JP2008296356A - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、耐摩耗性と靭性とを向上させ高度に両立させた表面被覆切削工具を提供することにある。
【解決手段】本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを備えるものであって、該被覆層は、化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含み、該化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有することを特徴としている。
【選択図】なし

Description

本発明は、基材上に被覆層を形成してなる表面被覆切削工具に関する。
切削工具を構成する基材は、耐摩耗性や靭性等の諸特性の更なる向上を目的として、各種の被覆層でその表面を被覆することが行なわれてきた。このような被覆層の形成方法として知られる化学蒸着法は、被覆層形成時において基材と被覆層との間で構成成分の拡散が生じることが知られており、このため基材と被覆層間の密着強度を高めることができるという利点を有している。しかし、その反面、このような化学蒸着法は被覆層形成時に極めて高温となるため、被覆層の形成後室温まで冷却した場合に、基材の熱膨張係数と被覆層の熱膨張係数とが異なることに起因して被覆層に引張残留応力が発生する。このため、切削加工時に被覆層に亀裂が発生した場合、その亀裂の伝播が助長され欠損に至るという問題があった。
この問題を解決するために、化学蒸着法で形成された被覆層に対してショットピーニングやショットブラスト等の処理を施して引張残留応力を解放することが試みられているが、十分な効果を得るには至っていない。
一方、被覆層の形成方法として物理蒸着法を採用すると、被覆層に圧縮残留応力が付与されることが知られており、このため化学蒸着法により形成した被覆層が有していた上記のような問題を解決することができる。しかし、このような物理蒸着法により形成した被覆層は、基材との密着性に劣ることから基材から剥離し易いという問題を有していた。
このように基材上に被覆層を形成する方法としての化学蒸着法と物理蒸着法とは、それぞれ一長一短を有するものと考えられる。このため、これら両者の短所を互いに補完することを目的としてこれら両者を組み合わせて用いることが試みられている。具体的には、基材上にまず化学蒸着法により被覆層を形成し、その上に物理蒸着法によりさらに被覆層を形成することにより、被覆層全体としての応力を調整したり両者の長所を助長させることが試みられている(特許文献1〜4)。
しかしながら、上記のような試みは、化学蒸着法により形成された被覆層が引張残留応力を有しているという点を直接的に解決したものではないため、化学蒸着法により形成された被覆層が有する問題を抜本的に解決するには至らなかった。この点に関し、上記のような試みの中には、化学蒸着法により形成された被覆層に対してショットピーニング処理を施すことにより、引張残留応力を開放(引張残留応力を低減するかまたは応力がない状態にする)した後、物理蒸着法により被覆層を形成するという方法も提案されている(特許文献4)。
しかし、切削工具に対して耐摩耗性と靭性との高度な両立が求められる近年の切削加工現場においては、上記のような試みによっても、未だ十分な性能を発揮する切削工具を得るには至っていない。
特開昭64−036760号公報 特開平08−318410号公報 特開平10−225805号公報 特開平11−061437号公報
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、化学蒸着法により形成される被覆層が有している問題を抜本的に解決することにより、耐摩耗性と靭性とを向上させ高度に両立させた表面被覆切削工具を提供することにある。
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを備えるものであって、該被覆層は、化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含み、該化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有することを特徴としている。
ここで、上記被覆層の各層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素によって構成されるか、または該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。
また、上記化学蒸着層は、アルミナを主体として含む化学蒸着アルミナ層を含むことが好ましく、上記物理蒸着層は、この化学蒸着アルミナ層上に形成されることが好ましい。また、上記物理蒸着層は、アルミナを主体として含む物理蒸着アルミナ層を含むことが好ましく、上記物理蒸着アルミナ層は、上記化学蒸着アルミナ層上に形成されることが好ましい。
また、上記化学蒸着アルミナ層と上記物理蒸着層との間に、上記化学蒸着アルミナ層以外の化学蒸着層が0.01μm以上3μm以下の厚みで形成されていてもよい。
また、上記化学蒸着アルミナ層は、圧縮残留応力を有していることが好ましく、α−アルミナを含むことが好ましい。また、上記化学蒸着層は、低温度の化学蒸着法で形成されたTiCNを含む層を含むことが好ましい。
