JP2009074072A - 加熱処理によるカーボンナノチューブ含有樹脂成形体の導電性改善方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
カーボンナノチューブを少量添加した場合でも効率よく導電性を発現できる導電性複合材料を提供することを課題とする。
【解決手段】
カーボンナノチューブと熱可塑性樹脂を混練した後、成形した複合材料を熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも20℃低い温度から150℃高い温度で加熱し、この状態において加圧し、樹脂中での複数のカーボンチューブが互いに電気的に接触し、上記樹脂成形体が104Ω/□以下の表面抵抗率を備えている導電性成形品の製造方法。
【選択図】なし
カーボンナノチューブを少量添加した場合でも効率よく導電性を発現できる導電性複合材料を提供することを課題とする。
【解決手段】
カーボンナノチューブと熱可塑性樹脂を混練した後、成形した複合材料を熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも20℃低い温度から150℃高い温度で加熱し、この状態において加圧し、樹脂中での複数のカーボンチューブが互いに電気的に接触し、上記樹脂成形体が104Ω/□以下の表面抵抗率を備えている導電性成形品の製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、カーボンナノチューブを含有する樹脂成形体の導電性を、加熱処理をすることで向上させる技術に関する。
近年、エレクトロニクス技術の急速な発展により、情報処理装置や、電子事務機器が急速に普及している。この様な電子機器の急速な普及に伴い、電子部品から発生するノイズが周辺機器に影響を与える電磁波障害や、静電気による誤作動等のトラブルが増大し、大きな問題となっている。これらの問題の解決のために、この分野では導電性や制電性に優れた材料が要求されている。従来、導電性の乏しい高分子材料においては、導電性の高い導電性フィラー等を配合する事により、導電性機能を付与させた導電性高分子材料が広く利用されている。
従来、導電性フィラーとしては、金属繊維及び金属粉末、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどが一般に用いられているが、近年発見されたカーボンナノチューブが広い産業分野で需要が高まっている。
カーボンナノチューブは、それらの化学的特性、電気的特性、機械的特性、熱伝導性、構造特性等の物性を利用して、電子デバイス、電気配線、熱電変換素子材料、建材用放熱材料、電磁波シールド材、フラットパネルディスプレイ用電界放出陰極材料、電極接合材料、樹脂複合材料、透明導電膜、電磁波吸収体、触媒担持材料、電極・水素貯蔵材、補強材料及び黒色顔料等への応用が期待されている。
しかし、これらの導電性フィラーを用いた導電性複合材料は、導電性フィラーの分散性が樹脂組成物の導電性に大きく影響するため、安定した導電性を得るには特殊な配合技術、混合技術が必要とされるという問題を有している。
導電性材料製造においては圧縮、注型、射出、押出又は延伸方式による帯電防止板の作製、導電性塗料を用いて帯電防止膜、また電磁波シールド材作製検討等の研究が行われている。
炭素繊維を含有する樹脂成形体を樹脂の溶解点以上で加熱し、加圧することで、炭素繊維が樹脂の表面に露出し、導電性が高まる旨の記載がある(例えば、特許文献1参照)。
樹脂基板の上に複数に分けて、カーボンナノチューブ含有樹脂溶剤を塗布した制電性樹脂成形体の記載があり、この制電性樹脂成形体は、制電層表面側から樹脂基板に向かって、カーボンナノチューブが順次に減少していることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
樹脂基板の上にカーボンナノチューブ含有樹脂溶剤を塗布した制電性樹脂成形体の記載があり、この制電性樹脂成形体は、制電性の表面にカーボンナノチューブが露出していることを記載とした(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
炭素繊維を含有した樹脂成形体をガラス転移温度以下で加熱し、成形体表面にカーボンファイバーが浮き、導電性が向上することが記載されている(例えば、特許文献5参照)。
炭素繊維を含有した樹脂成形体をビカット軟化点以下の温度で加熱処理し、体積抵抗値の低減をしたとの記載がある(例えば、特許文献6参照)。
カーボンナノチューブを含有する樹脂材料を310℃で加熱し、射出成形することで導電性材料を製造したとの記載がある(例えば、特許文献7参照)。ただし、射出成形しカーボンナノチューブ複合体についてしか言及されていない。
気相成長炭素繊維などを充填した高分子複合材料において、加熱処理をすると、溶融状態で粒子が高分子との相互作用の下で自己凝集することが推察されており、結果として導電性が高まることが記載されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と高密度ポリエチレン(HDPE)など2種類以上の樹脂成形体を用いている
本発明が解決しようとする課題は、カーボンナノチューブを含有する樹脂成形体の導電性を、加熱処理をすることで導電性を改善させる技術を提供する事にある。
カーボンナノチューブなどを導電性フィラーして使用する場合、通常低濃度の添加では高い導電性は発揮できない。一方、導電性を付与するには高濃度の添加を必要とするため、樹脂本来の物性を低下させてしまう。又、カーボンナノチューブは高価であるため低コストの導電性複合材料を製造するためにも、低濃度のカーボンナノチューブの添加によって、高い導電性を示すための導電性改善方法が求められている。
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、カーボンナノチューブを含有する樹脂成形体の導電性を改善する技術において、樹脂成形体を加熱処理することで、内部で複数のカーボンチューブが互いに電気的に接触する状態を促進させることを見出し、本発明の完成に至った。本発明は、以下の内容で構成されている。
カーボンナノチューブを含有し、1種類の樹脂を成形してなる樹脂成形体であって、
樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させた、該樹脂成形体の表面抵抗率が104Ω/□以下であることを特徴とする樹脂成形体。
樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させた、該樹脂成形体の表面抵抗率が104Ω/□以下であることを特徴とする樹脂成形体。
前記樹脂成形体の、カーボンナノチューブ含有量が0.1〜20重量%であることを特徴とする前記樹脂成形体。
前記樹脂成形体を構成する1種類の樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする前記樹脂成形体。
前記熱可塑性樹脂は、セルロースアセテート、エチルセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリラート、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリビニルピロリジン、シュークロースオクタアセテート、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロトリル/ブタンジエン/スチレン樹脂(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)のうちから選択された1種類であることを特徴とする前記樹脂成形体。
前記カーボンナノチューブが0.5〜800nmの外径を有する事を特徴とする前記樹脂成形体。
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブである前記樹脂成形体。
前記カーボンナノチューブが、外径15〜100nmの炭素繊維から構成されるネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記カーボンナノチューブが複数延出する態様で、当該カーボンナノチューブを互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記カーボンナノチューブの成長過程において形成されてなるものであって前記カーボンナノチューブ外形の1.3倍以上の大きさを有するものである事を特徴とする前記樹脂成形体。
カーボンナノチューブを含有し、1種類の樹脂を成形してなる樹脂成形体を、該樹脂のガラス転移温度(Tg)−20℃以上、該樹脂のガラス転移温度+150℃以下の温度で加熱し、1〜60分間加熱状態を保持させることにより、該樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させて、導電性を向上させることを特徴とする表面抵抗率が104Ω/□以下の樹脂成形体の製造方法。
前記加熱状態を保持させた前記樹脂成形体を、段階的に冷却することを特徴とする表面抵抗率が104Ω/□以下の樹脂成形体の製造方法。
カーボンナノチューブを含有し、1種類の樹脂を成形してなる樹脂成形体を、該樹脂のガラス転移温度(Tg)−20℃以上、該樹脂のガラス転移温度+150℃以下の温度で加熱し、1〜60分間加熱状態を保持させることにより、該樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させて、導電性を向上させることを特徴とする樹脂成形体の表面抵抗率を、104Ω/□以下まで導電性を改善させる方法。
前記加熱状態を保持させた前記樹脂成形体を、段階的に冷却することを特徴とする前記樹脂成形体の導電性を改善させる方法。
前記樹脂成形体を導電性材料、電磁波シールド、電磁波吸収体、または赤外線シールドとして用いる方法。
本発明の樹脂成形は、1つの樹脂材料からなり、さらに樹脂内部では樹脂成形体の内部にて複数のカーボンチューブが互いに電気的に接触しているため、導電性フィラーの添加濃度を低くしても高い導電性を有している。
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は樹脂に10重量%以上のカーボンナノチューブを添加し樹脂成形体を作成したにもかかわらず、導電性を示さなかった試料の導電性を改善させるために、加熱処理することで、導電性が104Ω/□を示したことをきっかけとして発明の完成に至ったものである。
本発明において、樹脂成形体を加熱処理することで、樹脂成形体の内部で複数のカーボンナノチューブが再配置し、カーボンナノチューブ同士が互いに電気的に接触し、導電性を向上させることが推察される。ここで本発明でいう電気的に接触しているとは、複数のカーボンナンチューブが部分的に接近し合い、連続する導電性経路が形成され通電状態となることを意味する。
樹脂成形体に添加する濃度は、樹脂に対して0.1〜20重量%濃度が好ましい。本方法を用いれば低濃度のカーボンナノチューブの添加でも高い導電性を示す樹脂成形体の製造が可能である。
本発明のカーボンナノチューブの添加量については、導電性複合材料100質量%に対して0.01〜20質量%の範囲であり、好ましくは0.2〜15質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。このようにカーボンナノチューブが0.01質量%より少ない場合は、所望の導電性が得られない。またカーボンナノチューブが20質量%以上である場合は、カーボンナノチューブが嵩高いため、良好な導電性複合材料が作製できなくなる。
本発明の加熱温度については、樹脂成形体の材料となる樹脂のガラス転移温度−20〜+250℃の範囲であり、好ましくは+50〜+200℃であり、より好ましくは+100〜+200℃である。またガラス転移温度よりも250℃以上で処理した場合は、樹脂の性質が変性してしまい、良好な導電性複合材料が作製できなくなる。
本発明の加熱及び加圧の時間については、1〜60分の範囲であり、好ましくは1〜40分であり、より好ましくは2〜30分である。
本発明の加熱処理をした後、樹脂成形体を空冷しても十分な導電性を得られるが、必要に応じては、樹脂の金型の温度を2℃/分程度で、段階的に低下させて樹脂成形体を製造するのが望ましい。段階的に低下させることで成形体の内部のカーボンナノチューブの再配置が安定化され導電性が改善された状態を保ちつつ、力学特性を向上させることができるからである。
