JP2009107902A - 透光性アルミナ焼結体およびその製造方法 - Google Patents

透光性アルミナ焼結体およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】異種成分と複合化されたアルミナ焼結体では、アルミナ焼結体の異種成分との界面での光散乱により高い透光性を有する焼結体を得ることが困難であった。
【解決手段】アルミナと同等の屈折率を有するβ−アルミナ構造型アルミネート化合物とアルミナの複合焼結体において、β−アルミナ構造型アルミネート化合物を1〜50wt%とすることにより試料厚み1mmにおける600nm波長の全光線透過率45%以上、曲げ強度は500MPa以上の高透光性、高強度のアルミナ焼結体を得る。焼結粒径は10μm以下であることが好ましい。
【選択図】 図3

Description

本発明は透光性と強度に優れ、歯科用途、特に歯列矯正ブラケットや義歯用ミルブランクに適する透光性アルミナ焼結体に関するものである。
透光性アルミナセラミックスは、高強度、透光性および耐食性に優れるため、古くから高圧ナトリウムランプ等の管材として使用されてきた。また最近では、歯列矯正ブラケット、歯の修復用クラウン・ブリッジ等の歯科材料としての用途が広がっている。
歯科材料用として使用する場合、強度、靭性等の機械的特性のみならず高い審美性(透光性)が必要とされ、これら両方の特性を兼ね備えた材料の開発が望まれている。
アルミナセラミックスの機械的特性の向上については、例えば他材料との複合化する方法が知られている。例えばSiCとの複合化(特許文献1)、ジルコニアとの複合化(特許文献2)により、純粋なアルミナと比較して高強度、高靭性となることが報告されている。また異方形状を有するβアルミナ化合物との複合化(特許文献3)により高破壊靭性値を与えることも報告されている。
一方、透光性の向上に関しては、散乱の原因となる気孔や不純物(異相)は排除することが必要である。従来、アルミナに粒成長を抑制する酸化物(MgO、La、Y、ZrO、HfO)を添加し、異常粒成長に起因する粒内気孔の生成を抑制し、アルミナの透光性を向上させることが知られている。しかしこれらの添加量の増加と共に透光性は低下するという問題があった。
透光性が維持される添加物量は、MgOでは0.1wt%以下(特許文献4)、La、Yでは0.2wt%以下(特許文献5)、ZrO、HfOではそれぞれ0.07wt%、0.12wt%以下(特許文献6)程度であることが報告されている。例えばZrOが2.5mol%(約3wt%)添加されたアルミナ焼結体では、厚みが0.5mmにおいて可視光における透過率は25%と極めて低いもの(特許文献7)であった。
異種成分に起因する散乱の低減については、従来のMgO等を添加した透光性アルミナ焼結体においても、酸化ランタンをはじめとする希元素酸化物を微量添加し、粒界相(スピネル相)の屈折率をアルミナに近接させる手法が報告されている(特許文献8)。しかし、この手法における希元素酸化物添加量は極微量であるため、高い透光性を保持したまま機械的特性を向上させるものではなかった。
このようにアルミナ焼結体の透光性は異相が微量に存在することで低下するため、特許文献1〜3に示されるアルミナ複合焼結体に限らず、これまで報告されている複合焼結体では十分に高い透光性を示すものはなかった。セラミックスにおいて異なる材料との複合化は機械的特性を向上させる極めて有効な手段であるが、複合化により異相界面に起因した光散乱が生じるため、高い透光性を有する焼結体を作製することは困難であった。
特開昭64−87552号公報 特開昭60−235762号公報 特開昭63−134551号公報 米国特許第3026210 特開昭54−148008号公報 特開昭59−6831号公報 特開2001−322866号 特開2000−219570
従来の異種成分を含有した透光性アルミナ焼結体には、例えば焼結助剤(例えば粒成長抑制剤)であるMgO等を添加(0.1wt%以下)して焼結結晶粒の異常粒成長を抑制したものが知られているが、その様な焼結体では粒径20〜50μm程度の大きい結晶粒子からなり、透光性と強度が十分なものではなかった。
