従来のPDP用緑色蛍光体はMn賦活の珪酸亜鉛蛍光体Zn2SiO4:Mn2+であり、良好な発光効率を示すものの、課題の一つとして発光の色味の改善が指摘されている。すなわち、蛍光体の発光色を表すCIE(International Commission onIllumination)表色系における色度、その色度の(x、y)座標におけるx値について、x値=0.24程度と大きい値を示し、x値をより小さく調整し、より深い色を発光するよう改善することを求めている。
そして、こうした色味の改善可能性のある別の緑色蛍光体として、より深い色味を示してより好ましい緑色を発光する可能性があるMg1-eGa2O4:Mn2+ eに着目している。
しかし、Mg1-eGa2O4:Mn2+ eについては、後に詳述するように、検討の結果、PDP装置において使用される真空紫外線の励起による発光では、色度座標におけるx値が0.11程度であり、Zn2SiO4:Mn2+のx値に比べて小さく、発光色が緑色として若干青緑色がかって現れ、色味改善をすることが望ましいことがわかった。かかる改善によって、より美しい発色のPDP装置を構成することが可能となる。
すなわち、色度の(x、y)座標におけるx値とy値について、x値が若干大きい値であることを必要とし、y値を低下させてPDP装置の表色範囲を狭めること無くx値を調整し、より大きな値とするような改善技術を求めている。
そこで、本発明者は、Mg1-eGa2O4:Mn2+ eに着目し、これをベース組成として上記改善を希求し、組成の改良、および新規な組成の蛍光体材料の合成に努めた。
その結果、本発明者は、「高キセノン濃度化」されたPDP装置で主に使用する波長147nmおよび173nmの真空紫外線励起条件で発光色のx値を大きくする蛍光体技術を見出し、その結果、Mg1-eGa2O4:Mn2+ eベース組成として、高効率かつx値が大きくなった蛍光体を実現し、それを使用して色の優れた発光装置、ひいては色再現性能に優れた表示装置を実現した。
新規に実現した緑色蛍光体は、下式(1)で表される蛍光体である。
〔化2〕
(Mg1-x-eZnx)・Ga2O4:Mn2+ e (1)
式(1)中、成分Znの組成比を示すx、およびMnの組成比を示すeは、それぞれ0<x≦1、0.001≦e≦0.2であることを特徴とする。
本発明者は、Mg1-eGa2O4:Mn2+ eをベース組成として、その母体骨格成分であるMg元素の一部をZnで置換することにより新規な蛍光体を得、そして、蛍光体の発光特性である、真空紫外線励起による発光の色度のx値を大きくさせることに成功した。そして、その結果、真空紫外線励起した場合の発光の色が緑色としてより美しく好ましいものとすることができることを見出した。
この時、Znの置換量については、上記式(1)の表記に従うと、成分Znの組成比として表され、下記に詳述するように、y値を低下させてPDP装置の表色範囲を狭めること無くx値を調整して大きくすることが可能である0.01≦x≦0.2であることがより好ましい。
上記の技術を支持する検討として、本発明者は、本発明を構成する新規蛍光体の例である(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01と、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01とを用い、ベースとなるMg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01を比較例として、定法に従い中心発光波長147nm及び173nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した。
その結果、中心発光波長147nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した場合、蛍光体の発光色を表すCIE色度座標における色度点は、x値及びy値がそれぞれ、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01において(x,y)=(0.11,0.68)であるのに対し、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では(x,y)=(0.12,0.68)となり、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01は(x,y)=(0.14,0.49)となって、本実施の形態の例である新規緑蛍光体は発光色緑の色度x値が比較例に比べ大きくなっていることがわかった。