本発明の樹脂成形体を構成する樹脂材料は熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂材料としては、例えば、セルロースアセテート、エチルセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリラート、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリビニルピロリジン、シュークロースオクタアセテート、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロトリル/ブタンジエン/スチレン樹脂(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)及びこれらを変性した樹脂等が挙げられる。
樹脂の導電性や力学特性を改良するために、必要に応じて、フィラーなどを添加してもよい。本発明の導電性フィラーにおいては、カーボンナノチューブ、炭素繊維、カーボンブラック、金属繊維、カーボンフィブリル、金属ウィスカー、セラミック繊維またはセラミックウィスカーを示し、それぞれ目的に応じて用いる事が出来る。
本発明のカーボンナノチューブにおいては、単層、二層及び多層のカーボンナノチューブを示し、それぞれ目的に応じて用いる事が出来る。本発明においては、多層のカーボンナノチューブが用いられる。カーボンナノチューブの製造方法に関しては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法及びHiPco法(High−pressure carbon monooxide process)等、従来公知のいずれの製造方法でもよい。
例えば、レーザー蒸着法により単層のカーボンナノチューブを作製する方法を以下に示す。原料としてグラファイトパウダーと、ニッケル及びコバルト微粉末混合ロットを用意した。この混合ロットを665hPa(500Torr)のアルゴン雰囲気下、電気炉により1250℃に加熱し、そこに350mJ/PulseのNd:YAGレーザーの第二高調波パルスを照射し、炭素と金属微粒子を蒸発させることにより、単層のカーボンナノチューブを作製することができる。
以上の作製方法は、あくまで典型例であり、金属の種類、ガスの種類、電気炉の温度、レーザーの波長等を変更してもよい。また、レーザー蒸着法以外の作製法、例えばHiPco法、気相成長法、アーク放電法、一酸化炭素の熱分解法、微細な空孔中に有機分子を挿入して熱分解するテンプレート法、フラーレン・金属共蒸着法等、他の手法によって作製された単層のカーボンナノチューブを使用してもよい。
例えば、定温アーク放電法により二層のカーボンナノチューブを作製する方法を以下に示す。基板は表面処理されたSi基板を用い、処理方法としては触媒金属及び触媒助剤金属を溶解した溶液中に、アルミナ粉末を30分間浸し、さらに3時間超音波処理により分散させて得られた溶液をSi基板に塗布し、空気中において120℃で維持し乾燥させた。カーボンナノチューブ製造装置の反応室に基板を設置し、反応ガスとして水素とメタンの混合ガスを用い、ガスの供給量は水素を500sccm、メタンを10sccmとし、反応室の圧力を70Torrとした。陰極部はTaよりなる棒状の放電部を用いた。次に陽極部と陰極部及び陽極部と基板との間に直流電圧を印加し、放電電流が2.5Aで一定になるように放電電圧を制御した。放電により陰極部の温度が2300℃になると正規グロー放電状態から異常グロー放電状態になり、放電電流が2.5A、放電電圧が700V、反応ガス温度が3000℃の状態を10分間行うことで、基板全体に単層及び2層のカーボンナノチューブを作製することができる。
以上の作製方法は、あくまで一例であり、金属の種類、ガスの種類等、諸条件を変更してもよい。また、アーク放電法以外の作製法によって作製された単層のカーボンナノチューブを使用してもよい。
例えば、気相成長法により三次元構造を有した多層のカーボンナノチューブを作製する方法を以下に示す。基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体)を得、これをさらに高温熱処理することで多層のカーボンナノチューブを作製することができる。
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノール等のアルコール類が使用されるが、炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、少なくとも2つ以上の炭素化合物とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成過程においては、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様を含むものである。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用い、触媒としては鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
中間体の合成は、通常行われている炭化水素などのCVD法を用い、原料となる炭化水素及び触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有するカーボンナノチューブ構造体(中間体)が複数集まった数センチから数十センチの大きさの集合体を合成する。
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしこの熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的なカーボンナノチューブの成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長を一定方向とすることなく、制御下に他方向として、三次元構造を形成することが出来るものである。なお、生成する中間体においては、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成させる上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度及びガス温度等を最適化することが好ましい。
触媒及び炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭素物、タール分及び触媒金属を含んでいる。
