JP2009079134A - バイオディーゼル燃料 - Google Patents

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Abstract

【課題】凝固点が低く、寒冷地での使用時にも固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料である。
CO(PO) ・・・(I)
ただし、前記一般式(I)中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、RCの炭素数は10〜18であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、POはプロピレンオキサイドを示し、nは1〜7の整数を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、バイオマス燃料の一種であるバイオディーゼル燃料に関し、より詳細には、凝固点が低く、寒冷地での使用時にも固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料に関する。
近年、地球温暖化問題や、石油燃料の枯渇化問題等の対策を目的に、従来の石油由来の燃料を代替する燃料として、バイオマス燃料利用への動きが高まっている。バイオマス燃料は、例えば植物のライフサイクルの中で、太陽エネルギーにより二酸化炭素と水から光合成された物質から得ることができる。バイオマス燃料が燃焼して発生する二酸化炭素は、再び植物が吸収するため、カーボンニュートラルな燃料といえ、地表圏上の二酸化炭素を増大させることがないクリーンな燃料である。バイオマス燃料としては、具体的には、メタン、メタノール、エタノール、MTBE、ETBE、バイオディーゼル燃料、GTL、BTLなどが挙げられ、植物や廃材、廃棄物などを原料として作ることが可能である。
これらの中で、バイオディーゼル燃料は、菜種油、大豆油、パーム油、ヒマワリ油等といった植物性油脂(植物油)をエステル化して得られる、脂肪酸アルキルエステル組成を有する燃料である。特にメチルエステル化したものが一般的であり、軽油を代替する燃料として期待されている。
バイオディーゼル燃料に使用する植物油としては、気候により植物の生育が影響を受けるため、地域毎に使用する植物油が異なる。世界的に見たバイオディーゼル燃料の生産量はEUが格別に多く(03年度:87%)、アメリカ、日本、東南アジア等のその他地域が残りを占めている。主にEUでは菜種油、アメリカでは大豆油から誘導されるメチルエステルをバイオディーゼル燃料として用いており、現在最も利用されているバイオディーゼル燃料は菜種メチルエステルであり、その凝固点は約−12℃と低温である。しかし、菜種メチルエステルをバイオディーゼル燃料として利用しているEUでは、現状では菜種の生産が追いつかず、菜種メチルエステル以外のバイオディーゼル燃料の使用も必要とされている。
なお、バイオディーゼル燃料は、使用する温度条件下で凝固しない性質であることが必要とされるが、使用する地域によって気温が異なることから、バイオディーゼル燃料の凝固点の規格は一様ではない。例えば、ディーゼル車の使用頻度の高いEUの規格(EN14214)では、エンジンの目詰点は−15〜+5℃(気候による)と規定されており、また、それに準じた日本の規格において、凝固点は当事者間の合意によるとされている。現状では、凝固点が−2.5〜−7.5℃未満であれば実用範囲であり、好ましくは−7.5℃以下と言われている。
ところで、パームは菜種や大豆と比較して単位面積当たりの収穫量が多く、生産的な植物であるため、これをバイオディーゼル燃料の原料として使用することが望まれている。しかしながら、パーム油から誘導されるパームメチルエステルは、凝固点が13℃程度であり、寒冷地での使用時に固化の懸念が挙げられる。これはパーム油には融点の高い飽和脂肪酸(特にC16)が多く含まれることに由来し、パームメチルエステルをバイオディーゼル燃料として使用する場合には、その凝固点を降下させる技術が必要である。
現在は、凝固点が高いパルミチン酸エステルなどの飽和脂肪酸エステルを低温で晶析・除去すること、また他の油種と混合することで、パームメチルエステルの凝固点降下が図られている(特許文献1、特許文献2)。また、低温流動性向上剤を添加することも検討されているが、パームメチルエステルでは効果がほとんど得られていない。低温流動性を確保するのにパームメチルエステルに40〜50%含まれる飽和脂肪酸エステルを除くことは経済的でなく、また、EUでは菜種の生産量が不足していることなどから、他の油種との混合なしにパームメチルエステルを単独で使用することができればより好ましく、このような技術が望まれているのが現状である。
