(電力伝送装置の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態における電力伝送装置100を示す回路構成図である。図1において、電力伝送装置100は、それぞれが分離可能に構成された送電部10と、受電部20とを含む。送電部10は、送電制御回路11と、直流電源12と、送電コイル1と、キャパシタC1とを含む。送電制御回路11は、直流電源12の直流電圧Vd(V)を交流電力に変換して出力する交流電源13を含む。キャパシタC1は、送電制御回路11の交流電力出力端子と送電コイル1の一方端との間に接続されている。キャパシタC1は、送電コイル1とともに直列回路を構成している。キャパシタC1は、無極性であり、送電コイル1の残留インダクタンスLeに起因する正の残留リアクタンス成分を打ち消して力率を改善するために設けられており、後述するように電力伝送装置100の力率改善用に適切なものが選ばれている。
受電部20は、受電コイル2と、負荷21とを含む。送電コイル1と受電コイル2とは、分離可能に構成されている。電力伝送時には両コイルが誘導結合され、送電コイル1から受電コイル2に電力が伝送され、負荷21に供給される。送電用コイル1と、受電用コイル2には、例えば、平面渦巻状に巻回されたコイルが使用される。
図1の実施例では、図43に示す等価回路にキャパシタCeを付加した図44の等価回路となる。この場合、送電制御回路11に接続されているLC直列回路は、図44の等価回路のように、インピーダンスZ1が純抵抗Reとなっている。後述する受電コイル2にキャパシタを装備する場合においても、送電制御回路11に接続されているLC直列回路のリアクタンスがゼロになるようにキャパシタが作用する。受電コイル2にキャパシタを装備する場合は、図44の等価回路において、コイルLeと、純抵抗Reの間に、キャパシタCeが直列接続される等価回路となる。力率改善の作用効果は、キャパシタが送電コイル1に装備されていても、受電コイル2に装備されていても同様である。すなわち、キャパシタ以外の構成要因が決まっているときには、送電制御回路11に接続されている2端子回路のリアクタンスをゼロとするように、キャパシタの静電容量が選ばれるか、あるいは交流電源13の周波数が設定される。
図2は、図1に示す送電制御回路11に含まれる交流電源13の一例を示す図である。図2において、交流電源13は、制御回路14と、スイッチング素子Q1、Q2とを含む。制御回路14には、直流電源12から直流電圧Vd(V)が供給されており、制御回路14は、スイッチング素子Q1、Q2の各ゲートに制御信号を交互に与える。スイッチング素子Q1のドレインには直流電圧Vd(V)が供給されており、スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインは、キャパシタC1の一方の電極に共通接続されている。スイッチング素子Q2のソースはGND(接地)に接続されている。
制御回路14は、スイッチング素子Q1、Q2を交互に導通させて、キャパシタC1を介して送電コイル1に非正弦波である方形波を供給する。この方形波は、Vd(V)とGNDとの間でレベルが変化する、デューティ50%、振幅Vd(V)の波形である。キャパシタC1と送電コイル1は、図2に図示していない受電部を含め、図44の等価回路のようなLC直列共振回路を構成しているので、方形波信号に基づいて共振する。そして、振幅がVL(V)の正弦波交流が送電コイル1から図1に示した受電コイル2に伝送されて負荷21に供給される。後述するが、振幅VL(V)は振幅Vd(V)よりも数倍から数十倍に昇圧される。
(LC直列共振回路の説明)
図3は、LC直列共振回路の特性を計測する回路図である。図3において、交流電源13の交流電力出力端とGNDとの間には、基準コイルLsと、計測用キャパシタCxと、抵抗R2とが接続される。計測用キャパシタCxの両端には、オシロスコープ30が接続され、キャパシタCxの両端電圧が計測される。R2は0.1Ω程度の抵抗で、R2の両端電圧を計測することにより、LC直列共振回路に流れる交流電流を計測する、交流電源13は、評価しようとするキャパシタCxのリアクタンスXcと、基準コイルLs単体のリアクタンスXiが等しくなるように、出力周波数が設定される。
図4は、図3のLC直列共振回路の特性を計測する回路を構成する各素子の純抵抗成分(実効直列抵抗)を含む等価回路図である。図4において、Rc(Ω)はキャパシタCの実効直列抵抗、Riは送電コイル1の実効直列抵抗、Rm(Ω)は、コイル1の実効直列抵抗Riと、キャパシタCの実効直列抵抗Rcとの加算値(Ri+Rc)(Ω)であり、出力インピーダンスZs(Ω)は交流電源13の出力インピーダンスを示す。
(キャパシタの説明)
まず、本願発明者は、図1の回路にて、キャパシタ以外の構成要素である交流電源13と、送電コイル1、受電コイル2、負荷21に全て同一のものを使い、周波数を同一として電力伝送試験を行なってみた。その結果、静電容量が同一のキャパシタを用いても、キャパシタの誘電体や構成が異なることによって、電力伝送性能が異なるのを見出した。また、同一の誘電体により構成されたキャパシタであっても、キャパシタの構成によって、電力伝送性能が異なるのを見出した。さらに、送電コイル1を変え、キャパシタの誘電体と構成が全く同一であっても、静電容量によって電力伝送性能が異なるのを見出した。
そこで、本願発明者は、0.01μFの17種のキャパシタC1a〜C1rを用意し、まずLCRメータにて、キャパシタの特性を計測した。C1a,C1bはポリスチレン(PS)、C1c,C1gはポリプロピレン(PP)、C1dはポリカーボネート(PC)、C1e,C1fはポリフェニレンスルフィド(PPS)、C1g,C1qはポリエチレン(PE)C1h,C1p,C1s,C1rはセラミック(CE)、C1i,C1k.C1m,C1nはポリエチレンテレフタレート(PET)、をそれぞれ誘電体としている。
これらのキャパシタの特性を、実効直列抵抗Rcの低い順に並べ替えたものが表1になる。なお、表1に示す各キャパシタは、各5個程度を実測し、平均値を求め、平均値に近いキャパシタの特性値を記載したものである。ただし、特性が計測不能なキャパシタ、計測値に再現性が無いキャパシタ、電力伝送性能が著しく悪いキャパシタなど、基礎データとならないキャパシタは、表1から除外してある。
表1で、0.01μFのキャパシタと、100kHz、200kHzの周波数を選んだのは、後述するキャパシタの特性計測の一実施形態において、キャパシタおよびコイルのリアクタンスを確保するためである。また、コイルの実効直列抵抗Ri(Ω)を、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)と同等以上にするためである。キャパシタの静電容量とキャパシタの各パラメータの周波数特性については後述する。
なお、表1には記載していないが、ポリエチレンナフタレート(PEN)を誘電体とするキャパシタについても、電力伝送性能を計測してある。ポリエチレンナフタレートキャパシタの電力伝送性能については、後述する。
特許文献1の段落番号0013には、電力伝送用周波数として50kHzから500kHzが好ましいと記載されているが、キャパシタの高周波数領域における特性は、キャパシタによっても異なる。さらに、全く同一の誘電体を使い、全く同一の構成のキャパシタであっても、静電容量によって、電力伝送性能が異なってくる。
これらのキャパシタの周波数特性については、使用可能な周波数領域を、実例を挙げて後述する。表1を基礎データとし、キャパシタの特性につき考察する。最初に、JISに規定されている本発明の実施形態に関連するキャパシタの特性を表2に記載しておく。
(キャパシタの特性計測の原理)
まず、キャパシタの特性を計測する原理について説明しておく。図5は、キャパシタの静電容量を計測する計測回路の原理回路図の一例で、LCRメータにおける静電容量の計測方法の一例を示す原理図である。
図5の回路構成のLCRメータは、交流定電流源41と交流電圧計42とを含む。図5においてRzはプローブなどをキャパシタCの端子に電気的に接触させたときの接触抵抗である。交流定電流源41から交流定電流I(A)をキャパシタCに流し、キャパシタCの両端電圧V(V)を交流電圧計42で計測することにより、キャパシタCの静電容量を計測する。キャパシタCの両端電圧V(V)を正確に計測できるよう、いわゆる4端子計測法という手法が使われている。これは、微小電流や微小電圧を計測するときに、図5に示す接触抵抗Rz(Ω)などの影響を排除するためである。
なお、図示していないが、図5に示すLCRメータは、交流定電流源41の位相と交流電圧計42にて計測した電圧位相との位相差θを検知する手段を備えている。よって、図5に示すLCRメータは、複素インピーダンスを計測できる。
キャパシタのリアクタンスXc(Ω)は、インピーダンスZ(Ω)であるので、
Xc(Ω)=Z(Ω)=V(V)/I(A)、として求められる。キャパシタCの静電容量C(F)を計測する角周波数をωとすると、C(F)=Xc(Ω)/ω、として静電容量C(F)が求められる。実際には、Zは複素インピーダンスであり、電流I(A)の位相は電圧V(V)の位相よりもθ(0度≦θ≦90度)進んでいる。したがって、キャパシタのリアクタンスXc(Ω)は、Xc(Ω)=Z・sinθ(Ω)、として求められる。また、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)は、Rc(Ω)=Z・cosθ(Ω)、として求められる。よって、C(F)=Xc(Ω)/ω=Z(Ω)・sinθ/ωとなる。上式より明らかなように、キャパシタのQは、Q=Xc(Ω)/Rc(Ω)、であるので、Q=(Z・sinθ/Z・cosθ)=tanθ、となる。Qは、電圧Vと電流Iの数値には関係なく、電流Iと電圧Vの位相差、θだけの関数となっている。位相差θは、θ=tan−1(Q)、として求められる。
(静電容量の時間変化の説明)
図6は、図5に示したLCRメータにて、電力伝送性能が悪いポリエチレンテレフタレートキャパシタC1n、セラミックキャパシタC1sの静電容量を計測したときの、計測開始時間から5分間の静電容量の変動を示すグラフである。
本願発明者が図5のLCRメータにて、電力伝送性能が悪いキャパシタの静電容量を計測したところ、静電容量の表示が安定せず、一定表示となるまでに数分の時間を要した。図2、図3のLC直列回路においても、キャパシタには交流電流Ic(A)が流れている。したがって、Icが流れた瞬間からキャパシタの静電容量が安定するまでに相当の時間がかかる。これは、図2、図3の回路において、リアクタンスがゼロとなる周波数が時間と共に変動することを示している。すなわち、図2、図3の回路に表1に示したポリエチレンテレフタレートキャパシタC1n、セラミックキャパシタC1sを使うと、電流Ic(A)が変動したときに安定して動作させることができない。これは、実際に図2、図3の回路で確認するまでもなく、数桁の分解能がある一般のLCRメータで静電容量を計測し、静電容量値が安定するまでの時間を見れば簡単に分かることである。
実測結果から見ると、5秒程度以下で安定しないキャパシタは電力伝送性能が悪い。すなわち、計測開始から5秒後以降の計測数値が±0.1%以上変動しない必要がある。あるいは、5分間の計測時間で静電容量の変動率が、1%以下、計測開始から1分間の計測時間で静電容量の変動率が0.2%以下である必要がある。
図5の回路構成のLCRメータにおいては、前述したように、いわゆる4端子計測法という手法が使われている。このような微小電流や微小電圧を用いて静電容量を計測しても、静電容量を安定して計測できない。したがって、図6のように、計測した静電容量が安定していないキャパシタは、図2、図3の回路においても静電容量が安定せず、電力伝送性能が悪く、かつ電力伝送性能が変動する。強誘電体、例えば一部のセラミックキャパシタの温度特性は非常に悪く、70℃程度になると、静電容量が半分程度になる場合もあることが一般に知られている。このような、静電容量が温度により大きく変動する特性を持つキャパシタも、当然のことながら、本発明には使用できない。ただし、セラミックを誘電体とするキャパシタであっても、静電容量の温度特性がよいものもある。目安として、25℃のときの静電容量を基準とし、0℃から85℃の間で、静電容量の温度変化が、±5%以下であるのが、最低限満足しないとならない条件となる。
