JP2009195983A - 転がり軸受を有する圧延機およびその板厚制御方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高精度な板厚制御が可能な、転がり軸受を有する圧延機およびその板厚制御方法を提供すること。
【解決手段】ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であって、目標圧下位置を設定する圧下目標値設定手段と、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段と、演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正する圧下目標値補正手段を備えることを特徴とする転がり軸受を有する圧延機、および、ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機の板厚制御方法において、目標圧下位置を設定した上で圧延を開始し、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、当該演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正することにより板厚を制御することを特徴とする転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
【選択図】図5

Description

本発明は、ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機およびその板厚制御方法に関する。
近年、板厚高精度化の要求は増加の一途をたどっており、圧延の安定する定常部だけでなく、接合部等の非定常部の板厚精度向上も求められている。板厚制御は、ロールバイト内の板厚を推定して目標値との誤差を算出し、その誤差をゼロにするよう制御対象を操作することにより達成され、これまでに様々なAGC(Automatic Gage Control)が提案されている。
これまで、熱延仕上げスタンド等では絶対値ゲージメータAGCによる板厚制御が行われてきた。絶対値ゲージメータAGCを適用するには、ミルストレッチと呼ばれる圧延機の弾性変形による上下ワークロール間ギャップの増分を正確に把握するための高精度ミルストレッチモデルが必要であり、特許文献1には当該モデルの基本構成や基本的な使用方法に関する技術が開示されている。
また、冷間タンデム圧延における板厚推定方法には、マスフローAGCやBISRA AGCが採用されることが多い。
マスフローAGCは、圧延機入側の板厚計と板速計および圧延機出側の板速計からマスフロー一定則に基づいて板厚を推定する方法である。
BISRA AGCは予めミル定数を得ておき、圧延中の荷重からミルストレッチを推定する方法である。ミルストレッチの非線形性を考慮していないので、絶対値ゲージメータAGCのように板厚を絶対値で推定することは出来ないものの、モニター制御と併用することにより定常部では安定して高精度な推定が出来る。
更に、近年の非定常部にまでおよぶ板厚の高精度化要求に伴い、特許文献4に冷間タンデム圧延へ絶対値ゲージメータAGCを適用する方法が開示されている。
ところで、バックアップロール軸受が油膜軸受である圧延機においては、その軸受の油膜厚は圧延速度(ロール周速度)および圧延荷重に応じて変化する。この油膜厚変化が直接ロールギャップの変化として現れ、被圧延材の板厚精度に影響を与えるため、油膜厚変化を補正する方法が種々検討されている。
例えば、特許文献2では、ゲージメータ式を用いた圧延機の板厚制御方法として、目標板厚、予測圧延荷重およびミル定数からゲージメータ式に基づき算出される圧下位置に油膜厚補正項を考慮している。
また、特許文献3では、上下バックアップロール径およびバックアップロール回転数、ならびに加減速時の一時的な油膜厚変動を考慮した油膜厚補正方法を提供している。すなわち、バックアップロール軸受の油膜厚をロール回転数と測定荷重の関係から求め、更に前記油膜厚測定に際しては、圧延速度の加減速時の速度変化率から油膜厚の補正値を求めることによって、計算板厚を補正することを特徴としている。
一方で、軸受にローラーベアリングを有する転がり軸受においては、油膜軸受に比べ油膜厚変化がほとんどないため、ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機において、圧延速度の変化による油膜厚変化が被圧延材の板厚精度に及ぼす影響はほとんどないものと考えられていた。
特開昭60−30508号公報 特開昭58−212806号公報 特開平9−38707号公報 特開2003−164904号公報
ところが、ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機においても、特に圧延速度の加減速を伴う圧延時には、圧延機に設置されたロードセルが検知する荷重が圧延速度に応じて変動し、ゲージメータ式推定板厚に誤差が生じるという問題が生じている。