一方、一般的なディーゼル燃料の低温流動性向上技術としては、従来から種々の添加剤が検討されてきた。軽油に含まれるワックス状物資は低温になると析出するため、エンジンの燃料配管系フィルター目詰まりなどのトラブルを生じる。このような低温時における燃料油のトラブルを防止するために、以下のような様々な添加剤が開発されてきた。
例えば、ポリエチレングリコールのジベヘネート(特許文献3)や多価カルボン酸のポリエチレングリコールエステルと脂肪酸とのエステル化物(特許文献4)などが知られている。しかしながら、これらは単独で用いると凝固点降下効果が不十分であるという問題があった。
また、多価アルコールから誘導される化合物を添加剤とすることも知られている。例えば、3価以上の多価アルコールに対してアルキレンオキサイドを付加した化合物と脂肪酸とのエステル化物(特許文献5、特許文献6)などが知られている。しかしながら、これらは、両者ともに凝固点降下効果があるものの、それ自体では使用できないという問題があった。これは、前者(特許文献5)については、主な使用目的である金属接触面における磨耗低減効果に関して、軽油に対して0.1%以上添加しても効果が頭打ちとなってしまい、逆にコスト面で不利となることから、軽油に対して添加量が0.001〜0.1%と極少量しか使用できないためであり、後者(特許文献6)についても同様に、その添加量は極少量であり、0.0001〜0.5%に留まるためである。
また、3価以上の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル、又は、3価以上の多価アルコールと脂肪酸との部分エステル化物のアルキレンオキサイド付加物を添加剤として用いることも知られている(特許文献7、特許文献8)。しかしながら、これらは、軽油の凝固点降下剤として使用されるエチレン−不飽和カルボン酸ビニルエステル共重合体の不飽和ジカルボン酸エステルグラフト付加物との併用系で用いられており、単独では凝固点降下効果が不十分であるという問題があった。
なお、上記の多価アルコールを用いる添加剤のその他の課題として、多価アルコールが1価のアルコールと比較して高価であること、また、特性として高い粘度を有することから製造上ハンドリングが悪いことなどが挙げられる。
特開2004−359766号公報 特開2005−220227号公報 特開昭61−123698号公報 特開昭57−177092号公報 特開平9−169986号公報 特公平2−51477号公報 特開平10−237469号公報 特開平10−245574号公報
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、凝固点が低く、寒冷地での使用時にも固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来からバイオディーゼル燃料として使用されてきた脂肪酸アルキルエステルに対して、プロピレンオキサイド(以下、単に「PO」と称する場合がある)を付加するという簡便な手法で、凝固点の低い、優れたバイオディーゼル燃料が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
前記したように、脂肪酸アルキルエステルの中でも、特に飽和脂肪酸アルキルエステルは凝固点が高いことが知られており、そのため、原料として飽和脂肪酸組成比の高いパーム油やパーム核油等を使用する場合には、得られたバイオディーゼル燃料の寒冷地での固化が懸念されていた。本発明者らは、POを付加するという簡便な手法により、飽和脂肪酸アルキルエステルの凝固点をも顕著に降下できることを見出し、その効力は実用範囲である−2.5℃以下に及ぶことを確認した(実施例参照、後述)。本発明は、特に、前記したような飽和脂肪酸組成比の高いパーム油やパーム核油等から誘導されるバイオディーゼル燃料に、好適に利用可能であると考えられる。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料である。
CO(PO) ・・・(I)
ただし、前記一般式(I)中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、RCの炭素数は10〜18であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、POはプロピレンオキサイドを示し、nは1〜7の整数を示す。
<2> 一般式(I)で表される化合物が、パーム油及びパーム核油の少なくともいずれかから誘導される脂肪酸アルキルエステルに、プロピレンオキサイドを付加して得られる化合物である前記<1>に記載のバイオディーゼル燃料である。
<3> 更に、菜種油から誘導される脂肪酸メチルエステル、及び、軽油の少なくともいずれかを含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料である。