本発明者等は透光性アルミナ焼結体の透光性と強度の向上について鋭意検討した結果、アルミナと同程度の屈折率を有するβ−アルミナ構造型アルミネート化合物とアルミナを複合化することにより、透光性と強度に優れたアルミナ焼結体となることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の透光性アルミナ焼結体は、アルミナと同程度の屈折率を有するβ−アルミナ構造型アルミネート化合物を従来用いられていなかった組成範囲である1〜50%大量に複合化させた、高い透光性と高強度なアルミナ焼結体である。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のアルミナ焼結体は、β−アルミナ構造型アルミネート化合物(以下、アルミネート化合物という)を1〜50wt%含有し、試料厚さ1mmで波長600nmの可視光に対する全光線透過率が45%以上のものである。
アルミネート化合物は、アルミナと類似の結晶構造を有するため、アルミナと同等の屈折率を有しているため、その様な化合物が含まれてもアルミナ焼結体の透光性が維持される。これらの化合物はアルミナと複合化させることで、焼結粒子内の異相界面に起因する光散乱を抑制することが可能である。
本発明におけるアルミネート化合物としては、例えばLaAl1118、LaMgAl1119、YMgAl1119、CeMgAl1119、CaAl1219、SrAl1219、BaAl1219、MgNaAl1525、SrMgAl1017、BaMgAl1017、NaMgAl1217、NaAl1117、CeAl1118が例示できる。
中でもLaAl1118、LaMgAl1119が特に好ましい。LaAl1118の屈折率は、1.780(窯業協会誌、82[12]、631−636(1974))であり、アルミナの屈折率a軸 1.768、c軸 1.760(Infrared Phys. Technol.,39[4]235−249(1998))に極めて近い値を有する。さらに、LaAl1118はアルミナとの複合化によりアルミナ相の焼結結晶粒の微細化する効果を有する。構造の類似性からLaMgAl1119も用いられる。
本発明の焼結体中のアルミネート化合物含有量は、1〜50wt%であり、特に透光性と強度を両立するための好ましい範囲は1〜10wt%である。含有量が少ない場合は、機械的特性の向上は不十分であり、50wt%より過剰な場合、透過率が低下する。
従来、LaAl1118等のアルミネート化合物とアルミナとの複合焼結化の報告(例えば特許文献3)では、アルミネート化合物の異方成長を用いた高靭性化・高強度化を目的としたものであったため、複合化相が多量に存在し、透光性に影響する気孔の除去が不十分であったため透光性が十分な焼結体は得られていなかった。
本発明の焼結体は、試料厚み1mmにおける波長600nmの可視光に対する全光線透過率が45%以上であり、特に50%以上、さらに60%以上が好ましく、70%以上も達成できる。
本発明の焼結体は、アルミナ相の平均焼結結晶粒径が10μm以下であることが好ましく、さらに5μm以下が好ましい。本発明の焼結体ではアルミネート化合物とアルミナの複合化によりアルミナの焼結粒成長が抑制されるためである。
アルミナ焼結体では焼結結晶粒径が小さいほど曲げ強度は向上するため、本発明の焼結体は、曲げ強度500MPa以上の高い強度を有するものが好ましく、特に600MPa以上、さらに700MPa以上が好ましく、800MPa以上も達成できる。
次に本発明の焼結体の製造法について説明する。
本発明の焼結体は、アルミナ粉末中のアルミネート化合物を1〜50wt%となる様に、アルミナ粉末にアルミネート化合物及び/又はその前駆体を添加・混合分散し、成形後、無加圧下で焼結したものをさらにHIP処理することによって製造する。
使用するアルミナ粉末は特に限定されないが、市販のアルミナ粉末(例えば、大明化学工業製品、或いは住友化学工業製品等)が使用できる。
アルミネート化合物を用いる場合は、ボールミル等を用いてアルミナ粉末と混合・粉砕して用いられる。また、前駆体としてアルミネートを構成する酸化物をアルミナ粉末に添加・混合分散して用いても良い。例えばLaAl1118では、その前駆体であるLaAlOとアルミナ粉末に混合したものを用いられる。
