JP2009242125A - 肥料用無機物 - Google Patents

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Abstract

【課題】肥料として有用な無機物中の肥効成分に制約がなく、高温で溶融処理する必要がない施肥効果に優れた肥料用無機物を提供する。
【解決手段】モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して、この無機物を粉砕する。
【選択図】なし

Description

本発明は、農作物の種類や土壌の性状に対応することが可能で、施肥効果に優れ、肥料として利用することができる肥料用無機物に関する。
リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素、ケイ素などの肥料として有用な元素については、水溶性又は酸可溶性が肥効性(肥料としての効能の度合い)を評価する指標となっているが、それら元素の溶出率が低い場合には、大量に施肥する必要があり、農業従事者の作業負担を高め、コストアップの要因となっている。また、農作物の種類や土壌の性状によっては数種類の肥料を別々に施肥することが必要となり、農業従事者の作業を煩雑にしている。
また、寒冷気候の積雪地域では、春先に融雪作業が必要であり、融雪のために主として炭素材料で被覆した炭酸カルシウムやフライアッシュ等が使用されているが、その散布量や散布回数が増えると、農作物の生育に好ましい土壌環境が損なわれる可能性がある。
肥料中の有効成分の利用率を高めた肥料としては、溶成肥料または溶融肥料があるが、1400ないし1500℃程度の高温で製造する必要があることから、化石燃料の大量消費や炭酸ガスの排出量増加など、環境への負荷が大きい。
このように、農業の分野では、肥料中の有効成分量の増大、農作物や土壌に必要な成分の最適化、積雪地域における融雪促進等の解決すべき課題があり、低コストで、作業負担を増大することなく、しかも、環境保全の観点から有効な解決策を提案することが期待されている。
一方、石綿は、耐熱性を有し成形加工性に優れていることから、建築材料を初めとして多くの工業製品に使用されてきた。しかしながら、石綿は呼吸器への吸入により30年前後の潜伏期間を経て、肺ガンや中皮種といった重大な疾病をもたらすので、全世界的に使用が禁止されつつある。ところが、石綿を原料とする工業製品は膨大な量が存在しており、今後、それらが廃棄物となった場合の安全な処理方法の確立が課題となっているが、現状では、これら石綿を含有する廃棄物は地中深くに埋め立てるか、高温で溶融した後の残渣を埋め立てる以外に実用的な処理方法はなく、一部の石綿や石綿を含む材料については、溶融等の熱分解や化学的な分解により無害化処理する技術が適用されている。
しかし、これらの石綿無害化技術は、石綿含有物質を非石綿化することに主たる目的があり、無害化処理後の石綿の再資源化については言及されていない。また、熱分解は1200ないし1500℃程度の高温で行われるので、化石燃料の大量消費や炭酸ガスの排出量増加は避けられない。また、化学的な分解は大量の処理排水を伴うことから、その処理排水をどのように処理するかという点について副次的に発生する問題があるので、好ましい処理方法とは言えない。
例えば、この種の処理技術に関するものとしては、以下に説明する特許文献1ないし3に開示されているものが知られている。
特許文献1には、カリウム、カルシウム及び/又はマグネシウムを含有する非晶質ケイ酸塩水和物からなる肥料用無機組成物が開示されている。そして、pH5以上の土壌で高いケイ酸塩溶出性を発現させるために、所定配合の原料を振動ミルにおいて4ないし40時間振動させることによって非晶質ケイ酸塩水和物からなる肥料用無機組成物が得られることが記載されている。
特許文献2には、全SiO2中の4重量%クエン酸緩衝液(pHの初期値が5.5)への溶出率が50%以上であるMgO、SiO2およびCaOを含有する非晶質無機組成物が開示されている。そして、pHが5ないし7付近の土壌で高い溶出性を発現させるために、所定配合の原料を1350℃以上で溶融させてから急冷することにより非晶質無機組成物が得られることが記載されている。
特許文献3には、セメント、スレート及びケイ酸カルシウムの中の少なくとも一つと石綿から主に構成される無機系建材を700℃以上の温度で反応、焼成させることによって、石綿を無害化したとするケイ酸質肥料が開示されている。そして、石綿含有建材廃棄物を1000℃で15分間焼成後に粉砕することより、ケイ酸質と可溶性石灰と可溶性苦土を含有する肥料が得られることが記載されている。
特開2000−119082号公報 特開2001−26487号公報 特開2002−68868号公報
しかし、特許文献1に開示された方法は、原料の粉砕に長時間を要し、ケイ酸分以外の肥効性については記載されていない。また、特許文献2に開示された方法は、1350℃以上の高温で溶融処理する必要があり、上記したように、化石燃料の大量消費や炭酸ガスの排出量増加は避けられないという欠点がある。さらに、特許文献3に開示された方法は、ケイ酸質と可溶性石灰と可溶性苦土以外の肥料成分については記載されていない。また、石綿の無害化の確認については、粉砕物のX線回折で石綿のピークを示さなかったことが記載されているのみで、充分に石綿の無害化についての検証がなされているとは言えない。