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、凝固点が低く、寒冷地での使用時にも固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料を提供することができる。
(バイオディーゼル燃料)
本発明のバイオディーゼル燃料は、下記一般式(I)で表される化合物を含有してなり、更に必要に応じて適宜その他の成分を含有してなる。
CO(PO) ・・・(I)
ただし、前記一般式(I)中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、RCの炭素数は10〜18であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、POはプロピレンオキサイドを示し、nは1〜7の整数を示す。
前記「バイオディーゼル燃料」とは、一般に、植物性油脂(植物油)をエステル化して得られる脂肪酸アルキルエステル組成を有する燃料をいい、特にメチルエステル化したものが一般的であり、軽油を代替する燃料として期待されている。
ここで、本発明のバイオディーゼル燃料は、前記一般式(I)で表されるように、従来の脂肪酸アルキルエステルに、更にプロピレンオキサイド(PO)が付加された脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有するものであり、従来のバイオディーゼル燃料よりも凝固点が低い。そのため、本発明のバイオディーゼル燃料によれば、従来のバイオディーゼル燃料、特に飽和脂肪酸組成比の高いパーム油やパーム核油等から誘導されるバイオディーゼル燃料における、寒冷地での固化の懸念を解消することが可能である。
<一般式(I)で表される化合物>
−脂肪酸部位(RC)の炭素鎖長−
前記一般式(I)中、RCで表される脂肪酸部位の炭素鎖長は、10〜18であり、中でも12〜18が好ましい。植物性油脂の脂肪酸炭素鎖長は10以上であり、また、バイオディーゼル燃料の原料として一般的に用いられる大豆油、パーム油、パーム核油等に含まれる脂肪酸炭素鎖長は10〜18(油脂化学便覧 第三版 参照)である。前記RCで表される脂肪酸部位の炭素鎖長が、18を超えると、脂肪酸自体の融点が高くなるため、プロピレンオキサイド(PO)付加を行っても凝固点降下効果が十分には得られない。一方、前記RCで表される脂肪酸部位の炭素鎖長が、好ましい範囲内であると、凝固点降下効果が十分に得られる点で、有利である。
−アルキルエステル部位(R)の炭素鎖長−
前記一般式(I)中、Rで表されるアルキルエステル部位の炭素鎖長は、1〜3であり、中でも1が好ましい。前記アルキルエステル部位の炭素鎖長が、0であると、脂肪酸となるので融点が高くなり、バイオディーゼル燃料として寒冷地での使用に適さない。また、前記アルキルエステル部位の炭素鎖長が、4以上であると、凝固点降下効果は十分に得られるが、エステル化する際の反応性が低いために、反応時間が長く必要となり、製造コストがかかるために適さない。一方、前記アルキルエステル部位の炭素鎖長が、1〜3であると、工業的にも前例があり、凝固点降下効果も十分に得ることができる。中でも、前記アルキルエステル部位がメチルエステル(炭素鎖長:1)であると、凝固点降下効果も十分に得ることができる上に、最も安価なメタノールを用いて合成できることから、製造コストがかからない点でも、有利である。
−PO付加モル数(n)−
前記一般式(I)中、nで表されるプロピレンオキサイド(PO)付加モル数は、1〜7であり、中でも3〜7が好ましい。前記PO付加モル数が、0であると、飽和脂肪酸アルキルエステルの凝固点が高くなり、バイオディーゼル燃料として寒冷地での使用に適さない。また、前記PO付加モル数が、8以上であると、凝固点降下効果は十分に得ることができるが、製造にコストがかかるために適さない。なお、前記PO付加モル数は、多いほど凝固点降下効果が大きくなるため、前記PO付加モル数は、中でも3〜7であることが好ましい。また、特にC16飽和脂肪酸アルキルエステルに関しては、十分な凝固点降下効果を得る観点からも、前記PO付加モル数は3以上であることが好ましい。
なお、脂肪酸アルキルエステルに付加させるアルキルオキサイドとしては、プロピレンオキサイド(PO)が好ましい。エチレンオキサイド(EO)を用いた場合では、POと比較してメチル基を有さないために、立体的な嵩が小さく、付加モル数を多くしないと凝固点降下効果を十分に得ることができない。また、ブチレンオキサイド(BO)などの分子量の大きいアルキルオキシドを用いた場合では、POと比較して反応性が低いために、付加のための反応時間がかかり、経済的に好ましくない。
−製造−
前記一般式(I)で表される化合物は、その製造方法に特に制限はなく、例えば、植物性油脂(植物油)から誘導された脂肪酸アルキルエステルに対して、プロピレンオキサイド(PO)を付加することにより、製造することができる。