次に、中心発光波長173nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した場合、蛍光体の発光色を表すCIE色度座標における色度点は、x値及びy値がそれぞれ、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01において(x,y)=(0.11,0.68)であるのに対し、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では(x,y)=(0.12,0.68)となり、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01は(x,y)=(0.14,0.53)となって、本実施の形態の例である新規緑蛍光体は発光色緑の色度x値が比較例に比べ大きくなっていることがわかった。
以上の結果のまとめとして、波長147nm及び173nmの両励起条件における比較例:Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光色のx値及びy値をそれぞれ基準値である100とし、本実施形態の例である(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01と、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01の波長147nm及び173nmの両励起条件における発光の色度のx値とy値の相対値を算出し、表にまとめたのが図1であり、算出した各相対値をZn置換量に対しグラフ上にプロットをしたのが図2である。
すなわち、図2は、Znの置換量に対し、Mg1-eGa2O4:Mn2+ eの波長147nm及び173nmの両条件で得られる発光の色度のx値とy値をそれぞれ相対的に比較したグラフである。
以上の結果より、この新規蛍光体は、色度のx値が比較例であるMg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01より大きく、緑色蛍光体として、比較例が備える、発光色が青味を帯びるという問題点の軽減を実現していることが分かった。よって、この新規蛍光体は、PDP装置用の緑色蛍光体としてより好ましい蛍光体であることが分かった。
また、以下に示すように、図1及び図2に示す結果は、Zn置換量が0.2モルまでは発光の色度y値の低下は無く、x値が増大すること、及び0.2モルを超えるとy値の低下が起こること、そしてさらに、その低下の程度は波長173nm励起条件のほうが波長147nm励起条件より小さいことを明確に示す。
具体的には、波長147nm及び173nmの両励起条件において、Zn成分の置換量が組成比=0.2モルまでは発光色のy値は比較例(相対値=100)と同等の値0.68(相対値=100)を維持するが、0.2モルを超え、一例である0.4モル程度となると、x値の増大効果はより大きくなるものの、y値の低下が見られことがわかった。すなわち、表色範囲が狭くなること、よって、色再現性が低下する可能性があることもわかった。
このとき、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01において、発光色の色度のy値は、波長147nm励起で0.49(相対値=80)、波長173nm励起で0.53(相対値=85)であり、波長173nm励起条件での方が比較例と比べたy値の低下程度が小さく、波長173nm励起条件の方が波長147nm励起条件に比べZn置換量の増大に伴うy値の低下が小さいことがわかった。
詳細にデータを検討すると、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01での発光色のy値は波長147nm励起条件で0.680(相対値=99.7)、173nm励起条件で0.683(相対値=100.3)であって、若干波長173nm励起条件のほうがy値は大きくなっていることがわかった。このことからも、本実施の形態の新規緑色蛍光体は、波長173nm励起の条件でより発光の色特性が優れること、そして、Znの置換量の増大に対するy値の低下程度が小さいことがわかった。
よって、本実施の形態である新規蛍光体は、Znの組成比が0.2モル以下のものまでがPDP用の緑色蛍光体として更に好ましいことが分かった。そして、真空紫外領域における波長173nm励起の条件下で使用されることがより好ましいことがわかった。
次に、Zn組成比(x)の下限を0<xと定めることについて説明を加える。本願においては、Znを添加することを前提し、Znの組成比(x)の下限を0より大きい(0<x)と定めることは、蛍光体の合成時にZn組成が含有されるよう意識的にZn成分の原料を用いることを意味する。すなわち、Zn成分が組成化された本発明を構成する上記Eu賦活珪酸塩蛍光体の合成時に、明確にZn成分の原料を使用して他の原料との調合をし、蛍光体合成を行うことを意味する。
一方、例えば別の組成のMgやEuからなる蛍光体の例であるが、通常のMg成分やEu成分を含有する蛍光体を合成する際に通常の原料として使用する蛍光体合成用Mg原料化合物やEu原料化合物などには、微量の不純物として、Ca成分原料が含まれる場合がある。すなわち、Ca成分の含有を意図しないで合成されたMgもしくはEu成分からなる蛍光体には、数ppm〜数十ppmといった極微量のCa成分が含有されることがある。そのため、Ca組成の含有を意図せず、その含有が組成式上明記されない蛍光体においても、分析等の手法により組成の詳細を解析すると、Ca成分を含まれることが判明する場合がある。
