(電力伝送用コイルの構成による電力伝送特性の違いについての説明)
電力伝送用に適したコイルの一例として、平面渦巻き状に巻回されたコイルがある。コイルを構成する導体は、通常、導体断面が円形、または正方形のものが使われる。これらを「導線コイル」と表記する。電力伝送装置においては、送電コイルと受電コイルが分離可能である。そこで、本願発明者は、図124に示す電力伝送装置にて、以下に示すように各種のコイルを組合せ、実際に電力伝送試験を行ってみた。
(1)送電コイル:導線コイル 受電コイル:導線コイル
(2)送電コイル:箔導体コイル 受電コイル:導線コイル
(3)送電コイル:導線コイル 受電コイル:箔導体コイル
(4)送電コイル:箔導体コイル 受電コイル:箔導体コイル
その結果、上記(1)の導線コイルの組合せでは、良好な電力伝送性能が得られている。本願発明者は、その結果をまとめ、PCT2007/JP2007/061012として出願済である。一方、送電コイルまたは受電コイルの少なくとも一方に箔導体コイルを使用した場合は、上記(1)の場合より電力伝送性能が低下するのを見出した。
実測に使用した導線コイル、箔導体コイルは、実効直列抵抗が大きい。そこで、負過電流を減らすため、100V、40Wの白熱電球を負荷として使用した。この場合、負荷電流IL(A)は、IL=40W/100V=0.4A、となる。負荷抵抗値RL(Ω)は、RL=100V/0.4A=250Ω、となり、各コイルの実効直列抵抗、数Ωに比べ十分に大きい。よって、少なくとも受電コイルの実効直列抵抗による電力損失は、負荷の消費電力に比べ、40×(7/250)≒1W、と十分に小さくなる。
しかしながら、箔導体コイルは構造上放熱性がよいにもかかわらず、発熱を起こし、伝送可能な電力に上限があるのを見出した。このように、箔導体コイルは、大電圧、小電流で使用しない限り、導線コイルに比べ、電力伝送性能が劣るのが分かる。さらに、上記の箔導体コイルは、導線コイルよりも外径が大きい。したがって、限られた面積のコイルで、大電力を高効率で伝送するには、箔導体コイルは適していない。しかし、高電圧、小電流で使用する場合は、箔導体コイルでも大電力を伝送可能である。この場合の箔導体コイルの作用効果は、導線コイルの作用効果とは異なる。その詳細については後述する。
(箔導体コイルの他の作用効果について)
本願発明者は、前述した特許文献7のように、送電部のコイルを受電部のコイルよりも大きくしてみた。そして、高抵抗値の負荷が接続された受電コイルに電力を伝送するため、A5サイズ程度から、60cmm角の正方形まで、種々の箔導体コイルを作成した。その結果、上記のように寸法の大きい送電用の箔導体コイルは、送電コイルよりも小さい受電コイルに長距離で電力が伝送可能なことを見出した。さらに、受電コイルの磁束補足面が送電コイルの巻回面と平行になっていなくても、受電コイルが電力を受電できることを見出した。このように、箔導体コイルで構成した送電部は、コイルを中心として広い範囲に磁束を形成できる。この作用効果は、特許文献7のように、コイル表面に近いところに、コイル面に略平行に磁束を生成させる作用効果とは全く異なる。前述した作用効果は、大電力を高効率で伝送可能なものではない。しかし、本発明では、相互誘導作用により、1MHz以下の周波数領域でも、長距離の電力伝送ができる。送電コイルの大きさや構成にもよるが、送電コイルを中心として50cm以上の長距離の電力伝送が可能となる。従来、このような箔導体コイルの作用効果について言及した従来技術は存在しなかった。
以下、上述した本発明の電力伝送装置について詳しく説明してゆく。
(電力伝送装置の構成の説明)
図1は、この発明の一実施形態に係る電力伝送装置100のブロック図である。図1において、電力伝送装置100は、送電装置として作動する送電部3と、受電装置として作動する受電部4とを含む。送電部3は、直流電源12と、送電制御回路3aと、送電コイル1とを含む。受電装置4は、受電コイル2と、受電制御回路4aと、負荷RLとを含む。送電コイル1と、受電コイル2とは対向して配置される。
なお、送電部3と、受電部4とは分離可能に構成されている。送電部3と、受電部4とが結合されたときには、送電コイル1と受電コイル2とが対向して配置されるので、送電コイル1と受電コイル2とは変成器として作用する。
送電部3の送電制御回路3aは、直流電源12を交流電力に変換するインバータ回路などの電力変換手段として作動する交流電源3bを少なくとも含む。送電コイル1に力率改善用キャパシタ13が直列に接続された直列回路を、交流電源3bにより後述する所定の周波数以下で駆動して受電部4に電力を伝送する。受電部4は受電コイル2により送電コイル1から送電された電力を受電する。受電制御回路4aは受電した電力を負荷RLに供給する。受電制御回路4aには、交流電力を直流電力に変換する整流回路等が含まれている。負荷RLが白熱電球、LEDなどの交流電力で動作するものは、受電制御回路4aを省略し、負荷RLを受電コイル2に直結することもできる。
図1に示す電力伝送装置100の送電部3は、送電コイル1に力率改善用キャパシタ13が直列に接続された直列回路を、交流電源3bより交流電力を供給して駆動するように構成されている。交流電源3bの出力周波数fa(Hz)は、送電コイル1のインダクタンスL1(H)と、力率改善用キャパシタ13の静電容量C1(F)とで決まる、前記直列回路のリアクタンスがゼロとなる周波数frx(Hz)、あるいは、前記直列回路のインピーダンスが極小となる周波数frz(Hz)に近接して設定される。
なお、ここで交流とは、出力端子に接続されたコイルに、正方向、逆方向に電流が流せるものを言う。以降、直流電源12を交流電力に変換する電源変換手段を交流電源3bと表記する。そして、交流電源3bの出力周波数をfa(Hz)と表記する。さらに、送電コイル1が交流電源3bによって駆動される周波数をfd(Hz)と表記する。また、受電コイル2が電力を受電する周波数をfj(Hz)と表記する。この場合、当然、fa=fd=fj(Hz)である。fa、fd、fjは全て電力伝送に使用される周波数である。faとfdは、どちらも送電部3の周波数であり、作用効果も駆動部と被駆動部の違いだけである。しかし、fdとfjの作用効果は異なるので、以下に説明しておく。また、後述する実施形態において、電力を伝送する周波数をfs(Hz)、と定義しているが、fsも、fa、fd、fjと等しい。
(電力伝送装置の動作の説明)
図1に示す対向する送電コイル1および受電コイル2は空芯コイルであり、そのうち、送電コイル単体の実効直列抵抗をRw(Ω)、とする。送電コイル1に対向する受電コイル2を短絡したときの、送電コイル1の実効直列抵抗をRs(Ω)とする。後述するが、周波数が低い場合、RwとRsの関係は、Rs>Rw、となっている。一方で、周波数が高くなると、RwとRsの関係は、Rs<Rw、となっている。Rs<Rw、となる周波数は、コイルにより異なる。すなわち、Rs≧Rw、の関係を満足する周波数には上限が存在し、コイルによって上限値は異なる。前述したが、この上限値が、電力伝送性能のよいコイルを選ぶ基準となり、電力伝送装置を構成するコイルを使用可能な周波数領域を規定でき、電力伝送性能のよい電力伝送装置を実現できるものである。
そこで、この発明の一実施形態に係る電力伝送装置100は、送電コイル1が、Rs≧Rw、を満足する最高周波数をf1(Hz)、としたときに、送電部30に含まれる交流電源の出力周波数fa(Hz)をf1(Hz)以下の周波数領域に設定し、受電部40に電力を伝送する。fa(Hz)を上記のように設定すると、送電コイル1が、周波数fd=fa(Hz)で駆動される。また、受電コイル2が受電する周波数fjは、fj≦f1、の条件を満足する。すなわち、送電コイル1は、fd≦f1、の条件を満足する。当然のことながら、送電コイル1は、fd(Hz)にて、Rs≧Rw、の関係を満足する。また、受電コイル2が電力を受電する周波数fj(Hz)は、f1(Hz)以下であることを条件とする。すなわち、受電コイルは、fj≦f1、の条件を満足する。当然のことながら、受電コイル2は、fj(Hz)にて、Rs≧Rw、の関係を満足する。
前述したように、送電コイルの「駆動周波数fd(Hz)はf1(Hz)以下に設定される」という表記は、送電コイルの駆動周波数fd(Hz)が、「fd≦f1、の条件を満足する」のと同義である。「fd≦f1、の条件を満足する」という表記は、送電コイルが、「fd(Hz)にて、Rs≧Rw、の関係を満足している」という表記と同義である。また、受電コイルが「電力を受電する周波数fj(Hz)は、f1(Hz)以下であることを条件とする」という表記は、受電コイルが電力を受電する周波数fj(Hz)が、「fj≦f1、の条件を満足する」という表記と同義である。
「fj≦f1、の条件を満足する」という表記は、受電コイルが、「fj(Hz)にて、Rs≧Rw、の関係を満足している」という表記と同義である。受電部40においては、受電電力の周波数を設定できないので、受電コイル2が電力を受電する周波数fj(Hz)を定義し、受電コイル2と送電コイル1とにより決まる受電コイル1のf1が、fj以上であることを条件としている。以降、上記のいずれかの表記により、電力伝送装置が満足すべき条件を規定する。
さらに、送電コイル1に対向する受電コイル2を開放したときの、送電コイル1の実効直列抵抗をRn(Ω)とする。そして、Rs≧Rn≧Rw、を満足する最高周波数をf2(Hz)とする。後述するが、f2(Hz)は、f1(Hz)よりも低くなる。電力伝送装置100は、送電制御回路30aに含まれる交流電源3bの出力周波数fa(Hz)をf2(Hz)以下の周波数領域に設定し、電力を受電部40に伝送する。fa(Hz)を上記のように設定すると、送電コイル1が、周波数fd=fa(Hz)で駆動される。すなわち、送電コイル1は、fd≦f2、の条件を満足する。当然のことながら、送電コイル1は、fd(Hz)にて、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する。このときの、受電コイル2が電力を受電する周波数fj(Hz)は、f2(Hz)以下であることを条件とする。すなわち、受電コイル2は、fj≦f1、の条件を満足する。当然のことながら、受電コイル2は、fj(Hz)にて、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する。以下、前述したf1とfdの関係、またはf1とfjの関係と同様にして、いずれかの表記にて、f2とfdの関係、またはf2とfjの関係を規定する。
さらに、前記コイルの熱抵抗をθi(℃/W)、前記コイルの許容動作温度をTw(℃)、前記コイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに前記コイルに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、(Tw−Ta)≧θi(Rw×Ia2)、の関係を満足している。
(送電部に使われるコイルの具体例:実施形態1)
図2は、この発明の一実施形態における電力伝送装置の送電部に使用される送電コイルの一例である箔導体コイル10aを示す斜視図であり、図3は、図2に示した箔導体コイル10aの線A−Aに沿う断面を拡大して示す図である。
図1において、箔導体コイル10aは、正方形状の絶縁材料からなる板状部材20の平坦面22上に箔状導体30を外側から内側に向けて反時計方向に、平板で空芯単層になるように正方形状で渦巻き状に形成したものである。なお、箔導体コイル10aの中心部には、箔導体が巻回されていない空白部が設けてある。
箔状導体30は、図2に示すように、電流が流れる方向に交差する断面が近似的に矩形、より好ましくは長方形であり、矩形の一辺の長さ(厚み)をt(mm)とし、一辺に交差する一辺の長さ(幅)をH(mm)としたとき、少なくとも幅Hは厚みtの10倍以上であり、幅Hは1mm以上に選ばれている。各箔状導体30は、幅Hを示す一辺が板状部材20と接しており、隣接する各箔状導体30は、少なくとも0.1mm以上の間隔w、または箔導体の幅をHとしたときに、w=H/40(mm)以上の間隔を有しており、少なくとも外形の最小外寸d1は幅Hの15倍以上になるように構成される。さらに、箔導体コイル10aは、巻き数が4ターン以上であり、自己インダクタンスが少なくとも2μH以上である条件を満足している。
箔状導体30の断面の形状を長方形とし、幅Hと厚みtの比、H/tを10以上と規定しているのは、箔状導体30の表面積Sfと体積Vfとの比、Sf/Vfを大きくし、表皮効果の影響を低減するためである。さらに、幅Hが0.5mm以上に選ばれているのは、コイルの直流抵抗の増加を抑制するためである。好ましくは、幅Hが1mm以上に選ばれている。
前述したように、箔導体コイルは、隣接する箔導体間の間隔を可能な限り狭くして、コイルの直流抵抗を低下させると共に、インダクタンスを確保している。しかしながら、このような構成のコイルは、渦電流損により、周波数の上昇とともに、コイル単体の実効直列抵抗Rwが増加する。したがって、隣接する箔導体の間に、上述した間隔wを設ける。これにより、渦電流損による箔導体の実効直列抵抗の増加を回避できる。
送電コイルの最小外形が10cm以上であるのは、広範囲に磁束を生成させるためであり、箔状導体30の厚さtが、0.3mm以下に選ばれており、隣接する箔状導体間の間隔をS、としたときに、箔状導体の幅Hが、H≦w×40を満足しているのは、隣接する箔状導体30が生成する磁束経路に存在する導体の距離を短くし、渦電流損を低減するためである。このような構成のコイルとすることにより、広い面積の送電コイルを実現でき、送電コイルの上面に、広い範囲に渡り、磁束が形成されるので、送電コイル面から離れた、長距離の電力伝送が可能となる。
図2に示すように、箔状導体30の中心部の内周側の端部には、被覆電線40の一端が半田付けなどにより電気的に接続されており、箔状導体30の外周側の端部には、被覆電線50の一端が半田付けなどにより電気的に接続されている。被覆電線40は接着剤などにより板状部材20上に固定される。ただし、接着剤によることなく、金具などによって被覆電線40を板状部材20上に固定してもよい。
巻回数が少なく、大きな面積のコイルを実現した場合、コイルの導体から引き出す電線自体が持つインダクタンスと、コイルの導体との相対的位置関係による相互インダクタンスが無視できなくなり、電線端から見たコイルの自己インダクタンスが該電線とコイル間の相対的位置により変動する。そこで、この実施形態では、箔状導体30の中心側の一端を被覆電線40の一端に接続し、被覆電線40を板状部材20に固定する。このようにコイルを構成することにより、被覆電線40と箔状導体30との相対位置が変動することがないので、コイルの自己インダクタンスを一定にすることができる。
あるいは、コイルの中心部より箔状導体が巻回されている板状部材20の裏面に電線を出し、コイルの最外周部の巻き終わりの位置に近接するように、板状部材20の裏面に箔状導体30を貼り付け、コイル外に接続する電線をそこから引き出すようにしてもよい。
なお、箔導体コイル10aを送電用のコイルとして用いる場合には、被覆電線40、50は、図示しない交流電源に接続されるが、被覆電線40、50の長さを適宜選ぶことによりインダクタンスを調整できる。これは、被覆電線40、50の少なくとも一方にキャパシタを直列に接続して交流電源に接続する場合も同様で、交流電源から見た、コイルとキャパシタのリアクタンスがゼロとなる点を、被覆電線40、50の長さにより調整できるという利点がある。
このように構成された箔導体コイル10aは、図1に示した電力伝送装置の送電コイル1として用いることができる。
(受電コイルについての説明)
図4および図5は、電力伝送装置の受電側に設けられる受電コイルの例を示す。図4は、平板円形渦巻き状に巻かれた受電コイル20aを示し、図5は、円筒状に巻かれた受電コイル20bを示す。図4の受電コイル20aの面を囲むように磁束補足面Smが形成されている。図5では、円筒状に巻回された受電コイル20bの巻回面の内側が、磁束補足面Snとして形成されている。以下、Sm,Snは、任意の構成のコイルの磁束補足面とその面積を表す。
図3に示した箔状導体30の幅Hを広くすることにより、箔導体コイル10aにより広い面積の送電コイルLpを実現でき、送電コイルLpの上面に、広い範囲に渡り、磁束が形成されるので、送電コイル面から離れたところまでの長距離の電力伝送が可能となり、箔導体コイル10aの巻回面と、図4、図5などに示す任意の構成の受電コイルの磁束補足面Sm,Snが平行になっていなくとも、受電コイルに電力が伝送可能である。
最小外寸d1が幅Hの15倍以上に、箔状導体30の巻数が4ターン以上に選ばれているのは、箔導体コイル10aが、広い範囲に磁束を形成するためである。
(送電コイルに関する特性の説明)
そして、箔導体コイル10a単体での実効抵抗をRw(Ω)とし、箔導体コイル10aと誘導結合可能な任意の構成の1個以上の他のコイルを、図2に示した箔導体コイル10aに近接させ、近接する他のコイルの全てを短絡したときの、箔導体コイル10aの実効直列抵抗をRs(Ω)、Rs≧Rw、を満足する最高周波数をf1(Hz)、としたときに、前記f1が100kHz以上となるように、他のコイルが選ばれており、箔導体コイル10aは、f1(Hz)以下の周波数であるfd(Hz)において駆動される。
さらに、箔導体コイル10a単体での実効抵抗をRw(Ω)とし、任意の構成の1個以上の他のコイルを、図2に示した箔導体コイル10aに近接させ、近接する他のコイルを開放したときの、箔導体コイル10aの実効抵抗をRn(Ω)、Rs>Rn≧Rw、を満足する最高周波数をf2(Hz)、としたときに、f2以下の周波数領域において箔導体コイル10aは、f1(Hz)以下の周波数であるfd(Hz)において駆動される。これにより、箔導体コイル10aと、任意の構成の他のコイルを組合せた変成器は理論上の理想的な状態に近づけることができるので電力伝送効率を高めることができる。
また、箔導体コイル10aに開放した箔導体コイル10aと同一の他のコイルを対向させたときの、箔導体コイル10aの実効直列抵抗をRn1(Ω)、箔導体コイル10aが、Rs1≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数をf2o(Hz)、とすると、箔導体コイル10aは、f2o≧50kHz、の関係を満足している。換言すれば、箔導体コイル10aは、50kHzにおいて、Rs1≧Rn≧Rw、の関係を満足している。
さらに、前記コイルの熱抵抗をθi(℃/W)、前記コイルの許容動作温度をTw(℃)、前記コイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)、電力を伝送しているときに前記コイルに流れる交流電流をIa(A)、としたときに、(Tw−Ta)≧θi(Rw×Ia2)、を満足している。
次に、前述してきた満足すべき条件、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)、(Tw−Ta)≧θi(Rw×Ia2)、につき説明する。なお、この説明は、他の実施形態においても同じ作用効果をもつので、以降に記載の実施形態においては、説明を省略する。
まず、Rs≧Rw、Rs≧Rn≧Rw、の関係につき説明する。ここでは、回路理論を引用するので、送電コイルを1次側コイル、受電コイルを2次側コイルと表記する。
(等価回路の説明)
図6は、変成器の等価回路を表す図である。図7は空芯コイル単体の実効直列抵抗を明示した等価回路を示し、図8は1次側コイルの実効直列抵抗R1と、2次側コイルの実効直列抵抗R2を明示した変成器単体の等価回路を表す図である。図9は、図8において2次側コイルが短絡されたときの変成器の等価回路を表す図である。図10は、図8において2次側コイルに負荷抵抗RLが接続されたときの変成器の等価回路を表す図である。
最初に、Rw、Rn、Rsの理論上の関係を求めるため、変成器の1次側のインピーダンス、Z1を求めておく。図6において、L1は1次側コイルのインダクタンス、L2は2次側コイルのインダクタンス、Mは1次側コイルと2次側コイル間の相互インダクタンス、V1は1次側コイルの両端電圧、V2は2次側コイル(負荷抵抗RL)の両端電圧、I1は1次側コイルに流れる電流、I2は2次側コイルに流れる電流、RLは負荷抵抗(純抵抗)、Z1は1次側の入力インピーダンスを表す。
図6に示す等価回路において、下記の回路方程式が成立し、下記の連立方程式を解くことにより、Z1の純抵抗成分(実効抵抗)とリアクタンス成分(インダクタンス)を求めることができる。下記に、図6の回路方程式を記す。なお、j2=−1であり、ωは角周波数(ω=2πf、fは周波数(Hz))である。
V1=jωL1・I1+jωM・I2・・・(1)
V2=jωM・I1+jωL2・I2・・・(2)
V2=−RL・I2・・・(3)
求めたいのは、Z1=V1/I1、である。したがって、上記の3つの連立方程式から、V2、I2を消去すればよい。
上記の連立方程式の(3)式を(2)式に代入し、V2を消去すると、
0=jωM・I1+(jωL2+RL)I2
となり、上式をI2について解き、上記連立方程式の(1)式に代入し、I2を消去すると、
V1=(jωL1+ω2M2/(jωL2+RL))I1
となり、Z1=V1/I1、であるので、上式より、Z1は、
Z1=jωL1+ω2M2/(jωL2+RL)、となる。
実際の変成器は1次側コイルに実効抵抗R1、2次側コイルに実効抵抗R2を持つので、図9の回路を考え、RL=R2として、1次側コイルにR1を付加すると、
Z1=(R1+jωL1+ω2M2/(jωL2+R2)
となる。上式の、ω2M2/(jωL2+R2)に、(−jωL2+R2)/(−jωL2+R2)=1を掛けると、
Z1=(R1+R2・ω2M2/(ω2L22+R22))
+jω(L1−L2・ω2M2/(ω2L22+R22))、となって、
A2=ω2M2/(ω2L22+R22)とすると、Z1は、
Z1=(R1+A2R2)+jω(L1−A2L2)・・・(4)
となる。ω2>0、M2≧0、L22>0、R22>0、なので、明らかに、A2≧0、である。すなわち、図8において、1次側コイルの入力インピーダンスZ1は、
Z1=R1+jωL1・・・(5)
であり、(5)式と(4)式を比較すれば明らかなように、図9のように、変成器の2次側コイルが短絡されたときには、1次側コイルの実効抵抗R1が増加し、インダクタンスL1が減少するのが分かる。上記は、前述した「大学課程電気回路(1)」大野克郎、西哲生共著、オーム社発行(平成13年8月20日、初版、昭和43年6月30日)に記載されている既知の回路理論である。
上記(5)式と(4)式は、Rs≧Rw、Rs≧Rn≧Rw、の条件を説明し、Rw、Rn、Rsの関係を説明するのに引用する基本式である。
次に、図2に示した箔導体コイル10aに関して、具体的な例について説明する。一部重複するが、記号の定義を明確にしておく。Rwは、箔導体コイル10a単体の実効抵抗(図7のR1)、Rnは、箔導体コイル10aに他の空芯コイルが対向し、対向した空芯コイルが開放されているときの箔導体コイル10aの実効抵抗(図8のR1)、Rsは、箔導体コイル10aに他の空芯コイルが対向し、対向した空芯コイルが短絡されているときの箔導体コイル10aの実効抵抗(図9のR1)、krは、前記、RwとRsより近似的に求めた両コイル間の結合係数である。
また、箔導体コイル10a単体のインダクタンスをLw、箔導体コイル10aに他の空芯コイルが対向し、対向した空芯コイルが短絡されているときの箔導体コイル10aのインダクタンスをLsとしたときに、LwとLsから近似的に求められる結合係数をkiと表記する。krと、kiの近似的な求め方については後述する。
なお、L1がコイル自体を示すときには、L1は記号とし、インダクタンスの数値を示すときは、L1(H)として単位を付記する。これは、R1、Rw等の抵抗についても同様とする。ただし、Rs≧Rw、など等号や不等号で記載されている場合、Rw等を数式中に記載したときや計算に用いている旨の記載があるときの前後にRw等が記載してある場合、「Rwは、2Ω」等の具体的な数値と単位がRw等の直後に記載されている場合、特性図の説明等で数値であることが明らかな場合等は、単位の付記を省略している。
そして、Rs≧Rw、の条件を満足する最高周波数をf1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の条件を満足する最高周波数をf2(Hz)と表記する。単に、f1、f2と表記されている場合、f1は、Rs≧Rw、の条件を満足する最高周波数(Hz)、f2は、Rs≧Rn≧Rw、の条件を満足する最高周波数(Hz)を示す。
本発明においては、送電コイルと受電コイル間の結合係数が低い場合が多い。よって、Rs=Rw、となる場合もある。例えば、送電コイルの面積に比べ、受電コイルの面積が2%程度となる場合などである。あるいは、送電コイルと受電コイルの距離が離れている場合などがある。したがって、Rs≧Rw、の条件を満足する最高周波数をf1(Hz)、とすると、前記fd(Hz)、fa(Hz)、fj(Hz)、は、f1(Hz)と同じであってもよい。よって、fd(Hz)、fa(Hz)、fj(Hz)と、f1(Hz)、f2(Hz)、の関係は、f1「未満」と表記せず、f1「以下」と表記している。
まず、Rs≧Rw、の条件について説明する。上述したように、回路理論上、図8のように構成された変成器と、図9のように構成された変成器では、Rs>Rn=R1=Rw、の関係が成り立つ。しかし、後述する、Rw,Rs、Rnと周波数の関係を示す特性図を参照すると、周波数が高い領域では、Rs>Rn=R1=Rw、の関係を満足しておらず、Rs<Rw、となっている。前述した(4)式において、A2は、
A2=ω2M2/(ω2L22+R22)、であり、
前述したように、A2≧0、である。したがって、図8、図9に示す変成器の1次側インピーダンスの純抵抗成分は、2次側短絡時には、
Rs=(R1+A2R2)=(Rw+A2R2)≧Rw、となり、
2次側開放時には、Rn=R1=Rw、となる。
上述したように、回路理論に従うなら、Rs≧Rw、とならなければならないが、実測結果から、前記の不等式、Rs≧Rw、が、高周波数領域になると成立しない。
再度、上記A2について見てみると、
A2=ω2M2/(ω2L22+R22)、であり、Rs≧Rw、が成立しないのは、高周波数領域なので、A2において、ω2L22>>R22、が成り立ち、
A2≒ω2M2/ω2L22=M2/L22、となる。
既知の回路理論によると、1次コイルと2次コイルの結合係数をkとすると、
M2=k2L1・L2、の関係が成り立つ。1次コイルと2次コイルが同一の場合は、
L1=L2=Lw、R1=R2=Rwであるので、
A2=M2/L22=k2L1・L2/L22=k2Lw/L2、となる。
このようにして、既知のLw(H)とL2(H)から近似的に結合係数の2乗、k2を求めることができる。例えば、1次側、2次側共に、コイル10Aを使用した場合、Lw=L2、Rw=R2、となるので、
Rs≒Rw+k2Rw、k2Rw=Rs−Rw、k2=(Rs−Rw)/Rw・・(6)
Ls≒Lw―k2Lw、k2Lw=Lw−Ls、k2=(Lw−Ls)/Lw・・(7)
として、近似的に結合計数kの2乗を求めることができ、結合係数kは上記(6)式、(7)式の右辺の平方根を取ることにより求められる。ここで、上記(6)式の右辺の平方根を取ることにより求められた結合係数をkrと表記し、(7)式の右辺の平方根を取ることにより求められた結合係数をkiと表記する。
kr=√((Rs−Rw)/Rw)、
ki=√((Lw−Ls)/Lw)、
として、krを、Rw、Rsから、kiを、Lw、Lsから近似的に求められる。上記、(6)式、(7)式は、1次側コイル、2次側コイルに同一のコイルを使用する場合であり、1次側コイルと2次側コイルが異なる場合は、
Rs≒Rw+k2R2、k2R2=Rs−Rw、k2=(Rs−Rw)/R2・・(8)
Ls≒Lw―k2L2、k2L2=Lw−Ls、k2=(Lw−Ls)/L2・・(9)
kr=√((Rs−Rw)/R2)、
ki=√((Lw−Ls)/L2)、
として、近似的に結合係数を求めることができる。なお、R2(Ω)は、図9における受電コイル2の実効直列抵抗であり、L2(H)は、図9における受電コイル2の自己インダクタンスである。
(6)式のRw、(8)式のR2は、どちらも正の値であり、(6)式、(8)式において、Rs≧Rw、を満足しないと、(6)式、(8)式の右辺が負になる。この場合、kr2<0、となって、数学的には結合係数krが虚数になってしまう。実際に2個のコイルが対向して誘導結合しているのに、結合係数が虚数になることは有り得ず、電磁気学の相互誘導理論や回路理論上も、虚数の結合係数などというものは存在しない。
Rs−Rw≧0、すなわち、Rs≧Rw、は満足すべき条件で、この条件を満足する最高周波数をf1(Hz)としたときに、送電コイル1はf1(Hz)以下の周波数領域にて送電用に使用されることを条件としている。したがって、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)が高いコイルを選ぶのが好ましい。
しかしながら、本願は、面積の大きい送電コイルから面積の小さい受電コイルに長距離の電力伝送が可能な電力伝送装置に関する発明を本旨としている。特定の限られた条件下では面積比が1:3程度以下の箔導体コイル間、あるいは箔導体コイルと導線コイル間で、ある程度(概ね30W程度)の電力を80%程度の伝送効率で伝送はできる。しかし、同一面積の箔導体コイル間で、大電力を高効率で伝送するのは困難である。一方、導線コイルにおいては、同一のコイル間で、大電力を高効率で伝送できる。そこで、断面が円形の単導線を平面渦巻き状に巻回したコイルと、箔状導体を平面渦巻き状に巻回したコイルの作用効果の違いを、以下に示す。
(各コイルの仕様と特性)
表1は、本発明の作用効果を示すために引用するデータにおける各コイルの仕様を示す図であり、導線コイルであるコイル1Aからコイル1C、および箔導体コイルであるコイル10Aからコイル10F、導線で形成された受電コイルであるコイル1Jの、各コイルの仕様が記載されている。
(コイル1Aから1Cの特性)
図11は、1mmの単導線を外径70mmに、25ターン密接巻きしたコイル1Aの、Rw,Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図12は、0.6mmの単導線を外径70mmに40ターン密接巻きしたコイル1Bの、Rw,Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。図13は、0.3mmの単導線を外径70mmに70ターン密接巻きしたコイル1Cの、Rw,Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図11から図13において、周波数10kHzのときの、各コイル単体の実効直列抵抗をRw1、周波数1MHzのときの、各コイル単体の実効直列抵抗をRw2とする。実効直列抵抗の増加率s1を、s1=Rw2/Rw1、とする。s1とf1は、
コイル1Aでは、s1=3.8Ω/0.08Ω=47.5、f1≒70kHz
コイル1Bでは、s1=7.4Ω/0.36Ω=20.5、f1≒210kHz
コイル1Cでは、s1=14.4Ω/1.7Ω=8.47、f1=820kHz
s1とf1を掛けると、
コイル1Aでは、s1×f1=48.7×70=3325
コイル1Bでは、s1×f1=22.1×210=4313
コイル1Cでは、s1×f1=8.47×820=6945
導線外径をd(mm)とし、d×10の対数を取り、上記、s1×f1に掛けると、
コイル1Aでは、2681×log(10)=3325
コイル1Aでは、4258×log(6)=4258×0.77=3359
コイル1Aでは、6945×log(3)=6945×0.47=3313
のように、単導線では、f1とs1にほぼ完全な相関が見られる。さらに、上記に求めた、s1×f1、に線径d(mm)を掛けると、
コイル1Aでは、2681×1=2681
コイル1Bでは、4258×0.6=2555
コイル1Cでは、6945×0.3=2083
のように、略同一の値となっている。
上述のごとく、単導線で平面渦巻き状に形成したコイルは、線径dが太くなるに従い、f1(Hz)が低下し、周波数による実効直列抵抗の増加率s1も大きいことが分かる。このように、単導線で平面渦巻状に形成したコイルでは、線径d、f1、s1には相関が見られる。
(コイル10A〜10Eの特性)
図14は、同一のA4サイズのプリント基板に、箔厚70μmの銅箔を、箔幅H=10mm、間隙w=2mmで、6ターン巻回したコイル10Aを2個使用した場合の、Rw、Rs、Rnと、周波数の関係を示す図である。図15は、同一のプリント基板に、箔厚70μmの銅箔を、箔幅H=7mm、間隙w=2mmで、8ターン巻回したコイル10Bを2個使用した場合の、Rw、Rs、Rnと、周波数の関係を示す図である。なお、図14、図15には、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf1(Hz)と、Rs≧Rn≧Rw、を満足する最高周波数であるf2(Hz)、が明記されている。