−−脂肪酸アルキルエステルの製造−−
前記脂肪酸アルキルエステルの製造方法としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒法、リパーゼ酵素を用いる酵素法、超臨界メタノール法等の公知の手法を利用することができる。より具体的には、例えば、原料となる植物油を、アルカリ触媒等の触媒の存在下、メタノール等の1価アルコールとエステル交換反応させ、副生物のグリセリン等を除去する方法;植物油の加水分解により得られる脂肪酸を、メタノール等の1価アルコールによりエステル化する方法;等により、前記脂肪酸アルキルエステルを製造することができる。
なお、前記1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられ、これらの中でも、メタノールが特に好ましい。
また、前記植物油としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パーム油、パーム核油、大豆油、菜種油、ヤシ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油などが挙げられる。また、前記植物油としては、例えば、精製、漂白、脱臭等の処理が施されたものを用いてもよく、このような植物油としては、例えば、RBDパーム核油、RBDパームステアリン、RBDパームオレインなどが挙げられる。
中でも、前記脂肪酸アルキルエステルとしては、本発明における凝固点降下効果がより発揮されるという点で、パーム油及びパーム核油の少なくともいずれかから誘導される脂肪酸アルキルエステルであることが好ましい。
後述する表3に示すように、パーム油は、炭素数16の飽和脂肪酸を多く含み、パーム核油は、炭素数12の飽和脂肪酸を多く含む。融点の高い飽和脂肪酸が多く含まれることから、パーム油及びパーム核油の少なくともいずれかから誘導される脂肪酸アルキルエステルは凝固点が高く、そのため、従来から寒冷地での固化の懸念があった。本発明によれば、このようなパーム油及びパーム核油の少なくともいずれかから誘導される脂肪酸アルキルエステルに対しても、優れた凝固点降下効果を発揮することができる。
−−脂肪酸アルキルエステルに対するPO付加−−
前記のようにして製造された脂肪酸アルキルエステルに、プロピレンオキサイド(PO)を付加する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム・マグネシウムなどを主体とする複合金属酸化物を触媒として、150〜250℃、1〜5気圧の条件下で、脂肪酸アルキルエステルにPOを直接付加する方法や、水酸化カリウム等のアルカリ触媒を用いて、100〜170℃、1〜5気圧の条件下で、アルコールにPO付加した後に脂肪酸とエステル交換する方法などが挙げられる。
より具体的には、例えば、後述する実施例に記載の方法により、脂肪酸アルキルエステルに対するPO付加を行うことができ、これにより、脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有する前記一般式(I)で表される化合物を得ることができる。
なお、前記脂肪酸アルキルエステルに付加させるプロピレンオキサイド(PO)のモル数は、前記したように、1〜7であり、中でも3〜7が好ましい。
<その他の成分>
前記バイオディーゼル燃料は、前記のようにして得られた一般式(I)で表される化合物のうち、1種を単独で含有してなるものであってもよいし、2種以上を含有してなるものであってもよい。また、前記バイオディーゼル燃料は、前記一般式(I)で表される化合物のみを含有してなるものであってもよいし、必要に応じて、適宜、下記のようなその他の成分を含有するものであってもよい。
−菜種メチルエステル/軽油−
脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有する前記一般式(I)で表される化合物は、それ自体でバイオディーゼル燃料として使用できるが、必要に応じて、例えば、菜種メチルエステルや軽油等の、従来使用されているディーゼル燃料を適宜混合して使用することも可能である。
EU等で使用されている菜種メチルエステルは、凝固点が−12℃程度と低いため、それ自体でバイオディーゼル燃料として使用することができる。しかしながら、菜種の供給面での問題から、生産的なパーム由来のバイオディーゼル燃料と混合して使用することが望まれている。従来のパームメチルエステルは凝固点が約13℃と高いために、菜種メチルエステルと混合した場合、凝固点が高くなり、バイオディーゼル燃料としての使用が限られていたが、前記一般式(I)で表される化合物を用いることによれば、菜種メチルエステルとの50%の配合においても、凝固点が低いバイオディーゼル燃料を得ることができる(実施例参照、後述)。
