JP2009030541A - 内燃機関の点火時期制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ノッキング学習値をより好適に安定させることのできる内燃機関の点火時期制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置16は、ノッキング発生の有無に応じて常時更新されるノッキング補正値が所定値を超えたときにノッキング学習値を更新する。また、デポジットの付着が全く無いときの第1最遅角点火時期と、デポジットの付着が想定される最大量となったときの第2最遅角点火時期とを機関運転状態に基づいて算出し、第1最遅角点火時期及び第2最遅角点火時期の差である遅角幅とデポジットの付着度合に応じて変化するノッキングの発生頻度に対応して更新される比率との乗算値をデポジット学習値として設定し、このデポジット学習値に基づいて最遅角点火時期を補正する。そして、遅角幅が所定値以上になる機関運転状態でノッキング学習値が進角側に更新される場合、その進角側へのノッキング学習値の更新を禁止してデポジット学習値の更新のみを行う。
【選択図】図1

Description

この発明は、内燃機関の点火時期制御装置に関するものである。
一般に、内燃機関では、ノックセンサによってノッキングの発生状態を検出し、その検出結果に応じて点火時期を調整するノッキング制御が行われている。このノッキング制御では、ノッキングの発生頻度が高いときには点火時期を遅角させ、低いときには点火時期を進角させることで、ノッキングの発生を抑制するようにしている。
例えば、ノッキングの抑制及び機関出力の確保を両立しうる要求点火時期を設定する際には、次のような処理が行われる。まず、設定可能な最進角点火時期と最遅角点火時期とが機関運転状態に基づいて設定され、それら最進角点火時期と最遅角点火時期との差である最大遅角量が算出される。そして、ノッキング発生の有無に応じて常に更新されるノッキング補正値と、このノッキング補正値がある程度大きくなると更新される値であって点火時期の補正傾向が反映されるノッキング学習値とが上記最大遅角量から減算されることにより、現在のノッキング発生状態に応じた点火時期遅角量が算出される。そして、その点火時期遅角量の分だけ上記最進角点火時期を遅角した時期が要求点火時期として設定される。
ところで、内燃機関の吸気ポートや吸気バルブ、あるいはピストンなどには、未燃燃料やブローバイガス、潤滑油等に由来するデポジットが時間経過とともに次第に付着していく。こうしたデポジットの付着量が増大すると、燃焼室の実質的な容積が減少して燃焼時の筒内圧力が増大すること等に起因してノッキングは発生し易くなる。
こうしたデポジットの付着、いわば内燃機関の経年変化がノッキングの発生に与える影響を補償するために、特許文献1に記載の装置では、デポジットの付着度合に応じて変化するノッキングの発生頻度に対応して更新されるデポジット学習値に基づいて上記最遅角点火時期を補正するようにしている。
また、機関運転状態が低負荷状態のときには、高負荷状態のときと比較して、デポジットの付着に起因する最遅角点火時期の遅角要求は大きくなる傾向があるため、上記文献に記載の装置では、ノッキング学習値の更新量とデポジット学習値の更新量とを機関負荷に応じて変化させるようにしている。例えば、機関負荷が低くなるほど、ノッキング学習値の更新量よりもデポジット学習値の更新量の方が大きくなるようにしている。
特開2005−147112号公報
上記ノッキング学習値は、点火時期の補正傾向を示すものであり、その値は極力変動することなく安定していることが望ましい。こうしたノッキング学習値の安定化は、機関運転状態が種々変化してノッキング学習値が負荷領域全体に対応した平均的な値に収束することで行われる。
しかし、上記文献に記載の装置によるように、機関負荷が低くなるほど、ノッキング学習値の更新量よりもデポジット学習値の更新量の方が大きくなるようにする、即ち機関負荷が低くなるほどノッキング学習値の更新量が少なくなるようにすると、機関運転状態が高負荷状態から低負荷状態に変化したときのノッキング学習値の更新速度が遅くなる。そのため、ノッキング学習値が安定化するまでの時間は長くなってしまうといった不都合が発生するおそれがある。
この発明はこうした事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ノッキング学習値をより好適に安定させることのできる内燃機関の点火時期制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するための手段及びその作用効果について以下に記載する。
請求項1に記載の発明は、機関運転状態に基づいて最進角点火時期及び最遅角点火時期を算出するとともに、それら最進角点火時期及び最遅角点火時期の差である最大遅角量を算出し、ノッキング発生の有無に応じて常時更新されるノッキング補正値と、同ノッキング補正値が所定値を超えたときに更新されるノッキング学習値とを前記最大遅角量から減算して前記最進角点火時期からの点火時期遅角量を算出することで要求点火時期を設定する内燃機関の点火時期制御装置において、デポジットの付着度合に応じて更新されるデポジット学習値に基づいて前記最遅角点火時期を補正する最遅角点火時期補正手段と、デポジットの付着が全く無いときに対応する第1最遅角点火時期と、デポジットの付着が想定される最大量となったときに対応する第2最遅角点火時期とを機関運転状態に基づいてそれぞれ算出し、それら第1最遅角点火時期及び第2最遅角点火時期の差である遅角幅とデポジットの付着度合に応じて変化するノッキングの発生頻度に対応して更新される比率との乗算値を前記デポジット学習値として設定するデポジット学習値設定手段と、前記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態での前記ノッキング学習値及び前記デポジット学習値の更新態様を、前記ノッキング学習値の更新方向に応じて変更する変更手段とを備えることをその要旨とする。
同構成では、ノッキング発生の有無に応じて常時更新される上記ノッキング補正値が所定値を超えると上記ノッキング学習値は更新される。また、機関運転状態に基づいて算出される上記第1最遅角点火時期及び第2最遅角点火時期についてそれらの差である遅角幅とデポジットの付着度合に応じて変化するノッキングの発生頻度に対応して更新される比率とに基づいて上記デポジット学習値は更新される。
そして、上記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態、すなわちデポジットの付着に起因する最遅角点火時期の遅角要求が大きくなる低負荷状態等においては、ノッキング学習値が進角側に更新されるか遅角側に更新されるかに応じて、ノッキング学習値及びデポジット学習値の更新態様が変更される。
このように、上記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態では、ノッキング学習値の更新方向に応じて同ノッキング学習値及びデポジット学習値の更新態様が変更されることにより、そうした機関運転状態におけるノッキング学習値及びデポジット学習値の更新量をより適切に調整することができるようになり、これによりノッキング学習値をより好適に安定させることができるようになる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記変更手段は、前記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、前記ノッキング学習値が進角側に更新されるときには、その進角側へのノッキング学習値の更新を禁止して前記デポジット学習値の更新のみを行うことをその要旨とする。
同構成によれば、上記遅角幅が所定値未満となる機関運転状態においては、ノッキング学習値が更新される。一方、遅角幅が所定値以上となる機関運転状態に移行したときにあって、ノッキング学習値が進角側に更新されるときには、その進角側へのノッキング学習値の更新が禁止されることにより、同ノッキング学習値は、遅角幅が所定値未満となる機関運転状態において更新されたノッキング学習値のまま保持される。このように、遅角幅が所定値以上となる機関運転状態においてノッキング学習値が進角側に更新されるときにはその更新が禁止されることにより、ノッキング学習値は変動することなく安定するようになる。なお、遅角幅が所定値以上となる機関運転状態にあって、ノッキング学習値の更新が禁止されるときでも、デポジット学習値の更新は行われることにより、上記最遅角点火時期は、遅角幅が所定値以上となる機関運転状態に対応した時期に設定される。従って、ノッキング学習値の更新を禁止しても、適切な要求点火時期を設定することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記変更手段は、前記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、前記ノッキング学習値が遅角側に更新されるときには、その遅角側へのノッキング学習値の更新及び前記デポジット学習値の更新を行うとともに、ノッキング学習値の遅角側への更新量を、前記遅角幅が所定値未満になる機関運転状態における更新量よりも少なくすることをその要旨とする。
遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、ノッキング学習値が遅角側に更新されるときにも、その遅角側へのノッキング学習値の更新を禁止するようにすると、ノッキングが発生した場合、要求点火時期の遅角側への補正が、ノッキング補正値とデポジット学習値とによって行われることになる。ここで、ノッキング補正値が過度に大きくなると、点火時期のフィードバック補正が不安定になるため、通常、ノッキング補正値が所定値を超えると、予め設定された更新量にて同ノッキング補正値は更新される。従って、ノッキング補正値が取り得る値は、そうした所定値にて制限されることになり、同ノッキング補正値による点火時期の遅角には限界がある。また、デポジット学習値によって最大限まで遅角側に補正された最遅角点火時期は、上記第2最遅角点火時期であり、この第2最遅角点火時期を超えてさらに最遅角点火時期を遅角側に補正することはできない。そのため、デポジット学習値による点火時期の遅角にも限界がある。
そこで、同構成では、遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、ノッキング学習値が遅角側に更新されるときに、その遅角側へのノッキング学習値の更新を禁止するのではなく、許可するようにしている。そのため、ノッキングが発生しているときには、ノッキング補正値及びデポジット学習値に加え、さらにノッキング学習値による点火時期の遅角も行うことができるようになり、これによりノッキングの発生が適切に抑えることができるようになる。また、同構成では、遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、ノッキング学習値が遅角側に更新されるときには、そのノッキング学習値の遅角側への更新量を、上記遅角幅が所定値未満になる機関運転状態における更新量よりも少なくするようにしている。そのため、ノッキング学習値を更新するようにしても、その値の変動は比較的抑えられるようになり、当該ノッキング学習値の安定化を好適に図ることができるようになる。
