JP2009200038A - 耐食導電性皮膜、耐食導電材、固体高分子型燃料電池とそのセパレータおよび耐食導電材の製造方法 - Google Patents
耐食導電性皮膜、耐食導電材、固体高分子型燃料電池とそのセパレータおよび耐食導電材の製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】本発明の耐食導電性皮膜は、Tiと、該Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(例えば、3)となり得る第1元素(例えば、Fe)と、酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素(例えば、P、N)とを必須構成元素とする。この耐食導電性皮膜は、従来の皮膜よりも安価であると共に非常に優れた耐食性または導電性を示す。
【選択図】図2
Description
もっとも、ホウ化物は非常に硬いため、そのセパレータは圧延性および成形性に劣る。勿論、ホウ化物の分散量を減らせば、成形性や圧延性は改善されるものの導電性が低下する。また、ホウ化物が脱離した部分から腐食が進行する恐れもあり得る。
しかし、このような貴金属の使用は高コストである。また、貴金属の使用量を低減すると、密着性の悪化やめっき層の剥離などのおそれがある。さらに、基材がAl等の場合、めっき層のピンホール部分で局部電池が形成され、基材に孔食などの局部腐食が生じるおそれもある。
さらに本発明者は、その後も鋭意研究を続けることにより、Ni−Pメッキを施した基材に窒化処理をすることで、前記Ti−Fe−P−N系皮膜と同等以上の性能を発揮する新たな耐食導電性皮膜(Ti−Ni−P−N系皮膜)を得ることに成功した。
加えて、Ni−Bメッキを施した基材に窒化処理をしても、それら皮膜と同等以上の耐食導電性を示す新たな耐食導電性皮膜(Ti−B−N系皮膜)を得ることに成功した。
本発明者はこれらの成果を発展させることで以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
(1)すなわち、本発明の耐食導電性皮膜は、Tiと、該Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と、酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを必須構成元素とし、耐食性または導電性に優れることを特徴とする。
(1)本発明は、耐食導電性皮膜としてのみならず、基材の表面上にその耐食導電性皮膜を設けた耐食導電材としても把握される。
すなわち、本発明は、基材と、該基材の少なくとも一部の表面に形成された上記の耐食導電性皮膜とからなることを特徴とする耐食導電材であってもよい。
例えば、高耐食性のみ要求される部材等にも高導電性のみ要求される部材等にも、本発明の耐食導電材は好適である。本発明の耐食導電性皮膜または耐食導電材を利用することで、従来よりも安価な純度の低いTi系原料を用いることができたり、製造コストの削減等を図れたりする。そして部材の要求仕様に応じて、本発明の耐食導電性皮膜の組成や形成方法を適宜変更して、その耐食性または導電性のいずれか一方を他方に優先して高めることも可能である。
なお、本発明でいう基材は、必ずしも全体がTiベースである必要はない。被覆される表層部分にTiが存在して本発明の耐食導電性皮膜が形成される限り、基材のベース(中核部分)は、Al、Fe(ステンレスを含む)、Mgなどの他の金属でも良いし、さらには樹脂、セラミック等でも良い。
(i)すなわち本発明は、純TiまたはTi合金からなるTi系基材と、該Ti系基材の少なくとも一部の表面に形成されたTi、Ni、NおよびPからなる耐食性または導電性に優れる耐食導電性皮膜と、からなることを特徴とする耐食導電材であってもよい。
この耐食導電性皮膜は、被膜全体を100質量%としたときに3〜20質量%(以下適宜単に「%」という。)のPを含むと好ましい。さらに、上記の耐食導電性皮膜はFeを含むものでもよい。
この耐食導電性皮膜は、被膜全体を100質量%としたときに0.1〜2質量%のBを含むと好ましい。
本発明は、上記の耐食導電材の代表的な一形態である固体高分子型燃料電池用セパレータとしても把握される。
