JP2010033427A - 粘弾性体のシミュレーション方法およびシミュレーション装置 - Google Patents

粘弾性体のシミュレーション方法およびシミュレーション装置 Download PDF

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Abstract

【課題】周期的な変形を与えて、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルを用いた粘弾性体のシミュレーションを行う際、定常状態における物理量を適切な計算時間で効率よく求める。
【解決手段】まず、変形中の前記モデルに作用する第1の物理量と第2の物理量を定め、さらに、代表モデルに粘性特性を表す粘性パラメータの値を定める。次に、粘性パラメータの値を代表モデルに与え、周期的な変形を代表モデルに与えることによりシミュレーションを行う。その際、代表モデルにおける第1の物理量の時間履歴データを、周期ごとに取り出し、この取り出した時間履歴データと、1つ前の周期における第1の物理量の時間履歴データについて、少なくとも対応する2箇所以上の特徴点における値の差分または比率を求める。求めた特徴点毎の差分または比率が、いずれも予め定められた閾値より小さい場合、シミュレーションを終了し、第2の物理量を取り出す。
【選択図】図2

Description

本発明は、変形を与えたとき、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルに、周期的な変形を与えてシミュレーションを行なう粘弾性体のシミュレーション方法およびシミュレーション装置に関する。
今日、有限要素法を用いたシミュレーションが種々行われている。ゴム材料等の粘弾性特性を有する部材や構造物をシミュレーションで解析する場合も多い。
粘弾性特性を有する部材や構造物のシミュレーションでは、予め設定された解析時間になるまで、モデルを用いたシミュレーション計算を続けた後、計算終了後、モデルに作用する物理量を取り出し、解析を行なう。
しかし、予め設定された解析時間では、モデルが、シミュレーションにおける定常状態に達していない場合も多い。この場合、解析時間を延ばして、上記シミュレーション計算を再度最初から行う必要がある。一方、解析時間を必要以上長く設定する場合もある。この場合、不要な計算を行なう非効率な処理を行ってしまう。
ここで、定常状態とは、周期的な変形をモデルに付与したとき、算出する物理量の時間波形が周期によって変動しない状態をいう。
下記特許文献1には、粘弾性材料からなる製品の実用条件下での性能を、精度良くシミュレーションにより予測する方法が提案されている。
これによると、粘弾性材料からなる製品の実使用状態を想定した測定条件下で、上記粘弾性材料に生じるひずみ、ひずみ速度、応力の時々刻々の値を測定し、上記ひずみ、ひずみ速度、応力の時刻歴データと、上記粘弾性材料の粘性を考慮した粘弾性モデルとから、粘弾性材料の粘性抵抗の時刻歴データを導出する。一方、上記粘弾性材料からなる製品を解析対象の製品モデルとして設定し、該製品モデルに上記ひずみ、ひずみ速度、粘性抵抗の関係を入力し、上記ひずみ、ひずみ速度の違いによる粘性抵抗の変化を考慮したシミュレーションを行い、上記粘弾性材料からなる製品モデルの性能を予測する。
また、下記非特許文献1には、数値解析可能なモデルを用いて周期的な変形をモデルに与えて行うシミュレーションが記載されている。
特開2002−357535号公報 「第24回 Mech D&A セミナー 粘弾性解析の理論と実践」,株式会社メカニカルデザイン,2005年11月
しかし、上記特許文献1においては、ゴルフクラブ等によるゴルフボールの打撃時の非定常のシミュレーションを扱うため、周期的に変形を与えて定常状態を再現することはない。このため、上述したような、定常状態となっていない状態における物理量を求めたり、十分に定常状態にあるにも係らず不要な計算を行なう等の問題は生じない。
また、上記非特許文献1においては、モデルの定常状態を示しているが、どのようにして、定常状態が得られたのか示されていない。
そこで、本発明は、周期的な変形を与えて、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルを用いた粘弾体のシミュレーションを行う際、定常状態における物理量を適切な解析時間で効率よく求めることのできる粘弾性体のシミュレーション方法およびシミュレーション装置を提供することを目的とする。
