このため、光導波路フィルム10が収縮したとしても、多心光コネクタとの光接続損失の小さな光導波路フィルムを容易に作製することが可能である。
また、コア部間の間隔に対応するアライメントマーク13A,13B,13Cが設けられているので、これらアライメントマーク13A,13B,13Cに基づいて光導波路フィルム10の収縮率を正確に把握することができる。よって、アライメントマーク13A,13B,13Cの位置を基準として、多心光コネクタの光ファイバコアの間隔に適合した光導波路フィルムを容易に作製することができる。
次に、光導波路フィルム10の各種製造方法について説明する。以下に説明する製造方法は、特開2006−323318号公報に記載されたものと同じである。
(光導波路フィルムの製造方法)
図6(A)〜(B)、図7、図8、図9および図10(A)〜(B)を参照しつつ上記光導波路フィルム10の製造方法を説明する。図6(A)〜(B)、図7、図8、図9および図10(A)〜(B)は、光導波路フィルム10の製造工程例を模式的に示す断面図である。
図6(A)および(B)を参照すると、まず、支持基板951上に、層910を形成する。層910は、コア層形成用材料(ワニス)900を塗布し硬化(固化)させる方法により形成される。
具体的には、層910は、支持基板951上にコア層形成用材料900を塗布して液状被膜を形成した後、この支持基板951を換気されたレベルテーブルに置いて、液状被膜表面の不均一な部分を水平化するとともに、溶媒を蒸発(脱溶媒)することにより形成する。層910を塗布法で形成する場合、たとえば、ドクターブレード法、スピンコート法、ディッピング法、テーブルコート法、スプレー法、アプリケーター法、カーテンコート法、ダイコート法の方法が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。支持基板951には、たとえば、シリコン基板、二酸化ケイ素基板、ガラス基板、石英基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが用いられる。
コア層形成用材料900は、ポリマー915と、添加剤920(本実施形態では、少なくともモノマー、助触媒および触媒前駆体を含む)とで構成される光誘発熱現像性材料(PITDM)を含有し、活性放射線の照射および加熱により、ポリマー915中において、モノマーの反応が生じる材料である。
そして、得られた層910中では、ポリマー(マトリックス)915は、いずれも、実質的に一様かつランダムに分配され、添加剤920は、ポリマー915内に実質的に一様かつランダムに分散されている。これにより、層910中には、添加剤920が実質的に一様かつ任意に分散されている。このような層910の平均厚さは、形成すべきコア層93の厚さに応じて適宜設定され、特に限定されないが、5〜200μm程度であるのが好ましく、10〜100μm程度であるのがより好ましく、15〜65μm程度であるのがさらに好ましい。
ポリマー915には、透明性が十分に高く(無色透明であり)、かつ、後述するモノマーと相溶性を有するもの、さらに、その中で後述するようにモノマーが反応(重合反応や架橋反応)可能であり、モノマーが重合した後においても、十分な透明性を有するものが好適に用いられる。ここで、「相溶性を有する」とは、モノマーが少なくとも混和して、コア層形成用材料900中や層910中においてポリマー915と相分離を起こさないことを言う。
このようなポリマー915としては、たとえば、ノルボルネン系樹脂やベンゾシクロブテン系樹脂の環状オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(ポリマーアロイ、ポリマーブレンド(混合物)、共重合体など)用いることができる。これらの中でも、特に、ノルボルネン系樹脂(ノルボルネン系ポリマー)を主とするものが好ましい。ポリマー915としてノルボルネン系ポリマーを用いることにより、優れた光伝送性能や耐熱性を有するコア層93を得ることができる。
また、ノルボルネン系ポリマーは、高い疎水性を有するため、吸水による寸法変化を生じ難いコア層93を得ることができる。
ノルボルネン系ポリマーとしては、単独の繰り返し単位を有するもの(ホモポリマー)、2つ以上のノルボルネン系繰り返し単位を有するもの(コポリマー)のいずれであってもよい。
このようなノルボルネン系ポリマーとしては、たとえば、(1)ノルボルネン型モノマーを付加(共)重合して得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、(2)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との付加共重合体、(3)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、および必要に応じて他のモノマーとの付加共重合体のような付加重合体、(4)ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(5)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(6)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、または他のモノマーとの開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加したポリマーのような開環重合体が挙げられる。これらの重合体としては、たとえば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体が挙げられる。