また、菜種メチルエステルと同様に、現在ディーゼル燃料として使用されている軽油に対して、前記一般式(I)で表される化合物を混合することでも、低い凝固点を保つことが可能である(実施例参照、後述)。
なお、脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有する前記一般式(I)で表される化合物と、菜種メチルエステル及び軽油の少なくともいずれかとの混合量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、質量比で、前記一般式(I)で表される化合物:菜種メチルエステル及び軽油の少なくともいずれか=5:95〜95:5が好ましく、70:30〜30:70がより好ましい。前記混合量比が、5/95未満であると、凝固点効果度合いが不十分となることがあり、95/5を超えると、バイオディーゼル燃料(BDF)原料選択の融通性の点で不利になることがある。一方、前記混合量比が、より好ましい範囲内であると、凝固点降下効果、及び、BDF原料選択の融通性の点で、有利である。
−流動点降下剤−
また、脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有する前記一般式(I)で表される化合物は、それ自体で凝固点の低いバイオディーゼル燃料として使用できるが、流動点降下剤を混合することで、更に、凝固点降下効果を高めることも可能である(実施例参照、後述)。前記流動点降下剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルメタクリレート系共重合体の鉱油溶液(商品名:アクルーブ132、同133、同137、同138など、いずれも三洋化成工業(株)製)などが挙げられる。
なお、脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有する前記一般式(I)で表される化合物と、流動点降下剤との混合量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、質量比で、前記一般式(I)で表される化合物:流動点降下剤=100:0〜90:10が好ましく、100:0〜95:5がより好ましい。前記混合量比が、90/10を超えて流動点降下剤を増やすと、コストアップとなる点で、望ましくない。一方、前記混合量比が、より好ましい範囲内であると、凝固点効果度合いと、コストとのバランスの点で、有利である。
前記バイオディーゼル燃料は、その他の成分として、前記した菜種メチルエステルや軽油、流動点降下剤以外にも、例えば、酸化防止剤、潤滑油、防錆剤などを含有していてもよい。前記バイオディーゼル燃料中の、前記各その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
<効果>
本発明によれば、凝固点が低く、寒冷地での使用時にも固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料を提供することができる。中でも、本発明によれば、従来から凝固点が高いことが問題とされてきた、飽和脂肪酸組成比の高いパーム油やパーム核油等から誘導されるバイオディーゼル燃料の凝固点を、顕著に降下させることができる。パームは菜種や大豆等と比較して、生産性の高い植物であり、本発明の技術は、今後消費量が増大するバイオディーゼル燃料の生産に、大きく貢献するものと期待される。
また、本発明のバイオディーゼル燃料は、脂肪酸アルキルエステルに対してプロピレンオキサイド(PO)を付加するという簡便な手法により得ることができることから、製造効率が高い点でも有利であり、また、脂肪酸アルキルエステルの製造時には、安価でハンドリングの良い1価のアルコールを使用できることから、コスト性の高い点でも、有利である。
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1:C12(PO)3メチルエステル]
2.5MgO・Al・qHOで表される水酸化アルミニウム・マグネシウム(協和化学工業(株)製:キョーワード300、以下同じ)25gを、700℃で3時間、窒素雰囲気下で焼成し、複合金属酸化物14gを得た。次に、オートクレーブに、ラウリン酸メチル(東京化成工業(株))350gと、前記複合金属酸化物2.1g(ラウリン酸メチルに対して0.6質量%)と、KOHの40質量%水溶液0.21g(KOHとして0.084g)とを仕込み、オートクレーブ内を窒素で置換した後、攪拌しながら昇温及び脱水した。次いで、オートクレーブ内を温度180℃、圧力3気圧に維持しながら、プロピレンオキサイド(PO)285g(ラウリン酸メチル1モルに対して3モル)を導入した後、熟成した。反応終了後、反応液を80℃に冷却し、水150gと、ろ過助剤として活性白土及び珪藻土をそれぞれ5gとを添加した後、反応液から触媒をろ別した。その結果、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC12(PO)3メチルエステルを得た。
