JP4516697B2 - 硬質粒子分散型鉄基焼結合金 - Google Patents

硬質粒子分散型鉄基焼結合金 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は耐摩耗性鉄基焼結合金及びその製造方法に関し、特に高出力型自動車エンジンやLPG、LNG等のガスエンジンに用いるバルブシートに好適な硬質粒子分散型鉄基焼結合金及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車エンジンの高出力化、及びLPG、LNG等の公害防止用クリーン燃料の使用に伴い、エンジンのバルブシートが受ける熱的負荷及び機械的負荷は益々増大する傾向にある。
【0003】
このようなバルブシートの熱的負荷及び機械的負荷の増大に対処するために、バルブシート用鉄基焼結合金は、高合金化、鍛造又は銅溶浸等により高強度化されている。例えばバルブシートの熱的負荷の増大に対処するために、バルブシート用鉄基焼結合金にCr、Co、W等を添加することにより高温強度を向上させる方法や、バルブシート用鉄基焼結合金に対して銅溶浸を行うことにより熱伝導性を向上させ、もって高温強度を間接的に向上させる方法が行われている。さらに、鉄基焼結合金の機械的強度を高圧成形、粉末鍛造、冷間鍛造及び高温焼結等により向上させている。
【0004】
例えば特開平9-053158号は、Fe-Ni-Mo-Cr-C系基地に、Cr、Mo、Co、C又はSiを含有する硬質相粒子を分散させることにより、高温での耐摩耗性が向上した硬質相分散型鉄基焼結合金を開示している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながらエンジンの高性能化に伴い、バルブシートが受ける熱的負荷及び機械的負荷が益々増大しており、特にLPG、LNGを燃料とするエンジンでは燃焼温度が非常に高くなる傾向にある。そのため、特開平9-053158号の硬質相分散型鉄基焼結合金でもバルブシートにかかる高温高負荷に十分耐えることができない程大きな熱的負荷及び機械的負荷を生じさせるエンジンの出現が予想される。
【0006】
上記鉄基焼結合金の内部空孔に銅等の低融点物質を溶浸させることにより、熱伝導性を向上させ、もってバルブシートへの熱的負荷を軽減することも考えられるが、銅溶浸では一次焼結した後に二次焼結を行う必要があり、このとき毛管現象により銅が空孔中に吸い上げられるために膨張が起こり、鉄基焼結合金の強度が低下するという問題がある。
【0007】
耐摩耗性を向上させるために焼結合金に添加する硬質粒子には、合金源として作用するものと、基地に分散して高温での変形抵抗を向上させる作用を有するものとがある。合金源として作用するCo基又はNi基の硬質粒子には、構成元素の拡散により基地を過度に変性させ、軟化させるという問題がある。一方、基地に分散して高温での変形抵抗を向上させる硬質粒子としては、金属間化合物やセラミックス等が挙げられるが、これらの高硬度粒子は鉄基焼結合金の基地との密着性(濡れ性)が悪いため、合金基地から脱落しやすいという問題がある。これらの問題はいずれも、鉄基焼結合金の耐摩耗性の低下の原因となる。
【0008】
従って本発明の目的は、硬質粒子構成元素の過拡散による基地の変性や、濡れ性の悪さを原因とする硬質粒子の基地からの脱落が起こらず、かつ高温で大きな機械的負荷が加えられるバルブシート等の材料として使用するのに十分な機械的強度及び耐摩耗性を有する硬質粒子分散型鉄基焼結合金、及びその製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、基地中にMo、Cr及びVを合金化するとともに硬質粒子を均一に分散させ、添加する硬質粒子の表面を予めNiで被覆しておくことにより、硬質粒子構成元素の過拡散による基地の脆化を防止するとともに、基地との密着性を向上させることにより硬質粒子が基地から脱落するのを防止し、さらに固体潤滑材を添加することにより耐摩耗性を改善すると、優れた高温強度及び耐摩耗性を有する硬質粒子分散型鉄基焼結合金が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の第一の硬質粒子分散型鉄基焼結合金は、質量%で、Ni:3〜12%、Mo:3〜12%、Cr:0.5〜5%、V:0.6〜4%、及びC:0.5〜2%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる基地中に、Mo:60〜70%、及びC:0.1%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる硬質粒子3〜20%と、固体潤滑材1〜20%とが均一に分散した組織を有し、前記硬質粒子は焼結時にNiで被覆されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の硬質粒子分散型鉄基焼結合金は、質量%で、Ni:3〜12%、Mo:3〜12%、Cr:0.5〜5%、V:0.6〜4%、及びC:0.5〜2%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる基地中に、Mo:28〜35%、Cr:8〜17%及びSi:2〜3%を含有するCo基硬質粒子3〜20%と、固体潤滑材1〜20%とが均一に分散した組織を有し、前記硬質粒子は焼結時にNiで被覆されていることを特徴とする。
【0012】
上記第一の及び第二の硬質粒子分散型鉄基焼結合金において、前記固体潤滑材はフッ化物、窒化物及び硫化物からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。具体的には、前記固体潤滑材はLiF,CaF2,BaF2,Si3N4、BN,MnS,MoS2及びWS2からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。
【0013】
さらに好ましい実施例では、前記基地はMo:1〜4%、Cr:0.5〜5%、V:1〜5%、及びC:0.8%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるプレアロイ粉末を使用して形成されたものである。
【0014】
第一の硬質粒子分散型鉄基焼結合金の製造方法は、(1)Mo:1〜4%、Cr:0.5〜5%、V:1〜5%、及びC:0.8%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるプレアロイ粉末を他の原料粉と混合することにより、基地用原料粉を作製し、(2)Mo:60〜70%、及びC:0.1%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有するNi被覆硬質粒子3〜20%、及び固体潤滑材1〜20%を前記基地用原料粉に均一に混合して、混合粉を作製し、(3)前記混合粉をプレス成形し、(4)得られた成形体を加熱することによって脱蝋を行い、(5)前記成形体を焼結することを特徴とする。
【0015】
また第二の硬質粒子分散型鉄基焼結合金の製造方法は、(1)Mo:1〜4%、Cr:0.5〜5%、V:1〜5%、及びC:0.8%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるプレアロイ粉末を他の原料粉と混合することにより、基地用原料粉を作製し、(2)Mo:28〜35%、Cr:8〜17%及びSi:2〜3%を含有するNi被覆Co基硬質粒子3〜20%、及び固体潤滑材1〜20%を前記基地用原料粉に均一に混合して、混合粉を作製し、(3)前記混合粉をプレス成形し、(4)得られた成形体を加熱することによって脱蝋を行い、(5)前記成形体を焼結することを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
[1] 硬質粒子分散型鉄基焼結合金の組成
(A)基地組成
鉄基焼結合金の基地組成(質量%)は、Ni:3〜12%、Mo:3〜12%、Cr:0.5〜5%、V:0.6〜4%、及びC:0.5〜2%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる
【0017】
(a) Ni
基地中のNiの含有量は3〜12%である。Niの含有量が3%より少ないと従来の鉄基焼結合金より優れた耐摩耗性が得られない。また12%より多いと、基地中にオーステナイトやマルテンサイトが生じるので、プレス加工が困難になるだけでなく、線熱膨張係数が増大して合金がエンジン内で脱落しやすくなってしまう。従って、Niの含有量は3〜12%である必要があり、特に5〜8%が好ましい。
【0018】
(b) Mo
基地中のMoの含有量は3〜12%である。Moの含有量が3%より少ないと従来の鉄基焼結合金より優れた高温強度及び耐摩耗性が得られない。また12%より多いと炭化物の生成量が多くなるため、プレスによる成形加工が困難となるだけでなく、合金が脆化する。従って、Moの含有量は3〜12%である必要があり、特に6〜10%が好ましい。