本発明は、変形を与えたとき、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルに周期的な変形を与えてシミュレーションを行なう粘弾性体のシミュレーション方法であって、変形中の前記モデルに作用する第1の物理量と第2の物理量を定め、さらに、前記モデルに粘性特性を表す粘性パラメータの値を定めるステップと、前記粘性パラメータの値を前記モデルに与え、周期的な変形を前記モデルに与えることによりシミュレーションを行うステップと、前記変形中の前記モデルにおける前記第1の物理量の時間履歴データを、周期ごとに取り出し、この取り出した時間履歴データと、1つ前の周期における前記第1の物理量の時間履歴データから、2つの時間履歴データの中の、少なくとも対応する2箇所以上の特徴点における値の差分の絶対値または比率を求めるステップと、前記求めた特徴点毎の差分の絶対値または比率が、いずれも予め定められた閾値より小さい場合、前記シミュレーションを終了し、前記第2の物理量を取り出すステップと、を有することを特徴とする粘弾性体のシミュレーション方法を提供する。
その際、前記第1の物理量の前記時間履歴データが1周期に2つのピークを有するデータである場合、これらの2つのピークの点を、前記特徴点として用いることが好ましい。あるいは、前記第1の物理量の前記時間履歴データの時間微分データが2箇所で極大および極小となる場合、この極大および極小となる点を、前記特徴点として用いることが好ましい。
また、前記第1の物理量は、前記モデルに発生する前記周期的な変形に対する位相の情報を含んだ応力または歪みに関する情報から算出される物理量であること好ましく、前記第1の物理量は、前記応力あるいは前記歪みに関する情報から算出される単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの大小を示す量であることがより好ましい。
また、前記第2の物理量は、前記モデルに作用する前記応力あるいは前記歪みに関する情報から算出される単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値であることが好ましい。
なお、前記モデルは、タイヤの一部分の部位を表すモデルであり、前記モデルに与える周期的な変形は、タイヤが転動して1回転するときのタイヤの設定された部位に作用する変形履歴の情報を含むことが好ましい。
その際、前記部位を、定められたタイヤの各部分に繰り返し適用し、この適用を繰り返すたびに、前記変形による単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値を求め、各部分について求めた粘弾性損失エネルギの時間積算値を累積し、この累積結果を前記タイヤの周長で除算することにより、前記タイヤの転がり抵抗を算出することが好ましい。
さらに、本発明は、変形を与えたとき、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルに周期的な変形を与えてシミュレーションを行なう粘弾性体のシミュレーション装置であって、変形中の前記モデルに作用する第1の物理量と第2の物理量を定め、前記モデルに粘性特性を表す粘性パラメータの値を定める手段と、前記粘性パラメータの値を前記モデルに与え、周期的な変形を前記モデルに与えることによりシミュレーションを行う手段と、前記変形中の前記モデルにおける前記第1の物理量の時間履歴データを、周期ごとに取り出し、この取り出した時間履歴データと、1つ前の周期における前記第1の物理量の時間履歴データから、2つの時間履歴データの中の、少なくとも対応する2箇所以上の特徴点における値の差分の絶対値または比率を求める手段と、前記求めた特徴点毎の差分の絶対値または比率が、いずれも予め定められた閾値より小さい場合、前記シミュレーションを終了し、前記モデルの前記第2の物理量を取り出す手段と、を有することを特徴とする粘弾性体のシミュレーション装置を提供する。
本発明の粘弾性体のシミュレーション方法およびシミュレーション装置では、変形中のモデルにおける第1の物理量の時間履歴データを、周期ごとに取り出し、この取り出した時間履歴データと、1つ前の周期における前記第1の物理量の時間履歴データについて、少なくとも対応する2箇所以上の特徴点における値の差分の絶対値または比率を求め、この求めた特徴点毎の差分の絶対値または比率が、いずれも予め定められた閾値より小さい場合、シミュレーションは定常状態に達したとして、第2の物理量を取り出す。このため、適切な解析時間で効率よく定常状態における第2の物量を取り出すことができる。
以下、添付の図面に示す実施形態に基づいて、本発明の粘弾性体のシミュレーション方法およびシミュレーション装置を詳細に説明する。
図1は、本発明の粘弾性体のシミュレーション方法を実施する本発明の粘弾性体のシミュレーション装置の一実施形態の構成を機能的に示したブロック図である。図1に示す装置は、タイヤの転動中の粘弾性損失エネルギを算出することにより、タイヤの転がり抵抗値を求める装置である。