特許文献1に開示されている、高精度ミルストレッチモデルによる絶対値ゲージメータAGCによる制御は、計算に用いる圧延荷重やロールベンダー力が正確に測定できれば有用な方法であるが、転がり軸受を有する圧延機における加減速時の荷重変動はロールが材料を圧延する際に生じる反力とは異なる要因において発生しているため、ロードセルが検知した荷重を用いて計算された推定板厚と実際の板厚に乖離が生じ、高精度な板厚制御を行うことが出来なくなる。
特許文献2〜3では、油膜軸受を有する圧延機の加減速時における油膜厚変化量を補正し、板厚精度を向上させる方法が開示されている。しかし、転がり軸受を有する圧延機に関しての記述は無く、本課題には適用できない。
特許文献4で開示されている、冷間タンデム圧延に絶対値ゲージメータAGCを適用する方法においても、圧延機に転がり軸受を有していれば同様に加減速時に荷重変動が発生し、ゲージメータ式推定板厚と実際の板厚の間に乖離が生ずる。熱延と比べ、冷間タンデム圧延における成品板厚精度はより厳格であることから、本問題は冷間タンデム圧延に絶対値ゲージメータAGCを適用するにあたり障害となっている。
本発明はこのような点を考慮して、高精度な板厚制御が可能な、ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機およびその板厚制御方法を提供することを課題としている。
上記の目標を達成するため、以下の知見を得た。
A)転がり軸受の温度と当該軸受の熱膨張量は線形関係にある。
B)転がり軸受の温度とロールチョックの温度とは線形関係にあり、ロールチョック内部の熱伝導問題を用いれば、ロールチョックの温度から転がり軸受の温度を算出することが可能である。
C)転がり軸受の温度は、圧延荷重および圧延速度の変化に依存しており、圧延荷重の増加または圧延速度の増加に伴い上昇し、圧延荷重の減少または圧延速度の減少に伴い低下する。
本発明は上記の新しい知見に基づいたものであり、その要旨は以下の内容である。
(1)ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であって、目標圧下位置を設定する圧下目標値設定手段と、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段と、演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正する圧下目標値補正手段を備えることを特徴とする転がり軸受を有する圧延機。
(2)ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であって、目標圧下位置を設定する圧下目標値設定手段と、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段と、圧延荷重を測定するロードセルと、ロールベンディング力を測定するロールベンディング力検出器と、測定した圧延荷重とロールベンディング力からミルストレッチ量を演算するミルストレッチ式演算手段と、演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいてミルストレッチ量を補正するミルストレッチ量補正手段と、補正したミルストレッチ量を用いて圧延機出側板厚を絶対値で推定する板厚演算手段と、推定した圧延機出側板厚に基づいて目標圧下位置を補正する圧下目標値補正手段を備えることを特徴とする転がり軸受を有する圧延機。
(3)前記(1)と(2)に記載の、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段、に代えて、転がり軸受の温度を測定する温度測定手段と、測定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の転がり軸受を有する圧延機。
(4)前記(1)と(2)に記載の、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段、に代えて、ロールチョックの温度を測定する温度測定手段と、測定したロールチョックの温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の転がり軸受を有する圧延機。
(5)前記(1)と(2)に記載の、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段、に代えて、測定した圧延荷重と圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の転がり軸受を有する圧延機。
(6)ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機の板厚制御方法において、目標圧下位置を設定した上で圧延を開始し、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、当該演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正することにより板厚を制御することを特徴とする転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