(昇圧比の説明)
次に、図4に示した直列共振回路を構成する基本回路の動作を説明する。図4において、ωL(Ω)=(1/ωC)(Ω)、となる周波数ωで、回路に流れる電流I(A)は最大値Ir(A)となる。これは、図44で、CeとLeが共に短絡された状態である。
以降、共振周波数、または共振点と表記する場合、ωL(Ω)=(1/ωC)(Ω)、となる周波数を指すものとする。すなわち、直列共振回路において、コイルのリアクタンスXi(Ω)とキャパシタのリアクタンスXc(Ω)が、Xi(Ω)=Xc(Ω)、となる周波数frである。本願発明者は、交流電源13と、送電コイル1に同一のものを使い、キャパシタを種々用意して、最大値Ir(A)を計測した。図4において、コイル1は、平面空芯状に構成されたものが使用されている。200kHzにおける交流電源13の出力インピーダンスZsは、0.2Ωである。交流電源13の開放出力電圧Vo(V)は実効値、1V(2Vp−p)に固定してある。交流電源13の出力インピーダンスZs(Ω)は、交流電源13の開放出力電圧のピーク値をVo(V)、交流電源13の出力に2Ωの無誘導抵抗を接続したときの交流電源13の出力電圧のピーク値をVt(V)とし、Zs(Ω)=2(Ω)×(Vo−Vt)(V)/Vo(V)、として求めてある。
同じく、200kHzにおける送電コイル1単体の実効直列抵抗Riは1.35Ω、インダクタンスは約60μH、リアクタンスXiは80Ωである。したがって、キャパシタの実効直列抵抗をRc(Ω)とすると、回路に流れる電流I(A)の最大値Ir(A)は、
Ir(A)=Vo(V)/(Zs(Ω)+Rw(Ω)+Rc(Ω))、となる。そして、送電コイル1の両端電圧Vi(V)は、Vi(V)=Xi(Ω)×Ir(A)、となる。すなわち、交流電源13の出力インピーダンスZs(Ω)が十分に低く、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)が、Rc(Ω)<<Ri(Ω)、を満足しているならば、送電コイル1単体のQをQiとすると、送電コイル1の両端には、
Vi(V)=Vo(V)×Qi、の電圧が発生する。このQiを昇圧比Hと呼ぶ。実際には、キャパシタのQ、Qcを勘案し、直列共振回路のQ、Qrは、
1/Qr=1/Qc+1/Qi、なる関係にある。Qc>>Qi、が成立しない場合、昇圧比Hは、H=Qr、となる。上述したが、ωL1(Ω)=1/ωC1(Ω)、となる周波数では、コイルのリアクタンスXi(Ω)とキャパシタCのリアクタンスXc(Ω)が等しくなる。よって、キャパシタの両端電圧Vc(V)は、Vi(V)と等しくなる。本願発明者は、表1に示す、公称値0.01μFの各種キャパシタを使い、キャパシタの両端電圧Vc(V)、および前述した昇圧比H、H=Vc(V)/Vo(V)、をオシロスコープ30にて計測してみた。
図7は、表1に示した200kHzにおける各キャパシタの実効直列抵抗RcをX軸とし、昇圧比Hと駆動回路電流Id(mA)をY軸としたグラフである。図7に示す特性上の黒点は各キャパシタにおける昇圧比の実測値H,駆動回路電流IDを示している。図7において、Htは、Qrより計算した昇圧比の理論値である。なお、黒点は各キャパシタの計測値であり、中間点は、グラフにより補間している。
図8は、図4の回路に直列に抵抗R3を付加した回路図である。図8に示すR3の作用については後述する。交流電源13の出力インピーダンスZs(Ω)は、0.2Ωと極めて低い。しかし、本実施形態においては、コイルの実効直列抵抗Ri(Ω)、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)、が2Ω以下であり、Zsを無視できない。そこで、Zsを考慮しなくて済むよう、LC直列回路に接続される交流電源の出力電圧をVt(V)とする。Vt(V)は前記Vo(V)よりも小さくなるが、Vt(V)を計測すれば、LC直列回路に流れる電流を、Zs(Ω)に関係なく計算することができる。以下、Vt(V)とVo(V)を、実施形態によって使い分けることにする。
図7より、キャパシタにより昇圧比Hが異なることが分かる。直列共振点では、リアクタンス成分がゼロとなり、純抵抗成分である実効直列抵抗Rm(Ω)のみとなる。そのため、Ir(A)=Vt(V)/Rm(Ω)、なる電流Ir(A)が回路に流れる。
よって、コイルの両端に発生する電圧Vi(V)は、
Vi(V)=Ir(A)×Xi(Ω)、となる。
キャパシタの両端に発生する電圧Vc(V)は、
Vc(V)=Ir(A)×Xc(Ω)、となる。
直列共振点では、Xi(Ω)=Xc(Ω)であるので、Vi(V)=Vc(V)、である。Vi(V)とVc(V)は、共に位相が180度ずれており、かつ、振幅が等しいので、図8のA点とB点間の電圧は、理論上ゼロとなる。すなわち、A点とB点間は短絡と同じ状態になる。実際には、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)とコイルの実効直列抵抗Ri(Ω)が存在するので、A点とB点間には正弦波の残留電圧が発生する。
電流Ir(A)=Vo(V)/(Zs(Ω)+Ri(Ω)+Rc(Ω))、に、
Zs=0.2Ω、Ri=1.35Ω、を代入すると、
Zs+Ri+Rc=Rc+1.55Ω、となり、Rc≒0Ω、なら、共振周波数における回路電流Ir(A)は、理論上、Ir=1V/1.55Ω=666mA、となる。
図3の回路において、R2を0.1Ωの交流電流計測用抵抗とし、表1の実効直列抵抗Rc(Ω)が0.01ΩのポリスチレンキャパシタC1aを使い、図3に示すように、オシロスコープ30で、R2の両端電圧の極大値を計測すると83mVであった。よって、図3の回路には、尖頭値、83mV/0.1Ω=830mA、の電流が流れていることになる。すなわち、830/√2=586mAの実効電流が流れていることになり、ほぼ理論通りの結果が得られた。理論値666mAと、実測値586mAの差異は、交流電流計測用抵抗R2が回路に直列に付加されたからと推察される。
図4の回路中の実効直列抵抗Rm(Ω)は、Rm=Ri+Rc=1.55Ωである。共振点にて、実効直列抵抗Rmが消費する電力Prは、
Pr=0.586(A)2×1.55(Ω)=0.52W、になる。直流電源12の出力電圧は2V、出力電流は0.26Aで、出力電力は、2V×0.26A=0.52W、となり、ほぼ理論と合致する結果が得られている。
しかしながら、表1の一部のキャパシタは、
Ir(A)=Vo(V)/(Zs(Ω)+Ri(Ω)+Rc(Ω))、の関係、および、
Ir(A)=Vt(V)/(Ri(Ω)+Rc(Ω))=Vt(V)/(Rm(Ω))、の関係、を満足していない。また、昇圧比Hについても、直列共振回路のQをQrとしたときに、1/Qr=1/Qc+1/Qi、の関係から求められる昇圧比Hの理論値を満足していない。すなわち、H≠Qr、となっている。
実例を示すと、例えば表1のセラミックキャパシタC1sは、200kHzにおける実効直列抵抗Rcが1.57Ωとなっている。したがって、Zs+Rw+Rcは、
Zs+Rw+Rc=0.2+1.35+1.57=3.12Ω、となる。
図3において、理論上の共振点における回路電流Itは、実効値で、
It=1V/3.12Ω=320mAとなる。
よって、図3の理論上の消費電力Pt、Pt=I2R(W)、は、
Pt=I2R=0.32A×0.32A×3.12Ω=0.32W、となる。
一方、駆動回路図2の実測電流は、63mAであり、図3の回路に投入される電力は、
2V×0.063A=0.126W、となる。すなわち、理論上は、0.32Wを消費するべき図3の回路が、実測上は、0.126Wしか消費していない。
また、この電力から図3の回路電流Iを逆算すると、
I=√(P/R)=√(0.126W/3.12Ω)=200mAとなる。
理論値Itは320mAであるが、実測値Iは、200mAとなっている。
理論値から計算したキャパシタの両端電圧Vcは、実効値で、
Vc=72.4Ω×0.32A=23.17V、となる。
理論上の昇圧比Htは、Ht=23.17/1=23.17となるが、実測した昇圧比Hは10.8程度しかない。昇圧比Ht、Hを、キャパシタ電圧を示すものとする。
以上の結果をまとめると、理論値と実測値の比は、
電流では、200mA/320mA=0.625
電圧では、10.8/23.17=0.466
電力では、126mW/320mW=0.394
となる。いずれも理論値よりも小さい値となっている。しかし、後述するが、理論値よりも大きくなる場合もある。これは、キャパシタの静電容量が、0.01μFではなく、表1より、最大で、±10%程度の偏差があり、共振周波数が200kHzよりずれているからと推察される。図3の直列共振回路を利用し、このようにしてキャパシタの性能を判断することができる。
図7には、理論上の昇圧比Ht、Ht=Qrがプロットされている。なお、図7で、セラミックキャパシタC1hは、実効直列抵抗Rcから計算した理論値とずれている。これは、セラミックキャパシタC1sを参照し前述した理論値と合致しないキャパシタで、以下の規定を満足していない。これについては後述する。
以上の実験結果より、理論上の昇圧比Htと、実測した昇圧比Hの比、H/Htが、
H/Ht>0.9、の条件を満足すれば、後述する所定の電力伝送性能を確保できる。
図7を参照すると、H/Ht>1、となるキャパシタも存在する。前述したように、それらのキャパシタの静電容量が0.01μFよりも小さく、共振周波数が高くなる。コイルは同一であるため、コイルのリアクタンスXi(Ω)が大きくなる。その結果、キャパシタのリアクタンスXi(Ω)も大きくなる。共振点での駆動回路電流IDr(A)は、コイルの実効直列抵抗Ri(Ω)と、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)のみで決まる。よって、駆動回路電流IDr(A)は同一なので、キャパシタの両端電圧、
Vc(V)=Xc(Ω)×IDr(A)、が大きくなるからと推察される。
ここで、It(A)=Vt(V)/(Ri(Ω)+Rc(Ω))、とすると、上記の実験結果から、理論上の回路電流Itと実測した回路電流Irの比、Ir/Itが、
Ir(A)/It(A)>0.9、の条件を満足すれば、後述する所定の電力伝送性能を確保できる。これは、直列共振点において、交流電源13の出力電圧をVt(V)、キャパシタの両端電圧をVc(V)、とすると、Vc(V)/Vt(V)>0.9、の条件を満足するのと等価である。前述したが、H=Vc(V)/Vt(V)である。よって、Vc(V)/Vt(V)>0.9、の条件は、し実測した昇圧比をHと、LC直列回路のQ、Qrとすると、H>0.9×Qr、と等価である。共振周波数の差異によっては、H>Ht、となることがある。しかし、通常はHt>H、であるので、特にHの上限を規定する必要はない。図7の実測結果からは、H>Ht、となる場合、Hは、Htの1.2倍程度であった。なお、昇圧比Hのシンボルを定義した関係上、Htを定義しているが、Ht=Qrである。これは、前述した理論の通りである。
そして、理論上の回路電力Ptと実測した回路電力Pの比、P/Ptが、
0.8<P/Pt、の条件を満足すれば、後述する所定の電力伝送性能を確保できる。
上述した、H/Ht、I/It、P/Pt、と電力伝送性能の相関については、実例を挙げて後述する。次に、1/Qr=1/Qc+1/Qi、を計算してみる。
表1より、セラミックキャパシタC1sの200kHzにおける、Xc=72.4Ω、共振点では、Xc(Ω)=Xi(Ω)、であるから、
Qi=Xi/Ri=72.4Ω/1.35Ω=53.62、
Qc=Xc/Rc=72.4Ω/1.57Ω=46.11
1/Qi+1/Qc=1/53.62+1/46.11=0.04
Qr=1/0.041=24.8、となり、
