JP2009262743A - 回転体のシミュレーション方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】タイヤ等の回転体の周上のどの位置で、回転体に作用する物理量が変化して回転体の回転時の性能に影響を与えるかを、知ることができ、かつ、効率よく回転体の回転時の性能を算出する回転体のシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】回転体モデルの周上に入力を与えることにより、回転体の静止状態のシミュレーションを行う。この結果を用いて、回転体モデル中の注目要素が周方向に1周するときの周方向経路に沿った第1の物理量の変化情報を、回転体の回転周期に合せて時間変化情報に変換する。この時間変化情報を、代表モデルに与えて、注目要素に生じる第2の物理量の時間履歴情報を算出する。前記注目要素を替えながら、第2の物理量の時間履歴情報の算出を繰り返し、時間履歴情報を注目要素のサイズに応じて修正して累積することにより、第2の物理量の時間履歴を算出する。
【選択図】図2

Description

本発明は、有限要素法を用いた回転体のシミュレーション方法であり、好適には、タイヤが接地面に接地して転動するときの転がり抵抗値の算出を効率よく行うシミュレーション方法に関する。
タイヤは、粘弾性材料からなる複数のゴム部材から構成されている。このため、タイヤが負荷荷重を与えられて地面に接地して転動している状態では、タイヤの各部分は、タイヤ周上で回転しながら接地面から変形を受ける。このとき、タイヤを構成する粘弾性材料であるゴム部材は、タイヤの回転に合せて応力と歪みを受ける。これに伴って粘弾性損失エネルギが発生し、このエネルギロスがタイヤの転がり抵抗になる。
転がり抵抗を低減するためには、例えば、トレッドゴム部材の損失係数(tanδ)を低減し、またトレッドゴム部材の体積を低減すればよい。しかし、これらの低減手法は、タイヤの湿潤性能や操縦安定性を低下させるといった二律背反の問題が生じるため、トレッドゴム部材の損失係数(tanδ)やトレッドゴム部材の体積を自由に低減することはできない。
転がり抵抗を低減するために、下記特許文献1では、タイヤの転がり抵抗を精度よくシミュレーションすることのできる方法が記載されている。
当該文献では、まず、タイヤの接地状態の下、タイヤ子午断面における注目する位置のタイヤの歪みと応力の周方向における変化を取り出し、この変化をフーリエ級数展開することにより、各フーリエ次数ごとに応力と歪みの振幅、位相を演算する。次に、材料の損失係数に応じた位相遅れを歪みの値に与えての各フーリエ次数ごとのヒステリシスループの面積を求め、この面積に基づいてフーリエ次数とヒステリシスループ面積の積の総和を導出する。この一連の処理を応力及び歪みの全成分について繰り返し各成分ごとの総和を演算することにより注目する位置における発熱エネルギ密度を導出し、この発熱エネルギ密度から、タイヤの各領域における発熱エネルギを導出する。導出したタイヤの各領域における発熱エネルギから、タイヤの全体の発熱エネルギを導出する。
これにより、演算時間が短かく実用的な静的有限要素解析を用い、応力、ひずみのヒステリシスループの面積から忠実度の高いタイヤ発熱エネルギ(粘弾性損失エネルギ)およびタイヤの転がり抵抗値の推定を行うことができるとされている。
上記特許文献では、回転体発熱エネルギおよび回転体の転がり抵抗の推定を効率よく行うことは可能である。しかし、タイヤの転動中、タイヤ周上のどの位置で粘弾性損失エネルギが増大し、タイヤの転がり抵抗値に影響を与えているかを知ることはできない。このため、転がり抵抗を効率よく低減するために、タイヤ周上のどの位置におけるタイヤの変形状態に注目し対応策をとればよいか不明である。
一方、タイヤを再現する3次元有限要素モデルを作成し、このモデルを転動させるシミュレーションを行って、粘弾性損失エネルギを算出し、この粘弾性損失エネルギを用いてタイヤの転がり抵抗値を求めることも可能である。しかし、粘弾性特性を材料定数に与えた3次元有限要素モデルを用いて転動するシミュレーションを行う場合、計算処理が膨大になり、計算結果を得るまでに長時間を要する。このため、効率の良く、粘弾性損失エネルギや転がり抵抗値を求めることはできない。
このような問題は、タイヤのみに限らず、回転体が、回転体の周上の一部分から入力を受けて転動する状態を再現する場合においても同様の問題が生じる。
本発明は、上記問題点を解消し、タイヤ等の回転体の周上のどの位置で、回転体に作用する物理量が変化して回転体の回転時の性能に影響を与えるかを、知ることができ、かつ、効率よく回転体の回転時の性能を算出することができる回転体のシミュレーション方法を提供することを目的とする。