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、肥料として有用な無機物中の肥効成分(肥料として効果的に作用する成分)に制約がなく、高温で溶融処理する必要がない施肥効果に優れた肥料用無機物を提供することにある。また、本発明の目的は、石綿の無害化を図るとともに石綿の再資源化を達成することができる肥料用無機物を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明は、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して、当該無機物を粉砕することによって得られる肥料用無機物を第一の発明とする。
また、結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱することによって得られる肥料用無機物を第二の発明とする。
また、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を結晶水を含有する無機物に添加して当該無機物を粉砕した後、結晶水が脱離する温度に上記無機物を加熱することによって得られる肥料用無機物を第三の発明とする。
また、結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱した後、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して当該無機物を粉砕することによって得られる肥料用無機物を第四の発明とする。
また、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して当該無機物を粉砕した後、上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物を第五の発明とする。
また、結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱した後、上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物を第六の発明とする。
さらに、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を結晶水を含有する無機物に添加して当該無機物を粉砕した後、結晶水が脱離する温度に上記無機物を加熱し、さらに上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物を第七の発明とする。
そして、結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱した後、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して当該無機物を粉砕し、さらに上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物を第八の発明とする。
無機物としては、例えば、石綿、石綿含有鉱物または石綿含有建材を用いることができる。
上記無機物は、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素、珪素、窒素、硫黄、鉄、亜鉛、モリブデン、銅および塩素の中のいずれか1つの元素または2つ以上の元素を含有することができる。
本発明によれば、処理対象である無機物に制約がなく、高温で溶融処理する必要がなく、適切な条件の粉砕処理、加熱処理または酸処理を無機物に施すことにより、短時間で無機物の結晶性を低下させるか又は無機物を非晶質化し、無機物の土壌への溶解性を向上させることができる。
無機物の土壌への溶解性の度合いは、適切な条件の粉砕処理、加熱処理または酸処理を組み合わせることにより、調節することができる。従って、求められる溶解性に応じて必要な処理方法および条件を適宜組み合わせることにより、施肥効率の高い肥料用無機物を容易に提供することができる。
また、本発明によれば、石綿または石綿を含む物質を溶融せずに無害化し、肥料素材として再利用することができる。
本発明は、結晶水を含有する無機物を溶融せずに結晶水脱離温度まで加熱するだけであるから、使用エネルギーの総量が少なく、化石燃料の消費量や炭酸ガスの排出量を低減することができる。また、加熱温度は処理する無機物の結晶水脱離温度に合わせればよいから、効率的である。
本発明は、水溶性または酸可溶性が求められるリン酸質肥料、カリ質肥料、石灰質肥料、苦土肥料、マンガン質肥料、ホウ素質肥料、ケイ酸質肥料を得るために、処理対象である無機物に施す粉砕処理、加熱処理および酸処理を適宜組み合わせて実施することにより、無機物の土壌への溶解性を向上させることができる。具体的な処理方法について、以下に説明する。
