JP2009035785A - 高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法 - Google Patents

高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温環境下における耐蝕性および耐摩耗性をより一層向上させるとともに、機械加工が容易な高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法を提供する。
【解決手段】質量比で、Cr:15〜35%と、Ni:3.5〜22%と、MoおよびNbのうち少なくとも1種を含むステンレス鋼粉末に、硬質相形成粉末を15〜50%と、数1で示される量の黒鉛粉末とを配合し混合した原料粉末を用い、前記原料粉末を所望の形状に圧粉成形して得られた成形体を焼結することを特徴とする高温耐蝕耐摩耗性焼結部品。
【数1】
Figure 2009035785

【選択図】なし

Description

本発明は、高温環境下において耐蝕性とともに耐摩耗性が要求される部品、特に内燃機関に付設されるターボチャージャーの各種構成部品や、内燃機関のバルブシート等に好適な高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法に関する。
ターボチャージャーの構成部品や内燃機関のバルブシートは、高温の腐食性ガスである排気ガスと接触することから耐熱性及び耐蝕・耐摩耗性が要求される。また、ターボチャージャーの構成部品はノズルベーンと摺接し、内燃機関のバルブシートはバルブと摺接する。このため、これらの部品には高温下での耐摩耗性が要求される。そこで、ターボチャージャーの構成部品においては、従来より、例えば高Cr鋳鋼やJIS規格で規定されているSCH22種に耐蝕・耐摩耗性向上の目的でCr表面処理を施した材料等が使用されている。近年では、焼結材料(特許文献1、2等)の適用も行われている。また、内燃機関のバルブシートにおいては、従来より各種焼結材料(特許文献3等)が使用され、耐食性を向上させたもの(特許文献4等)も提案されている。
特許文献1では、金属炭化物が分散したニッケル・クロム系ステンレス鋼基地中にSi、Cr、Moを含有するコバルト合金粒子と遊離炭素が分散する焼結合金が提案されている。基地をオーステナイト系ステンレス鋼として耐熱性を付与し、その基地中にクロムを主とする金属炭化物を分散させて基地の強度を上げている。さらに、硬質のコバルト系金属間化合物粒子を分散させて、凝着摩耗に対する抵抗を増加させ、遊離黒鉛の固体潤滑作用によって耐摩耗性の強度を図っている。
特許文献2では、質量比で、Cr:25〜45%、Mo:1〜3%、Si:1〜3%、C:0.5〜1.5%、残部Feおよび不可避不純物よりなる組成のFe合金粉末に、P:10〜30質量%のFe−P粉末を1.0〜3.3質量%、黒鉛粉末を0.5〜1.5質量%を添加して混合した混合粉末が用いられている。この混合粉末を成形した後、焼結することにより、質量比でCr:23.8〜44.3%、Mo:1.0〜3.0%、Si:1.0〜3.0%、P:0.1〜1.0%、C:1.0〜3.0%、残部Feおよび不可避不純物からなる組成が得られる。これは、Fe−Cr系の基地中にMo炭化物およびCr炭化物が分散するターボチャージャー用ターボ部品として用いることができる。
特公平05−041693号公報 特許第3784003号公報 特許第3661823号公報 特許第3354401号公報