これらのノルボルネン系ポリマーは、たとえば、開環メタセシス重合(ROMP)、ROMPと水素化反応との組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合、カチオン性パラジウム重合開始剤を用いた重合、これ以外の重合開始剤(たとえば、ニッケルや他の遷移金属の重合開始剤)を用いた重合などの、公知のすべての重合方法で得ることができる。
比較的高い屈折率を有するノルボルネン系ポリマーとしては、アラルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。かかるノルボルネン系ポリマーは、特に高い屈折率を有する。
アラルキルノルボルネンの繰り返し単位が有するアラルキル基(アリールアルキル基)としては、たとえば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基、フルオレニルエチル基、フルオレニルプロピル基が挙げられるが、ベンジル基やフェニルエチル基が特に好ましい。
かかる繰り返し単位を有するノルボルネン系ポリマーは、極めて高い屈折率を有するものであることから好ましい。
また、ノルボルネン系ポリマーは、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーは、柔軟性が高いため、かかるノルボルネン系ポリマーを用いることにより、光導波路9に高いフレキシビリティ(可撓性)を付与することができる。
アルキルノルボルネンの繰り返し単位が有するアルキル基としては、たとえば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられるが、ヘキシル基が特に好ましい。なお、これらのアルキル基は、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。
ヘキシルノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、ノルボルネン系ポリマー全体の屈折率が低下するのを防止し、かつ、高い柔軟性を保持することができる。
ここで、光導波路9は、たとえば、600〜1550nm程度の波長領域の光を使用したデータ通信において好適に使用されるが、ヘキシル(アルキル)ノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーは、前述したような波長領域(特に、850nm付近の波長領域)の光に対する透過率が優れることから好ましい。
このようなノルボルネン系ポリマーの好ましい具体例としては、ヘキシルノルボルネンのホモポリマー、フェニルエチルノルボルネンのホモポリマー、ベンジルノルボルネンのホモポリマー、ヘキシルノルボルネンとフェニルエチルノルボルネンとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとベンジルノルボルネンとのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本実施形態のコア層形成用材料900は、添加剤920として、モノマー、助触媒(第1の物質)および触媒前駆体(第2の物質)を含んでいる。
モノマーは、後述する活性放射線に照射により、活性放射線の照射領域において反応して反応物を形成し、この反応物の存在により、層910において照射領域と、活性放射線の未照射領域とにおいて、屈折率差を生じさせ得るような化合物である。
ここで、この反応物としては、モノマーがポリマー(マトリックス)915中で重合して形成されたポリマー(重合体)、ポリマー915同士を架橋する架橋構造、および、ポリマー915に重合してポリマー915から分岐した分岐構造(ブランチポリマーや側鎖(ペンダントグループ))のうちの少なくとも1つが挙げられる。
ここで、層910において、照射領域の屈折率が高くなることが望まれる場合には、比較的低い屈折率を有するポリマー915と、このポリマー915に対して高い屈折率を有するモノマーとが組み合わせて使用され、照射領域の屈折率が低くなることが望まれる場合には、比較的高い屈折率を有するポリマー915と、このポリマー915に対して低い屈折率を有するモノマーとが組み合わせて使用される。なお、屈折率が「高い」または「低い」とは、屈折率の絶対値を意味するものではなく、ある材料同士の相対的な関係を意味する。
そして、モノマーの反応(反応物の生成)により、層910において照射領域の屈折率が低下する場合、当該部分がクラッド部95となり、照射領域の屈折率が上昇する場合、当該部分がコア部94となる。
このようなモノマーとしては、重合可能な部位を有する化合物であればよく、特に限定されないが、たとえば、ノルボルネン系モノマー、アクリル酸(メタクリル酸)系モノマー、エポキシ系モノマー、スチレン系モノマーが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、モノマーとしては、ノルボルネン系モノマーを用いるのが好ましい。ノルボルネン系モノマーを用いることにより、光伝送性能に優れ、かつ、耐熱性および柔軟性に優れるコア層93が得られる。
また、モノマーには、上記のモノマーに代えて、または、上記のモノマーとともに架橋性モノマー(架橋剤)を用いることもできる。この架橋性モノマーは、後述する触媒前駆体の存在下で、架橋反応を生じ得る化合物である。
架橋性モノマーを用いることにより、次のような利点がある。すなわち、架橋性モノマーは、より速く重合するので、コア層93の形成に要する時間を短縮することができる。また、架橋性モノマーは、加熱しても蒸発し難くいので、蒸気圧の上昇を抑えることができる。さらに、架橋性モノマーは、耐熱性に優れるため、コア層93の耐熱性を向上させることができる。