【0019】
(c) Cr
基地中のCrの含有量は0.5〜5%である。Crの含有量が0.5%より少ないと従来の鉄基焼結合金より優れた高温強度及び耐酸化性が得られない。また5%より多いと炭化物の生成量が多くなるため、プレスによる成形加工が困難となるだけでなく、合金が脆化する。従って、Crの含有量は0.5〜5%である必要があり、特に0.7〜3.0%であるのが好ましい。
【0020】
(d) V
基地中のVの含有量は0.6〜4%である。Vの含有量が0.6%より少ないと顕著な析出硬化が起こり、また従来の鉄基焼結合金より良好な焼き戻し軟化抵抗が得られない。また4%より多いと炭化物の生成量が多くなるため、プレスによる成形加工が困難となる。従って、Vの含有量は0.6〜4%である必要があり、特に0.7〜3.2%であるのが好ましい。
【0021】
(e) C
基地中のCの含有量は0.5〜2%である。Cの含有量が0.5%より少ないとフェライト(α固溶体)が生じ、合金の耐摩耗性が低下する。また2%より多いとマルテンサイト及び炭化物が過剰に生じるため、プレスによる成形加工が困難となるだけでなく、合金が脆化する。Cの含有量は、Ni、Cr、Mo及びVの各量、硬質粒子の種類及び量に応じて、フェライト、マルテンサイト及び炭化物が生じない範囲で適宜決定することができる。
【0022】
(B)硬質粒子
第一の鉄基焼結合金に添加する硬質粒子は、質量%でMo:60〜70%、及びC:0.1%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるフェロモリブデン(Fe-Mo)系の硬質粒子であり、第二の鉄基焼結合金に添加する硬質粒子は、Mo:28〜35%、Cr:8〜17%及びSi:2〜3%を含有するトリバロイ等のCo基硬質粒子である。いずれの硬質粒子も添加する際にはNiで表面被覆されている。これらの硬質粒子は単独で使用しても良いが、必要に応じて2種以上を複合して使用することもできる。
【0023】
硬質粒子のNi被膜は、硬質粒子のほぼ表面全体に無電解メッキ又はスパッタリング等により形成する。Ni被膜は焼結中に拡散するため、硬質粒子の元素の過拡散(異状拡散)を防止し、基地の脆化を防止するだけでなく、基地との密着性を向上させる。これにより、硬質粒子分散型鉄基焼結合金の高温強度及び耐摩耗性は向上する。このような作用を有するNiの被膜量(重量%)は、硬質粒子母材に対して0.5〜5.0%であるのが好ましく、1.0〜3.0%であるのがより好ましい。Niの被膜量が0.5%未満であると、硬質粒子元素の拡散防止作用が不十分であり、また5%を超えると基地中に拡散するNi量が多くなり過ぎる。
【0024】
Ni被覆硬質粒子の平均粒径は44〜200μmであり、特に62〜125μmであるのが好ましい。Ni被覆硬質粒子の平均粒径が44μm未満であると、耐摩耗性が不十分であり、また200μm超であると組織が不均一化して、高温強度がかえって低下する。
【0025】
Ni被覆硬質粒子は合金基地中に均一に分散しやすいだけでなく、焼結時に硬質粒子から拡散する合金元素が硬質粒子の周囲に高合金相を形成する。そのため、本発明の硬質粒子分散型鉄基焼結合金は顕著に改善された耐摩耗性を示す。
【0026】
Ni被覆硬質粒子の含有量は、焼結合金全体を100質量%として3〜20質量%である。Ni被覆硬質粒子の含有量が3質量%より少ないと、従来の鉄基焼結合金より優れた耐摩耗性が得られない。また20質量%より多く添加してもNi被覆硬質粒子の含有量に見合う耐摩耗性の向上が得られず、コスト高になるだけでなく、合金の材質が硬く脆くなり、加工及び成形が困難になるため好ましくない。従って、Ni被覆硬質粒子の含有量は3〜20質量%である必要がある。Ni被覆硬質粒子の含有量が多くなるとバルブが摩耗しやすくなる傾向があるため、Ni被覆硬質粒子の含有量は8〜16質量%であるのが好ましい。
【0027】
(C) 固体潤滑材
本発明の鉄基焼結合金に添加する固体潤滑材としては、LiF2、CaF2及びBaF2等のフッ化物、Si3N4,BN等の窒化物、MnS,MoS2及びWS2等の硫化物等が挙げられる。バルブシートはエンジン内で200〜600℃に昇温するが、固体潤滑材はこの温度でも分解することがないため自己潤滑性を保持し、本発明の鉄基焼結合金は高温でも耐摩耗性を維持することができる。
【0028】
