JP7079101B2 - けい酸質肥料の製造方法 - Google Patents
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しかし、ケイカルからのけい酸の溶出量(可溶性けい酸)は、0.5モルの塩酸水溶液中では30質量%を越えるが、土壌のpHである5~7程度では5質量%程度と少ない。
そのため、水田1000m2当たり約200kgものケイカルを施肥する場合があり、手間やコストの点から農家にとって負担が大きい。また、ケイカルは肥料の三要素である窒素、燐、および加里のいずれも含まないため、通常、肥料の三要素を含む他の肥料と多量のケイカルを混合する必要がある。例えば、中性域でも比較的けい酸の溶出量が多い熔成りん肥との混合でも、ケイカルの混合量は、熔成りん肥40kgに対し200kgと多量になる。
例えば、特許文献1に記載のけい酸質肥料は、特定の粒度を有するけい酸質組成物の粉末に、特定の水への溶解速度を有する有機質結合材(蔗糖や廃糖蜜)を添加し造粒してなるけい酸質肥料である。そして、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて測定した1ヶ月以内の、該肥料のけい酸分の溶出量は16質量%以上である。
また、特許文献2に記載のけい酸質肥料は、前記有機質結合材が、糊化処理されたデンプンからなる肥料である。
そして、前記いずれのけい酸質肥料も、MgOを1~20質量%、SiO2を30~50質量%含有するほか、CaOおよびP2O5等を含有する非晶質物質である。
さらに、特許文献3に記載のけい酸質肥料は、主成分がSiO2、MgO、CaO、およびP2O5からなり、SiO2を12質量%以上30質量%未満含有し、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法で測定したときに10日以内のけい酸の溶出量が10質量%以上の肥料である。しかし、該けい酸質肥料の製造では、マグネシウム源として天然の蛇紋岩を使わなければならず、またバッチ方式による熔融スラグ化であるためエネルギー消費が多く、また生産効率が低いため経済的ではない。
該リン酸カルシウム水和物とカルシウム源を、焼成物中のCaOの含有率が、48~55質量%となるように混合して混合原料を得る原料の混合工程、
並びに
該混合原料を焼成炉を用いて1250~1350℃で焼成して、2Ca 2 SiO 4 ・Ca 3 (PO 4 ) 2 (ナーゲルシュミッタイト)、Ca 14.92 (PO 4 ) 2.35 (SiO 4 ) 5.65 、α-Ca 15 (PO 4 ) 2 (SiO 4 ) 6 、およびリンが固溶した2CaO・SiO 2 (ケイ酸二カルシウム)を含み、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて測定した水溶性けい酸、および、けい酸の水溶率が、それぞれ10質量%以上および40%以上であるけい酸質肥料を得る混合原料の焼成工程
を少なくとも含む、けい酸質肥料の製造方法。
[2]前記[1]の原料の混合工程において、リンを含有する排水からHAP法またはMAP法を用いて回収されたハイドロキシアパタイト、リン酸マグネシウムアンモニウム、およびリン酸質肥料から選ばれる1種以上を、リン酸源としてさらに混合する、前記[1]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
[3]前記焼成炉がロータリーキルンである、前記前記[1]または[2]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
(i) 本発明のけい酸質肥料の製造方法により製造したけい酸質肥料は、けい酸の水溶性が高い。
(ii) 本発明のけい酸質肥料の製造方法は、将来、多量に余ると予想される高炉水砕スラグを、原料として有効利用できる。
(iii)本発明のけい酸質肥料の製造方法は、焼成してけい酸質肥料を製造するため、溶融して溶融肥料を製造する方法と比べ、製造に要するエネルギー消費が少なく、省エネルギーである。
(vi) 本発明のけい酸質肥料の製造方法において、焼成炉としてロータリーキルンを用いれば、連続生産でき生産効率が向上する。
これらの内、ナーゲルシュミッタイト、Ca14.92(PO4)2.35(SiO4)5.65、α-Ca15(PO4)2(SiO4)6、およびリンが固溶したケイ酸二カルシウムは、けい酸の水溶性が高い。そして、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて測定した前記けい酸質肥料の水溶性けい酸、および、けい酸の水溶率は、後掲の表3に示すように、それぞれ10質量%以上および40%以上である。
