<<第1実施形態>>
以下、本発明の実施形態につき、詳細に説明する。まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るモータ駆動システムのブロック構成図である。1は、永久磁石を回転子(不図示)に、電機子巻線を固定子(不図示)に設けた三相永久磁石同期モータ1(以下、単に「モータ1」と記す)である。モータ1は、埋込磁石形同期モータに代表される突極機(突極性を有するモータ)である。
2は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータであり、モータ1の回転子位置に応じてモータ1にU相、V相及びW相から成る三相交流電圧を供給する。このモータ1に供給される電圧をモータ電圧(電機子電圧)Vaとし、インバータ2からモータ1に供給される電流をモータ電流(電機子電流)Iaとする。
3は、モータ制御装置(位置センサレス制御装置)であり、モータ電流Iaを用いてモータ1の回転子位置等を推定し、モータ1を所望の回転速度で回転させるための信号をPWMインバータ2に与える。この所望の回転速度は、図示されないCPU(中央処理装置;Central Processing Unit)等からモータ制御装置3にモータ速度指令値ω*として与えられる。
図2は、モータ1の解析モデル図である。以下の説明において、電機子巻線とはモータ1に設けられているものを指す。図2には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。1aは、モータ1の回転子を構成する永久磁石である。永久磁石1aが作る磁束と同じ速度で回転する回転座標系において、永久磁石1aが作る磁束の方向をd軸にとり、d軸に対応する制御上の推定軸をγ軸とする。また、図示していないが、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸をとり、γ軸から電気角で90度進んだ位相に推定軸であるδ軸をとる。実軸に対応する回転座標系はd軸とq軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をd−q軸と呼ぶ。制御上の回転座標系(推定回転座標系)はγ軸とδ軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をγ−δ軸と呼ぶ。
d−q軸は回転しており、その回転速度を実モータ速度ωと呼ぶ。γ−δ軸も回転しており、その回転速度を推定モータ速度ωeと呼ぶ。また、ある瞬間の回転しているd−q軸において、d軸の位相をU相の電機子巻線固定軸を基準としてθ(実回転子位置θ)により表す。同様に、ある瞬間の回転しているγ−δ軸において、γ軸の位相をU相の電機子巻線固定軸を基準としてθe(推定回転子位置θe)により表す。そうすると、d軸とγ軸との軸誤差Δθ(d−q軸とγ−δ軸との軸誤差Δθ)は、Δθ=θ―θeで表される
。
以下の記述において、モータ電圧Vaのγ軸成分、δ軸成分、d軸成分及びq軸成分を、それぞれγ軸電圧vγ、δ軸電圧vδ、d軸電圧vd及びq軸電圧vqで表し、モータ電流Iaのγ軸成分、δ軸成分、d軸成分及びq軸成分を、それぞれγ軸電流iγ、δ軸電
流iδ、d軸電流id及びq軸電流iqで表す。
また、以下の記述において、Raは、モータ抵抗(モータ1の電機子巻線の抵抗値)であり、Ld、Lqは、夫々d軸インダクタンス(モータ1の電機子巻線のインダクタンスのd軸成分)、q軸インダクタンス(モータ1の電機子巻線のインダクタンスのq軸成分)であり、Φaは、永久磁石1aによる電機子鎖交磁束である。尚、Ld、Lq、Ra及びΦaは、モータ駆動システムの製造時に定まる値であり、それらの値はモータ制御装置の演算にて使用される。また、後に示す各式において、sはラプラス演算子を意味する。
図3は、図1のモータ制御装置3の内部構成を詳細に表した、モータ駆動システムの構成ブロック図である。モータ制御装置3は、電流検出器11、座標変換器12、減算器13、減算器14、電流制御部15、磁束制御部16、速度制御部17、座標変換器18、減算器19及び位置・速度推定器20(以下、単に「推定器20」という)、を有して構成される。モータ制御装置3を構成する各部位は、必要に応じてモータ制御装置3内で生成される値の全てを自由に利用可能となっている。
電流検出器11は、例えばホール素子等から成り、PWMインバータ2からモータ1に供給されるモータ電流Iaの固定軸成分であるU相電流iu及びV相電流ivを検出する。座標変換器12は、電流検出器11からのU相電流iu及びV相電流ivの検出結果を受け取り、それらを推定器20から与えられる推定回転子位置θeを用いて、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδに変換する。この変換には、下記式(3)を用いる。
推定器20は、推定回転子位置θe及び推定モータ速度ωeを推定して出力する。推定回転子位置θe及び推定モータ速度ωeの推定手法については、後に詳説する。
減算器19は、推定器20から与えられる推定モータ速度ωeを、モータ速度指令値ω*から減算し、その減算結果(速度誤差)を出力する。速度制御部17は、減算器19の減算結果(ω*−ωe)に基づいて、δ軸電流指令値iδ*を作成する。このδ軸電流指令値iδ*は、モータ電流Iaのδ軸成分であるδ軸電流iδが追従すべき電流の値を表す。磁束制御部16は、γ軸電流指令値iγ*を出力する。このγ軸電流指令値iγ*は、モータ電流Iaのγ軸成分であるγ軸電流iγが追従すべき電流の値を表す。位置・速度推定器20との関係において後に詳説するが、このγ軸電流指令値iγ*は、本実施形態において「ゼロ」に維持される。
減算器13は、磁束制御部16が出力するγ軸電流指令値iγ*から、座標変換器12が出力するγ軸電流iγを差し引いて、電流誤差(iγ*−iγ)を算出する。減算器14は、速度制御部17が出力するδ軸電流指令値iδ*から、座標変換器12が出力するδ軸電流iδを差し引いて、電流誤差(iδ*−iδ)を算出する。
電流制御部15は、減算器13及び14にて算出された各電流誤差、座標変換器12からのγ軸電流iγ及びδ軸電流iδ、並びに推定器20からの推定モータ速度ωeを受け、γ軸電流iγがγ軸電流指令値iγ*に追従するように、且つδ軸電流iδがδ軸電流指令値iδ*に追従するように、γ軸電圧指令値vγ*とδ軸電圧指令値vδ*を出力する。
座標変換器18は、推定器20から与えられる推定回転子位置θeに基づいて、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*の逆変換を行い、モータ電圧VaのU相成分、V相成分及びW相成分を表すU相電圧指令値vu *、V相電圧指令値vv *及びW相電圧指令値vw *から成る三相の電圧指令値を作成して、それらをPWMインバータ2に出力する。この逆変換には、下記の2つの等式から成る式(4)を用いる。
PWMインバータ2は、モータ1に印加されるべき電圧を表す三相の電圧指令値(vu *、vv *及びvw *)に基づいてパルス幅変調された信号を作成し、該三相の電圧指令値に応じたモータ電流Iaをモータ1に供給してモータ1を駆動する。
図4に、推定器20の内部構成の一例を示す。図4の推定器20は、軸誤差推定部30と、比例積分演算器31と、積分器32と、を有して構成される。
軸誤差推定部30は、軸誤差Δθ’を算出する。この軸誤差Δθ’は、後述の説明から明らかとなるが、軸誤差Δθとは異なる。図22の軸誤差推定部130は、上記式(1)を用いて軸誤差Δθを算出するが、図4の軸誤差推定部30は、下記式(5)を用いて軸誤差Δθ’を算出する。
式(5)は、上記式(1)におけるΔθ及びLqを、夫々Δθ’及びLに置換したものとなっている。このため、軸誤差推定部30は、Lを回転子位置を推定する際のq軸インダクタンスに対応する演算用パラメータとして取り扱い、軸誤差Δθ’を推定することになる。この演算用パラメータLの値の設定手法及びその設定手法との関係における軸誤差Δθ’の意義については、後に詳説する。
比例積分演算器31は、PLL(Phase Locked Loop)を実現すべく、モータ制御装置3を構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、軸誤差推定部30が算出した軸誤差Δθ’がゼロに収束するように推定モータ速度ωeを算出する。積分器32は、比例積分演算器31から出力される推定モータ速度ωeを積分して推定回転子位置θeを算出する。比例積分演算器31が出力する推定モータ速度ωeと積分器32が出力する推定回転子位置θeは、共に推定器20の出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3の各部位に与えられる。
仮に、式(5)中のLとしてq軸インダクタンスの真値(実際の値)を用いた場合、即ち、L=Lqの場合、Δθ’=Δθとなり、比例積分演算器31等によるPLL制御により、軸誤差Δθ’(=Δθ)はゼロに収束するようになる(つまり、図21の構成と同じ制御となる)。しかしながら、本実施形態の特徴的な点として、演算用パラメータLは、下記式(6)を満たすように設定されている。つまり、モータ1の実際のq軸インダクタンス(即ち、Lq)と実際のd軸インダクタンス(即ち、Ld)の間の値を、q軸インダクタンスに対応する演算用パラメータとして採用した上で、軸誤差の算出を行う。尚、勿論、Ld<Lqが成立している。
また、望ましくは、下記式(7)を満たすように、演算用パラメータLは設定される。
上記のように設定されたLをq軸インダクタンスに対応する演算用パラメータとして採用することにより得られる軸誤差Δθ’は、軸誤差Δθとは当然異なる。このため、軸誤差Δθ’をゼロに収束させるようにPLL制御を行っても、d軸とγ軸との間にはずれ(ゼロではない軸誤差)が生じることになる。
本実施形態では、このずれを意図的に発生させ、このずれを積極的に利用しつつ磁束制御部16が出力するγ軸電流指令値iγ*をゼロとすることによって、最大トルク制御に近似した制御を行うようにしている。この制御について、以下、考察する。
まず、上記非特許文献1にも開示されているように、回転子位置の推定(即ち、推定回転子位置θeの算出)に用いる演算用パラメータの誤差と位置推定誤差(軸誤差)との関係は、下記式(8)のように表される。ここで、Ra’は、回転子位置の推定のための演算式に用いる演算用パラメータとしてのモータ抵抗の値であり、(Ra−Ra’)は、その演算用パラメータと真のモータ抵抗Raとの誤差を表している。Lq’は、回転子位置の推定のための演算式に用いる演算用パラメータとしてのq軸インダクタンスの値であり、(Lq−Lq’)は、その演算用パラメータと真のq軸インダクタンスとの誤差を表している。
今、Lq’=L、とする。つまり、回転子位置の推定に際して、(Lq−L)に相当する誤差を積極的に与えるとする。上記式(5)を用いて軸誤差Δθ’を推定するということは、(Lq−L)に相当する誤差を積極的に与えて軸誤差を推定するということに相当する。また、(Ra−Ra’)がゼロであると仮定する。また更に、上述の如く、γ軸電流iγが追従すべきγ軸電流指令値iγ*をゼロとする場合を考える。即ち、式(8)において、iγ=0、とする。そうすると、式(8)は下記式(9)のように変形される。
そして、式(9)に、最大トルク制御に一致するd軸電流idの式(10)を代入し、Lについて解くと下記式(11)が得られる。尚、式(10)は、一般的に知られている式であり、q軸電流iqに応じて式(10)を満たすd軸電流idをモータ1に供給すれば、最大トルク制御が得られる。
式(11)の導出手法から明らかなように、式(11)にて表されるLは、γ軸電流指令値iγ*をゼロとした場合において、理想的に最大トルク制御を得るために軸誤差推定部30が採用すべき演算用パラメータとしてのq軸インダクタンスの値を表している。
