JP2008240129A - 非調質鋼材 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱間鍛造のままで、900MPa以上の0.2%耐力を確保できる非調質鋼材の提供。
【解決手段】C:0.35〜0.55%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.9〜2.0%、P:0.050%未満、S:0.005〜0.20%、Cr:0.02〜0.4%、V:0.35〜1.0%、Al:0.005〜0.07%、N:0.007〜0.025%、O:0.0035%以下を含有し、残部はFeと不純物からなり、「N−0.519Al≧0.0025」、「V−3.64×(N−0.519Al)≧0.3」および「C−(0.236×fn2)≧0.2」を満足する非調質鋼材。Ca:0.05%以下、Pb:0.4%以下、Bi:0.3%以下、Te:0.1%以下およびSe:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有してもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、非調質鋼材に関し、詳しくは、降伏特性が良好で、自動車エンジンなどのコネクティングロッドや自動車の足回り部品であるナックルなどの素材として好適な非調質鋼材に関する。
自動車エンジンなどのコネクティングロッド(以下、「コンロッド」という。)は、ピストンとクランクシャフトを連結するエンジン部品であり、爆発力を駆動軸に伝達する役割を担っている。このため、コンロッドには高い降伏応力(以下、「0.2%耐力」という。)が要求される。特に、近年のエンジンの高出力化にともなって、コンロッドに要求される降伏応力はますます大きくなっている。
また、自動車の足回り部品であるナックルなどについても同様の高強度化の動向があり、要求される0.2%耐力が大きくなっている。
JIS G 4051(2005)に規定された「機械構造用炭素鋼鋼材」のうち、S48Cなどのいわゆる「中炭素鋼鋼材」は、これに「焼入れ−焼戻し」のいわゆる「調質処理」を施せば、安定して600MPa以上の0.2%耐力が確保できる。
このため、従来のコンロッドやナックルは、S48Cなど中炭素の機械構造用炭素鋼鋼材を調質処理して製造されてきた。
しかしながら、最近の厳しい経済情勢や自動車業界の競争を反映して、各種自動車部品の製造コスト低減や高性能化の動きが活発化しており、この動きはエンジン部品であるコンロッドや足回り部品のナックルなどにおいても例外ではなくなってきている。
このため、製造コストが嵩む「焼入れ−焼戻し」の調質処理を行うことなく、つまり非調質で、前記中炭素の機械構造用炭素鋼鋼材を調質処理した場合と同等の0.2%耐力を確保したいとの要望が大きくなり、一部の車種では採用され始めた。
また、高性能化のために自動車部品はどんどん軽量化されてきており、そのため軽量な状態で十分な0.2%耐力を確保する必要があり、従来のS48Cなど中炭素の機械構造用炭素鋼鋼材を「焼入れ−焼戻し処理」した部品よりも高い0.2%耐力を有するものへの要望が大きくなっている。例えば、具体的には0.2%耐力で900MPa以上の高強度を有する部品が必要とされる場合がある。
そこで、特に自動車部品を対象として、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工などの特別な処理を施すことなく、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保できる非調質鋼材への要望が大きくなっている。
このため、例えば、特許文献1〜3に、鋼の化学組成や製造方法を制御して高い0.2%耐力を得るための非調質鋼材の製造方法が開示されている。
具体的には、特許文献1に、重量比にして、C :0.15〜0.50%、Si:0.005〜2.00%、Mn:0.40〜2.00%、S :0.01〜0.10%、Al:0.0005〜0.05%、Ti:0.003〜0.05%、N :0.0020〜0.0200%、V :0.20〜0.70%を含有し、必要に応じてさらに、(a)Cr:0.02〜1.50%、Mo:0.02〜1.00%のうちの1種または2種、(b)Nb:0.001〜0.20%、(c)Pb:0.05〜0.30%、Ca:0.0005〜0.010%のうちの1種または2種、の群から選ばれる1種または2種以上の元素を含有し、残部はFeならびに不純物元素からなる組成の鋼材を、Ac3点以上の温度に加熱して熱間鍛造を施し、冷却させて変態が終了した後の金属組織の90%以上がフェライト+パーライト組織であるようにし、これにさらに200〜700℃の温度で時効処理を行う「疲労特性に優れる非調質鋼の製造方法」が開示されている。
特許文献2に、重量比にして、C :0.15〜0.50%、Si:0.005〜2.00%、Mn:0.40〜2.00%、S :0.01〜0.10%、Al:0.0005〜0.050%、Ti:0.003〜0.050%、N :0.0020〜0.0200%、V :0.20〜0.70%を含有し、必要に応じてさらに、(a)Cr:0.02〜1.50%、Mo:0.02〜1.00%のうちの1種または2種、(b)Nb:0.001〜0.20%、(c)Pb:0.05〜0.30%、Ca:0.0005〜0.010%のうちの1種または2種、の群から選ばれる1種または2種以上の元素を含有し、残部はFeならびに不純物元素からなる組成の鋼を、Ac3点以上の温度に加熱して、鍛造仕上げ温度が750〜900℃の条件で亜熱間鍛造を施し、冷却させ変態が終了した後の金属組織の90%以上がフェライト+パーライト組織であるようにし、これにさらに200〜700℃の温度で時効処理を行う「降伏強度、靱性および疲労特性に優れる亜熱間鍛造非調質鋼材の製造方法」が開示されている。
