以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2をそれぞれ独立に回転駆動する車輪駆動装置3と、車輪2の操舵角とキャンバ角とを車輪2毎にそれぞれ独立に調整するキャンバ角調整装置4とを主に備え、キャンバ角調整装置4を車両用制御装置100により作動制御して、車輪2に設けられた3種類のトレッドを使い分けることで(図5から図7参照)、走行性能と省燃費性能との2つの性能の両立を図ることができるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、これら前後輪2FL〜2RRは、車輪駆動装置3により、それぞれ独立に回転可能に構成されている。
車輪駆動装置3は、車輪2を回転駆動するための駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。
例えば、運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、各車輪駆動装置3が車両用制御装置100により作動制御され、アクセルペダル52の操作量に応じて各車輪2を回転駆動する。これにより、車両1が所定の速度で走行する。
また、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、キャンバ角調整装置4により、操舵角とキャンバ角とが車輪2毎にそれぞれ独立に調整可能に構成されている。キャンバ角調整装置4は、車輪2の操舵角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応する位置に合計4個(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が配置されている。
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバ角調整装置4の一部(例えば、前輪2FL,2FR側のみ)又は全部が車両用制御装置100により作動制御され、ステアリング54の操作量に応じて各車輪2の操舵角を調整する。これにより、車両1が所定の方向へ旋回する。
また、キャンバ角調整装置4は、車両1の走行状態(例えば、直進状態または旋回状態)や走行状態の状態変化に応じて車両用制御装置100により作動制御され、各車輪2のキャンバ角を調整する。
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3とキャンバ角調整装置4との詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2の操舵角およびキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電圧を供給するための電源配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr、及び、仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向、及び、上下方向にそれぞれ対応する。
図2(a)に示すように、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。
タイヤ2aは、車両1の内側(図2(a)右側)に配置される第1トレッド21と、車両1の外側(図2(a)左側)に配置される第3トレッド23と、それら第1トレッド21と第3トレッド23との間に配置される第2トレッド22とを備えている。なお、車輪2(タイヤ2a)の詳細構成については図4を参照して後述する。
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、車輪2に回転駆動力を伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバ角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
キャンバ角調整装置4は、複数本(本実施の形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施の形態ではユニバーサルジョイント)60を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120°間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動または収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、各車輪2のキャンバ角と操舵角とが所定の角度に調整される。
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2のキャンバ角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)がネガティブ側に調整される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4b及び油圧シリンダ4a,4cがそれぞれ伸縮駆動されると、車輪2のキャンバ角がポジティブ側に調整される。
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2の操舵角(車輪2の中心線が車両1の基準線に対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)がトーイン傾向に調整される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2の操舵角がトーアウト傾向に調整される。
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2のキャンバ角および操舵角を任意の角度に調整することができる。