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期のカーボンナノチューブ構造体を得るためには、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理を行う。
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガス又は微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、カーボンナノチューブ構造体の円相当平均径を数センチに解砕処理する工程と、解砕処理されたカーボンナノチューブ構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有するカーボンナノチューブを作製する。
以上の作製方法は、あくまで一例であり、金属の種類、ガスの種類等、諸条件を変更してもよい。また、気相成長法以外の作製法によって作製された多層のカーボンナノチューブを使用してもよい。
本発明の樹脂成形体には、その他の用途に応じて添加剤を加えてもよい。例えば、無機顔料、有機顔料、ウィスカー、増粘剤、沈降防止剤、紫外線防止剤、湿潤剤、乳化剤、皮張り防止剤、重合防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分れ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤、可塑剤、耐火・防止剤、防カビ・防藻剤、抗菌剤、殺虫剤、海中防汚剤、金属表面処理剤、脱さび剤、脱脂剤、皮膜化成剤、漂白剤、着色剤、ウッドシーラー、目止め剤、サンディングシーラー、シーラー、セメントフィラー又は樹脂入りセメントペースト等が挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(合成例1)
浮遊CVD法によって、トルエンを原料としてカーボンナノチューブ構造体の集合体を合成した。触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1300℃で熱分解して、カーボンナノチューブ構造体(第一中間体)の集合体を得た。
浮遊CVD法によって、トルエンを原料としてカーボンナノチューブ構造体の集合体を合成した。触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1300℃で熱分解して、カーボンナノチューブ構造体(第一中間体)の集合体を得た。
(合成例2)
この第一中間体のSEM写真、またはトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したTEM写真を図1及び2に示す。合成された第一中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの揮発分を分離し、第二中間体を得た。
この第一中間体のSEM写真、またはトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したTEM写真を図1及び2に示す。合成された第一中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの揮発分を分離し、第二中間体を得た。
(合成例3)
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、カーボンナノチューブ構造体の集合体(第三中間体)を得た。得られたカーボンナノチューブ構造体の第三中間体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEM及びTEM写真を図3、4に示す。増野製作所製ニューミクロシクロマット(MCM−15型)を用いて得られた第三中間体を気流粉砕にて粉砕し、粒度の調製を行い、そのSEM写真を図5に示す。本発明のカーボンナノチューブの準備をした。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、カーボンナノチューブ構造体の集合体(第三中間体)を得た。得られたカーボンナノチューブ構造体の第三中間体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEM及びTEM写真を図3、4に示す。増野製作所製ニューミクロシクロマット(MCM−15型)を用いて得られた第三中間体を気流粉砕にて粉砕し、粒度の調製を行い、そのSEM写真を図5に示す。本発明のカーボンナノチューブの準備をした。
(実施例1−1)
上記の方法で得られたカーボンナノチューブ(CNT)と、ポリカーボネート(PC,ガラス転移温度は代表的なもので34〜148℃である)樹脂(パンライト、L−1225、帝人化成株式会社製)、ポリプロピレン(PP)樹脂(株式会社プライムポリマー製、プライムポリプロ、J108M)、およびポリエチレン(PE)樹脂(日本ポリエチレン株式会社製、高密度ポリエチレン(HDPE)、ノバテック、HJ590N)をそれぞれ、2軸混練機を用いて、300℃(PC)、および250℃(PPおよびPE)をそれぞれ溶融混合して、3種類のCNT/樹脂(20/80,重量比)のペレット状(粒径 約3−4mm)のマスターバッチ(MB)(20%CNT/PC、20wt%CNT/PP、および20wt%CNT/PE)を製造した。
その後、得られたMBとPC、PPおよびPEを15:85比率で溶融混合し、それぞれCNT濃度3wt%のCNT/PC、CNT/PPおよびCNT/PEの各ブレンド試料を得た。
上記の方法で得られたカーボンナノチューブ(CNT)と、ポリカーボネート(PC,ガラス転移温度は代表的なもので34〜148℃である)樹脂(パンライト、L−1225、帝人化成株式会社製)、ポリプロピレン(PP)樹脂(株式会社プライムポリマー製、プライムポリプロ、J108M)、およびポリエチレン(PE)樹脂(日本ポリエチレン株式会社製、高密度ポリエチレン(HDPE)、ノバテック、HJ590N)をそれぞれ、2軸混練機を用いて、300℃(PC)、および250℃(PPおよびPE)をそれぞれ溶融混合して、3種類のCNT/樹脂(20/80,重量比)のペレット状(粒径 約3−4mm)のマスターバッチ(MB)(20%CNT/PC、20wt%CNT/PP、および20wt%CNT/PE)を製造した。
その後、得られたMBとPC、PPおよびPEを15:85比率で溶融混合し、それぞれCNT濃度3wt%のCNT/PC、CNT/PPおよびCNT/PEの各ブレンド試料を得た。