特許文献3に、質量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.4〜1.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.10〜0.15%、S:0.01〜0.15%、V:0.15〜0.40%、Al:0.001〜0.1%を含有し、必要に応じてさらに、(a)Cr:0.05〜0.2%、(b)N:0.002〜0.03%、(c)Ti:0.05〜0.30%、Nb:0.01〜0.10%のうちの1種または2種、の群から選ばれる1種または2種以上の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる素材鋼を、1000℃以上に加熱して熱間鍛造を行い、その後室温にまで冷却してミクロ組織をフェライト・パ−ライト組織とし、さらに加工度が2〜10%の冷間加工を施す「非調質鋼熱間鍛造部材の製造方法」が開示されている。
特開平7−102340号公報 特開平7−157824号公報 特開2004−137542号公報
前記の特許文献1で開示された非調質鋼材の0.2%耐力(降伏強度)は高々834MPa(85.0kgf/mm2)という低いものでしかない。
同様に、特許文献2で開示された非調質鋼材の0.2%耐力(降伏強度)も高々829MPa(84.5kgf/mm2)という低いものでしかない。
一方、特許文献3で開示された非調質鋼材の場合、900MPaを超える955.8MPaという大きな0.2%耐力を達成しているものもあるが、これは前記特許文献3の段落〔0043〕に記載されているように、初期降伏応力(0.2%耐力)は冷間加工時の塑性変形量の増加とともに上昇するため、加工度が5%の冷間加工を施していることによるものである。しかしながら、冷間加工を施すと、部品の製造工程が複雑になり、製造コストが過大になってしまう。
そこで、本発明の目的は、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工などの特別な処理を施すことなく、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保できる非調質鋼材を提供することである。
本発明者らは前記した課題を解決するために種々の検討を行った。その結果、先ず、0.2%耐力を高めるためには、次に示す〈1〉〜〈3〉によることが有効であるとの知見を得た。
〈1〉窒化物による組織の微細化、
〈2〉フェライト中に析出するV炭化物量の増加、
〈3〉フェライトとパーライトとの混合組織であるフェライト・パーライト組織における大きなパーライト比率の確保。
そこで更に詳細な検討を行った結果、下記(a)〜(d)の新たな知見を得た。
(a)窒化物による微細化を図るためには、Nを高めに含有させ、AlNやV窒化物を形成させる必要があるが、AlNとV窒化物のうち、より微細化に有効なV窒化物を鋼材中に多く含有させるためには、式中の元素記号をその元素の質量%での含有量として、下記の(1)式で表されるfn1の値を0.0025以上とすればよい。
fn1=N−0.519Al・・・(1)。
(b)フェライト中に析出するV炭化物の量を高めるためには、Vの含有量を多くするだけでは十分でなく、Vとの親和力がCよりも大きいNがVとともにV窒化物を形成するよりも多い量のVを含有させる必要がある。このためには、式中の元素記号をその元素の質量%での含有量として、下記の(2)式で表されるfn2の値を0.3以上とすればよい。
fn2=V−3.64×(N−0.519Al)・・・(2)。
(c)鋼材の焼入れ性が高いとベイナイト組織が生成しやすく、ベイナイト組織が多い場合にはフェライト・パーライト組織に比べて降伏比(「0.2%耐力/引張強度」)が低下して高い0.2%耐力が得られない。しかしながら、鋼材組織を特に、その80%以上がフェライト・パーライト組織からなるものとするとともに、そのフェライト・パーライト組織におけるパーライト比率を高め、しかも、フェライト中にV炭化物を析出させて析出強化効果を活用すれば、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工など特別な処理を施すことなく、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保することが可能である。
(d)上記(c)における鋼材組織の80%以上をフェライト・パーライト組織からなるものとするとともに、そのフェライト・パーライト組織におけるパーライト比率を高めるためには、V炭化物を形成することにより欠乏する炭素量を補完する必要があり、そのためには、式中の元素記号をその元素の質量%での含有量として、下記の(3)式で表されるfn3の値を0.2以上とすればよい。