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。
ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(操作方向、操作角など)に応じて、車両1の旋回方向や旋回半径が決定され、キャンバ角調整装置4の作動制御が行われる。
車両用制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動制御して、各車輪2を回転駆動する。
或いは、ステアリング54の操作状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバ角調整装置4を作動制御して、各車輪2の操舵角とキャンバ角とを調整する。ここで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。
図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71により実行される制御プログラムや固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリである。なお、ROM72内には、図8に図示されるフローチャート(キャンバ制御処理)のプログラムが格納されている。
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、このRAM73には、現在ステアリングメモリ73a、過去ステアリングメモリ73b、現在ヨーモーメントメモリ73c、過去ヨーモーメントメモリ73d、キャンバフラグ73e及び計時フラグ73fが設けられている。
現在ステアリングメモリ73aは、後述するステアリングセンサ装置54aにより検出されたステアリング54の操作角をステアリング54の操作方向に対応付けて記憶するメモリである。
なお、CPU71は、車両用制御装置100の電源がオンされている間、ステアリング54の操作状態(操作方向および操作角)を所定間隔毎に定期的に検出し、その検出結果を現在ステアリングメモリ73aに書き込むことで、ステアリング54の操作角が逐次更新されている。
過去ステアリングメモリ73bは、ステアリング54の操作角が現在ステアリングメモリ73aに新たに記憶される場合に、現在ステアリングメモリ73aの内容と同一の内容を移し替えて記憶するメモリであり、CPU71は、この過去ステアリングメモリ73bの内容と現在ステアリングメモリ73aの内容とを比較して、ステアリング54の操作方向が変更されたか否かを判断する(図8のS12参照)。
現在ヨーモーメントメモリ73cは、車両1のヨーモーメントをヨーモーメントの発生方向に対応付けて記憶するメモリである。但し、車両1のヨーモーメントとは、車両1の重心を通る鉛直軸まわりの回転モーメントであり、後述するヨーレイトセンサ装置31により検出された車両1のヨーレイトに基づいて算出される。
なお、CPU71は、車両用制御装置100の電源がオンされている間、車両1のヨーモーメントを所定間隔毎に定期的に算出し、その算出結果を現在ヨーモーメントメモリ73cに書き込むことで、車両1のヨーモーメントが逐次更新されている。
過去ヨーモーメントメモリ73dは、車両1のヨーモーメントが現在ヨーモーメントメモリ73cに新たに記憶される場合に、現在ヨーモーメントメモリ73cの内容と同一の内容を移し替えて記憶するメモリであり、CPU71は、この過去ヨーモーメントメモリ73dの内容と現在ヨーモーメントメモリ73cの内容とを比較して、車両1のヨーモーメントの発生方向が変化したか否かを判断する(図8のS16参照)。
キャンバフラグ73eは、各車輪2のキャンバ角がニュートラルに調整された状態(即ち、車輪2のキャンバ角が0°の状態)にあるか、或いは、各車輪2のキャンバ角がネガティブ側またはポジティブ側に調整された状態にあるかを示すフラグであり、CPU71は、このキャンバフラグ73eの内容に基づいて、各車輪2のキャンバ角の状態を判断する(図8のS6及びS11)。
具体的には、キャンバフラグ73eの内容がオフに設定されていると、CPU71は、各車輪2のキャンバ角がニュートラルに調整された状態にあると判断する一方、キャンバフラグ73eの内容がオンに設定されていると、各車輪2のキャンバ角がネガティブ側またはポジティブ側に調整された状態にあると判断する。
なお、CPU71は、車両用制御装置100の電源がオンされると、キャンバフラグ73eの内容をオフに設定し、その後に実行される各種の処理に応じて、オン/オフの設定を切り替える。
計時フラグ73fは、後述する計時装置30により時間間隔の計測を行っている状態にあるか、或いは、計測を行っていない状態にあるかを示すフラグであり、CPU71は、この計時フラグ73fの内容に基づいて、計測の実行状態を判断する(図8のS19)。
具体的には、計時フラグ73fの内容がオフに設定されていると、CPU71は、時間間隔の計測を行っていない状態にあると判断する一方、計時フラグ73fの内容がオンに設定されていると、計時装置30により時間間隔の計測を行っている状態にあると判断する。
なお、CPU71は、車両用制御装置100の電源がオンされると、計時フラグ73fの内容をオフに設定し、その後に実行される各種の処理に応じて、オン/オフの設定を切り替える。
車輪駆動装置3は、上述したように、車輪2(図1参照)を回転駆動するための駆動装置であり、各車輪2をそれぞれ回転駆動する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
キャンバ角調整装置4は、上述したように、車輪2の操舵角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)の角度(操舵角およびキャンバ角)をそれぞれ調整する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)と、各油圧シリンダ4a〜4c(ロッド部)の伸縮量を検出する伸縮センサ(図示せず)とを主に備えて構成されている。