[実施例2:C12(PO)5メチルエステル]
POを475gとした以外は前記実施例1と同様にして、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC12(PO)5メチルエステルを得た。
[実施例3:C12(PO)7メチルエステル]
POを665gとした以外は前記実施例1と同様にして、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC12(PO)7メチルエステルを得た。
[実施例4:C16(PO)3メチルエステル]
ラウリン酸メチルの代わりにパルミチン酸メチル(関東化学(株)製、試薬)を用い、POを360gとした以外は前記実施例1と同様にして、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC16(PO)3メチルエステルを得た。
[実施例5:C18(PO)3メチルエステル]
ラウリン酸メチルの代わりにオレイン酸メチル(東京化成工業(株)製、試薬)を用い、POを395gとした以外は前記実施例1と同様にして、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC18(PO)3メチルエステルを得た。
[実施例6:C18(PO)5メチルエステル]
ラウリン酸メチルの代わりにオレイン酸メチル(東京化成工業(株)製、試薬)を用い、POを661gとした以外は実施例1と同様にして、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC18(PO)5メチルエステルを得た。
[実施例7:C18(PO)7メチルエステル]
ラウリン酸メチルの代わりにオレイン酸メチル(東京化成工業(株)製、試薬)を用い、POを926gとした以外は前記実施例1と同様にして、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるC18(PO)7メチルエステルを得た。
[実施例8:パーム(PO)2メチルエステル]
窒素雰囲気下、ジムロート管を取り付けた200mLのナスフラスコに、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル14.8g(0.17モル、東京化成工業(株)試薬)、パーム由来メチルエステル28.3g(CAROTINO(株)製)、30質量%のカリウムメトキシドメタノール溶液0.7g(東京化成工業(株)製)を仕込んだ。ジムロート管に60℃の温水を循環させながら、反応液を攪拌子で攪拌し、反応温度160℃、13kPaの減圧下で2時間、4kPaの減圧下で7時間、副生するメタノールをジムロートの先端から留去しながら反応した。この反応液を酢酸エチルと水で抽出して有機層を分液した後、分液して得た有機層を減圧下、エバポレーターで溶媒留去し、残渣を減圧蒸留で精製した。その結果、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるパーム(PO)2メチルエステルを得た。
[実施例9:パーム核油(PO)2メチルエステル]
−パーム核油メチルエステルの製造−
ジムロート管を取り付けた200mLのナスフラスコに、パーム核油(0.56モル、金田油店)、メタノール(16.8モル、関東化学(株))、水酸化ナトリウム(0.0167モル、関東化学(株))を仕込んだ。反応温度100℃で11時間還流した後、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.0167モル、関東化学(株))で中和した。その後、100℃に加温しメタノールを蒸留留去した。この反応液からグリセリンを除くために水を加えたところ乳化したので、エタノールを加えて有機層を分液し、分液して得た有機層を減圧下、エバポレーターで溶媒留去し、残渣を減圧蒸留で精製して、目的とするパーム核油メチルエステルを得た。
−パーム核油(PO)2メチルエステルの製造−
窒素雰囲気下、ジムロート管を取り付けた200mLのナスフラスコに、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル14.8g(0.17モル、東京化成工業(株)試薬)、パーム核油メチルエステル22.4g(前記で合成したもの)、30質量%のカリウムメトキシドメタノール溶液0.7g(東京化成工業(株)製)を仕込んだ。ジムロート管に60℃の温水を循環させながら、反応液を攪拌子で攪拌し、反応温度160℃、13kPaの減圧下で2時間、4kPaの減圧下で7時間、副生するメタノールをジムロートの先端から留去しながら反応した。この反応液を酢酸エチルと水で抽出して有機層を分液した後、分液して得た有機層を減圧下、エバポレーターで溶媒留去し、残渣を減圧蒸留で精製した。その結果、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるパーム核油(PO)2メチルエステルを得た。