(7)ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機の板厚制御方法において、目標圧下位置を設定した上で圧延を開始し、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、測定した圧延荷重とロールベンディング力からミルストレッチ量を演算し、前記転がり軸受の熱膨張量に基づいて当該ミルストレッチ量を補正し、当該補正したミルストレッチ量を用いて圧延機出側板厚を絶対値で推定し、当該推定した圧延機出側板厚に基づいて目標圧下位置を補正することにより板厚を制御することを特徴とする転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
(8)前記(6)と(7)に記載の、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、に代えて、測定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算することを特徴とする前記(6)または(7)に記載の転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
(9)前記(6)と(7)に記載の、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、に代えて、測定したロールチョックの温度から転がり軸受の熱膨張量を演算することを特徴とする前記(6)または(7)に記載の転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
(10)前記(6)と(7)に記載の、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、に代えて、測定した圧延荷重と圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算することを特徴とする前記(6)または(7)に記載の転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
(1)の圧延機および(6)の板厚制御方法によれば、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正するので、高精度の板厚制御が可能となる。
(2)の圧延機および(7)の板厚制御方法によれば、上記の効果に加えて、演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいてミルストレッチ量を補正し、その補正したミルストレッチ量に基づいて目標圧下位置を補正するため、より高精度の板厚制御が可能となる。
(3)の圧延機および(8)の板厚制御方法によれば、転がり軸受の温度を実測することから、転がり軸受の熱膨張量を更に高精度に演算することが可能となる。
(4)の圧延機および(9)の板厚制御方法によれば、(3)の圧延機および(8)の板厚制御方法のように直接転がり軸受の温度を測定しなくとも、ロールチョック温度から転がり軸受の熱膨張量を演算することが可能であるため、加減速時の板厚変動を当該熱膨張量に応じ目標圧下位置を補正することで制御することが可能となる。
(5)の圧延機および(10)の板厚制御方法によれば、転がり軸受やロールチョックの温度を推測・測定する温度推測手段・温度測定手段を備えていなくとも、圧延荷重および圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算することが可能であるため、加減速時の板厚変動を当該熱膨張量に応じ目標圧下位置を補正することで制御することが可能となる。
現在、冷間タンデム圧延においては板厚推定方式としてマスフロー方式が多く用いられている。マスフロー方式は、圧延機入側板厚H、入側板速度Vi、出側板速度Voとすると、体積流量一定の法則により出側板厚h=H×Vi/Voを求める方法であり、非常に単純な設備構成と単純な計算式で板厚推定が可能である。
しかし、接合部近傍の非定常部や短周期硬度変動が存在するハイテン材を圧延する場合、板厚計に作用するフィルターの影響や、板速計がパルスジェネレータであるときの速度測定精度の問題があり、急峻な板厚変動を正確に捉えることは難しい。
一方、ミルストレッチ式による板厚推定方式は、ロードセル荷重およびロールベンディング力により推定が可能となる。ロードセルはほとんど時間遅れなく荷重変化を捉えることが出来るので、上記のような非定常部や材料が短周期硬度変動を有する場合でも高応答に板厚を推定することが可能である。本発明の課題である転がり軸受の熱膨張を考慮する場合も、加減速時の急峻な変化にもよりロバスト性を有するミルストレッチ方式による板厚推定が望ましいと考えられる。
加減速時の荷重変動の原因については、ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であることから油膜厚の影響はほとんどないと考えられる。またサーマルクラウンの影響も考えられるが、当該ミルは冷間圧延機であることから速度変化によるサーマルクラウンの急激な成長は可能性として考え難い。
そこで、本発明では上記新知見を基に、加減速による荷重変動の原因をロール軸と転がり軸受の摩擦による転がり軸受の熱膨張であると特定し、圧延荷重と圧延速度とを関数とした転がり軸受の熱膨張量を算出する。