従って、このような意図しない成分の含有、すなわち不純物として蛍光体中に特徴のある成分が含まれる場合と、発光輝度等性能の改善を目的として、Zn成分の含有を明確に意図し、さらにその組成比の最適範囲を明確にした本発明を構成する新規Mn賦活蛍光体とは、明確に区別される必要がある。かかる区別のためには、本発明を構成する新規蛍光体において、蛍光体の合成作業によりZn成分の組成化を意図する際に、実質的に制御し得る量をZn成分含有の下限とすることが好ましい。
よって、本発明を構成する新規Eu賦活珪酸塩蛍光体において、例えば純度99.9%以上の高純度の合成原料を使用した場合でも、特定成分が不純物として含有され得る量は、数ppm〜数十ppm(1000g中、数mg〜数十mg)のオーダーであることを考慮し、また、10g程度の所謂実験室レベルでの少量の蛍光体合成時においても実質的に制御し得る量の下限が0.1mg程度(10ppm)であること、さらに、Mg化合物と対応するZn化合物とでは通常分子量に大きな差が無いことなども併せて考慮し、Zn成分の含有量の下限を改めて設定することとする。
すなわち、本発明を構成する新規Eu賦活珪酸塩蛍光体においては、Zn成分の含有量を100ppm程度もしくはそれ以上とすることを想定し、Znの組成比(x)の下限をx=0.0001とすることができる。
そして、意図しないで含有されてしまう場合と明確に区別し、また、より純度の低い蛍光体原料を使用した場合でも排除可能とすることを考慮すると、明確な区別を実現するためには、Zn成分の含有量の下限を上記値の10倍程度とし、Znの組成比(x)の下限をx=0.001とすることが好ましい。
そしてさらに、より純度の低い蛍光体原料を使用した場合に意図せずに含有され得る量を考慮すると、明確な区別を実現するためには、Zn成分の含有量の下限を上記の100倍程度とし、Znの組成比(x)の下限をx=0.01とすることが好ましい。
すなわち、本発明を構成する新規蛍光体において、発光の色特性、色度を考慮してZn成分を添加すると共に、Znの組成比の最適範囲を明確化する場合、Znの組成比(x)の下限をx=0.0001とすることができる。また、Znの組成比(x)は、0.001≦xとすることが好ましく、さらに0.01≦xとすることがより好ましい。
以上、本願における0<x、その他、0.01<x等の記載については、上記何れかの下限設定の場合を含めて開示するものとする。よって、例えば、波長173nmの紫外線励起条件での輝度評価結果から、本発明を構成する上記Eu賦活珪酸塩蛍光体において、望ましいZnの含有量については、Znの組成比(x)を0.01≦x≦0.2とすることがより好ましい。
また、賦活剤であるMn成分の含有量についても、意図せずに含有され得る量を考慮して下限を定め、また、自己消光を制御して、所望の発光特性を得ることを目的として、上限を定めることにより、上記組成式(1)においてMnの組成比を示すeは、0.001≦e≦0.2とすることが好ましい。
次に、輝度評価結果について検討した。中心発光波長147nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した場合、蛍光体の輝度は、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01での値を基準値100として相対値で表すと、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では63となり若干低下することがわかった。
そして、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では輝度の相対値は16となって、本実施の形態の例である新規緑色蛍光体は、比較例に比べ輝度が低下することがわかった。
次に、中心発光波長173nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した場合、蛍光体の輝度は、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01での値を基準値100として相対値で表すと、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では相対輝度値が66となって若干低下することがわかった。しかし、輝度低下の程度は、波長147nm励起の場合に比べ、より小さいことがわかった。
また、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では輝度の相対値は17となって、本実施の形態の例である新規緑色蛍光体は、比較例に比べ輝度が低下することがわかった。このとき、輝度低下の程度は波長147nm励起の場合に比べ、より小さいことがわかった。