式(11)にて表されるLは、q軸電流iqの関数となっている。以下、説明の具体化のため、Φa=0.2411[Vs/rad]、Ld=0.003[H]、Lq=0.008[H]、という数値例の下で説明を行う。この場合におけるiqとLの関係を、図5の曲線60に示す。γ軸電流指令値iγ*をゼロとした場合、最大トルク制御に一致するLの値は、1[A]≦iq≦40[A]において、概ね0.003[H]から0.0042[H]の範囲内にある。つまり、γ軸電流指令値iγ*をゼロとした場合、最大トルク制御に一致するLの値は、Lq(今の場合、0.008[H])よりも随分Ld(今の場合、0.003[H])側に存在していることが分かる。
これに着目し、本実施形態では、上記式(6)又は(7)を満たす演算用パラメータLを採用し、且つγ軸電流指令値iγ*をゼロとすることにより、最大トルク制御に近い制御を実現する。例えば、上記の数値例の下、iqに関係なく演算用パラメータLを、L=0.0039[H]に固定した場合にモータ1に流れるd軸電流idとq軸電流iqとの関係を、図6の破線62により表す。実線61は、理想的に最大トルク制御を行った場合におけるd軸電流idとq軸電流iqとの関係を示した曲線であるが、破線62と実線61は非常に類似した曲線であることが図6から分かる。
iγ*=0としているのに拘わらずq軸電流iqに応じたd軸電流idが流れるのは、q軸インダクタンスに対応する演算用パラメータとして上記式(6)又は(7)を満たす演算用パラメータLを採用したことに起因してd軸とγ軸との間にずれが生じているためである。尚、図5の曲線60において、iq=30[A]のとき、L=0.0039[H]となっているため、当然ではあるが、実線61と破線62は、iq=30[A]において交差している。
尚、説明の具体化のため、γ軸電流指令値iγ*の値をゼロとする例を説明したが、γ軸電流指令値iγ*の値は厳密にゼロである必要はなく、ゼロ近傍の値となっておればよい(即ち、iγ*≒0であればよい)。換言すれば、γ軸電流指令値iγ*の値を議論する場合における「ゼロ」は、或る程度の幅を持った「実質的なゼロ」と解釈されるべきである。iγ*が厳密にゼロでなくても、実質的にゼロとみなせる程度であれば、最大トルク制御に近い制御を得ることができるからである。
演算用パラメータLの値は、上記のような最大トルク制御に近似した制御を実現するべく、上記式(6)又は式(7)を満たす範囲内から選ばれる。具体的には、γ軸電流指令値iγ*をゼロ又はゼロ近傍の所定値とすることによってγ軸電流iγを該所定値とし且つモータ1に所定の負荷トルクを与える。そして、その状態において、モータ電流Iaの大きさが最小になるような演算用パラメータLの値を、上記式(6)又は式(7)を満たす範囲内から選ぶ。iγ*≒0の下でモータ電流Iaの大きさに最小値を与えるLの値は、図7に示すようにLdとLqの間に存在しており、Φa、Ld、Lqの値として様々な値を採用しても、そのようなLは、上記式(7)を満たす。
iγ*≒0の下でモータ電流Iaの大きさに最小値を与えるLの値を選んだとき、その所定の負荷トルクにおいて、そのLは、最大トルク制御を理想的に実現する演算用パラメータとなる。尚、そのような演算用パラメータLの値は、設計段階において調査され、設定される。
このように、回転子位置の推定に用いる演算用パラメータとしてのq軸インダクタンスの値を適切に設定しておくことによって、iγ*を逐次計算することなくiγ*≒0としておくだけで最大トルク制御に近い制御が実現できる。このため、まず、最大トルク制御のための演算量の削減効果が得られる。また、図21及び図22に示すような従来例では、回転子位置推定用の演算用パラメータの調整と最大トルク制御を行うための演算用パラメータの調整が必要であったが、本実施形態においては、回転子位置推定用の演算用パラメータLを調整するのみで、最大トルク制御に近い制御を得ることができる。これにより、調整に必要となる時間が激減し、時間的な効率が向上する。
また、q軸電流iqの値に関係なく、演算用パラメータLを固定値(上述の例では、L=0.0039[H])とする例を上述したが、演算用パラメータLをq軸電流iqの値に応じて(δ軸電流指令値iδ*の値に応じて)変化させても構わない。例えば、図5の曲線60上にのるように、演算用パラメータLをq軸電流iqの値に応じて(δ軸電流指令値iδ*の値に応じて)変化させれば、iγ*≒0としていても、理想的な最大トルク制御を得ることができる(この場合、図6における実線61と破線62が完全に重なる)。尚、q軸電流iqの値に応じて(δ軸電流指令値iδ*の値に応じて)演算用パラメータLをどのように設定するかは、設計段階において予め調べておけばよい。
また、最大トルク制御或いは最大トルク制御に近似した制御を得る手法を上述したが、演算用パラメータLの設定手法によっては、リラクタンストルクを利用した他の制御を得ることも可能である。
例えば、γ軸電流指令値iγ*をゼロ又はゼロ近傍の所定値とすることによってγ軸電流iγを該所定値とし且つ所定の負荷条件をモータ1に与える。そして、その状態において、モータ1における損失(銅損及び鉄損)が最小になるような演算用パラメータLの値を、上記式(6)又は式(7)を満たす範囲内から選ぶ。iγ*≒0の下で損失に最小値を与えるLの値は、最大トルク制御における場合と同様、LdとLqの間に存在しており、Φa、Ld、Lqの値として様々な値を採用しても、そのようなLは、上記式(7)を満たす。
iγ*≒0の下で損失を最小値とするLの値を選んだとき、その所定の負荷条件において、そのLは、最大効率制御を実現する演算用パラメータとなる。尚、そのような演算用パラメータLの値は、設計段階において調査され、設定される。また、上記の「所定の負荷条件」とは、例えば、モータ1を所定の回転速度で回転させるという条件や、モータ1に所定の負荷トルクを与えるという条件である。
また、電流制御部15は下記の2つの等式から成る式(12a)及び(12b)を用いて必要な演算を行う。また、速度制御部17及び比例積分演算器31は、夫々下記式(13)及び(14)を用いて必要な演算を行う。
ここで、Kcp、Ksp及びKpは比例係数、Kci、Ksi及びKiは積分係数であり、それらはモータ駆動システムの設計時において予め設定される値である。
[推定器について]
上述してきた推定器20による回転子位置の推定手法は一例であって、様々な推定手法を採用することが可能である。回転子位置の推定(即ち、推定回転子位置θeの算出)を行うに際して、モータ1のq軸インダクタンスに対応する演算用パラメータを用いる推定手法であれば、何れの推定手法も採用可能である。
例えば、上記非特許文献1に記載されている手法を用いて回転子位置を推定するようにしてもよい。上記非特許文献1においては、下記式(15)を用いて軸誤差Δθを算出していることになる。本実施形態における符号及び記号を適用した場合、eγ及びeδは、夫々、モータ1の回転と永久磁石1aによる電機子鎖交磁束Φaとによって発生する誘起電圧のγ軸成分及びδ軸成分を表している。また、sはラプラス演算子であり、gは外乱オブザーバのゲインである。
式(15)に示されるような誘起電圧から軸誤差を推定する手法を図4の軸誤差推定部30に当てはめた場合、軸誤差推定部30は、下記式(16)を用いて軸誤差Δθ’を算出すればよい。式(16)は、上記式(15)におけるΔθ及びLqを、夫々Δθ’及びLに置換したものとなっている。そして、図4の構成と同様に、その軸誤差Δθ’がゼロに収束するように、比例積分演算器31が推定モータ速度ωeを算出し且つ積分器32が
推定回転子位置θeを算出するようにすれば、d軸とγ軸との間にずれが生じることにな
る。
また、その他、特開2004−96979号公報に記載されている手法等を用いて、回転子位置を推定するようにしてもよい。
また、図4の構成に代えて、誘起電圧の元となる鎖交磁束から軸誤差(回転子位置)を推定する構成を採用してもよい。この手法について、説明を加えておく。まず、実軸上での拡張誘起電圧方程式は、一般的に下記式(17)のように表される。式(17)におけるEexは、式(18)で表され、拡張誘起電圧と呼ばれている。尚、下記の式中におけるpは、微分演算子である。
実軸上の式(17)を、制御軸上に座標変換すると、式(19)が得られる。
また、拡張誘起電圧Eexを表す式(18)の過渡項(右辺第2項)を無視した場合における磁束を、下記式(20)のように拡張磁束Φexと定める。
ところで、モータ速度や負荷が一定の状態では、モータ電流の大きさ及び位相の変化は微小であるから、q軸電流の微分項である式(18)の右辺第2項は、ωΦexより十分に小さくゼロとみなせる。また、モータ1が脱調しないで駆動されている場合は、実モータ速度ωと推定モータ速度ωeは近い値をとるため、式(19)の右辺第3項も、ωΦexより十分に小さくゼロとみなせる。そこで、式(18)の右辺第2項及び式(19)の右辺第3項を無視して考えると、式(19)は下記式(21)のようになる。
ここで、図8に、モータ1における各部の電圧の関係等を表したベクトル図を示す。モータ印加電圧Vaは、拡張誘起電圧Eex=ωΦexと、モータ抵抗Raでの電圧降下ベクトルRa・Iaと、電機子巻線のインダクタンスでの電圧降下ベクトルVLとの和で表される。拡張磁束Φexは、永久磁石の作る磁束Φaとd軸電流の作る磁束(Ld−Lq)idとの和であるから、ベクトルの方向はd軸と一致する。Lq・Iaで表されるベクトルは、q軸インダクタンスとモータ電流Iaによって生じる磁束のベクトルであり、符号70は、ΦexとLq・Iaの合成磁束ベクトルを表す。
また、Φδは、拡張磁束Φexのδ軸成分である。従って、Φδ=Φex・sinΔθが成立する。また、上記式(21)の行列の1行目を展開して整理することにより、下記式(22)が導かれる。
通常、永久磁石の作る磁束は、d軸電流の作る磁束よりも十分に大きく、Φa>>(Ld−Lq)idであるため、Φexは一定、即ち、Φex≒Φaと考えることができる。そして、軸誤差Δθが小さく、sinΔθ≒θにて近似できるとすると、式(22)を参照して、下記式(23)が成立する。
上記式(23)から分かるように、Φδは、電機子鎖交磁束Φaのδ軸成分(モータ1の永久磁石1a(図2)のδ軸に平行な磁束成分であるδ軸磁束)に等しいと近似される。つまり、Φδ≒(一定値)×Δθ と近似される。このため、このΦδがゼロに収束するように制御することによっても軸誤差Δθはゼロに収束することになる。即ち、Φδに基づいて回転子位置やモータ速度を推定することが可能となる。
従って、図3及び図4における推定器20を図9に示す推定器20aに置換することが可能である。推定器20aは、δ軸磁束推定部33と、比例積分演算器31aと、積分器32aから構成される。軸誤差Δθをゼロに収束させるならばδ軸磁束推定部33はδ軸磁束Φδを推定すればよいのであるが、上述の考え方と同様、d軸とγ軸との間に意図的にずれを生じさせるべく、δ軸磁束推定部33は下記式(24)に従ってδ軸磁束Φδ’を推定する。つまり、q軸インダクタンスに対応する演算用パラメータとして、実際のLqを用いずに、上記式(6)又は式(7)を満たすLを用いて、δ軸磁束Φδ’を算出する。
比例積分演算器31aは、図4の比例積分演算器31と同様のものであり、モータ制御装置3を構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、δ軸磁束推定部33が算出したδ軸磁束Φδ’がゼロに収束するように推定モータ速度ωeを算出する。積分器32aは、比例積分演算器31aから出力される推定モータ速度ωeを積分して推定回転子位置θeを算出する。比例積分演算器31aが出力する推定モータ速度ωeと積分器32aが出力する推定回転子位置θeは、共に推定器20aの出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3の各部位に与えられる。
