JP2009226262A - 機能性フィルムの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】単層塗布された塗布層の乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させることができ、且つ機能性の溶質材料の構造を変える必要もない。
【解決手段】塗布液を調製する塗布液調製工程12と、調製した塗布液を支持体18に単層塗布する塗布工程14と、塗布した塗布層を乾燥する乾燥工程16と、を備えた機能性フィルムの製造方法であって、塗布液調製工程12おいて、複数種類の溶質材料1、2を少なくとも1種類の溶媒3に含有させると共に、複数種類の溶質材料A、Bのうち機能性を有する溶質材料Aの主拡散係数をD11とし、他の溶質材料Bの主拡散係数をD22としたときに、D11<D22の不等式Aを満足するように他の溶質材料Bを選ぶことにより、乾燥工程16において、前記機能性を有する溶質材料Aをフィルム表面に偏在させる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、機能性フィルムの製造方法に係り、特に支持体上に複数種類の溶質材料と少なくとも1種類の溶剤から成る多成分系の塗布液を単層塗布し、塗布した塗布層の乾燥過程において機能性を有する溶質材料をフィルム表面に偏在させるための技術に関する。
今日、反射防止フィルム,防眩フィルム,光学補償フィルム等の液晶表示装置用の光学フィルム、熱現像感剤,ナノ粒子等を含む特殊フィルム、燃料電池のセパレータフィルム、磁気剤を含む磁気テープ、接着剤を含む接着テープ、バリア素材を含むバリアフィルム等の各種の機能を有する各種の機能性フィルムが使用されている。
このような機能性フィルムの製造は、平坦な基板又は連続的に搬送されるプラスチックや金属等の帯状の支持体に、機能性を有する溶質材料を含む多成分系の塗布液を単層塗布し、塗布層から溶剤のみを乾燥させて、加熱固化させることで製造される。かかる機能性フィルムの製造において、フィルム表面に機能を有する溶質材料を偏在させることができれば、機能性の向上を図ることができると共に、機能性を有する材料の使用量を大幅に削減することができるというメリットがある。
一方、機能性を有する溶質材料をフィルム表面に偏在させる場合、塗布を複数回に分けて多層塗布することも考えられるが、単層塗布に比べて製造費の増大につながるだけでなく、最終塗布厚みが厚くなるため、所望の機能を発揮できないという問題がある。
このように、単層塗布による塗布層を乾燥することによって機能性の溶質材料をフィルム表面に高精度に偏在できれば、機能性フィルムの品質面及びコスト面において顕著な改善を図ることができる。
しかし、塗布層内部の状態は、乾燥条件によって変化する場合が多く、乾燥過程において塗布層内部の状態を如何に精密に制御し、機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させるかは、極めて精密な制御技術が要求される。
例えば、機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させるためのものではないが、乾燥過程において塗布層内部の状態を制御する一例として特許文献1がある。特許文献1では、2成分系のシミュレーションを行って最適な乾燥条件を見つけ、それに近づけることでレジスト膜の端の部分に出来る特異な凹凸の形成を防止することが記載されている。
また、乾燥中の溶媒濃度変化に応じた拡散係数の変化は、非特許文献1あるいは非特許文献2に見られ、特にDudaの自由体積論が乾燥シミュレーションにも一部試みられている。
特開2003―164797号公報 AIChE Journal Mar. 1992, Vol.38, No.3, pp405-415 Predicting Polymer/Solvent Diffusion Coefficients Using Free-Volume Theory, Zielinski. J. M. 自由体積理論を用いた拡散係数の推算。 AIChE Journal Feb. 2003, Vol.49, No.2, PP309-322 Multicomponent Diffusion Theory and Its Applications to Polymer-Solvent System, Price P. E. et al。
しかしながら、上記した各種の機能性フィルムは、複数種類の溶質材料を1種類以上の溶剤に含有させる多成分系(例えば2種類の溶質と1種類の溶剤の3成分系)の塗布液である場合が多く、特許文献1や非特許文献1、2のような2成分系の乾燥条件とは相違する。しかも、乾燥シミュレーションで見つけた最適な乾燥条件に精密に制御することは現実には難しいという問題がある。
また、多成分系に含まれる各溶質の拡散係数を調べて、厳密な乾燥シミュレーションを行って決定する方法が考えられるものの、汎用溶剤やポリマー以外に拡散係数の情報はあまり知られておらず、計測も大変であることから活用が進んでいない。また、複数のポリマーを含む場合は、乾燥シミュレーション自体の研究があまり行われておらず、計算上必要な交差拡散係数の取り扱いに関する知見は殆ど公表されていない。
一方、乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させる方法としては、界面活性剤のように機能性の溶質材料に疎水基を修飾する方法があるが、この場合には機能性の溶質材料の分子構造が変化する。この結果、本来期待する機能性フィルムの機能性が低下してしまうという問題がある。
このような背景から、単層塗布された塗布層の乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させることができ、且つ機能性の溶質材料の構造を変える必要もない機能性フィルムの製造方法が要望されている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、単層塗布された塗布層の乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させることができ、且つ機能性の溶質材料の構造を変える必要もない機能性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、塗布液を調製する塗布液調製工程と、調製した塗布液を支持体に単層塗布する塗布工程と、塗布した塗布層を乾燥する乾燥工程と、を備えた機能性フィルムの製造方法であって、前記塗布液調製工程において、複数種類の溶質材料を少なくとも1種類の溶媒に含有させると共に、前記複数種類の溶質材料のうち機能性を有する溶質材料の主拡散係数をD11とし、他の溶質材料の主拡散係数をD22としたときに、D11<D22の不等式aを満足するように前記他の溶質材料を選ぶことにより、前記乾燥工程において、前記機能性を有する溶質材料をフィルム表面に偏在させることを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供する。