以上の結果より、本実施形態の例である蛍光体は、Zn組成比の増大に伴い、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01に比べ輝度の低下が見られ、置換量0.2モルまでの組成範囲では若干の輝度低下があり、それを超える置換量では大きく輝度が低下することがわかった。そして、輝度の低下が見られるものの、本実施形態の例である蛍光体は、波長173nm励起条件のほうが輝度低下の程度は軽減されることがわかった。よって、PDP用として、Zn置換量0.2モル以下とすること、そして、真空紫外領域における波長173nm励起の条件下で使用されることがより好ましいことがわかった。
なお、PDPにおける放電ガスの組成と放電により発生する紫外線強度の関係に関しては、放電ガス含有Xe(キセノン)成分の組成比が大きいほど放電により発せられる真空紫外線全体の強度が増すこと、及び発せられる真空紫外線における構成成分の比率が変化することがわかっている。
具体的には、放電ガス中のXe組成比の変化により発生真空紫外線に含まれる波長147nmの紫外線成分と波長173nmの紫外線(Xe2分子線)成分の強度比率(I173/I147)が変化すること、すなわち、Xe組成比の増大に従って強度比率(I173/I147)が大きくなることがわかっている。
図3は、AC型PDPにおける放電ガス中のXe組成比(%)と強度比率(I173)/I147)との関係を示すグラフである。
検討の結果、AC型PDPでは、Xe組成比4%ではI173/I147(4%)=1.2であり、Xe組成比が1〜4%である通常仕様のPDPでは、放電によって発生する真空紫外線に含まれる波長147nmの紫外線成分と173nmの紫外線成分との強度比率は波長173nm成分の強度が若干大きい程度から同等もしくはむしろ173nm成分の強度が小さい傾向にあることがわかっている。
そして更なる検討の結果、Xe組成比6%では放電によって発生する真空紫外線強度は増大すると共にI173/I147(6%)=1.9と大幅に大きくなり、Xe組成比10%では放電によって発生する真空紫外線強度は増大すると共にI173/I147(10%)=3.1と大幅に大きくなり、Xe組成比12%では放電によって発生する真空紫外線強度は増大すると共にI173/I147(12%)=3.8と著しく大きくなることがわかった。
従って、通常仕様のPDPより放電ガス中のXe組成比の大きな、例えば6%のXe組成比を持つ高キセノン化対応仕様のPDPにおいては、波長173nmの真空紫外線に対してより良い特性の発光を示す蛍光体の使用が好ましく、組成比6%を超えてXe組成比がより高い10%以上となった場合などにおいては、そのような特性の蛍光体に対する要求はより大きなものとなる。
よって、上記式(1)で表されるMn賦活蛍光体を、Xe組成を含む放電ガスを用いたPDPに使用した場合、波長173nmの真空紫外線の励起条件で蛍光体において良好な発光特性が得られることから、発生するXe2分子線を有効に利用できることになり、高性能のPDP装置の提供が可能となる。
更に、上記式(1)のMn賦活蛍光体は、波長147nmの真空紫外線の励起条件での発光特性と比較し、波長173nmの真空紫外線の励起条件により得られる発光特性が優れることから、例えばXe組成比が6%以上、より好ましくは更に波長147nm成分に対する波長173nmの真空紫外線成分強度比が強い(Xe2分子線を積極的に利用する)Xe組成比10%以上となる量でXeガスを含んで構成された放電ガスを使用する、いわゆる「高キセノン濃度化対応のPDP」の技術にもよく適合し、高キセノン濃度化された放電ガスを使用したPDPにおいてより高性能の発光装置を構成することが可能となる。
以上に基づき、上記式(1)で表されるMn賦活蛍光体を使用した本発明の実施の形態であるPDPは以下のように構成できる。
図4は本実施の形態であるPDPの構造を示す要部分解斜視図である。図5、図6及び図7は本実施の形態であるPDPの構造を示す要部断面図である。
本発明の実施形態であるPDP100は、いわゆる対向放電に対応するための構造を有しており、離間して対向配置された一対の基板1,6と、その基板6上に設けられてその一対の基板1,6が重ね合わされる時に基板1と基板6との間の間隔を保持する隔壁7と、一対の基板1,6の間に形成された空間内に封入され放電により紫外線を発生する放電ガス(図示せず)と、一対の基板1,6の対向面上に配設された電極2,9とを備える。なお、図5は電極2の延在する方向に沿った一断面を示したものであり、図6は電極2の延在する方向に沿った他の断面を示したものであり、図7は電極9の延在する方向に沿った一断面を示したものである。
そして、上記式(1)で表されるMn賦活蛍光体が、前記一対の基板の内の一方の基板6の上及び隔壁7の表面で蛍光体層10を構成する。そして、前記放電ガスは組成比が6%以上となる量でXeガスを含む放電ガスであり、放電により前記放電ガスから発生する波長147nm及び173nmの真空紫外線により蛍光体層10を構成する上記式(1)で表されたMn賦活蛍光体が励起され、可視光を発光するよう構成されたことを特徴とする。