(実施例1−2)
上記のカーボンナノチューブを3重量%含有するPC、PPおよびPE樹脂混練物をそれぞれPETフィルムで挟み、熱プレス機を用いて200℃で加熱し溶融し、厚さ約1mmの成形板を得た。
上記のカーボンナノチューブを3重量%含有するPC、PPおよびPE樹脂混練物をそれぞれPETフィルムで挟み、熱プレス機を用いて200℃で加熱し溶融し、厚さ約1mmの成形板を得た。
(実施例1−3)
実施例1−2で作製した成形板から小片を切り出し、厚さ0.05mmのPTFE板で挟んで、加熱温度を200℃、250℃または300℃、加熱時間2分、5分または30分という条件で、またCNT/PC樹脂の加熱温度2分の試料については、260℃、270℃、280℃および290℃の条件で、それぞれの加熱温度−加熱時間の処理を施し、冷却後に樹脂板を剥離させてそれぞれの試験片を得た。プレートの表面抵抗はJISK7194に準拠しロレスタGPとハイレスタUP(三菱化学株式会社製、MCP−T610型とMCP−HT450型)により測定した。これらのCNT/PC、CNT/PPおよびCNT/PE試料の室温における表面抵抗を測定した結果を表1、表2および表3に示した。
実施例1−2で作製した成形板から小片を切り出し、厚さ0.05mmのPTFE板で挟んで、加熱温度を200℃、250℃または300℃、加熱時間2分、5分または30分という条件で、またCNT/PC樹脂の加熱温度2分の試料については、260℃、270℃、280℃および290℃の条件で、それぞれの加熱温度−加熱時間の処理を施し、冷却後に樹脂板を剥離させてそれぞれの試験片を得た。プレートの表面抵抗はJISK7194に準拠しロレスタGPとハイレスタUP(三菱化学株式会社製、MCP−T610型とMCP−HT450型)により測定した。これらのCNT/PC、CNT/PPおよびCNT/PE試料の室温における表面抵抗を測定した結果を表1、表2および表3に示した。
(実施例1−4)
3重量%のCNT/PCの実験の結果、250℃以下ではいずれの加熱時間でも導電性が低いが、加熱時間2分の試料で270℃から280℃にかけて表面抵抗の低下つまり導電性の向上が観測され、290℃以上では導電性が改善されることが表1から明らかである。
3重量%のCNT/PCの実験の結果、250℃以下ではいずれの加熱時間でも導電性が低いが、加熱時間2分の試料で270℃から280℃にかけて表面抵抗の低下つまり導電性の向上が観測され、290℃以上では導電性が改善されることが表1から明らかである。
(実施例1−5)
表2の3重量%のCNT/PPの実験の結果では、200℃−2分および5分の加熱での表面抵抗は104〜105Ω/□であり、もともと3重量%CNT/PCよりも約10乗も高い導電性を示しているが、それ以上の加熱時間もしくは250℃以上の加熱温度処理では、さらに1桁の表面抵抗の低下つまり導電性の向上が観測された。
表2の3重量%のCNT/PPの実験の結果では、200℃−2分および5分の加熱での表面抵抗は104〜105Ω/□であり、もともと3重量%CNT/PCよりも約10乗も高い導電性を示しているが、それ以上の加熱時間もしくは250℃以上の加熱温度処理では、さらに1桁の表面抵抗の低下つまり導電性の向上が観測された。
(実施例1−6)
表3の3重量%のCNT/PPの実験の結果では、いずれの加熱温度のものでも、表面抵抗は102〜103Ω/□であり、高い導電性を示した。
表3の3重量%のCNT/PPの実験の結果では、いずれの加熱温度のものでも、表面抵抗は102〜103Ω/□であり、高い導電性を示した。
(実施例1−7)
この加熱による表面抵抗の改善の理由は、粘度低下によるCNTの再配置そしてCNT同士の導電接点増加によるものと考えられる。
この加熱による表面抵抗の改善の理由は、粘度低下によるCNTの再配置そしてCNT同士の導電接点増加によるものと考えられる。
(実施例1−8)
図6に、3重量%CNT/PC試料の動的粘弾性の、250℃における時間変化の測定結果を示す。貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’が最初の状態から15分までは数値が増減し、15分以上経過し30分経過するとほぼ安定した数値を示した。このことは、複合体の内部のカーボンナノチューブが、ある温度における安定した位置を保つには一定の時間を要し、その間に再配置が起こっているために弾性率が変化していることを示している。溶融状態では、カーボンナノチューブ同士が互いに接近する方が安定したエネルギー状態に移行すると考えられるため、その結果、導電性の経路が増加することを示唆している。
図6に、3重量%CNT/PC試料の動的粘弾性の、250℃における時間変化の測定結果を示す。貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’が最初の状態から15分までは数値が増減し、15分以上経過し30分経過するとほぼ安定した数値を示した。このことは、複合体の内部のカーボンナノチューブが、ある温度における安定した位置を保つには一定の時間を要し、その間に再配置が起こっているために弾性率が変化していることを示している。溶融状態では、カーボンナノチューブ同士が互いに接近する方が安定したエネルギー状態に移行すると考えられるため、その結果、導電性の経路が増加することを示唆している。
(実施例1−9)
図7に、3wt%CNT/PC試料の動的粘弾性の、300℃における時間変化の測定結果を示す。250℃で15分以上の弾性率よりも約0.2桁弾性率が低く、時間とともに緩やかな弾性率増加を示しているが、図6で観測された最初の15分間の弾性率の大きな増減は観測されていない。同様に図8に、3wt%CNT/PE試料の動的粘弾性の、200℃における時間変化の測定結果を示す。3wt%CNT/PCよりも約0.5桁弾性率が低く、CNT/PC(300℃)の結果と同様に時間とともに緩やかな弾性率増加を示しているが、最初の15分間の弾性率の大きな増減は観測されていない。このことは、3wt%CNT/PC(300℃)または3wt%CNT/PE(200℃)などの低い粘度の試料中では、加熱開始後ごく短時間の間に、複合体の内部のカーボンナノチューブが再配置を起こして安定したエネルギー状態に到達してしまっていることを示唆している。よってこれらの試料の導電性が最初から高い値を示したと推察される。