fn3=C−(0.236×fn2)・・・(3)。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す非調質鋼材にある。
(1)質量%で、C:0.35〜0.55%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.9〜2.0%、P:0.050%未満、S:0.005〜0.20%、Cr:0.02〜0.4%、V:0.35〜1.0%、Al:0.005〜0.07%、N:0.007〜0.025%およびO:0.0035%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記(1)〜(3)式で表されるfn1〜fn3の値がそれぞれ、0.0025以上、0.3以上および0.2以上を満足することを特徴とする非調質鋼材。
fn1=N−0.519Al・・・(1)、
fn2=V−3.64×(N−0.519Al)・・・(2)、
fn3=C−(0.236×fn2)・・・(3)。
ここで、(1)〜(3)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.05%以下、Pb:0.4%以下、Bi:0.3%以下、Te:0.1%以下およびSe:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の非調質鋼材。
以下、上記 (1)および(2)の非調質鋼材に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」および「本発明(2)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の非調質鋼材は、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工などの特別な処理を施すことなく、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保できるので、高強度化が要求されている近年の自動車エンジンなどのコンロッドや自動車の足回り部品であるナックルなどの素材として好適であり、製造コスト削減に大きく寄与する。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
C:0.35〜0.55%
Cは、セメンタイトを形成して、フェライト・パーライト組織におけるパーライトの比率を大きくし、鋼材強度を高めるのに有効な元素である。また、Cには、VとともにV炭化物を形成してフェライト中に析出し、析出強化によって鋼材強度を高める作用もある。これらの効果を得るためには、Cの含有量は0.35%以上とする必要がある。しかしながら、Cの含有量が0.55%を超えると、その含有量の割りには降伏比が高くならず、しかも、フェライトに対するパーライトの比率が大きくなりすぎて被削性の低下を招く。したがって、Cの含有量を、0.35〜0.55%とした。C含有量の好ましい範囲は、0.38〜0.50%である。
Si:0.01〜1.0%
Siは、脱酸に有効であるとともに、固溶強化によって鋼材強度を高める作用を有するので、これらの効果を得るために、0.01%以上含有させる。しかしながら、Siの含有量が多くなって1.0%を超えると、固溶強化作用が飽和するし、熱間延性の低下による製造性の悪化を招く。したがって、Siの含有量を、0.01〜1.0%とした。Si含有量の好ましい範囲は、0.1〜0.8%である。
Mn:0.9〜2.0%
Mnは、脱酸作用を有するとともに、焼入れ性を高めて鋼材強度を向上させる作用を有する。また、MnにはSと結合してMnSを形成し、被削性を向上する作用もある。これらの効果を得るためには、Mnの含有量は0.9%以上とする必要がある。しかしながら、Mnの含有量が2.0%を超えると、熱間加工性が低下し、また、焼れ入性が高くなりすぎてベイナイト組織を生じやすくなるので降伏比が低下して所望の高い0.2%耐力が得られなくなる。したがって、Mnの含有量を、0.9〜2.0%とした。Mn含有量の好ましい範囲は、0.9〜1.4%である。
P:0.050%未満
Pは、不純物として含有される元素であり、靱性や熱間加工性を低下させ、特に、その含有量が0.050%以上になると、熱間加工性の低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を、0.050%未満とした。極めて良好な靱性が要求される場合には、Pの含有量は低いほど望ましい。
なお、Pは、固溶強化元素として鋼材強度を高める作用を有し、また、フェライトを脆化するので被削性としての表面粗さや切屑処理性を高める作用がある。したがって、上記のような効果を得たい場合には、Pの含有量は、0.030%以上0.050%未満とすることが望ましい。
S:0.005〜0.20%
Sは、MnとともにMnSを形成し、被削性を改善する作用がある。この効果を得るためには、Sの含有量は、0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Sの含有量が多すぎてもその効果が飽和するばかりか、熱間加工性を低下させ、特に、0.20%を超えると、熱間加工性の低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を、0.005〜0.20%とした。S含有量の好ましい範囲は、0.03〜0.13%である。