また、上記化学蒸着層は、1μm以上30μm以下の厚みを有し、上記物理蒸着層は、0.01μm以上10μm以下の厚みを有することが好ましい。また、基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成されることが好ましく、このような表面被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用刃先交換型切削チップのいずれかであることが好ましい。
一方、本発明は、基材と該基材上に形成された被覆層とを備え、該被覆層は化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含む表面被覆切削工具の製造方法に関し、この製造方法は、基材上に化学蒸着法により1層以上の化学蒸着層を形成する工程と、該化学蒸着層の最表面に対してボンバード処理を行なうとともに物理蒸着法により1層以上の物理蒸着層を形成することにより該化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与する工程と、を含むことを特徴としている。
本発明の表面被覆切削工具は、上記のような構成を有することにより、化学蒸着法により形成される被覆層が有している問題を抜本的に解決することにより、耐摩耗性と靭性とを向上させ高度に両立させたものである。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを備えるものである。このような構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用刃先交換型切削チップ等として極めて有用である。
<基材>
本発明の基材を構成する材料としては、このような表面被覆切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金を含み、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭化物、窒化物、炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体等を挙げることができる。
また、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層、β相富化層またはCo相富化層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。また、超硬合金やサーメットの場合、合金組織中の遊離炭素およびε相の存在の有無に関わらず本発明の効果は示される。
<被覆層>
本発明の被覆層は、上記の基材上に形成されるものである。この被覆層は、基材の全面を覆うようにして形成されていてもよいし、基材の一部分のみを覆うようにして形成されていてもよいが、その形成目的が切削工具の諸特性の向上(すなわち切削性能の向上)にあることから、基材の全面を覆うかもしくは一部分を覆う場合であっても切削性能の向上に寄与する部位の少なくとも一部分を覆うことが好ましい。
このような被覆層は、化学蒸着法(CVD法)により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法(PVD法)により形成される1層以上の物理蒸着層とを含み、該化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有することを特徴としている。
このように被覆層が1層以上の化学蒸着層を含むことにより、耐摩耗性の向上に資するとともに、1層以上の物理蒸着層を含むことおよび化学蒸着層の少なくとも1層が圧縮残留応力を有することにより靭性が飛躍的に向上したものとなり、耐摩耗性と靭性とを極めて高度に両立させることが可能となったものである。
特に、靭性が飛躍的に向上したのは化学蒸着層の少なくとも1層が圧縮残留応力を有することとした点に大きく起因するものと考えられ、これは恐らく切削加工時に発生する亀裂の伝播を効果的に防止することが可能になったためであると推測される。
このような被覆層を構成する各層は、周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素によって構成されるか、または該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。
上記のような元素または化合物としては、たとえばCr、Ti、Al、Si、V、Zr、Hf、TiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiO2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、Al23、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC、NbC、NbN、NbCN、Mo2C、WC、W2C等を挙げることができる。なお、本発明において上記のように化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「TiCN」と記す場合、「Ti」と「C」と「N」の原子比は50:25:25の場合のみに限られず、また「TiN」と記す場合も「Ti」と「N」の原子比は50:50の場合のみに限られない。これらの原子比としては従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする(以下の実施例等において同じ)。
なお、本発明の被覆層の厚み(全体の厚み)は、1μm以上35μm以下であることが好ましい。その厚みが1μm未満の場合、耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されないためであり、一方、35μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは35μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば表面被覆切削工具を切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