本発明は、有限要素法を用いた回転体のシミュレーション方法であって、回転体を、複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルと、前記回転体の一部分を有限要素を用いて再現する代表モデルと、を作成する第1のステップと、前記回転体モデルの周上の少なくとも一部分に、設定されたシミュレーション条件を付与して、回転体の静止状態のシミュレーションを有限要素法を用いて行う第2のステップと、前記回転体モデルの回転軸を含む、回転軸に平行な平面で切断した回転体の子午断面上に位置する有限要素の1つを注目要素とし、この注目要素が、前記回転体モデルの周方向に1周する周方向経路を定める第3のステップと、前記シミュレーションを行った前記回転モデルの前記注目要素に作用する、前記周方向経路に沿った第1の物理量の変化情報を、前記回転体が回転するときの回転周期に合せて、前記第1の物理量の時間変化情報に変換する第4のステップと、前記変換によって生成された前記第1の物理量の前記時間変化情報を、前記代表モデルに与えて、前記注目要素が前記周方向経路に沿って一周するときの、前記注目要素に生じる第2の物理量の時間履歴情報を、有限要素法を用いてシミュレーションを行うことにより算出する第5のステップと、前記第3のステップにおける前記注目要素を替えながら、前記第3のステップ、前記第4のステップ、及び前記第5のステップを繰り返し、前記時間履歴情報を算出するたびに、前記時間履歴情報を前記注目要素のサイズに応じて修正して、前記回転体の回転状態における前記第2の物理量の時間履歴の情報を累積する第6のステップと、を有することを特徴とする回転体のシミュレーション方法を提供する。
前記代表モデルには、前記回転体の、前記注目要素に対応する対応部分の粘弾性特性を再現する材料特性が与えられることが好ましい。さらに、前記第2の物理量は、粘弾性損失エネルギであることが好ましい。
前記第6のステップでは、前記回転体を構成する複数の部材のうち少なくとも1つ以上の部材を注目部材とし、前記回転体モデルの前記注目部材に位置するすべての有限要素を、前記注目要素の対象として前記時間履歴情報の累積を行うことにより、前記注目部材における前記第2の物理量の時間履歴の情報を算出することが好ましい。
前記周方向経路は、前記回転体が前記回転軸の周りに回転するときの前記回転体の周方向に沿った経路であることが好ましい。
また、前記第5のステップで算出される前記第2の物理量の時間履歴の情報の時間幅が、前記回転体を一定の回転速度で回転させたときの1回転の周期と略同じであることが好ましい。
前記第1の物理量は、前記注目要素における変位勾配であり、前記代表モデルは、1つの六面体要素からなるモデルであり、前記第5のステップにおけるシミュレーションでは、前記代表モデルに境界条件が付与され、この境界条件は、前記六面体要素の対向する面を構成する節点の相対変位を許容する周期対称条件を含み、この周期対称条件は、前記変位勾配から算出されることが好ましい。
また、前記第2のステップでは、前記回転体と異なる物体と接触することを再現するように、前記回転体モデルに外力または強制変位を前記シミュレーション条件として付与することにより、前記シミュレーションが行われ、前記代表モデルには、前記注目要素に対応する回転体の対応部分の粘弾性特性を示す材料特性が与えられ、前記第2の物理量は粘弾性損失エネルギであり、前記回転体モデルの前記子午断面上に位置するすべての有限要素を前記注目要素として、前記第3のステップ、前記第4のステップ、前記第5のステップ、及び前記第6のステップを行い、前記第6のステップでは、前記第2の物理量である前記粘弾性損失エネルギの時間履歴の、前記回転体の1周分の情報を総和して1つの値とし、この値を前記回転体の周長で除算することにより、前記回転体の転がり抵抗値を求めることが好ましい。
なお、前記回転体は、例えば、空気入りタイヤである。
本発明の回転体のシミュレーション方法では、回転体の静解析のシミュレーションによって得られた周上の変形に基づく第1の物理情報を、回転体が回転するときの変位勾配の時間変化情報に変換し、この変換により得られた時間変化情報を用いて動解析のシミュレーションを行う。この後、1つの要素を注目要素として、この注目要素に作用する第2の物理量の時間履歴の情報を算出する。さらに、他の要素を注目要素とした第2の物理量の時間履歴の情報の算出を繰り返す。こうして、各要素の第2の物理量の時間履歴の情報を累積する。このため、回転体の周上のどの位置で、回転体に作用する第2の物理量が変化して回転体の回転時の性能に影響を与えるかを、知ることができる。
本発明では、回転体の静解析のシミュレーションと動解析のシミュレーションとを分離して行い、動解析のシミュレーションは、構造の単純な代表モデルを用いて行うので、計算時間及び計算コストを低減することができる。また、回転体を空気入りタイヤとし、第2の物理量をタイヤに生じる粘弾性損失エネルギとする場合、タイヤ周方向における損失エネルギ分布を知ることができ、これを用いて効率よく転がり抵抗値を算出することもできる。
以下、本発明の回転体のシミュレーション方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
図1は本発明の回転体のシミュレーション方法を実施するシミュレーション装置10の構成を機能的に示したブロック図である。図1に示す装置は、タイヤを回転体として、タイヤの転動中の粘弾性損失エネルギを算出することにより、タイヤの転がり抵抗値を求める装置である。