架橋性ノルボルネン系モノマーとしては、連続多環環系(fused multicyclic ring systems)の化合物と、連結多環環系(linked multicyclic ring systems)の化合物とがある。
各種の架橋性ノルボルネン系モノマーの中でも、特に、ジメチルビス(ノルボルネンメトキシ)シラン(SiX)が好ましい。SiXは、アルキルノルボルネンの繰り返し単位および/またはアラルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーに対して十分に低い屈折率を有する。このため、後述する活性放射線を照射する照射領域の屈折率を確実に低くして、クラッド部95とすることができる。また、コア部94とクラッド部95との間における屈折率差を大きくすることができ、コア層93の特性(光伝送性能)の向上を図ることができる。
なお、以上のようなモノマーは、単独または任意に組み合わせて用いるようにしてもよい。
触媒前駆体(第2の物質)は、前記のモノマーの反応(たとえば、重合反応、架橋反応)を開始させ得る物質であり、後述する活性放射線の照射により活性化した助触媒(第1の物質)の作用により、活性化温度が変化する物質である。
この触媒前駆体(プロカタリスト:procatalyst)としては、活性放射線の照射に伴って活性化温度が変化(上昇または低下)するものであれば、いかなる化合物を用いてもよいが、特に、活性放射線の照射に伴って活性化温度が低下するものが好ましい。これにより、比較的低温による加熱処理でコア層93を形成することができ、他の層に不要な熱が加わって、光導波路9の特性(光伝送性能)が低下するのを防止することができる。
また、活性化温度が低下した状態(活性潜在状態)において、触媒前駆体としては、その活性化温度が本来の活性化温度よりも10〜80℃程度(好ましくは、10〜50℃程度)低くなるものが好ましい。これにより、コア部94とクラッド部95との間の屈折率差を確実に生じさせることができる。
かかる触媒前駆体としては、Pd(OAc)2(P(i−Pr)3)2およびPd(OAc)2(P(Cy)3)2のうちの少なくとも一方を含む(主とする)ものが好適である。
なお、以下では、Pd(OAc)2(P(i−Pr)3)2を「Pd545」と、また、Pd(OAc)2(P(Cy)3)2を「Pd785」と略すことがある。
助触媒(第1の物質)は、活性放射線の照射によって活性化して、前記の触媒前駆体(プロカタリスト)の活性化温度(モノマーに反応を生じさせる温度)を変化させ得る物質である。
この助触媒(コカタリスト:cocatalyst)としては、活性放射線の照射により、その分子構造が変化(反応または分解)して活性化する化合物であれば、いかなるものでも用いることができるが、特定波長の活性放射線の照射によって分解し、プロトンや他の陽イオンのカチオンと、触媒前駆体の脱離基に置換し得る弱配位アニオン(WCA)とを発生する化合物(光開始剤)を含む(主とする)ものが好適に用いられる。
弱配位アニオンとしては、たとえば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン(FABA−)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF6 −)が挙げられる。
この助触媒(光酸発生剤または光塩基発生剤)としては、たとえば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩やヘキサフルオロアンチモン酸塩の他、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム酸塩、アルミン酸塩類、アンチモン酸塩類、他のホウ酸塩類、ガリウム酸塩類、カルボラン類、ハロカルボラン類が挙げられる。
コア層形成用材料(ワニス)900中には、必要に応じて、増感剤を添加するようにしてもよい。
増感剤は、活性放射線に対する助触媒の感度を増大して、助触媒の活性化(反応または分解)に要する時間やエネルギーを減少させる機能や、助触媒の活性化に適する波長に活性放射線の波長を変化させる機能を有するものである。
このような増感剤としては、助触媒の感度や増感剤の吸収のピーク波長に応じて適宜選択され、特に限定されないが、たとえば、9,10−ジブトキシアントラセン(CAS番号第76275−14−4番)のようなアントラセン類、キサントン類、アントラキノン類、フェナントレン類、クリセン類、ベンツピレン類、フルオラセン類(fluoranthenes)、ルブレン類、ピレン類、インダンスリーン類、チオキサンテン−9−オン類(thioxanthen-9-ones)が挙げられ、これらを単独または混合物として用いられる。
増感剤の具体例としては、2−イソプロピル−9H−チオキサンテン−9−オン、4−イソプロピル−9H−チオキサンテン−9−オン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、フェノチアジン(phenothiazine)またはこれらの混合物が挙げられる。
コア層形成用材料900中の増感剤の含有量は、特に限定されないが、0.01重量%以上であるのが好ましく、0.5重量%以上であるのがより好ましく、1重量%以上であるのがさらに好ましい。なお、上限値は、5重量%以下であるのが好ましい。
さらに、コア層形成用材料900中には、酸化防止剤を添加することができる。これにより、望ましくないフリーラジカルの発生や、ポリマー915の自然酸化を防止することができる。その結果、得られたコア層93の特性の向上を図ることができる。