尚、式(24)から分かるように、Ldを含む項はiγにかかっているため、その項の値は比較的小さい。即ち、回転子位置の推定に際して、d軸インダクタンスLdの影響は小さい(なぜならば、iγの値はiδの値よりもかなり小さい)。これを考慮し、推定に用いる式(24)において、Ldの値としてLを用いるようにしてもよい。この場合、リラクタンストルクを利用しない非突極機(表面磁石形同期モータ等)に用いる制御と同じ制御にて、突極機の高効率運転が可能となるため、磁石の埋め込み構造の違い等を区別して制御を変える必要がなくなり、汎用性が高まる。このような汎用性の高さは、式(5)及び式(16)等を用いた場合にも言えることである。
また、式(23)ではΦex≒Φaの近似を用いているが、この近似を用いることなくδ軸磁束を推定するようにしてもよい。この場合、下記式(25)に従ってδ軸磁束Φδ’を推定するようにすればよい。この場合も、q軸インダクタンスに対応する演算用パラメータとして、実際のLqを用いずに、上記式(6)又は式(7)を満たすLを用いるようにする。
<<第2実施形態>>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態、本実施形態及び後述する他の実施形態の説明において、特に記述しない限り、同一の符号を付したものは同一のものであると共に同一の記号(θやωなど)を付したものは同一のものである。このため、同一の符号または記号を付したものについての重複する説明を省略する場合がある。
図10は、第2実施形態に係るモータ駆動システムのブロック構成図である。第2実施形態に係るモータ駆動システムは、モータ1と、インバータ2と、モータ制御装置3aと、を備えて構成される。
モータ制御装置3aは、モータ電流Iaを用いてモータ1の回転子位置等を推定し、モータ1を所望の回転速度で回転させるための信号をPWMインバータ2に与える。この所望の回転速度は、図示されないCPU(中央処理装置;Central Processing Unit)等からモータ制御装置3aにモータ速度指令値ω*として与えられる。
図11及び図12は、本実施形態に適用される、モータ1の解析モデル図である。図11には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。本実施形態においても、d軸、q軸、γ軸及びδ軸、実回転子位置θ、推定回転子位置θe及び軸誤差Δθ、並びに、実モータ速度ω及び推定モータ速度ωeを、第1実施形態(図2参照)と同様に定義する。
更に、最大トルク制御を実現する際にモータ1に供給されるべき電流ベクトルの向きと向きが一致する回転軸をqm軸と定める。そして、qm軸から電気角で90度遅れた軸をdm軸と定める。dm軸とqm軸とから成る座標軸をdm−qm軸と呼ぶ。
最大トルク制御実現時における電流軌跡を表す図6の実線61からも明らかなように、最大トルク制御を実現するモータ電流は、正のq軸成分と負のd軸成分を有する。このため、qm軸はq軸よりも位相が進んだ軸となる。図11及び図12において、反時計回りの方向が位相の進みの方向である。
qm軸から見たq軸の位相(角度)をθm、δ軸から見たqm軸の位相(角度)をΔθm、と表す。この場合、勿論、dm軸から見たd軸の位相もθm、γ軸から見たdm軸の位相もΔθmとなる。θmは、q軸(d軸)からみたqm軸(dm軸)の進み角である。Δθmは、qm軸とδ軸との間の軸誤差(dm−qm軸とγ−δ軸との間の軸誤差)を表している。d軸とγ軸との間の軸誤差であるΔθは、Δθ=Δθm+θm、にて表される。
上述のごとく、dm軸はd軸よりも位相が進んでおり、この際、θmは負の値をとるものとする。同様に、γ軸がdm軸よりも位相が進んでいる場合、Δθmは負の値をとる。図12に示されているベクトル(Em等)については、後述する。
また、モータ電流Iaのdm軸成分及びqm軸成分を、夫々、dm軸電流idm及びqm軸電流iqmで表す。モータ電圧Vaのdm軸成分及びqm軸成分を、それぞれdm軸電圧vdm及びqm軸電圧vqmで表す。
本実施形態では、qm軸(dm軸)とδ軸(γ軸)との間の軸誤差Δθmを推定して推定軸であるγ軸をdm軸に収束させる(即ち、軸誤差Δθmをゼロに収束させる)。そして、モータ電流Iaをqm軸に平行なqm軸電流iqmとdm軸に平行なdm軸電流idmとに分解することによって、モータ1をベクトル制御する。
この場合も、軸誤差Δθmを推定するための(軸誤差Δθmをゼロに収束させるための)推定用のパラメータの調整が必要となるが、この調整を行うことによって同時に最大トルク制御実現用のパラメータ調整が完了する。つまり、軸誤差推定用のパラメータ調整が最大トルク制御実現用のパラメータ調整を兼ねているため、調整が非常に容易となる。
また、qm軸の定義から明らかなように、最大トルク制御を行う際におけるモータ電流Iaの電流軌跡は、図13の実線82に示す如く、qm軸上にのる。このため、最大トルク制御を行うに際して、上記式(2)で示されるような複雑なγ軸電流指令値iγ*の算出は不要となり、演算負荷が軽減される。この際、γ軸電流指令値iγ*は、第1実施形態と同様に設定される。つまり、例えば、γ軸電流指令値iγ*は、iδの値に関係なく、ゼロまたはゼロ近傍の所定値とされる。
次に、電圧方程式を用いて、本実施形態の意義及び具体的な制御手法を説明する。まず、実軸上での拡張誘起電圧方程式は、式(26)にて表され、拡張誘起電圧Eexは式(27)にて表される。式(26)は上記式(17)と同じものであり、式(27)は上記式(18)と同じものである。尚、下記の式中におけるpは、微分演算子である。
実軸上の式(26)を、制御上の推定軸であるγ−δ軸上に座標変換すると、式(28)が得られ、簡単化のために式(28)の右辺第3項を無視すると、式(29)が得られる。
dm−qm軸に着目して、式(29)を書き改めると、式(30)が得られる。
ここで、式(31)が成立すると定義する。更に、id=iqm・sinθmであることを考慮すると、式(32)が成立する。
式(32)を用いて式(30)を変形すると、式(33)が得られる。但し、Emは、式(34)によって表される。Lq1は、θmに依存する仮想インダクタンスである。Lq1は、式(30)の右辺第2項に存在するEex・sinθmを、仮想インダクタンスによる電圧降下として取り扱うために便宜上定められる。尚、Lq1は、負の値をとる。
ここで、等式:Lm=Lq+Lq1、が成立すると近似する(θmはiq及びiqmに依存するため、Lq1はiq及びiqmに依存する。また、Lqも磁気飽和の影響によりiq及びiqmに依存する。Lq1のiq依存性とLqのiq依存性を、Lmに集約し、推定時にiq及びiqmの影響を考慮する)。そうすると、式(33)は、下記式(35)のように変形される。尚、後にも述べるが、このLmは、第1実施形態における演算用パラメータLに相当するものである。
更に、式(35)を変形すると、下記式(36)が得られる。ここで、Eexmは、下記式(37)によって表される。
γ−δ軸とdm−qm軸との間に軸誤差Δθmがあったとすると、式(36)は下式(38)のように変形される。つまり、式(26)を式(28)に変形したのと同様に、dm−qm軸上の式(36)をγ−δ軸上に座標変換すると、式(38)が得られる。
また、pΔθm≒0、idm≒0、(Ld−Lq)(piq)≒0、と近似すると、式(37)によって表されるEexmは、下記式(39)のように近似される。
また、上記式(32)に「Lm=Lq+Lq1」を代入して得られる式をθmについて解き、更に、iδ≒iqmと仮定すると、下記式(40)が得られる。式(40)で表されるように、θmはiδの関数であるから、Eexmもiδの関数となる。
図12を参照しつつ、EexとEmとEexmとの関係について説明を加えておく。Eex、Em及びEexmを、回転座標系における電圧ベクトルとして考える。この場合、Eexは拡張誘起電圧ベクトルと呼ぶことができる。拡張誘起電圧ベクトルEexは、q軸上の誘起電圧ベクトルである。拡張誘起電圧ベクトルEexを、qm軸上の誘起電圧ベクトルとdm軸上の誘起電圧ベクトルとに分解して考える。上記式(34)からも分かるように、この分解によって得られたqm軸上の誘起電圧ベクトルが、Emである。また、この分解によって得られた、図12の符号80で表されるdm軸上の誘起電圧ベクトル(Eex・sinθm)は、仮想インダクタンスLq1による電圧降下ベクトルである。
式(34)と(37)の比較からも分かるように、Eexmは、Emにω(Lq−Lm)idmを加えたものとなっている。このため、回転座標系において、Eexmも、Emと同様、qm軸上の誘起電圧ベクトルとなる。最大トルク制御を行う際には、上述したようにidm≒0であるため、EexmはEmに(略)一致する。
続けて、図12を参照しつつ、Eex、Em及びEexmに対応する磁束についても説明を加えておく。Eexは、モータ1の鎖交磁束であるΦexとモータ1の回転とによって発生する誘起電圧である(上記式(20)参照)。逆に言えば、ΦexはEexをωで割ることによって算出される(但し、式(27)で表されるEexの過渡項(右辺第2項)を無視)。
Φexを回転座標系における鎖交磁束ベクトルとして考えると、鎖交磁束ベクトルΦexは、d軸上の鎖交磁束ベクトルである。鎖交磁束ベクトルΦexを、qm軸上の鎖交磁束ベクトルとdm軸上の鎖交磁束ベクトルとに分解して考える。この分解によって得られたdm軸上の鎖交磁束ベクトルをΦmと定義すると、Φm=Em/ωとなる。また、この分解によって得られた、図12の符号81で表されるqm軸上の鎖交磁束ベクトル(Φex・sinθm)は、仮想インダクタンスLq1による磁束ベクトルである。
「Φexm=Eexm/ω」とおくと、ΦexmはΦmに(Lq−Lm)idmを加えたものとなる。このため、回転座標系において、Φexmも、Φmと同様、dm軸上の鎖交磁束ベクトルとなる。最大トルク制御を行う際には、上述したようにidm≒0であるため、ΦexmはΦmに(略)一致する。
次に、上記の各式を利用した、具体的なモータ駆動システムの例を示す。図14は、図10のモータ制御装置3aの内部構成を詳細に表した、モータ駆動システムの構成ブロック図である。モータ制御装置3aは、電流検出器11、座標変換器12、減算器13、減算器14、電流制御部15、磁束制御部16、速度制御部17、座標変換器18、減算器19及び位置・速度推定器40(以下、単に「推定器40」という)、を有して構成される。即ち、図14のモータ制御装置3aは、図3のモータ制御装置3における推定器20を推定器40に置換した構成となっている。モータ制御装置3aを構成する各部位は、必要に応じてモータ制御装置3a内で生成される値の全てを自由に利用可能となっている。
電流検出器11は、モータ電流Iaの固定軸成分であるU相電流iu及びV相電流ivを検出する。座標変換器12は、電流検出器11からのU相電流iu及びV相電流ivの検出結果を受け取り、それらを推定器40から与えられる推定回転子位置θeを用いて、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδに変換する。この変換には、第1実施形態と同様、上記式(3)を用いる。
推定器40は、推定回転子位置θe及び推定モータ速度ωeを推定して出力する。推定器40による具体的な推定手法については後述する。
減算器19は、推定器40から与えられる推定モータ速度ωeを、モータ速度指令値ω*から減算し、その減算結果(速度誤差)を出力する。速度制御部17は、減算器19の減算結果(ω*−ωe)に基づいて、δ軸電流指令値iδ*を作成する。磁束制御部16は、γ軸電流指令値iγ*を出力する。このγ軸電流指令値iγ*は、上述したように、第1実施形態と同様に設定される。例えば、iγ*はゼロまたはゼロ近傍の所定値とされる。
減算器13は、磁束制御部16が出力するγ軸電流指令値iγ*から、座標変換器12が出力するγ軸電流iγを差し引いて、電流誤差(iγ*−iγ)を算出する。減算器14は、速度制御部17が出力するδ軸電流指令値iδ*から、座標変換器12が出力するδ軸電流iδを差し引いて、電流誤差(iδ*−iδ)を算出する。