Cr:0.02〜0.4%
Crは、鋼の焼入れ性を向上させて、鋼材強度を高める作用を有する。この効果を得るためには、Crの含有量は0.02%以上とする必要がある。しかしながら、Crの含有量が0.4%を超えると、合金コストが嵩むばかりではなく、焼入れ性が高くなりすぎてベイナイト組織を生じやすくなるので降伏比が低下して所望の高い0.2%耐力が得られなくなる。したがって、Crの含有量を、0.02〜0.4%とした。Cr含有量の好ましい範囲は、0.05〜0.2%である。
V:0.35〜1.0%
Vは、本発明において最も重要な元素であって、V窒化物やV炭化物を形成して0.2%耐力を高める作用を有する。すなわち、まず、Vには、窒化物を形成して、組織を微細化する作用がある。次に、Vには、前記(2)式で表されるfn2の値を0.3以上とすることによって、フェライト・パーライト組織におけるフェライト中に炭化物として析出して鋼の強度を高める作用がある。そして、上記作用の相乗効果で、高い0.2%耐力が得られるのである。この効果を得るためには、Vの含有量は0.35%以上とする必要がある。しかしながら、Vの含有量が1.0%を超えると、その効果が飽和するばかりか、熱間加工性の低下を招く。したがって、Vの含有量を、0.35〜1.0%とした。V含有量の好ましい範囲は、0.4〜0.9%である。
Al:0.005〜0.07%
Alは脱酸作用を有する元素である。また、Alには、窒化物を形成して組織を微細化する作用もある。これらの効果を得るためには、Alの含有量は0.005%以上とする必要がある。しかしながら、0.07%を超えてAlを含有させても前記の効果が飽和するので、コストが嵩むばかりである。したがって、Alの含有量を、0.005〜0.07%とした。Al含有量の好ましい範囲は、0.008〜0.05%である。
N:0.007〜0.025%
Nは、本発明において、AlやVと窒化物を形成することにより組織の微細化を図るために、積極的に含有させる必要がある重要な元素である。すなわち、Nは、AlNやV窒化物による結晶粒界のピン止め効果により、高温域でのオーステナイト粒の粗大化を抑止して組織を微細化する作用を有する。この効果を得るためには、Nの含有量は0.007%以上とする必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になり、特に0.025%を超えると、V窒化物の生成量が多くなりすぎるために、フェライト・パーライト組織におけるフェライト中でのV炭化物の析出強化作用が阻害されてしまう。したがって、Nの含有量を、0.007〜0.025%とした。N含有量の好ましい範囲は、0.010〜0.020%である。
O:0.0035%以下
Oは、不純物として含有される元素であり、Alを含有する本発明の場合には硬質なAl酸化物を形成して被削性の低下を招き、特に、その含有量が0.0035%を超えると、被削性の低下が著しくなる。したがって、Oの含有量を0.0035%以下とした。なお、Oの含有量は、低ければ低いほどよい。
fn1の値:0.0025以上
窒化物による微細化を図るためには、前記した量のNを含有させて、AlNやV窒化物(VN)を形成させる必要がある。
前記の(1)式で表されるfn1は、Nの全含有量からAlNとして消費されるN量を引いたものである。このfn1が0を超える場合は、全てのAlがNとAlNを形成してもなおNが余っているということであり、これはV窒化物が生成することを意味する。そして、fn1の値を0.0025以上とすることによって、より微細化に有効なV窒化物を鋼材中に多く含有させることが可能になる。したがって、前記の(1)式で表されるfn1の値を0.0025以上とした。
fn2の値:0.3以上
フェライト中に析出するV炭化物(VC)の量を高めて高強度化を達成するためには、前記した量のVを含有させるだけでは十分でなく、Vとの親和力がCよりも大きいNがVとともにV窒化物を形成するよりも多い量のVを含有させる必要がある。
前記の(2)式で表されるfn2は、Vの全含有量からV窒化物(VN)として消費されるV量を引いたものである。つまり、このfn2の値がV炭化物としてフェライトの析出強化に寄与するV量である。そして、fn2の値を0.3以上とすることによって、高強度化の達成に十分な量のV炭化物をフェライト中に析出させることが可能になる。したがって、前記の(2)式で表されるfn2の値を0.3以上とした。なお、fn2の値は0.35以上とすることが好ましい。
fn3の値:0.2以上
鋼材組織を特に、その80%以上がフェライト・パーライト組織からなるものとするとともに、そのフェライト・パーライト組織におけるパーライト比率を高め、しかも、前記したフェライト中へのV炭化物の析出による析出強化効果を活用すれば、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工など特別な処理を施すことなく、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保することが可能である。
なお、上記の鋼材組織の80%以上をフェライト・パーライト組織からなるものとするとともに、そのフェライト・パーライト組織におけるパーライト比率を高めるためには、V炭化物を形成することにより欠乏する炭素量を補完する必要がある。