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角調整装置4の駆動回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
キャンバ角調整装置4の駆動回路は、各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮量を伸縮センサにより監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ4a〜4cは、その伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、駆動回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の現在の操舵角およびキャンバ角を得ることができる。
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態(操作方向および操作角)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の操作状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、ステアリングセンサ装置54aの処理回路から入力された検出結果によりステアリング54の操作角を得ると共に、その検出結果を時間微分することにより、ステアリング54の操作速度を得ることができる。
計時装置30は、時間間隔を計測すると共に、その計測結果をCPU71に出力するための装置であり、時間間隔を計測するための計時回路(図示せず)と、その計時回路の計測結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
CPU71からの指示に基づいて、計時を開始すると(図8のS14参照)、計時を開始してからの時間間隔が計時回路により計測され、その計測された時間間隔によって、CPU71は、所定時間が経過したか否かを判断する(図8のS20参照)。
ヨーレイトセンサ装置31は、車両1(車体フレームBF)のヨーレイト(発生方向および絶対値)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1のヨーレイトを検出するジャイロセンサ(図示せず)と、そのジャイロセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、ジャイロセンサがサニャック効果の原理を利用して動作する光ファイバジャイロにより構成される。但し、他の種類のジャイロセンサを用いることは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式のジャイロセンサや圧電式のジャイロセンサ等が例示される。
図3に示す他の入出力装置32としては、例えば、アクセルペダル52の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)を検出するための装置、ブレーキペダル53の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)を検出するための装置、ワイパ(図示せず)の操作状態(作動/停止)を検出するための装置およびウインカ(図示せず)の操作状態(作動/停止および作動方向)を検出するための装置などが例示される。
次いで、図4から図7を参照して、車輪2の詳細構成について説明する。図4は、車両1の上面視を模式的に示した模式図である。図5及び図6は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、図5では、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角がそれぞれネガティブ側に調整された状態が図示され、図6では、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角がそれぞれニュートラルに調整された状態が図示されている。また、図7は、左旋回状態にある車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、左右の前輪2FL,2FRの操舵角が左旋回用に調整されると共に、旋回外輪(右の前輪2FR)のキャンバ角がネガティブ側に調整され、旋回内輪(左の前輪2FL)のキャンバ角がポジティブ側に調整された状態が図示されている。
上述したように、車輪2は、第1トレッド21、第2トレッド22及び第3トレッド23の3種類のトレッドを備え、第1トレッド21が車両1の内側に配置されると共に、第3トレッド23が車両1の外側に配置され、第2トレッド22が第1トレッド21と第3トレッド23との間に配置されている。
また、図4に示すように、本実施の形態では、各トレッド21,22,23の幅寸法(図4左右方向寸法)が同一に構成されると共に、第1トレッド21は、第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成される一方、第2トレッド22は、第1トレッド21に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。そして、第3トレッド23は、少なくとも第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成されている。
また、第1トレッド21の外径は、第2トレッド22側から車両1の内側に向かうに従って漸次縮径して構成されると共に、第3トレッド23の外径は、第2トレッド22側から車両1の外側に向かうに従って漸次縮径して構成されている。