近年、環境問題、省エネルギー問題等により、従来以上の内燃機関の高効率化が求められている。これに対応するため、内燃機関の超希薄燃焼化が進んでおり、それにともなって、排気ガスがより高温になってきている。このため、ターボチャージャーの構成部品や内燃機関のバルブシートについても、より一層の高温環境下における耐蝕性および耐摩耗性の向上が要求されている。このような状況の下、特許文献1に記載のターボチャージャーの構成部品は、基地中にクロム炭化物が析出分散したものである。しかし、この場合、クロム炭化物は粒界に沿って析出するため、強度が低下する。さらに、クロム炭化物が析出することによって粒界付近のCr量が低下し、粒界腐食が生じ易くなる。また、特許文献2に記載のターボチャージャーの構成部品は、液相焼結により作製されている。これは、比較的大きなCr炭化物やMo炭化物が多量に分散するもので、機械加工し難い。さらに、特許文献3に記載のバルブシート用焼結合金は、基地が高速度工具鋼系であるため、上記の特許文献1、2に比して耐蝕性が低いと考えられる。そこで、本発明は、高温環境下における耐蝕性および耐摩耗性をより一層向上させるとともに、機械加工が容易な高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法は、質量比で、Cr:15〜35%と、Ni:3.5〜22%と、MoおよびNbのうち少なくとも1種を含むステンレス鋼粉末に、硬質相形成粉末を15〜50%と、数1で示される量の黒鉛粉末を配合し混合した原料粉末を用い、前記原料粉末を所望の形状に圧粉成形し、得られた成形体を1000〜1300℃で焼結することを特徴とする。
Figure 2009035785
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法においては、前記硬質相形成粉末として、質量比で、Mo:20〜60%、Cr:3〜12%、Si:1〜12%、および残部:Coと不可避不純物からなるものを用いることが好ましい。
本発明の製造方法により得られる高温耐蝕耐摩耗性焼結部品は、ステンレス鋼組成の基地中に、耐熱性硬質相とともに炭化物が析出分散することで優れた耐摩耗性を示す。また炭化物の大部分がMoおよびNbのうち少なくとも1種の炭化物からなり、Crの炭化物はごく僅かである。このため、基地に含有されるCr量の低下がほとんどなく、部品の各部で良好な耐食性が得られる。さらに、上記炭化物は基地中に微細に析出するため、機械加工が容易である。
(原料粉末の構成)
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法の骨子は以下の通りである。まず、ステンレス鋼組成の基地に耐熱性硬質相を分散させる。さらに、Crより炭化物の形成能が高いMoおよびNbのうち少なくとも1種を固溶させて与えるとともに、このMo、Nbと結合させるCを与える。こうして得られたステンレス鋼組成の基地中には、金属炭化物としてMo炭化物やNb炭化物が優先的に析出分散している。これによって、Cr炭化物の析出を抑制することができる。
焼結後の焼結部品の基地に耐食性を付与する観点より、硝酸のような酸化性の酸に対して有効な元素であるCrと、塩酸や硫酸のような非酸化性の酸に対して有効な元素であるNiの両者を併用する。また、上記のCrおよびNiの作用を基地全体に均一に与える必要があることから、CrとNiの両者を鉄粉末に固溶させて与えたステンレス鋼粉末を用いる。
焼結後の焼結体の基地は、Cr量を12質量%以上とすることで良好な酸化性の酸に対する耐蝕性を示す。このことから、上記のステンレス鋼粉末に含有されるCrのごく一部が焼結時に炭化物として析出しても焼結後の焼結体の基地に十分なCr量が残留するように、本発明においては基地のCr量を15質量%以上とする。一方、ステンレス鋼粉末中のCr量が35質量%を超えると脆いσ相が形成されるようになり、ステンレス鋼粉末の圧縮性を著しく損なう。これらのことから、本発明においては、主原料粉末として用いるステンレス鋼粉末のCr量を15〜35質量%とする。
焼結後の焼結体の基地は、Ni量を3.5質量%以上とすることで非酸化性の酸に対する耐蝕性を改善でき、10質量%以上でCr量とは無関係に非酸化性の酸に対する良好な耐蝕性が得られる。一方、焼結体の基地にNiを22質量%を超えて含有させても耐蝕性向上の効果は変わらないこと、およびNiは高価な元素であることからステンレス鋼粉末に含有させるNi量の上限を22質量%とした。これらのことから本発明においては、ステンレス鋼粉末のNi量を3.5〜22質量%、好ましくは10〜22質量%とする。