(1)粉砕処理
処理対象である無機物に高い衝突エネルギーやせん断エネルギーを与えるような粉砕方法を適用することにより、肥効成分の結晶性を低下させることができる。一般に、材料に機械的エネルギーを与えることによって材料は微細化するだけでなく、材料の結晶性が低下することは知られているが、この結晶性の低下には時間を要することが多い。
そこで、本発明は、結晶性の低下を促進する物質(本発明において、粉砕助剤という)として、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する物質(粉砕助剤)を無機物に添加して、この無機物を粉砕することにより、短時間で無機物の結晶性を低下させることが可能となる。モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質が30重量%未満の粉砕助剤を用いると、結晶性を低下させるための粉砕処理に長時間を要する。その点で、これらの物質を50重量%以上含有する粉砕助剤を用いることが、より好ましい。
粉砕助剤として使用可能な物質(モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質)としては、ダイヤモンド、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タンタル、窒化ケイ素、窒化チタン、アルミナ、シリマナイト、カイヤナイト、アンダルサイト、ジルコニア、石英、クリストバライト、トリジマイト、ムライト、スピネル類、鉄、マグネタイト、ヘマタイト、フェライト類、フォルステライト、エンスタタイト、酸化スズ、酸化クロム、酸化チタン、コーディエライト等を挙げることができる。
上記物質を30重量%以上含有する物質としては、砂鉄、鉄粉、柘榴石(ガーネット)、金剛砂、鋼玉、エメリー、ジルコンサンド、球石(珪質岩)、珪砂、イルメナイト、オリビンサンド、フライアッシュ、フェロクロム溶融スラグ、シェルベン、各種砥粒屑等を挙げることができる。
以上の物質の中で、経済性や肥料として使用することを考えると(粉砕助剤が摩耗して微量ではあるが肥料に混入することがあるため)、石英、クリストバライト、トリジマイト、ムライト、鉄、マグネタイト、ヘマタイト、フォルステライト、エンスタタイト、コーディエライト、砂鉄、鉄粉、珪砂、オリビンサンド、フライアッシュ等から選択することが好ましい。
粉砕手段としては、粉砕材料に高い衝突エネルギーやせん断エネルギーを付与することのできる粉砕機を使用することが好ましい。例えば、ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、塔式ボールミル、撹拌槽ミル、アニュラミル、遠心式ローラーミル、油圧式ローラーミル、軸流型ミル、せん断型ミル、ピンミル、ジェットミル等を挙げることができる。
これら粉砕機の粉砕方式は、大きく2に分けることができる。すなわち、ボールミルに代表されるように、球状等の一定の形状を有する多数の粉砕媒体(鉄や鋼やアルミニウムやジルコニアやアルミナや酸化珪素や窒化珪素などの材質)を被粉砕物とともに粉砕機に挿入して、粉砕機を回転させることにより得られる回転エネルギーを粉砕媒体に与えて、自由に回動する多数の粉砕媒体と被粉砕物との間の強力な摩擦動作により被粉砕物を粉砕する方式である「粉砕媒体を利用する間接的粉砕方式」と、例えば、ジョークラッシャーのように、相対する「あご」の相対距離を周期的に変化させ、被粉砕物を「あご」ではさんで圧縮して粉砕したり、ロールクラッシャーのように、相対するロールを回転させ、その間で被粉砕物を圧縮して粉砕する方式のように「(粉砕媒体を利用しない)直接的粉砕方式」とに分けることができる。本発明の粉砕助剤は、上記の粉砕媒体とは異なる。粉砕媒体は、球のように一定の形状を有する硬質材料であるが、粉砕助剤は一定の形状を有しない不定形状の硬質材料で、粉末または粒子状であることが好ましく、大きさは、0.5μmないし500μmが好ましい。粉砕助剤の大きさが大きすぎると非晶質化を促進する効果が低下するので、より好ましい粉砕助剤の大きさは50μmないし150μmである。
粉砕媒体は粉砕時に粉砕機から回転エネルギーを与えられて被粉砕物の粉砕に主体的に寄与する物質で、粉砕助剤はまさに粉砕時に補助的役割を果たす物質である。しかしながら、ミクロ的にみた場合、不定形状の粉砕助剤は被粉砕物に密着して強大な力を被粉砕物に及ぼし、結晶構造の変形または破壊に至るような作用をする物質である。もちろん、粉砕媒体も被粉砕物の結晶性を低下させるような働きをするが、粉砕媒体は被粉砕物に対してマクロ的にしか接していないので、粉砕媒体のみでは非晶質化に時間を要する。
無機物に添加する粉砕助剤の量は、被粉砕物全量に対して5ないし20重量%が好ましい。粉砕助剤が5重量%未満の場合、無機物の結晶性低下を促進させる効果がなく、粉砕助剤が20重量%を超えると、粉砕後の無機質中の粉砕助剤含有量が多すぎ、一方、主要な肥効成分の含有量が相対的に少なくなって、肥料としての効果が低下する。