他方、遅角幅が所定値未満になる機関運転状態においてノッキング学習値が進角側に大きくされていた場合、遅角幅が所定値以上になる機関運転状態に移行したときには、要求点火時期が上記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定されるおそれがあり、この場合にはノッキングが発生してしまう可能性がある。こうして発生したノッキングは、その後、上記ノッキング制御による要求点火時期の遅角補正によって抑制されるのであるが、その補正値が十分な量に達するまでは、ノッキングを十分に抑制することができない。特に、遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、ノッキング学習値が遅角側に更新されるときにはその更新量を少なくする場合には、要求点火時期の遅角側への変更速度が遅くなるため、ノッキングが抑制されるまでの時間はさらに長くなってしまう。こうした不都合の発生は、以下の発明によって抑えることができる。
まず、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、その算出された値に代えて、前記ノッキング補正値を前記点火時期遅角量として設定することをその要旨とする。
同構成によれば、点火時期遅角量として、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、そのときのノッキングの発生状態が速やかに反映されるノッキング補正値の分だけ最進角点火時期を遅角した時期が要求点火時期として設定される。そのため、要求点火時期は好適に、且つ速やかに遅角されるようになり、ノッキングの発生を速やかに抑えることができるようになる。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、その算出された値に代えて、前記ノッキング補正値を所定の分だけ遅角側に変更した値を前記点火時期遅角量として設定することをその要旨とする。
点火時期遅角量として、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、ノッキング補正値の分だけ最進角点火時期を遅角した時期を要求点火時期として設定するようにしても、その設定直後においては点火時期の遅角量が不足するおそれがある。この点、同構成によれば、ノッキング補正値をさらに所定の分だけ遅角側に変更した値の分だけ最進角点火時期を遅角した時期が要求点火時期として設定されることにより、そのように要求点火時期が設定された直後の点火時期の遅角量をさらに大きくすることができ、これより、ノッキングの発生をより速やかに抑えることができるようになる。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、前記最進角点火時期を遅角側に補正することをその要旨とする。
同構成によれば、点火時期遅角量として、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されるときには、最進角点火時期が遅角側に補正されることにより、要求点火時期は速やかに遅角されるようになり、ノッキングの発生が速やかに抑えられるようになる。
また、このように最進角点火時期を遅角側に補正する場合には、請求項7に記載の発明によるように、前記最進角点火時期の遅角側への補正値に基づき、前記最進角点火時期の設定マップを補正する、といった構成を採用することにより、機関運転状態が変化したときに、最進角点火時期を予め遅角側に補正しておくことができる。そのため、機関運転状態が変化したときのノッキングの発生を好適に抑えることができる。
また、そのように最進角点火時期を遅角側に補正する場合には、請求項8に記載の発明によるように、遅角側に補正された前記最進角点火時期と前記要求点火時期の差が所定値を超えたときには、前記デポジット学習値に基づいて補正される前記最遅角点火時期を前記差に基づいて遅角側に補正する、といった構成を採用することもできる。この場合には、遅角側に補正された最進角点火時期と現在設定されている要求点火時期の差が所定値を超えており、同最進角点火時期に対する点火時期遅角量が大きくなっているときには、最遅角点火時期がさらに遅角側に補正されることにより、ノッキングの発生をより確実に抑えることができる。また、機関運転状態が変化したときでも、最遅角点火時期を予め遅角側に補正しておくことができるため、この場合にも機関運転状態が変化したときのノッキングの発生を好適に抑えることができる。
請求項9に記載の発明は、請求項4〜8のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、前記ノッキング学習値の更新を禁止することをその要旨とする。
点火時期遅角量として、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときにあって、上記態様にて要求点火時期を強制的に遅角する場合には、そうした要求点火時期にて混合気の点火が行われるときのノッキングの発生態様は一時的なものであり、その発生態様に基づいてノッキング学習値が更新されてしまうと、同ノッキング学習値は誤って学習されてしまうおそれがある。この点、同構成によれば、点火時期遅角量として、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、換言すれば要求点火時期が強制的に遅角される場合には、ノッキング学習値の更新が禁止されるため、そうしたノッキング学習値の誤学習を抑えることができるようになる。
また、同構成を、請求項4や請求項5に記載の発明に適用する場合には、さらに次のような効果も得られる。すなわち、ノッキング学習値の更新が行われる場合には、ノッキング補正値が所定値を超えると、予め設定された更新量にて同ノッキング補正値は更新されるため、ノッキング補正値が取り得る値は、そうした所定値にて制限される。そのため、ノッキング補正値を点火時期遅角量として設定する請求項4や請求項5に記載の構成において、ノッキング学習値の更新が行われる場合には、その点火時期遅角量もある程度の大きさで制限されてしまい、要求点火時期の遅角量が不足してしまうといった不都合が発生するおそれがある。この点、同構成によれば、点火時期遅角量として、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、換言すれば要求点火時期が強制的に遅角される場合には、ノッキング学習値の更新が禁止されるため、要求点火時期の遅角量を十分に確保することができるようになる。
請求項10に記載の発明は、請求項4〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも遅角側の時期に設定されるように、前記点火時期遅角量を制限することをその要旨とする。
同構成によれば、要求点火時期が最進角点火時期よりも遅角側の時期に設定されるように点火時期遅角量が制限されるため、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定されるような点火時期遅角量が算出されたとしても、実際に要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定されることはなく、これにより要求点火時期の過度な進角によるノッキングの頻発は抑えられるようになる。
ここで、内燃機関の状態によっては、最進角点火時期においてノッキングが発生する可能性がある。そのため、点火時期遅角量が制限されることで、最進角点火時期が要求点火時期として設定された場合には、ノッキングが発生する可能性がある。この場合において、ノッキングが発生すると、ノッキング補正値やノッキング学習値などは遅角側に更新されるため、算出される点火時期遅角量も、徐々に遅角側の値に変化していく。しかし、その算出される点火時期遅角量が、要求点火時期を最進角点火時期よりも進角側の時期に設定する値となっている間は、実際の点火時期遅角量は制限されるため、実際の要求点火時期は最進角点火時期のままである。そのため、ノッキング補正値やノッキング学習値などの遅角側への更新が進行し、算出される点火時期遅角量が、要求点火時期を最進角点火時期よりも遅角側の時期に設定する値になるまでは、要求点火時期の遅角補正が行われないことになる。従って、この場合にも、点火時期遅角量の制限を行わない場合と同様な不都合が発生するおそれがある。
すなわち、上記遅角幅が所定値未満になる機関運転状態においてノッキング学習値が進角側に大きくされていた場合にあって、遅角幅が所定値以上になる機関運転状態に移行した移行した直後から、しばらくの間はノッキングが発生してしまう可能性があり、このときのノッキング学習値の遅角側への更新量が少なくされていると、ノッキングが抑制されるまでの時間が長くなってしまうといった不都合が発生するおそれがある。この点、同構成によれば、上記請求項4〜請求項9のいずれか1項の構成を備えることにより、こうした不都合の発生を抑えることができるようになる。
(第1実施形態)
以下、この発明にかかる内燃機関の点火時期制御装置を具体化した第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態が適用される内燃機関10の燃焼室13には、同燃焼室13に吸入された空気と燃料との混合気を点火させて燃焼させる点火プラグ14が設けられている。また内燃機関10のシリンダブロック11には、混合気の燃焼に伴うノッキングの発生状況を検出するノックセンサ15が設けられている。
この内燃機関10の運転に係る各種制御は、制御装置16により行われる。制御装置16は、各種制御を実行するCPU、同制御に必要な情報が記憶されるメモリ、外部から信号を入力するための入力ポート、外部に指令信号を出力するための出力ポート等を備えて構成されている。
制御装置16の入力ポートには、機関運転状態を検出するための各種センサが接続されている。例えば、上記ノックセンサ15、クランクシャフトの回転位相であるクランク角を検出するクランク角センサ17、スロットル開度TAを検出するスロットルセンサ19等がこの入力ポートに接続されている。そして、それらセンサの検出信号が、その入力ポートを通じて制御装置16に入力される。なお、クランク角センサ17の検出信号からは、機関回転速度NEが求められるようにもなっている。
一方、制御装置16の出力ポートには、上記点火プラグ14による混合気の点火に必要な高圧電流を発生させるイグナイタ14a等、機関制御に必要なアクチュエータ類の駆動回路が接続されている。制御装置16は、上記各センサの検出信号に基づき、それらアクチュエータ類を駆動制御して機関制御を行う。
以上のように構成される内燃機関10において、制御装置16は、上記ノックセンサ15によって検出されるノッキングの発生状況に応じて点火時期を調整する「ノッキング制御」を実行する。以下、本実施形態における「ノッキング制御」の概要を説明する。
本実施形態でのノッキング制御は、下記の如く、点火時期の制御指令値である要求点火時期afinを設定することで行われる。なお、ここでは点火時期を、点火対象となる気筒の圧縮上死点に対するクランク角の進角量[°CA]として表すようにしている。
(最大遅角量akmaxの算出)
要求点火時期afinの設定に際しては、まずはノッキング制御における要求点火時期afinの設定範囲の進角側の限界値である最進角点火時期absef、及びその遅角側の限界値である最遅角点火時期akmfが算出される。そして、それらに基づき、ノッキング制御中の最進角点火時期absefに対する要求点火時期afinの最大遅角量akmaxが算出される。
上記最進角点火時期absefは、MBT点ambt、及び第1ノック限界点aknok1に基づき算出される。具体的には、次式(1)に示すように、それらMBT点ambt、及び第1ノック限界点aknok1のうちで、より遅角側の値が、最進角点火時期absefとして設定される。