なお、鋼の耐蝕性はオーステナイト組織の方が結晶学的に原子密度が高いため、フェライト組織よりも優れる。このため、焼結後に得られる焼結体の基地組織をオーステナイト組織となるよう、Cr量とNi量を調整してステンレス鋼粉末に含有させることがより好ましい。例えば、Fe−Cr−Ni系合金の焼鈍し組織図において、横軸をCr量、縦軸をNi量、A点:Cr量が15質量%でNi量が7.5質量%、B点:Cr量が18質量%でNi量が6.5質量%、C点:Cr量が24質量%でNi量が18質量%とする。このA点−B点−C点を結ぶ折れ線よりNi量が多い領域でオーステナイト組織が得られるから、Cr量とNi量がこの領域に含まれるよう調整すればよい。
上記のステンレス鋼組成の基地としては従来より行われているように、Cu,Al,Mn,Si,Se,P,S,N等の元素を追加して含有させても良い。すなわち、上記のステンレス鋼組成の基地には、耐酸性、耐食性、耐点食性向上もしくは析出硬化性付与の目的でCuを1〜4%含有することができる。また、溶接性向上、耐熱性向上、もしくは析出硬化性付与の目的でAlを0.1〜5%含有することができる。さらに、結晶粒調整、Ni量低減の目的でNを0.3%以下含有することができ、Ni量低減の目的でMnを5.5〜10%含有することができる。耐酸化性、耐熱性、耐硫酸性向上の目的でSiを0.15〜5%、耐粒界腐食性の向上、快削性向上の目的でSe、P、Sを含有することができる。
(金属炭化物の形成)
本発明においては、上記の基地組織中に耐熱性を有する硬質相と金属炭化物を分散させることで高温耐摩耗性の向上を図る。これらのうち金属炭化物については、クロムの炭化物が多量に析出すると基地の耐蝕性が低下することになるため、ステンレス鋼粉末にCrより炭化物形成能が高いMoやNbを固溶させて与える。このMoやNbは、焼結時、黒鉛粉末の形態で原料粉末に添加されたCと選択的に結合するため、焼結部品のステンレス鋼組成の基地中にCr炭化物が形成されることを抑制出来る。またMoやNbの炭化物はCr炭化物と異なり、粒界に沿って析出せず粒内に析出するため強度の低下も抑制できる。このようなMo,Nbによる炭化物形成の効果を焼結部品全体に均一に及ぼすためには、Mo,Nbを上記のステンレス鋼粉末に固溶させて与える必要がある。また、Cをステンレス鋼粉末に固溶して与えると粉末が硬くなって圧縮性が損なわれるため、Cは黒鉛粉末の形態で与え、上記のステンレス鋼粉末と黒鉛粉を混合する必要がある。
上記のMo,Nbについて、MoはMoC,MoC等、NbはNbC,Nb等の形態の炭化物を析出すると考えられる。また、それらの一部は、(Fe,Mo)C等のMC型,(Fe,Mo)23等のM23型等の形態で析出すると考えられる。これらの炭化物の比率については制御が困難であるため、添加するC量すなわち黒鉛粉末の添加量についてはある程度幅を持たせて設定する必要がある。このような観点から、Mo量に対する黒鉛粉末の添加量を(0.05〜0.25)×Mo量、Nb量に対する黒鉛粉末の添加量を(0.12〜0.25)×Nb量として設定した。ここで、黒鉛粉末の添加量が各々の元素に対する上記設定量より下回ると、析出する金属炭化物の量が少なくなり、耐摩耗性向上の効果が乏しくなる。一方、黒鉛粉末の添加量が各々の元素に対する上記設定量より上回ると、余剰のCが基地のCrと炭化物を形成し、局所的なCr濃度低下部分が形成される。これは、耐食性の低下を招くこととなる。
なおステンレス鋼粉末への黒鉛粉末の添加量については、上記の金属炭化物形成に費やされる量よりも、余分に加える必要がある。焼結中、ステンレス鋼粉末表面の酸化被膜や、粉末表面に吸着する水分等をCOガスとして還元するために、黒鉛粉末が消費されるからである。この追加分のC量としては0.3質量%以下とすればよい。このため、ステンレス鋼粉末に添加する黒鉛粉末の量は、以下のように表すことが出来る。