電流制御部15は、減算器13及び14にて算出された各電流誤差、座標変換器12からのγ軸電流iγ及びδ軸電流iδ、並びに推定器40からの推定モータ速度ωeを受け、γ軸電流iγがγ軸電流指令値iγ*に追従するように、且つδ軸電流iδがδ軸電流指令値iδ*に追従するように、γ軸電圧指令値vγ*とδ軸電圧指令値vδ*を出力する。
座標変換器18は、推定器40から与えられる推定回転子位置θeに基づいて、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*の逆変換を行い、vu *、vv *及びvw *から成る三相の電圧指令値を作成して、それらをPWMインバータ2に出力する。この逆変換には、第1実施形態と同様、上記式(4)を用いる。PWMインバータ2は、該三相の電圧指令値に応じたモータ電流Iaをモータ1に供給してモータ1を駆動する。
図15に、推定器40の内部構成の一例を示す。図15の推定器40は、軸誤差推定部41と、比例積分演算器42と、積分器43と、を有して構成される。比例積分演算器42及び積分器43は、それぞれ、図4の比例積分演算器31及び積分器32と同様のものである。
軸誤差推定部41は、vγ*、vδ*、iγ及びiδの値の全部または一部を用いて軸誤差Δθmを算出する。比例積分演算器42は、PLL(Phase Locked Loop)を実現すべく、モータ制御装置3aを構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、軸誤差推定部41が算出した軸誤差Δθmがゼロに収束するように推定モータ速度ωeを算出する。積分器43は、比例積分演算器42から出力される推定モータ速度ωeを積分して推定回転子位置θeを算出する。比例積分演算器42が出力する推定モータ速度ωeと積分器43が出力する推定回転子位置θeは、共に推定器40の出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3aの各部位に与えられる。
軸誤差推定部41による軸誤差Δθmの算出法として、様々な算出法を適用可能である。以下に、軸誤差推定部41による軸誤差Δθmの算出法として(換言すれば、推定器40によるθeの算出法として)、第1、第2、第3、第4及び第5算出法を例示する。
尚、軸誤差推定部41は、本明細書に記載された各式を利用する場合、各式中のvγ、vδ及びωの値として、それぞれ、vγ*、vδ*及びωeの値を用いる。また、各算出法で説明した内容(Lmの値の決定法など)は、他の算出法及び後述する他の実施形態の全てにおいて適用可能である。
[第1算出法]
まず、軸誤差Δθmの第1算出法について説明する。第1算出法では、モータ1に発生する誘起電圧Eexをqm軸上の誘起電圧ベクトルとdm軸上の誘起電圧ベクトルに分解して考える。そして、qm軸上の誘起電圧ベクトルである誘起電圧ベクトルEexm(≒Em;図12参照)用いて、軸誤差Δθmを算出し、これによって、制御上の推定軸であるγ軸の位相(θe)を算出する(即ち、回転子位置を推定する)。
誘起電圧ベクトルEexmのγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれ、Eexmγ及びEexmδとすると、図12から明らかなように、Δθm=tan-1(−Eexmγ/Eexmδ)が成立する。そして、上記の行列式(38)の1行目と2行目を変形した結果を用いると、Δθmは、下記式(41)のように表される(但し、行列式(38)の右辺第3項を無視する)。尚、式(41)において、最終的にΔθmは小さいと仮定して、tan-1(−Eexmγ/Eexmδ)≒(−Eexmγ/Eexmδ)の近似を用いている。
軸誤差推定部41は、式(41)を利用してΔθmを算出する際、微分項pLdiγ及びpLdiδを無視することができる。また、Δθmの算出に必要なLmの値の算出には、下記式(42)を利用する。上記式(32)に「idm=0と下記式(43)及び(44)」を代入して得られた式をLq1について解き、その結果を利用することで、式(42)を得ることができる。
更に、最大トルク制御に一致するd軸電流idの式(45)と、idとiqとiqmの関係式(近似式)である式(43)とを利用して、上記式(42)を変形すると、Lmはiqmの関数となる(即ち、Lmの算出式からidとiqの項がなくなる)。従って、軸誤差推定部41は、iδ≒iqmと仮定することにより、iqmの関数で表されるLmの値をiδに基づいて算出可能である。そして、算出したLmの値を用いて式(41)から軸誤差Δθmを算出する。
尚、iδ≒iqmと仮定し、Lmをiδの関数として表した近似式を利用してLmの値を得るようにしても構わないし、iδに応じたLmの値を事前にテーブルデータとして用意しておき該テーブルデータを参照することによってLmの値を得るようにしても構わない。
図16に、LdとLqとLmのiqm依存性を表す、或る数値例の下でのグラフを示す(iγ*≒0とする)。図16に示す如く、Lmの値は、iqmに依存しており、iqmが増加するに従って増加する。本実施形態にて定めたLmは、第1実施形態における演算用パラメータLに相当するものであり、最大トルク制御に一致するLmの値は、Lと同様、Lqよりも随分Ld側に存在していることが分かる(図5及び図7等もあわせて参照)。
Lmの値は、結果的に、第1実施形態と同様、下記式(46)または式(47)を満たすように、定められることになる。これによって、本実施形態のモータ制御装置3aは、第1実施形態と同様、d軸とγ軸との間に意図的にずれを生じさせ、iγ*≒0とすることで、最大トルク制御に近似した制御を実現する。
また、Lmを固定値としても構わない。つまり、iδの値に関係なく固定された値を、Lmの値として採用するようにしても構わない。Lmを所定の固定値とした場合における、d軸電流idとq軸電流iqとの関係を、図17の実線83により表す。破線84は、理想的に最大トルク制御を行った場合におけるd軸電流idとq軸電流iqとの関係を示した曲線であるが、実線83と破線84は非常に類似した曲線であることが図17から分かる。
[第2算出法]
次に、軸誤差Δθmの第2算出法について説明する。第2算出法でも、上記の第1算出法と同様、誘起電圧ベクトルEexmを用いて、軸誤差Δθmを算出し、これによって、制御上の推定軸であるγ軸の位相(θe)を算出する(即ち、回転子位置を推定する)。但し、第2算出法では、誘起電圧ベクトルEexmのδ軸成分Eexmδを利用しない。具体的には、下記式(48)を用いて軸誤差Δθmを算出する。尚、式(48)において、最終的にΔθmは小さいと仮定して、sin-1(−Eexmγ/Eexm)≒(−Eexmγ/Eexm)の近似を用いている。
軸誤差推定部41は、式(48)を利用してΔθmを算出する際、微分項pLdiγを無視することができる。また、Lmの値は、上記第1算出法における手法と同様の手法によって決定される。
式(48)中のEexmの算出には、上記式(39)を利用する。Eexm算出用の近似式として、例えば、下記式(49)、(50)または(51)を利用可能である。式(49)は「pΔθm≒0、idm≒0、(Ld−Lq)(piq)≒0」の近似を利用した式(37)の近似式であり、式(50)は更に「cosθm≒1」の近似を利用した式(49)の近似式
であり、式(51)は更に「(Ld−Lq)iδsinθm<<Φa」の近似を利用した式(50)の近似式である。尚、式(49)、(50)または(51)を利用する際、ωの値としてωeが用いられる。
式(49)等に含まれるθmを算出するために、上記式(40)が利用される。式(40)から分かるようにθmはiδの関数であるから、Eexmもiδの関数となる。Eexmの計算は複雑であるから、算出に当たって適当な近似式を用いることが望ましい。また、iδに応じたEexmの値を事前にテーブルデータとして用意しておき該テーブルデータを参照することによってEexmの値を得るようにしておくのも良い。
[第3算出法]
次に、軸誤差Δθmの第3算出法について説明する。第3算出法では、モータ1の電機子巻線を鎖交する鎖交磁束Φexを、qm軸上の鎖交磁束ベクトルとdm軸上の鎖交磁束ベクトルとに分解して考える。そして、dm軸上の鎖交磁束ベクトルである鎖交磁束ベクトルΦexm(≒Φm;図12参照)を用いて、軸誤差Δθmを算出し、これによって、制御上の推定軸であるγ軸の位相(θe)を算出する(即ち、回転子位置を推定する)。
鎖交磁束ベクトルΦexmのγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれ、Φexmγ及びΦexmδとすると、図12から明らかなように、Δθm=tan-1(−Φexmδ/Φexmγ)が成立する。ΦexmはEexmをωにて割ったものであるから、Δθmは、下記式(52)のように表される。尚、式(52)において、最終的にΔθmは小さいと仮定して、tan-1(−Φexmδ/Φexmγ)≒(−Φexmδ/Φexmγ)の近似を用いている。
軸誤差推定部41は、式(52)を利用してΔθmを算出する際、微分項pLdiγ及びpLdiδを無視することができる。また、Lmの値は、上記第1算出法における手法と同様の手法によって決定される。
[第4算出法]
次に、軸誤差Δθmの第4算出法について説明する。第4算出法でも、上記の第3算出法と同様、鎖交磁束ベクトルΦexmを用いて、軸誤差Δθmを算出し、これによって、制御上の推定軸であるγ軸の位相(θe)を算出する(即ち、回転子位置を推定する)。但し、第4算出法では、鎖交磁束ベクトルΦexmのγ軸成分Φexmγを利用しない。具体的には、下記式(53)を用いて軸誤差Δθmを算出する。尚、式(53)において、最終的にΔθmは小さいと仮定して、sin-1(−Φexmδ/Φexm)≒(−Φexmδ/Φexm)の近似を用いている。
軸誤差推定部41は、式(53)を利用してΔθmを算出する際、微分項pLdiγを無視することができる。また、Lmの値は、上記第1算出法における手法と同様の手法によって決定される。
式(53)中のΦexmの算出には、上記式(39)の両辺をωで割った式を利用する。Φexm算出用の近似式として、例えば、下記式(54)、(55)または(56)を利用可能である。下記式(54)、(55)及び(56)は、それぞれ、式(49)、(50)及び(51)の両辺をωで割った式である。尚、式(54)、(55)または(56)を利用する際、ωの値としてωeが用いられる。
式(54)等に含まれるθmを算出するために、上記式(40)が利用される。式(40)から分かるようにθmはiδの関数であるから、Φexmもiδの関数となる。Φexmの計算は複雑であるから、算出に当たって適当な近似式を用いることが望ましい。また、iδに応じたΦexmの値を事前にテーブルデータとして用意しておき該テーブルデータを参照することによってΦexmの値を得るようにしておくのも良い。
K(iδ)=1/Φexmとおき、K(iδ)を補正係数と捉えると、第4算出法における軸誤差推定部41の内部構成は、図18のようになる。また、補正係数K(iδ)を用いる代わりに、比例積分演算器42で用いるゲイン(比例係数や積分係数)をiδの値に応じて変更するようにしてもよい。
[第5算出法]
次に、軸誤差Δθmの第5算出法について説明する。第5算出法では、dm−qm軸上の電流(モータモデルの電流)とγ―δ軸上の電流との誤差電流を用いて、軸誤差Δθmを算出し、これによって、制御上の推定軸であるγ軸の位相(θe)を算出する(即ち、回転子位置を推定する)。
この手法を、数式を用いて説明する。まず、上記式(38)の右辺第3項を無視すると、下記式(57)が得られる。
サンプリング周期Tsで離散化すると、式(57)は下記式(58)のように書き表すことができる。
一方、軸誤差推定部41の計算によって得られる推定電流iMγ及びiMδは、Eexmγ及びEexmδをモデル的に算出した推定誘起電圧EMexmγ及びEMexmδを用いて、下記式(59)にて表される。
軸誤差推定部41は、Eexmγ及びEexmδの推定値として、それぞれ推定誘起電圧EMexmγ及びEMexmδを算出する。また、Lqの代わりにLmを用いて推定電流iMγ及びiMδは算出されるため、推定電流iMγ及びiMδは、それぞれ、モータ電流Iaのdm軸成分及びqm軸成分を推定した電流と呼ぶことができる。