なお、図4、図6及び図7中で示された符合3のラインは、電極2と一体となって電極抵抗を低下させるために設けられた銀もしくはCu−Crからなるバスライン3であり、符合4および8の層は誘電体層4,8であり、符合5の層は電極保護のために設けられた保護膜5である。
以下、本発明を実施するための最良の形態に対応する実施例を説明する。
本発明に係る実施例であるPDPを製作するために、初めに本発明の主要な構成部材であるMn賦活蛍光体の合成を行った。
第一に合成した蛍光体の組成式は(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01である。
合成は、まず、Ga2O3を3.749g(20.00mmol)、MgOを0.629g(15.61mmol)、MnCO3を0.0230g(0.200mmol)、MgF2を0.0125g(0.201mmol)、ZnOを0.326g(4.01mmol)、それぞれ量り取り、メノウ製の乳鉢中で十分に混合した。
その後、得られた混合物を高純度アルミナ製の耐熱容器に充填し、大気中1350℃で4時間焼成を行い、更にその後、還元雰囲気下1200℃で3時間焼成を行った。得られた焼成物は粉砕後、水洗及び乾燥を行うことで上記組成の蛍光体を得た。
次に、蛍光体(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01を合成した。
合成法は概略前記のものと同様であり、Ga2O3を1.874g(10.00mmol)、MgOを0.234g(5.81mmol)、MnCO3を0.0110g(0.100mmol)、MgF2を0.0062g(0.100mmol)、ZnOを0.326g(4.01mmol)、それぞれ量り取り、メノウ製の乳鉢中で十分に混合した。
その後、得られた混合物を高純度アルミナ製の耐熱容器に充填し、大気中1350℃で4時間焼成を行い、更にその後、還元雰囲気下1200℃で3時間焼成を行った。得られた焼成物は粉砕後、水洗及び乾燥を行うことで上記組成の蛍光体を得た。
次に比較例として、蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01を合成した。
合成は概略上記のものと同様であり、Ga2O3を3.749g(20.00mmol)、MgOを0.790g(19.60mmol)、MnCO3を0.0230g(0.200mmol)、MgF2を0.0125g(0.201mmol)、それぞれ量り取り、メノウ製の乳鉢中で十分に混合した。その後、得られた混合物を高純度アルミナ製の耐熱容器に充填し、大気中1350℃で4時間焼成を行い、更にその後、還元雰囲気下1200℃で3時間焼成を行った。得られた焼成物は粉砕後、水洗及び乾燥を行うことで比較例である上記組成の蛍光体を得た。
次に、定法に従い中心発光波長173nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて、合成した蛍光体(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01及び蛍光体(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光特性、特に輝度と発光色の色度を測定した。比較例として上記(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光特性も併せて測定した。
中心発光波長173nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した結果、蛍光体の発光色を表すCIE色度座標における色度点は、x値及びy値がそれぞれ、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01において(x,y)=(0.11,0.68)であった。そして、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では(x,y)=(0.12,0.68)であり、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01は(x,y)=(0.14,0.53)であった。得られた結果から、本実施例である新規緑色蛍光体は発光色緑の色度x値が比較例に比べ大きくなっていることがわかった。
なお、詳細にデータを検討すると、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01での発光色のy値は波長173nm励起条件で0.683であった。そして、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01においては、0.681であった。
得られた結果に基づき、波長173nmの励起条件における比較例:Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光色のx値及びy値をそれぞれ基準値である100とし、本実施形態の例である(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01と、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01との波長173nmの両励起条件における発光の色度のx値とy値の相対値を算出した。結果は、図1の表と図2にまとめた。グラフ上に算出した各相対値をZn置換量に対しプロットをしたのが図2である。