[2] 製造方法
本発明の硬質粒子分散型鉄基焼結合金の製造方法は、(1)プレアロイ粉末を他の原料粉と混合することにより、基地用原料粉を作製し、(2) Ni被覆のフェロモリブデン(Fe-Mo)系硬質粒子又はCo基硬質粒子3〜20%、及び固体潤滑材1〜20%を基地用原料粉に均一に混合して、混合粉を作製し、(3) 混合粉をプレス成形し、(4) 得られた成形体を加熱することにより脱蝋を行い、(5) 成形体を焼結する工程を有する。
【0029】
(A)プレアロイ粉末
プレアロイ粉末は、Mo:1〜4%、Cr:0.5〜5%、V:1〜5%、及びC:0.8%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する。プレアロイ粉末はMo、Cr及びVを均一に含有するので、Mo、Cr及びVが均一に固溶又は分散した組織を得るのに有効である。
【0030】
基地中の元素のうち、Crについては、金属Crのまま添加すると、Cと反応して硬い炭化物を生成して基地との密着性が悪くなるので、予めプレアロイ粉末中に固溶させておくのが好ましい。またVについては、金属Vのまま添加すると、C及びNと反応して硬い炭化物及び窒化物を生成するので、やはり予めプレアロイ粉末中に固溶させておくのが好ましい。なお、Moは一部他の原料粉として添加するのが好ましく、Niは全て他の原料粉として添加するのが好ましい。上記組成のプレアロイ粉末は、フェライト化が促進されているために良好な成形性を有する。
プレアロイ粉末の平均粒径は149μm以下であるのが好ましい。
【0031】
(B) 基地用原料粉の作製
Mo、V、Cr及びNiをプレアロイ粉末中に高濃度に配合すると、合金基地が硬くなって成形性が著しく低下するので、プレアロイ粉末に含有されない元素は他の原料粉(純金属粉末又は合金粉末)として、プレアロイ粉末と混合する。他の原料粉としては、例えば金属Ni粉、カルボニルニッケル粉、金属Mo粉、黒鉛粉等が挙げられる。このような他の原料粉は325メッシュアンダーの微細な純金属粉末であるのが好ましい。
【0032】
プレアロイ粉末を他の原料粉と混合することにより、Fe-Mo-V-Cr系(4元系)又はFe-Mo-V-Cr-Ni系(5元系)の基地用原料粉を作製する。プレアロイ粉末/他の原料粉の配合比は、得られる混合粉の組成が鉄基焼結合金の基地の組成と同じになるように設定すれば良いが、具体的には16/9〜9/1の範囲内であるのが好ましい。基地用原料粉に含まれるVにより、高温曝露により緻密な酸化膜が均一に形成されるので、摺動部の摩擦係数が低く抑えられ、耐摩耗性の高い硬質粒子分散型鉄基焼結合金を得ることができる。
【0033】
(C)混合粉の作製
基地用原料粉100質量%に対して、3〜20質量%のNi被覆硬質粒子、及び1〜20質量%の固体潤滑材を配合・混合し、混合粉を作製する。また混合粉100質量%に対して、0.5質量%のバインダーを添加するのが好ましい。また金型との離型性を良好にするために、ステアリン酸塩(例えばステアリン酸亜鉛)等の離型剤を、混合粉100質量%に対して0.5質量%の割合で添加するのが好ましい。
【0034】
(D) 成形
混合粉の成形はプレス等の金型を使用して行うのが好ましい。プレス圧力は600〜700 MPa程度で良く、得られる成形体の密度は6.0 g/cm3以上であれば良い。
【0035】
(E) 脱蝋
成形体を450〜700℃に加熱することにより、成形体内のバインダーを蒸散させる。加熱時間はバインダーの種類及び量に応じて適宜設定できる。
【0036】
(F) 焼結
脱蝋した成形体を1140〜1200℃で、0.5〜2.0時間焼結する。焼結雰囲気としては、真空が好ましい。焼結法は特に限定的でなく、常圧焼結法、高圧焼結法、熱間等方圧焼結法(HIP)、ホットプレス(HP)法等を適宜利用することができる。
【0037】
(G) 焼戻し
得られた焼結体に焼戻しを施すことにより、残留応力を解除し、高温強度を向上させる。焼戻し条件は500〜700℃の温度及び0.5〜2.0時間で良い。
【0038】
【実施例】
本発明の硬質粒子分散型鉄基焼結合金及びその製造方法を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。なお実施例で使用する単位「%」は、特に記載がない限り「質量%」である。
【0039】
実施例1及び2,比較例1