ミルストレッチ式は、圧延荷重をP(kN)、ロールベンディング力をF(kN)、無負荷時のロールギャップをS(mm)、MS(P、F)を圧延荷重P、ロールベンディング力Fの時のミルストレッチ(mm)、推定板厚をh(mm)とすると式(1)で示される。
h=S+MS(P、F) ・・・ (1)
ここで、圧延荷重Pとは、実際に圧延の際に被圧延材からワークロールが受ける反力であり、ロードセルで検知する荷重値からロールベンディング力を差し引いた値となる。ロードセルで検知する荷重値をP´(kN)とすると式(2)の関係で示される。
P=P´−F ・・・ (2)
次に、転がり軸受の熱膨張の影響がある場合について述べる。
当該軸受の熱膨張がある場合、ロードセルで検知する荷重は熱膨張の影響により被圧延材から受ける反力とロールベンディング力との和より更に大きな値となる。このロードセルで検知した荷重値を用いてミルストレッチ量を求めると、圧延荷重Pを被圧延材からワークロールが受けた荷重より大きく見積もることになるため、真のミルストレッチより大きな値となる。
つまり、実際に被圧延材からワークロールが受ける圧延荷重をP(kN)、Pにロールベンディング力が加わった荷重をP´(kN)、転がり軸受に熱膨張がある場合にロードセルが検知する荷重をP´´(kN)とすると、式(2)よりP´´−Fを圧延荷重Pとしてみなすため、ミルストレッチを転がり軸受の熱膨張分だけ真のミルストレッチより大きく見積もることとなる。
ここで、真のミルストレッチをMS(P、F)(mm)、転がり軸受の熱膨張の影響がある場合、ロードセルで検知した荷重値を用いて計算したミルストレッチをMS(P´´−F、F)(mm)、転がり軸受の熱膨張に起因する板厚偏差をε(mm)とすると式(3)の関係が成り立つ。式(3)より、転がり軸受の熱膨張に起因する板厚偏差εを高精度に推定できれば、真のミルストレッチ量MS(P)を導出することが可能になる。
MS(P´´−F、F)=MS(P、F)+ε ・・・ (3)
転がり軸受の熱膨張に起因する板厚偏差εとは、すなわちロール軸と転がり軸受の摩擦による転がり軸受の熱膨張量である。転がり軸受の熱膨張量を演算するには転がり軸受の温度が必要となるが、これを把握するためには、以下の3つの方法が考えられる。
(1)転がり軸受の温度を直接測定する。
(2)ロールチョックの温度を測定し、当該ロールチョック温度から転がり軸受の温度を推定する。
(3)圧延荷重と圧延速度を測定し、摩擦発熱量を求め、転がり軸受の温度を推定する。
(1)の方法を使用すれば、ロールチョック等の設備改造を要するものの、実際に転がり軸受の温度を測定するため、高精度に転がり軸受の熱膨張量を演算することができる。
(2)の方法を使用すれば、(1)の方法程の設備改造を要さずとも、ロールチョックの温度から転がり軸受の温度を推定し、これに基づいて転がり軸受の熱膨張量を演算することができる。
(3)の方法を使用すれば、(1)や(2)の方法のように温度測定手段・温度推測手段を設置せずとも、荷重測定用ロードセルおよび圧延速度検出器を備えていれば、より容易に転がり軸受の温度を推定することができる。ここで熱伝導問題により、ロードセル荷重と圧延速度から転がり軸受の温度を推定する。
転がり軸受の温度変化の原因は摩擦熱によるものであるので、熱伝導問題により、転がり軸受の温度をT(K)、膨張前の転がり軸受の温度をTo(K)、圧延速度をv(m/s)、ロードセルで検知した荷重値をP´´(kN)、転がり軸受の熱伝達面積をD(m)、転がり軸受の熱容量をC(J/K)、時間をt(s)とすると、転がり軸受の温度は、式(4)で示される。
T=∫f(P´´、v、D、C、t)dt+To ・・・ (4)
ここでfは摩擦熱により得られた転がり軸受の熱量増分を表し、P´´、v、D、Cおよびtの関数である。fはロードセル荷重P´´および圧延速度vを変更し、P´´およびvと、ロールチョックに取り付けた熱電対により測定した転がり軸受の温度Tとの関係を調査した実験結果から、熱伝導問題を基に回帰して求めた。
なお、関数fは転がり軸受の熱伝達面積Dおよび転がり軸受の熱容量Cに依存するものであり、この転がり軸受の熱伝達面積および転がり軸受の熱容量を把握すれば、理論上他の圧延機にも適用可能である。
ロードセル荷重P´´および圧延速度vの値を用いて推定した転がり軸受の温度Tと時間tの関係を図1に示す。P´´およびvにより、転がり軸受温度が変化することを確認出来る。
式(4)で推定した転がり軸受の温度により、転がり軸受の熱膨張量を導出できる。転がり軸受の半径方向の熱膨張量をε(mm)、転がり軸受の推定温度をT(K)とすると、転がり軸受の熱膨張に起因する板厚偏差、すなわちロール軸と転がり軸受の摩擦による転がり軸受の熱膨張量であって転がり軸受の半径方向の熱膨張量εは式(5)で示される。
ε=g(T) ・・・ (5)
ここでgはTの関数であり、これらはほぼ比例関係にある。εとTの関係を図2に示す。 式(3)〜(5)により、転がり軸受の熱膨張量を把握することで真のミルストレッチを導出することが可能となり、高精度板厚制御が実施可能となった。