コア層形成用材料(ワニス)900の調製に用いる溶媒としては、たとえば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)などのエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドンなどの芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)などのアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチルなどのエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどの硫黄化合物系溶媒の各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒が挙げられる。
さて、支持基板951上に形成された液状被膜中から溶媒を除去(脱溶媒)する方法としては、たとえば、自然乾燥、加熱、減圧下での放置、不活性ガスの吹付け(ブロー)などによる強制乾燥の方法が挙げられる。
以上のようにして、支持基板951上には、コア層形成用材料900のフィルム状の固化物(または硬化物)である層910が形成される。このとき、層(PITDMの乾燥フィルム)910は、第1の屈折率(RI)を有している。この第1の屈折率は、層910中に一様に分散(分布)するポリマー915およびモノマーの作用による。
次に、図7に示されるように、開口(窓)9351が形成されたマスク(マスキング)935を用意し、このマスク935を介して、層910に対して活性放射線930を照射する。
以下では、モノマーとして、ポリマー915より低い屈折率を有するものを用い、また、触媒前駆体として、活性放射線930の照射に伴って活性化温度が低下するものを用いる場合を一例に説明する。すなわち、ここで示す例では、活性放射線930の照射領域925がクラッド部95となる。したがって、ここで示す例では、マスク935には、形成すべきクラッド部95のパターンと等価な開口(窓)9351が形成される。この開口9351は、照射する活性放射線930が透過する透過部を形成するものである。
マスク935は、予め形成(別途形成)されたもの(例えばプレート状のもの)でも、層910上に例えば気相成膜法や塗布法により形成されたものでもよい。
マスク935として好ましいものの例としては、石英ガラスやPET基材等で作製されたフォトマスク、ステンシルマスク、気相成膜法(蒸着、スパッタリング等)により形成された金属薄膜等が挙げられるが、これらの中でもフォトマスクやステンシルマスクを用いるのが特に好ましい。微細なパターンを精度良く形成することができるとともに、ハンドリングがし易く、生産性の向上に有利であるからである。
また、図7においては、形成すべきクラッド部95のパターンと等価な開口(窓)9351は、活性放射線930の未照射領域940のパターンに沿ってマスクを部分的に除去したものを示したが、前記石英ガラスやPET基材等で作製されたフォトマスクを用いる場合、該フォトマスク上に例えばクロム等の金属による遮蔽材で構成された活性放射線930の遮蔽部を設けたものを用いることもできる。このマスクでは、遮蔽部以外の部分が前記窓(透過部)となる。
用いる活性放射線930は、助触媒に対して、光化学的な反応(変化)を生じさせ得るものであればよく、たとえば、可視光、紫外光、赤外光、レーザ光の他、電子線やX線を用いることもできる。これらの中でも、活性放射線930は、助触媒の種類、増感剤を含有する場合には、増感剤の種類等によって適宜選択され、特に限定されないが、波長200〜450nmの範囲にピーク波長を有するものであるのが好ましい。これにより、助触媒を比較的容易に活性化させることができる。
また、活性放射線930の照射量は、0.1〜9J/cm2程度であるのが好ましく、0.2〜6J/cm2程度であるのがより好ましく、0.2〜3J/cm2程度であるのがさらに好ましい。これにより、助触媒を確実に活性化させることができる。
前記マスク935の構成材料としては、照射する活性放射線930により適宜選定される。具体的には、マスク935の構成材料としては、活性放射線930を遮光し得る材料とされる。このような特性を有するものであれば、マスク935の材料自体は、公知のいずれのものも使用することができる。
マスク935を介して、活性放射線930を層910に照射すると、活性放射線930が照射された照射領域925内に存在する助触媒(第1の物質:コカタリスト)は、活性放射線930の作用により反応(結合)または分解して、カチオン(プロトンまたは他の陽イオン)と、弱配位アニオン(WCA)とを遊離(発生)する。
そして、これらのカチオンや弱配位アニオンは、照射領域925内に存在する触媒前駆体(第2の物質:プロカタリスト)の分子構造に変化(分解)を生じさせ、これを活性潜在状態(潜在的活性状態)に変化させる。
ここで、活性潜在状態(または潜在的活性状態)の触媒前駆体とは、本来の活性化温度より活性化温度が低下しているが、温度上昇がないと、すなわち、室温程度では、照射領域925内においてモノマーの反応を生じさせることができない状態にある触媒前駆体のことを言う。
したがって、活性放射線930照射後においても、例えば−40℃程度で、層910を保管すれば、モノマーの反応を生じさせることなく、その状態を維持することができる。このため、活性放射線930照射後の層910を複数用意しておき、これらに一括して加熱処理を施すことにより、コア層93を得ることができ、利便性が高い。
なお、活性放射線930として、レーザ光のように指向性の高い光を用いる場合には、マスク935の使用を省略してもよい。