シミュレーション装置10は、CPU12、メモリ14、ROM16、I/Oボード18を備えたコンピュータであり、メモリ14あるいはROM16に記憶されたアプリケーションソフトウェアを読み出して、条件設定部20、モデル作成部22、静解析演算部24、動解析演算部26、時間変換部28、周期境界条件設定部30、及び、物理量算出部32のそれぞれのサブルーチンを生成するように構成される。
シミュレーション装置10は、後述する有限要素モデルであるタイヤモデル及び単一の要素モデルである代表モデルを作成し、有限要素法を用いた静解析及び動解析によるシミュレーション演算を実行する。静解析とは、モデルの挙動が時間に依存することなく静止した状態の解析であり、動解析とは、モデルの挙動が時間に依存して変化する状態の解析をいう。
なお、シミュレーション装置10は、ディスプレイ34、プリンタ36及びマウス・キーボード等の入力操作系38と接続されている。有限要素モデルに必要な情報やシミュレーション演算に必要な条件は、ディスプレイ34に表示された入力画面をオペレータが見ながら、入力操作系38にてシミュレーション装置10に入力指示される。また、シミュレーション演算結果がディスプレイ34やプリンタ36に数値、グラフあるいは図によって出力される。
条件設定部20は、ディスプレイ34に表示された入力画面を見ながらオペレータの入力に基づいて各種条件を設定する。条件は、モデル作成部22で作成される有限要素モデルの構造(節点や要素形状)の情報及び材料パラメータ(粘性パラメータ、弾性パラメータおよび緩和時間)の値、静解析や動解析のシミュレーションのためのタイヤ内圧条件、荷重条件、転動速度条件等の情報、さらには、回転体モデルに接地処理を施すためのシミュレーション条件の情報が含まれる。さらに、シミュレーション条件には、モデルに作用する物理量として設定する第1の物理量や第2の物理量の情報も含まれる。第1の物理量は、動解析のシミュレーションを行うモデルが定常状態にあるか否かを判定するためのモニタ物理量として用いられ、第2の物理量は、定常状態におけるモデルに作用する注目物理量として出力される。
第1の物理量として、例えば、応力や歪みや、応力や歪みの時間微分値(速度)や、単位時間あたりの粘弾性損失エネルギ等が好適に設定される。
第2の物理量として、例えば、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値が好適に設定される。この他に、応力や歪みが設定されてもよい。設定された条件は、メモリ14に記憶される。
モデル作成部22は、メモリ14から呼び出された各種情報を用いて、タイヤを再現した有限要素モデルである3次元タイヤモデル、および代表モデルを作成する部分である。タイヤモデルは6面体要素で構成される。代表モデルは、回転体の一部分を再現する6面体形状、例えば立方体形状の単一の要素からなる。
静解析演算部24は、作成されたタイヤモデルに対して、リム組されたタイヤに内圧を充填する処理を再現する内圧充填処理を行い、この後、路面に接地したタイヤを再現するために、路面をモデル化した剛体モデルに、内圧充填処理の施されたタイヤモデルを、設定された荷重条件で接地させる接地処理を行う部分である。すなわち、タイヤモデルを用いて、タイヤの静止状態における接地を再現したシミュレーションを行う。シミュレーション結果は、メモリ14に記憶される。
時間変換部28は、メモリ14から、接地処理のシミュレーション結果を呼び出して、タイヤモデルの子午断面上に位置する要素を注目要素とし、この注目要素が、タイヤモデルの周方向に1回転するときのタイヤの周方向に沿った周方向経路を定める。さらに、接地処理のシミュレーションを行ったタイヤモデルの注目要素に作用する、上記周方向経路に沿った変位勾配の変化情報(幾何学的な周方向の変化情報)を、変位勾配の時間変化情報に変換する。変位勾配の時間変化情報とは、タイヤが、設定された一定の転動速度で回転するときの回転周期に合せて変換された情報である。注目要素は、シミュレーション条件として設定された要素である。変換により作成されたタイヤ1回転分の変位勾配の時間変化情報は、代表モデル52に付与される各節点の変位のデータに変換され、メモリ14に記憶される。
周期境界条件設定部30は、後述する代表モデルにおけるシミュレーションを行う際に用いる周期境界条件を設定する部分である。具体的には、メモリ14から呼び出された変位勾配の時間変化情報を用いて、節点の相対変位を許容する周期対称条件を周期境界条件として設定する。すなわち、代表モデルが連続的に無限に配置される状態を再現するように、代表モデルの3方向のそれぞれについて、一方の境界面上の節点と対向する境界面上の同じ相対位置にある節点との間の挙動を関係付ける関係式を定める。このような周期境界条件の設定方法は、特開2007−265382号公報に示されるミクロモデルにおける周期境界条件の設定と同様に行うことができる。なお、本発明においては、周期境界条件を設定することは必須ではない。