粉砕助剤は粉砕前に無機物とともに粉砕機内に装入して粉砕の最初から粉砕助剤の存在下で無機物の粉砕を行ってもよいが、粉砕に伴う無機物の結晶性の変化を確認しながら、結晶性の低下が緩慢になった時点で粉砕助剤を添加するのが効果的である。
さらに、粉砕助剤として鉄を含有する物質を使用した場合や粉砕機の粉砕媒体に鋼球を使用した場合には、被粉砕物の表面の色調を黒色化することが可能となるので、太陽光の吸収性が向上し、融雪効果を付与することが可能になる。また、粉砕助剤として鉄を含有する物質を使用しない場合でも、肥料となる無機物とともに鉄を含有する物質を加えて粉砕することで被粉砕物の表面の色調を黒色化することが可能である。この場合には、鉄くず、各種金具類、スチール缶など鉄を主な原料とする廃棄物を使用することも可能である。
粉砕処理することが可能な無機物としては、以下の物質を挙げることができる(添え字「※」を付した物質は結晶水を含有する無機物で、加熱による処理が可能な無機物である)。
リン灰石、グアノ、下水汚泥焼却灰、 明礬石※、鉄明礬石※、雲母類※、バーミキュライト※、海緑石※、
石灰類(炭酸カルシウム、生石灰、消石灰)、石膏※、ドロマイト、マグネサイト、
ケイ酸カルシウム類(セメント、トバモライト※、ゾノトライト※、ワラストナイト等)
ケイ酸マグネシウム類(かんらん岩、蛇紋岩※、タルク※、アタパルジャイト※、セピオライト※、緑泥石※、温石綿※)
マグネシア、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム※)
ケイ酸アルミニウム類(長石、カオリン※、モンモリロナイト※、ハロイサイト※、ベントナイト※、活性白土※、ゼオライト※)
菱マンガン鉱、マンガン鉱さい(フェロマンガン、シリコンマンガン)
ホウ素鉱物類(ホウ酸石※、ホウ砂※、コレマナイト、ウレキサイト※)
珪砂、珪石、珪藻土
石綿含有建材※、石綿含有吹付材※、コンクリート屑※、高炉スラグ、フライアッシュ
(2)加熱処理
無機物が結晶水を含有する場合には、結晶水がほぼ完全に脱離する温度域まで加熱することにより結晶性を低下させて、土壌への溶解性を高めることができる。加熱温度は、対象とする結晶水含有無機物によって異なるが、300ないし1000℃程度であり、無機物が溶融するような高温(1200ないし1500℃程度)での処理は不要である。結晶水を脱離させるためには、用いる無機物によって異なるが、結晶水脱離温度(各無機物の具体的な温度は後記)で10ないし60分程度加熱後、室温まで冷却すればよい。
このような結晶水を含有する無機物としては、明礬石、鉄明礬石、雲母類、バーミキュライト、海緑石、石膏、ケイ酸カルシウム類(セメント、トバモライト、ゾノトライト)、ケイ酸マグネシウム類(蛇紋岩、タルク、アタパルジャイト、セピオライト、緑泥石、温石綿)、塩基性炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム類(カオリン、モンモリロナイト、ハロイサイト、ベントナイト、活性白土、ゼオライト)、石綿含有建材、石綿含有吹付材、コンクリート屑などを挙げることができる。
上掲無機物の具体的な結晶水脱離温度は下記のとおりである。結晶水の脱離は下記温度より低温で始まるものもあるが、下記温度は結晶水の脱離がほぼ完結する温度を示す。
明礬石:約650℃、鉄明礬石:約500℃、雲母類:約650℃、バーミキュライト:約400℃、アタパルジャイト:約900℃、セピオライト:約550℃、緑泥石:約800℃、温石綿:約650℃、モンモリロナイト:約800℃、ベントナイト:約800℃、活性白土:約800℃、ハロイサイト:約600℃、天然ゼオライト:約300℃、セメント水和物:約350℃、ケイ酸カルシウム:約600℃
加熱は、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャフト炉、マイクロ波キルンなどを用いて行うことができる。無機物が石綿系の場合は、石綿の飛散を防止するため、加熱時の排ガスはバグフィルター、HEPAフィルター等を用いて処理することが好ましい。
(3)酸処理
無機物が塩基性成分を含む場合には、無機物に中和当量以下の酸を添加することにより、結晶性をさらに低下させて土壌への溶解性を高めることができる。この場合、上記粉砕処理および/又は加熱処理に加えて酸処理を施すことが好ましい。添加する酸のpHは、無機物の中和当量以下であって、5ないし9、好ましくは5.5ないし6.5となるものが好ましい。これは肥料中の有効成分が溶出しやすいという理由によるものである。このような塩基性成分を含む無機物としては、以下のものを挙げることができる。
リン灰石、グアノ、下水汚泥焼却灰、明礬石、鉄明礬石、雲母類、バーミキュライト、海緑石、ドロマイト、マグネサイト、ケイ酸カルシウム類(セメント、トバモライト、ゾノトライト、ワラスナイト等)、ケイ酸マグネシウム類(かんらん岩、蛇紋岩、タルク、アタパルジャイト、セピオライト、緑泥石、温石綿等)、マグネシア、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム類(長石、カオリン、モンモリロナイト、ハロイサイト、ベントナイト、活性白土、ゼオライト等)、石綿含有建材、石綿含有吹付材、コンクリート屑