上記に求めた理論上の昇圧比Ht=23.17との若干の差異が出るが、上記に求めた理論上の昇圧比Htは、交流電源の出力インピーダンスZsを加味しており、出力インピーダンスZsを除外して計算すると、Ri+Rc=1.35Ω+1.57Ω=2.92Ω、Ir=Vt(V)/(Ri(Ω)+Rc(Ω))=1V/2.92Ω=0.342A、
Vc=72.4Ω×0.342A=24.8V、となり、Ht=Qr、となる。上述したように、実際の昇圧比Hは、10.8であり、キャパシタC1sは、理論上の相関、
1/Qr=1/Qc+1/Qi、の関係を満足していない。
上記に述べてきたように、キャパシタ自体に交流電流が流れるような、図1、図2の回路構成に使われるキャパシタの特性については、従来、理論値と実験値の差異などが全く検討されておらず、先行文献も存在していない。
図7と計算より、昇圧比Hが理論値と合致するキャパシタもあれば、キャパシタによっては、昇圧比Hが理論値Htと異なることが分かった。そこで、本願発明者は、図3において、キャパシタの両端電圧を、再度オシロスコープにて計測してみた。
(キャパシタの性能評価方法、性能評価装置の実施例の説明)
図9は、図3の共振点における、表1のポリプロピレンキャパシタC1c両端の交流電圧波形である。図10は、表1のセラミックキャパシタC1s両端の交流電圧波形である。図11は、図8の回路において、R3を30Ω程度としたときのセラミックキャパシタC1s両端の交流電圧波形である。なお、図9から図10は、図3におけるR2を取り除き、図3のGNDを基準として各キャパシタの両端電圧を計測したものである。なお、オシロスコープ30のGNDは、図3のように、交流電源13のGNDと接続しなければならない。これは、後述するGNDに対する正のピーク値Vp、負のピーク値Vnを計測し、VpとVnの比、Vp/Vn、を求めたときに、Vp/Vn>1、となるようにするためである。逆接続すると、Vp/Vn<1、となり、数値規定から外れてしまう。
図9と図10を比較すれば分かるように、図9では、ポリプロピレンキャパシタC1cの両端電圧波形がゼロ点(図3のGND)に対し、正負ともにほぼ対称である。一方、図10では、セラミックキャパシタC1sの両端電圧波形が、ゼロ点に対しプラス方向にシフトしており、正負非対称の波形になっている。すなわち、セラミックキャパシタC1sの両端電圧波形には、正の直流成分が含まれている。このような現象は、前述した図8の回路において、30Ω程度の無誘導抵抗R3を直列に挿入したさらに顕著となる。この、ゼロ点に対し大きくプラス方向にシフトしている波形が、図11である。ポリプロピレンキャパシタC1cの両端電圧を、図11と同一の条件で計測した場合、正方向へのシフトは、非常に少ないのが、実験上確認されている。
図12は、表1に示す各キャパシタの、200kHzにおける実効直列抵抗RcをX軸とし、正弦波からのシフト比SをY軸としたグラフである。図12を見ると、黒点に示す各キャパシタの実効直列抵抗Rcと、正弦波からのシフト比Sとに相関は見られない。
図13は、表1に示す各キャパシタの、ゼロ点からのシフト比をX軸とし、Y軸を電力伝送性能としたグラフである。
図14は、表1に示す各キャパシタの、200kHzにおける実効直列抵抗RcをX軸とし、Y軸を電力伝送性能としたグラフである。
図15は、表1に示す各キャパシタの、誘電正接tanδをX軸とし、Y軸を電力伝送性能としたグラフである。
図13から図15において、電力伝送性能は、2次側電力P2(W)と、伝送効率ηで示される。2次側電力P2は、1次側の交流電圧を一定とし、送電コイル、受電コイル、両コイルの相対位置、負荷抵抗値を同一とし、2次側に伝送可能な最大電力P2(W)を示す。伝送効率ηは、送電側に投入される直流電力Pd(W)と負荷抵抗の両端をオシロスコープによりモニターし、負荷抵抗の両端のp−p電圧Vp(V)から求めた交流電圧の実効値Ve(V)、Ve=Vp/2√2(V)、より計算した負荷電力Ps(W)の比η、η=PsW/PdW、である。また、2次側電力P2は3.25W以上、電力伝送効率ηは80%以上を基準とし、この基準を満足するX軸の条件を規定している。以下の説明で、電力伝送性能は、2次側電力P2と、伝送効率ηとを意味するものとする。
上記の基準は、電力伝送装置の電力損失が、図4のZs、Rc、Riに起因して発生し、4W前後の電力伝送では、1Wの電力損失が実用化の上限だからである。この条件から計算すると、電力伝送効率は75%となる。また、コイルの大きさは異なるが、誘導加熱器(電磁調理器)の電気−熱エネルギー変換効率は85%程度である。したがって、75%と85%の中間値として、80%の伝送効率を規定している。2次側に伝送可能な最大電力は、約4.1Wである。よって、伝送効率が80%より、4.1×0.8≒3.25W、として2次側の電力下限を規定している。
ゼロ電位とプラス電位の方形波としたような、交流電源13の出力の電圧の時間平均値がゼロではなく、直流成分が含まれている場合、図3、図8の回路において、キャパシタの両端電圧Vc(V)はゼロ電位に対し、プラス側にシフトした正弦波となる。さらに、図8の回路において、R3を、Xc=80Ωよりも大きい値、例えば、100Ω程度とすると、直列共振回路のQが低下し、波形が三角波に近づくとともに、キャパシタの両端電圧波形の極小値がゼロ電位よりも高くなる。
実際には、図3において、コイル1の実効直列抵抗Ri(Ω)、および交流電源の出力インピーダンスZs(Ω)をゼロにすることは困難である。よって、キャパシタのリアクタンスXc(Ω)、またはコイル1のリアクタンスXi(Ω)と、コイル1の実効直列抵抗Ri(Ω)、交流電源の出力インピーダンスZs(Ω)を計測しておき、キャパシタ両端の波形を観測する。
キャパシタに印加される電圧Vc(V)に比べ、キャパシタに流れる電流Ic(A)は90度進んでいる。Vc(V)とIc(A)の瞬時値を掛けて、一周期積分すればVcとIcの積はゼロとなる。すなわち、リアクタンス性素子であるキャパシタは、交流電力を消費しない。キャパシタに印加される電流に、図11のような直流電圧Voが重畳されているとする。この場合において、VcとIcの瞬時値を掛けて、一周期積分してみる。
Vc=Vj+Vm・sinφ(V)、Ic=cosφ(A)、として、
Vc×Ic=(Vj+Vm・sinφ)×cosφ(W)
=Vj・cosφ+Vm・sinφ・cosφ(W)
=Vj・cosφ+Vm・(1/2)sin2φ(W)
となり、φを独立変数として、Vj・cosφ、と、Vm・sin2φ、を0から2πまで積分すれば、いずれもゼロになるのは、数学上自明である。すなわち、キャパシタに印加される交流電圧に直流成分が重畳されていても、キャパシタは電力を消費しない。これが、キャパシタが直流電流を遮断し、交流電流のみを通過させる作用である。
したがって、図8において、直流電流が流れる抵抗R3の両端電圧および送電コイル1の両端電圧は、ゼロ点(図3のGND)に対しほぼ対称である。一方、キャパシタCの両端電圧は、図10、図11に示すように、ゼロ点に対しシフトしている。
上記の回路理論を前提とすると、キャパシタ両端の交流電圧波形Vがゼロ点に対してシフトする比率Sは、以下のようにして求められる。まず、直列回路中の全ての実効直列抵抗の和をRr、共振周波数におけるキャパシタのリアクタンスをXcr(Ω)、位相角をθ(度)、キャパシタの両端電圧のp−p値をVp(V)、ゼロ点よりのシフト値をVm(V)とすると、前述したように、
tan−1(Xcr/Rr)=θ(度)、
Vm=Vcp×(1/2)cosθ(V)、となる。
上式に、前述した200kHzにおけるリアクタンス、Xc=Xi=80Ω、実効直列抵抗、Ri=1.35Ω、交流電源の出力インピーダンス、Zs=0.2Ω、直列回路中の全ての実効直列抵抗の和、Rr=1.55Ωを代入してみると、
tan−1(Xcr/Rr)=tan−1(80/1.55)=88.89度
Vm=Vcp×(1/2)cos88.89度=(Vcp/2)・0.0193
Vm=Vcp×0.00968、となる。
したがって、理想的なキャパシタを使用した場合には、キャパシタの正のピーク値の絶対値をVp、負のピーク値の絶対値をVn、とすると、
Vp=(Vp−Vn)×1.00968(V)
Vn=(Vp−Vn)×0.9903(V)
が理論上の値となる。VpとVnの比、Vp/Vnは、
Vp/Vn=1.00968/0.9903=1.0195、となる。
念のため、上記のシフト値をp−pではなく、実効値で計算してみる。
Vp=((Vp−Vn)/2√2)×1.00968(V)
Vn=((Vp−Vn)/2√2)×0.9903(V)
となり、((Vp−Vn)/2√2)は定数となる。よって、Vp(V)とVn(V)の比、Vp/Vn(無単位)は、Vp/Vn=1.0195、と変わらない。
キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)が、Rc<<Rr、を満足する場合は、有効数字と計測誤差を勘案し、前記のVpとVnの比、Vp/Vn、が、Vp/Vn<1.02、を満足していればよい。前述した表1においては、C1c、C1f、など、一部のキャパシタのみが、Vp/Vn<1.02、を満足しているにすぎない。
一方、Rc>0.1Ω、程度になると、Rcの影響が出てくるので、表1のデータから、Rcの平均値として若干の余裕を見て、Rc=1.5Ω、Rr=3Ω、として上式にて再計算してみると、
tan−1(80/3)=87.85度
Vcp×(1/2)cos87.85=Vcp・0.0187
Vp=(Vp−(Vn))×1.0187(V)
Vn=(Vp−(Vn))×0.9812(V)
VpとVnの比、Vp/Vnは、
Vp/Vn=1.0187/0.9812=1.0381、となる。
このように、キャパシタの実効抵抗を考慮し、前述した表1において、有効数字と計測誤差を勘案すると、1<Vp/Vn<1.04、となるが、この条件を満足するキャパシタも、C1e、C1a、C1bしかない。すなわち、単にキャパシタの実効直列抵抗Rcのみが原因となって、このようなゼロ電位に対する非対称性が起こっているとは思えない。ゼロ電位に対する波形の非対称性が起こっているのは、Rc以外の要因によるものと考えざるを得ない。例えば、図45に示すLcなどが考えられる。したがって、図13においては、シフト比Sが、S<1.06、の条件から、P2>3.25W,η>80%、であるという電力伝送性能の規定を満足しているキャパシタを選ばざるを得ない。
なお、図3に示したキャパシタCxの両端に積分回路Giを接続すると、積分回路Giの出力電圧Vgは、Vg=Vp−Vn、となって、シフト比Sに比例する。オシロスコープ30により、シフト比Sを計測するには、計測精度に限界がある。しかし、キャパシタの電圧波形の振幅値Vp(V)、Vn(V)はほぼ正確に計測できる。シフト比Sを、S=Vg/Vn+1=(Vp−Vn+Vn)/Vn=Vp/Vn、とすると、より正確なシフト比Sが求められる。あるいは、キャパシタの両端に正負のピークホールド回路を設けてVp,Vnを求めるようにしてもよい。
また、図3に示したオシロスコープ30は、正のピーク値Vpと、負のピーク値Vnとを計測する手段を構成している。すなわち、上述した各計測手段は、本発明の高周波電力回路用キャパシタの評価装置について説明しているものである。
上記の規定にかかわらず、2次側電力は高いほど良く、伝送効率も高いほど良いのは言うまでもない。ポリプロピレンキャパシタC1cを使用した場合、図4の1次側電力は、4.5W、2次側交流電力は、4.1Wである。出力インピーダンスZsとコイルの実効直列抵抗Riの和は1.55Ω、1次側電圧は実効値1Vである。よって、出力インピーダンスZsとコイルの実効直列抵抗Riにより、P=1V2/1.55Ω=0.65W、のジュール損が発生している。すなわち、計算上の伝送効率は100%以上となっている。0.25Wの余剰が出るのは、2次側の波形が完全な正弦波になっておらず、p−pの電圧値を2√2で割っても、正確な実効値にならないからと推察される。すなわち、ポリプロピレンキャパシタC1cを使用した場合、電力伝送系(送受電コイル間)の伝送効率は、交流電源13の出力インピーダンスZsとキャパシタの実効直列抵抗Rcによる電力損失を除くと、100%に極めて近いものと思われる。