動解析演算部26は、メモリ14から呼び出された節点の変位のデータと、定められた周期境界条件とを用いて、代表モデルにおける粘弾性挙動を再現する力学変形の動解析のシミュレーションを行う部分である。代表モデルの材料パラメータには、粘性パラメータ、弾性パラメータ、緩和時定数の値が用いられる。例えば、neo-Hookean弾性モデルを用い、このモデルに、時間依存性を示す係数として粘弾性特性を表すProny級数の第1項を与える。具体的には、下記式のように、粘性特性のパラメータgの値と、緩和時定数τの値とが定められる。
G(t)= C10×[1−g(1−e-t/τ)]
動解析演算部26に用いる変位のデータはタイヤ1回転分の変位の時間変化情報なので、動解析のシミュレーションでは、代表モデルの各節点に変位のデータが周期的に与えられる。このシミュレーションは、モデルに作用する第1の物理量が、予め設定された定常状態か否かを判定する判定条件を満たすまで、周期的な変形が係属して繰り返され、第1の物理量が判定条件を満たすとき、そのときのシミュレーション結果は、メモリ14に記憶される。
物理量算出部32は、タイヤモデルの子午断面にある全ての要素を注目要素とし、この注目要素を代表モデルに対応させて設定された第2の物理量を算出する部分である。第2の物理量として、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値が設定される場合、時間積算値は、1周期内の定められた時間範囲内の積算値、すなわち、1周期における粘弾性損失エネルギに該当する。
部鶴量算出部32は、タイヤの断面における設定された各部分に、代表モデルを適用し、適用の度に、第2の物理量を算出する。
具体的には、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値が第2の物理量として設定される場合、メモリ14に記憶された動解析のシミュレーションの結果から、代表モデルにおける単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴データを算出し、この時間履歴データの値を、タイヤモデルの注目要素のサイズに合わせて修正するとともに、この代表モデルを他の注目要素に変更しながら、注目要素のサイズに応じて修正された単位時間あたりの粘弾性損失エネルギの時間履歴データと、その時間積算値、すなわち、粘弾性損失エネルギを算出する。
すべてのタイヤモデルの要素を代表モデルに対応させて単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴データと、その時間積算値(粘弾性損失エネルギ)が算出されると、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギのすべての時間履歴データの累積と時間積算値(粘弾性損失エネルギ)の累積が行なわれる。なお、時間履歴データの累積および時間積算値の累積は、タイヤを構成するトレッド部材やサイド部材のように部材別に行って、各部材における時間履歴データの時間積算値((粘弾性損失エネルギ))の累積値を算出してもよい。時間履歴データの累積結果や時間積算値の累積結果は、ディスプレイ34やプリンタ36に出力される。さらに、物理量算出部32は、1周期毎の時間積算値の累積結果の値を、静解析演算部24で得られた結果から算出されるタイヤモデルの1回転による進む距離(タイヤの周長)の値で除算することにより、転がり抵抗値を算出する。
このようなシミュレーション装置10におけるタイヤのシミュレーション方法は、以下のように行われる。図2は、タイヤのシミュレーション方法のフローを説明する図である。
まず、条件設定部20において、シミュレーションに必要な各種条件が入力操作系38を用いて設定される(ステップS100)。シミュレーションの条件は、例えば、代表モデルに作用する物理量として取り出す第1の物理量及び第2の物理量の情報、有限要素モデルの構造(節点や要素形状)の情報、有限要素に材料パラメータとして用いる弾性パラメータの値や粘性パラメータの値や緩和時定数の値、静解析や動解析のシミュレーションのためのタイヤ内圧条件、荷重条件、転動速度条件、さらには、回転体モデルに接地処理を施すためのシミュレーション条件等が含まれる。第1の物理量として、例えば、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギが設定され、第2の物理量として、1周期における粘弾性損失エネルギが設定される。以降では、第1の物理量として、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギが設定され、第2の物理量として、1周期における粘弾性損失エネルギが設定された場合を例として説明する。
次に、シミュレーションをおこなうためのタイヤモデルおよび代表モデルが作成される(ステップS110)。図3(a)は、一例として205/65R15のタイヤを再現して作成されたタイヤモデル50の子午断面を示した図であり、図3(b)は、一例として作成される代表モデル52の斜視図である。