Figure 2009035785
なお、Mo,Nbに対するC量(黒鉛粉末の添加量)を上記のようにある程度幅を持たせて設定したため、基地のCrのごく一部は炭化物として析出する場合がある。しかし、基地のCr量を上記のように15質量%以上と設定しているため、ごく一部にCr炭化物もしくはMoまたはNbとの複合炭化物が析出しても基地のCr量が12質量%を下回ることはなく、良好な耐蝕性を維持できる。
上記の金属炭化物は、基地中に分散することで基地の塑性流動を抑制し、耐摩耗性を向上させる。この金属炭化物を形成するため、Moは1.5質量%以上、Nbは0.1質量%以上が必要となる。ところで、金属炭化物形成のためのMo,Nbはその効果を基地全体に均一に及ぼす必要からステンレス鋼粉末に固溶させて与えることとしたが、Mo,Nbを多量にステンレス鋼粉末に固溶させるとステンレス鋼粉末の硬さが増加して圧縮性の低下が著しくなり、成形体密度が上がらない。その結果、焼結後の焼結体密度が低下して、強度、耐摩耗性が著しく低下する。このため、ステンレス鋼粉末に固溶させて与えるMo量の上限を5質量%、Nbの上限を1質量%とする。これらの金属炭化物は微細な形態(φ10μm以下)で基地中に分散するため、切削加工等の機械加工性にも優れる。
(硬質相の形成)
本願発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品においては、上記の金属炭化物に加えて硬質相を基地中に分散させるため、上記のステンレス鋼粉末と黒鉛粉末に、さらに、硬質相形成用の粉末を添加し、原料粉末を作製する。原料粉末に添加する硬質相形成用粉末の量は、15質量%を下回ると、基地中に分散する硬質相が乏しく、耐摩耗性向上の効果が乏しくなる。一方、50質量%を超えると、原料粉末の圧縮性が低下し、成形体の密度が低下する。その結果、得られる焼結体の密度が低下して、焼結体の強度および耐摩耗性が損なわれる。また、焼結体の密度が低下することにより気孔量が増加するため、孔食腐食が進行し易くなり、耐蝕性も損なわれることとなる。
高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の硬質相は、高温環境下において硬さと耐食性を有する必要がある。この点から、Fe−Mo金属間化合物や、コバルト基合金基地中にモリブデン珪化物が分散する硬質相や、特許文献4のNi−Cr系合金基地中にCr炭化物が分散する硬質相等を用いることができる。これらの中でも、モリブデン珪化物が分散するものは耐摩耗性と潤滑性を兼ね備えており、特に好適なものである。このコバルト基硬質相は、上記ステンレス鋼粉末と黒鉛粉を混合した粉末に、硬質相形成粉末を15〜50質量%添加して、成形、焼結することにより形成される。具体的には、硬質相形成粉末として、質量比で、Mo:20〜60%、Cr:3〜12%、Si:1〜12%、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成のコバルト基合金粉末が挙げられる。このコバルト基合金粉末においては、Mo量およびSi量が上記範囲より少ないと、耐熱性硬質相の合金基地中に析出するモリブデン珪化物の量が少なくなり、耐摩耗性向上の効果が小さくなる。また、MoおよびSi量が上記範囲を超えると、硬質相形成粉末中に固溶される合金元素量が過多となり、粉末の硬さが著しく増加して原料粉末の圧縮性が損なわれる。一方、Crは硬質相のコバルト基地の強化に寄与し、Cr量が上記範囲に満たないとその効果は小さくなる。逆に、Cr量が上記範囲を超えると、粉末の硬さが著しく増加して原料粉末の圧縮性が損なわれる。
(高温耐蝕耐磨耗性焼結部品の製造方法)