以下、本発明の実施形態について図3に示す6スタンド冷間タンデム圧延機に基づいて説明する。本冷間圧延機はロールチョックに転がり軸受を用いる6段ミルであり、転がり軸受を有するワークロール1、転がり軸受を有する中間ロール2および転がり軸受を有するバックアップロール3で構成され、油圧圧下装置7およびロードセル6を備えている。ワークロールはACモータ10で駆動され、またワークロールベンダー8および中間ロールベンダー9が設けられている。表1に本冷間圧延機の仕様を示す。
Figure 2009195983
はじめに、(1)の発明および(6)の発明について実施形態のフローチャートを図4に示す。
まず圧延機入側板厚H(A01)および出側目標板厚h(A02)から、目標圧下位置Sを設定し(A03)、圧延を開始する(A04)。
次に温度推定手段により推定した転がり軸受の温度(A05)を用いて、式(5)により転がり軸受の熱膨張量εを演算する(A06)。
次いで、演算した転がり軸受の熱膨張量εに基づいて、圧延機入側板厚Hおよび出側目標板厚hから設定した目標圧下位置Sを補正し(A07)、補正した圧下位置を目標にロールを締め込みあるいは開放させ、ロールギャップを変更する(A08)。
次に、(2)の発明および(7)の発明について実施形態のフローチャートを図5に示す。
まず圧延機入側板厚H(B01)および出側目標板厚h(B02)から、予測圧延荷重(B03)およびロールベンディング力(B04)を設定し、前記予測荷重およびロールベンディング力を用いて導出したミルストレッチ量MS(B05)に基づき式(1)を用いて目標圧下位置Sを設定し(B06)、圧延を開始する(B07)。
次にロードセルにより測定したロードセル荷重P´´(B08)およびロールベンディング力検出器により測定したロールベンディング力F(B09)を用いて、ミルストレッチ量MS(P´´−F、F)を演算する(B10)。また、温度推定手段により推定した転がり軸受温度(B11)を用いて、式(5)により転がり軸受の熱膨張量εを演算する(B12)。
次いで、演算した転がり軸受の熱膨張量εに基づいて、式(3)に示すようにミルストレッチ量(B10)を補正し(B13)、その補正したミルストレッチMS(P、F)を用いて圧延機出側板厚を絶対値で推定し(B14)、その推定した圧延機出側板厚に基づいて目標圧下位置S(B06)を補正し(B15)、補正した圧下位置を目標にロールを締め込みあるいは開放させ、ロールギャップを変更する(B16)。なお、圧延開始後、予測荷重およびロールベンディング力に代えて測定された圧延荷重およびロールベンディング力を用いて制御が行われることは言うまでもない。
そして、(3)〜(5)の発明および(8)〜(10)の発明については、前記図4または図5のフローチャートにおいて、(A05)または(B11)の転がり軸受温度推定または温度推定手段の部分を、各発明における温度測定手段・温度推定手段に置き換えることで、各発明の実施形態として示すことができる。
より具体的には、(3)の発明および(8)の発明については、上記のように推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算するのではなく、測定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算すればよい。したがって、(3)の発明については、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備える必要は無く、これらに代えて、転がり軸受の温度を測定する温度測定手段と、測定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えればよい。
同様に、(4)の発明および(9)の発明についても、上記のように推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算するのではなく、測定したロールチョックの温度から転がり軸受の熱膨張量を演算すればよい。したがって、(4)の発明についても、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備える必要は無く、これらに代えて、ロールチョックの温度を測定する温度測定手段と、測定したロールチョックの温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えればよい。
また、(5)の発明および(10)の発明についても、上記のように推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算するのではなく、測定した圧延荷重と圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算すればよい。したがって、(5)の発明については、転がり軸受やロールチョックの温度を推測・測定する温度推測手段・温度測定手段を備える必要は無く、測定した圧延荷重と圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えればよい。
なお、上記あるいは図中の圧下目標値設定手段、温度推定手段、熱膨張量演算手段、ミルストレッチ式演算手段、ミルストレッチ量補正手段、板厚演算手段、圧下目標値補正手段としては、コンピュータ(電子計算機)を用いることができる。