タイヤモデル50は、図3(a)に表された子午断面の2次元モデルをタイヤ周方向に1回転展開し、展開したモデルを周方向に一定の角度で要素分割するように区切られている3次元有限要素モデルである。この3次元有限要素モデルでは、トレッド部材、サイド部材、ビードフィラー部材等のゴム部材、およびカーカス部材やベルト部材の補強層が、六面体要素で構成される。タイヤモデル50は静解析のシミュレーションを行うので、材料特性は弾性特性を再現するものであればよく、例えば、neo-Hookean弾性モデルで表したものが用いられる。
代表モデル52は、図3(b)に示すように、立方体形状を成した6面体要素からなる単一のモデルである。代表モデル52は、図3(a)に丸印で示す6面体要素である要素54を注目要素としたとき、この注目要素を代表モデル52で表して、動解析のシミュレーションを行うために用いられる。したがって、代表モデル52に用いる材料パラメータは、例えば、上記neo-Hookean弾性モデルの係数に、Prony級数の第1項を、時間依存性を示す係数として乗算して表したものが用いられる。
なお、代表モデルは、1つの要素で構成されたモデルに限定されず、6面体要素を複数隣接配置したモデルであってもよい。
次に、静解析演算部24において、タイヤモデル50を用いて、タイヤ変形解析(静解析)のシミュレーションが実行される(ステップS120)。
タイヤ変形解析では、まず、図4に示すようなタイヤモデル50に対して、内圧充填処理が施される。内圧充填処理は、タイヤモデル50の空洞領域に接する節点に所定の力を付与する処理である。次に、路面を再現した剛体モデル56に対して、設定された荷重条件で、内圧充填処理の施されたタイヤモデル50を、シミュレーション条件に基づいて接地する接地処理が施される。接地処理の結果はメモリ14に記憶される。
さらに、時間変換部28において、タイヤモデル50の子午断面にある要素を注目要素として1つ選定し、この選定した注目要素のタイヤモデル50が1回転したときの注目要素の周方向経路が設定される。
図3(a)では、要素54を注目要素としている。どの要素を注目要素とするかの情報は、ステップ100における条件設定においてオペレータから入力されている。なお、後述するように、注目要素は、図3(a)に示される要素全てを対象とするので、条件設定においてオペレータが注目要素の順番を入力してもよいし、注目要素の順番を入力することなく、予め定められた順番で自動的に注目要素を定めてもよい。
注目要素の周方向経路は、図3(a)に示すショルダー部の要素54が注目要素の対象とされた場合、ショルダー部の要素54が1回転するときの軌跡に対応する。この軌跡は、メモリ14に記憶されている接地処理により変形したタイヤの変形形状における経路である。
次に、時間変換部28において、静解析のシミュレーション結果より、代表モデル52の節点に与える変位の算出が行なわれる(ステップS130)。まず、メモリ14に記憶された接地処理の結果から、注目要素の周方向経路に沿った変位勾配が抽出される。接地処理後のタイヤモデルは接地処理により形状が変形し、各要素がタイヤ周方向に変位するが、上記変位勾配の周方向の分布は、この変形後の各要素の位置に基づいて作成される。
さらに、時間変換部28において、変位勾配の周方向分布が、変位勾配の時間変化情報に変換され、さらに、この変位勾配から、代表モデル52の各節点1〜8の変位が算出される。節点の変位は、3次元の2階非対称テンソルで表されるので、9成分で表されている。図5には、各節点の変位の時間履歴のデータが示されている。図5に示す例では、1周期の時間は1秒である。
変位勾配の周方向分布から時間変化情報への変換では、タイヤ1回転の周期をTとし、変位勾配のタイヤ周方向の位置を定める角度をθ(度)(0〜360度)とすると、角度θにおける変位勾配の値は、T×θ/360で表される時間における変位勾配の値に変換される。1回転の周期Tは、タイヤの周方向の経路の長さを、タイヤの転動速度で除算することにより得られたものである。したがって、変位勾配の時間変化情報の時間幅は、1回転の周期Tと実質的に略同一である。なお、角度θを表す注目要素のタイヤ周方向における位置は、上述したように、タイヤモデルの変形によりタイヤモデルの各要素がタイヤ周方向に変位した後の位置を用いるので、正確な変位勾配の時間変化情報を求めることができる。求められた変位勾配の時間変化情報と、この変位勾配の時間変化情報から算出される各節点の変位の時間履歴のデータは、メモリ14に記憶される。