すなわち、本発明は、中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、前記セパレータは、少なくとも一部の表面に上記の耐食導電性皮膜を有し、少なくとも該耐食導電性皮膜上で耐食性および導電性に優れることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータであると、好適である。
さらに本発明は、そのセパレータを用いた固体高分子型燃料電池としても把握される。
本発明の耐食導電性皮膜や耐食導電材等は、その形成方法や製造方法等を問わないが、例えば、次のような本発明に係る方法により耐食導電性皮膜の形成または耐食導電材等の製造が可能である。なお以下では、耐食導電材の製造方法を代表的に取り上げるが、耐食導電性皮膜の形成方法としても同様に把握される。また以下では、Ti系基材上に耐食導電性皮膜が形成される場合を取上げるが、本発明の基材がTiベースである必要は必ずしもない。
(1)反応液処理法
本発明の反応液処理法は、純TiまたはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを含む反応液中に少なくとも浸漬する浸漬工程を備えてなり、上記の耐食導電材が得られることを特徴とする。
本発明の粉末処理法は、純TiまたはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部の表面に、Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と酸化数が−α(α:自然数)となり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを含む処理粉末を付着させる付着工程と、該付着工程後のTi系基材を加熱する加熱工程とを備えてなり、上記の耐食導電材が得られることを特徴とする。
本発明のメッキ法は、純TiまたはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを含むメッキ液または溶融塩中に浸漬して該Ti系基材の表面にメッキ層を形成するメッキ工程と、該メッキ工程後のTi系基材を加熱する加熱工程とを備えてなり、上記の耐食導電材が得られることを特徴とする。
上記した方法以外に、第1元素または第2元素のどちらか一方の元素を上述した反応液処理法、粉末処理法またはメッキ法で導入し、他方の元素を加熱処理法で導入して、耐食導電性皮膜を形成してもよい。
(i)本発明者は、前述したように、上記のようなメッキ法について種々の実験を行い鋭意研究を継続をしたところ、さらに、Niを主成分とするNi(系)メッキを基材に施すことで、優れた特性を安定して発揮する耐食導電性皮膜を比較的容易に得ることに成功した。
すなわち本発明のメッキ法(例えば、耐食導電材の製造方法)は、純チタン(Ti)またはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、ニッケル(Ni)を主成分とするNiメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にNiメッキ層を形成するメッキ工程と、該メッキ工程後のTi系基材を加熱する加熱工程とを備えてなり、前記Ti系基材の少なくとも一部の表面にTiおよびNiを必須構成元素とする耐食性または導電性に優れる耐食導電性皮膜が形成された耐食導電材が得られるものでも良い。このメッキ法を本明細書ではNiメッキ法とよぶ。
そうすると、前述した酸化数が+αの第1元素と酸化数が−αの第2元素を含むメッキ液を用いるメッキ法に、例えば、上記のNi−Pメッキ液またはNi−P−Feメッキ液を用いるメッキ法を含めて考えることも可能である。この場合、例えば、第1元素はNiであり、第2元素はPとなる。
本発明の耐食導電性皮膜、耐食導電材、固体高分子型燃料電池およびそのセパレータ並びに耐食導電材等の製造方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであってもよい。
なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。また、便宜上、耐食導電材(耐食導電性皮膜等を含む)自体とその製造方法とを区別して記載するが、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組合わせ可能である。例えば、耐食導電性皮膜の構成元素であれば、耐食導電材にも、その製造方法にも関連することはいうまでもない。また、一見、「方法」に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、「物」に関する構成ともなり得る。