例えば、図5に示すように、キャンバ角調整装置4が作動制御され、車輪2のキャンバ角θL,θRがそれぞれネガティブ側に調整されると、第1トレッド21の接地面積が多くなることで接地圧Rinが増加される一方、第1トレッド21よりも車両1の外側に配置される第2トレッド22及び第3トレッド23の接地面積が少なくなることで接地圧Rcet,Routが減少される。これにより、第1トレッド21による高グリップ性を利用して、走行性能(例えば、旋回性能、加速性能、制動性能或いは走行安定性など)の向上を図ることができる。
ここで、車輪2のキャンバ角をネガティブ側に調整して第1トレッド21を接地させる場合には、かかる第1トレッド21の外径が漸次縮径されていることから、トレッド端部に接地圧が集中することを抑制することができる。よって、高グリップの第1トレッド21を効率的に利用して、走行性能(例えば、旋回性能、加速性能、制動性能或いは走行安定性など)のより一層の向上を図ることができると共に、第1トレッド21の偏摩耗を抑制して、車輪2の高寿命化を図ることができる。
図示は省略するが、キャンバ角調整装置4が作動制御され、車輪2のキャンバ角θL,θRがそれぞれポジティブ側に調整されると、車輪2のキャンバ角θL,θRをネガティブ側にそれぞれ調整する場合と同様に、第3トレッド23による高グリップ性を利用して、走行性能(例えば、旋回性能、加速性能、制動性能或いは走行安定性など)の向上を図ることができる。
また、車輪2のキャンバ角をポジティブ側に調整して第3トレッド23を接地させる場合には、かかる第3トレッド23の外径が漸次縮径されていることから、トレッド端部に接地圧が集中することを抑制することができる。よって、高グリップの第3トレッド23を効率的に利用して、走行性能(例えば、旋回性能、加速性能、制動性能或いは走行安定性など)のより一層の向上を図ることができると共に、第3トレッド23の偏摩耗を抑制して、車輪2の高寿命化を図ることができる。
図6に示すように、キャンバ角調整装置4が作動制御され、車輪2のキャンバ角がそれぞれニュートラルに調整されると、第2トレッド22の接地面積が多くなることで接地圧Rcetが増加される一方、第2トレッド22よりも車両1の内側に配置される第1トレッド21の接地面積が少なくなることで接地圧Rinが減少されると共に、第2トレッド22よりも車両1の外側に配置される第3トレッド23の接地面積が少なくなることで接地圧Routが減少される。これにより、第2トレッド22による低転がり抵抗を利用して、省燃費性能の向上を図ることができる。
ここで、車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整して第2トレッド22を接地させる場合には、第1トレッド21の外径が漸次縮径されると共に、第3トレッド23の外径が漸次縮径されていることから、車輪2のキャンバ角を大きな角度に調整しなくても(即ち、キャンバ角を0°の状態としても)、第1トレッド21及び第3トレッド23が路面Gから離れた状態で、第2トレッド22のみを接地させることができる。
これにより、車輪2全体としての転がり抵抗をより小さくして、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。同時に、第1トレッド21及び第3トレッド23が接地せず、かつ、第2トレッド22がより小さなキャンバ角で接地されることにより、各トレッド21,22,23の摩耗を抑制して、車輪2の高寿命化を図ることができる。
図7に示すように、車両1が左旋回状態にある場合には、キャンバ角調整装置4が作動制御され、旋回外輪(右の前輪2FR)のキャンバ角θRがネガティブ側に調整されると共に、旋回内輪(左の前輪2FL)のキャンバ角θLがポジティブ側に調整されると、旋回外輪(右の前輪2FR)においては、第1トレッド21の接地面積が多くなることで接地圧Rinが増加される一方、第1トレッド21よりも車両1の外側に配置される第2トレッド22及び第3トレッド23の接地面積が少なくなることで接地圧Rcet,Routが減少され、旋回内輪(左の前輪2FL)においては、第3トレッド23の接地面積が多くなることで接地圧Routが増加される一方、第3トレッド23よりも車両1の内側に配置される第1トレッド21及び第2トレッド22の接地面積が少なくなることで接地圧Rin,Rcetが減少される。これにより、旋回外輪(右の前輪2FR)の第1トレッド21及び旋回内輪(左の前輪2FL)の第3トレッド23による高グリップ性を利用して、旋回性能の向上を図ることができる。
図示は省略するが、車両1が右旋回状態にある場合においても、左旋回状態にある場合と同様に、旋回外輪の第1トレッド21及び旋回内輪の第3トレッド23による高グリップ性を利用して、旋回性能の向上を図ることができる。
次いで、図8を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図8は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理であり、車輪2のキャンバ角を調整することで、走行性能(特に、旋回性能および走行安定性)と省燃費性能との2つの性能の両立を図る。
なお、図8の説明においては、図9から図12を適宜参照して説明する。図9及び図10は、ステアリング54の操作角および操作方向、左の車輪2FL,2RLのキャンバ角、右の車輪2FR,2RRのキャンバ角、キャンバフラグ73eの内容、キャンバスラスト及び発生方向、車両1のヨーモーメント及び発生方向のタイミングチャートを示すグラフであり、図9では、車両1が左旋回状態から直進状態へ状態変化する場合のタイミングチャートが図示され、図10では、車両1が左旋回状態から右旋回状態へ状態変化する場合のタイミングチャートが図示されている。