さらに、周期境界条件設定部30において、メモリ14から変位勾配の時間変化情報が呼び出され、この時間変化情報から、代表モデルに施される周期境界条件(節点の相対変位を許容する周期対称条件)が設定される。六面体要素である代表モデルの3方向のそれぞれについて、一方の境界面上の節点と対向する境界面上の同じ相対位置にある節点との間の挙動を関係付ける関係式を定める。この関係式が、後述するシミュレーションの際、拘束条件として用いられる。
次に、メモリ14に記憶された各節点の変位の時間履歴のデータがメモリ14から呼び出され、代表モデルを用いた動解析のシミュレーションが実行される(ステップS140)。
具体的には、変位の時間履歴のデータと、周期境界条件が与えられて、代表モデル52を用いた一定の時間刻み幅による陽解法により、動解析のシミュレーションが行われる。
代表モデル52に用いる材料パラメータは、粘弾性特性を再現するモデルを用いて表され、粘弾性損失エネルギを算出できるものが用いられる。例えば、neo-Hookean弾性モデルの係数に、時間依存性を示す係数としてProny級数の第1項を乗算して表したモデルが用いられる。
動解析のシミュレーションは、タイヤ1回転分の変位の時間履歴のデータを代表モデル52に周期的に与えて、力学的変形を再現するシミュレーションである。
このとき、動解析のシミュレーションにおいて、第1の物理量として設定された単位時間当たりの粘弾性損失エネルギが予め設定された判定条件を満足するまで(ステップS150)、代表モデル52に周期的な変形を与えるシミュレーションを続ける。すなわち、第1の物理量が判定条件を満たすまで、代表モデル52に、図5に示す変位の時間履歴のデータを周期的に繰り返し付与する。
単位時間当たりの粘弾性損失エネルギは、代表モデル52に発生する周期的な変形に対する位相情報を含んだ応力あるいは歪みに関する時間変動データから算出される物理量であり、例えば、緩和弾性率と歪み速度を乗算した値から求められる。
図6(a),(b)には、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの例が示されている。
図6(a)に示す例は、第1の物理量(単位時間当たりの粘弾性損失エネルギ)の時間履歴データが1周期に2つのピークを有するデータである。この場合、判定条件を満足するとは、2つのピークの特徴点(図6(a)中のA,Bにおける点)における第1の物理量(単位時間当たりの粘弾性損失エネルギ)の値を取り出し、この2つの値に対応する、1つ前の周期における第1の物理量の値を取り出して、2つのピークのそれぞれにおける値の差分の絶対値を求め、この2つの差分の絶対値が、予め設定された閾値に対していずれも低下することをいう。この場合、モデルは定常状態となっているとして、動的解析のシミュレーションを終了する。一方、判定条件を満足しない場合、周期的な変形を与えるシミュレーションがさらに1周期分、継続して行なわれる。
また、図6(b)に示すように、第1の物理量(単位時間の粘弾性損失エネルギ)の時間履歴データの時間微分データが2箇所で極大および極小となる(図6(b)中のC,Dにおける点)場合、判定条件を満足するとは、この極大および極小となる2つの特徴点における第1の物理量の値を取り出し、この2つの値に対応する、1つ前の周期における第1の物理量の値を取り出して、2つの特徴点のそれぞれにおける値の差分の絶対値を求め、この2つの差分の絶対値が予め設定された閾値に対していずれも低下することをいう。この場合、モデルは定常状態となっているとして、動的解析のシミュレーションを終了する。一方、判定条件を満足しない場合、周期的な変形を与えるシミュレーションがさらに1周期分、継続される。
このように、本実施形態では、第1の物理量の時間履歴データについて、対応する2つの特徴点における値の差分の絶対値が、予め設定される閾値に対して小さくなるまで、シミュレーションを繰り返す。本発明においては、この特徴点を2つ以上用いて、上記判定条件を満たすか否かを判定するとよい。
なお、本発明では、1つ前の周期における値の差分に替えて比率を用いることもできる。この場合、差分に対して用いる閾値は当然異なる。
シミュレーション結果は、メモリ14に記憶される。
次に、ステップS150において肯定されると、物理量算出部32において、メモリ14からシミュレーション結果が呼び出され、単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴データの算出と、このデータの時間積算値、すなわち、粘弾性損失エネルギの算出が行なわれる(ステップS160)。ここで、メモリ14から呼び出されて得られる単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータは、代表モデル52に関する情報である。
この代表モデル52に関する情報をタイヤモデル50の注目要素における情報とするために、代表モデル52に関する単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータに対して注目要素のサイズに応じた修正が行われる。例えば注目要素の体積の、代表モデル54の体積に対する比率を、代表モデル52を用いて算出された単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータに乗算する修正を行う。