本発明の効果を確認するため、図3に示す6スタンド冷間タンデム圧延機の最終スタンドで圧延実験を行った。圧延材は板幅1.507m、スタンド入側板厚は0.803mmで出側の板厚目標値は0.759mmである。また、ワークロールベンディング力は249kNで一定、中間ロールベンディング力は386kNで一定とした。
図6に、図3に示した冷間圧延機を対象に実施した実験結果である、(a)出側板厚推定値、(b)圧延荷重測定値、(c)圧延速度測定値および式(4)により計算した(d)バックアップロール転がり軸受推定温度のチャートを示す。
式(5)で示した通り、軸受膨張量は軸受温度がわかれば容易に求まる。比較のため、(a)板厚のチャートには従来のミルストレッチ式による板厚推定値および本発明で提案した転がり軸受の熱膨張を考慮してミルストレッチ式を補正し計算した板厚推定値を示す。
図6に示す(c)圧延速度測定結果において、圧延速度200m/分の低速域から圧延速度800〜1000m/分の高速域へと加速する箇所、また反対に高速域から低速域に減速する箇所が見られる。これは前後圧延コイル同士の溶接部が圧延機を通過する際、溶接部が非定常部を含むために、板破断防止や通板安定性を保つため圧延速度を落とし、溶接部通過後に再加速するためであり、実際の操業における圧延速度の傾向が本実験において再現されていることが本測定結果より確認できる。
また、図6に示す(c)圧延速度測定結果および(b)圧延荷重測定結果において、圧延速度が800〜1200m/分と高速である際に、圧延荷重が少しずつ増加傾向にあることが確認できる。これは本発明の前提となる条件であり、本実験においても同様の現象が得られたことがわかる。
更に図6の(c)圧延速度測定結果および(d)転がり軸受温度の推定値を見ると、圧延速度が低速である箇所では温度も減少し、反対に圧延速度が高速である際には推定温度は高温となっており、本発明の意図通りの温度推定結果が得られていることが確認できる。式(5)で示した通り、軸受膨張量と軸受温度はほぼ比例関係にあり、転がり軸受膨張量も本軸受温度推定値とほぼ同じ挙動を示すため、本軸受膨張量をミルストレッチ式板厚推定値に考慮することにより、推定板厚精度の向上が期待できる。
図6(a)の従来のミルストレッチ式による板厚推定値および本発明で提案した転がり軸受の熱膨張を考慮してミルストレッチ式を補正し計算した板厚推定値を見ると、従来のミルストレッチ式による板厚推定値では板厚目標値と比較し20〜30μmの誤差が生じている。特に実測値との乖離が大きいのは圧延速度が800〜1200m/分と高速であることが見てとれる。
一方、本発明法による板厚推定値は圧延速度が高速・低速であっても平均して5μm未満とほぼ誤差なく板厚を推定している。また、転がり軸受の温度推定値が圧延荷重および圧延速度の変動を捉え、推移していることが確認でき、温度変化による推定板厚の誤差を本発明ではバックアップロールの熱膨張によるものと特定し、当該ローラーベアリングの熱膨張量を導出し、圧下を補正したことで板厚精度が向上したことが確認できた。更に本発明はロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であれば、原理的に熱間圧延機および冷間圧延機、ならびに単スタンド圧延機およびタンデム圧延機全てに適用可能である。
以上本発明により、転がり軸受の熱膨張量を高精度に演算することが可能であるため、加減速時の板厚変動を当該熱膨張量に応じも目標圧下位置を変更することで制御することが可能となった。
圧延荷重および圧延速度の違いによる、時間の推移と転がり軸受の温度の関係を示す図である。 転がり軸受の温度とその半径方向の熱膨張量の関係を示す図である。 実施例で用いた冷間圧延機の構成図である。 (1)の発明および(6)の発明に係る実施形態を示すフローチャートである。 (2)の発明および(7)の発明に係る実施形態を示すフローチャートである。 本発明法を用いた実験結果を示す図であり、(a)従来のミルストレッチ式による板厚推定値、および本発明で提案した転がり軸受の熱膨張を考慮してミルストレッチ式を補正し計算した板厚推定値(b)圧延荷重測定値(c)圧延速度測定値(d)本発明によるバックアップロール転がり軸受推定温度である。
符号の説明
1a 上ワークロール 1b 下ワークロール
2a 上中間ロール 2b 下中間ロール
3a 上バックアップロール 3b 下バックアップロール
4 鋼板
5 板厚計
6 ロードセル
7 油圧圧下装置
8 ワークロールベンダー
9a 上中間ロールベンダー 9b 下中間ロールベンダー
10 ACモータ

Claims (10)

  1. ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であって、
    目標圧下位置を設定する圧下目標値設定手段と、
    転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、
    推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段と、
    演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正する圧下目標値補正手段を備えることを特徴とする転がり軸受を有する圧延機。
