JP2008292375A - 走査プローブ顕微鏡に用いる探針及びカンチレバー - Google Patents

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Koji Koyama
浩司 小山
Kazuhiko Sunakawa
和彦 砂川
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Abstract


【課題】 製造工程が簡便であり、なおかつ単結晶材料の性質が最大限に引き出せるような状態で使用することの出来る、SPMのカンチレバー2に用いるための探針1と、カンチレバー2の製造方法を提供することである。
【解決手段】 走査プローブ顕微鏡(SPM)に用いるカンチレバー2の梁部2aの先端に有する探針1であって、当該探針1が、10μm以上の長さを有する針状部1aと、カンチレバー本体2と接する面を有する平板部1bとからなり、当該針状部と平板部はダイヤモンド単結晶材料で一体に形成され、かつ前記針状部の側面の中心線表面粗さが10nm以上であることを特徴とする探針1である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、各種性質を有する単結晶材料を用いた走査プローブ顕微鏡に用いるための探針と、当該探針の取付けられたカンチレバーに関する。
物質表面をナノオーダーの分解能で観察する装置として、走査プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscopy; 以下SPMとする)が産業上広く用いられている。SPMは、プローブ先端の探針と試料との間に生じる、原子間力等の相互作用を利用して像を得るものである。
このSPMのキーパーツともいえる探針は、先端が原子レベルで尖るように形成される必要があるが、単結晶材料を用いて探針を製造する場合には、一般に先端を容易に尖らせることが出来るという特徴がある。特に近年、アスペクト比の大きな試料に対しての測定及び計測についてのニーズが高まっており、針の部分が長い探針が強く求められており、単結晶材料の果たす役割は益々高まっている。
ここで、単結晶材料,例えばダイヤモンド単結晶からなる探針を、カンチレバーの梁部に固定する方法としては、
(1)シリコンウエハの前面にフォトレジストを形成する工程と、該フォトレジストをパターニングする工程と、該パターニングしたフォトレジストをマスクとして前記シリコンウエハをエッチングする工程と、エッチング終了後に前記フォトレジストを剥離する工程と、前記シリコンウエハのエッチング対向面に傷入れを行う工程と、該傷入れ部に探針となるダイヤモンドを成長させる工程と、該ダイヤモンド成長後前記シリコンウエハ表面に酸化膜を形成する工程と、該酸化膜表面に窒化膜を形成する工程と、前記ダイヤモンド探針部及びシリコンウエハ裏面の窒化膜を取り除くエッチングのためのフォトレジストパターニングマスクを形成する工程と、該フォトレジストパターニングマスクを除去する工程と、前記シリコンウエハのダイヤモンド探針形成側の酸化膜が露出するまで前記シリコンウエハのエッチング部をさらにエッチングする工程と、エッチング終了後に、前記シリコンウエハのエッチング部に金属薄膜を形成する工程とからなる原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法(特許文献1)
(2)磁性物質から形成された円形のスタイラス保持部にダイヤモンド原石を固定し、前記ダイヤモンド原石を研削してスタイラスを形成し、前記スタイラス保持部の磁性物質を磁化させ、カンチレバーの梁部に接着剤を塗布し、前記スタイラス保持部を梁部の接着剤塗布面上に固定し、前記接着剤が硬化した後に前記磁石を前記梁部から離すと共に、前記スタイラス保持部の磁性物質を消磁させる方法(特許文献2)
が、従来知られている。
一方、生物細胞の機能探究のため、生物細胞の活動に伴う細胞内物質の挙動の研究が注目を浴びている。その方法の一つとしてSPMに導電性のカンチレバーを取り付け、細胞内にプローブを挿入して細胞内物質の挙動を調べる手法がある。この手法の利点としては、液中でSPM観察像をとることで、生きた細胞の形状を捉え、その場で細胞の任意の場所にプローブを挿入し、プローブを電極として細胞内物質の挙動を測定することが可能であることなどが挙げられる。