次に、層910に対して加熱処理(第1の加熱処理)を施す。これにより、照射領域925内では、活性潜在状態の触媒前駆体が活性化して(活性状態となって)、モノマーの反応(重合反応や架橋反応)が生じる。
そして、モノマーの反応が進行すると、照射領域925内におけるモノマー濃度が徐々に低下する。これにより、照射領域925と未照射領域940との間には、モノマー濃度に差が生じ、これを解消すべく、未照射領域940からモノマーが拡散(モノマーディフュージョン)して照射領域925に集まってくる。
その結果、照射領域925では、モノマーやその反応物(重合体、架橋構造や分岐構造)が増加し、当該領域の屈折率にモノマー由来の構造が大きく影響を及ぼすようになり、第1の屈折率より低い第2の屈折率へと低下する。なお、モノマーの重合体としては、主に付加(共)重合体が生成する。
一方、未照射領域940では、当該領域から照射領域925にモノマーが拡散することにより、モノマー量が減少するため、当該領域の屈折率にポリマー915の影響が大きく現れるようになり、第1の屈折率より高い第3の屈折率へと上昇する。
このようにして、照射領域925と未照射領域940との間に屈折率差(第2の屈折率<第3の屈折率)が生じて、図8に示すように、コア部94(未照射領域940)とクラッド部95(照射領域925)とが形成される。
上記加熱処理における加熱温度は、特に限定されないが、30〜80℃程度であるのが好ましく、40〜60℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、照射領域925内におけるモノマーの反応がほぼ完了するように設定するのが好ましく、具体的には、0.1〜2時間程度であるのが好ましく、0.1〜1時間程度であるのがより好ましい。
ここで、コア部94は、その横断面形状が、図示のように、正方形または矩形(長方形)のような四角形に形成されるが、その幅および高さは、それぞれ、好ましくは1〜200μm程度、より好ましくは5〜100μm程度、さらに好ましくは10〜60μm程度とされる。
次に、層910に対して第2の加熱処理を施す(工程[4A])。これにより、未照射領域940および/または照射領域925に残存する触媒前駆体を、直接または助触媒の活性化を伴って、活性化させる(活性状態とする)ことにより、各領域925、940に残存するモノマーを反応させる。
このように、各領域925、940に残存するモノマーを反応させることにより、得られるコア部94およびクラッド部95の安定化を図ることができる。
この第2の加熱処理における加熱温度は、触媒前駆体または助触媒を活性化し得る温度であればよく、特に限定されないが、70〜100℃程度であるのが好ましく、80〜90℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱時間は、0.5〜2時間程度であるのが好ましく、0.5〜1時間程度であるのがより好ましい。
次に、層910に対して第3の加熱処理を施す(工程[5A])。これにより、得られるコア層93に生じる内部応力の低減や、コア部94およびクラッド部95の更なる安定化を図ることができる。
この第3の加熱処理における加熱温度は、第2の加熱処理における加熱温度より20℃以上高く設定するのが好ましく、具体的には、90〜180℃程度であるのが好ましく、120〜160℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、0.5〜2時間程度であるのが好ましく、0.5〜1時間程度であるのがより好ましい。
以上の工程を経て、コア層93が得られる。
なお、例えば、第2の加熱処理や第3の加熱処理を施す前の状態で、コア部94とクラッド部95との間に十分な屈折率差が得られている場合等には、本工程[5A]や前記工程[4A]を省略してもよい。
次に、図9に示すように、支持基板952上に、クラッド層91(92)を形成する(工程[6A])。
クラッド層91(92)の形成方法としては、クラッド材を含むワニス(クラッド層形成用材料)を塗布し硬化(固化)させる方法、硬化性を有するモノマー組成物を塗布し硬化(固化)させる方法等、いかなる方法でもよい。
クラッド層91(92)を塗布法で形成する場合、例えば、スピンコート法、ディッピング法、テーブルコート法、スプレー法、アプリケーター法、カーテンコート法、ダイコート法等の方法が挙げられる。
支持基板952には、支持基板951と同様のものを用いることができる。
クラッド層91(92)の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ベンゾシクロブテン系樹脂やノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(ポリマーアロイ、ポリマーブレンド(混合物)、共重合体、複合体(積層体)など)用いることができる。
これらのうち、特に耐熱性に優れるという点で、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ベンゾシクロブテン系樹脂やノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、またはそれらを含むもの(主とするもの)を用いるのが好ましく、特に、ノルボルネン系樹脂(ノルボルネン系ポリマー)を主とするものが好ましい。
ノルボルネン系ポリマーは、耐熱性に優れるため、これをクラッド層91(92)の構成材料として使用する光導波路9では、光導波路9に導体層を形成する際、導体層を加工して配線を形成する際、光学素子を実装する等に加熱されたとしても、クラッド層91(92)が軟化して、変形するのを防止することができる。