上記のMoとNbのうち少なくとも1種を含有するステンレス鋼粉末と、硬質相形成粉末及び黒鉛粉末からなる原料粉末を用いる。従来と同じく、この原料粉末は、所望の形状の型孔を有する金型の型孔に充填され、上下パンチにより圧粉成形されて所望の形状の成形体とされる。得られた成形体は、焼結されて高温耐蝕耐摩耗性焼結部品となる。得られた成形体の組織の一例として、図1のように表すことが出来る。成形体の組織においては、硬質相を含んだステンレス鋼基地中に金属炭化物が析出分散しており、気孔が含まれている。ここで、焼結温度が1000℃に満たないと、焼結による粉末どうしの結合が不充分となり強度が乏しくなるとともに、十分な量の金属炭化物が形成されず耐摩耗性も乏しくなる。一方、焼結温度が1300℃を超えると、焼結による収縮量が大きくなるとともに変形し易くなって寸法精度が低下する。このため焼結温度は1000〜1300℃の範囲が適当である。
上記の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品においては、被削性改善のため、従来の被削性改善物質添加法を併用して製造することができる。その方法としては、上記の耐摩耗性焼結部品の気孔中または粉末粒界に、珪酸マグネシウム系鉱物、窒化硼素、硫化マンガン、カルシウム弗化物、硫化クロムのうち少なくとも1種を分散させる方法である。これらの被削性改善物質は高温でも安定であり、粉末の形態で原料粉末に添加しても焼結過程で分解せず、被削性改善物質として上記の箇所に分散して被削性を改善できる。この被削性改善物質添加法の併用により、より一層の耐摩耗性焼結部材の被削性改善を行うことができる。また、被削性改善物質粉末は、過剰に添加すると耐摩耗性焼結部材の強度を損ない、耐摩耗性の低下を招く。このため、被削性改善物質添加法を併用する場合、その添加量の上限を5.0質量%に止めるべきである。
[第1実施例]
表1に示す組成のステンレス鋼粉末と、質量比で、Mo:28%、Si:2.5%、Cr:8%および残部がCoと不可避不純物からなる硬質相形成粉末と黒鉛粉末を原料粉末として用いた。これらの粉末を表1に示す割合で添加、混合し、成形圧力1.2GPaで直径:30mm、厚さ10mmの円板形状に圧粉成形を行った。こうして得られた圧粉体を、分解アンモニアガス雰囲気中1200℃×1Hrで焼結し、試料番号01〜13の試料を作製した。これらの試料につき、炭素分析装置(株式会社堀場製作所製)を用いて試料と結合した炭素量(結合C量)の測定を行った。そして、黒鉛粉末の添加量から上記結合C量を引いて、焼結によって失われた炭素量(損失C量)を求めた。また、ステンレス鋼粉末中のMo量またはNb量に対する上記結合C量の比(C比率)を算出した。これらの試料について、酸化試験と往復摺動摩擦試験を行い、試験後の摩耗量を測定した。これらの結果を表2及び図2、3に示す。
酸化試験は、各試験片毎にアルミナ製るつぼに配置して、これをマッフル炉に入れて大気雰囲気中900℃の温度で100時間加熱して行った。そして、試験前後の重量差を測定し、これを幾何表面積で除した値を酸化増量(g/m)として評価を行った。
往復摺動摩擦試験は、上記の円板形状試験片に、直径:15mm、厚さ22mmのロール(相手材)の側面を所定の荷重で押圧しながら往復摺動させる摩擦試験である。本試験においては、ロール材としてJIS規格SUS316相当の溶製鋼の表面にクロマイズ処理(表面にクロムを被覆するとともに硬質な鉄クロム金属間化合物層を形成して耐摩耗性、耐焼き付き性および耐食性等を向上させる処理)を施したものを用いた。そして、荷重:40N、往復摺動の周波数:20Hz、往復摺動の振幅:1.5mm、試験時間:20min、試験温度:室温の試験条件の下で往復摺動摩擦試験を行った。
Figure 2009035785