又、局所的な化学反応を検知するツールの一つに微小電極が挙げられる。通常の電極と比べて微小電極が優れている点は定常電流、もしくは準定量電流での測定が可能であること、電極反応電流と無関係な充電電流を小さくできること、局所分析に用いることが可能であることなどが挙げられる。
特開平05−203444号公報 特開平04−106852号公報
しかしながら、特許文献1の方法でダイヤモンドからなる探針をカンチレバーの梁部に形成させる方法では、レジスト膜や窒化膜等の成膜や除去を必要とする等、数多くの手順を踏まなければならず、簡便さに欠けるという問題点があった。
また、特許文献1の方法でダイヤモンドからなる探針をカンチレバーの梁部に形成させる方法では、シリコンからなる穴の内側でダイヤモンドを成長させる必要がある。ここで成長するダイヤモンドと、梁部のシリコンとの間では、結晶の格子定数が大きく異なる。そのため、成長した探針の結晶には欠陥が多く発生し、該探針の機械的強度が低下するという問題点があった。
さらに、特許文献2の方法では、カンチレバーの上にスタイラス保持部が接着され、当該スタイラス保持部のさらに上にダイヤモンドからなるスタイラス(探針)が固定される。この場合には、スタイラスとカンチレバーとの間に接合分が2箇所存在するため、その各々でダイヤモンドの結晶方位がずれる可能性が大きく、当該探針の材料が有する性質を完全に生かせるような探針を作ることが出来ないという問題点があった。
さらに、SPM用探針を電極として用いる場合には、探針表面の化学反応を電気信号として検出するため、探針の側面の表面積が大きい(つまり、表面が粗い)ほど、相互作用が大きくなって検出感度が向上する等の測定上の利点がある。しかしながら、探針の側面を粗くする技術は未だ開発されていない。
一方、生物細胞内物質をSPM探針を用いて検出するためには、SPM用プローブに導電性を付与するべく、探針の先端に導電性を持たせた微小電極を取り付けたものをプローブとすることが考えられる。特に、ダイヤモンドは物質中最高の硬さを持ち、かつ不活性な物質であり、生体適合性が高いため、プローブの材料として好ましい。
このようなことから、不純物をドープして導電性を持たせた多結晶ダイヤモンドを用いたSPM用カンチレバーがすでに市販されている。このカンチレバーは、シリコン製のカンチレバー基体上にホウ素をドープした多結晶ダイヤモンドをプラズマCVD法や熱CVD法などを用いてヘテロエピタキシャル成長させて製造されている。
しかしながら、多結晶ダイヤモンド製の探針の場合、結晶粒の大きさが大きいため、針の先端径が100nm前後となってしまい、生きた細胞に低侵襲で針を挿入することは非常に困難である。このため、単結晶ダイヤモンド製で先端が小さく、かつ導電性を持たせた探針が必要となっている。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、製造工程が簡便であり、なおかつ単結晶材料製の探針側面の表面積を大きくした、SPMのカンチレバーに用いるための探針と、カンチレバーの製造方法を提供することである。
本発明者は、単結晶材料製の探針側面の表面積を大きくすることにより、生物細胞内物質検出感度を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、請求項1記載の発明は、走査プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーの先端に有する探針であって、当該探針が、10μm以上の長さを有する針状部と、カンチレバーの梁部と接する面を有する平板部とからなり、当該針状部と平板部はダイヤモンド単結晶材料で一体に形成され、かつ前記針状部の側面の中心線表面粗さが10nm以上であることを特徴とする。