前記の(3)式で表されるfn3は、Cの全含有量からV炭化物(VC)として消費されるC量を引いたものである。つまり、このfn3の値がセメンタイトなどV炭化物以外の炭化物として析出してくるC量である。そして、fn3の値を0.2以上とすることによって、鋼材組織の80%以上をフェライト・パーライト組織からなるものとするとともに、そのフェライト・パーライト組織におけるパーライト比率を高めることが可能になって、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保することができる。したがって、前記の(3)式で表されるfn3の値を0.2以上とした。なお、fn3の値は0.25以上とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明(1)に係る非調質鋼材は、C、Si、Mn、P、S、Cr、V、Al、NおよびOを上述した範囲で含有し、残部はFeおよび不純物からなり、前記(1)〜(3)式で表されるfn1〜fn3の値がそれぞれ上述の規定を満たすこととした。
なお、本発明(1)に係る非調質鋼材は、そのFeの一部に代えて、必要に応じてさらに、Ca:0.05%以下、Pb:0.4%以下、Bi:0.3%以下、Te:0.1%以下およびSe:0.5%以下のうちの1種または2種以上を選択的に含有させることができる。
すなわち、被削性を高めるために、前記のCa、Pb、Bi、TeおよびSeのうちの1種または2種以上を任意元素として添加し、含有させてもよい。
以下、上記の任意元素に関して説明する。
Ca:0.05%以下
Caは、被削性を高めるのに有効な元素である。この効果を確実に得るには、Caの含有量は、0.0005%以上とすることが好ましい。しかしながら、その含有量が0.05%を超えると、熱間加工性の低下を招く。したがって、添加する場合のCaの含有量は、0.05%以下とした。なお、添加する場合のCaの含有量は、0.0005〜0.05%とすることが好ましく、0.0005〜0.01%であればより好ましい。
Pb:0.4%以下
Pbは、被削性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Pbは0.02%以上の含有量とすることが好ましい。しかしながら、その含有量が0.4%を超えると、熱間加工性の低下を招く。したがって、添加する場合のPbの含有量は、0.4%以下とした。なお、添加する場合のPbの含有量は、0.02〜0.4%とすることが好ましく、0.09〜0.35%であればより好ましい。
Bi:0.3%以下
Biは、被削性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Biは0.03%以上の含有量とすることが好ましい。しかしながら、その含有量が0.3%を超えると、熱間加工性の低下を招く。したがって、添加する場合のBiの含有量は、0.3%以下とした。なお、添加する場合のBiの含有量は、0.03〜0.3%とすることが好ましく、0.05〜0.25%であればより好ましい。
Te:0.1%以下
Teは、被削性を高めるのに有効な元素である。この効果を確実に得るには、Teの含有量は、0.002%以上とすることが好ましい。しかしながら、その含有量が0.1%を超えると、熱間加工性の低下を招く。したがって、添加する場合のTeの含有量は、0.1%以下とした。なお、添加する場合のTeの含有量は、0.002〜0.1%とすることが好ましく、0.005〜0.06%であればより好ましい。
Se:0.5%以下
Seは、被削性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Seは0.0005%以上の含有量とすることが好ましい。しかしながら、その含有量が0.5%を超えると、熱間加工性の低下を招く。したがって、添加する場合のSeの含有量は、0.5%以下とした。なお、添加する場合のSeの含有量は、0.0005〜0.5%とすることが好ましく、0.0005〜0.1%であればより好ましい。
なお、上記のCa、Pb、Bi、TeおよびSeは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。
上記の理由から、本発明(2)に係る非調質鋼材は、本発明(1)に係る非調質鋼材のFeの一部に代えて、質量%で、Ca:0.05%以下、Pb:0.4%以下、Bi:0.3%以下、Te:0.1%以下およびSe:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有することとした。
なお、本発明に係る非調質鋼材においては、以上に述べた元素以外は、本質的に不純物であって、意図的に添加することはない。
ここで、不純物除去のための製鋼工程でのいたずらなコストアップを避け、また、過剰な含有による熱間割れを防止するなどの観点から、不純物中のCu、NiおよびMoの含有量は、それぞれ、0.3%以下、0.25%以下および0.3%以下の範囲で許容できる。
なお、本発明に係る非調質鋼材は、例えば、次に示す〔1〕〜〔3〕の工程を順に経ることにより、製造することができる。
〔1〕前述した化学組成を有する鋼を、高炉−転炉プロセスや電気炉溶解プロセスによって溶製した後、連続鋳造法やインゴット鋳造法によって鋳片や鋼塊を製造する。