図7に、3wt%CNT/PC試料の動的粘弾性の、300℃における時間変化の測定結果を示す。250℃で15分以上の弾性率よりも約0.2桁弾性率が低く、時間とともに緩やかな弾性率増加を示しているが、図6で観測された最初の15分間の弾性率の大きな増減は観測されていない。同様に図8に、3wt%CNT/PE試料の動的粘弾性の、200℃における時間変化の測定結果を示す。3wt%CNT/PCよりも約0.5桁弾性率が低く、CNT/PC(300℃)の結果と同様に時間とともに緩やかな弾性率増加を示しているが、最初の15分間の弾性率の大きな増減は観測されていない。このことは、3wt%CNT/PC(300℃)または3wt%CNT/PE(200℃)などの低い粘度の試料中では、加熱開始後ごく短時間の間に、複合体の内部のカーボンナノチューブが再配置を起こして安定したエネルギー状態に到達してしまっていることを示唆している。よってこれらの試料の導電性が最初から高い値を示したと推察される。
(実施例1−10)
さらに、実施例1−2と同様の方法で別途作製した、3重量%のカーボンナノチューブを含有するポリカーボネートの成形体の体積抵抗を測定した。以下に測定試料の作製法と測定方法を示す。この樹脂成形板から20mm×20mm×厚さ2.5mmの試料片を切り 出し、20mm×2.5mmの2つの平行な側面に銀ペースト(株式会社徳力化学製、シルベストP−248)を塗布し、約10cmの銅線電極の端部を接着した。この銅線電極をワニ口クリップと専用ケーブルで直流電圧・電流源/モニタR6243(エーディーシー株式会社製)の入出力端子と接続した。この装置を用いて、二端子法により試料の体積抵抗Rv(単位はΩcm)を測定する。電圧V(単位はV)を印加し、読み取った電流値(I:単位はA)を記録する。試料の体積抵抗Rvは、電流方向の断面積S=試料幅W×厚さt(単位はcm)と、試料長さL(単位はcm)から、試料の抵抗の測定値R=(V/I)を用いて、体積抵抗Rv=(V/I)×W×t/L (Ωcm)と算出できる。上記試料では、W=2cm、L=2cm、t=0.25cmとなる。
さらに、実施例1−2と同様の方法で別途作製した、3重量%のカーボンナノチューブを含有するポリカーボネートの成形体の体積抵抗を測定した。以下に測定試料の作製法と測定方法を示す。この樹脂成形板から20mm×20mm×厚さ2.5mmの試料片を切り 出し、20mm×2.5mmの2つの平行な側面に銀ペースト(株式会社徳力化学製、シルベストP−248)を塗布し、約10cmの銅線電極の端部を接着した。この銅線電極をワニ口クリップと専用ケーブルで直流電圧・電流源/モニタR6243(エーディーシー株式会社製)の入出力端子と接続した。この装置を用いて、二端子法により試料の体積抵抗Rv(単位はΩcm)を測定する。電圧V(単位はV)を印加し、読み取った電流値(I:単位はA)を記録する。試料の体積抵抗Rvは、電流方向の断面積S=試料幅W×厚さt(単位はcm)と、試料長さL(単位はcm)から、試料の抵抗の測定値R=(V/I)を用いて、体積抵抗Rv=(V/I)×W×t/L (Ωcm)と算出できる。上記試料では、W=2cm、L=2cm、t=0.25cmとなる。
(実施例1−11)
上の実施例1−10のように体積抵抗の測定準備を行い、試料の温度変化およびその際の体積抵抗の変化を同時に測定した。以下に測定法を示す。加熱時の樹脂試料の変形を防ぐため、を約2cm角に切り抜いたPTFE板に試料と銅電極を固定し、厚さ0.5mmのPTFEシート上に載せ、試料から数mm離れた場所にK型熱電対の先端部を固定し温度を測定した。この上にさらに厚さ0.5mmのPTFEシート上に載せた。これを温度制御可能な金属製の試料加熱台に載せ、上下方向から試料を加熱した。測定時の電圧Vは100Vに設定した。まず、試料と銀ペーストおよび銅線との接着を促進させるため、試料を室温から100℃まで約30分間加熱した。電流値が安定することを確認したのち、試料温度を段階的に上昇させていった。加熱温度は100℃、150℃、200℃、250℃および270℃で、各温度で約20〜30分間加熱した。
上の実施例1−10のように体積抵抗の測定準備を行い、試料の温度変化およびその際の体積抵抗の変化を同時に測定した。以下に測定法を示す。加熱時の樹脂試料の変形を防ぐため、を約2cm角に切り抜いたPTFE板に試料と銅電極を固定し、厚さ0.5mmのPTFEシート上に載せ、試料から数mm離れた場所にK型熱電対の先端部を固定し温度を測定した。この上にさらに厚さ0.5mmのPTFEシート上に載せた。これを温度制御可能な金属製の試料加熱台に載せ、上下方向から試料を加熱した。測定時の電圧Vは100Vに設定した。まず、試料と銀ペーストおよび銅線との接着を促進させるため、試料を室温から100℃まで約30分間加熱した。電流値が安定することを確認したのち、試料温度を段階的に上昇させていった。加熱温度は100℃、150℃、200℃、250℃および270℃で、各温度で約20〜30分間加熱した。
(実施例1−12)
実施例1−11および後述する1−13では、試料の体積抵抗の測定時に、100Vの電圧が電流測定方向に印加されており、また試料の温度が室温よりも高温である。そこで次に、上の実施例1−3の表面抵抗を測定した3重量%カーボンナノチューブ(CNT)/ポリカーボネート(PC)試料のうち、加熱時間2分間、加熱温度200℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃および300℃で処理したものについて、それぞれの試料板から実施例1−10のように小片を切り出した試料の、室温における体積抵抗を測定した。試料片の大きさは、各試料板につき20mm角のものと、5mm角もしくは10mm角の正方形状の2箇所の試料板を切り出した。各試料片の厚さは0.4〜1mmである。それらの試料には、まず実施例1−10と同様に、正方形の平行な2辺とその厚み方向のなす2つの平行な縁面に銀(Ag)塗料を塗布して、試料の表面方向に平行な電流と電圧による体積抵抗(電流//表面と以下表記)を測定した。その測定後に銀電極を剥がし,試料の表裏面の2つの正方形の表面に銀塗料を塗布して、試料の表面に垂直な方向の体積抵抗(電流⊥表面と以下表記)を測定した。これらの体積抵抗の測定用の試料の模式図を図9に示した。