請求項2記載の発明は、走査プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーの先端に有する探針であって、当該探針が、10μm以上の長さを有する針状部と、カンチレバーの梁部と接する面を有する平板部とからなり、当該針状部と平板部は絶縁性のダイヤモンド単結晶材料で一体に形成され、かつ前記針状部の先端は導電性を有することを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて、前記平板部の少なくとも一つの側面に、上記単結晶材料の結晶方位を示すための平面を有することを特徴とする探針である。
ダイヤモンド単結晶は最も固い物質として知られており、当該単結晶の性質として極めて大きな耐摩耗性を有している。ここで、比較的整形しやすい{100}面の中でも、<110>方向が走査方向と平行となるように探針の走査方向を設定できれば、当該探針の磨耗を好ましく防ぐことが出来る。
また、請求項4記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、上記平面が、当該平板部の両側面が互いに平行に形成されていることを特徴とする探針である。
ここで、互いに平行な2つの平面を探針に形成させると、探針をカンチレバーの梁部に搭載する際の、当該探針の保持を容易にすることも可能である。
また、請求項5記載の発明は、当該カンチレバーの梁部の両側面が互いに平行な平面を有するとともに、当該探針が、当該梁部の主面上に、当該平板部の両側面と当該梁部の両側面とが互いに平行になるように配され、当該平板部の両側面間の距離が、当該梁部の両側面間の距離に対して0.9〜1.1倍の距離を有し、当該探針を当該梁部の主面上に配する際に、液状の接着剤を用いて互いに接着されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の探針を有するカンチレバーである。
ここで、上記のように探針と梁部との位置関係を構成することで、当該探針の平板部の両側面及び当該梁部の両側面を、略同一の平面にすることが出来る。
本発明に係るSPMに用いるための探針によれば、ダイヤモンド単結晶材料製の探針側面の表面積を10nm以上に大きくすることにより、生物細胞内物質検出感度を向上できる。
また、本発明の請求項2に係る探針によれば、探針の針状部先端は導電性を持つため、細胞内にプローブを挿入し、プローブを電極として細胞内物質の挙動を測定することが可能である。しかも探針全体はダイヤモンド単結晶材料製であるので、ダイヤモンド多結晶より探針先端を細くできる。
また、本発明の請求項3に係る探針によれば、特徴的な性質を有した単結晶材料をSPMの探針に用いた場合であっても、カンチレバーの梁部に搭載する際に結晶方位を高精度に合わせることが可能である。従って、当該単結晶材料の性質を最大限に引き出したカンチレバーの提供をすることが出来るという効果を奏する。
また、本発明の請求項5に係るカンチレバーによれば、探針の平板部の両側面とカンチレバーの梁部の両側面とが略同一の平面になるようにした上で、液体の接着剤を用いてこれらを接着することで、液体の接着剤の表面には表面張力が働くため、当該表面張力が梁部及び平板部の両側面を押すことが出来る。それにより、自働的に探針の結晶方位を最適な方向に合わせることが出来るという効果を奏する。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本実施形態の探針1は、図1に示すように、針状部1aと平板部1bとが一体に形成され、SPMのカンチレバー2の先端に用いるためのものである。
<探針の形態について>
本実施形態における探針1の材料としては、図2(a)に示すように、高い耐磨耗性を有する材料として、ダイヤモンド単結晶4を用いる。ダイヤモンド単結晶4としては高温高圧合成の人工ダイヤモンドや、天然のダイヤモンドを用いることが可能である。
特に、ダイヤモンド単結晶4の一方の面に電気伝導性を付与させると、後述するように探針先端が導電性のSPMプローブ(以下、適宜「ダイヤモンド微小電極」という)を製造できる。ダイヤモンド単結晶4の一方の面に電気伝導性を付与させる方法としては、ホウ素やリンを絶縁性の単結晶ダイヤモンドの一面から所定深さまでドープさせる方法を用いることができる。ドープする方法としては、ダイヤモンド単結晶の成膜時に不純物としてホウ素やリンを含むガスを混入させる方法や、ホウ素やリンをダイヤモンド単結晶表面に打ち込む方法(イオン注入)などがある。