電流検出器11によって検出されたモータ電流Iaの固定軸成分(iu及びiv)に基づく電流iγ及びiδと、計算によって得られた推定電流iMγ及びiMδと、の差である誤差電流Δiγ及びΔiδは、式(58)及び(59)から、下式(60)にて表される。
ここで、ΔEexmγは、誘起電圧Eexmγと誘起電圧Eexmγの推定値である推定誘起電圧EMexmγとの誤差であり、ΔEexmδは、誘起電圧Eexmδと誘起電圧Eexmδの推定値である推定誘起電圧EMexmδとの誤差である。
式(60)から明らかなように、誘起電圧の推定値の誤差(ΔEexmγ等)と誤差電流(Δiγ等)は比例関係にある。このため、誘起電圧の推定値の誤差を、誤差電流を用いて収束させることが可能である。つまり、推定誘起電圧EMexmγ及びEMexmδを、誘起電圧Eexmγ及びEexmδを正しく推定したものとして利用可能である(誘起電圧を正しく推定することが可能となる)。
具体的には、今回の推定誘起電圧を、前回の推定誘起電圧と前回の推定誤差とを用いて算出するようにする。より具体的には、下式(61)によって、推定誘起電圧EMexmγ及びEMexmδを逐次算出する。ここで、gは誘起電圧の推定値の誤差を収束させるためのフィールドバックゲインである。
そして、上述した第1または第2算出法のように、下記式(62)または(63)を用いて、軸誤差推定部41は軸誤差Δθmを算出する。
尚、式(58)〜式(63)において、カッコ“( )”内に表記される記号(nまたはn−1)は、サンプリング周期Tsで離散化した場合のサンプリングタイミングを表している。nは自然数であり、nは、(n−1)の次に訪れるサンプリングタイミングを表す。モータ制御装置3aを構成する各部位は、サンプリング周期Tsごとに、逐次、各値を算出及び出力する。具体的には、例えば、iγ(n)及びiδ(n)は、n番目のサンプリングタイミングにおけるiγ及びiδであり、iγ(n−1)及びiδ(n−1)は、(n−1)番目のサンプリングタイミングにおけるiγ及びiδである。iγ及びiδ以外も同様である。
上記の如く、本実施形態では、軸誤差Δθmをゼロに収束させて、γ軸をdm軸に追従させる。この結果、iγ及びiδは、夫々idm及びiqmに追従することになる。つまり、モータ制御装置3aは、モータ1に流れる電流をqm軸成分とdm軸成分に分解してモータ1の駆動制御を行う、といえる。この分解によって得られる効果は上述の通りである。
<<第3実施形態>>
また、図14で示されるモータ制御装置3aの構成を、図19のモータ制御装置3bのように変形しても構わない。この変形を施した実施形態を、本発明の第3実施形態とする。モータ制御装置3bは、図14におけるモータ制御装置3aの推定器40を、位置・速度推定器45(以下、推定器45と略記する)、θm算出部46及び演算器47に置換した構成となっている。その置換以外の点において、図14のモータ制御装置3a及びモータ駆動システムと、図19のモータ制御装置3b及びモータ駆動システムは、同様となっている。同様の部分の構成及び動作の説明を割愛する。
推定器45は、iγ、iδ、vγ*及びvδ*を用いて、U相から見たd軸の位相を推定し、その推定値をθdqeとして出力する。また、推定器45は、第2実施形態における推定器40と同様、推定モータ速度ωeも算出する。尚、推定器45から出力される推定モータ速度ωeを、θdqeを微分することによって得る場合、得られた推定モータ速度ωeは、正確にはd軸の回転速度の推定値と呼ぶべきものではあるが、定常状態において、その推定値とγ軸の回転速度であるωeは同じものとみなせる。
θm算出部46は、速度制御部17からのiδ*を上記式(40)におけるiδとして利用しつつ、上記式(40)を用いてθmを算出する。この際、iδ*に応じたθmの値を事前にテーブルデータとして用意しておき該テーブルデータを参照することによってθmの値を得るようにしても構わない。
演算器47は、推定器45から出力されるθdqeとθm算出部46から出力されるθmを用いてθeを算出し、算出したθeを座標変換器12及び18に与える。
このように、第3実施形態では、推定器45、θm算出部46及び演算器47から構成される部位が、制御上の推定軸であるγ軸の位相(θe)を算出することになる。第3実施形態のように構成しても、第2実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
<<第4実施形態>>
また、第1〜第3実施形態は、推定器を設けて回転子位置を推定する方式を採用しているが、実際の回転子位置を検出するようにしても構わない。即ち、図3、図14または図19に示すモータ制御装置の代わりに、図20のモータ制御装置3cを用いるようにしても構わない。
図20に示すモータ制御装置3cを含むモータ駆動システムを、本発明の第4実施形態として説明する。図20は、第4実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。モータ駆動システムは、モータ1と、インバータ2と、モータ制御装置3cと、を有して構成される。
モータ制御装置3cは、電流検出器11、座標変換器12、減算器13、減算器14、電流制御部15、磁束制御部16、速度制御部17、座標変換器18、減算器19、位置検出器50、微分器51、θm算出部52及び演算器53を有して構成される。つまり、モータ制御装置3cは、図14の推定器40を、「位置検出器50、微分器51、θm算出部52及び演算器53」に置換した構成となっている。その置換以外の点において、図14のモータ制御装置3a及びモータ駆動システムと、図20のモータ制御装置3c及びモータ駆動システムは、同様となっている。モータ制御装置3cを構成する各部位は、必要に応じてモータ制御装置3c内で生成される値の全てを自由に利用可能となっている。
推定された回転子位置ではなく検出された実回転子位置に基づいてモータ制御装置3c内の各部は動作するため、本実施形態において、第2実施形態における「γ及びδ」は「dm及びqm」に置き換えて考えられる。
位置検出器50は、ロータリエンコーダ等から成り、モータ1の実回転子位置θを検出し、その値を微分器51及び演算器53に与える。微分器51は、実回転子位置θを微分して実モータ速度ωを算出し、その値を減算器19、磁束制御部16及び電流制御部15に与える。
尚、定常状態において、実モータ速度ωとdm−qm軸の回転速度は、同じものとみなせる。このため、微分器51の入力値をθとしているが、微分器51の入力値を、θに代えて演算器53の出力値θdmとしてもかまわない。
速度制御部17は、減算器19の減算結果(ω*−ω)に基づいて、qm軸電流iqmが追従すべきqm軸電流指令値iqm *を作成する。磁束制御部16は、dm軸電流idmが追従すべきdm軸電流指令値idm *を出力する。このdm軸電流指令値idm *は、第2実施形態と同様に設定される。即ち、例えば、idm *はゼロまたはゼロ近傍の所定値とされる。
減算器13は、磁束制御部16が出力するidm *から、座標変換器12が出力するidmを差し引いて、電流誤差(idm *−idm)を算出する。減算器14は、速度制御部17が出力するiqm *から、座標変換器12が出力するiqmを差し引いて、電流誤差(iqm *−iqm)を算出する。
電流制御部15は、減算器13及び14にて算出された各電流誤差、座標変換器12からのidm及びiqm、並びに微分器51からの実モータ速度ωを受け、idmがidm *に追従するように、且つiqmがiqm *に追従するように、vdmが追従すべきdm軸電圧指令値vdm *とvqmが追従すべきqm軸電圧指令値vqm *を出力する。
θm算出部52は、速度制御部17からのiqm *を上記式(40)におけるiδとして利用しつつ、上記式(40)を用いてθmを算出する。この際、iqm *(iδ*)に応じたθmの値を事前にテーブルデータとして用意しておき該テーブルデータを参照することによってθmの値を得るようにしても構わない。
演算器53は、位置検出器50によって検出されたθとθm算出部52によって算出されたθmとを用いて、U相から見たdm軸の位相θdmを算出し、算出したθdmを座標変換器12及び18に与える。
座標変換器18は、与えられたθdmに基づいて、vdm *及びvqm *をvu *、vv *及びvw *から成る三相の電圧指令値に変換し、変換によって得られた値をPWMインバータ2に出力する。PWMインバータ2は、該三相の電圧指令値に応じたモータ電流Iaをモータ1に供給してモータ1を駆動する。
第4実施形態のように構成しても、第2実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
<<第5実施形態>>
ところで、第2及び第3実施形態(図14及び図19)にて説明したセンサレス制御は、発生する誘起電圧などに基づく制御であるため、モータ1の高速回転時においては特に有用である。しかしながら、低速回転時には推定の精度は必ずしも十分とは言えず、また、回転停止時には適用できない。第5実施形態では、低速回転時や回転停止時において特に有効に機能する、dm−qm軸に基づくセンサレス制御を説明する。
図24は、第5実施形態に係るモータ制御装置3dのブロック構成図である。モータ制御装置3dは、電流検出器11、座標変換器12、減算器13、減算器14、電流制御部15、磁束制御部16、速度制御部17、座標変換器18、減算器19及び位置・速度推定器200(以下、単に「推定器200」という)、重畳電圧生成部201、加算器202及び加算器203を有して構成される。モータ制御装置3dを構成する各部位は、必要に応じてモータ制御装置3d内で生成される値の全てを自由に利用可能となっている。
モータ制御装置3dは、重畳電圧生成部201並びに加算器202及び203が新たに追加されている点と、図14のモータ制御装置3aにおける推定器40が位置・速度推定器200(以下、単に推定器200という)に置換されている点で、図14のモータ制御装置3aと相違しており、他の点において、モータ制御装置3dと3aは同様である。尚、第2実施形態に記載した事項は、矛盾無き限り、本実施形態においても適用される。
推定器200は、推定回転子位置θe及び推定モータ速度ωeを推定して出力する。推定器200による具体的な推定手法については後述する。座標変換器12は、電流検出器11にて検出されたU相電流iu及びV相電流ivを、推定器200から与えられる推定回転子位置θeを用いて、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδに変換する。
減算器19は、推定器200から与えられる推定モータ速度ωeを、モータ速度指令値ω*から減算し、その減算結果(速度誤差)を出力する。速度制御部17は、減算器19の減算結果(ω*−ωe)に基づいて、δ軸電流指令値iδ*を作成する。磁束制御部16は、γ軸電流指令値iγ*を出力する。このγ軸電流指令値iγ*は、第1実施形態などと同様に設定される。例えば、iγ*はゼロまたはゼロ近傍の所定値とされる。
減算器13は、磁束制御部16が出力するγ軸電流指令値iγ*から、座標変換器12が出力するγ軸電流iγを差し引いて、電流誤差(iγ*−iγ)を算出する。減算器14は、速度制御部17が出力するδ軸電流指令値iδ*から、座標変換器12が出力するδ軸電流iδを差し引いて、電流誤差(iδ*−iδ)を算出する。
電流制御部15は、減算器13及び14にて算出された各電流誤差、座標変換器12からのγ軸電流iγ及びδ軸電流iδ、並びに推定器200からの推定モータ速度ωeを受け、γ軸電流iγがγ軸電流指令値iγ*に追従するように、且つδ軸電流iδがδ軸電流指令値iδ*に追従するように、γ軸電圧指令値vγ*とδ軸電圧指令値vδ*を出力する。
重畳電圧生成部201は、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*に重畳するための重畳電圧を生成して出力する。この重畳電圧は、vγ*に対するγ軸重畳電圧vhγ*