[実施例10:軽油/パーム(PO)2メチルエステル混合物]
軽油としては、江戸川区トラックセンター事業協同組合にて2007年3月16日に購入したものを用いた。また、パーム(PO)2メチルエステルとしては、前記実施例8で合成したものを用いた。軽油とパーム(PO)2メチルエステルとを、軽油:パーム(PO)2メチルエステル=50:50(質量比)となるように混合し、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様である軽油/パーム(PO)2メチルエステル混合物を得た。
[実施例11:菜種メチルエステル/パーム(PO)2メチルエステル混合物]
−菜種メチルエステルの製造−
ジムロート管を取り付けた200mLのナスフラスコに、菜種油(0.56モル、純正化学(株))、メタノール(16.8モル、関東化学(株))、水酸化ナトリウム(0.0167モル、関東化学(株))を仕込んだ。反応温度100℃で11時間還流した後、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.0167モル、関東化学(株))で中和した。その後、100℃に加温しメタノールを蒸留留去した。この反応液からグリセリンを除くために水を加えたところ乳化したので、エタノールを加えて有機層を分液し、分液して得た有機層を減圧下、エバポレーターで溶媒留去し、残渣を減圧蒸留で精製して、目的とする菜種メチルエステルを得た。
−菜種メチルエステル/パーム(PO)2メチルエステル混合物の製造−
菜種メチルエステルとしては、前記で合成したものを用いた。また、パーム(PO)2メチルエステルとしては、前記実施例8で合成したものを用いた。菜種メチルエステルとパーム(PO)2メチルエステルとを、菜種メチルエステル:パーム(PO)2メチルエステル=50:50(質量比)となるように混合し、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様である菜種メチルエステル/パーム(PO)2メチルエステル混合物を得た。
[実施例12:パーム(PO)2メチルエステル/流動点降下剤混合物]
パーム(PO)2メチルエステルとしては、前記実施例8で合成したものを用いた。また、流動点降下剤としては、市販流動点降下剤「アクルーブ132」(アルキルメタクリレート系共重合体の鉱油溶液、三洋化成工業(株)製)を用いた。パーム(PO)2メチルエステルとアクルーブ132とを、パーム(PO)2メチルエステル:アクルーブ132=95:5(質量比)となるように混合し、本発明のバイオディーゼル燃料の一態様であるパーム(PO)2メチルエステル/流動点降下剤混合物を得た。
[比較例1:C12メチルエステル]
東京化成工業(株)製のC12メチルエステルを準備し、比較例1のバイオディーゼル燃料として使用した。
[比較例2:C16メチルエステル]
東京化成工業(株)製のC16メチルエステルを準備し、比較例2のバイオディーゼル燃料として使用した。
[比較例3:C20メチルエステル]
東京化成工業(株)製のC20メチルエステルを準備し、比較例3のバイオディーゼル燃料として使用した。
[比較例4:パームメチルエステル]
CAROTINO(株)製のパームメチルエステルを準備し、比較例4のバイオディーゼル燃料として使用した。
[比較例5:軽油/パームメチルエステル混合物]
軽油としては、江戸川区トラックセンター事業協同組合にて2007年3月16日に購入したものを用いた。また、パームメチルエステルとしては、CAROTINO(株)製のものを用いた。軽油とパームメチルエステルとを、軽油:パームメチルエステル=50:50(質量比)となるように混合し、比較例5のバイオディーゼル燃料である軽油/パームメチルエステル混合物を得た。
[比較例6:菜種メチルエステル/パームメチルエステル混合物]
菜種メチルエステルとしては、前記実施例11で合成したものを用いた。また、パームメチルエステルとしては、CAROTINO(株)製のものを用いた。菜種メチルエステルとパームメチルエステルとを、菜種メチルエステル:パームメチルエステル=50:50(質量比)となるように混合し、比較例6のバイオディーゼル燃料である菜種メチルエステル/パームメチルエステル混合物を得た。
[比較例7:パームメチルエステル/流動点降下剤混合物]
パームメチルエステルとしては、CAROTINO(株)製のものを用いた。また、流動点降下剤としては、市販流動点降下剤「アクルーブ132」(アルキルメタクリレート系共重合体の鉱油溶液、三洋化成工業(株)製)を用いた。パームメチルエステルとアクルーブ132とを、パームメチルエステル:アクルーブ132=95:5(質量比)となるように混合し、比較例7のバイオディーゼル燃料であるパームメチルエステル/流動点降下剤混合物を得た。