次に輝度特性については、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01での値を基準値100として相対値で表すと、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では相対輝度値が66となって若干小さい値となることがわかった。
また、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では輝度の相対値は17となって、比較例に比べ輝度が小さい値となることがわかった。
次に、定法に従い中心発光波長147nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて、合成した蛍光体(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01及び蛍光体(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光特性、特に輝度と発光色の色度を測定した。比較例として上記(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光特性も併せて測定した。
中心発光波長147nmの真空紫外線エキシマランプを励起光源に用いて発光特性を評価した結果、蛍光体の発光色を表すCIE色度座標における色度点は、x値及びy値がそれぞれ、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01において(x,y)=(0.11,0.68)であるのに対し、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では(x,y)=(0.12,0.68)となり、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01は(x,y)=(0.14,0.49)となって、本実施例である新規緑色蛍光体は発光色緑の色度x値が比較例に比べ大きくなっていることがわかった。
なお、詳細にデータを検討すると、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01での発光色のy値は波長147nm励起条件で0.680であった。
得られた結果に基づき、波長147nmの励起条件における比較例:Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01の発光色のx値及びy値をそれぞれ基準値である100とし、本実施形態の例である(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01と、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01との波長147nmの両励起条件における発光の色度のx値とy値の相対値を算出した。結果は、上記と同様、図1の表と図2にまとめた。
次に輝度特性については、蛍光体の輝度は、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01での値を基準値100として相対値で表すと、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では63となり若干小さい値となることがわかった。
そして、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01では輝度の相対値は16となって、本実施の例である新規緑色蛍光体は、比較例に比べ輝度が小さい値となることがわかった。
以上の結果より、本実施の例である新規緑色蛍光体は、波長147nm及び173nmの両励起条件において、Zn成分の置換量が組成比=0.2モルまでは発光色のy値は比較例(相対値=100)と同等の値0.68(相対値=100)を維持するが、0.2モルを超え、一例である0.4モル程度となると、x値の増大効果はより大きくなるものの、y値の低下が見られことがわかった。
このとき、(Mg0.59Zn0.40)・Ga2O4:Mn2+ 0.01において、発光色の色度のy値は、波長147nm励起で0.49(相対値=80)、波長173nm励起で0.53(相対値=85)であり、波長173nm励起条件での方が比較例と比べたy値の低下程度が小さく、173nm励起条件の方が波長147nm励起条件に比べZn置換量の増大に伴うy値の低下が小さいことがわかった。