  2. ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機であって、
    目標圧下位置を設定する圧下目標値設定手段と、
    転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、
    推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段と、
    圧延荷重を測定するロードセルと、
    ロールベンディング力を測定するロールベンディング力検出器と、
    測定した圧延荷重とロールベンディング力からミルストレッチ量を演算するミルストレッチ式演算手段と、
    演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいてミルストレッチ量を補正するミルストレッチ量補正手段と、
    補正したミルストレッチ量を用いて圧延機出側板厚を絶対値で推定する板厚演算手段と、
    推定した圧延機出側板厚に基づいて目標圧下位置を補正する圧下目標値補正手段を備えることを特徴とする転がり軸受を有する圧延機。
  3. 請求項1と2に記載の、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段、に代えて、
    転がり軸受の温度を測定する温度測定手段と、
    測定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受を有する圧延機。
  4. 請求項1と2に記載の、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段、に代えて、
    ロールチョックの温度を測定する温度測定手段と、
    測定したロールチョックの温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受を有する圧延機。
  5. 請求項1と2に記載の、転がり軸受の温度を推定する温度推定手段と、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段、に代えて、
    測定した圧延荷重と圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算する熱膨張量演算手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受を有する圧延機。
  6. ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機の板厚制御方法において、
    目標圧下位置を設定した上で圧延を開始し、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、
    当該演算した転がり軸受の熱膨張量に基づいて目標圧下位置を補正することにより板厚を制御することを特徴とする転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
  7. ロールチョックに転がり軸受を用いる圧延機の板厚制御方法において、
    目標圧下位置を設定した上で圧延を開始し、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、
    測定した圧延荷重とロールベンディング力からミルストレッチ量を演算し、
    前記転がり軸受の熱膨張量に基づいて当該ミルストレッチ量を補正し、
    当該補正したミルストレッチ量を用いて圧延機出側板厚を絶対値で推定し、
    当該推定した圧延機出側板厚に基づいて目標圧下位置を補正することにより板厚を制御することを特徴とする転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
  8. 請求項6と7に記載の、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、に代えて、
    測定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算することを特徴とする請求項6または7に記載の転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
  9. 請求項6と7に記載の、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、に代えて、
    測定したロールチョックの温度から転がり軸受の熱膨張量を演算することを特徴とする請求項6または7に記載の転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
  10. 請求項6と7に記載の、推定した転がり軸受の温度から転がり軸受の熱膨張量を演算し、に代えて、
    測定した圧延荷重と圧延速度から転がり軸受の熱膨張量を演算することを特徴とする請求項6または7に記載の転がり軸受を有する圧延機の板厚制御方法。
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