つまり、ダイヤモンドは不純物を含まない場合には絶縁体であるが、ホウ素、リンなどをドーピングすることや、これらのイオンをダイヤモンド表面に打ち込むことで導電性を持たせることが可能である。そして、ダイヤモンドは電極材料としても水溶液中における水素や酸素過電圧が大きいこと、レドックス系に対する応答が良いことやバックグラウンド電流が小さいことなどの優れた特徴を持っている。従って、ダイヤモンドの優れた特徴からダイヤモンドを細胞内物質の挙動を調査するためのプローブとしてSPM用カンチレバーに搭載すると好ましい。
一方、従来、生体細胞内に挿入するプローブとして、半導体プロセスで加工されたシリコン製のカンチレバーに対し、電極として通常用いられる白金などをコーティングしたものが用いられている。しかし、シリコンは溶液中で電極として用いた場合にはバックグラウンド電流が大きいことや、微細に加工した場合に十分な強度が得られないなどの問題があり、ダイヤモンドを用いる方が有利である。
例えば、絶縁性の単結晶ダイヤモンド表面にプラズマCVD法などを用いて10ナノメートルから100ミクロンまでの厚さ(深さ)で、電気伝導性を持つ領域として、導電層1eを形成することができる。導電層1eの厚さが10nm以下であると、カンチレバー形状に加工し、SPM装置に搭載して表面形状を観察している間に導電層1eが摩耗して微小電極として機能しなくなってしまう恐れがある。導電層1eの厚さが100ミクロン以上になると、導電層1eを形成するドーピング工程の生産性が低くなり、好ましくない。
なお、導電層中のドープ物質の濃度は重量で1000ppm以上であることが好ましい。
SPMによって測定又は観察を行う際、探針1と対象物とは原子間力等の相互作用が働きうるような極めて近接した状態になるか、完全に接触した状態になる。ここで、単結晶材料4として耐磨耗性を有するダイヤモンド材料を用いれば、当該探針1を有するカンチレバー2を走査させて測定又は観察を行う際にも、当該探針1の磨耗を防ぐことが出来、SPMの測定分解能を長く維持することが出来る。
当該探針1の針状部1aの長さは10μm以上になるようにして、当該針状部1aの先端部の直径は数nm〜数十nmとなるようにする。当該針状部1aはより長くすることで、アスペクト比の高い試料の凹凸にも容易に対応することが可能であるが、特に500μmを超えると、当該探針1が試料に接触した際に折れやすくなるため好ましくない。
又、針状部1aのアスペクト比を高くすれば、細胞内に低侵襲で挿入可能なダイヤモンド微小電極を作製することができる。この場合の針の先端径は対象とする細胞の大きさによって異なるが、一般的には10ナノメートル〜10ミクロン程度である。そして、この微小電極を市販のSPM用シリコン製カンチレバー先端に取り付け、導通を取るために白金や金などの金属コーティングをすることでSPM装置に搭載可能なダイヤモンド電極が得られる。
さらに、上記したように、針状部の側面の中心線表面粗さを10nm以上とすれば、表面積増大の効果により、生物細胞内物質との反応が効率的に生じ、検出感度が向上できる。
一方で、当該探針1の平板部1bは、底面の幅が20〜500μm、奥行きが20〜500μmの大きさであり、厚さは20〜500μmであるようにする。当該探針1の底面積が400μmよりも小さいと、当該底面とカンチレバー2の梁部2aとの接触面積が小さくなり、当該探針1がカンチレバー2から脱落しやすくなる。また、当該平板部1bの厚さが20μmよりも小さいと、当該平板部1bが自立して存在することが困難となり、きわめて割れやすくなる。また、当該平板部1bの底面及び高さが大きくなりすぎると、当該探針1の重量が重くなり、カンチレバー2の共振周波数が低くなるため、いずれも好ましくない。
ここで、当該探針1の平板部1bの側面には、当該単結晶材料4の結晶方位を示すための少なくとも一つの平面1cを有するようにすることが好ましい。この平面1cの結晶方位は、カンチレバー2の走査方向と最も耐摩耗性のある単結晶材料4の結晶方位とを重ね合わせた際に、カンチレバー2の側面と平行になるような結晶方位を選択することが好ましい。このように平面1cの結晶方位を選択すると、カンチレバー2の梁部2aに当該探針1を搭載する際に、当該結晶方位を容易に高精度に合わせることが可能になるからである。つまり、探針の性質を最大限に引き出すには、最適に選択された結晶方位を有する探針をカンチレバー