酸処理に用いる酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、クエン酸などを挙げることができるが、水に溶解後に加熱することで酸性を示し、且つ肥料としても有用である硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどを使用することが好ましい。
なお、本発明においては、金属の表面処理等に使用された後の、いわゆる廃酸を使用することも可能であるが、肥料として有害な元素である砒素、カドミウム、水銀等を含有する酸は、その含有量によっては用いることはできない。
無機物に粉砕処理および/又は加熱処理を施すことにより無機物の酸との反応性が向上することから、本発明の酸処理は、以下のような簡単なプロセスで行うことができる。
第一の方法は、粉砕処理および/又は加熱処理を施した無機物を水中に分散させ、この無機物中に存在する塩基性成分に対して中和当量以下の酸を添加して撹拌する方法である。
第二の方法は、粉砕処理および/又は加熱処理を施した無機物中に存在する塩基性成分に対して中和当量以下の酸をこの無機物に直接添加して混合する方法である。
第三の方法は、粉砕処理時に無機物中の塩基性成分に対して中和当量以下の酸を予め添加しておき、粉砕処理と同時に酸処理を行う方法である。
なお、酸処理によって水溶性の肥効成分の溶出性を高めることができるが、目的とする肥料によっては必ずしも必要な処理ではなく、要求される肥料特性に応じて酸処理の程度や有無を選択することが好ましい。
(4)処理方法の組み合わせ
本発明の肥料用無機物を得るための粉砕処理、加熱処理および酸処理について説明したが、それらの処理方法を単独または組み合わせることにより、有用な肥料用無機物を得ることができる。例えば、粉砕処理単独または加熱処理単独による方法、粉砕処理と加熱処理を併用する方法、粉砕処理または加熱処理に酸処理を併用する方法、粉砕処理、加熱処理および酸処理のすべてを行う方法を実施することができる。目的とする肥料に応じて、これらの各処理を適宜組み合わせることにより、短時間で肥効成分の結晶性を低下させるか又は非晶質化して、土壌への溶解性を迅速に向上させることができる。また、無機物の種類と配合量を変更することにより、肥効の程度を任意に調整できることは言うまでもない。
石綿を原料として上記の方法により肥料用無機物を得ることにより、石綿の無害化を図ることができる。石綿を含有する材料のうち、建築材料にはセメントやケイ酸カルシウムが主成分として含まれているが、これらの成分は肥料素材として使用できるものであるから、本発明の処理方法に付することができる。建築材料中に肥料として必要でない樹脂等が含まれる場合や求める肥料においてこれらの成分が必要でない場合には、粉砕処理あるいは加熱処理後に分級することで石綿を抽出し、肥料素材として利用することが可能となる。
本発明による処理方法は、製品としての肥料を得るために使用できるだけでなく、既存肥料の肥効性を向上させるためにも利用できる。
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更や修正が可能である。
(1)実施例1
蛇紋岩(北海道富良野市産)とかんらん岩(北海道日高町産)を原料無機物として、以下の表1に示す本発明の試料番号1ないし5については、振動ボールミルを用いて粉砕処理するか、外熱式ロータリーキルン(処理量:50kg/hr)を用いて加熱処理するか、又は上記粉砕処理に加えて硫酸による酸処理を行った。また、表1に示す比較例の試料番号6と7については、何も処理を施さなかった。振動ボールミルの振動条件と酸処理の条件は以下のとおりである。
振動条件:処理量50kg、粉砕室容量1000リットル、粉砕媒体:25mm直径の鋼球(充填率80%)、振幅9mm、振動数1000rpm
酸処理条件:試料番号1の粉砕処理物1kgに対して、6.25モル/リットルの硫酸溶液を2リットル加えて、室温で1時間撹拌後、蒸発乾燥固化した。
上記処理後(試料番号6と7は無処理)の各試料について、公定肥料分析法に基づいて有効成分量の測定を行ったので、その結果を以下の表1に示す。
なお、表1および後記する表2において、「可溶性ケイ酸」は化学式SiO2で表され、「水溶性苦土」及び「く溶性苦土」は化学式MgOで表され、「く溶性りん酸」は化学式P25で表される物質である。
また、後記する表1および表2において、可溶性ケイ酸(0.5モル塩酸)とは、0.5モル塩酸に溶解するケイ酸成分を表し、可溶性ケイ酸(0.5モルNaOH)とは、0.5モルNaOH溶液に溶解するケイ酸成分を表す。シリカゲルは希塩酸には溶解しないことから、0.5モルNaOH溶液に溶解するケイ酸成分を可溶性ケイ酸(0.5モルNaOH)と称する。製造時のケイ酸の結合状態や加工条件によって塩酸に対する可溶性を示すケイ酸成分と、NaOH溶液に対する可溶性を示すケイ酸成分と、塩酸とNaOH溶液の両方に対する可溶性を示すケイ酸成分とがある。可溶性ケイ酸は、ケイカル肥料などのケイ酸成分を保証するのに用いられる。