absef=min(ambt、aknok1) …(1)

ここでのMBT点ambtは、現状の機関運転条件において、最大トルクの得られる点火時期(最大トルク点火時期)を示している。また第1ノック限界点aknok1は、ノック限界の高い高オクタン価燃料の使用時に、想定される最良の条件下で、ノッキングを許容できるレベル以内に収めることのできる点火時期の進角限界値(ノック限界点火時期)を示している。それらMBT点ambt、及び第1ノック限界点aknok1は、現状の機関回転速度NEや機関負荷KL等に基づき、制御装置16のメモリに記憶された設定マップを参照して設定される。なお、本実施形態では、機関負荷KLを吸入空気量に基づいて算出するようにしているが、その他のパラメータ、例えば燃料噴射量や、スロットル開度、或いはアクセルペダルの操作量に基づいて算出するようにしてよい。
一方、最遅角点火時期akmfは、想定される最悪の条件下でも、十分にノッキングを許容できるレベル以内に収めることのできる点火時期の指標値としてその値が設定される。具体的には、次式(2)に示すように、第2ノック限界点aknok2に対して、デポジット学習値adepの分だけ遅角させた値が、最遅角点火時期akmfとして設定される。

akmf=aknok2−adep …(2)

第2ノック限界点aknok2は、ノック限界の低い低オクタン価燃料の使用時に、想定される最良の条件下で、例えば上述したデポジット付着が全く無いときにあって、ノッキングを許容できるレベル以内に収めることのできる点火時期の進角限界(ノック限界点火時期)を示している。なお、この第2ノック限界点aknok2についても、現状の機関回転速度NEや機関負荷KL等に基づき、制御装置16のメモリに記憶された設定マップを参照して設定される。また、同第2ノック限界点aknok2は、上記第1最遅角点火時期に対応する。
また、デポジット学習値adepは、現状の内燃機関10のデポジットの付着度合に応じた点火時期の遅角量を示す指標値となっている。具体的には、次式(3)に示すように、遅角幅DLAKNOKに比率学習値rgknkを乗算させた値が、デポジット学習値adepとして設定される。

adep=DLAKNOK×rgknk …(3)

遅角幅DLAKNOKは、デポジット付着の影響が最も顕著に現れる所定の機関運転条件において、想定される最大量のデポジットが付着した状態でのデポジット付着の影響による要求点火時期afinの遅角量を示す値であり、より詳細には、デポジット付着の影響による最遅角点火時期akmfの遅角量を示す値である。そして、この遅角幅DLAKNOKは、次式(4)に示すように、上記第2ノック限界点aknok2から第3ノック限界点aknok3を減算することで算出される。

DLAKNOK=aknok2−aknok3 …(4)

第3ノック限界点aknok3は、ノック限界の低い低オクタン価燃料の使用時に、想定される最悪の条件下で、例えば上述したデポジット付着が想定される最大量に達しているときにあって、ノッキングを許容できるレベル以内に収めることのできる点火時期の進角限界(ノック限界点火時期)を示している。なお、この第3ノック限界点aknok3についても、現状の機関回転速度NEや機関負荷KL等を考慮してその値が設定される。また、同第3ノック限界点aknok3は、上記第2最遅角点火時期に対応する。
また、上記比率学習値rgknkは、内燃機関10へのデポジットの付着度合いを示す指標値としてその値が設定されている。ここでは、デポジットの付着が完全に無い状態を値「0」とし、デポジットの付着量が想定される最大値となった状態を値「1」として、デポジットの付着度合いを比率学習値rgknkの値で表すようにしている。
この比率学習値rgknkは、デポジットの付着が無い工場出荷時に、初期値としてその値が「0」に設定されている。その後、比率学習値rgknkの値は、「0」以上、「1」以下の範囲内で、ノックセンサ15により検出されるノッキングの発生頻度に応じて徐々に増減される。具体的には、ノッキングの発生頻度が増大すれば比率学習値rgknkの値は徐々に増大され、ノッキングの発生頻度が低下すればその値は徐々に減少される。この比率学習値rgknkの更新態様の詳細については後述する。
そして、更新された比率学習値rgknkの値は、制御装置16のバックアップメモリに記憶され、機関停止中もその値が保持される。なお、この比率学習値rgknkは、デポジットの付着度合に応じて変化するノッキングの発生頻度に対応して更新される上記比率に対応する。
また、この比率学習値rgknkはノッキングの発生頻度に応じて更新されることにより、同比率学習値rgknkと上記遅角幅DLAKNOKとを乗算して得られる上記ノッキング学習値も、デポジットの付着度合に応じて更新されることになる。
そして以上のように算出された最進角点火時期absef、及び最遅角点火時期akmfから、次式(5)に基づいて、上記最大遅角量akmaxが算出される。

akmax=absef−akmf …(5)