無加圧での焼結(一次焼結という)は通常、大気、酸素、真空などの雰囲気中で粉末成形体をそのまま焼結する。最も簡便な方法は大気焼結である。焼結条件としては、少なくとも焼結体(一次焼結体という)中の気孔が閉気孔となる条件(相対密度で95%以上)となる焼結温度で行うことが好ましい。これは、HIP処理における高圧ガスの焼結体内部への浸透による透光性の低下を避けるためである。
最終的に得られるHIP処理後の焼結体の透光性向上には、焼結体中の気孔がなるべく少ない事が好ましいが、そのために一次焼結体の焼結結晶粒の大きさは小さいほうが好ましい。一次焼結体の焼結結晶粒径は小さいほうが好ましく、5μm未満であることが好ましい。5μm未満ではHIP処理時の粒子の塑性流動が活発になり、残留気孔の消滅がさらに促進されるからである。一方、焼結粒径は透光性、強度の点から1μmを越えるものであることが好ましい。
一次焼結体の粒径を小さくするためには、焼結体が閉気孔となる焼結温度は低い方が好ましい。アルミネート化合物としてLaAl1118を用いる場合には1400℃、LaMgAl1119では1500℃以下で一次焼結することが好ましい。
HIP処理は焼結体中の残留気孔を消滅させる目的でなされる。残存気孔の低減は1200℃以上で生じるが、HIP処理温度が1400℃以下の場合、気孔除去が十分ではなく焼結体の透光性は十分でない。また焼結時にアルミネート化合物を生成する前駆体を用いる場合には、アルミネート化合物が1400℃以上で生成するために、HIP温度は1400℃以上、特に1500℃以上の処理が好ましい。
HIPでの圧力媒体としては通常用いられるアルゴンガスで十分である。その他のガス、例えば窒素、酸素なども適用可能である。圧力は50MPa以上、特に100〜200MPaの範囲が好ましい。
本発明の焼結体は高強度と透光性を兼ね備えており、歯科材料、特に歯列矯正ブラケット又は義歯用ミルブンランクに用いる材料として適する。従来のブラケットとして使用されている透光性アルミナは、高温焼結で得られているため、焼結結晶粒が20μm以上で、曲げ強度300〜400MPa程度までのものである。本発明の焼結体は、従来のアルミナ焼結体に比べて高強度であり、ブラケットの小型化、セルフライゲーション等の複雑形状設計が可能となる。
本発明の透光性アルミナ焼結体は、高強度かつ透光性に基づく審美性を有しており、例えば歯科分野おいて利用されている歯列矯正ブラケット、義歯用ミルブランク等に用いる歯科材料として極めて好適な特性を有する。又、その他の用途、高圧ナトリウムランプ管、メタルハライドランプ管等にも使用できる。
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
本発明の焼結体特性は以下の方法によって評価した。
(1)全光線透過率
全光線透過率はダブルビーム式の分光光度計(日本分光会社製、V−650)、JIS K7361−1に準拠した方法により測定した。測定試料は、焼結体厚み1mmに加工し、表面粗さRa=0.02μm以下となるように両面鏡面研磨を行ったものを使用した。測定装置の概要を図1に示す。光源(重水素ランプおよびハロゲンランプ)より発生した光を試料に透過および散乱させ積分球を用いて全光線透化率を測定した。測定波長は、200〜800nmの領域で測定し、本件の全光線透過率は、可視光線領域の600nmの波長での全光透過率とした。
(2)3点曲げ強度
3点曲げ強度の測定は、万能試験機オートグラフDCS−2000(島津製作所製)を用いJIS−R−1601に基づき、幅4mm、厚さ3mm、長さ40mmの試験体をスパン長さ30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minの条件で測定した。それぞれの試料についてテストピース5本の平均値である。
(3)焼結結晶粒径
焼結体の焼結結晶粒径は焼結体を鏡面研磨し、焼結体の最高経験温度より100℃低い温度で1時間熱エッチングした面をSEM観察することにより測定した。SEM測定は、走査型電子顕微鏡JSM−5400(JEOL製)を用い実施した。粒径測定は、コード法に基づいた市販の粒径測定ソフト(CERAPART:サイエンスソリューション製)を用いて測定した。粒子形状に関する係数はJ.Am.Ceram.Soc.,52 [8] 443−6(1969)に記載されている方法に従い1.56を用いた。
(4)X線回折