の梁部とは別に形成した上で、当該探針の基部に形成された平板部を活用して当該梁部に搭載させることが有効となる。
また、当該平板部1bの側面に有する平面1cは、両側面に互いに平行に形成されていることが好ましい。特に当該探針1が点対称な形状を有する場合には、カンチレバー2の梁部2aに当該探針1を搭載する際に、平面1cのいずれを用いても結晶方位を合わせることが出来る。また、当該探針1をカンチレバー2の梁部2aに載置する際に、当該探針1の保持を容易に行うことが出来るため好ましい。
そして、これら針状部1aと平板部1bとは、同一の単結晶により一体に形成されるようにする。以下において、具体的な探針1の形成方法について述べる。
<探針の形成方法について>
上述するような、探針1の材料たるダイヤモンド単結晶材料4は、探針1の平板部1bの底面と同一形状の底面を有するとともに、探針1の針状部1aの長さと平板部1bの厚さとを足した厚さを有するように切り出される。そして、当該単結晶材料4の全体を、例えば固定砥粒や流動砥粒、特にスカイフ研磨といった、公知の研磨手段によって研磨される。
このとき、切り出された単結晶材料4の側面には、当該単結晶材料4の結晶方位を示すための少なくとも一つの平面を有するようにする。この平面の結晶方位は、カンチレバー2を走査方向と最も耐摩耗性のある結晶方位とを重ね合わせた際に、カンチレバー2の梁部2aの側面と平行になるような面を選択することが好ましい。このような平面を選択すると、カンチレバー2の梁部2aに当該探針1を搭載する際に、結晶方位を容易に高精度に合わせることが可能になるからである。
そして、研磨された単結晶材料4の針状部1aを形成する側の面について、針状部1aにあたる部分を除いて除去する。除去の方法としては、プラズマエッチング等のドライエッチング,又は熱化学加工(ダイヤモンドと金属との化学反応を利用した加工)の手段を好ましく用いることが出来る。これらの手段によれば、針の側面をエッチングして中心線表面粗さを10nm以上に粗くすることができる。
ここで、針の側面の中心線表面粗さが10nm未満の場合、対象物が大きい分子の場合、針表面との反応の際に凹凸の効果が期待されず、中心線表面粗さが10μm以上になると針の形状に影響を与えるため好ましくない。
又、針の側面の中心線表面粗さを求める方法は、針の側面から見た走査電子顕微鏡像(SEM像)を撮影し、針の側面の凹凸のうち、針の延びる方向から見たときの隣接する2つの凸の間隔Tを測定する。この時、ダイヤモンド単結晶の原子の配列角度との関係で、2つの凸の間の凹部は、凸面から約0.65T凹むようになる。従って、中心線平均粗さRaは粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ切り取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値を求める。つまり、
Figure 2008292375
となる。
本発明者らが多数のSEM像からTの範囲を求めた結果、Tは最小で50nmであり、この凹みが規則的に繰り返しているとすると、Raは上式より10nm以上となることが判明した。
一方、レーザ加工や集束イオンビーム(FIB)加工は、針の側面の中心線表面粗さが10nm未満に小さくなるので好ましくない。
熱化学加工により針状部1aを形成する場合、単結晶材料4としては、ダイヤモンド単結晶を用いる(図2(a))。ダイヤモンド単結晶は、処理面を鏡面研磨加工などの手段によってRa=1nm以下に平坦化した後、ダイヤモンド単結晶の処理面上に、炭素を溶解しうる金属、例えばニッケル,ロジウム,パラジウム,白金,イリジウム,タングステン,モリブデン,マンガン,鉄,チタン,クロム,またはそれらの合金を用いた金属薄膜6を、0.1μm以上の厚さで均一に成膜する(図2(b))。当該金属薄膜6の成膜方法としては、スパッタリング法,分子線ビームエピタキシー(MBE)法,真空蒸着法,イオンプレーティ