(要求点火時期afinの算出)
要求点火時期afinの算出は、上記最進角点火時期absefに対する要求点火時期afinの遅角量である点火時期遅角量aknkを求めることで行われる。点火時期遅角量aknkは、次式(6)に示すように、上記最大遅角量akmax、KCS学習値agknk、及びKCSフィードバック補正値akcsに基づきその値が設定される。

aknk=akmax−agknk+akcs …(6)

そして、次式(7)や図2に示すように、最進角点火時期absefから上記求められた点火時期遅角量aknkを減算して要求点火時期afinが設定される。すなわち、要求点火時期afinは、次式(8)や先の図2に示すように、第2ノック限界点aknok2がデポジット学習値adepの分だけ遅角されることで設定される最遅角点火時期akmfに対して、KCS学習値agknkの分だけ進角され、KCSフィードバック補正値akcsの分だけ遅角された値となる。なお、算出される要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期にならないように、点火時期遅角量aknkの値には制限がかけられる。例えば、式(7)に基づいて要求点火時期afinを算出する場合、点火時期遅角量aknkは、「0」以上の値となるように制限される。従って、式(6)に基づいて算出された点火時期遅角量aknkが負の値となったときには、その値が「0」に設定される。

afin=absef−aknk …(7)
afin=akmf+agknk−akcs …(8)

上記KCSフィードバック補正値akcsは、上記ノックセンサ15により検出されるノッキングの発生状況に応じてその値が設定される。具体的には、検出されたノッキングのレベルが所定の判定値未満で、ノッキングが十分許容できるレベル以下に収まっていると判断されたときには、KCSフィードバック補正値akcsの値は徐々に減少される。また検出されたノッキングのレベルが上記判定値以上であるときには、KCSフィードバック補正値akcsの値は所定値だけ増加される。なお、このKCSフィードバック補正値akcsは、上記ノッキング補正値に相当する。
一方、上記KCS学習値agknkは、KCSフィードバック補正値akcsの絶対値が所定値よりも大きい状態(|akcs|>A)が所定時間以上継続したときに、該KCSフィードバック補正値akcsの絶対値を徐々に縮小するようにその値が更新される。すなわち、KCSフィードバック補正値akcsが正の値[A]よりも大きい状態(akcs>A)が継続したときには、KCS学習値agknkの値から所定値Bが減算される。また、これとともにKCSフィードバック補正値akcsの値からも同じく所定値Bが減算される。一方、KCSフィードバック補正値akcsが負の値[−A]よりも小さい状態(akcs<−A)が継続したときには、KCS学習値agknkの値、及びKCSフィードバック補正値akcsの値にそれぞれ所定値Bが加算される。このKCS学習値agknkの更新態様の詳細についても後述する。
そして、更新されたKCS学習値agknkの値も、制御装置16のバックアップメモリに記憶され、機関停止中もその値は保持される。なお、このKCS学習値agknkは、上記ノッキング学習値に相当する。
以上のようなノッキング制御により、要求点火時期afinは、許容されるレベル以上のノッキングが発生されない範囲内において、より大きいトルクが得られる、より進角側の値に設定される。
(KCS学習値及び比率学習値の更新)
上記ノッキング制御では、学習値として、デポジット付着の影響による点火時期の変化分を反映する比率学習値rgknkと、それ以外の要因による点火時期の変化分を反映するKCS学習値agknkとの2つの学習値を用いており、これら各学習値は次のようにして更新される。
本実施形態では、ノッキングの発生状況に応じてKCSフィードバック補正値akcsの0からの乖離量が大きい状態(akcs<−A、又はakcs>A)であれば、上記両学習値の更新を行うようにしている。そしてその乖離量に応じて学習更新量tdlを求めるようにしている。学習更新量tdlとは、KCS学習値agknkの更新によるKCSフィードバック起点(akcs=0のときの要求点火時期afin)の更新量と、比率学習値rgknkの更新によるKCSフィードバック起点の更新量との和を示す。すなわち、この学習更新量tdlとは、要求されるKCSフィードバック起点の更新量の総量のことである。
例えば、図3に示すように、ノッキングの発生により、KCSフィードバック補正値akcsが上記正の値[A]を超えると[(A)の状態]、KCS学習値agknkは更新量Δagknkの分だけ遅角側に小さくされることにより、KCSフィードバック起点akcsbpも更新量Δagknkの分だけ遅角側に変化する[(B)の状態]。また、ノッキングの発生により、比率学習値rgknkが更新量Δrgknkの分だけ更新され、その結果、デポジット学習値adepが更新量Δadepの分だけ遅角側に大きくされると、KCSフィードバック起点akcsbpも更新量Δadepの分だけ遅角側に変化する[(C)の状態]。このように、ノッキングの発生により更新されたKCS学習値agknkの更新量Δagknkと、デポジット学習値adepの更新量Δadepの和が、学習更新量tdlとなる。
KCS学習値agknk及びデポジット学習値adepの更新は、上記学習更新量tdlが、KCS学習値agknk側への反映分と比率学習値rgknk側への反映分とに分配されることによって行われる。このときの両学習値に対する更新量の分配割合は、機関負荷KLに応じて決定される。
図4に示すように、第2ノック限界点aknok2と第3ノック限界点aknok3との差である遅角幅DLAKNOKは、低負荷領域において大きくなる傾向がある。すなわち、機関運転状態が低負荷状態のときには、高負荷状態のときと比較して、デポジットの付着に起因する最遅角点火時期akmfの遅角要求が大きくなる傾向がある。換言すれば、低負荷領域では、デポジット付着の影響以外の要因によってノッキングが発生する可能性は低いと考えられることから、上記分配に際しての比率学習値rgknk側への反映分(分配割合)は大きくされると共に、その分、KCS学習値agknk側への反映分(分配割合)は小さくされる。一方、機関負荷KLが高くなれば、デポジット付着の影響以外の要因によってノッキングが発生する可能性は高くなる。よって機関負荷KLの増加に応じて、比率学習値rgknk側への反映分は小さくされると共に、その分、KCS学習値agknk側への反映分は大きくされる。
本実施形態では、こうした学習更新量tdlの分配割合を、分配率tkで表すようにしている。分配率tkは、学習更新量tdlに対するそのKCS学習値agknk側への反映分の比率を示している。この分配率tkは0から1までの値を取り、機関運転状態が低負荷状態のときには、分配率tkは小さい値に設定され、機関負荷KLが高くなるほどその値は1に近い値に増大される。そして設定された分配率tkに基づき、次式(9)及び次式(10)に従って、KCS学習値agknkの更新量Δagknk及び比率学習値rgknkの更新量Δrgknkが算出される。なお、KCS学習値agknkの更新量Δagknkは、上記所定値Bに相当する値である。

Δagknk=tk × tdl …(9)
Δrgknk=(1−tk)×(−tdl)÷DLAKNOK …(10)