ここで、フィルム表面とは、支持体に接していない側の塗布層面のことを言う。
請求項1によれば、塗布液調製工程において、複数種類の溶質材料を少なくとも1種類の溶媒に含有させると共に、複数種類の溶質材料のうち機能性を有する溶質材料の主拡散係数D11と、他の溶質材料の主拡散係数D22との関係がD11<D22の不等式aを満足するように他の溶質材料を選ぶようにした。
これにより、機能性の溶質材料の構造を変えることなく、不等式aを満足する他の溶質材料を選択するだけで、単層塗布された塗布層の乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させることができる。これにより、製造された機能性フィルムの品質面及びコスト面において顕著な改善を図ることができる。
尚、不等式aを満足するように他の溶質材料を選択するとは、他の溶質材料の構造等を変化させることも含む。また、機能性を有する溶質材料が1つで、他の溶質材料が2つの場合には、他の2つの材料ともに不等式aを満足するように選択することを意味する。溶質材料が4つ以上の場合も同様である。
本発明の請求項2は前記目的を達成するために、塗布液を調製する塗布液調製工程と、調製した塗布液を支持体に単層塗布する塗布工程と、塗布した塗布層を乾燥する乾燥工程と、を備えた機能性フィルムの製造方法であって、前記塗布液調製工程において、複数種類の溶質材料を少なくとも1種類の溶媒に含有させると共に、前記複数種類の溶質材料のうち機能性を有する溶質材料の主拡散係数をD11とすると共に交差拡散係数をD12とし、他の溶質材料の主拡散係数をD22とすると共に交差拡散係数をD21としたときに、(D11−D21)<(D22−D12)の不等式bを満足するように前記他の溶質材料を選ぶことにより、前記乾燥工程において、前記機能性を有する溶質材料をフィルム表面に偏在させることを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供する。
請求項2は、主拡散係数の他に交差拡散係数をも加味して機能性を有する溶質材料と、他の溶質材料との関係を規定したものである。
請求項2によれば、塗布液調製工程において、複数種類の溶質材料を少なくとも1種類の溶媒に含有させると共に、複数種類の溶質材料のうち機能性を有する溶質材料の主拡散係数をD11とすると共に交差拡散係数をD12とし、他の溶質材料の主拡散係数をD22とすると共に交差拡散係数をD21としたときに、(D11−D21)<(D22−D12)の不等式bを満足するように他の溶質材料を選ぶようにした。
これにより、機能性の溶質材料の構造を変えることなく、不等式bを満足する他の溶質材料を選択するだけで、単層塗布された塗布層の乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させることができる。これにより、製造された機能性フィルムの品質面及びコスト面において顕著な改善を図ることができる。
尚、不等式bを満足する他の溶質材料を選択するとは、不等式bを満足するように、他の溶質材料の構造等を変化させることも含む。また、機能性を有する溶質材料が1つで、他の溶質材料が2つの場合には、他の2つの材料ともに不等式Bを満足するように選択することを意味する。溶質材料が4つ以上の場合も同様である。
請求項3は請求項1又は2において、前記機能性を有する溶質材料がモノマー又はポリマーであることを特徴とする。
請求項3は、機能性フィルムに用いられる機能性の溶質材料として好ましいものを規定したものである。
請求項4は請求項1又は3において、D11−D22で表される拡散係数の差がマイナス3以上であることを特徴とする。
これは、D11−D22で表される拡散係数の差がマイナス3以上である場合に、乾燥工程において、機能性を有する溶質材料をフィルム表面に一層偏在させ易くなるからである。ここで、マイナス3以上とは、マイナスの度合いが3よりも大きくなることを言う。
請求項5は請求項2又は3において、(D11−D21)−(D22−D12)で表される拡散係数の差がマイナス1.5以上であることを特徴とする。
これは、(D11−D21)−(D22−D12)で表される拡散係数の差がマイナス1.5以上である場合に、乾燥工程において、機能性を有する溶質材料をフィルム表面に一層偏在させ易くなるからである。ここで、マイナス1.5以上とは、マイナスの度合いが1.5よりも大きくなることを言う。
より好ましくは、(D11−D21)−(D22−D12)で表される拡散係数の差がマイナス3.5以上である。
尚、請求項1では溶質材料1と溶質材料2との主拡散係数における不等式aで示し、請求項2では主拡散係数に交差拡散係数を加味したときの不等式bで示したが、不等式aと不等式bの両方を満足してもよいことは勿論である。また、拡散係数は、濃度依存性、温度依存性をもつ場合が多いので、その場合には、乾燥中の温度、濃度変化を基に拡散係数変化を算出して比較することが好ましい。そして、乾燥中に変化する拡散係数の平均値が不等式a又は不等式bを満足すればよい。
以上説明したように、本発明の機能性フィルムの製造方法によれば、単層塗布された塗布層の乾燥条件の制御に依存せずに機能性の溶質材料をフィルム表面に偏在させることができ、且つ機能性の溶質材料の構造を変える必要もない。これにより、製造された機能性フィルムの品質面及び製造コスト面において顕著な改善を図ることができる。
以下、添付図面に従って、本発明に係る機能性フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
図1に示すように、本発明の機能性フィルムの製造方法10は、主として、塗布液を調製する塗布液調製工程12と、調製した塗布液を支持体に単層塗布する塗布工程14と、塗布した塗布層を乾燥する乾燥工程16と、で構成される。
本実施の形態では、機能性を有する第1のポリマーから成る溶質材料Aと、バインダの役目をする第2のポリマーから成る溶質材料Bと、1種類の溶媒Cと、の3成分系の塗布液を透明支持体18に単層塗布し、単層塗布した塗布層から乾燥により溶媒Cを除去することにより反射防止フィルムを製造する例で説明する。
尚、本発明の製造方法は、反射防止フィルムの製造に限らず、防眩フィルム,光学補償フィルム等の液晶表示装置用の光学フィルム、熱現像感剤,ナノ粒子等を含む特殊フィルム、燃料電池のセパレータフィルム、磁気剤を含む磁気テープ、接着剤を含む接着テープ、バリア素材を含むバリアフィルム等の各種の機能を有する機能性フィルムの製造に適用できる。