(i)酸化数を示すαは3である。
(ii)前記第1元素群は、遷移金属元素から構成される遷移金属元素群である。
(iii)前記第2元素群は、PおよびNからなる。この場合、第2元素はPのみ、Nのみ、PとNの両方のいずれでもよい。
(iv)前記第1元素はFe、Niである。
(v)前記第1元素群は、酸化数が+3となり得る典型元素から構成される典型元素群であり、前記第2元素はPである。
(i)反応液処理法の場合、前記浸漬工程は、前記反応液に浸漬したTi系基材を陰極として該Ti系基材を負に帯電させる帯電工程を含む。
(ii)前記反応液は、少なくとも前記第2元素を含む溶融塩からなる。
なお、溶融塩を入れる容器は純鉄または鉄合金(鉄鋼を含む)製であると好ましい。この容器から溶出したFeが取り込まれて耐食導電性皮膜が形成される。
(iii)前記溶融塩は、リン酸塩とホウ酸塩との混合溶融塩である。
(iv)さらに前記浸漬工程後のTi系基材に窒化処理を施す窒化工程を備える。
(v)前記窒化工程は、Nを含むガス中に前記Ti系基材を保持するガス窒化工程である。
(vi)粉末処理法の場合、前記付着工程は、前記処理粉末を溶媒に分散させたスラリーを塗布する塗布工程と、該塗布工程後のTi系基材を乾燥させる乾燥工程とからなる。
(vii)さらに前記付着工程後のTi系基材に窒化処理を施す窒化工程を備える。
(viii)前記処理粉末は、金属リン化物またはリン酸塩からなる粉末である。
(ix)メッキ法の場合、前記メッキ液は、前記第1元素であるFeと前記第2元素であるPとを含むFe−Pメッキ液である。
(x)さらに前記メッキ工程後のTi系基材に窒化処理を施す窒化工程を備える。
(xi)前記加熱工程は、窒化工程である。
(xii) 前記窒化工程は、Nを含む窒化ガス中に前記Ti系基材を保持するガス窒化工程である。
(xiii)窒化ガスは窒素(N2)ガスまたはアンモニアガス(NH3)である。
Niメッキ法の場合、付加的構成として例えば、次のような構成がある。
(i)前記Niメッキ液はPを含むNi−Pメッキ液であり、Niメッキ層はNi−Pメッキ層である。
(ii)前記Ni−Pメッキ層は、メッキ層全体を100質量%としたときに0.5〜20質量%のPを含む。
(iii)前記Ni−Pメッキ液は、さらにFeを含むNi−P−Feメッキ液である。
(iv)前記Ni−Pメッキ層は、Ni−P−Feメッキ層である。
(v)前記Niメッキ液は、さらにBを含むNi−Bメッキ液であり、前記Niメッキ層は、Ni−Bメッキ層である。
(vi)前記Ni−Bメッキ層は、メッキ層全体を100質量%としたときに0.1〜1質量%のBを含む。
(vii)前記加熱工程は窒化処理を施す窒化工程である。この場合、耐食導電性皮膜を構成する必須構成元素にNがさらに含まれる。
(1)本明細書でいう「耐食導電材」は前述したように、その形態を問わない。製品形状またはそれに近い形状の部材のみならず、例えば、インゴット状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、さらには粉末等の原料的なものであってもよい。
もっとも本発明の耐食導電性皮膜は、上記の元素以外にも、その耐食導電性皮膜の特性を改善し、または劣化させない改質元素などの任意元素を多少含んでもよい。例えば、このような元素として、Cr、Mn、Co、B、Al、希土類元素(Sc、Y、ラインタノイド、アクチノイド)などがあり、酸化数が+3となり得る元素が好ましい。
但し、本発明の場合、耐食導電性皮膜が形成される基材から観れば不可避不純物であっても、耐食導電性皮膜自体から観ると不可避不純物でないもの、または耐食導電性皮膜の特性改善に有効なもの、さらには耐食導電性皮膜の必須構成元素となるものも存在する。例えば、Ti系基材の不純物であるFeなどは、本発明の耐食導電性皮膜から観ると必須構成元素となり得る。
通常、不可避不純物の割合は必須構成元素の割合よりも少ない場合が多い。もっとも、不可避不純物は、耐食導電性皮膜の耐食性または導電性の向上を阻害するものだけには限られず、耐食導電性皮膜の特性を劣化させないが向上もさせない、害の少ない元素も不可避不純物に含まれる。このような元素が不可避不純物である場合、その存在割合が比較的多くなる場合もあり得る。また、不可避不純物が多種、少量である場合、その存在割合は検出機器の精度や特性にも影響され易い。例えば、XPSデータにより算出した場合、不可避不純物量が多くなることもある。