ところで、KCS学習値agknkは、点火時期の補正傾向を示すものであり、その値が大きく変動すると、KCSフィードバック補正値akcsも変動してしまい、点火時期のフィードバック制御が不安定になってしまう。そのため、KCS学習値agknkは、極力変動することなく安定していることが望ましい。こうしたKCS学習値agknkの安定化は、機関運転状態が種々変化して同KCS学習値agknkが負荷領域全体に対応した平均的な値に収束することで行われる。
ここで、上述したように、機関負荷KLが低くなるほどKCS学習値agknkの更新量Δagknkが小さくなるようにすると、機関運転状態が高負荷状態から低負荷状態に変化したときのKCS学習値agknkの更新速度は遅くなる。そのため、KCS学習値agknkが安定化するまでの時間が長くなってしまうといった不都合が発生するおそれがある。
そこで、本実施形態では、上記遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態でのKCS学習値agknk及び比率学習値rgknkの更新態様を、KCS学習値agknkの更新方向に応じて変更するようにしている。即ち、デポジットの付着に起因する最遅角点火時期akmfの遅角要求が大きくなる低負荷領域でのKCS学習値agknk及び比率学習値rgknkの更新態様を、KCS学習値agknkが進角側に更新されるか遅角側に更新されるかに応じて変更するようにしている。そして、このようにKCS学習値agknk及びデポジット学習値adepの更新態様を変更することにより、そうした機関運転状態におけるKCS学習値agknk及びデポジット学習値adepの更新量をより適切に調整して、KCS学習値agknkをより適切に安定させるようにしている。
より具体的には、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが進角側に更新されるときには、その進角側へのKCS学習値agknkの更新を禁止してデポジット学習値adepの更新のみを行うようにしている。これは、KCSフィードバック補正値akcsについて、上記負の値[−A]よりも小さい状態(akcs<−A)が継続しており、その結果、KCS学習値agknkが進角側に更新される状況においては、上記分配率tkを「0」に設定することにより実施される。このように分配率tkが「0」に設定されると、KCS学習値agknkの更新量Δagknkは「0」になるため、同KCS学習値agknkの進角側への更新は実質的に禁止され、学習更新量tdlの全てが、比率学習値rgknkの更新量Δrgknkに反映されることにより、デポジット学習値adepの更新のみが行われる。
こうした処理を行うことにより、まず、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満となる機関運転状態においては、KCS学習値agknkは更新される。一方、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上となる機関運転状態に移行したときにあって、KCS学習値agknkが進角側に更新されるときには、その進角側へのKCS学習値agknkの更新が禁止される。このようにKCS学習値agknkの更新が禁止されると、同KCS学習値agknkは、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満となる機関運転状態において更新されたKCS学習値agknkのまま保持される。このように、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上となる機関運転状態においてKCS学習値agknkが進角側に更新されるときにはその更新が禁止されることにより、KCS学習値agknkは変動することなく安定するようになる。また、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上となる機関運転状態にあって、KCS学習値agknkの更新が禁止されるときでも、デポジット学習値adepの更新は行われることにより、上記最遅角点火時期akmfは、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上となる機関運転状態に対応した時期に設定される。従って、KCS学習値agknkの更新を禁止したとしても、適切な要求点火時期afinが設定される。
一方、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときには、その遅角側へのKCS学習値agknkの更新及びデポジット学習値adepの更新を行う。そしてその更新に際しては、KCS学習値agknkの遅角側への更新量Δagknkを、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満になる機関運転状態での更新量Δagknkよりも少なくするようにしている。これは、KCSフィードバック補正値akcsについて、上記正の値[A]よりも大きい状態(akcs>A)が継続しており、その結果、KCS学習値agknkが遅角側に更新される状況においては、上述したように分配率tkを機関負荷KLに基づいて設定することにより実施される。例えば低負荷状態のときように、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態においては、高負荷状態のときのように遅角幅DLAKNOKが所定値C未満になる機関運転状態のときよりも、分配率tkは小さくされる。これにより、遅角側へのKCS学習値agknkの更新及びデポジット学習値adepの更新が行われるとともに、KCS学習値agknkの遅角側への更新量Δagknkは、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満になる機関運転状態での更新量Δagknkよりも少なくされる。KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときには、こうした処理を行うことにより、次の効果が得られる。
まず、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときにも、進角側への更新と同様に、その遅角側へのKCS学習値agknkの更新を禁止するようにした場合、次のようになる。すなわち、ノッキングが発生した場合の要求点火時期afinの遅角側への補正は、KCSフィードバック補正値akcsとデポジット学習値adepとによって行われることになる。
ここで、KCSフィードバック補正値akcsが過度に大きくなると、点火時期のフィードバック補正が不安定になる。こうした理由により、上述したように、KCSフィードバック補正値akcsが正の値[A]よりも大きくなったり、負の値[−A]よりも小さくなったりすると、上記所定値Bにて同KCSフィードバック補正値akcsは更新される。従って、KCSフィードバック補正値akcsが取り得る値は、そうした正の値[A]や負の値[−A]にて制限されることになり、同KCSフィードバック補正値akcsによる点火時期の遅角には限界がある。
また、デポジット学習値adepによって最大限まで遅角側に補正された最遅角点火時期akmfは、上記第3ノック限界点aknok3であり、この第3ノック限界点aknok3を超えてさらに最遅角点火時期akmfを遅角側に補正することはできない。そのため、デポジット学習値adepによる点火時期の遅角にも限界がある。
この点、KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときに、その遅角側へのKCS学習値agknkの更新を禁止するのではなく、許可するようにすれば、ノッキングの発生時において、KCSフィードバック補正値akcs及びデポジット学習値adepのみならず、KCS学習値agknkによっても点火時期の遅角が行われるようになる。従って、ノッキングの発生が適切に抑えられるようになる。また、KCS学習値agknkの遅角側への更新量は、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満になる機関運転状態での更新量よりも少なくされるため、そのようにKCS学習値agknkを更新するようにしても、その値の変動は比較的抑えられるようになり、当該KCS学習値agknkは適切に安定化される。
図5に、上述した学習値の更新処理についてその処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置16によって、所定周期毎に繰り返し実行される。また、本実施形態では、KCS学習値agknk及び比率学習値rgknkを、機関回転速度NEによって区分けされた複数の領域において、それぞれ個別に算出するようにしている。以下の説明では、そうした学習領域を1、2・・・nの番号で区別し、各学習領域のKCS学習値agknk及び比率学習値rgknkをそれぞれagknk[i]、rgknk[i](iは、該当する学習領域の番号)で表すものとする。
本処理が開始されると、まず、KCS学習値agknk及び比率学習値rgknkの更新条件が成立しているか否かの判定が行われる(S100)。ここでは、例えば、以下の各条件がすべて成立しているときに、更新条件は成立していると判定される。
・機関回転速度NEが所定の範囲内であり、極端な低回転又は高回転速度域でない。
・急加減速等の過渡運転状態が終了した後、所定時間以上が経過しており、機関運転状態が不安定な状態でない。
・内燃機関10の暖機が完了している。
・機関負荷が所定値以上で、極端な低負荷領域ではない。
そして、更新条件が不成立である場合には(S100:NO)、本処理は、一旦終了される。一方、更新条件が成立している場合には(S100:YES)、ステップS110以降の処理が行われることにより、学習更新量tdlの算出が行われる。
(学習更新量tdlの算出)