図14に示すコイル10A、図15に示すコイル10B共に、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf1(Hz)は、約350kHz、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf2(Hz)は、約130kHzである。すなわち、同一寸法でコイルを作成しても、箔幅の違いにより、f1(Hz)、f2(Hz)に差異が見られない。さらに、10kHzにおける各コイル単体の実効直列抵抗Rwと1MHzにおける各コイル単体の実効直列抵抗Rwの比s1を見てみる。コイル10Aでは、0.33/0.11=3、であり、コイル10Bでは、0.57/0.19=3、となっている。両コイルの実効直列抵抗の増加率s1は、いずれも約3倍となっており、両コイルに差異は見られない。一方、コイル1Cのs1は、約8である。しかし、コイル1Cが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf1(Hz)は、約820kHz、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf2(Hz)は、約250kHzである。f1(Hz)、f2(Hz)ともに、コイル10A、コイル10Bよりも高い。このように、Rs≧Rw、を満足する最高周波数であるf1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf2(Hz)については、導線コイルと箔導体コイルでは異なっているのが分かる。
導線コイルにおいては、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf1(Hz)、が電力伝送に使用可能な周波数の上限であることが分かっている。また、対向するコイルを選ぶことによって、前記f1(Hz)を上昇させることができ、電力伝送性能を向上させることができる。その詳細については、PCT2007/JP2007/061012に記載してある。しかし、対向するコイルとの差異、導線コイルとの作用効果の違いはあるが、f1が350kHz前後のコイル10A、コイル10Bであっても、実際には1MHz以上の周波数で使用可能である。ただし、2個のコイル10A間、2個のコイル10B間で電力の伝送を行う場合には、Rs≧Rw、を満足する最高周波数であるf1(Hz)である約350kHzが電力伝送に使用可能な最高周波数となる。
次に、本願発明者は、コイル10Aと巻回数を同一とし、箔幅Hのみを7mmとして、隣接する箔導体の間隔wを5mmに広げた、コイル10Cを2個使い、コイル10Cの、Rw、Rs、Rnの周波数特性を計測してみた。
図16は、2個のコイル10Cを対向させたときの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図16によると、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf1(Hz)は、約3.2MHzに上昇しているのが分かる。また、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf2(Hz)は、1MHzに上昇している。
コイル10Aのf1は約350kHz、f2は約120kHzであるから、f1は約9倍、f2も約9倍に上昇している。なお、コイル単体のインダクタンスLw(H)は、コイル10Aが7.1μH、コイル10Cが約7.7μHとなっている。巻回数が同一であるので、コイル単体のインダクタンスは、コイル10Aとコイル10Cはほぼ等しくなっている。ただし、箔厚と箔幅の差異により、実効直列抵抗は、コイル10Aの方が小さくなっている。
上記の結果から、同一の箔導体コイル2個を使用した場合、Rs≧Rw、を満足する最高周波数であるf1(Hz)は、隣接する箔導体の間隔wのみで決まり、巻回数や箔幅とは相関が無いように思われる。しかし、同一のコイルを対向させた場合のf1を比較するのみでは、適切な箔導体コイルを選択することはできない。実際には、f1は低いが、実効直列抵抗の低いコイル10Aは、コイル10Cよりも電力伝送性能がよい。この点については後述する。次に、箔厚について考察してみる。
図17は、コイル10Cの銅箔に、半田を盛り、約0.3mmの箔厚に仕上げたコイル10Dに、コイル10Cを対向させた場合の、コイル10Dの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。図18は、コイル10Cに、コイル10Dを対向させた場合の、コイル10Cの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。図19は、コイル10A単体の実効直列抵抗Rw、コイル10C単体の実効直列抵抗Rw、コイル10D単体の実効直列抵抗Rw、と周波数の関係を示す図である。
まず、図19を参照すると、コイル10Dは、コイル10Aと同等にまではコイル単体の実効直列抵抗Rwは低下していないが、コイル10Cよりは改善されているのが分かる。コイル10Aとコイル10Dの実効直列抵抗Rwの差は、直流抵抗の違いである。半田は比抵抗が大きい。コイル10Aは70μmの箔厚であり、コイル10Dに0.1mm程度の箔厚の銅箔を使用すれば、コイル10Aとほぼ同等の直流抵抗が得られる。
次に、図16を参照すると、図15と同等に、Rs≧Rn≧Rw、を満足する最高周波数であるf2(Hz)は、1MHz前後に存在する。Rs≧Rw、を満足する最高周波数であるf1(Hz)は、図16では2.3MHzであるが、図17では4MHz以上となっているので、図示されていない。これは、コイル10Dを作成する際、半田付けの際の熱により、基板の平面性が崩れ、近接対向の距離が、図16よりも長くなっているからと推察される。この傾向は、図18において、コイル10Cにコイル10Dを対向させた場合も同様である。図16から図18より、Rs≧Rw、を満足する最高周波数であるf1(Hz)を上昇させるとともに、コイル単体の実効直列抵抗Rwを低下させるには、箔幅Hを狭くして箔厚tを厚くし、隣接する箔導体間の間隔wを広くすればよい。すなわち、箔幅Hの10分の1程度までは、箔厚tを厚くし、隣接する箔導体間の間隔wを広くすればよいことが分かる。この規定を満足していれば、箔厚tは0.3mm程度にまで厚くすることができる。
次に、受電コイルとして使用可能な箔導体コイルの実施形態について説明する。
図20は、箔幅0.5mm、間隙0.5mmで、40ターン巻回したコイル10Eを2個使用した場合の、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。図21は、比較例として作成した箔幅4mm、間隙0.1mmで15ターン巻回したコイル10Fを2個使用した場合の、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図20を参照すると、コイル10Eは、Rs≧Rw、Rs≧Rn≧Rw、の関係を、4MHz以上まで満足している。これは、箔幅Hに比べ、間隙wが広いからと推察できる。図21を参照すると、コイル10Fが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、150kHzとなっておいる。また、コイル10Fが、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数であるf2(Hz)は、25kHzとなっている。本発明の電力伝送装置100は、受電コイル2を送電コイル1に近接対向させるものではなく、受電コイル2が送電コイル1と離れていてもよい。よって、電波障害の関係上、250kHz以下の周波数領域で電力を伝送するのが好ましい。したがって、送電コイル1が、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)であって、送電コイルを使用可能な上限は、最低でも200kHz以上となっている必要がある。コイル10Fを2個使用した場合は、いずれのコイルも送電コイルとして使用できず、この場合、コイル10Fは比較例となる。
一方で、コイル10Fを他のコイルと対向させた場合の特性は、かなり変化する。
図22は、送電コイルにコイル10F、受電コイルにコイル10Eを使った場合、送電コイル10Fの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図21において、コイル10Fが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、130kHzであるが、図22では、コイル10Fが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、2.3MHzにまで上昇している。同様に、図21において、コイル10Fが、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数をf2(Hz)は、25kHzであるが、図22では、コイル10Fが、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)は、1.2MHzにまで上昇している。このように、箔導体コイルにおいては、対向するコイルを選ぶことにより、f1、f2を大幅に上昇させることができる。この作用効果は、導線コイルに対向させるコイルを箔導体コイルとしたときも同様で、導線コイルのf1、f2を大幅に大幅に上昇させることができる。導線コイルと箔導体コイルの組合せの例については後述する。
以降、送電コイルとして、同一のコイルを組合せた場合に、Rs≧Rw、を満足する最高周波数f1(Hz)が最も低いコイル10Aと、同一のコイルを組合せた場合に送電コイルとして使用できないコイル10Fを組合せて特性を見てみる。
以降、送電コイルとして、同一のコイルを組合せた場合に、Rs≧Rw、を満足する最高周波数f1(Hz)が最も低いコイル10Aと、同一のコイルを組合せた場合に送電コイルとして使用できないコイル10Fを組み合せて特性を見てみる。
図23は、送電コイルにコイル10A、受電コイルにコイル10Fを使った場合、コイル10Aの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。図24は、送電コイルにコイル10A、受電コイルにコイル10Fを使った場合、コイル10Fの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図23では、コイル10Aが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、1MHz以上となっている。図24でも、コイル10Fが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、1MHz以上となっている。電力伝送に使用する周波数を1MHzとすると、コイル10Aとコイル10Fを組合せた場合、いずれのコイルも、f1が1MHz以上となり、所定条件を満足する。ただし、コイル10Fをコイル10Aに上に設置する場所によっては、f1が1MHz以下となる場合もある。しかし、コイル10A面上に短絡したコイル10Fを設置したときに、コイル10AのRsがRwよりも大きい箇所があれば、所定条件を満足していることになる。
このように、同一のコイルを組合せた場合には所定条件、例えば、f1が1MHzを満足しない送電コイルと、同一のコイルを組合せた場合には所定条件、例えば、f1が1MHzを満足しない受電コイルを組合せることにより、送電コイルは所定条件を満足する。また、受電コイルも所定条件を満足する。これは、送電コイルと受電コイルの面積比が大きいからと推察される。導線コイルにおいては、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)が70kHzの直径が70mmのコイル1Aと、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)が200kHzの直径が70mmのコイル1Cを組合せた場合、コイル1Aのf1は、70kHz、コイル1Cのf1は200kHzと変化は無い。このように、箔導体コイルは、導線コイルとは異なる特性を持つ。
そして、図25に、0.3mmの単導線で構成した、長さが短いソレノイド形状のコイル10Jを受電コイルとしたときの、送電コイル、コイル10Aの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す。
図23から図25は、図22に示すコイル10Fと同等にして、コイル10Aが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)が、図13よりも大幅に上昇しているのが分かる。このように、送電コイルを基準とし、受電コイルを選ぶことにより、送電コイルが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)を上昇させることができる。具体的には、f1を、200kHz以上にすることができる。いずれの図にも、2MHzから4MHzの間に、f2が存在するが、f1は、4MHz以上になる。
箔状導体を平面渦巻状に巻回したコイル単体は、実効直列抵抗の周波数特性がよく、コイルのQも非常に高いので、送電用に用いることができる。特にキャパシタを使い、直列共振回路を形成すると、送電コイルに交流の大電流を流すことができ、前記の大電流は送電コイルを中心として広い範囲に磁束を形成することができる。その結果、送電コイルから距離が離れた任意の構成のコイルに、電力を伝送可能となる。
(Rs≧Rn≧Rw、の関係について)
次に、Rs≧Rn≧Rw、のについて説明する。前述したように、回路理論に従うなら、Rs>Rn=Rw、の関係を満足していないといけないが、Rs≧Rw、の関係と同じく、周波数が上昇すると、RnはRwよりも大きくなるのが、図11〜図24より分かる。すなわち、周波数が以上に上昇すると、RnはRsよりも大きくなる。f1とf2の関係は、例えば、図22を参照すると、f1>f2、となっている。この関係は、全てのコイルにおいて成り立つ。
この例では、図22から明らかなように、Rs≧Rn≧Rw、の条件を満足する最高周波数をf2(Hz)としたときに、コイル10Aはf2以下の周波数にて、送電用に使用することを条件としている。
Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数をf2(Hz)としたときに、コイル10Cを、f2以下の周波数で送電用に使用することにより、コイル10C、コイル10Cにコイル10Aを対向(電磁的に結合)させた変成器ともに、理論上の理想的な状態に近づき、電力伝送性能を向上させることができる。
また、図22には、f1とf2が明示してあるが、f1が高いほど、コイルが理論上の理想的な状態で使用できるf2も高い。本発明の箔状導体コイルは、広い範囲に磁束を形成できるが、コイルを駆動する周波数が高いほど、より広い範囲に磁束を広げることができる。したがって、前記f1、f2、が高いコイルを選ぶのが好ましい。
前述したように、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)以下で送電コイルを駆動する、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)以下で送電コイルを駆動する、といったコイルを使用可能な周波数の規定は、従来の技術ではできなかった。
(コイルの熱条件の規定について)
次に、(Tw−Ta)≧θi(Rw×Ia2)、の条件について説明する。
上述したように、交流電源の出力周波数fs(Hz)は、送電コイル単体のインダクタンスとキャパシタのキャパシタンスで決まるリアクタンスがゼロとなる点(共振点)に設定されている。すなわち、送電コイルを流れる電流は、fs(Hz)における送電コイルの実効直列抵抗Rwにより全て消費され、Rwにより、(Rw×Ia2)Wの電力がジュール損として熱に変換される。
この発明を実施する場合において、コイルの熱抵抗θi(℃/W)は、コイルの構造や設置条件により決まる。しかし、本発明における箔状導体を使用した送電コイルは、導体面積が広いうえ、ソレノイドやスパイラル状のコイルとは異なり、導体の表面が全て空気に接しているので、放熱性は極めて高い。
通常、物体は、温度が高くなるほど、周囲に多くの熱を放散するので、正確には熱拡散方程式を解く必要があるが、種々の構造を持つコイルにつき、比熱等の熱定数を加味して熱拡散方程式を解くのは困難であるので、下記の方法により簡易的に熱抵抗θi(℃/W)を求める。
まず、送電コイルが設置される場所にて、初期状態のコイル温度T1(℃)を求めておく。前記コイルに、直流の定電流Id(A)を流して、前記コイルの両端電圧Vd(V)を計測し、Pd=Vd×Id(W)として、前記コイルの消費電力を求める。金属導線は温度が上がると抵抗値が増加し、コイルの両端電圧Vdが上昇するので、Vdはペンレコーダー等で記録して平均値を求めるか、A/D変換器等で逐次Vdをモニターし、平均値を取るのが望ましい。熱平衡に達したら、コイル温度T2(℃)を測定する。熱抵抗θi(℃/W)は、θi=(T2−T1)/Pd(℃/W)として求められる。この測定は、Idの電流値を変えて数回測定し、平均値として求めるのが好ましい。
このようにして求められた熱抵抗θi(℃/W)に、実際の使用条件下でのコイルの実効直列抵抗Rw(Ω)とコイルに流れる電流Ia(A)により決まる、実効直列抵抗Rwが消費する電力、Rw×Ia2(W)を掛けると、実際の使用条件下でのコイルの温度上昇値、Tr(℃)が求められる。Tr=θi×Rw×Ia2(℃)となり、コイルが動作可能な温度をTw(℃)、コイルが設置される場所の周囲温度をTa(℃)とすると、Tr=Tw−Taとなり、不等式、(Tw−Ta)≧θi×Rw×Ia2(℃)を満足しないと、コイルの使用可能温度を越えるので、本発明の実施が困難になる。
前記不等式は、RwまたはIaの条件を規定している。電力が伝送される周波数fsにおいて、実効直列抵抗Rwは、送電コイル単体で実測して求められる変数、送電コイルに流れる電流Ia(A)も実測して求められる変数で、他の、Tw(℃)、Ta(℃)、θi(℃/W)は既知の定数となる。したがって、Rw(Ω)が求められれば、Ia(A)の上限値が規定され、逆にIa(A)が決められれば、Rwの上限値が規定される。Raは、直流抵抗Rd(Ω)と交流抵抗Ra(Ω)の和であり、RdとRwは直接実測することが可能なので、Ia(A)を決定することにより、巻き数により増加する、実効直列抵抗Rw(Ω)の上限値を規定でき、実効直列抵抗Rw(Ω)と周波数の関係から、電力が伝送可能な周波数範囲を規定することができる。
すなわち、1V×10Aと、10V×1Aは、どちらも同じ10Wの電力であるが、コイルの実効直列抵抗による電力損失は、10Aの場合は、1Aの100倍となる。電力ではなく、コイルに流れる電流Ia(A)を考慮し、コイルの実効直列抵抗による電力損失を規定しないと、送電コイルでの電力伝送効率を改善することはできない。
しかし、本発明の一実施形態の図1のコイル10aであるコイル10Aに、1MHzの周波数で、実効値約3Aの交流電流を流しても、コイルの構成上、コイル自体の放熱性が非常に良いので、コイルの発熱は殆ど観測されていない。
なお、受電コイルについては、特に構成は限定されず、ソレノイドやスパイラル、ハネカム、ミアンダ状など任意の構成のコイルが使用できる。本発明は送電コイルから受電コイルに長距離伝送を行うもので、受電コイルの受電電力が少ないため、特にコイルの構成や特性を規定する必要はない。図4、図5に示す受電コイルは、受電コイルの磁束補足面を表しており、前記磁束補足面と、図2に示す送電コイルの箔状導体巻回面に対する角度が平行ではなく、任意の角度であっても電力を伝送可能であるという、従来の技術では実現できなかった優れた効果を奏する。
なお、上述したが、コイル10E、コイル10Fは、図3に示す構成の受電コイルの一実施形態であり、コイル10Jは、図4に示す構成の受電コイルの一実施形態である。前述したように、受電コイルの構成により、送電コイルを駆動可能な周波数領域が決まる。
(導線コイルと箔導体コイルの特性の違いについて)
同一のコイルを2個使用し、前述した、Rs≧Rw、の条件を満足する最高周波数f1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の条件を満足する最高周波数f2(Hz)を求めた場合について説明する。
導線コイルにおいては、同一のコイルを2個使用した場合に求めたf1とf2は、他の導線コイルと組合せてもそれほど変化しない。例えば、図11に示す、導線コイル1Aのf1は約67kHz、f2は約25kHzである。コイル1Aと同じく直径が70mmで、同一のコイルを2個使用した場合のf1が3.2MHz、f2が780kHzのコイル1Dがある。コイル1Dをコイル1Aに対向させても、コイル1Aのf1は110kHz、f2は88kHzと、コイル1Aのf1、f2は余り上昇しない。導線コイルの場合、一旦コイルの構成が決まってしまうと、Rw、Rs、Rnの周波数特性がほぼ決まってしまうようである。また、同一のコイル2個を用いて計測したf1が低いコイルを、f1が高いコイルに対向させると、f1が高いコイルのf1は低くなる。本願発明者が種々のコイルを用いて計測した限りにおいて、この相関に反する特性を持つコイルは存在しない。
一方、箔導体コイルにおいては、同一のコイルで計測したf1が低くとも、対向するコイルを変えることにより、f1が大きく上昇するのが確認されている。この箔導体コイルの特性は、導線コイルと組合せた場合においても同じである。前述した、導線コイルであるコイル1Aに、箔導体コイルであるコイル10Fを組合せた場合、導線コイル、コイル1Aのf1は大きく上昇する。
図26は、コイル1Aにコイル10Fを対向させた場合の、コイル1Aの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図26を参照すると、コイル1Aが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、1.25MHzにまで上昇しているのが分かる。しかしながら、コイル1A単体の実効直列抵抗Rwの周波数特性は悪い。また、コイル10Fの直流抵抗も大きい。したがって、前述した、(Tw−Ta)≧θi×Rw×Ia2(℃)、の熱条件の規定により、コイル10Aとコイル10J間で大電力の電力伝送は困難になる。この場合は、コイル10Fを送電側コイルに使用し、キャパシタを除いて100V×0.2A=20W程度の電力を投入する。電力伝送周波数を100kHz程度とすると、コイル10Aの実効直列抵抗Rwは、0.5Ω程度となる。この条件では、受電側コイルであるコイル10Aより、20V×0.9A=18W程度の電力が取り出せる。このように、箔導体コイルを用いた場合には、作動条件を細かく規定しないと、大電力を高効率で伝送できない。従来は、単に大電力を高効率で伝送することのみに的を絞っており、前述したように、コイルに流れる電流とコイルの実効直列抵抗による電力損失が全く考慮されていない。
さらに、箔導体コイルにおいては、同一のコイルを用いた場合、f1が300kHzのコイルと、f1が200kHzのコイルがあったとする。f1が300kHzのコイルと、f1が200kHzのコイルを組合せると、いずれのコイルにおいてもf1が上昇するという効果が確認されている。例えば、f1が共に約350kHzのコイル10Aに、コイル10Bを対向させた場合、コイル10Aのf1は500kHz以上に上昇する。コイル10Aにコイル10Cを対向させると、コイル10Aのf1は1MHz以上に上昇する。
したがって、箔導体コイルを使用する場合、「同一の箔導体コイルを用いない」という条件を満足していればよい。この条件を満足するならば、少なくとも、本願の要旨である面積の大きい送電用の箔導体コイルから、導線コイルを含む送電コイルと誘導結合可能な構成の受電コイルに、長距離の電力が伝送できるようになる。あるいは、特定の条件下において、大電力を高効率で伝送できる。
箔導体コイルは、導線を巻回したコイルに比べ、コイル単体の実効直列抵抗Rwの周波数特性が良好である。例えば、コイル10Cの特性図である図16より、Rwの周波数特性が良好な箔導体コイルを2個対向させた変成器は、RsとRwの比より結合係数も高い。また、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)、も高い。しかし、本願発明者が、コイル10Cを2個用いて電力伝送試験を行ったところ、コイル面積が広いにもかかわらず、良好な電力伝送性能は得られなかった。断定はできないが、箔導体コイルを用いた変成器の実用化が難航しているのは、この点が一つの原因であると思われる。
以下に、本発明を実際に実施した例を示す。本実施形態におけるコイル10aの一例であるコイル10Bを使用し、キャパシタを介して周波数1MHzの実効値5Vの方形波でコイル10Bを駆動する。駆動電流は約1.5Aである。同一のコイルを使用した場合のf1が約70kHzである前述したコイル1Aに接続されたLEDを、コイル10aの上面約40cmで点灯させることができる。念のため、コイル10A、コイル1Aの、Rw、Rs、Rnと周波数の関係を確認しておく。
図27は、コイル1Aをコイル10Aに対向させたときの、コイル10AのRw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。図28は、コイル10Aをコイル1Aに対向させたときの、コイル1AのRw、Rs、Rnと周波数の関係を示す図である。
図27を参照すると、コイル10Aが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、4MHz以上に上昇しており、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)も1.2MHz以上に上昇しているのが分かる。図28を参照すると、コイル1Aが、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)は、2.8MHzに上昇しており、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)は、*00kHzに上昇しているのが分かる。
このように、箔導体コイルを使うと、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)を上昇させることができる。同一のコイルでは、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)、が70kHzのコイル1Aであっても、受電コイルとして、1MHz以上で使用できるようになる。
ここで、f1を100kHzと規定した根拠を説明しておく。電力伝送に使用可能な最高周波数は、最も低い国(フランス)では120kHzである。実際には構成部品のバラツキがあるので、電力伝送周波数を120kHzに設定すると、120kHzを越える場合もある。そこで約20%の余裕を見て、最低限100kHzにて、Rs>Rw、を満足するように規定している。また、f2については、f2<f1、となるので、f1の半分の数値である50kHzを目安として規定している。
ただし、電波が完全に遮蔽された空間内や、非常に公共性が高い場合などは、1MHzを越える周波数が使われている。例えば、ラッシュ時の自動改札機などである。したがって、上記の規定にかかわらず、f1、f2は高いほど好ましい。
(コイルを使用可能な周波数範囲について)
なお、コイルを電力伝送に使用可能な周波数の上限は、Rs≧Rw、の関係を満足する最高周波数f1(Hz)、Rs≧Rn≧Rw、の関係を満足する最高周波数f2(Hz)、より求めることができるが、コイルを使用可能な周波数の下限について説明する。コイルとしての性能は、Qで表される。コイルのQは、周波数によっても異なる。コイル単体に交流電流を印加したときに、コイルに流れる電流と電圧の位相差θが80度以下となる周波数がコイルを使用できる下限の周波数となる。図14には、コイル10Aの位相角が明示されており、コイル10Aにおいては、10kHzが使用可能な下限となっている。
Qとθの関係は、tanθ=Q、となっており、tan80度=5.67、となるので、コイルのQが、約5.5以上である周波数以上であればよい。コイルのQは、前述してきた記号を使用すると、Q=ωL/Rw、となる。したがって、Rwを低下させ、インダクタンスを確保することにより、広い周波数範囲で使用可能となる。コイルを使用できる下限の周波数において、Rwは、ほぼコイルの直流抵抗となるので、インダクタンスを確保しておくことが重要となる。f1が高く、高周波数まで使用可能なコイルであっても、インダクタンスが小さいと、Qが5.5以下となる周波数も高くなる。コイルの直流抵抗を低下させ、インダクタンスを確保する方法については後述する。上記のように、本発明は、従来の技術では選択できなかった電力伝送性能のよいコイルを選び、該コイルを使用可能な周波数範囲をして電力伝送性能のよい電力伝送装置が実現できるという極めて優れた効果を奏するものである。
(他の実施形態のコイルの説明:実施形態2)
図29は、この発明の他の実施形態における送電装置のコイル10bを示す図である。図2に示した箔導体コイル10aは、板状部材20と箔状導体30を正方形状に形成したのに対して、図29に示した箔導体コイル10bは、円板状の板状部材20a上に箔状導体30aを円形渦巻き状に形成したものである。箔状導体30aの厚みや幅などの条件は、図2および図3の説明と同じである。
なお、この発明における箔導体コイルは、図2に示した正方形状の箔導体コイル10aや図29に示した円形状の箔導体コイル10bに限ることなく、楕円形状や多角形状などの種々の形状に形成することが可能である。また、図2に示すコイル10aにおいて、図2のA−A断面である正方形の辺の中心部を広げることや、狭くすることもできる。その作用効果は、後述する実施形態と同じく、前記コイル面上の磁束方向や強度を変化させることができる。
(傘型コイルの説明:実施形態3)
図30は、板状部材20bを断面が傘形状に形成し、板状部材20b上に箔状導体30bを形成して箔導体コイル10cを構成したものである。なお、図30において、板状部材20bの上面に接する2つの線d2,d3がなす角度は、180度から90度の間に設定するのが望ましい。板状部材20bを断面傘型形状にするために、全体を円錐形状あるいは角錐形状にすることができる。
(コイルの他の構成の説明:実施形態4)
図31は、この発明のさらに他の実施形態の送電装置のコイル10dを示す図である。この実施形態では、箔状導体30bの内周部側を疎に巻回し、外周部側を密にするために、それぞれの間隔が内周部側がへ行くほど広くなり、外周側がへ行くほど狭くなるように箔状導体30bを板状部材20上に形成したものである。すなわち、内周部における隣接する箔状導体30b,30bは、比較的広い間隔w1を有して巻回されているのに対して、外周部にいくほど隣接する箔状導体30b,30bは、順次接近して最外周では狭い間隔w2を有して巻回されている。そして、間隔w1≧0.5mmであり、w2≧w1を満足し、間隔w2は箔状導体の幅Hの2倍以上に選ばれている。
特許文献2の段落番号0028の記載より、平板渦巻き形状のコイルにおいては、中心部の磁束密度が高く、外周部の磁束密度が低いので、内周部に空白を設けるとともに内周部を疎に巻回し、外周部を密に巻回することで、コイル面上の磁束密度を均一にできる。
図32は、この発明の他の実施形態における送電装置のコイルを示し、図2の線A−Aに相当する部分の断面を拡大して示す図である。この図32に示した実施形態は、外周部に行くほどコイルの巻回面に対して箔状導体30が垂直になるように構成したものである。特許文献7の図8e,8fには、外周部に行くほど銅箔の長辺を巻回面に対して垂直にする方法が開示されているが、銅箔がオーバーラップする部分で静電容量を持ってしまうため、高周波での動作が難しくなる。この実施形態では、誘電体(絶縁体)が隣接または対向する箔状導体間に存在しないことを特徴としており、箔状導体30の上面に誘電率が高い樹脂などが存在せず、空気層しか存在しないように構成されている。
図32(A)に示した例は、板状部材21の平坦面22から外周部分を傾斜させて傾斜面23を形成し、さらに傾斜面23に隣接して先端部分を平坦面23に対して直角となる直角面24を形成したものである。そして、平坦面22と、傾斜面23と、直角面24にそれぞれ箔状導体30を形成する。なお、傾斜面23を形成せずに、平坦面23の最外周から直角に立ち上がる直角面24を形成してもよい。
図32(B)に示した例は、板状部材21に渦巻き状の溝26を形成し、各溝26の互いに対向する側壁のうち、内周側を向く外周側の側壁にそれぞれ所定の同じ角度の傾斜面27を形成し、その傾斜面27に箔状導体30を形成したものである。
図32(C)に示した例は、板状部材21に渦巻き状の溝29を形成し、複数の溝29の底面に対してほぼ直角なそれぞれが互いに対向する側壁のうち、外周側の側壁面31に箔状導体30を形成したものである。
図32(D)に示した例は、平坦面32から外周部に向かうにつれて緩やかに立ち上がる傾斜角度の傾斜面33と、溝34の内側を向く面が平坦面32に対して急峻な角度を有する傾斜面35と、最外周では溝36の内側を向く面が直角になる側壁面37とをそれぞれ内周側を向くように板状部材21に形成したものである。各傾斜面33,35と側壁面37とには箔状導体30を形成する。
図32(E)に示した例は、中心側の傾斜面40の角度が緩やかで外周に向かうにつれて傾斜面41〜44の傾斜角度が急峻になり、最外周は直角になる側壁面45を、内周側を向くように形成したものである。各面41〜45には箔状導体30を形成する。