図2は、本実施の形態における反射防止フィルムの一例を示す断面模式図である。図2に示すように、本発明の機能性フィルムの製造方法によって製造される反射防止フィルム20は、フィルム表面に機能性を有する第1のポリマーから成る溶質材料Aが偏在し、透明支持体18側に第2のポリマーから成る溶質材料Bが偏在した状態で形成される。即ち、透明支持体18上に、透明支持体18側から順に、第2のポリマーを主成分とする下層22と、第1のポリマーと第2のポリマーとが略均等に混在した中間層24と、機能性を有する第1のポリマーを主成分とする上層26とが形成される。尚、図2では、下層22、中間層24、上層26の3層に明瞭に区分けして記載したが、実際には、透明支持体18側からフィルム表面に向けて、第2のポリマーの濃度比率が徐々に小さくなり、第1のポリマーの濃度比率が徐々に大きくなるグラデション状態で変化する。
フィルム表面に機能性を有する第1のポリマーから成る溶質材料Aを図1のように偏在させるためには、塗布液調製工程12において、機能性を有する第1のポリマーから成る溶質材料Aと、バインダの役目をする第2のポリマーから成る溶質材料Bと、が次の不等式a又は不等式bの少なくとも何れかの条件を備えた塗布液を調製することが必要である。
不等式aは、機能性を有する溶質材料1の主拡散係数をD11とし、バインダとしての溶質材料2の主拡散係数をD22としたときに、D11<D22を満足する。
不等式bは、機能性を有する溶質材料1の主拡散係数をD11とすると共に交差拡散係数をD12とし、バインダとしての溶質材料2の主拡散係数をD22とすると共に交差拡散係数をD21としたときに、(D11−D21)<(D22−D12)を満足する。
不等式aと不等式bの両方を満足してもよいことは勿論である。この場合、不等式aと不等式bの少なくとも何れかを満足させるためには、機能性を有する溶質材料Aを先ず決定(選択)し、決定した溶質材料Aとの関係で他の溶質材料Bの主拡散係数や交差拡散係数を満足させるように、溶質材料Bの種類を選択したり、溶質材料Bの構造を変えたりすることが重要である。
溶質材料Aや溶質材料Bの主拡散係数を測定する方法は、下記の文献に示されるように、文献1の逆相ガスクロ法(IGC)、文献2のラマン法、文献3のNMR法等の方法がよく用いられる。また、これまで困難であった交差拡散係数の測定においても、近年、ラマン法を用いて、3成分系の測定を行えば、交差拡散係数の計測も可能となってきている。また、文献4に示すようにレーザーを使った測定も可能となってきている。
文献1…Macromolecules, 20, 1564-1578 (1987) Pawlisch, C. A.「逆相ガスクロによる拡散係数測定(INVERSE GAS CHROMATOGRAPHY )」。
文献2…AIChE Journal 49 (2), pp. 323-334 Bardow, A. ラマン法 Model-based measurement of diffusion using Raman spectroscopy。
文献3…Macromolecules, 26, 6841 (1993) Waggoner, R. A.「NMR磁気共鳴法による自己拡散係数計測」。
文献4…丹羽麻衣子 (慶応大 大学院), 山本泰之 (産業技術総合研), 長坂雄次 (慶応大) 、「ソーレー効果を用いた3成分ポリマー溶液の拡散係数測定法の開発 」、化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集、Vol.39th Page.J221 (2007.08.13)。
そして、上記の不等式aと不等式bの少なくとも何れかの関係を有する塗布液を、単層塗布工程14で透明支持体18に単層塗布し、単層塗布した塗布層を乾燥工程16で乾燥する。これにより、乾燥工程16の乾燥過程において、塗布層内の内部状態が変化し、溶質材料Aがフィルム表面に偏在する。即ち、塗布層内部の溶質材料Aと溶質材料Bとの主拡散係数(及び交差拡散係数)とが上記不等式aと不等式bの少なくとも何れかを満足することにより、乾燥中に塗布層内で発生する溶質材料Aと溶質材料Bとの拡散移動のし易さ(拡散係数の大小)によって、図2に示すように溶質材料Aがフィルム表面側に偏在していき、溶質材料Bが透明支持体18の側に偏在していく。
乾燥過程において溶質材料Aがフィルム表面に偏在するメカニズムを、図3の概念図によって詳しく説明する。なお、図3では、機能性を有する溶質材料Aを記号Aで示し、バインダの役目をする溶質材料Bを記号Bで示し、溶媒Cを記号Cで示してある。図3の左側の概念図は恒率乾燥期での塗布層29内部(特に塗布層29の表層部分)における溶質材料Aと溶質材料Bの挙動を示し、右側の概念図は減率乾燥期での塗布層29内部での溶質材料Aと溶質材料Bの挙動を示す。
先ず乾燥初期である恒率乾燥期間においては、塗布層29内部の溶剤量は直線的に減少していく。つまり塗布層表面29A(フィルム表面と同じ)から溶媒Cが一定速度で蒸発していくことを意味している。これは、塗布層表面29Aで溶媒Cが液相(塗布層)側から気相(大気)側に拡散していく速度V1(表面拡散と呼ぶ)に比べ、塗布層29内部で溶媒Cが拡散していく速度V2(内部拡散と呼ぶ)が大きい。これにより、蒸発に(溶媒C分子が液相から気相側に移動)伴って塗布層表面29Aで溶媒Cが減少する分を塗布層29内部からの内部拡散によって、表面拡散が低下しないだけの十分な速度で溶媒Cが補填されていくためである。この恒率乾燥期間では塗布層表面29A近傍での液相中の溶質材料A、溶質材料Bの濃度は上昇していく傾向を示すものの、溶質材料A、溶質材料Bの比率は変化が小さく、一方の溶質が塗布層29に多く偏在する現象は生じないか若しくは発生したとしても変化は小さい。
乾燥が進行してくると、遷移期間を経て減率乾燥期間に移行する。つまり塗布層表面29A(フィルム表面と同じ)から溶媒Cが蒸発していく速度が徐々に低下する。
これは、乾燥の進行に伴い、塗布層29内部の溶質材料A、溶質材料Bの濃度が蒸発していくことにより、塗布層29内部で溶媒Cが拡散していく速度が低下し、塗布層表面29Aで溶媒Cが気相側に拡散していく速度(表面拡散と呼ぶ)に比べ遅くなる。これにより、蒸発(溶媒C分子が液相から気相側に移動)伴って塗布層表面29Aで溶媒Cが減少する分を塗布層29内部からの拡散(内部拡散と呼ぶ)によって、溶媒Cの補填が間に合わなくなるためである。
このように乾燥に伴って、塗布層29内部の溶質濃度は上昇していき、更に塗布層表面29Aの溶質濃度が内部より高くなるが、この時、溶質材料Aと溶質材料Bの拡散のし易さ(拡散係数の大小)が塗布層29の内部における溶質材料Aと溶質材料Bとの挙動に大きな違いが生じさせる。
つまり、塗布層表面29A近傍での溶質材料A、Bの濃度が塗布層29内部より高くなった場合、溶質材料A、Bは塗布層29の厚み方向で濃度差が小さくなるように拡散していく。この際、両者の拡散係数が同じ値であれば、同様の比率で移動していくため塗布層表面29A近傍での溶質濃度比率は一定に保たれていく。しかし、実際には溶質の種類が違うと拡散係数は異なる場合が多く、拡散係数の小さい溶質材料Aが塗布層表面29Aから塗布層29内部への移動が遅いために、拡散係数の大きい溶質材料Bに比べ、塗布層表面29Aに多く残留することになる(取り残される)。図3の塗布層表面29Aでの拡大図では、溶質材料Aと溶質材料Bの拡散係数の大きさの違いを、矢印の長さで示してあり、矢印が長いほど拡散係数が大きいことを意味する。これにより、溶質材料Aよりも多くの溶質材料Bが透明支持体方向へ拡散移動することにより、乾燥が終了した塗布層29には、図2に示したように、塗布層表面29Aに溶質材料Aが多く偏在したフィルム20が形成される。