シミュレーション装置10は、CPU12、メモリ14、ROM16、I/Oボード18を備えたコンピュータであり、メモリ14あるいはROM16に記憶されたアプリケーションソフトウェアを読み出して、条件設定部20、モデル作成部22、静解析演算部24、動解析演算部26、時間変換部28、周期境界条件設定部30、及び、損失エネルギ算出部32のそれぞれのサブルーチンを作成して構成される。
シミュレーション装置10は、後述する有限要素モデルであるタイヤモデル及び代表モデルを作成し、有限要素法を用いた静解析及び動解析によるシミュレーション演算を実行する。なお、シミュレーション装置10は、ディスプレイ34、プリンタ36及びマウス・キーボード等の入力操作系38と接続されている。有限要素モデルに必要な情報やシミュレーション演算に必要な条件等は、ディスプレイ34に表示された入力画面をオペレータが見ながら、入力操作系38にてシミュレーション装置10に入力指示される。また、シミュレーション演算結果がディスプレイ34やプリンタ36に数値、グラフあるいは図によって表示される。また、I/Oボード18は、図示されないCAD/CAM等のデータ供給システムと接続されている。
条件設定部20は、ディスプレイ34に表示された入力画面を見ながらオペレータの入力に基づいて、各種条件が設定される。条件は、モデル作成部22で作成される有限要素モデルの構造(節点や要素形状)の情報及び材料定数の情報、静解析や動解析のシミュレーションのためのタイヤ内圧条件、荷重条件、転動速度条件等の情報、さらには、回転体モデルに接地処理を施すためのシミュレーション条件の情報が含まれる。設定された条件は、メモリ14に記憶される。
モデル作成部22は、メモリ14から呼び出された各種情報を用いて、タイヤを再現した有限要素モデルである3次元タイヤモデル、および代表モデルを作成する部分である。タイヤモデルは6面体要素で構成される。代表モデルは、回転体の一部分を再現する6面体形状、例えば立方体形状の単一の要素からなる。
静解析演算部24は、作成されたタイヤモデルに対して、リム組されたタイヤに内圧を充填する処理を再現する内圧充填処理を行い、この後、路面に接地したタイヤを再現するために、路面をモデル化した剛体モデルに、内圧充填処理の施されたタイヤモデルを、設定された荷重条件で接地させる接地処理を行う部分である。すなわち、タイヤモデルを用いて、タイヤの静止状態における接地を再現したシミュレーションを行う。シミュレーション結果は、メモリ14に記憶される。
時間変換部28は、メモリ14から、シミュレーション結果を呼び出して、タイヤモデルの子午断面上に位置する要素を注目要素とし、この注目要素が、タイヤモデルの周方向に1回転するときのタイヤの周方向に沿った周方向経路を定めるとともに、シミュレーションを行ったタイヤモデルの注目要素に作用する、上記周方向経路に沿った変位勾配の変化情報(幾何学的な周方向の変化情報)を、変位勾配の時間変化情報に変換する部分である。変位勾配の時間変化情報とは、タイヤが設定された一定の転動速度で回転するときの回転周期に合せて変換された情報である。注目要素は、条件として設定された要素である。変換により作成されたタイヤ1回転分の変位勾配の時間変化情報は、メモリ14に記憶される。
周期境界条件設定部30は、後述する代表モデルにおけるシミュレーションを行う際に用いる周期境界条件を設定する部分である。具体的には、メモリ14から呼び出された変位勾配の時間変化情報を用いて、節点の相対変位を許容する周期対称条件を周期境界条件として設定する。すなわち、代表モデルが連続的に無限に配置される状態を再現するように、代表モデルの3方向のそれぞれについて、一方の境界面上の節点と対向する境界面上の同じ相対位置にある節点との間の挙動を関係付ける関係式を定める。このような周期境界条件の設定方法は、特開2007−265382号公報に示されるミクロモデルにおける周期境界条件の設定と同様に行うことができる。なお、本発明においては、周期境界条件を設定することは必須ではない。
動解析演算部26は、メモリ14から呼び出された変位勾配の時間変化情報と、定められた周期境界条件とを用いて、代表モデルにおける粘弾性挙動を再現する力学変形の動解析のシミュレーションを行う部分である。代表モデルの材料定数には、粘弾性特性を再現する所定のモデルのパラメータの値が用いられる。例えば、neo-Hookean弾性モデルを用い、このモデルに、時間依存性を示す係数として粘弾性特性を表すProny級数の第1項を与える。動解析演算部26に用いる変位勾配はタイヤ1回転分の変位勾配の時間変化情報なので、動解析のシミュレーションもタイヤ1回転分行われる。このシミュレーションの結果は、メモリ14に記憶される。