図33は、図2に示したコイル10aの断面図である図3のコイル面上における磁束の方向と強度を表した図である。図33において、磁束の方向は、平坦面22に対する角度で表され、磁束の強度は、両矢線の長さで表される。また、図33は、無誘導負荷抵抗を接続した図4の平板渦巻き状コイル20aの磁束補足面Smを、図3のA−A断面に対し、垂直に種々の角度で対向させ、負荷抵抗の両端電圧が最大となる磁束補足面Smに垂直な角度を磁束の方向とし、負荷抵抗の両端電圧を磁束の強度として図示したものである。図33より明らかなように、コイル10aの中心部では、平坦面22に対し垂直方向に近い向きの磁束が発生しており、コイル10aの外周部では、平坦面22に対し平行に近い向きの磁束が発生しているのが分かる。
図34は、この発明の他の実施形態における送電装置のコイルを示し、図2の線A−Aに相当する部分の断面に存在する箔状導体の1つを拡大して示す図である。図34(A)は、箔状導体30の一部が平坦部22に接しており、一部が平坦面22に対し角度αを持っている。図34(B)は、箔状導体の一部が平坦部22に接しており、中央部が平坦面22に対し角度α、先端部が平坦面22に対し角度βを持っている。この場合においては、α>βである。これに対して、図34(C)は、α<βの場合を示す。さらに、図34(D)は、βが180度よりも大きな場合を示す。図34(E)は、箔状導体30の全部が平坦部22に接しておらず、平坦面22に対する角度αを持つ部分と、角度βを持つ場合を示す。さらに、箔状導体30は、図34(F)に示すように、円弧のような形状をしていてもよく、円弧の湾曲方向は、図34(G)のように、図34(F)と反対方向でもよい。図34(H)のように、円弧の一部は、図34(A)と同じく、一部が平坦部22に接していてもよく、あるいは円弧を構成する曲線は楕円、双曲線、放物線など、任意の曲線の一部であってもよい。前記したように、箔状導体を平坦面22に対して角度を持たせて巻回する方法は、図34に図示したものに限らず、種々の実施形態が存在する。
図35は、導体を流れる電流により発生する磁束Φを示す図である。図35より、導体を流れる電流により発生する磁束Φは、図35(A)のように、断面が円形の導線51では円形の磁束が発生しているが、図35(B)のように、断面が長方形の導線52になると、幅Hに垂直な方向に長径を持つ長円形か楕円形の形をしているものと思われ、図35(C)のように、幅Hと厚さtの比である、H/t、が大きくなるほど、楕円の長径が長くなると思われる。数ターン巻いたコイルを構成する各箔状導体が発生する磁束Φを合成すると、図33のような磁束の方向、強度になると考えられる。したがって、コイル10aを形成する箔状導体の一部、または全部の幅を変えて平坦面22に巻くことにより、あるいは、箔状導体の一部、または全部を、平坦面22に対し角度をつけて巻くことにより、図33の磁束強度、方向を変化させることが可能となる。例えば、図32(A)のような構成とすることにより、コイルの外周部で、平坦面22の垂直方向に対する磁束強度を増加させることができ、コイル上の全面で、平坦面22に垂直な方向の磁束強度を均一に近づけることができる。図2のような構成のコイルでは、平板渦巻き状に巻かれた受電コイルの平面が、平坦面22と平行になっている場合、コイル面上のどの部分でも、受電コイルが必要とする電力を伝送可能となる。
(コイルの他の構成の説明:実施形態5)
前述の図32(A)〜(E)では、箔状導体の巻回面に対し、箔状導体の一部または全部が角度を持って巻かれている実施形態を示したが、巻回面と角度を持って巻かれている箔状導体の巻回面との垂直位置関係など、実施形態は多岐に渡る。図34のように、箔状導体の巻回面に対し、箔状導体の一部または全部が角度を持って巻かれることにより、図33に図示した磁束方向、磁束強度を変化させ、長距離、無方向、単一方向など、種々の性能を持つ送電装置のコイルを実現できる。
前述したように図33は、図2のA−A線に対する磁束の強度と方向を示したが、図2のA−A線以外では、磁束の強度と方向が変わってくる。そのため、平坦面22と箔状導体30との角度は、図34に示すような種々の実施形態を、図2の巻回面に対して採用することにより、要求される性能を持つ送電コイルを実現できる。この作用効果は、後述する他の実施形態においても同様であり、コイルの形状が円形でない場合には、図34のような実施形態により、要求される性能を持つ送電コイルを実現できる。
図36は、本発明の他の実施形態における送電コイル10eを示す図であり、図37は図36の線B−Bに沿う断面図である。
図36に示した送電コイル10eは、図2に示した送電コイル10aの箔状導体30のうち、点線で示す部分を平坦面22に対してある角度を有するように形成したものである。図2に示した送電コイル10aは、広い範囲に磁束を広けることができ、長距離の電力伝送や、平板渦巻き状に巻かれた受電コイルの平面と送電コイルLpと平坦面22と平行になっていない場合でも電力を伝送可能である。
したがって、図34に示したように、箔状導体を平坦面22と角度を持つように巻くことにより、必要とする性能を実現できる。平坦面22と角度をつける箔状導体は、1ターンではなく、図36に示すように、一部でもよい。その他、図34の断面図に限らず、種々の実施形態が存在する。ただし、図38のように、箔状導体30間に誘電率の高い絶縁体30aが存在するような巻き方は好ましくない。
(コイルの他の構成の説明:実施形態6)
図39は、この発明のさらに他の実施形態における送電装置のコイル10fを示す図である。
図39において、コイル10fを形成する箔状導体の一部55の幅Hが、箔状導体の他の部分56の幅Hより広くなっている。特許文献2では、箔状導体を巻回して形成されたコイルの直流抵抗を低減する作用効果を意図し、1ターンの抵抗値を同一とするために外周部の導箔幅Hを太くしているが、導箔の幅が太いほど、該導箔が生成する磁束が幅Hに垂直な方向に広がる作用効果があるため、外周部を太くすることにより、コイル面上での磁束を均一にし、かつ、電力伝送距離を長くすることができる。
また、図39において、箔状導体の一部55の箔状導体の厚さtよりも、他部分56の箔状導体の厚さtを厚くして、直流抵抗を減らすことができる。
図40は、この発明のさらに他の実施形態における送電装置のコイル10gを示す図である。図40において、箔導体コイル10gは、板状部材60上に、帯状の比較的長さの短い箔状導体61,61…を複数平行に配置し、最も内周側の箔状導体61の一端に導線62の一端を接続し、導線62の他端を隣接する箔状導体61の他端に接続し、平行に配置されている箔状導体61に導線62を順次接続して渦巻き状に巻回したものである。箔状導体61の断面形状などの条件は図2の説明と同じである。
導線62は、導線を複数本まとめ絶縁被覆を施した導線(ビニール線)か、絶縁被覆が施された導線を複数本撚った撚り導線(リッツ線)が用いられており、周波数の上昇によるコイルの実効抵抗の増加を抑えることができる。また、導線62として、前記ビニール線やリッツ線を撚った導線を用いることにより、磁束を打ち消し、コイル面上の磁束密度を均一にできる。さらに、図33で説明した両矢線のように、箔状導体に対して直角方向と上方に磁束が形成されるので、図4に示した平板渦巻き状の受電コイル20aの磁束補足面Smと、図2に示したコイル10aの相対位置が特定の場合に電力伝送が可能とできる。
図41は、この発明のさらに他の実施形態における送電装置のコイル10hを示す図である。この実施形態は、複数の箔状導体63を逆コ字状に形成し、複数の導線64をコ字状に形成し、これらの箔状導体63と導線64とを組合せることで渦巻き状の箔導体コイル10hを構成したものである。
図42は、この発明のさらに他の実施形態における送電装置のコイル10iを示す図である。この実施形態は、図2に示した箔導体コイル10aの外周側を箔状導体65で構成し、箔状導体65の内周部に導線66の一端を接続し、内周部分を導線66で構成し、渦巻き状の箔導体コイル10iを構成したものである。
図40、図41および図42の実施形態においても、図39の実施形態と同様の効果を奏することができる。
(コイルの他の構成の説明:実施形態7)
図43は、この発明のさらに他の実施形態における送電装置のコイル10jを示す図である。この実施形態のコイル10jは、図2に示した箔導体コイル10aの内周側の箔状導体30に対応する箔状導体66を2本に分割し、外周部を分割しない箔状導体67で形成したものである。上述のとおり、箔状導体の幅Hが広いほど、箔状導体を流れる電流により形成される磁束は幅Hに対して垂直方向に広がる。コイルの直流抵抗を低くしたいが、磁束の上方への広がりを抑えたい箇所には、2本以上の箔状導体を平行して配置し、角や1ターンごとに、まとめて半田68等で接続する。これらは、前記した図39のコイルを形成する箔状導体の一部の幅を変える実施形態と同じ作用効果を持つ。
(コイルの他の構成の説明:実施形態8)
前記した図39〜図43の実施形態は、磁束の広がる方向や、コイル面上での磁束の強度や方向を変化させる作用効果があるので、送電コイルを形成する導体の一部としていずれか1つの実施形態を用いてもよく、複数の実施形態を併用することもできる。
(コイルの他の構成の説明:実施形態9)
図44は、この発明のさらに他の実施形態における送電装置のコイル10kを示す図である。この実施形態は、図2に示した箔導体コイル10aの箔状導体30間を部分的に密および疎にしたものである。すなわち、図2に示した箔導体コイル10aと同様にして、絶縁部材2上に箔状導体30c,30dが渦巻き状に形成されるが、図44においては、水平部分の箔状導体30c間の間隔を広くして疎巻き部分71とし、垂直部分の箔状導体30d間の間隔を狭くして蜜巻き部分72として構成される。
すなわち、コイル10kから電力を受ける受電コイルは、長さの異なる短辺と長辺とを有している。受電コイルの面積が、送電コイルの面積の略1/4以下である場合で、受電コイル短辺に対して直角方向に巻回された短辺と交差する箔状導体の本数と、長辺と直角方向に巻回された長編と交差する箔状導体の本数の値が近接するように、送電コイルを構成する箔状導体が巻回される。
このようにして構成された箔導体コイル10kは送電コイルLpとして用いられ、この箔導体コイル10kに対して、図44の疎巻き部分71に1点鎖線で示す受電用コイル73が対向して配置されるか、あるいは蜜巻き部分72に1点鎖線で示す受電用コイル74が対向して配置される。受電用コイル73は、短辺の最小外形がM1、長辺の最小外形がM2の寸法を有する長方形状に形成されている。この実施形態の場合、受電用コイル73に比べて受電用コイル74の方が受電コイルの巻回面断面積、または磁束補足面に入る送電コイルの箔状導体の本数が多くなるので、得られる受電電力が、送電コイル面上のどの位置でもほぼ均一に近くなるという特徴がある。
図45は、図44に示した実施形態における送電用コイルと受電用コイルとの対応関係を示す図である。図44に示した送電用コイル10kは正方形に形成されているが、図45に示すように送電用コイル75を長方形状に形成した場合、その面積をS1とし、長方形の短辺をb1とする。これに対して、受電用コイル76は長方形状であり、送電用コイル75よりも小さな面積S2を有しており、その長方形の短辺をb2としたとき、b1がb2よりも大きく選ばれている。受電用コイル76が、送電用コイル75の箔状導体が最も多い部分に対向するように配置される。
すなわち、より具体的には、図44に示すように、受電用コイル73は送電用コイル10kの疎巻き部分71に対向しており、受電用コイル74は蜜巻き部分72に対向しており、それぞれ箔状導体30bの多い部分に対向するように配置されている。
このような巻回法とすると、送電コイル10kの中心部に箔導体が巻回されていない空白部が生じる。そのため、受電コイル73が送電コイル10kの中心部に配置されているときには受電コイル73の磁束補足面内に配される送電コイル10kの箔導体の本数は少なくなる。しかし、送電コイル1kの中心部は磁束密度が高く、受電コイルは相互誘導作用により十分な起電力を出力できる。受電コイル73が送電コイル10kの中心部から外周部に移動すると、受電コイル73の磁束補足面Sm内に位置する送電コイル10kの箔導体の本数が多くなる。このことにより、受電コイルの起電力を確保できる。
このように、受電用コイル73,74が円形や正多角形以外の形状の場合、送電用コイル10kの箔状導体30bのうち、受電用コイル73,74に対向する複数の部分が生成する磁束は、それぞれ同じである。したがって、受電用コイル73,74に対向する送電用コイル10kにおける箔状導体30bの面積あたりの本数を多くすることで、送電用コイル10k全面で、受電用コイル73,74に必要な電力を送ることができる。
なお、受電コイル73、受電コイル74を含む受電装置は、箔導体コイル10kを含む送電装置に対応する受電装置の実施形態となる。
より具体的には、例えば、筐体に受電用コイル73を装備してコードレスマウスとし、箔導体コイル10kをマウスパッドに装備することにより、電池を必要としないコードレスマウスが実現できる。このコードレスマウスは、箔導体コイル10kのどの位置に置かれても、受電用コイル73の面積内に含まれる箔導体コイル10kを形成する箔導体の本数が多くなるので、コードレスマウスが動作するのに必要とする起電力を箔導体コイル10kのどの位置においても確保できる。
通常、マウスは、縦長の形状となっている。よって、マウスに内蔵される受電コイルの形状も縦長となる。現在、市販されているマウスパッドに内蔵された送電コイルからマウスに内蔵された受電コイルに電力を伝送するコードレスマウスは、送電コイルが導線で構成されており、マウスパッドの端面に巻回されている。したがって、マウスパッドの形状も縦長にならざるを得ない。本方式を採用することにより、マウスパッドの横の寸法を縦の寸法よりも長くできる。
なお、現状市販されている上記方式のマウスパッドは、金属製机上では使用できない。本発明の箔導体コイルは、金属製机上でも使用できる。その詳細については後述する。
送電用コイル10kと受電用コイル73,74が同一寸法または、面積が近い箔状導体同士の場合には、高効率、大電力の伝送は不可能ではないが、困難なことが実験上確認されている。しかし、大面積の送電コイルに、約1/5以下の面積の箔状導体で構成されたコイルが近接し、結合係数が増加すると、送電側が影響を受ける。
(コイルの他の構成の説明:実施形態10)
図46は、この発明の一実施形態における送電装置のコイルに金属枠を近接させた例を示す図である。金属枠80の一部の上面に、送電用コイル75を配置したものである。図46(A)は、コイル10aを金属枠80の面上面に配置した例を示し、図46(B)はコイル10aを金属枠80内でコイル10aと金属枠80とが平行になるように配置した例を示す。図46(A)に示すような構成とすることにより、図3に示した平板渦巻き状の受電コイル20aの磁束補足面Smが、金属枠80の平坦面と平行である場合は、コイル10a上のみならず、少なくとも金属枠80の内側であれば、金属枠80の平坦面の上方20cm程度にまで電力が伝送可能である。
さらに、図46(B)に示すように、受電コイル20aの磁束補足面Smが、金属枠80の平坦面と同一平面上にある場合は、コイル10aから1m以上離れたところまで電力伝送が可能となる。このように、金属枠80は、コイル10aの面積以上に電力伝送距離を延ばす作用を持つ。具体的には、B4サイズのコイル10aを使い、金属枠80の寸法を60cm×2mとする。この場合、金属枠80の平坦面と同一平面上では、金属枠内なら送電コイルから2m離れた受電コイルに電力を伝送できる。
あるいは、金属枠を図46(B)に示すような構成とすることにより、コイル10aの平坦面と直角の面にまで受電コイル20aの磁束補足面に電力を伝送できる。
金属枠80の材質としては、強磁性金属、例えば鉄を使うのが好ましい。また、金属枠80の形状は、平板状、角パイプ状、Lアングル状などのものが使える。例えば、現在の自動改札機に使用されている通過センサーを装備している枠を、上記金属枠80として使用できる。この自動改札機内で、ICカードに内蔵されたコイルに、50mW程度の電力を伝送できる。起電力を確保するため、受電コイルの巻回数を増やす必要は有るが、直径が30μm程度の導線を、50ターン程度巻回すれば、体積的にも問題はない。
このようにして、10W程度の送電電力で、50mW程度の受電電力の電力伝送を、伝送距離を1m以上にまで延ばすことができる。50mW程度の電力は、現状使用されているICカード等を動作させるのに十分な電力である。このように、本実施形態は、従来の技術では実現が不可能であった、極めて優れた効果を奏する。
(箔導体コイルのインダクタンスを確保するコイル構成)
図47は、インダクタンスを確保するコイル10mの構造を示す図である。図47において、遮蔽板としての磁性材板91は、コイル90に対向する一方面側に、少なくとも1枚装備される。このようにコイル90の一方面側に磁性材板91を少なくとも1枚装備することにより、コイ90のインダクタンスが確保できる。このようなコイル10mの構成は、特許文献2のような、箔導体コイルの両面に磁性材板を装備した場合とは異なり、インダクタンスは20%程度しか増加しない。しかし、箔導体コイルの実効直列抵抗は殆ど増加しない。箔幅Hを広くし、間隙wを広くした箔導体コイルに、図47のように磁性材板を装備することにより、インダクタンスを確保することができる。これにより、低い周波数にてコイルのQを確保でき、コイルを使用可能な周波数範囲が広がる。
上述したように、コイル10mにおいて、コイル90には、空芯状態での送電コイル単体の実効直列抵抗をRwa(Ω)、空芯状態での送電コイルに対向する受電コイルを短絡したときの、送電コイルの実効直列抵抗をRsa(Ω)、とすると、100kHzにて、Rsa>Rwa、を満足する送電コイルを使用する。例えば、コイル90には、上述してきた本発明の実施形態であるコイル10aからコイル10kを使用する。
さらに、磁性材板91を装備したコイル10mを送電コイルとしたときに、100kHzにて、コイル10mが、Rsa>Rwa、を満足しているのが好ましい。
コイル10mが、Rsa>Rwa、を満足する最高周波数をf1(Hz)とすると、コイル10mを装備した電力伝送装置100は、f1(Hz)以下の周波数で電力を伝送する。
コイル10mが、電力伝送装置100の送電コイル1である場合、コイル10mは、図1に示した交流電源3bにより、f1(Hz)以下の周波数fa(Hz)で駆動される。
電力伝送装置100の送電部3に含まれる交流電源3bの出力周波数fa(Hz)は、f1(Hz)以下の周波数に設定される。
電力伝送装置100の送電部3が、コイル10mを含む場合、コイル10mを含む送電部3は、本発明の電力伝送装置の送電装置になる。
(インダクタンスを確保するコイルの他の構成について)
図48は、コイル90と磁性材板91との間に、絶縁板92を設けたコイル10nを示す図である。図48において、絶縁板92は、周波数が高くなったときのコイル10nの実効直列抵抗Rwa(Ω)の増加を抑えることができる。また、周波数が高くなったときのコイル10nのQの低下を防止できる。
図49は、コイル90の一方面側に2層の磁性材板911と磁性材板912を設けたコイル10pを示す図である。図49において、コイル10pは磁性材板911と磁性材板912とを設けたことによって、コイル10mの構成に比べ、コイル90のインダクタンスを高め、コイルのQを高くすることができる。
図50は、図49に示すコイル10pを構成する2枚の磁性材板911,912の間に、空気を含む厚みがI(mm)の絶縁板92を設けたコイル10qを示す図である。図50において、絶縁板92は、周波数が高くなったときのコイル10qの実効直列抵抗Rwa(Ω)の増加を抑えることができる。また、周波数が高くなったときのコイル10qのQの低下を防止できる。このような構成は、コイルの厚さが増すが、送電コイルに使うのに適している。特に、送電コイルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換しており、インダクタンスを確保するには、送電コイルにて対応するのが好ましい。絶縁板92の厚さI(mm)は、磁性材板911または912の厚さの半分以上であるのが好ましい。絶縁板92の作用効果については、前述した通りである。
(金属体が近接したときに、コイルの特性変動を防止するコイルの構成について)
図51は、コイル90に金属体が近接したときに、コイル90の特性変動を防止するコイル10rの構造を示す図である。図51において、金属板95は厚みM(mm)を有し、コイル90の一方面側に絶縁板92を、所定距離G(mm)を介してコイル90に対向して装備される。金属板95の寸法は、コイル90の寸法と同等以上で、コイル90の全面に対向するように配置される。コイル90には、例えば、上述してきた本発明の実施形態であるコイル10aからコイル10kが使用される。所定距離G(mm)は、絶縁板92の厚みと同じであり、所定距離Gは10mmあるいはコイル外径Dの10%以上に選ばれている。コイル90の特性変動が少ないので所定距離G(mm)は長いほど好ましい。送電コイルに、図51のように金属板95を装備することにより、コイル90に他の金属体が近接したときに、特性変動を防止可能なコイルが実現できる。
(金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイルの構成について)
図52は、金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10sの構成を示す図である。図52では、図51において、絶縁板92のコイル90に対向する面の反対側に配置される金属板95との間に設けられる所定距離G(mm)の間隔に代わって、磁性材板91が設けられる。コイル90には、例えば、上述してきた本発明の実施形態であるコイル10aからコイル10kが使用される。金属板95は、反磁性または常磁性の磁気的性質を持つ金属または合金であって、厚さが0.1mm以上に選ばれている。金属板95は、磁性材板91と同等の寸法である。
図53は、本発明のその他の実施形態である金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10tの構成を示す図である。図53においては、絶縁板92が、コイル90に対向する面に設けられ、絶縁板92のコイル90の対向する反対側面に磁性材板91と金属板95とが設けられる。絶縁板92の作用効果については、前述した通りである。金属板95は、反磁性または常磁性の磁気的性質を持つ金属または合金であって、厚さが0.1mm以上に選ばれている。
図54は、本発明のその他の実施形態である金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10uの構成を示す図である。図54においては、絶縁板92が、磁性材板91と金属板95との間に設けられる。絶縁板92の作用効果については、前述した通りである。金属板95は、反磁性または常磁性の磁気的性質を持つ金属または合金であって、厚さが0.1mm以上に選ばれている。
図55は、本発明のその他の実施形態である金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10vの構成を示す図である。図55においては、コイル90の一方面側に、磁性材板911、磁性材板912が設けられる。2枚の磁性材板911,912を設けることにより、コイル90のインダクタンスを高め、コイル90のQを高くできる。また、2枚の磁性材板911,912を設けることにより、磁性材板912側に設ける金属板95の種類や厚さによるコイル特性の変動を軽減できる。そのため、金属板95は、前述してきたコイル10rからコイル10うとは異なり、その磁気的性質や厚さは任意のものが選べる。金属板95に、反磁性または常磁性の磁気的性質を持つ金属または合金であって、厚さが0.01mm以上のものを使用すれば、より好ましい。コイル90には、例えば、上述してきた本発明の実施形態であるコイル10aからコイル10kが使用される。
図56は、本発明のその他の実施形態である金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10wの構成を示す図である。図56においては、コイル90の一方側に磁性材板911が設けられる。絶縁板92が、磁性材板911と磁性材板912との間に設けられ、磁性材板912側に金属板95が設けられる。絶縁板92の作用効果については、前述した通りである。金属板95は、磁性材板911,912と同等の寸法である。絶縁板92の厚さI(mm)は、コイル10qと同様に選ばれる。
図57は、本発明のその他の実施形態である金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10xの構成を示す図である。図57においては、絶縁板92が、磁性材板912と金属板95との間に設けられる。絶縁板92の作用効果については、前述した通りである。金属板95は、磁性材板912と同等の寸法である。
図58は、本発明のその他の実施形態である金属体の近接影響を防止し、インダクタンスを増加させるコイル10yの構成を示す図である。図58においては、絶縁板92が、コイル90の一方面側に設けられる。絶縁板92に磁性材板911,912、金属板95に設けられる。絶縁板92の作用効果については、前述した通りである。金属板95は、磁性材板911,912と同等の寸法である。
3枚以上の磁性材板を使用した場合も、絶縁材を装備する場所は、図56に示すように複数の磁性材板911,912の間、コイル90と磁性材板91の間、磁性材板91と金属板95の間など、種々の実施形態がある。絶縁板92の作用効果は、前述した通りである。
上述したように、コイル10mからコイル10yにおいて、コイル90には、空芯状態での送電コイル単体の実効直列抵抗をRwa(Ω)、空芯状態での送電コイルに対向する受電コイルを短絡したときの、送電コイルの実効直列抵抗をRsa(Ω)、とすると、100kHzにて、Rsa>Rwa、を満足する送電コイルを使用する。例えば、コイル90には、上述してきた本発明の実施形態であるコイル10aからコイル10kを使用する。
さらに、磁性材板91または911,912と金属板95のいずれかを装備したコイル10mからコイル10yを送電コイルとしたときに、100kHzにてコイル10mからコイル10yが、Rsa>Rwa、を満足しているのが好ましい。
コイル10mからコイル10yが、Rsa>Rwa、を満足する最高周波数をf1(Hz)とすると、コイル1mからコイル1yを装備した電力伝送装置100は、f1(Hz)以下の周波数で電力を伝送する。
コイル10mからコイル10yが、電力伝送装置100の送電コイル1である場合、コイル10mからコイル10yは、図1に示した交流電源3bにより、f1(Hz)以下の周波数fa(Hz)で駆動される。
電力伝送装置100の送電部3に含まれる交流電源3bの出力周波数fa(Hz)は、f1(Hz)以下の周波数に設定される。
さらに、コイル10mからコイル10yが、電力伝送装置100の受電コイル2である場合、コイル10mからコイル10yが電力を受電する周波数fj(Hz)は、f1(Hz)以下であることを条件とする。
電力伝送装置100の送電部3が、コイル10mからコイル10yを含む場合、コイル10mからコイル10yを含む送電部3は、本発明の実施形態の電力伝送装置の送電装置になる。
上述してきた金属板95か、磁性材板91または911,912の少なくとも一方を装備したコイルである、コイル10mからコイル10yの詳細な作用効果については、以降に詳述する。
(コイル10mからコイル10yの特性について)
図59は、図47に示すコイル10m、図48に示すコイル10nとして、それぞれ図21に示したコイル10Fを使用したときの、各コイルにおける実効直列抵抗Rw(Ω)の周波数との関係を示す図である。
図60は、コイル10m,10nとして、それぞれコイル10Fを使用したときにおける各コイルのQの周波数との関係を示す図である。
図59より明らかなように、コイル90に絶縁板92と磁性材板91を装備したコイル10nと、コイル90に磁性材板91を装備したコイル10mを比較すれば、例えば、1MHzにおける実効直列抵抗Rw(Ω)は、コイル10nの方が低い。このように、絶縁板92をコイル90に装備することにより、高周波数領域でのコイルの実効直列抵抗Rw(Ω)を低くすることができる。この傾向は、コイル90に磁性材板911,絶縁板92,磁性材板912を装備したコイル10qと、コイル90に磁性材板911,912を装備したコイル10pとを比較しても同じである。
また、図59より明らかなように、コイル90に絶縁板92と磁性材板91とを装備したコイル10nは、例えば、1MHzにおけるコイルのQが、磁性材板91のみを装備したコイル10mよりも高い。図59、図60から明らかなように、絶縁板92をコイル90に装備しても、100kHzの周波数では、実効直列抵抗Rw(Ω)やQの差異は殆ど無い。このように、絶縁板92をコイル90に装備することにより、高周波数領域でのコイルのQを高くすることができる。この絶縁板92の作用効果は、前述した磁性材板91または911,912を装備しているコイル10sからコイル10yにおいても同様である。よって、コイル10sからコイル10、10wから10yについては、絶縁板92に関する説明を省略する。
(各種金属板がコイルに対向したときの説明)
図61は、コイル10Fを使用して各種の金属板を近接対向させたときの、コイル10F単体の実効直列抵抗Rw(Ω)と、コイル10F単体のインダクタンスLw(μH)を示す特性図である。
図61に表記してあるが、構成(1)のコイルは、コイル10F単体の実効直列抵抗Rw(Ω)と、インダクタンスLw(μH)を表している。構成(2)のコイルは、後述する磁性材板を装備した場合に使用するので空欄としている。構成(3)のコイルは、コイル10Fに厚さ12μmのアルミ(Al)ホイルを近接させた状態である。構成(4)のコイルは、コイル10Fに厚さ0.1mmのアルミ板を近接させた状態である。構成(5)のコイルは、コイル10Fに厚さ0.5mmのアルミ板を近接させた状態である。構成(6)のコイルは、コイル10Fに厚さ3mmのアルミ板を近接させた状態である。構成(7)のコイルは、コイル10Fに厚さ35μmの銅箔(Cu)を近接させた状態である。構成(8)のコイルは、コイル10Fに厚さ0.1mmの銅板を近接させた状態である。構成(9)のコイルは、コイル10Fに厚さ0.5mmの銅板を近接させた状態である。構成(10)のコイルは、コイル10Fに厚さ0.5mmの鉄板(Fe)を近接させた状態である。図61には、構成(1)のコイル10F単体の特性と比較するため、構成(3)から構成(10)のコイルの、100kHzにおける実効直列抵抗Rw(Ω)と、インダクタンスLw(μH)が棒グラフで示してある。
(金属板近接影響を排除したコイルの構成と特性について)
図62は、コイル10Fに10mmの間隔を設けて各種の金属板を近接させたときの、コイル10Fa単体の実効直列抵抗Rw(Ω)と、コイル10Fa単体のインダクタンスLw(μH)を示す特性図である。その他の構成で、コイル10Faに装備する金属板は、前述したものと同じである。コイル10Faは、図51に示すコイル10rの一実施形態である。
図63は、1枚の磁性材板91を設けたコイル10Fに各種の金属板を近接させたときの、コイル10Fb単体の実効直列抵抗Rw(Ω)と、コイル10Fb単体のインダクタンスLw(μH)を示す特性図である。構成(2)のコイルは、コイル10Fbに磁性材板91を1枚装備し、金属板を近接させていない状態である。その他の構成で、コイル10Fに装備する金属板は、前述したものと同じである。コイル10Fbは、図47に示すコイル10mの一実施形態である。
図64は、コイル10Fに2枚の磁性材板911,912を設けたコイル10Fcに各種の金属板を近接させたときの、コイル10Fc単体の実効直列抵抗Rw(Ω)と、コイル10F単体のインダクタンスLw(μH)を示す特性図である。構成(2)のコイルは、コイル10Fcに2枚の磁性材板911,912を装備し、金属板を近接させていない状態である。その他の構成で、コイル10Fcに装備する金属板は、前述したものと同じである。コイル10Fcは、図55に示すコイル1vの一実施形態である。
図61から図64は、図20に示すコイル10F単体の実効直列抵抗Rw(Ω)の周波数特性を参考にし、実効直列抵抗Rw(Ω)がコイル10Fの直流抵抗とほぼ等しい100kHzを選んで計測してある。
まず、図61に示す特性図を検討する。コイル10F単体の構成では、実効直列抵抗Rwは約1.2Ω、インダクタンスLwは約13μHであることが、図61より分かる。12μmのアルミホイルを近接対向させた構成(3)のコイル10Fでは、実効直列抵抗Rwが3Ω以上となり、インダクタンスLwは約4μHに減少している。常磁性金属である各種の厚さのアルミニウム板をコイル10Fに対向させた、構成(4)から構成(6)の特性図を見ると、アルミニウムの厚さが0.1mm以上では、厚さが増加するに従い、コイルの実効直列抵抗Rw(Ω)は減少し、インダクタンスLw(μH)が増加しているのが分かる。この傾向は、反磁性金属である銅をコイル10Eに対向させた、構成(8)、構成(9)のコイルでも同じである。銅板の厚さが薄いと、コイルの実効直列抵抗Rw(Ω)は減少し、インダクタンスLw(μH)も低下する。銅板の厚さが0.5mm程度になると、コイルの実効直列抵抗Rw(Ω)は構成(5)の0.5mmのアルミ板と大差ない特性になっている。強磁性金属である0.5mmの鉄板をコイル10Fに近接対向させた場合は、構成(3)のアルミホイルを近接対向させたときと同じく、空芯状態に比べ、実効直列抵抗Rw(Ω)が2.5倍以上となり、インダクタンスLwは約5.5μHに減少している。すなわち、強磁性金属を除き、特許文献4に記載のような金属の磁気的な性質により、コイル特性が変動するのではなく、平面空芯渦巻状に巻回されたコイルに近接対向する金属板の厚さによって、コイル特性が変動する。