図13から明らかなように、図10に示すような、ゼロ電位に対し、正負が非対称なキャパシタ、すなわち、Vp/Vn、が1よりも大きくなるにつれて、電力伝送性能は悪くなる。一方、Vp/Vn、が1に近いキャパシタは、電力伝送性能がよい。
そして、図13においては、Vp/Vn、が1よりも大きくなるのに従い、電力伝送特性のカーブが単調減少しているのが分かる。図13を参照するならば、ゼロ電位と正電位の方形波で、図3の回路を駆動したときの、キャパシタの正弦波電圧波形が、ゼロ点からシフト比Sが、1.06以下であることが必要となる。しかし、規定値、1.06は、前述したように、0.01μFのキャパシタを使用し、200kHzで計測したものである。この条件では、キャパシタC1cと基準コイルを使ったときの、Vp/Vn、の値は1.02である。しかし、静電容量が0.47μFのキャパシタC1cと同一のキャパシタと、別の基準コイルを使い、50kHzにて計測したところ、Vp=22.8V、Vn=20.7V、Vp/Vn=1.1、となった。
基準コイルと周波数にもよるが、本願発明者が種々の実験を行なったところ、静電容量をC(μF)、とし、係数αを、α=log(C/0.001)、とすると、規定値は、1+0.06×α、として、近似可能なことが分かった。一例を示すと、0.47μFでは、α=log(0.47/0.001)=log(470)=2.67、となる。規定値は、1+0.06×α=1+0.162=1.162、となる。
100kHzで、0.1μFのキャパシタC1iと同じポリエチレンテレフタレートキャパシタを使った場合、Vp=16.5V、Vn=15.1V、Vp/Vn=1.09、である。αは、α=log(0.1/0.001)=log(100)=2、となる。よって、規定値は、1+0.06×α=1+0.12=1.12、となる。静電容量が、0.01μFでは、α=log(0.01/0.001)=log(10)=1、となる。したがって、規定値は、1+0.06×α=1+0.06=1.06、となる。静電容量が、0.01μF以下のときは、規定値を1.06とする。
したがって、所定係数をBとし、キャパシタの静電容量をC(μF)、としたときに、C(μF)<0.01、のときには、B=1.06、となる。C(μF)>0.01、のときには、所定係数Bは、B=1+0.06×log(C/0.001)、となる。
また、基準コイルや電力伝送の周波数によっても、前記した、Vp/Vn、の値は異なってくる。したがって、キャパシタの静電容量から、前述してきた計算式により、所定係数Bを求める。そして、実際に使用する送電コイル1単体を使い、電力伝送に使用する周波数において、キャパシタの両端電圧のVp、Vnを計測する。この条件において、所定計数をBとしたとき、キャパシタが、Vp/Vn≦B、の条件を満足していればよい。
一方、図14においては、前述したように、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)の増加に従い、電力伝送特性のカーブが減少した後、実行直列抵抗Rcが1.4Ω付近で上昇して下降するような単調特異点が見られる。図15においても、キャパシタの誘電正接tanδの増加に従い、電力伝送特性のカーブが単調減少しておらず、特異点が見られる。しかし、図14、図15共に、キャパシタとしての特性と電力伝送性能の相関から、特性規定を行なうことは可能である。図14においては、キャパシタの実効直列抵抗Rcが、1.55Ω以下であれば、前述の電力伝送性能基準を満足している。上記の、1.55Ωは、送電コイル単体の実効直列抵抗Ri=1.35Ω、と、交流電源13の出力インピーダンスZs=0.2Ωを足したものとなる。
ただし、図14は、静電容量0.01μF、周波数200kHzでのデータである。よって、周波数と静電容量を勘案したリアクタンスが式中にある誘電正接tanδにより規定するのが好ましい。図15を参照する限りにおいて、電力伝送性能と誘電正接の関係は、図13のグラフのように、X値の増加と共に、電力伝送性能が単調減少しておらず、特異点が見られるが、所定の最低周波数、例えば、100kHz、200kHzなどにおいて、キャパシタの誘電正接tanδが2%以下であることは、最低限満足すべき条件となる。しかし、キャパシタの誘電正接tanδが2%以下の領域に、2次側電力3.25W以上、伝送効率80%以上という前述した基準値を満足しない特異点が存在する。よって、キャパシタの誘電正接tanδが1%または0.5%以下であればより好ましい。
図16は、電力伝送性能が悪いセラミックキャパシタC1sと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの実効直列抵抗Rcの周波数特性を示すグラフである。
図17は、電力伝送性能が悪いセラミックキャパシタC1sと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの誘電正接tanδの周波数特性を示すグラフである。
図18は、電力伝送性能がよいポリプロピレンキャパシタC1cと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの誘電正接tanδの周波数特性を示すグラフである。
図19は、電力伝送性能がよいポリプロピレンキャパシタC1cと同じ種類のキャパシタで、静電容量が異なるキャパシタの誘電正接tanδの周波数特性を示すグラフである。
図17、図19を参照する限りにおいて、キャパシタの誘電体と静電容量により、誘電正接tanδの周波数特性が異なるのが分かる。比誘電率の高い誘電体を使ったセラミックキャパシタC1sは、図17に示すように低周波数領域では、静電容量の大きいキャパシタの誘電正接tanδが小さい。しかし、高周波数領域になると、静電容量の大きいキャパシタの誘電正接tanδは大きくなっている。すなわち、高誘電体を使ったキャパシタでは、静電容量が小さいほど、周波数の上昇に伴う誘電正接tanδの増加率が小さい。一方、図19を参照すると、比誘電率の低い誘電体を使ったポリプロピレンキャパシタC1cは、ほぼ全ての周波数領域で、静電容量の大きいキャパシタの誘電正接tanδが大きい。図17、図19は前述した実測結果と一致している。すなわち、静電容量や電力伝送装置の作動周波数によって、キャパシタの種類を選ぶ必要がある。
図17を参照すると、比誘電率の高い誘電体で構成されたセラミックキャパシタC1sでは、200kHzにおいて、静電容量が、0.47μFのキャパシタのみが、誘電正接tanδが1%以下である。その一方で、図19を参照すると、比誘電率の低い誘電体で構成されたポリプロピレンキャパシタC1cでは、200kHzにおいて、0.01μFから0.47μFの静電容量で、誘電正接tanδが1%以下になっている。
最初に述べたが、力率を改善するとは、正のリアクタンスを打ち消すことである。そして、LC直列回路は、方形波、三角波、鋸波などの非正弦波波形を正弦波に戻す作用を持つ。それには、LC回路のQが高くないとならず、目安として、キャパシタは少なくとも10以上のQが必要となる。表1に示すように、100kHzにおいて、Qが1000や10000を越えるキャパシタならともかく、Qが数十のキャパシタは、上述してきたような、特性を満足するようなものを選ぶ必要がある。
前述したキャパシタの実効直列抵抗RcをX軸、電力伝送性能をY軸とした図14、キャパシタの誘電正接tanδをX軸、電力伝送性能をY軸とした図15においては、キャパシタC1hが規定領域内に入っている。一方、図13のグラフでは、キャパシタC1hが全て規定領域外となっている。このように、本発明においては、キャパシタの実効直列抵抗Rc、キャパシタの誘電正接tanδのみでは規定できない電力伝送性能が悪いキャパシタを除外できる。このような規定により、電力伝送性能が良いキャパシタを選んで、電力伝送装置を構成する。その結果、電力伝送性能が良い電力伝送装置が実現できるという、極めて優れた効果を奏する。
また、図18より、周波数が20kHz程度の低周波数領域になると、キャパシタの実効直列抵抗Rcは、数Ω〜数十Ωとなり、実効直列抵抗Rcによる電力損失が増大する。よって、静電容量が0.01μFのキャパシタを電力伝送に使用可能な周波数は、20kHz程度を下限とするのが好ましい。ただし、静電容量が0.1μF以上のキャパシタになると、10kHzでも実効直列抵抗Rcがほぼ電力損失を起さない程度の値まで低下する。しかし、実効直列抵抗Rc(Ω)の存在は、電力伝送性能を劣化させる。よって、送電コイル1の実効直列抵抗をRi(Ω)とすると、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)が少なくとも、Ri(Ω)>Rc(Ω)、を満足する最低周波数以上で電力伝送を行なうのが好ましい。前述した、キャパシタの実効直列抵抗Rc(Ω)は、キャパシタを使用可能な最低周波数の規定に関するものである。キャパシタを使用可能な最高周波数については、キャパシタのインピーダンスの周波数特性を示して後述する。
(誘電吸収の説明)
次に、電力伝送性能と相関を持つ要因の1つとして、キャパシタの誘電吸収が考えられる。誘電吸収は、キャパシタの直流特性である。誘電吸収の原因には種々の説があるが、一説として、キャパシタの両端子に長時間、直流電圧Vw(V)が印加されている間に、誘電体の分極が起こると考えられている。キャパシタに直流電圧が印加されなくなり、キャパシタの両端子を短絡してキャパシタに蓄積された電荷を放電する。放電後にキャパシタを開放すると、キャパシタの両端に開放電圧Vb(V)が発生する。Vw(V)とキャパシタのVb(V)の比を誘電吸収Kとし、K=Vb(V)/Vw(V)、とする。Kが小さいほど、キャパシタの特性はよい。なお、誘電吸収Kは常に1より小さい正の値であり、無単位の数値である。
図20は、キャパシタの誘電吸収を計測する回路図である。
図20には、オペアンプによるインピーダンス変換回路が示してある。本願発明者は、図20のような、入力インピーダンスが、1010Ω以上のインピーダンス変換回路を作成し、一般に使用されているディジタルテスターで誘電吸収が計測できるようにした。図20において、インピーダンス変換回路として作動するオペアンプ61の反転入力端子と出力端子とが接続されており、オペアンプ61の出力端子とGND間に直流電圧計62が接続されている。オペアンプ61と直流電圧計62は入力インピーダンスが、1012Ω以上の電子式直流電圧計として作動する。一般に使用されているディジタルテスターなどは、入力インピーダンスが数MΩであり、誘電吸収の正確な計測ができない。
スイッチ63は、計測用のキャパシタCに電荷を蓄積する直流電圧Vw=V1(V)を印加するために設けられており、スイッチ64はキャパシタCに蓄積された電荷を5Ω±10%の精度を有する抵抗R4を介して放電するために設けられており、スイッチ65はキャパシタCに蓄積した電荷をオペアンプ61の非反転入力端子に与えて誘電吸収Kを測定するために設けられている。オペアンプ61は非反転入力端子のバイアス電流が1pA程度で、入力インピーダンスが1012Ωのハイインピーダンスのものが使用される。
図20に示す計測回路で誘電吸収を計測する手順は、JISに規定されているが、以下に説明する。まず、スイッチ63を閉じてキャパシタCの定格電圧の±10%の電圧、Vw=V1(V)、をキャパシタCに1時間印加する。その後、スイッチ63を開いて、スイッチ64を閉じ、抵抗R4を10秒間キャパシタCの両端に接続してキャパシタCに蓄えられている電荷を放電する。10秒間の放電後、スイッチ64を開いてキャパシタCを開放し、スイッチ65を閉じてキャパシタCの両端電圧Vb(V)をオペアンプ61に与え、電圧計62で15分間計測する。15分間の計測時間でのキャパシタの両端電圧の最大値をVb(V)とする。誘電吸収Kは、K=Vb/Vw、として求められる。