<化学蒸着層>
本発明の被覆層には、1層以上の化学蒸着層が含まれる。化学蒸着層は、基材と接するようにして基材上に形成されるものであり、化学蒸着法により形成される。このような化学蒸着法としては、従来公知の方法を特に限定することなく使用することができ、条件等が限定されることはない。たとえば、850〜1050℃程度の成膜温度を採用することができ、使用するガスとしてもニトリル系のガス等従来公知のガスを特に限定することなく使用することができる。なお、化学蒸着層の化学組成は、上記(被覆層の項)で既に説明した組成を採用することができる。
そして、このような化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有していることが必要である。これにより、上記のような優れた効果を示すことができる。また、本発明の化学蒸着層が2層以上形成される場合は、そのすべての層が圧縮残留応力を有していてもよいが、すべての層が圧縮残留応力を有さない場合は物理蒸着層と接する化学蒸着層の最上層または後述の化学蒸着アルミナ層が少なくとも圧縮残留応力を有していることが好ましい。上記のような優れた効果を発揮するのに有利だからである。
なお、本発明の化学蒸着層に圧縮残留応力を付与する方法としては、後述するように化学蒸着層の最表面(物理蒸着層に接する最上層の表面)に対してボンバード処理を行なう方法が採用される。化学蒸着層は化学蒸着法により形成されることから何等の処理を施さなければ引張残留応力を有することになるが、この引張残留応力を開放するだけではなくさらに圧縮残留応力を付与する方法として、このようなボンバード処理が有効であることは本発明の発明者の研究により初めて明らかとなったものであり本発明の技術的特徴のひとつを構成するものである。
従来、化学蒸着層の表面に対してショットピーニングを施すことは知られていたが(特許文献4)、この処理によっては引張残留応力が開放されるに止まり、圧縮残留応力を付与することはできなかった。ショットピーニングに代えてブラスト等の処理を行なうことも考えられるが、化学蒸着層上に物理蒸着層を形成する場合において、このようなブラスト等の処理を行なうことは極めて作業効率が低減されることになる。これに対して、本発明が採用するボンバード処理は、物理蒸着層を形成する装置内で行なうことができるため、作業効率に優れ以ってその産業上の利用性は極めて大きい。
なお、本発明におけるボンバード処理という表現は、通常のボンバード処理が含まれるとともに、物理蒸着法により物理蒸着層を形成する場合において条件を調整することにより物理蒸着層が形成されず化学蒸着層に圧縮残留応力のみが付与されるようなケースをも含み得ることを意図したものである。
ここで、圧縮残留応力とは、このような被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。因みに、引張残留応力とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮残留応力と引張残留応力との両者を含むものとする。
そして、このような圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、上記のような優れた効果を得ることができない場合がある。一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が6GPaを越えると該層自体が破壊したり剥離したりすることがあり好ましくない。
なお、このような圧縮残留応力(残留応力)は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そしてこのような圧縮残留応力は化学蒸着層中の圧縮残留応力が付与される層に含まれる任意の点(1点、好ましくは2点、より好ましくは3〜5点、さらに好ましくは10点(複数点で測定する場合の各点は当該層の応力を代表できるように互いに0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい))の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜67頁に詳細に説明されている方法を用いればよい。
また、上記圧縮残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック(現在リアライズ理工センターに社名変更)、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
さらに、上記圧縮残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、被覆層の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
なお、本発明の化学蒸着層の厚み(2層以上で形成される場合はその全体の厚み)は、1μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上20μm以下である。その厚みが1μm未満の場合、耐摩耗性の向上作用が十分に示されないためであり、一方、30μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは30μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば表面被覆切削工具を切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