図61に示す構成(3)から構成(10)の各コイルは、空芯状態と比べ、実効直列抵抗Rw(Ω)が過大となり、インダクタンスLw(μH)は過小となる。したがって、図61に示す構成(3)から構成(10)の各コイルは、実際には電力伝送装置のコイルとしては使用できない。図61は、以降に示す図62から図65と比較するデータである。なお、図61において、構成(3)のアルミホイル、構成(7)の銅箔、構成(10)の鉄板を装備した場合に実効直列抵抗の増加率が大きい。しかし、導線コイルにおいては、図61に比べ、構成(3)、構成(7)、構成(10)における実効直列抵抗の増加率は遥かに大きい。箔導体コイルにおいては、構成(3)、構成(7)、構成(10)における実効直列抵抗の増加率が小さい。これらについては後述する。なお、構成(7)の35μm厚の銅箔の実効直列抵抗Rw(Ω)の増加率が、構成(3)の厚さが12μmのアルミホイルの実効直列抵抗Rw(Ω)の増加率よりも少ないのは、厚さが原因と推察される。
図62は、図51に示すコイル10rとして、コイル10Fに10mmの絶縁物を介して、図61に示した各種の金属板を対向させた前述のコイル10Faの特性である。図61と比較しても明らかなように、図62では、実効直列抵抗Rw(Ω)の増加率、インダクタンスLw(μH)の減少率も少ない。コイル10Faの特性は、10mmの絶縁物を介することにより、大きく改善されているのが分かる。特にインダクタンスLwの値は、空芯状態の約13.7μHに比べ、約10μHにまでしか低下していない。Lw(μH)の値は、各構成ともにほぼ同一となっており、電力伝送装置に使用可能である。しかし、構成(3)の12μm厚のアルミホイルや、構成(7)の35μm厚の銅箔、構成(10)の強磁性体である0.5mmの鉄板がコイル10Fに対向したときには、コイル10Fの実効直列抵抗Rw(Ω)の増加率が大きく、Rw(Ω)による電力損失が発生するので、このような構成は、電力伝送装置に使用するのに適していない。
すなわち、図62を参照すると、コイルと金属間に一定の所定距離G(mm)を設ける手段を装備し、金属板として、35μm以上の、反磁性または常磁性の磁気的性質を持つ金属または合金を使用することにより、空芯コイルに近接する金属体の影響を排除できる。なお、図62に示す構成(1)および構成(2)以外の構成において、金属板のコイル対向面と反対側に、鉄などの強磁性金属を含む各種金属を近接させたが、インダクタンスLw(μH)の変化も、実効直列抵抗Rw(Ω)は構成(3)では若干変化するが、それ以外の構成では、全く観測されていない。また、電力伝送性能に変化も無い。
特許文献4の段落番号0022には、磁界型空中線(コイル)よりも寸法が小さい金属板を使用してもよいと記載されている。しかし、導線を平面渦巻き状に巻回して構成されるコイルの金属体近接影響を排除するには、前述した所定距離G(mm)を設け、強磁性体以外であって、厚さが0.1mm以上であるコイルの寸法と同等の寸法の金属または合金の板材を装備しなければならない。
なお、特許文献4の段落番号0022には金属板を分割する旨の記載がある。本願発明者が、コイル10Faを使用した構成(8)のコイルにて、0.1mmの銅箔を分割して100kHzにて特性を計測したところ、Lw=13.1μH、Rw=1,31.Ωであった。この構成は、銅板を分割しないときの、Lw=12.5μH、Rw=1.33Ωに比べると特性はよい。これは、前述したが、金属体の体積に比例して増加する渦電流損が減少するためと推察される。そのことは、特許文献4の段落番号0022にも記載されている。しかし、前記の0.1mmの銅箔を分割して装備した構成では、銅板のコイルの反対面に0.5mm厚の鉄板を近接させると、Lwが12.3μHに減少し、Rwが1.38Ωに増加した。銅板を分割しないと、銅板を分割した場合に比べ、インダクタンスLw(μH)の値は小さいが、実効直列抵抗Rw(Ω)の値が小さく、銅板のコイルの反対面に0.5mm厚の鉄板を近接させても、Lw(μH)、Rw(Ω)共に全く変化はなかった。したがって、特許文献4の段落番号0022に記載されている金属板を分割するような実施形態、金属板の寸法をコイルの寸法よりも小さくする実施形態では、特許文献4の段落番号0022に記載されているコイルに金属体が近接したときのコイル特性の変動を排除するという作用効果は期待できない。
以上のように、図51に示すコイル10rの実施形態では、コイルと金属板の間に、コイルと金属板の距離を一定とする手段を備えることにより、金属板の裏面に他の金属体が近接しても、コイル10rのインダクタンスLw、実効直列抵抗Rwの変動を排除できる。図51に示すコイル10rは、コイルの裏面に一定間隔で金属板を設置できる送電部に適している。送電部がスチール製机上に置かれたときに、コイル10rのインダクタンスLw、実効直列抵抗Rwの変動を排除し、所定の電力伝送性能を維持できる。所定距離Gは、コイル10Fにおいては、10mmで良好な結果が得られている。しかし、所定距離G(mm)は、コイルの外径Dにより異なってくる。箔導体コイルは導線コイルと異なり、金属板の近接影響を受けにくい。コイル10Fの外径Dは100mmなので、余裕を見て、例えば、G≧D/50=2mm、として所定距離G(mm)を決める。箔導体コイルは、導線コイルに比べ、金属板の近接による特性変動が少ない。箔導体コイルにおいては、箔幅H、箔厚tなどにより、所定距離Gを求めるのが好ましい。
前述した市販のコードレスマウスは、導線コイルを使用している。前述したように、導線コイルは、金属体の影響を受けやすい。箔導体コイルを用い、マウスパッドを。図51〜図57に示すようなコイル10rからコイル10xのような構成とすることにより、金属製机上でも、非金属製机上でも、電力伝送性能に変化が無い電力伝送用のマウスパッドを実現できる。なお、箔導体の巻回法は、図44に示したものを採用する。これにより、マウスパッド上のどの位置にマウスが置かれていても、マウスが動作するのに必要な電力を送電でき、金属製机上でも、非金属製机上でも使用可能なマウスパッドを実現できる。
次に、図52に示すコイル10sの実施形態の特性図である図63について考察する。図63の構成(2)は、コイル10Fに0.3mm厚の磁性材板を取り付けたコイル10Eb単体の実効直列抵抗Rw(Ω)とインダクタンスLw(μH)を示している。コイル10Fb単体では、空芯状態のコイル10F単体に比べ、インダクタンスLw(μH)が増加しており、実効直列抵抗Rw(Ω)は殆ど変化していない。コイル10Fbのコイルの反対面に図61、図62と同等の金属板を装備した構成(3)から構成(10)の各コイルの実効直列抵抗Rw(Ω)とインダクタンスLw(μH)が図示されている。構成(3)から構成(10)において、インダクタンスLwの値はほぼ同一となっている。しかし、図63を見れば明らかなように、図62と同等にして、12μmの厚さのアルミホイルを装備した構成(3)、35μmの厚さの銅箔を装備した構成(7)、0.5mmの厚さの鉄板を装備した構成(10)のコイルは、実効直列抵抗Rw(Ω)が高くなっている。
さらに、本発明のその他の実施形態である図54に示す構成のコイル10uの各構成の特性を、図64を参照して検討してみる。図54に示す構成のコイル10uには、2枚の磁性材板911,912が装備されている。2枚の磁性材板911,912は、絶縁層を設けて重ねるのが好ましい。図64を参照すると、コイル10FFに磁性材板2枚を装備したコイル10Fc単体の特性は、構成(2)で示され、インダクタンスLwは、約20μHと、空芯状態の約13μHに比べ、約1.6倍になっている。図63と比較すると、構成(3)から構成(10)の全てにおいて、インダクタンスLwは18μHを越えている。さらに、構成(3)から構成(10)の全てにおいて、インダクタンスLw(μH)の値は、ほぼ同一である。そして、図63と比較すると、構成(3)の12μm厚のアルミホイルや、構成(7)の35μm厚の銅箔、構成(10)の強磁性体である0.5mmの鉄板がコイル10Fcに対向しても、実効直列抵抗Rw(Ω)の変化が殆ど無いという特徴が見られる。すなわち、磁性材板を2枚重ねて装備することにより、コイルは、磁性材板のコイル対向面の反対側に装備する金属の磁気的性質や厚さの影響を受けなくなる。図54に示す構成のコイル1uのような構成とすることにより、アルミ箔のような薄い金属で、前述した金属体の近接影響を排除できる。
なお、磁性材板としては、厚さが0.01mmから1.5mm、構成としては、磁性材粉をバインダーで固めたもの、アモルファス系、フェライト系等、種々のものを試験した。金属板の違いによる特性は、前述した図57から図59と同一であった。また、コイル1m、コイル1vの構成で、インダクタンスの増加が大きいものは、実効直列抵抗の増加も大きかった。100kHzにおいて、いずれの磁性材板でも、インダクタンスの増加率と実効直列抵抗の増加率は、ほぼ同等であった。後述するように、これらの実測結果は、この構成規定が、一般性を持つことを示している。
前述した受電用コイル73を装備してコードレスマウスとし、箔導体コイル10kをマウスパッドとする実施形態において、箔導体コイル10kを図51から図58のような構成とすることにより、マウスパッドが絶縁性の机上、金属製の机上のいずれに設置されても、電力伝送性能が変化することなく、コードレスマウスに必用な電力を送れる。
(電力伝送用コイルの構成規定が一般性を持つことについての説明)
前述したように、コイルの特定的構成を規定するだけでは、性能のよいコイルを実現できない。しかし、本実施形態におけるコイルの特定的構成は、コイルの線種、巻き方、外径などにかかわらず、同じ作用効果を呈する。すなわち、本実施形態におけるコイルの特定的構成は、コイルの線種、巻き方、外径などにかかわらず、コイル裏面に金属体が近接したときの、コイル特性の変動を抑える効果がある。その例を以下に示す。
図65は、図20に示したコイル10Fを、図51に示すコイル10rと同等の構成において、図62と同じく、実効直列抵抗Rw(Ω)とインダクタンスLw(μH)を計測した特性図である。図65においては、コイル10Fと金属板間の間隔は5mmに設定して計測してある。
図66は、図21に示したコイル10Eを、図51に示すコイル10rと同等の構成において、図65と同じく、実効直列抵抗Rw(Ω)とインダクタンスLw(μH)を計測した特性図である。図66においては、コイル10Eと金属板間の間隔は10mmに設定して計測してある。
図62、図65、図66を比較すると、図51に示す構成のコイル10rにおいて、金属板95として、アルミホイルを用いて構成した例(3)、銅箔を用いて構成して例(7)、鉄板を用いて構成した例(10)のコイルでは、いずれも実効直列抵抗Rw(Ω)が、他の構成のコイルよりも増加しているのが分かる。
この傾向は、コイル10E、コイル10F共に、図52に示すコイル10sの構成、図54に示すコイル10uの構成においても同様である。すなわち、コイルと金属板の間に所定距離G(mm)のみを設けた場合、コイル90と金属板95との間に磁性材板を1枚設けた場合では、金属板95としてアルミホイルを用いて構成した例(3)、銅箔を用いて構成した例(7)、鉄板を用いて構成した例(10)のコイルでは、いずれも実効直列抵抗Rw(Ω)が、他の構成のコイルよりも増加する。コイル90と金属板95の間に磁性板を2枚以上設けた場合は、金属板95の種類や厚さにより、実効直列抵抗Rw(Ω)の増加率が図63のように殆ど無い。
図51に示す構成のコイル10rの作用効果は、特許文献4に記載のように、コイルの対向面と反対側に金属体が近接したときに、コイル特性の変動を防ぐものである。図52に示す構成のコイル10s、図55に示す構成のコイル10vの作用効果も、コイルの対向面と反対側に金属体が近接したときの、コイル特性の変動を防ぐものである。図52に示す構成のコイル10s、図55に示す構成のコイル10vの他の作用効果として、インダクタンスを確保がある。インダクタンスを確保するためには、図55に示すコイル10vの構成が好ましい。前述したように、コイル10vは、金属板の材質や厚さの影響を殆ど受けない。したがって、図49に示すコイル10pであっても、金属体の近接影響を排除可能である。
図62から図64においては、金属板と磁性材板、および絶縁板から構成されるコイル10t、コイル10u、コイル10v、コイル10w、コイル10x、コイル10yのデータは省略してある。これは、図62から図64に示すのと同様に、金属板95の作用効果が同一だからである。このような構成のコイルは、図59、図60に示すように、高周波数領域での実効直列抵抗Rw(Ω)の増加を抑え、Qを高める作用効果がある。実測上も、高周波数領域になると、前述した各コイルの実効直列抵抗Rw(Ω)が、コイル10s、コイル10vに比べ、低下し、各コイルのQが、コイル10s、コイル10vに比べ、上昇するのが確認されている。
なお、図51に示すコイル10rの一例であるコイル10Eaは、Rs>Rw、を満足する最高周波数f1が、10MHz以上、Rs>Rn≧Rw、を満足する最高周波数f2が、2MHz以上であり、磁性材板の影響が無く、金属体近接によるコイル特性の変化防止以外の作用効果は、コイル1Aからコイル10Eと全く同じなので、対向するコイルの間隔に関する説明を省略する。
なお、言うまでもないが、コイル10mからコイル10yのコイル90には、空芯状態での送電コイル単体の実効直列抵抗をRw(Ω)、空芯状態での送電コイルに対向する受電コイルを短絡したときの、送電コイルの実効直列抵抗をRs(Ω)、とすると、100kHzにて、Rs>Rw、を満足する送電コイルを使用する。例えば、コイル90には、上述してきた本発明の実施形態であるコイル10Aからコイル10Dを使用する。
さらに、磁性材板91または511,912を装備したコイル10sからコイル10yを送電コイルとしたときに、100kHzにてコイル10sからコイル10yが、Rs>Rw、を満足しているのが好ましい。
コイル10mからコイル10yが、Rs≧Rw、を満足する最高周波数をf1(Hz)とすると、コイル10mからコイル10yを装備した電力伝送装置100は、f1(Hz)以下の周波数で電力を伝送する。
コイル10mからコイル10yが、電力伝送装置100の送電コイル1である場合、コイル10mからコイル10yは、図1に示した交流電源3bにより、f1(Hz)以下の周波数であるfd(Hz)で駆動される。
電力伝送装置100の送電部3に含まれる交流電源3bの出力周波数fa(Hz)は、f1(Hz)以下の周波数に設定される。
さらに、前述してきた実施形態のコイル10s、コイル10vを送電コイルとし、同一のコイルを受電コイルとして、送電コイル単体のインダクタンスをLwa(H)、両コイルを誘導結合させたときに、受電コイルが短絡されているときの、送電コイルのインダクタンスをLsa(H)、とすると、コイル10s、コイル10vが、100kHzにて、Lwa>Lsa、を満足しており、かつ、f1(Hz)以下の周波数領域であって、電力伝送に使用される周波数にて、Lwa>Lsa、を満足しているのが好ましい。
前述してきたコイル10mからコイル10yを送電コイルとし、対向している受電コイルを開放したときの各コイルの実効直列抵抗をRna(Ω)、Rsa>Rna≧Rwa、を満足する最高周波数f2a(Hz)とすると、送電コイルは、f2a(Hz)以下の周波数領域で使用されるのが好ましい。
そして、前述してきたコイル10s、コイル10vを送電コイルとし、対向している受電コイルを開放したときの一方コイルのインダクタンスをLn、とすると、少なくとも、Ln>Lw>Ls、の関係を100kHzにて満足し、f1(Hz)以下の周波数領域であって、電力伝送に使用される周波数fa(Hz)にて、コイル10s、コイル10vが、Ln>Lw>Ls、の関係を満足しているのが好ましい。
より好ましくは、コイル10mからコイル10yが、Rs>Rn≧Rw、を満足する最高周波数f2(Hz)とすると、コイル10mからコイル10yは、f2(Hz)以下の周波数領域で使用され、f2(Hz)以下の周波数領域において、Ln>Lw>Ls、の関係を満足している。
なお、前述した熱条件の規定は、前述した方法と同様の手法にて熱抵抗θiを求めることにより満足できる。
電力伝送装置100の送電部3が、コイル10mからコイル10yを含む場合、コイル10mからコイル10yを含む送電部3は、本発明の電力伝送装置の送電装置になる。
(金属板をコイル中心の線に接続する場合の説明)
図67は、図51に示すコイル10rから図58に示すコイル10yにおいて、コイル内周部から取り出す線を、コイルに装備された金属板を使用する図である。
コイル10mからコイル10yの構成のコイル90では、コイル90の中心から外へ取り出す導線は、導線の太さ分厚くなる。図67においては、図51に示すコイル10rの絶縁板92の中心に、導線貫通穴を設け、コイル内周部の導線901を金属板95に接続してある。コイル90の外周部の端部902を一方の端子とし、金属板95の端部951を他方の端子とする。導線901と金属板95との接続方法は、半田付け、溶接など種々の手法が使用できる。この構成は、絶縁板のみならず、磁性材板にも適用可能である。
(コイルに結合線を設ける実施例)
図68は、図47から図58に示す各構成のコイルの箔導体の間に、細い箔状導体を巻回し、その巻回線を結合線30dとして取り出した場合のコイルの図である。なお、この例では、図29に示した円形渦巻き状に箔状導体30aを巻回した例について示しているが、図2に示した正方形状に箔状導体30を巻回したものであってもよい。
図68に示す、結合線30dは、コイルの作動状態を検知するのに用いることができる。あるいは、信号伝送用に使用することができる。また、反転アンプを使用して正帰還をかけることにより、自励発振を行うことができる。特に本発明における電力伝送装置の送電部は、単純な直列共振回路となっており、自励発振回路とすることにより、自動的に送電コイルが駆動される周波数は最適値に調整される。
結合線30dは、送電コイル1とほぼ密結合状態にある。また巻線比は1:1である。よって、結合線30dには、送電コイル1と同一の振幅、位相の交流電圧が現れる。この結合線30dは後述する本発明のその他の実施形態における送電部と受電部間の信号伝送機能、送電コイルに金属体が近接したときの検知、負荷が接続された受電コイルが近接したときの判別に利用できる。
前述した図68の実施形態を適用する場合には、内周部の箔導体をまとめて金属板95に接続し、外周部から取り出す箔導体を電力伝送用と結合線30aに分割する。あるいは、結合線30aを、共通線と接続せずに取り出し、4端子構成のコイルとしてもよい。この場合、送電コイルと結合線が絶縁されているので、信号検知、自励発振などに用いる場合、回路構成の自由度が増す。
(電力伝送用コイルの実施例)
図47に示すコイル10mから図58に示すコイル10yは、前述した電力伝送装置に使用される電力伝送用コイルの実施例でもある。
(電力伝送用コイルの駆動条件)
なお、空芯コイルであっても、磁性材板を装備していても、上述したf1(Hz)、f2(Hz)が高くなるようにして、f1(Hz)またはf2(Hz)以下で送電コイルを駆動するコイルの駆動条件を規定しないと、性能のよい電力伝送装置は実現できない。
(実施形態15)
好ましくは、絶縁材料裏面に、箔導体を渦巻状に巻回した受電コイルを備え、送電コイルおよび受電コイルの巻回面の箔導体総面積をSc、送電コイルおよび受電コイルの巻回面の間隙の総面積をSi、とすると、Si>Sc、を満足し、受電コイルを開放したときの、送電コイルの実効直列抵抗をRn(Ω)、受電コイルを短絡したときの、送電コイルの実効直列抵抗をRs(Ω)、Rs≧Rn、を満足する最高周波数をf3(Hz)、としたときに、f3以下の周波数領域で使用される。
この構成は、送電コイルと受電コイルが分離不能な変成器としても使用できる。この構成においては、前述してきた磁性体を用いる構成が適用できる。なお、変成器として用いる場合には、箔導体コイルの両面に磁性材板を設ける。前述したように、箔導体コイルと磁性材板の間に絶縁板を設けることにより、実効直列抵抗の増加を低減できるように構成するのが好ましい。
(本発明に用いる金属に関する説明)
この発明の実施形態において、導線を形成する導体の材質は特に限定されないが、本実施形態にて述べている各コイルは、全て導体に銅を用いている。導体として比抵抗が小さい銅を使うのが好ましいが、比抵抗が小さい他の金属、あるいは合金を導体として使うこともできる。
また、金属の磁気的性質には、反磁性、常磁性、強磁性以外にも、反強磁性などがある。しかし、本願において着目しているのは、コイルの実効直列抵抗Rw(Ω)を増加させる磁気的性質である。コイルに装備する金属板は、単に永久磁石に吸着する金属または合金以外のものであればよい。
本願発明者は、チタン、真鍮、ステンレスなどの各種金属を使用して実測を行った。0.1mmの厚さのチタン板は、0.1mm厚のアルミ板と同じ特性変動を示した。0.5mmの厚さの真鍮板は、0.5mm厚の銅板と同じ特性変動を示した。0.5mmの厚さの永久磁石に吸着するステンレス板は、0.5mm厚の鉄板よりも特性劣化を起した。このように、永久磁石に吸着するか、吸着しないかで金属板を選べばよい。
(コイルの特性計測に用いた計測器)
なお、上記に説明した各コイルの実効直列抵抗やインダクタンスの測定には、1MHzまでは、アジレント社のLCRメータ、4284A、1〜10MHzの測定には、ヒューレットパッカード社のLCRメータ、4275Aを使用した。なお、1〜10MHzの計測は、1、2、4、10MHzの各点でしか計測できないので、例えば、4MHzにて、Rs≧Rwを満足し、10MHzにて、Rs>Rw、を満足しない場合は、補間により、Rs≧Rw、を満足する最高周波数f1(Hz)を推定している。
図69は、本発明における電力伝送装置の実施形態の一例である回路構成を表す図である。電力伝送装置100dは、電力を送電するための送電部3dと、この送電部3dから送電される電力を受電する受電部4dとを含む。
図69に示した電力伝送装置100dは、送電コイルLpと、キャパシタCpと、交流電源Vと、受電コイルLrと、キャパシタCmと、負荷をRLとを含み、交流電源Vと送電コイルLpとの間に直列にキャパシタCpが接続されている。受電用コイルLrは任意の形状で送電コイルLpから電力を受電して負荷RLに供給する。キャパシタCpは、送電コイルLpのリアクタンスを打ち消すために送電コイルLpに直列接続されている。交流電源Vの出力周波数fa(Hz)は、送電コイルLpとキャパシタCpで決まるリアクタンスがゼロとなる点、あるいはインピーダンスが極小となる点に近接して設定される。
図69に示した受電部4dは、キャパシタCmは受電コイルLrに並列接続されている。受電コイルLrと、キャパシタCmで決まるサセプタンスがゼロとなる周波数、あるいはインピーダンスが極大となる周波数を交流電源Vの出力周波数と同一に設定する。これにより、並列共振作用によって、受電コイルLrの両端にはキャパシタCrを装備しないときよりも大きな電圧が発生するので、負荷が必要とする電圧を受電側で得ることができる。
図69に示した受電部4dは、負荷RLが動作するのに電流よりも電圧が必要となる場合に使うことが可能である。特に、青色LEDなど、順方向電圧が高く、動作電流が低い負荷を装備した受電側装置に長距離の電力を伝送するのに適用可能である。
図70は、本発明における電力伝送装置における他の実施形態の一例である回路構成を表す図である。電力伝送装置100eは、電力を送電するための送電部3eと、送電部3eから送電される電力を受電する受電部4eとを含む。
この図70に示した電力伝送装置100eは、負荷RLが動作するのに電圧よりも電流が必要となる場合に使われる回路構成である。受電コイルLrに直列にキャパシタCnを接続し、受電コイルLrとキャパシタCnで決まるリアクタンスがゼロとなる周波数、あるいはインピーダンスが極小となる周波数を交流電源Vの出力周波数と同一に設定する。共振作用によって、受電コイルLrと、キャパシタCnの直列回路の両端のインピーダンスが低下し、キャパシタCnを装備しないときよりも大きな電流を負荷RLに流せる。したがって、負荷RLが必要とする電流を受電側で得ることができる。この図70に示した受電部4eは、モーターなど起動時の動作電圧が低くとも、起動電流が必要な負荷を装備した受電側装置に長距離の電力を伝送するのに適用可能である。
図69、図70に示した実施形態において、受電側に装備するキャパシタCm,Cnは、この発明で規定する送電側用のキャパシタCpに用いられるものを使用する必要はなく、負荷RLが開放状態、短絡状態にならない限りにおいて、一般に用いられるキャパシタでよい。これは、図69の実施形態において、負荷RLが開放状態となると、キャパシタCmの両端に高電圧が発生し、キャパシタCmの動作可能電圧を越えることがあり、図70において負荷RLが短絡状態となると、キャパシタCnの両端に高電圧が発生し、キャパシタCnの動作可能電圧を越えることがあるからである。
図71は、図69または図70の受電側の回路構成を示す図である。なお、交流電源Vにより、キャパシタCpが直列接続された送電コイルLpがドライブされるため、図69の受電側回路は、図71に示すように、ON時間が数nS程度のダイオードD21〜D24を4個ブリッジとする整流回路を装備するのが好ましい。図69、図70に示す実施形態のように、送電コイルLpと受電コイルLrが近接しており、かつ、図5に示した筒状コイル20bの磁束補足面Snと、平坦面22が平行で、結合係数が高い場合にも、受電側回路は、ON時間が数nSオーダーのダイオードD21〜D24を4個ブリッジとする整流回路を装備し、平滑用のキャパシタCdを設けるのが好ましい。Dzは過大電圧によるキャパシタCd、ダイオードD21〜D24、負荷RLなどの破損を防止するための、電圧制限用ツェナーダイオードである。
なお、前述した図2に示した実施形態の一例であるコイル10aは、高電圧が必用な負荷用の受電コイルに使用でき、図29に示したコイル10bは、電流が必用な負荷用の受電コイルに使用できる。ただし、負荷の条件により、適切な構成の受電コイルを選ぶことが必要である。
(電力伝送装置の実施形態)
図69を参照し、上記に述べてきた、交流電源、箔状導体を用いた送電コイル、キャパシタを装備した送電部3d、3eから、受電部4d,4eに数十cm以上の伝送距離で、電力を伝送できる電力伝送装置が実現できる。
図72は、図1に示す送電制御回路3aに含まれる交流電源3bの一例を示す図である。図72において、交流電源3bは、制御回路3cと、スイッチング素子Q1、Q2とを含む。制御回路3cには、直流電源12から直流電圧Vd(V)が供給されており、制御回路3cは、スイッチング素子Q1、Q2の各ゲートに制御信号を交互に与える。スイッチング素子Q1のドレインには直流電圧Vd(V)が供給されており、スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインは、キャパシタC1の一方の電極に共通接続されている。スイッチング素子Q2のソースはGND(接地)に接続されている。
制御回路3cは、スイッチング素子Q1、Q2を交互に導通させて、キャパシタC1を介して送電コイル1に非正弦波である方形波を供給する。この方形波は、Vd(V)とGNDとの間でレベルが変化する、デューティ50%、振幅Vd(V)の波形である。キャパシタC1と送電コイル1は、図1に図示していない受電部を含め、図125の等価回路のようなLC直列共振回路を構成しているので、方形波信号に基づいて共振する。そして、振幅がVL(V)の正弦波交流が送電コイル1から図1に示した受電コイル2に伝送されて負荷RLに供給される。後述するが、振幅VL(V)は振幅Vd(V)よりも数倍から数十倍に昇圧される。
(LC直列共振回路の説明)
図73は、LC直列共振回路の特性を計測する回路図である。図73において、交流電源3bの交流電力出力端とGNDとの間には、基準コイルLsと、計測用キャパシタCxと、抵抗R2とが接続される。計測用キャパシタCxの両端には、オシロスコープ85が接続され、キャパシタCxの両端電圧が計測される。R2は0.1Ω程度の抵抗で、R2の両端電圧を計測することにより、LC直列共振回路に流れる交流電流を計測する、交流電源3bは、評価しようとするキャパシタCxのリアクタンスXcと、基準コイルLs単体のリアクタンスXiが等しくなるように、出力周波数が設定される。
図74は、図73のLC直列共振回路の特性を計測する回路を構成する各素子の純抵抗成分(実効直列抵抗)を含む等価回路図である。図74において、Rc(Ω)はキャパシタCの実効直列抵抗、Riは送電コイル1の実効直列抵抗、Rm(Ω)は、コイル1の実効直列抵抗Riと、キャパシタCの実効直列抵抗Rcとの加算値(Ri+Rc)(Ω)であり、出力インピーダンスZs(Ω)は交流電源3bの出力インピーダンスを示す。
(キャパシタの説明)
まず、本願発明者は、図1の回路にて、キャパシタ以外の構成要素である交流電源3bと、送電コイル1、受電コイル2、負荷RLに全て同一のものを使い、周波数を同一として電力伝送試験を行ってみた。その結果、静電容量が同一のキャパシタを用いても、キャパシタの誘電体や構成が異なることによって、電力伝送性能が異なるのを見出した。また、同一の誘電体により構成されたキャパシタであっても、キャパシタの構成によって、電力伝送性能が異なるのを見出した。さらに、送電コイル1を変え、キャパシタの誘電体と構成が全く同一であっても、静電容量によって電力伝送性能が異なるのを見出した。
そこで、本願発明者は、0.01μFの17種のキャパシタC1a〜C1sを用意し、まずLCRメータにて、キャパシタの特性を計測した。C1a,C1bはポリスチレン(PS)、C1c,C1gはポリプロピレン(PP)、C1dはポリカーボネート(PC)、C1e,C1fはポリフェニレンスルフィド(PPS)、C1j,C1qはポリエチレン(PE),C1h,C1m,C1r,C1sはセラミック(CE)、C1i,C1k、C1n,C1pはポリエチレンテレフタレート(PET)、をそれぞれ誘電体としている。
これらのキャパシタの特性を、100kHzにおいて実効直列抵抗Rcの低い順に並べ替えたものが表2になる。なお、表2に示す各キャパシタは、各5個程度を実測し、平均値を求め、平均値に近いキャパシタの特性値を記載したものである。ただし、特性が計測不能なキャパシタ、計測値に再現性が無いキャパシタ、電力伝送性能が著しく悪いキャパシタなど、基礎データとならないキャパシタは、表2から除外してある。また、前述した発熱のために使用できないポリスチレンキャパシタ、電力伝送性能の著しく悪いポリプロピレンキャパシタなども表2から除外してある。
表2で、Cはキャパシタの静電容量を表し、単位はμFである。Rcは各周波数におけるキャパシタの実効直列抵抗を表し、Xcは各周波数におけるキャパシタのリアクタンスを表し、単位はΩである。Qは各周波数におけるキャパシタのQを表し、無単位である。tanδは各周波数におけるキャパシタの誘電正接を表し、無単位である。
なお、表2には記載していないが、ポリエチレンナフタレート(PEN)を誘電体とするキャパシタについても、電力伝送性能を計測してある。ポリエチレンナフタレートキャパシタの電力伝送性能については、後述する。
これらのキャパシタの周波数特性については、使用可能な周波数領域を、実例を挙げて後述する。表2を基礎データとし、キャパシタの特性につき考察する。最初に、JISに規定されている本発明の実施形態に関連するキャパシタの特性を表3に記載しておく。
(キャパシタの特性計測の原理)
まず、キャパシタの特性を計測する原理について説明しておく。図75は、キャパシタの静電容量を計測する計測回路の原理回路図の一例で、LCRメータにおける静電容量の計測方法の一例を示す原理図である。
図75の回路構成のLCRメータは、交流定電流源86と交流電圧計87とを含む。図75においてRzはプローブなどをキャパシタCの端子に電気的に接触させたときの接触抵抗である。交流定電流源86から交流定電流I(A)をキャパシタCに流し、キャパシタCの両端電圧V(V)を交流電圧計87で計測することにより、キャパシタCの静電容量を計測する。キャパシタCの両端電圧V(V)を正確に計測できるよう、いわゆる4端子計測法という手法が使われている。これは、微小電流や微小電圧を計測するときに、図75に示す接触抵抗Rz(Ω)などの影響を排除するためである。
なお、図示していないが、図75に示すLCRメータは、交流定電流源86の位相と交流電圧計87にて計測した電圧位相との位相差θを検知する手段を備えている。よって、図75に示すLCRメータは、複素インピーダンスを計測できる。
キャパシタのリアクタンスXc(Ω)は、インピーダンスZ(Ω)であるので、
Xc(Ω)=Z(Ω)=V(V)/I(A)、として求められる。キャパシタCの静電容量C(F)を計測する角周波数をωとすると、C(F)=Xc(Ω)/ω、として静電容量C(F)が求められる。実際には、Zは複素インピーダンスであり、電流I(A)の位相は電圧V(V)の位相よりもθ(0度≦θ≦90度)進んでいる。したがって、キャパシタのリアクタンスXc(Ω)は、Xc(Ω)=Z・sinθ(Ω)、として求められる。また、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)は、Rc(Ω)=Z・cosθ(Ω)、として求められる。よって、C(F)=Xc(Ω)/ω=Z(Ω)・sinθ/ωとなる。上式より明らかなように、キャパシタのQは、Q=Xc(Ω)/Rc(Ω)、であるので、Q=(Z・sinθ/Z・cosθ)=tanθ、となる。Qは、電圧Vと電流Iの数値には関係なく、電流Iと電圧Vの位相差、θだけの関数となっている。位相差θは、θ=tan−1(Q)、として求められる。