本願発明者は、無極性であるキャパシタの一方の端子に正の電圧を印加し、誘電吸収Kを計測した。その後、一方の端子に負の電圧を印加し、誘電吸収Kを計測したところ、一方の端子に正の電圧を印加して誘電吸収Kを計測した場合とは異なる結果が得られた。後述するが、誘電吸収の非対称性は、電力伝送性能と相関がある。以降、一方の端子、例えば、図20に示すキャパシタCのAの端子に正の電圧を印加して計測した誘電吸収をKpと表記する。そして、一方の端子に負の電圧を印加して計測した誘電吸収をKnと表記する。例えば、図20に示すキャパシタCのBの端子に正の電圧を印加して計測した誘電吸収をKnと表記する。
表2に示すように、JISでは、誘電吸収は無極性の直流用キャパシタのみに規定があり、その規定値は0.1%である。しかし、本発明の実施形態においては、無極性のキャパシタに交流電圧を印加し、交流電流を流す。誘電吸収は直流特性であり、直流ではキャパシタのインピーダンスは理論上無限大になる。図20に示すオペアンプ61の入力端子には、微小ではあるが、バイアス電流が流れる。JISの規定によると、キャパシタの絶縁抵抗は、1GΩ〜30GΩとなっている。バイアス電流値が1pA程度のオペアンプを使用しても、前記バイアス電流によりキャパシタが蓄電され、オペアンプの出力端子電圧の絶対値は、時間と共に上昇する。そのため、図20のオペアンプ61の非反転入力端子には200MΩの高抵抗RhをGND間に取り付けている。
また、キャパシタの定格電圧が100V程度になると、実測が危険となる。よって、キャパシタCの定格電圧にかかわらず、20Vの電圧をキャパシタCに印加した。キャパシタCに印加する電圧が高いと、誘電体内の電界強度が高くなり、誘電体分極を起しやすくなる。そのため、実測値は0.25%以下に収まっているが、5倍程度の余裕をみておく必要がある。したがって、電力伝送装置のキャパシタCとしては、誘電吸収Kが、少なくとも1%以下でないとならない。実際に、本願発明者が、空中配線で回路を配線して、回路全体の絶縁抵抗を、1012Ω以上にし、キャパシタC1mに、定格電圧100Vを印加して誘電吸収を計測したら、約0.93%であった。これは、図21に示す実測値である0.18%の5倍に相当している。
図21より明らかなように、誘電吸収Kpが小さいキャパシタは電力伝送性がよく、誘電吸収Kpが大きいキャパシタは電力伝送性が悪いことが分かる。さらに、本願発明者は、前述したように、図20の回路において、正の電圧が印加されているキャパシタCの端子Aと、負の電圧が印加されているキャパシタCの端子Bとを入れ替えてみた。
図22は、図20において、キャパシタの端子Aと端子Bを入れ替えて誘電吸収Knを計測し、KnをX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図23は、表1に示す各キャパシタの前記誘電吸収KpとKnの比KrをX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。比Krは、Kp>Kn、のときは、Kr=Kp/Kn、Kn>Kp、のときは、Kr=Kn/Kp、とし、Kr>1、となるように規定してある。
図23によれば、誘電吸収の非対称性が明らかに見られる。電力伝送性能のよいキャパシタは、誘電吸収の非対称性が小さい。換言すれば、比Krの値が1に近い。電力伝送性能の悪いキャパシタは、誘電吸収の非対称性が大きい。換言すれば、比Krの値が1より大きい。このようにして、電力伝送性能がよいキャパシタを選ぶことができる。
すなわち、図20に示すキャパシタの一方の端子Aと他方の端子Bを入れ替えると、誘電吸収KpとKnとが、異なる値となる結果が得られている。これは、昇圧比が最も小さいセラミックキャパシタC1s、において顕著である。また、図23より明らかなように、比Krが1に近いキャパシタは電力伝送性がよく、比Krが1より大きいキャパシタは電力伝送性が悪いことが分かる。図23のKrと電力伝送性能との相関から見ると、前記Kpと前記Knの比であるKr、Kr=Kp/Kn、は、1<Kp/Kn<1.5、の範囲内に入っていないといけないのが分かる。
(キャパシタの温度上昇に関する実施例の説明)
図24は、本発明のその他の実施形態であるキャパシタCの性能を判断する回路構成図である。図24の交流電源72は、周波数を可変でき、交流電流計73で出力電流Iaを計測でき、交流電圧計74で出力電圧Vt(V)が計測できるように構成されている。キャパシCに交流電圧Vt(V)を印加すると、キャパシタに無効電力による電流Ia(A)、が流れる。Ia(A)=Vt(V)/Xc(Ω)、である。図25は、前述した図3に示した直列共振回路を構成することにより、キャパシタCxに電流を流す回路図である。
図26は、図24、図25の回路において、周波数200kHz、実効値0.5Aの交流電流をキャパシタに流したときの、キャパシタの上昇温度をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。正確な温度を計測するため、キャパシタの温度は、赤外線式の非接触型温度計で計測してある。
図26から明らかなように、キャパシタCの温度が高くなると、電力伝送性能が悪くなる。キャパシタの温度上昇が10℃以下であれば所定の電力伝送性能が得られるのが分かる。キャパシタの温度上昇が5℃以下であれば、より好ましい。
(性能評価方法、性能評価装置の他の実施例の説明)
図27(A)は、キャパシタの性能を計測するその他の実施形態を表すブロック図であり、図27(B)は、図27(A)に示す二重積分式のA/D変換器75に含まれる積分回路78を示す図である。
パルス数計測手段およびAD変換手段として作動するA/D変換器75には、図27(B)に示す積分回路が含まれている。オペアンプ78の反転入力端子bと出力端子aとの間に積分キャパシタCxが接続されており、積分キャパシタCxは抵抗Rtの一端とオペアンプ78の反転入力端子に接続され、抵抗Rtの他端は入力端VINに接続されている。オペアンプ78の非反転入力端子はGNDに接続されている。
基準電圧Vrefは、A/D変換器75の基準電圧入力REF_HIとREF_LOに接続されている。A/D変換器75には表示器76が接続されている。測定電圧入力端子IN_HIとIN_LOにはスイッチ77が接続されている。スイッチ77は測定電圧入力端子IN_HIとIN_LOに、基準電圧Vref,反転基準電圧−Vrefを与えるかあるいは短絡状態にするかを切換える。短絡状態に切換えたとき、スイッチ77は積分キャパシタの両端電圧をゼロにする初期化手段として作動する。
この実施形態では、A/D変換器75は、積分キャパシタCxが初期化された後、積分キャパシタCxに正方向の定電流Ipを所定の時間Tの間に流し、所定の時間T経過後に積分キャパシタCxに負方向の所定の定電流Inを流し、積分キャパシタCxの両端電圧がゼロになるまでの時間をTnとすると、Ip=Inのときの所定時間Tのパルス数をカウントする。そして、所定時間Tのパルスカウント数をN、積分キャパシタCxの両端電圧がゼロとなるまでの時間Tnのパルスカウント数をNn、としたときに、NnとNとの差の絶対値が、0.004×Nカウント以下のキャパシタを選択する。
A/D変換器75として、二重積分式A/D変換器を使用し、A/D変換器75の基準電圧と入力電圧を同一とする。A/D変換器75の出力、例えば表示が、理論値1からの乖離を見ることにより、電力伝送措置に使用され力率キャパシタの性能を判断できる。このA/D変換器75は、1000カウント以上の分解能を持つ。カウント数をNとし、0.004×Nカウント以下の偏差(デジット)であれば、キャパシタの力率改善性能はよい。なお、カウント数Nは、例えば10000であればより正確な判断ができる。また、上記の理論値1は、2のn乗のビット数、例えば11ビットなら、2047などであってもよい。
さらに、キャパシタに、負方向の定電流Inを所定時間Tの間流し、所定時間Tの経過後に、キャパシタに、正方向の所定の定電流Ipを流し、キャパシタの両端電圧がゼロとなるまでの時間をTp、とすると、|Ip|=|In|、であって、Tのパルスカウント数をN、Tpのパルスカウント数をNp、としたときに、NpとNとの差の絶対値が0.004×Nカウントのキャパシタの力率改善性能を判断できる。
この例では、A/D変換器の基準電圧と入力電圧を同一とする際、入力電圧の極性を反転させる。先に誘電吸収にて述べたように、無極性のキャパシタであっても、正の同一電圧と負の同一電圧をA/D変換器に加えたときに、表示が異なる。上記の方法により、正確にキャパシタの力率改善性能を判断ができる。
さらに、NpとNnの差の絶対値が、0.003×Nカウント以下のキャパシタの力率改善性能を判断ができる。
この例では、NpとNnの差の絶対値を比較することにより、さらに正確にキャパシタの力率改善性能を判断ができる。
図28は、A/D変換器75の積分回路出力Voを示す波形である。
図27に示すA/D変換器75において、差動入力である測定電圧入力端子IN_HIとIN_LO間の電圧をVmとすると、積分電流Ii(A)は、
Ii(A)=Vm(V)/Rt(Ω)、となる。A/D変換器75の出力は表示器76に表示される。入力信号積分の時間は、1000カウントの固定値になっている。したがって、図28に示すピーク電圧Vpeak(V)は、Vm(V)に比例して高くなる。積分キャパシタCxとVpeakの関係は、Vpeak(V)=Ii(A)/Cx(F)、となる。これは、入力信号積分の時間が一定であるからである。1000カウントの入力信号積分後、A/D変換器75内部で逆積分に切換えられる。電流源として作動する基準電圧Vrefにより生成される電流Iref(A)、Iref(A)=Vref(V)/Rt(Ω)により、一定の負の傾きにより、Vpeakから逆積分を行なう。逆積分の時間をカウントし、積分回路の出力がゼロとなったときのカウント値を、4桁のディジタル値として表示する。
図27(A),(B)に示すキャパシタCxとして理想的なものを使用したものとし、A/D変換器75の測定電圧入力端子IN_NIとIN_LOに入力される電圧をVinとすると、A/D変換器75出力の表示器76に表示される表示Dは、D=1000×(Vin/Vref)となる。この場合において、Vin=Vref、であるので、表示Dは常に1000となる。すなわち、理想的なキャパシタでは、図28に示す入力電圧積分波形と、基準電圧逆積分波形とはピーク電圧Vpeakを境にして対称になるはずである。しかし、電力伝送性能の悪いキャパシタでは、入力電圧積分波形と、基準電圧逆積分波形とはピーク電圧Vpeakを境にして対称にならず、積分時間のカウント数に偏差を生じる。この偏差が所定値以内であるか否かを判別すれば、キャパシタの電力伝送性能の良し悪しを区別できる。以下、具体的に説明する。
図27(A)に示すように、スイッチ77がAのときには、入力Vinには基準電圧Vrefが入力される。このとき、表示器77の表示Dpは、1000となる。スイッチ77がBのときには、A/D変換器75の入力は短絡される。このとき、表示器76の表示Dzは、±0となる。スイッチ77がCのときには、入力Vinには基準電圧−Vrefが入力される。このとき、表示器76の表示Dnは、−1000となる。このような機能を持つ二重積分式A/D変換器75の一例として、インターシル社のICL7106などがある。本実施形態では、ICL7106の改良版であるICL7136を使用した。さらに精密な計測を行ないたい場合は、±19999の分解能を持つICL7135、表示器ではなく、データをコンピューターに取り込んで計測させるには、±12Bitの分解能を持つ、ICL7109などがある。いずれも二重積分式のA/D変換器であり、二重積分式以外のA/D変換器は本発明には使用できない。なお、上述した二重積分式のA/D変換器以外であっても、動作原理が同等のものは、本発明に使用可能である。