損失エネルギ算出部32は、子午断面にある全ての要素を注目要素とするまで粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報の累積を行う部分である。具体的には、メモリ14に記憶された動解析のシミュレーションの結果から、代表モデルにおける粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報を算出し、この時間履歴の値を、注目要素のサイズに合わせて修正するとともに、注目要素を他の要素に変更しながら、注目要素のサイズに応じて修正された粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報を算出し、この注目要素ごとに算出した時間履歴の情報を累積することにより、子午断面にある全ての要素を注目要素とするまで粘弾性損失エネルギの時間履歴の累積を行う。なお、粘弾性損失エネルギの時間履歴の累積は、タイヤを構成するトレッド部材やサイド部材のように部材別に行って、各部材における粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報を算出してもよい。累積された粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報は、ディスプレイ34やプリンタ36に出力される。さらに、損失エネルギ算出部32は、粘弾性損失エネルギの累積された時間履歴の情報は、タイヤ1回転分加算されて、タイヤ1回転における粘弾性損失エネルギの値を算出し、この値を、静解析演算部24で得られた結果から算出されるタイヤモデルの1回転による進む距離(周長)の値で除算することにより、転がり抵抗値を算出する。
このようなシミュレーション装置10におけるタイヤのシミュレーション方法は、以下のように行われる。図2は、タイヤのシミュレーション方法のフローを説明する図である。
まず、条件設定部20において、シミュレーションに必要な各種条件が入力操作系38を用いて設定される(ステップS100)。条件は、例えば、有限要素モデルの構造(節点や要素形状)の情報及び材料定数の情報、静解析や動解析のシミュレーションのためのタイヤ内圧条件、荷重条件、転動速度条件、さらには、回転体モデルに接地処理を施すためのシミュレーション条件等が含まれる。
次に、シミュレーションをおこなうためのタイヤモデルおよび代表モデルが作成される(ステップS120)。図3(a)は、一例として205/65R15のタイヤを再現して作成されたタイヤモデル50の子午断面を示した図であり、図3(b)は、一例として作成される代表モデル52の斜視図である。
タイヤモデル50は、図3(a)に表された子午断面の2次元モデルをタイヤ周方向に1回転展開し、展開したモデルを周方向に一定の角度で要素分割するように区切られている3次元有限要素モデルである。この3次元有限要素モデルでは、トレッド部材、サイド部材、ビードフィラー部材等のゴム部材、およびカーカス部材やベルト部材の補強層が、六面体要素で構成される。タイヤモデル50は、静解析のシミュレーションを行うので、材料特性は、弾性特性を再現するものであればよく、例えば、neo-Hookean弾性モデルで表したものが用いられる。
代表モデル52は、図3(b)に示すように、立方体形状を成した6面体要素のモデルである。代表モデル52は、図3(a)に丸印で示す6面体要素である要素54を注目要素としたとき、この注目要素を代表モデル52で表して、動解析のシミュレーションを行うために用いられる。したがって、代表モデル52に用いる材料特性は、例えば、上記neo-Hookean弾性モデルの係数に、Prony級数の第1項を、時間依存性を示す係数として乗算して表したものが用いられる。
なお、代表モデルは、1つの要素で構成されたモデルに限定されず、6面体要素を複数隣接配置したモデルであってもよいが、計算精度の点で、1つの要素で構成された6面体要素モデルが好ましい。
次に、静解析演算部24において、タイヤモデル50を用いて、タイヤ変形解析(静解析)のシミュレーションが実行される(ステップS140)。
タイヤ変形解析では、まず、作成されたタイヤモデル50に対して、図4に示すように、内圧充填処理が施される。内圧充填処理は、タイヤモデル50の空洞領域に接する節点に所定の力を付与する処理である。次に、路面を再現した剛体モデル56に対して、設定された荷重条件で、内圧充填処理の施されたタイヤモデル50を、シミュレーション条件に基づいて接地する接地処理が施される。接地処理の結果はメモリ14に記憶される。
次に、時間変換部28において、タイヤモデル50の子午断面にある要素を注目要素として1つ選定し、この選定した注目要素のタイヤモデル50が1回転したときの注目要素の周方向経路が設定される(ステップS160)。
図3(a)では、要素54を注目要素としている。どの要素を注目要素とするかの情報は、ステップ100における条件設定においてオペレータから入力されている。なお、後述するように、注目要素は、図3(a)に示される要素全てを対象とするので、条件設定においてオペレータが注目要素の順番を入力してもよいし、注目要素の順番を入力することなく、予め定められた順番で自動的に注目要素を定めてもよい。