〔2〕前記の鋳片や鋼塊を、例えば180mm角の鋼片に成形して中間素材とし、その後さらに、直径が20〜200mm程度の丸棒に熱間圧延して鍛造用素材を作製する。
〔3〕上記のようにして得た鍛造用素材を、1200〜1250℃に加熱して、1200〜900℃で所望の部品形状に熱間鍛造した後、V炭化物の析出温度域である800〜500℃を、0.1〜5℃/秒の冷却速度で冷却し、500℃を下回る温度域を、大気中放冷やミスト冷却など適宜の冷却手段によって室温まで冷却する。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼1〜26を真空溶解炉によって溶解し、インゴットを作製した。
なお、表1中の鋼1〜15は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼16〜26は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
Figure 2008240129
上記のインゴットを、通常の方法によって鋼片とした後、1250℃加熱、1000℃仕上げの熱間圧延で直径20mmの丸棒を作製した。
次いで、熱間鍛造を想定した特性を評価した。
すなわち、上記の直径20mmの丸棒を、熱間鍛造時の加熱を想定して1250℃に加熱し、大気中で放冷して室温まで冷却した。なお、この時の800〜500℃における冷却速度は1℃/秒であった。
このようにして得た直径が20mmの加熱放冷した丸棒から各種の試験片を採取して、ミクロ組織、ビッカース硬さ(以下、「Hv硬さ」という。)および引張特性を調査した。
ミクロ組織は、前記した各丸棒から鍛錬軸に垂直な面を観察面とする試験片を切り出し、鏡面研磨してナイタルで腐食した後、光学顕微鏡で倍率を400倍として4視野観察し、「相」(組織)の判定を行うとともに、通常の方法で画像解析して、各視野中で80%以上を占める主体組織についても調査した。
Hv硬さは、各丸棒から鍛錬軸に垂直な面を試験面とする試験片を切り出して鏡面研磨した後、R/2部位(ただし、「R」は丸棒の半径を表す。)を4点と中心部位を1点の計5点について、98.07Nの試験力で測定し、算術平均して、全硬さとしてのHv硬さ(以下、「THv」という。)を求めた。
引張特性は、各丸棒からJIS Z 2201(1998)に記載の14A号試験片(ただし、平行部の直径:7mm)を切り出し、室温で引張試験を行って0.2%耐力を測定した。
表2に、組織、THvおよび0.2%耐力の結果をまとめて示す。なお、表2の組織欄には、フェライトを「F」、パーライトを「P」、ベイナイトを「B」として、各視野中で80%以上を占める主体組織を記載した。
Figure 2008240129
表2から、明らかなように、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼1〜15を用いた試験番号1〜15の場合には、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工など特別な処理を施すことなく、900MPa以上という大きな0.2%耐力、具体的には、905〜1258MPaの0.2%耐力が得られている。
これに対して、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼16〜26を用いた試験番号16〜26の場合には、0.2%耐力は900MPaを下回るものである。
本発明の非調質鋼材は、「焼入れ−焼戻し」の調質処理や冷間加工などの特別な処理を施すことなく、熱間鍛造のままで、900MPa以上という大きな0.2%耐力を確保できるので、高強度化が要求されている近年の自動車エンジンなどのコンロッドや自動車の足回り部品であるナックルなどの素材として好適であり、製造コスト削減に大きく寄与する。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.35〜0.55%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.9〜2.0%、P:0.050%未満、S:0.005〜0.20%、Cr:0.02〜0.4%、V:0.35〜1.0%、Al:0.005〜0.07%、N:0.007〜0.025%およびO:0.0035%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記(1)〜(3)式で表されるfn1〜fn3の値がそれぞれ、0.0025以上、0.3以上および0.2以上を満足することを特徴とする非調質鋼材。
    fn1=N−0.519Al・・・(1)、
    fn2=V−3.64×(N−0.519Al)・・・(2)、
    fn3=C−(0.236×fn2)・・・(3)。
    ここで、(1)〜(3)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.05%以下、Pb:0.4%以下、Bi:0.3%以下、Te:0.1%以下およびSe:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の非調質鋼材。
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