<化学蒸着アルミナ層>
本発明の化学蒸着層は、アルミナ(酸化アルミニウム(Al23))を主体として含む化学蒸着アルミナ層を含むことが好ましい。そして、この化学蒸着アルミナ層は、圧縮残留応力を有していることが好ましい。化学蒸着アルミナ層は、化学蒸着法により形成されるため、上記の通り引張残留応力を有した状態で形成されるが、上記のような処理を施すことにより圧縮残留応力を付与することができる。このように、化学蒸着アルミナ層が圧縮残留応力を有することにより、特に切削工具の刃先において良好な靭性を付与することができる。
また、化学蒸着アルミナ層は、アルミナとしてα−アルミナ(α−Al23と記すこともあり、α型の結晶構造を有するアルミナを示す)を含むことが特に好ましい。切削工具の刃先の靭性が特に優れたものとなり、耐摩耗性と靭性とを高度に両立させることに資するものとなるからである。
このような化学蒸着アルミナ層の厚みは、0.3μm以上20μm以下とすることが好ましく、より好ましくはその下限を0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上、その上限を15μm以下、さらに好ましくは10μm以下とすることが好適である。化学蒸着アルミナ層の厚みが0.3μm未満の場合、耐摩耗性を改善する効果が低減する場合があり、20μmを超えても大幅に耐摩耗性を改善することがないため工業的に好ましくない場合がある。
ここで、アルミナを主体として含むとは、アルミナを50質量%以上含有することを意味し、より好ましくは不可避不純物を除きアルミナのみによって構成されることをいう。なお、アルミナの結晶構造は、X線回折法(XRD)により同定することができる。
<その他の化学蒸着層>
本発明の化学蒸着層は、低温度の化学蒸着法で形成されたTiCNを含む層を含むことが好ましい。熱の適用による基材のダメージを低減させつつ、耐摩耗性に優れる炭窒化チタン(TiCN)を含む層を形成させることができるからである。
このようなTiCNを含む層の厚みは、0.3μm以上20μm以下とすることが好ましく、より好ましくはその下限を0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上、その上限を15μm以下、さらに好ましくは10μm以下とすることが好適である。この層の厚みが0.3μm未満の場合、十分に耐摩耗性を向上させることができない場合があり、20μmを超えても大幅に耐摩耗性を改善することがないため工業的に好ましくない場合がある。
ここで、低温度の化学蒸着法とは、上記で説明したような化学蒸着法が通常約950〜1050℃で成膜が行なわれることが多いのに対して、約830〜950℃という比較的低温で行なう方法をいい、MT−CVD(medium temperature CVD)法と呼ばれることもある。この方法は、成膜の際加熱による基材のダメージを低減することができるため好ましい。また、この場合、成膜の際に使用するガスは、ニトリル系のガス、特にアセトニトリル(CH3CN)を用いると量産性に優れて好ましい。
なお、本発明の化学蒸着層は、上記のようなMT−CVD法により形成される層と、HT−CVD法(high temperature CVD、上記でいう通常条件の化学蒸着法)により形成される層とを積層させた複層構造のものとすることにより、これらの各層間の密着力が向上する場合があり、好ましい場合がある。
<物理蒸着層>
本発明の物理蒸着層は、上記の化学蒸着層上に物理蒸着法により形成されるものであって、1層以上の層からなるものである。このような物理蒸着法としては、従来公知の物理蒸着法をいずれも採用することができ特に限定されることはない。このような物理蒸着法としては、たとえばマグネトロンスパッタリング法、アーク式イオンプレーティング法、ホロカソード法、イオンビーム法、電子ビーム法、アンバランストマグネトロンスパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法等を挙げることができる。
上記に例示した方法の中でも、特にアーク式イオンプレーティング法を採用することが好ましい(後述の物理蒸着アルミナ層に関してはアンバランストマグネトロンスパッタリング法、またはデュアルマグネトロンスパッタリング法を採用することが好ましい)。物理蒸着層に対して極めて有効に圧縮残留応力を付与することができるからである。なお、物理蒸着法を実行する装置としては、上記のような方法に用いられる各イオン源を併設したものを採用することが好ましい。また、物理蒸着層の化学組成は、上記(被覆層の項)で既に説明した組成を採用することができる。
本発明の物理蒸着層は、物理蒸着法により形成されることから圧縮残留応力を有したものとなる。これにより、上記のような優れた効果を示すことができる。なお、このような圧縮残留応力の測定は、上記と同様の方法により行なうことができる。
そして、このような圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、上記のような優れた効果を得ることができない場合がある。一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が6GPaを越えると該層自体が破壊したり剥離したりすることがあり好ましくない。
なお、本発明の物理蒸着層の厚み(2層以上で形成される場合はその全体の厚み)は、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上5μm以下である。その厚みが0.01μm未満の場合、外観の色調に斑が生じる場合があり、一方、10μmを超えると該層自体が自己破壊したり剥離したりするため、切削工具の刃先の靭性が低下し好ましくない。