[比較例8:パーム(EO)2メチルエステル]
2.5MgO・Al2O3・qH2Oで表される水酸化アルミニウム・マグネシウム(協和化学社製:キョーワード300、以下同じ)25gを、700℃、3時間窒素雰囲気下で焼成し、複合金属酸化物14gを得た。次に、オートクレーブに、パーム由来メチルエステル28.3g(CAROTINO(株)製)350gと、前記複合金属酸化物2.1g(パーム由来メチルエステルに対して0.6質量%)と、KOHの40質量%水溶液0.21g(KOHとして0.084g)とを仕込み、オートクレーブ内を窒素で置換した後、攪拌しながら昇温及び脱水した。ついで、オートクレーブ内を温度180℃、圧力3気圧に維持しながら、エチレンオキサイド(EO)110g(パーム由来メチルエステル1モルに対して2モル)を導入した後、熟成した。反応終了後、反応液を80℃に冷却し、水150gと、ろ過助剤として活性白土及び珪藻土をそれぞれ5gとを添加した後、反応液から触媒をろ別した。その結果、比較例8のバイオディーゼル燃料であるパーム(EO)2メチルエステルを得た。
[凝固点の評価]
前記のようにして得られた実施例1〜12、及び、比較例1〜8のバイオディーゼル燃料につき、以下の凝固点の評価方法に基づいて凝固点を測定し、評価した。結果を表1〜2に示す。
−凝固点の評価方法−
測定装置:DSC(DSC2910、TA instruments社)
測定温度:+20℃で15分保持、−30℃まで降温(降温速度 1℃/min)
試料:実施例1〜12、及び、比較例1〜8の各バイオディーゼル燃料
採取量:約10mg
測定容器:アルミニウムパン(P/N SSC000E031、SEIKO(株)社製)
測定値:熱量変化が観察され始めた(ピークが立ち上がった時点の)温度を凝固点とした。
−−評価基準−−
×: 凝固点が5℃より高い。
△: 凝固点が−2.5℃より高く、5℃以下。
○: 凝固点が−7.5℃より高く、−2.5℃以下。
◎: 凝固点が−7.5℃以下。
Figure 2009079134
Figure 2009079134
表1〜2の結果から、脂肪酸PO付加アルキルエステル組成を有する本発明のバイオディーゼル燃料(実施例1〜12)は、凝固点が低く、寒冷地での使用時にも固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料であることがわかった。一方、PO付加されていない脂肪酸アルキルエステル組成を有する比較例のバイオディーゼル燃料(比較例1〜8)は、凝固点が高く、寒冷地での使用時に固化の懸念があることがわかった。
なお、本実施例で用いた各植物油(菜種油、パーム油、パーム核油)のヨウ素価及び脂肪酸組成比は、下記表3に示す通りである。
Figure 2009079134
従来、飽和脂肪酸組成比の高いパーム油やパーム核油等から誘導されるバイオディーゼル燃料については、その凝固点の高さから、寒冷地での固化が懸念されていた。本発明によれば、凝固点が低く、寒冷地での固化の懸念のない、優れたバイオディーゼル燃料を提供することができることから、本発明は、特に、このような飽和脂肪酸組成比の高いパーム油やパーム核油等から誘導されるバイオディーゼル燃料に、好適に利用可能であると考えられる。パームは菜種や大豆等と比較して、生産性の高い植物であることから、寒冷地での固化の懸念が解消されれば、今後消費量が増大するバイオディーゼル燃料の生産に、大きく貢献するものと期待される。

Claims (3)

  1. 下記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料。
    CO(PO) ・・・(I)
    ただし、前記一般式(I)中、Rは飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、RCの炭素数は10〜18であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、POはプロピレンオキサイドを示し、nは1〜7の整数を示す。
  2. 一般式(I)で表される化合物が、パーム油及びパーム核油の少なくともいずれかから誘導される脂肪酸アルキルエステルに、プロピレンオキサイドを付加して得られる化合物である請求項1に記載のバイオディーゼル燃料。
  3. 更に、菜種油から誘導される脂肪酸メチルエステル、及び、軽油の少なくともいずれかを含有する請求項1から2のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料。
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