実施例1−11および後述する1−13では、試料の体積抵抗の測定時に、100Vの電圧が電流測定方向に印加されており、また試料の温度が室温よりも高温である。そこで次に、上の実施例1−3の表面抵抗を測定した3重量%カーボンナノチューブ(CNT)/ポリカーボネート(PC)試料のうち、加熱時間2分間、加熱温度200℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃および300℃で処理したものについて、それぞれの試料板から実施例1−10のように小片を切り出した試料の、室温における体積抵抗を測定した。試料片の大きさは、各試料板につき20mm角のものと、5mm角もしくは10mm角の正方形状の2箇所の試料板を切り出した。各試料片の厚さは0.4〜1mmである。それらの試料には、まず実施例1−10と同様に、正方形の平行な2辺とその厚み方向のなす2つの平行な縁面に銀(Ag)塗料を塗布して、試料の表面方向に平行な電流と電圧による体積抵抗(電流//表面と以下表記)を測定した。その測定後に銀電極を剥がし,試料の表裏面の2つの正方形の表面に銀塗料を塗布して、試料の表面に垂直な方向の体積抵抗(電流⊥表面と以下表記)を測定した。これらの体積抵抗の測定用の試料の模式図を図9に示した。
(実施例1−13)
図10のグラフに横軸に経過時間を取り、試料の温度変化と体積抵抗率の時間変化の様子を記した。左軸は体積抵抗値(電流//表面)(Ω/□)であり、測定値は実線で表記した。また右軸は樹脂成形体の温度(℃)であり、測定値は点線で表記した。図から明らかなように、室温から200℃までは、温度変化に対し、試料の体積抵抗は108〜109Ωcmのほぼ同じ値を示している。樹脂成形体が250℃に近づくにつれて、体積抵抗((電流//表面)がわずかに低下し始め、250℃以上から270℃まで加熱された際に、4桁以上の急激な体積抵抗値の低下が確認できた。この現象は、このカーボンナノチューブ樹脂複合成形体がガラス転移温度に達したため、溶融状態となり、樹脂成形体の内部で複数のカーボンナノチューブが再配置し、カーボンナノチューブ同士が互いに電気的に接触し、連続する導電性経路が形成され通電状態となったことよるものと推察される。さらに270℃で保持すると、試料の変形による体積抵抗(電流//表面)の急激な低下が観測される。したがって成形体の導電性の改善を行うためには、この220℃程度から270℃の温度範囲で、一定時間以内加熱を行うことにより達成することが出来る。
図10のグラフに横軸に経過時間を取り、試料の温度変化と体積抵抗率の時間変化の様子を記した。左軸は体積抵抗値(電流//表面)(Ω/□)であり、測定値は実線で表記した。また右軸は樹脂成形体の温度(℃)であり、測定値は点線で表記した。図から明らかなように、室温から200℃までは、温度変化に対し、試料の体積抵抗は108〜109Ωcmのほぼ同じ値を示している。樹脂成形体が250℃に近づくにつれて、体積抵抗((電流//表面)がわずかに低下し始め、250℃以上から270℃まで加熱された際に、4桁以上の急激な体積抵抗値の低下が確認できた。この現象は、このカーボンナノチューブ樹脂複合成形体がガラス転移温度に達したため、溶融状態となり、樹脂成形体の内部で複数のカーボンナノチューブが再配置し、カーボンナノチューブ同士が互いに電気的に接触し、連続する導電性経路が形成され通電状態となったことよるものと推察される。さらに270℃で保持すると、試料の変形による体積抵抗(電流//表面)の急激な低下が観測される。したがって成形体の導電性の改善を行うためには、この220℃程度から270℃の温度範囲で、一定時間以内加熱を行うことにより達成することが出来る。
(実施例1−14)
図11に、200℃から300℃のそれぞれの処理温度における(電流//表面)方向および(電流⊥表面)方向の室温での体積抵抗の測定結果を示す。装置の低電流測定値の限界により、図11中の破線より高い抵抗値は測定できないため、108Ωcm以上は参考値として示してある。図11では、270℃以下の処理温度の試料が測定限界以上の範囲に示されている。280℃以上の試料の測定値は、室温時の印加電圧と電流値の測定結果において、(電流//表面)方向では0.1〜10Vの間で、また(電流⊥表面)方向では0.001〜0.1Vの間で、電圧−電流の対数プロットの傾きが1であり、この電圧範囲においてオームの法則に従った抵抗値を図11に示してある。280℃において、体積抵抗の測定値に約3桁の幅が観測されたが、これは試料の厚みが各部で異なることから表面での圧力差があるなど、厳密には同じような加熱状態ではないことが推察される。もしくは、280℃という温度が、3重量%CNT/PC試料の体積抵抗の急激な変化を引き起こす温度であるとも考えられる。
図11に、200℃から300℃のそれぞれの処理温度における(電流//表面)方向および(電流⊥表面)方向の室温での体積抵抗の測定結果を示す。装置の低電流測定値の限界により、図11中の破線より高い抵抗値は測定できないため、108Ωcm以上は参考値として示してある。図11では、270℃以下の処理温度の試料が測定限界以上の範囲に示されている。280℃以上の試料の測定値は、室温時の印加電圧と電流値の測定結果において、(電流//表面)方向では0.1〜10Vの間で、また(電流⊥表面)方向では0.001〜0.1Vの間で、電圧−電流の対数プロットの傾きが1であり、この電圧範囲においてオームの法則に従った抵抗値を図11に示してある。280℃において、体積抵抗の測定値に約3桁の幅が観測されたが、これは試料の厚みが各部で異なることから表面での圧力差があるなど、厳密には同じような加熱状態ではないことが推察される。もしくは、280℃という温度が、3重量%CNT/PC試料の体積抵抗の急激な変化を引き起こす温度であるとも考えられる。
(実施例1−15)
上の体積抵抗の実施例を、実施例1−3で示した表面抵抗の処理温度との関係の測定結果と比較するために、表1の結果のうち処理温度2分のものについて、処理温度と表面抵抗のグラフで図12に示した。同装置を使用した測定可能上限は1013Ω/□であった。表面抵抗値は各部の平均値または中央値で示してある。図11の体積抵抗も図12の表面抵抗の結果ともに280℃以上で急激な変化を示しており、この結果は、試料内部・表面において温度処理によるカーボンナノチューブ同士の導電経路の増加(パーコレーション)が280℃以上で起こることを示唆している。