(静電容量の時間変化の説明)
図76は、図75に示したLCRメータにて、電力伝送性能が悪いポリエチレンテレフタレートキャパシタC1n、セラミックキャパシタC1rの静電容量を計測したときの、計測開始時間から5分間の静電容量の変動を示すグラフである。
本願発明者が図75に示したLCRメータにて、電力伝送性能が悪いキャパシタの静電容量を計測したところ、静電容量の表示が安定せず、一定表示となるまでに数分の時間を要した。図72,図73のLC直列回路においても、キャパシタには交流電流Ic(A)が流れている。したがって、Icが流れた瞬間からキャパシタの静電容量が安定するまでに相当の時間がかかる。これは、図72,図73の回路において、リアクタンスがゼロとなる周波数が時間と共に変動することを示している。すなわち、図72,図73の回路に表2に示したポリエチレンテレフタレートキャパシタC1n、セラミックキャパシタC1rを使うと、電流Ic(A)が変動したときに安定して動作させることができない。これは、実際に図72,図73の回路で確認するまでもなく、数桁の分解能がある一般のLCRメータで静電容量を計測し、静電容量値が安定するまでの時間を見れば簡単に分かることである。
実測結果から見ると、5秒程度以下で安定しないキャパシタは電力伝送性能が悪い。すなわち、計測開始から5秒後以降の計測数値が±0.1%以上変動しない必要がある。あるいは、5分間の計測時間で静電容量の変動率が、1%以下、計測開始から1分間の計測時間で静電容量の変動率が0.2%以下である必要がある。
図75の回路構成のLCRメータにおいては、前述したように、いわゆる4端子計測法という手法が使われている。このような微小電流や微小電圧を用いて静電容量を計測しても、静電容量を安定して計測できない。したがって、図73のように、計測した静電容量が安定していないキャパシタは、図69,図70の回路においても静電容量が安定せず、電力伝送性能が悪く、かつ電力伝送性能が変動する。
強誘電体、例えば一部のセラミックキャパシタの温度特性は非常に悪く、70℃程度になると、静電容量が半分程度になる場合もあることが一般に知られている。このような、静電容量が温度により大きく変動する特性を持つキャパシタも、当然のことながら、本発明には使用できない。ただし、セラミックを誘電体とするキャパシタであっても、静電容量の温度特性がよいものもある。目安として、25℃のときの静電容量を基準とし、0℃から85℃の間で、静電容量の温度変化が、±5%以下であるのが、最低限満足しないとならない条件となる。
(昇圧比の説明)
次に、図74に示した直列共振回路を構成する基本回路の動作を説明する。図74において、ωL(Ω)=(1/ωC)(Ω)、となる周波数ωで、回路に流れる電流I(A)は最大値Ir(A)となる。これは、図125で、キャパシタC1と残留インダクタンスLeが共に短絡された状態である。
以降、共振周波数、または共振点と表記する場合、ωL(Ω)=(1/ωC)(Ω)、となる周波数を指すものとする。すなわち、直列共振回路において、コイルのリアクタンスXi(Ω)とキャパシタのリアクタンスXc(Ω)が、Xi(Ω)=Xc(Ω)、となる周波数frである。本願発明者は、交流電源3bと、送電コイル1に同一のものを使い、キャパシタを種々用意して、最大値Ir(A)を計測した。図74において、送電コイル1は、平面空芯状に構成されたものが使用されている。200kHzにおける交流電源3bの出力インピーダンスZsは、0.2Ωである。交流電源3bの開放出力電圧Vo(V)は実効値、1V(2Vp−p)に固定してある。交流電源3bの出力インピーダンスZs(Ω)は、交流電源3bの開放出力電圧のピーク値をVo(V)、交流電源3bの出力に2Ωの無誘導抵抗を接続したときの交流電源3bの出力電圧のピーク値をVt(V)とし、Zs(Ω)=2(Ω)×(Vo−Vt)(V)/Vo(V)、として求めてある。
同じく、200kHzにおける送電コイル1単体の実効直列抵抗Riは1.35Ω、インダクタンスは約60μH、リアクタンスXiは80Ωである。したがって、キャパシタの実効直列抵抗をRc(Ω)とすると、回路に流れる電流I(A)の最大値Ir(A)は、
Ir(A)=Vo(V)/(Zs(Ω)+Rw(Ω)+Rc(Ω))、となる。そして、送電コイル1の両端電圧Vi(V)は、Vi(V)=Xi(Ω)×Ir(A)、となる。すなわち、交流電源3bの出力インピーダンスZs(Ω)が十分に低く、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)が、Rc(Ω)<<Ri(Ω)、を満足しているならば、送電コイル1単体のQをQiとすると、送電コイル1の両端には、
Vi(V)=Vo(V)×Qi、の電圧が発生する。このQiを昇圧比Hと呼ぶ。実際には、キャパシタのQ、Qcを勘案し、直列共振回路のQ、Qrは、
1/Qr=1/Qc+1/Qi、なる関係にある。Qc>>Qi、が成立しない場合、昇圧比Hは、H=Qr、となる。上述したが、ωL1(Ω)=1/ωC1(Ω)、となる周波数では、コイルのリアクタンスXi(Ω)とキャパシタCのリアクタンスXc(Ω)が等しくなる。よって、キャパシタの両端電圧Vc(V)は、Vi(V)と等しくなる。本願発明者は、表2に示す、公称値0.01μFの各種キャパシタを使い、キャパシタの両端電圧Vc(V)、および前述した昇圧比H、H=Vc(V)/Vo(V)、をオシロスコープ85にて計測してみた。
図77は、表2に示した200kHzにおける各キャパシタの実効直列抵抗RcをX軸とし、昇圧比Hと駆動回路電流Id(mA)をY軸としたグラフである。図77に示す特性上の黒点は各キャパシタにおける昇圧比の実測値H,駆動回路電流IDを示している。図77において、Htは、Qrより計算した昇圧比の理論値である。なお、黒点は各キャパシタの計測値であり、中間点は、グラフにより補間している。
図78は、図77の回路に直列に抵抗R3を付加した回路図である。図78に示すR3の作用については後述する。交流電源3bの出力インピーダンスZs(Ω)は、0.2Ωと極めて低い。しかし、本実施形態においては、コイルの実効直列抵抗Ri(Ω)、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)、が2Ω以下であり、Zsを無視できない。そこで、Zsを考慮しなくて済むよう、LC直列回路に接続される交流電源の出力電圧をVt(V)とする。Vt(V)は前記Vo(V)よりも小さくなるが、Vt(V)を計測すれば、LC直列回路に流れる電流を、Zs(Ω)に関係なく計算することができる。以下、Vt(V)とVo(V)を、実施形態によって使い分けることにする。
図77より、キャパシタにより昇圧比Hが異なることが分かる。直列共振点では、リアクタンス成分がゼロとなり、純抵抗成分である実効直列抵抗Rm(Ω)のみとなる。それによって、コイルの両端に発生する電圧Vi(V)は、
Vi(V)=Ir(A)×Xi(Ω)、となる。
キャパシタの両端に発生する電圧Vc(V)は、
Vc(V)=Ir(A)×Xc(Ω)、となる。
直列共振点では、Xi(Ω)=Xc(Ω)であるので、Vi(V)=Vc(V)、である。Vi(V)とVc(V)は、共に位相が180度ずれており、かつ、振幅が等しいので、図78のA点とB点間の電圧は、理論上ゼロとなる。すなわち、A点とB点間は短絡と同じ状態になる。実際には、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)とコイルの実効直列抵抗Ri(Ω)が存在するので、A点とB点間には正弦波の残留電圧が発生する。
電流Ir(A)=Vo(V)/(Zs(Ω)+Ri(Ω)+Rc(Ω))、に、
Zs=0.2Ω、Ri=1.35Ω、を代入すると、
Zs+Ri+Rc=Rc+1.55Ω、となり、Rc≒0Ω、なら、共振周波数における回路電流Ir(A)は、理論上、Ir=1V/1.55Ω=666mA、となる。
図73の回路において、R2を0.1Ωの交流電流計測用抵抗とし、表2の実効直列抵抗Rc(Ω)が0.01ΩのポリスチレンキャパシタC1aを使い、図73に示すように、オシロスコープ85で、R2の両端電圧の極大値を計測すると83mVであった。よって、図73の回路には、尖頭値、83mV/0.1Ω=830mA、の電流が流れていることになる。すなわち、830/√2=586mAの実効電流が流れていることになり、ほぼ理論通りの結果が得られた。理論値666mAと、実測値586mAの差異は、交流電流計測用抵抗R2が回路に直列に付加されたからと推察される。
図74の回路中の実効直列抵抗Rm(Ω)は、Rm=Ri+Rc=1.55Ωである。共振点にて、実効直列抵抗Rmが消費する電力Prは、
Pr=0.586(A)2×1.55(Ω)=0.52W、になる。直流電源12の出力電圧は2V、出力電流は0.26Aで、出力電力は、2V×0.26A=0.52W、となり、ほぼ理論と合致する結果が得られている。
しかしながら、表2の一部のキャパシタは、60p
Ir(A)=Vo(V)/(Zs(Ω)+Ri(Ω)+Rc(Ω))、の関係、および、
Ir(A)=Vt(V)/(Ri(Ω)+Rc(Ω))=Vt(V)/(Rm(Ω))、の関係、を満足していない。また、昇圧比Hについても、直列共振回路のQをQrとしたときに、1/Qr=1/Qc+1/Qi、の関係から求められる昇圧比Hの理論値を満足していない。すなわち、H≠Qr、となっている。
実例を示すと、例えば表3のセラミックキャパシタC1rは、200kHzにおける実効直列抵抗Rcが1.57Ωとなっている。したがって、Zs+Rw+Rcは、
Zs+Rw+Rc=0.2+1.35+1.57=3.12Ω、となる。
図74において、理論上の共振点における回路電流Itは、実効値で、
It=1V/3.12Ω=320mAとなる。
よって、図74の理論上の消費電力Pt、Pt=I2R(W)、は、
Pt=I2R=0.32A×0.32A×3.12Ω=0.32W、となる。
一方、図69の駆動回路の実測電流は、63mAであり、図74の回路に投入される電力は、
2V×0.063A=0.126W、となる。すなわち、理論上は、0.32Wを消費するべき図70の回路が、実測上は、0.126Wしか消費していない。
また、この電力から図72の回路電流Iを逆算すると、
I=√(P/R)=√(0.126W/3.12Ω)=200mAとなる。
理論値Itは320mAであるが、実測値Iは、200mAとなっている。
理論値から計算したキャパシタの両端電圧Vcは、実効値で、
Vc=75.4Ω×0.32A=23.17V、となる。
理論上の昇圧比Htは、Ht=23.17/1=23.17となるが、実測した昇圧比Hは10.8程度しかない。昇圧比Ht、Hを、キャパシタ電圧を示すものとする。
以上の結果をまとめると、理論値と実測値の比は、
電流では、200mA/320mA=0.625
電圧では、10.8/23.17=0.466
電力では、126mW/320mW=0.394
となる。いずれも理論値よりも小さい値となっている。しかし、後述するが、理論値よりも大きくなる場合もある。これは、キャパシタの静電容量が、0.01μFではなく、表2より、最大で、±10%程度の偏差があり、共振周波数が200kHzよりずれているからと推察される。図70の直列共振回路を利用し、このようにしてキャパシタの性能を判断することができる。
図77には、理論上の昇圧比Ht=Qrがプロットされている。なお、図77で、セラミックキャパシタC1hは、実効直列抵抗Rcから計算した理論値とずれている。これは、セラミックキャパシタC1rを参照し前述した理論値と合致しないキャパシタで、以下の規定を満足していない。これについては後述する。
以上の実験結果より、理論上の昇圧比Htと、実測した昇圧比Hの比、H/Htが、
H/Ht>0.9、の条件を満足すれば、後述する所定の電力伝送性能を確保できる。
図77を参照すると、H/Ht>1、となるキャパシタも存在する。前述したように、それらのキャパシタの静電容量が0.01μFよりも小さく、共振周波数が高くなる。コイルは同一であるため、コイルのリアクタンスXi(Ω)が大きくなる。その結果、キャパシタのリアクタンスXi(Ω)も大きくなる。共振点での駆動回路電流IDr(A)は、コイルの実効直列抵抗Ri(Ω)と、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)のみで決まる。よって、駆動回路電流IDr(A)は同一なので、キャパシタの両端電圧、
Vc(V)=Xc(Ω)×IDr(A)、が大きくなるからと推察される。
ここで、It(A)=Vt(V)/(Ri(Ω)+Rc(Ω))、とすると、上記の実験結果から、理論上の回路電流Itと実測した回路電流Irの比、Ir/Itが、
Ir(A)/It(A)>0.9、の条件を満足すれば、後述する所定の電力伝送性能を確保できる。これは、直列共振点において、交流電源3bの出力電圧をVt(V)、キャパシタの両端電圧をVc(V)、とすると、Vc(V)/Vt(V)>0.9、の条件を満足するのと等価である。前述したが、H=Vc(V)/Vt(V)である。よって、Vc(V)/Vt(V)>0.9、の条件は、実測した昇圧比をHとし、LC直列回路のQをQrとすると、H>0.9×Qr、と等価である。共振周波数の差異によっては、H>Ht、となることがある。しかし、通常はHt>H、であるので、特にHの上限を規定する必要はない。図77の実測結果からは、H>Ht、となる場合、Hは、Htの1.2倍程度であった。なお、昇圧比Hのシンボルを定義した関係上、Htを定義しているが、Ht=Qrである。これは、前述した理論の通りである。
そして、理論上の回路電力Ptと実測した回路電力Pの比、P/Ptが、
0.8<P/Pt、の条件を満足すれば、後述する所定の電力伝送性能を確保できる。
上述した、H/Ht、I/It、P/Pt、と電力伝送性能の相関については、実例を挙げて後述する。次に、1/Qr=1/Qc+1/Qi、を計算してみる。
表2より、セラミックキャパシタC1rの200kHzにおける、Xc=72.4Ω、共振点では、Xc(Ω)=Xi(Ω)、であるから、
Qi=Xi/Ri=72.4Ω/1.35Ω=53.62、
Qc=Xc/Rc=72.4Ω/1.57Ω=46.11
1/Qi+1/Qc=1/53.62+1/46.11=0.04
Qr=1/0.041=24.8、となり、
上記に求めた理論上の昇圧比Ht=23.17との若干の差異が出るが、上記に求めた理論上の昇圧比Htは、交流電源の出力インピーダンスZsを加味しており、出力インピーダンスZsを除外して計算すると、Ri+Rc=1.35Ω+1.57Ω=2.92Ω、Ir=Vt(V)/(Ri(Ω)+Rc(Ω))=1V/2.92Ω=0.342A、
Vc=72.4Ω×0.342A=24.8V、となり、Ht=Qr、となる。上述したように、実際の昇圧比Hは、10.8であり、キャパシタC1rは、理論上の相関、
1/Qr=1/Qc+1/Qi、の関係を満足していない。
上記に述べてきたように、キャパシタ自体に交流電流が流れるような、図1、図72の回路構成に使われるキャパシタの特性については、従来、理論値と実験値の差異などが全く検討されておらず、先行文献も存在していない。
図77と計算より、昇圧比Hが理論値と合致するキャパシタもあれば、キャパシタによっては、昇圧比Hが理論値Htと異なることが分かった。そこで、本願発明者は、図73において、キャパシタの両端電圧を、再度オシロスコープ85にて計測してみた。
(キャパシタの性能評価方法、性能評価装置の実施例の説明)
図79は、図73の共振点における、表3のポリプロピレンキャパシタC1c両端の交流電圧波形である。図80は、表2に示すセラミックキャパシタC1r両端の交流電圧波形である。図81は、図78の回路において、R3を30Ω程度としたときのセラミックキャパシタC1r両端の交流電圧波形である。
図79,図80は、図73におけるR2を取り除き、図73のGNDを基準として各キャパシタの両端電圧を計測したものである。なお、オシロスコープ85のGNDは、図73のように、交流電源3bのGNDと接続しなければならない。これは、後述するGNDに対する正のピーク値Vp、負のピーク値Vnを計測し、VpとVnの比、Vp/Vn、を求めたときに、Vp/Vn>1、となるようにするためである。逆接続すると、Vp/Vn<1、となり、数値規定から外れてしまう。また、オシロスコープ85のGNDは、低インピーダンス点に接続しないと、観測波形が不安定になるからでもある。
図79と図80を比較すれば分かるように、図79では、ポリプロピレンキャパシタC1cの両端電圧波形がゼロ点(図73のGND)に対し、正負ともにほぼ対称である。一方、図81では、セラミックキャパシタC1rの両端電圧波形が、ゼロ点に対しプラス方向にシフトしており、正負非対称の波形になっている。すなわち、セラミックキャパシタC1rの両端電圧波形には、正の直流成分が含まれている。このような現象は、前述した図78の回路において、30Ω程度の無誘導抵抗R3を直列に挿入するとさらに顕著となる。この、ゼロ点に対し大きくプラス方向にシフトしている波形が、図81である。ポリプロピレンキャパシタC1cの両端電圧を、図81と同一の条件で計測した場合、正方向へのシフトは、非常に少ないのが、実験上確認されている。
図82は、表2に示す各キャパシタの、200kHzにおける実効直列抵抗RcをX軸とし、正弦波からのシフト比SをY軸としたグラフである。図82を見ると、黒点に示す各キャパシタの実効直列抵抗Rcと、正弦波からのシフト比Sとに相関は見られない。
図83は、表2に示す各キャパシタの、ゼロ点からのシフト比をX軸とし、Y軸を電力伝送性能としたグラフである。図84は、表2に示す各キャパシタの、200kHzにおける実効直列抵抗RcをX軸とし、Y軸を電力伝送性能としたグラフである。図85は、表2に示す各キャパシタの、誘電正接tanδをX軸とし、Y軸を電力伝送性能としたグラフである。
図83から図85において、電力伝送性能は、2次側電力P2(W)と、伝送効率ηで示される。2次側電力P2は、受電側の交流電圧を一定とし、送電コイル1、受電コイル2、両コイルの相対位置、負荷抵抗値を同一とし、2次側に伝送可能な最大電力P2(W)を示す。伝送効率ηは、送電側に投入される直流電力Pd(W)と負荷抵抗の両端をオシロスコープ85によりモニターし、負荷抵抗の両端のp−p電圧Vp(V)から求めた交流電圧の実効値Ve(V)、Ve=Vp/2√2(V)、より計算した負荷電力Ps(W)の比η、η=PsW/PdW、である。また、2次側電力P2は3.25W以上、電力伝送効率ηは80%以上を基準とし、この基準を満足するX軸の条件を規定している。以下の説明で、電力伝送性能は、2次側電力P2と、伝送効率ηとを意味するものとする。
上記の基準は、電力伝送装置の電力損失が、図74のZs、Rc、Riに起因して発生し、4W前後の電力伝送では、1Wの電力損失が実用化の上限だからである。この条件から計算すると、電力伝送効率は75%となる。また、コイルの大きさは異なるが、誘導加熱器(電磁調理器)の電気エネルギーを熱エネルギーに変換する効率は85%程度である。したがって、75%と85%の中間値として、80%の伝送効率を規定している。2次側に伝送可能な最大電力は、約4.1Wである。よって、伝送効率が80%より、4.1×0.8≒3.25W、として2次側の電力下限を規定している。
ゼロ電位とプラス電位の方形波としたような、交流電源3bの出力の電圧の時間平均値がゼロではなく、直流成分が含まれている場合、図73、図78の回路において、キャパシタの両端電圧Vc(V)はゼロ電位に対し、プラス側にシフトした正弦波となる。さらに、図78の回路において、R3を、Xc=80Ωよりも大きい値、例えば、100Ω程度とすると、直列共振回路のQが低下し、波形が三角波に近づくとともに、キャパシタの両端電圧波形の極小値がゼロ電位よりも高くなる。
実際には、図73において、コイル1の実効直列抵抗Ri(Ω)、および交流電源の出力インピーダンスZs(Ω)をゼロにすることは困難である。よって、キャパシタのリアクタンスXc(Ω)、またはコイル1のリアクタンスXi(Ω)と、コイル1の実効直列抵抗Ri(Ω)、交流電源の出力インピーダンスZs(Ω)を計測しておき、キャパシタ両端の波形を観測する。
キャパシタに印加される電圧Vc(V)に比べ、キャパシタに流れる電流Ic(A)は90度進んでいる。Vc(V)とIc(A)の瞬時値を掛けて、一周期積分すればVcとIcの積はゼロとなる。すなわち、リアクタンス性素子であるキャパシタは、交流電力を消費しない。キャパシタに印加される電流に、図81のような直流電圧Vjが重畳されているとする。この場合において、VcとIcの瞬時値を掛けて、一周期積分してみる。
Vc=Vj+Vm・sinφ(V)、Ic=cosφ(A)、として、
Vc×Ic=(Vj+Vm・sinφ)×cosφ(W)
=Vj・cosφ+Vm・sinφ・cosφ(W)
=Vj・cosφ+Vm・(1/2)sin2φ(W)
となり、φを独立変数として、Vj・cosφ、と、Vm・sin2φ、を0から2πまで定積分すれば、いずれもゼロになるのは、数学上自明である。すなわち、キャパシタに印加される交流電圧に直流成分が重畳されていても、キャパシタは電力を消費しない。これが、キャパシタが直流電流を遮断し、交流電流のみを通過させる作用である。
したがって、図78において、直流電流が流れる抵抗R3の両端電圧および送電コイル1の両端電圧は、ゼロ点(図70のGND)に対しほぼ対称である。一方、キャパシタCの両端電圧は、図80,図81に示すように、ゼロ点に対しシフトしている。
上記の回路理論を前提とすると、キャパシタ両端の交流電圧波形Vcがゼロ点に対してシフト比Sは、以下のようにして求められる。まず、直列回路中の全ての実効直列抵抗の和をRr、共振周波数におけるキャパシタのリアクタンスをXcr(Ω)、位相角をθ(度)、キャパシタの両端電圧のp−p値をVp(V)、ゼロ点よりのシフト値をVm(V)とすると、前述したように、
tan−1(Xcr/Rr)=θ(度)、
Vm=Vcp×(1/2)cosθ(V)、となる。
上式に、前述した200kHzにおけるリアクタンス、Xc=Xi=80Ω、実効直列抵抗、Ri=1.35Ω、交流電源の出力インピーダンス、Zs=0.2Ω、直列回路中の全ての実効直列抵抗の和、Rr=1.55Ωを代入してみると、
tan−1(Xcr/Rr)=tan−1(80/1.55)=88.89度
Vm=Vcp×(1/2)cos88.89度=(Vcp/2)・0.0193
Vm=Vcp×0.00968、となる。
したがって、理想的なキャパシタを使用した場合には、キャパシタの正のピーク値の絶対値をVp、負のピーク値の絶対値をVn、とすると、
Vp=(Vp−Vn)×1.00968(V)
Vn=(Vp−Vn)×0.9903(V)
が理論上の値となる。VpとVnの比、Vp/Vnは、
Vp/Vn=1.00968/0.9903=1.0195、となる。
念のため、上記のシフト値をp−pではなく、実効値で計算してみる。
Vp=((Vp−Vn)/2√2)×1.00968(V)
Vn=((Vp−Vn)/2√2)×0.9903(V)
となり、((Vp−Vn)/2√2)は定数となる。よって、Vp(V)とVn(V)の比、Vp/Vn(無単位)は、Vp/Vn=1.0195、と変わらない。
キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)が、Rc<<Rr、を満足する場合は、有効数字と計測誤差を勘案し、前記のVpとVnの比、Vp/Vn、が、Vp/Vn<1.02、を満足していればよい。前述した表2においては、C1c、C1f、など、一部のキャパシタのみが、Vp/Vn<1.02、を満足しているにすぎない。
一方、Rc>0.1Ω、程度になると、Rcの影響が出てくるので、表3のデータから、Rcの平均値として若干の余裕を見て、Rc=1.5Ω、Rr=3Ω、として上式にて再計算してみると、
tan−1(80/3)=87.85度
Vcp×(1/2)cos87.85=Vcp・0.0187
Vp=(Vp−(Vn))×1.0187(V)
Vn=(Vp−(Vn))×0.9812(V)
VpとVnの比、Vp/Vnは、
Vp/Vn=1.0187/0.9812=1.0381、となる。
このように、キャパシタの実効抵抗を考慮し、前述した表2において、有効数字と計測誤差を勘案すると、1<Vp/Vn<1.04、となるが、この条件を満足するキャパシタも、C1e、C1a、C1bしかない。すなわち、単にキャパシタの実効直列抵抗Rcのみが原因となって、このようなゼロ電位に対する非対称性が起こっているとは思えない。ゼロ電位に対する波形の非対称性が起こっているのは、Rc以外の要因によるものと考えざるを得ない。例えば、図126に示すLcなどが考えられる。したがって、図73においては、シフト比Sが、S<1.06、の条件から、P2>3.25W,η>80%、であるという電力伝送性能の規定を満足しているキャパシタを選ばざるを得ない。
なお、図73に示したキャパシタCxの両端に積分回路Giを接続すると、積分回路Giの出力電圧Vgは、Vg=Vp−Vn、となって、シフト比Sに比例する。オシロスコープ85により、シフト比Sを計測するには、計測精度に限界がある。しかし、キャパシタの電圧波形の振幅値Vp(V)、Vn(V)は、オシロスコープ85でほぼ正確に計測できる。シフト比Sを、S=Vg/Vn+1=(Vp−Vn+Vn)/Vn=Vp/Vn、とすると、より正確なシフト比Sが求められる。あるいは、キャパシタの両端に正負のピークホールド回路を設けてVp,Vnを求めるようにしてもよい。
また、図73に示したオシロスコープ85は、正のピーク値Vpと、負のピーク値Vnとを計測する手段を構成している。すなわち、上述した各計測手段は、本発明の高周波電力回路用キャパシタの評価装置について説明しているものである。
上記の規定にかかわらず、2次側電力は高いほど良く、伝送効率も高いほど良いのは言うまでもない。ポリプロピレンキャパシタC1cを使用した場合、図70の送電側電力は、4.5W、2次側交流電力は、4.1Wである。出力インピーダンスZsとコイルの実効直列抵抗Riの和は1.55Ω、送電側電圧は実効値1Vである。よって、出力インピーダンスZsとコイルの実効直列抵抗Riにより、P=1V2/1.55Ω=0.65W、のジュール損が発生している。すなわち、計算上の伝送効率は100%以上となっている。0.25Wの余剰が出るのは、2次側の波形が完全な正弦波になっておらず、p−pの電圧値を2√2で割っても、正確な実効値にならないからと推察される。すなわち、ポリプロピレンキャパシタC1cを使用した場合、電力伝送系(送受電コイル2間)の伝送効率は、交流電源3bの出力インピーダンスZsとキャパシタの実効直列抵抗Rcによる電力損失を除くと、100%に極めて近いものと思われる。
図83から明らかなように、図80に示すような、ゼロ電位に対し、正負が非対称なキャパシタ、すなわち、Vp/Vn、が1よりも大きくなるにつれて、電力伝送性能は悪くなる。一方、Vp/Vn、が1に近いキャパシタは、電力伝送性能がよい。
そして、図83においては、Vp/Vn、が1よりも大きくなるのに従い、電力伝送特性のカーブが単調減少しているのが分かる。図80を参照するならば、ゼロ電位と正電位の方形波で、図73の回路を駆動したときの、キャパシタの正弦波電圧波形が、ゼロ点からシフト比Sが、1.06以下であることが必要となる。しかし、規定値、1.06は、前述したように、0.01μFのキャパシタを使用し、200kHzで計測したものである。この条件では、キャパシタC1cと基準コイルを使ったときの、Vp/Vn、の値は1.02である。しかし、静電容量が0.47μFのキャパシタC1cと同一のキャパシタと、別の基準コイルを使い、50kHzにて計測したところ、Vp=22.8V、Vn=20.7V、Vp/Vn=1.1、となった。
基準コイルと周波数にもよるが、本願発明者が種々の実験を行ったところ、静電容量をC(μF)、とし、係数γを、γ=log(C/0.001)、とすると、規定値は、1+0.06×γ、として、近似可能なことが分かった。一例を示すと、0.47μFでは、γ=log(0.47/0.001)=log(470)=2.67、となる。規定値は、1+0.06×γ=1+0.162=1.162、となる。
100kHzで、0.1μFのキャパシタC1iと同じポリエチレンテレフタレートキャパシタを使った場合、Vp=16.5V、Vn=15.1V、Vp/Vn=1.09、である。γは、γ=log(0.1/0.001)=log(100)=2、となる。よって、規定値は、1+0.06×α=1+0.12=1.12、となる。静電容量が、0.01μFでは、γ=log(0.01/0.001)=log(10)=1、となる。したがって、規定値は、1+0.06×γ=1+0.06=1.06、となる。静電容量が、0.01μF以下のときは、規定値を1.06とする。
したがって、所定係数をBとし、キャパシタの静電容量をC(μF)、としたときに、C(μF)<0.01、のときには、B=1.06、となる。C(μF)>0.01、のときには、所定係数Bは、B=1+0.06×log(C/0.001)、となる。
また、基準コイルや電力伝送の周波数によっても、前記した、Vp/Vn、の値は異なってくる。したがって、キャパシタの静電容量から、前述してきた計算式により、所定係数Bを求める。そして、実際に使用する送電コイル1単体を使い、電力伝送に使用する周波数において、キャパシタの両端電圧のVp、Vnを計測する。この条件において、所定計数をBとしたとき、キャパシタが、Vp/Vn≦B、の条件を満足していればよい。
一方、図87においては、前述したように、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)の増加に従い、電力伝送特性のカーブが減少した後、実行直列抵抗Rcが1.4Ω付近で上昇して下降するような単調特異点が見られる。図88においても、キャパシタの誘電正接tanδの増加に従い、電力伝送特性のカーブが単調減少しておらず、特異点が見られる。しかし、図84、図85共に、キャパシタとしての特性と電力伝送性能の相関から、特性規定を行うことは可能である。図84においては、キャパシタの実効直列抵抗Rcが、1.55Ω以下であれば、前述の電力伝送性能基準を満足している。上記の、1.55Ωは、送電コイル1単体の実効直列抵抗Ri=1.35Ω、と、交流電源3bの出力インピーダンスZs=0.2Ωを足したものとなる。
ただし、図84は、静電容量0.01μF、周波数200kHzでのデータである。よって、周波数と静電容量を勘案したリアクタンスが式中にある誘電正接tanδにより規定するのが好ましい。図82を参照する限りにおいて、電力伝送性能と誘電正接の関係は、図83のグラフのように、X値の増加と共に、電力伝送性能が単調減少しておらず、特異点が見られるが、所定の最低周波数、例えば、100kHz、200kHzなどにおいて、キャパシタの誘電正接tanδが2%以下であることは、最低限満足すべき条件となる。しかし、キャパシタの誘電正接tanδが2%以下の領域に、2次側電力3.25W以上、伝送効率80%以上という前述した基準値を満足しない特異点が存在する。よって、キャパシタの誘電正接tanδが1%または0.5%以下であればより好ましい。
図86は、電力伝送性能が悪いセラミックキャパシタC1rと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの実効直列抵抗Rcの周波数特性を示すグラフである。
図87は、電力伝送性能が悪いセラミックキャパシタC1rと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの誘電正接tanδの周波数特性を示すグラフである。
図88は、電力伝送性能がよいポリプロピレンキャパシタC1cと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの実効直列抵抗Rcの周波数特性を示すグラフである。
図89は、電力伝送性能がよいポリプロピレンキャパシタC1cと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの誘電正接tanδの周波数特性を示すグラフである。
図87、図89を参照する限りにおいて、キャパシタの誘電体と静電容量により、誘電正接tanδの周波数特性が異なるのが分かる。比誘電率の高い誘電体を使ったセラミックキャパシタC1rは、図87に示すように低周波数領域では、静電容量の大きいキャパシタの誘電正接tanδが小さい。しかし、高周波数領域になると、静電容量の大きいキャパシタの誘電正接tanδは大きくなっている。すなわち、高誘電体を使ったキャパシタでは、静電容量が小さいほど、周波数の上昇に伴う誘電正接tanδの増加率が小さい。一方、図89を参照すると、比誘電率の低い誘電体を使ったポリプロピレンキャパシタC1cは、ほぼ全ての周波数領域で、静電容量の大きいキャパシタの誘電正接tanδが大きい。図87、図89は前述した実測結果と一致している。すなわち、静電容量や電力伝送装置の作動周波数によって、キャパシタの種類を選ぶ必要がある。
図87を参照すると、比誘電率の高い誘電体で構成されたセラミックキャパシタC1rでは、200kHzにおいて、静電容量が、0.47μFのキャパシタのみが、誘電正接tanδが1%以下である。その一方で、図89を参照すると、比誘電率の低い誘電体で構成されたポリプロピレンキャパシタC1cでは、200kHzにおいて、0.01μFから0.47μFの静電容量で、誘電正接tanδが1%以下になっている。