注目要素の周方向経路は、図3(a)に示すショルダー部の要素54が注目要素の対象とされた場合、ショルダー部の要素54が1回転するときの軌跡に対応する。この軌跡は、ステップ140で得られ、メモリ14に記憶されている接地処理により変形したタイヤの変形形状における経路である。
次に、時間変換部28において、メモリ14に記憶された接地処理の結果から、注目要素の周方向経路に沿った変位勾配が抽出される(ステップS180)。接地処理後のタイヤモデルは接地処理により形状が変形し、各要素がタイヤ周方向に変位するが、上記変位勾配の周方向の分布は、この変形後の各要素の位置に基づいて作成される。
さらに、時間変換部28において、変位勾配の周方向分布が、変位勾配の時間変化情報に変換される(ステップS200)。図5には、変位勾配の時間変化情報の一例が示されている。
変位勾配は、3次元の2階非対称テンソルで表されるので、図5では、9成分(成分11,22,〜,31,32)で表されている。変位勾配の変換では、タイヤ1回転の周期をTとすると、変位勾配のタイヤ周方向の位置を定める角度をθ(度)(0〜360度)とすると、角度θにおける変位勾配の値は、T×θ/360で表される時間における変位勾配の値に変換される。1回転の周期Tは、タイヤの周方向の経路の長さを、タイヤの転動速度で除算することにより得られたものである。したがって、変位勾配の時間変化情報の時間幅は、1回転の周期Tと実質的に略同一である。なお、角度θを表す注目要素のタイヤ周方向における位置は、上述したように、タイヤモデルの変形によりタイヤモデルの各要素がタイヤ周方向に変位した後の位置を用いるので、正確な変位勾配の時間変化情報を求めることができる。求められた変位勾配の時間変化情報は、メモリ14に記憶される。
さらに、周期境界条件設定部30において、メモリ14から変位勾配の時間変化情報が呼び出され、この時間変化情報から、代表モデルに施される周期境界条件(節点の相対変位を許容する周期対称条件)が設定される。六面体要素である代表モデルの3方向のそれぞれについて、一方の境界面上の節点と対向する境界面上の同じ相対位置にある節点との間の挙動を関係付ける関係式を定める。この関係式が、後述するシミュレーションの際、拘束条件として用いられる。
次に、メモリ14に記憶された変位勾配の時間変化情報がメモリ14から呼び出され、代表モデルを用いた動解析のシミュレーションが実行される(ステップS220)。
具体的には、変位勾配の時間変化情報と、周期境界条件が与えられて、代表モデル52を用いた一定の時間刻み幅による陽解法により、タイヤモデルの回転周期を解析時間とする動解析のシミュレーションが行われる。
代表モデル52に用いる材料特性は、粘弾性特性を再現するモデルを用いて表され、粘弾性損失エネルギを算出できるものが用いられる。例えば、neo-Hookean弾性モデルの係数に、時間依存性を示す係数としてProny級数の第1項を乗算して表したモデルが用いられる。
動解析のシミュレーションは、タイヤ1回転分の変位勾配の時間変化情報を代表モデル52に与えて、力学的変形を再現するシミュレーションである。したがって、このシミュレーションにおいて、粘弾性特性を再現するモデルを用いた材料特性を代表モデル52に与えているので、タイヤ1回転分代表モデル52における粘弾性損失エネルギを算出することができる。このシミュレーション結果は、メモリ14に記憶される。
次に、損失エネルギ算出部32において、メモリ14からステップS220で得られたシミュレーション結果が呼び出され、粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報が算出されるとともに、注目要素における粘弾性損失エネルギの時間履歴の情報(データ)が累積される(ステップS240)。ここで、算出される粘弾性損失エネルギの情報は、代表モデル52における時間履歴のデータであり、例えば、タイヤの1回転の周期Tが0.1秒であるとき、実質的に略同じ0.1秒間の粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータが算出される。
この時間履歴のデータをタイヤモデル50における注目要素における粘弾性損失エネルギの時間履歴意のデータとするために、代表モデル52を用いて算出された粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータに対して注目要素のサイズに応じた修正が行われる。例えば注目要素の体積の代表モデル54の体積に対する比率を、代表モデル52を用いて算出された粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータに乗算する修正を行う。
修正された粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータは、メモリ14に記憶されるとともに、後述する他の注目要素における粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータとの累積のために、累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータとして、メモリ14に記憶される。