ステップS110では、KCS学習値agknkが進角側に更新される状況にあるか否かが判定される。ここでは、KCSフィードバック補正値akcsが上記負の値[−A]未満であるときに、KCS学習値agknkが進角側に更新される状況にあると判定される。そして、ステップS110にて肯定判定される場合には、KCSフィードバック起点akcsbpが遅角側に修正されるように、学習更新量tdlが算出される。具体的には、現状のKCSフィードバック補正値akcsに上記値Aを加算したものが学習更新量tdlとして設定される(S120)。
一方、ステップS110にて否定判定される場合には、KCS学習値agknkが遅角側に更新される状況にあるか否かが判定される(S130)。ここでは、KCSフィードバック補正値akcsが、上記正の値[A]を超えているときに、KCS学習値agknkが遅角側に更新される状況にあると判定される。そして、ステップS130にて肯定判定されるときには、KCSフィードバック起点akcsbpが進角側に修正されるように、学習更新量tdlが算出される。具体的には、上記学習領域毎に設定された所定値TDL[i](iは、学習領域の番号)が学習更新量tdlとして設定される(S140)。
なお、ステップS130にて否定判定される場合には、本処理は一旦終了される。
(分配率tkの算出)
以上のようにして学習更新量tdlが設定されると、次に、ステップS150以降の処理が行われることにより、上記分配率tkの算出が行われる。
ステップS150では、現在の機関運転状態において、上記式(4)から求められる遅角幅DLAKNOKが所定値C以上であるか否かが判定される。そして、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満である場合には(S150:NO)、機関負荷KLに基づいて分配率tkが算出される(S190)。
一方、遅角幅DLAKNOKが所定値以上である場合には(S150:YES)、KCS学習値agknkが進角側に更新される状況にあるか否かが判定される(S160)。ここでは、先のステップS110での判定結果が流用される。そして、KCS学習値agknkが進角側に更新される状況にある場合には(S160:YES)、分配率tkとして「0」が設定される(S170)。
一方、ステップS160にて否定判定される場合には、KCS学習値agknkが遅角側に更新される状況にあるか否かが判定される(S180)。ここでは、先のステップS130での判定結果が流用される。そして、KCS学習値agknkが遅角側に更新される状況にある場合には(S180:YES)、機関負荷KLに基づいて分配率tkが算出される(S190)。なお、ステップS180にて否定判定される場合には、本処理は一旦終了される。
(学習値の更新)
以上により、学習更新量tdl及び分配率tkが設定されると、ステップS200の処理が行われることにより、KCS学習値agknk及びデポジット学習値adepの更新が行われる。ここでは、KCS学習値agknk及び比率学習値rgknkに対して、分配率tkに応じた学習更新量tdlが分配される。
KCS学習値agknkの更新は、上記式(9)にて求められた更新量ΔagknkがそれまでのKCS学習値agknkに加算されることで行われる(agknk[i]←agknk[i]+Δagknk)。また、デポジット学習値adepの更新は、上記式(10)にて求められた更新量Δrgknkがそれまでの比率学習値rgknkに加算され(rgknk[i]←rgknk[i]+Δrgknk)、その加算された比率学習値rgknkが遅角幅DLAKNOKに乗算される(上記式(3)を参照)ことによって行われる。
以上説明したように、本実施形態によれば、従来の装置に比べて、次のような効果を得ることができる。
(1)遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態においては、KCS学習値agknkの更新方向に応じて、即ち進角側に更新されるか遅角側に更新されるかに応じて、同KCS学習値agknk及びデポジット学習値adepの更新態様を変更するようにしている。そのため、そうした機関運転状態におけるKCS学習値agknk及びデポジット学習値adepの更新量をより適切に調整することができるようになり、これによりKCS学習値agknkをより好適に安定させることができるようになる。
(2)遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが進角側に更新されるときには、その進角側へのKCS学習値agknkの更新を禁止してデポジット学習値adepの更新のみを行うようにしている。そのため、KCS学習値agknkは変動することなく安定するようになる。また、KCS学習値agknkの更新が禁止されるときでも、デポジット学習値adepの更新は行うようにしているため、そうしたKCS学習値agknkの更新を禁止する場合でも、要求点火時期afinを適切に設定することができる。
(3)遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときには、その遅角側へのKCS学習値agknkの更新及びデポジット学習値adepの更新を行うようにしている。そのため、ノッキングが発生しているときには、KCSフィードバック補正値akcs及びデポジット学習値adepに加え、さらにKCS学習値agknkによる点火時期の遅角も行うことができるようになり、これによりノッキングの発生が適切に抑えることができるようになる。また、KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときの更新量Δagknkは、遅角幅DLAKNOKが所定値C未満になる機関運転状態での更新量Δagknkよりも少なくなるようにしている。そのため、KCS学習値agknkを更新するようにしても、その値の変動は比較的抑えられるようになり、当該KCS学習値agknkの安定化を好適に図ることができるようになる。
(第2実施形態)
次に、本発明にかかる内燃機関の点火時期制御装置を具体化した第2実施形態について、図6及び図7を参照して説明する。
遅角幅DLAKNOKが所定値C未満になる機関運転状態においてKCS学習値agknkが進角側に大きくされていた場合、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態に移行したときには、図6に示すように、要求点火時期afinが上記最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定されてしまうおそれがある。しかし、実際には、上述したように点火時期遅角量aknkの値には制限がかけられており、その値は常に「0」以上となるようになっている。従って、要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定される場合、即ち上記式(6)に基づいて算出された点火時期遅角量aknkが負の値になるときには、点火時期遅角量aknkの値が強制的に「0」にされる。これにより、要求点火時期afinは最進角点火時期absefと同一の値になり、同要求点火時期afinの過度な進角は抑えられる。
ここで、最進角点火時期absefは、ノック限界の高い高オクタン価燃料の使用時に、想定される最良の条件下で、ノッキングを許容できるレベル以内に収めることのできる点火時期の進角限界値が設定されることがある。そのため、内燃機関の状態がその最良の条件から外れた状態となっているときの最進角点火時期absefが要求点火時期afinとして設定されてしまうと、ノッキングが発生する可能性がある。この場合において、ノッキングが発生すると、KCSフィードバック補正値akcsやKCS学習値agknkなどは遅角側に更新されるため、上記式(6)に基づいて算出される点火時期遅角量aknkは、徐々に負の値から正の値に変化していく。しかし、少なくとも負の値になっている間は、点火時期遅角量aknkとして「0」が設定されるため、実際の要求点火時期afinは、最進角点火時期absefのままである。そのため、KCSフィードバック補正値akcsやKCS学習値agknkなどの遅角側への更新が進行して、点火時期遅角量aknkが正の値になるまでは、要求点火時期afinの遅角補正が行われないことになる。そのため、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態に移行した直後から、しばらくの間はノッキングが発生してしまう可能性がある。
ここで、第1実施形態によるように、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが遅角側に更新されるときにはその更新量を少なくすると、点火時期遅角量aknkの変更速度が遅くなる。そのため、この場合には、ノッキングが抑制されるまでの時間はさらに長くなってしまう。
そこで、本実施形態では、図7に示す点火時期遅角処理を行うことにより、そうした不都合の発生を抑えるようにしている。なお、この点火時期遅角処理も、制御装置16によって繰り返し行われる。
この点火時期遅角処理が開始されると、まず、上記式(6)に基づいて算出される点火時期遅角量aknkが「0」以上であるか否かが判定される(S300)。そして、点火時期遅角量aknkが「0」以上である場合には(S300:YES)、現在算出されている点火時期遅角量aknk(式(6)で算出された値)に基づいて要求点火時期afinが設定され(S310)、本処理は一旦終了される。
一方、点火時期遅角量aknkが「0」未満である場合には(S300:NO)、現在算出されている点火時期遅角量aknkに基づいて要求点火時期afinを設定すると、その設定される要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定されてしまう。そこで、現在のKCSフィードバック補正値akcs、及びKCSフィードバック補正値akcsの初期値akcsdに基づき、次式(11)から第2点火時期遅角量aknk2が設定され(S320)、この第2点火時期遅角量aknk2に基づいて要求点火時期afinが設定される(S330)。