表1において、水溶性苦土(0.5モル塩酸)とは、煮沸した0.5モル塩酸に溶解する苦土成分を表す。石灰質肥料の評価において、アルカリ分の保証に用いられる。
表1において、く溶性苦土(2%クエン酸)とは、2%クエン酸に溶解する苦土成分を表す。石灰質肥料の評価において、アルカリ分の保証に用いられる。
表2において、く溶性リン酸(2%クエン酸)とは、2%クエン酸に溶解するリン酸成分を表す。石灰質肥料の評価において、アルカリ分の保証に用いられる。
Figure 2009242125
表1に明らかなように、試料番号1ないし5の本発明に係る無機物は、肥料として有効な成分を充分に含有しているが、試料番号6と7の比較例の無機物には必要な処理が施されていないので、肥料として有効な成分が含まれていないか又は本発明に比べて少ないことが分かる。
また、上記処理の結果得られた、試料番号1ない5の本発明に係る肥料用無機物について、JISA1418に規定する石綿含有率の分析と電子顕微鏡による形態観察を行った結果、石綿や繊維状物質は全く検出されなかった。
(2)実施例2
グアノ(インドネシア産)を原料無機物として、本発明の試料番号8については、振動ボールミルによる粉砕処理を行った。また、比較例の試料番号9については、何も処理を施さなかった。振動ボールミルの振動条件は以下のとおりである。
振動条件:処理量50kg、粉砕室容量1000リットル、粉砕媒体:25mm直径の鋼球(充填率80%)、振幅9mm、振動数1500rpm
上記処理後(試料番号9は無処理)の試料について、公定肥料分析法に基づいて有効成分量の測定を行ったので、その結果を以下の表2に示す。
Figure 2009242125
表2に明らかなように、試料番号8の本発明に係る無機物は、肥料として有効な成分を充分に含有しているが、試料番号9の比較例の無機物には必要な処理が施されていないので、肥料として有効な成分の量が本発明に比べて少ないことが分かる。
また、上記処理の結果得られた、試料番号8の本発明に係る肥料用無機物について、JISA1418に規定する石綿含有率の分析と電子顕微鏡による形態観察を行った結果、石綿や繊維状物質は全く検出されなかった。
本発明により、石綿または石綿を含有する材料を安全に無害化して、肥料として再利用することが可能であり、本発明は石綿または石綿を含有する材料のリサイクル手段として好適である。また、本発明の肥料用無機物は、肥料として有用であるとともに寒冷地での融雪材としても利用することができる。

Claims (8)

  1. モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して、当該無機物を粉砕することによって得られる肥料用無機物。
  2. 結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱することによって得られる肥料用無機物。
  3. モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を結晶水を含有する無機物に添加して当該無機物を粉砕した後、結晶水が脱離する温度に上記無機物を加熱することによって得られる肥料用無機物。
  4. 結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱した後、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して当該無機物を粉砕することによって得られる肥料用無機物。
  5. モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して当該無機物を粉砕した後、上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物。
  6. 結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱した後、上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物。
  7. モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を結晶水を含有する無機物に添加して当該無機物を粉砕した後、結晶水が脱離する温度に上記無機物を加熱し、さらに上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物。
  8. 結晶水を含有する無機物を当該結晶水が脱離する温度に加熱した後、モース硬度が7以上である物質またはモース硬度と比重の積が20以上である物質を30重量%以上含有する粉砕助剤を無機物に添加して当該無機物を粉砕し、さらに上記無機物に中和当量以下の酸を添加することによって得られる肥料用無機物。
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