次に、タイヤモデル50における子午断面に表されるすべての要素を注目要素としたか、否かが判定される(ステップS260)。すべての要素を注目要素とするのは、後述するように、タイヤの1回転における粘弾性損失エネルギの総和である全粘弾性損失エネルギを求め、この総和からタイヤの転がり抵抗値を求めるためである。
ステップS260において否定される場合、注目要素の変更が行われる(ステップS280)。注目要素の変更は、予め設定された順番で変更してもよいし、注目要素に隣接する要素に変更してもよく、変更方法は特に制限されない。
こうして、ステップS260において肯定されるまで、ステップ180〜240、ステップ280が繰り返される。
ステップS260において肯定されると、メモリ14から累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータが呼び出され、この累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータを、タイヤ1回転の時間範囲で総和して、全粘弾性損失エネルギの値が算出される。この全粘弾性損失エネルギの値を、タイヤモデル50における1回転の周長で除算して転がり抵抗値が算出される(ステップS300)。累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータ、全粘弾性損失エネルギの値、および、転がり抵抗値が、ディスプレイ34やプリンタ36に出力される。なお、1回転の周長は、タイヤモデル50の接地する部分の平均半径をRとして求められる円周の長さ2πRを用いる。あるいは、タイヤモデル50の接地処理後の接地面と回転軸との距離である静的接地半径R1として、下記式のように1回転の周長Lを求める。kは、実験等から設定される0〜1の間の補正値である。
L = 2π{k(R1−R)+R}
図6には、汎用非線形有限要素解析プログラムであるAbaqus(Simulia社製品名)を用いて上記方法により得られた累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの一例が示されている。
この例では、図3(a)に示すタイヤモデル50と、図3(b)に示す代表モデル52とを用い、タイヤの回転周期を0.1秒としている。タイヤモデルに施した内圧条件は200(kPa)であり、荷重条件は4.0kNとした。さらに、代表モデル52における粘弾性特性は、neo-Hookeanモデルの超弾性ポテンシャルの係数C10に、時間依存性を示す係数としてProny級数の第1項を乗算して表したモデルを用いた。具体的には、係数C10を以下の式で定義されるC10 R に置き換えた。
10 R = C10・{1−g・(1−e-t/τ)}
なお、C10は、neo-Hookeanモデルにおいて、ゴムの弾性率に対応する係数であり、C10=0.08とした。また、neo-Hookeanモデルにおける係数DはD=0.49とした。係数Dは、ポアソン比に対応する係数である。粘弾性特性を示す係数g、τは、それぞれg=0.48、τ=0.0027とした。
図6において、0.05秒が、図3(a)に示されるタイヤの子午断面の部分が接地面の中心位置、すなわち、荷重直下の位置を通過する時点である。図6からわかるように、0.04〜0.06秒の領域で、累積粘弾性損失エネルギは急増しており、この時間領域は、タイヤショルダー部が接地により大きく変形を受ける領域である。なお、累積粘弾性損失エネルギの時間変化は、0.05秒を中心とする対称性を有しない。これは、タイヤ構造の、ベルト部材の傾斜方向に依存して発生するプライステア等によって生じたものと考えられる。
このように、本発明の方法では、累積粘弾性損失エネルギの時間履歴を算出することができるので、タイヤ周上のどの部分における粘弾性損失エネルギを低減すればよいか、知ることができる。
図7には、各要素ごとに算出される粘弾性損失エネルギを部材毎に累積して、各部材毎の粘弾性損失エネルギの寄与率を示したものである。図7より、トレッド部材、サイド部材の順番に寄与率が高いことがわかる。
このように、本実施形態では、接地状態を再現するタイヤの静解析のシミュレーションによって得られたタイヤ周上の変形に基づく物理情報である変位勾配を、タイヤ転動状態における変位勾配の時間変化情報に変換し、この変換により得られた時間変化情報を用いて動解析のシミュレーションを行い、1つの要素を注目要素として、この注目要素に作用する力学的変形に起因する粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータを算出する。さらに、他の要素を注目要素とした粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの算出を繰り返す。こうして、各要素の粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータをまとめることにより、図6に示すような累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータを得、これを用いて転がり抵抗値を求める。