図27(A)のように回路を構成することにより、基準電源Vrefが変動しても、上述した理論値が常に表示される。したがって、この理論値からの乖離を見ることにより、キャパシタの性能を判断できる。図27(A),(B)には図示していないが、二重積分型A/D変換器75は、積分回路を構成するオペアンプ78のオフセット電圧をキャンセルする回路(オートゼロ回路)が付加されている。このオートゼロ回路は、通常、積分回路のオフセット電圧を50μV以下に自動調整する。したがって、Vrefが100mV以上なら、スイッチ77がBの点にあるときは、表示は必ずゼロとなる。なお、Vrefは200mVに設定して計測した。ただし、二重積分式のA/D変換器は、ノイズの影響を受けやすいため、配線や金属ケースによるシールド等、実装に十分気をつけないと、表示が安定せず、正確な計測が難しくなるので注意を要する。
図29は、表1に示す各キャパシタをA/D変換器75に接続し、スイッチ77をB点としたときの、各キャパシタのゼロ点からのずれの絶対値(単位デジット)をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図29では、0デジットと1デジット表示を繰り返しているときは、0デジットとし、1デジットの表示のときを1デジットとしてある。後述するDp、Dnを計測する際には、ゼロ点からのずれを補正してある。図29にプロットされている表1の各キャパシタの電力伝送性能と、デジット値を比較すると、キャパシタの違いによる入力短絡時の表示値と電力伝送性能の間に、特に関係は無いものと思われる。
まず、図27(A)に示すスイッチ77をBの位置とし、A/D変換器75の入力電圧をゼロとする。このときの表示を補正値としてDzとする。0表示と1表示を均等に繰り返しているときは、Dz=+0.5とする。−0表示と−1表示を均等に繰り返しているときは、Dz=−0.5とする。このDzを、Dp、Dnを計測するときに差引いて補正する。なお、Dp、Dnの計測においても、0999表示と1000表示を均等に繰り返しているときは、999.5を計測値としている。
図30は、図27に示すスイッチ77をAの位置にし、入力電圧=基準電圧Vrefとしたときの、理論上の表示1000と、実際の表示Dpの第1の偏差(デジット)の絶対値をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図31は、図27において、スイッチ77をCの位置にし、入力電圧=−基準電圧としたときの、理論上の表示−1000と、実際の表示Dnの第2の偏差(デジット)の絶対値をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。図32は、実際の表示DpとDnの表示の絶対値の差(デジット)の絶対値をX軸とし、電力伝送性能をY軸としたグラフである。
表1に示すキャパシタをA/D変換器75に接続する。A/D変換器75の表示の絶対値が、正、負共に、0996から1002の間であれば、該キャパシタは性能がよいと判断できる。図30、図31において、最大4デジットの幅を設けたのは、通常、A/D変換器75は、±1デジットの基本誤差を持つからである。また、2次側電力3.25W、伝送効率η80%以上の規定を満足する値(デジット)でもある。
実際の表示Dp、Dnの双方が計測できれば、図30より、A/D変換器75の表示において、実際の表示DpとDnの差の絶対値が、3デジット以内であれば、所定の電力伝送性能が得られるのが分かる。例えば、実際Dpの表示が1001であったならば、Dnの表示値は、0998<Dn<1004、を満足していればよい。あるいは、基準電源Vrefとは別の精密電源を使い、A/D変換器75の表示が、1990になるように、入力電圧を設定してもよい。この場合、実際の表示DpとDnの差が、6デジット以内であれば、所定の電力伝送性能が得られる。この6デジットは、
3×(1990/1000)≒6デジットとして規定されているものである。
前述の式は、最大カウント値、1999カウントのA/D変換器を使用した場合について説明しているが、例えば、最大カウント値、1999カウントのA/D変換器を使用した場合で、図20の回路構成の場合、3×(10000/1000)≒30デジットが規定値となる。これは、前述したDp、Dnの場合も同様であり、19999カウントのA/D変換器を使用した場合、規定値は40デジット以下になる。
このように、所定周波数における誘電正接、ゼロ電位に対する対称性、昇圧比H、キャパシタに交流電流が流れたときの静電容量の安定性、誘電吸収、誘電吸収の対称性、二重積分式A/D変換器75の実際の表示Dp、Dnの理論値からのずれ、DpとDnの表示差を規定することにより、電力伝送装置の力率改善用に最適なキャパシタを選ぶことができるようになる。このようなキャパシタを電力伝送装置の力率改善に用いることにより、従来の技術では実現が困難であった電力伝送性能がよい電力伝送装置が実現可能となる。
次に、全く同一の誘電体を使用し、全く同一の構成のキャパシタについて、静電容量の違いによる電力伝送性能の違いについて検討してみる。
図33は、電力伝送特性の最も良いポリプロピレンキャパシタC1cと誘電体と構成が同一で静電容量が異なるキャパシタにおける、各キャパシタの複素インピーダンスの絶対値|Z|の周波数特性を示す図である。図34は、電力伝送特性の最も悪いセラミックキャパシタC1sと誘電体と構成が同一で静電容量が異なるキャパシタにおける、各キャパシタの複素インピーダンスの絶対値|Z|の周波数特性を示す図である。
キャパシタの複素インピーダンスZを、Z=Rc+jωC=Rc+Xc、とすると、
|Z|は、|Z|=√(Rc2+Xc2)(Ω)、で表される。
図33、図34を参照すると、周波数が上昇するにつれ、|Z|が減少してゆくのが分かる。静電容量の大きいキャパシタでは、1MHz〜2MHz近辺で|Z|が極小値Zb(Ω)となっている。それ以上の周波数では|Z|が増加しているのが分かる。図33、図34には、0.47μFのキャパシタの位相角θがプロットされている。|Z|が極小値Zb(Ω)となる周波数fb(Hz)以上では、位相角θが180度移動しており、キャパシタはインダクタとして動作するのが分かる。したがって、|Z|が極小値となる周波数fb(Hz)が、該キャパシタを使用可能な最高周波数となる。周波数fbは、図44の等価回路において、キャパシタの静電容量Cと等価直列インダクタンスLeとで決まる直列共振点になる。後述するが、キャパシタを並列接続すると、実効直列抵抗Rc、等価直列インダクタンスLeの双方が低下する。そのため、キャパシタに大電流を流すことができ、発熱も抑えられる。
図33、図34を参照すると、誘電体、構造、特性が異なるポリプロピレンキャパシタC1cとセラミックキャパシタC1sは、同一の静電容量であれば、|Z|(Ω)が極小値となる周波数がほぼ等しくなっているのが分かる。このように、キャパシタのインピーダンス|Z|(Ω)の周波数特性を見ることにより、該キャパシタを使用可能な最高周波数が分かる。またはキャパシタに流れる電流とキャパシタの両端電圧の位相差θの周波数特性を見ることにより、該キャパシタを使用可能な最高周波数fb(Hz)が分かる。
なお、電力伝送に使用される周波数は、最高周波数fb(Hz)以下であるなら、任意の周波数でよい。しかし、任意の周波数でキャパシタの特性規定はできない。よって、静電容量Ca(F)が決まったキャパシタにて、最高周波数fb(Hz)を求める。最高周波数fb(Hz)の最も低い値を基準とし、fb/2(Hz)以下の周波数において、上述したキャパシタの特性を計測し、前述した規定を満足しているかを確認すればよい。あるいは、200kHz、500kHzなどの、最高周波数fb以下の同一周波数を計測用周波数とし、異なるキャパシタの性能比較をしてもよい。このようにして、キャパシタ以外の構成要素、電力伝送周波数が変わったときでも、電力伝送性能を確保できる。上記の実測結果より、単体キャパシタとして使用可能なのは、0.47μF程度が上限と考えられる。後述するが、0.47μF以上の静電容量が必用な場合は、0.47μF以下の静電容量を持つキャパシタを並列接続するのが好ましい。
一般に実効直列抵抗Rcの最小値は、図33、図34における、インピーダンスの極小値と捉えられている。しかし、図16、図18と比較する限りにおいて、図33、図34との一致は見られない。しかし、これらは、定義と計測法の差異だけである。本発明は、キャパシタの実効直列抵抗や誘電正接tanδだけでは規定できない電力伝送装置の力率改善用に適したキャパシタを選び、電力伝送性能の良い電力伝送装置を実現するものである。前述したように、キャパシタ両端の正弦波電圧のゼロ点からのシフト比S、誘電正接の具体的数値、誘電吸収、二重積分型A/D変換器などによるキャパシタ特性の計測は、電力伝送周波数に関係なく、性能のよいキャパシタを選べる。その後に、図16、図17、図18、図19、図33、図34の周波数特性を計測し、キャパシタを使用可能な周波数の目安とするのが好ましい。
(キャパシタの構成の説明)
図35、図36は本発明の実施形態である具体的なキャパシタの構成を示す図である。電力伝送装置の回路構成図である、図1の、キャパシタC1は、図35(A),(B)、図36(A),(B)に示すように、誘電材料86と金属箔85を巻回されて構成されるか、あるいは誘電材料86と金属箔85とを交互に積層して構成されており、誘電材料と金属箔からなる単層1cm2当りの静電容量が1000pF以下のものを使用するのが好ましい。なお、図35において、金属箔の代わりに、誘電体フィルムに金属を蒸着させて電極を形成した構成のものであってもよい。このような構成のキャパシタは、メタライズドキャパシタと呼ばれ、誘電体フィルムにピンホールが生じても、ピンホールの周囲にある金属蒸着層が蒸発して正規の特性に戻る。この機能は、自己回復性と呼ばれている。
本発明の実施形態においては、絶縁抵抗が高く、耐電圧の高い誘電体を導箔間に設置したキャパシタが使用され、導箔2枚と誘電材料で構成される1cm2当りの静電容量が、1000pF以下に選ばれている。誘電体を用いたキャパシタでは、静電容量値によりキャパシタの構造により特性が異なってくる。空気は、絶縁破壊が起こる電圧が、1000V/mm程度と低い。そのため、絶縁破壊が起こる電圧が高い誘電体を用いたキャパシタを使用せざるを得ない。例えば、フィルムキャパシタに用いるプラスチックフィルムの絶縁破壊電圧は、1000V/μm程度と、空気の約1000倍になっている。
また、本願発明者が、本発明の実施形態の交流電源とコイルを使い、種々のキャパシタを使って実験を行ったところ、誘電体がプラスチックフィルムであって、かつ図35や図36の構成のキャパシタは、電力伝送性能がよかった。しかし、数百〜千V以上の動作可能電圧を持つ、例えばチタン酸バリウムを誘電体とするキャパシタC1zなどは、プラスチックフィルムを誘電体とするキャパシタよりも電力伝送性能がよい場合もあった。前記C1zは直径数cm以上の円板状で、誘電材料が厚く、形状が大きくはなるが、静電容量値と円板面積から逆算すると、単層1cm2当りの静電容量は200pF程度以下となっており、前記の規定、単層1cm2当りの静電容量1000pF以下という条件を満足していた。したがって、電力伝送装置に使用するキャパシタとしては、単位面積当りの静電容量を規定することが重要となる。後述するが、単位面積あたりの静電容量を規定するのは、極板間隔、誘電体の比誘電率の一方が決まれば、他方を決定する条件になる。
本願発明者が、実際に図35(B)の箔状導体とフィルムを巻回した構成で、表1の中で最も電力伝送性能がよいポリプロピレンキャパシタC1cと誘電体が同一の、静電容量が0.47μFのキャパシタを分解し、表面積と公称容量から逆算したところ、単層面積1cm2当りの静電容量が、約1000pF以下であった。以下に実測結果を示す。
0.47μFの、キャパシタC1cと同じ構成のポリプロピレンキャパシタを分解し、極板寸法を測ったら、約2cm×250cm、であった。
極板面積Scは、Sc=2cm×250cm=500cm2、になる。
静電容量は、0.47μF=470000pFなので、1cm2当りの静電容量は、
470000pF/500cm2=940pF/cm2になる。
静電容量Cは、C=εo・εs・S/d、表される。ここで、εoは真空中の誘電率で、εo=8.85×10−12(F/m)の物理定数である。εsは比誘電率(無単位)、Sは極板の面積(m2)、dは極板間の距離(m)を表す。上式を変形し、