修正された単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータから、このデータの時間積算値である粘弾性損失エネルギが求められ、時間履歴のデータと粘弾性損失エネルギがメモリ14に記憶される。
次に、タイヤモデル50における子午断面上に表されるすべての要素を注目要素として、代表モデル52に適用し動解析のシミュレーションを行ったか、否かが判定される(ステップS170)。すなわち、タイヤ各部分を代表モデル52に適用し動解析のシミュレーションを行ったか、否かが判定される。すべての要素を注目要素として代表モデル52に適用するのは、後述するように、タイヤの1回転における各部分の粘弾性損失エネルギを累積し、この累積結果の値からタイヤの転がり抵抗値を求めるためである。
ステップS170において否定される場合、別の要素、すなわちタイヤの別の部分を代表モデル52に適用する(ステップS280)。上記別の部分の適用は、予め設定された順番で変更してもよいし、タイヤモデルの隣接する要素を別の部分として変更してもよく、変更方法は特に制限されない。
こうして、ステップS170において肯定されるまで、ステップ130〜160、ステップ180が繰り返される。
ステップS170において肯定されると、メモリ14から各部分の単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータと粘弾性損失エネルギの値が呼び出され、この時間履歴のデータが累積されるとともに、粘弾性損失エネルギの値の累積が行なわれる。累積結果に対して、タイヤモデル50における1回転の周長で除算することにより、転がり抵抗値が算出される(ステップS190)。単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの累積結果と、粘弾性損失エネルギの累積結果の値、および、転がり抵抗値が、ディスプレイ34やプリンタ36に出力される。なお、1回転の周長は、タイヤモデル50の接地する部分の平均半径をRとして求められる円周の長さ2πRを用いる。あるいは、タイヤモデル50の接地処理後の接地面と回転軸との距離である静的接地半径R1として、下記式のように1回転の周長Lを求める。kは、実験等から設定される0〜1の間の補正値である。
L = 2π{k(R1−R)+R}
図7(a),(b)には、汎用非線形有限要素解析プログラムであるAbaqus(Simulia社製品名)を用いて上記方法により得られた粘弾性損失エネルギの時間履歴のデータの累積結果の一例が示されている。ここで、代表モデル52では、neo-Hookean弾性モデル(C10=0.08,D=0.49)を用い、粘弾性特性を表すProny級数の第1項(g=0.9,緩和時間τ=0.9秒)を与えた。
図7(a)は、各周期毎の単位時間当たりの粘弾性損失エネルギを積算したときの変化を示している。図6(a)中のA、Bが図7(a)中のA,Bに対応する。このようなA,Bにおける単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの値を、1つ前の周期における対応する値の差分または比率の差分または比率を算出し、この差分または比率を閾値と比較することにより、図7(b)に示す周期5のように、粘弾性損失エネルギの変化率を1%以下にすることができる。粘弾性損失エネルギの変化率が1%以下であれば、定常状態であると見做すことができる。したがって、粘弾性損失エネルギの変化率が1%以下になるように。上記閾値を定めるとよい。
以上、本発明の粘弾性体のシミュレーション方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
本発明の粘弾性体のシミュレーション方法を実施するシミュレーション装置の概略構成図である。 本発明の粘弾性体のシミュレーション方法の一実施形態のフローを説明する図である。 (a),(b)は、本発明で用いるモデルの一例を説明する図である。 本発明のシミュレーション方法で用いるモデルの一例を説明する図である。 本発明のシミュレーション方法で用いる節点の変位の時間履歴のデータの一例を示す図である。 (a),(b)は、本発明のシミュレーション方法で得られる時系列データの例を示す図である。 (a),(b)は、本発明のシミュレーション方法で得られる時系列データの別の例を示す図である。
符号の説明
10 シミュレーション装置
12 CPU
14 メモリ
16 ROM
18 入出力ポート
20 条件設定部
22 モデル作成部
24 静解析演算部
26 動解析演算部
28 時間変換部