本実施形態では、タイヤの静解析のシミュレーションと動解析のシミュレーションとを分離して行い、動解析のシミュレーションでは、6面体要素からなる構造の単純な代表モデルを用いて行うので、計算時間及び計算コストを低減することができる。また、粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータを得ることができるので、タイヤ周方向における損失エネルギ分布を知ることもできる。
上記方法により図3(a),(b)に示すタイヤモデル50及び代表モデル52を用いて、転がり抵抗値を算出するのに、計算時間は概略40分であった。従来のように、タイヤモデルを転動して転がり抵抗値を算出する場合の計算時間が概略140分であるのに比べて、計算効率は略3.5倍向上する。
なお、上記実施形態として空気入りタイヤを例として説明したが、本発明では空気入りタイヤに限定されない。以下の実施形態では、リング状の回転体の例を説明する。回転体にはタイヤも含まれる。図8(a)には、回転体モデル60が、剛体平面モデル62に接触する状態を示している。回転体モデル60の外径は300mmとし、角度2度の刻みで円周方向に節点を設けて3次元の回転体形状のモデルを構成した。回転体モデル60は、回転体内側の節点を回転体モデル60の回転中心軸に剛結合し、剛体平面モデル62との接触荷重を5kNとしている。一方、図8(b)に示す代表モデル64は、100mm×100mm×100mの1つの6面体要素で構成した。
図9には、図8に示すモデルを用いて図2に示す方法と同様の方法で得られる変位勾配の時間変化情報の一例を示している。回転体モデル60の1回転の周期を0.1秒とした。
代表モデル64では、図3(b)に示す代表モデル52における粘弾性特性と同様のパラメータとそのパラメータの値を用いた。
図10には、累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの一例を示す。このように、リング状の回転体を表した回転体モデルを用いても、粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータを得ることができる。すなわち、動解析のシミュレーションでは、6面体要素からなる構造の単純な代表モデルを用いて行うので、計算時間及び計算コストを低減することができる他、粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータを得ることができるので、回転体の周方向における損失エネルギ分布を知ることもできる。
なお、本発明では、静解析のシミュレーションは、接地を含む接触状態を再現するものに限られず、周上の少なくとも1箇所にシミュレーション条件を回転体モデルに付与して行うことができる。例えば、シミュレーション条件として、外力または強制変位の力学物理量を与えて、回転体の力学的変形のシミュレーションを行う、あるいは、入力として、熱温度分布を与えて、回転体の熱解析のシミュレーションを行うこともできる。
また、本発明では、第1の物理量として、変位勾配の他に、変形勾配あるいは歪み等を用いることもできる。この場合、第1の物理量の値として、注目要素を代表する位置(積分点、あるいは要素中心位置)における値を用いてもよいし、注目要素の平均値を用いてもよい。
さらに、本発明では、第2の物理量として、粘弾性損失エネルギには限定されない。例えば、応力と歪みの位相差、弾性エネルギ変化、体積変化等が挙げられる。
以上、本発明の回転体のシミュレーション方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
本発明の回転体のシミュレーション方法を実施する一実施形態のシミュレーション装置の構成図である。 本発明の回転体のシミュレーション方法の一実施形態のフローを説明する図である。 (a),(b)は、図2に示すフローで用いるタイヤモデル及び代表モデルを説明する図である。 図2に示すフローで行うタイヤの静解析のシミュレーションを説明する図である。 図2に示すフローで得られる変位勾配の時間変化情報の一例を示す図である。 図2に示すフローで得られる累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの一例を示す図である。 図2に示すフローで得られる粘弾性損失エネルギの各部材毎の寄与率の一例を示す図である。 (a)は、回転体の静解析のシミュレーションを行う際に用いる回転体モデルを説明する図であり、(b)は、代表モデルを説明する図である。 図8に示す回転体モデルで得られる変位勾配の時間変化情報の一例を示す図である。 回転体モデルで得られる累積粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの一例を示す図である。
符号の説明
10 シミュレーション装置
12 CPU
14 メモリ
16 ROM
18 I/Oボード
20 条件設定部
22 モデル作成部
24 静解析演算部