また、図11及び図12は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、図11では、車両1が左旋回状態から直進状態へ状態変化する場合のステアリング54の操作状態と左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態とが、(a)、(b)、(c)の順に時系列で図示され、図12では、車両1が左旋回状態から右旋回状態へ状態変化する場合のステアリング54の操作状態と左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態とが、(a)、(b)、(c)の順に時系列で図示されている。
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、ステアリング54の操作角を検出し(S1)、その検出した操作角を現在ステアリングメモリ73aに記憶すると共に(S2)、車両1のヨーモーメントを算出し(S3)、その算出したヨーモーメントを現在ヨーモーメントメモリ73cに記憶する(S4)。
S4の処理を実行した後は、S1の処理で検出したステアリング54の操作角が0であるか否かを判断し(S5)、操作角が0であると判断される場合には(S5:Yes)、次いで、キャンバフラグ73eがオンに設定されているか否かを判断する(S6)。その結果、キャンバフラグ73eがオンに設定されていないと判断される場合には(S6:No)、車両1が直進状態にあると共に、各車輪2のキャンバ角がニュートラルに調整された状態にあるということであるので、各車輪2のキャンバ角を調整することなく、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:Yes、S6:No)、図9に示すタイミングチャートにおいて、Aで示す範囲(横軸で示す時間が0からt1までの範囲)に対応し、車両1にはヨーモーメントが発生していないので、車輪2の性能として高グリップ性を得る必要はなく、低転がり抵抗を得ることが好ましいと判断できる。
よって、車輪2のキャンバ角を調整せずに、ニュートラルに調整された状態のまま維持することで、各車輪2の第2トレッド22による低転がり抵抗を利用して、車両1の省燃費性能の向上を図ることができる。
一方、S5の処理の結果、ステアリング54の操作角が0でないと判断される場合には(S5:No)、次いで、キャンバフラグ73eがオンに設定されているか否かを判断する(S11)。その結果、キャンバフラグ73eがオンに設定されていないと判断される場合には(S11:No)、車両1が旋回状態にあると共に、各車輪2のキャンバ角がニュートラルに調整された状態にあるということであるので、ステアリング54の操作方向に応じて、旋回外輪のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪のキャンバ角をポジティブ側に調整し(S21)、キャンバフラグ73eをオンに設定して(S22)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:No、S11:No)、図9に示すタイミングチャートにおいて、横軸で示す時間がt1の時点に対応し、車両1にはその後にヨーモーメントが発生するであろうと推定できるので、車輪2がスリップして車両1が横滑りやスピンすることを防止するために、車輪2の性能として高グリップ性を得ることが好ましいと判断できる。
よって、旋回外輪(右の車輪2FR,2RR)のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪(左の車輪2FR,2RR)のキャンバ角をポジティブ側に調整することで、旋回外輪の第1トレッド21による高グリップ性および旋回内輪の第3トレッド23による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性の向上を図ることができる。なお、ステアリング54の操作状態および左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態は、図11(a)で示す状態となる。
また、S21の処理では、旋回外輪および旋回内輪がいずれも旋回内側へ傾斜するようにキャンバ角を調整して、左右の車輪2のキャンバ角を同位相に調整するので、旋回外輪および旋回内輪をいずれも路面に対して旋回内側へ傾斜させることができ、各車輪2に旋回内側へキャンバスラストを発生させることができる。これにより、かかるキャンバスラストを利用して、旋回性能の向上を図ることができる。
S5の処理の結果、ステアリング54の操作角が0であると判断されると共に(S5:Yes)、S6の処理の結果、キャンバフラグ73eがオンに設定されていると判断される場合には(S6:Yes)、次いで、S3の処理で算出した車両1のヨーモーメントが0であるか否かを判断する(S7)。その結果、ヨーモーメントが0でないと判断される場合には(S7:No)、ポジティブ側に調整されている車輪2のキャンバ角をネガティブ側に調整(変更)して(S10)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:Yes、S6:Yes、S7:No)、図9に示すタイミングチャートにおいて、横軸で示す時間がt2の時点に対応し、車両1が旋回状態から直進状態へ状態変化した直後であることから、車両1にはBで示す範囲(横軸で示す時間がt1からt2までの範囲)において発生したヨーモーメントが慣性モーメントとして作用しているので、車輪2の性能として高グリップ性を得ることが好ましいと判断できる。
よって、ポジティブ側に調整されている車輪2(左の車輪2FL,2RL)のキャンバ角をネガティブ側に調整(変更)することで、各車輪2の第1トレッド21による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性の向上を図ることができる。なお、ステアリング54の操作状態および左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態は、図11(b)で示す状態となる。