d=εo・εs・S/C、として、上記の定数、実測値を代入すると、
d=8.85×10−12(F/m)・εs・10−4m2/(940×10−12F)
d=(8.85/940)・εs・10−4m=εs・9.41×10−7m、
寸法測定誤差等を勘案し、9.41×10−7mを、1×10−6mとすると、
d=εs・1×10−6m=εs・μm、となる、資料によると、キャパシタC1cと同じ誘電体フィルムの比誘電率εsは、1.5〜4となっており、極板間の距離dは、最低でも1.5μmは必要となる。本願発明者が実験した限りにおいて、最も電力伝送性能のよいポリプロピレンキャパシタC1cは、同一の静電容量においては、体積が大きい部類に入る。すなわち、キャパシタの電力伝送性能は、体積に比例してよくなる傾向を持つ。よって、極板面積Sを小さくできる比誘電率は、上限を4とするのが好ましい。
なお、マイクロメーターで実測した前記誘電体フィルムの厚さは、約3μmであった。したがって、前記の誘導式、d=εs・μm、より、前記誘電体フィルムの比誘電率εsは約3と推定され、資料の数値と一致している。
(キャパシタの誘電体の説明)
キャパシタの誘電体は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレートの各ポリマー、一般式が、CR2CQ2、で表されるオレフィン系のモノマーであって、CR2CQ2、中のR、Qは、Hを含む官能基からなるモノマーの付加重合体であるポリマー、あるいは上記に記載の各ポリマーのうち、少なくとも2つの混合物から構成されている。
ここで、R、Qは、Hを含む官能基、例えば、Cl(塩素)、のような単原子、CH3(メチル基)、のような官能基、C6H5(フェニル基)、のような官能基などを指す。例えば、CR2CQ2、中のR、Q全てがHの場合、モノマーはエチレン、ポリマーはポリエチレンとなる。CR2CQ2、中のR、Q全てがFの場合、モノマーはテトラフルオロエチレン、ポリマーはポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))となる。CR2CQ2、中のRの1つがフェニル基、他のRとQ全てがHの場合、モノマーはスチレン、ポリマーはポリスチレンとなる。CR2CQ2、中のR全てがH、Q全てがFの場合、モノマーはフッ化ビニリデン、ポリマーはポリフッ化ビニリデンとなる。CR2CQ2、中のR、Qの内1つがCH3、残りのQとRが全てHの場合、モノマーはプロピレン、ポリマーはポリプロピレンとなる。このような誘電材料を選び、キャパシタを適切に構成することにより、前述した電力伝送装置の力率改善に適切な特性を持つキャパシタが得られる。例えば、誘電吸収特性および誘電吸収特性の対称性がよいキャパシタが得られる。
なお、上記の表記は、IUPAC(国際純正・応用化学連合)により定められている正式な化合物命名法ではない。上記の表記は、一般に使用されている化合物名である。
本願発明者が実験した限りにおいて、静電容量が0.01μF、上述した電力伝送回路条件で、伝送電力が4W程度では、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)のフィルムを誘電体とするキャパシタの順に、電力伝送性能がよかった。ただし、ポリプロピレン(PP)を誘電体とする構成が異なるキャパシタは、ポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルムを誘電体とするキャパシタよりも、電力伝送性能が劣るものもある。次に、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)を誘電体とするキャパシタが、電力伝送性能がよかった。ポリエチレンテレフタレート(PET)を誘電体とするキャパシタは、前述したポリエチレン(PE)を誘電体とするキャパシタよりは性能が劣る。
ただし、前述したように、ポリスチレンキャパシタは、構成によっては、発熱が起こり、本発明に使用できない場合もある。このようなポリスチレンキャパシタは、実効直列抵抗Rc、誘電正接tanδの特性は、最高性能に近かった。しかし、前述した、ゼロ点からのシフト値S、Vp(V)/Vn(V)、の値が、ポリエチレンキャパシタよりも大きかった。したがって、上記のキャパシタの誘電体による電力伝送性能はあくまで実験結果であり、上述した特性規定に従い、キャパシタを選ぶことが重要になる。
なお、前述したように、強誘電体を誘電体とする、例えばセラミックキャパシタなどは、誘電正接、静電容量の安定性、静電容量の温度特性、誘電吸収など、本発明における電力伝送装置の電力伝送性能を左右するキャパシタとしての性能がいずれも悪く、電力伝送装置の力率改善用キャパシタには適していない。ただし、前述したように、静電容量が増加すると、比誘電率が小さい誘電体を用いたキャパシタと大差ない電力伝送性能が得られる。全く同一の誘電体を使い、全く同一の構造のキャパシタであっても、静電容量によって、電力伝送性能が異なってくる。また、前記キャパシタの静電容量により、使用可能な周波数の上限が存在するのは前述したとおりである。周波数にもよるが、目安としては、0.1μF程度以上の静電容量になると、フィルムキャパシタとセラミックキャパシタとの電力伝送性能に、著しい差異が見られなくなるようである。
なお、表1を参照すると、200kHzにおける実効直列抵抗Rcの値は、ポリスチレンキャパシタC1aで0.01Ω、ポリプロピレンキャパシタC1cで0.03Ωとなっている。すなわち、実効直列抵抗Rcの値で比較する限りにおいては、ポリスチレンキャパシタC1aの方が性能がよい。同じく、誘電正接tanδ、Q、の値で比較する限りにおいては、ポリスチレンキャパシタC1aの方が性能がよい。しかし、前述したVp/Vnの値、誘電吸収K、誘電吸収Kp、Kpの対称性Kr、実際の電力伝送性能などは、ポリプロピレンキャパシタC1cの方がよい。したがって、単に誘電正接tanδやQのみでは、電力伝送装置の力率改善用キャパシタの性能判断はできない。前述した、所定周波数において、キャパシタの誘電正接tanδが所定数値以下であるのは、必要条件に過ぎない。図13〜図15、図21〜図23、図30〜図33等のY軸に示すキャパシタ特性の数値が大きい(グラフの上側に位置する)キャパシタを選ぶ必要がある。
図1に示す回路構成の電力伝送装置では、ポリプロピレンキャパシタC1cのように電力伝送性能がよいキャパシタを使用しても、送電制御回路11、送電コイル1、受電コイル2、両コイルの相対位置、負荷抵抗値などの構成要素を適切に選ばないと、図13等に示すような、電力伝送性能は得られない。実際に、図13では、キャパシタ以外の構成要素を全く同一にしてあるが、キャパシタにより電力伝送性能は異なっている。したがって、キャパシタ以外の構成要素が変わったときに、電力伝送性能を維持するには、本発明の力率改善用キャパシタを電力伝送装置に装備する必要がある。キャパシタ以外の構成要素、特にコイルと二次側の負荷抵抗値は、電力伝送性能に大きな影響を与える。しかし、本発明の実施形態においては、静電容量が決まれば、電力伝送性能のよいキャパシタを上述の規定に基づき、一義的に選ぶことができる。特に、正弦波のゼロ点からのシフト値S、誘電吸収K、誘電吸収の対称性Krにより選ばれたキャパシタは、キャパシタ以外の構成要素が変化しても、常に他のキャパシタよりも優れた電力伝送性能を維持できる。このようなキャパシタを装備することにより、電力伝送性能がよい電力伝送装置が実現できる。
なお、前述した図34、図35に示す計測により、キャパシタを使用可能な上限が規定できる。そして、図13〜図15、図21〜図23、図26、図29〜図32などのY軸に示す特性がよい(グラフの上側に位置する)キャパシタを選ぶ。同一の誘電体を用いたキャパシタであっても、電力伝送性能が異なることは上述した通りである。当然、キャパシタの誘電体、構成により、電力伝送性能は異なる。しかし、実装上、常に最高性能のキャパシタが使えるとは限らない。表面実装構造のキャパシタは、実装時の耐熱性が要求される。誘電体が誘電体の融点(正確にはガラス転移点であり、軟化点と表記される場合もあるが、融点と表記しておく)を越える温度下にさらされると、変形が起こり、静電容量が変動してしまう。このような用途には、若干電力伝送性能は劣るが、融点の高いポリフェニレンスルフィドキャパシタを選ぶ。あるいは、キャパシタの物理的な寸法が大きいために実装が困難な場合がある。このような場合は、物理的な寸法が大きいポリスチレンキャパシタやポリカーボネートキャパシタの代わりに、物理的な寸法が小さいポリエチレンナフタレートキャパシタを選ぶ。後述するが、交流電流が流れることによりキャパシタが発熱する。このような場合、キャパシタを並列接続してキャパシタの通過可能電流を確保する。並列接続したキャパシタは、単体キャパシタよりも特性がよくなるので、前述したキャパシタの特性は並列接続した合成キャパシタにて計測する。これは、キャパシタを並列接続することにより、少なくとも実効直列抵抗Rcを低下させることができるからである。また、セラミックキャパシタは、耐熱性がよく、静電容量が0.1μF以上になると、フィルムキャパシタとそれほど差異のない電力伝送性能を持つ。したがって、静電容量が0.1μF以上のセラミックキャパシタを直列、並列、直並列に接続することにより、耐熱性と寸法小型化の双方を満足できる。さらに、動作可能電圧、通過可能電流を増加させることができる。ただし、セラミックキャパシタも、上述してきたような規定を満足する必要がある。一般的には、リード形状のセラミックキャパシタよりも、チップ形状(表面実装用)のセラミックキャパシタの方が、前述してきた特性がよい。チップ型形状のキャパシタの方が性能はよいのは、フィルムキャパシタにおいても見られる。
上記に述べたようなキャパシタの使用法を採用することにより、各種仕様に応じた、電力伝送性能のよい電力伝送装置が実現できる。そして、キャパシタに流れる電流に応じ、キャパシタを選ぶ。前述してきた電力伝送性能の良いキャパシタは、一般に高価である。前述した方法でキャパシタを選ぶことにより、電力伝送措置が必要とする性能に応じ、安価なキャパシタを用いることもできる。上記に述べてきた本発明の実施例は、単に誘電正接や誘電体を記載している特許文献1では、規定すらできないものである。
(キャパシタ複数接続の実施例)
なお、前述したが、図44に示す直列回路では、キャパシタの両端に電源電圧Vt以上の電圧が発生する昇圧効果が起こる。図44の等価回路と同じ、図1、図37、図39、の回路構成において、本発明の実施形態に述べたキャパシタの動作可能電圧が低い場合、キャパシタの動作可能電圧を確保するため、同種または異種の複数のキャパシタを直列に接続してもよい。また、本発明の実施形態に述べたキャパシタの通過可能電流が低い場合、キャパシタの通過可能電流を確保するため、同種または異種の複数のキャパシタを並列に接続してもよい。あるいは、キャパシタの動作可能電圧、通過可能電流の双方を確保するため、同種または異種の複数のキャパシタを直並列に接続してもよい。なお、前述したが、キャパシタを並列に接続するのは、キャパシタの通過可能電流を確保して、キャパシタの発熱を、5℃〜10℃以下に抑えるためである。
好ましくは、キャパシタを直並列に接続する場合、直列接続するキャパシタの数と、並列に接続するキャパシタの数を同一にする。図40は、キャパシタを直並列に接続する場合の接続図である。図40(A)、図40(B)、図40(C)は、直列接続するキャパシタの数を3、並列に接続するキャパシタの数を2とした場合の接続例である。
そして、直列、並列に接続するキャパシタCdの値を±20%以内にするのは、各キャパシタCdに印加される電圧、各キャパシタCdに流れる電流をできる限り均一に近づけるためである。1%以下の精度を持つキャパシタも存在するが、これらは高価である。一般のキャパシタに表記されている静電容量は、5〜10%程度の偏差を持つため、キャパシタCdの公称値は、約±20%以内に選べばよい。例えば、0.01μFを基準とすると、上限は0.012μF、下限は、0.0082μFとなる。同一の公称値を持つキャパシタをCd全てに使用すれば、より好ましい。なお、同一の種類、公称値のキャパシタを直並列に接続する場合、図40(D)のような接続をすると、キャパシタCd1に過大電圧が印加されるので、このような接続法を使用しないよう、キャパシタを直並列に接続する場合、直列接続するキャパシタの数と、並列に接続するキャパシタの数を同一とする規定を設けてある。