<物理蒸着アルミナ層>
本発明の物理蒸着層は、耐摩耗性を向上させるためにアルミナを主体として含む物理蒸着アルミナ層を含むことが好ましい。この物理蒸着アルミナ層は、物理蒸着法により形成されることから圧縮残留応力を有する。そして、物理蒸着アルミナ層は、α−アルミナを含むことが特に好ましい。切削工具の刃先の耐摩耗性が特に優れたものとなり、耐摩耗性と靭性とを高度に両立させることに資するものとなるからである。
このような物理蒸着アルミナ層の厚みは、0.05μm以上10μm以下とすることが好ましく、より好ましくはその下限を0.1μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、その上限を8μm以下、さらに好ましくは6μm以下とすることが好適である。物理蒸着アルミナ層の厚みが0.05μm未満の場合、十分に耐摩耗性を向上させることができない場合があり、10μmを超えると密着強度が低下する場合がある。
ここで、アルミナを主体として含むとは、上記の化学蒸着アルミナ層における定義と同一である。
<被覆層の積層の好適な態様>
本発明の被覆層は、基材上にまず1層以上の化学蒸着層が形成され、その化学蒸着層上に1層以上の物理蒸着層が形成された構成を有するものである。そして、このような積層構成において、次のような構成を採用することが特に好適である。
すなわち、該化学蒸着層は、その最上層(物理蒸着層に接する層)として上記化学蒸着アルミナ層が形成されていることが好ましい。換言すれば、該物理蒸着層は、この化学蒸着アルミナ層上に形成されることが好ましい。このような積層の態様とすることにより、特に耐摩耗性と靭性とを高度に両立させることができる。また、化学蒸着アルミナ層のようにアルミナを主体として含む層は外観色が黒味を帯びる傾向が強いが、このような構成とすることにより物理蒸着層の色彩を淡色のものとすれば切削工具の使用状態を容易に判別することができるという利点もある。
また、上記のような積層の態様において、化学蒸着アルミナ層上に物理蒸着層として物理蒸着アルミナ層を形成すれば、化学蒸着層と物理蒸着層との密着性が極めて良好となり特に優れた切削性能を示すことができる。
一方、上記化学蒸着アルミナ層と上記物理蒸着層(特に物理蒸着アルミナ層以外の物理蒸着層)との間に、上記化学蒸着アルミナ層以外の化学蒸着層が0.01μm以上3μm以下の厚みで形成されていると、化学蒸着アルミナ層と物理蒸着層との密着性が良好となり優れた切削性能を示す場合がある。このような化学蒸着アルミナ層以外の化学蒸着層は1層または2層以上形成することができ、2層以上形成する場合においてもその総厚みを0.01μm以上3μm以下とすることがより好ましく、組成としてはCr、Ti、Al、Si、V、Zr、Hf、TiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiO2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC、NbC、NbN、NbCN、Mo2C、WC、W2C等からなる層であることが好ましい。
<製造方法>
上記で各説明したような構成の本発明の表面被覆切削工具は、次のような製造方法により製造することができる。すなわち、かかる製造方法は、基材上に化学蒸着法により1層以上の化学蒸着層を形成する工程と、該化学蒸着層の最表面に対してボンバード処理を行なうことにより該化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与する工程と、該ボンバード処理を行なった該化学蒸着層上に物理蒸着法により1層以上の物理蒸着層を形成する工程と、を含む。該製造方法は、上記のような工程が含まれる限り、他の工程が含まれていても差し支えない。
なお、上記において、圧縮残留応力を付与する工程と物理蒸着層を形成する工程とは、該化学蒸着層の最表面に対してボンバード処理を行なうとともに物理蒸着法により1層以上の物理蒸着層を形成することにより該化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与する工程というように一工程として扱うこともできる。
ここで、化学蒸着層を形成する工程において採用される化学蒸着法は、上述の通り従来公知の化学蒸着法であればいずれの条件のものも採用することができる。
また、化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与する工程において採用されるボンバード処理も、従来公知のいずれの条件のものも採用することができる。たとえば、アルゴンガス等を用いるガスボンバードを採用することもできるし、Ti、TiAl、TiSi、AlCr等の金属を用いるメタルボンバードを採用することもできる。また、メタルボンバードを採用する場合、真空下(減圧下)で行なってもよいし、窒素等の気体の共存下で行なってもよい。そして、圧縮残留応力を付与する上で特に好適な条件としては、たとえば物理蒸着層を形成するときのバイアス電圧よりも高いバイアス電圧を採用することが好ましい。
また、物理蒸着層を形成する工程において採用される物理蒸着法は、上述の通り従来公知の物理蒸着法であればいずれの条件のものも採用することができる。そして、それらの従来公知の物理蒸着法の中でも特にアーク式イオンプレーティング法を採用することが好ましい。このようなアーク式イオンプレーティング法の具体的な条件を挙げると以下の通りである。