粒度分布が150〜200メッシュにピークを有するMo:2%、Cr:1%及びV:3%を含有する鉄粉からなるプレアロイ粉末に、それぞれ325メッシュアンダーのカルボニルニッケル粉、金属Mo粉及び黒鉛粉を混合し、基地用原料粉とした。
【0040】
この基地用原料粉に、Ni被覆硬質粒子として61.33%のMo及び0.03%のCを含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるフェロモリブデン(Fe-Mo)粉末の表面に無電解Niメッキを施したものと、固体潤滑材としてフッ化カルシウム(CaF2)粉とを混合し、さらにステアリン酸亜鉛0.5%を加えて、混合粉Aとした。Ni被覆硬質粒子の粒度分布は150〜200メッシュにピークを有し、固体潤滑材の粒度分布は325〜400メッシュにピークを有していた。また硬質粒子上の無電解Niメッキの厚さは、フェロモリブデン(Fe-Mo)粉末を100%として1.5%であった。このようにして得られた基地用原料粉Aの組成は、プレアロイ粉末77.4%、カルボニルニッケル粉5.5%、金属Mo粉2.5%、黒鉛粉0.6%、Ni被覆フェロモリブデン粉末10%、及び固体潤滑材4.0%であった。
【0041】
またMo、Cr及びSiを含有するNi被覆Co基硬質粒子を使用した以外同様にして、混合粉Bを作製した。Co基硬質粒子中のMo、Cr及びSiの含有量はそれぞれ29.57%,8.12%,及び2.53%であり、またNi被覆量は、Co基硬質粒子を100%として1.5%であった。
【0042】
各混合粉A及びBにバインダーとしてステアリン酸(0.5%)を添加した後、6.5t/cm2の圧力でプレス成形し、バルブシート用成形体を作製した。
【0043】
成形体を650℃で1時間加熱して脱蝋した後、1180℃で2時間焼結し、ガス冷却により焼入れを行い、最後に650℃で焼戻した。このようにして、混合粉A及びBからそれぞれ試験片A及びB(実施例1,2)を得た。各試験片は図1に示す形状を有していた。
【0044】
またNi被膜を有しないフェロモリブデン(Fe-Mo)からなる硬質粒子を用いた以外実施例1と同じ硬質粒子分散型鉄基焼結合金から、試験片A及びBと同形状の焼結バルブシートを作製し、所定の寸法に加工して試験片C(比較例1)とした。
【0045】
図1に示す叩き摩耗試験機を用いて、各試験片A〜Cについて耐摩耗性及び耐摩擦性の試験を行った。測定条件は実際の排気バルブシートの使用条件を想定して、下記の通りであった。
バルブ材料:ステライト#12盛金
バルブの回転数:3000rpm、
試験時間:5時間、
【0046】
図1に示すように、叩き摩耗試験機は、バーナ(高温側)1及びバーナ(低温側)2と、燃焼チャンバ3と、燃焼チャンバ3の底部に設けられたバルブシート5と、バルブシート5に熱電対が取り付けられたセンサ(高温側)6及びセンサ(低温側)7と、バルブシート5とバルブガイド8内を上下動するバルブ4と、装置内を通る冷却水通路9とを有する。バーナは高温側1と低温側2に切り換えるようになっており、それに応じてセンサ6,7が作動する。バルブ4の下端にはタペット11が固定されており、タペット11内にはバルブ4をバルブシート5に押圧するようにスプリングが設けられている。タペット11の底面はカムシャフト13に固定されたカム14と摺接している。サーボモータ(図示せず)に駆動されるドライブシャフト15の上端に取り付けられたドライブギア16は、遊星ギア17と係合し、遊星ギア17は被駆動ギア18と係合している。ドライブシャフト15が回転すると、ドライブギア16、遊星ギア17及び被駆動ギア18が連動して回転し、被駆動ギア18がバルブ4を回転させる。
【0047】
上記叩き摩耗試験機内に各バルブシート試験片A〜Cを装着し、バルブガイド8により支持されたバルブ4の上端をバルブシート5に当接させ、上方からバルブ4に向かってガスバーナ1,2により火炎を放射した。バルブシート5の外側には冷却水通路9が通っており、冷却水を供給して温度調節を行った。バルブ4はバブルスプリング12により常時カム14側に押圧されており、カムシャフト13の回転により上下動した。バルブシート5及びバルブ4の温度を250℃、300℃及び350℃に調節して試験を行った。
【0048】
耐摩耗性を評価するために、各バルブシート5及びバルブ4の当たり幅を縦方向に500倍拡大し、形状測定器により測定した。叩き摩耗試験前後におけるバルブシート5及びバルブ4の当たり幅の変化(μm)を表1に示す。
【0049】
【表1】
Figure 0004516697