また、高い疎水性を有するため、吸水による寸法変化等を生じ難いクラッド層91(92)を得ることができる。
また、ノルボルネン系ポリマーまたはその原料であるノルボルネン系モノマーは、比較的安価であり、入手が容易であることからも好ましい。
さらに、クラッド層91(92)の材料として、ノルボルネン系ポリマーを主とするものを用いると、曲げ等の変形に対する耐性に優れ、繰り返し湾曲変形した場合でも、クラッド層91、92とコア層93との層間剥離が生じ難く、クラッド層91、92の内部にマイクロクラックが発生することも防止される。しかも、コア層93の構成材料として好適に用いられる材料と同種となるため、コア層93との密着性がさらに高いものとなり、クラッド層91(92)とコア層93との間での層間剥離を防止することができる。このようなことから、光導波路9の光伝送性能が維持され、耐久性に優れた光導波路9が得られる。
このようなノルボルネン系ポリマーとしては、例えば、(1)ノルボルネン型モノマーを付加(共)重合して得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、(2)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との付加共重合体、(3)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、および必要に応じて他のモノマーとの付加共重合体のような付加重合体、(4)ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(5)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(6)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、または他のモノマーとの開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加したポリマーのような開環重合体が挙げられる。これらの重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等が挙げられる。
これらのノルボルネン系ポリマーは、例えば、開環メタセシス重合(ROMP)、ROMPと水素化反応との組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合、カチオン性パラジウム重合開始剤を用いた重合、これ以外の重合開始剤(例えば、ニッケルや他の遷移金属の重合開始剤)を用いた重合等、公知のすべての重合方法で得ることができる。
これらの中でも、ノルボルネン系ポリマーとしては、付加(共)重合体が好ましい。このものは、透明性、耐熱性および可撓性に富むことからも好ましい。
特に、ノルボルネン系ポリマーは、重合性基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位や、アリール基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。
重合性基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、クラッド層91(92)において、ノルボルネン系ポリマーの少なくとも一部のものの重合性基同士を、直接または架橋剤を介して架橋させることができる。また、重合性基の種類、架橋剤の種類、コア層93に用いるポリマーの種類等によっては、このノルボルネン系ポリマーとコア層93に用いるポリマーとを架橋させることもできる。換言すれば、かかるノルボルネン系ポリマーは、その少なくとも一部のものが重合性基において架橋しているのが好ましい。
その結果、クラッド層91(92)自体の強度や、クラッド層91(92)とコア層93との密着性の更なる向上を図ることができる。
このような重合性基を含むノルボルネンの繰り返し単位としては、エポキシ基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位、(メタ)アクリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位、および、アルコキシシリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位がのうちの少なくとも1種が好適である。これらの重合性基は、各種重合性基の中でも、反応性が高いことから好ましい。
また、このような重合性基を含むノルボルネンの繰り返し単位を、2種以上含むものを用いれば、架橋密度をさらに向上させることができ、前記効果がより顕著となる。
一方、アリール基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、アリール基は、疎水性が極めて高いため、クラッド層91(92)の吸水による寸法変化等をより確実に防止することができる。また、アリール基は、脂溶性(親油性)に優れ、前述したようなコア層93に用いられるポリマーとの親和性が高いため、クラッド層91(92)とコア層93との間での層間剥離をより確実に防止することができ、より耐久性に優れた光導波路9が得られる。
さらに、ノルボルネン系ポリマーは、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。なお、アルキル基は、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。
アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、ノルボルネン系ポリマーは、柔軟性が高くなるため、クラッド層91、92に高いフレキシビリティ(可撓性)を付与することができる。
また、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーは、前述したような波長領域(特に、850nm付近の波長領域)の光に対する透過率が優れることからも好ましい。
なお、クラッド層91(92)に用いるノルボルネン系ポリマーは、比較的屈折率の低いものが好適であるのに対して、アリール基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含むと、一般に屈折率が高くなる傾向を示すが、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、屈折率の上昇を防止することもできる。
ノルボルネン系ポリマーは、前述した特性に加えて、比較的低い屈折率のものであり、かかるノルボルネン系ポリマーを主材料としてクラッド層91(92)を構成することにより、光導波路9の光伝送性能をより向上させることができる。
なお、ノルボルネン系ポリマーが、(メタ)アクリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含む場合、(メタ)アクリル基同士は、加熱により比較的容易に架橋(重合)させることができるが、クラッド層形成用材料中に、ラジカル発生剤を混合することにより、(メタ)アクリル基同士の架橋反応を促進することができる。
ラジカル発生剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1,1−ビス(t−ブチルペロキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が好適に用いられる。
また、ノルボルネン系ポリマーが、エポキシ基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位や、アルコキシシリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含む場合、これらの重合性基同士を直接架橋させるためには、クラッド層形成用材料中に、前述した助触媒と同種の物質(光酸発生剤または光塩基発生剤)を混合しておき、この物質の作用により、エポキシ基やアルコキシシリル基を架橋させればよい。
一方、エポキシ基同士、(メタ)アクリル基同士やアルコキシシリル基同士を架橋剤を介して架橋させるためには、さらに、クラッド層形成用材料中に、架橋剤として、各重合性基に対応する重合性基を少なくとも1つを有する化合物を混合するようにすればよい。
エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ−GPS)、シリコーンエポキシ樹脂等が好適に用いられる。
(メタ)アクリル基を有する架橋剤としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラントリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等が好適に用いられる。
アルコキシシリル基を有する架橋剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランのようなシランカップリング剤等が好適に用いられる。
これらの重合性基同士の架橋反応は、本工程[6A]の最終段階で行うようにしてもよいし、次工程[7A]において光導波路9を得た後に行うようにしてもよい。
また、クラッド層形成用材料中には、各種の添加剤を添加(混合)するようにしてもよい。
たとえば、クラッド層形成用材料中には、前記コア層形成用材料で挙げたモノマー、触媒前駆体および助触媒を混合してもよい。これにより、クラッド層91(92)中において、前述したのと同様にして、モノマーを反応させて、クラッド層91(92)の屈折率を変化させることができる。
特に、モノマーとしては、架橋性モノマーを含むものを用いると、クラッド層91(92)において、ノルボルネン系ポリマーの少なくとも一部のものを、架橋性モノマーを介して架橋させることができる。また、架橋剤の種類、コア層93に用いるポリマーの種類等によっては、このノルボルネン系ポリマーとコア層93に用いるポリマーとを架橋させることもできる。
また、この場合、クラッド層91(92)中において、屈折率の差を設けることが要求されないので、助触媒を省略して、加熱により容易に活性化する触媒前駆体を用いることもできる。
かかる触媒前駆体としては、例えば、[Pd(PCy3)2(O2CCH3)(NCCH3)]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[2−methallyl Pd(PCy3)2]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[Pd(PCy3)2H(NCCH3)]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[Pd(P(iPr)3)2(OCOCH3)(NCCH3)]テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
その他の添加剤としては、前述したような酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を混合することにより、クラッド材(ノルボルネン系ポリマー)の酸化による劣化を防止することができる。