最初に述べたが、力率を改善するとは、正のリアクタンスを打ち消すことである。そして、LC直列回路は、方形波、三角波、鋸波などの非正弦波波形を正弦波に戻す作用を持つ。それには、LC回路のQが高くないとならず、目安として、キャパシタは少なくとも10以上のQが必要となる。表2に示すように、100kHzにおいて、Qが1000や10000を越えるキャパシタならともかく、Qが数十のキャパシタは、上述してきたような、特性を満足するようなものを選ぶ必要がある。
前述したキャパシタの実効直列抵抗RcをX軸、電力伝送性能をY軸とした図84、キャパシタの誘電正接tanδをX軸、電力伝送性能をY軸とした図85においては、キャパシタC1hが規定領域内に入っている。一方、図83のグラフでは、キャパシタC1hが全て規定領域外となっている。このように、本発明においては、キャパシタの実効直列抵抗Rc、キャパシタの誘電正接tanδのみでは規定できない電力伝送性能が悪いキャパシタを除外できる。このような規定により、電力伝送性能が良いキャパシタを選んで、電力伝送装置を構成する。その結果、電力伝送性能が良い電力伝送装置が実現できるという、極めて優れた効果を奏する。
また、図88より、周波数が20kHz程度の低周波数領域になると、キャパシタの実効直列抵抗Rcは、数Ω〜数十Ωとなり、実効直列抵抗Rcによる電力損失が増大する。よって、静電容量が0.01μFのキャパシタを電力伝送に使用可能な周波数は、20kHz程度を下限とするのが好ましい。ただし、静電容量が0.1μF以上のキャパシタになると、10kHzでも実効直列抵抗Rcがほぼ電力損失を起さない程度の値まで低下する。しかし、実効直列抵抗Rc(Ω)の存在は、電力伝送性能を劣化させる。よって、送電コイル1の実効直列抵抗をRi(Ω)とすると、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)が少なくとも、Ri(Ω)>Rc(Ω)、を満足する最低周波数以上で電力伝送を行うのが好ましい。前述した、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)は、キャパシタを使用可能な最低周波数の規定に関するものである。キャパシタを使用可能な最高周波数については、キャパシタのインピーダンスの周波数特性を示して後述する。
(誘電吸収の説明)
次に、電力伝送性能と相関を持つ要因の1つとして、キャパシタの誘電吸収が考えられる。誘電吸収は、キャパシタの直流特性である。誘電吸収の原因には種々の説があるが、一説として、キャパシタの両端子に長時間、直流電圧Vw(V)が印加されている間に、誘電体の分極が起こると考えられている。キャパシタに直流電圧が印加されなくなり、キャパシタの両端子を短絡してキャパシタに蓄積された電荷を放電する。放電後にキャパシタを開放すると、キャパシタの両端に開放電圧Vb(V)が発生する。Vw(V)とキャパシタのVb(V)の比を誘電吸収Kとし、K=Vb(V)/Vw(V)、とする。Kが小さいほど、キャパシタの特性はよい。なお、誘電吸収Kは常に1より小さい正の値であり、無単位の数値である。
(コイルの両端にキャパシタを各1個装備した場合の説明)
なお、特許文献4の段落0018には、共振周波数に必要な2倍の静電容量を持つキャパシタを、コイルの両端に各1個装備することが記載されている。前述したが、その他の特許文献にも同様の記載がある。先の発明で、基準コイルを使い、キャパシタの両端電圧Vp、Vnを計測したときに、Vp、Vnがゼロ点からシフト比Sにより、キャパシタの性能判断ができることを既述した。本願発明者は、この点に着目し、基準コイルに1個キャパシタを装備した場合と、基準コイルの両端に2個のキャパシタを装備した場合の双方において、Vp、Vn、S=Vp/Vn、および電力伝送性能を計測してみた。
図73では、スイッチング素子Q2のソース(Vdの−端子)をオシロスコープ85のGNDに接続し、基準コイルLsとキャパシタCxの接続点をオシロスコープ85の信号入力端子に接続した。前述したが、Vp、Vnを計測するときには、R2を短絡してある。このように接続することにより、Vp>Vn、となり、S=Vp/Vn>1、となる。
図90は、キャパシタをVOUTH側に接続した場合の、キャパシタ両端電圧をオシロスコープで計測する場合の接続図である。図91は、キャパシタを送電コイル1の両端に各1個接続した場合の、各キャパシタ両端電圧をオシロスコープで計測する場合の接続図である。
図90および図91に示した交流電源3bの出力は、インピーダンスの低い端子VOUTHおよびVOUTLで示している。図90に示す交流電源3bの端子VOUTHおよびVOUTLには、キャパシタCxと送電コイル1の直列回路が接続されている。オシロスコープ85のGNDは、交流電源3bのVOUTHまたはVOUTLに接続される。オシロスコープ85の電圧入力INは、キャパシタCxと送電コイル1との接続点に接続される。
図91においては、交流電源3bの端子VOUTHおよびVOUTLには、キャパシタCx1と送電コイル1とキャパシタCx2の直列回路が接続されている。同一のオシロスコープ85a,85bで同時に2個のキャパシタCx1,Cx2のキャパシタ電圧を計測すると、交流電源3bの出力OUTHとOUTLがオシロスコープ85a,85bのGNDを介して短絡されるので、各キャパシタCx1,Cx2のVp、Vnを個別に計測する必要がある。
キャパシタCxの両端電圧を計測するには、オシロスコープ85a,85bのGNDを基準電圧点に接続する必要がある。図73で、キャパシタCxとコイルLsを入れ替えて、キャパシタCxの一方の端子をスイッチング素子Q1のドレイン(Vdの+端子)に接続する。基準コイルLsの一方の端子は、スイッチング素子Q2のソース(Vdの−端子)に接続する。キャパシタCxの他方の端子とコイルLsの他方の端子を接続して、LC直列共振回路を構成する。スイッチング素子Q1のドレイン(Vdの+端子)をオシロスコープ85のGNDに接続し、基準コイルLsとキャパシタCxの接続点をオシロスコープ85の信号入力端子に接続する。このようにオシロスコープ85を、図73で、キャパシタCxとコイルLsを入れ替えたLC直列共振回路のCxの両端電圧を計測すると、Vn>VP、となる。そこで、シフト比をS1とし、S1=Vn/Vp>1とする。
基準コイルLsの両端に2個のキャパシタCx1,Cx2を装備した場合に、Vp、Vnを計測するには、オシロスコープ85の接続法を前述したように変更すればよい。基準コイルLsの両端に2個のキャパシタCx1,Cx2を装備し、オシロスコープ85の接続法を前述したように変更した場合においては、Vp<Vnとなるので、Sn=Vn/Vp>1、としてSnを定義する。基準コイルの両端に2個のキャパシタを装備した場合であって、図73と同じオシロスコープ85の接続法とした場合、Sp=Vp/Vn、とする。S=Vp/Vn、S1=Vn/Vpは、基準コイルにキャパシタを1個装備した場合のシフト比とする。
本願発明者は、表2に記載のキャパシタを2個並列接続し、静電容量が0.02μFの合成キャパシタを2個作成した。この合成キャパシタを直列接続した静電容量が0.01μFの合成キャパシタ1個を使用した場合と、静電容量が0.02μFの合成キャパシタを基準コイルの両端に接続した場合の、Vp、Vn、S、S1、Sp、Snを計測した。表2に記載の各キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)は、静電容量が0.01μFの合成キャパシタでは、Rc(Ω)の半分になる。しかし、静電容量が0.02μFの合成キャパシタを2個直列接続した静電容量が0.01μFの合成キャパシタでは、Rc(Ω)は表2に記載のRc(Ω)と等しくなる。このような条件で、Vp、Vn、S、Sp、Snを計測すると、単体キャパシタ1個を使用した場合と同じ条件となる。
計測の結果、いずれのキャパシタでも、SpとSnはほぼ等しかった。また、SとS1もほぼ等しかった。しかし、Spは、Sに比べ小さい場合が多かった。概略の実験結果として(Sp−1)/(S−1)の値が0.75以下であれば、キャパシタの電力伝送性能はコイルにキャパシタを1個装備した場合より、コイル両端に各1個を装備した方がよかった。例えば、S=1.08で、Sp=1.05なら、
(Sp−1)/(S−1)=0.05/0.08=0.625<0.75、となり、条件を満足する。
S=1.1、Sp=1.08なら、
(Sp−1)/(S−1)=0.08/0.1=0.8>0.75、となり、条件を満足しない。(Sp−1)/(S−1)=Faとすると、
Fb=(Sp−1)/(S1−1)
Fc=(Sn−1)/(S−1)
Fd=(Sn−1)/(S1−1)
と規定しても同等の結果が得られる。FaからFdのいずれかが0.75以下であればよい。この選別方法は、単にS=Vp/Vn、の値を計測し、所定数値B以下であるという選別方法に比べ、基準コイル、静電容量、周波数などに依存しない選別方法となる。
コイルの両端に各1個のキャパシタを接続するのは、Vp/Vn、の値が1に近くなるという作用効果によるものと推察される。この原因として、図125の等価回路において、キャパシタC1に流れる交流電流値により、実効直列抵抗Re(Ω)が変動している可能性が考えられる。あるいは、前述したように、キャパシタの等価直列インダクタンスLcの影響による可能性も考えられる。しかし、キャパシタ両端電圧の基準電圧よりのシフト比Sが1に近いほど電力伝送性能がよいという相関は、図示するまでもなく、図83より明らかである。送電コイル1の両端にキャパシタを各1個接続することにより、シフト比Sが低下し、1に近づいている上記の実験結果から、送電コイル1の両端にキャパシタを各1個接続することにより、電力伝送性能を向上できると言える。従来例においては、これらの作用効果が全く明確にされていない。
なお、0.02μFのキャパシタを2個使用し、2個のキャパシタをコイルの両端に接続した場合と、0.01μFのキャパシタを1個使用した場合とも比較してある。キャパシタを2個使用した場合、Vp/Vnの値が1に近づき、電力伝送性能が向上した。コイル、キャパシタともに、実効直列抵抗を持ち、VpとVnの対称性と電力伝送性能に相関が見られるところから、図91のような接続法は、VpとVnの「対称性」を改善している可能性があるものと思われる。
本実施形態の要旨は、基準コイルに1個のキャパシタを直列接続した場合に比べ、基準コイルの両端に各1個のキャパシタを接続した場合に、Vp/Vn、の値が1に近づくキャパシタを選ぶことにより、電力伝送性能がよい電力伝送装置が実現できるという意図である。また、同一の構成のキャパシタであれば、送電コイルの両端に各1個のキャパシタを接続することにより、電力伝送性能を向上させることが可能という意図もある。送電コイルの両端に各1個のキャパシタを接続することによる作用効果を、このように明確化した従来技術は存在しない。
なお、キャパシタに印加される電圧の関係上、2個のキャパシタに同一の静電容量を持つものを使用するのが好ましい。しかし、公称値が20%以内の静電容量であれば、本実施形態に適用可能である。例えば、一方に0.01μFの公称値のキャパシタを用いた場合、他方のキャパシタには、0.0082μF〜0.12μFの公称値のキャパシタが使用できる。ただし、公称値は、5〜10%程度以下のキャパシタを使用する。
図92は、キャパシタの誘電吸収を計測する回路図である。
図92には、オペアンプによるインピーダンス変換回路が示してある。本願発明者は、図92のような、入力インピーダンスが、1010Ω以上のインピーダンス変換回路を作成し、一般に使用されているディジタルテスターで誘電吸収が計測できるようにした。図92において、インピーダンス変換回路として作動するオペアンプ111の反転入力端子と出力端子とが接続されており、オペアンプ111の出力端子とGND間に直流電圧計112が接続されている。オペアンプ111と直流電圧計112は入力インピーダンスが、1012Ω以上の電子式直流電圧計として作動する。一般に使用されているディジタルテスターなどは、入力インピーダンスが数MΩであり、誘電吸収の正確な計測ができない。
スイッチ113は、計測用のキャパシタCに電荷を蓄積する直流電圧Vw=V1(V)を印加するために設けられており、スイッチ114は5Ω±10%の精度を有する抵抗R4を介してキャパシタCに蓄積された電荷を放電するために設けられており、スイッチ115はキャパシタCに蓄積した電荷をオペアンプ111の非反転入力端子に与えて誘電吸収Kを測定するために設けられている。オペアンプ111は非反転入力端子のバイアス電流が1pA程度で、入力インピーダンスが1012Ω程度のハイインピーダンスのものが使用される。
図92に示す計測回路で誘電吸収を計測する手順は、JISに規定されているが、以下に説明する。まず、スイッチ113を閉じてキャパシタCの定格電圧の±10%の電圧、Vw=V1(V)、をキャパシタCに1時間印加する。その後、スイッチ113を開いて、スイッチ114を閉じ、抵抗R4を10秒間キャパシタCの両端に接続してキャパシタCに蓄えられている電荷を放電する。10秒間の放電後、スイッチ114を開いてキャパシタCを開放し、スイッチ115を閉じてキャパシタCの両端電圧Vb(V)をオペアンプ111に与え、電圧計112で15分間計測する。15分間の計測時間でのキャパシタの両端電圧の最大値をVb(V)とする。誘電吸収Kは、K=Vb/Vw、として求められる。
本願発明者は、無極性であるキャパシタの一方の端子に正の電圧を印加し、誘電吸収Kを計測した。その後、一方の端子に負の電圧を印加し、誘電吸収Kを計測したところ、一方の端子に正の電圧を印加して誘電吸収Kを計測した場合とは異なる結果が得られた。後述するが、誘電吸収の非対称性は、電力伝送性能と相関がある。以降、一方の端子、例えば、図92に示すキャパシタCのAの端子に正の電圧を印加して計測した誘電吸収をKpと表記する。そして、一方の端子に負の電圧を印加して計測した誘電吸収をKnと表記する。例えば、図92に示すキャパシタCのBの端子に正の電圧を印加して計測した誘電吸収をKnと表記する。
表3に示すように、JISでは、誘電吸収は無極性の直流用キャパシタのみに規定があり、その規定値は0.1%である。しかし、本発明の実施形態においては、無極性のキャパシタに交流電圧を印加し、交流電流を流す。誘電吸収は直流特性であり、直流ではキャパシタのインピーダンスは理論上無限大になる。図92に示すオペアンプ111の入力端子には、微小ではあるが、バイアス電流が流れる。JISの規定によると、キャパシタの絶縁抵抗は、1GΩ〜30GΩとなっている。バイアス電流値が1pA程度のオペアンプを使用しても、前記バイアス電流によりキャパシタが蓄電され、オペアンプ111の出力端子電圧の絶対値は、時間と共に上昇する。そのため、図92のオペアンプ111の非反転入力端子には200MΩの高抵抗RhをGND間に取り付けている。
また、キャパシタの定格電圧が100V程度になると、実測が危険となる。よって、キャパシタCの定格電圧にかかわらず、20Vの電圧をキャパシタCに印加した。キャパシタCに印加する電圧が高いと、誘電体内の電界強度が高くなり、誘電体分極を起しやすくなる。そのため、実測値は0.25%以下に収まっているが、5倍程度の余裕をみておく必要がある。したがって、電力伝送装置のキャパシタCとしては、誘電吸収Kが、少なくとも1%以下でないとならない。実際に、本願発明者が、空中配線で回路を構成して、回路全体の絶縁抵抗を、1012Ω以上にし、キャパシタC1mに、定格電圧100Vを印加して誘電吸収を計測したら、約0.93%であった。これは、図93に示す実測値である0.18%の5倍に相当している。
図93より明らかなように、誘電吸収Kpが小さいキャパシタは電力伝送性がよく、誘電吸収Kpが大きいキャパシタは電力伝送性が悪いことが分かる。さらに、本願発明者は、前述したように、図92の回路において、正の電圧が印加されているキャパシタCの端子Aと、負の電圧が印加されているキャパシタCの端子Bとを入れ替えてみた。
図94は、図92において、キャパシタの端子Aと端子Bを入れ替えて誘電吸収Knを計測し、KnをX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図95は、表2に示す各キャパシタの前記誘電吸収KpとKnの比KrをX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。比Krは、Kp>Kn、のときは、Kr=Kp/Kn、Kn>Kp、のときは、Kr=Kn/Kp、とし、Kr>1、となるように規定してある。
図95によれば、誘電吸収の非対称性が明らかに見られる。電力伝送性能のよいキャパシタは、誘電吸収の非対称性が小さい。換言すれば、比Krの値が1に近い。電力伝送性能の悪いキャパシタは、誘電吸収の非対称性が大きい。換言すれば、比Krの値が1より大きい。このようにして、電力伝送性能がよいキャパシタを選ぶことができる。
すなわち、図92に示すキャパシタCの一方の端子Aと他方の端子Bを入れ替えると、誘電吸収KpとKnとが、異なる値となる結果が得られている。これは、昇圧比が最も小さいセラミックキャパシタC1r、において顕著である。また、図95より明らかなように、比Krが1に近いキャパシタは電力伝送性がよく、比Krが1より大きいキャパシタは電力伝送性が悪いことが分かる。図95のKrと電力伝送性能との相関から見ると、前記Kpと前記Knの比であるKr、Kr=Kp/Kn、は、1<Kp/Kn<1.5、の範囲内に入っていないといけないのが分かる。
(キャパシタの温度上昇に関する実施例の説明)
図96は、キャパシタCの性能を判断する回路構成図である。図96の交流電源122は、周波数を可変でき、交流電流計123で出力電流Iaを計測でき、交流電圧計124で出力電圧Vt(V)が計測できるように構成されている。キャパシCに交流電圧Vt(V)を印加すると、キャパシタに無効電力による電流Ia(A)、が流れる。Ia(A)=Vt(V)/Xc(Ω)、である。図97は、前述した図73に示したLCRの直列共振回路を構成することにより、キャパシタCxに電流を流す回路図である。
図98は、図96、図97の回路において、周波数200kHz、実効値0.5Aの交流電流をキャパシタに流したときの、キャパシタの上昇温度をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。正確な温度を計測するため、キャパシタの温度は、赤外線式の非接触型温度計で計測してある。
図98から明らかなように、キャパシタCの温度が高くなると、電力伝送性能が悪くなる。キャパシタの温度上昇が10℃以下であれば所定の電力伝送性能が得られるのが分かる。キャパシタの温度上昇が5℃以下であれば、より好ましい。
(性能評価方法、性能評価装置の説明)
図99(A)は、キャパシタの性能を計測する例を示すブロック図であり、図99(B)は、図99(A)に示す二重積分式のA/D変換器125に含まれる積分回路128を示す図である。
パルス数計測手段およびAD変換手段として作動するA/D変換器125には、図99(B)に示す積分回路が含まれている。オペアンプ128の反転入力端子bと出力端子aとの間に積分キャパシタCxが接続されており、積分キャパシタCxは抵抗Rtの一端とオペアンプ128の反転入力端子に接続され、抵抗Rtの他端は入力端VINに接続されている。オペアンプ128の非反転入力端子はGNDに接続されている。
基準電圧Vrefは、A/D変換器125の基準電圧入力REF_HIとREF_LOに接続されている。A/D変換器125には表示器126が接続されている。測定電圧入力端子IN_HIとIN_LOにはスイッチ127が接続されている。スイッチ127は測定電圧入力端子IN_HIとIN_LOに、基準電圧Vref,反転基準電圧−Vrefを与えるかあるいは短絡状態にするかを切換える。短絡状態に切換えたとき、スイッチ127は積分キャパシタの両端電圧をゼロにする初期化手段として作動する。
この実施形態では、A/D変換器125は、積分キャパシタCxが初期化された後、積分キャパシタCxに正方向の定電流Ipを所定の時間Tの間に流し、所定の時間T経過後に積分キャパシタCxに負方向の所定の定電流Inを流し、積分キャパシタCxの両端電圧がゼロになるまでの時間をTnとすると、Ip=Inのときの所定時間Tのパルス数をカウントする。そして、所定時間Tのパルスカウント数をN、積分キャパシタCxの両端電圧がゼロとなるまでの時間Tnのパルスカウント数をNn、としたときに、NnとNとの差の絶対値が、0.004×Nカウント以下のキャパシタを選択する。
A/D変換器125として、二重積分式A/D変換器を使用し、A/D変換器125の基準電圧と入力電圧を同一とする。A/D変換器125の出力、例えば表示が、理論値1からの乖離を見ることにより、電力伝送措置に使用され力率キャパシタの性能を判断できる。このA/D変換器125は、1000カウント以上の分解能を持つ。この分解能1000は前記理論値1に対する分解能である。すなわち、カウント数が999ならば、理論値1との乖離は、0.001になる。したがって、カウント数をNとし、0.004×Nカウント以下の偏差(デジット)であれば、キャパシタの力率改善性能はよい。なお、カウント数Nは、例えば10000であればより正確な判断ができる。また、上記の理論値1は、2のn乗のビット数、例えば11ビットなら、2047などであってもよい。
さらに、キャパシタに、負方向の定電流Inを所定時間Tの間流し、所定時間Tの経過後に、キャパシタに、正方向の所定の定電流Ipを流し、キャパシタの両端電圧がゼロとなるまでの時間をTp、とすると、|Ip|=|In|、であって、Tのパルスカウント数をN、Tpのパルスカウント数をNp、としたときに、NpとNとの差の絶対値が0.004×Nカウント以下のキャパシタを選ぶ。
この例では、A/D変換器125の基準電圧と入力電圧を同一とする際、入力電圧の極性を反転させる。先に誘電吸収にて述べたように、無極性のキャパシタであっても、正の同一電圧と負の同一電圧をA/D変換器に加えたときに、表示が異なる。上記の方法により、正確にキャパシタの力率改善性能を判断ができる。
さらに、NpとNnの差の絶対値が、0.003×Nカウント以下であれば、キャパシタの力率改善性能はよい。
この例では、NpとNnの差の絶対値を比較することにより、さらに正確にキャパシタの力率改善性能の判断ができる。
図100は、A/D変換器125の積分回路出力Voを示す波形である。
図99(B)に示すA/D変換器125において、差動入力である測定電圧入力端子IN_HIとIN_LO間の電圧をVmとすると、積分電流Ii(A)は、
Ii(A)=Vm(V)/Rt(Ω)、となる。A/D変換器125の出力は表示器126に表示される。入力信号積分の時間は、1000カウントの固定値になっている。したがって、図100に示すピーク電圧Vpeak(V)は、Vm(V)に比例して高くなる。積分キャパシタCxとVpeakの関係は、Vpeak(V)=Ii(A)/Cx(F)、となる。これは、入力信号積分の時間が一定であるからである。1000カウントの入力信号積分後、A/D変換器125内部で逆積分に切換えられる。電流源として作動する基準電圧Vrefにより生成される電流Iref(A)、Iref(A)=Vref(V)/Rt(Ω)により、一定の負の傾きにより、Vpeakから逆積分を行う。逆積分の時間をカウントし、積分回路の出力がゼロとなったときのカウント値を、4桁のディジタル値として表示する。
図99(A),(B)に示すキャパシタCxとして理想的なものを使用したものとし、A/D変換器125の測定電圧入力端子IN_NIとIN_LOに入力される電圧をVinとすると、A/D変換器125出力の表示器126に表示される表示Dは、D=1000×(Vin/Vref)となる。この場合において、Vin=Vref、であるので、表示Dは常に1000となる。すなわち、理想的なキャパシタでは、図100に示す入力電圧積分波形と、基準電圧逆積分波形とはピーク電圧Vpeakを境にして対称になるはずである。しかし、電力伝送性能の悪いキャパシタでは、入力電圧積分波形と、基準電圧逆積分波形とはピーク電圧Vpeakを境にして対称にならず、積分時間のカウント数に偏差を生じる。この偏差が所定値以内であるか否かを判別すれば、キャパシタの電力伝送性能の良し悪しを区別できる。以下、具体的に説明する。
図99(A)に示すように、スイッチ127がA側に切換えられているときには、入力Vinには基準電圧Vrefが入力される。このとき、表示器126の表示Dpは、1000となる。スイッチ127がB側に切換えられているときには、A/D変換器125の入力は短絡される。このとき、表示器126の表示Dzは、±0となる。スイッチ127がC側に切換えられているときには、入力Vinには基準電圧−Vrefが入力される。このとき、表示器126の表示Dnは、−1000となる。このような機能を持つ二重積分式A/D変換器125の一例として、インターシル社のICL7106などがある。本実施形態では、ICL7106の改良版であるICL7136を使用した。さらに精密な計測を行ないたい場合は、±19999の分解能を持つICL7135、表示器ではなく、データをコンピュータに取り込んで計測させるには、±12Bitの分解能を持つ、ICL7109などがある。いずれも二重積分式のA/D変換器であり、二重積分式以外のA/D変換器は本発明には使用できない。なお、上述した二重積分式のA/D変換器以外であっても、動作原理が同等のものは、本発明に使用可能である。
図99(A)のように回路を構成することにより、基準電源Vrefが変動しても、上述した理論値が常に表示される。したがって、この理論値からの乖離を見ることにより、キャパシタの性能を判断できる。図99(A),(B)には図示していないが、二重積分型A/D変換器125は、積分回路を構成するオペアンプ128のオフセット電圧をキャンセルする回路(オートゼロ回路)が付加されている。このオートゼロ回路は、通常、積分回路のオフセット電圧を50μV以下に自動調整する。したがって、Vrefが100mV以上なら、スイッチ77がBの点にあるときは、表示は必ずゼロとなる。なお、Vrefは200mVに設定して計測した。ただし、二重積分式のA/D変換器125は、ノイズの影響を受けやすいため、配線や金属ケースによるシールド等、実装に十分気をつけないと、表示が安定せず、正確な計測が難しくなるので注意を要する。
図101は、表2に示す各キャパシタをA/D変換125に接続し、スイッチ127をB点としたときの、各キャパシタのゼロ点からのずれの絶対値(単位デジット)をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図101では、0デジットと1デジット表示を繰り返しているときは、0デジットとし、1デジットの表示のときを1デジットとしてある。後述するDp、Dnを計測する際には、ゼロ点からのずれを補正してある。図101にプロットされている表2に示す各キャパシタの電力伝送性能と、デジット値を比較すると、キャパシタの違いによる入力短絡時の表示値と電力伝送性能の間に、特に関係は無いものと思われる。
まず、図99(A)に示すスイッチ127をB側に切換えられているものとし、A/D変換器125の入力電圧をゼロとする。このときの表示を補正値としてDzとする。0表示と1表示を均等に繰り返しているときは、Dz=+0.5とする。−0表示と−1表示を均等に繰り返しているときは、Dz=−0.5とする。このDzを、Dp、Dnを計測するときに差引いて補正する。なお、Dp、Dnの計測においても、0999表示と1000表示を均等に繰り返しているときは、999.5を計測値としている。
図102は、図99に示すスイッチ127がA側に切換えられているものとし、入力電圧=基準電圧Vrefとしたときの、理論上の表示1000と、実際の表示Dpの第1の偏差(デジット)の絶対値をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図103は、図99において、スイッチ127をCの位置にし、入力電圧=−基準電圧としたときの、理論上の表示−1000と、実際の表示Dnの第2の偏差(デジット)の絶対値をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図104は、実際の表示DpとDnの表示の絶対値の差(デジット)の絶対値をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。
表2に示すキャパシタをA/D変換器125に接続する。A/D変換器125の表示の絶対値が、正、負共に、0996から1002の間であれば、該キャパシタは性能がよいと判断できる。図101、図102において、最大4デジットの幅を設けたのは、通常、A/D変換器125は、±1デジットの基本誤差を持つからである。また、2次側電力3.25W、伝送効率η80%以上の規定を満足する値(デジット)でもある。
実際の表示Dp、Dnの双方が計測できれば、図102より、A/D変換器125の表示において、実際の表示DpとDnの差の絶対値が、3デジット以内であれば、所定の電力伝送性能が得られるのが分かる。例えば、実際Dpの表示が1001であったならば、Dnの表示値は、0998<Dn<1004、を満足していればよい。あるいは、基準電源Vrefとは別の精密電源を使い、A/D変換器125の表示が、1990になるように、入力電圧を設定してもよい。この場合、実際の表示DpとDnの差が、6デジット以内であれば、所定の電力伝送性能が得られる。この6デジットは、
3×(1990/1000)≒6デジットとして規定されているものである。
前述の式は、最大カウント値、19999カウントのA/D変換器125を使用した場合について説明しているが、例えば、最大カウント値、19999カウントのA/D変換器を使用した場合で、の回路構成の場合、3×(10000/1000)≒30デジットが規定値となる。これは、前述したDp、Dnの場合も同様であり、19999カウントのA/D変換器を使用した場合、規定値は40デジット以下になる。
誘電吸収を計測する場合に比べ、2重積分式のA/D変換器125を用いることにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断が、短時間で行える。上記に説明してきたように、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能は、キャパシタの直流特性でも判断できる。2重積分式のA/D変換器以外にも、V/Fコンバータ(電圧周波数変換器)、F/Vコンバータ(周波数電圧変換器)、VCO(電圧制御発振器)、サンプル・ホールドアンプ(瞬間電圧値保持回路)、RMS/DC変換器(交流実効値‐直流変換器)、タイマーなどのアナログ回路、アナログIC等、キャパシタを使用する回路を使い、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断が可能である。
V/Fコンバータでは、例えば、入力電圧と出力周波数の直線性を見ることにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。このようなICの一例として、アナログデバイセズ(Analog Devices)社のAD654などがある。
F/Vコンバータでは、例えば、入力周波数と出力電圧の直線性を見ることにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。このようなICの一例として、ナショナルセミコンダクター(National Semiconductor)社のLM2907などがある。
VCOでも、例えば、入力電圧と出力周波数の直線性を見ることにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。このようなICの一例として、C−MOS4046(各社製)などがある。
サンプル・ホールドアンプでは、例えば、一定の直流電圧を入力し、出力電圧と入力電圧の差を見ることにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。このようなICの一例として、アナログデバイセズ社のAD585などがある。
RMS/DC変換器では、例えば、交流電力を熱変換して、正確な交流電力を計測し、RMS/DC変換器の出力と比較することにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。このようなICの一例として、アナログデバイセズ社のAD637などがある。
タイマーでは、例えば、各種のキャパシタを装備させ、出力を周波数カウンタで計測して比較することにより、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。このようなICの一例として、タイマーIC555(各社製)などがある。
上記に述べたようなアナログICにおいて、キャパシタはいずれも各ICの精度や機能に影響するものである。したがって、上記のようなICにて複数のキャパシタで精度や機能を比較すれば、二重積分式A/D変換器と同様にして、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断ができる。なお、上記に述べたアナログICは一例であり、その他にも、キャパシタの性能を判断できるアナログICは多種存在する。
このように、所定周波数における誘電正接、ゼロ電位に対する対称性、昇圧比H、キャパシタに交流電流が流れたときの静電容量の安定性、誘電吸収、誘電吸収の対称性、二重積分式A/D変換器125の実際の表示Dp、Dnの理論値からのずれ、DpとDnの表示差を規定することにより、電力伝送装置の力率改善用に最適なキャパシタを選ぶことができるようになる。このようなキャパシタを電力伝送装置の力率改善に用いることにより、従来の技術では実現が困難であった電力伝送性能がよい電力伝送装置が実現可能となる。