ング法などを用いることが出来る。当該金属薄膜6の厚さが0.1μm未満であると、熱処理の工程において金属薄膜6が凝集してしまうため好ましくない。
そして当該金属薄膜6に対して、機械加工,レーザ加工,フォトリソグラフィ,収束イオンビーム(FIB)等の手段によって、針状部1aの形状に合わせて除去して、該ダイヤモンド単結晶露出部7を形成させる(図2(c))。そして、一部除去された金属薄膜6を有するダイヤモンド単結晶に対して熱処理を行い、当該金属薄膜6の内部にダイヤモンド単結晶の炭素原子を取り込ませる。それにより、当該金属薄膜6が当該ダイヤモンド単結晶露出部7を残してダイヤモンド単結晶の中に埋没していき(図2(d))、その結果、当該ダイヤモンド単結晶露出部7の直下が処理されずに残る。ダイヤモンド単結晶の表面に残った金
属薄膜6は、必要に応じて酸処理等の手段により除去することが出来る(図2(e))。以上の工程により、ダイヤモンド単結晶に針状部1aを高精度に形成させることが出来る。
本発明における上記熱化学加工の熱処理の条件は、要求される加工量に応じ、熱処理温度によって加工レートが異なるので、適宜温度に応じて時間を調整する。熱処理温度は、例えば600〜1000℃程度である。
<探針のカンチレバー梁部への取り付けについて>
このように形成された探針1は、カンチレバー2の梁部2aの先端に取付けられる。ここで用いられる梁部2aは、探針1が搭載される側の面を頂面としたときに、側面のうちの少なくとも1つが平坦な平面2cを有しているものである。
ここで、特に図3に示すように、カンチレバー2の梁部2aのうち少なくとも探針1の搭載される位置の近辺において、両側面が互いに平行な平面2cとして形成されていることが好ましい。さらに、搭載する探針1についても、両側面が互いに平行な平面1cとして形成されていることが好ましい。
当該探針1は、当該カンチレバー2の梁部2aの頂面上に搭載する。その際に、当該探針に形成された平面1cが、当該梁部に形成された平面2cと、互いに平行に(好ましくは同一平面上に)なるようにする。これらを平行に合わせることで、カンチレバー2における探針の結晶方位を、探針1aの性質を最も発揮出来る状態にすることが出来る。
ここで、当該平板部1bと当該カンチレバー2の両側面間における距離の比率が0.9〜1.1倍となるように構成し、さらに、液体となりうる接着剤8を用いて当該探針1と当該梁部2aとを接着することが好ましい。係る場合には、当該液体の表面張力によって角度合せの工程が自働的になされるからである。液体となりうる接着剤8としては、例えば常温で液体であるエポキシ系接着剤や、加熱時に液体となる鑞材等を、好ましく用いることが出来る。
<上記実施形態により形成された探針及びカンチレバーの具体例>
市販のHTHP法によって作られた4×4×1mmのIb(ダイヤモンドの結晶内に含有される不純物(窒素・硼素等)による分類)ダイヤモンド単結晶製の基板上に、プラズマCVD法によりホウ素をドープし、ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜(導電層)を厚み10μmに形成した。導電層を形成していない面側からスカイフ研磨によって基板の厚みを50μmに整厚し、その後表裏両面を鏡面研磨した。当該ダイヤモンド単結晶の結晶方位は、頂面が{100}面であり、両側面が{110}面である。
次に、ダイヤモンドと金属の化学反応を利用したダイヤモンド加工法を用いた。まず、基板の頂面に厚さ1μmのニッケル薄膜を形成した。そして、当該ニッケル薄膜に電子ビームリソグラフィにより直径約10nmの開口部を形成した。これらに対して熱化学加工(温度700度で50時間、水素10%+アルゴン90%雰囲気)を行い、ダイヤモンド単結晶の厚さのうち50μmについて、当該開口部を除いた部分をニッケル薄膜に溶解させ、当該開口部に針状部を形成させた。その結果、針状部の長さは30μm、針状部の先端の直径は1μm、平板部との境界部分の直径は約10μmのダイヤモンド単結晶からなる円錐状の探針
が形成された。