たとえば、まず所望の構造の物理蒸着層が得られるように適切な配合比で各対応する元素を含んだターゲットをアーク式蒸発源にセットし、基板(基材)温度を400〜700℃および該装置内の反応ガス圧を2.0〜6.0Paに設定し、反応ガスとしてたとえば窒素、メタン、酸素等のうちから1以上のガスを選択することによりこれを導入する。そして、基板(負)バイアス電圧を−60V〜−200Vに維持したまま、カソード電極に50〜120Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより物理蒸着層を形成することができる。
なお、上記のような製造方法において、化学蒸着層の形成後に行なわれるボンバード処理および物理蒸着層の形成は、基材上に化学蒸着層を形成した後、これを一旦大気中に取り出した後に行なってもよいし、同一の装置内で連続的に行なってもよい。
なお、上記のボンバード処理と物理蒸着層の形成は、同一の装置内で連続的に行なうことができるため、極めて製造効率が高いという利点を有する。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
2.0質量%のTaC、1.0質量%のNbC、1.5質量%のTiC、6.5質量%のCoおよび残部WCからなる組成(ただし不可避不純物を含む)の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1450℃、1時間焼結し、その後平面研削処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.06mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、JIS B4120(1998改)規定の切削チップCNMA120408と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱β層が13.5μm形成されていた。
次いで、この基材を複数準備し、個々の基材上に以下の表1に記載した化学蒸着層と物理蒸着層とを以下のようにして形成した。
すなわち、上記各々の基材上に化学蒸着法により以下の表1に記載した1層以上の化学蒸着層を形成した(各層を形成する具体的条件は表7に記載されており、表1記載の積層構成に応じて各条件を逐次採用して形成した)。次いで、このようにして形成された化学蒸着層の最表面に対して以下の表1に記載したボンバード処理(各ボンバード処理の種類に応じた具体的条件は表8に記載)を行なうことにより、この化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与した。続いて、このようにボンバード処理を行なった化学蒸着層上に物理蒸着法であるアーク式イオンプレーティング法またはアンバランストスパッタリング法(各層を形成する具体的条件は表9に記載されており、表1記載の積層構成に応じて各条件を逐次採用して形成した)により以下の表1に記載した1層以上の物理蒸着層を形成することにより表面被覆切削工具を製造した。なお、上記の処理は、すべて1つの成膜装置内で連続して行なった。なお、比較用として、表2に記載した構成の表面被覆切削工具も製造した。
すなわち、以下の表1のNo.101〜110は本発明の実施例の表面被覆切削工具であり、表2のNo.111〜117は比較例の表面被覆切削工具である。本発明の実施例の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを備えるものであって、該被覆層は、化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含み、該化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有するものであった。
また、No.111の比較例の表面被覆切削工具は、No.101の実施例の表面被覆切削工具の化学蒸着層と同構成の化学蒸着層を有し、同様に、比較例No.112、113、114、115、116、117の表面被覆切削工具は、それぞれ実施例No.104、105、106、107、109、110の表面被覆切削工具の化学蒸着層と同構成の化学蒸着層を有していた。
Figure 2008296356
Figure 2008296356
上記表1および表2中、化学蒸着層の欄の化学式は化学蒸着層を構成する各層の組成を示し、同欄の数値は「厚み(μm)」(α−Al23またはκ−Al23で表される層(すなわち化学蒸着アルミナ層)については「残留応力(GPa)/厚み(μm)」)を示す(残留応力のマイナスの数値は圧縮残留応力であることを示し、プラスの数値(マイナスの表記のないもの)は引張残留応力であること示す)。なお、化学式で示される各層は、左側のもの(2段以上のものは上段の左側のもの)から順に基材上に形成したことを示し、「MT−TiCN」とはTiCNからなる層を上記のMT−CVD法により形成したことを示し、「HT−TiCN」とはTiCNからなる層を上記のHT−CVD法により形成したことを示す(単に「TiCN」と記載されている層はMT−CVD法により形成したことを示す)。また、α−Al23およびκ−Al23(κは結晶構造がκ型であることを示す)はそれらを主体とする化学蒸着アルミナ層であることを示す。なお、残留応力は、表面被覆切削工具を製造後において上記の方法(sin2ψ法)によって測定した。