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表1及び2の試料番号01〜07より、ステンレス鋼粉末中のMo量に対する結合C量の比(C比率)の影響について調べることが出来る。これらより、酸化増量はC比率の増加(黒鉛粉末の添加量の増加)とともに増加する傾向を示す。C比率が増加するに従い黒鉛粉末の添加量が増加するため、Mo炭化物が形成されるだけでなく、添加したCが基地中のCrと結合し、Cr炭化物を徐々に形成していくと考えられる。このため、基地中の一部のCr濃度が低下し、耐食性が低下したと考えられる。特に、C比率が0.25を超える試料番号07では、酸化増量の増加率が大きい。また、試料番号01では、摩耗量が大きい値を示す。これは、結合C量が認められないことから、Mo炭化物がほとんど生成していないためと考えられる。一方、摩耗量はC比率の増加(黒鉛粉末の添加量の増加)に従い減少する傾向を示す。これは、C比率の増加につれて黒鉛粉末の添加量が増加し、析出するMo炭化物の量が増加するためである。これらより、ステンレス鋼粉末中のMo量に対するC比率が0.05〜0.25の範囲において良好な耐食性及び耐摩耗性が得られるとわかる。
表1及び2の試料番号08〜13より、ステンレス鋼粉末中のNb量に対する結合C量の比(C比率)の影響について調べることが出来る。Nb量に対するC比率の影響は、上記Mo量に対するC比率の影響と同様な傾向を示し、ステンレス鋼粉末中のNb量に対するC比率が0.12〜0.25の範囲において良好な耐食性及び耐摩耗性が得られることがわかる。
[第2実施例]
次に、Cr量およびNi量が一定であり、Mo量とNb量が表3のように異なるステンレス鋼粉末を用意した。これに第1実施例で用いた硬質相形成粉末:25質量%と、ステンレス鋼中のMo量またはNb量に対するC比率が0.2となる量の黒鉛粉末を添加、混合した。こうして得られた原料粉末は、第1実施例と同様の条件で成形、焼結し、表3に示す試料番号14〜26の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験と耐摩耗性試験を行った。その結果を表4及び図4、5に示す。なお、表3および4には、第1実施例の試料番号05と11の値を併記した。また、図4には試料番号05の値、図5には試料番号11の値を併記した。
Figure 2009035785
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表3および4の試料番号05および14〜20によりステンレス鋼粉末中のMo量の影響を調べることができる。試料番号14、15の試料では、酸化増量とともに摩耗量も多く、耐食性及び耐摩耗性は低い。これは、試料中の結合C量がほとんどなく、金属炭化物が析出していないためと考えられる。一方、ステンレス鋼粉末中に1.5〜5質量%のMoを含有する試料番号05、16〜19では、Mo炭化物が析出して良好な耐食性とともに良好な耐摩耗性を示す。しかし、Mo量が5質量%を超える試料番号20の試料では、耐食性、耐摩耗性ともに低下する傾向を示す。これは、ステンレス鋼粉末中に固溶するMo量が過多となって原料粉末の圧縮性が損なわれ、成形体密度が低下するとともに焼結体密度が低下したためと考えられる。
表3および4の試料番号11、21〜26によりステンレス鋼粉末中のNbの影響を調べることができる。Nbについても上記のMoと同様の傾向を示し、ステンレス鋼粉末中のNb量が0.1〜1質量%の範囲で良好な耐食性と耐摩耗性を示すが、Nb量が1質量%を超えると原料粉末の圧縮性が損なわれる結果、耐食性と耐摩耗性がともに低下する傾向を示す。これらのことから、ステンレス鋼粉末中のMo量は、1.5〜5質量%、Nb量は0.1〜1質量%であることが好ましいとわかる。
[第3実施例]
Mo量およびNb量が一定であり、Cr量とNi量が表5のように異なるステンレス鋼粉末を用意した。これに第1実施例で用いた硬質相形成粉末:25質量%と黒鉛粉末:0.8質量%とを添加し、混合を行った。こうして得られた原料粉末を第1実施例と同様の条件で成形、焼結して、表5に示す試料番号27〜41の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験と耐摩耗性試験を行った。その結果について表5及び図6、7に併せて示す。