次に、全く同一の誘電体を使用し、全く同一の構成のキャパシタについて、静電容量の違いによる電力伝送性能の違いについて検討してみる。
図105は、電力伝送特性の最も良いポリプロピレンキャパシタC1cと誘電体と構成が同一で静電容量が異なるキャパシタにおける、各キャパシタの複素インピーダンスの絶対値|Z|の周波数特性を示す図である。図106は、電力伝送特性の最も悪いセラミックキャパシタC1rと誘電体と構成が同一で静電容量が異なるキャパシタにおける、各キャパシタの複素インピーダンスの絶対値|Z|の周波数特性を示す図である。
キャパシタの複素インピーダンスZを、Z=Rc+jωC=Rc+Xc、とすると、
|Z|は、|Z|=√(Rc2+Xc2)(Ω)、で表される。
図105、図106を参照すると、周波数が上昇するにつれ、|Z|が減少してゆくのが分かる。静電容量の大きいキャパシタでは、1MHz〜2MHz近辺で|Z|が極小値Zb(Ω)となっている。それ以上の周波数では|Z|が増加しているのが分かる。図105、図106には、0.47μFのキャパシタの位相角θがプロットされている。|Z|が極小値Zb(Ω)となる周波数fb(Hz)以上では、位相角θが180度移動しており、キャパシタはインダクタとして動作するのが分かる。したがって、|Z|が極小値となる周波数fb(Hz)が、該キャパシタを使用可能な最高周波数となる。周波数fbは、図125の等価回路において、キャパシタの静電容量Cと等価直列インダクタンスLeとで決まる直列共振点になる。後述するが、キャパシタを並列接続すると、実効直列抵抗Rc、等価直列インダクタンスLeの双方が低下する。そのため、キャパシタに大電流を流すことができ、発熱も抑えられる。
図105、図106を参照すると、誘電体、構造、特性が異なるポリプロピレンキャパシタC1cとセラミックキャパシタC1rは、同一の静電容量であれば、|Z|(Ω)が極小値となる周波数がほぼ等しくなっているのが分かる。このように、キャパシタのインピーダンス|Z|(Ω)の周波数特性を見ることにより、該キャパシタを使用可能な最高周波数が分かる。またはキャパシタに流れる電流とキャパシタの両端電圧の位相差θの周波数特性を見ることにより、該キャパシタを使用可能な最高周波数fb(Hz)が分かる。
なお、電力伝送に使用される周波数は、最高周波数fb(Hz)以下であるなら、任意の周波数でよい。しかし、任意の周波数でキャパシタの特性規定はできない。よって、静電容量Ca(F)が決まったキャパシタにて、最高周波数fb(Hz)を求める。最高周波数fb(Hz)の最も低い値を基準とし、fb/2(Hz)以下の周波数において、上述したキャパシタの特性を計測し、前述した規定を満足しているかを確認すればよい。あるいは、200kHz、500kHzなどの、最高周波数fb以下の同一周波数を計測用周波数とし、異なるキャパシタの性能比較をしてもよい。このようにして、キャパシタ以外の構成要素、電力伝送周波数が変わったときでも、電力伝送性能を確保できる。上記の実測結果より、単体キャパシタとして使用可能なのは、0.47μF程度が上限と考えられる。後述するが、0.47μF以上の静電容量が必用な場合は、0.47μF以下の静電容量を持つキャパシタを並列接続するのが好ましい。
一般に実効直列抵抗Rcの最小値は、図105、図106における、インピーダンスの極小値と捉えられている。しかし、図86、図88と比較する限りにおいて、図105、図106との一致は見られない。しかし、これらは、定義と計測法の差異だけである。本発明は、キャパシタの実効直列抵抗や誘電正接tanδだけでは規定できない電力伝送装置の力率改善用に適したキャパシタを選び、電力伝送性能の良い電力伝送装置を実現するものである。前述したように、キャパシタ両端の正弦波電圧のゼロ点からのシフト比S、誘電正接の具体的数値、誘電吸収、二重積分型A/D変換器などによるキャパシタ特性の計測は、電力伝送周波数に関係なく、性能のよいキャパシタを選べる。その後に、図86、図87、図88、図89、図105、図106の周波数特性を計測し、キャパシタを使用可能な周波数の目安とするのが好ましい。
(キャパシタの構成の説明)
図107、図108は本発明の実施形態である具体的なキャパシタの構成を示す図である。電力伝送装置の回路構成図である、図1の、キャパシタC1は、図107(A),(B)、図108(A),(B)に示すように、誘電材料136と金属箔135を巻回されて構成されるか、あるいは誘電材料136と金属箔135とを交互に積層して構成されており、誘電材料と金属箔からなる単層1cm2当りの静電容量が1000pF以下のものを使用するのが好ましい。なお、図107において、金属箔の代わりに、誘電体フィルムに金属を蒸着させて電極を形成した構成のものであってもよい。このような構成のキャパシタは、メタライズドキャパシタと呼ばれ、誘電体フィルムにピンホールが生じても、ピンホールの周囲にある金属蒸着層が蒸発して正規の特性に戻る。この機能は、自己回復作用、または自己回復機能と呼ばれている。
本発明の実施形態においては、絶縁抵抗が高く、耐電圧の高い誘電体を導間隙に設置したキャパシタが使用され、導箔2枚と誘電材料で構成される1cm2当りの静電容量が、1000pF以下に選ばれている。誘電体を用いたキャパシタでは、静電容量値によりキャパシタの構造により特性が異なってくる。空気は、絶縁破壊が起こる電圧が、1000V/mm程度と低い。そのため、絶縁破壊が起こる電圧が高い誘電体を用いたキャパシタを使用せざるを得ない。例えば、フィルムキャパシタに用いるプラスチックフィルムの絶縁破壊電圧は、1000V/μm程度と、空気の約1000倍になっている。
また、本願発明者が、本発明の実施形態の交流電源とコイルを使い、種々のキャパシタを使って実験を行ったところ、誘電体がプラスチックフィルムであって、かつ図107や図108の構成のキャパシタは、電力伝送性能がよかった。しかし、数百〜千V以上の動作可能電圧を持つ、例えばチタン酸バリウムを誘電体とするキャパシタC1zなどは、プラスチックフィルムを誘電体とするキャパシタよりも電力伝送性能がよい場合もあった。前記C1zは直径数cm以上の円板状で、誘電材料が厚く、形状が大きくはなるが、静電容量値と円板面積から逆算すると、単層1cm2当りの静電容量は200pF程度以下となっており、前記の規定、単層1cm2当りの静電容量1000pF以下という条件を満足していた。したがって、電力伝送装置に使用するキャパシタとしては、単位面積当りの静電容量を規定することが重要となる。後述するが、単位面積あたりの静電容量を規定するのは、極板間隔、誘電体の比誘電率の一方が決まれば、他方を決定する条件になる。
本願発明者が、実際に図107(B)の箔状導体とフィルムを巻回した構成で、表2の中で最も電力伝送性能がよいポリプロピレンキャパシタC1cと誘電体が同一の、静電容量が0.47μFのキャパシタを分解し、表面積と公称容量から逆算したところ、単層面積1cm2当りの静電容量が、約1000pF以下であった。以下に実測結果を示す。
0.47μFの、キャパシタC1cと同じ構成のポリプロピレンキャパシタを分解し、極板寸法を測ったら、約2cm×250cm、であった。
極板面積Scは、Sc=2cm×250cm=500cm2、になる。
静電容量は、0.47μF=470000pFなので、1cm2当りの静電容量は、
470000pF/500cm2=940pF/cm2になる。
静電容量Cは、C=εo・εs・S/d、表される。ここで、εoは真空中の誘電率で、εo=8.85×10−12(F/m)の物理定数である。εsは比誘電率(無単位)、Sは極板の面積(m2)、dは極板間の距離(m)を表す。上式を変形し、
d=εo・εs・S/C、として、上記の定数、実測値を代入すると、
d=8.85×10−12(F/m)・εs・10−4m2/(940×10−12F)
d=(8.85/940)・εs・10−4m=εs・9.41×10−7m、
寸法測定誤差等を勘案し、9.41×10−7mを、1×10−6mとすると、
d=εs・1×10−6m=εs・μm、となる、資料によると、キャパシタC1cと同じ誘電体フィルムの比誘電率εsは、1.5〜4となっており、極板間の距離dは、最低でも1.5μmは必要となる。本願発明者が実験した限りにおいて、最も電力伝送性能のよいポリプロピレンキャパシタC1cは、同一の静電容量においては、体積が大きい部類に入る。すなわち、キャパシタの電力伝送性能は、体積に比例してよくなる傾向を持つ。よって、極板面積Sを小さくできる比誘電率は、上限を4とするのが好ましい。
なお、マイクロメーターで実測した前記誘電体フィルムの厚さは、約3μmであった。したがって、前記の誘導式、d=εs・μm、より、前記誘電体フィルムの比誘電率εsは約3と推定され、資料の数値と一致している。
(キャパシタの誘電体の説明)
キャパシタの誘電体は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレートの各ポリマー、一般式が、CR2CQ2、で表されるオレフィン系のモノマーであって、CR2CQ2、中のR、Qは、Hを含む官能基からなるモノマーの付加重合体であるポリマー、あるいは上記に記載の各ポリマーのうち、少なくとも2つの混合物から構成されている。
ここで、R、Qは、H(水素)を含む官能基、例えば、Cl(塩素)、のような単原子、CH3(メチル基)、のような官能基、C6H5(フェニル基)、のような官能基などを指す。例えば、CR2CQ2、中のR、Q全てがHの場合、モノマーはエチレン、ポリマーはポリエチレンとなる。CR2CQ2、中のR、Q全てがFの場合、モノマーはテトラフルオロエチレン、ポリマーはポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))となる。CR2CQ2、中のRの1つがフェニル基、他のRとQ全てがHの場合、モノマーはスチレン、ポリマーはポリスチレンとなる。CR2CQ2、中のR全てがH、Q全てがFの場合、モノマーはフッ化ビニリデン、ポリマーはポリフッ化ビニリデンとなる。CR2CQ2、中のR、Qの内1つがCH3、残りのQとRが全てHの場合、モノマーはプロピレン、ポリマーはポリプロピレンとなる。このような誘電材料を選び、キャパシタを適切に構成することにより、前述した電力伝送装置の力率改善に適切な特性を持つキャパシタが得られる。例えば、誘電吸収特性および誘電吸収特性の対称性がよいキャパシタが得られる。
なお、上記の表記は、IUPAC(国際純正・応用化学連合)により定められている正式な化合物命名法ではない。上記の表記は、一般に使用されている化合物名である。
本願発明者が実験した限りにおいて、静電容量が0.01μF、上述した電力伝送回路条件で、伝送電力が4W程度では、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)のフィルムを誘電体とするキャパシタの順に、電力伝送性能がよかった。ただし、ポリプロピレン(PP)を誘電体とする構成が異なるキャパシタは、ポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルムを誘電体とするキャパシタよりも、電力伝送性能が劣るものもある。次に、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)を誘電体とするキャパシタが、電力伝送性能がよかった。ポリエチレンテレフタレート(PET)を誘電体とするキャパシタは、前述したポリエチレン(PE)を誘電体とするキャパシタよりは性能が劣る。
ただし、前述したように、ポリスチレンキャパシタは、構成によっては、発熱が起こり、本発明に使用できない場合もある。このようなポリスチレンキャパシタは、実効直列抵抗Rc、誘電正接tanδの特性は、最高性能に近かった。しかし、前述した、ゼロ点からのシフト値S、Vp(V)/Vn(V)、の値が、ポリエチレンキャパシタよりも大きかった。したがって、上記のキャパシタの誘電体による電力伝送性能はあくまで実験結果であり、上述した特性規定に従い、キャパシタを選ぶことが重要になる。
なお、前述したように、強誘電体を誘電体とする、例えばセラミックキャパシタなどは、誘電正接、静電容量の安定性、静電容量の温度特性、誘電吸収など、本発明における電力伝送装置の電力伝送性能を左右するキャパシタとしての性能がいずれも悪く、電力伝送装置の力率改善用キャパシタには適していない。ただし、前述したように、静電容量が増加すると、比誘電率が小さい誘電体を用いたキャパシタと大差ない電力伝送性能が得られる。全く同一の誘電体を使い、全く同一の構造のキャパシタであっても、静電容量によって、電力伝送性能が異なってくる。また、前記キャパシタの静電容量により、使用可能な周波数の上限が存在するのは前述したとおりである。周波数にもよるが、目安としては、0.1μF程度以上の静電容量になると、フィルムキャパシタとセラミックキャパシタとの電力伝送性能に、著しい差異が見られなくなるようである。
なお、表2を参照すると、200kHzにおける実効直列抵抗Rcの値は、ポリスチレンキャパシタC1aで0.01Ω、ポリプロピレンキャパシタC1cで0.03Ωとなっている。すなわち、実効直列抵抗Rcの値で比較する限りにおいては、ポリスチレンキャパシタC1aの方が性能がよい。同じく、誘電正接tanδ、Q、の値で比較する限りにおいては、ポリスチレンキャパシタC1aの方が性能がよい。しかし、前述したVp/Vnの値、誘電吸収K、誘電吸収Kp、Kpの対称性Kr、実際の電力伝送性能などは、ポリプロピレンキャパシタC1cの方がよい。したがって、単に誘電正接tanδやQのみでは、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断はできない。前述した、所定周波数において、キャパシタの誘電正接tanδが所定数値以下であるのは、必要条件に過ぎない。図83〜図85、図93〜図95、図102〜図105等のY軸に示すキャパシタ特性の数値が大きい(グラフの上側に位置する)キャパシタを選ぶ必要がある。
図1に示す回路構成の電力伝送装置では、ポリプロピレンキャパシタC1cのように電力伝送性能がよいキャパシタを使用しても、送電制御回路3a、送電コイル1、受電コイル2、両コイルの相対位置、負荷抵抗値などの構成要素を適切に選ばないと、図83等に示すような、電力伝送性能は得られない。実際に、図83では、キャパシタ以外の構成要素を全く同一にしてあるが、キャパシタにより電力伝送性能は異なっている。したがって、キャパシタ以外の構成要素が変わったときに、電力伝送性能を維持するには、本発明の力率改善用キャパシタを電力伝送装置に装備する必要がある。キャパシタ以外の構成要素、特にコイルと2次側の負荷抵抗値は、電力伝送性能に大きな影響を与える。しかし、本発明の実施形態においては、静電容量が決まれば、電力伝送性能のよいキャパシタを上述の規定に基づき、一義的に選ぶことができる。特に、正弦波のゼロ点からのシフト値S、誘電吸収K、誘電吸収の対称性Krにより選ばれたキャパシタは、キャパシタ以外の構成要素が変化しても、常に他のキャパシタよりも優れた電力伝送性能を維持できる。このようなキャパシタを装備することにより、電力伝送性能がよい電力伝送装置が実現できる。
なお、前述した図104、図105に示す計測により、キャパシタを使用可能な上限が規定できる。そして、図83〜図85、図93〜図95、図98、図101〜図104などのY軸に示す特性がよい(グラフの上側に位置する)キャパシタを選ぶ。同一の誘電体を用いたキャパシタであっても、電力伝送性能が異なることは上述した通りである。当然、キャパシタの誘電体、構成により、電力伝送性能は異なる。しかし、実装上、常に最高性能のキャパシタが使えるとは限らない。表面実装構造のキャパシタは、実装時の耐熱性が要求される。誘電体が誘電体の融点(正確にはガラス転移点であり、軟化点と表記される場合もあるが、融点と表記しておく)を越える温度下にさらされると、変形が起こり、静電容量が変動してしまう。
このような用途には、若干電力伝送性能は劣るが、融点の高いポリフェニレンスルフィドキャパシタを選ぶ。あるいは、キャパシタの物理的な寸法が大きいために実装が困難な場合がある。このような場合は、物理的な寸法が大きいポリスチレンキャパシタやポリカーボネートキャパシタの代わりに、物理的な寸法が小さいポリエチレンナフタレートキャパシタを選ぶ。後述するが、交流電流が流れることによりキャパシタが発熱する。このような場合、キャパシタを並列接続してキャパシタの通過可能電流を確保する。並列接続したキャパシタは、単体キャパシタよりも特性がよくなるので、前述したキャパシタの特性は並列接続した合成キャパシタにて計測する。これは、キャパシタを並列接続することにより、少なくとも実効直列抵抗Rcを低下させることができるからである。
また、セラミックキャパシタは、耐熱性がよく、静電容量が0.1μF以上になると、フィルムキャパシタとそれほど差異のない電力伝送性能を持つ。したがって、静電容量が0.1μF以上のセラミックキャパシタを直列、並列、直並列に接続することにより、耐熱性と寸法小型化の双方を満足できる。さらに、動作可能電圧、通過可能電流を増加させることができる。ただし、セラミックキャパシタも、上述してきたような規定を満足する必要がある。ただし、前述した規定を満足していれば、静電容量が0.1μF以下であってもよい。一般的には、リード形状のセラミックキャパシタよりも、チップ形状(表面実装用)のセラミックキャパシタの方が、前述してきた特性がよい。チップ型形状のキャパシタの方が性能はよいのは、フィルムキャパシタにおいても見られる。
上記に述べたようなキャパシタの使用法を採用することにより、各種仕様に応じた、電力伝送性能のよい電力伝送装置が実現できる。そして、キャパシタに流れる電流に応じ、キャパシタを選ぶ。前述してきた電力伝送性能の良いキャパシタは、一般に高価である。前述した方法でキャパシタを選ぶことにより、電力伝送措置が必要とする性能に応じ、安価なキャパシタを用いることもできる。上記に述べてきた本発明の実施例は、単に誘電正接や誘電体を記載している特許文献4では、規定すらできないものである。
(回路構成の実施例)
図109は、本発明の電力伝送装置の他の実施形態を示す図であり、送電コイル1には、直流電源12とスイッチング素子Q3が直列接続されており、スイッチング素子Q3は、制御回路201の制御により、図110(A)のような駆動波形VGにて送電コイル1に単方向のパルス電流を流すと、送電コイル1の両端には図110(B)に示す電圧波形VL(V)が現れる。
図109において、送電コイル1に並列にキャパシタC3を接続し、無負荷時の回路電流を減少させるとともに、送電コイル1の電圧、電流波形を正弦波に近づけるのが好ましい。駆動波形VGにて、スイッチング素子Q3を駆動する。駆動波形の周期(周波数)は一定で、スイッチング素子Q3をONにする時間のみを変化可能としている。このような構成とすることにより、送電コイル1に流れる電流が飽和するのを防止し、送電コイル1による電力損失を防いでいる。
また、送電コイル1に並列にキャパシタC3を装備することにより、送電コイル1の電圧波形、電流波形を正弦波に近づけ、送電コイル1による電力損失を防止できる。送電コイル1に並列に装備するキャパシタC3は、前述したような実施形態に規定の特性を持つものに限定されないが、前述したような特性を持つものを使うとより好ましい。あるいは、図109に示すスイッチング素子Q3がOFFとなったときに、図110(B)に示す電圧波形VLに示されている逆起電力による負のスパイク電圧を防止するためにも、送電コイル1に並列にキャパシタC3を接続するのが好ましい。
なお、図109に示す実施形態では、必ず受電コイル2にキャパシタC2を装備しなければならない。ただし、受電コイル2にキャパシタC2を装備していれば、送電コイル1の送電制御回路3a(駆動回路)は、図109に示すものに限られない。図72に示す実施形態のもの、正弦波出力など、種々のものが適用できる。図72に示す実施形態の交流電源3bを使用する場合、デューティが50%に固定されておらず、デューティが可変可能なものを使うのが好ましい。また、正弦波で送電コイル1を駆動すると、受電コイル2が送電コイル1と誘導結合していないときに、送電コイル1は全く実効電力を消費しない。これは、送電コイル1に供給される電力が全て無効電力になるからである。よって、電力を伝送していない場合であって、送電コイル1単体に交流電力が供給されていても、送電コイル1は全く発熱しない利点がある。
図111は、本発明のその他の実施形態を示す図であり、回路構成は図1と同一で、受電コイル2と負荷RLとの間に直列にキャパシタC2が装備されている。図111のような回路構成とすると、負荷抵抗値RLの変動による送電側のインピーダンス変動を、図1の回路構成に比べて小さくすることができる。図111のC1、C2は、いずれも本発明の実施形態におけるキャパシタが使用される。ただし、図111のC2は、主として受電機器など実装スペースが小さいところに装備される。また、図111の回路構成では、前述したように所定の電力を伝送可能な周波数範囲が広いので、通過可能電流を満足していれば、キャパシタC2は、必ずしも上記実施形態に記載したキャパシタを使用しなくともよい。
(キャパシタを装備する箇所による2端子等価回路の説明)
図112は、送電コイル1にキャパシタを直列に装備した場合の等価回路および簡略化した2端子の等価回路図である。
(送電側にキャパシタを装備した場合の説明)
送電コイル1にキャパシタC1を直列接続した等価回路は、図112(A)に示され、簡略化した2端子の等価回路は、図112(B)に示すようにキャパシタC1と、残留インダクタンスLeと、抵抗Rxの直列回路でされる。送電コイル1のインダクタンスはL1、受電コイル2のインダクタンスはL2で示される。これは図124と同じである。
導線コイルを使用した場合においては、相互インダクタンスMを考慮して、図112(B)の2端子等価回路を検討する必要がある。しかし、本発明の電力伝送装置において、送電コイル1を駆動する周波数fd(Hz)は、送電コイルのインダクタンスL1(H)と、キャパシタの静電容量C1(F)で決まる直列共振点fr(Hz)に設定しておけばよい。ただし、図45に示すように、送電コイルと受電コイル間の相互インダクタンスが無視できない場合は、前述した(4)式から、送電コイルのインダクタンスが減少する。そのような条件で作動するときは、送電コイルのインダクタンスが減少を勘案し、送電コイル1を駆動する周波数fd(Hz)を、前期fr(Hz)よりも高く設定しておく。
(キャパシタ複数接続の実施例)
なお、前述したが、図124に示す直列回路では、キャパシタの両端に電源電圧Vt以上の電圧が発生する昇圧効果が起こる。図124の等価回路と同じ、図1、図109、図111、の回路構成において、本発明の実施形態に述べたキャパシタの動作可能電圧が低い場合、キャパシタの動作可能電圧を確保するため、同種または異種の複数のキャパシタを直列に接続してもよい。また、本発明の実施形態に述べたキャパシタの通過可能電流が低い場合、キャパシタの通過可能電流を確保するため、同種または異種の複数のキャパシタを並列に接続してもよい。あるいは、キャパシタの動作可能電圧、通過可能電流の双方を確保するため、同種または異種の複数のキャパシタを直並列に接続してもよい。なお、前述したが、キャパシタを並列に接続するのは、キャパシタの通過可能電流を確保して、キャパシタの発熱を、5℃〜10℃以下に抑えるためである。
好ましくは、キャパシタを直並列に接続する場合、直列接続するキャパシタの数と、並列に接続するキャパシタの数を同一にする。図116は、キャパシタを直並列に接続する場合の接続図である。図116(A)、図116(B)、図116(C)は、直列接続するキャパシタの数を3、並列に接続するキャパシタの数を2とした場合の接続例である。
そして、直列、並列に接続するキャパシタCdの値を±20%以内にするのは、各キャパシタCdに印加される電圧、各キャパシタCdに流れる電流をできる限り均一に近づけるためである。1%以下の精度を持つキャパシタも存在するが、これらは高価である。一般のキャパシタに表記されている静電容量は、5〜10%程度の偏差を持つため、キャパシタCdの公称値は、約±20%以内に選べばよい。例えば、0.01μFを基準とすると、上限は0.012μF、下限は、0.0082μFとなる。同一の公称値を持つキャパシタをCd全てに使用すれば、より好ましい。なお、同一の種類、公称値のキャパシタを直並列に接続する場合、図116(D)のような接続をすると、キャパシタCd1に過大電圧が印加されるので、このような接続法を使用しないよう、キャパシタを直並列に接続する場合、直列接続するキャパシタの数と、並列に接続するキャパシタの数を同一とする規定を設けてある。
さらに精密な調整が必要な場合は、図116(E)に示すようにキャパシタCcを用いて行う。キャパシタの静電容量を微調整するために、単体キャパシタCd、合成キャパシタCp、または合成キャパシタCpを構成するCdに並列に接続するキャパシタCcは、この発明の実施形態の特性規定を必ずしも満足する必要はないが、満足しているのが好ましい。ただし、並列に接続するキャパシタCcも、交流電源の出力周波数が、前記LpとCとで決まる、リアクタンスがゼロとなる点に設定されているときの、並列に接続するキャパシタCcに印加される交流電圧Vc(V)より高い動作可能電圧性能をCcが有しており、かつ、並列に接続するキャパシタCcに流れる交流電流Ia(A)より高い通過可能電流性能を並列に接続するキャパシタCcが有していることを条件としている。なお、合成キャパシタCpは、図112の各図に示す左右端双方の端子から成るものを指す。
コイルとキャパシタの直列回路のリアクタンスがゼロとなる点では、共振作用により、キャパシタに、Ia(A)なる電流が流れ、Vr(V)=Vs(V)×Qr、なる電圧が印加されるので、キャパシタの実効直列抵抗Rcは十分に低いものを選び、熱条件を満足する周波数を電力伝送に選ぶことが重要である。
なお、キャパシタの両端電圧Vc(V)は、図1の回路において、最大電力を伝送しているときに実測すればよい。実測後、両端電圧Vc(V)がキャパシタの動作可能電圧を越えているときには、前述したように、キャパシタを直列に接続する。同じく、キャパシタに流れる電流は、図1の回路において、最大電力を伝送しているときに実測する。キャパシタが通過可能な交流電流は、リップル電流として規定されている場合もある。しかし、規定が無い場合には、前述したように、キャパシタの温度上昇を計測する。温度上昇が10℃を越えているときは、キャパシタを並列接続する。キャパシタの動作可能電圧、通過可能電流の双方を越えているときには、キャパシタを直並列に接続する。キャパシタを直列、並列、直並列に接続する場合、合成キャパシタの静電容量が所定値となるよう、合成キャパシタを構成するCdの値を選ぶ。そして、上述した特性規定は、前記合成キャパシタにて計測する。
また、上記に説明した各キャパシタの実効抵抗やインダクタンスの測定には、ヒューレットパッカード社のLCRメータ、4275Aを使用した。なお、計測は、1、2、4、10の各点でしか計測できないので、中間点は、グラフにより補間している。交流波形計測には、ケンウッドのオシロスコープ、CS−5370を使用した。交流波の図には、ピーク値をカーソルで計測後にグラフに数値として記入してある。CS−5370は、電力伝送性能の計測にも使用している。例えば、受電コイル2に接続された無誘導負荷抵抗の両端電圧を計測し、無誘導負荷抵抗に伝達されている実効電力を求めている。
(電力伝送装置の交流電源の実施形態)
図114は、この発明の一実施形態の電力伝送装置の送電部を示す回路図である。図114において、送電部31は、交流電源3bと、箔状導体を平板渦巻き状に巻回して構成される一次コイルである送電コイルLpと、交流電源3bと送電コイルLpとの間に直列接続された送電キャパシタCpとを含み、送電コイルLpから、図示しない受電コイルLrに電力を伝送する。以下、前記電力伝送装置の送電部を含む部分を送電装置と表記する。
交流電源3bは、少なくとも1つの直流電源Vdと、制御手段としての制御回路3cと、例えばパワーMOS−FETを使用した第1および第2の半導体素子としてのスイッチング素子Qa,Qbと、出力端子T1,T2とを備える。共通の端子としての第1の端子である出力端子T1と、第2の端子としての出力端子T2間には送電キャパシタCpと送電コイルLpとの直列回路が接続されている。出力端子T1には、スイッチング素子Qa,Qbのドレインと、制御回路3の制御端子FBとが接続されている。制御回路3cには、直流電源Vdから+電圧と接地電圧(0V)とが与えられている。スイッチング素子Qaのソースには、制御回路3cから+電圧が与えられており、スイッチング素子Qbのソースは出力端子T2に接続されているとともに、制御回路3cから接地電位(0V)が与えられている。
制御回路3cの制御端子Gaからスイッチング素子Qaのゲートに制御信号が与えられており、制御回路3cの制御端子Gbからスイッチング素子Qbのゲートに制御信号が与えられている。スイッチング素子Qa,Qbはコンプリメンタリ接続された構成となっているが、これに限らず、スイッチング素子Qa、Qbの双方をN−ChのFETを使用し、Qaのソース、Qbのドレインを接続するように構成してもよい。また、伝送電力、電力伝送に使用する周波数によっては、バイポーラトランジスタやIGBTを使用することもできる。これは、後述する他の実施形態においても同様である。なお、図114において、電力伝送に使用する周波数をfs(Hz)とすると、Zsはfsにおける交流電源3bの出力インピーダンスであり、Rcはfsにおける送電キャパシタCp単体の実効直列抵抗であり、Rwはfsにおける送電コイルLp単体の実効直列抵抗である。
図114に示す交流電源3bの周波数は、図114の送電コイルLp、キャパシタCで決まる、交流電源3bから見た、前記送電コイルLpと前記キャパシタCの直列回路のリアクタンスがゼロとなる周波数か、それよりも若干周波数が高い、前記直列回路のインピーダンスが極小となる点に近接して設定されるのが好ましい。
これは、前記(4)式から、負荷が接続された受電コイルが、結合係数が高い状態で送電コイルに対向すると、送電側のインダクタンスが減少するため、送電側のリアクタンスがゼロとなる周波数は、図114に記載の前記Lp単体と前記Cの直列回路のリアクタンスがゼロとなる周波数よりも高くなるからである。受電コイルが対向すると、送電コイルのインダクタンスが減少する。
図115は、図114に示したスイッチング素子Qa,Qbの制御信号と、出力端子T1,T2間に出力される電圧Voutの波形を示す図であり。図116は出力端子T1,T2間に出力される正弦波信号の波形図である。
図115(A)に示すように制御回路3cの制御端子Gaから出力される制御信号がOFFからONに変化すると、スイッチング素子Qaが導通して、出力端子T1,T2間の電位が図115(C)に示すように、直流電源Vdの+Vdのレベルまで上昇し、出力端子T1から電流Ifが流し出される。図115(C)に示す時間t1(S)を経過すると、制御端子Gaから出力される制御信号がOFFになり、スイッチング素子Qaが非導通になる。
その後、時間t3(S)を経過すると、図115(B)に示すように、制御端子Gbから出力される制御信号がOFFからONに変化する。これにより、スイッチング素子Qbが導通して出力端子T1が接地電位になり、出力端子T1にコイルに蓄えられたエネルギーからの電流Irが引き込まれる。時間t2(S)を経過すると、制御端子Gbから出力される制御信号がONからOFFに変化し、スイッチング素子Qbが非導通になる。
このように、出力端子T1から電流を流し出す時間t1(S)と、出力端子T1から電流を引き込む時間t2(S)が交互に存在するように、スイッチング素子Qa,Qbのゲートが制御回路3cにより制御され、出力端子T1とT2との間に尖頭値が0Vと+Vdの間で変化する方形波が出力される。
通常、スイッチング素子は、ON時間とOFF時間が非対称のため、スイッチング素子Qaを導通させ、スイッチング素子Qbを非導通にする信号を、同時にそれぞれのゲートに加えると、スイッチング素子Qa,Qbの双方が、短時間ではあるが、同時に導通してしまうことがある。このため、直流電源Vdが短絡され、スイッチング素子Qa,Qbを通して過大電流が流れ、スイッチング素子Qa,QbのON抵抗が電力を消費し、スイッチング素子Qa,Qbが発熱する。
この状態を回避するため、スイッチング素子Qbを非導通にする信号をスイッチング素子Qbのゲートに加え、スイッチング素子Qbが完全に非導通になってからスイッチング素子Qaを導通させる信号をスイッチング素子Qaのゲートに加える。そのため、スイッチング素子Qa,Qbの双方が非導通になり、出力端子T1の出力がハイインピーダンスとなる時間t3≧0(S)を設けている。
出力端子T1から電流を流し出している時間t1(S)、出力端子T1に電流を引き込んでいる時間t2(S)に対し、t3(S)の時間を調整することにより、リアクタンス性素子の作用により、回路電圧、電流が正弦波に近づくので、送電コイルLpを適切に駆動し、前記送電コイルLpが十分な磁束を発生させることができるだけの交流電流を、送電コイルLpに流すことができる。また、t3(S)の時間を増減することにより、送電コイルLpに供給する電力を調整できる。
なお、図114、図115に示した実施形態では、電源出力がハイインピーダンスとなる時間、t3を設けているが、スイッチング素子、Qa、Qb、のスイッチング速度が、前記t1、t2に比較して十分に高速、概ね50倍以上である場合には、特に、前記t3を設ける必要は無い。前記t3を設けないことにより、制御回路3cを簡略化し、コストダウンを図れる。例えば、出力電流が1A程度である場合には、スイッチング素子、Qa、Qb、に高速のスイッチング速度を持つものが使用でき、かつ、後述する、Zs≦(Rw+Rc)、の条件を満足することができるので、前記t3を設けなくともよい。