(重畳電圧のγ軸成分)と、vδ*に対するδ軸重畳電圧vhδ*(重畳電圧のδ軸成分)と、から成る。以下、γ軸重畳電圧vhγ*及びδ軸重畳電圧vhδ*を、総称して、重畳電圧vhγ*及びvhδ*ということもある。
加算器202は、電流制御部15から出力されるγ軸電圧指令値vγ*にγ軸重畳電圧vhγ*を加算し、その加算結果(vγ*+vhγ*)を座標変換器18に出力する。加算器203は、電流制御部15から出力されるδ軸電圧指令値vδ*にδ軸重畳電圧vhδ*を加算し、その加算結果(vδ*+vhδ*)を座標変換器18に出力する。
座標変換器18は、推定器200から与えられる推定回転子位置θeに基づいて、vhγ*が重畳されたγ軸電圧指令値(即ち、(vγ*+vhγ*))及びvhδ*が重畳されたδ軸電圧指令値(即ち、(vδ*+vhδ*))の逆変換を行い、三相の電圧指令値(vu *、vv *及びvw *)を作成して、それらをPWMインバータ2に出力する。この逆変換には、上記式(4)におけるvγ*及びvδ*を、夫々、(vγ*+vhγ*)及び(vδ*+vhδ*)に置換した式を用いる。PWMインバータ2は、該三相の電圧指令値に応じたモータ電流Iaをモータ1に供給してモータ1を駆動する。
このように、vγ*及びvδ*によって表される、モータ1を駆動するための駆動電圧に、重畳電圧が重畳される。この重畳電圧の重畳によって、γ軸電流指令値iγ*及びδ軸電流指令値iδ*にて表される、モータ1を駆動するための駆動電流に、上記重畳電圧に応じた重畳電流が重畳されることになる。
重畳電圧生成部201によって生成される重畳電圧は、例えば、高周波の回転電圧である。ここで、「高周波」とは、その重畳電圧の周波数が駆動電圧の周波数よりも十分に大きいことを意味している。従って、この重畳電圧に従って重畳される上記重畳電流の周波数は、上記駆動電流の周波数よりも十分に大きい。また、「回転電圧」とは、重畳電圧の電圧ベクトル軌跡が固定座標軸上で円を成すような電圧を意味する。
d−q軸或いはγ−δ軸などの回転座標軸上で考えた場合も、重畳電圧生成部201によって生成される重畳電圧の電圧ベクトル軌跡は、例えば図25の電圧ベクトル軌跡210のような円を成す。重畳電圧が3相平衡電圧の場合、その電圧ベクトル軌跡は、電圧ベクトル軌跡210の如く、回転座標軸上で原点を中心とする真円を成すことになる。この回転電圧(重畳電圧)は、モータ1に同期しない高周波の電圧であるため、この回転電圧の印加によってモータ1が回転することはない。
また、モータ1が埋込磁石形同期モータ等であってLd<Lqが成立するとき、電圧ベクトル軌跡210を成す重畳電圧によってモータ1に流れる重畳電流の電流ベクトル軌跡は、図26の電流ベクトル軌跡211に示す如く、γ−δ軸上で原点を中心とし、γ軸方向を長軸方向且つδ軸方向を短軸方向とする楕円を成す。但し、電流ベクトル軌跡211は、d軸とγ軸との軸誤差Δθがゼロの場合の電流ベクトル軌跡である。軸誤差Δθがゼロでない場合における重畳電流の電流ベクトル軌跡は、電流ベクトル軌跡212にて表される楕円のようになり、その長軸方向はγ軸方向と一致しない。即ち、軸誤差Δθがゼロでない場合は、γ−δ軸上で原点を中心として電流ベクトル軌跡211が傾き、電流ベクトル軌跡212を描くようになる。
重畳電流のγ軸成分及びδ軸成分を、夫々γ軸重畳電流ihγ及びδ軸重畳電流ihδとすると、それらの積(ihγ×ihδ)には、電流ベクトル軌跡212にて表される楕円の傾きに依存した直流成分が存在する。積(ihγ×ihδ)は、電流ベクトル軌跡の第1及び第3象限で正の値をとる一方で第2及び第4象限で負の値をとるため、楕円が傾いていない時は(電流ベクトル軌跡211の場合は)直流成分を含まないが、楕円が傾くと(電流ベクトル軌跡212の場合は)直流成分を含むようになる。尚、図26におけるI、II、III及びIVは、γ−δ軸上での第1、第2、第3及び第4象限を表している。
図27に、時間を横軸にとり、軸誤差Δθがゼロの場合における積(ihγ×ihδ)とその積の直流成分を夫々曲線220及び221にて表す。図28に、時間を横軸にとり、軸誤差Δθがゼロではない場合における積(ihγ×ihδ)とその積の直流成分を夫々曲線222及び223にて表す。図27及び図28からも分かるように、積(ihγ×ihδ)の直流成分は、Δθ=0°の場合にゼロとなり、Δθ≠0°の場合にゼロとならない。また、この直流成分は、軸誤差Δθの大きさが増大するにつれて大きくなる(軸誤差Δθに概ね比例する)。従って、仮に、この直流成分がゼロに収束するように制御すれば、軸誤差Δθはゼロに収束するようになる。
図24の推定器200は、この点に着目して推定動作を行う。但し、dm−qm軸を推定するために、d軸とγ軸との軸誤差Δθではなくdm軸とγ軸との軸誤差Δθmがゼロに収束するように推定動作を行う。
図29に、推定器200の一例としての推定器(位置・速度推定器)200aの内部ブロック図を示す。推定器200aは、軸誤差推定部231と、比例積分演算器232と、積分器233と、を有して構成される。比例積分演算器232及び積分器233は、それぞれ、図4の比例積分演算器31及び積分器32と同様のものである。
軸誤差推定部231は、iγ及びiδを用いて軸誤差Δθmを算出する。比例積分演算器232は、PLL(Phase Locked Loop)を実現すべく、モータ制御装置3dを構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、軸誤差推定部231が算出した軸誤差Δθmがゼロに収束するように推定モータ速度ωeを算出する。積分器233は、比例積分演算器232から出力される推定モータ速度ωeを積分して推定回転子位置θeを算出する。比例積分演算器232が出力する推定モータ速度ωeと積分器233が出力する推定回転子位置θeは、共に推定器200aの出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3dの各部位に与えられる。また、推定モータ速度ωeは、軸誤差推定部231にも与えられる。
図29の軸誤差推定部231の内部構成例を、図30に示す。図30に示す如く、軸誤差推定部231は、BPF(バンドパスフィルタ)241と、LPF(ローパスフィルタ)242と、θm算出部243と、座標回転部244と、軸誤差算出部245と、を有する。また、図31に示す如く、軸誤差算出部245は、乗算器246と、LPF247と、係数乗算器248と、を有する。今、重畳電圧生成部201が生成する重畳電圧vhγ*及びvhδ*の周波数(γ−δ座標軸上における電気角速度)をωhとする。
BPF241は、図24の座標変換器12から出力されるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδからωhの周波数成分を抽出して、γ軸重畳電流ihγ及びδ軸重畳電流ihδを出力する。BPF241は、iγ及びiδを入力信号として受ける、ωhの周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタであり、典型的には例えば、その通過帯域の中心周波数はωhとされる。また、BPF241によって駆動電流の周波数成分は除去される。
LPF242は、図24の座標変換器12より出力されるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδから、高周波成分であるωhの周波数成分を除去したものをθm算出部243に送る。即ち、LPF242によって、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδから、重畳電流(ihγ及び
ihδ)の成分が除去される。
θm算出部243は、ωhの周波数成分が除去されたγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの値に基づいて、位相θmを算出する(図11参照)。具体的には、ωhの周波数成分が除去されたδ軸電流iδの値を上記式(40)におけるiδとして利用しつつ、上記式(40)を用いてθmを算出する。この際、iδに応じたθmの値を事前にテーブルデータとして用意しておき該テーブルデータを参照することによってθmの値を得るようにしても構わな
い。
座標回転部244は、下記式(64)を用い、重畳電流ihγ及びihδによって形成される電流ベクトルihを、θmで表される位相分だけ座標回転させて、電流ベクトルihmを算出する。この際、θm算出部243にて算出されたθmの値が用いられる。電流ベクトルih及びihmは、下記式(65a)及び(65b)のように表される。ihγ及びihδは、電流ベクトルihを形成する直交2軸成分であり、それらは、それぞれ電流ベクトルihのγ軸成分とδ軸成分である。ihmγ及びihmδは、電流ベクトルihmを形成する直交2軸成分である。座標回転部244にて算出されたihmγ及びihmδは、軸誤差算出部245に送られる。
この座標回転の前後の電流ベクトル軌跡例を表す図32を参照して、座標回転の意義について補足説明する。真円の回転電圧を重畳した場合、即ち、図25の電圧ベクトル軌跡210を描くような重畳電圧を印加した場合を考える。この場合、モータ1の磁気突極性に起因して、回転座標軸上における電流ベクトルihの軌跡は、電流ベクトル軌跡251の如く、d軸に対して軸対象な楕円を成す(即ち、d軸方向と長軸方向とが一致した楕円を成す)。座標回転部244は、この楕円が、dm軸に対して軸対象となるように、電流ベクトルihに回転行列をかけて電流ベクトルihmを算出する。これによって、電流ベクトルihmの軌跡は電流ベクトル軌跡252のようになる。
回転座標軸上において電流ベクトル軌跡252は楕円を成し、その長軸方向は、Δθm=0°のときにはdm軸方向と一致するが、Δθm≠0°のときにはdm軸方向と一致しない。従って、電流ベクトルihmの直交2軸成分の積(ihmγ×ihmδ)の直流成分を(ihmγ×ihmδ)DCと表記すると、積(ihγ×ihδ)の直流成分と軸誤差Δθとの関係と同様、直流成分(ihmγ×ihmδ)DCは、軸誤差Δθmがゼロの場合にゼロとなり、軸誤差Δθmに概ね比例する。このため、比例係数をKとすると、軸誤差Δθmを、下記式(66)によって表すことができる。
式(66)にて表される算出を実現すべく、軸誤差算出部245は、図31に示すように構成される。即ち、乗算器246は、座標回転部244にて算出されたihmγとihmδの積を算出し、LPF247は、その積(ihmγ×ihmδ)の直流成分を抽出して、(ihmγ×ihmδ)DCを得る。係数乗算器248は、LPF247から出力される直流成分(ihmγ×ihmδ)DCに比例係数Kを乗算して、式(66)にて表される軸誤差Δθmを算出する。係数乗算器248から出力される軸誤差Δθmは、図29の軸誤差推定部231が推定した軸誤差Δθmとして比例積分演算器232に送られ、上述の如く、軸誤差Δθmがゼロに収束するように推定モータ速度ωe及び推定回転子位置θeの算出が行われる。つまり、γ−δ軸がdm−qm軸に追従するようになる(dm−qm軸が推定される)。
上述の如く、高周波の重畳電圧を重畳し、これに応じて流れる重畳電流成分に基づいて回転子位置を推定するようにすれば、特に、モータ1の停止状態や低速運転状態において、良好に回転子位置を推定することが可能となる。
[重畳電圧についての変形列]
最も典型的な例として、重畳電圧生成部201にて生成される重畳電圧が真円の回転電圧である場合を例に挙げたが、重畳電圧生成部201によって生成される重畳電圧として、様々な重畳電圧を採用することが可能である。但し、重畳電圧の回転座標軸上(d−q軸上など)での電圧ベクトル軌跡を、d軸に対して軸対象な軌跡にする必要がある。より詳しくは、重畳電圧の回転座標軸上(d−q軸上など)での電圧ベクトル軌跡が原点を内包し且つd軸を基準として対象性を有する図形を描く必要がある。重畳電圧の印加に由来する重畳電流の電流ベクトル軌跡がd軸に対して軸対象な軌跡となっていることを前提条件として、図29の軸誤差推定部231は構成されているからであり、電圧ベクトル軌跡をd軸に対して軸対象とすることで該前提条件が満たされるからである。