また、上記表1中、ボンバード処理の欄は、ボンバード処理の種類を示す(時間はボンバード処理を実施した時間を示し、TiボンバードとはTi(チタン)によるメタルボンバードを示し、ガスボンバードはアルゴンガスを用いたことを示し、これらの具体的条件は表8に示されている)。物理蒸着層の欄の化学式は物理蒸着層を構成する各層の組成(α−Al23およびγ−Al23(γは結晶構造がγ型であるアルミナを示す)はそれらを主体とする物理蒸着アルミナ層であること)を示し、2以上の化学式が示されているものは、上段のものから順に化学蒸着層上に形成したことを示す。同欄の数値は「厚み(μm)」を示す。
また、上記表2中、空欄(「−」)は該当する処理および層が実施/形成されなかったことを示す。
そして、上記で得られた表面被覆切削工具について、下記条件で耐摩耗性試験を行なうことにより逃げ面平均摩耗幅(VB)を測定するとともに、耐欠損性試験を行なうことにより破損率を求めた。その結果を以下の表3に示す。なお、逃げ面平均摩耗幅(VB)は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示し、破損率が小さくなる程、靭性に優れていることを示す。
<耐摩耗性試験の条件>
使用ホルダ:PCLNR2525−43(住友電工ハードメタル社製)
被削材:SCM435(HB=246)丸棒
切削速度:255m/min.
送り:0.27mm/rev.
切込み:2.0mm
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
切削時間:6分
<耐欠損性試験の条件>
使用ホルダ:PCLNR2525−43(住友電工ハードメタル社製)
被削材:SCM435(HB=246)角材
切削速度:95m/min.
送り:0.45mm/rev.
切込み:2.0mm
湿式/乾式:乾式
切削時間:1分
評価:20切れ刃を1分間切削した場合の破損数(破損した切れ刃の数)から破損率を求める(すなわち、破損率(%)=破損数/20×100)。
Figure 2008296356
表3より明らかなように、本発明の実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比し、耐摩耗性の向上と靭性の向上とが高度に両立されたものであることは明らかである。
なお、本実施例の表面被覆切削工具の基材は、チップブレーカを有するものではないが、チップブレーカを有するものについても本発明の効果は発揮される。また、本実施例は、切削チップとしてネガチップを用いて旋削を行なった事例を示すものであるが、ポジチップでの旋削や、ネガチップまたはポジチップによるフライスの事例においても本発明の効果は発揮される。また、本実施例の基材は、脱β層が形成されているが、脱β層が形成されていなくても本発明の効果は発揮される。
<実施例2>
0.5質量%のCr32、10.5質量%のCoおよび残部WCからなる組成(ただし不可避不純物を含む)の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1380℃、1時間焼結し、外径8mmの内部給油式ドリル(JIS K10超硬合金)を作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱β層が形成されていなかった。
次いで、この基材を複数準備し、個々の基材上に以下の表4に記載した化学蒸着層と物理蒸着層とを以下のようにして形成した。
すなわち、上記各々の基材上に化学蒸着法(実施例1と同様に具体的条件は表7に記載)により以下の表4に記載した1層以上の化学蒸着層を形成した。次いで、上記のようにして形成された化学蒸着層の最表面に対して以下の表4に記載したボンバード処理(実施例1と同様に具体的条件は表8に記載)を行なうことにより、この化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与した。続いて、このようにボンバード処理を行なった化学蒸着層上に物理蒸着法であるアーク式イオンプレーティング法またはアンバランストスパッタリング法(実施例1と同様に具体的条件は表9に記載)により以下の表4に記載した1層以上の物理蒸着層を形成することにより表面被覆切削工具を製造した。なお、上記の処理は、すべて1つの成膜装置内で連続して行なった。なお、比較用として、表5に記載した構成の表面被覆切削工具も製造した。
すなわち、以下の表4中、No.201〜210は本発明の実施例の表面被覆切削工具であり、表5中のNo.211〜217は比較例の表面被覆切削工具である。本発明の実施例の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを備えるものであって、該被覆層は、化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含み、該化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有するものであった。なお、物理蒸着層の各層はすべて圧縮残留応力を有していた。
また、No.211の比較例の表面被覆切削工具は、No.201の実施例の表面被覆切削工具の化学蒸着層と同構成の化学蒸着層を有し、同様に、比較例No.212、213、214、215、216、217の表面被覆切削工具は、それぞれ実施例No.204、205、206、207、208、210の表面被覆切削工具の化学蒸着層と同構成の化学蒸着層を有していた。
Figure 2008296356
Figure 2008296356
上記表4および表5中の各表記は、上記表1および表2における表記と同様の表記を用いており、同様の意味を有している。
そして、上記で得られた表面被覆切削工具について、穴あけ試験を行なった。その試験の条件は以下の通りである。結果を以下の表6に示す。
<耐摩耗性試験の条件>
被削材:SCM440ブロック材(HB=275)
切削速度:80m/min.