なお、本明細書では耐食導電性皮膜について主に述べるが、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、耐食導電性皮膜のみならず、耐食導電材、耐食導電材の製造方法さらには耐食導電材の適用例等にも、適宜適用できる。このことは、前述した耐食導電性皮膜中にNiが含まれる場合や耐食導電性皮膜の形成や耐食導電材等の製造にNiメッキ法を作用する場合についても同様である。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
本発明に係る耐食導電性皮膜の組成を一義的に明確にすることは容易ではないが、皮膜中に含まれる必須構成元素は少なくとも明確である。
なお、皮膜の成分組成が明確でないとしても、必ずしも本発明の内容が不明確ということにはならない。すなわち、皮膜中の必須構成元素やその製造方法等が明確であれば、本発明は技術的思想として充分に明確であるといい得る。
本発明の耐食導電性皮膜の形成や耐食導電材の製造は、その方法が特に限定さあれるものではないが、以下では、反応液処理法、粉末処理法およびメッキ法を例に挙げて説明する。
反応液処理法は、耐食導電性皮膜の形成に必要な元素を少なくとも一種以上含む反応液に基材を浸漬する浸漬工程を備える。基材がTi系基材である場合、反応液中に第1元素および第2元素の両元素が含まれているか、少なくともそれら元素の一方が含まれている。
反応液の温度や浸漬時間は、使用する反応液の種類や形成する耐食導電性皮膜の膜厚などにより適宜調整される。
粉末処理法は、耐食導電性皮膜の形成に必要な元素を少なくとも一種以上含む粉末を基材に付着させる付着工程を備える。この粉末は単種でも複数種でもよい。さらに、第1元素および第2元素の両方が必ずしも粉末として提供される必要はない。他方の元素が基材側、溶媒側などから供給されてもよい。
メッキ法は、耐食導電性皮膜の形成に必要な元素を少なくとも一種以上含むめっき液に、基材を浸漬して基材表面にメッキ層を形成するメッキ工程を備える。メッキは電解メッキでも無電解メッキでもよい。メッキ層の厚さは耐食導電性皮膜の厚さに応じて適宜調整される。
この場合も前述の方法と同様に、第1元素および第2元素の両方が必ずしもメッキ液から供給される必要はない。一方の元素が基材側などから供給されてもよい。本発明の耐食導電性皮膜に典型的なメッキ液は、第1元素であるFeと第2元素であるPを含むFe−Pメッキ液である。このメッキ液は、例えば、硫酸鉄、硫酸アンモニウム、ホスホン酸および水により得られる。
特にNiメッキ法を行う場合は、前述したようにNi−Pメッキ液、Ni−P−Feメッキ液さらにはNi−Bメッキ液などを用いるとよい。
加熱工程は、基材表面に形成された化合物や塩などの反応を促進して、特性に優れた耐食導電性皮膜を形成するためになされる。例えば、Ti系基材の表面に形成された化合物(Fe3P等)や塩(FePO4等)等と、基材側のTiとを反応させることで、必須構成元素の結晶構造等からなる耐食導電性皮膜が形成される。なお、それ以前の工程で充分な特性を発揮する耐食導電性皮膜が形成されているならば、敢て加熱工程を行う必要はない。
窒化工程により、耐食導電性皮膜中へ第2元素の一つであるNが導入されたり、そうでなくても、前処理工程の段階で耐食導電性皮膜中に導入されたOが還元等により除去されたりする。皮膜中からOを排除する目的は前述した通りである。
本発明の耐食導電性皮膜または耐食導電材は、固体高分子型燃料電池用セパレータ、通電部材などの他、Tiの耐食被膜等にも利用され得る。
《実施例1》
〈試験片の製造〉
純チタン(JIS1種)からなるTi基板(Ti系基材)に、次に示すような各種の処理を施した。
Na3PO4とB2O3の混合塩をSUS430からなる鉄製坩堝に入れて加熱し溶融させた。この溶融塩中にTi基板を浸漬した(浸漬工程)。このときの溶融塩の温度は950℃で、浸漬時間は5分間とした。
上記の溶融塩浸漬処理を行う際に、Ti基板をマイナス側に、鉄製坩堝をプラス側に帯電させた(帯電工程)。このときの電流密度は0.1A/dm2とした。ここでTi基板側をマイナス側に帯電させた理由は、形成される被膜中に酸素(O)を可能な限り寄せ付けないようにするためである。このTi基板に前述のガス窒化を施して試験片2を得た。