Figure 2009035785
表5の試料番号27〜33によりステンレス鋼粉末中のCr量の影響を調べることができる。ステンレス鋼粉末中のCr量が15質量%に満たない試料番号27の試料では、Cr量が乏しいため、酸化増量が大きい値を示している。一方、ステンレス鋼粉末中のCr量が15質量%の試料番号28の試料では試料番号27に比して酸化増量が著しく抑制されており、耐食性向上の効果が認められる。試料番号28〜32においては、ステンレス鋼粉末中のCr量を増加させると、酸化増量が低下し、耐食性の向上が認められる。また、ステンレス鋼粉末中のCr量の増加にともない、摩耗量も低下傾向にあり、耐摩耗性向上の効果も認められる。これは、基地中のCr量が増加することにより、基地中の一部のCrが炭化物として析出したためと考えられる。耐食性試験の結果から、基地中のCrが炭化物として析出する量は、基地中のCr量を大幅に低減するものではないことも併せて確認された。一方、ステンレス鋼粉末中のCr量が35質量%を超える試料番号33の試料では、耐食性が低下している。これは、ステンレス鋼粉末中に硬いσ相が生じ、原料粉末の圧縮性を損ねたためと考えられる。これにより、成形体の密度が低下し、焼結体の密度が低下して気孔量が増加し、その結果、耐食性が低下したと考えられる。これらのことから、良好な耐食性と耐摩耗性を得るためには、ステンレス鋼粉末中のCr量は15〜35質量%の範囲であれば良いとわかる。
表5の試料番号34〜41によりステンレス鋼粉末中のNi量の影響を調べることができる。試料番号34はNiを含有しないフェライト系ステンレスの例であり、酸化増量は小さく、耐食性は良い。3.5質量%のNiを含有する試料番号35では、さらに酸化増量が抑制され、Ni含有による耐食性向上の効果が認められる。ただし、Ni含有量が22質量%を超えてもそれ以上の耐食性向上の効果は見られない。このため、コストの観点から、Ni含有量は22質量%までで十分であるといえる。また、Niの含有により基地組織はフェライトからオーステナイトに変わる。このオーステナイト基地はフェライト基地よりもCの固溶限が大きい。このため、オーステナイト基地となる試料番号35では、金属炭化物の析出量が減少し、摩耗量が若干増加している。ただし、この耐摩耗性の低下はごく僅かであり、問題のない程度である。これらのことから、3.5〜22質量%のNiの含有は、耐食性の向上に有効であることが確認された。
[第4実施例]
組成が、質量比で、Cr:25%、Ni:20%、Mo:1.5%、Nb:0.2%、および残部がFeと不可避不純物からなるステンレス鋼粉末を用意した。これに黒鉛粉末:0.4質量%と、第1実施例で用いた硬質相形成粉末を表6のように割合を変えて添加、混合を行った。こうして得られた原料粉末を第1実施例と同様の条件で成形、焼結し、表6に示す試料番号42〜51の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験及び耐摩耗性試験を行った。その結果について表6及び図8に併せて示す。
Figure 2009035785
表6より、硬質相形成合金粉末の添加量、すなわち焼結後に基地中に分散する硬質相の量の影響を調べることができる。硬質相形成合金粉末の添加量が15質量%に満たない試料番号42〜44の試料では、焼結後に形成される硬質相の分散量が乏しいため、摩耗量が大きい値を示す。一方、硬質相形成合金粉末の添加量が15質量%の試料番号45の試料では摩耗量が著しく減少しており、硬質相形成合金粉末の添加量の増加に従って、摩耗量の減少する傾向が見れらる。そして、硬質相形成合金粉末の添加量が40質量%以上(試料番号49〜51)では摩耗量が極めて小さく、一定の値となる。