また、けい酸質肥料中のCaOの含有率は、好ましくは48~55質量%である。該含有率が48~55質量%であれば、後掲の表2に示すように、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸は10質量%以上になる。ここで、けい酸の水溶率とは、けい酸質肥料中の全けい酸に対する、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸の質量比率(%)である。また、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法は、中性(pH=7)付近でのけい酸の溶解性を評価する方法であり、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いた水溶性けい酸の測定は、下記の文献Aおよび文献Bに記載した方法に準拠して行う。
文献B:加藤、尾和共著 Soil Sci.Plant Nutr.,43巻,2号,351-359頁(1997)
なお、原料およびけい酸質肥料中の酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。
以下、本発明のけい酸質肥料の製造方法を、前記水和物生成工程、原料の混合工程、および混合原料の焼成工程に分けて説明する。
該工程は、高炉水砕スラグとリン酸水溶液中のリン酸の反応により、けい酸質肥料の原料であるリン酸カルシウム水和物を生成する工程である。該水和物を原料に用いて製造したけい酸質肥料は、けい酸の水溶性が高い。
高炉水砕スラグをリン酸カルシウム水和物に転換する操作は、例えば、以下のようにして行う。まず、85質量%リン酸試薬8.9質量部を水100質量部に溶解し、リン酸水溶液を作製する。次に、該リン酸水溶液に、高炉水砕スラグ58.4質量部を添加して撹拌し、リン酸カルシウム水和物を生成させる。
また、前記リン酸水溶液は、下水汚泥焼却灰および/またはし尿汚泥焼却灰から、酸を用いてりん酸(塩)を抽出した酸抽出液を用いることができる。この酸抽出液を用いれば、下水汚泥焼却灰やし尿汚泥焼却灰の再資源化に資することができる。
該工程は、焼成物中のCaOの含有率が、好ましくは48~55質量%となるように、リン酸カルシウム水和物とカルシウム源を混合して混合原料(焼成用原料)を得る工程である。
該工程において、リンを含有する排水からHAP法またはMAP法を用いて回収されたハイドロキシアパタイト、リン酸マグネシウムアンモニウム、およびリン酸質肥料から選ばれる1種以上を、リン酸源としてさらに混合してもよい。
また、前記カルシウム源は、けい酸質肥料のCaOの含有率が48~55質量%の、好ましい範囲になるように調整するために用いる原料であり、該カルシウム源は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、セメント、廃コンクリート、および生コンスラッジ等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、原料の混合方法として、例えば、各原料の一部を電気炉等で焼成した後、該焼成灰中の酸化物を定量し、該定量値と所定の配合に基づき、各原料を混合する方法が挙げられる。該酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。焼成前の原料の化学組成は、焼成物の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であるから、例えば、CaOの含有率が48~55質量%の焼成物を得るためには、通常、CaOの含有率が該範囲を満たす混合原料を用いれば十分である。ただし、正確を期すためには、該原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中のCaOの含有率と、該焼成物中のCaOの含有率との相関を事前に把握しておき、該相関に基づき、原料の混合割合を、目的とする焼成物中のCaOの含有率になるように修正することが好ましい。
該工程は、前記混合原料を、焼成炉を用いて焼成する工程である。前記混合原料は、粉末の状態で、該粉末に水を添加してスラリーにした状態で、または脱水ケーキの状態で焼成するか、若しくは、より焼成効率を上げるために、該粉末を、パンペレタイザー等の造粒機や、ブリケットマシン、およびロールプレス等の成形機で、それぞれ造粒や成形してから焼成する。
前記焼成工程において、焼成温度は、好ましくは1250~1350℃である。該温度が1250未満では焼成が不十分でけい酸の水溶性が低く、1350℃を超えると焼成物が溶融して溶融物になるおそれがある。また、前記焼成炉は、連続生産ができるためロータリーキルンが好ましい。また、焼成時間は10~60分が好ましく、20~40分がより好ましい。該時間が10分未満では焼成が不十分であり、60分を超えると生産効率が低下する。
該工程は、前記焼成物の粒度を調整する工程であり、粉塵の発生を抑制して、肥料の取り扱いを容易にするためや、肥料の効果を十分に発揮するため、肥料の粒度を調整する必要がある場合に選択する任意の工程である。該粒度は0.1~10mmが好ましく、0.5~5mmがより好ましい。
粉砕手段として、例えば、ジョークラッシャー、ローラーミル、ボールミル、またはロッドミル等を用いることができる。また、造粒手段として、例えば、パン型ミキサー、パンペレタイザー、ブリケットマシン、ロールプレス、または押出成型機等を用いることができる。