【0050】
表1から明らかなように、Ni被覆フェロモリブデン(Fe-Mo)系硬質粒子を用いた試験片Aでは、試験片Cに比べて、低温域及び高温域での耐摩耗性が向上している。これは、被膜元素であるNiが優先的に基地中に拡散するため、フェロモリブデン(Fe-Mo)の過拡散が抑制されるとともに、基地との密着性の向上により衝撃による硬質粒子の脱落が減少したことためであると考えられる。さらに高温域における耐摩耗性の向上は、Vの添加によって高温特性が向上したことによると考えられる。
【0051】
Ni被覆Co基硬質粒子を用いた試験片Bでは、試験片Cに比べて、低温域及び高温域での耐摩耗性が向上している。これは、Ni被膜により硬質粒子構成元素の過拡散が抑制されるとともに、合金源として作用する硬質粒子から適度に拡散された合金元素が硬質粒子の周囲に高合金相を形成するため、基地が固く脆くなることが防止されたためであると考えられる。
【0052】
以上から、本発明の硬質粒子分散型鉄基焼結合金からなるバルブシート(試験片A,B)は、従来のバルブシート(試験片C)に比べて低温域及び高温域での耐摩耗性が向上していることが分かる。
【0053】
次に、高温材料試験機を使用してバルブシート試験片A〜Cの高温圧環強度を測定した。リング状に作製したバルブシート試験片A〜Cを治工具で挟み込んで所定温度に加熱した後、治工具によりバルブシート試験片A〜Cに負荷を加えた。負荷を次第に増加させて、リング状バルブシート試験片A〜Cにクラックが発生した時の荷重をそれぞれ測定した。測定温度は300℃、400℃及び500℃であり、各温度で2回測定を行った。結果を表2に示す。表2の結果から、本発明の試験片A,Bは、比較例1の試験片Cに比べて、高温域において圧環強度が低下しにくいことが分かる。
【0054】
【表2】
Figure 0004516697
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、鉄基基地中にVを加えてMo及びCrとともに合金化することにより鉄基焼結合金の高温強度及び耐摩耗性が向上するとともに、固体潤滑材の他にNi被覆硬質粒子を用いることにより被膜元素が優先的に基地に拡散し、もって硬質粒子構成元素の過拡散を防止するとともに、合金基地との密着性を向上させて高温での強度及び耐摩耗性が向上する。このようにして得られた本発明の硬質粒子分散型鉄基焼結合金は、優れた高温強度及び耐摩耗性のためにバルブシートのように高温で高い摺動負荷を受ける部品に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 バルブシートの耐摩耗性を測定するのに使用する叩き摩耗試験機を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 バーナ(高温側)
2 バーナ(低温側)
3 燃焼チャンバ
4 バルブ
5 バルブシート
6 センサ(高温側)
7 センサ(低温側)
8 バルブガイド
9 冷却水通路
11 タペット
12 バルブスプリング
13 カムシャフト
14 カム
15 ドライブシャフト
16 ドライブギア
17 遊星ギア
18 被駆動ギア

Claims (2)

  1. 質量%で、Ni:3〜12%、Mo:3〜12%、Cr:0.5〜5%、V:0.6〜4%、及びC:0.5〜2%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる基地中に、Mo:60〜70%、及びC:0.1%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる硬質粒子3〜20%と、固体潤滑材1〜20%とが均一に分散した組織を有し、前記硬質粒子は焼結時にNiで被覆されていることを特徴とする硬質粒子分散型鉄基焼結合金。
  2. 質量%で、Ni:3〜12%、Mo:3〜12%、Cr:0.5〜5%、V:0.6〜4%、及びC:0.5〜2%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる基地中に、Mo:28〜35%、Cr:8〜17%及びSi:2〜3%を含有するCo基硬質粒子3〜20%と、固体潤滑材1〜20%とが均一に分散した組織を有し、前記硬質粒子は焼結時にNiで被覆されていることを特徴とする硬質粒子分散型鉄基焼結合金。
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