詳細なデータに基づくと、(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01での発光色のy値は波長147nm励起条件で0.680(相対値=99.7)、173nm励起条件で0.683(相対値=100.3)であって、若干、波長173nm励起条件のほうがy値は大きくなっていることがわかった。
また、本実施例である蛍光体は、Zn組成比の増大に伴い、比較例である蛍光体Mg0.99Ga2O4:Mn2+ 0.01に比べ輝度の低下が見られ、置換量0.2モルまでの組成範囲では若干の輝度低下があり、それを超える置換量では大きく輝度が低下することがわかった。そして、輝度の低下が見られるものの、本実施例である蛍光体は、波長173nm励起条件のほうが輝度低下の程度は軽減されることがわかった。
次に、緑の蛍光体層を構成する緑色蛍光体として上記の蛍光体(Mg0.79Zn0.20)・Ga2O4:Mn2+ 0.01を用い、図4に示す発光装置であるPDP100を作製した。
本実施例のような面放電型カラーPDP装置のPDP100では、例えば一対の表示電極(電極2)のうちの一方(一般に、走査電極と呼ぶ)に負の電圧を,アドレス電極(電極9)ともう一方の残りの表示電極(電極2)に正の電圧(前記表示電極に印加される電圧に比して正の電圧)を印加することにより放電が発生し、これにより、一対の表示電極の間で放電を開始するための補助となる壁電荷が形成される(これを書き込みと称する)。この状態で一対の表示電極の間に、適当な逆の電圧を印加すると、誘電体層4(及び保護膜5)を介して、両電極2の間の放電空間で放電が発生する。
放電終了後、前記一対の表示電極(電極2)に印加する電圧を逆にすると、新たに放電が発生する。これを繰り返すことにより継続的に放電が発生する(これを維持放電又は表示放電と呼ぶ)。
本実施例であるPDP100は,背面基板(基板6)上に、銀などで構成されているアドレス電極(電極9)と、ガラス系の材料で構成される誘電体層4を形成した後,同じくガラス系の材料で構成される隔壁材を厚膜印刷し、ブラストマスクを用いたブラスト除去により、隔壁7を形成する。
次に、この隔壁7上に,赤、緑及び青の各蛍光体層10を該当する隔壁7間の溝面を被覆する形で、順次ストライプ状に形成する。
ここで、各蛍光体層10は、赤、緑及び青に対応し、赤色蛍光体粒子40重量部(ビヒクル60重量部)、緑色蛍光体粒子40重量部(ビヒクル60重量部)、青色蛍光体粒子35重量部(ビヒクル65重量部)とし、それぞれビヒクルと混ぜて蛍光体ペーストとし、スクリーン印刷により塗布した後、乾燥及び焼成工程により蛍光体ペースト内の揮発成分の蒸発と有機物の燃焼除去を行って形成する。なお、本実施例で用いた蛍光体層10は、中央粒径が3μm程度の各蛍光体粒子で構成されている。
また、緑色以外の各色蛍光体の材料については,赤色蛍光体は(Y,Gd)BO3:Eu蛍光体とY2O3:Eu蛍光体1:1の混合物であり、青色蛍光体はBAM(BaMgAl10O17:Eu2+)蛍光体である。
次に、表示電極(電極2)、バスライン3、誘電体層4、及び保護膜5を形成した前面基板(基板1)と、背面基板(基板6)をフリット封着し、パネル内を真空排気した後に放電ガスを注入し封止する。その放電ガスは、組成比が10%となる量でキセノン(Xe)ガスを含んで構成されたガスである。本実施例に係るPDP100は、そのサイズが3型で一画素のピッチが1000μm×1000μmである。
次に、本発明に係る実施例である上記の蛍光体を用いた前記PDPを使用し、前記PDPを駆動する駆動回路と組み合わせて画像表示を行うよう構成された表示装置としてPDP装置を作製した。
このPDP装置は、深い色の緑色による画像表示が可能で、画像の色が綺麗であり、表示性能に優れ、さらに高効率表示が可能であった。
その結果、従来のMn賦活の珪酸亜鉛蛍光体(Zn2SiO4:Mn2+)を使用した従来PDP装置では問題であった緑色の色特性を向上することができ、優れた映像表示を実現できた。
なお、本発明に係るPDPにおいては、本発明を構成する新規Mn賦活蛍光体を使用し、従来の珪酸亜鉛蛍光体(Zn2SiO4:Mn2+)と混合して緑色蛍光体の一部を置換する使用の形態で、従来のものより優れた色特性のPDP装置を構成することも可能である。
その場合、混合比率については、PDP装置設計における好ましい緑色を表現できる組成を考慮し、さらに輝度性能を考慮して、調整、制御をすることが可能である。
また、本実施例では赤及び青の蛍光体に関して、詳細な検討結果を示していないが、以下に示す各組成の蛍光体でも同様にPDP装置を作製することができる。
赤色蛍光体では、(Y,Gd)BO3:Eu,(Y,Gd)2O3:Eu、及び(Y,Gd)(P,V)O4:Euのいずれか一種以上の蛍光体を含む場合が可能である。また、青色蛍光体では、CaMgSi2O6:Eu、Ca3MgSi2O8:Eu、Ba3MgSi2O8:Eu、及びSr3MgSi2O8:Euからなる群から選ばれた一種以上の青色蛍光体を含む場合が可能である。さらに、ここに示していない蛍光体との組合せも適用できる。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。