また、該工程において、肥料の用途に応じて、適宜、窒素、加里、および苦土等のその他の肥料成分を、新たに添加することができる。
1.リン酸水溶液の作製
前記リン酸水溶液は、以下のようにして作製した。すなわち、内容積2000mLのガラス製ビーカーに、地方都市の下水処理場から採取した下水汚泥焼却灰(P2O5の含有率は30.5質量%)50gを量り取り、これに0.5モル塩酸水溶液1000mLをゆっくりと注いだ。次に、撹拌羽根を用いて1時間撹拌して、下水汚泥焼却灰中のリン酸(塩)を塩酸水溶液中に溶出させた。これをろ過してろ液を回収し、このろ液を加熱して過剰な水を蒸発して分離し、Pの含有率が22000ppmのリン酸水溶液224mLを作製した。
表1に示す化学組成を有する高炉水砕スラグ58.4質量部と、前記1.の手順で作製したリン酸水溶液100mLを、内容積200mLのガラス製ビーカー内で混合して、表2に示す化学組成を有するリン酸カルシウム水和物の沈殿物を作製した。該沈殿物を固液分離した後、温度100℃の恒温乾燥器内に載置して、一昼夜乾燥した。この乾燥物は下記と同様に粉砕して参考例とした。また、表3に示す実施例1と比較例1および2の配合に従い、前記水和物と炭酸カルシウム(試薬)を混合して混合原料を調製した。
次に、該混合原料を用いて、一軸加圧成形機により成形し、直径40mm、高さ10mmの円柱状のペレットを作製した。さらに、該円柱状のペレットを、電気炉内に載置した後、昇温速度20℃/分で、表3に示す温度まで昇温し、該温度の下で10分間焼成して焼成物を得た。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて目開き600μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のけい酸質肥料(実施例1と比較例1および2)を製造した。表3に前記けい酸質肥料の化学組成を示す。
なお、焼成後のけい酸質肥料の化学組成は、焼成前の混合原料の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であった。
(1)全けい酸の測定
けい酸質肥料中の全けい酸の測定は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定する過塩素酸法により測定した。
(2)水溶性けい酸の測定とけい酸の水溶率の算出
水溶性けい酸とけい酸の水溶率の算出は、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて以下の手順で行なった。
すなわち、あらかじめ水酸化ナトリウム水溶液と希塩酸を用いて逆再生処理したイオン交換樹脂(アンバーライトIRC-50、オルガノ社製)2gと純水1リットルを入れた樹脂製のビーカー内に、前記実施例1と比較例1および2のけい酸質肥料と、参考例のリン酸カルシウム水和物を、それぞれ0.2g入れ、マグネチックスターラーで静かに10分間撹拌した後、10日間静置した。この10日間が経過した後、再度マグネチックスターラーで静かに10分間撹拌した後、30分間静置し、上澄み液2mlをメスフラスコに分取し、塩酸(1+1)1mlを添加した後、20mlに希釈した。これをICP発光分析法により溶液中のSiの濃度を定量してSiO2の濃度に換算して水溶性けい酸を測定し、全けい酸に対する水溶性けい酸の質量比率であるけい酸の水溶率を算出した。
これらの結果を表3に示す。
Claims (3)
- 高炉水砕スラグと、下水汚泥焼却灰から塩酸を用いて抽出したリン酸水溶液中のリン酸の反応により、リン酸カルシウム水和物を生成する水和物生成工程、
該リン酸カルシウム水和物とカルシウム源を、焼成物中のCaOの含有率が、48~55質量%となるように混合して混合原料を得る原料の混合工程、
並びに
該混合原料を焼成炉を用いて1250~1350℃で焼成して、2Ca 2 SiO 4 ・Ca 3 (PO 4 ) 2 (ナーゲルシュミッタイト)、Ca 14.92 (PO 4 ) 2.35 (SiO 4 ) 5.65 、α-Ca 15 (PO 4 ) 2 (SiO 4 ) 6 、およびリンが固溶した2CaO・SiO 2 (ケイ酸二カルシウム)を含み、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて測定した水溶性けい酸、および、けい酸の水溶率が、それぞれ10質量%以上および40%以上であるけい酸質肥料を得る混合原料の焼成工程
を少なくとも含む、けい酸質肥料の製造方法。 - 請求項1の原料の混合工程において、リンを含有する排水からHAP法またはMAP法を用いて回収されたハイドロキシアパタイト、リン酸マグネシウムアンモニウム、およびリン酸質肥料から選ばれる1種以上を、リン酸源としてさらに混合する、請求項1に記載のけい酸質肥料の製造方法。
- 前記焼成炉がロータリーキルンである、請求項1または2に記載のけい酸質肥料の製造方法。
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