ここで、「原点を内包し」とは、上記「対象性を有する図形」の内部に回転座標軸上(d−q軸上など)における原点が存在することを意味する。また、「d軸を基準として対象性を有する」とは、d−q軸上における電圧ベクトル軌跡の、第1象限及び第2象限の部分の図形と第3象限及び第4象限の部分の図形との間にd軸を軸とする線対称の関係が成立していることを意味する。
例えば、回転座標軸上(d−q軸上など)における重畳電圧の電圧ベクトル軌跡は、d軸方向を短軸方向または長軸方向とする楕円でもよいし、d軸またはq軸上の線分でもよいし(即ち、重畳電圧は交番電圧でもよいし)、原点を中心とする四角形でもよい。
図33に、楕円状の回転電圧を重畳電圧として印加した場合における電流ベクトルih及びihmの軌跡を示す。図34に、d軸成分のみを持つ交番電圧を重畳電圧として印加した場合における電流ベクトルih及びihmの軌跡を示す。
但し、印加する重畳電圧の電圧ベクトル軌跡が真円でない場合は、図30のθm算出部243の算出値である位相θmを、図24の重畳電圧生成部201に与える必要がある。重畳電圧の電圧ベクトル軌跡が真円である場合は、重畳電圧の位相に関係なく重畳電圧の電圧ベクトル軌跡はd軸に対して軸対象となるのであるが、真円でない場合は、該電圧ベクトル軌跡をd軸に対して軸対象とするために位相θmの情報が必要となるからである。
例えば、重畳電圧を真円の回転電圧とする場合、重畳電圧生成部201は下記式(67)によって表される重畳電圧を生成し、重畳電圧を楕円の回転電圧又は交番電圧とする場合、重畳電圧生成部201は下記式(68)によって表される重畳電圧を生成する。ここで、Vhγ及びVhδは、夫々、重畳電圧のγ軸方向の振幅及び重畳電圧のδ軸方向の振幅である。tは、時間を表す。
[軸誤差の理論式の導出]
軸誤差Δθmが直流成分(ihmγ×ihmδ)DCに比例することを利用してdm−qm軸の推定を行う手法を説明したが、ここで、この推定の原理に関する理論式について考察する。但し、説明の便宜上、d−q軸の推定を行う場合についての考察を行う。即ち、d軸とγ軸との軸誤差Δθを算出する場合における理論式の導出を行う。
まず、重畳成分に関する方程式は、下記式(69)によって表される。ここで、下記式(70a)、(70b)、(70c)、(70d)及び(70e)が成立する。尚、pは、微分演算子である。
印加する重畳電圧が上記式(67)によって表されるとすると、この重畳電圧の印加に応じて流れる重畳電流の直交2軸成分ihγ及びihδは、下記式(71)にて表される。式(71)中におけるsは、ラプラス演算子であり、θh=ωht、である
上記式(71)に基づき、重畳電流の直交2軸成分の積を整理すると、下記式(72)が得られる。ここで、K1〜K7は、Ld、Lq、Vhγ及びVhδが特定されれば定まる係数である。
電流ベクトルihの直交2軸成分の積(ihγ×ihδ)の直流成分を(ihγ×ihδ)DCと表記する。直流成分は、θhにて変動する項を含まないので、式(73)のように表される。
Δθ≒0の場合は、sin(2Δθ)≒2Δθ、sin(4Δθ)≒4Δθ、と近似できるため、軸誤差Δθは、下記式(74)にて表すことができる。式(74)におけるKは、係数K2及びK3にて定まる係数である。尚、重畳電圧が真円の回転電圧である場合は、係数K3はゼロとなって、式(73)からΔθの4倍の正弦項は無くなる。
上記式(74)の導出法を、軸誤差Δθmに対して適用することにより、上記の式(66)を得ることができる。
[軸誤差算出部についての変形例]
図30の座標回転部244の座標回転によって得られる電流ベクトルihmの直交2軸成分(即ち、ihmγとihmδ)の双方を用いて軸誤差Δθmを算出する場合を例示したが、その直交2軸成分の内、1軸成分(即ち、ihmγ又はihmδ)のみを用いて軸誤差Δθmを算出するようにしてもよい。但し、1軸成分のみを用いて軸誤差Δθmを算出する場合、図24の重畳電圧生成部201によって生成される重畳電圧は、d軸成分またはq軸成分のみを持つ交番電圧である必要がある。
交番電圧を重畳し、この交番電圧の重畳に応じて流れる重畳電流のベクトルの1軸成分(即ち、ihγ又はihδ)に基づいて軸誤差Δθを算出する手法は、古くから知られている(例えば、上記特許文献3参照)。このため、その手法の詳細な説明は割愛する。d−q軸をdm−qm軸に置き換えて、その手法を適用することにより、電流ベクトルihmの1軸成分(即ち、ihmγ又はihmδ)のみを用いて軸誤差Δθmを算出することが可能である。
また、高周波電圧を重畳し、これに応じて流れる電流に基づいて回転子位置及びモータ速度を推定する手法は、多数存在する(例えば、上記特許文献4〜6参照)。これらの手法を、dm−qm軸に転用して推定処理を行うようにしても構わない。
<<第6実施形態>>
第5実施形態に対応する低速回転状態(及び停止状態)に特に適したにセンサレス制御と、第2又は第3実施形態に対応する高速回転状態に特に適したセンサレス制御と、を組み合わせることにより、停止状態を含む広い速度範囲にて、良好なセンサレス制御を実現することができる。この組み合わせに対応する実施形態として、第6実施形態を説明する。第2、第3及び第5実施形態にて説明した事項は、矛盾無き限り、第6実施形態でも適用される。
第6実施形態に係るモータ制御装置の全体的構成は、図24のそれと同じであるため、別途の図示を省略する。但し、第6実施形態に係るモータ制御装置では、推定器200の内部構成が図29の推定器200aと異なる。このため、第5実施形態との相違点である推定器200の内部構成及び動作について説明する。
本実施形態に適用可能な推定器200の例として、第1、第2及び第3の推定器例を、以下に説明する。
[第1の推定器例]
まず、第1の推定器例を説明する。図35は、第1の推定器例に係る位置・速度推定器200b(以下、単に「推定器200b」と呼ぶ)の内部構成例である。推定器200bは、図24における推定器200として用いることができる。
推定器200bは、第1軸誤差推定部261と、第2軸誤差推定部262と、切替処理部263と、比例積分演算器264と、積分器265と、を有する。
第1軸誤差推定部261は、第5実施形態で説明した図29の軸誤差推定部231と同様の部位であり、iγ及びiδに基づいて、qm軸とδ軸との軸誤差を算出する。但し、第5実施形態では、この算出された軸誤差が推定器200(又は200a)にて算出されるべき軸誤差Δθmとして取り扱われることになるが、本実施形態では、それが推定器200bにて算出されるべき軸誤差Δθmの候補とされる。つまり、第1軸誤差推定部261は、自身の構成要素となる軸誤差算出部245など(図30参照)を介して算出したqm軸とδ軸との軸誤差を、軸誤差Δθmの候補として算出及び出力する。第1軸誤差推定部261の出力値を、第1候補軸誤差Δθm1と呼ぶ。尚、第1軸誤差推定部261は、第1候補軸誤差Δθm1の算出の際、必要に応じて、比例積分演算器264の出力値(推定モータ速度ωe)を利用する。
第2軸誤差推定部262は、第2実施形態で説明した図15の軸誤差推定部41と同様の部位であり、vγ*、vδ*、iγ及びiδの値の全部または一部を用い、第2実施形態にて説明した第1〜第5算出法などに基づいて、qm軸とδ軸との軸誤差を軸誤差Δθmの候補として算出及び出力する。第2軸誤差推定部262の出力値を、第2候補軸誤差Δθm2と呼ぶ。尚、後にも述べるが、第2候補軸誤差Δθm2の算出の際に用いるiγ及びiδの値に、重畳電圧に由来する重畳電流(ihγ及びihδ)の成分が含まれないようにすべきである。また、第2軸誤差推定部262は、第2候補軸誤差Δθm2の算出の際、必要に応じて、比例積分演算器264の出力値(推定モータ速度ωe)を利用する。
切替処理部263は、第1候補軸誤差Δθm1を第1入力値として受けると共に第2候補軸誤差Δθm2を第2入力値として受け、モータ1の回転子の回転速度を表す速度情報に応じて、第1入力値と第2入力値から出力値を算出して出力する。推定器200bにおいては、速度情報として、比例積分演算器264にて算出される推定モータ速度ωeが用いられる。但し、速度情報として、モータ速度指令値ω*を用いても構わない。
切替処理部263は、例えば、図36に示す如く、速度情報に応じて第1入力値及び第2入力値の何れか一方をそのまま出力値として出力する。この場合、切替処理部263は、速度情報によって表される回転速度が所定の閾値速度VTHより小さい時に第1入力値を出力値として出力し、閾値速度VTHより大きい時に第2入力値を出力値として出力する。
また、切替処理部263にて加重平均処理を行うようにしても構わない。この場合、切替処理部263は、速度情報によって表される回転速度が、所定の第1閾値速度VTH1よりも小さい時は第1入力値を出力値として出力し、所定の第2閾値速度VTH2よりも大きい時は第2入力値を出力値として出力する。そして、速度情報によって表される回転速度が第1閾値速度VTH1から第2閾値速度VTH2の範囲内にあるとき、第1入力値と第2入力値の加重平均値を出力値として算出及び出力する。ここで、VTH1<VTH2、が成立する。
加重平均処理は、例えば、速度情報によって表される回転速度に応じて行われる。つまり、図37の模式図に示す如く、速度情報によって表される回転速度が第1閾値速度VTH1から第2閾値速度VTH2の範囲内にあるとき、その回転速度が増加するに従って出力値に対する第2入力値の寄与率が増大するように、その回転速度が減少するに従って出力値に対する第1入力値の寄与率が増大するように、第1入力値と第2入力値の加重平均を行う。
また例えば、加重平均処理は、切替え開始からの経過時間に応じて行われる。つまり、例えば、図38の模式図に示す如く、速度情報によって表される回転速度が第1閾値速度VTH1より小さい状態から第1閾値速度VTH1より大きい状態に移行したタイミングt1を基準として、出力値を第1入力値から第2入力値に切替え始める。タイミングt1時点では、出力値は例えば第1入力値とされる。そして、タイミングt1からの経過時間が増大するに従って出力値に対する第2入力値の寄与率が増大するように、第1入力値と第2入力値の加重平均を行う。切替え開始のタイミングt1から所定の時間が経過した時点で、出力値を第2入力値に一致させて切替えを終了する。速度情報によって表される回転速度が第2閾値速度VTH2より大きい状態から第2閾値速度VTH2より小さい状態に移行した場合も同様である。尚、切替え開始からの経過時間に応じて加重平均処理を行う場合、第1閾値速度VTH1と第2閾値速度VTH2は同じであってもよい。
尚、閾値速度VTHは、例えば10rps(rotation per second)〜30rpsの範囲内の回転速度とされ、第1閾値速度VTH1は、例えば10rps〜20rpsの範囲内の回転速度とされ、第2閾値速度VTH2は、例えば20rps〜30rpsの範囲内の回転速度とされる。
図35の推定器200bにおいて、切替処理部263の出力値は、速度推定部として機能する比例積分演算器264に与えられる。比例積分演算器264は、PLLを実現すべく、モータ制御装置3dを構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、切替処理部263の出力値がゼロに収束するように推定モータ速度ωeを算出する。積分器265は、比例積分演算器264から出力される推定モータ速度ωeを積分して推定回転子位置θeを算出する。比例積分演算器264が出力する推定モータ速度ωeと積分器265が出力する推定回転子位置θeは、共に推定器200bの出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3dの各部位に与えられる。
[第2の推定器例]
次に、第2の推定器例を説明する。図39は、第2の推定器例に係る位置・速度推定器200c(以下、単に「推定器200c」と呼ぶ)の内部構成例である。推定器200cは、図24における推定器200として用いることができる。