焼結体の結晶相の同定はX線回折(XRD)測定による実施した。測定には粉末X線回折装置RINT UltimaIII(リガク製)を用い、40kV、40mAの条件で焼結体の焼き肌面について測定した。
(5)焼結密度
焼結体の密度は、アルキメデス法による水中重量の測定から求めた。
実施例1
高純度アルミナ粉末(大明化学工業製 純度99.99%以上)にアルミネートの前駆体としてLaAlOを添加し、12時間ボールミル混合し、ロータリーエバポレーターにて乾燥させたものを原料粉末とした。なお前駆体LaAlOには、高純度アルミナ(大明化学工業製 純度99.99%以上)と酸化ランタン(信越化学工業社製)を用い、固相反応法により合成した。
原料粉末を一軸プレス装置と金型を用い、圧力50MPaを加えて40mm×50mm、厚さ5mmの板状成形体とし、これをゴム型に入れ冷間静水圧プレス装置を用い圧力200MPaで成型した。次に大気中1400℃で2時間焼結し一次焼結体を得た。さらに一次焼結体をHIP装置によりアルゴンガス媒体中、温度1550℃、圧力150MPaで2時間処理した。
焼結体密度、平均粒径、全光線透過率(試料厚み1mm、波長600nm)、強度測定の結果を表1に示す。XRDの測定の結果、焼結体はα―アルミナとβ−アルミナ構造型アルミネート化合物(LaAl1118)から構成されていた。
Figure 2009107902
実施例2
高純度アルミナ粉末(大明化学工業製 純度99.99%以上)にLaMgAl1119の前駆体として硝酸ランタン6水和物(La(NO・6HO)及び硝酸マグネシウム(Mg(NO・6HO)を添加し、水溶媒中で攪拌・溶解した。得られたスラリーをアンモニア水により中和し、沈殿物をろ過、乾燥させた。得られた乾燥物を12時間ボールミル混合し、ロータリーエバポレーターにて乾燥したものを原料粉末とした。
次に実施例1と同様の手法により焼結体を作成した。得られた焼結体の密度、平均粒径、全光線透過率測定、強度測定を行った。結果を表2に示す。
XRD測定の結果、焼結体はα―アルミナとβ−アルミナ構造型アルミネート化合物(LaMgAl1119)から構成されていた。
Figure 2009107902
比較例1
実施例1記載の高純度アルミナ粉末を用い、アルミネート化合物を用いることなく実施例1と同様の条件で焼結体を製造した。焼結体密度、平均粒径、全光線透過率(試料厚み1mm、波長600nm)、強度測定の結果を表3に示す。
アルミネート無添加のアルミナ焼結体では、粗大な異常成長粒子が多数観測され、曲げ強度の低い焼結体しか得られなかった。
Figure 2009107902
全光線透過率測定装置の概略図 本発明の焼結体組織((a)試料番号1−1、(b)試料番号1−2、(c)試料番号2−1) 本発明の焼結体の全光線透過率(試料厚み1mm) 比較例の焼結体組織(比較例1 試料番号3−1) 本発明の焼結体のXRDパターン

Claims (8)

  1. β−アルミナ構造型アルミネート化合物を1〜50wt%含有し、試料厚み1mmにおける波長600nmの可視光に対する全光線透過率が45%以上であることを特徴とする透光性アルミナ焼結体。
  2. β−アルミナ構造型アルミネート化合物がLaAl1118及び/又はLaMgAl1119である請求項1に記載の透光性アルミナ焼結体。
  3. アルミナ相の平均焼結結晶粒径が10μm以下である請求項1〜2のいずれかに記載の透光性アルミナ焼結体。
  4. 曲げ強度が500MPa以上である請求項1〜3のいずれかに記載の透光性アルミナ焼結体。
  5. 試料厚み1mmにおける波長600nmの可視光に対する全光線透過率が50%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の透光性アルミナ焼結体。
  6. アルミナ粉末に、β−アルミナ構造型アルミネート化合物及び/又はその前駆体を1〜50wt%添加・混合分散し、成形後、無加圧下で焼結し、さらに熱間静水圧プレス(HIP)処理することを特徴とする請求項1〜5に記載の透光性アルミナ焼結体の製造方法。
  7. 請求項1〜5記載の透光性アルミナ焼結体を用いてなる歯科材料。
  8. 歯列矯正ブラケット又は義歯用ミルブランクのいずれかである請求項7の歯科材料。
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