Ti基板を硫酸鉄450g/l、亜リン酸3g/lおよび硫酸アンモニウム50g/lからなる60℃でpH2のFe−Pメッキ水溶液中に浸漬した(メッキ工程)。このときのメッキ条件は5A/dm2とし、これを4分間継続した。このTi基板に前述のガス窒化を施して試験片3を得た。
Fe3P粉末(AlfaAeason社製)エタノールからなる溶媒に混合してスラリーを得た。このスラリーをTi基板の表面に刷毛で数回塗布した(塗布工程)。このTi基板を50℃で30分間加熱して乾燥させた(乾燥工程、付着工程)。さらに得られたTi基板を1000℃の0.5l/minのN2気流中に120分間保持して窒化処理を行い、試験片4を得た。
(1)EDX分析
エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、得られた各試験片の表面にある元素分析を行った。この結果を表1に示す。試験片3および試験片4では、FeまたはPの検出がなかった。しかし、それら試験片の製造方法からして、FeおよびPがTi基板上に存在しないとは考えられないため、測定装置上の問題により測定できなかったに過ぎないと思われる。
(a)電解腐食試験前後の接触抵抗の変化
上記試験片2の接触抵抗と、この試験片2を腐食溶液中に浸漬した後の接触抵抗とを測定した。用いた腐食溶液は希硫酸(pH2)に50ppmF−を添加し、80℃に保持したものである。印加した腐食電圧は1V(vs.SHE)、腐食試験時間は100時間とした。
上記試験片2〜4と、Ti基板へ直接的に前述のガス窒化処理を施して製造した試験片C2(比較例)とを電解腐食試験に供した。このとき得られた電解腐食試験時間と接触抵抗との関係を図2に示す。
上記試験片2を用いて、強酸雰囲気での腐食電流密度と試験時間との関係を測定した。ここで用いた腐食溶液は希硫酸(pH2)に50ppmF−を添加し、80℃に保持したものである。印加した腐食電圧は1V(vs.SHE)とした。腐食電流密度は、0.05μA/cm2 により求めた。これにより得られた腐食試験時間と腐食電流密度との関係を図3に示す。
(1)皮膜組成
表1に示したEDX分析の結果から、Ti基板上に形成された本実施例に係る皮膜は、Tiと、酸化数が+3のFe(遷移金属元素)と、酸化数が−3のPおよびNから構成されることがわかった。
(a)表2に示す腐食試験の結果から、本実施例(試験片2)にかかるTi基板上の皮膜は、導電性を有することは勿論のこと、長時間の強酸雰囲気下においても接触抵抗がほとんど変化せず、著しく優れた接触抵抗の安定性または耐食性を有することがわかった。
図2から、溶融塩電解処理して形成された皮膜(試験片2)が現状もっとも接触抵抗が小さく(つまり高導電性であり)、かつ、強酸雰囲気下でも著しく導電性が安定していることがわかった。このことは図3からも同様にわかる。すなわち、その試験片2に係る耐食導電性皮膜は腐食溶液下でも腐食電流が0.05μA/cm2以下と非常に小さく、長期間にわたって著しく安定していることが確認された。
(a)前述した試験片2の表面をさらに、X線マイクロアナライザー(EPMA)で分析した。溶融塩電解処理後でガス窒化処理前の試験片の表面皮膜をEPMA分析したところ、Oが存在した。しかし、ガス窒化処理後の試験片の表面皮膜中にはOが存在しいことがわかった。これは、窒化処理により、浸漬工程(リン化工程)後に形成された皮膜中からOが還元反応等により除去されたためと思われる。そして、このようにして形成された表面皮膜には、その後の腐食試験後でも、Oが化合しないことも確認している。
《実施例2》
純チタン(JIS1種)からなるTi基板(Ti系基材)に、次に示す各種のNiメッキ処理を施した。
(1)Ni−Pメッキ処理
P濃度が9質量%(以下単に「%」という。)のNi−9%Pメッキ液と、P濃度が13%のNi−13%Pメッキ液を用意した。なお、本実施例2で行ったNiメッキは、いずれも無電解メッキである。
Ni−9%Pメッキ液にはトップニコロン(奥野製薬製)を、Ni−13%Pメッキ液にはトップニコロンP−13(奥野製薬製)を用いた。
このNi−PメッキしたTi基板へ、N2ガス雰囲気によるガス窒化を施した(ガス窒化工程)。このガス窒化は、ガス組成:N2>99.999%、温度:1000℃、時間:0.5hrで行った。
こうして試験片5(Ni−9%Pメッキ液)および試験片6(Ni−13%Pメッキ液)を得た。