26 動解析演算部
28 周期境界条件設定部
30 時間変換部
32 損失エネルギ算出部
34 ディスプレイ34
36 プリンタ
38 入力操作系
50 タイヤモデル
52 代表モデル
54 要素
60 回転体モデル
62 剛体平面モデル
64 代表モデル

Claims (9)

  1. 有限要素法を用いた回転体のシミュレーション方法であって、
    回転体を、複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルと、前記回転体の一部分を有限要素を用いて再現する代表モデルと、を作成する第1のステップと、
    前記回転体モデルの周上の少なくとも一部分に、設定されたシミュレーション条件を付与して、回転体の静止状態のシミュレーションを有限要素法を用いて行う第2のステップと、
    前記回転体モデルの回転軸を含む、回転軸に平行な平面で切断した回転体の子午断面上に位置する有限要素の1つを注目要素とし、この注目要素が、前記回転体モデルの周方向に1周する周方向経路を定める第3のステップと、
    前記シミュレーションを行った前記回転モデルの前記注目要素に作用する、前記周方向経路に沿った第1の物理量の変化情報を、前記回転体が回転するときの回転周期に合せて、前記第1の物理量の時間変化情報に変換する第4のステップと、
    前記変換によって生成された前記第1の物理量の前記時間変化情報を、前記代表モデルに与えて、前記注目要素が前記周方向経路に沿って一周するときの、前記注目要素に生じる第2の物理量の時間履歴情報を、有限要素法を用いてシミュレーションを行うことにより算出する第5のステップと、
    前記第3のステップにおける前記注目要素を替えながら、前記第3のステップ、前記第4のステップ、及び前記第5のステップを繰り返し、前記時間履歴情報を算出するたびに、前記時間履歴情報を前記注目要素のサイズに応じて修正して、前記回転体の回転状態における前記第2の物理量の時間履歴の情報を累積する第6のステップと、を有することを特徴とする回転体のシミュレーション方法。
  2. 前記代表モデルには、前記回転体の、前記注目要素に対応する対応部分の粘弾性特性を再現する材料特性が与えられる請求項1に記載の回転体のシミュレーション方法。
  3. 前記第2の物理量は、粘弾性損失エネルギである請求項2に記載の回転体のシミュレーション方法。
  4. 前記第6のステップでは、前記回転体を構成する複数の部材のうち少なくとも1つ以上の部材を注目部材とし、前記回転体モデルの前記注目部材に位置するすべての有限要素を、前記注目要素の対象として前記時間履歴情報の累積を行うことにより、前記注目部材における前記第2の物理量の時間履歴の情報を算出する請求項3に記載の回転体のシミュレーション方法。
  5. 前記周方向経路は、前記回転体が前記回転軸の周りに回転するときの前記回転体の周方向に沿った経路である請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
  6. 前記第5のステップで算出される前記第2の物理量の時間履歴の情報の時間幅が、前記回転体を一定の回転速度で回転させたときの1回転の周期と略同じである請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
  7. 前記第1の物理量は、前記注目要素における変位勾配であり、
    前記代表モデルは、1つの六面体要素からなるモデルであり、
    前記第5のステップにおけるシミュレーションでは、前記代表モデルに境界条件が付与され、この境界条件は、前記六面体要素の対向する面を構成する節点の相対変位を許容する周期対称条件を含み、この周期対称条件は、前記変位勾配から算出される請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
  8. 前記第2のステップでは、前記回転体と異なる物体と接触することを再現するように、前記回転体モデルに外力または強制変位を前記シミュレーション条件として付与することにより、前記シミュレーションが行われ、
    前記代表モデルには、前記注目要素に対応する回転体の対応部分の粘弾性特性を示す材料特性が与えられ、
    前記第2の物理量は粘弾性損失エネルギであり、
    前記回転体モデルの前記子午断面上に位置するすべての有限要素を前記注目要素として、前記第3のステップ、前記第4のステップ、前記第5のステップ、及び前記第6のステップを行い、
    前記第6のステップでは、前記第2の物理量である前記粘弾性損失エネルギの時間履歴の、前記回転体の1周分の情報を総和して1つの値とし、この値を前記回転体の周長で除算することにより、前記回転体の転がり抵抗値を求める請求項1に記載の回転体のシミュレーション方法。
  9. 前記回転体は、タイヤである請求項1〜8のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
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