図114に示した交流電源3bの、交流電力を伝送する周波数fs(Hz)における出力インピーダンスZs(Ω)は、前記fsにおける、前記送電コイルLp単体の実効直列抵抗をRw(Ω)、前記fsにおける、前記送電キャパシタCp単体の実効直列抵抗をRc(Ω)、としたときに、少なくとも、Zs≦(Rw+Rc)、の条件を満足している。
この条件を満足しないと、実効直列抵抗RwとRcによる電力損失よりも、交流電源2の内部インピーダンスZsによる損失の方が大きくなり、交流電源3bから効率良く送電コイルLpに電力を送れなくなる。
なお、Zs=Rw+Rcのときは、いわゆる最大電力供給の法則に従う内部インピーダンスZsを持つ電源から負荷に最大電力を供給可能な条件で、特殊な場合に使うことができる。ただし、Zs>(Rw+Rc)、となると、出力インピーダンスZsが消費する電力が、Rw+Rcが消費する電力を上回るうえ、負荷に供給可能な電力が減少するので、Zs=(Rw+Rc)、を満足するように留意しなければならない。
しかし、本発明の作用効果は、長距離の電力伝送であり、電力伝送効率の向上を目的とはしていない。よって、概ね、Zsは、(Rw+Rc)の4倍程度以下であれば、発明として実施は可能である。この場合、交流電源の電力のうち、20%程度しか送電コイルに供給できない。しかし、本発明の作用効果を実現するには、交流電源内部で電力損失があっても、問題は無い。ただし、この場合は、交流電源に供給する直流電源の電源容量が過大となる。したがって、Zsの値はできる限り小さい方が好ましい。
好ましくは、図114において、Zs<<(Rw+Rc)、を満足する。
例えば、交流電源3bの開放電圧を、Vs、Zs=0.1Ω、Rw+Rc=0.9Ω、とすると、直列共振点での負荷電流Irは、
Ir=Vs/(Zs+Rw+Rc)(A)、となり、負荷電力Prは、
Pr=Ir2×(Rw+Rc)(W)、となる。
交流電源2のZsで消費される電力Pdは、上記と同様に、
Pd=Ir2×Zs(W)、となり、
負荷電力、Prは、Pr=0.9×Ir2(W)となって、
交流電源3b内で消費される電力、Pdは、Pd=0.1×Ir2(W)となる。
すなわち、交流電源3bから出力される電力、(0.1+0.9)×Ir2(W)、のうち、90%が送電コイルとキャパシタの直列回路に伝達されることになり、交流電源2内部での損失となる電力は10%になる。すなわち、前記Zs、Rw、Rc、のシンボルを使うと、交流電源2から送電コイルへの電力伝達効率、ηtは、
ηt=(Rw+Rc)/(Zs+Rw+Rc)
=1/(Zs/((Rw+Rc)+1))、となるので、
Zs<<(Rw+Rc)、を満足し、Zs/(Rw+Rc)、の値が小さいほど、前記ηt、が高くなるのが分かる。
したがって、好ましくは、Zs/(Rw+Rc)≦4、(Zsの損失20%)、
より好ましくは、Zs/(Rw+Rc)≦9、(Zsの損失10%)、
さらに好ましくは、Zs/(Rw+Rc)≦19、(Zsの損失5%)、を満足する。
交流電源からLC直列回路を見ると、共振点で、純抵抗、Rw+Rc、となるが、方形波でLC直列回路を駆動する場合においては、方形波は、奇数倍の高調波成分を持つので、波形に歪が生じる。
したがって、Zs/(Rw+Rc)、の値は可能な限り低い方が好ましい。この交流電源の特性は、本発明においても、また、他の構成の大電力を高効率で伝送可能なコイルにおいても、交流電源の重要な特性規定となるが、相互誘導作用、変成器について十分に把握されていない従来の技術では、交流電源の特性については全く言及されていない。
アンテナのような単体で固有の共振周波数と固有インピーダンスを持つものに対しては、送信機内部で、送信機の出力インピーダンスをアンテナのインピーダンスに変換する必要があるが、本発明は相互誘導作用を利用しており、特定の波長(周波数)の電磁波を空中に放出する、あるいは特定の波長(周波数)の電磁波を捉えるという機能を持ったアンテナとは根本的に作用効果が異なっている。すなわち、アンテナの場合、送信機の出力インピーダンスとアンテナの固有インピーダンスが一致していないと、定在波による損失が発生してしまう。一方、理想的なコイル単体には、固有の共振周波数も固有インピーダンスも存在しないので、インピーダンス整合も必要なく、定在波も発生しない。
相互誘導作用を利用しているコイルを使う限りにおいては、前述したように、送信機から供給される電力の半分が損失となるような、アンテナの固有インピーダンスとの整合を取る(インピーダンス変換を行う)必要はない。リアクタンスがゼロとなる電力伝送に使用する周波数fs(Hz)において、コイルの実効抵抗をRw(Ω)、キャパシタの実効抵抗をRc(Ω)として、(Rw+Rc)よりも十分に低い内部インピーダンスZsを持つ交流電源を用いることにより、交流電源から送電コイルに電力を伝達する効率を、理論上は、100%に近くすることができる。
相互誘導作用とアンテナの作用とは動作原理が根本的に異なるのであるが、両者が混同され、前記相違点について明確に言及した従来技術も存在しない。例えば、特開2000−348152号公報には、相互誘導作用により電力を受電するループ状コイルを「アンテナ」と記載しており、コイルとアンテナの明確な区別が行われていない。
なお、図114の制御回路3cは、各スイッチング素子Qa,Qbを導通−非導通にするのみならず、各スイッチング素子Qa,Qbのゲート電圧を制御し、図116に示すように、正弦波を発生させることも可能である。図116に示した正弦波は、出力電圧がゼロか最大値以外の点では、QaとQbの双方が導通しているので、交流電源の出力インピーダンスZsを小さくし、出力端子T1−T2間に流れる電流を確保しようとすると、スイッチング素子QaとQbのON抵抗を通じて、直流電源Vdを短絡する電流が流れ、スイッチング素子QaとQbのON抵抗による損失が発生する。このような場合は、前記出力インピーダンスZsを計算上で求められないので、電力を伝送する周波数fsにおいて、図114の出力端子T1−T2間に、例えば無誘導抵抗R(Ω)を接続したときの出力端子T1−T2間の電圧をVr、出力端子T1−T2間を開放したときの電圧をVnとすると、
Vn=Vd、Vr=Vd(R/(R+Zs))、となるので、
Vr=Vn/(R/(R+Zs))、R+Zs=Vn/(R・Vr)
Zs=Vn/(R・Vr)−R
例えば、R=1Ωなら、Zs=Vn/(Vr)−1(Ω)
R=2Ωなら、Zs=Vn/(2・Vr)−2(Ω)
として、出力インピーダンスZsを求める。これは、図116に限らず、図115の方形波、後述する図122に示す階段波でも同じで、出力インピーダンスZsは周波数により変動するため、電力を伝送する周波数fs(Hz)において計測する。これは、他の実施形態においても同様である。
また、正弦波を発生させる交流電源の出力インピーダンスを低下させる方法の一例は、特開平5−22048号公報、特開平5−22049号公報などに開示されているが、正弦波を用いる利点は、素子や回路に対し回路理論が適用可能で、実測値と、理論上の数値との乖離を測定できることにある。出力インピーダンスZsが低い正弦波出力の電源は、前述したキャパシタの実効抵抗を計測するのにも必要となる。ただし、前記した方法で、前記正弦波出力交流電源の出力インピーダンスZsを計測しておく必要がある。
この場合において、第1、第2の半導体素子は、バイアス点によってはA級動作となるので、直流―交流変換効率は低下するが、非飽和領域で使用するため、高速のスイッチング特性を持たない半導体素子でも、出力インピーダンスを低くすることができる。
なお、B級動作、C級動作とすることにより、A級動作よも出力インピーダンスは多少高くなり、出力波形に歪みが生じるが、直流―交流変換効率を上げることができる。LC直列回路は、波形を正弦波に戻す作用があり、特に共振点近辺では前記作用が強く、B級動作、C級動作を採用することもできる。なお、交流電源の出力周波数が低い場合には、D級動作を採用することにより、直流―交流変換効率をさらに上げることができる。
前述したように、本発明は、電力伝送効率は低くとも、長距離の電力伝送を可能とするものであるので、直流−交流変換効率が問題とならず、出力インピーダンスを下げてコイルに十分な電流を流すためであれば、インピーダンス変換器等を用い出力インピーダンスを下げる手法や、図114などのように、交流電源の出力からフィードバック制御をかけて出力インピーダンスを下げる手法を用いることもできる。図114において、スイッチング素子Qa、QbのON抵抗が大きく、T1の出力インピーダンスZsが大きい場合でも、Zsは、Zs=ΔE/ΔI、で定義されるため、出力電流ΔIが変化しても、出力電圧が一定で、ΔEがゼロであれば、理論上Zsはゼロになる。実際には、Zsはゼロとはならないが、理論上ゼロとなるのは、オペアンプや定電圧電源の動作原理として知られている。この実際のZsは、前述したように、交流電源の端子が開放状態のときと、無誘導抵抗を接続したときの出力電圧の差から求められる。
図117は、この発明の他の実施形態における送電部32を示す回路図である。図114〜図116に示した実施形態では、交流電源3bから尖頭値が0Vと+Vdの間で変化する方形波を出力するようにしたのに対して、図117に示した実施形態は、交流電源3b1から尖頭値が、−Vdと+Vdの間で変化する方形波を出力するように構成したものである。
すなわち、制御回路3cは、図114に示した制御回路3cと同様にして、制御端子Ga,Gbから制御信号を出力するとともに、制御端子Gc,Gdからも制御信号を出力する。制御端子Gc,Gdから出力された制御信号は、スイッチング素子Qc,Qdのゲートに与えられる。なお、スイッチング素子Qc,Qdも、例えばパワーMOS−FETが使用される。
スイッチング素子Qc,Qdのドレインは、制御回路3cの制御端子FB2に接続されるとともに出力端子T2に接続されている。スイッチング素子Qcのソースはスイッチング素子Qaのソースに接続されており、スイッチング素子Qdのソースは、スイッチング素子Qbのソースに接続されている。スイッチング素子Qa,Qcと制御回路3aとの接続は、図117と同じである。スイッチング素子Qa,Qcは電流Ifを流し出し、スイッチング素子Qb,Qdは電流Irを引き込む作用をなす。
図118は、図117のスイッチング素子Qa〜Qdのゲートを制御する波形と、出力端子T1,T2間に出力される出力波形を示している。
図118(A),(D)に示すように制御信号Ga,GdがOFFからONに変化すると、スイッチング素子Qa,Qdが導通し、時間t1(S)の間だけ直流電源Vdの+端子から電圧+Vdが制御回路3cからスイッチング素子Qaを介して出力端子T1に出力される。T1からCp、Lp、出力端子T2を通り、スイッチング素子Qdから制御回路3cを介して直流電源Vdの−端子に、Ifの方向に電流が流れる。時間t1(S)経過後に制御信号Ga,GdがOFFになるので、スイッチング素子Qa,Qdが非導通になり、時間t3(S)の間ハイインピーダンス状態となる。その後、図118(B),(C)に示すように、制御信号Gb,GcがOFFからONに変化する。すると、スイッチング素子Qb,Qcが導通し、時間t2(S)の間だけ直流電源Vdの+端子から電圧+Vdが制御回路3cからスイッチング素子Qcを介して出力端子T2に出力され、出力端子T2からCp、Lp、出力端子T1を通り、スイッチング素子Qbから制御回路3cを介して直流電源Vdの−端子に、Irの方向に電流が流れる。すなわち、時間t1には、出力端子T1は+Vd、出力端子T2はGNDとなり、時間t2には、出力端子T1はGND、出力端子T2は+Vdとなり、この動作を繰り返すことにより、出力端子T1,T2間には図118(E)に示すように、+Vd、−Vdの2値を取る、尖頭値が出力電圧Voutとして出力される。これにより、図115(C)に示した出力電圧Voutに比べて2倍の振幅の方形波が得られるので、送電コイルLpと送電キャパシタCpの直列回路のリアクタンスがゼロとなった点で、前記直列回路に大きな電流を流すことができる。
そして、これらの実施形態では、交流電源3bの出力周波数は、送電コイルLpと前記送電キャパシタCpとで決まる、リアクタンスがゼロ、あるいはインピーダンスが極小となるとなる点に近接して設定されている。
送電コイルLpと送電キャパシタCpとで決まる、リアクタンスがゼロの点は直列共振点であるが、実際のコイルやキャパシタは、実効直列抵抗、実効並列抵抗を持つので、リアクタンスがゼロの点と、インピーダンスが極小となるとなる点は、わずかに異なっており、インピーダンスが極小となるとなる点はリアクタンスがゼロの点よりも若干高い。そして、前記周波数fsは、前述したコイルを使用可能な周波数領域であるf1以下の周波数である。fsをf1以下に設定する作用効果については、コイルに関する実施形態にて既述したとおりである。
図114および図117に示した実施形態における送電部31,32は、送電コイルLpの周囲に広範囲に渡り磁束を形成することができ、送電コイルLpの面積よりも小さい面積の任意の構成を持つ受電コイルLrに、長距離の電力伝送が可能な送電装置であるという作用効果を持つ。
この場合においては、両コイル間の結合係数が小さいので、受電側の影響を送電側が受けないため、送電コイルLpに流れる交流電流が最大となるよう、交流電源3b,3b1の周波数は、送電コイルLpと送電キャパシタCpとで決まる、リアクタンスがゼロ、あるいはインピーダンスが極小となる点に近接して設定すればよく、キャパシタを用いて力率改善を行っている従来の送電装置のように、複雑な制御回路を必要としない。
また、これらの実施形態では、各素子の熱抵抗をθq(℃/W)、各素子の動作可能温度をTq(℃)、各素子が設置される場所の周囲温度をTa(℃)、各素子に流れる平均実効電流をIa(A)、とすると、各素子QのON抵抗をRq(Ω)、としたときには、各素子全てが、(Tq−Ta)≧θq(Rq×Ia2)、を満足し、各スイッチング素子Qa,Qb,Qc,Qdの両端電圧をVq(V)、としたときには、各素子全てが、(Tq−Ta)≧θq(Vq×Ia)、を満足している。
上記、(Tq−Ta)≧θq(Rq×Ia2)、(Tq−Ta)≧θq(Vq×Ia)、の条件は、送電コイルLpにおいても規定されている熱条件であり、回路あるいは素子が使用可能な熱条件を規定しているものである。
コイルの熱抵抗、θi、を、直流定電流源を用いて計測する方法を既述したが、まず、半導体素子の熱抵抗、θq、について説明する。通常、熱抵抗は、素子の材質、形状等を勘案して熱拡散方程式を解く必要がある。しかし、前述したように、熱拡散方程式を解くのは困難な場合が多いので、初期の素子温度をTaとし、素子に一定の電力P(W)を消費させ、熱平衡の定常状態になった時の温度とTaの温度差をTrとし、
θq=Tr/P(℃/W)、として、近似的に熱抵抗を求める。
トランジスタやFETのような能動素子の場合は、単体では熱抵抗θqが非常に大きく、50〜90(℃/W)となるが、放熱板を装備することにより、熱抵抗を数℃/W、以下に低下させることが可能である。トランジスタやFETのような能動素子では、規格が定められており、実際に熱抵抗を実験により求めずとも、単体での熱抵抗が規定されている場合が多く、また放熱板としてどのような形状、寸法のものが必要であるかについても、規定されている場合が多い。
簡便には、TO−220のパッケージであれば、ほぼ同一の熱抵抗を持つので、放熱板に取り付けた出力電圧が5Vである7805の三端子レギュレーターU1(図示せず)の出力に5Ωの抵抗を接続すれば、U1の出力には1Aの定電流が流れるので、入力電圧を15Vとすると、前記7805で消費される電力Pは、P=(15−5)V×1A約10Wとなる。熱平衡となる定常状態で、前記7805の温度が30℃上昇すれば、熱抵抗θqは、θq=30℃/10W=3(℃/W)となる。
FETの場合には、ON抵抗Rqとドレイン−ソース間に流れる電流Iaの二乗を掛けたものが、素子の損失Pq(W)となるので、このようにして求めた熱抵抗θqに、損失Pqを掛けると、素子の温度上昇値Tr(℃)が求められる。Tr=θq×Rq×Ia2(℃)となり、素子が動作可能な温度をTw(℃)、素子が設置される場所の周囲温度をTa(℃)とすると、Tr=Tw−Taとなり、不等式、(Tw−Ta)≧θq(Rw×Ia2)を満足しないと、素子の使用可能温度を越えてしまい、この実施形態を実施するのが困難になる。
同様に、バイポーラトランジスタの場合は、コレクタ−エミッタ間の飽和電圧、Vq(V)と、コレクタ−エミッタ間に流れる電流Ia(A)を掛けたものが、素子の損失Pq(W)となるので、熱抵抗θqに、Pqを掛けると、素子の温度上昇値Tr(℃)が求められる。FETの場合と同様に、Tr=Tw−Taとなり、不等式、
(Tq−Ta)≧θq(Vq×Ia)を満足しないとならない。
図119は、特許文献6の図9の問題点を解決した実施形態の一例を示す送電部33の交流電源3b2の回路構成を示す図である。図119において、交流電源3b2はスイッチング素子Q1〜Q4と、リバースダイオードD1〜D4と、ダイオードD11〜D14とを含む。スイッチング素子Q1〜Q4の各ドレインと各ソース間には、それぞれ寄生のリバースダイオードD1〜D4が存在しており、各ドレインはダイオードD11〜D14を介して出力端子T1に接続されている。出力端子T2は接地されている。
スイッチング素子Q1〜Q4が導通したときに直流電源V1〜V4が、リバースダイオードダイオードD11〜D14により短絡するのを阻止する。直流電源V1とV2,V3とV4は、それぞれ直列接続されており、直流電源V2の−側と直流電源V3の+側は接地されている。スイッチング素子Q1,Q2の各ソースは直流電源V1,V2の+側に接続されており、スイッチング素子Q3,Q4の各ソースは直流電源V3,V4の−側に接続されている。スイッチング素子Q1〜Q4の各ゲートには図示しない制御回路から制御信号G1〜G4が与えられている。
図120は、図119に示したスイッチング素子Q1〜Q4の制御信号と、出力端子T1,T2間に出力される電圧Voutの波形を示す図である。
図120(A)に示すように制御信号G1がOFFからONになるとスイッチング素子Q1が導通し、直流電源V1とV2の加算された電圧+V×2がスイッチング素子Q1を介して出力端子T1に出力される。図120(B)に示すように制御信号G2がONすると、スイッチング素子Q2が導通して、直流電源V2の直流電圧+Vがスイッチング素子Q2を介して出力端子T1に出力される。
図120(C)に示すように制御信号G3がONすると、スイッチング素子Q3が導通して、直流電源V3の直流電圧−Vがスイッチング素子Q3を介して出力端子T1に出力される。図120(D)に示すように制御信号G4がONすると、スイッチング素子Q4が導通して、直流電源V3とV4の加算された電圧−V×2がスイッチング素子Q4を介して出力端子T1に出力される。
したがって、出力端子T1,T2間には、図120(E)に示すように、正弦波に近い階段波形が得られるとともに、スイッチング素子Q1〜Q4は、導通−非導通のみの動作なので、直流電源V1〜V4からの直流電力を交流電力に変換する効率を極めて高くすることができる。
なお、各制御信号G1〜G4がON,OFFする間の時間ta,tb,tcはハイインピーダンスになっており、t3=ta+tb+tcとすると、出力端子T1,T2間に、+の電位が現れる時間t1と、−の電位が現れる時間t2は、t3<t1、t3<t2になるように選ばれる。
図121は、図119の交流電源3b2を変形した送電部34の一例を示す回路構成を表す図である。この実施形態は、接地の基準電位を設けた例で、出力端子T1が接地電位に接続され、出力端子T1とT2の間がハイインピーダンスとならないように構成したものである。
図121は、図119と同様にして、交流電源3b2が、スイッチング素子Q1〜Q6と、リバースダイオードD1〜D6と、ダイオードD11〜D16とを含む。スイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインと各ソース間には、それぞれリバースダイオードD1〜D6が接続されており、各ドレインはダイオードD11〜D16を介して出力端子T1に接続されている。出力端子T2は接地されている。
直流電源V1〜V4は、それぞれ直列接続されており、直流電源V2の−側と直流電源V3の+側は接地されている。スイッチング素子Q1,Q2の各ソースは、それぞれ直流電源V1,V2の+側に接続されており、スイッチング素子Q3,Q4の各ソースは、それぞれ接地され、スイッチング素子Q5,Q6の各ソースは、直流電源V3,V4の−側にそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートには図示しない制御回路から制御信号G1〜G6が与えられている。
図122は、図121に示したスイッチング素子Q1〜Q6の制御信号と、出力端子T1,T2間に出力される電圧Voutの波形を示す図である。図122(A)に示すように制御信号G1がOFFからONになるとスイッチング素子Q1が導通し、直流電源V1とV2の加算された電圧+2Vがスイッチング素子Q1を介して出力端子T1に出力される。図122(B)に示すように制御信号G2がONすると、スイッチング素子Q2が導通して、直流電源V2の直流電圧+Vがスイッチング素子Q2を介して出力端子T1に出力される。
図122(C)に示すように制御信号G3がONすると、スイッチング素子Q3が導通して接地電位がスイッチング素子Q3を介して出力端子T1に出力される。図122(D)に示すように制御信号G4がONすると、スイッチング素子Q4が導通して接地電位がスイッチング素子Q4を介して出力端子T1に出力される。図122(E)に示すように、制御信号G5がONすると、スイッチング素子Q5が導通し、直流電源V3の直流電圧−Vがスイッチング素子Q5を介して出力端子T1に出力される。図122(F)に示すように制御信号G6がONすると、スイッチング素子Q6が導通して、直流電源V3とV4の加算された電圧−2Vがスイッチング素子Q6を介して出力端子T1に出力される。
したがって、出力端子T1,T2間には、図122(G)に示すように、正弦波に近い階段波形が得られるとともに、スイッチング素子Q1〜Q6は、導通−非導通のみの動作なので、直流電源V1〜V4からの直流電圧を交流電源に変換する効率を極めて高くすることができ、半導体素子に装備する放熱板の寸法を小さくするか、あるいは半導体素子単体で使用することができる。
なお、各制御信号G1〜G6がON,OFFする間の時間ta,tb,tc,td,te,tfはハイインピーダンスになっており、t3=ta+tb+tc+td+te+tfとすると、出力端子T1,T2間に+の電位が現れる時間t1(S)と、−の電位が現れる時間t2(S)は、t3<t1、t3<t2になるように選ばれる。
図119、図121の実施形態の交流電源において、出力周波数fo(Hz)は、図120、図122の、t1、t2、t3より、p=t1+t2+t3(S)、とすると、fo=1/p、となり、foを、前記送電コイルLpと前記送電キャパシタCpとで決まる、リアクタンスがゼロ、あるいはインピーダンスが極小となるとなる点に近接して設定する。
上記の実施形態において、本発明の送電コイルは、要求される性能に基づき設計されるので、インダクタンスは固定値となるが、交流電源の周波数と、キャパシタのキャパシタンスは可変できるので、コイルを駆動する概略の周波数を決めておき、交流電源、キャパシタのどちらかで、リアクタンスがゼロ、あるいはインピーダンスが極小となるとなる点に設定すれば良い。
また、交流電源の出力周波数を可変可能とし、共振周波数fr近辺で交流電源の周波数を可変すると、コイルに流れる電流が変化するので、コイルに供給する電力を調整することができる。送電部は、単純な直列共振回路であり、負荷の影響が少なく、受電コイルと送電コイルの結合係数も小さい。よって、送電コイルのリアクタンスもほぼ一定である。
面積が送電コイルの1/5程度の大きさの受電コイルが送電コイルの中心部に置かれた場合などは、共振点がずれ、送電コイルに流れる電流が低下する。しかし、このような状態では、送電コイルと受電コイル間の結合係数が高いので、受電コイルに十分な電力を送ることができる。
なお、図119、図121の実施形態において、(Tq−Ta)≧θq(Vq×Ia)の条件をD1〜D6が満足している必要が有り、(Tq−Ta)≧θq(Rq×Ia2)の条件をQ1〜Q6が満足していなければならない。前記したように、Iaは、各素子に流れる平均実効電流であり、各素子に分かれて流れる。ただし、Vqは、D1〜D6の素子バラツキによって、Rqは、Q1〜Q6の素子バラツキによって異なってくることに留意する。
上述のごとく、図114、図117、図119、図121のような実施形態の交流電源を送電部に使用することにより、送電キャパシタCpを直列接続した送電コイルLpに十分な交流電流を流すことが可能となり、送電コイルLpは広い範囲に磁束を形成できる。
なお、上記、図114、図117、図119、図121に記載されている直流電源Vd,V1〜V4は、電池等を使ってもよいし、商用の交流電源から生成してもよい。
図123は、図119および図121における直流電源V1〜V4を生成する回路図の一例である。図122において、変成器PTの図示しない送電コイルに商用電源電圧を与え、二次コイルから所定の電圧を降圧してダイオードD21〜D28により降圧した交流電圧を整流することで、直流電圧+V×2,+V,0V,−V,−V×2を取り出すことができる。
なお、出力が入力側の商用交流電源と絶縁された電源を使用するなら、スイッチング電源等を使ってもよい。その他、本方式は、本質的に送電コイルと受電コイルが絶縁されているため、PWM降圧方式などで、直接直流電源を交流電源から生成することもできる。
図114、図117、図119、図121の実施形態は、回路構成としての一例であり、図114、図117、図119、図121に明示した、送信コイルLpにIf、Irの双方向に電流が流せる交流電源であって、前記Zs、前記Rw、前記Rcが、Zs≦(Rw+Rc)を満足し、前記不等式、(Tw−Ta)≧θq(Rw×Ia2)を満足するか、前記不等式、(Tq−Ta)≧θq(Vq×Ia)を満足しており、直流電源から交流電源への変換効率が問題とならない場合には、交流電源の出力波形は、方形波、階段波に限ることはなく、前記実施形態に限らず、種々の実施形態を実現することが可能である。
例えば、図114において、送電コイルLpに電磁的に結合した第3のコイルを設け、前記第3のコイルから制御回路3に正帰還をかけることにより、自励発振を行わせることもできる。本発明においては、通常、送電コイルLpには一定の電流を流しておき、特別な制御を必要としないので、送信コイルLpにIf、Irの双方向に電流が流せる回路構成で、前記Zs、前記Rw、前記Rcが、Zs≦(Rw+Rc)を満足し、前記不等式、(Tw−Ta)≧θq(Rw×Ia2)を満足するか、前記不等式、(Tq−Ta)≧θq(Vq×Ia)を満足している限りにおいて、種々の自励発振回路を使うこともできる。
ただし、前記、t1、t2、t3の規定については、図115、図118、図120、図122のように、交流電源の出力端子T1、T2の箇所で満足しなければならない条件であり、各スイッチング素子Q1〜Q6のゲートを制御する時間の規定ではない。また、t1、t2、t3の比を変化させてコイルに供給する電力を調整することも可能であり、その場合には、必ずしも、t3<t1、t3<t2、の条件を満足する必要はない。
なお、特開2005−6459号公報の段落番号0025、図3には、スイッチング素子であるFETのゲートを制御し、2つのFETがOFFになるような制御回路が開示されているが、前記図3は、一方のFETのゲート信号がOFFになったら、他方のFETのゲートをONにしているだけであり、図114の実施形態のようにドレイン出力からの信号を制御回路が検知する手段があるか、あるいは、FETのON時間とOFF時間を勘案してゲート信号を制御しない限り、前記図3にて両FETがOFFとなる時間が確実に存在する保証はない。
すなわち、通常のロジックICの遅延時間を勘案すると、特開2005−6459号公報の図3では、一方のFETのゲート信号がOFFになったことを検知してから、他方のFETのゲートをONにする時間は20nS以下であり、キャパシタによる遅延回路が設けてあるとはいえ、パワーFETのON時間とOFF時間は、数十nS以上異なっているのが通常である。
また、特開2005−6459号公報は、ハイインピーダンスの時間を規定しておらず、元々が受電側の状態を検知し、送電周波数を変化させて受電側の状態を適切に制御する発明であって、本発明のように、基本的な電力伝送性能を向上させるものではなく、送電コイルに供給可能な電力も高々5Wであり、後述するように、1MHz以上の周波数でも使用可能な本発明のコイルに、10W以上の電力を供給するのに適した回路ではない。
本発明の実施形態によれば、コイルの全方向に広がる磁束を発生させることが可能となり、長距離の電力伝送が可能になる。例えば、大きさがB4用紙サイズ程度の送電コイルを用い、LEDの負荷を装備した受電コイルに、50cm以上の距離でLEDが点灯するだけの電力伝送ができ、コイル巻回面と同一平面では、送電コイルを中心とし、送電コイルの面積の倍以上の面積で、LEDの負荷を装備した受電コイルにLEDが点灯するだけの電力を伝送できる。あるいは、前記送電コイル上のほぼ全面で、受電コイルにほぼ均一な電力を供給できる。また、送電コイルの巻回面と受電コイルの巻回面が平行でなく、任意の角度や位置関係であっても、電力を伝送できる。
前記の性能を実現するため、前記送電コイルを駆動するには、尖頭値が10Vの方形波があれば十分で、例えば、5Vで動作する汎用の高速C−MOSロジックバッファーを並列接続すれば、十分に低い電源インピーダンスが得られ、電力損失の少ない交流電源が低コストで実現できる。また、長距離の電力伝送性能を達成するには、高い周波数でコイルを駆動する必要があるが、本構成の交流電源を用いれば10MHz程度まで安定して動作する交流電源が、低コストで実現できる。
また、本発明によれば、力率を向上させるため、正のリアクタンス成分を打ち消すキャパシタの、実効直列抵抗や実効並列抵抗とリアクタンスの関係を規定することにより、電力を伝送する周波数における最適なキャパシタを選定することができ、あるいは電力を伝送するのに最適な周波数を選定できる。
上述のごとく、この発明の実施形態では、面積比の大きいコイル間で電力を伝送するので、送電コイルと受電コイルとの結合係数が小さい。そのため、送電コイルが受電側の影響を受けないので、交流電源は、送電コイルとキャパシタとで決まる、リアクタンスがゼロとなる周波数に固定しておけばよく、フィードバック制御や、交流電源と送電コイルの電圧位相を比較して、受電側の状態を検知し、交流電源の交流電圧や周波数を調整するような複雑な手段を必要としない。したがって、電力伝送装置を低コストで実現することが可能となる。
さらに、空芯コイルに金属体が近接したときに、電力伝送性能が低下する現象を排除する方法を提供する。また、送電コイルよりも大きい金属枠を送電コイルに近接して設置することにより、少なくともコイルの巻回面と同一平面では、金属枠の大きさまで、電力伝送範囲を広げることが可能となる。
具体的には、例えば、前記したように、B4サイズ程度の送電コイルに、10Wの実効電力を供給することにより、直径5cm程度の円板状にホルマル線を50ターン巻いた受電コイルにキャパシタとLEDを並列に接続した受電側装置に、送電コイル上約50cm以上の距離の電力伝送ができる。また、受電側装置が、送電コイルの巻回面に対して、どのような角度であっても電力を伝送可能とする。
さらに、一般に使用されている長距離電力伝送用の非接触ICカードは、数十Wの送電電力で、数十mWの電力を、数十cmの距離間で伝送できるが、上記の性能は、10W程度の送電電力で、0.5W近い電力を、数十cmの距離間で伝送できるものである。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
1,Lp 送電コイル、2, 受電コイル、3,3d,3e, 送電部、3a 送電制御回路、3b,3b1,3b2 交流電源、3c,201 制御回路、4,4d,4e 受電部、4a 受電制御回路、12 直流電源、2,2a,2b,2c 交流電源、3c 制御回路、3,3a 送電部、5,5a,5b 受電装置 10a〜10y,10A〜10J,90 コイル、20a,20b 受電コイル 20,20a,20b,21,22,50,60,64 板状部材、26 溝、26,29,30,34,36,30b,30c,30d,30e,51,53,55,61,63,65,66,67 箔状導体、30a 絶縁体、40,50 被覆電線、22 平坦面、23,27,33,35,40〜44 傾斜面、24,30,37,45 側壁面、51〜54,56,62,64 導線、68 半田、71 疎巻き部分、72 蜜巻き部分、75,100 送電用コイル、73,74,76,200 受電用コイル、80 金属枠、82 アルミ板、85,85a,85b オシロスコープ、86 交流定電流電源、87交流電圧計、91,911,912 磁性材板、92 絶縁板、95 金属板、100,100d,100e 電力伝送装置、125 A/D変換器、126 表示器、127 スイッチ、128 オペアンプ、135 金属箔、136 誘電材料、D1〜D6 リカバリダイオード、D11〜D16 ダイオード、Qa,Qb,Qc,Qd,Q1〜Q6 スイッチング素子、T1,T2 出力端子、Cp 送電キャパシタ、V1〜V4,Vd 直流電源。