この場合、厳密には、乾燥中における溶質材料Aと溶質材料Bの拡散係数は溶媒中の濃度によって変化するが、乾燥中に変化する拡散係数の平均値が上記不等式aと不等式bの少なくとも何れかの関係を満たしていればよい。
乾燥工程16における溶媒Cの乾燥速度は、乾燥風速、乾燥温度等により調整することができる。また、乾燥速度は、0.03〜5g/m/秒であることが好ましい。これは、乾燥速度が遅すぎると溶媒の透明支持体18に対する浸透が進行しすぎて透明支持体18の変形等を引き起こす虞がある。逆に乾燥速度が速すぎると塗布層29の粘度が急激に高くなるので、溶質材料Bの充分な拡散移動が進行しないうちに塗布層29が固化してしまい、塗布層表面29Aに溶質材料Aを高濃度に偏在させにくくなる。また、乾燥速度が速過ぎると、乾燥ムラによる面状品質の低下等が生じる虞もある。
乾燥速度は、例えば、図4に示すようなポータブル型のFTIR装置30により測定することができる。即ち、同図に示すように、センサー部32がファイバーになったポータブル型のFTIR装置30を用いて、矢印方向に走行する透明支持体18の塗布層の上部から、乾燥に伴う塗布層内部の溶媒の蒸発量の時間変化を吸光度変化より調べる。このようなFTIR装置としては、例えば、VIR-9500(日本分光)を使用できる。
尚、上記の反射防止フィルムの製造方法において、熱又は光重合性成分(特に多官能硬化モノマー及び/又はオリゴマー)を使用し、塗布層29を形成した後に、活性エネルギー線(紫外線、電子線等)の照射や加熱により重合させて硬化させてもよい。
また、透明支持体18上に塗布される塗布層29の厚み(乾燥膜厚)は、1〜500μmが好ましく、5〜200μmが一層好ましい。また、反射防止フィルム20としては、必要に応じて、例えばハードコート層や帯電防止層(例えば、導電剤や親水性成分を含む光硬化性樹脂で構成された導電性薄膜など)等の薄膜を形成してもよい。
次に、反射防止フィルム20を構成する各種素材について説明する。
透明支持体18としては、光透過率が80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。透明支持体のヘイズは、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。透明支持体18の屈折率は、1.4乃至1.7であることが好ましい。また、プラスチックフィルムを用いることが好ましい。プラスチックフィルムの材料の例には、セルロースエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等、)、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート及びポリエーテルケトン等が挙げられる。
本実施形態に使用される溶質材料A及び溶質材料Bとしては、特に限定はないが、通常、熱可塑性樹脂が使用される。機能性を有する溶質材料Aとしては、モノマー、ポリマーを好適に使用できる。
熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂(脂環式オレフィン系樹脂を含む)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴム又はエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが例示できる。これらの熱可塑性樹脂は、2種以上組み合わせて使用できる。
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、(メタ)アクリル系単量体と共重合性単量体との共重合体などが使用できる。(メタ)アクリル系単量体には、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C1−10アルキル;(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリール;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;トリシクロデカンなどの脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが例示できる。共重合性単量体には、前記スチレン系単量体、ビニルエステル系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などが例示できる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)などが挙げられる。好ましい(メタ)アクリル系樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキル、特にメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%程度)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
セルロース誘導体のうちセルロースエステル類としては、例えば、脂肪族有機酸エステル(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのC1−6有機酸エステルなど)、芳香族有機酸エステル(セルロースフタレート、セルロースベンゾエートなどのC7−12芳香族カルボン酸エステル)、無機酸エステル類(例えば、リン酸セルロース、硫酸セルロースなど)が例示でき、酢酸・硝酸セルロースエステルなどの混合酸エステルであってもよい。
セルロース誘導体には、セルロースカーバメート類(例えば、セルロースフェニルカーバメートなど)、セルロースエーテル類(例えば、シアノエチルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1−6アルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース又はその塩、ベンジルセルロース、アセチルアルキルセルロースなど)も含まれる。
好ましい熱可塑性樹脂としては、通常、非結晶性であり、かつ有機溶媒(特に複数のポリマーや硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶な樹脂が使用される。特に、成形性又は製膜性、透明性や耐候性の高い樹脂、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類など)などが好ましい。特に、熱可塑性樹脂として、セルロース誘導体が好ましい。