以上のようにして、支持基板952上に、クラッド層91(92)が形成される。
クラッド層91、92の平均厚さは、コア層93の平均厚さの0.1〜1.5倍程度であるのが好ましく、0.3〜1.25倍程度であるのがより好ましく、具体的には、クラッド層91、92の平均厚さは、特に限定されないが、それぞれ、通常、1〜200μm程度であるのが好ましく、5〜100μm程度であるのがより好ましく、10〜60μm程度であるのがさらに好ましい。これにより、光導波路9が不要に大型化(圧膜化)するのを防止しつつ、クラッド層としての機能が好適に発揮される。
次に、図10に示すように、支持基板951からコア層93を剥離し、このコア層93を、クラッド層91が形成された支持基板952と、クラッド層92が形成された支持基板952とで挟持する(工程[7A])。
そして、図10中の矢印で示すように、クラッド層92が形成された支持基板952の上面側から加圧し、クラッド層91、92とコア層93とを圧着する。これにより、クラッド層91、92とコア層93とが接合、一体化される。
この圧着作業は、加熱下で行われるのが好ましい。加熱温度は、クラッド層91、92やコア層93の構成材料等により適宜決定されるが、通常は、80〜200℃程度が好ましく、120〜180℃程度がより好ましい。
次いで、クラッド層91、92から、それぞれ、支持基板952を剥離、除去する。これにより、光導波路9が得られる。
このような光導波路9の好ましい例では、コア層93において、コア部94が第1のノルボルネン系材料を主材料として構成され、クラッド部95が第1のノルボルネン系材料より低い屈折率を有する第2のノルボルネン系材料を主材料として構成され、クラッド層91、92が、それぞれ、第1のノルボルネン系材料(コア層93のコア部94)より屈折率が低いノルボルネン系ポリマーを主材料として構成される。
そして、第1のノルボルネン系材料と前記第2のノルボルネン系材料とは、いずれも、同一のノルボルネン系ポリマーを含有するが、このノルボルネン系ポリマーと異なる屈折率を有するノルボルネン系モノマーの反応物の含有量が異なることにより、互いに屈折率が異なっている。
ノルボルネン系ポリマーは、透明性が高いため、かかる構成の光導波路9では、高い光伝送性能が得られる。
また、このような構成により、コア部94とクラッド部95との間の高い密着性のみならず、コア層93とクラッド層91およびクラッド層92との間の高い密着性が得られ、光導波路9に曲げ等の変形が生じた場合でも、コア部94とクラッド部95との剥離や、コア層93とクラッド層91、92との層間剥離が生じ難く、コア部94内やクラッド部95内にマイクロクラックが発生することも防止される。その結果、光導波路9の光伝送性能が維持される。
さらに、ノルボルネン系ポリマーは、高い耐熱性、高い疎水性を有するため、かかる構成の光導波路9では、耐久性に優れたものとなる。
また、光導波路9に高い耐熱性や高い疎水性を付与することができるため、その特性の低下(劣化)を防止しつつ、前述したような各種の方法を採用して導体層を確実に形成することができる。特に、光の伝送に重要なコア部94と重なるように、導体層を形成した場合でも、コア部94の変質・劣化を防止することができる。
また、以上のような製造方法によれば、簡単な処理で、しかも短時間に、所望の形状を有し、かつ、寸法精度の高いコア部94を有する光導波路9を得ることができる。
(積層型光導波路フィルムの構造)
図11(A)および図11(B)は、積層型光導波路フィルムの概略構造を示す断面図である。図11(A)に示す積層型光導波路フィルムは、上記光導波路9と同じ構造を有する第1光導波路9Aおよび第2光導波路9Bが接着層8を介して積層する構造を有している。第1光導波路9Aおよび第2光導波路9Bの各々の製造方法は、上記光導波路9の製造方法と同じである。
また、図11(B)に示す積層型光導波路フィルムは、クラッド層(下部クラッド層)91、コア層(下部コア層)93、クラッド層(中間クラッド層)92、コア層(上部コア層)93およびクラッド層(上部クラッド層)92がこの順に積層された構造を有している。よって、図11(B)に示す積層型光導波路フィルムは、実質的に2つの光導波路が積層された構造を有する。下部クラッド層91、下部コア層93および中間クラッド層92からなる積層構造は、上記光導波路9の製造方法と同様に形成される。その後、この積層構造上に上部コア層93および上部クラッド層92が、上記光導波路9のコア層93およびクラッド層92と同じ工程で形成される。
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。たとえば、図5に示されるように、アライメントマーク13A,13A,…とダイシングライン121A,122Aとがアライメントパターン12Aを構成する構造が好適ではあるが、これに限定されるものではない。アライメントマークを表すパターンとダイシングラインを表すパターンとが完全に分離されていてもよい。
図2に示した光導波路領域11A,11B,11Cには、すべて同一の光導波路パターンが形成されているが、これに限定されるものではない。光導波路領域11A,11B,11Cに互いに異なる光導波路パターンが形成されてもよい。また、図2に示した光導波路領域11A〜11Cの数は3個に限るものではなく、4個以上の光導波路領域が形成されてもよい。
図2に示したアライメントパターン12A,12B,12Cはすべて同一形状を有するが、これに限定されるものではない。光導波路領域11A,11B,11Cに互いに異なる光導波路パターンが形成される場合は、これら光導波路パターンにそれぞれ対応したアライメントパターンが形成されてもよい。