上の体積抵抗の実施例を、実施例1−3で示した表面抵抗の処理温度との関係の測定結果と比較するために、表1の結果のうち処理温度2分のものについて、処理温度と表面抵抗のグラフで図12に示した。同装置を使用した測定可能上限は1013Ω/□であった。表面抵抗値は各部の平均値または中央値で示してある。図11の体積抵抗も図12の表面抵抗の結果ともに280℃以上で急激な変化を示しており、この結果は、試料内部・表面において温度処理によるカーボンナノチューブ同士の導電経路の増加(パーコレーション)が280℃以上で起こることを示唆している。
(比較例1)
特許文献1に対する本発明の優位性を示すために、比較実験を行った。特許文献1(特開平10−50144号公報)記載の複合体は、カーボンナノチューブの代わりに炭素繊維を用いている。よって、上記のカーボンナノチューブよりも約100倍の直径を持つカーボンファイバー(三菱化学産資株式会社製:炭素繊維ダイアリードK223QM,直径約6μm)を用いて、3重量%および10重量%の添加量のポリカーボネート樹脂との複合体試料を製造した。試験片の製造方法は上記のカーボンナノチューブの方法と同じである。その結果、カーボンナノチューブを用いた試料ではカーボンナノチューブを用いることで導電性は最大1010桁の導電性の向上が観測されたが、カーボンファイバーを用いた試料では、いずれの温度、時間の条件でも表面抵抗107Ω/□以下となるまでの導電性の改善は観測されなかった。
特許文献1に対する本発明の優位性を示すために、比較実験を行った。特許文献1(特開平10−50144号公報)記載の複合体は、カーボンナノチューブの代わりに炭素繊維を用いている。よって、上記のカーボンナノチューブよりも約100倍の直径を持つカーボンファイバー(三菱化学産資株式会社製:炭素繊維ダイアリードK223QM,直径約6μm)を用いて、3重量%および10重量%の添加量のポリカーボネート樹脂との複合体試料を製造した。試験片の製造方法は上記のカーボンナノチューブの方法と同じである。その結果、カーボンナノチューブを用いた試料ではカーボンナノチューブを用いることで導電性は最大1010桁の導電性の向上が観測されたが、カーボンファイバーを用いた試料では、いずれの温度、時間の条件でも表面抵抗107Ω/□以下となるまでの導電性の改善は観測されなかった。
本発明の複合材料の製造技術を用いることで、低濃度の導電性フィラーの添加でも高い導電性をもつ複合材料を得ることができる。そのため静電気等を好まない電子機器分野、クリーンルーム内等での帯電防止膜、放熱性樹脂材料及び電磁波シールド材料等へ適用することができる。
Claims (12)
- カーボンナノチューブを含有し、1種類の樹脂を成形してなる樹脂成形体であって、
樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させた、該樹脂成形体の表面抵抗率が104Ω/□以下であることを特徴とする樹脂成形体。 - 前記樹脂成形体の、カーボンナノチューブ含有量が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体。
- 前記樹脂成形体を構成する1種類の樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂成形体。
- 前記熱可塑性樹脂は、セルロースアセテート、エチルセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリラート、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリビニルピロリジン、シュークロースオクタアセテート、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロトリル/ブタンジエン/スチレン樹脂(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)のうちから選択された1種類であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂成形体。
- 前記カーボンナノチューブが0.5〜800nmの外径を有する事を特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの項に記載の樹脂成形体。
- 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブである請求項1〜請求項5いずれかの項に記載の樹脂成形体。
- 前記カーボンナノチューブが、外径15〜100nmの炭素繊維から構成されるネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記カーボンナノチューブが複数延出する態様で、当該カーボンナノチューブを互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記カーボンナノチューブの成長過程において形成されてなるものであって前記カーボンナノチューブ外形の1.3倍以上の大きさを有するものである事を特徴とする請求項5または請求項6記載の樹脂成形体。
- カーボンナノチューブを含有し、1種類の樹脂を成形してなる樹脂成形体を、
該樹脂のガラス転移温度(Tg)−20℃以上、該樹脂のガラス転移温度+150℃以下の温度で加熱し、1〜60分間加熱状態を保持させることにより、該樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させて、導電性を向上させることを特徴とする表面抵抗率が104Ω/□以下の樹脂成形体の製造方法。 - 前記加熱状態を保持させた前記樹脂成形体を、段階的に冷却することを特徴とする表面抵抗率が104Ω/□以下の樹脂成形体の製造方法。
- カーボンナノチューブを含有し、1種類の樹脂を成形してなる樹脂成形体を、該樹脂のガラス転移温度(Tg)−20℃以上、該樹脂のガラス転移温度+150℃以下の温度で加熱し、1〜60分間加熱状態を保持させることにより、該樹脂成形体の内部にて複数のカーボンナノチューブの互いの電気的接触を増進させて、導電性を向上させることを特徴とする樹脂成形体の表面抵抗率を、104Ω/□以下まで導電性を改善させる方法。
- 前記加熱状態を保持させた前記樹脂成形体を、段階的に冷却することを特徴とする請求項10記載の樹脂成形体の導電性を改善させる方法。
- 前記樹脂成形体を導電性材料、電磁波シールド、電磁波吸収体、または赤外線シールドとして用いる方法。
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