また、硬化後の耐擦傷性の観点から、例えば、互いに非相溶なポリマーのうち一方のポリマーとして、硬化反応に関与する官能基(硬化剤と反応可能な官能基)を有するポリマーを用いることもできる。このような官能基としては、縮合性又は反応性官能基(例えば、ヒドロキシル基、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基又はイミノ基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基など)、重合性官能基(例えば、ビニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、アリルなどのC2−6アルケニル基、エチニル、プロピニル、ブチニルなどのC2−6アルキニル基、ビニリデンなどのC2−6アルケニリデン基、又はこれらの重合性官能基を有する官能基((メタ)アクリロイル基など)等)等が挙げられる。
本実施形態においては、例えば、第2のポリマーから成る溶質材料Bがセルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル類)であり、第1のポリマーから成る溶質材料Aがアクリル系樹脂である場合、第1のポリマーと第2のポリマーとの質量比は、例えば、1:3〜1:10程度とすることが好ましい。なお、複数のポリマーの代わりに、ポリマーとモノマーを組み合わせて用いることもできる。
例えば、アクリレートモノマーで、具体的な素材としてはペンタエリスリトールトリアクリレートやジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどがある。
硬化性化合物としては、熱線や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)等により反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が使用できる。
硬化性化合物としては、例えば、熱硬化性化合物又は樹脂[エポキシ基、イソシアネート基、アルコキシシリル基、シラノール基、重合性基(ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基など)などを有する低分子量化合物(又はプレポリマー、例えば、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などの低分子量樹脂など)]、活性光線(紫外線など)により硬化可能な光硬化性化合物(光硬化性モノマー、オリゴマー、プレポリマーなどの紫外線硬化性化合物など)などが例示でき、光硬化性化合物は、EB(電子線)硬化性化合物などであってもよい。なお、光硬化性モノマー、オリゴマーや低分子量であってもよい光硬化性樹脂などの光硬化性化合物を、単に「光硬化性樹脂」という場合がある。硬化性化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
光硬化性化合物は、通常、光硬化性基、例えば、重合性基(ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基など)や感光性基(シンナモイル基など)を有しており、特に重合性基を有する光硬化性化合物(例えば、単量体、オリゴマー(又は樹脂、特に低分子量樹脂))が好ましい。
重合性基を有する光硬化性化合物のうち、単量体としては、例えば、単官能性単量体[(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体、例えば、アルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレートなどのC1−6アルキル(メタ)アクリレートなど)、シクロアルキル(メタ)アクリレート、橋架環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなど)、グリシジル(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどのビニルエステル、ビニルピロリドンなどのビニル系単量体など]、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体[エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)オキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの橋架環式炭化水素基を有するジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの3〜6程度の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体]が例示できる。
硬化性化合物は、その種類に応じて、硬化剤と組み合わせて用いてもよい。例えば、光硬化性化合物は光重合開始剤と組み合わせて用いることができる。
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類又はプロピオフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキシド類等を使用できる。光重合開始剤の含有量は、硬化性化合物に対して0.1〜20重量部程度とすることができる。
なお、複数の溶質材料の主拡散係数、及び交差拡散係数が異なることによる溶質材料のそれぞれの偏在性は、それぞれ双方の成分に対する良溶媒を用いて均一溶液を調製し、溶媒を蒸発させた後の乾燥膜を分析することで評価できる。例えば、光学特性など機能性素材の性能を直接測定してもよいし、素材の偏在量を分子の構造に着目して分析してもよい。分子の構造に着目して分析する方法としては、ESCA(X線光電子分光分析装置)やTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析装置)などを使用する方法があり、溶質材料A、溶質材料Bの素材の種類と組み合わせによって適した方法を選択するのがよい。
本実施形態における溶媒としては、上記複数のポリマーのうち少なくとも2種類のポリマーを溶解するものであればよい。即ち、ポリマーや重合性成分の種類等に応じて適宜選択することができる。このような溶媒としては、混合溶媒の場合、少なくとも1種類は固形分(複数のポリマー及び硬化性化合物、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できる溶媒であればよく、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
次に、本実施形態における塗布層構造を備えた反射防止フィルムの製造方法について説明する。なお、反射防止層用の塗布液としては、上記した2種類のポリマーから成る溶質材料A、B、これらのポリマーを溶解する溶媒C、及び硬化性化合物を含む溶液を用いる例である。