また、S10の処理では、各車輪2がいずれも車両1の内側へ傾斜するようにキャンバ角を調整して、左右の車輪2のキャンバ角を逆位相に調整するので、左右の車輪2に発生するキャンバスラストを互いに打ち消し合うことができる。これにより、車両1の状態変化後における直進性能の向上を図ることができる。
一方、S7の処理の結果、車両1のヨーモーメントが0であると判断される場合には(S7:Yes)、各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整すると共に(S8)、キャンバフラグ73eをオフに設定して(S9)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:Yes、S6:Yes、S7:Yes)、図9に示すタイミングチャートにおいて、横軸で示す時間がt3の時点に対応し、Cで示す範囲(横軸で示す時間がt2からt3までの範囲)において車両1に作用していた慣性モーメントが既に消滅しているので、車輪2の性能として高グリップ性を得る必要はなく、低転がり抵抗を得ることが好ましいと判断できる。
よって、各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整することで、各車輪2の第2トレッド22による低転がり抵抗を利用して、車両1の省燃費性能の向上を図ることができる。なお、ステアリング54の操作状態および左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態は、図11(c)で示す状態となる。
また、S8の処理では、車両1のヨーモーメントが0である場合に各車輪2のキャンバ角を調整するので、走行安定性の向上と省燃費性能の向上との両立を効率良く達成することができると共に、より効率的に第2トレッドの低転がり抵抗を利用して、省燃費性能のより一層の向上を図ることができる。
S5の処理の結果、ステアリング54の操作角が0でないと判断されると共に(S5:No)、S11の処理の結果、キャンバフラグ73eがオンに設定されていると判断される場合には(S11:Yes)、次いで、ステアリング54の操作方向が変更されたか否かを判断する(S12)。その結果、操作方向が変更されたと判断される場合には(S12:Yes)、ポジティブ側に調整されている車輪2のキャンバ角をネガティブ側に調整(変更)すると共に(S13)、計時を開始し(S14)、計時フラグ73fをオンに設定して(S15)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:No、S11:Yes、S12:Yes)、図10に示すタイミングチャートにおいて、横軸で示す時間がt4の時点に対応し、車両1の旋回方向が変化した直後であることから、車両1には旋回方向が変化する前に発生していたヨーモーメントが慣性モーメントとして作用しているので、車輪2の性能として高グリップ性を得ることが好ましいと判断できる。
よって、ポジティブ側に調整されている車輪2(左の車輪2FL,2RL)のキャンバ角をネガティブ側に調整(変更)することで、各車輪2の第1トレッド21による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性の向上を図ることができる。なお、ステアリング54の操作状態および左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態は、図12(b)で示す状態となる。
また、S12の処理では、各車輪2がいずれも車両1の内側へ傾斜するようにキャンバ角を調整するので、旋回方向が変化する前の時点での旋回外輪(右の車輪2FR,2RR)のキャンバ角をネガティブ側に調整された状態のまま維持することができる。
これにより、旋回内輪に比してより大きなグリップ力が必要とされる旋回外輪が第2トレッド22を使用して走行しなければならない事態を避けられるので、かかる旋回外輪のグリップ力が不足して、車両1が横滑りやスピンしてしまうことを防止することができ、走行安定性のより一層の向上を図ることができる。
一方、S12の処理の結果、ステアリング54の操作方向が変更されていないと判断される場合には(S12:No)、次いで、車両1のヨーモーメントの発生方向が変化したか否かを判断する(S16)。その結果、発生方向が変化したと判断される場合には(S16:Yes)、ステアリング54の操作方向に応じて、旋回外輪のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪のキャンバ角をポジティブ側に調整し(S17)、計時フラグ73fをオフに設定して(S18)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:No、S11:Yes、S12:No、S16:Yes)、図10に示すタイミングチャートにおいて、横軸で示す時間がt5の時点に対応し、車両1にはその後にヨーモーメントが発生するであろうと推定できるので、車輪2の性能として高グリップ性を得ることが好ましいと判断できる。
よって、旋回外輪(左の車輪2FL,2RL)のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪(右の車輪2FR,2RR)のキャンバ角をポジティブ側に調整することで、旋回外輪の第1トレッド21による高グリップ性および旋回内輪の第3トレッド23による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性の向上を図ることができる。