さらに、Ni−13%Pメッキ液を用いてNi−Pメッキ層を形成したTi基板を、N2:98Vol%、H2:2Vol%の混合ガスの気流中に載置して、温度:1000℃、時間:2hrでガス窒化した試験片D1も用意した。
B濃度が0.4%のNi−0.4%Bメッキ液を用意した。このメッキ液には、トップケミアロイ(奥野製薬製)を用いた。
このNi−0.4%Bメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、表面に約5μmのNi−Bメッキ層を形成した。
このNi−BメッキしたTi基板へ、N2ガス雰囲気によるガス窒化を施した(ガス窒化工程)。このガス窒化は、ガス組成:N2>99.999%、温度:1000℃、時間:0.5hrで行った。こうして試験片7を得た。
(3)Ni−P−Feメッキ処理
硝酸ニッケルと硫酸鉄と次亜リン酸ソーダを用いて、濃度の異なる2種のNi−P−Feメッキ液を調製した。これを用いてFe/(Ni+Fe)が0.2または0.5となるようなメッキ膜を作製した。
このNi−P−FeメッキしたTi基板を、窒素と水素の混合ガスの気流中に載置して、ガス窒化を施した(ガス窒化工程)。このときのガス組成はN2:98VOL%、H2:2VOL%、温度:1000℃、時間:2hrで行った。
こうして試験片8および試験片9を得た。
(1)EDX分析
エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、試験片5および試験片6の表面について元素分析を行ったところ、試験片5では皮膜全体を100質量%としたときにP:4.98%であり、試験片6では皮膜全体を100質量%としたときにP:16%であった。
(a)電解腐食試験時間と接触抵抗との関係
上記の試験片5〜7と、試験片D1について、電解腐食試験時間と接触抵抗との関係を測定した。この結果を図5に示す。
ここで腐食溶液には、希硫酸(pH4)に5ppmF−および10ppmCl−を添加して80℃に保持したもの(「第1腐食溶液」という。)を用いた。このとき印加した腐食電圧は0.26V(vs.Pt)であった。接触抵抗は前述した図1に示す方法で測定した。
上記の試験片6について、腐食試験前の接触抵抗と、第1腐食溶液に浸漬して、0.26V(vs.Pt)の腐食電圧を96時間印加した後の接触抵抗とを測定した。
また、希硫酸(pH2)に50ppmF−および10ppmCl−を添加して80℃に保持した腐食溶液(第2腐食溶液)を用いて、同様の腐食試験を行った。接触抵抗は前述した図1に示す方法で測定した。これらについて得られた結果を図6に併せて示した。
上記の試験片8および9と、試験片D1について、電解腐食試験時間と接触抵抗との関係を測定した。得られた結果を図7に示した。用いた腐食溶液は前述した第1腐食溶液であり、このとき印加した腐食電圧は0.26V(vs.Pt)であった。接触抵抗は前述した図1に示す方法で測定した。
(1)試験片5〜7について
図5から、試験片5〜7および試験片D1はいずれも、試験開始から50時間程度であれば、優れた耐食導電性を示すことが確認された。
もっとも、試験片5ではそれ以降に接触抵抗が増大しているのに対して、試験片6では100時間でも接触抵抗が安定して低い値となった。つまり試験片6は、長時間の強酸雰囲気下においても接触抵抗が低いままほとんど変化せず、著しく優れた耐食性を有することがわかった。
また試験片7から、耐食導電性皮膜中にBが少量でも含まれると、長時間の強酸雰囲気下においても著しく優れた耐食導電性を示すことがわかった。耐食導電性皮膜中のBが0%では効果が期待できないが、Bは0.2質量%以上あれば十分な効果が期待される。
ちなみに、メッキの作業性(析出速度、メッキ浴の安定性)などを考慮すると、皮膜中のPは20%未満さらには15%未満、皮膜中のBは2%未満が好ましい。
図6から試験片6は長時間の強酸雰囲気下においても接触抵抗が非常に安定しており著しく優れた耐食性を示すことが解る。ここで特筆すべきことは、この試験片の場合、酸性度がpH4のときよりもpH2の強酸雰囲気のときの方が、試験後の接触抵抗の方が低くなったことである。このように酸性度が強い程、優れた耐食導電性を示すということは、通常の技術常識ではあまり考えられないことであり、製造等によるバラツキと考えられ、これら2種の腐食溶液での耐食導電性はあまり変わらないと考えられる。