図5は、本実施形態の反射防止フィルムの製造工程40の一例を示した概略図である。
長尺状の透明支持体18(既に何らかの機能層が形成されているものも含む)が、フィルムロール42から送出機44により送り出される。
透明支持体18はガイドローラ46によってガイドされて除塵機48に送りこまれる。除塵機48は、透明支持体18の表面に付着した塵を取り除くことができるようになっている。除塵機48の下流には、塗布手段であるエクストルージョン方式の塗布装置50の塗布ヘッド50Aが設けられており、反射防止層用塗布液がバックアップローラに巻き掛けられた透明支持体18上に単層塗布できるようになっている。塗布層は、例えば、湿潤厚みが40μm以下とすることができる。
塗布方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法等も用いることができる。塗布ヘッド50Aは、クリーンルーム等の清浄な雰囲気に設置するとよい。その際、清浄度はクラス1000以下が好ましく、クラス100以下がより好ましく、クラス10以下が更に好ましい。
塗布ヘッド50Aの下流には、本実施形態における機能性を有する溶質材料の偏在を生じさせる(初期)乾燥ゾーン54と、加熱(本乾燥)ゾーン56と、が順次設けられている。(初期)乾燥ゾーン54で、形成された塗布層の表面を気体層でシールしながら溶媒を抑制下に蒸発させ、溶媒の大部分を蒸発させ後に、塗布層をさらに加熱(本乾燥)ゾーン56で乾燥することが好ましい。
この乾燥ゾーン54では、反射防止用塗布液の塗布層を、所定温度(例えば、室温25℃)で溶媒を蒸発させる際に、溶質材料Aと溶質材料Bとの拡散係数(主拡散係数、交差拡散係数)が異なることにより、上述したメカニズムによる溶質材料Aのフィルム表面への偏在を誘起させる。
乾燥速度は、速すぎると偏在する前に乾燥して固化するため、0.03〜5.0g/m/秒とすることが好ましい。但し、乾燥温度は、溶媒の沸点に応じて、上記した室温25℃以外に例えば、40〜120℃程度の温度で乾燥させてもよい。乾燥風量は、例えば1〜20m/分程度とすることができる。
乾燥ゾーン54における該塗布層表面の気体層のシールは、塗布層の表面に沿って気体を塗布層の移動速度に対して−0.1〜0.1m/秒の相対速度となるように移動させることが好ましい。上記溶媒を抑制下に蒸発させるには、塗布層中の溶媒含有量の減少速度が時間と比例関係にある期間内に行なうことが好ましい。乾燥は覆いを付けることが好ましい。また、乾燥風には整流した風もしくは均一な風を用いてもよいし、もしくは蒸発した溶媒を塗布層に対向して設置された冷却凝縮板により凝縮させ取り除いても良い。
加熱(本乾燥)ゾーン56としては、特に限定はないが、熱風加熱装置(例えば、特開2001−314799に記載の熱処理装置等)、ヒータ加熱装置等が使用できる。熱風加熱する場合、加熱ムラを抑制する上で、熱風の風速は1m/秒以下とすることが好ましい。
乾燥工程の下流には、塗布層を硬化させる工程として、熱線や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)により塗布層を硬化又は架橋させる。硬化方法としては、硬化性化合物の種類に応じて選択できるが、例えば、紫外線照射装置58が使用される。この紫外線照射により、所望の硬化、架橋を形成できるようになっている。
また素材によっては熱で硬化するための熱処理ゾーンが設けられ所望の硬化、架橋を行うこともある。または、上記塗布層を形成した透明支持体18を巻き取った後、別工程でオーブン加熱や、搬送しての熱処理を行うこともある。そして、この下流に設けられた巻取り機60により、反射防止膜が形成された透明支持体18が巻き取られるようになっている。
以上説明したように、本発明に係る機能性フィルムの製造方法を採用することにより、フィルム表面に機能性を有する溶質材料Aを偏在させた塗布層を1回の塗布で容易に形成できる。これにより、屈折率の異なる光干渉層を備えた反射防止フィルムを生産効率よく製造することができる。
なお、本実施形態では、2種類のポリマーを溶媒に溶解させた溶液を用いた例で説明したが、3種類以上の複数のポリマー(或いはモノマー)を溶媒に溶解させた溶液を用いることもできる。
本発明に係る機能性フィルムは、以下に述べる反射防止フィルムの好ましい実施態様において、防眩層、低屈折率層、中屈折率層、高屈折率層のうち任意の組み合わせを構成することができる。
即ち、反射防止フィルムは、透明支持体上に単層から複数層の光干渉層からなる反射防止層が最表面に設けられ、必要に応じてハードコート層、防眩層が透明支持体と光干渉層の間に設けられる。中でも、防眩層と反射防止層の両方を具備したものを防眩性反射防止フィルムという。
透明支持体上に防眩層、低屈折率層を積層した層構成からなる防眩性反射防止フィルムは、以下を満足する屈折率を有する様に設計される。防眩層>低屈折率層の屈折率、また又、透明支持体と防眩層の間に、ハードコート層を設けてもよい。反射防止膜のヘイズは、防眩層にあったヘイズとすることが好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
透明支持体上にハードコート層を設け、低屈折率層を積層した層構成からなるクリア型反射防止膜以下を満足する屈折率を有する様に設計される。防眩層>低屈折率層の屈折率、また又、透明支持体と防眩層の間に、ハードコート層を設けてもよい。反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
もしくは透明支持体上に防眩層を設け、高屈折率層、低屈折率層を積層した層構成からなる防眩性反射防止膜以下を満足する屈折率を有する様に設計される。高屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率。反射防止膜のヘイズは、防眩層にあったヘイズとすることが好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
もしくは透明支持体上にハードコート層を設け、高屈折率層、低屈折率層を積層した層構成からなる防眩性反射防止膜以下を満足する屈折率を有する様に設計される。高屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率。反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
〔高屈折率層及び中屈折率層〕
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
〔低屈折率層〕
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
〔反射防止フィルムの他の層〕
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光及び/又は熱の硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。
硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、又加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、WO0/46617号公報等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。ハードコート層は、平均粒径0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。又、JISK5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
(アンチグレア機能)
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、本発明に係る多層膜の形成方法のほかにも、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層又はハードコート層)に比較的大きな粒子(粒径0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
本実施形態では、主に、反射防止フィルムに本発明を適用する例で説明したが、これに限定されることはなく、例えば、防眩性フィルム、偏光板、光学補償フィルム等の光学的機能性フィルムシート、熱現像感剤、ナノ粒子等を含む機能性フィルム、燃料電池のセパレータフィルム、磁気記録テープ、接着テープ、バリアフィルム等の製造技術にも適用可能である。なお、支持体としては、多層膜を形成するための溶媒のみが浸透するものであればいずれでもよい。
次に、本発明の機能性フィルムの製造方法の実施例を説明し、上記した不等式a又は不等式bを満足することで、機能性を有する溶質材料Aをフィルム表面に偏在できることを説明する。
先ず、事前試験として、実際に上記の不等式a又は不等式bの関係を満足する塗布液を調製して透明支持体18に単層塗布し、塗布した塗布層29を乾燥して機能性フィルムを製造した。
比較例として、不等式a又は不等式bの関係を満足しない塗布液を調製し、同様に透明支持体18の塗布、乾燥を行い機能性フィルムを製造した。
透明支持体18として、トリアセチルセルロースフィルム(フジタック、富士フイルム製、厚み80μm)を用いた。溶質材料Aとして、アクリル系モノマー(機能性材料)を用い、溶質材料Bとして、セルロース系ポリマーを用いた。
比較例では、溶質材料Bの拡散係数を変えるために、構造、分子量をそれぞれ変えたセルロース系ポリマーを合成した。溶剤にはメチルエチルケトン(MEK)を使用した。
そして、溶質材料A及び溶質材料Bの主拡散係数及び交差拡散係数を、上述したラマン法により測定した。
実施例における溶質材料Aの主拡散係数は3.2×10−10/sであり、交差拡散係数は1.0×10−11/sであった。また、溶質材料Bの主拡散係数は4.5×10−10/sであり、交差拡散係数は1.5×10−11/sであった。これにより、実施例は不等式aと不等式bのいずれも満足する。
一方、比較例では溶質材料Aは実施例と同じものを使用し、溶質材料Bの構造と分子量を変えることで主拡散係数を2.5×10−10/sとし、交差拡散係数を0.8×10−11/sとした。これにより、比較例は不等式aと不等式bのいずれも満足しない。
そして、塗布液調製工程12において、上記した溶質材料Aと溶質材料Bと溶媒Cとを以下の重量比率で混合した塗布液を調製した。次に、塗布工程14において、透明支持体18を20m/分の搬送速度で搬送しながらワイヤーバー型の塗布装置で塗布液を10μmの厚み(湿潤膜厚)で塗布した。次に、塗布した塗布層29を、乾燥工程16において、雰囲気温度25℃で乾燥して塗布層29を固化した。
(塗布液組成)
溶質材料A…10重量部
溶質材料B…10重量部
溶媒C …80重量部
そして、実施例及び比較例で得られた乾燥後の塗布層29の断面を、光電子分光分析装置(ESCA)を用いて測定し、塗布層29を構成する溶質材料A、Bのうち、塗布層表面に偏在する溶質材料Aの偏在比率を調べた。溶質材料Aの偏在比率は、溶質材料A/(溶質材料A+溶質材料B)で表した。ESCAで測定する場合には、フィルム深さ方向が10nm程度以下の塗布層表面における偏在比率を測定することになる。
その結果、不等式aと不等式bの少なくとも何れかを満足する実施例の塗布液で製造した機能性フィルムは、溶質材料Aがフィルム表面に0.58の偏在比率で溶質材料Aが多く偏在していることが分かった。一方、不等式a又は不等式bを満足しない比較例の塗布液で製造した機能性フィルムは、溶質材料Aのフィルム表面への偏在比率は0.46であり、フィルム表面には溶質材料Bが多く偏在していることが分かった。
上記試験結果を詳細に分析し、本発明を一般化した形で実証するために、下記のごとく乾燥シミュレーションを用いた。乾燥シミュレーションを用いた理由は、不等式a又は不等式bを複数の水準で満足する溶質材料B(実施例のための材料)と、複数の水準で満足しない溶質材料B(比較例のための材料)とを合成によって作り出すことは現実には困難であり、下記の乾燥シミュレーションによっても実証可能だからである。
乾燥シミュレーションの基本モデルは、下記に示す文献4で詳細に述べられている乾燥理論を用いた。但し、文献4は、主に2成分系での理論を展開しているので、3成分系に拡張する必要があるため、3成分系の拡張については、下記に示す文献5を参考にした。文献5は、3成分系として、Solvent、Non-solvent、Polymerを定義していて、Solvent=良溶媒、Non-solvent=貧溶媒としており、1つのポリマー、2つの溶媒系であるが、Non-solventを溶質と定義すれば、同様の理論を展開できる。貧溶媒を溶質と定義した場合には、気液界面での蒸発がなくなる点が異なる。
文献4及び文献5を元に作成した3成分系の物質移動の構成方程式及び境界条件に、伝熱方程式を加え、汎用のFEMソフトウエアCOMSOL Multiphysics( COMSOL AB社、スウェーデン)を用いて解いた。伝熱計算の組み込み方法は、下記に示す文献6に詳しく記載されている。参考までに、文献5の3成分系の物質移動の構成方程式及び文献6の伝熱方程式で本発明に関連する式をピックアップして図6に示すので、式の説明は文献を参照されたい。なお、基本的な構成方程式は図6の通りであるが、3成分の構成要素1、2、3はそれぞれ適切に当てはめれば、上記の例に限定しない。
文献4…Vrentas, J. S., Vrentas, C. M.,「Drying of Solvent-Coated Polymer Films,」J. Poly. Sci.: Part B: Poly. Phys., Vol.32,187(1994)。