また、S17の処理では、旋回外輪および旋回内輪がいずれも旋回内側へ傾斜するようにキャンバ角を調整して、左右の車輪2のキャンバ角を同位相に調整するので、旋回外輪および旋回内輪をいずれも路面に対して旋回内側へ傾斜させることができ、各車輪2に旋回内側へキャンバスラストを発生させることができる。これにより、かかるキャンバスラストを利用して、旋回性能の向上を図ることができる。なお、ステアリング54の操作状態および左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角の状態は、図12(c)で示す状態となる。
一方、S16の処理の結果、車両1のヨーモーメントの発生方向が変化していないと判断される場合には(S16:No)、次いで、計時フラグ73fがオンに設定されているかを判断する(S19)。その結果、計時フラグ73fがオンに設定されていると判断される場合には(S19:Yes)、次いで、計時を開始してから所定時間が経過したか否かを判断し(S20)、所定時間が経過したと判断される場合には(S20:Yes)、ステアリング54の操作方向に応じて、旋回外輪のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪のキャンバ角をポジティブ側に調整し(S17)、計時フラグ73fをオフに設定して(S18)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:No、S11:Yes、S12:No、S16:No、S19:Yes、S20:Yes)、図10に示すタイミングチャートにおいて、Dで示す範囲(横軸で示す時間がt4からt5までの範囲)に対応し、車両1には旋回方向が変化する前に発生していたヨーモーメントが慣性モーメントとして引き続き作用しているが、既にステアリング54の操作方向が変更されてからある程度の時間が経過しているので、旋回性能の向上を図ることが好ましいと判断できる。
よって、旋回外輪(左の車輪2FL,2RL)のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪(右の車輪2FR,2RR)のキャンバ角をポジティブ側に調整することで、旋回外輪の第1トレッド21による高グリップ性および旋回内輪の第3トレッド23による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性の向上を図りつつも、旋回性能の向上を図ることができる。
なお、本実施の形態では、所定時間が経過したか否かの判断は(S20)、計時を開始してから1秒経過した場合に、所定時間を経過したと判断する。
一方、S19の処理の結果、計時フラグ73fがオンに設定されていないと判断される場合(S19:No)、及び、S20の処理の結果、計時を開始してから所定時間が経過していないと判断される場合には(S20:No)、各車輪2のキャンバ角を調整することなく、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、この場合は(S5:No、S11:Yes、S12:No、S16:No、S19:No、又は、S5:No、S11:Yes、S12:No、S16:No、S19:Yes、S20:No)、図9に示すタイミングチャートにおいて、Bで示す範囲(横軸で示す時間がt1からt2までの範囲)、図10に示すタイミングチャートにおいて、Dで示す範囲(横軸で示す時間がt4からt5までの範囲)又はEで示す範囲(横軸で示す時間がt5からt6までの範囲)に対応する。
ここで、図9に示すタイミングチャートにおいて、Bで示す範囲(横軸で示す時間がt1からt2までの範囲)又は図10に示すタイミングチャートにおいて、Eで示す範囲(横軸で示す時間がt5からt6までの範囲)に対応する場合、車両1にはステアリング54の操作方向に応じてヨーモーメントが発生しているので、車輪2の性能として高グリップ性を得ることが好ましいと判断できる。
よって、車輪2のキャンバ角を調整せずに、旋回外輪(図9では右の車輪2FR,2RR、図10では左の車輪2FL,2RL)のキャンバ角をネガティブ側に調整された状態のまま、旋回内輪(図9では左の車輪2FL,2RL、図10では右の車輪2FR,2RR)のキャンバ角をポジティブ側に調整された状態のまま、それぞれ維持することで、旋回外輪の第1トレッド21による高グリップ性および旋回内輪の第3トレッド23による高グリップ性を利用して、旋回性能の向上を図ることができる。
また、図10に示すタイミングチャートにおいて、Dで示す範囲(横軸で示す時間がt4からt5までの範囲)に対応する場合、車両1には旋回方向が変化する前に発生していたヨーモーメントが慣性モーメントとして引き続き作用しており、ステアリング54の操作方向が変更されてからそれほど時間も経過していないので、走行安定性の向上を図ることが好ましいと判断できる。
よって、車輪2のキャンバ角を調整せず、各車輪2のキャンバ角をネガティブ側に調整された状態のまま維持することで、各車輪2の第1トレッド21による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性の向上を図ることができる。
次いで、図13を参照して、第2実施の形態について説明する。図13は、第2実施の形態における車輪202の断面図である。第1実施の形態では、車輪2が3種類のトレッドで構成される場合を説明したが、第2実施の形態では、車輪202が1種類のトレッドで構成されている。なお、本実施の形態では、車両1を車両用制御装置100により制御するものとし、第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図13に示すように、車輪202(前後輪202FL〜202RR)は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ202aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成されている。タイヤ202aは、1種類のトレッドで構成され、幅方向(図13左右方向)において均一の特性(高グリップ性、低転がり抵抗など)に構成されている。