推定器200cは、第1軸誤差推定部261と、第2軸誤差推定部262と、切替処理部263と、比例積分演算器266及び267と、積分器268と、を有する。推定器200cでは、推定速度の段階で切替処理を行う。
推定器200cにおける第1軸誤差推定部261及び第2軸誤差推定部262は、図35の推定器200bにおけるそれらと同様のものである。但し、第1軸誤差推定部261は、第1候補軸誤差Δθm1の算出の際、必要に応じて、比例積分演算器266の出力値(後述する第1候補速度ωe1)を推定モータ速度ωeと取り扱って利用する。同様に、第2軸誤差推定部262は、第2候補軸誤差Δθm2の算出の際、必要に応じて、比例積分演算器267の出力値(後述する第2候補速度ωe2)を推定モータ速度ωeと取り扱って利用する。
比例積分演算器266は、PLLを実現すべく、モータ制御装置3dを構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、第1候補軸誤差Δθm1がゼロに収束するように推定モータ速度を算出する。比例積分演算器266にて算出された推定モータ速度は、第1候補速度ωe1として出力される。
比例積分演算器267は、PLLを実現すべく、モータ制御装置3dを構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、第2候補軸誤差Δθm2がゼロに収束するように推定モータ速度を算出する。比例積分演算器267にて算出された推定モータ速度は、第2候補速度ωe2として出力される。
推定器200cにおける切替処理部263は、図35の推定器200bにおけるそれと同様のものである。但し、推定器200cにおいては、切替処理部263の第1入力値及び第2入力値は、それぞれ第1候補速度ωe1及び第2候補速度ωe2となっている。このため、推定器200cにおける切替処理部263は、モータ1の回転子の回転速度を表す速度情報に応じて、第1候補速度ωe1、第2候補速度ωe2又はそれらの加重平均値を出力することになる。尚、速度情報としては、モータ速度指令値ω*を用いるとよい。切替処理部263の出力値は、回転速度に適応した推定モータ速度ωeとなる。
積分器268は、切替処理部263から出力される推定モータ速度ωeを積分して推定回転子位置θeを算出する。切替処理部263が出力する推定モータ速度ωeと積分器268が出力する推定回転子位置θeは、共に推定器200cの出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3dの各部位に与えられる。
[第3の推定器例]
次に、第3の推定器例を説明する。図40は、第3の推定器例に係る位置・速度推定器200d(以下、単に「推定器200d」と呼ぶ)の内部構成例である。推定器200dは、図24における推定器200として用いることができる。
推定器200dは、第1軸誤差推定部261と、第2軸誤差推定部262と、切替処理部263と、比例積分演算器266及び267と、積分器269及び270と、を有する。推定器200dでは、推定位置の段階で切替処理を行う。
推定器200dにおける第1軸誤差推定部261及び第2軸誤差推定部262並びに比例積分演算器266及び267は、図39の推定器200cにおけるそれらと同様のものである。積分器269は、比例積分演算器266から出力される第1候補速度ωe1を積分して第1候補位置θe1を算出する。積分器270は、比例積分演算器267から出力される第2候補速度ωe2を積分して第2候補位置θe2を算出する。
推定器200dにおける切替処理部263は、図35の推定器200bにおけるそれと同様のものである。但し、推定器200dにおいては、切替処理部263の第1入力値及び第2入力値は、それぞれ第1候補位置θe1及び第2候補位置θe2となっている。このため、推定器200dにおける切替処理部263は、モータ1の回転子の回転速度を表す速度情報に応じて、第1候補位置θe1、第2候補位置θe2又はそれらの加重平均値を出力することになる。尚、速度情報としては、モータ速度指令値ω*を用いるとよい。切替処理部263の出力値は、回転速度に適応した推定回転子位置θeとなる。
切替処理部263が出力する推定回転子位置θeは推定器200dの出力値として、その値を必要とするモータ制御装置3dの各部位に与えられる。必要であれば、切替処理部263が出力する推定回転子位置θeを微分して推定モータ速度ωeを算出するようにしてもよい。
尚、推定器200bの説明にて記載した事項は、矛盾なき限り、推定器200c及び推定器200dに対しても適用可能である。
また、低速回転時など、第1軸誤差推定部261にて算出される第1候補軸誤差Δθm1が必要となるタイミングにおいては、重畳電圧生成部201による重畳電圧の生成が必須となるが、高速回転時など、第1軸誤差推定部261にて算出される第1候補軸誤差Δθm1が必要とならないタイミングにおいては、重畳電圧生成部201による重畳電圧の生成を休止するようにすると良い。第2候補軸誤差Δθm2の算出にとって必要なのは駆動電圧(vγ*及びvδ*)に応じて流れる駆動電流成分であり、重畳電流成分は第2候補軸誤差Δθm2の算出に対してノイズとなるからである。
但し、加重平均処理を行う場合などでは、重畳電圧を重畳しつつ、第2候補軸誤差Δθm2を算出する必要がある。そのような場合は、座標変換器12からのγ軸電流iγ及びδ軸電流iδに高域遮断処理を施して、重畳電流(ihγ及びihδ)の成分を除去したγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの値を第2候補軸誤差Δθm2の算出に利用するとよい。
このように推定器(200b、200c又は200d)を形成することにより、モータ1の回転停止状態及び低速回転状態においては、重畳電流成分に基づいて算出された値(Δθm1、ωe1又はθe1)を用いての低速用推定処理が実行され、モータ1の高速回転状態においては、駆動電流成分に基づいて算出された値(Δθm2、ωe2又はθe2)を用いての高速用推定処理が実行される。このため、広い速度範囲で、良好なセンサレス制御が実現可能となる。
仮に、従来のd−q軸を推定する低速用センサレス制御と、第2又は第3実施形態に対応するdm−qm軸を推定する高速用センサレス制御と、を回転速度に応じて切替えようとすると、異なる座標間での切替えが必要となるため、滑らかな切替えの実現にとって問題が生じうる。また、最大トルク制御を実現する場合、d−q軸に基づく制御下ではq軸電流(δ軸電流)に応じたd軸電流(γ軸電流)が必要になるのに対して、dm−qm軸に基づく制御下ではdm軸電流(γ軸電流)はゼロ又は略ゼロとされるため、γ軸電流指令値iγ*が切替えに伴って不連続となってしまう。一方において、本実施形態に示したように、dm−qm軸に基づく制御下での切替えを行うようにすれば、これらの問題は解決される。
また、低速用推定処理と高速用推定処理との切替えを、加重平均処理を用いて徐々に行うようにすることにより、回転子位置及びモータ速度の推定値の連続性が担保され、滑らかに推定処理の切替えが行われるようになる。但し、図35の推定器200bのように、軸誤差推定の段階にて切替えを行う場合は、PLLの特性で定まる応答速度でしか回転子位置及びモータ速度の推定値は変化しないため、加重平均処理を行わずとも、それらの推定値の連続性は担保される。
<<変形等>>
各実施形態で説明した事項は、矛盾なき限り、他の実施形態にも適用可能である。例えば、第2実施形態にて説明した事項(式など)は、全て第3〜第6実施形態に適用可能である。また、上述した説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。
上述の第1〜第6実施形態において、磁束制御部16はゼロまたは略ゼロのiγ*またはidm *を出力すると説明したが、弱め磁束制御を行う必要がある回転速度においては、その回転速度に応じた値を有するiγ*またはidm *を出力してもよいのは、勿論である。
また、電流検出器11は、図3等に示す如く、直接モータ電流を検出する構成にしてもいいし、それに代えて、電源側のDC電流の瞬時電流からモータ電流を再現し、それによってモータ電流を検出する構成にしてもよい。
また、各実施形態におけるモータ制御装置の機能の一部または全部は、例えば汎用マイクロコンピュータ等に組み込まれたソフトウェア(プログラム)を用いて実現される。ソフトウェアを用いてモータ制御装置を実現する場合、モータ制御装置の各部の構成を示すブロック図は機能ブロック図を表すこととなる。勿論、ソフトウェア(プログラム)ではなく、ハードウェアのみによってモータ制御装置を構成しても構わない。
[qm軸の選定]
また、最大トルク制御(或いはそれに近似した制御)を実現することを前提として第2〜第6実施形態の説明を行ったが、上述してきた内容を流用することによって最大トルク制御と異なる所望のベクトル制御を得ることが可能である。勿論、その際も、上述したパラメータ調整の容易化等の効果が得られる。
例えば、第2〜第6実施形態において、最大トルク制御を実現する際にモータ1に供給されるべき電流ベクトルの向きと向きが一致する回転軸よりも更に位相が進んだ回転軸をqm軸として採用する。これにより、鉄損を低減することができ、モータの効率が向上する。qm軸の位相を適切に進めれば最大効率制御を実現することも可能である。
最大トルク制御を実現する場合には、Lmの値を上記式(42)にて算出することになるが、上記式(42)にて算出する値よりも小さな値をLmの値として採用することにより、モータの効率を向上することができる。
第1実施形態(図3)において、モータ制御装置3から推定器20を除いた部分は、制御部を構成している。第2実施形態(図14)において、モータ制御装置3aから推定器40を除いた部分は、制御部を構成している。第3実施形態(図19)において、モータ制御装置3bから推定器45、θm算出部46及び演算器47を除いた部分は、制御部を構成している。
第4実施形態(図20)において、位置検出器50、θm算出部52及び演算器53はθdm算出部を構成し、モータ制御装置3cからθdm算出部を除いた部分は、制御部を構成している。
第5及び第6実施形態(図24)において、モータ制御装置3dから推定器200と重畳電圧生成部201を除いた部分は、制御部を構成している。
第6実施形態に係る図35の推定器200bにおいて、第1軸誤差推定部261及び第2軸誤差推定部262は、それぞれ、第1の候補軸誤差算出部及び第2の候補軸誤差算出部として機能する。第6実施形態に係る図39の推定器200cにおいて、第1軸誤差推定部261及び比例積分演算器266から成る部位は第1の候補速度算出部として機能し、第2軸誤差推定部262及び比例積分演算器267から成る部位は第2の候補速度算出部として機能する。第6実施形態に係る図40の推定器200dにおいて、第1軸誤差推定部261、比例積分演算器266及び積分器269から成る部位は第1の候補位置算出部として機能し、第2軸誤差推定部262、比例積分演算器267及び積分器270から成る部位は第2の候補位置算出部として機能する。
各実施形態において、座標変換器12及び18、減算器13及び14並びに電流制御部15は、電圧指令演算部を構成している。磁束制御部16、速度制御部17及び減算器19は、電流指令演算部を構成している。
また、本明細書では、記述の簡略化上、記号(iγなど)のみの表記によって、その記号に対応する状態量などを表現している場合もある。即ち、本明細書では、例えば、「iγ」と「γ軸電流iγ」は同じものを指す。
また、本明細書において下記の点に留意すべきである。上記の数m(mは1以上の整数)と表記した墨付きかっこ内の式(式(1)等)の記述において、所謂下付き文字として表現されているγ及びδは、それらの墨付きかっこ外において、下付き文字でない標準文字として表記されうる。このγ及びδの下付き文字と標準文字との相違は無視されるべきである。