さらに精密な調整が必要な場合は、図40(E)に示すようにキャパシタCcを用いて行なう。キャパシタの静電容量を微調整するために、単体キャパシタCd、合成キャパシタCp、または合成キャパシタCpを構成するCdに並列に接続するキャパシタCcは、この発明の実施形態の特性規定を必ずしも満足する必要はないが、満足しているのが好ましい。ただし、並列に接続するキャパシタCcも、交流電源の出力周波数が、前記LpとCとで決まる、リアクタンスがゼロとなる点に設定されているときの、並列に接続するキャパシタCcに印加される交流電圧Vc(V)より高い動作可能電圧性能をCcが有しており、かつ、並列に接続するキャパシタCcに流れる交流電流Ia(A)より高い通過可能電流性能を並列に接続するキャパシタCcが有していることを条件としている。なお、合成キャパシタCpは、図40の各図に示す左右端双方の端子から成るものを指す。
コイルとキャパシタの直列回路のリアクタンスがゼロとなる点では、共振作用により、キャパシタに、Ia(A)なる電流が流れ、Vr(V)=Vs(V)×Qr、なる電圧が印加されるので、キャパシタの実効直列抵抗Rcは十分に低いものを選び、熱条件を満足する周波数を電力伝送に選ぶことが重要である。
なお、キャパシタの両端電圧Vc(V)は、図1の回路において、最大電力を伝送しているときに実測すればよい。実測後、両端電圧Vc(V)がキャパシタの動作可能電圧を越えているときには、前述したように、キャパシタを直列に接続する。同じく、キャパシタに流れる電流は、図1の回路において、最大電力を伝送しているときに実測する。キャパシタが通過可能な交流電流は、リップル電流として規定されている場合もある。しかし、規定が無い場合には、前述したように、キャパシタの温度上昇を計測する。温度上昇が10℃を越えているときは、キャパシタを並列接続する。キャパシタの動作可能電圧、通過可能電流の双方を越えているときには、キャパシタを直並列に接続する。キャパシタを直列、並列、直並列に接続する場合、合成キャパシタの静電容量が所定値となるよう、合成キャパシタを構成するCdの値を選ぶ。そして、上述した特性規定は、前記合成キャパシタにて計測する。
(回路構成の実施例)
図37は、本発明の他の実施形態を示す図であり、送電コイル1には、直流電源13とスイッチング素子Q3が直列接続されており、スイッチング素子Q3は、制御回路201の制御により、図38(A)のような駆動波形VGにて送電コイル1に単方向のパルス電流を流すと、送電コイル1の両端には図38(B)に示す電圧波形VL(V)が現れる。
図37においては、送電コイル1に並列にキャパシタC3を接続し、無負荷時の回路電流を減少させるとともに、送電コイル1の電圧、電流波形を正弦波に近づけるのが好ましい。図37においては、駆動波形VGにて、スイッチング素子Q3を駆動する。駆動波形の周期(周波数)は一定で、スイッチング素子Q3をONにする時間のみを可変可能としている。このような構成とすることにより、送電コイル1に流れる電流が飽和するのを防止し、送電コイル1による電力損失を防いでいる。
また、送電コイル1に並列にキャパシタC3を装備することにより、送電コイル1の電圧波形、電流波形を正弦波に近づけ、送電コイル1による電力損失を防止できる。送電コイル1に並列に装備するキャパシタC3は、前述したような実施形態に規定の特性を持つものに限定されないが、前述したような特性を持つものを使うとより好ましい。あるいは、図37に示すスイッチング素子Q3がOFFとなったときに、図38(B)に示す電圧波形VLに示されている逆起電力による負のスパイク電圧を防止するためにも、送電コイル1に並列にキャパシタC3を接続するのが好ましい。
なお、図37に示す実施形態では、必ず受電コイル2にキャパシタC2を装備しなければならない。ただし、受電コイル2にキャパシタC2を装備していれば、送電コイル1の送電制御回路11(駆動回路)は、図37に示すものに限られない。図2に示す実施形態のもの、正弦波出力など、種々のものが適用できる。図2に示す実施形態の交流電源13を使用する場合、デューティが50%に固定されておらず、デューティが可変可能なものを使うのが好ましい。また、正弦波で送電コイル1を駆動すると、受電コイル2が送電コイル1と誘導結合していないときに、送電コイル1は全く実効電力を消費しない。これは、送電コイル1に供給される電力が全て無効電力になるからである。よって、送電コイル1単体に交流電力が供給されていても、送電コイル1は全く発熱しない利点がある。
図39は、本発明のその他の実施形態を示す図であり、回路構成は図1と同一で、受電コイル2と負荷RLとの間に直列にキャパシタC2が装備されている。
図39のような回路構成とすると、負荷抵抗値RLの変動による送電側のインピーダンス変動を、図1の回路構成に比べて小さくすることができる。図39のC1、C2は、いずれも本発明の実施形態におけるキャパシタが使用される。ただし、図39のC2は、主として受電機器など実装スペースが小さいところに装備される。また、図39の回路構成では、前述したように所定の電力を伝送可能な周波数範囲が広いので、通過可能電流を満足していれば、キャパシタC2は、必ずしも上記実施形態に記載したキャパシタを使用しなくともよい。
上述してきた電力伝送装置の各実施形態において、送電コイルと受電コイルは空芯平面渦巻状のコイルについて説明している。しかし、送電コイルと受電コイルとが誘導結合可能な構成を持つものであれば、空芯平面渦巻状のコイルに限らず、本発明に適用可能である。なお、送電コイルと受電コイル間の結合係数は、0.4〜0.8の間が好ましい。
(送電部と受電部間の信号伝送)
図41は、受電部20から送電部10に信号を伝送する一例である。受電部20の負荷変動により、送電コイル1のインダクタンスが変動する。そのときに、送電コイル1の両端交流電圧が大きく変動する。そこで、送電部10に信号送受信回路15を内蔵し、受電部20に信号送受信回路25を内蔵する。これにより、受電部20から送電部10に信号を送ることが可能になる。受電部20から送電部10に信号を送ることにより、受電部20に異常が起こったときに、送電部10で電力送電を中止するなどの異常対策が取れる。
また、コード認証を行なうことにより、正規の受電部20以外には送電を行わないこともできる。前述したように、キャパシタCの両端電圧Vcは、交流電源13の出力電圧よりも高くなる。そのため、例えば、受電部20から負荷を変動させて振幅変調した信号を送電部10に送り、図2の送電部10において、キャパシタとコイルの接続点より信号を取り出して振幅変調された信号を復調することができる。同じくキャパシタとコイルの接続点を接地電位と短絡することにより、振幅変調した信号を生成できる。振幅変調された電力伝送用の搬送波は、受信部にて復調される。前述したが、キャパシタは直流電流を遮断する。よって、キャパシタとコイルの接続点を接地電位と短絡すると、コイルには電流は流れない。その結果、短絡時には、図2の回路は電力を消費しない。
このような制御方式は、従来から種々提案されているが、従来の技術では、そもそも受電部が必要とする電力を送れていない。このような機能は、本発明の実施形態ように、電力伝送性能が確保できてこそ、効果を発揮するものである。信号伝送方法としては、種々の方式がある。上記のように送電コイル1と受電コイル2を用いても、従来技術より高精度に信号を伝送できる。あるいはMHz帯域、GHz帯域の通信手段を使うこともできる。プラスチックを透過する赤外線LEDにより信号を送信し、赤外線フォトダイオードにより信号を受信して用いてもよい。このように、従来と比較して電力伝送性能が向上すると、送電部10と受電部20間の信号伝送が種々の方式を用いて実現できるようになる。
前述してきたような電力伝送装置の送電部10は、電力伝送装置の受電部20と組合せ、電力伝送装置の送電装置として使用できる。また、前述してきたような電力伝送装置の受電部20は、電力伝送装置の送電部10と組合せ、電力伝送装置の受電装置として使用できる。
上記の実施形態に述べてきたキャパシタの特性計測方法は、キャパシタに1kHz以上の周波数の交流電流が流れる高周波電力回路に使用するキャパシタの性能評価方法となる。性能が良いと評価されたキャパシタは、本発明の実施形態の電力伝送装置以外にも使用できる。例えば、図2の回路の送電コイル1を加熱用コイル、受電コイル2を被加熱用の金属体とした誘導加熱器にも使用できる。現状の誘導加熱器は、図37の送電部と同じ回路構成となっている。図37の送電部においては、送電コイルが方形波で駆動される。そのため、送電コイル1の両端電圧波形と送電コイル1に流れる電流波形は正弦波とならず、送電コイル1と駆動用スイッチング素子Q3にて電力損失が発生する。市販されている誘導加熱器の、電気−熱のエネルギー変換効率は約85%となっている。しかし、誘導加熱器は1kW以上の大電力を消費するため、15%の電力損失は、150Wに昇る。この150Wの電力の大半が、加熱コイルとスイッチング素子Q3にて熱損失となる。誘導加熱器を、図2の送電部のような回路構成とすることにより、Q1とQ2の電力損失は殆どなくなり、加熱コイルでの電力損失のみとなる。
誘導加熱器は、1kW以上の電力が消費されるのは前述した通りである。したがって、図37の送電部と同じ回路構成の誘導加熱器であっても、加熱コイルに並列にキャパシタを接続した並列共振回路では、並列回路に理論上は無限大の電流が流れる。前述の図37に示す電力伝送装置とは異なり、誘導加熱器においては、本発明の実施形態における力率改善用キャパシタと同じ特性を持つものを使用するのが好ましい。
同じく、図3に示すキャパシタ電圧のゼロ点よりのシフト比Sの計測回路は、電力回路用キャパシタの性能評価用装置として使用できる。図20に示す誘電吸収K、誘電吸収の対称性Krを計測する回路も同様である。さらに、図24に示すキャパシタの温度計測回路、図27に示すA/D変換回路75も、電力回路用キャパシタの性能評価用装置として使用できる。これらの装置を用いて、電力伝送装置のみならず、電力回路に使用されるキャパシタの性能評価ができる。特に、キャパシタに5kHz以上の交流電流が流れる電力回路に使用するのに最適なキャパシタを選べるようになる。
また、上記に説明した各キャパシタの実効抵抗やインダクタンスの測定には、ヒューレットパッカード社のLCRメータ、4275Aを使用した。なお、計測は、1、2、4、10の各点でしか計測できないので、中間点は、グラフにより補間している。交流波形計測には、ケンウッドのオシロスコープ、CS−5370を使用した。交流波の図には、ピーク値をカーソルで計測後にグラフに数値として記入してある。CS−5370は、電力伝送性能の計測にも使用している。例えば、受電コイルに接続された無誘導負荷抵抗の両端電圧を計測し、無誘導負荷抵抗に伝達されている実効電力を求めている。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
1 送電コイル、2 受電コイル、3 送電制御回路、4 受電制御回路、10 送電部、11 送電制御回路、12 直流電源、13 交流電源、14,201 制御回路、15,25 信号送受信回路、17 通信ライン、20 受電部、21 負荷、30 オシロスコープ、41 交流定電流源、42 交流電圧計、61 オペアンプ、62 直流電圧計、63,64,65 スイッチ、81,82,83,84,キャパシタ、85 箔状金属、86 箔状誘電材料、Q1,Q2,Q3 スイッチング素子、C,C1〜C3,Cc,Cd、Cp キャパシタ、C1c ポリプロピレンキャパシタ、C1h,C1s セラミックキャパシタ、Ls 基準インダクタンス、Rc,Ri 実効直列抵抗、R1〜R4,Rh 抵抗、Zs 交流電源の内部インピーダンス。