本実施の形態では、車両用制御装置100で実行されるキャンバ制御処理(図8参照)により、上述のように構成された車輪202のキャンバ角を調整する。その結果、ステアリング54の操作方向に応じて、旋回外輪のキャンバ角をネガティブ側に調整すると共に、旋回内輪のキャンバ角をポジティブ側に調整して、左右の車輪2のキャンバ角を同位相に調整する場合には(図8のS17及びS21の処理参照)、旋回外輪および旋回内輪をいずれも路面に対して旋回内側へ傾斜させることができ、各車輪2に旋回内側へキャンバスラストを発生させることができる。これにより、かかるキャンバスラストを利用して、車両の旋回性能の向上を図ることができる。
また、ポジティブ側に調整されている車輪2のキャンバ角をネガティブ側に調整して、左右の車輪2のキャンバ角を逆位相にする場合には(図8のS10及びS13参照)、角車輪2に発生するキャンバスラストを利用して、車両1の状態変化時における走行安定性の向上を図ることができる。更に、左右の車輪2のキャンバ角を逆位相に調整するので、左右の車輪2に発生するキャンバスラストを互いに打ち消し合うことができる。これにより、車両1の状態変化後における直進性能の向上を図ることができる。
ここで、図8に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の操作状態取得手段としてはS1の処理が、作動制御手段としてはS8,S10,S13,S17,S21の処理が、第1キャンバ調整手段としてはS17及びS21の処理が、第2キャンバ調整手段としてはS10及びS13の処理が、請求項3記載の所定条件判断手段としてはS7の処理が、第3キャンバ調整手段としてはS8の処理が、請求項4記載のヨーモーメント算出手段としてはS3の処理が、請求項5記載の操作状態取得手段としてはS1の処理が、第4キャンバ調整手段としてはS17及びS21の処理が、第5キャンバ調整手段としてはS10及びS13の処理が、それぞれ該当する。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記実施の形態では、車両1のヨーモーメントに基づいて、各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整する場合を説明したが(図8のS8参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、計時装置30により計測した時間間隔が所定時間経過したか否かを判断し、その結果、所定時間経過したと判断される場合に各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整するように構成しても良く、或いは、車両1のヨーモーメントと計時装置30により計測した時間間隔との両方に基づいて、各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整するように構成しても良い。
また、車両1のヨーモーメントに基づいて、各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整する場合に限られず、他の状態量に基づいて、各車輪2のキャンバ角をニュートラルに調整することは当然可能である。ここで、他の状態量としては、ヨーレイトセンサ装置31により検出される車両1(車体フレームBF)のヨーレイトが例示される。
上記実施の形態では、車両1が旋回状態から直進状態へ状態変化した場合、又は、車両1の旋回方向が変化した場合に、ポジティブ側に調整されている車輪2のキャンバ角をネガティブ側に調整することで、各車輪2がいずれも車両1の内側へ傾斜するようにキャンバ角を調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ネガティブ側に調整されている車輪2のキャンバ角をポジティブ側に調整することで、各車輪2がいずれも車両1の外側へ傾斜するようにキャンバ角を調整するように構成しても良い。
上記実施の形態では、ステアリング54の操作状態に基づいて、各車輪2のキャンバ角を調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、運転者により操作される他の操作部材の操作状態に基づいて、各車輪2のキャンバ角を調整するように構成しても良い。
ここで、他の操作部材の操作状態としては、他の入出力装置32により検出されるアクセルペダル52、ブレーキペダル53、ワイパ及びウインカの操作状態が例示される。例えば、アクセルペダル52又はブレーキペダル53の操作状態に基づいて、各車輪2のキャンバ角を調整する場合には、各ペダル52,53の踏み込み量が大きくなると各車輪2のキャンバ角がネガティブ側またはポジティブ側に調整される構成とすることで、車輪2の第1トレッド21又は第3トレッド23による高グリップ性を利用して、車両1の加速性能または制動性能の向上を図ることができる。
一方、各ペダル52,53の踏み込み量が小さくなると各車輪2のキャンバ角がニュートラルに調整される構成とすることで、車輪2の第2トレッド22による低転がり抵抗を利用して、車両1の省燃費性能の向上を図ることができる。その結果、走行性能と省燃費性能との2つの性能の両立を図ることができる。
また、ワイパ又はウインカの操作状態に基づいて、各車輪2のキャンバ角を調整する場合には、ワイパ又はウインカが作動されると各車輪2のキャンバ角がネガティブ側またはポジティブ側に調整される構成とすることで、車輪2の第1トレッド21又は第3トレッド23による高グリップ性を利用して、車両1の走行安定性や旋回性能の向上を図ることができる。
一方、ワイパ又はウインカが停止されると各車輪2のキャンバ角がニュートラルに調整される構成とすることで、車輪2の第2トレッド22による低転がり抵抗を利用して、車両1の省燃費性能の向上を図ることができる。その結果、走行性能と省燃費性能との2つの性能の両立を図ることができる。