図7から、皮膜中にFeを含む試験片8および9はいずれも、長時間の強酸雰囲気下においても接触抵抗が低いままほとんど変化せず、著しく優れた耐食性を示し、Fe濃度が高くなる程、この傾向は顕著であった。この理由は、FeによりP含有TiNの化学的安定性が向上するためと考えられる。
本発明に係る耐食導電性皮膜または耐食導電材の一実施形態として、Ti基板の表面に耐食導電性皮膜を形成した固体高分子型燃料電池用セパレータを備える固体高分子型燃料電池を図4Aおよび図4Bに示す。
F 固体高分子型燃料電池
1 固体高分子電解質膜
2 燃料電極
3 酸化電極
5 セパレータ
Claims (13)
- チタン(Ti)と、
該Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と、
酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを必須構成元素とし、
耐食性または導電性に優れることを特徴とする耐食導電性皮膜。 - 前記αは3である請求項1に記載の耐食導電性皮膜。
- 基材と、
該基材の少なくとも一部の表面に形成された請求項1に記載の耐食導電性皮膜とからなることを特徴とする耐食導電材。 - 中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、
該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、
前記セパレータは、少なくとも一部の表面に請求項1に記載の耐食導電性皮膜を有し、
少なくとも該耐食導電性皮膜上で耐食性および導電性に優れることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。 - 請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータを備えることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
- 純TiまたはTi合金からなるTi系基材と、
該Ti系基材の少なくとも一部の表面に形成されたTi、NおよびPからなる耐食性または導電性に優れる耐食導電性皮膜と、
からなることを特徴とする耐食導電材。 - 前記耐食導電性皮膜は、さらにNiまたはFeの一種以上を含む請求項6に記載の耐食導電材。
- 前記耐食導電性皮膜は、被膜全体を100質量%としたときに10〜20質量%のPを含む請求項6または7に記載の耐食導電材。
- 純TiまたはTi合金からなるTi系基材と、
該Ti系基材の少なくとも一部の表面に形成されたTi、NおよびBからなる耐食性または導電性に優れる耐食導電性皮膜と、
からなることを特徴とする耐食導電材。 - 前記耐食導電性皮膜は、被膜全体を100質量%としたときに0.1〜2質量%のBを含む請求項9に記載の耐食導電材。
- 純TiまたはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを含む反応液中に少なくとも浸漬する浸漬工程を備えてなり、
請求項3に記載の耐食導電材が得られることを特徴とする耐食導電材の製造方法。 - 純TiまたはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部の表面に、Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と酸化数が−α(α:自然数)となり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを含む処理粉末を付着させる付着工程と、
該付着工程後のTi系基材を加熱する加熱工程とを備えてなり、
請求項3に記載の耐食導電材が得られることを特徴とする耐食導電材の製造方法。 - 純TiまたはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、Tiとは異なる元素であり酸化数が+α(α:自然数)となり得る元素から構成される第1元素群に含まれる一種以上の第1元素と酸化数が−αとなり得る元素から構成される第2元素群に含まれる一種以上の第2元素とを含むメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ工程後のTi系基材を加熱する加熱工程とを備えてなり、
請求項3に記載の耐食導電材が得られることを特徴とする耐食導電材の製造方法。
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