送り:0.24mm/rev.
穴あけ深さ:16mm(止まり穴加工)
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
評価:穴寸法精度が規格を外れる時点までに穴あけ加工された穴数を求めた。穴数が多いもの程、耐摩耗性に優れていることを示す。
<耐折損性試験の条件>
被削材:SCM440ブロック材(HB=275)
切削速度:80m/min.
穴あけ深さ:40mm(貫通穴加工)
湿式/乾式:湿式(水溶性油)
評価:0.2mm/rev.で1穴あけ、折損しない場合は送りを0.05mm/rev.毎に上げて1穴加工し、折損した時点での送り(送り限界)を求めた。数値(単位:mm/rev.)が大きいもの程、耐折損性(すなわち靭性)に優れていることを示す。
Figure 2008296356
表6より明らかなように、本発明の実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比し、耐摩耗性の向上と靭性の向上とが高度に両立されたものであることは明らかである。
Figure 2008296356
Figure 2008296356
Figure 2008296356
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (14)

  1. 基材と、該基材上に形成された被覆層とを備える表面被覆切削工具であって、
    前記被覆層は、化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含み、
    前記化学蒸着層は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有する表面被覆切削工具。
  2. 前記被覆層の各層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素によって構成されるか、または該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される請求項1記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記化学蒸着層は、アルミナを主体として含む化学蒸着アルミナ層を含む請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記物理蒸着層は、前記化学蒸着アルミナ層上に形成される請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記物理蒸着層は、アルミナを主体として含む物理蒸着アルミナ層を含む請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記物理蒸着アルミナ層は、前記化学蒸着アルミナ層上に形成される請求項1〜5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記化学蒸着アルミナ層と前記物理蒸着層との間に、前記化学蒸着アルミナ層以外の化学蒸着層が0.01μm以上3μm以下の厚みで形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  8. 前記化学蒸着アルミナ層は、圧縮残留応力を有している請求項1〜7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  9. 前記化学蒸着アルミナ層は、α−アルミナを含む請求項1〜8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  10. 前記化学蒸着層は、低温度の化学蒸着法で形成されたTiCNを含む層を含む請求項1〜9のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  11. 前記化学蒸着層は、1μm以上30μm以下の厚みを有し、前記物理蒸着層は、0.01μm以上10μm以下の厚みを有する請求項1〜10のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  12. 前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成される請求項1〜11のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  13. 前記表面被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用刃先交換型切削チップのいずれかである請求項1〜12のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  14. 基材と該基材上に形成された被覆層とを備え、前記被覆層は化学蒸着法により形成される1層以上の化学蒸着層と、その化学蒸着層上に物理蒸着法により形成される1層以上の物理蒸着層とを含む表面被覆切削工具の製造方法であって、
    前記基材上に化学蒸着法により1層以上の前記化学蒸着層を形成する工程と、
    前記化学蒸着層の最表面に対してボンバード処理を行なうとともに物理蒸着法により1層以上の前記物理蒸着層を形成することにより前記化学蒸着層の少なくとも1層に圧縮残留応力を付与する工程と、を含む表面被覆切削工具の製造方法。
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