30 周期境界条件設定部
32 物理量算出部
34 ディスプレイ
36 プリンタ
38 入力操作系

Claims (9)

  1. 変形を与えたとき、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルに周期的な変形を与えてシミュレーションを行なう粘弾性体のシミュレーション方法であって、
    変形中の前記モデルに作用する第1の物理量と第2の物理量を定め、さらに、前記モデルに粘性特性を表す粘性パラメータの値を定めるステップと、
    前記粘性パラメータの値を前記モデルに与え、周期的な変形を前記モデルに与えることによりシミュレーションを行うステップと、
    前記変形中の前記モデルにおける前記第1の物理量の時間履歴データを、周期ごとに取り出し、この取り出した時間履歴データと、1つ前の周期における前記第1の物理量の時間履歴データから、2つの時間履歴データの中の、少なくとも対応する2箇所以上の特徴点における値の差分の絶対値または比率を求めるステップと、
    前記求めた特徴点毎の差分の絶対値または比率が、いずれも予め定められた閾値より小さい場合、前記シミュレーションを終了し、前記第2の物理量を取り出すステップと、を有することを特徴とする粘弾性体のシミュレーション方法。
  2. 前記第1の物理量の前記時間履歴データが1周期に2つのピークを有するデータである場合、これらの2つのピークの点を、前記特徴点として用いる請求項1に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  3. 前記第1の物理量の前記時間履歴データの時間微分データが2箇所で極大および極小となる場合、この極大および極小となる点を、前記特徴点として用いる請求項1に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  4. 前記第1の物理量は、前記モデルに発生する前記周期的な変形に対する位相の情報を含んだ応力または歪みに関する情報から算出される物理量である請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  5. 前記第1の物理量は、前記応力あるいは前記歪みに関する情報から算出される単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの大小を示す量である請求項4に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  6. 前記第2の物理量は、前記モデルに作用する前記応力あるいは前記歪みに関する情報から算出される単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値である請求項5に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  7. 前記モデルは、タイヤの一部分の部位を表すモデルであり、
    前記モデルに与える周期的な変形は、タイヤが転動して1回転するときのタイヤの設定された部位に作用する変形履歴の情報を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  8. 前記部位を、定められたタイヤの各部分に繰り返し適用し、この適用を繰り返すたびに、前記変形による単位時間当たりの粘弾性損失エネルギの時間積算値を求め、各部分について求めた粘弾性損失エネルギの時間積算値を累積し、この累積結果を前記タイヤの周長で除算することにより、前記タイヤの転がり抵抗を算出する請求項7に記載の粘弾性体のシミュレーション方法。
  9. 変形を与えたとき、時間に依存してエネルギが散逸する数値解析可能なモデルに周期的な変形を与えてシミュレーションを行なう粘弾性体のシミュレーション装置であって、
    変形中の前記モデルに作用する第1の物理量と第2の物理量を定め、前記モデルに粘性特性を表す粘性パラメータの値を定める手段と、
    前記粘性パラメータの値を前記モデルに与え、周期的な変形を前記モデルに与えることによりシミュレーションを行う手段と、
    前記変形中の前記モデルにおける前記第1の物理量の時間履歴データを、周期ごとに取り出し、この取り出した時間履歴データと、1つ前の周期における前記第1の物理量の時間履歴データから、2つの時間履歴データの中の、少なくとも対応する2箇所以上の特徴点における値の差分の絶対値または比率を求める手段と、
    前記求めた特徴点毎の差分の絶対値または比率が、いずれも予め定められた閾値より小さい場合、前記シミュレーションを終了し、前記モデルの前記第2の物理量を取り出す手段と、を有することを特徴とする粘弾性体のシミュレーション装置。
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