一方、酸化増量は、硬質相形成合金粉末の添加量が増加するにつれて増加する傾向を示している。これは、硬質相形成合金粉末の添加量が増加するにつれて、原料粉末の圧縮性が低下し、これにともない成形体密度が低下して、試料の気孔が増加(比表面積が増加)することによる。また、硬質相形成合金粉末の添加量が増加するにつれて、基地を形成するステンレス鋼粉末の添加量が減少する。しかし、黒鉛粉末の添加量は一定であるため、試料の基地中に含有されるMo、Nbの炭化物だけでなく、基地中のCrが炭化物として析出し始めると考えられる。それゆえ、基地の耐食性が低下する傾向を示すといえる。この酸化増量は、硬質相形成合金粉末の添加量が50質量%まではほぼ一定の割合で増加の傾向を示している。一方、硬質相形成合金粉末の添加量が50質量%を超える試料番号51の試料では、酸化増量の増加率が大きくなっている。これらのことから、硬質相形成合金粉末の添加量は、15〜50質量%とすべきであるとわかる。
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法により得られる高温耐蝕耐摩耗性焼結部品は、優れた耐摩耗性と耐食性を示すとともに機械加工も容易であり、ターボチャージャーの構成部品や内燃機関のバルブシート等の高温環境下において耐蝕・耐摩耗性とともに耐摩耗性が要求される部品に好適なものである。
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法により得られる成形体の組織の一例を示す概略図である。 第1実施例で用いた試料(試料番号01〜07)の酸化増量又は摩耗量とC比率との関係を示すグラフである。 第1実施例で用いた試料(試料番号08〜13)の酸化増量又は摩耗量とC比率との関係を示すグラフである。 第2実施例で用いた試料(試料番号05、14〜20)の酸化増量又は摩耗量とステンレス鋼粉末中のMo量との関係を示すグラフである。 第2実施例で用いた試料(試料番号11、21〜26)の酸化増量又は摩耗量とステンレス鋼粉末中のNb量との関係を示すグラフである。 第3実施例で用いた試料(試料番号27〜33)の酸化増量又は摩耗量とステンレス鋼粉末中のCr量との関係を示すグラフである。 第3実施例で用いた試料(試料番号34〜41)の酸化増量又は摩耗量とステンレス鋼粉末中のNi量との関係を示すグラフである。 第4実施例で用いた試料の酸化増量又は摩耗量と硬質相形成合金粉末の添加量との関係を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 質量比で、Cr:15〜35%と、Ni:3.5〜22%と、MoおよびNbのうち少なくとも1種を含むステンレス鋼粉末に、硬質相形成粉末を15〜50%と、数1で示される量の黒鉛粉末とを配合し混合した原料粉末を用い、前記原料粉末を所望の形状に圧粉成形して得られた成形体を焼結することを特徴とする高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法。
    Figure 2009035785
  2. 前記ステンレス鋼粉末中のMo量が1.5〜5質量%であり、前記ステンレス鋼粉末中のNb量が0.1〜1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法。
  3. 前記硬質相形成粉末が、質量比で、Mo:20〜60%、Cr:3〜12%、Si:1〜12%、および残部:Coと不可避不純物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法。
  4. 前記原料粉末に、さらに、5質量%以下の硫化マンガン粉末、硫化クロム粉末、弗化カルシウム粉末、珪酸マグネシウム系鉱物粉末のうち少なくとも1種を添加し混合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法。

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