文献5…Dabaral, M., Francis, L. F., and Scriven, L. E..,「Drying Process Paths of Ternary Polymer Solution Coating,」AIChE Journal, Vol.48, No.1, 25 (2002)。
文献6…Price, P. E., Cairncross, R. A.,「Optimization of Sngle-Zone Drying of Polymer Solution Coatings Using Mathematical Modeling,」J. of Applied Poly. Sci., Vol.78, 149 (2000)。
その他、計算に必要なパラメータは以下の通りである。添字のAは溶質材料Aを示し、添字のBは溶質材料Bを示し、添字のCは溶媒Cを示す。各パラメータの取り扱いは文献4〜6と同様に扱った。
物質移動係数kg=4×10−3m/s、液膜表面及び支持体底面の伝熱係数=100J/(msK)、乾燥初期の液膜厚み=100μm、相互作用パラメータXAB=XAC=XBC=0.4、比体積V=8.33×10−4/kg、V=8.33×10−4/kg、V=1.24×10−3/kg、初期の体積分率ΦA0=ΦB0=0.1、初期溶媒濃度754kg/m、溶媒分子量72.1×10−3kg/mol、溶媒熱伝導度0.13J/(msK)、溶媒定圧比熱2.19×10J/(kgK)、溶媒蒸発潜熱4.33×10J/(kgK)、透明支持体の厚み80μmとした。乾燥時のフィルム、及び雰囲気の温度は25℃とした。
そして、乾燥シミュレーションの結果から、乾燥後のフィルム表面の溶質材料Aと溶質材料Bとの量を求め、溶質材料Aがフィルム表面に偏在する偏在比率を算出した。即ち、図7の表に示すように、不等式a又は不等式bを満足する場合と満足しない場合において、乾燥後のフィルム表面の溶質材料A(機能性材料)の偏在比率を求めて評価した。機能性を有する溶質材料Aがフィルム表面に多い比率で偏在しているほど望ましいと評価した。
図7の表の評価は、溶質材料Aがフィルム表面側及び支持体側の何れにも偏在しない場合を△とし、フィルム表面側に偏在する場合を○とし、透明支持体側に偏在する場合を×とした。また、フィルム表面側に大きな偏在比率で偏在する場合を◎とした。
その結果、図7の表から分かるように、溶質材料Aと溶質材料Bとの主拡散係数が同じ比較例1、4のときに、溶質材料Aの偏在比率は0.5となり、溶質材料Aはフィルム表面側及び透明支持体側の何れにも偏在しない(△の評価)。
しかし、不等式aを満足する実施例1〜3は偏在比率が0.5を超えており、程度の違いこそあれ溶質材料Aはフィルム表面に偏在することが分かる(○の評価)。特に、D11−D22の差がマイナス3(−3)を超える実施例2、3は、実施例1よりも偏在比率の数値が大きく、良い結果となった。
一方、不等式aを満足しない比較例1〜4は偏在比率が0.5以下であり、程度の違いこそあれ溶質材料Aは透明支持体側に偏在することが分かる(×の評価)。
また、図7の主拡散係数に交差拡散係数を加味した不等式bで見てみると、溶質材料Aの主拡散係数から溶質材料Bの交差拡散係数を引いた差(D11−D21)と、溶質材料Bの主拡散係数から溶質材料Aの交差拡散係数を引いた差(D22−D12)とが同じ比較例1、4のときに溶質材料Aの偏在比率は0.5となり、溶質材料Aはフィルム表面側及び支持体側の何れにも偏在しない(△の評価)。
しかし、不等式bを満足する実施例4〜6は偏在比率が0.5を超えており、程度の違いこそあれ溶質材料Aはフィルム表面に偏在することが分かる(○の評価)。特に、(D11−D21)−(D22−D12)の差がマイナス1.5(−1.5)の実施例5の偏在比率は0.724で良好であり、差がマイナス3.5(−3.5)の偏在比率は0.901で極めて偏在比率が大きかった(◎の評価)。
また、不等式aと不等式bとを比較すると、不等式bを満足する方が溶質材料Aの塗布層表面への偏在度合いが大きいことが分かる。
本発明の機能性フィルムの製造方法を示す工程図 本発明によって製造される機能性フィルムの塗布層内部状態を示す概念図 本発明のメカニズムを概念的に説明する説明図 溶媒の乾燥速度を測定するための顕微鏡ラマン測定装置を示す説明図 本実施の形態において反射防止フィルムの製造工程を例示した概念図 乾燥シミュレーションにおける物質移動の構成方程式及び伝熱方程式を示す図 乾燥シミュレーションを用いて本発明の実施結果を示す表図
符号の説明
10…機能性フィルムの製造方法、12…塗布液調製工程、14…塗布工程、16…乾燥工程、18…透明支持体、20…反射防止フィルム、22…下層、24…中間層、26…上層、30…FTIR装置、32…センサー部、40…反射防止フィルムの製造装置、50…塗布装置、50A…塗布ヘッド、54…初期乾燥ゾーン、本乾燥ゾーン

Claims (5)

  1. 塗布液を調製する塗布液調製工程と、調製した塗布液を支持体に単層塗布する塗布工程と、塗布した塗布層を乾燥する乾燥工程と、を備えた機能性フィルムの製造方法であって、
    前記塗布液調製工程において、複数種類の溶質材料を少なくとも1種類の溶媒に含有させると共に、前記複数種類の溶質材料のうち機能性を有する溶質材料の主拡散係数をD11とし、他の溶質材料の主拡散係数をD22としたときに、D11<D22の不等式aを満足するように前記他の溶質材料を選ぶことにより、
    前記乾燥工程において、前記機能性を有する溶質材料をフィルム表面に偏在させることを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
  2. 塗布液を調製する塗布液調製工程と、調製した塗布液を支持体に単層塗布する塗布工程と、塗布した塗布層を乾燥する乾燥工程と、を備えた機能性フィルムの製造方法であって、
    前記塗布液調製工程において、複数種類の溶質材料を少なくとも1種類の溶媒に含有させると共に、前記複数種類の溶質材料のうち機能性を有する溶質材料の主拡散係数をD11とすると共に交差拡散係数をD12とし、他の溶質材料の主拡散係数をD22とすると共に交差拡散係数をD21としたときに、(D11−D21)<(D22−D12)の不等式bを満足するように前記他の溶質材料を選ぶことにより、
    前記乾燥工程において、前記機能性を有する溶質材料をフィルム表面に偏在させることを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
  3. 前記機能性を有する溶質材料がモノマー又はポリマーであることを特徴とする請求項1又は2の機能性フィルムの製造方法。
  4. D11−D22で表される拡散係数の差がマイナス3以上であることを特徴とする請求項1又は3の機能性フィルムの製造方法。
  5. (D11−D21)−(D22−D12)で表される拡散係数の差がマイナス1.5以上であることを特徴とする請求項2又は3の機能性フィルムの製造方法。
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