この時、ダイヤモンドと金属の化学反応が起こった針側面には直径100nm程度の凹凸が一面にできていることが確認された(図4)。この場合、上記したダイヤモンド単結晶の原子配列の角度との関係で、針側面の凹部の幅は100nm、深さは0.5nm程度となる。従って、中心線粗さのピッチ(100nm)と振幅(50nm)との関係から、針側面の中心線粗さは32.5nmと計算された。
その後、フェムト秒レーザーによって針を中心に50ミクロン角のチップ状に切り出した。このチップを市販のSPM用シリコン製カンチレバー先端に取り付けることによって、SPM装置に搭載可能な形状に仕上げた。その後、プローブ先端の導電性ダイヤモンドから導通をとるために、厚み10nmの白金の蒸着処理を針全体に施した。
以上のようにして、高いアスペクト比と大きい表面積を持つ微細構造先端に微小電極を持つ単結晶ダイヤモンドカンチレバーを作成することができ、細胞の形状を測定することができ、さらに観察された画像から細胞の任意の場所にプローブを挿入することが可能になる。さらに、針の表面積は、レーザー加工法による平滑な表面(針側面の中心線表面粗さ0.1nm程度)で同様のプローブを作製した場合に比べて、1.4倍となり、測定精度の向上が期待される。
なお、上記チップをカンチレバー先端に取付ける際、両者の接着面に、エポキシ系の接着剤を少量塗布し、その上に上記探針(チップ)を載置して、これらを接着した。すると、当該カンチレバーの走査方向として予定される当該梁部の側面と垂直な方向に対する、当該ダイヤモンド探針の最も耐摩耗性の高い結晶方位である<110>方向のなす角度を、角度合せの作業を特に行っていないにも拘らず、約5°に抑えることが出来た(図5)。
本実施形態に係る、探針とカンチレバーを説明する断面図である。 本実施形態に係る、熱化学加工法を用いた探針の針状部を形成する工程の断面を用いて説明する図である。 本実施形態に係る、好ましい形態のカンチレバー梁部についての平面図である。 本実施形態に係る、探針の針状部の側面形状のSEM像を示す図である。 本実施形態に係る、探針とカンチレバー梁部との好ましい接着工程について断面を用いて説明する図である。
符号の説明
1 探針
1a 針状部
1b 平板部
1e 導電層
2 カンチレバー
2a 梁部
1c,2c 平面
4 単結晶材料
6 金属薄膜
7 露出部
8 接着剤
9 カンチレバー支持部

Claims (5)

  1. 走査プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーの先端に有する探針であって、当該探針が、10μm以上の長さを有する針状部と、カンチレバーの梁部と接する面を有する平板部とからなり、
    当該針状部と平板部はダイヤモンド単結晶材料で一体に形成され、かつ前記針状部の側面の中心線表面粗さが10nm以上であることを特徴とする探針。
  2. 走査プローブ顕微鏡に用いるカンチレバーの先端に有する探針であって、当該探針が、10μm以上の長さを有する針状部と、カンチレバーの梁部と接する面を有する平板部とからなり、
    当該針状部と平板部は絶縁性のダイヤモンド単結晶材料で一体に形成され、かつ前記針状部の先端は導電性を有することを特徴とする探針。
  3. 前記平板部の少なくとも一つの側面に、上記単結晶材料の結晶方位を示すための平面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の探針。
  4. 上記平面が、当該平板部の両側面が互いに平行に形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の探針。
  5. 当該カンチレバーの梁部の両側面が互いに平行な平面を有するとともに、
    当該探針が、当該梁部の主面上に、当該平板部の両側面と当該梁部の両側面とが互いに平行になるように配され、
    当該平板部の両側面間の距離が、当該梁部の両側面間の距離に対して0.9〜1.1倍の距離を有し、
    当該探針を当該梁部の主面上に配する際に、液状の接着剤を用いて互いに接着されていることを特徴とする、
    請求項1〜4のいずれかに記載の探針を有するカンチレバー。
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