aknk2=akcs−akcsd …(11)

上記第2点火時期遅角量aknk2を用いて設定される要求点火時期afinは、最進角点火時期absefを、KCSフィードバック補正値akcsと初期値akcsdの分だけ遅角した時期となるように強制的に遅角される。このように、点火時期遅角量aknkとして、要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、その算出された点火時期遅角量aknkに代えて、上記第2点火時期遅角量aknk2が新たな点火時期遅角量として設定される。従って、そのときのノッキングの発生状態が速やかに反映されるKCSフィードバック補正値akcsの分だけ最進角点火時期absefを遅角した時期が要求点火時期afinとして設定される。そのため、要求点火時期afinは適切に、且つ速やかに遅角されるようになり、ノッキングの発生を速やかに抑えることができる。
ここで、上述したように、KCSフィードバック補正値akcsは、上記正の値[A]や負の値[−A]にて制限されており、その値は過度に大きくならないようにされている。そのため、KCSフィードバック補正値akcsの分だけ最進角点火時期absefを遅角した時期を要求点火時期afinとして設定するようにしても、その設定直後においては点火時期の遅角量が不足するおそれがある。この点、本実施形態では、KCSフィードバック補正値akcsをさらに所定の分(本実施形態ではKCSフィードバック補正値akcsの初期値akcsdの分)だけ遅角側に変更した値をもって最進角点火時期absefを遅角した時期が要求点火時期afinとして設定される。従って、要求点火時期afinが設定された直後の点火時期の遅角量をさらに大きくすることができ、ノッキングの発生をより速やかに抑えることができる。
次に、ステップS330にて要求点火時期afinの設定が行われると、KCS学習値agknkの更新が禁止されて(S340)、本処理は一旦終了される。
ステップS340でKCS学習値agknkの更新を禁止するのは、次の理由による。
すなわち、KCS学習値agknkの更新が行われるようにしてしまうと、上述したように、KCSフィードバック補正値akcsが上記正の値[A]よりも大きくなったり、上記負の値[−A]よりも小さくなったりした場合に、上記所定値Bにて同KCSフィードバック補正値akcsは更新されてしまい、その値は制限されてしまう。そのため、第2点火時期遅角量aknk2もある程度の大きさで制限されてしまい、要求点火時期afinの遅角量が不足してしまうといった不都合が発生するおそれがある。
また、要求点火時期afinは、本来、上記式(6)に基づいて算出された点火時期遅角量aknkを用いて設定されるのであるが、その点火時期遅角量aknkが「0」未満のときには、上述したような不都合の発生が懸念されるため、一時的に上記式(11)に基づいて算出された第2点火時期遅角量aknk2が用いられる。従って、一時的に使用される第2点火時期遅角量aknk2で設定された要求点火時期afinにて混合気の点火が行われるときのノッキングの発生態様も一時的なものであり、そうした発生態様に基づいてKCS学習値agknkが更新されると、同KCS学習値agknkが誤って学習されるといった不都合が発生してしまう。
そこで、ステップS320の処理を通じて点火時期遅角量aknk2が設定されたときには、換言すれば、点火時期遅角量aknkとして、要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、ステップS340にてKCS学習値agknkの更新が禁止される。このようにKCS学習値agknkの更新が禁止されることにより、要求点火時期afinの遅角量は十分に確保されると共に、KCS学習値agknkの誤学習が抑えられる。
上述した点火時期遅角処理を実行する本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(4)点火時期遅角量aknkとして、要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、KCSフィードバック補正値akcsを第2点火時期遅角量aknk2として設定するようにしている。そのため、要求点火時期afinは適切に、且つ速やかに遅角されるようになり、ノッキングの発生を速やかに抑えることができるようになる。
(5)第2点火時期遅角量aknk2の設定に際しては、KCSフィードバック補正値akcsをさらに所定の分(本実施形態ではKCSフィードバック補正値akcsの初期値akcsdの分)だけ遅角側に変更した値を、同第2点火時期遅角量aknk2として設定するようにしている。従って、要求点火時期afinが設定された直後の点火時期の遅角量をさらに大きくすることができ、ノッキングの発生をより速やかに抑えることができるようになる。
(6)点火時期遅角量aknkとして、要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、KCS学習値agknkの更新を禁止するようにしている。従って、要求点火時期afinの遅角量を十分に確保することができると共に、KCS学習値agknkの誤学習も抑えられるようになる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・第1実施形態では、機関回転速度によって区分けされた学習領域毎に、それぞれ個別に比率学習値rgknk及びKCS学習値agknkを求めるようにしていたが、そうした学習領域を更に機関負荷によって区分けする等、その区分け態様は適宜変更してもよい。またそうした学習領域の区分けを行わず、すべての機関運転領域で共通の比率学習値rgknk及びKCS学習値agknkを使用するようにしてもよい。
・ステップS100における学習値の更新条件は、上記実施形態で例示したもの以外に適宜変更してもよい。
・機関負荷KLに応じて分配率tkを可変設定するようにしたが、分配率tkの設定態様は適宜変更してもよい。例えば、機関負荷KLに加えて機関回転速度NEにも基づいて分配率tkを求めるようにしてもよい。
・学習更新量tdlの設定態様も、上記実施形態に例示した態様から適宜変更してもよい。
・第2実施形態で説明した上記点火時期遅角処理では、KCSフィードバック補正値akcsをさらに所定の分だけ遅角した値を算出する際に、その所定の分として、KCSフィードバック補正値akcsの初期値akcsdを適用するようにしたが、その他の値に変更するようにしてもよい。
・第2実施形態では、点火時期遅角量aknkを制限する場合について説明したが、制限しない場合でも、上記点火時期遅角処理を適用することができる。すなわち、点火時期遅角量aknkを制限しない場合にあって、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態に移行した直後に、要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定されたときには、要求点火時期afinは次のように変化する。すなわちノッキングが発生すると、KCSフィードバック補正値akcsやKCS学習値agknkなどは徐々に遅角側に更新されていくことにより、要求点火時期afinは徐々に遅角されていき、最終的にはノッキングの発生が抑えられる。しかし、この場合においても、第1実施形態によるように、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態において、KCS学習値agknkが進角側に更新されるときにはその更新を禁止したり、遅角側に更新されるときにはその更新量を少なくしたりすると、点火時期遅角量aknkの変更速度が遅くなる。そのため、ノッキングが抑制されるまでの時間は長くなってしまう。従って、遅角幅DLAKNOKが所定値C以上になる機関運転状態に移行した直後から、しばらくの間はノッキングが発生してしまう可能性がある。そこで、点火時期遅角量aknkを制限しない場合でも、上述した点火時期遅角処理は行うことにより、ノッキングの発生を速やかに抑えることができるようになる。
・第2実施形態では、点火時期遅角量aknkが「0」未満のときには、上記式(6)にて算出される点火時期遅角量aknkに代えて、上記式(11)にて算出される第2点火時期遅角量aknk2にて最進角点火時期absefを遅角した時期を、要求点火時期afinとして設定するようにした。しかし、この他の態様で要求点火時期afinを遅角側に補正するようにしてもよい。
例えば、機関運転状態に基づいて算出される最進角点火時期absef自体を遅角側に補正して、その補正された最進角点火時期absefと点火時期遅角量aknkとに基づいて要求点火時期afinを設定するようにしてもよい。図8に、この変形例にかかる点火時期遅角処理の処理手順についてその一例を示す。この点火時期遅角処理が開始されると、まず、上記式(6)に基づいて算出される点火時期遅角量aknkが「0」以上であるか否かが判定される(S400)。そして、点火時期遅角量aknkが「0」以上である場合には(S400:YES)、現在算出されている最進角点火時期absefと点火時期遅角量aknkとに基づいて要求点火時期afinが設定され(S410)、本処理は一旦終了される。
一方、点火時期遅角量aknkが「0」未満である場合には(S400:NO)、現在算出されている点火時期遅角量aknkに基づいて要求点火時期afinを設定すると、その設定される要求点火時期afinが最進角点火時期absefよりも進角側の時期に設定されてしまう。そこで、現在設定されている最進角点火時期absefが適宜設定された補正値Eにて遅角側に補正される(S420)。
そして、この補正された最進角点火時期absefと点火時期遅角量aknkとに基づいて要求点火時期afinが設定される(S430)。
次に、ステップS430にて要求点火時期afinの設定が行われると、KCS学習値agknkの更新が禁止されて(S440)、本処理は一旦終了される。
こうした変形例においても、要求点火時期afinは速やかに遅角されるようになり、ノッキングの発生が速やかに抑えられるようになる。
・また、そのようにして最進角点火時期absef自体を遅角側に補正する場合には、その遅角側への補正値に基づき、同最進角点火時期absefを設定する上記設定マップを遅角側に補正するようにしてもよい。例えば、図9に示すように、先の図8におけるステップS440の処理に続いて、最進角点火時期absefの設定マップを上記補正値Eにて遅角側に補正する処理を行うようにしてもよい(S500)。こうした変形例によれば、機関運転状態が変化したときに設定される最進角点火時期absefを予め遅角側に補正しておくことができる。そのため、機関運転状態が変化したときのノッキングの発生を好適に抑えることができるようになる。
・また、そのようにして最進角点火時期absef自体を遅角側に補正する場合には、次のような処理を行うようにしてもよい。すなわち、遅角側に補正された最進角点火時期absefと現在設定されている要求点火時期afinとの差ΔFが所定値Gを超えたときには、デポジット学習値adepに基づいて補正された最遅角点火時期akmfを、その差ΔFに基づいて遅角側に補正するようにしてもよい。例えば、図10に示すように、先の図8におけるステップS440の処理に続いて、次の処理を行うようにしてもよい。
即ち、ステップS440の処理が行われた後、補正値Eにて補正された最進角点火時期absefと現在算出されている要求点火時期afinとの差ΔFを算出する(S600)。そして、差ΔFが所定値G以上であるか否かが判定される(S610)。そして、差ΔFが所定値G未満である場合には(S610:NO)、本処理は一旦終了される。一方、差ΔFが所定値G以上であり、最進角点火時期absefに対する点火時期遅角量aknkが大きくなっていると判断できる場合には(S610:YES)、その差Fの分だけ上記最遅角点火時期akmfがさらに遅角側に補正されて(S610)、本処理は一旦終了される。
こうした変形例によれば、点火時期遅角量aknkが大きくなっているときには、最遅角点火時期akmfがさらに遅角側に補正される。これにより、ノッキングの発生がより確実に抑えられるようになる。また、機関運転状態が変化したときでも、最遅角点火時期akmfを予め遅角側に補正しておくことができるため、この場合にも機関運転状態が変化したときのノッキングの発生を好適に抑えることができる。
・第2実施形態やその変形例においては、点火時期遅角量aknkが「0」未満であるときに、KCS学習値agknkの更新を禁止するようにしたが、そうした禁止処理を省略するようにしてもよい。この場合でも、点火時期遅角量aknkが「0」未満であるときには、少なくとも要求点火時期afinを適切に、且つ速やかに遅角させるための処理は行われるため、ノッキングの発生を速やかに抑えることができる。
本発明にかかる内燃機関の点火時期制御装置について、これが適用される第1実施形態での内燃機関の構成を示す模式図。 点火時期の算出態様をしめす模式図。 学習更新量を説明する模式図。 機関負荷の変化に対する第2ノック限界点及び第3ノック限界点の変化態様を示すグラフ。 同実施形態における学習値の更新処理についてその手順を示すフローチャート。 第2実施形態において、要求点火時期が最進角点火時期よりも進角側の時期に設定されるときの態様を示す模式図。 同実施形態における点火時期遅角処理についてその手順を示すフローチャート。 第2実施形態の変形例における点火時期遅角処理についてその手順を示すフローチャート。 第2実施形態の変形例における点火時期遅角処理についてその手順を示すフローチャート。 第2実施形態の変形例における点火時期遅角処理についてその手順を示すフローチャート。
符号の説明
10…内燃機関、11…シリンダブロック、13…燃焼室、14…点火プラグ、14a…イグナイタ、15…ノックセンサ、16…制御装置、17…クランク角センサ、19…スロットルセンサ。

Claims (10)

  1. 機関運転状態に基づいて最進角点火時期及び最遅角点火時期を算出するとともに、それら最進角点火時期及び最遅角点火時期の差である最大遅角量を算出し、ノッキング発生の有無に応じて常時更新されるノッキング補正値と、同ノッキング補正値が所定値を超えたときに更新されるノッキング学習値とを前記最大遅角量から減算して前記最進角点火時期からの点火時期遅角量を算出することで要求点火時期を設定する内燃機関の点火時期制御装置において、
    デポジットの付着度合に応じて更新されるデポジット学習値に基づいて前記最遅角点火時期を補正する最遅角点火時期補正手段と、
    デポジットの付着が全く無いときに対応する第1最遅角点火時期と、デポジットの付着が想定される最大量となったときに対応する第2最遅角点火時期とを機関運転状態に基づいてそれぞれ算出し、それら第1最遅角点火時期及び第2最遅角点火時期の差である遅角幅とデポジットの付着度合に応じて変化するノッキングの発生頻度に対応して更新される比率との乗算値を前記デポジット学習値として設定するデポジット学習値設定手段と、
    前記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態での前記ノッキング学習値及び前記デポジット学習値の更新態様を、前記ノッキング学習値の更新方向に応じて変更する変更手段とを備える
    ことを特徴とする内燃機関の点火時期制御装置。
  2. 前記変更手段は、前記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、前記ノッキング学習値が進角側に更新されるときには、その進角側へのノッキング学習値の更新を禁止して前記デポジット学習値の更新のみを行う
    請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  3. 前記変更手段は、前記遅角幅が所定値以上になる機関運転状態において、前記ノッキング学習値が遅角側に更新されるときには、その遅角側へのノッキング学習値の更新及び前記デポジット学習値の更新を行うとともに、ノッキング学習値の遅角側への更新量を、前記遅角幅が所定値未満になる機関運転状態における更新量よりも少なくする
    請求項1または2に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  4. 前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、その算出された値に代えて、前記ノッキング補正値を前記点火時期遅角量として設定する
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  5. 前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、その算出された値に代えて、前記ノッキング補正値を所定の分だけ遅角側に変更した値を前記点火時期遅角量として設定する
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  6. 前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、前記最進角点火時期を遅角側に補正する
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  7. 前記最進角点火時期の遅角側への補正値に基づき、前記最進角点火時期の設定マップを補正する
    請求項6に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  8. 遅角側に補正された前記最進角点火時期と前記要求点火時期の差が所定値を超えたときには、前記デポジット学習値に基づいて補正される前記最遅角点火時期を前記差に基づいて遅角側に補正する
    請求項6に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  9. 前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されるときには、前記ノッキング学習値の更新を禁止する
    請求項4〜8のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  10. 前記点火時期遅角量として、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも進角側の時期に設定される値が算出されたときには、前記要求点火時期が前記最進角点火時期よりも遅角側の時期に設定されるように、前記点火時期遅角量を制限する
    請求項4〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
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